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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60C
管理番号 1348758
異議申立番号 異議2018-700938  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-22 
確定日 2019-02-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第6329609号発明「空気入りタイヤおよび架橋ゴム組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6329609号の請求項1?16に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6329609号(以下「本件特許」という。)は、平成28年10月21日にされた特許出願(優先権主張 平成27年10月27日)に係るものであって、平成30年4月27日に特許権の設定登録(請求項の数16)がされ、同年5月23日に特許掲載公報が発行された。
その後、特許異議申立人山内生平(以下、「申立人」という。)により、請求項1?16に係る特許について、平成30年11月22日に特許異議の申立てがされた。


第2 本件発明
本件特許の請求項1?16に係る発明は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、請求項1?16に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明16」ともいう。)

「【請求項1】
左右一対のビード部にそれぞれ設けられたビードコアと、
クラウン部から両サイドウォール部を経て両ビード部に延び前記ビードコアに係留されたカーカスプライと、
前記カーカスプライよりもタイヤ径方向内側に配置されたインナーライナーと、
前記カーカスプライよりもタイヤ径方向外側に設けられ、1.5MPaの印加応力による伸長時の低密度領域の体積が35%以上であり、ガラス転移温度が-20℃以下であるトレッドと、を備えることを特徴とする空気入りタイヤであって、
前記低密度領域が、密度が伸長前の架橋ゴム組成物の0.1?0.8倍となった領域である空気入りタイヤ。
【請求項2】
1.5MPaの印加応力による伸長時の低密度領域の体積が35%以上であり、
ガラス転移温度が-20℃以下である架橋ゴム組成物であって、
前記低密度領域が、密度が伸長前の架橋ゴム組成物の0.1?0.8倍となった領域である架橋ゴム組成物。
【請求項3】
1.5MPaの印加応力による伸長時の低密度領域の体積が40%以上である請求項2記載の架橋ゴム組成物。
【請求項4】
1.5MPaの印加応力による伸長時の低密度領域の体積が50%以上である請求項2記載の架橋ゴム組成物。
【請求項5】
1.5MPaの印加応力による伸長時の低密度領域の体積が60%以上である請求項2記載の架橋ゴム組成物。
【請求項6】
1.5MPaの印加応力による伸長時の低密度領域の体積が70%以上である請求項2記載の架橋ゴム組成物。
【請求項7】
1.5MPaの印加応力による伸長時の低密度領域の体積が72%以上である請求項2記載の架橋ゴム組成物。
【請求項8】
ガラス転移温度が-22℃以下である請求項2?7のいずれか1項に記載の架橋ゴム組成物。
【請求項9】
ガラス転移温度が-24℃以下である請求項2?7のいずれか1項に記載の架橋ゴム組成物。
【請求項10】
ガラス転移温度が-25℃以下である請求項2?7のいずれか1項に記載の架橋ゴム組成物。
【請求項11】
ガラス転移温度が-28℃以下である請求項2?7のいずれか1項に記載の架橋ゴム組成物。
【請求項12】
共役ジエン系化合物を含むゴム成分を含む請求項2?11のいずれか1項に記載の架橋ゴム組成物。
【請求項13】
1.5MPaの印加応力による伸長時の低密度領域の体積が、X線CT撮影を用いた伸長時の架橋ゴム組成物の密度分布から算出されるものである請求項2?12のいずれか1項に記載の架橋ゴム組成物。
【請求項14】
X線CT撮影を用いた伸長時の架橋ゴム組成物の密度分布が撮影手段を備えた評価装置により評価され、前記撮影手段がX線を照射するX線管とX線を検出して電気信号に変換する検出器を有し、前記検出器がX線を可視光に変換するための蛍光体を有し、前記蛍光体の減衰時間が100ms以下である請求項13記載の架橋ゴム組成物。
【請求項15】
前記X線管から照射されるX線の輝度が10^(10)photons/s/mrad^(2)/mm^(2)/0.1%bw以上である請求項14記載の架橋ゴム組成物。
【請求項16】
左右一対のビード部にそれぞれ設けられたビードコアと、
クラウン部から両サイドウォール部を経て両ビード部に延び前記ビードコアに係留されたカーカスプライと、
前記カーカスプライよりもタイヤ径方向内側に配置されたインナーライナーと、
前記カーカスプライよりもタイヤ径方向外側に設けられ、請求項3?15のいずれか1項に記載の架橋ゴム組成物で構成されるトレッドと、を備えることを特徴とする空気入りタイヤ。」

なお、以下、請求項1及び2に記載の「密度が伸長前の架橋ゴム組成物の0.1?0.8倍となった領域」である「低密度領域」を「所定の低密度領域」ともいう。


第3 特許異議申立書に記載した理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、証拠方法として以下の(4)の甲第1号証?甲第5号証を提出しつつ、概略、以下(1)?(3)の取消理由には理由があるから、請求項1?16に係る特許は取り消されるべきものであると主張している。

(1)甲第1号証を主引用文献とする進歩性
本件発明1は、その優先日前日本国内または外国において頒布された、又は、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2?3号証に記載される事項から、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるし、また、本件発明16は、同甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2?5号証に記載される事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1及び16は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1及び16に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。(以下「取消理由1」という。)

(2)甲第2号証を主引用文献とする進歩性
本件発明2?11は、その優先日前日本国内または外国において頒布された、又は、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲第2号証に記載された発明、及び、甲第3号証に記載される事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明12は、同甲第2号証に記載された発明、及び、甲第3?4号証に記載される事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであり、さらに、本件発明13?15は、同甲第2号証に記載された発明、及び、甲第3?5号証に記載される事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであって、これらの本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項2?15に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。(以下「取消理由2」という。)

(3)甲第3号証を主引用文献とする進歩性
本件発明2?11は、その優先日前日本国内または外国において頒布された、又は、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲第3号証に記載された発明、及び、甲第2号証に記載される事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明12は、同甲第3号証に記載された発明、並びに、甲第2号証及び甲第4号証に記載される事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであり、さらに、本件発明13?15は、同甲第3号証に記載された発明、並びに、甲第2号証、甲第4号証及び甲第5号証に記載される事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであって、これらの本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項2?15に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。(以下「取消理由3」という。)

