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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1348735
異議申立番号 異議2018-700697  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-27 
確定日 2019-01-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6286383号発明「固形医薬組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6286383号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6286383号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成27年3月27日に出願され、平成30年2月9日にその特許権の設定登録がされ、平成30年2月28日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許に対し、平成30年8月27日に特許異議申立人 山田友則(以下、「申立人1」という。)が、平成30年8月30日に特許異議申立人 合同会社SAS(以下、「申立人2」という。)が、特許異議の申立てを行った。

第2 本件特許発明

特許第6286383号(以下、「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1?3に係る特許に係る発明は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
(A)オンジエキス、及び、(B)含水二酸化ケイ素及び軽質無水ケイ酸からなる群から選択される少なくとも一種のケイ酸化合物を含有する固形医薬組成物であって、さらにカルメロースカルシウムを含み、
(A)成分が40?80重量%、(B)成分が1?20重量%、カルメロースカルシウムが1?20重量%であり、
生薬成分として、オンジエキスのみを含む、前記固形医薬組成物。
【請求項2】
錠剤である、請求項1に記載の固形医薬組成物。
【請求項3】
(A)オンジエキス、及び、(B)含水二酸化ケイ素及び軽質無水ケイ酸からなる群から選択される少なくとも一種のケイ酸化合物を含有する固形医薬組成物であって、さらに、
(C)カルメロース(カルボキシメチルセルロース)、クロスカルメロースナトリウム(架橋カルメロースナトリウム)、カルメロースカルシウム(カルボキシメチルセルロースカルシウム)、及びカルメロースカリウム(カルボキシメチルセルロースカリウム)から選択されるセルロース化合物を含み、
生薬成分として、オンジエキスのみを含む、
前記固形医薬組成物。」

以下、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2、3に係る特許に係る発明を、それぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、「本件特許発明3」といい、これらをまとめて「本件特許発明」ということもある。

第3 申立理由の概要

(1)申立人1の申立理由及び証拠

(1-1)申立理由(特許法第29条第2項)
本件特許発明1?3は、本件特許の出願日前に日本国内において頒布された甲第1号証?甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明1?3の特許は同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(1-2)申立人1が提出した証拠
・甲第1号証:韓国公開特許第10-2014-0059532号公報及びその抄訳
・甲第2号証:「単味生薬のエキス製剤の開発に関するガイドライン」(案)の概要、平成26年9月1日、厚生労働省医薬食品局審査管理課
インターネット<URL:
http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000137790
http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000137791>
・甲第3号証:特開2012-140420号公報
・甲第4号証:特開2011-178690号公報
・甲第5号証:特開平11-43440号公報
・甲第6号証:特開2014-166994号公報
・甲第7号証:特開昭55-92313号公報
・甲第8号証:特開2010-111589号公報

(2)申立人2の申立理由及び証拠

(2-1)申立理由
・申立理由2A(特許法第29条第1項第3号)
本件特許発明3は、本件特許の出願日前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許発明3の特許は同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

・申立理由2B(特許法第29条第2項:甲第1号証に基づく進歩性欠如) 本件特許発明3は、本件特許の出願日前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明3の特許は同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

・申立理由2C(特許法第29条第2項:甲第1号証?甲第10号証に基づく進歩性欠如)
本件特許発明3は、本件特許の出願日前に日本国内において頒布された甲第1号証?甲第10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明3の特許は同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

・申立理由2D(特許法第29条第2項:甲第11号証及び甲第1号証?甲第10号証に基づく進歩性欠如)
本件特許発明3は、本件特許の出願日前に日本国内において頒布された甲第11号証及び甲第1号証?甲第10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明3に係る発明の特許は同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

・申立理由2E(特許法第36条第6項第1号)
当業者は、本件特許の出願時の技術常識を参酌しても、本件特許発明1?3の範囲全体にわたり、発明が解決すべき課題が解決されていることを推認できるとはいえないので、本件特許の請求項1?3に記載された発明は、特許法第36条第6項第1号に規定されるサポート要件を満たしていない。

・申立理由2F(特許法第36条第4項第1号)
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1?3について、当業者が発明をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないので、特許法第36条第4項第1号に規定される実施可能要件を満たしていない。

(2-2)申立人2が提出した証拠
・甲第1号証:特開平11-43440号公報
・甲第2号証:特開2014-214125号公報
・甲第3号証:特開2006-22071号公報
・甲第4号証:国際公開第2012/091090号
・甲第5号証:特開2011-178690号公報
・甲第6号証:特開2008-208118号公報
・甲第7号証:岩浪登、「エキス製剤の保管について」、臨床と薬物治療、1992年、4月号、第11巻、第3号、第16?20頁
・甲第8号証:特開2014-166994号公報
・甲第9号証:ロート加味帰脾湯錠の添付文書、2014年2月28日(公開日)、URL: http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/otcDetail/ResultDataSet01dPDF/180102_K0803000042_02_01/B
・甲第10号証:JPS加味帰脾湯エキス錠Nの添付文書、2014年5月24日(公開日)、URL: http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/otcDetail/ResultDataSetPDF/340008_J0601008906_03_02/A
・甲第11号証:韓国公開特許第10-2014-0059532号公報及びその抄訳

以下、甲第1号証、甲第2号証・・・を、それぞれ甲1、甲2・・・のように省略して記載する。

第4 申立人1が提出した証拠に記載されている事項

申立人1が提出した甲1?8には、それぞれ以下の事項が記載されている(原文が外国語である場合は日本語訳で記載する)。

(1)甲1(韓国公開特許第10-2014-0059532号公報)には以下の記載がある。

(1a)「請求項1:(a)オンジに水及び炭素数1?4の低級アルコールから選択される1種または混合物を添加して、加熱、抽出した後、オンジ抽出物を製造する段階;及び(b)前記段階(a)で得たオンジ抽出物に精製水を添加して希釈した後、限外濾過装置に通過させて限外濾過したオンジ抽出物を得る段階;を含むことを特徴とするアセチルコリン分解酵素阻害用オンジ抽出物の製造方法。」(請求項1)

(1b)「請求項7:請求項1の方法により製造されたアセチルコリン分解酵素阻害用オンジ抽出物を含むことを特徴とする痴呆予防または治療用薬学的組成物。」(請求項7)

(1c)「一方、前記本発明のオンジ抽出物を含む薬学的組成物は、組成物の全重量に対してオンジ抽出物を0.1?80重量%で含むのが望ましいが、これに限定されない。」(【0054】)

(1d)「本発明の組成物は、薬剤の製造に通常使用する適切な担体、賦形剤及び希釈剤をさらに含むことができる。」(【0055】)

(1e)「本発明による組成物は、それぞれ通常の方法によって、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤・・・の形態で剤形化して用いることができる。本発明の組成物に含むことができる担体、賦形剤及び希釈剤には、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、結晶セルロース、ポリビニールピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレートおよび鉱物油を挙げることができる。」(【0056】)

(1f)「製剤化する場合には、通常用いる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤等の希釈剤または賦形剤を使用して調剤される。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顕粒剤、カプセル剤などが含まれて、このような固形製剤は本発明の組成物に少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混合して調剤される。また、単純な賦形剤以外にマグネシウムステアレート、タルクのような潤滑剤も使用される。」(【0057】)

(2)甲2(単味生薬のエキス製剤の開発に関するガイドライン(案))には以下の記載がある。

(2a)「第1章 緒言
本ガイドラインは、単味生薬のエキス製剤の開発を行うに当たって、標準煎剤と生薬エキスとの同等性を確認するための比較試験方法や一般用エキス製剤の製造販売承認申請において設定すべき生薬エキスの製造方法、規格及び試験方法等に関する事項を示すものである。」(第2頁)

(2b)「第2章 用語
本ガイドラインで使用する用語は以下の意味で用いる。
原料生薬:漢方製剤や生薬製剤等(エキス製剤を含む)の原料として利用される生薬。
単味生薬:複数の組み合わせとしてではなく、単独で利用される場合の生薬。
煎剤:生薬を常水で煎じて調製した抽出液。
・・・
生薬エキス:生薬の煎剤を濃縮した中間製品。
・・・
エキス製剤:生薬エキスより製剤された最終製品。」(第2頁)

(2c)「3 標準煎剤に関する資料
(1)下記(3)の調製方法により製された煎剤(以下「標準煎剤」という。)に関し、少なくとも3ロット以上、1ロット3回以上の指標成分の定量を行うこと。
・・・
(3)標準煎剤は上記(1)で試験したロットの原料生薬を用いて、次の調製方法により製する。
(1)煎剤での服用が指示されている生薬の標準煎剤の調製方法は、生薬毎に設定することを原則とするが、通例、下記の表に示す通り、1日量の生薬量に指定倍量の常水を加え、30分以上かけて指定倍量まで煎じ、温時、布ごしする。
・・・
表 生薬と煎じ方
煎じて服用 オンジ(120→80)
・・・
煎じ方については以下のとおり。
(60→40)とは、「約60倍量の水で約40倍量まで煎じる」の意味 である。」(第3頁)

(2d)「第4章 単味生薬のエキス製剤の製造販売承認申請におけるエキスの製造方法、規格及び試験項目に係る留意事項
1 製造方法に関する事項
以下の項目について記載する。
・・・
(10)その他
殺菌方法については、必要に応じて、方法を記載する。
賦形剤の添加については、エキス剤の性状を担保する目的で適切な
賦形剤(デキストリン等)を添加することができる。その目的及び
内容を記載する。」(第4?5頁)

(2e)「第5章 単味生薬製剤承認基準
・・・
5 オンジ
【用法及び用量】
大人(15歳以上)は1日量5gを、水約600mLをもって煮て
約400mLに煮詰め、かすをこして取り去り、食前又は食間3回に
分服する。
【効能又は効果】
高齢者の記憶力の改善」(第10頁)

(3)甲3(特開2012-140420号公報)には以下の記載がある。

(3a)「【請求項1】
塩基性医薬品添加物及び/又は含水二酸化ケイ素を添加することを特徴とし、ロキソプロフェンナトリウムはその水和物、及びブロムヘキシン塩酸塩を含有する、均質に混和された固形製剤。」(【請求項1】)

(3b)「【請求項4】
塩基性医薬品添加物が、メタケイ酸アルミン酸マグネシム、合成ヒドロタルサイト、酸化マグネシウム、軽質無水ケイ酸、及びケイ酸カルシウムから選ばれる1種以上である、請求項1?3のいずれか1項に記載の固形製剤。」(【請求項4】)

(3c)「【0007】
本発明者らは、ロキソプロフェンナトリウム又はその水和物とブロムヘキシン塩酸塩を含む物理混和物を調製後、保存中に経時的に色調・性状の変化とともにブロムヘキシン塩酸塩の含量低下が発生する問題があることを見出した。一般的に、これらの変化を回避するためには、ロキソプロフェンナトリウム又はその水和物とブロムヘキシン塩酸塩を接触(混和)させないこと、例えば、ロキソプロフェンナトリウム又はその水和物とブロムヘキシン塩酸塩を、各々別顆粒に配合するか、或いは乾燥剤を挿入する必要があり、製造時間や製造操作の煩雑さ、及び製造コストの問題点があった。したがって、本発明の課題は、ロキソプロフェンナトリウム又はその水和物及びブロムヘキシン塩酸塩が均質に混和された固形製剤で、乾燥剤の挿入を行わなくとも製剤の色調・性状の変化及びブロムヘキシン塩酸塩の含量低下がない、安定な固形製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく製剤の研究を重ねた結果、塩基性の医薬品添加物及び/又は含水二酸化ケイ素を添加することにより、ロキソプロフェンナトリウムはその水和物、及びブロムヘキシン塩酸塩が均質に配合された組成物であっても、当該組成物の色調・性状の変化がなく、かつブロムヘキシン塩酸塩の含量低下が抑制されるという驚くべき結果を見出し、本発明を完成させるに至った。」(【0007】?【0008】)

(3d)「色調変化は;A:変色なし、B:わずかな変色、C:変色あり、D:著しい変色、の4段階で評価した。」(【0042】)

(3e)「 【0047】
【表3】

」(【0047】)

(3f)「【0048】
【表4】

」(【0048】)

(4)甲4(特開2011-178690号公報)には以下の記載がある。

(4a)「【請求項1】
サラシア属植物抽出物、二酸化ケイ素、およびカルボキシメチルセルロースまたはその金属塩を含む組成物。」(【請求項1】)

(4b)「【0006】
食品、医薬品などの原料としてサラシア属植物成分を使用する場合、サラシア属植物の抽出物を濃縮、乾燥し、粉末化して得られるサラシアエキス末などを使用することができる。サラシアエキス末などのサラシア属植物の抽出物はサラシア属植物が有する種々の薬効成分を含んでおり、健康食品、機能性食品などの原料として好ましく用いることができる。しかし、サラシア属植物抽出物は酸化されやすく、サラシア属植物抽出物を含む食品は保存中に酸化による変色が生じる場合がある。また、サラシアエキス末は吸湿性が高く、吸湿により粘着性が高まる性質を有するため、サラシアエキス末を成分とした食品では保存中の吸湿による品質の低下が生じやすく、特に、サラシアエキス末を成分とした錠剤では、保存中に錠剤の崩壊性が低下する点が問題となる。その一方で、サラシア属植物成分を効率的に摂取するためには、サラシア属植物抽出物を高含量で含む食品、医薬品の開発が望まれている。
【0007】
また、サラシア属植物抽出物の酸化や吸湿を防止し、組成物の保存安定性を高めるために二酸化ケイ素を組成物に配合した場合、二酸化ケイ素が組成物の結合性を低下させることも問題となる。例えば、上記組成物を錠剤の形態とする場合、十分な保存安定性を得るために二酸化ケイ素の含量を高めると、錠剤硬度が不十分となる点が問題であった。」(【0007】)
【0008】
本発明の目的は、食品または医薬品として使用されるサラシア属植物抽出物を含む組成物であって、保存安定性が高く、特に長期保存による変色および崩壊時間延長が抑制された組成物を提供することである。当該組成物は十分な結合性を有し、適度な硬度を有する錠剤とすることにも適している。
【0009】
本発明者は、上記の課題解決のために鋭意研究を進めたところ、サラシア属植物抽出物を、カルボキシメチルセルロースまたはその金属塩、および二酸化ケイ素と共に配合することにより、高度な保存安定性を有する組成物を調製することができることを見出し、本発明を完成させた。」(【0006】?【0009】)

(4c)「【0013】
サラシア属植物抽出物を含有する本発明の組成物は、保存安定性が高く、特に長期保存による変色および崩壊性低下が抑制されており、さらに十分な結合性を有するため、適切な硬度を有する錠剤の製造に適しているという優れた性質を有する。」(【0013】)

(4d)「【0019】
本発明で使用されるカルボキシメチルセルロースまたはその金属塩としては、例えばカルボキシメチルセルロースならびにそのナトリウム塩、カリウム塩およびカルシウム塩など、およびそれらの混合物が挙げられ、カルボキシメチルセルロースとその金属塩を併用してもよい。特に、カルボキシメチルセルロース、またはカルボキシメチルセルロースカルシウムを好ましく使用することができ、または両者を併用することも好ましい。カルボキシメチルセルロースまたはその金属塩は、食品添加物または医薬品原料として使用できるものであれば特に限定されず、例えばエーテル化度は0.45?1.0(mo1/C 6)を使用することができる。具体的には、NS-300(ニチリン化学工業株式会社製)、E.C.G-505(ニチリン化学工業株式会社製)、E.C.G-FA(ニチリン化学工業株式会社製)などを使用することができる。
・・・
【0021】
本発明で使用される二酸化ケイ素としては、食品添加物または医薬品添加物として使用されるものであれば特に限定されない。本発明の1つの態様において、二酸化ケイ素として、平均粒径が15μm以下の二酸化ケイ素を使用することができる。具体的には、アエロジル200、アエロジル200FAD(登録商標、日本アエロジル株式会社製)、カープレックス#67、カープレックスFPS-500(登録商標、DSL.ジャパン株式会社製)などを使用することができる。」(【0019】?【0021】)

(4e)「【0035】
試験に使用したサラシアエキス末は、以下の方法で調製することができるサラシア・キネンシス水抽出物を粉末化することにより調製した。サラシア・キネンシスの幹の部分を5mm角に裁断したチップ(1kg)に熱水(20kg)を加え、98℃で120分攬絆抽出した。得られた抽出液を、ロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮(濃縮温度45℃、Brix=30になるまで)し、濃縮液を凍結乾燥させて本発明のサラシア・キネンシス抽出物(98.5g)を得た。
【0036】
また、その他の成分として、結晶セルロース(セオラスFD301、旭化成ケミカルズ株式会社製)、カルボキシメチルセルロースカルシウム(CMC-Caと称する、E.C.G一FA、ニチリン化学工業株式会社製)、二酸化ケイ素(アエロジル200FAD、日本アエロジル株式会社製)、ステアリン酸マグネシウム(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を使用した。」(【0035】?【0036】)

(4f)「【0042】
【表1】

」(【0042】)

(4g)「【0043】
【表2】

」(【0043】)

(4h)「【0044】
【表3】

」(【0044】)

(4i)「【0045】
【表4】

」(【0045】)

(5)甲5(特開平11-43440号公報)には以下の記載がある。

(5a)「【請求項1】 下記式(I)
【化1】

で表される化合物を有効成分とする脳機能改善剤。

【請求項2】 下記式(II)
【化2】

で表される化合物を有効成分とする脳機能改善剤。

【請求項3】 下記式(III)
【化3】

で表される化合物を有効成分とする脳機能改善剤。
【請求項4】 下記式(IV)
【化4】

で表される化合物を有効成分とする脳機能改善剤。
【請求項5】 下記式(V)
【化5】

で表される化合物を有効成分とする脳機能改善剤。
【請求項6】 請求項1ないし5に記載の化合物を少なくとも2種以上含むことを特徴とする脳機能改善剤。
【請求項7】 オンジおよびセネガより調製したサポニン含むことを特徴とする脳機能改善剤。」(【請求項1】?【請求項7】)

(5b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、脳神経細胞群のコリンアセチルトランスフェラーゼ(以下ChATと略することもある)発現および神経成長因子(以下NGFと略することもある)産生促進作用を有し、アルツハイマー病や老人性痴呆症を中心とする脳疾患に有用な脳機能改善剤に関するものである。
・・・
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、痴呆症治療薬としての脳機能改善剤を開発すべく鋭意検討を行っており、ChAT発現およびNGF産生促進作用を有する物質の探索を行ってきた結果、下記式(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)の化合物で表されるある種のサポニンに、ChAT発現およびNGF産生促進作用があることを見出し、本発明を完成させた。」(【0001】?【0008】)

