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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B05D
管理番号 1349067
審判番号 不服2018-11363  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-22 
確定日 2019-03-11 
事件の表示 特願2016-186710「コーティングまたはインク組成物を基材に塗布し、放射線照射する方法、およびその産物」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月28日出願公開、特開2016-221521、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 理 由
第1 手続の経緯
本願は、2011年12月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年12月13日(以下、「優先日」という。)、米国)を国際出願日とする特願2013-544673号の一部を、平成28年9月26日に新たな特許出願としたものであって、平成29年8月3日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年4月19日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年8月22日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、同年9月21日に前置報告がされ、同年12月13日に審判請求人から前置報告に対する上申書が提出されたものである。


第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

1.本願請求項1-10に係る発明は、以下の引用文献1-6に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2006-181430号公報
2.特開2007-262281号公報
3.特開2001-205179号公報
4.特開2010-6887号公報
5.特表2007-519771号公報
6.特表2003-535721号公報


第3 本願発明
本願請求項1-7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明7」という。)は、平成30年8月22日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定される発明であり、そのうち、請求項1に係る発明については以下のとおりである。(なお、本願発明1は拒絶査定時の請求項6に係る発明と実質的に同じである。)

「【請求項1】
コーティングまたはインク組成物を非多孔性基材に塗布する方法であって、
前記組成物を前記非多孔性基材の第1の表面に塗布する工程と、
前記非多孔性基材の前記塗布済みの第1の表面に放射線を1回以上照射する工程と、
前記非多孔性基材の第2の表面に放射線を1回以上照射する工程と、
を含み、
前記非多孔性基材がプライマー処理または化学処理されておらず、
前記第2の表面に放射線を照射してから、前記塗布済みの第1の表面に照射し、
前記非多孔性基材が、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートグリコール、ポリ塩化ビニル、またはこれらの混合物から選択され、
前記組成物が1つ以上の熱可塑性アクリル不活性樹脂を含むエネルギー硬化性インクである、方法。」


第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【請求項1】
該塗料インキ等が塗布された基材に紫外線を照射する紫外線照射装置を有する塗工装置において、
該塗料インキ等が塗布された基材の一方の面に紫外線を照射する第1の紫外線照射装置と、該塗料インキ等が塗布された基材の他方の面に紫外線を照射する第2の紫外線照射装置を有することを特徴とする塗工装置。」

「【0001】
本発明は、紫外線硬化型塗料を用いた、窓貼り紫外線カットフィルムやディスプレイ表面保護等に使用される各種機能性積層体の製造に使用される塗工装置に関し、また、該塗工装置を用いて各種機能性積層体を製造する製造方法に関し、さらには、該製造方法により製造される積層体に関する。」

「【0018】
本発明によれば、一つの塗工装置において積層体の塗工面と基材側面の両方から紫外線を照射することにより、紫外線照射積算量を確保しつつ作業速度の低下、作業時間の増加が起こらす、塗工層の硬化ムラが発生せず、かつ基材と塗工層の密着性がよい積層体を製造することのできる装置、製造方法ならびに該装置および該製造方法により製造される積層体を提供することができる。」

「【0022】
図3はロール30とロール30の間で紫外線照射する方法である。前述のとおり、紫外線照射時の変形やシワ等の多少の問題を有するが、紫外線照射や熱による変形等の影響が少ない樹脂が開発されれば、この方法でも紫外線照射を行うことができる。」

「【0023】
紫外線を照射する順番は、図3の方式であればどちらの面を先に照射しても構わないが、図2の方式の場合、最初に塗工面側、次いで基材面側の順番が望ましい。塗工面が未硬化の状態でロールに接した場合、ロールに未硬化の樹脂が付着することなり、安定した塗工層をもつ積層体の製造が不可能となるからであり、塗工面表面を最初に紫外線照射し硬化させることにより、塗工面が未硬化の状態でロールに接することがなくなる。」

「【0029】
本発明に係る積層体の基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系、トリアセチルセルロース等のセルロース系、ポリメタクリル酸メチル等のアクリレート系、ポリカーボネート系、オレフィン系等、紫外線が透過する材料であれば特に限定されないが、紫外線吸収剤が添加されておらず、紫外線透過率が高い樹脂が好ましく、また、各々の基材において、あらかじめ、塗布面との密着性を向上するために易接着層を設けることも可能である。好ましくは、波長365nmの紫外線の透過率が50%以上である材料であり、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは85%以上である。透過率が50%に満たない場合、積層体の基材面側より紫外線を効率よく紫外線硬化型樹脂に照射することができず、基材と塗工層の密着性が低下する。また、紫外線照射量を多くして対応すると、基材の劣化によるシワの発生、張力などの強度低下等の悪影響が生じる。」