(4)証拠方法
甲第1号証:特開2015-124241号公報
甲第2号証:特開2013-7025号公報
甲第3号証:J.-B.Le Cam and E.,Toussaint:Macromolecules,2008,41,p7579-7583,「Volume Variation in Stretched Natural Rubber: Competition between Cavitation and Stress-Induced Crystallization」、2008年10月04日にウエブ上で公開
甲第4号証:特開2014-28902号公報
甲第5号証:特開2015-96839号公報

(以下、それぞれ「甲1」?「甲5」という。)


第4 当審の判断
当審合議体は、以下に述べるように、取消理由1?3には理由はなく、申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1?16に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
以下、まず、甲1?5の記載事項を摘記し、その後、取消理由毎に判断を示すが、事案に鑑み、取消理由3、取消理由2、取消理由1の順に検討する。

1 甲1?5の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物、又は、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものである甲1?甲5には、以下の記載がある。なお、下線は当審合議体が付したものである。

(1)甲1の記載事項
「【請求項1】
天然ゴムを含有するジエン系ゴム100質量部に対して、
下記式(1)で示されるイソシアヌル酸誘導体及び/又は下記式(2)で示されるカルボン酸誘導体0.1?10質量部と、
窒素吸着比表面積が90?150m^(3)/gであるカーボンブラック40?60質量部とを含み、
前記天然ゴムの量が前記ジエン系ゴム100質量部中の40?100質量部である、重荷重車輌用タイヤのキャップトレッド用のゴム組成物。
【化1】

[式(1)中、R^(1)、R^(2)、R^(3)はそれぞれ独立に-C_(a)H_(2a)OC(=O)C_(b)H_(2b)SHであり、a、bはそれぞれ独立に1以上の整数であり、R^(1)、R^(2)、R^(3)はは同一であっても異なってもよい。]
【化2】

[式(2)中、R^(4)、R^(5)、R^(6)はそれぞれ独立に-OC(=O)C_(n)H_(2n)SHであり、R^(7)は-OC(=O)C_(n)H_(2n)SH、アルキル基又は水素原子であり、nはそれぞれ独立に2以上の整数であり、-OC(=O)C_(n)H_(2n)SHは同一であっても異なってもよい。]
・・・
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載のゴム組成物を用いて形成したキャップトレッドを有する、重荷重車輌用の空気入りタイヤ。」

「【0034】
〔ゴム組成物の製造方法〕
・・・
本発明において、ジエン系ゴムが有する不飽和結合と、イソシアヌル酸誘導体及び/又はカルボン酸誘導体が有する3個以上のメルカプト基との相互作用及び/又は反応によって、網目鎖の架橋が形成される。このような架橋構造は耐老化特性に有利な働きをすると考えられる。当該網目構造の架橋は、硫黄加硫と同時にゴムに形成させることができる。
【0035】
本発明のゴム組成物の用途は重荷重車輌用のタイヤ(例えば空気入りタイヤ)のキャップトレッド用のゴム組成物である。このほか例えば、防振ゴム、免震ゴム用のゴム組成物;パッキン等の自動車用部品用のゴム組成物などが挙げられる。
【0036】
[空気入りタイヤ]
本発明の空気入りタイヤは、本発明のゴム組成物を用いて形成した、キャップトレッドを有する、重荷重車輌用の空気入りタイヤである。
本発明の空気入りタイヤのキャップトレッドに使用されるゴム組成物は本発明のゴム組成物であれば特に制限されない。
図1に、本発明の空気入りタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図を示すが、本発明の空気入りタイヤは添付の図面に限定されない。
【0037】
図1において、空気入りタイヤは左右一対のビード部1およびサイドトレッド(サイドウォール部)2と、両サイドトレッド2に連なるキャップトレッド3からなり、ビード部1、1間にスチールコードが埋設されたカーカス層4が装架され、カーカス層4の端部がビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。トレッド部3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。ベルト層7の両端部には、ベルトクッション8が配置されている。空気入りタイヤの内面には、タイヤ内部に充填された空気がタイヤ外部に漏れるのを防止するために、インナーライナー9が設けられ、インナーライナー9を接着するためのタイゴム10が、カーカス層4とインナーライナー9との間に積層されている。図1に示す空気入りタイヤは重荷重車輌用タイヤである。
本発明において、キャップトレッドが本発明のゴム組成物を用いて形成される。」

「【0049】
1 ビード部
2 サイドトレッド(サイドウォール部)
3 キャップトレッド
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルトクッション
9 インナーライナー
10 タイゴム

【図1】



(2)甲2の記載事項
「【請求項1】
ゴム成分100質量部に対して、シリカを10?150質量部、水酸基を有し、ガラス転移温度が-40?0℃のジエン系ゴムゲルを10?30質量部含有し、
ゴム成分100質量%中の(a)ブタジエンゴムの含有量が30?90質量%、
(b)前記(a)以外のガラス転移温度が-60℃以下のジエン系ゴムの含有量が10?60質量%であるタイヤ用ゴム組成物。
・・・
【請求項9】
請求項1?8のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤ。」

「【0094】
(実施例1?15及び比較例1?9)
・・・得られた未加硫ゴム組成物をトレッド(キャップトレッド及びベーストレッド)形状に成形して、他のタイヤ部材と貼り合わせ、170℃で12分間パターン付金型で加硫することにより、試験用スタッドレスタイヤ(195/65R15)を作製した。」

(3)甲3の記載事項
甲3は、英語の文献であり、以下は、当審による訳文のみを記す。
なお、訳文において、文献末の参考文献の参照のために付されている上付き文字の記載は省略した。

ア (7579頁上欄1?18行)
「天然ゴムの伸長による体積変化:キャビテーションと応力誘起結晶化の競合
・・・
要旨: 本稿では、CIS-1,4ポリイソプレンゴムの変形時のキャビテーションと応力誘起結晶化との競合について述べる。この種の材料は、変形時に両現象によって誘起される体積変化を示す。本研究では、この体積変化をオリジナルの全視野測定法により測定することを提案する。この技法は高分解能であり、機械的サイクルにおいて特徴的な伸張比を特定できる。とくに、キャビテーションと応力誘起結晶化との競合を、結晶化開始時および結晶融解終了時の伸張比と関連させて議論する。さらに、フィラーの添加は、体積変化の応答に著しく影響を及ぼす。フィラーにより、キャビテーション現象が増幅され、より低い伸張比で結晶化を開始する。フィラーを添加したコンパウンドを用いた結果から、相対的な体積変化は、応力-伸張応答よりも小さいサイクル数で安定化され、フィラーを添加しない天然ゴムよりも結晶性が低く見えることが示された。最後に、適用されたひずみ速度では、マリンス効果は、結晶化の開始時およびクリスタリット融解の終了時に、伸張比の値に影響を及ぼさないことが見出された。」