(5c)「【0015】前記の式(I)?(V)で表される本発明の化合物は、例えば以下のようにして得ることができる。すなわち、各式の化合物含有生薬であるオンジ(P olygalae Radix)、その原植物であるpolygala te nuifolia Willd.またはセネガ(Senega)、またはその原植物であるPolygala senega L.、またはその他の同属植物をメタノール、エタノール、ブタノールなどの低級アルコール、クロロホルム等の有機溶媒または水で抽出し、溶媒を留去した後、抽出エキスにつきシリカゲルカラムクロマトグラフイーなどを行うことにより各式の化合物を得ることができる。」(【0015】)

(5d)「【0048】次に、本発明による請求項1?7に記載の脳機能改善剤の投与量および製剤化について説明する。請求項1?7に記載の化合物もしくは混合物はそのまま、あるいは慣用の製剤担体と共に動物および人に投与することができる。投与形態としては、特に限定がなく、必要に応じて適宜選択して使用され、経口剤としては例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤などが挙げられ、非経口剤としては注射剤、座剤などが挙げられる。」(【0048】)

(5e)「【0049】経口剤としての所期の効果を発揮するためには、患者の年齢、体重、疾患の程度により異なるが、通常成人で式(I)?(V)で表される化合物もしくは混合物の重量として1mg?5gを一日数回に分けての服用が適当と思われる。経口剤は、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類などを用いて常法に従って製造される。この種の製剤には、前記のごとく賦形剤の他に、適宜、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を使用することができる。」(【0049】)

(5f)「【0050】結合剤としては、例えばデンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等が挙げられる。崩壊剤としては、例えばデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。」(【0050】)

(5g)「【0051】界面活性剤としては、例えばラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルペート80などが挙げられる。滑沢剤としては、例えばタルク、ロウ類、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール等が挙げられる。流動性促進剤としては、例えば軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。」(【0051】)

(5h)「実施例1
(1)コーンスターチ 44.0g
(2)結晶セルロース 40.0g
(3)カルボキシメチルセルロースカルシウム 5.0g
(4)軽質無水ケイ酸 0.5g
(5)ステアリン酸マグネシウム 0.5g
(6)請求項1?7に記載の化合物もしくは混合物 10.0g
計 100.0g
【0056】上記の処方に従って(1)?(6)を均一に混合し、打錠機にて圧縮成型して一錠200mgの錠剤を得た。」(【0055】?【0056】)

(5i)「実施例4
(1)コーンスターチ 34.5g
(2)ステアリン酸マグネシウム 50.0g
(3)カルボキシメチルセルロースカルシウム 5.0g
(4)軽質無水ケイ酸 0.5g
(5)請求項1?7に記載の化合物もしくは混合物 10.0g
計 100.0g
【0062】上記の処方に従って(1)?(5)を均一に混合し、圧縮成型機にて圧縮成型後、粉砕機により粉砕し、篩い分けして顆粒剤を得た。」(【0061】?【0062】)

(5j)「 実施例2
(1)結晶セルロース 84.5g
(2)ステアリン酸マグネシウム 0.5g
(3)カルボキシメチルセルロースカルシウム 5.0g
(4)請求項1?7に記載の化合物もしくは混合物 10.0g
計 100.0g
【0058】上記の処方に従って(1)、(4)および(2)の一部を均一に混合し、圧縮成型した後、粉砕し、(3)および(2)の残量を加えて混合し、打錠機にて圧縮成型して一錠200mgの錠剤を得た。」(【0057】?【0058】)

(5k)「実施例3
(1)結晶セルロース 49.5g
(2)10%ヒドロキシプロピルセルロースエタノール溶液35.0g
(3)カルボキシメチルセルロースカルシウム 5.0g
(4)ステアリン酸マグネシウム 0.5g
(5)請求項1?7に記載の化合物もしくは混合物 10.0g
計 100.0g
【0060】上記の処方に従って(1)、(2)および(5)を均一に混合し、常法によりねつ和し、押し出し造粒機により造粒し、乾燥・粉砕した後、(3)および(4)を混合し、打錠機にて圧縮成型して、一錠200mgの錠剤を得た。」(【0059】?【0060】)

(5l)「実施例5
(1)結晶セルロース 55.0g
(2)10%ヒドロキシプロピルセルロースエタノール溶液35.0g
(3)請求項1?7に記載の化合物もしくは混合物 10.0g
計 100.0g
【0064】上記の処方に従って(1)?(3)を均一に混合し、ねつ和した。押し出し造粒機により造粒後、乾燥し、篩い分けして顆粒剤を得た。」(【0063】?【0064】)

(5m)「実施例6
(1)コーンスターチ 89.5g
(2)軽質無水ケイ酸 0.5g
(3)請求項1?7に記載の化合物もしくは混合物 10.0g
計 100.0g
【0066】上記の処方に従って(1)?(3)を均一に混合し、200mgを2号カプセルに充填した。」(【0065】?【0066】)

(6)甲6(特開2014-166994号公報)には以下の記載がある。

(6a)「【請求項1】
(A)漢方エキス、及び、(B)ポリ酢酸ビニルを含有する固形製剤。
【請求項2】
(A)漢方エキスが、防已黄耆湯、葛根湯、葛根湯加川キュウ辛夷、小青竜湯、当帰芍薬散、加味帰脾湯、加味逍遙散、桂枝茯苓丸、桂枝茯苓丸料加ヨク苡仁、補中益気湯、防風通聖散、牛車腎気丸、杞菊地黄丸、麻黄湯、麻黄附子細辛湯、桂枝加朮附湯、桂枝加苓朮附湯、十全大補湯、疎経活血湯、芍薬甘草湯、桂枝人参湯、桃核承気湯、甘草瀉心湯、抑肝散、抑肝散加芍薬黄連、麦門冬湯、五苓散、五虎湯、六君子湯および越婢加朮湯からなる群から選択される少なくとも1種の漢方エキスである請求項1記載の固形製剤。
・・・
【請求項5】
固形製剤が、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤のいずかである請求項1?4のいずれかの固形製剤。
・・・
【請求項7】
ポリ酢酸ビニルを含有することを特徴とする、漢方エキスを含有する固形製剤の変色抑制剤。」(【請求項1】?【請求項7】)

(6b)「【0003】
一般的に漢方エキスの変色の原因は、エキスの高い吸湿性にあると考えられており、その変色の原因となる吸湿を抑制する方法としては、例えば、製造場所や保管場所における温湿度の徹底した管理が挙げられ、実際の製造現場においてもそのような管理が行われている。」(【0003】)

(6c)「【0005】
一方、漢方エキスを配合した製剤における吸湿の抑制方法としては、特許文献1?3等、漢方エキスに種々の医薬品添加剤を配合することが知られている。しかし、漢方エキス製剤のべたつきを抑制し、その製剤における崩壊性、硬度、耐摩損度等の改善が図られているに止まっており、よりデリケートに影響を受けやすい変色の改善にまでは至っておらず、なお漢方エキスの変色を抑えることには課題を残していた。」(【0005】)

(6d)「【0009】
本発明の課題は、簡便な方法により、上記課題を有する漢方エキスを含有する固形製剤の変色を抑制し、長期にわたり安定性に優れた漢方エキスを含有する固形製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、漢方エキスの変色を抑制するべく鋭意検討したところ、(A)漢方エキスと(B)ポリ酢酸ビニルとを固形製剤中に含有させることにより、漢方エキスを含有する固形製剤の変色が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
具体的には本発明は、以下の固形製剤等を提供するものである。
[項1](A)漢方エキス、及び、(B)ポリ酢酸ビニルを含有する固形製剤。」(【0009】?【0011】)

(7)甲7(特開昭55-92313号公報)には以下の記載がある。

(7a)「(1)ペレット状グラニユールに作られていることを特徴とするサポニン抽出製品。
・・・
(4)特許請求の範囲(1)?(3)のいずれかに記載の発明において、そのグラニユールがさらさらして実際上吸湿性のないものであることを特徴とするサポニン抽出製品。」(請求項1?請求項4)

(7b)「この発明は、サポニン抽出製品およびその製法にかかるものである。
サポニンは泡立て性を持つ配糖体である。
自然界で、サポニンはいろいろな植物の含有成分として広く分布している。・・・
一例として、シヤボンの木(学名quillayae saponaria)からサポニンが得られる。
・・・
ジプソフイラサポニンはradix saponariaから得られるもので、これまた一般に粉末状とされた原料抽出物とされる。」(2頁右上欄16行?3頁左上欄11行)

(7c)「サポニン粉末が強い吸湿性を示すことも大きな難点である。すなわち湿気が作用すると、だんごになりやすいのである。だんごになつてしまったサポニンは使いにくいため、苦情のもととなることがしばしばである。」(第3頁右上欄第8行?12行)

(7d)「この発明で課題とすることは、微粉のないサポニン抽出製品であって、在来の粉末どおりのサポニン含有量であり、扱いやすくて、特別な注意を払わずとも空気に触れて変質することなどなしに保存できる、というもの、を提供することである。
この課題は、ペレット状グラニュールに作られたサポニン抽出製品、によって解決される。」(第3頁右上欄第13行?20行)

(8)甲8(特開2010-111589号公報)には以下の記載がある。

(8a)「【請求項1】
(A)クレマスチンフマル酸塩と、(B)クロスカルメロース又はその塩と、(C)アスコルビン酸又はその塩とを含有し、(C)/(B)で表される質量比が3?20であることを特徴とするクレマスチンフマル酸塩含有固形製剤。
・・・
【請求項3】
さらに、(D)二酸化ケイ素を含有する請求項1又は2記載の固形製剤。」(【請求項1】?【請求項3】)

(8b)「【0010】
(B)クロスカルメロース又はその塩
クロスカルメロース又はその塩を配合することで崩壊性を改善することができる。クロスカルメロース又はその塩としては、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができ、中でもクロスカルメロースナトリウムが好ましい。なお、クロスカルメロースナトリウムとは、内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムである。
・・・
【0015】
(D)二酸化ケイ素
含水二酸化ケイ素が好適に用いられる。二酸化ケイ素を配合することにより、アスコルビン酸の配合により固形製剤が褐変することを抑制することができる。褐変抑制によって糖衣等の被覆がない錠剤とすることが可能となるため、口腔内崩壊錠又はチュアブル錠としても好適に使用可能である。(D)成分の含有量は、固形製剤中1?10質量%が好ましく、2?6質量%がより好ましく、2?4質量%がさらに好ましい。含有量が1質量%未満だと、アスコルビン酸の褐変を抑制する効果が不十分となる場合があり、10質量%を超えると、流動性が悪く、含有量の均一性がとれなくなる場合がある。
【0016】
本発明の固形製剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、固形製剤に用いる任意の成分を配合することができる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。任意成分としては、他の薬物、賦型剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、酸味剤、コーティング剤、香料等が挙げられる。」(【0010】?【0016】)

(8c)
「【0018】
賦型剤としては、結晶セルロース、乳糖、コーンスターチ、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、マンニトール、エリスリトール等、結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、デキストリン、デンプン、アルファー化デンプン等、崩壊剤としては、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルスターチ、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等、滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム等、甘味剤としては、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース等、酸味剤としてはクエン酸等、コーティング剤としては、フィルムコーティング(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール等)、糖衣等が挙げられる。」(【0018】)

(8d)
「【0029】
【表1】

【0030】
(4)褐変抑制試験(二酸化ケイ素の褐変抑制効果)
錠剤及び乾燥剤をガラス瓶に入れて栓を閉め、50℃・75%RHにて静置した。2週間経過後ガラス瓶から錠剤を取り出し、錠剤の色の変化を測定した。具体的には、色差計(ミノルタ、分光測色計)にて錠剤表面のb値を測定した。保存前後のb値の差が5未満(差がわからないレベル)を○、5以上(差がわかるレベル)を×とした。
【0031】
【表2】

」(【0029】?【0031】)

第5 申立人2が提出した証拠に記載されている事項

申立人2が提出した甲1?11には、それぞれ以下の事項が記載されている(原文が外国語である場合は日本語訳で記載する)。
なお、申立人1が提出した証拠と区別するために、以下では、申立人2が提出した証拠である甲1、甲2、・・・甲11を、それぞれ甲1’、甲2’・・・甲11’のように記載する。

(1)甲1’(特開平11-43440号公報)には以下の記載がある。

(1’a)「【請求項1】 下記式(I)
【化1】

で表される化合物を有効成分とする脳機能改善剤。

【請求項2】 下記式(II)
【化2】

で表される化合物を有効成分とする脳機能改善剤。

【請求項3】 下記式(III)
【化3】

で表される化合物を有効成分とする脳機能改善剤。
【請求項4】 下記式(IV)
【化4】

で表される化合物を有効成分とする脳機能改善剤。
【請求項5】 下記式(V)
【化5】

で表される化合物を有効成分とする脳機能改善剤。
【請求項6】 請求項1ないし5に記載の化合物を少なくとも2種以上含むことを特徴とする脳機能改善剤。
【請求項7】 オンジおよびセネガより調製したサポニン含むことを特徴とする脳機能改善剤。」(【請求項1】?【請求項7】)

(1’b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、脳神経細胞群のコリンアセチルトランスフェラーゼ(以下ChATと略することもある)発現および神経成長因子(以下NGFと略することもある)産生促進作用を有し、アルツハイマー病や老人性痴呆症を中心とする脳疾患に有用な脳機能改善剤に関するものである。
・・・
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、痴呆症治療薬としての脳機能改善剤を開発すべく鋭意検討を行っており、ChAT発現およびNGF産生促進作用を有する物質の探索を行ってきた結果、下記式(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)の化合物で表されるある種のサポニンに、ChAT発現およびNGF産生促進作用があることを見出し、本発明を完成させた。
・・・
【0015】前記の式(I)?(V)で表される本発明の化合物は、例えば以下のようにして得ることができる。すなわち、各式の化合物含有生薬であるオンジ(Po1yga1ae RadiX)、その原植物であるPo1yga1a tenuifo1ia Wi1ld.またはセネガ(Senega)、またはその原植物であるPo1yga1asenega L.、またはその他の同属植物をメタノール、エタノール、ブタノールなどの低級アルコール、クロロホルム等の有機溶媒または水で抽出し、溶媒を留去した後、抽出エキスにつきシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどを行うことにより各式の化合物を得ることができる。」(【0001】?【0015】)

(1’c)「【0018】(1)上記の式(I)?(V)で表される化合物は各々オンジサポニンA、B、E、FおよびGと呼ばれ、例えば以下のように庄司らの方法に準じて得ることができる[Chem.Pharm.Bull.,29,2431-2441(1981)、Chem. Pharm.Bull.,30,810-821(1981)]。」(【0018】)

(1’d)「【0048】次に、本発明による請求項1?7に記載の脳機能改善剤の投与量および製剤化について説明する。請求項1?7に記載の化合物もしくは混合物はそのまま、あるいは慣用の製剤担体と共に動物および人に投与することができる。投与形態としては、特に限定がなく、必要に応じて適宜選択して使用され、経口剤としては例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤などが挙げられ、非経口剤としては注射剤、座剤などが挙げられる。」(【0048】)

(1’e)「【0049】経口剤としての所期の効果を発揮するためには、患者の年齢、体重、疾患の程度により異なるが、通常成人で式(I)?(V)で表される化合物もしくは混合物の重量として1mg?5gを一日数回に分けての服用が適当と思われる。経口剤は、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類などを用いて常法に従って製造される。この種の製剤には、前記のごとく賦形剤の他に、適宜、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を使用することができる。」(【0049】)

(1’f)「【0050】結合剤としては、例えばデンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリ ビニルピロリドン、マクロゴール等が挙げられる。崩壊剤としては、例えばデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。」(【0050】)

(1’g)「【0051】界面活性剤としては、例えばラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルペート80などが挙げられる。滑沢剤としては、例えばタルク、ロウ類、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール等が挙げられる。流動性促進剤としては、例えば軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。」(【0051】)

(1’h)「実施例1
(1)コーンスターチ 44.0g
(2)結晶セルロース 40.0g
(3)カルボキシメチルセルロースカルシウム 5.0g
(4)軽質無水ケイ酸 0.5g
(5)ステアリン酸マグネシウム 0.5g
(6)請求項1?7に記載の化合物もしくは混合物 10.0g
計 100.0g
【0056】上記の処方に従って(1)?(6)を均一に混合し、打錠機にて圧縮成型して一錠200mgの錠剤を得た。」(【0055】?【0056】)

(1’i)「実施例4
(1)コーンスターチ 34.5g
(2)ステアリン酸マグネシウム 50.0g
(3)カルボキシメチルセルロースカルシウム 5.0g
(4)軽質無水ケイ酸 0.5g
(5)請求項1?7に記載の化合物もしくは混合物 10.0g
計 100.0g
【0062】上記の処方に従って(1)?(5)を均一に混合し、圧縮成型機にて圧縮成型後、粉砕機により粉砕し、篩い分けして顆粒剤を得た。」(【0061】?【0062】)

(1’j)「 実施例2
(1)結晶セルロース 84.5g
(2)ステアリン酸マグネシウム 0.5g
(3)カルボキシメチルセルロースカルシウム 5.0g
(4)請求項1?7に記載の化合物もしくは混合物 10.0g
計 100.0g
【0058】上記の処方に従って(1)、(4)および(2)の一部を均一に混合し、圧縮成型した後、粉砕し、(3)および(2)の残量を加えて混合し、打錠機にて圧縮成型して一錠200mgの錠剤を得た。」(【0057】?【0058】)

(1’k)「実施例3
(1)結晶セルロース 49.5g
(2)10%ヒドロキシプロピルセルロースエタノール溶液35.0g
(3)カルボキシメチルセルロースカルシウム 5.0g
(4)ステアリン酸マグネシウム 0.5g
(5)請求項1?7に記載の化合物もしくは混合物 10.0g
計 100.0g
【0060】上記の処方に従って(1)、(2)および(5)を均一に混合し、常法によりねつ和し、押し出し造粒機により造粒し、乾燥・粉砕した後、(3)および(4)を混合し、打錠機にて圧縮成型して、一錠200mgの錠剤を得た。」(【0059】?【0060】)

