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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G08G
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G08G
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G08G
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G08G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G08G
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G08G
管理番号 1349144
審判番号 不服2017-4982  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-07 
確定日 2019-02-14 
事件の表示 特願2015- 2118「ドライバ感情推定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月30日出願公開、特開2015- 84253〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成22年7月12日に出願した特許出願(特願2010-157850号)の一部を、平成26年10月28日に新たな出願とした特許出願(特願2014-219319号)の一部を、さらに平成27年1月8日に新たな特許出願としたものであって、平成28年12月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成29年4月7日付けで拒絶査定不服審判が請求された。
その後、当審より平成30年3月7日付けで拒絶理由を通知し、これに対して同年4月27日付けで意見書及び手続補正書が提出され、当審により同年6月4日付けで最後の拒絶理由を通知し、同年8月9日付けで意見書及び手続補正書が提出され、当該手続補正書に対して同年9月18日付けで補正指令(方式)が通知され、同年10月25日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2 平成30年8月9日付けの手続補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年8月9日付けの手続補正(同年10月25日付け手続補正書により方式上の補正がなされた。)(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正の内容
本件補正により、本件補正前の特許請求の範囲の
「【請求項1】車両の外部環境により運転者の運転操作に要求される環境難易度を算出する環境難易度算出手段と、
運転者の運転技量を評価する運転技量評価手段と、
ドライバの感情を検出するドライバ感情検出手段と、
前記環境難易度算出手段により算出された長期期間周期での環境難易度と前記運転技量評価手段により評価された前記長期期間周期での運転技量と前記ドライバ感情検出手段により検出された前記長期期間周期でのドライバ感情とに基づいて、環境難易度と運転技量とをパラメータとしてドライバ感情について楽しい領域とその他の領域とに設定された感情マップを作成する感情マップ作成手段と、
前記感情マップ作成手段で作成された感情マップを記憶する感情マップ記憶手段と、
前記感情マップ記憶手段に記憶されている前記感情マップに対して、前記環境難易度算出手段により算出された現在の環境難易度と前記運転技量評価手段により評価された現在の運転技量とを照合することにより、外部環境に対する運転者状態が前記楽しい領域にあるか否かを推定するドライバ感情推定手段と、
前記ドライバ感情推定手段によってドライバ感情が前記楽しい領域にないと推定されたときに、ドライバ感情が該楽しい領域になるように運転支援を行う運転支援手段と、
前記運転支援手段による運転支援のアシスト量に基づいて、前記感情マップ記憶手段に記憶されている感情マップにおける前記楽しい領域とその他の領域との境界を修正することにより、前記ドライバ感情推定手段で推定される運転者状態を修正するドライバ感情修正手段と、
運転者の行動情報と車両情報とに基づいて、運転者の行動特性を求める行動特性分析手段と、
を備え、
前記運転技量評価手段は、前記行動特性分析手段により分析された運転者の行動特性とお手本データとの比較結果に応じて、ドライバの運転技量を評価する、
ことを特徴とするドライバ感情推定装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記運転者の行動情報として、運転者の視線位置情報が用いられ、
前記車両情報として、車速、舵角、アクセル開度が用いられる、
ことを特徴とするドライバ感情推定装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記運転支援手段は、駐車に際して運転支援を行うようにされ、