「【0033】
帯状基材に塗布する塗料として、エポキシアクリレート系紫外線硬化型樹脂(商品名:KR-566、固形95%溶液、旭電化工業社製)45重量部に紫外線吸収剤(商品名:RUVA93、大塚化学社製)5重量部を有機溶剤50重量部中に混合し、調整した。調整した塗料を乾燥後の厚さが5μmとなるようロッドコーターで該基材上に塗布し、100℃で2分間乾燥させた。帯状基材には、PETフィルム(商品名:A4300、東洋紡績社製)を用いた。乾燥後は該積層体の基材面を第1のバックアップロールに接した状態で120W/cm集光型高圧水銀灯1灯を用いて塗工面に紫外線照射(照射距離10cm、照射時間30秒)し、次いで該積層体の塗工面を第2のバックアップロールに接した状態で80W/cm集光型高圧水銀灯1灯を用いて基材面に紫外線照射(照射距離10cm、照射時間30秒)し、本発明の積層体を得た。この積層体の塗工層は、硬化ムラが無く均一で基材と塗工層との密着性も良好であった。」





したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 紫外線硬化型塗料を用いた塗料インキ等を基材に塗布する方法であって、
前記塗料インキ等を前記基材の一方の面に塗布する工程と、
前記塗料インキ等が塗布された基材の一方の面に紫外線を照射する工程と、
前記塗料インキ等が塗布された基材の他方の面に紫外線を照射する工程と、
を含み、
前記基材が、ポリエチレンテレフタレート(PET)である、方法。」


2.引用文献4について
また、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4の【請求項1】、段落【0002】-【0003】、段落【0014】-【0015】の記載からみて、当該引用文献4には、活性エネルギー線硬化型インクジェット記録用インク組成物として、少なくとも顔料、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物、光重合開始剤、炭素数3?6の分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの単独重合体等の非反応性アクリル樹脂を含有するものとすることにより、インク非吸収性樹脂基材に対する密着性に優れるという技術的事項が記載されていると認められる。


第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明における「塗料インキ等」、「一方の面」、「他方の面」、「紫外線」、「紫外線を照射する工程」は、本願発明1における「コーティングまたはインク組成物」、「第1の表面」、「第2の表面」、「放射線」、「放射線を1回以上照射する工程」に相当する。
また、引用発明の「基材」は、段落【0029】や図3などの記載から見て、本願発明1における「非多孔性基材」に相当するものであり、引用発明の塗料インキ等は紫外線硬化型であるから、本願発明1の「エネルギー硬化性」インクにあたるものといえる。
したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「 コーティングまたはインク組成物を非多孔性基材に塗布する方法であって、
前記組成物を前記非多孔性基材の第1の表面に塗布する工程と、
前記非多孔性基材の前記塗布済みの第1の表面に放射線を1回以上照射する工程と、
前記非多孔性基材の第2の表面に放射線を1回以上照射する工程と、
を含み、
前記非多孔性基材が、ポリエチレンテレフタレートからなり、
前記組成物が、エネルギー硬化性インクである、方法。」

(相違点)
(相違点1)コーティングまたはインク組成物(塗料インク等)について、本願発明1は「1つ以上の熱可塑性アクリル不活性樹脂を含む」という構成を備えるのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。
(相違点2)本願発明1は非多孔性基材が「プライマー処理または化学処理されておらず」という構成を備えるのに対し、引用発明はプライマー処理または化学処理をされていないかどうか明らかではない点。
(相違点3)本願発明1は「第2の表面に放射線を照射してから、前記塗布済みの第1の表面に照射」するものであるのに対し、引用発明は紫外線の照射順を特定していない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討すると、上記「第4」2.で述べたように、引用文献4には、活性エネルギー線硬化型インクジェット記録用インク組成物について、少なくとも顔料、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物、光重合開始剤、炭素数3?6の分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの単独重合体等の非反応性アクリル樹脂を含有させることで、該インク組成物のインク非吸収性樹脂基材に対する密着性を優れたものとする技術的事項が記載されている。
しかしながら、引用文献4に記載されているインク組成物は、インクジェット記録用のものである。
他方、引用発明の塗料インキ等は、窓貼り紫外線カットフィルムやディスプレイ表面保護等に使用される各種機能性積層体の製造に関するものであるから、引用発明と引用文献4に記載されているものは、「インキ(インク)」との表現では一見共通するように見えるものの、その用途は大きく異なるものである。
してみると、当業者が機能性積層体の製造に関する引用発明に対し、引用文献4に記載されたインクジェット記録用の技術的事項を採用するものとはいえないから、引用発明に引用文献4に記載された技術的事項を適用することは、当業者にとって容易に想到し得るものとはいえない。
したがって、上記相違点2、3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.本願発明2-7について
本願発明2-7も、本願発明1の組成物が「1つ以上の熱可塑性アクリル不活性樹脂を含む」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、拒絶査定において引用された引用文献2-6に記載された技術的事項及び上記周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1-7は組成物が「1つ以上の熱可塑性アクリル不活性樹脂を含む」という事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-6に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

なお、原査定は、引用文献2,3をそれぞれ主引用例として本願発明1-7を拒絶しているか明らかではないが、仮に、引用文献2,3を主引用例として拒絶しているとしても、第5 1.(2)で検討したことと同様の理由により、引用文献4に記載の技術的事項を引用文献2や引用文献3に記載された発明に適用することは、容易に想到し得るものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-02-22 
出願番号 特願2016-186710(P2016-186710)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B05D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 清水 晋治安藤 達也  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 植前 充司
渕野 留香
発明の名称 コーティングまたはインク組成物を基材に塗布し、放射線照射する方法、およびその産物  
代理人 村山 靖彦  
代理人 阿部 達彦  
代理人 実広 信哉  

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