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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E04B
管理番号 1348754
異議申立番号 異議2018-700819  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-05 
確定日 2019-02-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第6316896号発明「建築鋼管柱溶接方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6316896号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6316896号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成28年9月30日の出願であって、平成30年4月6日付けでその特許権の設定登録がされ、平成30年4月25日に特許掲載公報が発行された。その後、平成30年10月5日付けで特許異議申立人中川賢治(以下「申立人」という。)より請求項1?6に対して特許異議の申立てがされたものである。

第2 特許異議の申立てについて
1 請求項1?6に係る発明
請求項1?6に係る発明(以下、「本件発明1」等、あるいはまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
建設現場において、エレクションピースを建て入れ冶具で連結して仮固定された上下の角形鋼管を、溶接ロボットを用いて溶接する方法であって、
角形鋼管がR角部を有し、角形鋼管の平面部にエレクションピースが設置されており、
隣接する建て入れ冶具間毎を連続して溶接ロボットを用いて初期溶接を行い、
初期溶接終了後に、建て入れ冶具を撤去して、残りの溶接を行い、
溶接終了後にエレクションピースをガス溶断して除去すること、
を特徴とする建築用角形鋼管柱の溶接方法。
【請求項2】
建設現場においてR角部を有する角形鋼管であって、角形鋼管の4平面部にエレクションピースが設置され、上下の角形鋼管に設置されたエレクションピースを建て入れ冶具で連結されている角形鋼管の継手溶接を行う方法であって、
接合部の4面に設けられた建て入れ冶具で区切られた四半部の内、対向する四半部を、
溶接ロボットを用いて最初の数層分を連続して溶接し、溶接端部を研磨し、
次いで、他の溶接ロボットを用いて残りの2つの四半部を、同様に最初の数層分を連続して溶接し、
建て入れ冶具を撤去し、
2台の溶接ロボットを用いて、互いに半周を交互に、端部を研磨しつつ、残りの数層分を溶接して溶接を完了し、
溶接終了後にエレクションピースをガス溶断して除去することを特徴とする建築用角形鋼管柱の溶接方法。
【請求項3】
4面にエレクションピースが接合された、R角部を有する角形鋼管を建築現場で建て込みをおこなって、上下の角形鋼管のエレクションピースを建て入れ冶具で仮固定した後、
上下いずれかの角形鋼管の接合部付近に、周回する溶接ロボットの案内レールを取付け、該レールに2台の溶接ロボットを対向して配置し、
以下の溶接工程を行い、レール撤去とガス溶断によるエレクションピース撤去を行うことを特徴とする建築用角形鋼管柱の溶接方法。
A工程:コーナーを挟んで隣り合う第1四半部とこの第1四半部と対向する第3四半部の溶接部をそれぞれ個別の溶接ロボットを用いてティーチングする、
B工程:レールにて溶接ロボットを対向して案内走行させて、第1四半部とこの第1四半部と対向する第3四半部を、該当四半部の間隔連続して行う溶接を初層から数層(2層?3層程度)行い、それぞれの溶接端部を研磨する、
C工程:第2四半部とこの第2四半部と対向する第4四半部の溶接部をティーチングする、
D工程:レールにて溶接ロボットを対向して案内走行させて、第2四半部とこの第2四半部と対向する第4四半部を、該当四半部の間隔連続して行う溶接を初層から数層(2層?3層程度)行い、
E工程:建て入れ冶具を撤去する、
F工程:一方の溶接ロボットを半周分走行させて、ティーチングして、最初の半周分の溶接を行い、端部を研磨する、
G工程:他方の溶接ロボットを残りの半周分走行させて、ティーチングして、残りの半周分の溶接を行い、端部を研磨する、
H工程:一方の溶接ロボットと他方の溶接ロボットによる半周溶接を、一方の溶接ロボットが先行して行い、端部研磨を行いつつ、他方の溶接ロボットが半周溶接を後行して行う交互溶接を、所要数分繰り返して溶接を完了する。
【請求項4】
直線部からコーナー部への溶接ロボットの速度調整をコーナー部に移行する前の10?20mm間に行うことを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の建築用角形鋼管柱の溶接方法。
【請求項5】
溶接トーチに印加する電流、電圧、速度を一定に保つ操行制御を行うことにより、ビードの品質が保たれることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の建築用角形鋼管柱の溶接方法。
【請求項6】
溶接トーチの後端側を溶接ロボットの基体に接続することにより、基体からトーチ先端までの長さを長くして、溶接ロボットの首を振って建て入れ冶具で覆われた鋼管の接合部を溶接することを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の建築用角形鋼管柱の溶接方法。」