前記行動特性分析手段は、駐車スペースおよび障害物との検出情報と自車位置情報とを加味して運転者の行動特性を求める、
ことを特徴とするドライバ感情推定装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記運転技量評価手段は、駐車に関して、車両軌跡をイメージする技量と、車幅間隔をイメージする技量と、運転操作の技量とを評価するようにされている、ことを特徴とするドライバ感情推定装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、
前記お手本データが、外部のサービスセンターから無線通信を介して入手される、ことを特徴とするドライバ感情推定装置。」
という記載は、
「【請求項1】
運転支援を行う運転支援手段と、
車両の外部環境を検出する外部環境検出手段と、
車両の外部環境と運転者の運転操作に要求される環境難易度との対応関係を記憶した環境難易度記憶手段と、
前記外部環境検出手段により検出された外部環境を前記環境難易度記憶手段に照合して、環境難易度を算出する環境難易度算出手段と、
ドライバーの生体情報を取得する生体情報取得手段と、
ドライバーの生体情報とドライバーの感情との対応関係を記憶したドライバー感情記憶手段と、
前記運転支援手段による運転支援が行われる毎に、前記生体情報取得手段で取得された生体情報を前記ドライバー感情記憶手段に照合して、ドライバー感情が楽しい領域にあるか否かを推定するドライバー感情推定手段と、
ドライバーの運転に関する行動を取得する運転行動取得手段と、
長期期間周期に渡っての前記運転支援手段による運転支援毎に、前記環境難易度算出手段によって算出された環境難易度と、前記運転行動取得手段により取得された運転行動と、前記ドライバー感情推定手段により推定されたドライバー感情と、をドライバー毎に蓄積するデータ蓄積手段と、
前記運転支援手段での運転支援の対象となる運転についてのお手本データを記憶しているお手本データ記憶手段と、
前記データ蓄積手段に蓄積されている運転行動を前記お手本データ記憶手段に記憶されているお手本データと比較することにより、前記運転支援手段により行われる運転支援の対象となる運転についてドライバー毎の運転技量を評価する運転技量評価手段と、
前記運転支援手段により行われる運転支援の対象となる運転毎にかつドライバー毎に、前記データ蓄積手段に蓄積されている環境難易度と前記運転技量評価手段により評価された運転技量とをパラメータとして、該データ蓄積手段に蓄積されているドライバー感情について楽しい領域とその他の領域に設定された感情マップを作成する感情マップ作成手段と、
前記感情マップ作成手段で作成された感情マップを記憶する感情マップ記憶手段と、
前記環境難易度算出により算出された環境難易度と前記運転技量評価手段により評価された運転技量とを前記感情マップに照合して、ドライバー感情が前記楽しい領域にないときに、ドライバー感情が該楽しい領域に近づくように運転支援のアシスト量を決定するアシスト量決定手段と、
前記運転支援手段が前記アシスト量決定手段で決定されたアシスト量でもって運転支援を行っているときに、前記ドライバー感情推定手段で推定される運転者状態としてのドライバー感情が前記楽しい領域にないときに、ドライバー感情が前記楽しい領域にさらに近づくように前記アシスト量を修正するアシスト量修正手段と、
前記運転支援手段が前記アシスト量修正手段による修正後のアシスト量でもって運転支援を行っているときに、前記ドライバー感情推定手段で推定される運転者状態としてのドライバー感情が前記楽しい領域にあるときに、該修正後のアシスト量を前記長期期間周期に渡って記憶する修正アシスト量記憶手段と、
前記長期期間周期毎に、前記修正アシスト量記憶手段に記憶されている修正後のアシスト量に基づいて、前記感情マップ記憶手段に記憶されている前記感情マップを修正する感情マップ修正手段と、
を備えていることを特徴とするドライバー感情推定装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記運転者の行動情報として、運転者の視線位置情報が用いられ、
前記車両情報として、車速、舵角、アクセル開度が用いられる、
ことを特徴とするドライバ感情推定装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記運転支援手段は、駐車に際して運転支援を行うようにされ、
前記行動特性分析手段は、駐車スペースおよび障害物との検出情報と自車位置情報とを加味して運転者の行動特性を求める、
ことを特徴とするドライバ感情推定装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記運転技量評価手段は、駐車に関して、車両軌跡をイメージする技量と、車幅間隔をイメージする技量と、運転操作の技量とを評価するようにされている、ことを特徴とするドライバ感情推定装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、
前記お手本データが、外部のサービスセンターから無線通信を介して入手される、ことを特徴とするドライバ感情推定装置。」とされた。

