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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 E04F
管理番号 1349063
審判番号 不服2018-5935  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-27 
確定日 2019-03-05 
事件の表示 特願2015- 50642「造作部材とその施工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月23日出願公開、特開2016-169551、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年3月13日の出願であって、平成28年12月5日付け(発送日:同年12月13日)で拒絶理由通知がされ、平成29年2月10日付けで手続補正がされ、同年7月26日付け(発送日:同年8月1日)で拒絶理由通知がされ、同年9月28日付けで手続補正がされ、平成30年1月19日付け(謄本送達日:同年1月30日)で拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年4月27日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年1月19日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1に係る発明は、以下の引用文献1ないし8に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることできたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
さらに、本願請求項2及び3に係る発明は、以下の引用文献1ないし10に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることできたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献一覧
1.特開2000-274067号公報
2.特開2005-105571号公報
3.特開2000-336919号公報
4.実願平4-49122号(実開平6-6588号)のCD-ROM
5.特開2004-84260号公報
6.特開2014-218869号公報
7.特開2003-184295号公報
8.特開2002-147009号公報
9.特開2012-26111号公報
10.特開2006-83587号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
請求項1に係る審判請求時の補正は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「木質背面部材」が、「凹溝内」に「貼着」される構成について、「凹溝内の全長に亙って貼着され」ることを限定するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、当該補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
請求項3に係る審判請求時の補正は、請求項3に記載に記載された発明を特定するために必要な事項である「木質背面部材」の「一部」を「切除」する構成について、「木質背面部材の全幅に亘って」切除することを限定するものであり、また、「続いて施工対象物にクロスを張り、クロスの端部を造作部材本体の一方の長辺部分に沿って切断する」ことを限定するものである。そして、当該補正後の請求項3に記載された発明は、補正前の請求項3に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、当該補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、審判請求時の補正は、新規事項を追加するものではない。

そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、審判請求時の補正後の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本願発明1」などという。)は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願発明1ないし本願発明3は、平成30年4月27日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
表面に化粧シートが貼着され、その背面に長手方向に凹溝が凹設され、凹溝部分の肉厚が0.5?2mmで屈曲可能な樹脂からなる長尺の造作部材本体と、
その厚みが2.5mm?4mm以下であり、該凹溝内の全長に亙って貼着され、前記凹溝から背方に飛び出すように形成され、その背面が対象物に固定される固定面となっている木質背面部材とで構成され、
前記造作部材本体の一方の長辺部分の先端は、背方に向くようにJ形にカーブして形成され、その肉厚は先端近辺で先端に向けて漸減するように形成され、且つ、該先端が木質背面部材の固定面より背方に突出するように形成され、
前記造作部材の全幅が40mm以下、造作部材本体の表面から木質背面部材の固定面までの全厚みが5mm以下であることを特徴とする造作部材。
【請求項2】
造作部材本体の他方の長辺部分の全長に、その先端に向かってその厚みを漸減するように形成されたパッキン部材が取り付けられ、前記パッキン部材の最大肉厚部分は0.5?2mmで屈曲可能な樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の造作部材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の造作部材の木質背面部材を長手方向に対して交差する方向にその一部を木質背面部材の全幅に亘って切除し、
造作部材本体の、前記切除部分に一致する部分を屈曲させ、施工対象物の施工位置のコーナー部分に造作部材の前記屈曲部分を宛がい、施工対象物の施工位置に造作部材を貼り付け、
続いて施工対象物にクロスを張り、クロスの端部を造作部材本体の一方の長辺部分に沿って切断することを特徴とする造作部材の施工方法。 」

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審決で付した。以下同様。)。

ア「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、住宅の壁の縁部や壁の開口部の周囲の縁部等の内壁面に取り付けられる住宅の化粧材に関する。」

