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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  F01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  F01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F01L
管理番号 1348755
異議申立番号 異議2018-700534  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-04 
確定日 2019-02-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6316588号発明「内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6316588号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6316588号の請求項1ないし6に係る特許(以下、請求項毎に「請求項1に係る特許」などといい、まとめて、「本件特許」という。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成25年12月27日に特許出願され、平成30年4月6日にその特許権の設定登録(特許掲載公報の発行日:平成30年4月25日)がされ、その後、その特許に対し、平成30年7月4日に特許異議申立人神尾喜代子(以下、単に「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
請求項1ないし6に係る発明(以下、発明毎に「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件特許明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
内燃機関におけるバルブとバルブシートの組合せ体であって、
前記バルブを、20?1000℃における熱伝導率が5?45(W/m・K)である材料製で、軸端部に傘部が一体的に形成し、かつ該傘部から軸部にかけて中空部が形成され、該中空部に不活性ガスとともに冷却材が装填されたバルブとし、かつ
前記バルブシートを、支持部材側層とバルブ当り面側層の2層を一体化してなる2層構造である鉄基焼結合金製バルブシートとし、前記支持部材側層が、20?300℃における熱伝導率が23?50(W/m・K)である層に、前記バルブ当り面側層が、20?300℃における熱伝導率が10?22(W/m・K)である層に形成してなり、
前記バルブの前記材料が、耐熱鋼およびその相当品、またはNi基超合金およびその相当品のうちから選ばれた1種であり、
前記バルブの前記中空部が、前記傘部内に設けられた略円盤状の大径中空部と、前記軸部に設けられたほぼ直線状の小径中空部とからなり、前記大径中空部と前記小径中空部とがほぼ直交するように連通し、前記大径中空部における前記小径中空部の開口周縁部が前記バルブの中心軸線に対し略直交する平面で構成され、かつ前記大径中空部が、前記傘部の外形に略倣うテーパー形状の外周面を備えた円錐台形状に構成されてなり、さらに、
前記鉄基焼結合金製バルブシートが、前記バルブ当り面側層と前記支持部材側層との境界面を、バルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面と、に囲まれる領域内に形成されてなり、
前記バルブ当り面側層が、バルブシート全量に対する体積%で、10?60%で、かつ基地相中に硬質粒子が分散した基地部を有し、該基地部が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で40%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有し、かつ前記硬質粒子を基地相中にバルブ当り面側層全量に対する質量%で、5?40%分散させてなる基地部組織とを有する鉄基焼結合金製で、前記支持部材側層が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有する鉄基焼結合金製であることを特徴とする内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
【請求項2】
前記冷却材が、前記バルブの材料より熱伝導率が高い材料であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
【請求項3】
前記バルブが、該バルブ表面のうち少なくとも前記バルブシートと当接する領域に、盛金していることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
【請求項4】
前記支持部材側層が、前記基地部組成に加えてさらに、質量%で、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、S、Pのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で20%以下含有する組成とすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
【請求項5】
前記バルブ当り面側層が、前記基地部組織に加えてさらに、基地相中に、固体潤滑剤粒子をバルブ当り面側層全量に対する質量%で、0.5?4%分散させてなる基地部組織を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
【請求項6】
前記支持部材側層が、基地相中に、固体潤滑剤粒子を支持部材側層全量に対する質量%で、0.5?4%分散させてなる組織を有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。」

第3 申立理由の概要及び証拠方法
1 申立理由の概要
申立人は、証拠として、甲第1号証ないし甲第15号証を提出し、以下の主張をしている。
(1)本件発明1ないし6は、甲第1号証記載の発明及び甲第2号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし6に係る特許は取り消すべきものである。
(2)請求項1ないし6に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(3)請求項1ないし6に係る特許は、その発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

2 証拠方法
(1)甲第1号証:特開2011-157845号公報
(2)甲第2号証:国際公開第2013/145250号
(3)甲第3号証:特許第6265474号公報
(4)甲第4号証:申立人が平成30年6月13日に作成した資料(「本件特許発明に用いるバルブシートと、甲第1号証(特開2011-157845号公報)に記載の甲1A発明との詳細対比結果」)
(5)甲第5号証:甲第3号証(関連特許)の特許異議申立書(異議2018-700306)の平成30年6月27日付けの補正した申立ての理由
(6)甲第6号証:東北特殊鋼、エンジンバルブ用耐熱鋼に関するURL(出力日:平成30年5月30日)(http://www.tohokusteel.com/ja/business/product/specialsteel/specialsteel_04.html)
(7)甲第7号証:本件特許の出願経過において提出された平成29年11月10日付け意見書
(8)甲第8号証:特開昭59-126701号公報
(9)甲第9号証:特開2005-88030号公報
(10)甲第10号証:「自動車技術ハンドブック 4 設計(パワートレイン)編」,社団法人自動車技術会,2005年7月25日発行,p23
(11)甲第11号証:特開平10-89495号公報
(12)甲第12号証:特開2005-113804号公報
(13)甲第13号証:申立人が平成30年6月1日に作成した資料(バルブシートの断面図)
(14)甲第14号証:平成10年(ワ)第12899号特許権侵害差止等本訴請求事件の判決文(判決日:平成13年10月9日、出力日:平成30年5月29日)(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/264/012264_hanrei.pdf)
(15)甲第15号証:甲第3号証(特許第6265474号(関連特許))の出願経過において提出された平成29年10月16日付け意見書