本件補正は、請求項1についてのみ補正するものであって、補正前の「ドライバ感情推定装置」が「備え」る構成について、補正後の「ドライバー感情推定装置」が「備え」る構成は以下のものである(補正箇所には当審において下線を付した。)。

・補正前の「車両の外部環境により運転者の運転操作に要求される環境難易度を算出する環境難易度算出手段と、」は、
補正後の「車両の外部環境を検出する外部環境検出手段と、
車両の外部環境と運転者の運転操作に要求される環境難易度との対応関係を記憶した環境難易度記憶手段と、
前記外部環境検出手段により検出された外部環境を前記環境難易度記憶手段に照合して、環境難易度を算出する環境難易度算出手段と、」とされ、

・補正前の「ドライバの感情を検出するドライバ感情検出手段と、」は、
補正後の「ドライバーの生体情報を取得する生体情報取得手段と、
ドライバーの生体情報とドライバーの感情との対応関係を記憶したドライバー感情記憶手段と、
前記運転支援手段による運転支援が行われる毎に、前記生体情報取得手段で取得された生体情報を前記ドライバー感情記憶手段に照合して、ドライバー感情が楽しい領域にあるか否かを推定するドライバー感情推定手段と、」とされ、

・補正前の「運転者の運転技量を評価する運転技量評価手段と、」及び「前記環境難易度算出手段により算出された長期期間周期での環境難易度と前記運転技量評価手段により評価された前記長期期間周期での運転技量と前記ドライバ感情検出手段により検出された前記長期期間周期でのドライバ感情とに基づいて、環境難易度と運転技量とをパラメータとしてドライバ感情について楽しい領域とその他の領域とに設定された感情マップを作成する感情マップ作成手段と、」及び「運転者の行動情報と車両情報とに基づいて、運転者の行動特性を求める行動特性分析手段と、」及び「前記運転技量評価手段は、前記行動特性分析手段により分析された運転者の行動特性とお手本データとの比較結果に応じて、ドライバの運転技量を評価する、」という態様は、
補正後の「ドライバーの運転に関する行動を取得する運転行動取得手段と、
長期期間周期に渡っての前記運転支援手段による運転支援毎に、前記環境難易度算出手段によって算出された環境難易度と、前記運転行動取得手段により取得された運転行動と、前記ドライバー感情推定手段により推定されたドライバー感情と、をドライバー毎に蓄積するデータ蓄積手段と、
前記運転支援手段での運転支援の対象となる運転についてのお手本データを記憶しているお手本データ記憶手段と、
前記データ蓄積手段に蓄積されている運転行動を前記お手本データ記憶手段に記憶されているお手本データと比較することにより、前記運転支援手段により行われる運転支援の対象となる運転についてドライバー毎の運転技量を評価する運転技量評価手段と、
前記運転支援手段により行われる運転支援の対象となる運転毎にかつドライバー毎に、前記データ蓄積手段に蓄積されている環境難易度と前記運転技量評価手段により評価された運転技量とをパラメータとして、該データ蓄積手段に蓄積されているドライバー感情について楽しい領域とその他の領域に設定された感情マップを作成する感情マップ作成手段と、」とされ、

・補正前の「前記感情マップ作成手段で作成された感情マップを記憶する感情マップ記憶手段と、
前記感情マップ記憶手段に記憶されている前記感情マップに対して、前記環境難易度算出手段により算出された現在の環境難易度と前記運転技量評価手段により評価された現在の運転技量とを照合することにより、外部環境に対する運転者状態が前記楽しい領域にあるか否かを推定するドライバ感情推定手段と、
前記ドライバ感情推定手段によってドライバ感情が前記楽しい領域にないと推定されたときに、ドライバ感情が該楽しい領域になるように運転支援を行う運転支援手段と、
前記運転支援手段による運転支援のアシスト量に基づいて、前記感情マップ記憶手段に記憶されている感情マップにおける前記楽しい領域とその他の領域との境界を修正することにより、前記ドライバ感情推定手段で推定される運転者状態を修正するドライバ感情修正手段と、」は、
補正後の、
「運転支援を行う運転支援手段と、」及び、「前記感情マップ作成手段で作成された感情マップを記憶する感情マップ記憶手段と、
前記環境難易度算出により算出された環境難易度と前記運転技量評価手段により評価された運転技量とを前記感情マップに照合して、ドライバー感情が前記楽しい領域にないときに、ドライバー感情が該楽しい領域に近づくように運転支援のアシスト量を決定するアシスト量決定手段と、
前記運転支援手段が前記アシスト量決定手段で決定されたアシスト量でもって運転支援を行っているときに、前記ドライバー感情推定手段で推定される運転者状態としてのドライバー感情が前記楽しい領域にないときに、ドライバー感情が前記楽しい領域にさらに近づくように前記アシスト量を修正するアシスト量修正手段と、
前記運転支援手段が前記アシスト量修正手段による修正後のアシスト量でもって運転支援を行っているときに、前記ドライバー感情推定手段で推定される運転者状態としてのドライバー感情が前記楽しい領域にあるときに、該修正後のアシスト量を前記長期期間周期に渡って記憶する修正アシスト量記憶手段と、
前記長期期間周期毎に、前記修正アシスト量記憶手段に記憶されている修正後のアシスト量に基づいて、前記感情マップ記憶手段に記憶されている前記感情マップを修正する感情マップ修正手段と、」とされるものとなった。