イ「【0022】そして、図3及び図4に示されるのは、上記各種化粧材2の一例としての廻り縁11である。この一例において、廻り縁11は、壁1等に取り付けられる受材17と、該受材17に取り付けられる化粧面部材21と、該化粧面部材21に設けられ、受材17と嵌合する一対の挟持片22a、22bと、化粧面部材21に接合される分割部31(図4に図示)とを備えている。そして、上記受材17は、例えば、断面矩形状の木材からなるものであるが、木材に限られるものではなく、樹脂であっても良い。なお、受材17を樹脂とする場合には、断面矩形状とする必要はなく、例えば、断面コ字状や、内部に中空を有する四角筒状などとしても良い。また、受材17を樹脂製の断面コ字状とする場合には、開口する側が内壁面側ではなく、内壁面の反対側を向いた状態となることが好ましい。
【0023】上記化粧面部材21は、化粧材2としての廻り縁11において、主に露出する化粧面を有するものであり、化粧面部材21の表側が化粧面となっている。そして、化粧面部材21は、図1に示されるように左右に延在する長尺なものである。また、化粧面部材21の下部には、分割部31と嵌合する嵌合部23が設けられている。すなわち、化粧面部材21は、化粧材2(廻り縁11)の本体となるものであり、分割部31は、化粧材2の上下の側縁部のうちの下側の側縁部となるものである。」

ウ「【0026】上側の上記挟持片22aは、化粧面部材21の上端部から後方に延出して形成され、下側の挟持片22bは、化粧面部材21の下部で、かつ、上記嵌合部23の上部から後方に延出している。そして、上側の挟持片22aと下側の挟持片22bとは、互いに対向しており、上側の挟持片22aと下側の挟持片22bとの互いに対向し、かつ、受材17に当接する面には、断面ほぼ鋸歯状の抜け止め部26、26が形成されている。なお、受材17を上述のように樹脂製とした場合には、受材17の挟持片22a、22bと当接する面にも断面ほぼ鋸歯状の抜け止め部を形成して、さらに引抜抵抗力を高めるものとしても良い。また、一対の挟持片22a、22bの互いに対向する面の化粧面部材21の裏面との接合部分には、挟持片22a、22bと受材17とを接着剤で接合する際に、余分な接着剤を溜める空間となる凹部27、28が形成されている。
【0027】該凹部27、28は、挟持片22a、22bと化粧面部材21の裏面との境界に沿って溝状とされている。そして、上側の挟持片22aの抜け止め部26と下側の挟持片22bとの間の間隔は、受材17の上下長さより僅かに短いものとされ、上下の挟持片22a、22bの間に、受材17を押込んだ際に上下の挟持片22a、22bが弾性変形して受材17を挟持片22a、22b同士の間に挟み込むことが可能となるとともに、挟持片22a、22bの弾性力により受材17を挟んで嵌合できるようになっている。」

エ「【0031】そして、廻り縁11を備えた内装構造においては、内壁面に上記受材17が釘やビス等の接合部材により接合されて取り付けられている(接着剤を用いるものとしても良い)。また、内壁面の受材17より下側には、内装材が貼設されている。そして、上記受材17には、二つの挟持片22a、22bに受材17を挟み込むようにして挟持片22a、22bが受材17に嵌合することにより化粧面部材21が受材17に接合されている。なお、嵌合部23を含む化粧面部材21と、挟持片22a、22bとは、上述の木質様成形品であり、例えば、押出成形により一体に成形されており、樹脂として弾性を備えたものとなっている。また、分割部31も木質様成形品である。そして、受材17と挟持片22a、22bとは、上述のように嵌合するとともに接着剤により接着されている。また、化粧面部材21は、上述のように内装材に厚みに対応して分割部31が取り付けられている。また、分割部31は、その長片32もしくは短片33が溝24に嵌合するとともに、接着剤により長片32もしくは短片33と溝24の内側面とが接着させられている。」

オ「【0036】また、溝24の内側面には、断面ほぼ鋸歯状の抜け止め部が設けられており、溝24から長片32もしくは短片33が抜けるのを抑制することができる。これらのことから、溝24に長片32もしくは短片33を嵌合させた状態で接着させる際に、接着剤の接合力が十分に発現するまで溝24に長片32もしくは短片33を強固に嵌合させておくことができる。次いで、受材17に化粧面部材21と一体の挟持片22a、22bを嵌合させる。この際には、挟持片22a、22bの互いに対向し、かつ、受材に当接する面に予め接着剤を塗布しておく。そして、挟持片22a、22bの間に受材17が押込まれるように、化粧面部材21を受材17に向かって押し付ける。この際には、挟持片22a、22bの接着剤が塗布された面に受材17が押し付けられるとともに、受材が挟持片22a、22aの先端部から基端部側に移動していくことになる。そして、この場合に、挟持片22a、22bに余分に塗布された接着剤が受材17に押されて挟持片22a、22bの基端部側に寄せ集められて行く。そして、挟持片22a、22bの基端部、すなわち、化粧面部材21の裏面との境界部分には、上述の凹部27、28が形成されているので、該凹部27、28内に寄せ集められた接着剤が受材17により押し入れられることになる。これにより、余分な接着剤が受材と化粧面部材21の挟持片22a、22bとの嵌合部分の外側に露出するのを防止することができる。」

