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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1348762
異議申立番号 異議2018-701023  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-18 
確定日 2019-02-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第6345285号発明「ゴム組成物及びタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6345285号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6345285号の請求項1ないし3に係る発明についての出願は、2014年(平成26年)11月27日(優先権主張:平成25年11月27日)を国際出願日とする特許出願(特願2015-539986号)の一部を平成27年11月5日に新たな出願とした特許出願(特願2015-217867号)の一部を、平成29年2月9日に新たな出願とした特許出願(特願2017-22541号)に係るものであって、平成30年6月1日に設定登録され、同年6月20日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、請求項1ないし3に係る特許について、平成30年12月18日に、特許異議申立人渡辺 広基(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。

甲第1号証:特開2006-249188号公報
甲第2号証:国際公開第2005/090463号
甲第3号証:国際公開第2012/043857号
甲第4号証:国際公開第2013/157272号
甲第5号証:国際公開第2013/118496号
甲第6号証:東ソー・シリカ株式会社ホームページ、「会社沿革」、2018年12月13日検索
甲第7号証:国際公開第2012/032896号
(以下、甲第1号証ないし甲第7号証を、「甲1」ないし「甲7」という。)

第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認められる。

「【請求項1】
天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分(A)を配合してなり、ゴム成分100質量部に対して、C_(5)系樹脂、C_(5)?C_(9)系樹脂、C_(9)系樹脂、テルペン系樹脂、テルペン-芳香族化合物系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、及びアルキルフェノール系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(B)を5?50質量部、並びにシリカ及びカーボンブラックを含む充填剤(C)を20?120質量部配合してなり、
前記充填剤(C)中のシリカの含有量が90質量%以上100質量%未満であり、前記シリカは、BET比表面積が200?250m^(2)/gである、ことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム成分(A)中にスチレン-ブタジエン共重合体ゴムが10?30質量%含まれる、請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゴム組成物をトレッドゴムに用いたことを特徴とするタイヤ。」

第3 特許異議申立書に記載された取消理由
申立人が、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において主張する取消理由は、以下のとおりである。
1(取消理由1)本件発明1ないし3は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。また、本件発明1ないし3は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2(取消理由2)本件発明1ないし3は、甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。また、本件発明1ないし3は、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3(取消理由3)本件発明1ないし3は、特許請求の範囲の記載が特許法36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、これらの発明に係る特許は同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

第4 当審の判断
1 取消理由1について
(1)甲1、甲3ないし甲7の記載と甲1に記載された発明
甲1には、以下の記載がある。

ア-1「【請求項1】
天然ゴム50重量部以上を含むジエン系ゴム100重量部、シリカを60重量%以上含む補強性充填剤20?150重量部並びに軟化点が60?130℃、水酸基価が25?100KOHmg/gで、160℃における動粘度が1,000?10,000mPa・sのフェノール変性テルペン樹脂0.5?15重量部を含んでなるタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物をトレッド部に用いた空気入りタイヤ。」

イ-1「【0006】
本発明によれば、天然ゴム50重量部以上を含むジエン系ゴム100重量部に対し、シリカ60重量%以上を含む補強性充填剤20?150重量部及び特定のフェノール変性テルペン樹脂0.5?15重量部を配合することにより、得られるゴム組成物の加工性が改善され、かつ低燃費性とウェット性能のバランスが向上したタイヤトレッド用ゴム組成物を得ることができる。」

ウ-1「【0010】
本発明においてジエン系ゴムの補強性充填剤として使用するシリカはタイヤゴム組成物に使用することができる任意のシリカとすることができ、ジエン系ゴム100重量部に対しシリカ60重量%以上、好ましくは65?95重量%含む充填剤を20?150重量部配合する。シリカ含量が低過ぎると転動抵抗とウェット性能が悪化するので好ましくなく、また充填剤全体の量が少な過ぎると補強性が低下するので好ましくなく、逆に多過ぎると加工性を損なうので好ましくない。
【0011】
本発明において使用するフェノール変性テルペン樹脂は、ポリテルペン樹脂を、フェノール変性した公知の樹脂で、前記特定の要件(軟化点、水酸基価及び動粘度)を満足する任意のものを使用することができ、例えばヤスハラケミカル(株)などより市販されている市販品を用いることができる。」

