• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 発明同一  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1348736
異議申立番号 異議2018-700795  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-02 
確定日 2019-02-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6310043号発明「液晶ポリエステル組成物ペレット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6310043号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6310043号に係る出願(特願2016-232969号、以下「本願」という。)は、平成24年2月17日(優先権主張:平成23年2月28日、特願2011-41474号)に出願人住友化学株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願(特願2012-32524号、以下「原出願」という。)の一部を平成28年11月30日に新たに特許出願したものであり、平成30年3月23日に特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、平成30年4月11日に特許掲載公報が発行されたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき平成30年10月2日に特許異議申立人田中芳栄(以下「申立人1」という。)により、「特許第6310043号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許を取り消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てが、また、同年10月4日に特許異議申立人藤江桂子(以下「申立人2」という。)により、「特許第6310043号の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された発明についての特許を取り消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てが、それぞれされた。(以下、各人からの申立てをそれぞれ「申立て1」及び「申立て2」ということがある。)

第2 申立人が主張する取消理由
各申立人が主張する取消理由はそれぞれ以下のとおりである。

1.申立人1の取消理由
申立人1は、同人が提出した本件異議申立書(以下、「申立書1」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第4号証を提示し、具体的な取消理由として、概略、以下の(1)ないし(4)が存するとしている。

(1)本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明に基づき、甲第2号証に記載された事項を組み合わせることによって、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は特許法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1-1」という。)
(2)本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、いずれも本願に係る原出願の出願日前の他の特許出願であって原出願の出願日後に出願公開された甲第3号証の出願に係る願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載された発明と同一であって、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1-2」という。)
(3)本件特許の請求項1ないし10に関して、同各項の記載が不備であり、請求項1ないし10の各記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないから、請求項1ないし10に係る発明についての特許は、いずれも特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1-3」という。)
(4)本件特許の請求項1ないし10に係る発明に関して、本件特許に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載が不備であり、各請求項に係る発明を当業者が実施することができるように記載されておらず、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていないから、請求項1ないし10に係る発明についての特許は、いずれも特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1-4」という。)

・申立人1提示の甲号証
甲第1号証:特開2009-242454号公報
甲第2号証:特開2007-99786号公報
甲第3号証:特願2012-506032号(国際公開第2012/117475号に係る再公表公報)
甲第4号証:特願2011-41474号(本願に係る原出願の優先権主張の基礎となる特許出願)の願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲
(以下、上記「甲第1号証」ないし「甲第4号証」をそれぞれ「甲1-1」ないし「甲1-4」と略していう。)

2.申立人2の取消理由
申立人2は、同人が提出した本件異議申立書(以下、「申立書2」という。)において、下記甲第1号証及び甲第2号証を提示し、具体的な取消理由として、概略、以下の(1)及び(2)が存するとしている。

(1)本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、いずれも、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないか、甲第1号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、いずれにしても本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由2-1」という。)
(2)本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明に甲第2号証に記載された事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、その特許は特許法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由2-2」という。)

・申立人2提示の甲号証
甲第1号証:特開2009-242454号公報
甲第2号証:特開2008-239950号公報
(以下、上記「甲第1号証」及び「甲第2号証」をそれぞれ「甲2-1」ないし「甲2-2」と略していう。)

第3 本件特許に係る請求項に記載された事項
本件特許に係る請求項1ないし10には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
液晶ポリエステル100質量部と、数平均繊維径が5?15μmであって数平均アスペクト比が20?40である繊維状充填材および板状充填材の合計65?100質量部並びに任意成分として繊維状充填材および板状充填材以外の充填材である粒状充填材を20質量部以下と、を充填材として含有し、繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)が1.0を超え1.6以下である液晶ポリエステル組成物ペレット。
【請求項2】
液晶ポリエステルが、下式(1)で表される繰返し単位と、下式(2)で表される繰返し単位と、下式(3)で表される繰返し単位とを含有する液晶ポリエステルである請求項1記載の液晶ポリエステル組成物ペレット:
(1)-O-Ar^(1)-CO-
(2)-CO-Ar^(2)-CO-
(3)-X-Ar^(3)-Y-
(4)-Ar^(4)-Z-Ar^(5)-
式中、Ar^(1)はフェニレン基、ナフチレン基またはビフェニリレン基を表し;Ar^(2)及びAr^(3)はそれぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基または上式(4)で表される基を表し;X及びYはそれぞれ独立に、酸素原子またはイミノ基(-NH-)を表し;Ar^(4)及びAr^(5)はそれぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表し;Zは酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはアルキリデン基を表し;Ar^(1)、Ar^(2)又はAr^(3)に係る水素原子はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。
【請求項3】
Ar^(1)がp-フェニレン基または2,6-ナフチレン基であり、Ar^(2)がp-フェニレン基、m-フェニレン基または2,6-ナフチレン基であり、Ar^(3)がp-フェニレン基または4,4’-ビフェニリレン基であり、X及びYがそれぞれ酸素原子である請求項2記載の液晶ポリエステル組成物ペレット。
【請求項4】
液晶ポリエステルが、式(1)で表される繰返し単位30?80モル%と、式(2)で表される繰返し単位10?35モル%と、式(3)で示される繰返し単位10?35モル%とからなる液晶ポリエステルである請求項2又は3記載の液晶ポリエステル組成物ペレット(これら繰返し単位の合計を100モル%とする)。
【請求項5】
繊維状充填材がガラス繊維、ウォラストナイトウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー及びチタン酸カリウムウィスカーからなる群から選ばれる1つ又は2つ以上の組合せである請求項1?4のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物ペレット。
【請求項6】
板状充填材がマイカ及び/又はタルクである請求項1?5のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物ペレット。
【請求項7】
板状充填材が体積平均粒径10?30μmの板状充填材である請求項1?6のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物ペレット。
【請求項8】
液晶ポリエステル100質量部に対し、さらに粒状充填材5?10質量部を含有する請求項1?7のいずれかに記載の液晶ポリエステル組成物ペレット。
【請求項9】
粒状充填材がガラスビーズである請求項8に記載の液晶ポリエステル組成物ペレット。
【請求項10】
粒状充填材が体積平均粒径5?50μmの粒状充填材である請求項8又は9に記載の液晶ポリエステル組成物ペレット。
(以下、上記請求項1ないし10に係る各発明につき、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明10」といい、併せて「本件発明」と総称することがある。)

第4 当審の判断
当審は、上記申立て1及び申立て2を併合して審理した上で、
申立人1が主張する上記取消理由1-1ないし1-4及び申立人2が主張する上記取消理由2-1及び2-2は、いずれも理由がないものであり、また、
本件の請求項1ないし10に係る発明についての特許を取り消すべきその他の理由も発見できないから、
本件の請求項1ないし10に係る発明についての特許を取り消すことはできないもの、
と判断する。
以下、各取消理由につき検討するにあたり、前提となる本願に係る出願日(原出願の優先権主張の適否)につきまず検討し、引き続き各取消理由につき詳述する。