イ (7579頁左欄1行?同頁右欄13行)
「1.緒言
ゴムの変形時にはたらく物理的メカニズムははっきり解明されておらず、依然として科学者の活発な議論の対象である。微小変形では、実験および理論的研究によると、バルク材にキャビテーションが発生する。機械的な観点から、空隙および空洞は、変形に伴って増加する損傷とみなすことができる。大変形では、ポリマー鎖ネットワークが変化し、応力誘起結晶化が起こる可能性がある。フィラーが添加されると、機械的応答はペイン効果の変形範囲および大変形範囲において強く影響を受ける。また、フィラー近傍のひずみ集中は、結晶化にとって好ましい。これら先行研究の結果は、空洞の発生および成長ならびに応力誘起結晶化が、結晶化可能なゴムの変形の際に起きる主な現象であることを示唆しているようである。これまで、両現象は体積変化を測定することによって研究されてきた。キャビテーションの場合、負荷相対的な体積変化ΔV/Vは、古典的に、1つの機械的荷重間の伸びλ(現在の長さと初期の長さの比として定義される)に対比して説明される。
・・・
本稿では、天然ゴムの変形時における両現象の競合の説明にフォーカスしている。キャビテーションは体積増加を伴い、応力誘起結晶化は体積減少を伴うため、上記の物理現象を同時に説明するためには体積変化が最も適切な実験測定値であると考えられる。そのために、画像相関に基づく全視野測定法を用いて、試料の表面上の物質点の変位から体積変化を求める。最初に、一軸の機械的サイクル間のフィラーなしの天然ゴムの体積変化を調べる。次に、フィラーが体積変化およびキャビテーションと応力誘起結晶化との競合に及ぼす影響について考察する。最後に、周期的な体積変化の安定化を、応力-伸張応答の安定化と関連させて検討する。」

ウ (7579頁右欄14行?7580頁左欄9行)
「2.実験セクション
2.1.材料および試料.すべての試料は、天然ゴム100gに対してステアリン酸3g、酸化亜鉛9.85g、酸化防止剤2g、硫黄3g、オイル3g、および促進剤4gを含有する。いくつかの試料には、カーボンブラック(天然ゴム100gあたり34g)が添加される。フィラーを添加していないコンパウンドは160°Cで10分間加熱し、フィラーを添加したコンパウンドは160°Cで7分間加熱する。以下では、フィラーを添加していないコンパウンドをNR、フィラーを添加したコンパウンドをF-NRと表記する。公称引張応力(無ひずみの単位断面積当たりの力)と伸張比λとの間の実験的関係から決定された、ムーニー弾性係数C_(l)を用いて、1g当たりの架橋のモル数νによって特徴付けられる架橋度を推定した。
・・・
・・・フィラーを添加していないコンパウンドでは、νは11.3×10^(-5)mol/gに等しい。・・・試料の寸法は、30×4mm^(2)、厚さ2mmである。

2.2 負荷条件.負荷条件機械的サイクルは、室温(23℃)および湿度34%で、50Nインストロン5543試験機を用いて所定の変位下で実施する。対応する伸張比は、フィラーを添加していないNR試料では1?4.7、フィラーを添加したNR試料では1?2.55で変化する。ひずみ速度は、各試験で1.3m^(-1)に設定される。)

2.3. 体積変化の測定.体積の変化は、画像相関技術によって得られた試料表面上の変位から推定される。」

エ (7580頁右欄1?5行)
「3.結果
最初に、第一の機械的サイクルでのNRの体積変化測定を示す。次に、F-NRを用いて同様の測定を行い、体積変化、すなわちキャビテーションおよび応力誘起結晶化に対するカーボンブラックフィラーの影響を決定する。・・・」

オ (7580頁右欄12行?7581頁右欄27行、Figure2.?4.)
「3.1. NRの体積変動.図2aは、第一の機械的サイクルの間に得られた材料の応力-伸張応答を示し、図2bは、対応する体積変化を示す。図2bでは、サイクル中の相対体積変化が6×10^(-2)を超えないことが示されている。ここで、得られた曲線は、四つのセグメント([OA]、[AB]、[BC]、[CD])によってモデル化できる。キャビテーションと応力誘起結晶化との間の競合は、各セグメントとの関連で説明することができる。
(i)セグメント[OA]:空洞の発生および成長により体積が増加する。すでに文献で報告済みだが、キャビテーションは酸化亜鉛粒子の周辺および金属酸化物含有物の極で起こる。伸張度が高いほど、空洞のサイズが大きくなる。
(ii)セグメント[AB]:λ_(A)=4.2から、体積が減少し始める。空洞が発生し成長し続けても、別の現象のために体積が減少する傾向がある。実際、NRの体積減少は、応力下でのポリマー鎖の再構成、すなわち応力誘導結晶化に起因することがよく知られている。この現象はキャビテーションと比較して一次的な現象である。
さらに、多数の著者によって報告されているように、この現象は、ゴムのアモルファス相の応力緩和も誘発する。
(iii)セグメント[BC]:除荷中、所定の伸張比での試料の体積は負荷時よりも小さい。これは、結晶化の動態と結晶融解の動態の相違、または空洞の非弾性変形のいずれかに起因する。空洞の変形を調べるため、最大伸張比がλ_(A)より低い1サイクルの体積変化を測定、すなわち結晶化か開始されるときの伸張比を測定する。図3aに、測定された応力-伸張曲線を示す。ヒステリシスループが非常に小さいという事実は、バルク材に結晶化が起こらないことを示す。図3bは、負荷時と除荷時の体積変化が同じであることを示している、これは、このような負荷条件の下で生成されたキャビテーションが弾性プロセスとみなされることを示している。結晶化および結晶融解の動力学は、機械的サイクルの間に移動グリップの変位を停止させることによって検討することができる。ここでは、移動グリップは、3回目の機械的サイクル、つまり安定化機械的サイクル中に3mmごとに1分間停止される。結果を図4に示す。停止中、負荷時は応力は緩和されるが、除荷時は増加しない。これは、結晶化とは反対に、結晶溶融がー瞬であることを証明している。したがって、所定の伸張比で始まった結晶化は、より大きな伸張比の伸張試験の間も継続する。これはTRABELSI6による最近の研究とも良く一致している。これらの結果は、体積変化曲線のヒステリシスループがポリマー鎖の結晶化によるものであることを証明している。最後に、点Cは、最後の結晶融解に対応する。
(iv)セグメント[CD]:空洞が閉じると、体積がわずかに減少する。
これまでの結果を要約すると、相対的な体積変化はNRで6×10^(-2)を超えない。顕著な残留体積の変化は観察されない。これは、空洞の変形が弾性的なプロセスであることを示している。これは、第一の機械的サイクル後の残留伸張にキャビテーション、すなわち体積増加が関与しないことを示している。キャビテーションと結晶化との間の競合が注目されている。とくに、結晶化は一次的現象であり、空洞が成長し続けても材料の体積を減少させる傾向がある。結晶化と結晶融解との間の動力学の違いから、より具体的には、結晶化とは異なり結晶融解は一瞬の現象であることから、所定の伸張比での体積変化が負荷中より除荷中の方が低いということを説明できる。結晶化開始時および結晶融解終了時の伸びは、それぞれ4.2および2に等しいことがわかった。
・・・