カ「【図3】



(ア)図3によれば、「化粧面部材21」の裏面に、上下の挟持片22a、22bにより凹溝が形成されていることが看取される。
また、この凹溝が、図面奥行き方向(化粧面部材21の長手方向)に延びていることは明らかである。
したがって、図3には以下の事項が記載されていると認められる。

「化粧面部材21の裏面に長手方向に、化粧面部材21の裏面と上下の挟持片22a、22bにより凹溝が構成されている点。」

(イ)また、図3から以下のことが看取される。
「受材17の裏面が、壁1に接している点。」

(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「壁1に取り付けられる受材17と、該受材17に取り付けられる化粧面部材21とを備えた廻り縁11であって、
化粧面部材21は、表側が化粧面となっている長尺なものであり、弾性を備えた樹脂から構成され、化粧面部材21の上端部及び下端部から後方に、挟持片22a及び挟持片22bがそれぞれ延出され、化粧面部材21の裏面に長手方向に、上下の挟持片22a、22bにより凹溝が構成されており、
受材17は木材からなり、裏面が壁1に接しており、
上下の挟持片22a、22bの間に、受材17を押込んだ際に上下の挟持片22a、22bが弾性変形して、受材17を上下の挟持片22a、22b同士の間に挟み込むことが可能となるとともに、上下の挟持片22a、22bの弾性力により受材17を挟んで嵌合できるようになっており、
受材17と上下の挟持片22a、22bとは、嵌合するとともに接着剤により接着されている、廻り縁11。」

2 引用文献3について
(1)引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、以下の事項が記載されている。

ア「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、柔軟性、下地との接着性、寸法安定性、施工性に優れた、塩化ビニル樹脂(PVC)等のハロゲン系樹脂を用いないノンハロゲン系巾木に関する。」

イ「【0007】
【発明の実施の形態】本発明のノンハロゲン系巾木は、オレフィンとカルボキシル基含有モノマーの共重合樹脂であって、カルボキシル基含有モノマーの量が15?30重量%である樹脂、及び充填剤を含有する層からなる。オレフィンとカルボキシル基含有モノマーの共重合樹脂としては、例えばエチレン/酢酸ビニル樹脂(EVA)、エチレン/エチルアクリレート樹脂(EEA)、エチレン/メチルアクリレート樹脂(EMA)、エチレン/メチルメタアクリレート樹脂(EMMA)等のオレフィン/アクリレート系樹脂が挙げられる。これら樹脂のMFRは0.5?10の範囲が好ましい。またこれら樹脂において酢酸ビニル又はアクリル酸エステル等のカルボキシル基含有モノマーの量が15?30重量%の範囲では、上記MFRとの組み合わせにより優れた柔軟性、充填剤の保持性が得られる。モノマーの量は20?25重量%がより好ましい。このような共重合樹脂を用いることにより、従来のポリオレフィンに特有の反発性が解消され、出隅入り隅部への施工性が改善される。図1は本発明の改善された出隅入り隅部への施工性を示し、図2は従来のポリオレフィンの反発性により巾木がふくれ見栄えが悪い状態を示す。
【0008】充填剤としては平均粒径1?10μm、好ましくは1?6μmのものがものが用いられる。充填剤としては炭酸カルシウム、タルク、クレー、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等が例示できる。充填剤の量は樹脂/充填剤の割合で40/60?25/75の範囲が好ましく、35/65?30/70の範囲がより好ましい。充填剤の量を高くすることによりオレフィン特有の反発性を低減することができ、出隅部のおさまりが良くなりふくれることがない。また充填剤が多く配合されることにより、無極性部が減り、接着性、寸法安定性が向上する。なお本発明においては特に可塑剤を配合しなくても良い。従来のPVC系の巾木は可塑剤の量を調節して柔軟性を得ている。本発明においては共重合樹脂100重量部に対してエラストマーを3?10重量部配合するのは好ましい。エラストマーとしては、例えばポリブタジエン、EVA、エチレンープロピレンージエン共重合体(EPDM)等のゴム系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系等のエラストマーを例示できる。エラストマーを配合することにより充填剤の保持性が良好で、適度な柔軟性が得られ、施工性、特に低温施工性が向上する。その他顔料、滑剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤等の通常の添加剤を配合することもできる。」