(1’l)「実施例5
(1)結晶セルロース 55.0g
(2)10%ヒドロキシプロピルセルロースエタノール溶液35.0g
(3)請求項1?7に記載の化合物もしくは混合物 10.0g
計 100.0g
【0064】上記の処方に従って(1)?(3)を均一に混合し、ねつ和した。押し出し造粒機により造粒後、乾燥し、篩い分けして顆粒剤を得た。」(【0063】?【0064】)

(1’m)「実施例6
(1)コーンスターチ 89.5g
(2)軽質無水ケイ酸 0.5g
(3)請求項1?7に記載の化合物もしくは混合物 10.0g
計 100.0g
【0066】上記の処方に従って(1)?(3)を均一に混合し、200mgを2号カプセルに充填した。」(【0065】?【0066】)

(2)甲2’(特開2014-214125号公報)には以下の記載がある。

(2’a)「【請求項1】
吸湿性物質、流動化剤及び崩壊剤を含む錠剤の製造方法であって、
(1)吸湿性物質を乾式造粒法で造粒する工程、
(2)前記工程(1)で得られた造粒物と、流動化剤及び崩壊剤を造粒する工程、及び
(3)前記工程(2)で得られた造粒物を打錠する工程、を有することを特徴とする錠剤の製造方法。
【請求項2】
前記工程(2)が、
(2-1)前記工程(1)で得られた造粒物と流動化剤とを混合し、これを造粒する前造粒工程、及び(2-2)前記前造粒工程(2-1)で得られた前造粒物に、更に流動化剤と崩壊剤とを混合して混合物を得、次いで該混合物を造粒する仕上げ造粒工程、を有するものである、請求項1記載の錠剤の製造方法。
【請求項3】
前記吸湿性物質が、漢方エキス、生薬エキス及び植物抽出物からなる群から選ばれる少なくとも1種の物質である、請求項1又は2に記載の錠剤の製造方法。
【請求項4】
前記流動化剤が、軽質無水ケイ酸、重質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の成分である、請求項1?3いずれかに記載の錠剤の製造方法。
【請求項5】
前記崩壊剤が、カルボキシメチルスターチナトリウム、部分アルファ化デンプン、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びクロスポビドンからなる群から選ばれる少なくとも1種の成分である、請求項1?4のいずれかに記載の錠剤の製造方法。」(【請求項1】?【請求項5】)

(2’b)「【0026】
(1)吸湿性物質を乾式造粒法で造粒する工程
本発明の製造方法は、工程(1)として、吸湿性物質を乾式造粒法で造粒する工程を有する。乾式造粒工程により、吸湿性物質の粒子径を大きくできる。そして、次工程(2)により、吸湿性物質からなる造粒物の表面を流動化剤と崩壊剤とで被覆でき、崩壊性が良好な錠剤を得ることができる。」(【0026】)

(2’c)「【0027】
(1-1) 吸湿性物質
本発明が対象とする吸湿性物質は、特に制限されない。例えば、錠剤の製造工程の環境下で、水分を吸収し易い物質が挙げられる。尚、本発明の錠剤では、吸湿性物質を有効成分とすることができる。有効成分とは、人体に投与又は摂取された後に、体内で意図される生理作用又は薬理活性を発揮する物質であり、その意味で機能性物質とも称される。
【0028】
吸湿性物質として、例えば、生薬の乾燥粉末又は生薬エキス、漢方(生薬の混合物)の乾燥粉末及び漢方エキス、植物抽出物等が挙げられる。
【0029】
吸湿性物質として、生薬の乾燥粉末又は生薬エキス、並びに、漢方又は漢方エキスが好ましい。漢方が生薬粉末の場合は、生薬をそのまま粉砕することで得られる。生薬粉末とは、生薬をそのまま粉砕することで得られる粉末である。
【0030】
生薬工キスは、生薬原末から、水、エタノール等の有機溶媒、その混合溶媒を用いてエキスを抽出し(浸出液)、濃縮、乾燥又は粉末化させたもの(エキス末)で、乾燥エキスと呼ばれる。乾燥エキスとは、抽出エキスを例えばスプレードライして粉末状に加工した粉末である。生薬エキスは、生薬原末から抽出したエキス末単独でも良く、単独のエキス末の混合物或いは複数の生薬から抽出したエキス末であっても良い。
【0031】
漢方エキスは、生薬原末(主には生薬原末の混合物)から、水、エタノール等の有機溶媒、その混合溶媒を用いてエキスを抽出し(浸出液)、濃縮、乾燥又は粉末化させたもの(エキス末)で、乾燥エキスと呼ばれる。乾燥エキスについては前記した通りである。漢方エキスは、生薬のエキス末の混合物でも良く、複数の生薬から抽出したエキス末であっても良い。
【0032】
生薬の種類は、特に制限されず、日本薬局方に記載されている生薬が好ましい。例えば、アセンヤク、イレイセン(威霊仙)、ウイキョウ(茴香)、エンゴサク(延胡索)、オウギ(黄耆)、オウゴン(黄岑)、オウバク(黄柏)、オウヒ(桜皮)、オウレン(黄連)、オンジ(遠志)、ガジュツ、カンキョウ(乾姜)、カッコン(葛根)、カッコウ、カロニン、カノコソウ、カンゾウ(甘草)、カミツレ、キキョウ(桔梗)、キクカ(菊花)、キジツ(枳実)、キョウニン(杏仁)、キョウカツ、クジン(苦参)、ケイガイ(荊芥)、ケイヒ(桂皮)、ゲンチアナ、コウカ(紅花)、コウブシ(香附子)、コウベイ、コウボク(厚朴)、ゴオウ、ゴシツ(牛膝)、ゴシュユ(呉茱黄)、ゴボウシ(牛蒡子)ヘ ゴミシ(五味子)、サイコ(柴胡)、サイシン(細辛)、サンシシ(山梔子)、サンシュユ(山茱萸)、サンショウ(山根)、サンザシ(山査子)、サンズコン(山豆根)、サンソウニン(酸棗仁)、サンヤク(山薬)、サンナ(山奈)、ジオウ(地黄)、シオン、シャクヤク、ジャコウ、ショウマ(升麻)、シツリシ、シャゼンシ、シャゼンソウ、シャジン(シュクシャ(縮砂))、獣胆(ユウタンを含む)、ショウキョウ(生姜)、ジリュウ(地竜)、シンイ(辛夷)、ジコッピ(地骨皮)、シコン、セキサン(石蒜)、セッコウ(石膏)、セネガ、センコツ(川骨)、ゼンコ(前胡)、センキュウ、センブリ、ソウジュツ(蒼朮)、ソウハクヒ(桑白皮)、ソヨウ(蘇葉)、ダイオウ(大黄)、タイソウ、チクジョ、チクセツニンジン(竹節人参)、チョウジ(丁子)、チョレイ(猪苓)、チンピ(陳皮)、テンナンショウ(天南星)、トウガシ(冬瓜子)、トウキ(当帰)、トウニン(桃仁)、トコン、トチュウ、ナンテンジツ、ニンジン(人参)、ニンドウ(忍冬)、バイモ、バクモンドウ、ハッカ(薄荷)、`ハンゲ(半夏)、ビャクシ、ビャクシャク、ビャクジュツ(白朮)、ビワヨウ(枇杷葉)、ビンロウジ(檳榔子)、ブクリョウ(茯苓)、ボタンピ(牡丹皮)、マオウ(麻黄)、マシニン(麻子仁)、モッコウ(木香)、ヨクイニン、リュウガンニク(竜眼肉)、リョウキョウ(良姜)、リュウコツ(竜骨)、リュウタン(竜胆)、レンニク(蓮肉)、レンギョウ(連翹)等が例示できる。
・・・
【0036】
本発明の錠剤は、前記吸湿性物質を1種含むものであってもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて含むものであってもよい。
【0037】
吸湿性物質は、吸湿により錠剤の崩壊性を悪化させるという理由から、漢方エキス、生薬エキス及び植物抽出物からなる群から選ばれる少なくとも1種の物質であることが好ましい。」(【0027】?【0037】)

(2’d)「【0053】
(2-1) 流動化剤
本発明における流動化剤とは、吸湿性物質の吸湿による物性変化を抑制するための成分を指す。流動化剤としては、軽質無水ケイ酸、重質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、結晶セルロース、酸化チタン、水酸化アルミナマグネシウム、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、第三リン酸カルシウム、タルク、トウモロコシデンプン、リン酸水素カルシウム造粒物等が挙げられる。
【0054】
本発明の錠剤は、前記流動化剤を1種含むものであってもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて含むものであってもよい。
【0055】
流動化剤としては、吸湿性物質(エキス末等)の吸湿による物性変化を抑制することができるという理由から、軽質無水ケイ酸、重質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の成分であることがより好ましい。これらの流動化剤は、1種単独で用いても良く、また2種以上を任意に組み合わせても良い。
【0056】
(2-2) 崩壊剤
崩壊剤の種類としては、特に制限されず、カルボキシメチルスターチナトリウム、部分アルファ化デンプン、トウモロコシデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ等のデンプン類、カルメロース、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム(カルボキシメチルセルロースカルシウム)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC)等のセルロース類、グアーガム、アジピン酸、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、クロスポビドン、ベントナイト等が挙げられる。
【0057】
本発明の錠剤は、前記崩壊剤を1種含むものであってもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて含むものであってもよい。
【0058】
崩壊剤としては、より崩壊時間を短縮できるという理由から、カルボキシメチルスターチナトリウム、部分アルファ化デンプン、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びクロスポビドンからなる群から選ばれる少なくとも1種の成分であることが好ましい。」(【0053】?【0058】)

(2’e)「【0117】
実施例
吸湿性物質として、漢方エキスを用いて、錠剤を製造した。
【0118】
(1)錠剤の調製に用いた成分(処方)
処方を表1及び2に示した。滑沢剤は打錠前に添加した。
【0119】
【表1】

【0120】
【表2】

」(【0117】?【0120】)

(2’f)「【0123】
(2)錠剤の製造
(2-1)工程(1)乾式造粒法
・・・
【0125】
本発明の第一及び第二の製造方法では、吸湿性物質(漢方エキス)を、乾式造粒法で造粒した(図1及び2の工程(1))。
【0126】
上記造粒工程で得られた造粒物を、20メッシュ通過(850μm程度以下)目開き125μm保持で整粒(解砕・篩過)し、造粒物を次の造粒工程に供した。【0127】
(2-2)工程(2)造粒工程
造粒法として攪拌造粒法を採用した。攪拌造粒工程を表5に示した。
・・・
【0129】
本発明の第一の製造方法は、前記工程(1)で得られた造粒物と流動化剤(軽質無水ケイ酸)と崩壊剤(クロスカルメロースNa)との混合物を攪拌造粒した(図1の工程(2))。
【0130】
本発明の第二の製造方法は、前記工程(1)で得られた造粒物と流動化剤(軽質無水ケイ酸)との混合物を攪拌造粒した(図2の前造粒工程(2-1))。前造粒工程では、流動化剤を、配合比率で9質量%添加した。次いで前記前造粒工程(2-1)で得られた前造粒物に、更に流動化剤(軽質無水ケイ酸)と崩壊剤(クロスカルメロースNa)とを混合して混合物を得た。次いで該混合物を攪拌造粒した(図2の仕上げ造粒工程(2-2))。仕上げ造粒工程では、流動化剤を、配合比率で1質量%添加した。第二の製造方法は、第一の製造方法の攪拌造粒工程(2)が、前造粒工程(2-1)及び仕上げ造粒工程(2-2)に分かれた製造方法である。前造粒工程での流動化剤の配合量:仕上げ造粒工程での流動化剤の配合量=9:1である。
【0131】
上記造粒工程で得られた造粒物を、目開き1000μmの丸篩にかけて整粒し、当該丸篩を通過した整粒物を打錠工程に供した。」(【0123】?【0131】)

(2’g)「(3)従来の錠剤の製造
従来の錠剤の製造方法を表7に示した(図3)。
・・・
【0136】
吸湿性物質(漢方エキス)、流動化剤(軽質無水ケイ酸)及び崩壊剤(クロスカルメロースNa)を混合し、これを攪拌造粒した。次いで、造粒物を整粒し、整粒物を得た。これに滑沢剤(ステアリン酸Mg)を添加して、単発式打錠機を用いて打錠し、錠剤を得た。」(【0134】?【0136】)

(2’h)「【0137】
(4)評価試験:崩壊試験(日本薬局方)
上記で製造した錠剤(6個)について、日本薬局方(第十六改正)記載の崩壊試験法に従って崩壊時間を測定した。錠剤6個のうち、最も崩壊時間の遅い時間を崩壊時間とした。
【0138】
従来技術の製造方法で製造した錠剤の崩壊時間は、38分であった。
【0139】
本発明の第一の製造方法で製造した錠剤の崩壊時間は、18分であった。錠剤は、局所的に崩壊が進み、ややいびつな形状に変化しながら小さくなっていった。
【0140】
本発明の第二の製造方法で製造した錠剤の崩壊時間は、16分であった。錠剤は、表面が全体的に均一に崩壊していき、錠剤の形状のまま徐々に小さくなっていった。崩壊については、第一の製造方法に比べて、第二の製造方法で製造した錠剤の方が速かった。
【0141】
<考察>
本発明の製造方法によれば、錠剤中に漢方エキス、生薬エキス等の吸湿性物質の含有率が高くても、崩壊性が大きく損なわれない錠剤を調製することができた。更に、崩壊時間の遅延やばらつきが有意に抑えられた錠剤となった。
【0142】
先ず、吸湿性物質を乾式造粒することにより、吸湿性物質の粒子径を大きくでき(工程(1)、16メッシュ通過115メッシュ保持の造粒物)、次いで、得られた造粒物と、流動化剤及び崩壊剤とを造粒することにより、吸湿性物質の表面を流動化剤と崩壊剤とで被覆できた(工程(2))。その結果、得られた造粒物を打錠して、錠剤にすることにより(工程(3))、崩壊性が良好な錠剤を得ることができた。また、錠剤中の吸湿性物質(有効成分)に偏析の発生が有意に抑制され、錠剤は均一な外観を有する錠剤となった。」(【0137】?【0142】)

(2’i)「【図1】

」(【図1】)

(2’j)「【図2】

」(【図2】)

(2’k)「【図3】

」(【図3】)

(3)甲3’(特開2006-22071号公報)には以下の記載がある。

(3’a)「【請求項1】
スターフルーツの処理物を含有するCYP3A阻害剤。
【請求項2】
スターフルーツの処理物がスターフルーツ果実の水性抽出物である請求項1に記載の阻害剤。」(【請求項1】及び【請求項2】)

(3’b)「【0018】
本発明の阻害剤としてはまた、上記処理物を常法により製剤化したものもまた好適に使用し得る。投与形態としては、特に制限はなく、必要に応じ適宜選択されるが、一般には錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤等の経口剤、または注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤、軟膏剤等の非経口剤として投与され得る。」(【0018】)

(3’c)「【0019】
経口剤は、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等の賦形剤を用いて常法に従って製造される。
【0020】
この種の製剤には、適宜前記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を使用することができる。
【0021】
結合剤の具体例としては、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、プルラン、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリレートコポリマーR S、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマー、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、アラビアゴム末、寒天、ゼラチン、白色セラック、トラガント、精製白糖、マクロゴールが挙げられる。
【0022】
崩壊剤の具体例としては、結晶セルロース、メチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、トラガントが挙げられる。」(【0019】?【0022】)

(3’d)「【0024】
滑沢剤の具体例としては、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、タルク、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ロウ類、水素添加植物油、ポリエチレングリコールが挙げられる。
【0025】
流動性促進剤の具体例としては、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムが挙げられる。」(【0024】?【0025】)

(4)甲4’(国際公開第2012/091090号)には以下の記載がある。

(4’a)「[請求項1]
イブプロフェン、ブチルスコポラミン臭化物及び吸湿性高分子を含有する医薬組成物。
[請求項2]
吸湿性高分子が、吸湿性を有するセルロース誘導体又はその塩、吸湿性を有する1-ビニル-2-ピロリドン重合物、及び吸湿性を有するスターチ誘導体又はその塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載の医薬組成物。
[請求項3]
吸湿性高分子が、カルメロース、カルメロースカリウム、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ポリビニルピロリドンK17、ポリビニルピロリドンK25、ポリビニルピロリドンK30、ポリビニルピロリドンK90、クロスポビドン及びカルボキシメチルスターチナトリウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上である請求項1又は2記載の医薬組成物。
・・・
[請求項5]
剤形が固形製剤である請求項1?4いずれか1項記載の医薬組成物。」
([請求項1]?[請求項5])

(4’b)「[0007]本発明者は、イブプロフェンとブチルスコポラミン臭化物を含有する医薬組成物を固形製剤化すべく検討したところ、イブプロフェンとブチルスコポラミン臭化物を混合して保存すると、意外にもこれら化合物の間に相互作用が生じ、この相互作用により変色や湿潤等が生じ、保存に際する安定な状態が保たれにくいことを見出した。
従って、本発明の課題は、イブプロフェンとブチルスコポラミン臭化物を含有する安定な医薬組成物、及び該医薬組成物を含有する安定な固形製剤の提供にある。
課題を解決するための手段
[0008]そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく、イブプロフェンとブチルスコポラミン臭化物を含有する医薬組成物の保存安定性について鋭意検討したところ、イブプロフェンとブチルスコポラミン臭化物との接触が前記相互作用の原因であることが明らかとなり、イブプロフェンとブチルスコポラミン臭化物に加えて、吸湿性高分子を共存せしめることにより、イブプロフェンとブチルスコポラミン臭化物との相互作用が抑制されることを見出した。また、イブプロフェンとブチルスコポラミン臭化物とが実質的に接触しないように医薬組成物中に含有せしめることにより、相互作用が抑制されることを見出した。
[0009]したがって、本発明は、イブプロフェン、ブチルスコポラミン臭化物及び吸湿性高分子を含有する医薬組成物を提供するものである。」([0007]?[0009])

(4’c)「[0023]本発明において、吸湿性高分子は、イブプロフェンとブチルスコポラミン臭化物との相互作用を改善する。上記医薬組成物に含まれる吸湿性高分子とは、吸湿性を有し、イブプロフェンとブチルスコポラミン臭化物との相互作用を改善する効果を有する高分子であれば、特に限定されない。例えば、吸湿性を有するセルロース誘導体又はその塩、吸湿性を有する1-ビニル-2-ピロリドン重合物、吸湿性を有するスターチ誘導体又はその塩等の高分子等が挙げられる。この中でも、吸湿性を有するセルロース誘導体又はその塩が好ましい。」([0023])