図4.3mmごとに1分停止した張力試験

カ (7581頁右欄28行?7582頁右欄8行、Figure5.)
「3.2. フィラーの影響.材料には、あらかじめ天然ゴム100G当りカーボンブラック(N326)34gが添加されていた。サンプルの幾何学的形状は、NRの場合と同じである。所定の変位量で1サイクルを行う。サイクル中に到達する最大伸張比は、2.55である。第一の機械的サイクル中の材料の応力-伸張応答を図5aに示す。予想どおり、フィラーは材料の剛性を高める。図5bに、対応する体積変化を示す。この図では、相対的体積変化は、最大伸張比2.55で24×10^(-2)に達する。上記で説明したように、フィラーはキャビテーション現象と脱凝集現象を増幅する。測定された体積変化曲線は、5つのセグメント([OA]、[AB]、[BG]、[GC]および[CD])によってモデル化することができる。以前の結果と同様に、この曲線には固有の伸張比(λ_(A)およびλ_(C))が観察され、新しい固有伸張比も観察される。したがって、各セグメントに関連するキャビテーションと応力誘起結晶化との間の競合を説明することが可能である:
(i) セグメント[OA]:無変形から、体積は空洞の発生および成長のために増加する。
(ii) セグメント[AB]:λ_(A)=1.64から、曲線の勾配はセグメント[OA]の場合より小さい。実際、空洞が連続的に成長しても、キャビテーションはまだフィラーの添加による一次的現象であり、結晶化が始まり、体積増加とは反対である。NRの場合より低い伸張比で結晶化が起こるという事実は、局所的変形を増幅するフィーラーの存在によって説明される。
(iii) セグメント[BG]:除荷の開始時、空洞サイズが小さくなり、結晶の融解が始まると、体積が減少する。フィラーを添加していないコンパウンドと同様に、除荷時の結晶化度は所定の伸張比での負荷時の結晶化度より高く、体積変化は除荷時より小さい。
(iv) セグメント[GC]:空洞の体積は減少し続け、結晶は溶融し続けるが、速度は速くなる。その結果、体積変化率は低い。
(v) セグメント[CD]:結晶融解が完了し、体積の減少は空洞閉鎖によるものである。・・・



(4)甲4の記載事項
「【請求項1】
ガラス転移温度が-40℃以上の芳香族ビニル共役ジエン共重合ポリマーを20重量%以上含むゴム成分100重量部に対し、カーボンブラックを5?80重量部、シリカを5?100重量部、前記カーボンブラックとシリカの合計を40?120重量部配合したタイヤ用ゴム組成物であって、前記ゴム成分の平均ガラス転移温度が-60℃以上であると共に、前記カーボンブラックの凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径Dstが145nm以上、窒素吸着比表面積N_(2)SAが45?70m^(2)/g、よう素吸着量IA(単位mg/g)に対する前記窒素吸着比表面積N_(2)SAの比N_(2)SA/IAが1.00?1.40、DBP吸収量が100?160ml/100gであることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。」

(5)甲5の記載事項
「【請求項1】
ゴム又はエラストマーを含む弾性材料の変形を観察するための方法であって、
前記弾性材料の任意の軸線と直交する方向から、前記弾性材料の少なくとも一部の投影像を、前記軸線周りの複数の撮影位置で撮影する撮影工程と、
前記投影像から前記弾性材料の三次元像を構成する工程と、
前記三次元像を観察する工程とを含み、
前記撮影工程は、
弾性材料を予め定められた周期で変形させる変形工程と、
前記1周期中の予め定められた特定のタイミングで撮影信号を出力する工程と、
前記撮影信号に基づいて、前記弾性材料の前記投影像を撮影する工程とを、前記各撮影位置で行うことを特徴とする弾性材料の変形の観察方法。
【請求項2】
前記変形工程は、前記弾性材料を被当接面に押し付ける第1押圧具により行われる請求項1記載の弾性材料の変形の観察方法。
【請求項3】
前記第1押圧具は、回転する出力軸を有する電動機と、前記出力軸の回転運動を直線往復運動に変換する変換具と、前記変換具に連結されかつ前記弾性材料を保持するホルダーとを含む請求項2記載の弾性材料の変形の観察方法。
【請求項4】
前記撮影信号を出力する工程は、前記弾性材料の直線往復運動中の特定位置を検出する回転位置検知具と、
この回転位置検知具の検出信号に基づいて、パルス信号を出力するパルス発生器とによって行われる請求項3に記載の弾性材料の変形の観察方法。
【請求項5】
前記弾性材料は、外周面が円形であり、
前記変形工程は、前記弾性材料の前記外周面を被当接面上に押し付けながら転動させる第2押圧具により行われる請求項1記載の弾性材料の変形の観察方法。
【請求項6】
前記第2押圧具は、前記弾性材料を保持するホルダー、前記弾性材料を回転させる電動機、及び、前記ホルダーと前記被当接面との距離を変化させる調節具を含む請求項5記載の弾性材料の変形の観察方法。
【請求項7】
前記撮影信号を出力する工程は、前記弾性材料の転動中の特定位置を検出する回転位置検知具と、
この回転位置検知具の検出信号に基づいて、パルス信号を出力するパルス発生器とによって行われる請求項6に記載の弾性材料の変形の観察方法。
【請求項8】
前記投影像を撮影する工程は、シャッタートリガーを有するX線カメラによって行われ、
前記パルス信号が前記シャッタートリガーに入力される請求項4又は7に記載の弾性材料の変形の観察方法。」

