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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02C 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02C |
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管理番号 | 1349015 |
審判番号 | 不服2018-12068 |
総通号数 | 232 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-04-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-09-07 |
確定日 | 2019-02-12 |
事件の表示 | 特願2017-204924「老眼鏡用レンズ及び老眼鏡」拒絶査定不服審判事件〔請求項の数(6)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
1 手続の経緯 本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,平成29年10月24日の出願であって,平成30年3月30日付けで拒絶理由が通知され,同年4月16日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年6月14日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされたものである。 本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,同年9月7日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出され,当審において,同年11月29日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,同年12月14日に意見書及び手続補正書(以下,当該手続補正書による補正を「本件補正」という。)が提出された。 2 本件出願の請求項1に係る発明 本件出願の請求項1ないし6に係る発明は,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項によって特定されるとおりのものと認められるところ,請求項1ないし6の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 多数個の微小レンズ領域を隣接又は近接配置するように形成した老眼鏡用レンズにおいて, レンズ中央部付近に配置した特定の微小レンズ領域からレンズ周縁部へ向かうにつれて各微小レンズ領域の度数が徐々に低くなるように設定したことを特徴とする老眼鏡用レンズ。 【請求項2】 多数個の微小レンズ領域を隣接又は配置するように形成した老眼鏡用レンズにおいて, レンズ中央部付近に配置した一塊の同度数の微小レンズ領域群からレンズ周縁部へ向かうにつれて各微小レンズ領域の度数が徐々に低くなるように設定したことを特徴とする老眼鏡用レンズ。 【請求項3】 多数個の微小レンズ領域を隣接又は近接配置するように形成した老眼鏡用レンズにおいて, 前記多数個の微小レンズ領域は,レンズ中央部付近に配置した特定の微小レンズ領域とそれを取り囲むように概ね同心状に配置した微小レンズ領域群とから構成されており, 前記特定の微小レンズ領域の度数が最も高く,その周囲にある概ね同心状の微小レンズ領域群の度数が外側へ向かって徐々に低くなるように設定したことを特徴とする老眼鏡用レンズ。 【請求項4】 多数個の微小レンズ領域を隣接又は近接配置するように形成した老眼鏡用レンズにおいて, 前記多数個の微小レンズ領域は,レンズ中央部付近に配置した一塊の同度数の微小レンズ領域群とそれを取り囲むように概ね同心状に配置した微小レンズ領域群とから構成されており, 前記一塊の微小レンズ領域群の度数が最も高く,その周囲にある概ね同心状の微小レンズ領域群の度数が外側へ向かって徐々に低くなるように設定したことを特徴とする老眼鏡用レンズ。 【請求項5】 前記微小レンズ領域は,それぞれ六角形に形成されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の老眼鏡用レンズ。 【請求項6】 請求項1乃至5の何れかに記載の老眼鏡用レンズを両眼部に備えることを特徴とする老眼鏡。」(以下,請求項1ないし6に係る発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明6」という。) 3 原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由は,概略,次のとおりである。 本件出願の請求項1ないし6(平成30年4月16日提出の手続補正書による補正後の請求項1ないし6である。)