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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60N
管理番号 1349079
審判番号 不服2017-12887  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-31 
確定日 2019-02-20 
事件の表示 特願2016-546535「携帯用グリップ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年4月21日国際公開、WO2016/060074〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成27年10月9日(国内優先権主張 優先日:平成26年10月14日)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 7月13日 手続補正
平成28年 9月12日 拒絶理由通知
平成28年11月11日 意見書・手続補正
平成29年 2月 3日 拒絶理由通知
平成29年 3月16日 意見書・手続補正
平成29年 6月15日 拒絶査定
平成29年 8月31日 審判請求
平成29年 9月29日 拒絶理由通知
平成29年11月30日 意見書・手続補正

第2 当審の判断
1 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明(以下「本願発明1」,「本願発明2」という。)は,平成29年11月30日付けで補正された特許請求の範囲における,請求項1及び2に記載された事項によって特定されるべきものであり,その記載は次のとおりである。
「【請求項1】
表面に沿って手のひらと指が接触して握持できる外部表面を有し,前記外部表面の内側に嵌合スペースを有する携帯用グリップであって,
前記嵌合スペースが,対象グリップの把持部を嵌合している場合に外部に開放されている開放型嵌合スペースである場合,
前記外部表面は,その表面に沿って手のひらと指を接触して握持したときに,手のひらが接触する手のひら接触面,指が曲がった状態で接触する屈曲面及び指先が接触する指先接触面を備え,
前記手のひら接触面から屈曲面を経由して指先接触面に至るまでこれらの面は連続して形成され,
前記開放型嵌合スペースは前記指先接触面の裏面と,前記手のひら接触面の裏面とが対向している空間に形成され,
屈曲して対向する前記開放型嵌合スペース内における間隙の距離が対象グリップの把持部の断面の最大径と同程度であり,
前記篏合スペースは前記距離のまま前記開放型嵌合スペース外部に開放されており,
前記嵌合スペースが,前記対象グリップの把持部を着脱自在に嵌合し,
前記外部表面に連結され,指の一部と係合する指係合部とを備えた形態と,
不特定の運搬用手押し車のハンドルに一時的に装着される運搬用手押し車用ハンドルカバーの形態と,
前記携帯用グリップが手首に装着されるバンドと連結された形態と,
前記携帯用グリップを手のひらと指を接触して握持したときに,前記指先接触面と前記手のひら接触面が前記対象グリップの把持部の形状に沿って変形し,この変形に伴って前記指先接触面と前記手のひら接触面とが前記対象グリップの把持部の周方向に伸ばされながら前記対象グリップの把持部を挟み込む形態とが除かれる携帯用グリップ。
【請求項2】
前記外部表面の形状が馬の鞍型である請求項1記載の携帯用グリップ。」

2 引用文献に記載された事項
(1)引用文献1
特開2006-232250号公報(以下「引用文献1」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。(下線は,当審で付与した。他の下線についても同じ。)
ア 「【0006】
補助具を使用することによりつかまる部分が太くなり,手指との接地面も増えるため,力や体重が手指の一部分に集中せず,手指全体で力を込めて握ることが出来るようになり安全である。」

イ 「【0011】
図1に示すように,補助具本体1は親指を除く4本の指が収まると共につり革に収まる所定の軸長を有する筒状体2により構成されており,例えば,合成樹脂素材,天然又は合成ゴム素材等,柔軟性又は弾性を有する適宜の素材により成形されている。
【0012】
筒状体2は軸方向両端を開口3せしめると共に,軸方向全長に渡るスリット4を開設しており,補助具本体1は柔軟性又は弾性を有しているため容易にスリット4を広げ,スリット4よりつり革5に取り付けることが出来る。
【0013】
図2は補助具を使用した際のつり革と補助具の断面図であり,図2に示すとおり補助具本体1はつり革につかまる際つかまる部分に取り付けるなどの方法で,つり革と手指の間にはさみ込んで使用するものである。」

