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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1348737
異議申立番号 異議2018-700899  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-08 
確定日 2019-02-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第6321522号発明「加熱装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6321522号の請求項1及び7に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6321522号の請求項1?7に係る特許についての出願は,平成26年11月5日に出願され,平成30年4月13日にその特許権の設定登録がされ,平成30年5月9日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許に対し,平成30年11月8日に特許異議申立人一條淳(以下,「特許異議申立人」という。)は,特許異議の申し立てを行った。

2 本件発明
特許第6321522号の請求項1及び7の特許に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1及び7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
表面及び裏面を有するベース部材と,
該ベース部材の前記表面側に配置され,被処理物を支持する支持面を有する支持部材と,
該支持部材に設けられ,前記被処理物を加熱するヒータと,
充填材を含有する第1樹脂層と,
充填材を含有しない第2樹脂層と,を備え,
前記ベース部材と前記支持部材との間には,前記第1樹脂層及び前記第2樹脂層を含む接合層が配置され,
該接合層は,前記第1樹脂層を少なくとも1層含む接合本体部と,前記ベース部材と前記接合本体部との間に配置された前記第2樹脂層と,を含み,
前記接合層は,さらに,前記支持部材と前記接合本体部との間に配置された前記第2樹脂層を含むことを特徴とする加熱装置。」
「【請求項7】
表面及び裏面を有するベース部材と,
該ベース部材の前記表面側に配置され,被処理物を支持する支持面を有する支持部材と,
該支持部材に設けられ,前記被処理物を加熱するヒータと,
充填材を含有する第1樹脂層と,
充填材を含有しない第2樹脂層と,を備え,
前記ベース部材と前記支持部材との間には,前記第1樹脂層及び前記第2樹脂層を含む接合層が配置され,
該接合層は,前記ベース部材側に配置された前記第1樹脂層と,前記支持部材側に配置された前記第1樹脂層と,これら2つの前記第1樹脂層の間に配置された前記第2樹脂層と,を含むことを特徴とする加熱装置。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人は,主たる証拠として甲第1号証(特開昭63-283037号公報,以下「甲1」という。)及び従たる証拠として甲第3号証(特開2014-72356号公報,以下「甲3」という。)を提出し,請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,また,主たる証拠として甲第2号証(特開2003-142567号公報,以下「甲2」という。)及び従たる証拠として甲3を提出し,請求項7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1及び7に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

4 文献の記載
(1)甲1について
甲1には図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)。
「〔産業上の利用分野〕
本発明はドライエッチング,化学気相成長,スパッタ,電子ビーム露光等の半導体装置のウエーハプロセス処理に基板固持手段として用いられる静電吸着装置の改良に関する。
LSI等の半導体装置のウエーハプロセスに用いられるインライン方式の製造装置においては,ウエーハ固持手段として固持機構が簡単なことから静電吸着装置が多く用いられる。