「【0057】
なお、複数の撮影位置P・・・において、特定の変形状態の投影像を確実に撮影するために、検出器48の蛍光体(図示省略)の減衰時間は、100ms以下に設定されるのが望ましい。なお、蛍光体の減衰時間が100msを超えると、前回撮影した投影像の残像が残るため、複数の撮影位置Pにおいて、投影像を撮影するのが難しいおそれがある。逆に、蛍光体の減衰時間が小さすぎても、光電子の可視光線への変換効率が低下するおそれがある。このような観点より、蛍光体の減衰時間は、好ましくは50ms以下、さらに好ましくは10ms以下が望ましく、また、好ましくは0.1ms以上が望ましい。
【0058】
同様の観点より、X線の輝度(photons/s/mrad^(2)/mm^(2)/0.1%bw )は、好ましくは10^(10)以上、さらに好ましくは10^(12)以上が望ましい。」

2 取消理由3について
(1)甲3発明
上記1(3)に摘記した甲3のウの記載事項によれば、甲3には、「天然ゴム100gに対して、ステアリン酸3g、酸化亜鉛9.85g、酸化防止剤2g、硫黄3g、オイル3g、促進剤4g、及び、カーボンブラック34gが添加されたフィラー添加天然ゴムをしたコンパウンドであるF-NRを、160°Cで7分間加熱して得られた、架橋されてなる試料」(F-NR架橋ゴム試料)が記載されていると認められる。
そして、当該F-NR架橋ゴム試料は、甲3のア、イ、エ、カの記載事項によれば、応力を印加して伸長することによりキャビテーション現象による空隙部が形成されて体積が増加するものであるところ、特に、カの記載事項の図5(a)から、F-NR架橋ゴム試料に1.5MPaの応力を印加した場合の伸長比λは、おおよそ2.38であることが読み取れる。そして、F-NR架橋ゴム試料を伸張したときの体積変化を示す図5(b)によれば、伸長比λがおおよそ2.38の場合には、試料の体積変化量が、伸長しない場合(横軸のλ=1)の場合よりも大きな値となっているから、甲3には、F-NR架橋ゴム試料に1.5MPaの応力を印加した場合に、F-NR架橋ゴム試料の体積が増加することが記載されているといえる。
してみると、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

「天然ゴム100gに対して、ステアリン酸3g、酸化亜鉛9.85g、酸化防止剤2g、硫黄3g、オイル3g、促進剤4g、及び、カーボンブラック34gが添加されたフィラー添加天然ゴムコンパウンドであるF-NRを、
160°Cで7分間加熱して得られた、F-NR架橋ゴム試料であって、
1.5MPaの応力を印加した場合に空隙部が形成されて体積が増加するF-NR架橋ゴム試料。」

(2)対比・判断
ア 本件発明2について
(ア) 対比
本件発明2と甲3発明を対比する。
甲3発明における「天然ゴム100gに対して、ステアリン酸3g、酸化亜鉛9.85g、酸化防止剤2g、硫黄3g、オイル3g、促進剤4g、及び、カーボンブラック34gが添加されたフィラー添加天然ゴムコンパウンドであるF-NRを、160°Cで7分間加熱して得られた、F-NR架橋ゴム試料」は、本件発明2の「架橋ゴム組成物」に相当する。
また、甲3発明のF-NR架橋ゴム試料は、「1.5MPaの応力を印加した場合に空隙部が形成されて体積が増加する」、すなわち、密度が低下するものといえるから、これは、本件発明2の「1.5MPaの印加応力による伸長時」に、「低密度領域の体積」を有するものといえる。

そうすると、本件発明2と甲3発明は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違するといえる。
<一致点>
1.5MPaの印加応力による伸長時に低密度領域の体積を有する架橋ゴム組成物。

<相違点1>
低密度領域について、本件発明2では、「密度が伸長前の架橋ゴム組成物の0.1?0.8倍となった領域」(以下、「所定の低密度領域」という。)であり、その「体積が35%以上」と特定されているのに対して、甲3発明では、低密度領域が所定の低密度領域であるかは不明であるし、所定の低密度領域がどの程度の体積を有するのか不明である点。
<相違点2>
架橋ゴム組成物について、本件発明2では、「ガラス転移温度が-20℃以下」と特定されているのに対して、甲3発明では、ガラス転移温度については特定されていない点。

(イ) 相違点についての判断
まず、相違点1について検討する。
甲3には、F-NR架橋ゴム試料の低密度領域の体積を測定することはおろか、F-NR架橋ゴム試料自体の密度を測定することすら記載も示唆もされておらず、ましてや、「密度が伸長前の架橋ゴム組成物の0.1?0.8倍となった領域」(つまり、「所定の低密度領域」)の「体積」を「35%以上」とすることは記載も示唆もされていない。
また、申立人が提出した他のいずれの証拠(甲1、2、4及び5)を参酌しても、甲3発明のF-NR架橋ゴム試料が、1.5MPaの印加応力による伸長時に、「所定の低密度領域」が存在するものであり、かつ、当該所定の低密度領域の体積が35%以上となっていると認めるに足りる証拠はないし、甲3発明のF-NR架橋ゴム試料をそのような特性とすることを示唆する記載もない。
そうすると、甲3、及び、申立人が提出した他のいずれの証拠を参酌しても、相違点1に係る本件発明2の構成を導き出すことはできないのであるから、本件発明2を、相違点1に係る本件発明2の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