ウ 「【0015】
つり革につかまる時に補助具をすぐ使用できるよう,キーホルダーで鞄に取り付けるなどの方法で携帯できるようにすることが好ましい。」

エ 図2から,つり革に装着された補助具本体1の内径が,つり革のつかまる部分の外径におおよそ等しい点が看て取れる。

引用文献1の上記記載事項を含め,引用文献1の全記載を総合すると,引用文献1には以下の事項(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「所定の軸長を有する筒状体2により構成されている補助具本体1であって,
該筒状体2は,軸方向両端を開口3せしめると共に,軸方向全長に渡るスリット4を開設しており,該補助具本体1は柔軟性又は弾性を有して,容易にスリット4を広げ,スリット4よりつり革5に取り付けることが出来,
補助具本体1は,キーホルダーで鞄に取り付けるなどの方法で携帯でき,つり革につかまる際つかまる部分に取り付けて,つり革と手指の間にはさみ込んで使用することで,「つかまる部分が太くなり,手指との接地面も増えるため,力や体重が手指の一部分に集中せず,手指全体で力を込めて握ることが出来るようになるものであり」,
つり革に装着された補助具本体1の内径が,つり革のつかまる部分の外径におおよそ等しい補助具本体1。」

(2)引用文献2
実用新案登録第3137833号公報(以下「引用文献2」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
オ 「【0014】
図において,把持補助具1は,手指の不自由な人や手指の力が衰えた老人などが例えば電車やバスなどのつり革aや図示しない掴み棒を掴んだり,例えば鞄や買い物袋などの重い手荷物を持つ場合に使用する器具で,手首に装着されるバンド2と,バンド2に基端側31が連結され先端側32がフック状になったフック片3とから主に構成されている。」

カ 「【0022】
フック片3の先端側32はフック状,つまり先端側32はU字状になっていて,つり革aや図示しない掴み棒に引っ掛けたり,手荷物の把持部bを吊り下げることができる形状になっている。フック片3の先端側32は基端側31に比べて途中から幅狭になっていて,引っ掛けや吊り下げが容易になるようになっている。」

キ 「【0024】
掌の内側で使用されるフック片3の幅は,図1(A)や図3のように幅広にして,より掴みやすいよう形状や,図2,図4のように幅狭にして掌に隠れるような形状でもよい。フック片3の幅が図1(A)や図3のように幅広の場合には,幅広なフック片3の中間部位を手指で掴みやすく,しかも外部からも見えるので,この場合にはアクセリー感覚で使用できるように,色々なデザインで造られる。
【0025】
これに対して,フック片3の幅が図2,図4のように幅狭にして掌に隠れるような形状の場合は,掌の内側に入る大きさ,つまり掌で隠せる大きさになっている。掌でフック片3の外周側を包み込むことで,掌の内側にフック片3はすっぽり納まって,フック片3を使用していることを周囲の人に悟らせないことができるようになっている。この場合には,フック片3の色は,フック片3を掌で包み込んだときにあまり目立たない色,例えば肌色などが使用されている。また,フック片3の素材には例えばプラスチック製が使用される。」

ク 図2に記載の実施例は,段落【0024】に記載されるようにフック片3の幅を「幅狭」としたものであるが,「幅狭」の実施例においても,つり革に装着して使用する際にフック片3の先端側32に指が掛けられている点が看て取れる。

引用文献2の上記記載事項を含め,引用文献2の全記載を総合すると,引用文献2には以下の事項(以下,「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「手首に装着されるバンド2と,バンド2に基端側31が連結され先端側32がフック状になったフック片3とから主に構成されている把持補助具1であって,
フック片3の先端側32はフック状,つまり先端側32はU字状になっていて,つり革に引っ掛けることができる形状になっており,フック片3の幅を幅狭にした場合は,掌の内側に入る大きさ,つまり掌で隠せる大きさになっており,つり革に装着して使用する際に掌でフック片3の外周側を包み込むことで,掌の内側にフック片3はすっぽり納まり,フック片3の先端側32に指が掛けられている把持補助具1。」

(3)引用文献3
特開2014-227130号公報(以下「引用文献3」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
ケ 「【0021】
本実施の形態の吊り手用把持具1は,ゴム製であり,基本的構成として,手掛けの握り部に係合させるためのホルダー10と,指を保持させるための指通し20とを備えている。
【0022】
ホルダー10は,矩形の平板状に形成された基部11を有している。基部11の一面側には指通し20が固定されている。基部11の長辺11aの長さは,平均的な成人の掌の幅に設定されている。基部11の一方の長辺11aからは,吊り手用把持具1の使用時に使用者の指先を当接させるための指当部12が,指通し20と反対方向に向かって伸びている。基部11の他方の長辺11aからは,使用時に使用者の掌を当接させるための掌当部13が,指当部12と同じ方向に伸びている。図1(D)(E)の仮想線は,吊り手Aの手掛けBにおける握り部B1(図2参照)の断面を示している。一般的な手掛けにおける握り部B1の断面幅bは約15mmであり,バラツキは少ない。図1(D)(E)に示されているように,指当部12の基端から先端までの長さは,握り部B1の断面幅bの1/2より長く,断面幅bよりは短く設定されており,掌当部13の基端から先端までの長さは,握り部B1の断面幅bより長く,断面幅bの約1.5倍の長さに設定されている。
【0023】
ホルダー10の内面側には,指当部12の先端から基部11を通過して掌当部13の先端へと続き,基部11の長辺11aと直交する方向に伸びている,複数列(図では7列)の突起14が設けられている。図1(D)(E)に示されているように,指当部12上の突起14の先端と掌当部13上の突起14の先端との間隔aは,握り部B1の断面幅bと略同一に設定されている。」