第4 甲第1号証ないし甲第15号証の記載
(1)甲第1号証には、特許請求の範囲の請求項1ないし7、段落【0003】、【0010】、【0016】、【0023】ないし【0025】、【0029】、【0030】、【0032】ないし【0034】、【0036】、【0037】、【0039】及び【0045】ないし【0048】並びに図1の記載からみて、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「内燃機関用バルブシートであって、
前記バルブシートを、フェイス面側層1aと着座面側層1bとの2層を一体化してなる鉄系焼結合金製バルブシートとし、
前記鉄系焼結合金製バルブシートが、前記フェイス面側層1aと前記着座面側層1bとの境界面を、バルブシート軸とのなす角度で20°以上90°以下の平均角度αを有するように形成されてなり、
前記フェイス面側層1aが、前記バルブシート全量に対する体積%で、10?45%で、かつ基地相中に硬質粒子が分散した基地部を有し、該基地部が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、S、Ca、Fのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で40%以下含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる基地部組成を有し、かつ前記硬質粒子を前記基地相中にフェイス面側層全量に対する質量%で、5?40%分散させてなる基地部組織とを有する鉄系焼結合金製で、前記着座面側層1bが、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる基地相組成を有する鉄系焼結合金である内燃機関用バルブシート。」

(2)甲第2号証には、段落[0022]、[0038]及び[0045]ないし[0050]並びに図1の記載からみて、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「バルブ10が、耐熱合金(SUH1、SUH3、SUH11、SUH35、NCF751)材料製で、
軸端部に傘部14が一体的に形成し、かつ該傘部14から軸部12にかけて中空部Sが形成され、該中空部Sに不活性ガス22とともに冷媒である金属ナトリウム20が装填されたバルブ10とし、
前記バルブ10の前記中空部Sが、前記傘部14内に設けられた径の大きい円錐台状中空部S2と、前記軸部12内の円柱状中空部S1に構成されてなるバルブ10。」