2 特許異議申立て理由の概要
請求項1?6に係る特許に対しての特許異議申立て理由の要旨は、次のとおりである。

本件特許の請求項1?6に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

3 甲各号証の記載
甲第1号証:特開平8-270224号公報
甲第2号証:夏目光尋、「入門講座 建築鉄骨の施工」、溶接学会誌、一般社団法人溶接学会、1990年、第59巻(1990)第8号、558?563頁
甲第3号証:「鉄骨工事技術指針・工事現場施工編 1977制定 2007改定」、日本建築学会、2007年、342?345頁
甲第4号証:木林長仁 外4名、「溶接ロボットの鉄骨柱-柱現場溶接への適用について」、鉄構技術(STRUTEC)、株式会社鋼構造出版、1994.11、62?66頁
甲第5号証:特許第3079485号公報
甲第6号証:大月真一 外1名、「鉄骨柱の現場横向き溶接ロボットの開発」、宮地技報、宮地エンジニアリング株式会社、No.11、1995年12月、30?36頁

(1)甲第1号証について
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、図面と共に次の事項が記載されている。(下線は当決定で付与。以下同じ。)

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 下部既設鉄骨柱上部と上部新設鉄骨柱下部の左右前後の面に互いに対向する位置でエレクションピースを設ける工程と、上記各鉄骨柱の左右の面における上記エレクションピースの互いに対応するものに主拘束治具を固定すると共に、上記各鉄骨柱の前後の面における上記エレクションピースの互いに対応するものに副拘束治具を固定する工程と、新設鉄骨柱上部の梁材を柱間に固定した後に、上記副拘束治具を撤去する工程と、ジョイント部に沿って溶接トーチを走行させながら溶接し、存置された主拘束治具部分の柱ジョイントは溶接トーチの差し込みで溶接する工程とより成ることを特徴とする鉄骨柱の建入れ溶接方法。
【請求項2】 下部既設鉄骨柱上部と上部新設鉄骨柱下部の左右の外面に互いに対向する位置でエレクションピースを設けると共に、上記下部既設鉄骨柱の前後の内面に互いに対向する位置で内部ピースを上記下部既設鉄骨柱の上端から上方に突出して設ける工程と、上記各鉄骨柱の左右の外面における上記エレクションピースの互いに対応するものに主拘束治具を固定する工程と、上記下部既設鉄骨柱の前後の内面に設けた上記内部ピースの上部に、上記上部新設鉄骨柱に螺合したレベル上,下用ボルトを係合せしめる工程と、主拘束治具部分以外の柱ジョイント部を、ジョイント部に沿って溶接トーチを走行させながら溶接する工程とより成ることを特徴とする鉄骨柱の建入れ溶接方法。
【請求項3】 存置された拘束治具部分の両側に接近した部分の溶接ビードの接合を時間差をもって行なうことを特徴とする請求項1または2記載の鉄骨柱の建入れ溶接方法。」

(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、建造物構築時の鉄骨柱の建入れ溶接方法、特に、柱ジョイント部の溶接作業を簡便になし得る鉄骨柱の建入れ溶接方法に関するものである。」