静電吸着装置においては,該静電吸着装置が固定される冷却(加熱)手段を備えた電極等と該静電吸着装置上に吸着固持されるウエーハとの間の熱伝導率を高めて,ウエーハの温度を均一且つ安定に保持する機能も,一つの重要な機能として要望される。」(第1ページ右下欄第7行目乃至第2ページ左上欄第2行目)
「〔問題点を解決するための手段〕
上記問題点は,導電体よりなるベース板(1)と,該ベース板(1)の全面上に被着された弾性体絶縁膜(3)と,該弾性体絶縁膜上に被着された膜状の第1,第2の電極(5A)(5B)と,該第1,第2の電極(5A)(5B)を有する弾性体絶縁膜(3)の全面上に被着され被吸着基板(11)との接触面を構成するセラミック膜(6)とを有し,該第1,第2の電極(5A)(5B)間に直流電圧(9)が印加される本発明による静電吸着装置によって解決される。
〔作用〕
即ち本発明の静電吸着装置においては,高熱伝導性を有する金属ベース板上に弾性絶縁体膜を介して例えば裏面に対の吸着電極が接着配設されてなるセラミック薄板が,電極配設面を接して接着固着されてなり,セラミック薄板の摩擦,圧接等にたいする強い表面強度によってウエーハ吸着面の機械的破損を防止し,且つ弾性絶縁体膜の弾力性によってセラミック薄板と金属ベース板との間に生ずる熱膨張による応力を吸収してセラミック薄板の熱的破壊を防止し,これらによって耐久性の向上が図られる。」(第2ページ左下欄第12行目乃至右下欄第14行目)
「本発明に係る静電吸着装置は例えば第1図及び第2図に示すように,例えばアルミニウム等高熱伝導性を有する金属からなり,中央に貫通孔2を有する厚さ10mm程度の平坦な円板状の金属ベース板1上に,炭化珪素,或いはアルミナ等のフィラーを混入して熱伝導性を高めたシリコン・ゴム,或いは弗素ゴム等よりなり,中央部に開孔を有する厚さ0.2?0.3mm程度の平板状の弾性絶縁体膜3が,例えばゴム系の接着剤4で接着固定され,裏面に例えば厚さ5μm程度の銀(Ag)-パラジウム(Pd)膜からなる図示のような形状の対の静電吸着用電極5A及び5Bが蒸着法等により被着配設されてなる厚さ0.2mm程度の焼結アルミナ等よりなる高熱伝導性を有するセラミック薄板6が,電極5A,5B配設面を接して上記弾性絶縁体膜3上に例えばコム系の接着材7等によって接着固定されてなり,電極5A及び5Bの一端部に接続された配線8A及び8Bが前記貫通孔2を介し,且つ図示しないオン/オフ手段を介して,それぞれ例えば2KV程度の電位差を有する直流電源9の両端に接続された構造を有する。
なお第1図は上記静電吸着装置10がドライエッチング装置に用いられた状態を模式的に示しており,同図中,11は被処理ウエーハ,12エッチング電極,13は水冷手段,14は固定ねじ,15は対向電極,16は高周波電源,Pはプラズマ,GNDは接地部を示している。」(第3ページ左上欄第4行目乃至右上欄第10行目)
したがって,甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「アルミニウム等高熱伝導性を有する金属からなり,中央に貫通孔を有する平坦な円板状の金属ベース板と,
金属ベース板上にゴム系の接着剤等で接着固定された,炭化珪素,或いはアルミナ等のフィラーを混入して熱伝導性を高めたシリコン・ゴム,或いは弗素ゴム等よりなり,中央部に開孔を有する平板状の弾性絶縁体膜と,
弾性絶縁体膜上にゴム系の接着剤等で接着固定された,裏面に銀(Ag)-パラジウム(Pd)膜からなる静電吸着用電極が蒸着法等により被着配設されてなる焼結アルミナ等よりなる高熱伝導性を有するセラミック薄板,
ここで,セラミック薄板は被吸着基板との接触面を構成すること,
を有した静電吸着装置であって,ドライエッチング装置に用いられること。」
なお,特許異議申立人は,特許異議申立書において,甲1発明の「接着剤」について,「充填剤を含有しない」と特定したが,甲1には,「接着剤」が「充填剤」を含有するか否かについて,明示の記載が存在しないので,甲1発明を上記のように認定した。

(2)甲2について
甲2には図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,CVD,PVD,スパッタリング等の成膜装置やエッチング装置などの加工装置において,半導体ウエハ等の被吸着体を保持するウエハ載置ステージに関するものである。」