(3)甲第3号証は、本件特許権者のうちの一人である日本ピストンリング株式会社が本件特許の出願と同日に出願した特許に係る特許掲載公報であって、その特許請求の範囲には、以下の事項が記載されている。なお、甲第3号証は、本件特許の出願前に公知となった文献ではない。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェイス面側層と支持部材側層との2層を一体化してなる内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートであって、
前記支持部材側層が、20?300℃における熱伝導率が23?50(W/m・K)である層に、前記フェイス面側層が、20?300℃における熱伝導率が10?22(W/m・K)である層に形成されてなり、
前記フェイス面側層が、基地相中に硬質粒子が分散した基地部を有し、該基地部が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で40%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有し、かつ前記硬質粒子を基地相中にフェイス面側層全量に対する質量%で、5?40%分散させてなる基地部組織とを有する鉄基焼結合金製であり、
前記支持部材側層が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有する鉄基焼結合金製であり、
前記フェイス面側層が、バルブシート全量に対する体積%で、6?60%であり、
前記フェイス面側層にはバルブ当り面が形成され、
前記フェイス面側層と前記支持部材側層との境界面が、前記バルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面と、に囲まれる領域内に形成されてなることを特徴とする耐摩耗性と優れた熱伝導性とを兼備した内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
【請求項2】
前記バルブシートが、外径:15?65mm、内径:12?60mmで、高さ:4.0?10.0mmの大きさであることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
【請求項3】
前記支持部材側層が、前記基地部組成に加えてさらに、質量%で、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、S、P、Cuのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で20%以下含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
【請求項4】
前記フェイス面側層が、前記基地部組織に加えてさらに、基地相中に、固体潤滑剤粒子をフェイス面側層全量に対する質量%で、0.5?4%分散させてなる基地部組織を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
【請求項5】
前記支持部材側層が、基地相中に、固体潤滑剤粒子を支持部材側層全量に対する質量%で、0.5?4%分散させてなる組織を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシート。
【請求項6】
ダイ、コアロッド、上パンチ、下パンチと、互いに独立して駆動可能な2種のフィーダーと、独立して駆動可能な仮押しパンチとを有するプレス成形機を用いて、圧粉体を成形し、該圧粉体に焼結処理を施す2層構造の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法において、
予め、フェイス面側層用混合粉として、鉄基粉末と、合金用粉末と、硬質粒子粉末と、潤滑剤粒子粉末を、フェイス面側層が、基地相中に硬質粒子が分散した基地部を有し、該基地部が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で40%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有し、かつ前記硬質粒子を基地相中にフェイス面側層全量に対する質量%で、5?40%分散させてなる基地部組織となるように、配合し混合してなる混合粉と、支持部材側層用混合粉として、鉄基粉末と、合金用粉末と、潤滑剤粒子粉末とを、支持部材側層が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有するように、配合し混合してなる混合粉とを準備し、
前記2種のフィーダーの一方を第一のフィーダーとし、該第一のフィーダーに前記支持部材側層用混合粉を充填し、他方を第二のフィーダーとし、該第二のフィーダーに、前記フェイス面側層用混合粉を充填しておき、
前記第一のフィーダーを移動させたのち、前記ダイと前記コアロッドを前記下パンチに対し相対的に上昇させて、支持部材側層用の充填空間を形成しながら、該充填空間に前記支持部材側層用混合粉を充填し、
ついで、成形面が、バルブシート軸を含む断面でバルブシート軸とのなす角度で20?50°となる面形状に形成された前記仮押しパンチを移動させて、前記充填空間に充填された前記支持部材側層用混合粉を、成形圧を、0.01?3ton/cm^(2)となるように調整して、仮押ししてフェイス面側層との境界面となる上面を形成し、
該仮押ししたのち、前記第二のフィーダーを移動させ、前記ダイと前記コアロッドを前記下パンチに対し相対的に上昇させて、フェイス面側層用の充填空間を形成しながら、該充填空間に前記フェイス面側層用混合粉を充填し、
ついで、前記上パンチを下降させて、該上パンチを面圧:5?10ton/cm^(2)で、前記仮押しの成形圧に対する比率で3.3?500となるように、前記フェイス面側層用混合粉および前記支持部材側層用混合粉とを一体的に加圧成形して、圧粉体とし、
該圧粉体に焼結処理を施し、さらに仕上加工を施して、
フェイス面側層と支持部材側層との境界面が、前記フェイス面側層に形成されたバルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面と、に囲まれる領域内に形成されてなり、前記フェイス面側層が、バルブシート全量に対する体積%で、6?60%であり、前記フェイス面側層が前記基地部組成と前記基地部組織とを有し、20?300℃における熱伝導率が10?22(W/m・K)である層に、かつ前記支持部材側層が前記基地部組成を有し、20?300℃における熱伝導率が23?50(W/m・K)である層に形成されてなる、バルブシートとする
ことを特徴とする耐摩耗性と優れた熱伝導性とを兼備した内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法。
【請求項7】
前記焼結処理後に、さらに加圧成形および焼結処理を繰り返して施すことを特徴とする請求項6に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法。
【請求項8】
前記支持部材側層が、前記基地部組成に加えてさらに、質量%で、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、S、P、Cuのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で20%以下含有する組成であることを特徴とする請求項6または7に記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法。
【請求項9】
前記フェイス面側層用混合粉が、さらに固体潤滑剤粒子粉末を配合され、前記フェイス面側層が、前記基地部組織に加えてさらに、基地相中に、固体潤滑剤粒子をフェイス面側層全量に対する質量%で、0.5?4%分散させてなる基地部組織を有することを特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法。
【請求項10】
前記支持部材側層用混合粉が、さらに固体潤滑剤粒子粉末を配合され、前記支持部材側層が、基地相中に、固体潤滑剤粒子を支持部材側層全量に対する質量%で、0.5?4%分散させてなる組織を有することを特徴とする請求項6ないし9のいずれかに記載の内燃機関用鉄基焼結合金製バルブシートの製造方法。」

(4)甲第4号証には、本件特許明細書、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて申立人が作成した表及び図面が記載されている。

(5)甲第5号証には、甲第3号証の特許に対して申立人がした特許異議申立ての「補正した申立ての理由」が記載されている。

(6)甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
ア SUH1、SUH3、SUH11が吸気バルブ用耐熱鋼であり、SUH35が排気バルブ用耐熱鋼(鉄基)であり、NCF751が排気バルブ用耐熱鋼(Ni基高合金)であること。

イ SUH1の熱伝導率が20℃で16.7(W/m・K)、800℃で23(W/m・K)であり、SUH3の熱伝導率が20℃で15.2(W/m・K)、800℃で22.7(W/m・K)であり、SUH11の熱伝導率が20℃で25(W/m・K)であり、SUH35の熱伝導率が20℃で18.0(W/m・K)であり、NCF751の熱伝導率が20℃で13.6(W/m・K)、800℃で31.4(W/m・K)であること。

(7)甲第7号証は、本件特許の出願経過において平成29年11月10日付けで提出された意見書であって、以下の事項が記載されている。
ア 「なお、原特許請求の範囲、願書に添付しました明細書(以下、原明細書ともいう)に、誤記を発見しましたので、誤記の訂正を行いました。
原特許請求の範囲請求項9の記載「…かつ前記硬質粒子を基地相中にフェイス面側層全量に対する質量%で、…」は、「…かつ前記硬質粒子を基地相中にバルブ当り面側層全量に対する質量%で、…」の誤記であり、新請求項1で、訂正いたしました。「フェイス面側層」という語句は、本願では用いておらず、「フェイス面側層」は、本願でいう「バルブ当り面側層」に該当することは明らかであるといえます。」(第4ページ末行ないし第5ページ第6行)