エ-1「【実施例】
・・・
【0015】
実施例1?2及び比較例1?5
サンプルの調製
表Iに示す配合において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.7リットルの密閉型バンバリーミキサーで5分間混練し、150±5℃に達したときに内容物を放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチを室温まで冷却させた後、同バンバリーミキサーにて、加硫促進剤と硫黄を混練してゴム組成物を得た。このゴム組成物を用いて以下に示す試験法で未加硫物性を評価した。結果は表Iに示す。
・・・
【0017】
ゴム物性評価試験法
ムーニー粘度(MV)(100℃):JIS K6300に従って測定したML_(1+4)(100℃)
tanδ(60℃):東洋精機製の粘弾性スペクトロメーターを用い、伸張変形歪率10±2%、振動数20Hzの条件で測定した。
実車Wet円グリップ:各実施例/比較例のゴム組成物をトレッドゴムとした195/65R15サイズのタイヤを試作し、排気量2000ccの乗用車に4輪共同一仕様を装着し、水深2mmの湿潤路面を半径10mの円周上を周回した際の操舵フィーリングを評価した。
【0018】

【0019】
表I脚注
SBR:NIPOL NS116R(日本ゼオン(株)製、非油展、結合St量=20%、結合Vn量=63%)
NR:RSS#3
カーボンN234:シースト7HM(東海カーボン(株)製)
シリカ:Nipsil AQ(東ソー・シリカ(株)製)
カップリング剤:Si69(デグサ(株)製)
ZnO:酸化亜鉛3種(正同化学工業(株)製)
StA:ステアリン酸(日本油脂(株)製)
6C:老化防止剤SANTOFLEX 6PPD(FLEXSYS製)
オイル:アロマオイル(富士興産(株)製)
DCPD樹脂:ジシクロペンタジエン樹脂クイントン1105(日本ゼオン(株)製)
フェノール変性テルペン樹脂:U-115(ヤスハラケミカル(株)製、軟化点115℃、水酸基価40KOHmg/g、動粘度(160℃)2000mPa・s)
硫黄:金華印油入微粉硫黄(鶴見化学工業(株)製)
CBS:加硫促進剤SANTOCURE CBS(FLEXSYS製)」

甲3には、以下の記載がある。
ア-3「[0047]
・・・
*3: 東ソー・シリカ株式会社製、商品名「ニップシールAQ」、BET比表面積205m^(2)/g」

甲4には、以下の記載がある。
ア-4[0062]
・・・
このようなシリカとしては、東ソーシリカ株式会社製「ニップシールAQ」、BET205m^(2)/gが挙げられる。」

甲5には、以下の記載がある。
ア-5「[0091]・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」(BET=200m^(2)/g)」

甲6には、以下の記載がある。
ア-6「2003年
・・・
「日本シリカ工業株式会社」から「東ソー・シリカ株式会社」に社名変更。」(Page 2 of 2)

甲7には、以下の記載がある。
ア-7「[0051]
・・・
・シリカ:含水微粉ケイ酸(窒素吸着比表面積:215m^(2)/g、ニップシールAQ、日本シリカ工業社製)」

