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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04L
管理番号 1349117
審判番号 不服2017-1522  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-02 
確定日 2019-02-12 
事件の表示 特願2015-551804「ワイヤレス送信用の追加のエラー保護」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月10日国際公開,WO2014/107644,平成28年 3月10日国内公表、特表2016-507971〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2014年(平成26年)1月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年1月7日 米国,2013年1月24日 米国,2013年3月15日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成27年12月7日付けで拒絶理由が通知され,平成28年3月11日に意見書及び手続補正書が提出され,同年3月25日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年8月1日に意見書及び手続補正書が提出され,同年9月27日付けで同年8月1日付け手続補正書でした補正が却下され拒絶査定され,平成29年2月2日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。その後当審において平成30年1月11日付けで拒絶理由が通知され,同年4月13日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1-23に係る発明は,平成30年4月13日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-23に記載された事項により特定されるものと認められるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。

「 ワイヤレス通信のための装置であって,
パケット内の第1のエラーチェック値以外の1つまたは複数のフィールドに基づいて生成された前記第1のエラーチェック値と,
前記パケットに含まれていない前記装置によって知られているかまたは予想される情報および前記パケット内の他の情報に基づいて生成された第2のエラーチェック値とを備える前記パケットを別の装置から受信するように構成された受信機であって,前記パケット内の前記他の情報は前記第1のエラーチェック値を含まない,受信機と,
前記第1のエラーチェック値と,前記パケット内の前記第1のエラーチェック値以外の前記1つまたは複数のフィールドに関して前記装置によって生成されたエラーチェック値との比較に基づいて前記パケットの第1のエラーチェックを実行し,
前記第2のエラーチェック値および前記パケット内の前記他の情報に基づいて,前記知られているかまたは予想される情報の値を再構築し,
前記再構築された値と,前記装置によって知られているかまたは予想される前記情報の予想値との比較に基づいて前記パケットの第2のエラーチェックを実行し,
前記第1のエラーチェックが失敗する場合,または前記再構築された値が前記予想値と異なる場合のいずれかにおいて前記パケットを破棄する
ように構成された処理システムと
を備える,装置。」

第3 拒絶の理由

当審が平成30年1月11日付け拒絶理由通知書により通知した拒絶の理由(以下,「当審拒絶理由」という。)の概要は,次のとおりである。

理由1.(拡大先願)本件出願の請求項 1-9,12-20,23-31,34,35 に係る発明は,その出願の日前の特許出願であって,その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた特願2011-181530号(公開日:平成25年3月4日,特開2013-46147号公報)の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,またこの出願の時において,その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない。

第4 先願当初明細書等の記載事項及び先願発明

1.先願当初明細書等の記載事項

上記特願2011-181530号(以下「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)には,以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

「【0027】
図1に示されるように,車両1の各タイヤ2(計4個)には,空気注入口であるとともに,タイヤ2の空気圧等を検出して送信するタイヤバルブ3(計4個)がそれぞれ設けられている。タイヤバルブ3には,タイヤバルブ3の動作を制御するバルブ制御部31が搭載されている。バルブ制御部31には,UHF(Ultra High Frequency)帯の電波によってタイヤ2の空気圧等を含む検出信号Stpを送信するUHF発信部32が接続されている。バルブ制御部31には,バルブIDを記憶したメモリ31aが設けられている。」

「【0029】
車両1の車体には,タイヤ空気圧監視システムを制御する制御装置4が搭載されている。制御装置4には,各タイヤ2のタイヤバルブ3から送信されるタイヤ2の空気圧等を含む検出信号StpをUHF帯の電波で受信する受信機5が接続されている。また,制御装置4には,タイヤ2の空気圧等を運転者に表示する表示装置6が接続されている。表示装置6は,車両1の運転席に設置される。
【0030】
受信機5は,検出信号Stpを受信すると,バルブIDと検出情報とからなる受信データを制御装置4に出力する。制御装置4には,バルブIDを照合するID照合部4dが設けられている。ID照合部4dは,検出信号Stp内のバルブIDとメモリ4aに記憶されたバルブIDとが一致するか否かを判定するID照合を実行し,ID照合が成立すれば,車両1に登録されたタイヤ2からの信号であると認識する。」