(2)引用文献3に記載された技術事項
上記(1)により、引用文献3には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「反発性が低減されていて、柔軟性に優れており、出隅部へおさまりが良くふくれることがない巾木。」

3 引用文献4について
(1)引用文献4の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、以下の事項が記載されている。

ア「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、出隅において平坦な壁面に施工される幅木に接続させる出隅対応幅木役物に関するものである。」

イ「【0010】
【考案の効果】
本考案に係る幅木役物11は、その本体14が弾力性を有する軟質材料で形成されているので、出隅19の形状に合わせて随時変形することが出来、一端の当て板12を壁面15に釘打固定し、本体14を曲げて他端の当て板13を他の壁面16に釘打固定すれば、そのまま出隅19に密着する。」

(2)引用文献4に記載された技術事項
上記(1)により、引用文献4には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「弾力性を有する軟質材料で形成された、出隅19の形状に合わせて随時変形し、出隅19に密着することができる、出隅対応幅木役物。」

4 引用文献7について
(1)引用文献7の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7には、以下の事項が記載されている。

ア「【0007】腰壁シートAや見切り材Bおよび巾木Cを形成する熱可塑性樹脂としては、柔軟弾性を有する熱可塑性樹脂であれば特に限定されるものではないが、具体的には、塩化ビニル系樹脂,塩素化ポリエチレン等の含ハロゲン樹脂,ポリエチレン,ポリプロピレン,エチレン-αオレフィン共重合樹脂,プロピレン-αオレフィン共重合樹脂,エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂,エチレン-アクリル酸エステル共重合樹脂,エチレン-メタクリル酸エステル共重合樹脂,エチレン-アクリル酸共重合樹脂等のオレフィン系樹脂,オレフィン系熱可塑性エラストマー,スチレン系熱可塑性エラストマー,ポリエステル系熱可塑性エラストマー,ウレタン系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー、等を挙げることができる。その中で、特に、腰壁シートAや見切り材Bを形成する熱可塑性樹脂としては、接触時によりソフトな感触が得られるように上に挙げた熱可塑性樹脂を発泡させて用いることが好ましい。その場合、全体を発泡樹脂で形成しても良いが、多層押出し機を用いて、部分的に発泡層を形成するようにしても良い。」

イ「【0011】また、見切り材Bの上辺部及び/又は下辺部(図示実施例では、上辺部と下辺部の両方)には、断面略嘴形状をした圧接縁3a,3bを同一体に延設形成せしめる。圧接縁3a,3bは、建物の壁面Dないしは腰壁シートA表面に多少不陸がある場合でもその不陸を吸収して見切り材Bの上辺部及び/又は下辺部の裏面側と建物の壁面Dないしは腰壁シートA表面との間に隙間が生じないようにするためのものであり、建物の壁面Dないしは腰壁シートA表面に対して付勢接触するように、鷲の嘴のように鋭く先が曲がった断面略嘴形状に形成すると共に、その先端辺3a’,3b’が建物の壁面Dないしは腰壁シートA表面に向かって見切り材Bの裏面B’より少し突出するように形成することが好ましい。」

(2)引用文献7に記載された技術事項
上記(1)により、引用文献7には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「柔軟弾性を有する熱可塑性樹脂で構成された見切り材Bであって、
圧接縁3aを同一体に延設形成せしめ、圧接縁3aは、鷲の嘴のように鋭く先が曲がった断面略嘴形状であり、その先端辺3a’が建物の壁面Dに向かって見切り材Bの裏面B’より少し突出するように形成された見切り材B。」