そして、本件発明2は、1.5MPaの印加応力による伸長時の低密度領域の体積が35%以上と多い架橋ゴム組成物であること(すなわち、相違点1に係る本件発明2の構成を備えること)によって、耐摩耗性に優れたものとなるという効果が奏される(本件特許明細書の【0016】の記載や【0116】の表1(実施例1と比較例2)の記載参照。)ところ、この点の効果は、甲3及び申立人の提出した他のいずれの証拠からも示唆されない効果である。

したがって、相違点2について検討するまでもなく、相違点1で甲3発明と異なる本件発明2について、甲3発明及び申立人が提出した他の証拠(甲1、2、4及び5)に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものということはできない。

申立人は、申立書の18?21頁において、甲3の図5(a)から読み取れるF-NR架橋ゴム試料の1.5MPaの印加応力での伸長率と、図5(b)から読み取れる前記伸長率における体積変化の値に基づいて申立人が行った計算によれば、甲3発明のF-NR架橋ゴム試料は、相違点1(当審合議体注;申立書でいうところの相違点2である。)を満足する旨主張するので、以下検討する。
本件発明2における「低密度領域の体積」とは、本件特許明細書の【0113】に「試験用タイヤのトレッド部から、直径10mm、高さ1mmの円柱状のゴム試験片を切り出した各ゴム試験片を、図1に示す治具に固定して伸長を開始し、1.5MPaの印加応力による伸長時にX線(輝度:10^(16)photons/s/mrad^(2)/mm^(2)/0.1%bw)を照射してCT撮影を行い、撮影した画像の再構成により作成された三次元像の断層画像から、密度分布から、伸長時のゴム試験片中の低密度領域の体積比率を算出した。なお、X線CT撮影は大型放射光施設SPring-8のビームラインBL20B2で行い、蛍光体は減衰時間が1msのP43(Gd_(2)O_(2)S:Tb)を使用し、CT再構成はConvention Back Projection法により、厚み10μmの断層画像を200枚積層することで行った。また、低密度領域は、伸長前のゴム試験片の平均密度を1とした場合、密度が0.1?0.8となった領域として行った。」と記載されているように、直径10mm、高さ1mmの円柱状のゴム試験片を、図1に示される(なお、図1の記載は省略する。)治具に固定して伸長を開始し、1.5MPaの印加応力による伸長時にX線CT撮影を行い、撮影した画像の再構成により作成された三次元像の断層画像の密度分布から算出したものであると解される。
一方、甲3には、前述のとおり、F-NR架橋ゴム試料の密度の測定については全く記載されていないのであるし、甲3におけるF-NR架橋ゴム試料の1.5MPaの印加応力での伸長は、本件発明2とは異なり、30×4mm^(2)、厚さ2mmの寸法・形状の試料を用いて、本件発明2とは異なる試験機(50Nインストロン5543試験機)を用いて測定されたものである。
そして、ゴム試験片の形状及び試験方法が異なれば、同じ応力をかけた場合であっても得られる伸長率も異なるのが通常であるから、甲3の図5(a)及び図5(b)に基づく計算結果に基づく申立人の主張には根拠がない。また、申立人の計算結果は、甲3のF-NR架橋ゴム試料の低密度領域の密度を、0.45と仮定して行った結果であるところ、この仮定自体にも根拠がない。よって、申立人の主張は失当であり、採用できない。

イ 本件発明3?15について
本件発明3?15は、いずれも、請求項2を直接又は間接的に引用するものである。
そうすると、上記アに示した理由と同様の理由により、本件発明3?15について、甲3発明及び申立人が提出した他の証拠(甲1、2、4及び5)に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものということはできない。

(3)取消理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由3には理由がなく、取消理由3によって本件特許の請求項3?15に係る特許を取り消すことはできない。


3 取消理由2について
(1)甲2発明
上記1(2)に摘記した甲2の記載事項によれば、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「ゴム成分100質量%中の(a)ブタジエンゴムの含有量が30?90質量%、(b)前記(a)以外のガラス転移温度が-60℃以下のジエン系ゴムの含有量が10?60質量%であるゴム成分100質量部に対して、
シリカを10?150質量部、水酸基を有し、ガラス転移温度が-40?0℃のジエン系ゴムゲルを10?30質量部含有してなる、
タイヤ用ゴム組成物を用いて加硫して作製した空気入りタイヤ。」

(2)対比・判断
ア 本件発明2について
(ア) 対比
本件発明2と甲2発明を対比する。
甲2発明における「加硫」工程により、甲2発明のタイヤ用ゴム組成物は「架橋」されているといえるから、甲2発明の「タイヤ用ゴム組成物を用いて加硫して作成した空気入りタイヤ」は、本件発明2の「架橋ゴム組成物」に相当する。
そうすると、本件発明2と甲2発明は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違するといえる。
<一致点>
架橋ゴム組成物。

<相違点3>
架橋ゴム組成物について、本件発明2では、「密度が伸長前の架橋ゴム組成物の0.1?0.8倍となった領域」(すなわち、「所定の低密度領域」)の「1.5MPaの印加応力による伸長時の低密度領域の体積が35%以上」と特定されているのに対して、甲2発明では、かかる特定はされていない点。
<相違点4>
架橋ゴム組成物について、本件発明2では、「ガラス転移温度が-20℃以下」と特定されているのに対して、甲2発明では、加硫後(架橋後)の空気入りタイヤ(ゴム組成物)のガラス転移温度については特定されていない点。

(イ) 相違点についての判断
まず、相違点3について検討する。
甲2には、所定のタイヤ用ゴム組成物を用いて加硫して作製した空気入りタイヤについて、1.5MPaの印加応力による伸長時に低密度領域の体積を測定することはおろか、前記空気入りタイヤ自体の密度を測定することすら記載も示唆もされていないし、ましてや、「密度が伸長前の架橋ゴム組成物の0.1?0.8倍となった領域」である「低密度領域」の「1.5MPaの印加応力による伸長時の体積を35%以上」とすることは記載も示唆もされていない。
また、申立人が提出した他のいずれの証拠(甲1、3?5)を参酌しても、甲2発明の空気入りタイヤが、1.5MPaの印加応力による伸長時に、「所定の低密度領域」が存在するものであり、かつ、当該所定の低密度領域の体積が35%以上となっていると認めるに足りる証拠はないし、また、甲2発明の空気入りタイヤをそのような特性とすることを示唆する記載もない。
そうすると、甲2及び申立人が提出した他のいずれの証拠を参酌しても、相違点3に係る本件発明2の構成を導き出すことはできない。
よって、本件発明2を、相違点3に係る本件発明2の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