「【0033】
タイヤバルブ3のバルブ制御部31には,送信するデータを演算するデータ演算部31bと,誤り検出符号を算出する誤り符号演算部31cとが設けられている。データ演算部31bは,冗長性を高めたい検出情報を複製した複製データとバルブIDとの排他的論理和をとることによって排他的論理和データ(以下,演算データ)を算出し,演算データと検出情報とからなる送信データを算出する。誤り符号演算部31cは,データ演算部31bによって算出された送信データから誤り検出符号を算出する。本実施例では,誤り検出符号として巡回冗長検査(CRC:Cyclic Redundancy Check)を採用している。CRCは,データの送信時にその一部が変化したことを検出する。なお,データ演算部31bは,予め決められたルールとして複製を行い,第2データに相当する検出情報と一対一対応となる第3データとして検出情報の複製データを算出する。
【0034】
車両1の制御装置4には,受信した受信データに誤りがないか誤り検出符号から検出する誤り検出部4bと,受信データから元のデータを復元するデータ演算部4cと,バルブIDが一致するか否かを判定するID照合部4dとが設けられている。
【0035】
誤り検出部4bは,受信データのペイロード部から誤り検出符号を算出して,算出した誤り検出符号と受信データに含まれる誤り検出符号とが一致するかを確認して,誤り検出を行う。データ演算部4cは,誤り検出部4bに誤りがないと判断されると,排他的論理和によってバルブIDと検出情報の複製データとが一緒になった演算データに対して排他的論理和を再度行うことでバルブIDを復元する。演算データとの排他的論理和に用いるデータは,予め決められたルールの処理を行う前のデータ(第2データ)である。このため,予め決められたルールの処理を行う前のデータに戻す処理を行い,元のデータを作成する。ここでは,予め決められたルールとして複製して複製データを作成したので,このまま使うことができる。すなわち,データ演算部4cは,演算データと検出情報の複製データとの排他的論理和をとることでバルブIDを復元する。ID照合部4dは,復元されたバルブIDとメモリ4aに記憶されたバルブIDが一致したことに基づいて,バルブID照合が成立したと判定する。
【0036】
続いて,タイヤ空気圧監視システムの通信方法について図2及び図3を参照して具体的に説明する。
図2(a)に示されるように,データ演算部31bは,メモリ31aからバルブIDを取り出し,圧力センサ33が検出した圧力情報を取得し,温度センサ34が検出した温度情報を取得して,上記の送信に必要なデータを算出する。送信に必要なデータは,バルブIDと圧力情報と温度情報とからなる。バルブIDは,3つに分割し,圧力情報と排他的論理和をとる部分をY部分とし,温度情報と排他的論理和をとる部分をZ部分とし,残りの部分をX部分として,先頭から順にX部分,Y部分,Z部分からなる。また,圧力情報と温度情報とが検出情報である。
【0037】
図2(b)に示されるように,データ演算部31bは,検出情報の冗長性を持たせるために,圧力情報と温度情報とを複製し,これら圧力情報と温度情報とを送信に必要なデータのバルブIDのY部分及びZ部分に対応する位置させた演算に用いるデータAを算出する。演算に用いるデータAは,送信に必要なデータのバルブIDのY部分に対応する位置に圧力情報が位置し,送信に必要なデータのバルブIDのZ部分に対応する位置に温度情報が位置し,それ以外のビットに0が入れられたデータ列である。
【0038】
図2(c)に示されるように,データ演算部31bは,送信に必要なデータと演算に用いるデータAとの排他的論理和(XOR)をとることで排他的論理和データとしての演算データを算出する。すなわち,データ演算部31bは,バルブIDのY部分と圧力情報との排他的論理和XORAと,バルブIDのZ部分と温度情報との排他的論理和XORBとを算出する。演算データは,バルブIDのX部分,排他的論理和XORA,排他的論理和XORBとからなる。この演算データに圧力情報と温度情報とを加えたデータが検出信号Stpのペイロード部となる。
【0039】
そして,誤り符号演算部31cは,データ演算部31bが演算したペイロード部から誤り検出符号としてCRCを算出する。バルブ制御部31は,ペイロード部の先頭にプリアンブルを付加するとともに,ペイロード部の後端にCRCを付加した送信データを生成して,送信データを含む検出信号StpをUHF発信部32から発信する。
【0040】
図3(a)に示されるように,車両1の制御装置4は,受信機5が受信した検出信号Stpから受信データを取り出す。この受信データは,ビット誤り等が発生していなければ,送信データと同一であるはずである。まず,誤り検出部4bが受信データのプリアンブルを除いたペイロード部に対してCRCによる誤り検出を行い,ビット誤りがないことを確認する。
【0041】
図3(b)に示されるように,データ演算部4cは,受信データから圧力情報と温度情報とを取り出し,これら圧力情報と温度情報とをバルブIDのY部分及びZ部分に対応して位置するデータAを算出する。ここで,受信データから取り出した圧力情報と温度情報とから元のデータとなるように処理を行い,元のデータを用いる。なお,本実施例では,予め決められたルールとして複製しているので,そのまま使用することができる。
【0042】
図3(c)に示されるように,データ演算部4cは,プリアンブルとCRCとを除いたペイロード部と,演算に用いるデータAとの排他的論理和(XOR)をとることで演算結果を算出する。すなわち,データ演算部31bは,排他的論理和XORAと圧力情報との排他的論理和をとることで,バルブIDのY部分を復元する。また,データ演算部31bは,排他的論理和XORBと温度情報との排他的論理和をとることで,バルブIDのZ部分を復元する。よって,データ演算部31bは,バルブID,圧力情報,温度情報とからなる演算結果を得ることができる。」

