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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1348732
異議申立番号 異議2018-700852  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-17 
確定日 2019-01-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第6326368号発明「赤外線反射機能付き透光性基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6326368号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6326368号(以下「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成25年6月21日(優先権主張 平成24年6月21日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成30年4月20日にその特許権の設定登録がされ(特許掲載公報発行 平成30年5月16日)、その後、その特許について、平成30年10月17日に特許異議申立人笹川拓(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

2.本件特許発明
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
室内と室外とを隔てるように配置される透光性基板層と、該透光性基板層の室内側の表面に積層される赤外線反射機能層とを備え、
前記透光性基板層の日射吸収率が30%以上であり、
前記赤外線反射機能層は、赤外線を反射するための反射層と、該反射層の室内側の表面に積層される保護層とを含み、
前記保護層は、前記反射層上に積層される樹脂層と、該樹脂層上に形成されるハードコート層とを有し、
前記樹脂層は、ポリオレフィンによって形成されており、
前記保護層側表面の垂直放射率が0.50以下である
赤外線反射機能付き透光性基板。
【請求項2】
室内と室外とを隔てるように配置され、可視光線透過率が50%以上である透光性基板層と、該透光性基板層の室内側の表面に積層され、可視光線透過率が50%以下である赤外線反射機能層とを備え、
前記透光性基板層の日射吸収率が30%以上であり、
前記赤外線反射機能層は、赤外線を反射するための反射層と、該反射層の室内側の表面に積層される保護層とを含み、
前記保護層は、前記反射層上に積層される樹脂層と、該樹脂層上に形成されるハードコート層とを有し、
前記樹脂層は、ポリオレフィンによって形成されており、
前記赤外線反射機能層の前記保護層側表面の垂直放射率が0.50以下である
赤外線反射機能付き透光性基板。
【請求項3】
前記赤外線反射機能層は、前記透光性基板層の室内側の表面に貼付される赤外線反射フィルムである請求項1に記載の赤外線反射機能付き透光性基板。
【請求項4】
前記赤外線反射機能層は、前記透光性基板層の室内側の表面に貼付される赤外線反射フィルムである請求項2に記載の赤外線反射機能付き透光性基板。
【請求項5】
前記透光性基板層は、ガラス又は樹脂基板である請求項1に記載の赤外線反射機能付き透光性基板。
【請求項6】
前記透光性基板層は、ガラス又は樹脂基板である請求項2に記載の赤外線反射機能付き透光性基板。」

3.申立理由の概要
申立人は、甲第1号証?甲第8号証(以下「甲1」?「甲8」という。なお、甲7及び甲8は、甲5及び甲6の平成30年9月2日時点の更新されたもの。)を提出し、本件発明1、3及び5は、甲1に記載された発明及び甲2?甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、また、本件発明2、4及び6は、甲1に記載された発明及び甲2?甲6に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、その特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである旨主張する。
甲1:特開平7-315889号公報
甲2:特表平7-507829号公報
甲3:特開昭55-87543号公報
甲4:特開昭56-34450号公報
甲5:「3M^(TM )Scotchtint^(TM) Window Film Solutions」、平成23年1月
甲6:「3M^(TM )Scotchtint^(TM) Window Film」「LE35AMAR アンバー35LE」DataSheet、住友スリーエム株式会社コンストラクションマーケット事業部、平成23年1月
甲7:「3M^(TM )Scotchtint^(TM) Window Film」Color Samples 2017-2018、スリーエムジャパン株式会社、平成30年3月
甲8:「3M^(TM )Scotchtint^(TM) Window Film」「アンバー35LE LE35AMAR」DataSheet、スリーエムジャパン株式会社リニューアブルエナジー事業部、平成28年3月