「【0015】図1は本発明のウエハ載置ステージを備える半導体製造装置を示す概略断面図である。
【0016】この半導体製造装置は,真空処理室20内にOリング22を介してウエハ載置ステージ1を気密に設置したもので,ウエハ載置ステージ1は,静電チャック部5と,導電性ベース部材10とからなる。
【0017】静電チャック5部は,セラミック板状体2の上面を,半導体ウエハ等のウエハWを載せる載置面3とするとともに,上記セラミック板状体2の下面に導体層よりなる一対の静電吸着用電極4を形成したものである。
【0018】また,導電性ベース部材10は,アルミニウムや超鋼,あるいはこれらの金属とセラミック材料との複合材からなり,その内部には冷却通路11を有するとともに,静電吸着用電極4に接続されるリード線9を取り出すための貫通孔12を形成してある。
【0019】そして,静電チャック部5の下面側には一対の静電吸着用電極4を覆うように,第一の有機系接着剤層6を介して絶縁性フィルム7を接着するとともに,この絶縁性フィルム7と導電性ベース部材10を第二の有機系接着剤8を介して接着することによりウエハ載置ステージ1を構成してあり,上記絶縁性フィルム7によって静電吸着用電極4と導電性ベース部材10との間の絶縁性を保つようになっている。
【0020】そして,一対の静電吸着用電極4をそれぞれ直流電源24に接続し,電圧を印加するとウエハWと静電吸着用電極4の間に電位差が生じ,ウエハWを載置面3に吸着固定することができるようになっている。
【0021】なお,13はウェハ載置ステージ1に形成されたリフトピン挿入穴であり,載置面3上にウエハWを載せたり,持ち上げるためのリフトピン26が突出可能に配置されている。
【0022】また,ウェハ載置ステージ1の外周部には,有機系接着剤層6,8の露出面を包囲するように保護リング25を設置してあり,有機系接着剤層6,8の露出面がフッ素ガスや塩素ガス等の腐食性ガスやプラズマによって直接侵されるのを防止してある。
【0023】さらに,真空処理室20の内部上方には導電性ベース部材10と対向する対向電極21を設置してあり,高周波電源23より両者の間に例えば13.56MHzの高周波を印加することで真空処理室20内にプラズマを発生させることができ,また,同時に直流電圧を印加することで,両者の間にバイアスをかけることができるようになっている。この時,プラズマに曝されることでウエハWに発生した熱は,静電チャック部5から導電性ベース部材10に伝わり,冷却通路11に流す熱媒体を介してウエハ載置ステージ1から外部に逃がし,載置面3上に吸着固定したウェハWを効率良く冷却するようになっている。
【0024】また,図2に本発明のウエハ載置ステージ1の要部を説明するための断面図を示すように,載置面3にウエハWを吸着させるには,一対の静電吸着用電極4間に100?3kVの電圧を印加する。このため導電性ベース部材10と静電吸着用電極4とは効率良く絶縁されていなければならない。ただし,静電吸着用電極4と導電性ベース部材10の間に絶縁体を塗布する方法では,塗布された絶縁体中に気泡などの欠陥が生じ易く,気泡を基点として絶縁破壊を起こすために信頼性の点で問題がある。その為,予めフィルム状に加工された絶縁耐力の大きな絶縁性フィルム7を用いることが重要である。
【0025】絶縁性フィルム7の材質としては,ポリイミド,ポリカーボネート,ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリアミドイミド,ポリエーテルスルフォンなど100℃以上の耐熱性を有し,絶縁耐圧が10kV/mm^(2)以上あって,機械的強度及び剛性が大きいものが良く,これらの絶縁性フィルム7を用いれば,伸びが少なく,接着時の取り扱い時に伸びることもないため,平坦に接着できるので好ましい。」
「【0033】ところで,上述した特性を有する第一の有機系接着剤層6としては,エポキシ接着剤等を用いることができる。」
「【0037】ところで,上述した特性を有する第二の有機系接着剤層8としては,シリコン接着剤,ゴム系接着剤等を用いることができる。ただし,接着剤が縮合型の場合,加水分解にて硬化が進行するが,ウエハ載置ステージ1は接着面積が広いため,その中央まで加水分解が行われず,完全硬化させることができない。このような場合には,接着剤として熱硬化形を用いることが好ましく,熱によって接着面の全面で反応硬化させることができる。」