に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明,及び周知技術(周知例:引用文献2ないし4)に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 原査定の拒絶の理由で引用された引用例及び周知例は次のとおりである。 引用文献1:特開2006-99116号公報 引用文献2:特表2011-510798号公報(周知技術を示す文献) 引用文献3:米国特許出願公開第2016/0306192号明細書(周知技術を示す文献) 引用文献4:特開2003-29216号公報(周知技術を示す文献) 4 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由は,概略,次のとおりである。 (1)理由1(明確性要件違反) 本件出願は,特許請求の範囲(平成30年9月7日提出の手続補正書による補正後の特許請求の範囲である。)の記載が次の点で,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。 ア 「縦横寸法が極めて小さく,膨大な個数」という記載及び「急激に変化する」という記載では,いかなるものがこれに包含され,いかなるものがこれに包含されないのか,その境界が明確でないから,請求項1ないし6に係る発明は明確でない。 イ 「老眼用レンズ」という記載が,老眼鏡用の眼鏡レンズのみを指すのか,老眼用のコンタクトレンズや眼内レンズをも包含する概念なのかが,明確に特定できないから,請求項1ないし5に係る発明は明確でない。 (2)理由2(進歩性欠如) 本件出願の請求項1ないし5(平成30年9月7日提出の手続補正書による補正後の請求項1ないし5である。)に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献Aに記載された発明,及びその出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献Bに記載された事項に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 理由2で引用された引用例は次のとおりである。 引用文献A:特開2003-29216号公報(原査定の拒絶の理由で引用された引用文献4) 引用文献B:特開2006-99116号公報(原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1) 5 原査定の拒絶の理由に対する判断 (1)引用例 ア 引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1(特開2006-99116号公報)は,本件出願の出願前に頒布された刊行物であって,当該引用文献1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。) (ア) 「【技術分野】 【0001】 関連する出願 ・・・(中略)・・・本発明は概してコンタクトレンズに関し,特に多焦点コンタクトレンズに関する。 【背景技術】 【0002】 視力の正常な人は,遠近調節能力によって,無限に遠い点から近い点(一般的に目からの距離が約25cm以内の点)までにある物体に焦点を合わせることができる。老視の人は,これほど広い範囲に渉る遠近調節能力がないため,一般的に二つの矯正,すなわち,無限に遠い点に焦点を合わせるための遠距離矯正,及び,近距離の物体に焦点を合わせるための近距離矯正を必要とする。矯正は,一般的に両目で異なり,通常は1/4ジオプトリーで処方され,また,遠距離矯正について約+8ジオプトリーから近距離矯正について-8ジオプトリーの範囲で処方することができる。 【0003】 多焦点眼鏡は,一つのレンズの異なる領域で,両目について上記二つの矯正を行い,かつ,中間距離の矯正を行う。このような眼鏡は眼鏡レンズを目に対して相対的に固定するようになっており,眼鏡装着者は,通常,レンズ上部を通して遠距離の物体を,レンズ下部を通して近距離の物体を見る。 【0004】 一つのレンズで特定の目に対して上記両方の矯正を行う多焦点コンタクトレンズが,先行技術において公知である。しかし,眼鏡レンズとは異なり,コンタクトレンズは目の動きと共に動く。従って,先行技術において公知の多焦点コンタクトレンズは,近距離の物体及び遠距離の物体の両方を見ることができるように老視を矯正するための複数の異なる機構を使用している。しかし,残念ながら,これらの機構の全てが使用者に十分に受け入れられているわけではない。 ・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0015】 上述のいくつかを含む,先行技術において公知のある特定の多焦点レンズが,多様な処方に適したものであると主張されているが,多焦点コンタクトレンズの改善が要求されている。 【課題を解決するための手段】 【0016】 発明の要約 本発明のいくつかの実施形態においては,コンタクトレンズは,視力を,一般的には老視を矯正するための多焦点レンズである。コンタクトレンズの前面は複数の湾曲ゾーンを含み,この領域とレンズ後面のベースカーブとにより異なる屈折力が提供され,この異なる屈折力はレンズの中心ゾーンから外側ゾーンに向かって単調減少する。このように減少していく屈折力が及ぼす総体的な影響により,レンズ装着者は,近距離の物体及び遠距離の物体の両方を明瞭に見ることができる。」 (イ) 「【発明を実施するための最良の形態】 【0048】 図1について,これは,本発明のある実施形態による多焦点コンタクトレンズ10(本明細書中では,マルチレンジレンズ10とも呼ぶ)の頂部及び断面の概略図である。レンズ10は一般的に,コンタクトレンズの製造に使用される材料として先行技術において公知でありかつ「ソフト」コンタクトレンズの製造に一般的に使用される,Methafilcon A等の含水性透明材料から製造する。また,レンズ10は,「ハード」コンタクトレンズ製造材料として先行技術において公知の材料等,コンタクトレンズの製造に適したガラス又はプラスチック等の他の透明材料から製造してもよい。 【0049】 製造後,レンズ10の寸法は,一般的にはレンズ材料が正常使用時と同様に含水して「湿潤状態」の寸法となる場合に,変化してもよい。特に指定のない限り,以下に記載するレンズ10の寸法は湿潤状態の寸法である。 【0050】 レンズ10は目に近い方の面22を含み,この面は,レンズ使用者の目に適合するベースカーブである。特に指定のない限り,本明細書中において,ベースカーブとは,曲率半径が単一で約8.8mmである曲線とする。一般的に,幅が約0.5mmの環状リリーフ27がベースカーブ内にあり,目に適合しやすいようになっている。 【0051】 レンズ10の目から遠い方の面12は,複数の,一般的に四つの球状ゾーンを含み,これによって,装着者の目に対して視力矯正する。目から遠い方の面12は別のゾーン20も含んでいて,このゾーン20は,光学ゾーンに対して実質上光学的な活性をもたない部分であり,外径が一般的に約14.2mmであってレンズ10全体の直径に等しい。外端部26を有する中心円形ゾーン24は,一般的に直径D_(1)が約2.5mmである。中心ゾーン球面半径R_(1)の値は,中心ゾーン半径及びベースカーブ球面半径と相関関係にある中心ゾーン屈折力P_(1)が実質的に一定でレンズ装着者の近距離矯正とほぼ等しくなるような値である。 【0052】 面12の外側環状ゾーン18は,内径D_(3)が約4.5mmであり,外径D_(4)が約9mmである。この外側環状ゾーンは,これとベースカーブとにより,中心ゾーン屈折力P_(1)よりも小さな設定値である外側ゾーン屈折力P_(4)が外側ゾーン球面半径R_(4)によって生じるように形成される。一般的に,設定値は約1?約2.5ジオプトリーである。本明細書中及び本請求項中において,屈折力は実数で測定されると仮定し,第一屈折力(P_(4)等)は第二屈折力(P_(1)等)よりも小さいことが理解される。例えば,設定値が2.5ジオプトリーであると,(P_(1)=+10,P_(4)=+7.5),(P_(1)=+1.5,P_(4)=-1)及び(P_(1)=-10,P_(4)=-12.5)というジオプトリー値が生じるであろう。 【0053】 中心ゾーン24と外側環状ゾーン18との間には,それぞれの幅が一般的に約0.5mmである二つの中間環状ゾーンがある。外端部28を有する第一中間ゾーン14は中心ゾーン12(審決注:「24」の誤記と解される。)と連結していて,その外径D_(2)は約3.5mmである。中間ゾーン14は,第一中間ゾーン球面半径R_(2)とベースカーブ半径とにより第一中間ゾーン屈折力P_(2)が生じるように形成される。外端部30を有する第二中間ゾーン16は,第一中間ゾーン14及びゾーン18と連結している。中間ゾーン16は,第二中間ゾーン球面半径R3とベースカーブ半径とにより第二中間ゾーン屈折力P3が生じるように形成される。中間ゾーンは一般的に,レンズ装着者の中間距離に焦点を合わせる能力を改善する。 【0054】 屈折力P_(2)及びP_(3)は一般的に,P_(1),P_(2),P_(3)及びP_(4)が単調変化を形成するように,一般的には,P_(1)及びP_(4)に対してP_(2)及びP_(3)の値を与える代数関数で定義できる変化等の比較的滑らかな単調変化を形成するように選択される。本発明のいくつかの実施形態において,屈折力P_(2)及びP_(3)は屈折力P_(1)及びP_(4)の平均値であり,この平均値は一般的に,P_(1),P_(2),P_(3)及びP_(4)が実質的に線形変化を形成するように負荷される。・・・(中略)・・・ 【0088】 本発明者らは,上述の基準に従って製造したマルチレンジコンタクトレンズが,1.25ジオプトリーの設定値について,遠距離矯正の範囲が約0.6?約2.8ジオプトリーであって近距離矯正よりも小さい装着者に対し,約25cmから無限に遠い点までの遠距離について良好な視力を与えることを発見した。設定値が2.00ジオプトリーである場合には,遠距離矯正の範囲は約1.5?約4.0ジオプトリーである。任意の設定値について,遠距離矯正の範囲が2ジオプトリーよりよい場合に良好な視力が得られる。 【0089】 レンズ10は,旋盤による切削又は成形等の,先行技術において公知である任意のコンタクトレンズ製造方法によって製造できるが,これらの方法に限定されるものではない。一般的に,各ゾーン間の半径変遷,すなわちゾーン端部26,28及び30における半径変遷は実質的に急激であり,レンズ10の製造方法は一般的に,この変遷が実質的に急激となるように選択される。