イ 「引用文献1(当審注:特開2011-157845号公報=本件の甲第1号証)に記載された発明と本願発明とを対比すると、両者は、フェイス面側層(バルブ当り面側層)の体積%、フェイス面側層(バルブ当り面側層)および着座面側層(支持部材側層)の組成範囲、において確かに重複しております。しかし、引用文献1に記載された発明では、上記した組成範囲内で調整して、「前記支持部材側層が、20?300℃における熱伝導率が23?50(W/m・K)である層に、前記バルブ当り面側層が、20?300℃における熱伝導率が10?22(W/m・K)である層に形成」することまでの意図はありません。引用文献1には、フェイス面側層(バルブ当たり面側層)及び着座面側層(支持部材側層)が有すべき「熱伝導率」についての記載はもちろん、示唆する記載もないのです。」(第15ページ第5行ないし第13行)

ウ 「さらに、引用文献1に記載された発明と本願発明とは、バルブ当り面側層と支持部材側層との2層境界面の位置で、その構成を異にしております。
引用文献1に記載された発明では、「前記フェイス面側層と前記着座面側層との境界面が、バルブシート軸とのなす角度で20°以上90°以下の平均角度αを有する」(引用文献1:公報第2頁特許請求の範囲請求項2)としており、図1にその断面が例示されております。引用文献1に記載された発明では、2層境界面の角度のみを限定しているだけであり、境界面の位置までは限定しておりません。これに対して、本願発明では、「前記バルブ当り面側層と前記支持部材側層との境界面を、バルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面と、に囲まれる領域内に形成されてなり」(本願特許請求の範囲請求項1)として、2層境界面の位置を明確に限定しております。この点で両者は、明らかに相違しております。さらに、引用文献1の図1に示される断面から判断すると、引用文献1に記載された発明では、2層境界面は、少なくとも「バルブシートの外周面上」にはありません。引用文献1に記載された発明における2層境界面は、本願発明におけるような「バルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面と、に囲まれる領域内」にないことは明らかであると言えます。」(第15ページ第14行ないし第16ページ第11行)

エ 「引用文献2(当審注:特公平1-37466号公報)に記載された発明(複合焼結バルブシート)は「二種の異なる焼結合金によって形成され」ており、この点においては、本願発明と重複しております。しかし、引用文献2に記載された発明では、「第1焼結合金および第2焼結合金の双方には銅合金が溶浸されてなる」(引用文献2:公報第第1頁左下欄特許請求の範囲1)としており、銅合金を溶浸することのない本願発明とは、この点において明らかに相違しております。なお、審査官殿のご指摘のように、引用文献2には、第1焼結合金、第2焼結合金の熱伝導率の一例が示されており、例えば、第2焼結合金の熱伝導率として「13.0×10^(-2)Cal/cm・sec・℃」(引用文献2:公報第5頁右欄41行)が記載されております。しかし、この熱伝導率は、銅合金を溶浸させた状態での値であり、銅合金を溶浸させることのない本願発明における「熱伝導率」ではありません。引用文献2には、本願発明と異なる材料についての「熱伝導率」がたまたま、記載されているにすぎないのです。引用文献2には、本願発明でバルブシートに使用する材料についての「熱伝導率」が記載されているわけではないのです。また、引用文献2には、本願のバルブシートの各層の組成範囲内で調整して、「前記支持部材側層が、20?300℃における熱伝導率が23?50(W/m・K)である層に、前記バルブ当り面側層が、20?300℃における熱伝導率が10?22(W/m・K)である層に形成」することまでの示唆はないのです。
さらに付言すれば、引用文献2に記載された発明では、「第2焼結合金が重量%にてC0.5?1.4%、P0.1?0.4%残部実質的にFeよりなる鉄系焼結合金であり」(引用文献2:公報第1頁左下欄13?15行)ます。引用文献2には、「銅溶浸に対してPを0.1?0.4%含む鉄系合金粉末を用いることによって対処する…Pは焼結収縮に効果を有し、銅の焼結膨張効果に対し相殺する」(引用文献2:公報第5頁左欄13?16行)旨の記載があり、「第2焼結合金」(支持部材側層)にPを必須含有させております。銅合金の溶浸を行うことのない本願発明では、Pを必須含有させることはありません。この点においても、引用文献2に記載された発明と本願発明とは相違しております。銅溶浸されることのない本願発明では、「銅の焼結膨張効果に対し相殺する」ために、Pを多量に含有する必要はないのです。」(第18ページ第1行ないし第19ページ第2行)

オ 「引用文献5(当審注:国際公開第2013/145250号=本件の甲第2号証)には、「中空バルブ」が、本願発明におけるように「傘部13内に設けられた略円盤状の大径中空部S1と、軸部11に設けられたほぼ棒状の小径中空部S2とがほぼ直交するように連通し、大径中空部における小径中空部の開口周縁部がバルブ10の中心軸線Lに対し略直交する平面13bで構成され」(本願明細書:段落[0011]1?4行)、さらに、「大径中空部は、傘部の外形に略倣うテーパー形状の外周面を備えた円錐台形状に構成される」(本願明細書:段落[0030]1?2行)ことについて、明らかな示唆はありません。」(第25ページ第21行ないし第26ページ第3行)

(8)甲第8号証には、「焼結合金部品の製造方法」に関して、以下の事項が記載されている。
ア 「2層以上の複層成形体をロータリープレスで成形する場合には、複層の境界面(焼結後は接合面となる。)を、斜面や段差を設けた複雑形状等の水面あるいは垂直単一面のみで構成されない形状に成形するために、複層化する第1層をダイキヤビティに充填後第2層との境界面を2t/cm^(2)以下、更に好ましくは1.5t/cm^(2)以下の低圧力で予備加圧成形するステーションを設けるとよい」(第3ページ左下欄第11行ないし第19行)