第6 対比・判断
1 対比
(1)引用発明1の「廻り縁11」は本願発明1の「造作部材」に相当する。

(2)引用発明1の「化粧面部材21」は本願発明1の「造作部材本体」に相当する。
また、引用発明1の「化粧面部材21」が、「長尺なものであり」、「樹脂から構成され」ていることは、本願発明1の「造作部材本体」が、「長尺」であり「樹脂からなる」ことに相当する。
さらに、引用発明1の「化粧面部材21の裏面に長手方向に凹溝が構成されて」いることは、本願発明1の「造作部材本体」の「背面に長手方向に凹溝が凹設され」ていることに相当する。

(3)引用発明1の「受材17」は本願発明1の「木質背面部材」に相当する。
また、引用発明1の「受材17」が、「裏面が壁1等に接して」、「壁1等に取り付けられる」ことは、本願発明1の「木質背面部材」が、「背面が対象物に固定される固定面となっている」ことに相当する。

(4)本願発明1における「貼着」について、発明の詳細な説明の【0025】段落を参酌すると、「木質表面部材11は・・・凹溝16に接着剤で接着一体化するようにしてもい。」と記載されているから、「貼着」は「接着」と同様の意味で用いられていると解することができる。
よって、引用発明1における「接着」は、本願発明1の「貼着」に相当する。
そして、引用発明1において、「凹溝」を構成する「上下の挟持片22a、22b」と「受材17」が接着されていることは、「木質背面部材」が、「凹溝内」に「貼着され」ていることに相当する。

(5)してみると、本願発明1と引用発明1では、下記の点で一致点と相違点を有する。

(一致点)
「背面に長手方向に凹溝が凹設され、樹脂からなる長尺の造作部材本体と、
該凹溝内に貼着され、その背面が対象物に固定される固定面となっている木質背面部材とで構成される造作部材。」

(相違点1)
「造作部材本体」が、本願発明1では、「屈曲可能な樹脂」であるのに対し、引用発明1では、「弾性を備えた樹脂」である点。

(相違点2)
「造作部材本体」が、本願発明1では、「一方の長辺部分の先端は、背方に向くようにJ形にカーブして形成され、その肉厚は先端近辺で先端に向けて漸減するように形成され、且つ、該先端が木質背面部材の固定面より背方に突出するように形成され」ているのに対し、引用発明1では、そのような構成が特定されていない点。

(相違点3)
「木質背面部材」が、本願発明1では、「凹溝から背方に飛び出すように形成され」ているのに対し、引用発明1では、そのような構成が特定されていない点。

(相違点4)
「造作部材本体」の表面について、本願発明1では、「化粧シート」が貼着されているのに対し、引用発明1では、「化粧面部材21」の表面が化粧面となっている点。

(相違点5)
「木質背面部材」が、本願発明1では、凹溝内の「全長に亙って」貼着されているのに対し、引用発明1では、凹溝内に貼着されているとは認められるものの「全長に亙って」いるか否かは不明である点。

(相違点6)
「造作部材」、「木質背面部材」及び「造作部材本体」が、本願発明1では、それぞれ「全幅が40mm以下、造作部材本体の表面から木質背面部材の固定面までの全厚みが5mm以下」、「その厚みが2.5mm?4mm以下」及び「凹溝部分の肉厚が0.5?2mm」であるのに対し、引用発明1では、そのような構成が特定されていない点。