従って,個々のゾーン24,14,16及び18について,これらのゾーンはそれぞれ実質的に一定の屈折力を有するように形成される。本発明者らは,成形工程によって適切に急激な半径変遷が得られることを発見した。また,レンズ10は,旋盤による切削の後にバフ磨きすることによって製造してもよい。 【0090】 レンズ10について上述したことは,中心ゾーン24と外側環状ゾーン18との間に中間環状ゾーンが二つあると仮定してのものである。本発明の範囲は2個ではない整数個の中間環状ゾーンを含み,この場合にこの中間ゾーンの屈折力と中心ゾーンの屈折力及び外側環状ゾーンの屈折力とは単調変化を形成するということが考えられるであろう。」 (ウ) 「【図面の簡単な説明】 【0115】 【図1】本発明のある実施形態による多焦点コンタクトレンズの頂部及び断面の概略図である。 ・・・(中略)・・・ 【図1】 」 イ 引用文献1に記載された発明 前記ア(ア)ないし(ウ)で摘記した記載を含む引用文献1の全記載から,引用文献1に,次の発明が記載されていると認められる。(なお,「外側ゾーン20」の球面半径及び屈折力との誤解を避けるため,下記認定では,便宜上,「外側環状ゾーン18」の球面半径である「外側ゾーン球面半径R_(4)」及び屈折力である「外側ゾーン屈折力P_(4)」を,それぞれ「外側環状ゾーン球面半径R_(4)」及び「外側環状ゾーン屈折力P_(4)」と言い換えた。) 「老視を矯正するための多焦点コンタクトレンズ10であって, 目から遠い方の前面12及び目に近い方の後面22を有し, 前記後面22は,レンズ装着者の目に適合するベースカーブを有し, 前記前面12は,直径D_(1)が約2.5mmの中心ゾーン24と,当該中心ゾーン24と連結された外径D_(2)が約3.5mmの第一中間ゾーン14と,当該第一中間ゾーン14と連結された外径D_(3)が約4.5mmの第二中間ゾーン16と,当該第二中間ゾーン16と連結された外径D_(4)が約9mmの外側環状ゾーン18と,当該外側環状ゾーン18と連結された外径が約14.2mmの外側ゾーン20とから構成され, 前記中心ゾーン24は,中心ゾーン球面半径R_(1)を有し,当該中心ゾーン球面半径R_(1)と後面22のベースカーブの球面半径とによって,中心ゾーン屈折力P_(1)が生じ, 前記第一中間ゾーン14は,第一中間ゾーン球面半径R_(2)を有し,当該第一中間ゾーン球面半径R_(2)と後面22のベースカーブの球面半径とによって,第一中間ゾーン屈折力P_(2)が生じ, 前記第二中間ゾーン16は,第二中間ゾーン球面半径R_(3)を有し,当該第二中間ゾーン球面半径R_(3)と後面22のベースカーブの球面半径とによって,第二中間ゾーン屈折力P_(3)が生じ, 前記外側環状ゾーン18は,外側環状ゾーン球面半径R_(4)を有し,当該外側環状ゾーンR_(4)と後面22のベースカーブの球面半径とによって,外側環状ゾーン屈折力P_(4)が生じ, 前記中心ゾーン球面半径R_(1)の値は,前記中心ゾーン屈折力P_(1)がレンズ装着者の近距離矯正とほぼ等しくなるような値に設定され, 前記外側環状ゾーン球面半径R_(4)の値は,前記外側環状ゾーン屈折力P_(4)は前記中心ゾーン屈折力P_(1)よりも小さくなるような値に設定され, 前記第一中間ゾーン球面半径R_(2)及び第二中間ゾーン球面半径R_(3)の値は,前記中心ゾーン屈折力P_(1),前記第一中間ゾーン屈折力P_(2),前記第二中間ゾーン屈折力P_(3)及び前記外側環状ゾーン屈折力P_(4)が前記中心ゾーン24から前記外側環状ゾーン18に向かって単調減少するような値に設定され, 前記外側ゾーン20は,実質上光学的な活性をもたない部分である, 多焦点コンタクトレンズ10。」(以下,「引用発明」という。) (2)本件発明1について ア 対比 (ア) 引用発明の「老視を矯正するための多焦点コンタクトレンズ10」は,本件発明1の「老眼鏡用レンズ」と,「老眼を矯正するための眼用レンズ」である点で共通する。 (イ) 引用発明では,中心ゾーン屈折力P_(1),第一中間ゾーン屈折力P_(2),第二中間ゾーン屈折力P_(3)及び外側環状ゾーン屈折力P_(4)が,中心ゾーン24から外側環状ゾーン18に向かって単調減少するよう設定されているから,レンズ中央部付近からレンズ周縁部へ向かうにつれて度数が徐々に低くなっているといえる。 しかるに,本件発明1も,レンズ中央部付近からレンズ周縁部へ向かうにつれて度数が徐々に低くなっているといえる。 したがって,引用発明は,本件発明1と,「レンズ中央部付近からレンズ周縁部へ向かうにつれて度数が徐々に低くなるように設定した」点で共通する。 (ウ) 前記(ア)及び(イ)に照らせば,本件発明1と引用発明は, 「老眼を矯正するための眼用レンズにおいて, レンズ中央部付近からレンズ周縁部へ向かうにつれて度数が徐々に低くなるように設定した,老眼を矯正するための眼用レンズ。」 である点で一致し,次の点で相違する。 