「【0056】
また,受信した排他的論理和XORA,XORBと検出情報との排他的論理和をとることでバルブIDを復元し,予め記憶されたバルブIDと復元したバルブIDとが一致する際に誤りがないとして受信した検出信号Stpの受信データを採用する。排他的論理和XORA,XORBに含まれる複製した検出情報を除去して得られたバルブIDが記憶したバルブIDと一致するということは受信データに誤りがないことを意味している。すなわち,バルブIDの復元と合わせて,受信データにビット誤りがないことを同時に確認することができる。」

「【図2】



「【図3】



(1)段落【0027】の
「バルブ制御部31には,UHF(Ultra High Frequency)帯の電波によってタイヤ2の空気圧等を含む検出信号Stpを送信するUHF発信部32が接続されている。」
という記載と,同【0029】の
「制御装置4には,各タイヤ2のタイヤバルブ3から送信されるタイヤ2の空気圧等を含む検出信号StpをUHF帯の電波で受信する受信機5が接続されている。」
という記載と,同【0030】の
「受信機5は,検出信号Stpを受信すると,バルブIDと検出情報とからなる受信データを制御装置4に出力する。」
という記載によれば,
「バルブ制御部31に接続されるUHF発信部32からUHF帯の電波によって送信された検出信号Stpを受信して制御装置4に出力する受信機5と,制御装置4とを備えるもの。」
が記載されているといえる。

(2)段落【0033】の
「タイヤバルブ3のバルブ制御部31には,送信するデータを演算するデータ演算部31bと,誤り検出符号を算出する誤り符号演算部31cとが設けられている。」
という記載から,バルブ制御部31はデータ演算部31b及び誤り符号演算部31cを含んでいるということができる。
段落【0036】から【0039】までについて,第2図を参照すると,
データ演算部31bは,バルブID,圧力情報,温度情報を取得して,「送信に必要なデータ」を算出し,ここで,バルブIDは,圧力情報と排他的論理和をとる部分をY部分,温度情報と排他的論理和をとる部分をZ部分とし,残りの部分をX部分とし,先頭から順にX部分,Y部分,Z部分の3つの部分からなり(第2図(a)),
データ演算部31bは,圧力情報と温度情報とを複製して,送信に必要なデータのバルブIDのY部分に対応する位置に圧力情報が位置し,送信に必要なデータのバルブIDのZ部分に対応する位置に温度情報が位置し,それ以外のビットに0が入れられたデータ列である「演算に用いるデータA」を算出し(第2図(b)),
データ演算部31bは,送信に必要なデータと演算に用いるデータAとの排他的論理和をとることで,送信に必要なデータのバルブIDのY部分と圧力情報との排他的論理和XORAと,送信に必要なデータのバルブIDのZ部分と温度情報との排他的論理和XORBとを算出し,送信に必要なデータのその他の部分はそのままである検出信号Stpのペイロード部,すなわち,バルブIDのX部分,排他的論理和XORA及び排他的論理和XORBからなる演算データに,圧力情報と温度情報を加えたデータを検出信号Stpのペイロード部とし,誤り符号演算部31cは,ペイロード部からCRCを算出し,バルブ制御部31は,ペイロード部の先頭にプリアンブルを付加し,後端にCRCを付加した送信データを生成し(第2図(c)),
送信データを含む検出信号StpをUHF発信部から発信することが記載されている。
したがって,段落【0033】,同【0036】から【0039】までの記載全体と,第2図からみて,
「検出信号Stpは,
バルブ制御部31が,
バルブID,圧力情報,温度情報を取得して,送信に必要なデータを算出し,ここで,前記バルブIDは,先頭から順にX部分,Y部分,Z部分の3つの部分からなり,
前記圧力情報と前記温度情報とを複製して,前記Y部分に対応する位置に前記圧力情報が位置し,前記Z部分に対応する位置に前記温度情報が位置し,それ以外のビットに「0」が入れられたデータ列である演算に用いるデータAを算出し,
前記送信に必要なデータと前記演算に用いるデータAとの排他的論理和をとることで排他的論理和データとしての演算データ,すなわち,前記X部分と前記演算に用いるデータAの「0」が入れられたデータ列との排他的論理和である演算データのX部分,前記Y部分と前記圧力情報との排他的論理和XORA,前記Z部分と前記温度情報との排他的論理和XORBからなる前記演算データを算出し,
前記演算データに前記圧力情報と前記温度情報とを加え,前記検出信号Stpのペイロード部とし,
前記ペイロード部から誤り検出符号としてCRCを算出し,前記ペイロード部の先頭にプリアンブルを付加するとともに,後端に前記CRCを付加した送信データを生成し,UHF発信部32から発信させる前記送信データを含む信号であること。」
が記載されているといえる。