記載事項エ-1(特に実施例1及び2)より、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「NR:RSS#3を100重量部、または、SBR:NIPOL NS116R(日本ゼオン(株)製、非油展、結合St量=20%、結合Vn量=63%)を30重量部及びNR:RSS#3を70重量部と、カーボンN234:シースト7HM(東海カーボン(株)製)を20重量部、シリカ:Nipsil AQ(東ソー・シリカ(株)製)を50重量部、カップリング剤:Si69(デグサ(株)製)を4重量部、ZnO:酸化亜鉛3種(正同化学工業(株)製)を3重量部、StA:ステアリン酸(日本油脂(株)製)を2重量部、6C:老化防止剤SANTOFLEX 6PPD(FLEXSYS製)を2重量部、フェノール変性テルペン樹脂:U-115(ヤスハラケミカル(株)製、軟化点115℃、水酸基価40KOHmg/g、動粘度(160℃)2000mPa・s)を7.5重量部、硫黄:金華印油入微粉硫黄(鶴見化学工業(株)製)を1.85重量部、CBS:加硫促進剤SANTOCURE CBS(FLEXSYS製)を1.6重量部含むゴム組成物。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「NR:RSS#3」は天然ゴムであり、「NR:RSS#3」及び「SBR:NIPOL NS116R(日本ゼオン(株)製、非油展、結合St量=20%、結合Vn量=63%)」はいずれもゴム成分であるから、甲1発明の「NR:RSS#3を100重量部、または、SBR:NIPOL NS116R(日本ゼオン(株)製、非油展、結合St量=20%、結合Vn量=63%)を30重量部及びNR:RSS#3を70重量部」は、本件発明1の「天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分(A)」に相当する。
甲1発明の「カーボンN234:シースト7HM(東海カーボン(株)製)」は、本件発明1の「カーボンブラック」に相当し、甲1発明の「カーボンN234:シースト7HM(東海カーボン(株)製)」及び「シリカ:Nipsil AQ(東ソー・シリカ(株)製)」は、併せて、本件発明1の「シリカ及びカーボンブラックを含む充填剤(C)」に相当する。
甲1発明の「フェノール変性テルペン樹脂:U-115(ヤスハラケミカル(株)製、軟化点115℃、水酸基価40KOHmg/g、動粘度(160℃)2000mPa・s」は、フェノール変性テルペン樹脂であるからポリテルペン樹脂をフェノール変性した樹脂であり(記載事項ウ-1)、一方、本件明細書には、「テルペン-芳香族化合物系樹脂としては、代表例としてテルペン-フェノール樹脂を挙げることができる。」と記載されている(【0021】)から、上記「フェノール変性テルペン樹脂:U-115(ヤスハラケミカル(株)製、軟化点115℃、水酸基価40KOHmg/g、動粘度(160℃)2000mPa・s」は、本件発明1の「C_(5)系樹脂、C_(5)?C_(9)系樹脂、C_(9)系樹脂、テルペン系樹脂、テルペン-芳香族化合物系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、及びアルキルフェノール系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(B)」のうちの、「テルペン-芳香族化合物系樹脂」に相当する。
そして、甲1発明の「NR:RSS#3」の100重量部、または、「SBR:NIPOL NS116R(日本ゼオン(株)製、非油展、結合St量=20%、結合Vn量=63%)」と「NR:RSS#3」の合計の100重量部に対する、「カーボンN234:シースト7HM(東海カーボン(株)製)」及び「シリカ:Nipsil AQ(東ソー・シリカ(株)製)」の配合量は、70重量部(=20重量部+50重量部)であり、「フェノール変性テルペン樹脂:U-115(ヤスハラケミカル(株)製、軟化点115℃、水酸基価40KOHmg/g、動粘度(160℃)2000mPa・s」の配合量は、7.5重量部であって、これらはいずれも、本件発明1の、ゴム成分100質量部に対する、充填材(C)の配合量である「20?120質量部」、熱可塑性樹脂(B)の配合量である「5?50質量部」の範囲に包含される。
してみると、本件発明1と甲1発明とは、
「天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分(A)を配合してなり、ゴム成分100質量部に対して、C_(5)系樹脂、C_(5)?C_(9)系樹脂、C_(9)系樹脂、テルペン系樹脂、テルペン-芳香族化合物系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、及びアルキルフェノール系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(B)を5?50質量部、並びにシリカ及びカーボンブラックを含む充填剤(C)を20?120質量部配合してなるゴム組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
シリカにつき、本件発明1では、BET比表面積が200?250m^(2)/gであり、充填剤(C)中の含有量は、90質量%以上100質量%未満であるのに対して、甲1発明では、BET比表面積については特定がなく、充填剤中の含有量は、71.4重量%(=(50/70)×100)である点。

上記相違点1について検討する。
(ア)甲1発明の「シリカ:Nipsil AQ(東ソー・シリカ(株)製)」のBET比表面積は、記載事項(ア-3)ないし(ア-7)からみて、「200?250m^(2)/g」の範囲内にあるものと解される。
しかしながら、当該シリカの充填剤中の含有量は71.4重量%であり、「90質量%以上100質量%未満」ではない。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲1発明ではない。