(4’d)「[0024]上記吸湿性を有するセルロース誘導体又はその塩としては、セルロース中のヒドロキシ基をエーテル化したもの、エーテル化したセルロースのエステル、これらの架橋重合物やそれらの塩等が挙げられる。具体的には、カルメロース、カルメロースカリウム、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート等が挙げられる。この中でも、カルメロース、カルメロースカリウム、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウムが好ましい。」([0024])

(4’e)「[0036]例えば、イブプロフェン及びブチルスコポラミン臭化物のうちいずれかを含有する粒状物は、イブプロフェン又はブチルスコポラミン臭化物、流動化剤(例えば、軽質無水ケイ酸や含水二酸化ケイ素等)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース等)等を含む混合物を用いて造粒することにより製することができる。」([0036])

(5)甲5’(特開2011-178690号公報)には以下の記載がある。

(5’a)「【請求項1】
サラシア属植物抽出物、二酸化ケイ素、およびカルボキシメチルセルロースまたはその金属塩を含む組成物。」(【請求項1】)

(5’b)「【0006】
食品、医薬品などの原料としてサラシア属植物成分を使用する場合、サラシア属植物の抽出物を濃縮、乾燥し、粉末化して得られるサラシアエキス末などを使用することができる。サラシアエキス末などのサラシア属植物の抽出物はサラシア属植物が有する種々の薬効成分を含んでおり、健康食品、機能性食品などの原料として好ましく用いることができる。しかし、サラシア属植物抽出物は酸化されやすく、サラシア属植物抽出物を含む食品は保存中に酸化による変色が生じる場合がある。また、サラシアエキス末は吸湿性が高く、吸湿により粘着性が高まる性質を有するため、サラシアエキス末を成分とした食品では保存中の吸湿による品質の低下が生じやすく、特に、サラシアエキス末を成分とした錠剤では、保存中に錠剤の崩壊性が低下する点が問題となる。その一方で、サラシア属植物成分を効率的に摂取するためには、サラシア属植物抽出物を高含量で含む食品、医薬品の開発が望まれている。
【0007】
また、サラシア属植物抽出物の酸化や吸湿を防止し、組成物の保存安定性を高めるために二酸化ケイ素を組成物に配合した場合、二酸化ケイ素が組成物の結合性を低下させることも問題となる。例えば、上記組成物を錠剤の形態とする場合、十分な保存安定性を得るために二酸化ケイ素の含量を高めると、錠剤硬度が不十分となる点が問題であった。」(【0007】)
【0008】
本発明の目的は、食品または医薬品として使用されるサラシア属植物抽出物を含む組成物であって、保存安定性が高く、特に長期保存による変色および崩壊時間延長が抑制された組成物を提供することである。当該組成物は十分な結合性を有し、適度な硬度を有する錠剤とすることにも適している。
【0009】
本発明者は、上記の課題解決のために鋭意研究を進めたところ、サラシア属植物抽出物を、カルボキシメチルセルロースまたはその金属塩、および二酸化ケイ素と共に配合することにより、高度な保存安定性を有する組成物を調製することができることを見出し、本発明を完成させた。」(【0006】?【0009】)

(5’c)「【0013】
サラシア属植物抽出物を含有する本発明の組成物は、保存安定性が高く、特に長期保存による変色および崩壊性低下が抑制されており、さらに十分な結合性を有するため、適切な硬度を有する錠剤の製造に適しているという優れた性質を有する。」(【0013】)

(5’d)「【0019】
本発明で使用されるカルボキシメチルセルロースまたはその金属塩としては、例えばカルボキシメチルセルロースならびにそのナトリウム塩、カリウム塩およびカルシウム塩など、およびそれらの混合物が挙げられ、カルボキシメチルセルロースとその金属塩を併用してもよい。特に、カルボキシメチルセルロース、またはカルボキシメチルセルロースカルシウムを好ましく使用することができ、または両者を併用することも好ましい。カルボキシメチルセルロースまたはその金属塩は、食品添加物または医薬品原料として使用できるものであれば特に限定されず、例えばエーテル化度は0.45?1.0(mo1/C 6)を使用することができる。具体的には、NS-300(ニチリン化学工業株式会社製)、E.C.G-505(ニチリン化学工業株式会社製)、E.C.G-FA(ニチリン化学工業株式会社製)などを使用することができる。」(【0019】)
・・・
【0021】
本発明で使用される二酸化ケイ素としては、食品添加物または医薬品添加物として使用されるものであれば特に限定されない。本発明の1つの態様において、二酸化ケイ素として、平均粒径が15μm以下の二酸化ケイ素を使用することができる。具体的には、アエロジル200、アエロジル200FAD(登録商標、日本アエロジル株式会社製)、カープレックス#67、カープレックスFPS-500(登録商標、DSL.ジャパン株式会社製)などを使用することができる。」(【0019】?【0021】)

(5’e)「【0035】
試験に使用したサラシアエキス末は、以下の方法で調製することができるサラシア・キネンシス水抽出物を粉末化することにより調製した。サラシア・キネンシスの幹の部分を5mm角に裁断したチップ(1kg)に熱水(20kg)を加え、98℃で120分攬絆抽出した。得られた抽出液を、ロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮(濃縮温度45℃、Brix=30になるまで)し、濃縮液を凍結乾燥させて本発明のサラシア・キネンシス抽出物(98.5g)を得た。
【0036】
また、その他の成分として、結晶セルロース(セオラスFD301、旭化成ケミカルズ株式会社製)、カルボキシメチルセルロースカルシウム(CMC-Caと称する、E.C.G一FA、ニチリン化学工業株式会社製)、二酸化ケイ素(アエロジル200FAD、日本アエロジル株式会社製)、ステアリン酸マグネシウム(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を使用した。」(【0035】?【0036】)

(5’f)「【0042】
【表1】

」(【0042】)

(5’g)「【0043】
【表2】

」(【0043】)

(5’h)「【0044】
【表3】

」(【0044】)

(5’i)「【0045】
【表4】

」(【0045】)

(6)甲6’(特開2008-208118号公報)には以下の記載がある。

(6’a)「【請求項1】
ツルニンジン属植物抽出物及び多糖類又はその誘導体を含有する混合液を、噴霧乾燥して得られるツルニンジン属植物抽出物含有粉末組成物。
【請求項2】
多糖類又はその誘導体がデキストリン類である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の組成物を含有する固形製剤。
【請求項4】
錠剤、カプセル剤、顆粒剤又は散剤である請求項3記載の固形製剤。」
(【請求項1】?【請求項4】)

(6’b)「【0006】
本発明は、ツルニンジン属植物抽出物を有効成分とする安定した組成物及び固形製剤を提供することに関する。
【0007】
本発明者らは、ツルニンジン属植物抽出物の粉末化に関して検討したところ、噴霧乾燥法を用いて粉末化した場合、意外にも、得られた粉末は、経時的に変色が起こることが判明した。そこで、さらに検討した結果、ツルニンジン属植物抽出物に、多糖類又はその誘導体を添加して噴霧乾燥した場合に、当該変色を抑制できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
1)ツルニンジン属植物抽出物及び多糖類又はその誘導体を含有する混合液を、噴霧乾燥して得られるツルニンジン属植物抽出物含有粉末組成物。
2)多糖類又はその誘導体がデキストリン類である上記1)記載の組成物。
3)上記1)又は2)記載の組成物を含有する固形製剤。
4)錠剤、カプセル剤、顆粒剤又は散剤である上記3)記載の固形製剤。
5)さらに、少なくともソフォン又はラフマを含有する上記3又は4)記載の固形製剤。
6)ツルニンジン属植物抽出物に多糖類又はその誘導体を添加して混合液とし、これを噴霧乾燥することを特徴とするツルニンジン属植物抽出物含有粉末組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、経時的な変色が抑制されたツルニンジン属植物抽出物含有粉末組成物、及びそれを含有する安定した固形製剤を提供することができる。」(【0006】?【0009】)

(6’c)「実施例1 ツルニンジン抽出物含有粉末組成物の調製
ツルニンジン(Codonopsis lanceolata)乾燥根2.0kgに精製水20Lを加え、90℃以上の熱水中で1時間加熱した後、不溶解成分を濾過し抽出液を製した。得られた抽出液をエバポレーターにて約4Lまで濃縮し、テキストリン300gを混合溶解後、スプレードライヤー(Pulvis GB22;YAMATO製)を用いて、吸気温度150℃、排気温度90°Cで瞬時に噴霧乾燥し、本発明のツルニンジン抽出物含有組成物(以下、「ツルニンジン粉末」ともいう)1240gを得た。」(【0032】)

(6’d)「実施例6 錠剤
実施例1のツルニンジン粉末1000g、結晶セルロース1200g、直打用乳糖700g、ショ糖エステル40g、カルメロースカルシウム30g、微粒二酸化ケイ素30gをボーレコンテナミキサー(LM-20;KEMCO製)を用いて混合した。混合品30メッシュの篩を用いて整粒した後、ロータリー式打錠機(HT-AP18SS-U;HATA製)で圧縮成型し、1錠あたり300mgの錠剤を得た。」(【0038】)

(7)甲7’(岩浪登、「エキス製剤の保管について」、臨床と薬物治療、1992年、4月号、第11巻、第3号、第16?20頁)には以下の記載がある。

「エキス製剤自体は本来きわめて吸湿性が高く、顆粒剤・細粒剤・粉末を防湿包装を行わない裸状態で放置した場合、とくに高温多湿の状態でなくとも1日以内に変色・ケーキング等の変化を起こす製剤(処方)が多数存在する。」(第17頁左欄第12?17行)

(8)甲8’(特開2014-166994号公報)には以下の記載がある。

(8’a)「【請求項1】
(A)漢方エキス、及び、(B)ポリ酢酸ビニルを含有する固形製剤。
【請求項2】
(A)漢方エキスが、防已黄耆湯、葛根湯、葛根湯加川キュウ辛夷、小青竜湯、当帰芍薬散、加味帰脾湯、加味逍遙散、桂枝茯苓丸、桂枝茯苓丸料加ヨク苡仁、補中益気湯、防風通聖散、牛車腎気丸、杞菊地黄丸、麻黄湯、麻黄附子細辛湯、桂枝加朮附湯、桂枝加苓朮附湯、十全大補湯、疎経活血湯、芍薬甘草湯、桂枝人参湯、桃核承気湯、甘草瀉心湯、抑肝散、抑肝散加芍薬黄連、麦門冬湯、五苓散、五虎湯、六君子湯および越婢加朮湯からなる群から選択される少なくとも1種の漢方エキスである請求項1記載の固形製剤。
・・・
【請求項5】
固形製剤が、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤のいずかである請求項1?4のいずれかの固形製剤。
・・・
【請求項7】
ポリ酢酸ビニルを含有することを特徴とする、漢方エキスを含有する固形製剤の変色抑制剤。」(【請求項1】?【請求項7】)

(8’b)「一般的に漢方エキスの変色の原因は、エキスの高い吸湿性にあると考えられており、その変色の原因となる吸湿を抑制する方法としては、例えば、製造場所や保管場所における温湿度の徹底した管理が挙げられ、実際の製造現場においてもそのような管理が行われている。」(【0003】)

(8’c)「一方、漢方エキスを配合した製剤における吸湿の抑制方法としては、特許文献1?3等、漢方エキスに種々の医薬品添加剤を配合することが知られている。しかし、漢方エキス製剤のべたつきを抑制し、その製剤における崩壊性、硬度、耐摩損度等の改善が図られているに止まっており、よりデリケートに影響を受けやすい変色の改善にまでは至っておらず、なお漢方エキスの変色を抑えることには課題を残していた。」(【0005】)

(8’d)「【0009】
本発明の課題は、簡便な方法により、上記課題を有する漢方エキスを含有する固形製剤の変色を抑制し、長期にわたり安定性に優れた漢方エキスを含有する固形製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、漢方エキスの変色を抑制するべく鋭意検討したところ、(A)漢方エキスと(B)ポリ酢酸ビニルとを固形製剤中に含有させることにより、漢方エキスを含有する固形製剤の変色が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
具体的には本発明は、以下の固形製剤等を提供するものである。
[項1](A)漢方エキス、及び、(B)ポリ酢酸ビニルを含有する固形製剤。」(【0009】?【0011】)

(9)甲9’(ロート加味帰脾湯錠の添付文書)には以下の記載がある。



」(パッケージ裏面の【成分・分量】及び【保管及び取り扱い上の注意】)

(10)甲10’(JPS加味帰脾湯エキス錠Nの添付文書)には以下の記載がある。



」(裏面)

(11)甲11’(韓国公開特許第10-2014-0059532号公報)には以下の記載がある。

(11’a)「請求項1:(a)オンジに水及び炭素数1?4の低級アルコールから選択される1種または混合物を添加して、加熱、抽出した後、オンジ抽出物を製造する段階;及び(b)前記段階(a)で得たオンジ抽出物に精製水を添加して希釈した後、限外濾過装置に通過させて限外濾過したオンジ抽出物を得る段階;を含むことを特徴とするアセチルコリン分解酵素阻害用オンジ抽出物の製造方法。」(請求項1)

(11’b)「請求項7:請求項1の方法により製造されたアセチルコリン分解酵素阻害用オンジ抽出物を含むことを特徴とする痴呆予防または治療用薬学的組成物。」(請求項7)

(11’c)「一方、前記本発明のオンジ抽出物を含む薬学的組成物は、組成物の全重量に対してオンジ抽出物を0.1?80重量%で含むのが望ましいが、これに限定されない。」(【0054】)

(11’d)「本発明の組成物は、薬剤の製造に通常使用する適切な担体、賦形剤及び希釈剤をさらに含むことができる。」(【0055】)

(11’e)「本発明による組成物は、それぞれ通常の方法によって、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤・・・の形態で剤形化して用いることができる。本発明の組成物に含むことができる担体、賦形剤及び希釈剤には、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、結晶セルロース、ポリビニールピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレートおよび鉱物油を挙げることができる。」(【0056】)

(11’f)「製剤化する場合には、通常用いる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤等の希釈剤または賦形剤を使用して調剤される。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顕粒剤、カプセル剤などが含まれて、このような固形製剤は本発明の組成物に少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混合して調剤される。また、単純な賦形剤以外にマグネシウムステアレート、タルクのような潤滑剤も使用される。」(【0057】)

第6 当合議体の判断
当合議体は、申立人1による申立理由、申立人2による申立理由2A?2Fはいずれも認められず、本件特許発明1?3は取り消されるべきものではないと判断した。以下、その理由を説示する。

1.申立人1による申立理由についての判断
申立理由(特許法第29条第2項)は、本件特許発明1?3に対し、甲1または甲2を主引用例として甲1?甲8に基づく進歩性欠如を主張するものである。
そこで、まず甲1を主引用例とする進歩性欠如について判断し、次に甲2を主引用例とする進歩性欠如について判断する。

(1)甲1を主引用例とする進歩性欠如について

(1-1)甲1に記載された発明

甲1(韓国公開特許第10-2014-0059532号公報)には、摘記(1a)及び(1b)からみて、
「(a)オンジに水及び炭素数1?4の低級アルコールから選択される1種または混合物を添加して、加熱、抽出した後、オンジ抽出物を製造する段階;及び(b)前記段階(a)で得たオンジ抽出物に精製水を添加して希釈した後、限外濾過装置に通過させて限外濾過したオンジ抽出物を得る段階;を含むことを特徴とするアセチルコリン分解酵素阻害用オンジ抽出物の製造方法により製造されたアセチルコリン分解酵素阻害用オンジ抽出物を含む、痴呆予防または治療用薬学的組成物」)の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

(1-2)本件特許発明3と甲1発明との対比

甲1発明の「アセチルコリン分解酵素阻害用オンジ抽出物」及び「痴呆予防または治療用薬学的組成物」は、それぞれ本件特許発明3の「オンジエキス」及び「医薬組成物」に相当するので、本件特許発明3と甲1発明とを対比すると、両発明は「生薬成分としてオンジエキスのみを含む医薬組成物」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)本件特許発明3は「固形医薬組成物」に特定されているのに対し、甲1発明は「固形医薬組成物」に特定されていない点。

(相違点2)本件特許発明3は、「(B)含水二酸化ケイ素及び軽質無水ケイ酸からなる群から選択される少なくとも一種のケイ酸化合物」及び「(C)カルメロース(カルボキシメチルセルロース)、クロスカルメロースナトリウム(架橋カルメロースナトリウム)、カルメロースカルシウム(カルボキシメチルセルロースカルシウム)、及びカルメロースカリウム(カルボキシメチルセルロースカリウム)から選択されるセルロース化合物」を含むことが特定されているのに対し、甲1発明は、上記(B)成分及び(C)成分を含むことが特定されていない点。

(1-3)相違点1について

甲1には、甲1発明を錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などの固形製剤に製剤化することが記載されているので(摘記(1e)及び(1f))、甲1発明を「固形医薬組成物」にすることは、当業者が当然想起する事項であるといえる。

(1-4)相違点2について

(1-4-1)本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分は、生薬成分としてオンジエキスのみを含む固形医薬組成物が保存中に吸湿や酸化によって変色することを抑制するという課題の解決手段として用いられた成分である(本件特許明細書の【0007】?【0011】)。

(1-4-2)甲1には、甲1発明の製剤化について、「薬剤の製造に通常使用する適切な担体、賦形剤及び希釈剤をさらに含むことができる」こと(摘記(1d))、及び「製剤化する場合には、通常用いる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤等の希釈剤または賦形剤を使用して調剤される」こと(摘記(1f))が記載されているので、当業者は、甲1発明を「固形医薬組成物」にする際に、賦形剤等を当然に使用するといえる。
しかし、甲1には、甲1発明が含むことができる担体、賦形剤及び希釈剤として、セルロース、メチルセルロース、結晶セルロースというセルロース化合物が記載されているが(摘記(1e))、本件特許発明3の(B)成分である「含水二酸化ケイ素及び軽質無水ケイ酸からなる群から選択される少なくとも一種のケイ酸化合物」、及び(C)成分である「カルメロース(カルボキシメチルセルロース)、クロスカルメロースナトリウム(架橋カルメロースナトリウム)、カルメロースカルシウム(カルボキシメチルセルロースカルシウム)、及びカルメロースカリウム(カルボキシメチルセルロースカリウム)から選択されるセルロース化合物」は記載されておらず、上記(1-4-1)で説示した課題及びその解決手段についての記載はない。
そこで、甲1に記載された事項に加えて、さらに甲2?甲8に記載された事項、及び本件特許の出願日当時の技術常識(以下、「技術常識」という。)から、甲1発明を固形医薬組成物にする際に、本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分を用いることを当業者が容易に想到しえたといえるのか否かについて、検討する。