「【0039】なお,本発明のウエハ載置ステージ1では,第一及び第二の有機系接着剤層6,8間の熱伝導性を高めるため,第一又は第二の有機系接着剤層6,8中に,炭化珪素,アルミナ,窒化アルミニウム等のフィラーを添加したり,第一及び第二の有機系接着剤層6,8の粘性や耐熱性を改善するために,炭酸ルシウム,シリカ,カーボン等のフィラーを添加しても良いが,これらの添加量が多くなり過ぎると,第一及び第二の有機系接着剤層6,8が腐食性ガスに曝されて揮発すると,パーティクルの原因となるため,1体積%以下の範囲で含有すれば良い。」
「【0054】次いで,粘度50Pa・sで,硬化後のヤング率が12GPaで,かつ伸び率6%のエポキシ接着剤を容器に入れ,2700Pa以下の減圧下で15分以上保持することにより接着剤の脱泡をした。その後,この接着剤を,セラミックス板状体2の下面中央に一文字に垂らし,厚みを表1のように異ならせたポリイミド製の絶縁性フィルム7を載せた後,ゴム製ローラーで絶縁性フィルム7の中央から外周へ接着剤を掃き出すように押さえ付けて密着させた後,厚み20mm,平面度10μmのアルミナ製定盤を絶縁フィルム7上に載せ,さらに重しを載せた状態で,温度100℃のオーブンで30分加熱し,接着剤を半硬化させた後,さらに温度100℃のオーブンで12時間加熱して接着剤を硬化させ,厚みが5?50μmの第一の有機系接着剤層6を介して絶縁フィルム7を接着した。」
したがって,甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「真空処理室内にOリングを介してウエハ載置ステージを気密に設置し,高周波電源により高周波を印加することで真空処理室内にプラズマを発生することができる半導体製造装置であって,
ウエハ載置ステージは,静電チャック部と,導電性ベース部材とからなり,
導電性ベース部材は,アルミニウムや超鋼,あるいはこれらの金属とセラミック材料との複合材からなり,その内部には冷却通路を有するとともに,静電吸着用電極に接続されるリード線を取り出すための貫通孔を形成してあり,
静電チャック部は,セラミック板状体の上面を,半導体ウエハ等のウエハを載せる載置面とするとともに,上記セラミック板状体の下面に導体層よりなる一対の静電吸着用電極を形成したものであり,
静電チャック部の下面側には一対の静電吸着用電極を覆うように,第一の有機系接着剤層を介して絶縁性フィルムを接着するとともに,この絶縁性フィルムと導電性ベース部材を第二の有機系接着剤を介して接着することによりウエハ載置ステージを構成してあり,上記絶縁性フィルムによって静電吸着用電極と導電性ベース部材との間の絶縁性を保つようになっており,
絶縁性フィルムの材質としては,ポリイミド,ポリカーボネート,ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリアミドイミド,ポリエーテルスルフォンなど100℃以上の耐熱性を有し,絶縁耐圧が10kV/mm^(2)以上あって,機械的強度及び剛性が大きいものが良く,
第一の有機系接着剤層としては,エポキシ接着剤等を用いることができ,
第二の有機系接着剤層としては,シリコン接着剤,ゴム系接着剤等を用いることができ,
第一及び第二の有機系接着剤層間の熱伝導性を高めるため,第一又は第二の有機系接着剤層中に,炭化珪素,アルミナ,窒化アルミニウム等のフィラーを添加しても良いウエハ載置ステージを備える半導体製造装置。」
なお,特許異議申立人は,特許異議申立書において,甲2発明の「絶縁性フィルム」について,「充填剤を含有しない」と特定したが,甲2には,「絶縁性フィルム」が「充填剤」を含有するか否かについて,明示の記載が存在しないので,甲2発明を上記のように認定した。

(3)甲3について
甲3には図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,例えば,半導体ウェハの固定,半導体ウェハの平面度の矯正,半導体ウェハの搬送などに用いられる静電チャックに関するものである。」
「【0025】
また,セラミック絶縁板の内部の構成としては,セラミック絶縁板を加熱するヒータや,(被吸着物を冷却する)冷却用ガスが流れる冷却用ガス流路を設けることが好ましい。