1.本願の出願日について
申立人1は、申立書1(第54頁?第57頁)において、本願に係る原出願の優先権主張の基礎となる出願の願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲(甲1-4)を提示し、その記載からみて、本件発明に係る「組成物ペレット中の繊維状充填材のアスペクト比が20?40である」点につき記載されておらず、新たな技術的事項を導入したものであり、もって本願に係る原出願の優先権主張は、その効果を有するものではないから、本願の出願日は、優先日(平成23年2月28日)ではなく、原出願の実際の出願日(平成24年2月17日)であるものとして、判断すべきである旨主張している。
そこで、甲1-4の記載を検討すると、甲1-4には、特許請求の範囲において、
「【請求項1】
液晶ポリエステル100質量部に対し、数平均繊維径が5?15μmであり、数平均アスペクト比が100以上である繊維状充填材と、板状充填材とが、合計で65?100質量部配合されてなり、前記板状充填材の配合量(P)に対する前記繊維状充填材の配合量(F)の質量割合(F/P)が、1.0を超え1.6以下である液晶ポリエステル組成物。」
と記載され、明細書の発明の詳細な説明では、
「【0030】
繊維状充填材としては、数平均繊維径が5?15μmであり、数平均アスペクト比(数平均繊維長/数平均繊維径)が100以上であるものを用いる。このように所定値以上の数平均アスペクト比を有する長い繊維状充填材を液晶ポリエステルに配合することにより、成形体のウエルド強度が向上する。繊維状充填材の数平均アスペクト比は、好ましくは200以上であり、また、通常500以下であり、好ましくは400以下である。繊維状充填材の数平均繊維径及び数平均繊維長は、電子顕微鏡で観察することにより測定できる。」
と記載されているのに対して、
「【0031】
なお、液晶ポリエステルに配合された後の液晶ポリエステル組成物中の繊維状充填材は、溶融混練等の配合時の折損により、その数平均アスペクト比が20?40になっていることが好ましい。」
と記載され、さらに、
「【0041】
液晶ポリエステル組成物は、液晶ポリエステル、繊維状充填材、板状充填材及び必要に応じて用いられる他の成分を、押出機を用いて溶融混練し、ストランド状に押し出し、ペレット化することにより調製することが好ましい。押出機としては、シリンダーと、シリンダー内に配置された1本以上のスクリュウと、シリンダーに設けられた1箇所以上の供給口とを有するものが、好ましく用いられ、さらにシリンダーに設けられた1箇所以上のベント部を有するものが、より好ましく用いられる。」
と記載されているのであるから、これらの記載を総合すると、溶融混練等の工程に付す前のポリエステル組成物中に含有される配合原料としての繊維状充填材につき数平均アスペクト比100以上のものを使用するが、溶融混練等の工程を経て成形されるポリエステル組成物ペレット中に含有される繊維状充填材については、数平均アスペクト比が20?40になることが好ましいことが具体的に記載されているものと理解するのが自然である。
してみると、「液晶ポリエステル組成物ペレット」に係る本件発明において、「組成物ペレット中の繊維状充填材のアスペクト比が20?40である」と規定することは、優先権主張の基礎となる出願の明細書及び特許請求の範囲(甲1-4)に記載された事項を総合することにより導かれる技術的事項に対して、新たな技術的事項を導入するものということはできない。
したがって、申立人1の上記本願に係る原出願の優先権主張に係る主張は、当を得ないものであり、採用することができない。
そして、当該原出願の一部を新たな特許出願としてなる本願につき、その出願の分割が不適法であるとすべき理由も存するものではないから、本願に係る発明の特許性等の判断においても、原出願の優先日である平成23年2月28日に出願されたものとみなして判断すべきものである。
よって、以下の各取消理由に係る判断においては、本願が上記優先日に出願されたものとみなして、判断を行う。

2.各取消理由についての検討
以下の各取消理由につき検討するが、事案に鑑み、まず、取消理由1-2につき検討し、取消理由1-3、取消理由1-4を順次検討した後、申立人1の取消理由1-1並びに申立人2の取消理由2-1及び2-2につき併せて検討を行う。

(1)取消理由1-2について
取消理由1-2は、上記第2の1.(2)に示したとおりであるが、再掲すると、
「本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、いずれも本願に係る原出願の出願日前の他の特許出願であって原出願の出願日後に出願公開された甲第3号証の出願に係る願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載された発明と同一であって、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。」
というものである。
しかるに、甲3に係る出願(特願2012-506032号)は、特許法第184条の3の規定により、平成23年12月14日(優先権主張:平成23年2月28日、特願2011-41544号)の国際出願日に出願されたものとみなされる国際特許出願であるところ、当該国際出願日(平成23年12月14日)は、本願に係る優先日(平成23年2月28日)より後であり、甲3に係る出願に係る優先日であっても、本願に係る優先日と同日である。
してみると、甲3に係る出願は、特許法第29条の2に規定の「当該特許出願の日前の他の特許出願」に該当するものではない。
したがって、上記取消理由1-2は、甲3に係る出願の内容につき検討するまでもなく、理由がない。