(3)段落【0034】の
「車両1の制御装置4には,受信した受信データに誤りがないか誤り検出符号から検出する誤り検出部4bと,受信データから元のデータを復元するデータ演算部4cと,バルブIDが一致するか否かを判定するID照合部4dとが設けられている。」
という記載から,制御装置4は誤り検出部4b,データ演算部4c及びID照合部4dを含んでいるということができる。
ところで,段落【0034】の上記記載や第3図の記載に鑑みると,「データ演算部4c」はY部分及びZ部分を「復元する」ための構成であるということができる。
そうすると,段落【0035】の
「誤り検出部4bは,受信データのペイロード部から誤り検出符号を算出して,算出した誤り検出符号と受信データに含まれる誤り検出符号とが一致するかを確認して,誤り検出を行う。データ演算部4cは,誤り検出部4bに誤りがないと判断されると,排他的論理和によってバルブIDと検出情報の複製データとが一緒になった演算データに対して排他的論理和を再度行うことでバルブIDを復元する。」
という記載と,同【0034】,同【0040】から【0042】までの記載全体と,第3図からみて,
「制御装置4は,
受信機5が受信した検出信号Stpから受信データを取り出し,
前記受信データのプリアンブルを除いたペイロード部に対してCRCによる誤り検出を行い,ビット誤りがないことを確認し,
前記受信データから圧力情報と温度情報とを取り出し,前記圧力情報と前記温度情報とをバルブIDのY部分及びZ部分に対応して位置する演算に用いるデータAを算出し,
前記ペイロード部と,前記演算に用いるデータAとの排他的論理和をとることで,排他的論理和XORAと前記圧力情報との排他的論理和から,前記バルブIDの前記Y部分を復元し,排他的論理和XORBと前記温度情報との排他的論理和から,前記バルブIDの前記Z部分を復元することで,前記バルブIDを復元すること。」
が記載されているといえる。

(4)段落【0035】の
「ID照合部4dは,復元されたバルブIDとメモリ4aに記憶されたバルブIDが一致したことに基づいて,バルブID照合が成立したと判定する。」
という記載と,同【0056】の
「排他的論理和XORA,XORBと検出情報との排他的論理和をとることでバルブIDを復元し,予め記憶されたバルブIDと復元したバルブIDとが一致する際に誤りがないとして」
という記載と,同【0056】の
「排他的論理和XORA,XORBに含まれる複製した検出情報を除去して得られたバルブIDが記憶したバルブIDと一致するということは受信データに誤りがないことを意味している。すなわち,バルブIDの復元と合わせて,受信データにビット誤りがないことを同時に確認することができる。」
という記載によれば,
「復元されたバルブIDと予めメモリ4aに記憶されたバルブIDとが一致することは,バルブIDの復元と合わせて,前記受信データにビット誤りがないことを同時に確認することである。」
ことが記載されている。