・セラミック絶縁板(複数のセラミック層からなる場合には,各セラミック層)を構成する材料としては,アルミナ,イットリア(酸化イットリウム),窒化アルミニウム,窒化ホウ素,炭化珪素,窒化珪素などといった高温焼成セラミックを主成分とする焼結体などが挙げられる。また,用途に応じて,ホウケイ酸系ガラスやホウケイ酸鉛系ガラスにアルミナ等の無機セラミックフィラーを添加したガラスセラミックのような低温焼成セラミックを主成分とする焼結体を選択してもよいし,チタン酸バリウム,チタン酸鉛,チタン酸ストロンチウムなどの誘電体セラミックを主成分とする焼結体を選択してもよい。」
「【実施例1】
【0032】
ここでは,例えば半導体ウェハを吸着保持できる静電チャックを例に挙げる。
a)まず,本実施例の静電チャックの構造について説明する。
図1に示す様に,本実施例の静電チャック1は,図1の上側にて半導体ウェハ3を吸着する装置であり,第1主面(吸着面)5及び第2主面7を有する(例えば直径300mm×厚み3mmの)円盤状のセラミック絶縁板9と,(例えば直径340mm×厚み20mmの)円盤状の金属ベース(クーリングプレート)11とを,例えばシリコーン樹脂からなる接着剤層13を介して接合したものである。
【0033】
特に,本実施例では,接着剤層13の厚み方向と垂直の平面方向において,その接着剤層13より外側(外周側)に,セラミック絶縁板9と金属ベース11とに挟まれた外周空間15を備えるとともに,セラミック絶縁板9には,外周空間15に対して静電チャック1の周囲の空間のガスの圧力より高圧の作動ガスを供給するガス供給路17を備えている。
【0034】
以下,各構成について説明する。
前記セラミック絶縁板9は,後述する複数のセラミック層が積層されたものであり,アルミナを主成分とするアルミナ質焼結体である。このセラミック絶縁板9の内部には,半導体ウェハ3を冷却するヘリウム等の冷却用ガスを供給するトンネルである冷却用ガス供給路21が設けられ,その吸着面5には,冷却用ガス供給路21が開口する複数の冷却用開口部23や,冷却用開口部23から供給された冷却用ガスが吸着面5全体に広がるように設けられた環状の冷却用溝25が設けられている。
【0035】
一方,前記金属ベース11は,例えばアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属製であり,その内部には,セラミック絶縁板9を冷却する冷却用液体(例えば水)が充填される冷却用空間27が設けられている。
【0036】
更に,図2に詳細に示すように,前記セラミック絶縁板9においては,9層の第1?第9セラミック層31,32,33,34,35,36,37,38,39が積層されている。詳しくは,セラミック絶縁板9の中心部分41は,第1?第8セラミック層31?38が積層されているが,その中心部分41の(第2主面7側の)外周部分43,即ち中心部分41よりも外側に環状に張り出している部分は,第6?第8セラミック層36?38からなり,更に,第8セラミック層38の金属ベース11側の外縁部には,環状の第9セラミック層39が積層されている。
【0037】
前記セラミック絶縁板9の中心部分41の構成は,基本的に従来とほぼ同様であり,その内部において,吸着面5の(同図)下方には,例えば平面形状が半円状の一対の吸着用電極45,47(図1参照)が形成されている。ここでは,第2,第3セラミック層32,33の間に吸着用電極45,47が形成されている。
【0038】
この吸着用電極45,47とは,静電チャック1を使用する場合には,両吸着用電極45,47の間に,直流高電圧を印加し,これにより,半導体ウェハ3を吸着する静電引力(吸着力)を発生させ,この吸着力を用いて半導体ウェハ3を吸着して固定するものである。
【0039】
また,吸着用電極45,47の(同図)下方には,従来と同様に,例えば同一平面にて軸中心を回るように螺旋状に巻き回されたヒータ(発熱体)49が形成されている。ここでは,第5,第6セラミック層35,36の間にヒータ49が形成されている。」
したがって,甲3には次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「半導体ウェハを吸着保持できる静電チャックであって,
第1主面(吸着面)及び第2主面を有する円盤状のセラミック絶縁板と,円盤状の金属ベース(クーリングプレート)とを,例えばシリコーン樹脂からなる接着剤層を介して接合したものであり,