イ 「第1図に示す如き内径d27mm、外径D37mm、厚さh10mmの寸法を有する重量35g/個のリング状成形体をロータリープレスで作製し、AXガス中1120℃で焼結して焼結体を得た。」(第4ページ左上欄第13行ないし第16行)

ウ 「実施例3
第5図に示す如く実施例1の成形体と同じ外径D、内径dを有するが高さh方向10mmの縦断面積の約1/4を内径側のほぼ45°面で複合した2層複合成形体を作成し、焼結して焼結体を得た。
粉末は実施例2と同一であり、ロータリープレス成形では第4図に示す如く混合粉末Aの給粉箱3Aを内周回転させ、その給粉箱の粉未導入側に第7図に示す如く3箇所に仕切板ガイド6を設けた。予備加圧成形を1.0t/cm^(2)で行った。」(第4ページ右下欄第4行ないし第13行)

エ 「第13図に従ってロータリープレスによる粉末成形工程の概略を述べると、図中2はターンテーブルで、ターンテーブル内の矢印は該テーブル2の回転方向を示し、テーブル2には適数個のダイス8が備えられている。テーブル2の回転によってテーブル面21上に配置されている第1層給粉箱3Bがダイス8上にくると、下パンチ10が下降して混合粉末Bを吸引充填する。次に、充填された混合粉末Bを上パンチ9で仮押し(予備加圧)するとともに下パンチ10を下降させて第2層用の粉末が給粉できるようにする。その後、第2層給粉箱3Aによりダイス8内に混合粉末Aを給粉し、上・下パンチ9,10で加圧して成形する。成形後は、下パンチ10を押し上げ成形体を取り出して成形を終了する。なお、第13図には図示してないが、吸塵装置を用いることは前記したとおりである。」(第4ページ右下欄第17行ないし第5ページ左上欄第13行)

オ 「成形圧力は、本発明で限定した見掛密度の粉末を用いる限り、通常の焼結体を得るには4t/cm^(2)未満では密度が上らず、また8t/cm^(2)を越えてかけても密度の上昇効果がなく、金型のカジリ等の悪影響が出るので4?8t/cm^(2)が好ましい。」(第7ページ左下欄第15行ないし第19行)

(9)甲第9号証には、「複合バルブシートの粉末成形方法」に関して、次の事項が記載されている。
「【0007】
図7は焼結合金製のバルブシートの縦断面図である。このバルブシート15は、ほぼ相似形の焼結体を製作し、必要に応じ各面をサイジングや切削加工にて所定寸法形状に仕上げたものであり、低級な焼結合金製の本体部16と、高級な焼結合金製で不図示のバルブと当接する傾斜状のシート部17とから構成されている。(以下略)」

(10)甲第10号証には、弁シートに関して、次の事項が記載されている。
「弁シートの角度は通常45°円錐形であり,弁との当たり幅は冷却性や密着性を考慮し,1-2mm程度である。」(第23ページ右欄下から10行ないし8行)

(11)甲第11号証には、「ポペットバルブにおける弁フェースの成形硬化方法及び装置」に関して、以下の事項が記載されている。
ア 「【0002】
【従来の技術】図5は、軸部の下端に漸次拡径する傘部(2)を備える一般的なポペットバルブ(1)を示すが、その傘部(2)の上縁に形成されたテーパ状の弁フェース(2a)は、エンジンの運転中に、弁座に繰返し激しく衝接するので、高い耐摩耗性が要求される。
【0003】そのため、従来のポペットバルブ(1)では、弁フェース(2a)となる個所に環状溝を形成し、この環状溝にステライト等の硬質合金を盛金(3)することにより、その部分の耐摩耗性を高めている。」

イ 図5には、ポペットバルブ1の傘部2に盛金3を設けた構成が記載されている。

(12)甲第12号証には、「エンジンバルブ」に関して、以下の事項が記載されている。
ア 「【0012】
図1は本発明に係るエンジンバルブのバルブフェース部の要部拡大断面図である。尚、図2と同一部材には同一符号を付してある。図1においてエンジンバルブ1は、バルブヘッド2とバルブステム(図示せず)とが一体に形成されており、バルブヘッド2の上面2aのバルブフェースを形成する部位に周方向に沿って環状凹溝2bが形成されており、この環状凹溝2bに盛金部6が設けられてバルブフェース4が形成されている。盛金部6は、盛金中間層7と盛金表層(盛金)8とからなる2層構造とされ、これらの盛金中間層7と盛金表層8とがバルブヘッド2の環状凹部2bに積層して形成されている。」