(ウ)「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記の溶接作業中のエレクションピースの切断を不要とし、溶接作業を淀みなく行なうことができ、溶接完了までのエレクションピースなどによる仮接合治具を少なくとも対向する2面において存置させることによる溶接時のゆがみ変形の少ない柱ジョイント部の溶接接合を可能にするものである。」

(エ)「【0010】本発明においては、図1及び図2に示すように、上記エレクションピース3,3´をこれによって上記柱ジョイント部4を覆わないよう、柱ジョイント部4から夫々下方及び上方に十分離間した位置に設けると共に、溶接作業時に存置させる予定の拘束治具5を接続するためのエレクションピース3,3´を、既設及び新設鉄骨柱1,2の互いに対向する面、例えば左右の面に1個づつ設置し、また、柱建入れ後、上部の梁材接続完了時に撤去することになる補助拘束治具9を受けるエレクションピース3,3´を残りの対向面に1個づつ設置し、夫々鉄骨柱に溶接固定せしめる。
【0011】次いで、下部既設鉄骨柱1上に上部新設鉄骨柱2を建入れ、この状態で、エレクションピース3,3´に拘束治具5と補助拘束治具9を取り付けて仮拘束を行ない、鉄骨の建て方を進めて上部の梁接続固定が完了した段階で、即ち、上部新設鉄骨柱2の位置が下部既設鉄骨柱1に相対的に変化する心配がなくなった時点で図3及び図4に示すように、補助拘束治具9を撤去し、2台の自動溶接機を対面にセットし、その溶接トーチ7を上記柱ジョイント部4に接近させ、柱ジョイント部4に沿って溶接トーチ7を走行させながら溶接トーチ7でジョイント部4を溶接する。
【0012】この際各溶接トーチ7が、存置されている拘束治具部分の両側に接近した際には、お互いに時間差をもって、拘束治具5のジョイント側開口に差し込むように溶接トーチ7を動かすことにより、その部分の溶接ビード継ぎを行なうことができる。この場合、拘束治具5まで撤去して、溶接作業を行なうことも考えられるが、その場合上部新設鉄骨柱2は下部既設鉄骨柱1上に重力で載っているだけの状態となり、風や地震による水平力に対して、危険であるので全拘束治具5,9の溶接前の撤去は避けなければならない。
【0013】この方法は、ボックス柱に限らずに、図5及び図6に示すように円柱や角が曲線状態となる成形コラムの柱溶接においても適用できる。」

(オ)「【0015】
【発明の効果】上記のように本発明の鉄骨柱の建入れ溶接方法によれば、自動溶接機による柱ジョイント部の自動溶接をスムーズに行なうことができ、従来の自動溶接機では必要であった部分溶接した溶接止端部のエンドタブ設置作業や止端部のはつり作業をなくすことができ、鉄骨建て方時の柱溶接作業の効率化・省人化に寄与する溶接方法を提供できるようになる。」

(カ) 図6から、鉄骨柱はR角部を有する角形鋼管であることが看て取れる。

イ 甲第1号証に記載された発明の認定
甲第1号証には、上記アを踏まえると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「下部既設鉄骨柱上部と上部新設鉄骨柱下部の左右前後の面に互いに対向する位置でエレクションピースを設ける工程と、上記各鉄骨柱の左右の面における上記エレクションピースの互いに対応するものに主拘束治具を固定すると共に、上記各鉄骨柱の前後の面における上記エレクションピースの互いに対応するものに副拘束治具を固定する工程と、新設鉄骨柱上部の梁材を柱間に固定した後に、上記副拘束治具を撤去する工程と、2台の自動溶接機を対面にセットし、ジョイント部に沿って溶接トーチを走行させながら溶接し、存置された主拘束治具部分の柱ジョイントは溶接トーチの差し込みで溶接する工程とより成り、
鉄骨柱はR角部を有する角形鋼管であり、
溶接作業中のエレクションピースの切断を不要とし、溶接作業を淀みなく行なうことができ、溶接完了までのエレクションピースなどによる仮接合治具を少なくとも対向する2面において存置させることによる溶接時のゆがみ変形の少ない柱ジョイント部の溶接接合を可能にするものであり、
主拘束治具まで撤去して、溶接作業を行なうことも考えられるが、その場合上部新設鉄骨柱は下部既設鉄骨柱上に重力で載っているだけの状態となり、風や地震による水平力に対して、危険であるので全拘束治具の溶接前の撤去は避けなければならない、
鉄骨柱の建入れ溶接方法」