セラミック絶縁板の内部の構成としては,セラミック絶縁板を加熱するヒータや,(被吸着物を冷却する)冷却用ガスが流れる冷却用ガス流路を設けることが好ましく,
セラミック絶縁板の吸着面の下方には,例えば平面形状が半円状の一対の吸着用電極が形成され,
また,吸着用電極の下方には,従来と同様に,例えば同一平面にて軸中心を回るように螺旋状に巻き回されたヒータ(発熱体)が形成されている,
静電チャック。」

5 当審の判断
(1)請求項1に係る発明について
ア 対比
請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)と甲1発明とを対比すると,
(ア) 甲1発明の「金属ベース板」は円板状であることから表面と裏面を有することは明らかであるので,甲1発明の「金属ベース板」は本件発明1の「表面及び裏面を有するベース部材」に相当する。
(イ) 甲1発明の「セラミック薄板」は金属ベース板の上側にあり,被吸着基板との接触面を構成するものであるので,甲1発明の「セラミック薄板」は本件発明1の「該ベース部材の前記表面側に配置され,被処理物を支持する支持面を有する支持部材」に相当する。
(ウ) 甲1発明の弾性絶縁体膜に混入される「フィラー」は本件発明1の「充填剤」に相当する。また,甲1発明の金属ベース板とセラミック薄板との間には弾性絶縁体膜を含み,当該弾性絶縁体膜の上下には接着剤を介してそれぞれ,金属ベース板とセラミック薄板とを接着しているものであるので,当該弾性絶縁体膜と金属ベース板又はセラミック薄板の間には層と呼ばれるものが形成されていることは明らかである。そして,接着剤の層と弾性絶縁体膜とは金属ベース板とセラミック薄板とを接着するための層であり,また,「弾性絶縁体膜」はシリコン・ゴム,或いは弗素ゴム等よりなり,「接着剤」の層はゴム系の接着剤である。してみれば,甲1発明の金属ベース板とセラミック薄板との間にある「接着剤」及び「弾性絶縁体膜」は,本件発明1の「充填剤を含有する第1の樹脂層」及び「充填剤を含有しない第2の樹脂層」と,それぞれ,「第2接着層」及び「充填剤を含有する第1接着層」である点で共通する。したがって,甲1発明の金属ベース板とセラミック薄板との間には弾性絶縁体膜を含み,当該弾性絶縁体膜の上下には接着剤によりそれぞれ層が形成されていることは,本件発明1と,「充填材を含有する第1接着層と,第2接着層と,を備え,前記ベース部材と前記支持部材との間には,前記第1接着層及び前記第2接着層を含む接合層が配置され,該接合層は,前記第1接着層を少なくとも1層含む接合本体部と,前記ベース部材と前記接合本体部との間に配置された前記第2接着層と,を含み,前記接合層は,さらに,前記支持部材と前記接合本体部との間に配置された前記第2接着層を含む」点で共通する。
(エ) 甲1発明の「静電吸着装置」は,被吸着基板との接触面を構成しており,本件発明1の「加熱装置」との間で,被処理物を支持する点では共通するので,甲1発明の「静電吸着装置」は,本件発明1と被処理物を支持する「支持装置」であるという点で共通する。
したがって,本件発明1と,甲1発明とは以下の点で一致し,相違する。
(一致点)
「表面及び裏面を有するベース部材と,
該ベース部材の前記表面側に配置され,被処理物を支持する支持面を有する支持部材と,
充填材を含有する第1接着層と,
第2接着層と,を備え,
前記ベース部材と前記支持部材との間には,前記第1接着層及び前記第2接着層を含む接合層が配置され,
該接合層は,前記第1接着層を少なくとも1層含む接合本体部と,前記ベース部材と前記接合本体部との間に配置された前記第2接着層と,を含み,
前記接合層は,さらに,前記支持部材と前記接合本体部との間に配置された前記第2接着層を含むことを特徴とする支持装置。」
(相違点)
(相違点1)本件発明1においては,「被処理物を加熱するヒータ」が「支持部材に設けられ」ているのに対して,甲1発明においては被処理物を加熱するヒータがセラミック薄板に設けられていない点。
(相違点2)第1接着層について,本件発明1においては,「充填材を含有する第1樹脂層」であるのに対して,甲1発明においては,フィラー(充填剤)が混入されるシリコン・ゴム,或いは弗素ゴム等よりなるものの,「樹脂層」とは記載されていない点。
(相違点3)第2接着層について,本件発明1においては,「充填材を含有しない第2樹脂層」であるのに対して,甲1発明においては,ゴム系の接着剤の層であるものの,「充填剤を含有しない」もので,「樹脂層」とは記載されていない点。