(2)取消理由1-3について
取消理由1-3は、上記第2の1.(3)に示したとおりであるが、申立書1の記載(第63頁第10行?第64頁第2行)に基づき更に整理すると、【表2】に示された「実施例7」ないし「実施例10」の場合に【表1】に示された「比較例1」又は「比較例5」の場合に比してウエルド部の破壊エネルギーに劣ることをもって、本件発明には、成形品のウエルド部の破壊エネルギーで表されるウエルド強度を改良するという課題を解決できる場合と解決できない場合とが混在し、本件発明につき、明細書の発明の詳細な説明に、発明の解決課題が解決できることを当業者において認識できるように記載していないから、本件発明1及びそれを引用する本件発明2ないし10が、明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでない、というものと認められる。
しかるに、上記【表1】及び【表2】につきそれぞれ検討すると、【表1】では、いずれもペレット中の繊維状充填材の数平均アスペクト比が31?37と高めである実施例1ないし6と比較例1ないし5との間で、ガラス繊維/タルクの比が1.0超1.6以下である実施例1ないし6の場合に、当該比が1.0以下の場合又はタルクを使用しない場合に係る比較例1ないし5の場合に比して、成形品のウエルド部の破壊エネルギーの点で改善されることが看取できるのに対して、【表2】では、いずれもペレット中の繊維状充填材の数平均アスペクト比が20?24と低めである実施例7ないし10と比較例6ないし9との間で、ガラス繊維/タルクの比が1.0超1.6以下の範囲にある実施例7ないし10の場合に、当該比が1.0以下の場合に係る比較例6ないし9の場合に比して、成形品のウエルド部の破壊エネルギーの点で改善されることが看取できるのであり、これらの記載を総合すると、ペレット中の繊維状充填材の数平均アスペクト比が20?40の範囲にあることは前提条件であって、さらに繊維状充填材/板状充填材であるガラス繊維/タルクの比が1.0超1.6以下の範囲にあることの存否により、本件発明の効果である成形品のウエルド部の破壊エネルギーの改善が発現するのか否かが開示されているに過ぎず、当該前提条件の点で異なる【表1】に記載の比較例の成形品のウエルド部の破壊エネルギーの絶対値と【表2】に記載の実施例の当該ウエルド部の破壊エネルギーの絶対値とを直接対比して、本件発明に係る課題解決の可否を論じることは不適当であるというべきである。
なお、念のため、職権により、申立人1が申立書1(第63頁)で示した「平成28年11月13日付意見書に添付された『実験成績証明書(誤記修正版)』」の実験結果を検討すると、当該実験結果は、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例1及び2に対して、前提としてガラス繊維/タルクの比を含む他の条件は同等にした上で繊維状充填材の数平均アスペクト比のみを20?40の範囲外とした実験例1及び2並びに3及び4に係る結果を提示しているものであるから、上記の【表1】及び【表2】の対比の場合と同様に、前提条件が異なる上記実験例1ないし4の場合と【表2】に係る実施例の場合との成形品のウエルド部の破壊エネルギーの絶対値を直接対比して、本件発明に係る課題解決の可否を論じることは不適当であるというべきである。
以上を総合すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件の請求項1に記載された事項を全て具備した場合、いずれかの事項が欠けた場合に比して、成形品のウエルド部の破壊エネルギーで表されるウエルド強度を改良するという課題を解決できる傾向にあることが記載されているものと当業者が認識するであろうと理解するのが自然であって、当該請求項1に記載された事項を全て具備した場合であっても、上記課題を解決できないとすべき事由又は技術常識が存するものとも認められないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明の解決課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しているものというべきである。
よって、上記取消理由1-3に係る申立人1の主張は採用することができず、同人が主張する取消理由1-3は理由がない。

(3)取消理由1-4について
取消理由1-4は、上記第2の1.(4)に示したとおりであるが、申立書1の記載(第64頁第3行?第65頁第16行)に基づき更に整理すると、
(a)「平成28年11月13日付意見書に添付された『実験成績証明書(誤記修正版)』」に示された「実験例1」及び「実験例3」の場合において、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとは異なる、数平均繊維径10μm、数平均繊維長3mmである「ガラス繊維3」を代替使用した場合であっても、本件発明1に係る液晶ポリエステル組成物ペレットを得ることができておらず、また、ペレットの製造条件について繊維状充填材の数平均アスペクト比に影響を与える因子も具体的に記載されていないこと、
(b)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、ウエルド部の破壊エネルギーの3点曲げ試験による測定方法における具体的条件(支点間距離など)につき記載されておらず、当該具体的条件により、測定値が有意に異なり単一の試料であっても一定の測定値を得ることができないこと、
の2点をもって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1ないし10を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない、というものと認められる。
しかるに、上記(a)の点につき検討すると、上記甲1-4(【0031】)にも記載されるとおり、繊維状充填材を含有する熱可塑性樹脂組成物につき溶融混練などを行った場合、混練時又は狭路からの吐出などのせん断力又は圧力の負荷により、繊維状充填材の折損などが生起し、(数平均)アスペクト比が低下することは、他の文献を挙げるまでもなく、当業者の技術常識である。
してみると、本件発明に係るペレットの製造において、溶融混練の速度、温度、時間などの条件につき、必要十分なアスペクト比を有する原料としての繊維状充填材を使用し、ペレットとした時点における所望の(数平均)アスペクト比を有する繊維状充填材となるようにせん断力又は圧力を負荷すべく通常の試行錯誤を行い当該各条件を決定することは、当業者がその技術常識に照らして適宜行うべきことであり、過度の試行錯誤を要求されるものではない。
したがって、上記(a)の点は、本件発明を本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき当業者が実施することを妨げる事項ではない。
次に、上記(b)の点につき検討すると、本件明細書の発明の詳細な説明(【0036】及び【0038】)には、成形品のウエルド部の破壊エネルギーの3点曲げ試験による測定方法が一応記載され、その際の試料成形体の形状などについては記載されているものの、具体的測定条件(支点間距離等)については記載がない。
そして、申立人1が主張するとおり、上記ウエルド部の破壊エネルギーの3点曲げ試験による測定方法における具体的条件(支点間距離等)が変化した場合、単一試料であっても測定値が有意に変化し、一定の値にならないものとは理解される。
しかしながら、上記測定方法において、同一形状の複数の試料間の関係において、測定条件(支点間距離等)に変動があるからといって、同一の測定条件であれば当該測定値の大小関係が逆転するような事態が生起するものとは認められない(すなわち、ある同1条件下で測定したエネルギー値がA>BであるA、Bの2つの同一形状の試料の場合に、他の同1条件下で測定した場合であっても実質的にA>Bの関係を維持するものと理解される。)。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、上記測定方法に係る具体的測定条件(支点間距離等)につき記載されていないからといって、成形品のウエルド部の破壊エネルギーで表されるウエルド強度を改良するという課題を解決できるとの技術的意義を有する本件発明を、当業者が実施することができないとすべきものではない。
したがって、上記(b)の点は、本件発明を本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき当業者が実施することを妨げる事項ではない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明を当業者が実施することができるように、明確かつ十分に記載したものというべきであって、申立人1が主張する上記取消理由1-4についても、理由がない。

(4)取消理由1-1、取消理由2-1及び取消理由2-2について
申立人1が主張する取消理由1-1並びに申立人2が主張する取消理由2-1及び取消理由2-2は、いずれも特許法第29条に違反するというものであり、また、申立人1が提示した甲1-1と申立人2が提示した甲2-1とは、同一の刊行物であるから、以下、併せて検討を行う。(なお、甲1-1と甲2-1については、以下「甲1-1」に統一して表記する。)

ア.各甲号証に記載された事項及び甲1-1に記載された発明
上記のとおり、申立人1が主張する取消理由1-1並びに申立人2が主張する取消理由2-1及び取消理由2-2は、いずれも特許法第29条に違反するというものであるから、当該各理由に係る証拠である甲1-1(甲2-1)、甲1-2及び甲2-2の各記載事項を摘示・確認し、甲1-1に記載された発明を認定する。