(2)甲第2号証について
甲第2号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

「8.現場接合
(1)柱の接合
鉄骨の現場での接合は高力ボルトと溶接がともに用いられている。・・エレクションピースでボルトを用いて仮固定し、エレクションピースのついていない2面を溶接したのち、エレクションピースをガス切断で除去してあとの2面を溶接する。」(561頁左欄下から8行?末行)

(3)甲第3号証について
甲第3号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

「(5)柱接合部横向溶接の注意点
横向溶接は一般に凸型ビードとなりやすく、前層の溶接ビードの間が狭くなり、溶込み不良が生じやすいので、なるべく溶接ビードを滑らかに仕上げ、スラグをていねいに取り除くよう注意する。」(343頁1?3行)

(4)甲第4号証について
甲第4号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

(ア)「2.1 溶接ロボットシステム
溶接ロボットの機器構成および主仕様を図1、表1に示す。また、その外観を写真1に示す。ロボットは1本の炭酸ガスアーク溶接用トーチを持ち、2台1組で使用される。2台のロボットは柱に取り付けられた同一のレール上を懸垂状態で走行し、半周ずつ繰り返し往復しながら溶接を行う。このとき、それぞれの溶接ビード端部を所定の長さだけ重ねることによって、コラム全周にわたり欠陥のない平滑なビードを持つ溶接継手が得られる。」(62頁左欄下から3行?中欄10行)

(イ)「3.5 最適溶接条件設定プログラム
今回のコラムの板厚16mmに対応する標準の積層設計を3層8パスとして、それぞれのパスごとに電圧、電流、速度、ウィービング幅、狙い位置などの最適溶接条件を内蔵プログラムにより計算している。」(64頁右欄7?13行)

(5)甲第5号証について
甲第5号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 直線部と円弧状の曲線部とからなる溶接線を有する角鋼管同士を突き合わせて溶接する溶接装置において、
前記角鋼管の直線部及び曲線部とからなる溶接線に沿って角鋼管に取り付けられるレールと、
溶接トーチを搬送しながら前記レール上を移動可能とされた台車と、
前記レールの各位置におけるレールの曲率及び角鋼管の溶接線の曲率を予め記憶する記憶手段と、
前記台車のレール上での位置を検出する位置検出手段と、
前記記憶手段及び位置検出手段から前記レールの各位置でのレール及び角鋼管の溶接線の曲率を求め、その値に基づいて同一の溶接線上の直線部と曲線部との溶接ビードの厚みが連続的に一定となるよう前記台車の走行速度又は溶接ワイヤ送給速度もしくはこれらの両方を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする角鋼管の自動溶接装置。
【請求項2】 直線部と円弧状の曲線部とからなる溶接線を有する角鋼管同士を突き合わせて溶接する溶接装置において、
前記角鋼管の直線部及び曲線部とからなる溶接線に沿って角鋼管に取り付けられるレールと、
溶接トーチを搬送しながら前記レール上を移動可能とされた台車と、
前記角鋼管の溶接線の曲率を予め記憶する記憶手段と、
レールの曲線部における、前記台車の加速度を検出する加速度検出手段と、
前記加速度検出手段から前記レールの各位置でのレールの曲率を求め、その値と前記記憶手段に記憶された角鋼管の溶接線の曲率に基づいて同一の溶接線上の直線部と曲線部との溶接ビードの厚みが連続的に一定となるよう前記台車の走行速度又は溶接ワイヤ送給速度もしくはこれらの両方を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする角鋼管の自動溶接装置。
【請求項3】 直線部と円弧状の曲線部とからなる溶接線を有する角鋼管同士を突き合わせて溶接する溶接装置において、
前記角鋼管の直線部及び曲線部に沿って角鋼管に取り付けられるレールと、
溶接トーチを搬送しながら前記レール上を移動可能とされた台車と、
前記角鋼管の溶接線の曲率を予め記憶する記憶手段と、
前記台車を溶接作業の前に前記レール上を通過させ、このとき前記溶接トーチと前記角鋼管との間に電圧を印加して通電を電流の上昇又は電圧の低下から検知することにより前記溶接トーチと前記角鋼管との接触を検出する接触検出手段と、
前記接触検出手段から前記レールの各位置でのレールの曲率を求め、その値と前記記憶手段に記憶された角鋼管の溶接線の曲率に基づいて同一の溶接線上の直線部と曲線部との溶接ビードの厚みが連続的に一定となるよう前記台車の走行速度又は溶接ワイヤ送給速度もしくはこれらの両方を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする角鋼管の自動溶接装置。
【請求項4】 前記制御手段は、前記曲線部でも前記直線部でも前記溶接ワイヤ送給速度を一定として前記台車の走行速度を制御することを特徴とする、請求項1、2又は3記載の角鋼管の自動溶接装置。」

