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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C30B
管理番号 1349127
審判番号 不服2018-4810  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-09 
確定日 2019-03-05 
事件の表示 特願2014-40111号「人工水晶の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年9月17日出願公開、特開2015-164884号、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月3日の出願であって、平成29年7月20日付け拒絶理由通知書に対して同年9月22日付け意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成30年4月9日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願発明は、平成30年4月9日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「圧力容器内に高温部と低温部を設け、前記高温部でアルカリ溶液中に溶解した水晶原料を、前記低温部の支持具に配置された種水晶上に結晶として析出させる、人工水晶の製造方法において、
前記種水晶は、結晶軸のY軸方向を長辺、結晶軸のX軸方向を短辺、結晶軸のZ軸方向を厚みとした板状のZ板であり、
+X軸方向が重力方向と逆となる状態で前記長辺を上にして前記種水晶を前記支持具に固定し、
前記種水晶に析出される+X領域中に、前記アルカリ溶液中を前記重力方向に沈降する異物を取り込む、
ことを特徴とする人工水晶の製造方法。」

第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、「この出願については、平成29年7月20日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、その理由2の概要は、以下のものである。
「本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記1又は2の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
「1 特開2002-137999号公報
2 特開2004-175590号公報 」

第4 当審の判断
1 特開2002-137999号公報(以下、「引用例1」という。)に基く拒絶の理由2について
(1)引用例1の記載事項
引用例1には、以下の記載がある。
(引用例1-1)「【請求項2】高圧容器内に水晶種子結晶を吊るし、アルカリ溶液と水晶原料とを充填し高温高圧下で人工水晶を育成する水熱育成法において、該水晶種子結晶のX軸方向あるいはY軸方向が鉛直方向となるように吊るし、かつ該アルカリ溶液はカリウム化合物により調整し、かつ該アルカリ溶液中に金属ニッケルを含有させ、かつ水熱育成条件として、水晶種子結晶圏温度を300?400℃、水晶供給圏温度を上記水晶種子結晶圏温度よりも30?50℃高くし、アルカリ溶液の高圧容器内充填率を75?83%としたことを特徴とする人工水晶の合成方法。」(当審注:下線は当審が付与した。以下同じ。)

(引用例1-2)「【0016】圧力容器の上部温度、すなわち、水晶種子結晶圏の温度を300?400℃に設定する。特に340℃とすることが好ましい。一方、圧力容器の下部温度、すなわち、水晶供給圏の温度は上部温度より30?50℃高い温度となるように温度勾配をつけて温度を設定する。」

(引用例1-3)「【0024】実施例1
結晶育成装置は、図4に示す構成を有する装置と同等のものを使用した。水晶種子結晶は、図1(a)に示すようにy方向に長い、水晶のZカット面を表面とする基板を種子結晶として使用し、図3(a)に示すようにこの水晶種子結晶のY軸方向が鉛直方向となるように吊した。圧力容器中の底部に水晶原料を投入し、炭酸カリウムが5重量%となるように水で溶解して水溶液としたアルカリ溶液を調整し、さらにこのアルカリ溶液1リットルにつき、5gの割合で金属ニッケルを添加したものを圧力容器内に入れた。このときアルカリ溶液は、圧力容器内の81%を満たすように入れた。圧力容器の上部温度、すなわち水晶種子結晶圏温度を340℃とした。一方、圧力容器の下部温度、すなわち水晶供給圏温度は、380℃とし、温度勾配をつけた。上記の条件において、水晶種子結晶基板のZカット面の表面上に垂直に起立した多数の糸のような石英の針状単結晶の集合体が成長した。この人工水晶は、図1(b)に示した構造を有していた。この針状結晶の直径は、1?3ミクロンであった。針状結晶は相互に隙間無く緻密に成長していた。」

(引用例1-4)「【0025】実施例2
水晶種子結晶として図2(a)に示したx方向に長いものを使用し、図3(b)に示すようにこの水晶種子結晶のX軸方向が鉛直方向となるように吊るした以外は実施例1と同様の条件にて人工水晶を合成した。実施例1と同様に水晶種子結晶基板のZカット面の表面上に垂直に起立した多数の糸のような石英の針状単結晶の集合体が成長した。この人工水晶は、図2(b)に示した構造を有しており、この点実施例1と相違していた。この針状結晶の直径は、1?3ミクロンであった。針状結晶は相互に隙間無く緻密に成長していた。」

(引用例1-5)「【図2】





(引用例1-6)「【図3】




(2)引用例1に記載された発明
(ア)上記(引用例1-1)からして、引用例1には、「高圧容器内にアルカリ溶液と水晶原料とを充填し高温高圧下で人工水晶を育成する水熱育成法において、該水晶種子結晶のX軸方向が鉛直方向となるように吊るす、人工水晶の合成方法」が記載されているということができる。

(イ)上記(引用例1-2)からして、引用例1には、上記合成方法において、「圧力容器の下部温度(水晶供給圏の温度)を、圧力容器の上部温度(水晶種子結晶圏)より30?50℃高い温度となるように温度勾配をつけて温度を設定する」ことが記載されているということができる。