(1-4-3)甲2(「単味生薬のエキス製剤の開発に関するガイドライン」)は、単味生薬、すなわち複数の組み合わせとしてではなく、単独で利用される場合の生薬のエキス製剤について、単味生薬のエキス製剤の開発を行うに当たって、標準煎剤と生薬エキスとの同等性を確認するための比較試験方法や一般用エキス製剤の製造販売承認申請において設定すべき生薬エキスの製造方法、規格及び試験方法等に関する事項を示すものである(摘記(2a)及び(2b))。
そして、甲2には、具体的にオンジ標準煎剤の調製方法(摘記(2c))、及びオンジの単味生薬エキス製剤承認基準(摘記(2e))が記載されており、上記オンジの単味生薬エキス製剤は、「生薬成分としてオンジエキスのみを含む固形医薬組成物」に相当する。
しかし、甲2には、オンジ単味生薬エキス以外の成分について、「賦形剤の添加については、エキス剤の性状を担保する目的で適切な賦形剤(デキストリン等)を添加することができる」という記載はあるが(摘記(2d))、本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分を添加することは記載されておらず、上記(1-4-1)で説示した課題及びその解決手段についての記載はない。

なお、以下では、「生薬成分としてオンジエキスのみを含む固形医薬組成物」を「オンジ単味生薬エキス製剤」ともいい、上記(1-4-1)で説示した課題を「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」ともいう。

(1-4-4)甲3(特開2012-140420号公報)には、ロキソプロフェンナトリウム又はその水和物とブロムヘキシン塩酸塩が均質に混和された固形製剤について、当該固形製剤の調製後、保存中に経時的に色調・性状の変化とともにブロムヘキシン塩酸塩の含量低下が発生することを防止するという課題があり、当該課題の解決手段として、塩基性医薬品添加物(メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、酸化マグネシウム、軽質無水ケイ酸、及びケイ酸カルシウム)及び/または含水二酸化ケイ素を上記固形製剤に添加することにより、当該固形製剤の色調・性状の変化がなく、かつブロムヘキシン塩酸塩の含量低下が抑制されたことが記載されている(摘記(3a)?(3f))。そして、上記「軽質無水ケイ酸」及び「含水二酸化ケイ素」は本件特許発明3の(B)成分に相当する。
しかし、甲3には、オンジ単味生薬エキス製剤、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」及びその解決手段についての記載はない。
甲3の「軽質無水ケイ酸」及び「含水二酸化ケイ素」は、あくまでも「ロキソプロフェンナトリウム又はその水和物とブロムヘキシン塩酸塩が均質に混和された固形製剤」という特定の固形医薬組成物が有する課題の解決手段として記載されており、甲3には、これらの成分が「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」の解決手段になるという記載はなく、そのような技術常識があるともいえない。

(1-4-5)甲4(特開2011-178690号公報)には、単味生薬エキス製剤に相当するサラシア属植物抽出物を含む組成物について、サラシア属植物抽出物の酸化や吸湿を防止し、組成物を保存安定性を高めるという課題を解決するために、サラシアエキス末を含有する固形医薬組成物に二酸化ケイ素、及びカルボキシメチルセルロースまたはその金属塩を使用したところ、上記組成物の保存安定性が高くなり、特に長期保存による変色および崩壊性低下が抑制されたことが記載されている(摘記(4a)?(4i))。
ここで、甲4には上記「二酸化ケイ素」が「含水二酸化ケイ素」及び/または「軽質無水ケイ酸」であるという記載はなく、「二酸化ケイ素」、「含水二酸化ケイ素」及び「軽質無水ケイ酸」は、医薬品添加剤としては別種類の添加剤として扱われているので(要すれば、「医薬品添加物事典 2007」、日本医薬品添加剤協会、2009年11月6日発行の第2刷、70頁の「含水二酸化ケイ素」の項目、97頁の「軽質無水ケイ酸」、及び201頁の「二酸化ケイ素」の項目を参照。)、甲4には「カルボキシメチルセルロースまたはその金属塩」(本件特許発明3の(C)成分)を用いることは記載されているが、「含水二酸化ケイ素」及び/または「軽質無水ケイ酸」(本件特許発明3の(B)成分)を用いることが記載されているとはいえない。
仮に、甲4の「二酸化ケイ素」が「含水二酸化ケイ素」及び/または「軽質無水ケイ酸」を意味するとしても、甲4には、オンジ単味生薬エキス製剤、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」及びその解決手段についての記載はない。
甲4の「二酸化ケイ素」及び「カルボキシメチルセルロースまたはその金属塩」は、あくまでも、サラシア属植物抽出物(サラシアエキス末)を含む特定の単味生薬エキス製剤が有する課題の解決手段として記載されており、甲4には、これらの成分が「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」の解決手段になるという記載はなく、そのような技術常識があるともいえない。

(1-4-6)甲5(特開平11-43440号公報)には、式(I)?(V)のいずれかで表される化合物を有効成分とする脳機能改善剤(摘記(5a))が記載され、上記式(I)?(V)のいずれかで表される化合物は、オンジの抽出エキスからシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどにより単離して得られた、ChAT発現およびNGF産生促進作用を有する、オンジサポニンと称される化合物である(摘記(5b)及び(5c))。そして、甲5の実施例1?6には、上記オンジサポニンを含む固形医薬組成物である錠剤、顆粒剤、カプセル剤が記載されている(摘記(5h)?(5m))。
ここで、一般に、医薬品製剤の分野における「エキス剤」とは、通例、粗末とした生薬に適当な浸出剤を加えて浸出した浸出液を、ろ過し、適当な方法で濃縮又は乾燥して得られたものであり、主成分含量の規定があるものは、その一部をとり、定量し、必要に応じて適当な賦形剤を加えて、規定の含量に調節することは、技術常識である(要すれば「第十四改正 日本薬局方 2001年3月30日、「製剤総則 4.エキス剤」の項目を参照。)。 一方、本件特許明細書には、本件特許発明のオンジエキスの具体的な抽出条件を特定する記載はないが、オンジの抽出エキスからさらに単離したChAT発現およびNGF産生促進作用を有する特定の化合物を本件特許発明のオンジエキスとして用いることは記載されていない。
そうすると、仮に、本件特許発明3のオンジエキスが甲5のオンジサポニンを含むとしても、当該オンジエキスが甲5のオンジサポニン以外の化合物も含むことは明らかであり、甲5のオンジサポニンは本件特許発明3のオンジエキスには相当しないのであるから、甲5には、オンジ単味生薬エキス製剤、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」及びその解決手段についての記載はない。
また、甲5の実施例1の錠剤(摘記(5h))や実施例4の顆粒剤(摘記(5i))は、カルボキシメチルセルロースカルシウム(本件特許発明3の(C)成分)及び軽質無水ケイ酸(本件特許発明3の(B)成分)を含む固形医薬組成物であるが、甲5の実施例2の錠剤(摘記(5j))及び実施例3の錠剤(摘記(5k))は「軽質無水ケイ酸」を含まず、実施例5の顆粒剤(摘記(5l))は「カルボキシメチルセルロース」及び「軽質無水ケイ酸」を含まず、実施例6のカプセル剤(摘記(5m))は「カルボキシメチルセルロース」を含まないのであるから、「カルボキシメチルセルロースカルシウム」及び「軽質無水ケイ酸」は、あくまでも通常用いられる結合剤(摘記(5f)及び流動性促進剤(摘記(5g))の一例として用いられた成分にすぎず、甲5には、これらの成分が「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」の解決手段になるという記載はなく、そのような技術常識があるともいえない。

(1-4-7)甲6(特開2014-166994号公報)には、一般に漢方エキスの変色の原因はエキスの高い吸湿性にあると考えられており(摘記(6b))、漢方エキスを配合した製剤における吸湿による変色を抑制する方法として種々の医薬品添加剤を配合することが記載されている(摘記(6c))。
しかし、甲6には、漢方エキス製剤として「防已黄耆湯、葛根湯、葛根湯加川キュウ辛夷、・・・六君子湯および越婢加朮湯からなる群から選択される少なくとも1種の漢方エキス」という複数種の生薬エキスを含む製剤は記載されているが(摘記(6a)の【請求項2】)、単味生薬エキス製剤は記載されていない。
また、甲6には、漢方エキス製剤の吸湿による変色を抑制するという課題の解決手段として「ポリ酢酸ビニル」を用いることが記載されており(摘記(6a)及び(6d))、当該解決手段として本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分を用いることは記載されていない。
このように、甲6には、オンジ単味生薬エキス製剤、上記(1-4-1)で説示した「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」及びその解決手段についての記載はない。

(1-4-8)甲7(特開昭55-92313号公報)には、サポニン粉末が示す強い吸湿性によってサポニンが「だんご」の状態になりやすく、サポニンが空気に触れて変質しやすいので、このような変質を防止するという課題が記載されている(摘記(7c)及び(7d))。
しかし、甲7には、サポニンとして具体的にシヤボンの木(学名quillayae saponin)から得られたサポニンやradix saponariaから得られたジプソフイラサポニン等が記載されているが(摘記(7b))、オンジサポニンは記載されていない。そして、甲7には、上記課題を、サポニンをペレットグラニュール製品にすることにより解決したことが記載されているが(摘記(7a)?(7d))、本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分を用いて解決することは記載されていない。
このように、甲7には、オンジ単味生薬エキス製剤、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」及びその解決手段についての記載はない。

(1-4-9)甲8(特開2010-111589号公報)には、アルコルビン酸の配合により生じるクレマスチンフマル酸塩を含有する固形製剤の褐変を抑制するという課題を解決するために「含水二酸化ケイ素」(本件特許発明3の(B)成分)が好適に用いられることが記載され(摘記(8a)及び(8b))、実施例では「含水二酸化ケイ素」及び「クロスカルメロースナトリウム」(本件特許発明3の(C)成分)が用いられている(摘記(8d))。
しかし、甲8には、オンジ単味生薬エキス製剤、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」及びその解決手段についての記載はない。
甲8の「含水二酸化ケイ素」及び「クロスカルメロースナトリウム」は、あくまでも、クレマスチンフマル酸塩及びアルコルビン酸を含有する特定の固形医薬組成物が有する課題の解決手段として記載されており、これらの成分が「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」の解決手段になるという記載はなく、そのような技術常識があるともいえない。

(1-4-10)甲1?甲8に記載された事項及び技術常識から、相違点2が容易想到であるといえるのか否かについて

甲1及び甲2には、オンジ単味生薬エキス製剤は記載されているが、(1-4-1)で説示した「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」及びその解決手段の記載はない。
一方、甲3(ロキソプロフェンナトリウム又はその水和物とブロムヘキシン塩酸塩が均質に混和された固形製剤)、甲4(サラシアエキス末を含有する固形医薬組成物)、甲6(漢方エキス製剤)、甲7(サポニン粉末)、及び甲8クレマスチンフマル酸塩及びアルコルビン酸を含有する固形医薬組成物)には、いずれも固形医薬組成物の変色抑制という課題が記載されているといえる。
しかし、甲6には、上記課題の解決手段として「ポリ酢酸ビニル」を用いることが記載されており、本件特許発明3の(B)成分または(C)成分を用いることは記載されていない。また、甲3、甲4、甲7及び甲8には、上記課題の解決手段として本件特許発明3の(B)成分または(C)成分を用いることが記載されているが、これらの成分は、あくまでも、甲3、甲4、甲7及び甲8にそれぞれ記載されている特定の固形医薬組成物の変色を抑制するための成分として記載されており、これらの成分が他の固形医薬組成物の変色も抑制できることは記載されておらず、そのような技術常識があるともいえない。
また、甲5(オンジサポニン)の固形医薬組成物で用いられた「カルボキシメチルセルロースカルシウム」(本件特許発明3の(C)成分)及び「軽質無水ケイ酸」(本件特許発明3の(B)成分)は、あくまでも通常用いられる結合剤及び流動性促進剤の一例として用いられた成分である。甲5には、固形医薬組成物の変色抑制という課題及びその解決手段についての記載はなく、そもそも、甲5のオンジサポニンは本件特許発明3のオンジエキスには相当しない。
このように、甲1?甲8のいずれにも、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」の解決手段として本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分を用いることは記載されておらず、そのような技術常識もない。
そうすると、本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分が、医薬製剤の分野で通常用いられる成分であることを考慮しても、医薬製剤分野で通常用いられる成分には多種多様な成分が存在するのであるから(例えば、甲1の摘記(1e)及び(1f)、甲5の摘記(5e)?(5g)を参照。)、甲1発明を固形医薬組成物にする際に、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」を解決する手段として本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分を用いることを、甲1?甲8に記載された事項及び技術常識から当業者が容易に想到しえたとはいえない。

(1-5)以上(1-1)?(1-4)で検討したように、当業者は、甲1?甲8に記載された事項から本件特許発明3を容易に想到しえたとはいえない。

(1-6)本件特許発明1及び本件特許発明2について

本件特許発明1は、本件特許発明3の(C)成分をカルメロースカルシウム(カルボキシメチルセルロースカルシウム)に特定し、さらに(A)成分(オンジエキス)、(B)成分及び(C)成分の含有量をそれぞれ特定するものであるので、本件特許発明1と甲1発明とは、上記(1-2)で説示した相違点1及び相違点2を含む点で相違している。
また、本件特許発明2は本件特許発明1の固形医薬組成物をさらに錠剤に特定するものであるので、本件特許発明2と甲1発明とは、上記(1-2)で説示した相違点1及び相違点2を含む点で相違している。
よって、本件特許発明3と同様に、当業者は、甲1?甲8に記載された事項から、本件特許発明1及び本件特許発明2を容易に想到しえたとはいえない。

(2)甲2を主引用例とする進歩性欠如について

(2-1)甲2に記載された発明

甲2(「単味生薬のエキス製剤の開発に関するガイドライン」)は、単味生薬、すなわち複数の組み合わせとしてではなく、単独で利用される場合の生薬のエキス製剤について、単味生薬のエキス製剤の開発を行うに当たって、標準煎剤と生薬エキスとの同等性を確認するための比較試験方法や一般用エキス製剤の製造販売承認申請において設定すべき生薬エキスの製造方法、規格及び試験方法等に関する事項を示すものである(摘記(2a)及び(2b))。
そして、甲2には、具体的にオンジ標準煎剤の調製方法(摘記(2c))、及びオンジの単味生薬エキス製剤承認基準(摘記(2e))が記載されているので、甲2には「オンジ単味生薬エキス製剤」の発明(以下、「甲2発明という。」が記載されていると認める。

(2-2)本件特許発明3と甲2発明との対比

本件特許発明3と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「オンジ単味生薬エキス製剤」は「生薬成分としてオンジエキスのみを含む固形医薬組成物」に相当するので、両発明は「生薬成分としてオンジエキスのみを含む固形医薬組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)本件特許発明3は、「(B)含水二酸化ケイ素及び軽質無水ケイ酸からなる群から選択される少なくとも一種のケイ酸化合物」及び「(C)カルメロース(カルボキシメチルセルロース)、クロスカルメロースナトリウム(架橋カルメロースナトリウム)、カルメロースカルシウム(カルボキシメチルセルロースカルシウム)、及びカルメロースカリウム(カルボキシメチルセルロースカリウム)から選択されるセルロース化合物」を含むことが特定されているのに対し、甲2発明は、上記(B)成分及び(C)成分を含むことは特定されていない点。
なお、上記相違点は、上記(1-2)で説示した相違点2と同一である。

(2-3)相違点についての判断

上記(1-4-1)で説示したように、本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分は、生薬成分としてオンジエキスのみを含む固形医薬組成物が保存中に吸湿や酸化によって変色することを抑制するという課題の解決手段として用いられた成分である(本件特許明細書の段落【0007】?【0011】)。
しかし、甲2には、オンジエキス以外の成分について、「賦形剤の添加については、エキス剤の性状を担保する目的で適切な賦形剤(デキストリン等)を添加することができる」こと(摘記(2d))は記載されているが、本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分を添加することは記載されておらず、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」及びその解決手段についての記載はない。
そして、上記(1-4-10)で説示したように、甲2及び甲1には、オンジ単味生薬エキス製剤は記載されているが、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」及びその解決手段の記載はなく、甲3?甲8には、オンジ単味生薬エキス製剤、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」及びその解決手段についての記載はない。
そうすると、本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分が、医薬製剤の分野で通常用いられる成分であることを考慮しても、医薬製剤分野で通常用いられる成分には多種多様な成分が存在するのであるから(例えば甲1の摘記(1e)及び(1f)、甲5の摘記(5e)?(5g))、甲2発明において、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」を解決する手段として本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分を用いることを、甲2、甲1、及び甲3?甲8に記載された事項及び技術常識から当業者が容易に想到しえたとはいえない。
よって、当業者は、甲2、甲1、及び甲3?甲8に記載された事項から、本件特許発明3を容易に想到しえたとはいえない。

(2-4)本件特許発明1及び本件特許発明2について

本件特許発明1は、本件特許発明3の(C)成分をカルメロースカルシウム(カルボキシメチルセルロースカルシウム)に特定し、さらに(A)成分(オンジエキス)、(B)成分及び(C)成分の含有量をそれぞれ特定するものであるので、本件特許発明1と甲2発明とは、上記(2-2)で説示した相違点を含む点で相違している。
また、本件特許発明2は本件特許発明1の固形医薬組成物をさらに錠剤に特定するものであるので、本件特許発明2と甲2発明とは、上記(2-2)で説示した相違点を含む点で相違している。
よって、本件特許発明3と同様に、当業者は、甲2、甲1、及び甲3?甲8に記載された事項から本件特許発明1及び本件特許発明2を容易に想到しえたとはいえない。