(ア)甲1-1について

(a)甲1-1に記載された事項
甲1-1には、以下の各事項が記載されている。(なお、摘示中の下線は当審が付したものである。)

(a1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル100質量部に対して、数平均粒径が10?50μmのタルク15?60質量部、数平均繊維長が100?200μmのガラス繊維25?50質量部、カーボンブラック2?10質量部配合してなり、荷重たわみ温度が220℃以上、せん断速度100sec^(-1)、370℃における溶融粘度が10?100Pa・Sであることを特徴とするカメラモジュール用液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
射出成形により成形した成形品表面からの以下の定義による脱落物数が280個以下であることを特徴とする請求項1記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
脱落物数:外径70mm、内径60mm、高さ0.5mmの円筒の内面に0.3mmピッチ、溝深さ0.2mmのねじ切り構造を有する射出成形体を、純水266mL中で40kHz、480Wの出力にて30秒間超音波洗浄後に、純水10mL中に含まれる最大径が2μm以上の範囲にある粒子の数
【請求項3】
射出成形により成形した成形品のウェルド強度が、30MPa以上であることを特徴とする請求項1または2記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1、2または3のいずれか記載の液晶ポリエステル樹脂組成物から射出成形により製造されたカメラモジュール部品。」

(a2)
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上述べたように従来の液晶ポリマー樹脂組成物からなるカメラモジュールのレンズバレル部材、マウントホルダー部材等で、液晶ポリマー樹脂組成物の持つ良好な物性としての、剛性、耐熱性、薄肉加工性、機械強度を維持しながら、カメラモジュール組立工程中および使用中に、製品合格率および製品性能を低下させる原因となる粉(パーティクル)の発生を制御することは、現在のところ、できていない。
【0007】
本発明は、このような現在未解決であるが、重要な問題を解決しようとするものであり、良好な剛性、耐熱性、薄肉加工性、機械強度をバランスよく有し、しかも、カメラモジュール組立工程中および使用中の粉(パーティクル)の発生量の少ない、カメラモジュール部材に適した液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記問題を解決するため、種々検討した結果、特定粘度範囲の液晶ポリエステル樹脂に特定粒径のタルクを特定量及び特定のガラス繊維を特定量併せ添加することで、射出成形品の表面転写性に優れ、モジュールの組立加工時、使用時において、表面の脱落物の発生が少ない材料を得ることができ、該組成物から形成されたカメラモジュール部材は、組立工程中粉塵の発生が少なく、かつ、ウェルド部分においても充分な機械強度を持つこと、を見出し、本発明に至った。」

(a3)
「【0014】
本発明で用いる液晶ポリエステル樹脂とは、異方性溶融体を形成するものであり、これらの中で、実質的に芳香族化合物のみの重縮合反応によって得られる全芳香族液晶ポリエステルが好ましい。
【0015】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を構成する液晶ポリエステル樹脂の構造単位としては、例えば、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールと芳香族ヒドロキシカルボン酸との組み合わせからなるもの、異種の芳香族ヒドロキシカルボン酸からなるもの、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの組み合わせからなるもの、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させたもの等が挙げられ、具体的構造単位としては、例えば下記のものが挙げられる。
【0016】
芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位:
【化1】


【0017】
芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位:
【化2】


【0018】
芳香族ジオールに由来する繰り返し構造単位:
【化3】




【0019】
耐熱性、機械的物性、加工性のバランスの観点から、好ましい液晶ポリエステル樹脂は、上記構造単位(A1)を30モル%以上有するもの、更に好ましくは(A1)と(B1)をあわせて60モル%以上有するものである。
【0020】
特に好ましい液晶ポリエステルは、p-ヒドロキシ安息香酸(I)、テレフタル酸(II)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(III)(これらの誘導体を含む。)を80?100モル%(但し、(I)と(II)の合計を60モル%以上とする。)、および、(I)(II)(III)のいずれかと脱縮合反応可能な他の芳香族化合物0?20モル%を重縮合してなる融点320℃以上の全芳香族液晶ポリエステル、または、p-ヒドロキシ安息香酸(I)、テレフタル酸(II)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(III)(これらの誘導体を含む。)を90?99モル%(但し、(I)と(II)の合計を60モル%以上とする。)、および、(I)(II)(III)と脱縮合反応可能な他の芳香族化合物1?10モル%(両者をあわせて100モル%とする。)を重縮合してなる融点320℃以上の全芳香族液晶ポリエステルである。
【0021】
上記構造単位の組み合わせとしては、
(A1)
(A1)、(B1)、(C1)
(A1)、(B1)、(B2)、(C1)
(A1)、(B1)、(B2)、(C2)
(A1)、(B1)、(B3)、(C1)
(A1)、(B1)、(B3)、(C2)
(A1)、(B1)、(B2)、(C1)、(C2)
(A1)、(A2)、(B1)、(C1)
が好ましく、特に好ましいモノマー組成比としては、p-ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(これらの誘導体を含む。)を80?100モル%と、これら以外の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸からなる群から選択される芳香族化合物0?20モル%(両者を合わせて100モル%とする。)とを重縮合してなる全芳香族液晶ポリエステル樹脂である。p-ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸4,4’-ジヒドロキシビフェニルが80モル%以下になると、耐熱性が低下する傾向にあり、好ましくない。」

(a4)
「【0027】
<タルクについて>
本発明に用いるタルクは、樹脂組成物を構成する材料として使用されている公知のタルクであれば化学組成上、特別な制限は無い。
ただし、理論上の化学構造は含水ケイ酸マグネシウムであるが、特に天然物である場合は、酸化鉄、酸化アルミニウム等の不純物を含むことがあり、タルクに含有される不純物の合計が、10質量%未満であるタルクが本発明に用いるタルクとしては、好ましい。
本発明においては、鱗片状でなめらかな物理的形状が剛性、低摩耗性に係る特性バランスに関与していると考えるが、これらのバランスが最も効果的に発揮できるのは、レーザー回折法による数平均粒径が10?50μmの範囲の範囲にあるものである。10μm未満であると、コンパウンド時のハンドリングが難しく、かつ、成形品表面からの脱落物が多くなる。また、50μmを超えると、成形品中での分散性が悪くなると共に、その表面が粗くなり、成形品表面からの脱落物が多くなる。このため、平均粒径としては、10?50μmであることが好ましい。
タルク、及びガラス繊維を必須材料として共に配合する本発明の場合、ガラス繊維配合量とのバランスにもよるが、タルクの配合量としては、液晶ポリエステル100質量部に対して15?60質量部の範囲が好ましい。タルクの配合量が60質量部を超えると、本発明組成物から得られる成形品の強度及び耐衝撃性が低下する。また、タルクの配合量が、15質量部未満の場合は、配合効果が不十分であり、表面転写性の改善による成形品表面からの脱落物低減という本発明の目的を達成することができない。
【0028】
<ガラス繊維について>
本発明に用いるガラス繊維としては、樹脂組成物を構成する材料として使用されている公知のガラス繊維であり、その数平均繊維径には特に制限はないが8μmを超えるものが好ましい、数平均繊維長は、100?200μmであることが好ましい。タルク配合量とのバランスにもよるが、数平均繊維長が、100μm以上であれば、比較的少ない配合量で、強度や弾性率を向上させることができるため、タルク、及びガラス繊維を必須材料として共に配合する本発明の場合には、これらの成形品中での均一分散性のため好ましいが、200μmを超えると、その表面が粗くなり、表面転写性の改善による成形品表面からの脱落物低減という本発明の目的を達成することができないばかりか、流動性、耐熱性の改良効果が不十分となる。
タルク、及びガラス繊維を必須材料として共に配合する本発明の場合、タルク配合量とのバランスにもよるが、ガラス繊維の配合量としては、液晶ポリエステル100質量部に対して25?50質量部の範囲が好ましい。ガラス繊維の配合量が25質量部未満の場合は、強度や耐熱性の改良効果が不十分であり、ガラス繊維の配合量が60質量部を超えると場合は、その表面が粗くなり、表面転写性の改善による成形品表面からの脱落物低減という本発明の目的を達成することができない。」