そして、本件発明2は、2(2)ア(イ)でも記載したとおり、そのことにより、耐摩耗性に優れたものとなるという効果が奏されるところ、この点の効果は、甲2及び申立人の提出した他のいずれの証拠からも示唆されない効果である。

したがって、相違点4について検討するまでもなく、相違点3で甲2発明と異なる本件発明2について、甲2発明及び申立人が提出した他の証拠に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものということはできない。

イ 本件発明3?15について
本件発明3?15は、いずれも、請求項2を直接又は間接的に引用するものである。
そうすると、上記アに示した理由と同様の理由により、本件発明3?15について、甲2発明及び申立人が提出した他の証拠(甲1、3?5)に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものということはできない。

(3)取消理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由2には理由がなく、取消理由2によって本件特許の請求項3?15に係る特許を取り消すことはできない。


4 取消理由1について
(1)甲1発明
上記1(1)に摘記した甲1の記載事項、特に、請求項1に記載のゴム組成物(以下、「所定のゴム組成物」という。)についての記載及び、当該所定のゴム組成物を用いて形成される【0036】の重荷重車輌用の空気入りタイヤについての記載によれば、甲1には、
「左右一対のビード部1およびサイドウォール2と、両サイドウォール2に連なるキャップトレッド3からなり、ビード部1、1間にスチールコードが埋設されたカーカス層4が装架され、カーカス層4の端部がビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられ、
トレッド部3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置され、ベルト層7の両端部にベルトクッション8が配置され、
空気入りタイヤの内面には、インナーライナー9が設けられ、インナーライナー9を接着するためのタイゴム10が、カーカス層4とインナーライナー9との間に積層された重荷重車輌用タイヤであって、
キャップトレッド3が所定のゴム組成物を用いて形成された、重荷重車輌用空気入りタイヤ。」
が記載されている。

そして、図1によれば、当該重荷重車輌用の空気入りタイヤでは、
・左右一対のビード部1、1に、それぞれビードコア5が設けられていること、
・カーカス層は、クラウン部から両サイドウォール2を経て両ビード部1に延びており、また、カーカス層4の端部はビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられて係留されていること、
・カーカス層4よりもタイヤ径方向内側にインナーライナー9が配置されていること、
・カーカス層4よりもタイヤ径方向外側にキャップトレッド3が設けられていること、
がみてとれる。

そうすると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「左右一対のビード部1およびサイドウォール2と、両サイドウォール2に連なるキャップトレッド3からなり、クラウン部から両サイドウォール2を経てビード部1、1間にスチールコードが埋設されたカーカス層4が装架され、カーカス層4の端部がビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられて係留され、
トレッド部3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置され、ベルト層7の両端部にベルトクッション8が配置され、
空気入りタイヤの内面には、インナーライナー9が設けられ、インナーライナー9を接着するためのタイゴム10が、カーカス層4とインナーライナー9との間に積層された重荷重車輌用タイヤであって、
左右一対のビード部1、1に、それぞれビードコア5が設けられ、カーカス層4よりもタイヤ径方向内側にインナーライナー9が配置され、カーカス層4よりもタイヤ径方向外側にキャップトレッド3が設けられてなる、
キャップトレッド3が所定のゴム組成物を用いて形成された、重荷重車輌用空気入りタイヤ。」

(なお、甲1発明において発明特定事項として記載されている数字は、図面の記載に対応させることで、当該甲1発明の理解を容易にするために便宜的に記載したものである。)

(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
甲1発明における「カーカス層」、「キャップトレッド」、「重荷重車輌用空気入りタイヤ」は、それぞれ、本件発明1における「カーカスプライ」、「トレッド」、「空気入りタイヤ」に相当する。
甲1発明において「装加され」る「カーカス層4」は、「クラウン部から両サイドウォール2を経てビード部1、1間にスチールコードが埋設された」ものであり、「カーカス層4の端部がビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられて係留され」ているものであるから、これは、本件発明1の「クラウン部から両サイドウォール部を経て両ビード部に延び前記ビードコアに係留されたカーカスプライ」に相当するといえる。
本件特許明細書の【0107】に「本発明の架橋ゴム組成物を用いたタイヤは、未架橋ゴム組成物を用いて、通常の方法により製造できる。すなわち、・・・未架橋ゴム組成物を、トレッドなどの形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを製造することができる。」と記載されるとおり、本件発明1の空気入りタイヤを構成する「トレッド」は、ゴム組成物を加硫してなる「架橋ゴム組成物」から構成されるものであるといえる。 そして、甲1発明のタイヤの形成(製造)では、「所定のゴム組成物」は架橋されるものと認められるから、両発明の「トレッド」は、「架橋ゴム組成物から構成されるトレッド」である限りにおいて一致する。

そうすると、本件発明1と甲1発明は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違するといえる。
<一致点>
左右一対のビード部にそれぞれ設けられたビードコアと、
クラウン部から両サイドウォール部を経て両ビード部に延び前記ビードコアに係留されたカーカスプライと、
前記カーカスプライよりもタイヤ径方向内側に配置されたインナーライナーと、
前記カーカスプライよりもタイヤ径方向外側に設けられた、架橋ゴム組成物で構成されるトレッドと、を備える空気入りタイヤ。

<相違点5>
空気入りタイヤを構成する架橋ゴム組成物で構成されるトレッドについて、本件発明1では、「1.5MPaの印加応力による伸長時の所定の低密度領域の体積が35%以上」と特定されているのに対して、甲1発明では、かかる特定はない点。
<相違点6>
空気入りタイヤのトレッドを構成する架橋ゴム組成物について、本件発明1では、「ガラス転移温度が-20℃以下」と特定されているのに対して、甲1発明ではかかる特定はない点。