(相違点4)支持装置について,本件発明1においては「加熱装置」であるのに対して,甲1発明においては,被吸着基板を支持する静電吸着装置であるが,「加熱装置」であると特定されていない点。

イ 判断
相違点1について検討する。
甲3には,「セラミック絶縁板」の「吸着面」の下方に「吸着用電極」を形成し,その「吸着用電極の下方」に,「ヒータ(発熱体)」を形成した甲3発明が記載されており,ヒータを設けた静電チャックにおいて,「吸着面」,「吸着電極」及び「ヒータ」の積層の順序として,このような構造を備えたものが周知であると認められる。
そして,甲1発明は「セラミック薄板」の下方に吸着電極である「膜状の第1,第2の電極」を有するものであるので,甲1発明に甲3発明を適用した場合には,「膜状の第1,第2の電極」の下方に「ヒータ」を設けることになり,「膜状の第1,第2の電極」が被着配設された裏面と「セラミック薄板」の被吸着基板との接触面との間に位置する「セラミック薄板」に「ヒータ」を設けることは観念できない。
また,仮に「セラミック薄板」に「ヒータ」を設けた場合には,静電吸着用電極と被吸着基板との間に,「ヒータ」が位置することとなり,被処理物の吸着を妨げることから,甲1発明に甲3発明を適用する阻害要因が存在するといえる。
よって,その他の相違点を検討するまでもなく,本件発明1は,甲1発明及び甲3発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものではない。
特許異議申立人は,本件発明1において,「被処理物を加熱するヒータ」が「支持部材に設けられ」る点について,「静電吸着装置において,半導体ウエハなどの被処理物を支持する部材にヒータを設けることは甲第3号証の記載事項2に記載されているように周知ともいえる事項である。したがって,被処理物を加熱するヒータが支持部材に設けることは当業者が容易になし得ることにすぎない。」と主張する。
しかし,上記にて説示したように,「静電吸着装置において,半導体ウエハなどの被処理物を支持する部材にヒータを設けること」が周知であったとしても,甲1発明への適用には阻害要因があるので,上記主張には理由がない。

(2)請求項7に係る発明について
ア 対比
請求項7に係る発明(以下「本件発明7」という。)と甲2発明とを対比すると,
(ア) 甲2発明の「導電性ベース部材」はその上側にセラミック板状体を含む静電チャック部があり,真空処理室内にOリングを介してウエハ載置ステージを設置したものであるので,ウエハ載置ステージの下側である「導電性ベース部材」は,その下側をOリングを介して真空処理室に設置するものであり,上面及び下面を持つことは自明であるので,甲2発明の「導電性ベース部材」は本件発明7の「表面及び裏面を有するベース部材」に相当する。
(イ) 甲2発明の「セラミック板状体」は,その上面を,「半導体ウエハ等のウエハを載せる載置面とするとともに」その下側に「導電性ベース部材」を有するものであるので,甲2発明の「セラミック板状体」は本件発明7の「該ベース部材の前記表面側に配置され,被処理物を支持する支持面を有する支持部材」に相当する。
(ウ) 甲2発明の「第一の有機系接着剤層」は「エポキシ接着剤等を用いることができること」,甲2発明の「第二の有機系接着剤層」は「シリコン接着剤」「等を用いることができること」,甲2発明の「絶縁性フィルム」の材質は「ポリイミド」等であるから,甲2発明の「第一の有機系接着剤層」,「第二の有機系接着剤層」及び「絶縁性フィルム」は「樹脂」であると言える。また,甲2発明では「静電チャック部」と「導電性ベース部材」との間に,「第一の有機系接着剤層」,「第二の有機系接着剤層」及び「絶縁性フィルム」を含んで接着するものであり,また,甲2発明では「第一又は第二の有機系接着剤層中に,炭化珪素,アルミナ,窒化アルミニウム等のフィラーを添加しても良い」ものであり,ここで,甲2発明の「フィラー」は本件発明7の「充填剤」に相当するので,甲2発明の「静電チャック部の下面側には一対の静電吸着用電極を覆うように,第一の有機系接着剤層を介して絶縁性フィルムを接着するとともに,この絶縁性フィルムと導電性ベース部材を第二の有機系接着剤を介して接着することによりウエハ載置ステージを構成」することは,本件発明7と「第1樹脂層と,第2樹脂層と,を備え,前記ベース部材と前記支持部材との間には,前記第1樹脂層及び前記第2樹脂層を含む接合層が配置され,該接合層は,前記ベース部材側に配置された前記第1樹脂層と,前記支持部材側に配置された前記第1樹脂層と,これら2つの前記第1樹脂層の間に配置された前記第2樹脂層と,を含む」点で共通する。