(3)本件特許発明による効果について

本件特許明細書には、含水二酸化ケイ素及びカルメロースカルシウム(カルボキシメチルセルロースカルシウム)を用いたオンジ単味生薬エキス製剤(実施例4)では、これらの成分を用いない比較例1、カルメロースカルシウムは用いるが含水二酸化ケイ素や軽質無水ケイ酸を用いない比較例2、カルメロースカルシウムを用いず、含水二酸化ケイ素や軽質無水ケイ酸のかわりにメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを用いた比較例3よりも、優れた変色抑制効果が得られたことが記載されている(【0033】?【0035】、【表1】)。
また、本件特許明細書には、含水二酸化ケイ素及びクロスカルメロースナトリウム(架橋カルメロースナトリウム)を用いたオンジ単味生薬エキス製剤(処方例1)、含水二酸化ケイ素及びカルメロースカルシウム(カルボキシメチルセルロースカルシウム)を用いたオンジ単味生薬エキス製剤(処方例2?4、7)、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸及びカルメロースカルシウム(カルボキシメチルセルロースカルシウム)を用いたオンジ単味生薬エキス製剤(処方例8)について、上記実施例と同様に優れた変色抑制効果が得られたことが記載されている(【0036】?【0037】、【表2】)。
そして、上記(1)及び(2)で検討したように、甲1?8のいずれにも、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」、及びその解決手段として本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分を用いることは記載されておらず、そのような技術常識があるともいえないのであるから、本件特許発明による優れた変色抑制効果は、甲1?甲8に記載された事項から当業者が予測できない顕著な効果であるといえる。

(4)申立人1による主張について
申立人1は、上記(1-2)で説示した相違点2(すなわち上記(2-2)で説示した相違点)の容易想到性について、以下の(a)?(c)の主張をしている。

(a)甲6に記載のとおり、漢方エキスを配合した製剤における吸湿の抑制方法として、漢方エキスに種々の医薬品添加剤を配合することは当業者にとって周知の技術常識である。一方、オンジエキスにおいて、甲5に記載のとおり、痴呆症治療薬として有効な成分はサポニンであるところ、甲7に記載のとおり、サポニンに吸湿性があること、及び空気に触れて変質しやすいことも知られていた。
すなわち、単味生薬のエキス製剤の承認申請ガイドラインが公表され(甲2)、単味生薬エキス製剤の開発に当業者が乗り出す中、高齢者の記憶力の改善効果が認められるオンジ単味生薬の製剤化を検討した場合に、当該オンジエキスの有効成分が、変色しやすいサポニンである以上、オンジエキス自体に「変色」が生じ易いことは当業者が当然に事実として認識するものであり、当該オンジエキスの変色の抑制は、当業者にとって当然に課題として認識するものである。

(b)甲3?5、甲8に示すように、本件特許発明3の(B)成分や(C)成分は、いずれも固形医薬組成物の分野において広く使用されている極めて汎用の成分である。
しかも、甲3には、含水二酸化ケイ素や軽質無水ケイ酸((B)成分)を添加することにより、固形医薬製剤の変色が抑制できることが記載されている。
また、甲4には、カルボキシメチルセルロースカルシウム(すなわちカルメロースカルシウム)と二酸化ケイ素((B)成分)を共に配合することにより、サラシア属抽出物を含む組成物の保存安定性が高くなること、特に、変色が抑制され、錠剤に製造に適したものとなることが記載されているので、甲4には、二酸化ケイ素とカルメロースカルシウムを添加することにより、固形エキス製剤の変色を抑制できることが記載されているといえる。ここで、変色抑制において、二酸化ケイ素として、含水二酸化ケイ素が好適であることは、甲8に記載されている。
よって、オンジ単味生薬の製剤化において生じる変色が、上記(B)成分及び(C)成分を含有させることにより抑制できることは、当業者であれば当然に予測できることは明らかである。

(c)甲5には、オンジ抽出エキスから得られた「脳機能改善作用を有するサポニン化合物」を製剤化するに当たり、実際に、カルボキシメチルセルロースカルシウム(すなわちカルメロースカルシウム;(C)成分)と軽質無水ケイ酸((B)成分)とを含む錠剤または顆粒剤を製造した実施例が記載されている。
すなわち、オンジエキスの有効成分を利用した医薬製剤の分野において、軽質無水ケイ酸((B)成分)とカルメロースカルシウム((C)成分)を併用して添加することは、格別の意図なくしても、当然のように行われる当業者の設計事項であり、本件特許発明3の構成要件B及びCは、当業者が極めて容易に採用する構成要件であることは明白である。しかも、当該構成要件を採用した効果も、格別顕著なものとは認められない。

そこで、申立人1による上記(a)?(c)の主張について検討する。
上記(1-4-10)で説示したように、甲1?甲8のいずれにも、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」、及びその解決手段として本件特許発明の(B)成分及び(C)成分を用いることを当業者が認識できるといえる根拠となる記載はなく、そのような技術常識があるともいえない。
そして、本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分は、医薬製剤の分野で通常用いられる成分であるが、医薬製剤分野で通常用いられる成分には多種多様な成分が存在するのであるから(例えば甲1の摘記(1e)及び(1f)、甲5の摘記(5e)?(5g))、甲1?甲8の記載から、上記(B)成分または(C)成分が、本件特許発明のような単味生薬エキス製剤で格別の意図なくしても当然に用いられる成分であるとはいえず、そのような技術常識があるともいえない。
そうすると、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」を解決する手段として本件特許発明の(B)成分及び(C)成分を用いること、または、格別の意図なくしても本件特許発明の(B)成分及び(C)成分を用いることを、甲1?甲8に記載された事項及び技術常識から当業者が容易に想到しえたとはいえない。
また、上記(3)で説示したように、本件特許発明による優れた変色抑制効果は、甲1?甲8に記載された事項から当業者が予測できない顕著な効果であるといえる。
よって、申立人1による上記(a)?(c)の主張はいずれも認められない。

(5)申立人1による申立理由についての判断のまとめ

以上(1)?(4)のとおりであるから、本件特許発明1?3は、甲1?甲8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。よって、申立人1による申立理由は認められない。

2.申立人2による申立理由についての判断

(1)申立理由2A(甲1’を主引用例とする新規性欠如)についての判断
申立理由2Aは、本件特許発明3は甲1’に記載された発明であるという新規性欠如を主張するものである。なお、甲1’は、申立人1が提出した甲5と同一の刊行物である。

(1-1)甲1’に記載された発明

甲1’(特開平11-43440号公報)には、式(I)?(V)のいずれかで表される化合物を有効成分とする脳機能改善剤(摘記(1’a))が記載され、上記式(I)?(V)のいずれかで表される化合物は、オンジの抽出エキスからシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどにより単離して得られたオンジサポニンと称される化合物である(摘記(1’b)及び(1’c))。そして、甲1’の実施例1?6では、上記オンジサポニンを有効成分とする固形医薬組成物に相当する錠剤、顆粒剤、カプセル剤が製造されているので(摘記(1’h)?(1’m))、甲1’には、「オンジの抽出エキスから単離して得られた、式(I)?(V)のいずれかで表されるオンジサポニンを有効成分とする脳機能改善剤である、固形医薬組成物。」の発明(以下、「甲1’発明」という。)が記載されていると認める。

(1-2)本件特許発明3と甲1’発明とを対比すると、本件特許発明3のオンジエキス及び甲1’発明のオンジサポニンはいずれもオンジから抽出された成分であるので、両発明は「生薬成分としてオンジから抽出された成分のみを含む固形医薬組成物。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)本件特許発明3の「オンジから抽出された成分」は「オンジエキス」であるのに対し、甲1’発明の「オンジから抽出された成分」は「オンジの抽出エキスから単離して得られた、式(I)?(V)のいずれかで表されるオンジサポニン」である点。

(相違点2)本件特許発明3は、「(B)含水二酸化ケイ素及び軽質無水ケイ酸からなる群から選択される少なくとも一種のケイ酸化合物」及び「(C)カルメロース(カルボキシメチルセルロース)、クロスカルメロースナトリウム(架橋カルメロースナトリウム)、カルメロースカルシウム(カルボキシメチルセルロースカルシウム)、及びカルメロースカリウム(カルボキシメチルセルロースカリウム)から選択されるセルロース化合物」を含むことが特定されているのに対し、甲1’発明は、上記(B)成分及び(C)成分を含むことが特定されていない点。

(1-3)相違点についての判断

甲1’のオンジサポニンは、オンジの抽出エキスからシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどにより単離して得られた、ChAT発現およびNGF産生促進作用を有する化合物である(摘記(1’b))。
ここで、上記「1.(1)(1-4-6)」で説示したように、本件特許明細書には、本件特許発明のオンジエキスの具体的な抽出条件を特定する記載はないが、オンジの抽出エキスからさらに単離したChAT発現およびNGF産生促進作用を有する特定の化合物を本件特許発明のオンジエキスとして用いることは記載されていないのであるから、甲1’のオンジサポニンは本件特許発明3のオンジエキスには相当しない。
よって、上記相違点1は実質的な相違点である。
そうすると、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明3は甲1’に記載された発明ではない。

(2)申立理由2B(甲1’に基づく進歩性欠如)についての判断
申立理由2Bは、本件特許発明3について、甲1’に記載された発明に基づく進歩性欠如を主張するものである。

(2-1)甲1’に記載された発明

甲1’に記載された発明(甲1’発明)は上記(1-1)で説示したとおりである。

(2-2)本件特許発明3と甲1’発明とを対比した一致点及び相違点は、上記(1-2)で説示したとおりである。

(2-3)相違点についての判断

甲1’には、甲1’発明が、痴呆症治療薬としての脳機能改善剤を開発すべく鋭意検討を行い、ChAT発現およびNGF産生促進作用を有する物質の探索を行ってきた結果、甲1’のオンジサポニンにChAT発現およびNGF産生促進作用があることを見出して完成された発明であることが記載されている(摘記(1’b)の【0008】)。
これに対し、上記「1.(1)(1-4-6)」で説示したように、オンジエキスが甲1’のChAT発現およびNGF産生促進作用を有しない化合物も含むことは明らかであるから、オンジエキスが有するChAT発現およびNGF産生促進作用が、甲1’のオンジサポニンが有する作用と同等以上であるとは言い難く、そのような技術常識があるともいえない。
そして、オンジエキスを含む固形医薬組成物自体は周知であること(要すれば、甲2’(摘記(2’c)の【0032】、甲9’、甲10’,甲11’、及び、申立人1が提出した甲2を参照。)を考慮しても、甲1’発明の有効成分として、甲1’のオンジサポニンに代えて、当該オンジサポニンよりもChAT発現およびNGF産生促進作用が同等以上であるとはいえないオンジエキスを用いる動機づけがあるとはいえない。
よって、当業者は、甲1’の記載から、甲1’発明のオンジサポニンに代えてオンジエキスを用いることを容易に想到しえたとはいえない。
そうすると、相違点2について検討するまでもなく、当業者は、甲1’の記載から本件特許発明3を容易に想到しえたとはいえない。

(2-4)本件特許発明による効果について

本件特許発明による効果は、上記「1.(3)」で説示したとおりであり、本件特許発明による変色抑制効果は、甲1’に記載された事項から当業者が予測できない顕著な効果であるといえる。

(2-5)以上(2-1)?(2-4)のとおりであるから、本件特許発明3は、甲1’に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)申立理由2C(甲1’?甲10’に基づく進歩性欠如)についての判断
申立理由2Cは、本件特許発明3について、甲1’を主引用例とする、甲1’?10’に記載された事項に基づく進歩性欠如を主張するものである。

甲1’に記載された発明(甲1’発明)は上記(1-1)で説示したとおりであり、本件特許発明3と甲1’発明とを対比した一致点及び相違点は上記(1-2)で説示したとおりである。
そして、上記(2)の(2-3)で説示したように、オンジエキスを固形医薬組成物の有効成分として用いることは周知であることを考慮しても、甲1’発明の有効成分として、甲1’のオンジサポニンに代えて、当該オンジサポニンよりもChAT発現およびNGF産生促進作用が同等以上であるとはいえないオンジエキスを用いる動機づけがあるとはいえないので、上記相違点1が、甲1’?甲10’の記載及び技術常識から容易想到であるとはいえない。
そうすると、相違点2について検討するまでもなく、当業者は、甲1’?甲10’の記載から本件特許発明3を容易に想到しえたとはいえない。
また、本件特許発明による効果は、上記「1.(3)」で説示したとおりであり、本件特許発明による変色抑制効果は、甲1’?甲10’に記載された事項から当業者が予測できない顕著な効果であるといえる(なお、甲2’?甲10’に記載された事項については、下記(4)を参照)。
よって、本件特許発明3は、甲1’?甲10’に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(4)申立理由2D(甲11’、及び甲1’?甲10’に基づく進歩性欠如)についての判断
申立理由2Dは、本件特許発明3について、甲11’を主引用例とし、甲1’?11’に記載された事項に基づく進歩性欠如を主張するものである。なお、甲11’は、申立人1が提出した甲1と同一の刊行物である。

(4-1)甲11’に記載された発明

甲11’(韓国公開特許第10-2014-0059532号公報)には、摘記(11’a)及び(11’b)からみて、
「(a)オンジに水及び炭素数1?4の低級アルコールから選択される1種または混合物を添加して、加熱、抽出した後、オンジ抽出物を製造する段階;及び(b)前記段階(a)で得たオンジ抽出物に精製水を添加して希釈した後、限外濾過装置に通過させて限外濾過したオンジ抽出物を得る段階;を含むことを特徴とするアセチルコリン分解酵素阻害用オンジ抽出物の製造方法により製造されたアセチルコリン分解酵素阻害用オンジ抽出物を含む、痴呆予防または治療用薬学的組成物」)の発明(以下、「甲11’発明」という。)が記載されていると認める。

(4-2)本件特許発明3と甲11’発明との対比

甲11’発明の「アセチルコリン分解酵素阻害用オンジ抽出物」及び「痴呆予防または治療用薬学的組成物」は、それぞれ本件特許発明3の「オンジエキス」及び「医薬組成物」に相当するので、本件特許発明3と甲11’発明とを対比すると、両発明は「生薬成分としてオンジエキスのみを含む医薬組成物」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)本件特許発明3では、医薬組成物が「固形医薬組成物」に特定されているのに対し、甲11’発明では医薬組成物が「固形医薬組成物」に特定されていない点。

(相違点2)本件特許発明3は、「(B)含水二酸化ケイ素及び軽質無水ケイ酸からなる群から選択される少なくとも一種のケイ酸化合物」及び「(C)カルメロース(カルボキシメチルセルロース)、クロスカルメロースナトリウム(架橋カルメロースナトリウム)、カルメロースカルシウム(カルボキシメチルセルロースカルシウム)、及びカルメロースカリウム(カルボキシメチルセルロースカリウム)から選択されるセルロース化合物」を含むことが特定されているのに対し、甲11’発明は、上記(B)成分及び(C)成分を含むことが特定されていない点。

(4-3)相違点1についての判断

甲11’には、甲11’発明を錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などの固形製剤に製剤化することが記載されているので(摘記(11’e)及び(11’f))、甲11’発明を「固形医薬組成物」にすることは当業者が当然想到する事項であるといえる。

(4-4)相違点2についての判断

(4-4-1)本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分は、生薬成分としてオンジエキスのみを含む固形医薬組成物が保存中に吸湿や酸化によって変色することを抑制するという課題の解決手段として用いられた成分である(本件特許明細書の【0007】?【0011】)。

なお、以下では、「生薬成分としてオンジエキスのみを含む固形医薬組成物」を「オンジ単味生薬エキス製剤」ともいい、上記(4-4-1)で説示した課題を「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」ともいう。

(4-4-2)甲11’には、甲11’発明の製剤化について、「薬剤の製造に通常使用する適切な担体、賦形剤及び希釈剤をさらに含むことができる」こと(摘記(11’d))、及び「製剤化する場合には、通常用いる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤等の希釈剤または賦形剤を使用して調剤される」こと(摘記(11’f))が記載されているので、当業者は、甲11’発明を「固形医薬組成物」にする際に、賦形剤等を当然に使用するといえる。
しかし、甲11’には、甲11’発明が含むことができる担体、賦形剤及び希釈剤として、セルロース、メチルセルロース、結晶セルロースというセルロース化合物が記載されているが(摘記(11’e))、本件特許発明3の(B)成分である「含水二酸化ケイ素及び軽質無水ケイ酸からなる群から選択される少なくとも一種のケイ酸化合物」、及び(C)成分である「カルメロース(カルボキシメチルセルロース)、クロスカルメロースナトリウム(架橋カルメロースナトリウム)、カルメロースカルシウム(カルボキシメチルセルロースカルシウム)、及びカルメロースカリウム(カルボキシメチルセルロースカリウム)から選択されるセルロース化合物」は記載されておらず、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」及びその解決手段についての記載はない。
そこで、甲11’に記載された事項に加えて、さらに甲1’?甲10’に記載された事項及び技術常識から、甲11’発明を固形医薬組成物にする際に、本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分を用いることを当業者が容易に想到しえたといえるのか否かについて、検討する。

(4-4-3)甲1’(特開平11-43440号公報、申立人1が提出した甲5)には、式(I)?(V)のいずれかで表される化合物を有効成分とする脳機能改善剤(摘記(1’a))が記載され、上記式(I)?(V)のいずれかで表される化合物は、オンジの抽出エキスからシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどにより単離して得られた、ChAT発現およびNGF産生促進作用を有する、オンジサポニンと称される化合物である(摘記(1’b)及び(1’c))。そして、甲1’の実施例1?6では、上記オンジサポニンを有効成分とする固形医薬組成物に相当する錠剤、顆粒剤、カプセル剤が製造されている(摘記(1’h)?(1’m))。
これに対し、上記「1.(1)(1-4-6)」で説示したように、本件特許明細書には、本件特許発明のオンジエキスの具体的な抽出条件を特定する記載はないが、オンジの抽出エキスからさらに単離したChAT発現およびNGF産生促進作用を有する特定の化合物を本件特許発明のオンジエキスとして用いることは記載されていない。そうすると、仮に、本件特許発明3のオンジエキスが甲1’のオンジサポニンを含むとしても、当該オンジエキスが甲1’のオンジサポニン以外の化合物も含むことは明らかであり、甲1’のオンジサポニンは本件特許発明3のオンジエキスには相当しないのであるから、甲1’には、オンジ単味生薬エキス製剤、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」及びその解決手段についての記載はない。
また、甲1’の実施例1の錠剤(摘記(1’h))や実施例4の顆粒剤(摘記(1’i))は、カルボキシメチルセルロースカルシウム(本件特許発明3の(C)成分)及び軽質無水ケイ酸(本件特許発明3の(B)成分)を含む固形医薬組成物であるが、甲1’の実施例2の錠剤(摘記(1’j))及び実施例3の錠剤(摘記(1’k))は「軽質無水ケイ酸」を含まず、実施例5の顆粒剤(摘記(1’l))は「カルボキシメチルセルロース」及び「軽質無水ケイ酸」を含まず、実施例6のカプセル剤(摘記(1’m))は「カルボキシメチルセルロース」を含まないのであるから、「カルボキシメチルセルロースカルシウム」及び「軽質無水ケイ酸」は、あくまでも通常用いられる結合剤(摘記(1’f)及び流動性促進剤(摘記(1’g))の一例として用いられた成分にすぎず、甲1’には、これらの成分が「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」の解決手段になるという記載はなく、そのような技術常識があるともいえない。