(イ) 相違点についての判断
まず、相違点5について検討する。
甲1には、空気入りタイヤを構成する架橋ゴム組成物からなるトレッドについて、1.5MPaの印加応力による伸長時に低密度領域の体積を測定することはおろか、前記空気入りタイヤ自体の密度を測定することすら記載も示唆もされていないし、ましてや、「密度が伸長前の架橋ゴム組成物の0.1?0.8倍となった領域」である「低密度領域」の「1.5MPaの印加応力による伸長時の体積を35%以上」とすることは記載も示唆もされていない。
また、申立人が提出した他のいずれの証拠(甲2?5)を参酌しても、空気入りタイヤを構成する架橋ゴム組成物からなるトレッドであって、1.5MPaの印加応力による伸長時の所定の低密度領域の体積が35%以上であるもの(つまり、相違点5に係る本件発明1の構成)は記載も示唆もされていない。
そうすると、申立人が提出したいずれの証拠(甲1?5)からも、相違点5に係る本件発明1の構成を導き出すことができない。
よって、本件発明1を相違点5に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

そして、本件発明1は、2(2)ア(イ)でも記載したとおり、そのことにより、耐摩耗性に優れたものとなるという効果が奏されるところ、この点の効果は、申立人の提出したいずれの証拠からも示唆されない効果である。

したがって、相違点6について検討するまでもなく、相違点5で甲1発明と異なる本件発明1について、甲1発明及び申立人が提出した他の証拠に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものということはできない。

イ 本件発明16について
(ア) 本件発明16’について
本件発明16は請求項3?15を引用するものであるところ、請求項3?15はいずれも請求項2を引用することから、請求項3?15を引用する本件発明16は、全て、本件発明16が請求項2を引用した場合の発明を限定したものに相当する。
そこで、本件発明16についての判断にあたり、本決定の便宜上、まず、請求項2を引用する場合の本件発明16(以下、「本件発明16’」という。)を想定した上での判断を示す。

本件発明16’は、請求項2を引用した場合の本件発明16であり、これを、請求項2を引用しない形式で記載すると、以下のとおりである。

「左右一対のビード部にそれぞれ設けられたビードコアと、
クラウン部から両サイドウォール部を経て両ビード部に延び前記ビードコアに係留されたカーカスプライと、
前記カーカスプライよりもタイヤ径方向内側に配置されたインナーライナーと、
前記カーカスプライよりもタイヤ径方向外側に設けられた、架橋ゴム組成物で構成されるトレッドと、を備えることを特徴とする空気入りタイヤであって、
前記架橋ゴム組成物は、
1.5MPaの印加応力による伸長時の低密度領域の体積が35%以上であり、
ガラス転移温度が-20℃以下である架橋ゴム組成物であって、
前記低密度領域が、密度が伸長前の架橋ゴム組成物の0.1?0.8倍となった領域である架橋ゴム組成物。」

(イ) 本件発明16’と甲1発明との対比
上記ア(ア)における本件発明1と甲1発明との対比を踏まえて本件発明16’と甲1発明を対比すると、本件発明16’と甲1発明は、以下の一致点で一致し、以下の相違点7及び8で相違するといえる。
<一致点>
左右一対のビード部にそれぞれ設けられたビードコアと、
クラウン部から両サイドウォール部を経て両ビード部に延び前記ビードコアに係留されたカーカスプライと、
前記カーカスプライよりもタイヤ径方向内側に配置されたインナーライナーと、
前記カーカスプライよりもタイヤ径方向外側に設けられた、架橋ゴム組成物からなるトレッドと、を備える空気入りタイヤ。

<相違点7>
空気入りタイヤのトレッドを構成する架橋ゴム組成物について、本件発明16’では、「1.5MPaの印加応力による伸長時の所定の低密度領域の体積が35%以上」と特定されているのに対して、甲1発明では、かかる特定はない点。
<相違点8>
空気入りタイヤのトレッドを構成する架橋ゴム組成物について、本件発明16’では、「ガラス転移温度が-20℃以下」と特定されているのに対して、甲1発明ではかかる特定はない点。

(ウ) 相違点についての判断
まず、相違点7について検討する。
甲1には、空気入りタイヤのトレッドを構成する架橋ゴム組成物かについて、1.5MPaの印加応力による伸長時に低密度領域の体積を測定することはおろか、前記空気入りタイヤ自体の密度を測定することすら記載も示唆もされていないし、ましてや、「密度が伸長前の架橋ゴム組成物の0.1?0.8倍となった領域」である「低密度領域」の「1.5MPaの印加応力による伸長時の体積を35%以上」とすることは記載も示唆もされていない。
また、申立人が提出した他のいずれの証拠(甲2?5)を参酌しても、空気入りタイヤを構成する架橋ゴム組成物からなるトレッドであって、1.5MPaの印加応力による伸長時の所定の低密度領域の体積が35%以上であるもの(つまり、相違点7に係る本件発明16’の構成)は記載も示唆もされていない。
そうすると、申立人が提出したいずれの証拠(甲1?5)からも、相違点7に係る本件発明16’の構成を導き出すことができないのであるから、これらの証拠に基づいて、本件発明16’を、相違点7に係る本件発明16’の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

そして、本件発明16’は、2(2)ア(イ)でも記載したとおり、そのことにより、耐摩耗性に優れたものとなるという効果が奏されるところ、この点の効果は、申立人の提出したいずれの証拠からも示唆されない効果である。

したがって、相違点8について検討するまでもなく、相違点7で甲1発明と異なる本件発明16’について、甲1発明及び申立人が提出した他の証拠に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものということはできない。

(エ) 本件発明16についての判断
上述のとおり、本件発明16は、本件発明16’を限定したものに相当する。
そうすると、本件発明16’について、甲1発明及び申立人が提出した他の証拠(甲2?5)に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということはできない以上、本件発明16’をより限定した発明に相当する本件発明16についても、甲1発明及び申立人が提出した他の証拠(甲2?5)に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。

(3)取消理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由1には理由がなく、取消理由1によって本件特許の請求項1及び16に係る特許を取り消すことはできない。


第6 結び
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1?16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1?16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-02-13 
出願番号 特願2016-207331(P2016-207331)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B60C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 市村 脩平  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 渕野 留香
大島 祥吾
登録日 2018-04-27 
登録番号 特許第6329609号(P6329609)
権利者 住友ゴム工業株式会社
発明の名称 空気入りタイヤおよび架橋ゴム組成物  
代理人 特許業務法人朝日奈特許事務所  
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