2.新規事項について
(1)補正後の請求項1には、「前記運転支援手段が前記アシスト量修正手段による修正後のアシスト量でもって運転支援を行っているときに、前記ドライバー感情推定手段で推定される運転者状態としてのドライバー感情が前記楽しい領域にあるときに、該修正後のアシスト量を前記長期期間周期に渡って記憶する修正アシスト量記憶手段」と記載され、「修正後のアシスト量」を「記憶する」ことを「ドライバー感情が前記楽しい領域にあるとき」に限定するものとなった。
この事項について、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものか否かを検討する。

(2)修正後のアシスト量を記憶することに関する当初明細書等の記載事項
・「【0029】
S56の運転支援の修正においては、例えば、図6に示すように、ドライバー感情マップがドライバーに適合しておらず、基準点P5において、ドライバーの感情が「不安」状態であると検出されたときには(図6中の黒点は、基準点P5が「不安」状態であることを示す)、そのことと、そのときのアシスト量aaとが、ともに個別データDB4へ記憶される。そして、予め、決められた補正量Δaaにより、2回目のアシスト量aa+Δaaが求められ、S53へ移行して、再度、その2回目のアシスト量aa+Δaaによる運転支援が実行され、その際のドライバーの感情がS54において推定される。このようにして、ドライバー感情が「楽しい」状態と推定されるようになるまで、S54?S56,S53が繰り返し実行され、そのときのドライバー感情とアシスト量が個別データDB4へ記憶される。(図6において、1回目のアシスト量aaにおける基準点P5(黒点)は「不安」状態、2回目のアシスト量aa+Δaaにおける基準点P5’(黒点)は「不安」状態、3回目のアシスト量aa+2Δaaにおける基準点P5’’(白点)は「楽しい」状態を表す)。
このような結果、ドライバーは、運転支援を受けて、楽しい状態で運転できることになり、ドライバーの運転技量は、図6に示すように、運転技量DT1からDT2へと次第に高まることになる。」

・「【0033】
次に、S63に移行して、感情・心理推定が行われる。車載制御装置8には、過去1週間の間に実施された各運転支援について、その際における各ドライバーの感情データが共有データDB3に保存されており、それらが読み出され、車載制御装置8は、その各感情データを「楽しさ」と「退屈」と「不安」に区分する。このため、運転支援の際(短期期間周期の処理の際)には、車室内カメラ等によりドライバーの表情を検出してもよいし、「楽しさ」と「退屈」に関しては、車室内カメラにより検出し、「不安」に関しては、発汗センサ、脳波、音声等により検出するようにしてもよい。」

・「【0052】
アシスト量修正部29には、ドライバー感情検出部28からの出力情報(楽しくないこと、不安等のドライバー感情)が入力されており、その出力情報に基づき、前述のアシスト量算出部27でのアシスト量aaの実行(図11参照)によっても、ドライバー感情が、「楽しい」状態と判断されないときには、図6に示すように、ドライバー感情が「楽しい」状態となるまでアシスト量が修正され(aa+Δaa,aa+2Δaa・・・)、その修正されたアシスト量に対応した運転支援を行うべく、アシスト量修正部29は、車両駆動装置12又は表示装置13に制御又は表示信号を出力する。勿論このとき、ドライバー感情を判断するためにドライバー感情検出部28による検出が行われ、その検出結果は記憶される。」