イ 図1には、バルブヘッド2の環状凹溝2bに盛金部6が設けられてバルブフェース4が形成された構成が記載されている。

(13)甲第13号証には、申立人が作成したバルブシートの断面図が記載されている。

(14)甲第14号証は、平成10年(ワ)第12899号特許権侵害差止等本訴請求事件及び平成11年(ワ)第13872号反訴請求事件の判決であって、次の事項が記載されている。
「(ア)特許発明の技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲によって定めなければならず、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するに当たっては、明細書の特許請求の範囲以外の記載及び図面を考慮するものとされている(特許法70条1項、2項)。また、明細書の特許請求の範囲以外の部分及び図面を考慮してもなお特許請求の範囲に記載された用語の意義が多義的であり、あるいは不明確な場合には、その解釈に当たり、出願経過において出願人が示した認識や意見を参酌することも許されるものというべきである。
さらに進んで、特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外するなど、特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを明示的に承諾した場合のほか、出願経過中の手続補正書や意見書、特許異議答弁書等において、特許庁審査官の拒絶理由又は特許異議申立の理由に対応して特許請求の範囲記載の意義を限定する陳述を行い、それが特許庁審査官ないし審判官に受け入れられた結果、これらの拒絶理由又は特許異議申立の理由が解消し、特許をすべき旨の査定ないしと特許を維持すべき旨の決定がされたような場合には、その特許権に基づく侵害訴訟において、特許権者が前記陳述と矛盾する主張をすることは、一般原則としての信義誠実の原則ないしは禁反言の原則に照らして許されないとするのが相当である。
なぜなら、出願経過における手続補正書や意見書、特許異議答弁書等の出願書類(包袋)は、何人も閲覧又は謄本の交付を請求することができる(特許法186条)のであり、出願人の前記のような行動や陳述は、一般第三者において、特許請求の範囲が限定されたものと理解するのが通常であり、第三者のこのような理解に基づく信頼は保護すべきものと解されるからである。」(第11ページ第38行ないし第12ページ第2行)

(15)甲第15号証は、甲第3号証に係る出願の出願経過において平成29年10月16日付けで提出された意見書であって、次の事項が記載されている。
「(3-6)補正された本願の新請求項6(旧請求項8、10、11)に係る発明
まず、引用文献1(当審注:特開昭59-126701号公報)に記載された発明と補正された本願の新請求項6に係る発明(以下、この項では本願発明ともいう)とを対比すると、(3-1)項で詳述しましたように、両者はその課題で大きく相違しております。
(中略)
また、引用文献1には、「予備加圧成形を1.0 t/cm^(2)で行った」(引用文献1:公報第4頁右下欄13行)、「成形圧力は、…通常の焼結体を得るには…4?8 t/cm^(2)が好ましい」(引用文献1:公報第7頁左下欄15?19行)との記載があり、本願発明における「仮押しパンチを用いて、0.01?3ton/ cm^(2)の範囲の成形圧に調整して、仮押しする」、「上パンチを面圧:5?10 ton/ cm^(2)で、…一体的に加圧成形して、圧粉体とする」本願発明とは、成形圧力の点では重複することになります。しかし、本願発明では、「上パンチを面圧:5?10 ton/ cm^(2)で、前記仮押しの成形圧に対する比率で3.3?500となるように」「一体的に加圧成形」します。引用文献1には、「成形圧力」と「予備加圧成形」(仮押し)の成形圧との比率についての記載はなく、引用文献1に記載された発明では、「成形圧力」を「予備加圧成形」(仮押し)の成形圧に対して調整することまでの意図はないというべきであります。この点でも引用文献1に記載された発明と本願発明とは相違しているとも言えます。
さらに、上記したような成形方法の違いもあり、本願発明で得られるバルブシートでは、安定して、「フェイス面側層と支持部材側層との境界面が、前記フェイス面側層に形成されたバルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面と、に囲まれる領域内に形成」することができるのです。」(第30ページ第17行ないし第33ページ第20行)

第5 当審の判断
1 特許法第29条第2項について
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「フェイス面側層1a」は、本件発明1の「バルブ当り面側層」に相当し、「着座面側層1b」は「支持部材側層」に相当する。
また、甲1発明の「前記バルブシートを、フェイス面側層1aと着座面側層1bとの2層を一体化してなる鉄系焼結合金製バルブシートとし」は、「前記バルブシートを、支持部材側層とバルブ当り面側層の2層を一体化してなる2層構造である鉄基焼結合金製バルブシートとし」という限りにおいて、本件発明1の「前記バルブシートを、支持部材側層とバルブ当り面側層の2層を一体化してなる2層構造である鉄基焼結合金製バルブシートとし、前記支持部材側層が、20?300℃における熱伝導率が23?50(W/m・K)である層に、前記バルブ当り面側層が、20?300℃における熱伝導率が10?22(W/m・K)である層に形成してなり」と共通する。
また、甲1発明の「前記鉄系焼結合金製バルブシートが、前記フェイス面側層1aと前記着座面側層1bとの境界面を、バルブシート軸とのなす角度で20°以上90°以下の平均角度αを有するように形成されてなり」は、「前記鉄基焼結合金製バルブシートが、前記バルブ当り面側層と前記支持部材側層との境界面を、所定の領域内に形成されてなり」という限りにおいて、本件発明1の「前記鉄基焼結合金製バルブシートが、前記バルブ当り面側層と前記支持部材側層との境界面を、バルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面と、に囲まれる領域内に形成されてなり」と共通する。
また、甲1発明の「該基地部が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、S、Ca、Fのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で40%以下含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる基地部組成を有し」は、「該基地部が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で40%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有し」という限りにおいて、本件発明1の「該基地部が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で40%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有し」と共通する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「内燃機関におけるバルブシートであって、
前記バルブシートを、支持部材側層とバルブ当り面側層の2層を一体化してなる2層構造である鉄基焼結合金製バルブシートとし、
前記鉄基焼結合金製バルブシートが、前記バルブ当り面側層と前記支持部材側層との境界面を、所定の領域内に形成されてなり、
前記バルブ当り面側層が、バルブシート全量に対する体積%で、10?45%で、かつ基地相中に硬質粒子が分散した基地部を有し、該基地部が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で40%以下含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる基地部組成を有し、かつ前記硬質粒子を前記基地相中にバルブ当り面側層全量に対する質量%で、5?40%分散させてなる基地部組織とを有する鉄基焼結合金製で、前記支持部材側層が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる基地相組成を有する鉄基焼結合金製である内燃機関用バルブシート。」
という点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
ア 本件発明1は「内燃機関におけるバルブとバルブシートとの組合せ体」であるのに対し、甲1発明は、「内燃機関用バルブシート」である点(相違点1)。