(エ) 甲2発明の「ウエハ載置ステージ」は,ウエハを載せる載置面を有しており,本件発明7の「加熱装置」との間で,被処理物を支持する点では共通するので,甲2発明の「ウエハ載置ステージ」は,本件発明7と被処理物を支持する「支持装置」であるという点で共通する。
したがって,本件発明7と,甲2発明とは以下の点で一致し,相違する。
(一致点)
「表面及び裏面を有するベース部材と,
該ベース部材の前記表面側に配置され,被処理物を支持する支持面を有する支持部材と,
第1樹脂層と,
第2樹脂層と,を備え,
前記ベース部材と前記支持部材との間には,前記第1樹脂層及び前記第2樹脂層を含む接合層が配置され,
該接合層は,前記ベース部材側に配置された前記第1樹脂層と,前記支持部材側に配置された前記第1樹脂層と,これら2つの前記第1樹脂層の間に配置された前記第2樹脂層と,を含むことを特徴とする支持装置。」
(相違点)
(相違点5)本件発明7においては,「被処理物を加熱するヒータ」が「支持部材に設けられ」ているのに対して,甲2発明においてはヒータがセラミック板状体に設けられていない点。
(相違点6)第1樹脂層について,本件発明7においては,「充填材を含有する」のに対して,甲2発明においては,「第一及び第二の有機系接着剤層間の熱伝導性を高めるため,第一又は第二の有機系接着剤層中に,炭化珪素,アルミナ,窒化アルミニウム等のフィラーを添加しても良い」とはされているものの,充填剤を含有するとまでは特定されていない点。
(相違点7)第2樹脂層について,本件発明7においては,「充填材を含有しない」ものであるが,甲2発明においては,充填剤を含有しないとは特定されていない点。
(相違点8)支持装置について,本件発明7においては「加熱装置」であるのに対して,甲2発明においては,被処理物を支持するウエハ載置ステージであるが,「加熱装置」であると特定されていない点。

イ 判断
相違点5について検討する。
甲2発明は「静電チャック部は,セラミック板状体の上面を,半導体ウエハ等のウエハを載せる載置面とするとともに,上記セラミック板状体の下面に導体層よりなる一対の静電吸着用電極を形成したものであ」るので,上記(1)イでの相違点1についての検討と同様,甲2発明に甲3発明を適用しても,「半導体ウエハ等のウエハを載せる載置面」となる「セラミック板状体の上面」と,「導体層よりなる一対の静電吸着用電極」が形成された「セラミック板状体の下面」との間に位置する「セラミック板状体」に「被処理物を加熱するヒータ」を設けること,すなわち,本件発明7の構成は観念することができず,また,阻害要因も存在する。
よって,その他の相違点を検討するまでもなく,本件発明7は,甲2発明及び甲3発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものではない。
特許異議申立人は,本件発明7について,本件発明1についてと同様の主張を行っているが,上記(1)イで検討したと同様に,その主張には理由がない。

6 むすび
したがって,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1及び7に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1及び7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-01-24 
出願番号 特願2014-225084(P2014-225084)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 内田 正和  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 鈴木 和樹
梶尾 誠哉
登録日 2018-04-13 
登録番号 特許第6321522号(P6321522)
権利者 日本特殊陶業株式会社
発明の名称 加熱装置  
代理人 名古屋国際特許業務法人  

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