・「【0063】
そして、上記のS14,S16,S17で求めた運転支援がS15で実行され、その際、その効果を確認すべく、ドライバーの感情・心理が推定され、そのときの駐車場難易度、アシスト量、運転技量、ドライバー感情が記憶される(S18)。このドライバー感情・心理の推定は、車室内カメラ14,発汗センサ6a(ドライバー感情取得装置6)から楽しさ、安心感等の感情を検出し、その検出結果と情報記憶装置11における感情・心理推定用データとの比較・照合によりドライバーの感情度合いを特定する。
なお、S15において実行されるマップAによる「車両軌跡に対するアシスト」と、マップBによる「車幅間隔に対するアシスト」と、マップCによる「運転操作に対するアシスト」は、それぞれ、実施タイミングが異なっており、S18の感情・心理推定は、それぞれのアシストが実施された直後に実施されるため、各アシストが、「楽しい」「不安」「退屈」のいずれであるかが推定される。
【0064】
上記S18の後、S27において、各アシストの全てに対し、ドライバー感情が「楽しい」と推定されるかが判別される。このS27がYESであるときには、前記S13へと移行する一方、S27がNOであるときには、S19へ移行して、S27のNOが車両軌跡のアシスト実施直後であるか否かが判別される。S19がYESであるときには、マップAによるアシスト量が不適切であったとしてS22へ移行し、そこでマップAにより、図6にて説明したように、予め決めておいた補正量により、アシスト量が修正される。このS22の処理を終えると、S20へ移行し、S20においても、上記と同様、S27のNOが車幅間隔のアシスト実施直後であるか否かが判別される。S20がYESであるときには、マップBによるアシスト量が不適切であったとしてS23へ移行し、そこでマップBにより、図6にて説明したように、予め決めておいた補正量により、アシスト量が修正される。このS23の処理を終えると、S21へ移行し、S21においても、上記と同様、S27のNOが運転操作のアシスト実施直後であるか否かが判別される。S21がYESであるときには、マップCによるアシスト量が不適切であったとしてS24へ移行し、そこでマップCにより、図6にて説明したように、予め決めておいた補正量により、アシスト量が修正される。このS24の後、再度、S15へ移行し、上記と同様に、S15以降の処理が繰り返し実行される。
なお、S19、S20、S21がNOときには、それぞれ、マップA、マップB、マップCによるアシストが適切であったとして、アシスト量の補正は行わない。
こうして、S27にてYESと判定されるまで、アシスト量の補正が実施され、S27で、YESと判定されると、S13へ移行する。
【0065】
前記S13の駐車完了判別ステップに進むと、そこにおいて、駐車が完了したか否かが判別される。このS13がNOのときには、前記S18に戻される一方、S13がYESのときには、S25において、駐車開始(駐車場の送受信機との送受信開始時)から駐車完了するまでのドライバーの行動データ等がドライバー行動データ部11aに記憶される。この場合、ドライバー行動データとしては、具体的には、駐車場の難易度、ドライバーの操作に応じた車速等の信号、そのときのお手本データ、ドライバー感情等が記憶される。」

(3)例えば、【0029】に、「ドライバー感情が「楽しい」状態と推定されるようになるまで、S54?S56,S53が繰り返し実行され、そのときのドライバー感情とアシスト量が個別データDB4へ記憶される。」とあるように、当初明細書等には、運転支援の修正がなされ、修正後のアシスト量でもって運転支援を行っているときには、ドライバー感情が「楽しい」状態と推定されるようになるまでのドライバー感情とアシスト量が記憶されることが記載されているが、「修正後のアシスト量」の記憶を「ドライバー感情が前記楽しい領域にあるとき」に限定することは記載も示唆もない。
また、【0033】、【0052】、【0063】?【0065】にも、「アシスト量」の記憶を「ドライバー感情が前記楽しい領域にあるとき」に限定することは記載も示唆もない。
そうすると「前記運転支援手段が前記アシスト量修正手段による修正後のアシスト量でもって運転支援を行っているときに、前記ドライバー感情推定手段で推定される運転者状態としてのドライバー感情が前記楽しい領域にあるときに、該修正後のアシスト量を前記長期期間周期に渡って記憶する修正アシスト量記憶手段」とする補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものと認めることができない。

(4)したがって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

3.目的要件について
(1)本件補正が、特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
(2)特許法第17条の2第5項2号の「特許請求の範囲の減縮」は、特許法第36条第6項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られる。
そして、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。