(a5)
「【0031】
本発明に係る液晶ポリエステル樹脂組成物は液晶ポリエステルを溶融して他の成分と混練して得られるが、溶融混練に用いる機器および運転方法は、一般に液晶ポリエステルの溶融混練に使用するものであれば特に制限はない。
好ましくは、一対のスクリュをする混練機で、ポッパーから液晶ポリエステル、タルクおよび(ペレット状)カーボンブラックを投入し、溶融混練し押し出してペレット化する方法が好ましい。
これらは、2軸混練機と呼ばれるもので、これらの中でも、切り替えし機構を有することで充填材の均一分散を可能とする異方向回転式であるもの、食い込みが容易となるバレル-スクリュウ間の空隙が大きい40mmφ以上のシリンダー径を有するもの、2条タイプのもの、および、スクリュウ間の噛合いが大きいもの、具体的には、噛合い率が1.45以上のものが好ましい。」

(a6)
「【実施例】
【0035】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
(試験方法)
実施例及び比較例におけるサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂組成物及びそれから得られる成形体の性能の測定方法および評価方法を以下に示す。
・・(中略)・・
(2)ウェルド強度の測定
得られた樹脂組成物のペレットを射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、UH-1000)を使用し、シリンダー最高温度370℃、射出速度300mm/sec、金型温度80℃にて射出成形し、13mm(幅)×80mm(長さ)×1.0mm(厚み)の中央部にウェルドのある射出成形体をウェルド部強度測定用の試験片とした。各試験片について、スパン間隔25mmでASTM D790に準拠してウェルド部の曲げ強度を測定した。
・・(中略)・・
【0037】
液晶ポリエステル(LCP)の製造例を以下に示す。
(製造例 サーモトロピック液晶ポリエステルAの製造)
SUS316を材質とし、ダブルヘリカル攪拌翼を有する内容積1700Lの重合槽(神戸製鋼株式会社製)にp-ヒドロキシ安息香酸(上野製薬株式会社製)298kg(2.16キロモル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(本州化学工業株式会社製)134kg(0.72キロモル)、テレフタル酸(三井化学株式会社製)90kg(0.54キロモル)、イソフタル酸(エイ・ジ・インターナショナルケミカル株式会社製)30kg(0.18キロモル)、触媒として酢酸カリウム(キシダ化学株式会社製)0.04kg、酢酸マグネシウム(キシダ化学株式会社製)0.10kgを仕込み、重合槽の減圧-窒素注入を2回行って窒素置換を行った後、無水酢酸386kg(3.78キロモル)を添加し、攪拌翼の回転速度45rpmで150℃まで1.5時間で昇温して還流状態で2時間アセチル化反応を行った。アセチル化終了後、酢酸留出状態にして0.5℃/分で昇温して、リアクター温度が305℃になったところで重合物をリアクター下部の抜き出し口から取り出し、冷却装置で冷却固化した。得られた重合物をホソカワミクロン株式会社製の粉砕機により目開き2.0mmの篩を通過する大きさに粉砕してプレポリマーを得た。
得られたプレポリマーを高砂工業株式会社製のロータリーキルンを用いて固相重合を行った。プレポリマーを該キルンに充填し、窒素を16Nm3/hrの流速にて流通し、回転速度2rpmでヒーター温度を室温から350℃まで1時間で昇温し、350℃で10時間保持した。キルン内の樹脂粉末温度が295℃に到達したことを確認し、加熱を停止してロータリーキルンを回転しながら4時間かけて冷却し、粉末状の液晶ポリエステルを得た。融点は360℃、溶融粘度は70Pa・Sであった。
(製造例 サーモトロピック液晶ポリエステルBの製造)
サーモトロピック液晶ポリエステルAと同様の方法にて、プレポリマーを得た。
得られたプレポリマーを高砂工業株式会社製のロータリーキルンを用いて固相重合を行った。プレポリマーを該キルンに充填し、窒素を16Nm3/hrの流速にて流通し、回転速度2rpmでヒーター温度を室温から350℃まで1時間で昇温し、350℃で9時間保持した。キルン内の樹脂粉末温度が290℃に到達したことを確認し、加熱を停止してロータリーキルンを回転しながら4時間かけて冷却し、粉末状の液晶ポリエステルを得た。融点は350℃、溶融粘度は20Pa・Sであった。
(製造例 サーモトロピック液晶ポリエステルCの製造)
サーモトロピック液晶ポリエステルAと同様の方法にて、プレポリマーを得た。
得られたプレポリマーを高砂工業株式会社製のロータリーキルンを用いて固相重合を行った。プレポリマーを該キルンに充填し、窒素を16Nm3/hrの流速にて流通し、回転速度2rpmでヒーター温度を室温から350℃まで1時間で昇温し、350℃で11時間保持した。キルン内の樹脂粉末温度が300℃に到達したことを確認し、加熱を停止してロータリーキルンを回転しながら4時間かけて冷却し、粉末状の液晶ポリエステルを得た。融点は370℃、溶融粘度は140Pa・Sであった。
【0038】
以下の実施例で使用した無機充填材を示す。
(1)タルク:日本タルク(株)社製、「MS-KY」(数平均粒径23μm)
(2)ガラスファイバー(GF)A:日東紡績(株)社製、PF100E-001SC(数平均繊維長100μm、数平均繊維径10μm)
(3)ガラスファイバー(GF)B:セントラルグラスファイバー(株)社製、EFH150-01(平均繊維長150μm、数平均繊維径10μm)
(4)ガラスファイバー(GF)C:オーゥエンスコーニング(株)社製、PX-1(数平均繊維長3mm、数平均繊維径10μm)
(5)カーボンブラック(CB):キャボット(株)社製、「REGAL 660」(1次粒子径24nm)
【0039】
(実施例1)
前記製造例にて得た粉末状の液晶ポリエステルAを100質量部、タルクを34質量部、ガラスファイバーAを34質量部、カーボンブラック3質量部をリボンブレンダーを用いて混合し、その混合物をエアーオーブン中で150℃にて2時間乾燥した。この乾燥した混合物を、シリンダーの最高温度380℃に設定したシリンダー径30mmの2軸押出機((株)池貝社製PCM-30)を用い、押出速度140kg/hrにて溶融混練して目的の液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを用い、前記の試験方法にて、各物性の測定を行った。結果を表1に示す。
(実施例2?4及び比較例1?7)
【0040】
実施例1と同様に粉末状の液晶ポリエステル、タルク、ガラスファイバー、カーボンブラックを、表1に記載した組成とした以外は、実施例1と同様の設備、操作方法により、それぞれの液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットを製造した。また実施例1と同様に得られたペレットを用い、前記の試験方法にて、各物性の測定を行った。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】