(イ)次に、上記相違点1に係る事項が、当業者が容易に想到しうるものであるかについて検討する。
本件明細書には、
a 「本発明の課題は、乾燥路面での制動性能が高く、かつ、マンホール等の、アスファルトと比して滑りやすい湿潤路面においても高い制動性能を有するトレッドゴムを製造可能なゴム組成物を提供することにある。」(【0007】)
b 「熱可塑性樹脂(B)が充分に分散したゴム成分中に、シリカが分散することで、ゴムのより柔軟な変形が可能となり、その結果、摩擦係数の低い路面への追従性が向上する。これにより、滑りやすい湿潤路面での制動性能をより高めることが可能である。」(【0008】)
c 「前記充填剤(C)中のシリカの含有量は、90質量%以上であることが好ましい。シリカの配合量を高めることで、滑りやすい湿潤路面での制動性能をより向上させることができる。」(【0010】)
d 「シリカとしては、・・・この湿式シリカのBET比表面積は・・・200?250m^(2)/gであるのが更に好ましい。BET比表面積がこの範囲であるシリカは、ゴム補強性とゴム成分中への分散性とを両立できるという利点がある。」(【0028】)
との記載があり、さらに、
e 実施例21(充填剤(C)中シリカ含有量:90質量%)と、実施例19(同50質量%)及び実施例20(同60質量%)との対比から、充填剤中のシリカ含有量が90質量%以上であると、鉄板湿潤路面での制動性能が向上することがみてとれ、
f 実施例11(使用したシリカのBET比表面積:205m^(2)/g)と実施例12ないし14(同:75m^(2)/g、191m^(2)/g、94m^(2)/g)との対比から、シリカのBET比表面積が「200?250m^(2)/g」の範囲にあるものを使用した場合、鉄板湿潤路面での制動性能が向上することがみてとれる。
上記aないしfに鑑みると、本件発明1は、シリカのBET比表面積を「200?250m^(2)/g」とし、充填剤中のシリカの含有量を「90質量%以上」とすることにより、マンホール等の、アスファルトに比して滑りやすい湿潤路面における制動性能を向上させたものである。
これに対して、甲1発明は、タイヤトレッドに用いられるゴム組成物であり、そのような組成物において、充填剤として、シリカを好ましくは65?95重量%含むこと、シリカ含量が低過ぎると転動抵抗とウェット性能が悪化するので好ましくないことについては記載されている(記載事項ア-1及びウ-1)。
また、甲1発明の「シリカ:Nipsil AQ(東ソー・シリカ(株)製)」のBET比表面積は、「200?250m^(2)/g」の範囲内にあるものと解されることは、上記(ア)で述べたとおりである。
しかしながら、甲1のいずれの箇所をみても、充填剤中のシリカの含有量を「65?95重量%」のうちの、特に90重量%以上にすることや、シリカのBET比表面積については何ら記載がなく、ましてや、シリカのBET比表面積及び充填剤中のシリカの含有量を特定のものにすることにより、マンホール等の、アスファルトに比して滑りやすい湿潤路面における制動性能を向上させることについて何ら記載も示唆もされていない。
してみると、甲1発明において、シリカのBET比表面積が「200?250m^(2)/g」の範囲にあるとしても、単に、充填剤中のシリカの含有量のみを「90重量%以上」と変更し、マンホール等の、アスファルトと比して滑りやすい湿潤路面における制動性能を向上させることは、何ら動機づけられない。
よって、相違点1に係る事項は、当業者が容易に想到し得るものではない。
(ウ)ここで、本件発明1の効果について検討すると、本件発明1は、本件明細書全体の記載、特に、【0012】の記載及び上記(イ)e、fで示した記載からみて、乾燥路面での制動性能が高く、かつ、マンホール等のアスファルトと比して滑りやすい湿潤路面においても高い制動性能を有するトレッドゴムを製造可能なゴム組成物を提供することができるという効果を奏するものと認められる。
これに対して、甲1には、低燃費性とウェット性能のバランスが向上するという効果が奏されることが記載され(記載事項イ-1)、具体的には、「実車Wet円グリップ」として、水深2mmの湿潤路面を半径10mの円周上を周回した際の操舵フィーリングが評価が記載されている(記載事項エ-1)ものの、乾燥路面での制動性能や、マンホール等のアスファルトと比して滑りやすい湿潤路面における制動性能についての記載はない。
してみると、上記本件発明1の効果は、当業者が甲1から予測できるものではない。

(エ)したがって、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(オ)以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明1が甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2及び3も、上記アで述べたものと同様の理由により、甲1発明ではないし、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)小括
以上のとおりであるから、取消理由1は、理由がない。