(3)本件補正は、請求項1のみを補正するものであり、補正後の請求項1に係る発明は、補正前の請求項1に係る発明に対応するものとして検討する。

補正前の「運転者の運転技量を評価する運転技量評価手段と、」及び「前記環境難易度算出手段により算出された長期期間周期での環境難易度と前記運転技量評価手段により評価された前記長期期間周期での運転技量と前記ドライバ感情検出手段により検出された前記長期期間周期でのドライバ感情とに基づいて、環境難易度と運転技量とをパラメータとしてドライバ感情について楽しい領域とその他の領域とに設定された感情マップを作成する感情マップ作成手段と、」及び「運転者の行動情報と車両情報とに基づいて、運転者の行動特性を求める行動特性分析手段と、」及び「前記運転技量評価手段は、前記行動特性分析手段により分析された運転者の行動特性とお手本データとの比較結果に応じて、ドライバの運転技量を評価する、」という態様は、
補正後の「ドライバーの運転に関する行動を取得する運転行動取得手段と、
長期期間周期に渡っての前記運転支援手段による運転支援毎に、前記環境難易度算出手段によって算出された環境難易度と、前記運転行動取得手段により取得された運転行動と、前記ドライバー感情推定手段により推定されたドライバー感情と、をドライバー毎に蓄積するデータ蓄積手段と、
前記運転支援手段での運転支援の対象となる運転についてのお手本データを記憶しているお手本データ記憶手段と、
前記データ蓄積手段に蓄積されている運転行動を前記お手本データ記憶手段に記憶されているお手本データと比較することにより、前記運転支援手段により行われる運転支援の対象となる運転についてドライバー毎の運転技量を評価する運転技量評価手段と、
前記運転支援手段により行われる運転支援の対象となる運転毎にかつドライバー毎に、前記データ蓄積手段に蓄積されている環境難易度と前記運転技量評価手段により評価された運転技量とをパラメータとして、該データ蓄積手段に蓄積されているドライバー感情について楽しい領域とその他の領域に設定された感情マップを作成する感情マップ作成手段と、」とされるものとなった。
しかし、補正前は、「運転者の行動情報と車両情報とに基づいて、運転者の行動特性を求める行動特性分析手段」、また、「前記運転技量評価手段は、前記行動特性分析手段により分析された運転者の行動特性とお手本データとの比較結果に応じて、ドライバの運転技量を評価する」という発明特定事項を有し、「運転技量評価手段」が「ドライバの運転技量を評価する」際には「行動特性分析手段」において「車両情報」に基づき「運転者の行動特性を求め」ることが特定されているのに対して、補正後の「運転技量評価手段」が、「ドライバー毎の運転技量を評価する」際に、運転行動特性を「車両情報」に基づいて求めるという事項は存在しない。
そうであれば、この補正は、運転技量の評価に用いる構成要素の一つである、「車両情報」に基づく運転者の行動特性の取得に関する事項を削除するものであるから、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の解決しようとする課題が同一である「特許請求の範囲の減縮」には該当しない。
また、この補正は、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的としたものには該当せず、請求項の削除を目的としたものではないことも明らかである。

(4)したがって、上記の補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものである。

4.小括
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

5.独立特許要件についての予備的検討
本件補正が、新規事項を追加するものでなく、かつ、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であると仮定して、本件補正後の前記請求項に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)請求項1には「前記運転支援手段が前記アシスト量修正手段による修正後のアシスト量でもって運転支援を行っているときに、前記ドライバー感情推定手段で推定される運転者状態としてのドライバー感情が前記楽しい領域にあるときに、該修正後のアシスト量を前記長期期間周期に渡って記憶する修正アシスト量記憶手段」と記載されている。
明細書の発明の詳細な説明において、修正後のアシスト量を記憶することに関して、先に、「2.(2)及び(3)」で検討したのと同様に、例えば、【0029】に、「ドライバー感情が「楽しい」状態と推定されるようになるまで、S54?S56,S53が繰り返し実行され、そのときのドライバー感情とアシスト量が個別データDB4へ記憶される。」とあるように、運転支援の修正がなされ、修正後のアシスト量でもって運転支援を行っているときには、ドライバー感情が「楽しい」状態と推定されるようになるまでのドライバー感情とアシスト量が記憶されることは記載されているものの、「修正後のアシスト量」の記憶を「ドライバー感情が前記楽しい領域にあるとき」に限定することを開示する記載はない。
また、ドライバー感情が楽しい領域にあるときの修正量を把握するのみで、感情マップを修正することは発明の詳細な説明に記載されていないので、明細書の発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているともいえない。
よって、この出願は、特許法第36条第4項第1号、および、第6項第1号の規定に違反するものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(2)小括
以上のとおり、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願について
1.本願
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成30年4月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定され、「第2 1.」の本件補正前の請求項に記載されたとおりのものと認められる。