(イ)「【0008】
【作用】本発明は前記の構成により、建設現場で使用される角鋼管同士を突き合わせて溶接する際に、角鋼管に固定的に取り付けることが可能なレールを設け、このレールの上で溶接トーチ及び制御手段を搬送する台車を移動させて溶接することにより、角鋼管の自動溶接が可能となる。また、制御手段が角鋼管の溶接線の曲率に応じて適切に台車走行速度およびワイヤ送給速度を制御することにより、直線部と曲線部のビードの厚みが一定になるよう調節することができる。」

(ウ)「【0012】溶接台車30の下部には、先端から溶接ワイヤ44を送給する溶接トーチ42が設けられている。この溶接トーチ42はガスメタルアーク溶接用の溶接トーチで、溶接台車30によるレール18に沿った移動(これをx方向とする)の他、図1に示すように開先深さ方向(y方向)及び開先幅方向(z方向)にも移動できる。したがって、この溶接トーチ42の先端部は、被溶接物の任意の位置へ移動させることができる。y方向とz方向が含まれる平面は、前記ベアリング32と、その奥行き方向にあるもう一組のベアリングを結ぶ線の中点に垂直になるよう設定されている。このようにすることによってレールの円弧部を台車が走行するとき、トーチ先端がほぼ円弧状に移動することができる。さらに、溶接トーチ自体を揺動させて先端部にいわゆるウィービング動作を行わせることもできる。溶接条件は、溶接台車30の走行速度と溶接ワイヤ44の送給速度によって決定され溶接電圧はこれらの値に対し適正なアーク状態を維持する値に選ばれる。」

(6)甲第6号証について
甲第6号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

「今回採用した(株)神戸製鋼所の「POCO」は、6自由度・多関節型+1自由度(走行台車)の同時6軸および7軸制御のティーチングプレイバック方式となっている。」(30頁右欄8?10行)

4 第29条第2項(進歩性欠如違反)について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明の対比
本件発明1と甲1発明は、少なくとも以下の相違点で相違する。

<相違点1>
本件発明1は「初期溶接終了後に、建て入れ冶具を撤去して、残りの溶接を行」うのに対し、
甲1発明は、「新設鉄骨柱上部の梁材を柱間に固定した後に」「副拘束治具を撤去」し(「主拘束治具」は「存置」させ)、その後、溶接を行い、「危険であるので全拘束治具の溶接前の撤去は避けなければならない」としている点。