2 取消理由2について
(1)甲2ないし甲7の記載と甲2に記載された発明
甲2には、以下の記載がある。

ア-2「[1]天然ゴム及び/又はイソプレンゴムを80重量%以上含むゴム成分100重量部当たり、
石油外資源からなる無機充填剤を20重量部以上と、
60℃以上の軟化点を有する樹脂を10重量部以上と
を含有することを特徴とするゴム組成物をトレッドゴムに用いてなる空気入りタイヤ。
[2]前記無機充填剤として、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカのいずれか1あるいはこれらを複数用いることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
[3]前記樹脂として、天然樹脂を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
[4]前記天然樹脂は、ロジン系樹脂、リモネン系樹脂、テルペン系樹脂の少なくとも1を含むことを特徴とする請求項3に記載の空気入りタイヤ。
[5]可塑剤として、動植物油を用いることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。」(請求の範囲)

イ-2「[0006]そこで、本発明は、上記の問題に鑑み、地球環境への配慮とタイヤ性能、特に耐摩耗性及び操縦安定性の高い次元での両立を達成する空気入りタイヤを提供することを目的とする。」

ウ-2「[0021]-無機充填剤-
本実施形態に係るゴム組成物は、ゴム成分100重量部当たり、石油外資源からなる無機充填剤を20重量部以上含む。
・・・
[0023]これらの無機化合物の中でも、タイヤ性能向上効果が顕著である点から、シリカ単独か、シリカと水酸化アルミニウムを組み合わせることが望ましい。又、無機充填剤の使用量は20?100重量部の範囲が好ましく、40?80重量部の範囲が更に好ましい。より詳細には、使用する水酸化アルミニウムは、直径0.1?10μmであることが好ましく、0.5?2.0μmであることが更に好ましい。又、シリカとしては、ニプシルAQ、KQグレードがより好ましいが、通常使用されるものでも構わない。
[0024]尚、無機充填剤として、カーボンブラックを使用してもよいが、環境への配慮の観点からは、その配合量は20重量部以下であることが好ましい。カーボンブラックは、HAF、ISAF、SAFグレードはすべて使用できる。」

エ-2「[0040](本実施形態に係るゴム組成物及び空気入りタイヤの作用及び効果)
本実施形態に係るゴム組成物及び空気入りタイヤによると、・・・地球環境への配慮とタイヤ性能、特に耐摩耗性及び操縦安定性の高い次元での両立を達成することができる。」

オ-2「[0045]<実施例>
・・・
[0046]表1に示す組成のゴム組成物を調整し、各ゴム組成物の物性を以下に示す方法で測定した。
[0047](1)操縦安定性評価
・・・
[0048](2)耐摩耗性評価
・・・
[0049](3)WETグリップ性評価
表1に示す比較例及び実施例に係るゴム組成物について、BPST(ブリティッシュ・ポータブル・スキッド・テスター)を用い、湿潤コンクリート路面に対する加硫ゴム試験片の抵抗値を測定した。結果は、比較例1の結果を100とし、指数表示した。数値が大きいほどWETグリップ性に優れることを示す。
[0050]



甲3ないし7には、上記1(1)で摘示した事項が記載されている。

記載事項オ-2(特に実施例4)より、甲2には以下の発明が記載されていると認められる。
「NR:RSS#3を80重量部と、SBR-2:JSR#1500非油展を20重量部と、シリカ:日本シリカ製 ニプシルAQを80重量部と、水酸化アルミニウム:ハイジライト 43M(昭和電工製)を10重量部と、カーボンブラック:ISAFグレードC/B(東海カーボン製)を10重量部と、ロジン系樹脂:ヤスハラケミカル製 ハイロジン 軟化点85±15℃を30重量部と、植物油:ナタネ油を10重量部と、加硫促進剤を3.5重量部と、硫黄を1.5重量部含むゴム組成物。」(以下、「甲2発明」という。)