引用文献3の上記記載事項を含め,引用文献3の全記載を総合すると,引用文献3には以下の事項(以下,「引用文献3記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「手掛けの握り部に係合させるためのホルダー10と,指を保持させるための指通し20とを備えている吊り手用把持具1において,
ホルダー10は,矩形の平板状に形成された基部11を有し,基部11の長辺11aの長さは,平均的な成人の掌の幅に設定され,
基部11の一方の長辺11aからは,吊り手用把持具1の使用時に使用者の指先を当接させるための指当部12が,指通し20と反対方向に向かって伸び,基部11の他方の長辺11aからは,使用時に使用者の掌を当接させるための掌当部13が,指当部12と同じ方向に伸びるものであって,
指当部12上の突起14の先端と掌当部13上の突起14の先端との間隔は,握り部B1の断面幅と略同一に設定されている吊り手用把持具1。」

3 対比
(1)本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「筒状体2により構成されている補助具本体1」は,キーホルダーで鞄に取り付けるなどの方法で携帯でき,つり革につかまる際,つかまる部分に取り付けて,つり革と手指の間にはさみ込んで使用するものであって,一般的に握る部分を「グリップ」と称するから,本願発明1の「携帯用グリップ」に相当する。
引用発明1の「筒状体2」は,つり革に取り付けた状態において,つり革のつかまる部分と接しない「外周部分」を有しており,この「外周部分」は,「手指全体で力を込めて握」る部分であることは明らかである。
ここで,引用発明1における「手指全体で力を込めて握る」について検討すると,そもそも引用発明1は,段落【0006】に記載されるように「補助具を使用することによりつかまる部分が太くなり,手指との接地面も増えるため,力や体重が手指の一部分に集中せず,手指全体で力を込めて握ることが出来るようになり安全である」という効果を奏するための発明であるから,「指(部分)のみで補助具を握る」という使用形態を前提とした補助具であるとは考えられず,また,「握る」とは,一般的には「物を手のひらの中にしっかり保持する」ことを踏まえると,引用発明1における「外周部分」は,本願発明1の「表面に沿って手のひらと指が接触して握持できる外部表面」に相当することは明らかである。
上記「外周部分」の内側の空間には,つり革のつかまる部分が取り付けられるから,上記「外周部分」の内側には「嵌合スペース」が存在するといえる。
また,上記「外周部分」の内側の空間は,補助具本体の柔軟性又は弾性を利用して,スリットを広げ,スリットにより,つり革のつかまる部分に取り付けるものであって,【図2】を見ると,「筒状体」は,つり革のつかまる部分に取り付けられている場合に,スリット部分に間隙が存在していることから,上記「外周部分」の内側にある「嵌合スペース」は,本願発明1の「対象グリップの把持部を嵌合している場合に外部に開放されている開放型嵌合スペース」に相当する構成であることは自明である。
また,上記「外周部分」は,使用者が「手指全体で力を込めて握」ったときに,手のひらが接触する面である「手のひら接触面」,及び指先が接触する面であるつまり「指先接触面」,並びに「手のひら接触面と指先接触面の間にあって指が曲がった状態で接触する面(以下,「間にある面」)という。」を備えていることは自明であり,「手のひら接触面」から「間にある面」を経由して「指先接触面」に至るまで「連続して形成され」ていることも自明であり,引用発明1の「間にある面」と,本願発明1の「屈曲面」とは,「指が曲がった状態で接触する屈曲面」との概念で共通する。
さらに,【図2】を見ると,引用発明1における「開放型嵌合スペース」に相当する構成は,「手のひら接触面」及び「指先が接触する面」のそれぞれの面の裏面が対向する空間に形成されていることは明らかである。
引用発明1の「筒状体」は,【図2】を見ると,つり革のつかまる部分に取り付けられている場合に,「補助具本体の内径の最大部分が,つり革のつかまる部分の外径におおよそ等しい」から,本願発明1の「対向する開放型嵌合スペース内における間隙の距離が対象グリップの把持部の断面の最大径と同程度」の部分を少なくとも有しているといえる。
引用発明1の「補助具本体」は,「キーホルダーで鞄に取り付けるなどの方法で携帯でき,つり革につかまる際つかまる部分に取り付け」るものであるから,本願発明1の「対象グリップの把持部を着脱自在に嵌合」するに相当することは自明である。
引用発明1の「補助具本体」は,「外部表面に連結され,指の一部と係合する指係合部とを備えた形態」,「不特定の運搬用手押し車のハンドルに一時的に装着される運搬用手押し車用ハンドルカバーの形態」,「携帯用グリップが手首に装着されるバンドと連結された形態」,「携帯用グリップを手のひらと指を接触して握持したときに,指先接触面と手のひら接触面が対象グリップの把持部の形状に沿って変形し,この変形に伴って前記指先接触面と前記手のひら接触面とが前記対象グリップの把持部の周方向に伸ばされながら前記対象グリップの把持部を挟み込む形態」のいずれも想定されない。
以上のことより,両者は,
〈一致点〉
「表面に沿って手のひらと指が接触して握持できる外部表面を有し,前記外部表面の内側に嵌合スペースを有する携帯用グリップであって,
前記嵌合スペースが,対象グリップの把持部を嵌合している場合に外部に開放されている開放型嵌合スペースである場合,
前記外部表面は,その表面に沿って手のひらと指を接触して握持したときに,手のひらが接触する手のひら接触面,指が曲がった状態で接触する面及び指先が接触する指先接触面を備え,
前記手のひら接触面から指が曲がった状態で接触する面を経由して指先接触面に至るまでこれらの面は連続して形成され,
前記開放型嵌合スペースは前記指先接触面の裏面と,前記手のひら接触面の裏面とが対向している空間に形成され,
前記嵌合スペースが,前記対象グリップの把持部を着脱自在に嵌合し,
前記外部表面に連結され,指の一部と係合する指係合部とを備えた形態と,
不特定の運搬用手押し車のハンドルに一時的に装着される運搬用手押し車用ハンドルカバーの形態と,
前記携帯用グリップが手首に装着されるバンドと連結された形態と,
前記携帯用グリップを手のひらと指を接触して握持したときに,前記指先接触面と前記手のひら接触面が前記対象グリップの把持部の形状に沿って変形し,この変形に伴って前記指先接触面と前記手のひら接触面とが前記対象グリップの把持部の周方向に伸ばされながら前記対象グリップの把持部を挟み込む形態とが除かれる携帯用グリップ。」
である点で一致し,以下の点で相違している。
<相違点>
相違点1
本願発明1は「指が曲がった状態で接触する屈曲面」を有するのに対して,引用発明1は「指が曲がった状態で接触する面」であって,「屈曲面」ではない点。