(ウ)上記(引用例1-4)からして、引用例1には、上記合成方法において、「水晶種子結晶として図2(a)に示したx方向に長いものを、図3(b)に示すようにこの水晶種子結晶のX軸方向が鉛直方向となるように吊るし、水晶種子結晶基板のZカット面の表面上に垂直に起立した多数の糸のような石英の針状単結晶の集合体を成長させる」ことが実施例2として記載されているということができる。

(エ)上記(引用例1-5)及び(引用例1-6)からして、引用例1(【図2】(a)及び【図3】(b))には、実施例2において、「水晶種子結晶は、結晶軸のY軸方向を短辺、結晶軸のX軸方向を長辺、結晶軸のZ軸方向を厚みとするものである」ことが記載されているということができる。

(オ)上記(引用例1-6)からして、引用例1(【図3】(b))には、実施例2において、「水晶種子結晶の短辺(結晶軸のY軸方向)が上になるように吊るす」ことが記載されているということができる。

上記(ア)ないし(オ)より、引用例1には、
「圧力容器の下部温度(水晶供給圏の温度)を、圧力容器の上部温度(水晶種子結晶圏)より30?50℃高い温度となるように温度勾配をつけて温度を設定し、圧力容器内にアルカリ溶液と水晶原料とを充填し高温高圧下で、基板のZカット面の表面上に垂直に起立した多数の糸のような石英の針状単結晶の集合体を成長させる(人工水晶を育成する)合成方法において、水晶種子結晶は、結晶軸のY軸方向を短辺、結晶軸のX軸方向を長辺、結晶軸のZ軸方向を厚みとするものであり、水晶種子結晶としてx方向に長いものを、この水晶種子結晶のX軸方向が鉛直方向となり、短辺(結晶軸のY軸方向)が上になるように吊るす、人工水晶を育成する合成方法。」(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認める。

(3)対比・判断
○引用発明1の「水晶供給圏」、「水晶種子結晶圏」、「鉛直方向」、「人工水晶を育成する合成方法」は、本願発明の「高温部」、「低温部」、「重力方向」、「人工水晶の製造方法」にそれぞれ相当する。

○引用発明1の「水晶種子結晶」は、本願発明の「種水晶」及び「板」に相当する。

○引用発明1の「水晶種子結晶」「を」「吊るす」は、本願発明の「種水晶を支持具に固定する」に相当する。

○したがって、引用発明1の「圧力容器の下部温度(水晶供給圏の温度)を、圧力容器の上部温度(水晶種子結晶圏)より30?50℃高い温度となるように温度勾配をつけて温度を設定し、圧力容器内にアルカリ溶液と水晶原料とを充填し高温高圧下で、基板のZカット面の表面上に垂直に起立した多数の糸のような石英の針状単結晶の集合体を成長させる(人工水晶を育成する)合成方法」は、本願発明の「圧力容器内に高温部と低温部を設け、高温部でアルカリ溶液中に溶解した水晶原料を、低温部の支持具に配置された種水晶上に結晶として析出させる、人工水晶の製造方法」に相当する。

○また、引用発明1の「水晶種子結晶は、」「結晶軸のZ軸方向を厚みにするものであり」は、本願発明の「種水晶は、」「結晶軸のZ軸方向を厚みとした板状のZ板であり」に相当する。

上記より、本願発明と引用発明1とは、
「圧力容器内に高温部と低温部を設け、高温部でアルカリ溶液中に溶解した水晶原料を、低温部の支持具に配置された種水晶上に結晶として析出させる、人工水晶の製造方法において、種水晶は、結晶軸のZ軸方向を厚みとした板状のZ板であり、種水晶を支持具に固定した、人工水晶の製造方法。」という点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点>
本願発明は、「結晶軸のY軸方向を長辺」とし、「+X軸方向が重力方向と逆となる状態で長辺を上にし」た種水晶を用いて、「種水晶に析出される+X領域中に、アルカリ溶液中を重力方向に沈降する異物を取り込む」のに対して、引用発明1は、「結晶軸のY軸方向を短辺」とし、「X軸方向が重力方向となる状態で短辺を上にし」た水晶種子結晶(種水晶)用いて、水晶種子結晶に結晶を析出させる点。