2.当審の拒絶理由の概要
当審において平成30年6月4日付けで通知した最後の拒絶理由の概要は、以下のとおりである。

「理由A.平成30年4月27日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
理由B.この出願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない。

理由A(新規事項)
請求項1には、補正により「前記環境難易度算出手段により算出された長期期間周期での環境難易度」の事項が付加された。
この事項によると、長期期間周期での環境難易度が、環境難易度算出手段により算出されるものとなった。
そこで、当該補正が、願書に最初に添附した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものか検討する。
発明の詳細な説明には、長期期間周期の環境難易度の処理について、以下の記載がある。
・「【0030】
次に、車載制御装置8による長期期間周期の処理について説明する。
長期期間周期の処理は、ドライバーの感情マップの作成、修正を目的としており、このドライバーの感情マップの作成・修正は、例えば1週間毎に、前述の短期期間周期の処理により得られたデータ(蓄積データ)を利用して行われる。このため、車載制御装置8には、運転支援の度に短期期間周期の処理毎のデータ等が保存される。
【0031】
具体的に説明する。先ず、図4に示すように、S61において、過去1週間の間に実施された各運転支援についての環境難易度が共有データDB1から読み出される。この環境難易度は、各運転支援(短期期間周期の処理)の際に、蓄積データの一つとして共有データDB1に記憶されたものである。」

・「【0034】
次に、S64に移行して、ドライバー個人の特性学習、すなわち、ドライバー感情マップが各ドライバに適合するように、ドライバー感情マップの修正が行われる。このドライバー感情マップの修正には、上記環境難易度算出(S61)、運転技量評価(S62)、感情・心理推定(S63)に基づくデータ(1週間の間に蓄えられた各運転支援データ等)が利用され、そのドライバー感情マップの修正は1週間毎に行われる。
【0035】
具体的に説明すれば、次のようになる。例えば図8に示すように、ある環境難易度についての運転支援の際に、その運転支援時における運転技量がDT1である下で(S62で評価)、初回のアシスト量aaにより座標がP5となっても、ドライバーの感情が「不安」状態(図8中、●で表す)にあり、2回目のアシスト量aa+Δaaにより座標がP5’になっても、ドライバーの感情が「不安」状態(図8中、●で表す)にあり、3回目のアシスト量aa+2Δaaにより座標がP5’’になって初めて、ドライバーの感情が「楽しい」状態(図8の○で表す)になったときには(図5,図6も参照)、運転技量DT1において、「楽しい領域PA」と「不安領域PB」の境界が、P5’とP5’’の中間に存在すると判断される。」

これらの記載を参照すると、長期期間周期の環境難易度に関する処理としては、各運転支援(短期期間周期の処理)の際に、蓄積データの一つとして共有データDB1に記憶された、各運転支援についての環境難易度が共有データDB1から読み出されることが示されているのみであるので、「長期期間周期での環境難易度」が、「環境難易度算出手段」により算出されることは記載も示唆もない。
したがって、当該補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではない。