【0042】
*注)
1.全ての測定において、30μm以上のものは検出されなかった。
2.実施例組成物の脱落試験後のサンプルを再度同条件で超音波洗浄した場合、脱落物の発生はほとんど認められなかったのに対し、比較例組成物では、同様に再度同条件で超音波洗浄した時、更に脱落物の発生(多いものでは30個以上の発生)が認められた。
【0043】
表1に示したように、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物(実施例1?4)は、溶融粘度が本発明の規定範囲に入っており、その結果、良好な成形性を示し、脱落物が少なく、荷重たわみ温度、ウェルド強度が高いという良好な結果が得られた。
それに対し、比較例1?7のごとく本発明の規定範囲から外れる樹脂組成物の場合は、成形性、脱落物、荷重たわみ温度、ウェルド強度、の少なくとも一つが劣っている結果となった。」

(b)甲1-1に記載された発明
上記甲1-1には、上記(a)の記載からみて、特に【特許請求の範囲】の記載に基づくと、
「液晶ポリエステル100質量部に対して、数平均粒径が10?50μmのタルク15?60質量部、数平均繊維長が100?200μmのガラス繊維25?50質量部、カーボンブラック2?10質量部配合してなる、射出成形により成形した成形品のウェルド強度が30MPa以上であることを特徴とするカメラモジュール用液晶ポリエステル樹脂組成物。」
に係る発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されており、特に「比較例3」に係る記載(摘示(a6))に基づくと、
「製造例にて得た粉末状の液晶ポリエステルAを100質量部、タルクを34質量部、ガラスファイバーCを34質量部、カーボンブラック3質量部をリボンブレンダーを用いて混合し、その混合物をエアーオーブン中で150℃にて2時間乾燥し、この乾燥した混合物を、シリンダーの最高温度380℃に設定したシリンダー径30mmの2軸押出機を用い、押出速度140kg/hrにて溶融混練して得られた液晶ポリエステル樹脂組成物のペレット。」
に係る発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されているといえる。

(イ)甲1-2に記載された事項
甲1-2には、申立人1が申立書1第19頁第14行ないし第27頁表下第6行で摘示するとおりの事項(【特許請求の範囲】、【0015】?【0033】、【0056】、【0057】、【0060】、【0061】、【0069】?【0075】、【0081】、【0089】及び【0090】)が記載されており、特に「比較例4」として、「LCP1」なる液晶ポリエステル100重量部に「GF」なる平均繊維径10μm、平均繊維長3mmのガラス繊維を30重量部混合し、溶融混練してペレット化してなる液晶ポリエステル組成物ペレットが記載されており、当該「ガラス繊維については、溶融混練時に押出機内で折れることにより、液晶ポリエステル樹脂組成物中においては300μm程度の繊維長となっている」こと(【0089】?【0090】)が記載されている。

(ウ)甲2-2に記載された事項
甲2-2には、申立人2が申立書2第27頁第7行ないし第29頁上段(【表2】)で摘示するとおりの事項(【0058】、【0059】、【0065】及び【0067】)が記載されており、「比較例3」又は「比較例4」として、「LCP1」なる液晶ポリエステルの65重量部又は60重量部、「cGF」なる繊維径がいずれも10μmで数平均繊維長276μm又は236μmの繊維状フィラーの22重量部又は27重量部及び中心粒径14.5μmのタルクのいずれも13重量部を含有してなる液晶ポリエステル組成物ペレットが記載されている(【0058】及び【0067】)。

イ.検討

(ア)本件発明1について

(a)甲1発明1に基づく検討

(a-1)対比
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1における「液晶ポリエステル」、「タルク」、「ガラス繊維」及び「カーボンブラック」は、それぞれ、本件発明1における「液晶ポリエステル」、「板状充填材」、「繊維状充填材」及び「粒状充填材」に相当する。
また、甲1発明1における「液晶ポリエステル100質量部に対して、・・タルク15?60質量部、・・ガラス繊維25?50質量部、カーボンブラック2?10質量部配合してなる」は、上記「タルク15?60質量部」と「ガラス繊維25?50質量部」とが合計「40?110質量部」配合されているものと認められるから、本件発明1における「液晶ポリエステル100質量部と、・・繊維状充填材および板状充填材の合計65?100質量部・・を充填材として含有し、」なる範囲と包含・重複し、「液晶ポリエステル100質量部と、・・任意成分として繊維状充填材および板状充填材以外の充填材である粒状充填材を20質量部以下と、を充填材として含有し、」なる範囲と「2?10質量部」の範囲で一部重複するとともに、甲1発明1における「タルク15?60質量部、・・ガラス繊維25?50質量部、・・を充填材として含有し、」は、繊維状充填材であるガラス繊維と板状充填材であるタルクとの配合比率に換算すると、本件発明1における「繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)が1.0を超え1.6以下である」に相当する場合を包含することが明らかである。
そして、甲1発明1における「液晶ポリエステル樹脂組成物」は、本件発明1における「液晶ポリエステル組成物」に相当する。
してみると、本件発明1と甲1発明1とは、
「液晶ポリエステル100質量部と、繊維状充填材および板状充填材の合計65?100質量部並びに繊維状充填材および板状充填材以外の充填材である粒状充填材を2?10質量部と、を充填材として含有し、繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)が1.0を超え1.6以下である液晶ポリエステル組成物。」
で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:「繊維状充填材」につき、本件発明1では「数平均繊維径が5?15μmであって数平均アスペクト比が20?40である」のに対して、甲1発明1では「数平均繊維長が100?200μm」であり、「数平均繊維径」及び「数平均アスペクト比」につき特定されていない点
相違点2:本件発明1は「液晶ポリエステル組成物ペレット」であるのに対して、甲1発明1は「カメラモジュール用液晶ポリエステル樹脂組成物」である点
相違点3:甲1発明1では「射出成形により成形した成形品のウェルド強度が30MPa以上であることを特徴とする」のに対して、本件発明1では「射出成形により成形した成形品のウェルド強度」につき特定されていない点