イ バルブに関して、本件発明1は、「前記バルブを、20?1000℃における熱伝導率が5?45(W/m・K)である材料製で、軸端部に傘部が一体的に形成し、かつ該傘部から軸部にかけて中空部が形成され、該中空部に不活性ガスとともに冷却材が装填されたバルブとし」、「前記バルブの前記材料が、耐熱鋼およびその相当品、またはNi基超合金およびその相当品のうちから選ばれた1種であり、前記バルブの前記中空部が、前記傘部内に設けられた略円盤状の大径中空部と、前記軸部に設けられたほぼ直線状の小径中空部とからなり、前記大径中空部と前記小径中空部とがほぼ直交するように連通し、前記大径中空部における前記小径中空部の開口周縁部が前記バルブの中心軸線に対し略直交する平面で構成され、かつ前記大径中空部が、前記傘部の外形に略倣うテーパー形状の外周面を備えた円錐台形状に構成されてな」るのに対し、甲1発明は、どのようなバルブか不明である点(相違点2)。

ウ バルブシートの支持部材側層とバルブ当り面側層に関して、本件発明1は、「前記支持部材側層が、20?300℃における熱伝導率が23?50(W/m・K)である層に、前記バルブ当り面側層が、20?300℃における熱伝導率が10?22(W/m・K)である層に形成してなり」、「前記バルブ当り面側層が、バルブシート全量に対する体積%で、10?60%」で、「C:0.2?2.0%を含み、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で40%以下含有する」のに対し、
甲1発明は、前記着座面側層1bとフェイス面側層1aの熱伝導率が不明であり、前記フェイス面側層1aが、前記バルブシート全量に対する体積%で、「10?45%」で、かつ基地相中に硬質粒子が分散した基地部を有し、該基地部が、質量%で、C:0.2?2.0%を含み、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、S、「Ca、F」のうちから選ばれた1種または2種以上を合計で40%以下含有する点(相違点3)。

エ バルブシートの境界面に関して、本件発明1は、前記鉄基焼結合金製バルブシートが、前記バルブ当り面側層と前記支持部材側層との境界面を、「バルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面と、に囲まれる」領域内に形成されてなるのに対し、甲1発明は、「前記鉄系焼結合金製バルブシートが、前記フェイス面側層1aと前記着座面側層1bとの境界面を、バルブシート軸とのなす角度で20°以上90°以下の平均角度αを有するように形成されてな」る点(相違点4)。

事案に鑑み、上記相違点4について検討する。
本件発明1は、「前記鉄基焼結合金製バルブシートが、前記バルブ当り面側層と前記支持部材側層との境界面を、バルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面と、に囲まれる領域内に形成されてなり」という発明特定事項を有するものであるが、甲第1号証の明細書及び図面には、このような発明特定事項は明記されていない。
また、一般に、特許出願の願書に添付された図面は、特許発明を理解するための事項を記載したもので、設計図のように寸法、位置関係を精密に示すものではないので、寸法等の明記のない甲第1号証の図面から相違点4に係る発明特定事項を導くことはできない。
また、相違点4に係る発明特定事項は、甲第2号証にも記載されておらず、本件の出願前に周知の技術でもなく、当業者が適宜なし得る設計的事項ということもできない。
したがって、相違点1ないし3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、本件発明1は、上記発明特定事項を有することにより、本件明細書に記載された優れた作用効果を奏するものである。

(2)本件発明2ないし6について
本件発明2ないし6は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるから、本件発明2ないし6は、甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし6は、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号に該当するものではなく、申立てがされた理由によって取り消すことができない。

2 特許法第36条第6項第2号について
(1)申立人は、本件発明は、「前記鉄基焼結合金製バルブシートが、前記バルブ当り面側層と前記支持部材側層との境界面を、バルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面(A面)」と「前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面(B面)」とが交差する場合があるから、本件発明が明確でないと主張する。
しかしながら、申立人の主張を踏まえても、本件発明は明確であるといえる。
仮に、A面とB面とが交差するとしても、非常に特殊な場合であり、その場合にはA面とB面とに囲まれる領域に境界面を設定することができないから、そのようなものは、本件発明には含まれないといえる。
したがって、本件発明が明確でないとはいえない。