イ 判断
相違点1について検討するに、甲第1号証の「【0012】・・・拘束治具5まで撤去して、溶接作業を行なうことも考えられるが、その場合上部新設鉄骨柱2は下部既設鉄骨柱1上に重力で載っているだけの状態となり、風や地震による水平力に対して、危険であるので全拘束治具5,9の溶接前の撤去は避けなければならない」との記載から、「拘束治具5」を溶接作業前に撤去するとの選択は否定的ながら一応示されているものの、溶接作業中(例えば、初期溶接と残りの溶接の間)に「拘束治具5」を撤去するかについては何ら記載されていない。
したがって、甲1発明において、「拘束治具5」の撤去について初期溶接と残りの溶接を分けることはそもそも想定されていないというべきであり、甲1発明が、初期溶接と残りの溶接の間に拘束治具5を撤去するものであるということはできない。
また、甲第2号証?甲第6号証には、上記相違点1に係る構成である「初期溶接終了後に、建て入れ冶具を撤去して、残りの溶接を行」うことを示唆する記載はない。
申立人は、「【0012】には「存置されている拘束治具部分の両側に接近した際には、お互いに時間差をもって、拘束治具5のジョイント側開口に差し込むように溶接トーチ7を動かすことにより、その部分の溶接ビート継ぎを行なうことができる。この場合、拘束治具5まで撤去して、溶接作業を行なうことも考えられる・・・」と記載されており、初期溶接終了後に、拘束冶具を撤去して、残りの溶接を行うことも記載されている。」(特許異議申立書21頁4行?10行)旨主張するが、上記したように、甲第1号証には、相違点1に係る構成は開示されていないから、上記申立人の主張は採用できない。
よって、甲1発明において相違点1に係る本件発明1の構成にすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。

ウ 小括
したがって、本件発明1は甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2について
ア 本件発明2と甲1発明の対比
本件発明2と甲1発明は、少なくとも以下の相違点で相違する。

<相違点2>
本件発明2は「最初の数層分を連続して溶接し、建て入れ冶具を撤去し」「残りの数層分を溶接して溶接を完了」するのに対し、
甲1発明は、「新設鉄骨柱上部の梁材を柱間に固定した後に」「副拘束治具を撤去」し(「主拘束治具」は「存置」させ)、その後、溶接を行い、「危険であるので全拘束治具の溶接前の撤去は避けなければならない」としている点。

イ 判断
相違点2は、実質的に相違点1と同じであるから、上記(1)イに記載したとおりである。

ウ 小括
したがって、本件発明2は甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明3について
ア 本件発明3と甲1発明の対比
本件発明3と甲1発明は、少なくとも以下の相違点で相違する。

<相違点3>
本件発明3は「溶接を初層から数層(2層?3層程度)行い」、「E工程:建て入れ冶具を撤去」し、「所要数分繰り返して溶接を完了する」のに対し、
甲1発明は、「新設鉄骨柱上部の梁材を柱間に固定した後に」「副拘束治具を撤去」し(「主拘束治具」は「存置」させ)、その後、溶接を行い、「危険であるので全拘束治具の溶接前の撤去は避けなければならない」としている点。

イ 判断
相違点3は、実質的に相違点1と同じであるから、上記(1)イに記載したとおりである。

ウ 小括
したがって、本件発明3は甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明4?6について
本件発明4?6は、本件発明1?3のいずれかに従属し、本件発明1?3のいずれかの発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1?3と同様の理由(上記(1)?(3)参照)により、甲1発明において、相違点1、2又は3に係る本件発明4?6の構成にすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。
したがって、本件発明4?6は甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)まとめ
したがって、本件発明1?6は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、それらの特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

第3 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、証拠によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-02-05 
出願番号 特願2016-193016(P2016-193016)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 坂本 卓也土屋 保光  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 須永 聡
井上 博之
登録日 2018-04-06 
登録番号 特許第6316896号(P6316896)
権利者 大成建設株式会社
発明の名称 建築鋼管柱溶接方法  
代理人 長谷部 善太郎  
代理人 中村 理弘  
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