4.当審の判断
(1)甲1に記載された発明
甲1には、「熱線遮蔽ガラス」について、
甲1の【0019】に、実施例1として「厚さ15mmのフロート製法で製造された無色のソーダライムシリカガラス上に直流マグネトロンスパッタリング法を用いて、下地誘電体膜、Ag合金膜またはAg膜、保護誘電体膜をこの順に形成」すること、「下地誘電体としてはITOを用い、その成膜には酸化物焼結体ターゲットを用い、酸素を混入したAr雰囲気中で成膜した。Ag合金膜はPdを15モル%添加した合金ターゲットまたはAg単体のターゲットを用いて成膜した。保護誘電体膜としては、Sn金属ターゲットを用いて酸素による反応性スパッタを行い、酸化錫膜を形成」することが記載されている。この厚さ15mmの無色のソーダライムシリカガラスは、甲1の【0008】の表1によれば、可視光透過率が84.3%、日射吸収率が27.8%である。
また、実施例1のうち、実施例1-1のITO膜の膜厚が37nm、AgPd膜の膜厚が15nm、酸化錫膜の膜厚が25nmのときには、【0020】の表2によれば、可視光透過率が50.2%であり、半球放射率が0.13である。
さらに、甲1の【0044】の符号の説明を踏まえ、【図2】を参照すると、ガラス基板1の上に、下地誘電体膜5、AgPd膜6、保護誘電体膜7の順に積層して被膜2とすることが読み取れる。
そうすると、甲1には、以下の「甲1発明」が記載されているものと認められる。
「厚さ15mmの無色のソーダライムシリカガラス上に、下地誘電体膜5、AgPd膜6、保護誘電体膜7をこの順に成膜して被膜2とし、下地誘電体膜はITO膜、保護誘電体膜は酸化錫膜であり、
厚さ15mmの無色のソーダライムシリカガラスの可視光透過率が84.3%、日射吸収率が27.8%であり、
ITO膜の膜厚が37nm、AgPd膜の膜厚が15nm、酸化錫膜の膜厚が25nmであるとき、可視光透過率が50.2%であり、半球放射率が0.13である、熱線遮蔽ガラス。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「厚さ15mmの無色のソーダライムシリカガラス」、「熱線遮蔽ガラス」は、それぞれ本件発明1の「透光性基板層」、「透光性基板」に相当する。
また、本件明細書の【0030】には「反射層22は、半透明金属層22aを一対の透明層22b,22cで挟み込んだ複層構造」であり、その「透明層22b,22c」は、「反射層22に透明性を付与し、半透明金属層22aの劣化を防止するためのものであり、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、・・・等の酸化物が用いられる」旨記載されていることからすると、本件発明1の「反射層」は、赤外線を反射する半透明金属層22aの上下を、ITO等の酸化物で挟む構造を含み得るものであるから、甲1発明の「下地誘電体膜5、AgPd膜6、保護誘電体膜7をこの順に成膜」した「被膜2」は、本件発明1の「反射層」に相当し、「熱線遮蔽ガラス」の室内側の表面に積層されて、赤外線を反射する機能を持つものである。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「室内と室外とを隔てるように配置される透光性基板層と、該透光性基板層の室内側の表面に積層される赤外線を反射するための反射層とを備える、
赤外線反射機能付き透光性基板」
であることで一致し、以下の相違点1及び2で相違する。
《相違点1》
本件発明1は「透光性基板層の日射吸収率が30%以上」であるのに対し、甲1発明の厚さ15mmの無色のソーダライムシリカガラスの日射吸収率は27.8%である点。
《相違点2》
透光性基板層の室内側の表面に積層される層について、本件発明1は、「反射層」と「反射層の室内側の表面に積層される保護層とを含み、保護層は、反射層上に積層される樹脂層と、該樹脂層上に形成されるハードコート層とを有し、前記樹脂層は、ポリオレフィンによって形成されており、前記保護層側表面の垂直放射率が0.50以下」であるのに対し、甲1発明は、「被膜2」を備えたものではあるものの、「被膜2」の室内側の表面に、そのような保護層を備えていない点。
イ 上記相違点1について検討すると、甲1の【0007】には、「ガラス基板としては、可視光透過率が55%以上であって日射吸収率が15%以上のものであれば特に限定することなく使用でき」、「建築物用等として一般に用いられている無色のソーダライムシリカガラスの場合は、表1に示すように、日射吸収率が15%以上となるのは厚さが8mm以上の場合である」旨記載され、同じく【0008】の表1には、無色のソーダライムシリカガラスの厚さが19mmの場合には、日射吸収率が33.1%であることが示されている。
そうすると、日射エネルギーの室内への流入を低減するために、甲1発明の無色のソーダライムシリカガラスの厚さを15mmよりも厚くして、日射吸収率を30%以上とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
ウ 次に相違点2について検討する。
(ア)甲2には、金属層22に隣接してポリオレフィンを含有するポリマー層24と、そのポリマー層24を機械的摩耗から保護する耐摩耗性被膜25を設けることが、甲3には、金属薄膜層の上にポリプロピレン等からなる透明保護層と耐摩耗性透明保護層を設けることが、甲4には、金属薄膜層の保護層として、赤外光域における低吸収性の点でポリオレフィン系樹脂であるポリエチレンあるいはポリプロピレンが好ましいことが、それぞれ記載されているが、甲2?甲4のいずれにも、ポリオレフィンの樹脂層とハードコート層からなる保護層表面の垂直放射率を0.50以下とすることは記載されておらず、示唆する記載もない。そのため、甲1発明の被膜2の上に、金属層の保護のために、甲2?甲4に記載されたポリオレフィンの樹脂層とハードコート層からなる保護層を積層することまでは想到できるとしても、その保護層表面の垂直放射率を0.50以下とすることまでは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