相違点1: 本件発明1は,多数個の微小レンズ領域を隣接又は近接配置するように形成したものであり,「レンズ中央部付近からレンズ周縁部へ向かうにつれて度数が徐々に低くなる」との構成が,各位置の「微小レンズ領域」の度数によって,実現されるのに対して, 引用発明は,多数個の微小レンズ領域を形成したものとはいえず,また,「レンズ中央部付近からレンズ周縁部へ向かうにつれて度数が徐々に低くなる」との構成が,中心ゾーン24,第一中間ゾーン14,第二中間ゾーン16及び外側環状ゾーン18の屈折力によって,実現される点。 相違点2: 本件発明1は,「老眼鏡用レンズ」であるのに対して, 引用発明は,「老視を矯正するための多焦点コンタクトレンズ10」であって,「老眼鏡用レンズ」ではない点。 イ 判断 事案に鑑みて,まず,相違点2について判断する。 引用発明は,「老視を矯正するための多焦点コンタクトレンズ10」であるところ,当該多焦点コンタクトレンズ10を,老眼鏡用の眼鏡レンズとして構成することには,そもそも動機付けが存在しないし,老眼鏡用の眼鏡レンズにおいて,レンズ中央部付近からレンズ周縁部へ向かうにつれて度数が徐々に低くなるような引用発明の屈折力分布を採用することが,当業者にとって容易であったともいえない。 また,原査定の拒絶の理由で周知例として例示された引用文献2ないし4を含め,レンズ中央部付近からレンズ周縁部へ向かうにつれて度数が徐々に低くなるという度数分布を採用した老眼鏡用レンズが,本件出願の出願前に公知であったことを示す証拠も見当たらない。 そうすると,相違点1の容易想到性について判断するまでもなく,本件発明1は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明2ないし6について 本件発明2ないし4は,相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を具備しており,本件発明2ないし4と引用発明は,少なくとも,相違点2と同様の点で相違するところ,前記(2)イで述べたのと同様の理由によって,本件発明2ないし4は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 また,本件発明5及び6は,請求項1ないし4のいずれかの記載を引用する形式で記載されたものであって,本件発明5及び6は,いずれも,本件発明1ないし4のいずれかの発明特定事項を全て含み,さらに限定を付加したものに相当するところ,本件発明1ないし4が,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない以上,本件発明5及び6も同様の理由により,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)小括 前記(2)及び(3)のとおりであって,本件発明1ないし6は,いずれも,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,原査定の理由によって,本件出願を拒絶することはできない。 6 当審拒絶理由に対する判断 (1)理由1(明確性要件違反)について 前記4(1)アで指摘した「縦横寸法が極めて小さく,膨大な個数」という記載及び「急激に変化する」という記載は,本件補正によって削除され,前記4(1)イで指摘した「老眼用レンズ」という記載は,本件補正によって明確な記載に補正された結果,理由1(明確性要件違反)は解消した。 (2)理由2(進歩性欠如)について 理由2(進歩性欠如)で引用した引用文献A(特開2003-29216号公報)は,原査定の拒絶の理由で引用された「引用文献4」であり,引用文献B(特開2006-99116号公報)は,原査定の拒絶の理由で引用された「引用文献1」であるところ,前記5(2)イで述べたように,引用文献A及びBのいずれにも,レンズ中央部付近からレンズ周縁部へ向かうにつれて度数が徐々に低くなるという度数分布を採用した老眼鏡用レンズは記載されておらず,かつ,老眼鏡用の眼鏡レンズにおいて,レンズ中央部付近からレンズ周縁部へ向かうにつれて度数が徐々に低くなるような引用発明の屈折力分布を採用することが,当業者にとって容易であったともいえないから,本件発明1ないし6は,引用文献Aに記載された発明及び引用文献Bに記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって,理由2(進歩性欠如)によって,本件出願を拒絶することはできない。 7 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本件出願を拒絶することはできない。 また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-01-21 |
出願番号 | 特願2017-204924(P2017-204924) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G02C)
P 1 8・ 537- WY (G02C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 廣田 健介、小西 隆、菅原 奈津子 |
特許庁審判長 |
中田 誠 |
特許庁審判官 |
関根 洋之 清水 康司 |
登録日 | 2019-03-01 |
登録番号 | 特許第6485888号(P6485888) |
発明の名称 | 老眼鏡用レンズ及び老眼鏡 |
代理人 | 中村 雅典 |