(a-2)検討

(a-2-1)相違点2及び3について
事案に鑑み、まず、上記相違点2及び3につき併せて検討すると、甲1-1には、甲1発明1に係る実施例1ないし4として、液晶ポリエステルとタルク及びガラス繊維とを溶融混練して液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットを得たこと及び当該ペレットを用いて射出成形した成形品が30MPa以上のウェルド強度を示したことがそれぞれ記載されており(摘示(a6))、さらに、甲1発明1が、射出成形品の表面転写性に優れ、モジュールの組立加工時、使用時において、表面の脱落物の発生が少ない材料を得ることができ、該組成物から形成されたカメラモジュール部材は、組立工程中粉塵の発生が少なく、かつ、ウェルド部分においても充分な機械強度を持つ液晶ポリエステル樹脂組成物の提供を解決課題とすることも記載されている(摘示(a2))。
してみると、「液晶ポリエステル樹脂組成物」に係る甲1発明1において、その形状を「ペレット」と表現した点に格別な技術的意義はなく、実質的な相違点ではない。
また、本件発明1の解決しようとする課題は、「ウエルド強度に優れる成形体を与える液晶ポリエステル組成物」の提供にあるものと認められるところ(本件特許明細書【0004】)、当該課題は、甲1発明1の課題と軌を一にするものであることが明らかであり、甲1発明1では、当該ウェルド強度の下限値を単に規定することにより、課題が解決できていることを記載したに過ぎないのであるから、甲1発明1において、「射出成形により成形した成形品のウェルド強度が30MPa以上であることを特徴とする」とした点についても、実質的な相違点であるとはいえない。
したがって、上記相違点2及び3は、いずれも実質的な相違点であるとはいえない。

(a-2-2)相違点1について
上記相違点1につき検討すると、甲1-1には、甲1発明1で配合・使用するガラス繊維につき「樹脂組成物を構成する材料として使用されている公知のガラス繊維であり、その数平均繊維径には特に制限はないが8μmを超えるものが好ましい、数平均繊維長は、100?200μmであることが好ましい。」(摘示(a4))と記載され、甲1発明1に係る実施例1ないし4として、数平均繊維長100μm、数平均繊維径10μmである「ガラスファイバーA」又は数平均繊維長150μm、数平均繊維径10μmである「ガラスファイバーB」を使用した場合が記載されてはいる(摘示(a6))。
しかしながら、上記(3)でも示したとおり、繊維状充填材を含有する熱可塑性樹脂組成物につき溶融混練などを行った場合、混練時又は狭路からの吐出などのせん断力又は圧力の負荷により、繊維状充填材の折損などが生起し、繊維径に関しては実質的に変化しないものの繊維長が低下することにより、(数平均)アスペクト比が低下することは、当業者の技術常識であるから、甲1発明1において、配合・使用時に数平均繊維径が8μm超で数平均繊維長が100?200μmのガラス繊維などの繊維状充填材を使用したとしても、溶融混練してペレット化した場合、ペレット中に含有される繊維状充填材は、数平均繊維径については8μm超となるものの、数平均アスペクト比が20?40の範囲になる蓋然性は極めて低いものということができ、甲1発明1において、数平均アスペクト比につき例えば20?25の範囲で重複するものと認めることはできない。
してみると、上記相違点1は、実質的な相違点である。
そして、上記ア.(イ)又は(ウ)で示したとおり、甲1-2又は甲2-2には、それぞれ、「LCP1」なる液晶ポリエステル100重量部に「GF」なる平均繊維径10μm、平均繊維長3mmのガラス繊維を30重量部混合し、溶融混練してペレット化してなる液晶ポリエステル組成物ペレットが記載されており、当該「ガラス繊維については、溶融混練時に押出機内で折れることにより、液晶ポリエステル樹脂組成物中においては300μm程度の繊維長となっている」こと(上記ア.(イ))又は「LCP1」なる液晶ポリエステルの65重量部又は60重量部、「cGF」なる繊維径がいずれも10μmで数平均繊維長276μm又は236μmの繊維状フィラーの22重量部又は27重量部及び中心粒径14.5μmのタルクのいずれも13重量部を含有してなる液晶ポリエステル組成物ペレット(上記ア.(ウ))が記載されてはいる。
しかしながら、甲1発明1では、当該発明の解決課題である「ウェルド部分においても充分な機械強度を持つ液晶ポリエステル樹脂組成物」の提供につき「30MPa以上」なる優れたウェルド強度が達成されているものであるから、甲1発明1に対して、上記甲1-2又は甲2-2に記載された技術を組み合わせることを動機付ける技術事項が存するものとも認められず、甲1発明1に対して上記甲1-2又は甲2-2に記載された技術を組み合わせることにより、当業者が適宜なし得ることということもできない。
してみると、上記相違点1につき、当業者が適宜なし得ることということもできない。
(a-3)小括
したがって、本件発明1は、甲1発明1であるということはできず、また、甲1発明1に基づいて、甲1-2又は甲2-2に記載された技術を組み合わせることにより、容易に発明をすることができたということもできない。

(b)甲1発明2に基づく検討

(b-1)対比
本件発明1と甲1発明2とを対比すると、甲1発明2における「製造例にて得た粉末状の液晶ポリエステルA」、「タルク」、「ガラスファイバーC」及び「カーボンブラック」は、それぞれ、本件発明1における「液晶ポリエステル」、「板状充填材」、「繊維状充填材」及び「粒状充填材」に相当する。
また、甲1発明2における「製造例にて得た粉末状の液晶ポリエステルAを100質量部、タルクを34質量部、ガラスファイバーCを34質量部、カーボンブラック3質量部を・・混合し」は、上記「タルク34質量部」と「ガラスファイバーC34質量部」とが合計「68質量部」配合されているものと認められるから、本件発明1における「液晶ポリエステル100質量部と、・・繊維状充填材および板状充填材の合計65?100質量部・・を充填材として含有し、」に相当し、「カーボンブラック3質量部」が「液晶ポリエステル100質量部と、・・任意成分として繊維状充填材および板状充填材以外の充填材である粒状充填材を20質量部以下と、を充填材として含有し、」に相当する。
そして、甲1発明2における「液晶ポリエステル樹脂組成物のペレット」は、本件発明1における「液晶ポリエステル組成物ペレット」に相当する。
してみると、本件発明1と甲1発明2とは、
「液晶ポリエステル100質量部と、繊維状充填材および板状充填材の合計68質量部並びに粒状充填材を3質量部と、を充填材として含有する液晶ポリエステル組成物ペレット。」
で一致し、以下の点で相違する。