(4-4-4)甲2’(特開2014-214125号公報)には、「吸湿性物質、流動化剤及び崩壊剤を含む錠剤の製造方法であって、(1)吸湿性物質を乾式造粒法で造粒する工程、(2)前記工程(1)で得られた造粒物と、流動化剤及び崩壊剤を造粒する工程、及び(3)前記工程(2)で得られた造粒物を打錠する工程、を有することを特徴とする錠剤の製造方法。」(摘記(2’a)の【請求項1】、以下、「製造方法1」という。)、及び「吸湿性物質、流動化剤及び崩壊剤を含む錠剤の製造方法であって、(1)吸湿性物質を乾式造粒法で造粒する工程、(2)前記工程(1)で得られた造粒物と、流動化剤及び崩壊剤を造粒する工程、及び(3)前記工程(2)で得られた造粒物を打錠する工程、を有することを特徴とする錠剤の製造方法であって、工程(2)が、(2-1)前記工程(1)で得られた造粒物と流動化剤とを混合し、これを造粒する前造粒工程、及び(2-2)前記前造粒工程(2-1)で得られた前造粒物に、更に流動化剤と崩壊剤とを混合して混合物を得、次いで該混合物を造粒する仕上げ造粒工程、を有するものである、錠剤の製造方法。」(摘記(2’a)の【請求項2】、以下、「製造方法2」という。)が記載されている。
そして、甲2’には、上記吸湿性物質が、漢方エキス、生薬エキス及び植物抽出物からなる群から選ばれる少なくとも1種の物質であること(摘記(2’a)の【請求項3】)、上記生薬エキスは生薬原末から抽出したエキス末単独でも良いことが記載され(摘記(2’b)の【0030】)、具体例として列挙された多種類の生薬の一つとして「オンジ(遠志)」が記載されている(摘記(2’b)の【0032】)。
さらに、甲2’の実施例には、吸湿性物質として清心蓮子飲乾燥エキスを用いて「製造方法1」または「製造方法2」により製造された錠剤は、同じ成分を用いて従来技術の製造方法により製造された錠剤と比較して、錠剤中の吸湿性物質の含有率が高くても、崩壊性が大きく損なわれず、崩壊時間の遅延やばらつきが有意に抑えられたことが記載されている(摘記(2’e)?(2’k))。
上記のように、甲2’では、「オンジ(遠志)」のエキスは、吸湿性物質である生薬エキスの具体例として列挙された多種類の生薬エキスの一つとして記載されたものにすぎず、甲2’には、オンジエキスを単独で含む製剤すなわちオンジ単味生薬エキス製剤を製造した実施例の記載はない。
また、甲2’には、漢方エキス、生薬エキス等の吸湿性物質の吸湿による錠剤の崩壊性への悪影響を避けるという課題は記載されているが、上記吸湿性物質の吸湿による変色抑制という課題は記載されておらず、吸湿性物質を含む製剤の変色抑制について試験した実施例の記載もないのであるから、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」が記載されているとはいえない。
一方、甲2’には、「流動化剤としては、吸湿性物質(エキス末等)の吸湿による物性変化を抑制できるという理由から、軽質無水ケイ酸、重質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の成分であることが好ましい」ことが記載され(摘記(2’d)の【0055】)、甲2’の実施例では「軽質無水ケイ酸」(本件特許発明3の(B)成分)が用いられている(摘記(2’e)の【0119】)。
また、甲2’には、「崩壊剤としては、より崩壊時間を短縮できるという理由から、カルボキシメチルスターチナトリウム、部分アルファ化デンプン、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びクロスポビドンからなる群から選ばれる少なくとも1種の成分であることが好ましい」ことが記載され(摘記(2’d)の【0058】)、甲2’の実施例では「クロスカルメロースNa」(クロスカルメロースナトリウム:本件特許発明3の(C)成分)が用いられている(摘記(2’e)の【0119】)。
しかし、甲2’には、漢方エキス、生薬エキス等の吸湿性物質の吸湿による錠剤の崩壊性への悪影響を避けるという課題、及びその解決手段として、「製造方法1」または「製造方法2」という特定の製造方法を用いることが記載されているのであって、そもそも、甲2’には「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」が記載されていないのであるから、甲2’に記載の流動化剤が吸湿物質の吸湿による物性変化を抑制するための成分であることを考慮しても、甲2’の記載から、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」の解決手段として、甲2’に記載の流動化剤のうち軽質無水ケイ酸及び/または含水二酸化ケイ素(本件特許発明3の(B)成分)、及び甲2’に記載の崩壊剤のうちクロスカルメロースナトリウム及び/またはカルメロースカルシウム(本件特許発明3の(C)成分)を用いることを、当業者が認識できるとはいえない。

(4-4-5)甲3’(特開2006-22071号公報)には、スターフルーツ果実の水性処理物を含有するCYP3A阻害剤について、当該阻害剤が固形医薬組成物であり、使用することができる結合剤又は崩壊剤としてカルメロース、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、及びクロスカルメロースナトリウム(いずれも本件特許発明3の(C)成分)が記載され、また、使用することができる滑沢剤又は流動性促進剤として含水二酸化ケイ素及び軽質無水ケイ酸(いずれも本件特許発明3の(B)成分)が記載されている(摘記(3’a)?(3’d))。
しかし、甲3’には、オンジ単味生薬エキス製剤、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」及びその解決手段についての記載はない。
甲3’のカルメロース、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、含水二酸化ケイ素及び軽質無水ケイ酸は、あくまでも通常用いられる結合剤又は崩壊剤、若しくは滑沢剤又は流動性促進剤として記載された成分にすぎず、甲3’には、これらの成分が「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」の解決手段になるという記載はなく、そのような技術常識があるともいえない。

(4-4-6)甲4’(国際公開第2012/091090号)には、イブプロフェン、ブチルスコポラミン臭化物及び吸湿性高分子を含有する医薬組成物について、上記医薬組成物が固形医薬組成物であり、上記吸湿性高分子の例としてカルメロース、カルメロースカリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム(本件特許発明3の(C)成分)が記載され、さらに流動化剤の例として軽質無水ケイ酸及び含水二酸化ケイ素(本件特許発明3の(B)成分)が記載されている(摘記(4’a)?(4’e))。
しかし、甲4’には、オンジ単味生薬エキス製剤、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」及びその解決手段についての記載はない。
甲4’の上記吸湿性高分子および流動化剤は、いずれもイブプロフェンとブチルスコポラミン臭化物との相互作用による変色や湿潤等を抑制するという課題の解決手段として用いられた成分として記載されており(摘記(4’b))、甲4’には、これらの成分が「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」の解決手段になるという記載はなく、そのような技術常識があるともいえない。

(4-4-7)甲5’(特開2011-178690号公報、申立人1が提出した甲4と同一の刊行物である。)には、単味生薬エキス製剤に相当するサラシア属植物抽出物を含む組成物について、サラシア属植物抽出物の酸化や吸湿を防止し、組成物を保存安定性を高めるという課題を解決するために、サラシアエキス末を含有する固形医薬組成物に二酸化ケイ素、及びカルボキシメチルセルロースまたはその金属塩を使用したところ、上記組成物の保存安定性が高くなり、特に長期保存による変色および崩壊性低下が抑制されたことが記載されている(摘記(5’a)?(5’i))。
ここで、甲5’には上記「二酸化ケイ素」が「含水二酸化ケイ素」及び/または「軽質無水ケイ酸」であるという記載はなく、「二酸化ケイ素」、「含水二酸化ケイ素」及び「軽質無水ケイ酸」は、医薬品添加剤としては別種類の添加剤として扱われているので(要すれば、「医薬品添加物事典 2007」、日本医薬品添加剤協会、2009年11月6日発行の第2刷、70頁の「含水二酸化ケイ素」の項目、97頁の「軽質無水ケイ酸」、及び201頁の「二酸化ケイ素」の項目を参照。)、甲5’には「カルボキシメチルセルロースまたはその金属塩」(本件特許発明3の(C)成分)を用いることは記載されているが、「含水二酸化ケイ素」及び/または「軽質無水ケイ酸」(本件特許発明3の(B)成分)を用いることが記載されているとはいえない。
仮に、甲5’の「二酸化ケイ素」が「含水二酸化ケイ素」及び/または「軽質無水ケイ酸」を意味するとしても、甲5’には、オンジ単味生薬エキス製剤、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」及びその解決手段についての記載はない。
甲5’の「二酸化ケイ素」及び「カルボキシメチルセルロースまたはその金属塩」は、あくまでも、サラシア属植物抽出物(サラシアエキス末)を含む特定の単味生薬エキス製剤が有する課題の解決手段として記載されており、甲5’には、これらの成分が「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」の解決手段になるという記載はなく、そのような技術常識があるともいえない。

(4-4-8)甲6’(特開2008-208118号公報)には、ツルニンジン属植物抽出物及び多糖類又はその誘導体を含有する混合液を、噴霧乾燥して得られるツルニンジン属植物抽出物含有粉末組成物を含有する固形製剤について、ツルニンジン属植物抽出物の変色を抑制するという課題を解決するために、ツルニンジン属植物抽出物に多糖類又はその誘導体を添加して噴霧乾燥することが記載されている(摘記(6’a)?(6’c))。
ここで、甲6’の実施例6の錠剤(摘記(6’d))は「カルメロースカルシウム」(本件特許発明3の(C)成分)及び「微粒二酸化ケイ素」を含む固形医薬組成物であるが、上記(4-4-7)で説示したように「微粒二酸化ケイ素」、「含水二酸化ケイ素」及び「軽質無水ケイ酸」とは医薬品添加剤としては別種類の添加剤として扱われているので、甲6’には「含水二酸化ケイ素」及び/または「軽質無水ケイ酸」を用いることは記載されていない。
仮に、甲6’の「二酸化ケイ素」が「含水二酸化ケイ素」及び/または「軽質無水ケイ酸」を意味するとしても、甲6’には、オンジ単味生薬エキス製剤、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」及びその解決手段についての記載はない。
そして、甲6’には、ツルニンジン属植物抽出物の変色を抑制するという課題の解決手段として、多糖類又はその誘導体を添加して噴霧乾燥することが記載されているのであって、上記「微粒二酸化ケイ素」及び「カルメロースカルシウム」は、あくまでも通常用いられる添加剤として用いられた成分にすぎず、甲6’には、これらの成分が「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」の解決手段になるという記載はなく、そのような技術常識があるともいえない

(4-4-9)甲7’(「エキス剤の保管について」)には、エキス製剤自体は本来きわめて吸湿性が高く、エキス製剤自体は本来きわめて吸湿性が高く、顆粒剤・細粒剤・粉末を防湿包装を行わない裸状態で放置した場合、とくに高温多湿の状態でなくとも1日以内に変色・ケーキング等の変化を起こす製剤(処方)が多数存在するという一般論が記載されている。
しかし、甲7’には、オンジ単味生薬エキス製剤、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」及びその解決手段についての記載はない。

(4-4-10)甲8’(特開2014-166994号公報、申立人1の甲6と同一の刊行物である。)には、一般に漢方エキスの変色の原因はエキスの高い吸湿性にあると考えられており(摘記(8’b))、漢方エキスを配合した製剤における吸湿による変色を抑制する方法として種々の医薬品添加剤を配合することが記載されている(摘記(8’c))。
しかし、甲8には、漢方エキス製剤として「防已黄耆湯、葛根湯、葛根湯加川キュウ辛夷、・・・六君子湯および越婢加朮湯からなる群から選択される少なくとも1種の漢方エキス」という複数種の生薬エキスを含む製剤は記載されているが(摘記(8’a)の【請求項2】)、単味生薬エキス製剤は記載されていない。
また、甲8’には、漢方エキス製剤の吸湿による変色を抑制するという課題の解決手段として「ポリ酢酸ビニル」を用いることが記載されており(摘記(8’a)及び(8’d))、当該解決手段として本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分を用いることは記載されていない。
このように、甲8’には、オンジ単味生薬エキス製剤、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」及びその解決手段についての記載はない。

(4-4-11)甲9’(ロート加味帰脾湯錠の添付文書)には、ロート加味帰脾湯錠と称される、オンジを含む複数種の生薬エキスを含み、さらに二酸化ケイ素を含む漢方エキス製剤が記載され、当該製剤が湿気により変色など品質に影響を与えることがあることが記載されている。
しかし、上記(4-4-7)で説示したように「二酸化ケイ素」と「含水二酸化ケイ素」及び「軽質無水ケイ酸」は、医薬品添加剤としては別種類の添加剤として扱われているので、甲9’には「含水二酸化ケイ素」及び/または「軽質無水ケイ酸」は記載されていない。
仮に、甲9’の「二酸化ケイ素」が「含水二酸化ケイ素」及び/または「軽質無水ケイ酸」を意味するとしても、甲9’には、オンジ単味生薬エキス製剤、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」及びその解決手段についての記載はないのであるから、甲9’の記載から、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」の解決手段として「含水二酸化ケイ素」及び/または「軽質無水ケイ酸」を用いることを、当業者が認識できるとはいえない。

(4-4-12)甲10’(JPS加味帰脾湯エキス錠Nの添付文書)には、JPS加味帰脾湯エキス錠Nと称される、日局オンジを含む複数種の生薬エキスを含み、さらに無水ケイ酸を含む漢方エキス製剤が記載され、当該製剤が水分により変色することがあることが記載されている。
しかし、医薬品添加剤として用いられる「無水ケイ酸」には「軽質無水ケイ酸」と「重質無水ケイ酸」の二種類が存在するので(要すれば、「医薬品添加物事典 2007」、日本医薬品添加剤協会、2009年11月6日発行の第2刷、97頁の「軽質無水ケイ酸」の項目、及び134頁の「重質無水ケイ酸」の項目を参照。)、甲10’の「無水ケイ酸」が本件特許発明3の(B)成分である「軽質無水ケイ酸」を意味するのか否かは不明であるから、甲10’に「軽質無水ケイ酸」が記載されているとはいえない。
仮に、甲10’の「無水ケイ酸」が「軽質無水ケイ酸」を意味するとしても、甲10’には、オンジ単味生薬エキス製剤、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」及びその解決手段についての記載はないのであるから、甲10’の記載から、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」の解決手段として「軽質無水ケイ酸」を用いることを、当業者が認識できるとはいえない。

(4-4-13)甲1’?甲11’に記載された事項及び技術常識から、相違点2が容易想到であるといえるのか否かについて

甲11’には、オンジ単味生薬エキス製剤が記載されているが、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」及びその解決手段は記載されていない。
甲4’(イブプロフェン及びブチルスコポラミン臭化物を含有する医薬組成物)、甲5’(サラシアエキス末を含有する固形医薬組成物)、甲6’(ツルニンジン属植物抽出物含有粉末組成物)、甲7’(エキス剤の保管について)、甲8’(漢方エキス製剤)、甲9’(ロート加味帰牌湯錠の添付文書)及び甲10’(JPS加味帰牌湯エキス錠Nの添付文書)には、いずれも固形医薬組成物の変色抑制という課題が記載されている。
しかし、上記課題の解決手段として、甲6’にはツルニンジン属植物抽出物に多糖類又はその誘導体を添加して噴霧乾燥することが記載され、甲8’には「ポリ酢酸ビニル」を用いることが記載されているが、甲6’、甲7’、甲8’、甲9’及び甲10’には、上記課題の解決手段として本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分を用いることは記載されていない。
甲4’及び甲5’には、上記課題の解決手段として、本件特許発明3の(B)成分及び/または(C)成分が記載されているが、これらの成分は、あくまでも、甲4’及び甲5’にそれぞれ記載されている特定の固形医薬組成物の変色抑制という課題の解決手段として記載されており、これらの成分が他の固形医薬組成物の変色も抑制できることは記載されておらず、そのような技術常識があるともいえない。
また、甲3’(スターフルーツ果実の水性処理物を含有するCYP3A阻害剤)に記載のカルメロース、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム及びクロスカルメロースナトリウム(本件特許発明3の(C)成分)、含水二酸化ケイ素及び軽質無水ケイ酸(本件特許発明3の(B)成分)は、あくまでも通常用いられる結合剤又は崩壊剤、若しくは滑沢剤又は流動性促進剤として記載された成分にすぎず、固形医薬組成物の変色抑制という課題の解決手段として記載された成分ではない。
そして、甲1’(オンジサポニン)の固形医薬組成物で用いられた「カルボキシメチルセルロースカルシウム」(本件特許発明3の(C)成分)及び「軽質無水ケイ酸」(本件特許発明3の(B)成分)は、あくまでも通常用いられる結合剤及び流動性促進剤の一例として用いられた成分にすぎず、固形医薬組成物の変色抑制という課題を解決する手段として用いられた成分ではなく、そもそも、甲1’のオンジサポニンと本件特許発明3のオンジエキスは異なる成分である。
さらに、甲2’には、吸湿性物質である生薬エキスの具体例として列挙された多種類の生薬エキスの一つとして、「オンジ(遠志)」のエキスが記載されているが、甲2’には、漢方エキス、生薬エキス等の吸湿性物質の吸湿による錠剤の崩壊性への悪影響を避けるという課題の解決手段として、「製造方法1」または「製造方法2」という特定の製造方法を用いることが記載されているのであって、そもそも、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」は記載されていないのであるから、甲2’に記載の流動化剤が吸湿物質の吸湿による物性変化を抑制するための成分であることを考慮しても、当業者が、甲2’の記載から、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」の解決手段として、甲2’に記載の流動化剤のうち軽質無水ケイ酸及び/又は含水二酸化ケイ素(本件特許発明3の(B)成分)、及び甲2’に記載の崩壊剤のうちクロスカルメロースナトリウム及び/又はカルメロースカルシウム(本件特許発明3の(C)成分)を用いることを、認識できるとはいえない。
このように、甲1’?甲11’のいずれにも、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」の解決手段として本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分を用いることは記載されておらず、そのような技術常識があるともいえない。そして、本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分が、医薬製剤の分野で通常用いられる成分であることを考慮しても、医薬製剤分野で通常用いられる成分には多種多様な成分が存在するのであるから(例えば、甲11’の摘記(11’e)及び(11’f)、甲1’の摘記(1’e)?(1’g)、甲2’の摘記(2d’)、甲3’の摘記(3’c)及び(3’d)、甲4’の摘記(4’d)及び(4’e)を参照。)、甲11’発明を固形医薬組成物にする際に、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」を解決する手段として本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分を用いることを、甲11’、甲1’?甲10’に記載された事項及び技術常識から当業者が容易に想到しえたとはいえない。
よって、本件特許発明3は、甲1’?甲11’に記載された事項から、当業者が容易に想到しえたものであるとはいえない。