2.先願発明の認定

上記1.から,先願当初明細書等には,以下の発明(以下,「先願発明」という。)が記載されていると認める。

「バルブ制御部31に接続されるUHF発信部32からUHF帯の電波によって送信された検出信号Stpを受信して制御装置4に出力する受信機5と,制御装置4とを備えるものであって,
前記検出信号Stpは,
バルブ制御部31が,
バルブID,圧力情報,温度情報を取得して,送信に必要なデータを算出し,ここで,前記バルブIDは,先頭から順にX部分,Y部分,Z部分の3つの部分からなり,
前記圧力情報と前記温度情報とを複製して,前記Y部分に対応する位置に前記圧力情報が位置し,前記Z部分に対応する位置に前記温度情報が位置し,それ以外のビットに「0」が入れられたデータ列である演算に用いるデータA(送信側)を算出し,
前記送信に必要なデータと前記演算に用いるデータA(送信側)との排他的論理和をとることで排他的論理和データとしての演算データ,すなわち,前記X部分と前記演算に用いるデータAの「0」が入れられたデータ列との排他的論理和である演算データのX部分,前記Y部分と前記圧力情報との排他的論理和XORA,前記Z部分と前記温度情報との排他的論理和XORBからなる前記演算データを算出し,
前記演算データに前記圧力情報と前記温度情報とを加え,前記検出信号Stpのペイロード部とし,
前記ペイロード部から誤り検出符号としてCRCを算出し,前記ペイロード部の先頭にプリアンブルを付加するとともに,後端に前記CRCを付加した送信データを生成し,UHF発信部32から発信させる前記送信データを含む信号であること,
前記制御装置4は,
前記受信機5が受信した前記検出信号Stpから受信データを取り出し,
前記受信データのプリアンブルを除いたペイロード部に対してCRCによる誤り検出を行い,ビット誤りがないことを確認し,
前記受信データから圧力情報と温度情報とを取り出し,前記圧力情報と前記温度情報とをバルブIDのY部分及びZ部分に対応して位置する演算に用いるデータA(受信側)を算出し,
前記ペイロード部と,前記演算に用いるデータA(受信側)との排他的論理和をとることで,排他的論理和XORAと前記圧力情報との排他的論理和から,前記バルブIDの前記Y部分を復元し,排他的論理和XORBと前記温度情報との排他的論理和から,前記バルブIDの前記Z部分を復元することで,前記バルブIDを復元し,
復元された前記バルブIDと予めメモリ4aに記憶されたバルブIDとが一致することは,バルブIDの復元と合わせて,前記受信データにビット誤りがないことを同時に確認することである
ことを特徴とするもの。」

第5 対比,判断

1.対比
本願発明と,先願発明とを対比する。

(1)先願発明の「検出信号Stp」は,本願発明における「パケット」に含まれる。

(2)先願発明の「UHF帯の電波によって送信された検出信号Stpを受信して制御装置4に出力する受信機5と,制御装置4とを備えるもの」は,UHF帯の電波によるワイヤレス通信のための受信機と制御装置とを備える装置ということができるから,本願発明における「ワイヤレス通信のための装置」に含まれる。

(3)先願発明は「バルブ制御部31に接続されるUHF発信部32」から送信された「検出信号Stp」を受信するものであり,本願発明は「別の装置」から「パケット」を受信するものであるから,上記(1)(2)に記載した事項も踏まえれば,先願発明の「バルブ制御部31」及び「UHF発信部32」を含んで構成されるものは,本願発明における「別の装置」に含まれる。

(4)先願発明の「CRC」は,CRC以外の部分であるペイロード部から算出されるものであり,ペイロード部は演算データと圧力情報と温度情報からなり,演算データ,圧力情報及び温度情報はそれぞれフィールドといえるから,本願発明における「パケット内の第1のエラーチェック値以外の1つまたは複数のフィールドに基づいて生成された前記第1のエラーチェック値」に含まれる。