相違点2
本願発明1は「屈曲して対向する開放型嵌合スペース」を有するのに対して,引用発明1の開放型嵌合スペースは「屈曲して対向」するものではない点。

相違点3
本願発明1は「開放型嵌合スペース内における間隙の距離が対象グリップの把持部の断面の最大径と同程度であり,前記篏合スペースは前記距離のまま前記開放型嵌合スペース外部に開放」しているのに対して,引用発明1の開放型嵌合スペースは,そうではない点。

4.判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用文献2記載事項における把持補助具1のフック片3の先端側32はU字状をなしており,特に【図1】B,C及び【図2】を見るに,該U字状部の先端側32には指が接触する面が,基端側31には手のひらが接触する面が形成されていることは明らかであり,U字状部における指先が接触する面と,手のひらが接触する面の間には,「指が曲がった状態で接触する屈曲面」が認められる。
引用文献3記載事項において「基部11の一方の長辺11aから伸びる使用者の指先を当接させるための指当部12と,基部11の他方の長辺11aから伸びる使用者の掌を当接させるための掌当部13」が存在し,特に【図3】及び【図4】を見るに,基部11は,「指が曲がった状態で接触する屈曲面」に相当することは自明である。
したがって,相違点1に係る本願発明1の発明特定事項である「指が曲がった状態で接触する屈曲面」は,この技術分野において周知技術(以下,「周知技術1」という。)であるといえる。
そして,引用発明1及び周知技術1は,いずれも本願発明1と同じ「携帯用グリップ」の技術分野に属しており,引用発明1に周知技術1を適用して相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることに,なんら技術的困難性はない。
したがって,相違点1に係る本願発明の構成は,引用発明1と周知技術1とから当業者が容易に想到し得たものである。