(2)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「NR:RSS#3」は天然ゴムであり、「NR:RSS#3」及び「SBR-2:JSR#1500非油展」はいずれもゴム成分であるから、甲2発明の「NR:RSS#3を80重量部と、SBR-2:JSR#1500非油展を20重量部」は、本件発明1の「天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分(A)」に相当する。
甲2発明の「ロジン系樹脂:ヤスハラケミカル製 ハイロジン 軟化点85±15℃」は、本件発明1の、「C_(5)系樹脂、C_(5)?C_(9)系樹脂、C_(9)系樹脂、テルペン系樹脂、テルペン-芳香族化合物系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂及びアルキルフェノール系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(B)」に相当する。
甲2発明の「シリカ:日本シリカ製 ニプシルAQ」、「水酸化アルミニウム:ハイジライト 43M(昭和電工製)」及び「カーボンブラック:ISAFグレードC/B(東海カーボン製)」は、併せて、本件発明1の「シリカ及びカーボンブラックを含む充填剤(C)」に相当する。
そして、甲2発明の「NR:RSS#3」及び「SBR-2:JSR#1500非油展」の合計100重量部に対する、「シリカ:日本シリカ製 ニプシルAQ」、「水酸化アルミニウム:ハイジライト 43M(昭和電工製)」及び「カーボンブラック:ISAFグレードC/B(東海カーボン製)」の配合量は100重量部(=80+10+10)であり、「ロジン系樹脂:ヤスハラケミカル製 ハイロジン 軟化点85±15℃」の配合量は30重量部であって、これらはいずれも、本件発明1の、ゴム成分100質量部に対する、充填剤(C)の配合量である「20?120質量部」、及び、熱可塑性樹脂(B)の配合量である「5?50質量部」の範囲に包含される。
してみると、本件発明1と甲2発明とは、
「天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分(A)を配合してなり、ゴム成分100質量部に対して、C_(5)系樹脂、C_(5)?C_(9)系樹脂、C_(9)系樹脂、テルペン系樹脂、テルペン-芳香族化合物系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、及びアルキルフェノール系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(B)を5?50質量部、並びにシリカ及びカーボンブラックを含む充填剤(C)を20?120質量部配合してなるゴム組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2>
シリカにつき、本件発明1では、BET比表面積が200?250m^(2)/gであり、充填剤(C)中の含有量は、90質量%以上100質量%未満であるのに対して、甲2発明では、BET比表面積については特定がなく、充填剤中の含有量は、80重量%(=80/(80+10+10)×100)である点。

上記相違点2について検討する。
(ア)甲2発明の「シリカ:日本シリカ製 ニプシルAQ」のBET比表面積は、記載事項(ア-3)ないし(ア-7)からみて、「200?250m^(2)/g」の範囲内にあるものと解される。
しかしながら、当該シリカの充填剤中の含有量は80重量%であり、「90質量%以上100質量%未満」ではない。
したがって、上記相違点2は、実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲2発明ではない。

(イ)次に、上記相違点2に係る事項が、当業者が容易に想到しうるものであるかについて検討する。
本件発明1は、シリカのBET比表面積を「200?250m^(2)/g」とし、充填剤中のシリカの含有量を「90質量%以上」とすることにより、マンホール等の、アスファルトに比して滑りやすい湿潤路面における制動性能を向上させたものであることは、上記1(2)ア(イ)で述べたとおりである。
これに対して、甲2発明は、タイヤトレッドゴムに用いられるゴム組成物であり、そのような組成物において、無機充填剤として、シリカ単独か、シリカと水酸化アルミニウムを組み合わせることが好ましいこと、カーボンブラックを使用してもよいが、環境への配慮の観点からはその配合量は20重量部以下であることが好ましいことが記載されている(記載事項ア-2ないしウ-2)。
また、甲2発明の「シリカ:日本シリカ製 ニプシルAQ」のBET比表面積は、「200?250m^(2)/g」の範囲内にあるものと解されることは、上記(ア)で述べたとおりである。
しかしながら、甲2のいずれの箇所をみても、充填剤中のシリカの含有量を90重量%以上にすることや、シリカのBET比表面積については何ら記載がなく、ましてや、シリカのBET比表面積及び充填剤中のシリカの含有量を特定のものにすることにより、マンホール等の、アスファルトに比して滑りやすい湿潤路面における制動性能を向上させることについては、何ら記載も示唆もされていない。
してみると、甲2発明において、シリカのBET比表面積が「200?250m^(2)/g」の範囲にあるとしても、単に、充填剤中のシリカの含有量のみを「90重量%以上」と変更し、マンホール等の、アスファルトと比して滑りやすい湿潤路面における制動性能を向上させることは、何ら動機づけられない。
よって、相違点2に係る事項は、当業者が容易に想到し得るものではない。