(4-5)本件特許発明による効果について

本件特許発明による効果は、上記「1.(3)」で説示したとおりであり、本件特許発明による変色抑制効果は、甲1’?甲11’に記載された事項から当業者が予測できない顕著な効果であるといえる。

(4-6)申立人2による主張について
申立人2は、上記(4-4)で説示した相違点2の容易想到性について、以下の(a')?(c')の主張をしている。

(a')(B)成分として特定されたケイ酸化合物や(C)成分として特定されたセルロース化合物はいずれも、固形医薬組成物の分野において広く使用されている汎用の不活性成分である(甲1’?甲4’)。
更に、生薬エキスを1種類のみ配合した固形医薬組成物において、二酸化ケイ素等のケイ酸化合物とカルメロースカルシウム等のセルロース化合物とを組み合わせて使用することも、甲1’、甲5’及び甲6’に記載されるように本件の出願前から知られていたことである。
したがって、甲11’発明において、含水二酸化ケイ素及び軽質無水ケイ酸からなる群から選択される少なくとも一種のケイ酸化合物や、カルメロース(カルボキシメチルセルロース)、クロスカルメロースナトリウム(架橋カルメロースナトリウム)、カルメロースカルシウム(カルボキシメチルセルロースカルシウム)、及びカルメロースカリウム(カルボキシメチルセルロースカリウム)から選択されるセルロース化合物を含めることは、当業者にとり格別困難なことではない。

(b')生薬エキス製剤の分野において、変色は本件の出願前から広く知られていた課題であるし(例えば、甲7’の第17頁左欄第12?17行、甲8’の【0002】?【0003】)、オンジエキスを含む固形医薬組成物が変色を起こすことも、本件の出願前から知られていたことである(甲9’の【保管及び取扱い上の注意】、甲10’の〔保管及び取扱い上の注意〕)。
してみれば、オンジエキスを含む固形医薬組成物を製造する際に、固形医薬組成物の変色を確認すべきであることも、当業者が容易に想起し得たことである。

(c')本件特許明細書の発明の詳細な説明をみても、本件特許発明3の発明特定事項を満たす実施例は、特定の不活性成分の組み合わせを特定の含有量で組み合わせたただ一点(実施例4)のみであり、本件特許発明3において、成分(B)及び成分(C)の種類を特定したことに格別の効果はない。

そこで、上記主張(a')?(c')について検討する。
上記(4-4-13)で説示したように、甲1’?甲11’のいずれにも、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」、及びその解決手段として本件特許発明の(B)成分及び(C)成分を用いることは記載されておらず、そのような技術常識があるともいえない。
そして、本件特許発明3の(B)成分及び(C)成分は、医薬製剤の分野で通常用いられる成分であるが、医薬製剤分野で通常用いられる成分には多種多様な成分が存在するのであるから、「オンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題」を解決する手段として本件特許発明の(B)成分及び(C)成分を用いることを、甲1’?甲11’に記載された事項及び技術常識から、当業者が容易に想到しえたとはいえない。
また、上記「1.(3)」で説示したように、本件特許発明による優れた変色抑制効果は、実施例4だけではなく、処方例1、2?4、7及び8でも示されており、このような効果は、甲1’?甲11’に記載された事項から当業者が予測できない顕著な効果であるといえる。
よって、申立人2による上記(a')?(c')の主張はいずれも認められない。

(4-7)以上(4-1)?(4-6)のとおりであるから、本件特許発明3は、甲1’?甲11’に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)申立理由2E(特許法第36条第6項:サポート要件)及び申立理由2F(特許法第36条第4項1号:実施可能要件)についての判断

(5-1)申立人2が主張する申立理由2E及び申立理由2Fの要旨は、以下のとおりである。

本件特許発明1?3が解決すべき課題は、本件特許明細書の発明か解決しようとする課題(【0007】)に記載されるように、「変色を抑制し、安定性に優れたオンジエキスを含有する固形医薬組成物を提供すること」にあるが、本件特許明細書に記載された実施例のうち、本件特許発明1?3の発明特定事項を満たす実施例は、実施例4のみである。
したがって、発明が解決すべき課題が解消されているとの一応の推認ができるのは、本件特許発明1?3のうち、オンジエキスを56重量%程度、含水二酸化ケイ素を1重量%程度、カルメロースカルシウムを15重量%程度、結晶セルロースを27重量%程度、ステアリン酸マグネシウムを1重量%程度含む固形医薬組成物についてのみであるところ、本件特許発明1?3では、含水二酸化ケイ素を含むことは任意事項であり必須ではないし、また、結晶セルロースやステアリン酸マグネシウムを含むことも特定されていない。更に、本件特許発明3では、これらの点に加えて,(A)成分、(B)成分、(C)成分の含有量も特定されていない。
ここで、一般に、医薬組成物の安定性は、配合する成分の種類、組み合わせ、及びその配合量に影響を受けると考えられる。
したがって、(1)含水二酸化ケイ素を含むことを必須としておらず、また、結晶セルロースやステアリン酸マグネシウムを含むことも特定されていない本件特許発明1、及び、(1)の点に加えて、(A)成分、(B)成分、(C)成分の含有量すら特定されていない本件特許発明3は、発明の詳細な説明中に発明が解決すべき課題が解決されたことを当業者が認識できる程度に記載されたものとはいえない。また、(1)含水二酸化ケイ素を含むことを必須としておらず、また、結晶セルロースやステアリン酸マグネシウムを含むことも特定されていない本件特許発明1の範囲全体にわたり、また、(1)の点に加えて、(A)成分、(B)成分、(C)成分の含有量すら特定されていない本件特許発明3の範囲全体にわたり、発明が解決すべき課題が解決されていることは、出願時の技術常識を参酌しても、当業者が推認できるものではない。
したがって、発明の詳細な説明は、本件特許発明1?3について、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、また、出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明1?3の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるともいえない。
よって、本件特許発明1?3は、特許法第36条第4項第1号に規定される実施可能要件及び同条第6項第1号に規定されるサポート要件を満たさない。
さらに、申立人2は、本件特許明細書(【0031】?【0034】)の記載に準拠して行った追試結果を提示して、本件特許発明1?3について、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定される実施可能要件及びサポート要件が満たされていないことを主張している。

(5-2)本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された事項
本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」ともいう。)には、本件特許発明による効果について、以下のような記載がある。

「【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0031】
1.オンジエキスの乾燥物の製造方法
本試験例では、以下のようにして取得したオンジエキスの乾燥物を用いた。
5?10mm程度に裁断されたオンジの根の乾燥物2kgに、95℃の水を30kg加え、60分間攪拌抽出した。次いで固液分離し得られた抽出液を、ロータリーエバポレーターを用いて60℃以下で減圧濃縮し、濃縮液をスプレードライすることでオンジエキスの乾燥物500(g)を得た。
【0032】
2.固形医薬組成物の製造方法
前述の通り得られたオンジエキスの乾燥物、ケイ酸化合物(含水ニ酸化ケイ素:「カープレックス#80」(DSLジャパン株式会社製)、軽質無水ケイ酸:「アドソリダー101」(フロイント産業株式会社製)、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム:「ノイシリン」(富士化学工業株式会社製))、セルロース化合物(カルメロースカルシウム:「ECG505」(ニチリン化学工業社製)、結晶セルロース:「セオラスPH-101」(旭化成株式会社製))、及びステアリン酸マグネシウム:「ステアリン酸マグネシウム 植物性」(太平化学産業株式会社製)を後述する表1に従って秤量後に混合し、卓上型標準プレス機(エヌピーシーシステム株式会社製)とそれに対応した臼と杵を用いて5kNの圧力で圧縮成型し、直径9mm、重量300mgの錠剤(比較例1?3、実施例1?5)を得た。以上のように得られた錠剤形態の組成物を以下の試験に供した。表中の各成分の含有量の単位は重量(mg)である。
【0033】
3.試験方法
前記の通りに調製した錠剤形態の組成物(各製剤について6錠ずつ、1錠300mg)を、スクリュー管(「硼珪酸ガラス(褐色 NO.6)」日本電気硝子製)に充填・密閉して、温度50℃・湿度60%の環境下に1週間保存し、保存前後で錠剤の変色具合を確認した。変色具合の評価は、製造直後(保存前)の錠剤と、保存後の錠剤の色差を測定することにより実施した。色差(ΔE*ab)は、コニカミノルタ製の分光測色計CM-700dを用いて測定した。色差の数値が小さいほど、保存後の錠剤と保存前の錠剤の色の差が少ないことを示し、変色抑制効果が高いことを意味する。評価結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示されるように、オンジエキスを含む錠剤において、含水ニ酸化ケイ素または軽質無水ケイ酸を含まない場合には著しく変色したが(比較例1?3)、含水ニ酸化ケイ素を含む場合には変色が顕著に抑制されていた(実施例1?3)。さらに、含水ニ酸化ケイ素に加えてカルメロースカルシウムを含有させた場合(実施例4)には、カルメロースカルシウムを含有しない場合(実施例1)に比べて変色が一層抑制された。また、実施例2の含水ニ酸化ケイ素を、軽質無水ケイ酸に置き換えた場合においてもオンジエキスの変色が有意に抑制された(実施例5)。一方、意外なことに、同じケイ酸化合物であっても、含水ニ酸化ケイ素に代えてメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを用いた場合は、オンジエキスの変色に対する抑制効果は確認されなかった(比較例3)。
【0036】
処方例1?9
前述の通り得られたオンジエキスの乾燥物を用いて、表2に示す処方に従い、下記の各成分を混合し、卓上型標準プレス機(エヌピーシーシステム株式会社製)とそれに対応した臼と杵を用いて5kNの圧力で圧縮成型し、直径9mm、重量300mgの錠剤(処方例1?9)を得た。含水ニ酸化ケイ素:「カープレックス#80」(DSLジャパン株式会社製)、軽質無水ケイ酸:「アドソリダー101」(フロイント産業株式会社製)、カルメロースカルシウム:「ECG505」(ニチリン化学工業株式会社製)、クロスカルメロースナトリウム:「キッコレート ND-200」(ニチリン化学工業株式会社製)、結晶セルロース:「セオラスPH- 101」(旭化成株式会社製)、トウモロコシデンプン:「トウモロコシデンプンST-C」(日澱化学株式会社社製)、ステアリン酸マグネシウム:「ステアリン酸マグネシウム 植物性」(太平化学産業株式会社製)、タルク:「タルク原末「マルイシ」」(丸石製薬株会社製)。得られた医薬組成物は、いずれも前述の実施例と同様に変色の抑制効果に優れていた。表中の各成分の含有量の単位は重量(mg)である。
【0037】
【表2】



上記のように、発明の詳細な説明には、含水二酸化ケイ素及びカルメロースカルシウム(カルボキシメチルセルロースカルシウム)を用いたオンジ単味生薬エキス製剤(実施例4)では、これらの成分を用いない比較例1、カルメロースカルシウムは用いるが含水二酸化ケイ素や軽質無水ケイ酸を用いない比較例2、カルメロースカルシウムを用いず、含水二酸化ケイ素や軽質無水ケイ酸のかわりにメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを用いた比較例3よりも、優れた変色抑制効果が得られたことが記載されている(【0033】?【0035】、【表1】)。
また、本件特許明細書には、含水二酸化ケイ素及びクロスカルメロースナトリウム(架橋カルメロースナトリウム)を用いたオンジ単味生薬エキス製剤(処方例1)、含水二酸化ケイ素及びカルメロースカルシウム(カルボキシメチルセルロースカルシウム)を用いたオンジ単味生薬エキス製剤(処方例2?4、7)、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸及びカルメロースカルシウム(カルボキシメチルセルロースカルシウム)を用いたオンジ単味生薬エキス製剤(処方例8)について、上記実施例と同様に優れた変色抑制効果が得られたことが記載されている(【0036】?【0037】、【表2】)。
そして、上記実施例及び処方例の記載に加えて、さらに、発明の詳細な説明の「【0017】本発明の固形医薬組成物における(A)成分の含有量については、特に制限されないが、例えば40?80重量%、好ましくは50?70重量%が挙げられる。」、「【0021】本発明の固形医薬組成物における(B)成分の含有量については、特に制限されないが、例えば1?20重量%、好ましくは1?15重量%が挙げられる。また、固形医薬組成物を錠剤として調製する場合は、(A)成分を100重量部としたときの(B)成分の含有割合は1?40重量部であることが特に好ましい。」及び「【0024】本発明の固形医薬組成物における(C)成分の含有量については、特に制限されないが、例えば1?20重量%、好ましくは5?15重量%が挙げられる。」という記載を参酌すれば、当業者は、本件特許発明を過度の負担なく実施することができ、本件特許発明によってオンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題を解決できることを認識できるといえる。

(5-3)申立人2が提出した追試結果について

(5-3-1)申立人が提出した追試結果は、本件特許明細書(【0031】?【0034】)の記載に準拠した以下のとおりである。

・オンジエキスの乾燥物(【0031】に相当)を用いた固形医薬組成物の製造方法(【0032】に相当)
オンジエキス、含水二酸化ケイ素(製品名:アドソリダー-102、フロイント産業株式会社製)、軽質無水ケイ酸(製品名:アエロジル200、日本アエロジル株式会社製)、カルメロースカルシウム(製品名E.C.G-505、ニチリン化学工業株式会社製)、結晶セルロース(製品名セオラスPH-101、旭化成ケミカルズ株式会社社製)、ステアリン酸マグネシウム(製品名ステアリン酸マグネシウム、太平化学産業株式会社製)を後述する表に従って秤量後に混合し、卓上錠剤成型機で圧縮成型し、直径9mm、重量300mgの錠剤(1)?(5)を得た。以上のように得られた錠剤形態の組成物を以下の試験に供した。表中の各成分の含有量の単位は重量(mg)である。

・試験方法(【0033】に相当)
前記のとおりに調製した錠剤形態の組成物(各製剤について6錠ずつ、1錠300mg)を、スクリュー管(硼珪酸ガラスNo.6)に充填・密閉して、温度50℃の環境下に1週間保存し、保存前後で錠剤の変色具合を確認した。変色具合の評価は、製造直後(保存前)の錠剤と、保存後の錠剤の色差を測定することにより実施した。色差(△E*ab)は、分光色差計(日本電色工業株式会社製)を用いて測定した。評価結果を以下の表に示す。
表(【0034】に相当)

表中、錠剤(2)処方が、本件特許明細書の【表1】の比較例1と同一の処方である。

・結果
比較例1と同一の処方である錠剤(2)の色差(△E*ab)の結果は「14.64」であり、本件特許明細書の【表1】に記載された比較例1の色差(△E*ab)の結果「14.1」とほぼ同じになっており、上記結果は信頼性のある結果であることが分かる。」

(5-3-2)申立人2は、上記追試結果を示す表によると、錠剤(1)(オンジエキスの含有量が1重量%)では、色差の結果が「0.77」であり、固形医薬組成物中のオンジエキスの含有量が低い場合には、本件特許発明が解決すべき課題がないので、本件特許発明3は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている旨を主張している。
しかし、本件特許発明3は生薬成分としてオンジエキスのみを含む単味生薬エキス製剤であり、オンジエキスの含有量が著しく低い場合は、単味生薬エキス製剤としての有効な薬理作用が得られないことは自明であるし、発明の詳細な説明の「【0017】本発明の固形医薬組成物における(A)成分の含有量については、特に制限されないが、例えば40?80重量%、好ましくは50?70重量%が挙げられる。」という記載からみても、当業者であれば、本件特許発明のオンジエキスの含有量として1重量%という著しく低い値は想定されていないことを認識できるといえる。
そうすると、上記追試結果を参酌しても、上記(5-2)で説示したように、当業者は、本件特許発明を過度の負担なく実施することができ、本件特許発明によってオンジ単味生薬エキス製剤の変色抑制という課題を解決できることを認識できるといえる。

(5-4)以上(5-1)?(5-3)のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1?3について、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されており、また、本件特許発明1?3の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるといえるので、本件特許発明1?3は、特許法第36条第4項第1号に規定される実施可能要件及び同条第6項第1号に規定されるサポート要件を満たしているといえる。
よって、申立人2による申立理由2E及び2Fはいずれも認められない。

(6)申立人2による申立理由についての判断のまとめ

以上(1)?(5)のとおりであるから、申立人2による申立理由2A?2Fは、いずれも認められない。

第7 むすび

したがって、申立人1及び申立人2による特許異議申立ての理由及び証拠によって、本件特許の請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-01-15 
出願番号 特願2015-65447(P2015-65447)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 113- Y (A61K)
P 1 651・ 536- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鳥居 福代  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 淺野 美奈
前田 佳与子
登録日 2018-02-09 
登録番号 特許第6286383号(P6286383)
権利者 小林製薬株式会社
発明の名称 固形医薬組成物  
代理人 市川 祐輔  
代理人 重森 一輝  
代理人 城山 康文  
代理人 金山 賢教  
代理人 小野 誠  
代理人 今藤 敏和  
代理人 飯野 陽一  
代理人 五味渕 琢也  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 森山 正浩  
代理人 市川 英彦  
代理人 櫻田 芳恵  
代理人 安藤 健司  
代理人 坪倉 道明  
代理人 青木 孝博  
代理人 川嵜 洋祐  

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