2 相違点についての判断
(1)相違点1について
上記相違点1について検討する。
本願発明1の「屈曲可能な樹脂」の意味について、発明の詳細な説明の【0014】段落の「造作部材本体12は・・・施工部分のコーナー部分(出隅部分や入隅部分)に合わせて屈曲させることができ、継ぎ目のないコーナー施工が可能となる」との記載や、【0027】段落の「屈曲可能な樹脂(例えば、前述のような半硬質樹脂)であるから、・・・コーナー部分Kに合わせて(例えば、直角に)簡単に曲げることができる。」との記載を参酌すれば、「隅部に合わせて簡単に曲げることにより、継ぎ目のないコーナー施工が可能である、例えば半硬質樹脂」のように解釈することができる。そして、引用文献1には、「化粧面部材21」を、隅部に合わせて曲げることは何ら記載されておらず、また、引用発明1の「化粧面部材21」は、「受材17」を「上下の挟持片22a、22b同士の間に挟み込」んで「嵌合」ができる程度の「弾性を備えた樹脂」であることから、本願発明1のように、隅部に合わせて簡単に曲げることができる程度の柔軟性を有しているとは認められない。
また、引用文献3及び引用文献4に記載されているように、「柔軟性を有する、出隅部に沿って屈曲される巾木」そのものは周知であるとしても、引用文献3及び引用文献4に記載されたものは、裏側に挟持片を有するものではない。そして、引用発明1において、「廻り縁11」を上記周知事項のようにしたとしても、「受材17」を「上下の挟持片22a、22b同士の間に挟み込」んで「嵌合」するために求められる弾性力と、「出隅部に沿って屈曲」するために求められる弾性力は異なることから、更なる材料や構造の変更が必要となり、そのような変更を行うことが設計的事項であるとは認められないし、当業者が容易に想到し得る事項であるともいえない。
また、拒絶査定に引用された他の引用文献2、5ないし10にも、本願発明1の相違点1に係る構成は記載されていない。
よって、引用発明1において、本願発明1の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到することができるものではない。

(2)相違点2について
上記相違点2について検討する。
引用文献7に記載された技術事項の「鷲の嘴のように鋭く先が曲がった断面略嘴形状」は、一般的な用語の意味から解釈すれば、「J形にカーブして形成され、その肉厚は先端近辺で先端に向けて漸減する」ものと解されるから、引用文献7に記載された技術事項の「圧接縁3a」(「先端辺3a’」も含む)は、本願発明1の、「長辺部分の先端は、背方に向くようにJ形にカーブして形成され、その肉厚は先端近辺で先端に向けて漸減するように形成され、且つ、該先端が木質背面部材の固定面より背方に突出する」との構成を有していると認められる。
ここで、引用文献7には、「圧接縁3a」について、「【0011】・・・圧接縁3a,3bは、建物の壁面Dないしは腰壁シートA表面に多少不陸がある場合でもその不陸を吸収して見切り材Bの上辺部及び/又は下辺部の裏面側と建物の壁面Dないしは腰壁シートA表面との間に隙間が生じないようにするためのものであり、建物の壁面Dないしは腰壁シートA表面に対して付勢接触するように、鷲の嘴のように鋭く先が曲がった断面略嘴形状に形成すると共に、その先端辺3a’,3b’が建物の壁面Dないしは腰壁シートA表面に向かって見切り材Bの裏面B’より少し突出するように形成する」旨、記載されており、これらの記載から、圧接縁3aは、壁面との間に隙間が生じないようにするための部材であるといえる。
一方、引用文献1においては、図3において明らかなように、挟持片22aは壁面に概ね接しており、すでに壁面との隙間を塞ぐ部材が設けられているものである。したがって、引用発明1において、さらに引用文献7に記載されたような隙間を塞ぐ部材を設ける必要性はないから、引用文献7に記載された技術事項を適用する動機付けはないというべきである。
仮に、引用発明1に、引用文献7に記載の技術事項を適用したとしても、引用発明1の廻り縁11、引用文献7に記載の見切り材Bの構造が大きく異なるため、引用発明1の廻り縁11あるいは挟持片22aに対して、引用文献7に記載の圧接縁3aあるいは先端辺3a’の構成をどのように適用するのか明らかではなく、相違点2に係る構成のようになるともいえない。

また、拒絶査定に引用された他の引用文献2ないし6、8ないし10にも、本願発明1の相違点2に係る構成は記載されていない。

よって、引用発明1において、本願発明1の相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到することができるものではない。

上記(1)及び(2)により、上記相違点3ないし6について判断するまでもなく、本願発明1は、引用文献1ないし8に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2及び本願発明3について
本願発明2及び本願発明3は、本願発明1を引用するものであって、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。
よって、本願発明1と同じ理由により、本願発明2及び本願発明3は、引用文献1ないし10に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1ないし3は上記相違点1ないし6に係る構成を有するものとなっており、拒絶査定で引用した引用文献1ないし10に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。したがって、原査定の理由(進歩性)を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-02-19 
出願番号 特願2015-50642(P2015-50642)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (E04F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 前田 敏行油原 博  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 富士 春奈
西田 秀彦
発明の名称 造作部材とその施工方法  
代理人 森 義明  
代理人 森 義明  

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