(5)先願発明の「バルブID」は,「制御装置4」の「メモリ4a」に記憶されているものであるから,「受信機5と,制御装置4とを備えるもの」によって知られている情報といえる。
また,「演算データ」の「X部分」は,「バルブID」の「X部分」と「演算に用いるデータA」の「0」が入れられたデータ列との排他的論理和,「演算データ」の「Y部分」は,「バルブID」の「Y部分」と「演算に用いるデータA」の「圧力情報」との排他的論理和,「演算データ」の「Z部分」は,「バルブID」の「Z部分」と「演算に用いるデータA」の「温度情報」との排他的論理和である。ここで,「演算データ」は,「X部分」については「バルブID」の「X部分」のままだとしても,「バルブID」と異なる「Y部分」及び「Z部分」が含まれているから,全体として「バルブID」が含まれていない。また,「演算データ」に含まれる情報は,「バルブIDのX部分」と演算に用いるデータAの「0」が入れられたデータ列との「排他的論理和演算の結果」として得られたものであって,結果として同じデータ値であるものの「バルブID」の「X部分そのもの」は含まれていない。したがって,先願発明の「バルブID」は,本願発明の「パケットに含まれていない前記装置によって知られているかまたは予想される情報」に含まれる。

さらに,先願発明の「圧力情報」と「温度情報」は,「バルブID」とは異なる情報であり,また,「CRC」を含まないから,本願発明の「他の情報」に相当する。
したがって,先願発明の「演算データ」は,「バルブID」と,演算に用いるデータAの「0」が入れられたデータ列と「圧力情報」と「温度情報」との排他的論理和によって算出されたものであるから,「バルブID」及び「圧力情報」と「温度情報」に基づいて生成されたものといえるので,先願発明の「演算データ」は,本願発明における「パケットに含まれていない前記装置によって知られているかまたは予想される情報及び前記パケット内の送信された他の情報に基づいて生成された第2のエラーチェック値」に含まれる。

「第2のエラーチェック値」について,審判請求人は,審査時における平成28年3月11日提出の意見書において,『バルブIDの「X部分」は受信側へ送信されます。したがって,引用文献4の「バルブID」の一部を送信する点で,「排他的論理和XORA,XORB」は,請求項1などの「第2のエラーチェック値」とは異なります。』,及び,当審拒絶理由に対する平成30年4月13日提出の意見書において,『先願1の「圧力情報及び温度情報」を含む送信データに含まれている「バルブID」は,本願の「他の情報」を含むパケットには含まれていない「装置によって知られているかまたは予想される情報」に相当しない,と思われます。』との主張をしている。
しかし,本願当初明細書の段落【0059】を参照すれば,本願発明の「パケットに含まれていない前記装置によって知られているかまたは予想される情報」,「他の情報」及び「第2のエラーチェック値」は,それぞれ「フレーム識別子」として「010010」,「フレーム情報」として「0101」及び「フレーム情報と,フレーム識別子の複数の最下位ビット(LSB)との間で有効なXOR演算が実行される」ことにより得られる「Xフレーム識別子」として「010111」に対応するものを含む。してみると,本願発明の「パケットに含まれていない前記装置によって知られているかまたは予想される情報」は,「Xフレーム識別子の最初の2つの最上位ビット(MSB)は、フレーム識別子のものと同じままである。」(段落【0059】)場合を排除していないことが明らかである。
そして,上記のとおり,先願発明の「演算データ」(本願発明の「第2のエラーチェック値」に対応する。)に「バルブID」そのものは含まれておらず,「バルブID」の一部である「X部分」が含まれているからといって「バルブID」そのものは含まれているということはできないから,審判請求人の主張は採用できない。

(6)先願発明における「ペイロード部に対してCRCによる誤り検出を行」うという点は,本願発明における「第1のエラーチェック値」に基づいて「第1のエラーチェックを実行する」という点で一致する。

(7)先願発明において,「受信データ」には,X部分,排他的論理和XORA,排他的論理和XORBからなる,「演算データ」が含まれるものであり,上記(5)において検討したとおり,「演算データ」は,本願発明における「第2のエラーチェック値」に含まれるものである。
また,上記(5)において検討したとおり,「圧力情報」,「温度情報」は,本願発明における「他の情報」に相当するものである。
したがって,先願発明において,「ペイロード部」と,「演算に用いるデータA(受信側)」とで排他的論理和をとり,「排他的論理和XORA」及び「圧力情報」の排他的論理和から「Y部分」を復元し,「排他的論理和XORB」及び「温度情報」の排他的論理和から「Z部分」を復元することで,「バルブID」を復元するということは,本願発明において,「前記第2のエラーチェック値および前記パケット内の前記他の情報に基づいて,前記知られているかまたは予想される情報の値を再構築」することに含まれる。
そして,先願発明において,復元された「バルブID」が,「予めメモリ4aに記憶されたバルブID」と一致したことに基づいて,「受信データにビット誤りがないことを同時に確認する」ということは,本願発明において,「前記再構築された値と,前記装置によって知られているかまたは予想される前記情報の予想値との比較に基づいて前記パケットの第2のエラーチェックを実行」することに含まれる。