(ウ)ここで、本件発明1の効果について検討すると、本件発明1は、本件明細書全体の記載、特に、【0012】の記載及び上記1(2)ア(イ)で示したe、fの記載からみて、乾燥路面での制動性能が高く、かつ、マンホール等のアスファルトと比して滑りやすい湿潤路面においても高い制動性能を有するトレッドゴムを製造可能なゴム組成物を提供することができるという効果を奏するものと認められる。
これに対して、甲2には、耐摩耗性及び操縦安定性の高い次元での両立という効果が奏されることが記載され(記載事項エ-2)、具体的には、操縦安定性、耐摩耗性が評価とともに、「WETグリップ性能評価」として、湿潤コンクリート路面に対する加硫ゴム試験片の抵抗値を評価したことについて記載されている(記載事項オ-2)ものの、乾燥路面での制動性能や、マンホール等のアスファルトと比して滑りやすい湿潤路面における制動性能についての記載はない。
してみると、上記本件発明1の効果は、当業者が甲2から予測できるものではない。

(エ)したがって、本件発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(オ)以上のとおりであるから、本件発明1は、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明1が甲2発明ではなく、また、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2及び3も、上記アで述べたものと同様の理由により、甲2発明ではないし、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)小括
以上のとおりであるから、取消理由2は、理由がない。

3 取消理由3について
取消理由3について、申立書において申立人が主張する理由は、概略以下のものである。
「本件発明1ないし3の、充填剤(C)中のシリカのBET比表面積は「200?250m^(2)/g」であるが、本件明細書の実施例において用いられているのは、「ニプシルAQ」のみであり、本件発明1の充填剤(C)中のシリカのBET比表面積が「200?250m^(2)/g」であることは極めて広範な範囲であるから、本件発明1ないし3は、発明の詳細な説明に記載されていない発明を含むものである。」

そこで、上記申立人が主張する理由について検討する。
(1)本件発明1について
本件発明1は、乾燥路面での制動性能が高く、かつ、マンホール等の、アスファルトと比して滑りやすい湿潤路面においても高い制動性能を有するトレッドゴムを製造可能なゴム組成物を提供するという課題を有するものと認められる(上記1(2)ア(イ)で示したaより)。
一方、本件明細書には、上記1(2)ア(イ)で示したb、dからみて、特定のBET比表面積のシリカを用いることにより、ゴム補強性とゴム成分中への分散性とを両立できること、シリカが分散することで、滑りやすい湿潤路面での制動性能をより高めることができることが記載されている。
また、同fに示したとおり、BET比表面積が205m^(2)/gのシリカを用いた場合、BET比表面積が「200?250m^(2)/g」の範囲外であるシリカを用いた場合に比して、鉄板湿潤路面での制動性能、すなわち、滑りやすい湿潤路面における制動性能が優れていることが具体的なデータとともに記載されている(実施例11と実施例12?14の対比)し、さらに、実施例1?10、15?25にも、BET比表面積が205m^(2)/gのシリカを用いた場合、鉄板湿潤路面での制動性能及び乾燥路面での制動性能が優れていることが記載されている。
そうすると、当業者は、本件発明1において、充填剤中に特定量含まれるシリカのBET比表面積について、「200?250m^(2)」であれば上記課題が解決できると認識できるものといえる。
してみると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(2)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、上記(1)で述べたものと同様の理由により、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(3)以上のとおりであるから、取消理由3は、理由がない。

4 まとめ
以上のとおり、申立人が主張する取消理由1ないし3は、いずれも理由がない。

第5 むすび
したがって、本件発明1ないし3についての特許は、申立人が提示した理由及び証拠により、取り消すことはできない。
また、他に、本件発明1ないし3についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-02-14 
出願番号 特願2017-22541(P2017-22541)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 113- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 水野 明梨  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 海老原 えい子
井上 猛
登録日 2018-06-01 
登録番号 特許第6345285号(P6345285)
権利者 株式会社ブリヂストン
発明の名称 ゴム組成物及びタイヤ  
代理人 杉村 憲司  
代理人 冨田 和幸  
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