(2)相違点2について
引用文献2及び3において,「指が曲がった状態で接触する屈曲面」という周知技術1が記載されていることは,上記「(1)相違点1について」で述べたとおりである。
引用文献2における「指が曲がった状態で接触する屈曲面」の一辺から先端側32が,該一辺に対向する他の一辺から基端側31がそれぞれ延在し,「指が曲がった状態で接触する屈曲面」,「先端側32」,「基端側31」で三方を囲まれた空間が,本願発明1の開放型嵌合スペースに相当し,該空間につり革のつかまる部分が引っ掛けられることは自明であるから,引用文献2の該空間は「屈曲して対向する開放型嵌合スペース」であるといえる。
引用文献3における「基部11」の一方の長辺11aから指当部12が,該一方の長辺に対向する他方の長辺11aから掌当部13がそれぞれ延在し,「基部11」,「指当部12」,「掌当部13」で三方を囲まれた空間が,本願発明1の開放型嵌合スペースに相当し,該空間につり革のつかまる部分である「吊り手Aの手掛けBにおける握り部B1」が引っ掛けられることは自明であるから,引用文献3の該空間は「屈曲して対向する開放型嵌合スペース」であるといえる。
したがって,相違点2に係る本願発明1の発明特定事項である「屈曲して対向する開放型嵌合スペース」は,この技術分野において周知技術(以下,「周知技術2」という。)であるといえる。
そして,引用発明1及び周知技術2は,いずれも本願発明1と同じ「携帯用グリップ」の技術分野に属しており,引用発明1に周知技術2を適用して相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることに,なんら技術的困難性はない。
よって,相違点2に係る本願発明の構成は,引用発明1と周知技術2とから当業者が容易に想到し得たものである。

(3)相違点3について
上記「(1)相違点1について」及び「(2)相違点2について」で述べたとおり,引用文献2び引用文献3には,いずれも,本願発明1における「手のひらが接触する手のひら接触面」,「指が曲がった状態で接触する屈曲面」に加えて「指先が接触する指先接触面」に相当する面を有し,「屈曲して対向する開放型嵌合スペース」を有するものである。
そして,本願発明1の発明特定事項である「開放型嵌合スペース内における間隙の距離」とは,「指先接触面の裏面と,前記手のひら接触面の裏面」との間の距離のことである。
引用文献2において,特に【図1】B,C及び【図2】を見るに,「手のひらが接触する手のひら接触面」に相当する面の裏面と,「指先が接触する指先接触面」に相当する面の裏面との間の距離は,「対象グリップの把持部の最大径と同程度であり,その距離のまま前記開放型嵌合スペース外部に開放」されていると認められる。
引用文献3において,特に【図3】及び【図4】を見るに,指先が接触する指先接触面に相当する「指当部12」と,手のひらが接触する手のひら接触面に相当する「掌当部13」との間の距離は,「対象グリップの把持部の断面の最大径と同程度であり,その距離のまま前記開放型嵌合スペース外部に開放」されていると認められる。
したがって,相違点3に係る本願発明1の発明特定事項である「開放型嵌合スペース内における間隙の距離が対象グリップの把持部の断面の最大径と同程度であり,前記篏合スペースは前記距離のまま前記開放型嵌合スペース外部に開放」する点は,この技術分野において周知技術(以下,「周知技術3」という。)であるといえる。
そして,引用発明1及び周知技術3は,いずれも本願発明1と同じ「携帯用グリップ」の技術分野に属しており,引用発明1に周知技術3を適用して相違点3に係る本願発明の発明特定事項とすることに,なんら技術的困難性はない。
よって,相違点3に係る本願発明の構成は,引用発明1と周知技術3とから,当業者が容易に想到し得たものである。
また,本願発明1の発明特定事項全体によって奏される作用効果も,引用文献1及び周知技術1乃至3から,当業者が予測しうる程度のものである。
したがって,本願発明1は,引用発明1と周知技術1乃至3から当業者が容易に想到し得たものである。

第3 むすび
以上のとおり,本願発明1は,引用発明1と周知技術1乃至3に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-04 
結審通知日 2018-01-09 
審決日 2018-01-22 
出願番号 特願2016-546535(P2016-546535)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小島 哲次  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 吉村 尚
藤本 義仁
発明の名称 携帯用グリップ  
代理人 柴 大介  

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