(8)先願発明における「制御装置4」は,受信データのペイロード部にCRCによる誤り検出を行い,ビット誤りがないことを確認し,受信データからバルブIDを復元し,復元したバルブIDが,制御装置4のメモリ4aに記憶されたバルブIDと一致したことに基づいて受信データにビット誤りがないことを確認するものであるから,先願発明における「制御装置4」は,本願発明における「処理システム」に含まれる。

上記(1)から(8)までによれば,本願発明と,先願発明とは,以下の点で一致し,以下の点で相違する。

(一致点)
「ワイヤレス通信のための装置であって,
パケット内の第1のエラーチェック値以外の1つまたは複数のフィールドに基づいて生成された前記第1のエラーチェック値と,
前記パケットに含まれていない前記装置によって知られているかまたは予想される情報および前記パケット内の他の情報に基づいて生成された第2のエラーチェック値とを備える前記パケットを別の装置から受信するように構成された受信機であって,前記パケット内の前記他の情報は前記第1のエラーチェック値を含まない,受信機と,
前記第1のエラーチェック値に基づいて前記パケットの第1のエラーチェックを実行し,
前記第2のエラーチェック値および前記パケット内の前記他の情報に基づいて,前記知られているかまたは予想される情報の値を再構築し,
前記再構築された値と,前記装置によって知られているかまたは予想される前記情報の予想値との比較に基づいて前記パケットの第2のエラーチェックを実行する
ように構成された処理システムと
を備える,装置。」

(相違点)
(相違点1)第1のエラーチェックを,本願発明では,「前記第1のエラーチェック値と,前記パケット内の前記第1のエラーチェック値以外の前記1つまたは複数のフィールドに関して前記装置によって生成されたエラーチェック値との比較に基づいて」実行するのに対し,先願発明では,単に,「ペイロード部(第1のエラーチェック値以外の1つまたは複数のフィールド)に対してCRC(第1のエラーチェック値)によ」り行うとしか特定されていない点
(相違点2)第1のエラーチェックが失敗する場合,または再構築された値が予想値と異なる場合のいずれかの場合に,本願発明では,「パケットを破棄する」という処理をするのに対し,先願発明では,具体的な処理が特定されていない点

2.相違点に対する判断
上記相違点について検討する。
相違点1について検討すると,受信側装置において,受信データからCRCを計算して,前記計算したCRCと,受信データに付与されているCRCとを比較して誤り検出を行うことは,例を示すまでもなく,CRCを用いて誤り検出をする際の常套手段である。
してみると,相違点1についての本願発明の構成は,先願発明において,CRCを用いて誤り検出をする際の常套手段を付加する程度のものであって,新たな効果を奏するものではない。

相違点2について検討すると,受信側装置において,誤り検出の結果,誤りが検出された場合に,受信データを破棄することは,例を示すまでもなく,誤りを検出した場合の受信側の処理として周知の処理である。
してみると,相違点2についての本願発明の構成は,先願発明に,誤りを検出した場合の受信側の処理として周知の処理を付加する程度のものであって,新たな効果を奏するものではない。

以上のとおりであるから,本願発明は,先願発明と実質的に同一の発明である。

そして,本願の出願の時の出願人は「クアルコム,インコーポレイテッド(米国)」であり,一方,先願の出願の時の出願人は「株式会社東海理化電機製作所(愛知県)」であるから,両者が同一の者であるということもできない。

また,本願発明の発明者が先の出願に係る発明者(小杉正則)と同一の者であるということもできない。

第6 むすび

以上のとおりであるから,本願発明は,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができないものである。

したがって,他の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-09-05 
結審通知日 2018-09-10 
審決日 2018-09-26 
出願番号 特願2015-551804(P2015-551804)
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷岡 佳彦  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 吉田 隆之
金田 孝之
発明の名称 ワイヤレス送信用の追加のエラー保護  
代理人 黒田 晋平  
代理人 村山 靖彦  

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