そして、本件発明1は、この相違点2に係る構成を備えることで、「日射吸収率の高い透光性基板層から再放射よって室内側に入る再放射熱を抑制し、室内温度の上昇を抑制することができ、且つ、良好な耐久性(耐擦傷性)を有することができる」(本件明細書の【0022】)という格別な効果を奏するものである。
(イ)申立人は、「『保護層側表面の垂直放射率が0.50以下である』という構成は、本件明細書の【表1】を参照すると、適当な反射層が積層されていれば、保護層がなくても保護層(赤外線反射機能層)側の垂直放射率は0.50以下になると考えられるため、甲1発明の被膜側の垂直放射率は0.50以下である蓋然性が高い」旨(特許異議申立書13頁21?25行)主張する。
しかし、この主張は、保護層が積層されていない被膜(反射層)の垂直放射率が0.50以下であることを述べたものであって、反射層に保護層を積層して、室内側表面の保護層の垂直放射率を0.50以下とすることを示すものではなく、被膜(反射層)の垂直放射率が0.50以下であるとしても、その上に保護層を積層すれば、室内側表面(保護層)の垂直放射率も0.50以下になるとは、直ちにはいえるものではない。
(ウ)そうすると、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成を備えるものとすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
オ よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2?甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに透光性基板層の可視光線透過率が50%以上であること、及び、赤外線反射機能層の可視光線透過率が50%以下であることを特定するものであるところ、上記(1)のとおり、その本件発明1と甲1発明とは、上記相違点1及び2で相違するから、本件発明2と甲1発明とを対比すると、本件発明1と同様に少なくとも上記相違点1及び2で相違する。
このうち、上記相違点2に係る構成は、上記(1)で述べたように、甲1発明及び甲2?甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。また、甲5及び甲6には、赤外線反射フィルムの可視光線透過率を50%以下とすることが記載されているものの、上記相違点2に係る構成については記載も示唆もされていない。
そうすると、本件発明2と甲1発明との相違点でもある上記相違点2に係る構成は、甲1発明及び甲2?甲6に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明2は、甲1発明及び甲2?甲6に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明3?6について
本件発明3及び5は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記(1)のとおり、本件発明1は、甲1発明及び甲2?甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明3及び5も、甲1発明及び甲2?甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明4及び6は、本件発明2の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記(2)のとおり、本件発明2は、甲1発明及び甲2?甲6に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2の発明特定事項をすべて含む本件発明4及び6も、甲1発明及び甲2?甲6に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)まとめ
以上より、本件発明1、3及び5は、甲1発明及び甲2?甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、本件発明1、3及び5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。
また、本件発明2、4及び6は、甲1発明及び甲2?甲6に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、本件発明2、4及び6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。

5.むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-01-16 
出願番号 特願2014-521527(P2014-521527)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岩田 行剛  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 横溝 顕範
井上 茂夫
登録日 2018-04-20 
登録番号 特許第6326368号(P6326368)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 赤外線反射機能付き透光性基板  
代理人 藤本 昇  
代理人 中谷 寛昭  

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