以下、<相違点>について検討する。
上記(引用例1-3)及び(引用例1-6)からして、引用例1には、実施例1として、図3(a)に示すように、y方向に長い(Y軸方向が長辺である)水晶種結晶を用いる際には、鉛直方向(重力方向)をY軸方向とする態様が記載されている。してみると、引用発明1において、「結晶軸のY軸方向を長辺」としたとき、「+X軸方向が重力方向と逆になる」ようにすることは、引用例1に記載の事項から、当業者が容易に想起し得ることであるとはいえない。
さらに、本願の発明の詳細な説明の「(3)+X軸方向が重力方向Gと逆となる状態(+X軸方向が上となる状態)で種水晶10を支持具30に固定した場合は、+X軸方向が重力方向Gと同一となる状態(-X軸方向が上となる状態)に比べて、クラック等の発生を低減できるので、歩留りを向上できる。その理由は、+X領域20+xは、-X領域20-xに比べて、成長が速いことにより取り込む異物48の密度が低くなるので、クラック等が発生しにくいからである。」(【0038】)という作用効果についても、引用例1に記載の事項から、当業者が予測することはできないというべきである。
したがって、本願発明は、引用例1に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 特開2004-175590号公報(以下、「引用例2」という。)に基づく拒絶の理由について
(1)引用例2の記載事項
引用例2には、以下の記載がある。
(引用例2-1)「【0003】
一般に人工水晶はオートクレーブと呼ばれる耐圧容器を炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液で充填した容器内で、高温高圧状態下において育成される。これは水熱育成法と呼ばれ、耐圧容器内には高温部と低温部とが設けられており、高温部と低温部とで温度差をつけることによって高温部で溶解した水晶原料が低温部で過飽和溶液になり、水晶の種結晶上に結晶を析出することを利用した結晶成長方法である。」

(引用例2-2)「【0023】
上記種結晶の配置は、通常主面が重力方向と平行なところ、図3のように斜めに傾けた。この方法で育成すると、特公昭57-49520にあるように、上片面に多く異物が付着するのに対し、下片面には殆ど異物が付着しない結果となった。」

(引用例2-3)「【0025】
本実施調査例の結果を説明する。まず始めにX線トポグラフィーによる観察結果を図4に示す。サンプルは成長した水晶をY軸と垂直に切断したものを使用した。厚さは1.0mmで(110)反射により観察した。」

(引用例2-4)「【0026】
図4に種結晶、種結晶中の+X領域、S領域、Z領域、-X領域、成長部の+X領域、S領域、-X領域、Z領域を示した。図4において、種結晶より向かって左側が斜めに吊るした時の上片面(丸で囲み上と表示)、右側が下片面(丸で囲み下と表示)になる。図4より、上片面の種表面に異物が多く付着していることがわかる。このとき、異物の付き方は領域には関係しない。異物の付着が少ない側では種表面から発生している線状欠陥量は種の領域によらず一様で、種結晶と成長部間の格子定数差に関係していないのに対して、異物の付着が多い側は線状欠陥量が領域S>-X>+X>Zの順になっていた。これは成長部(Z領域)との格子定数差の関係に一致する。」

(引用例2-5)「【図3】





(引用例2-6)「【図4】




(2)引用例2に記載された発明
(ア)上記(引用例2-1)からして、引用例2には、「アルカリ水溶液で充填した容器内で、高温高圧状態下において、高温部で溶解した水晶原料が低温部で過飽和溶液になり、水晶の種結晶上に結晶を析出することを利用した結晶成長方法」が記載されているということができる。

(イ)上記(引用例2-2)及び(引用例2-5)(【図3】)からして、引用例2には、上記結晶成長方法において、「水晶の種結晶を傾けたとき、重力方向に平行な主面が上片面となり、ここに多くの異物が付着する」ことが記載されているということができる。

(ウ)上記(引用例2-3)、(引用例2-4)及び(引用例2-6)(【図4】)からして、引用例2には、上記結晶成長方法において、「水晶の種結晶を斜めに吊したとき、Y軸に平行な種結晶の(左側の)Z領域が上片面となり、ここに異物が多く付着する」ことが記載されているということができる。

(エ)上記(イ)及び(ウ)からして、引用例2には、「Y軸が重力方向である水晶の種結晶を斜めに吊したとき、これのZ領域に異物が多く付着する」ことが開示されているということができる。

上記(ア)ないし(エ)より、引用例2には、
「アルカリ水溶液で充填した容器内で、高温高圧状態下において、高温部で溶解した水晶原料が低温部で過飽和溶液になり、水晶の種結晶上に結晶を析出することを利用した結晶成長方法において、Y軸が重力方向である水晶の種結晶を斜めに吊したとき、これのZ領域に異物が多く付着する、結晶成長方法。」(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認める。

(3)対比・判断
本願発明と引用発明2とを対比すると、本願発明は、「X軸」が「重力方向」である種水晶の+X領域に異物が多く付着する(異物が取り込まれる)ものであるのに対して、引用発明2は、「Y軸」が「重力方向」である水晶の種結晶(種水晶)のZ領域に異物が多く付着する(異物を取り込む)ものであることからして、両者は、その構成も目的も異なるものであるので、他に検討するまでもなく、引用発明2は、そもそも、本願発明を導き出すベースにはなり得ないものである、というべきである。
したがって、本願発明は、引用例2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-02-19 
出願番号 特願2014-40111(P2014-40111)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C30B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 神▲崎▼ 賢一  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 豊永 茂弘
金 公彦
発明の名称 人工水晶の製造方法  
代理人 高橋 勇  

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