相違点1’:「繊維状充填材」につき、本件発明1では「数平均繊維径が5?15μmであって数平均アスペクト比が20?40である」のに対して、甲1発明2では「ガラスファイバーC」である点
相違点4:本件発明1では「繊維状充填材と板状充填材との配合比率(質量)が1.0を超え1.6以下である」のに対して、甲1発明2では「タルクを34質量部、ガラスファイバーCを34質量部・・を混合」する点

(b-2)検討

(b-2-1)相違点1’について
上記相違点1’につき検討すると、甲1-1には、請求項に記載された事項で特定される発明で配合・使用するガラス繊維につき「樹脂組成物を構成する材料として使用されている公知のガラス繊維であり、その数平均繊維径には特に制限はないが8μmを超えるものが好ましい、数平均繊維長は、100?200μmであることが好ましい。」(摘示(a4))と記載されているのに対して、甲1発明2に係る比較例3では、数平均繊維長3mm、数平均繊維径10μmである「ガラスファイバーC」を使用しており(摘示(a6))、両者の対応関係は不明である。
さらに、上記(3)でも示したとおり、繊維状充填材を含有する熱可塑性樹脂組成物につき溶融混練などを行った場合、混練時又は狭路からの吐出などのせん断力又は圧力の負荷により、繊維状充填材の折損などが生起し、繊維径に関しては実質的に変化しないものの繊維長が低下することにより、(数平均)アスペクト比が低下することは、当業者の技術常識であるから、甲1発明2において、配合・使用時に数平均繊維径が10μmで数平均繊維長が3mmのガラス繊維を繊維状充填材として使用した場合、溶融混練してペレット化した時点でペレット中に含有される繊維状充填材は、数平均繊維径については10μmであろうが、数平均アスペクト比が20?40の範囲になるか否かは不明である。
(なお、申立人1は、申立書1(第41頁第3行?第18行)において、甲1-1の比較例3における混練条件と、本件発明における混練条件とほぼ同等であることをもって、当該比較例3の液晶ポリエステル樹脂組成物(ペレット)中のガラス繊維の数平均アスペクト比が本件発明のものと同等であり、数平均アスペクト比20?40との要件を満たすものと考えられる旨主張しているが、両者の混練条件を対比すると、実質的に同一の2軸押出機を用いて混練しているものの、溶融温度、押出速度などの混練時又は狭路からの吐出などのせん断力又は圧力に有意に影響する混練条件については一致していないから、上記主張は根拠を欠くものであり、採用することができない。)
してみると、上記相違点1’は、実質的な相違点である。
そして、上記ア.(イ)又は(ウ)で示したとおり、甲1-2又は甲2-2には、それぞれ、「LCP1」なる液晶ポリエステル100重量部に「GF」なる平均繊維径10μm、平均繊維長3mmのガラス繊維を30重量部混合し、溶融混練してペレット化してなる液晶ポリエステル組成物ペレットが記載されており、当該「ガラス繊維については、溶融混練時に押出機内で折れることにより、液晶ポリエステル樹脂組成物中においては300μm程度の繊維長となっている」こと(上記ア.(イ))又は「LCP1」なる液晶ポリエステルの65重量部又は60重量部、「cGF」なる繊維径がいずれも10μmで数平均繊維長276μm又は236μmの繊維状フィラーの22重量部又は27重量部及び中心粒径14.5μmのタルクのいずれも13重量部を含有してなる液晶ポリエステル組成物ペレット(上記ア.(ウ))が記載されてはいる。
しかしながら、甲1発明2に係る比較例3では、請求項に係る発明の解決課題である「ウェルド部分においても充分な機械強度を持つ液晶ポリエステル樹脂組成物」の提供につき、実施例のものを上回る「40MPa」なる優れたウェルド強度が達成されているものであるから、甲1発明2に対して、上記甲1-2又は甲2-2に記載された技術を組み合わせることを動機付ける技術事項が存するものとも認められず、甲1発明2に対して上記甲1-2又は甲2-2に記載された技術を組み合わせることにより、当業者が適宜なし得ることということもできない。
してみると、上記相違点1’につき、当業者が適宜なし得ることということもできない。
(b-3)小括
したがって、本件発明1は、相違点4につき検討するまでもなく、甲1発明2であるということはできず、また、甲1発明2に基づいて、甲1-2又は甲2-2に記載された技術を組み合わせることにより、容易に発明をすることができたということもできない。

(c)本件発明1に係る検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明1又は甲1発明2、すなわち甲1-1に記載された発明であるということはできず、甲1-1に記載された発明に基づいて、甲1-2又は甲2-2に記載された技術を組み合わせることにより、容易に発明をすることができたということもできない。

(イ)本件発明2ないし10について
本件発明2ないし10は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるところ、上記(ア)で説示したとおりの理由により、本件発明1は、甲1-1に記載された発明であるということはできず、甲1-1に記載された発明に基づいて、甲1-2又は甲2-2に記載された技術を組み合わせることにより、容易に発明をすることができたということもできないのであるから、本件発明1を引用する本件発明2ないし10についても、同一の理由により、甲1-1に記載された発明であるということはできず、甲1-1に記載された発明に基づいて、甲1-2又は甲2-2に記載された技術を組み合わせることにより、容易に発明をすることができたということもできない。

ウ.取消理由1-1、取消理由2-1及び取消理由2-2に係る検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件の請求項1ないし10に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条に違反してされたものではなく、申立人1が主張する取消理由1-1並びに申立人2が主張する取消理由2-1及び取消理由2-2は、いずれも理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、申立人1及び申立人2が提示した取消理由及び証拠方法によっては、本件の請求項1ないし10に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、本件の請求項1ないし10に係る発明についての特許を取り消すべき他の理由も発見しない。
よって、上記結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-01-24 
出願番号 特願2016-232969(P2016-232969)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 161- Y (C08L)
P 1 651・ 536- Y (C08L)
最終処分 維持  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 橋本 栄和
長谷部 智寿
登録日 2018-03-23 
登録番号 特許第6310043号(P6310043)
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 液晶ポリエステル組成物ペレット  
代理人 加藤 広之  
代理人 佐藤 彰雄  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 尋木 浩司  
代理人 棚井 澄雄  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