(2)申立人は、甲第7号証(本件特許発明の審査過程における意見書)の記載に基づいて、本件発明の中空バルブに関する記載が明確でないと主張する。
しかしながら、本件発明が明確かどうかは、本件特許明細書に基づいて判断すべきものである。
そして、本件発明における中空バルブの構造は、本件特許明細書から明確といえる。
したがって、申立人の主張は当を得ておらず、本件発明が明確でないとはいえない。

(3)申立人は、甲第7号証(本件特許発明の審査過程における意見書)の記載に基づいて、本件発明の境界面の位置に関する記載が明確でないと主張する。
しかしながら、本件発明が明確かどうかは、本件特許明細書に基づいて判断すべきものである。
そして、本件発明における境界面の位置は、本件特許明細書から明確といえる。
したがって、申立人の主張は当を得ておらず、本件発明が明確でないとはいえない。

(4)申立人は、申立人が作成した甲第4号証と、甲第3号証の記載に基づき、本件発明のうち、バルブ当り面側層の体積比率が10%以上11%未満の範囲のものは存在しない旨主張する。
しかしながら、本件発明におけるバルブシートは、本件特許明細書に記載された範囲から理解するものであり、本件発明のバルブシートと甲第3号証に記載されたバルブシートとが同一であるか否かに関わらず、本件発明の理解において甲第3号証を参酌する必要はない。
また、仮に、バルブ当り面側層の体積比率が10%以上11%未満の範囲のものは存在しないとしても、そのことのみをもって本件特許を取り消すほどの瑕疵とはいえない。
したがって、申立人の主張は当を得ておらず、本件発明が明確でないとはいえない。

(5)申立人は、甲第7号証(本件特許発明の審査過程における意見書)の記載に基づいて、本件発明のバルブシートがCuを含むかどうか明確でないと主張する。
しかしながら、本件発明には、Cuの含有量に関して明記されていないから、本件発明は、Cuを含むもの、及び含まないものがあることは明確である。
したがって、申立人の主張は当を得ておらず、本件発明が明確でないとはいえない。

(6)申立人は、申立人が作成した甲第4号証の記載に基づき、本件発明の熱伝導率に関する記載が明確でない旨主張する。
しかしながら、本件発明には、熱伝導率の範囲が明確に記載されているから、本件発明の熱伝導率の範囲は明確である。
また、申立人は、本件発明と、甲1発明とは熱伝導率が重複している可能性があるから、本件発明の熱伝導率の記載が明確でないと主張しているが、甲1発明と本件発明の熱伝導率が重複している可能性があるということと、本件発明の熱伝導率の記載が明確でないということは別に検討べきことである。
したがって、申立人の主張は当を得ておらず、本件発明が明確でないとはいえない。

(7)申立人は、申立人が作成した甲第4号証の記載に基づき、本件発明の境界面は、甲1発明のものと重複する可能性があるから、本件発明の境界面に関する記載が明確でない旨主張する。
しかしながら、甲1発明の境界面の位置と本件発明の境界面の位置が重複している可能性があることと、本件発明の境界面に関する記載が明確でないということとは別に検討すべきことである。
上記(3)で述べたように、本件発明における境界面の位置は、本件特許明細書から明確に把握できる。
したがって、申立人の主張は当を得ておらず、本件発明が明確でないとはいえない。

(8)まとめ
以上のとおり、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
したがって、請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第4号に該当するものではなく、申立てがされた理由によって取り消すことができない。

3 特許法第36条第4項第1号について
(1)申立人は、甲第3号証(関連特許)の出願経過の意見書に基づいて、発明の詳細な説明には、甲第3号証に記載されている加圧条件が記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する条件を満たしていない旨主張する。
しかしながら、本件特許と甲第3号証とは別の出願であるから、本件発明の実施可能性は本件の発明の詳細な説明に基づき検討すべきものである。
したがって、他の出願の手続に基づいて、本件発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確に記載されていないということはできない。
そして、発明の詳細な説明の段落【0040】ないし【0041】には、加圧成形条件の一部が記載されており、当業者は、この記載と技術常識に基づいて、適宜加圧成形をすることができるといえるから、本件発明について、当業者がその実施ができる程度に明確に記載されていないとはいえない。

(2)まとめ
以上のとおり、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
したがって、請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第4号に該当するものではなく、申立てがされた理由によって取り消すことができない。

第6 むすび
上記第5のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-01-28 
出願番号 特願2013-273342(P2013-273342)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F01L)
P 1 651・ 537- Y (F01L)
P 1 651・ 536- Y (F01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 稲村 正義  
特許庁審判長 水野 治彦
特許庁審判官 鈴木 充
金澤 俊郎
登録日 2018-04-06 
登録番号 特許第6316588号(P6316588)
権利者 日鍛バルブ株式会社 日本ピストンリング株式会社
発明の名称 内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体  
代理人 落合 憲一郎  
代理人 落合 憲一郎  
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