理由B.(記載要件)
(1)請求項1には「前記環境難易度算出手段により算出された長期期間周期での環境難易度」とある。
発明の詳細な説明を参照すると、「環境難易度」とは、障害物等の外部情報に対応付けされている(例えば、段落【0020】の記載を参照。)ものであるが、長期期間周期中には、特定の障害物だけでなく、種々の障害物が存在すると考えられるところ、「長期期間周期での環境難易度」とは何か不明であり、どの様にして「算出」するのかも明確でない。
また、段落【0031】の記載を参照すると、各運転支援(短期期間周期の処理)についての環境難易度が共有データDB1から読み出されることが、長期期間周期での環境難易度の処理とされており、算出についての記載はないので「前記環境難易度算出手段により算出された長期期間周期での環境難易度」は、発明の詳細な説明に記載されておらず、また、発明の詳細な説明は、環境難易度算出手段により長期期間周期での環境難易度を算出することについて、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(2)請求項1には、「前記感情マップ記憶手段に記憶されている前記感情マップに対して、前記環境難易度算出手段により算出された現在の環境難易度と前記運転技量評価手段により評価された現在の運転技量とを照合することにより、外部環境に対する運転者状態が前記楽しい領域にあるか否かを推定するドライバ感情推定手段」とある。
感情マップに関し、発明の詳細な説明の段落【0022】?【0024】には、ドライバー感情マップ(環境難易度と運転技量との座標系中に、「楽しい領域PA」を設定したもの)において、ドライバーの運転技量に応じたアシスト量aa(選択された運転支援内容)を実行することによりドライバーを「楽しい領域PA」内に位置させるようにする、S53のステップが示されているが、ドライバーの感情を推定するとは、記載されていない。
一方、ドライバーの感情を推定することに関し、段落【0027】には、「S53において、運転支援が実行されると、S54において、その際におけるドライバーの感情・心理が推定される。ドライバーの感情を通じて運転支援が適切か否か判断し、運転支援修正の有無を判断するためである。この場合、共有データDB3には、ドライバーの感情・心理とドライバーの生体情報との対応関係データが予め記憶されており、車載制御装置8は、その対応関係データを取り込み、それに、ドライバー感情取得装置6により検出された検出データを用いることにより、その際におけるドライバーの感情・心理を推定する。
このとき、取得されたドライバーの感情とその際のアシスト量aaが共有データDB3と個別データDB4へ保存される。
なお、この場合、車載制御装置8は、外部サービスセンタから感情と生体情報との対応関係に関する情報を受け取り、ドライバーの生態情報と外部サービスセンタからの情報とに基づき、ドライバーの感情を推定することとしてもよい。」とあるように、運転支援が実行された際におけるドライバーの感情・心理が、ドライバー感情取得装置6により検出された検出データを用いることにより推定される手段が記載されており、請求項1の「外部環境に対する運転者状態が前記楽しい領域にあるか否かを推定するドライバ感情推定手段」について記載されているものの、当該手段は、「現在の環境難易度」と「評価された現在の運転技量とを照合することにより」、「運転者状態」を「推定する」ものではない。
そうすると、請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載された事項との対応が明らかでなく、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
また、請求項1に記載された「前記感情マップ記憶手段に記憶されている前記感情マップに対して、前記環境難易度算出手段により算出された現在の環境難易度と前記運転技量評価手段により評価された現在の運転技量とを照合することにより、外部環境に対する運転者状態が前記楽しい領域にあるか否かを推定する」ことをどのようにして実行することができるのか、発明の詳細な説明の記載を参照しても不明であるし、発明の詳細な説明の記載は、請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に記載されたものとはいえない。
(3)請求項1には、「前記ドライバ感情推定手段によってドライバ感情が前記楽しい領域にないと推定されたときに、ドライバ感情が該楽しい領域になるように運転支援を行う運転支援手段」とある。
ここで、「ドライバ感情が該楽しい領域になる」ということは、あくまで、ドライバーマップ上で座標点が楽しい領域内に位置させるということであるから、この、「ドライバ感情が該楽しい領域になるように運転支援を行う運転支援手段」は、発明の詳細な説明の記載を参照すると、上記(2)で検討したように、段落【0022】?【0024】に記載される、アシスト量aa(選択された運転支援内容)を実行することによりドライバーを「楽しい領域PA」内に位置させ、ドライバーを楽しいと感じられるようにする、S53のステップに用いられる手段である。
しかし、上記(2)でも検討したように、「ドライバ感情推定手段」は、発明の詳細な説明の記載を参照すると、段落【0027】の「S53において、運転支援が実行されると、S54において、その際におけるドライバーの感情・心理が推定される。」のごとく、S53に続いて行われる、ドライバーの感情・心理の推定のS54に用いられる手段である。
そうすると、請求項1の「ドライバ感情推定手段」は、運転支援を行うよりも前にドライバ感情を推定する手段であるので、請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載された事項との対応が明らかでなく、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
また、請求項1に記載された「前記ドライバ感情推定手段によってドライバ感情が前記楽しい領域にないと推定されたときに、ドライバ感情が該楽しい領域になるように運転支援を行う運転支援手段」をどのようにして実施することができるのか、発明の詳細な説明の記載を参照しても不明であるし、発明の詳細な説明の記載は、請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に記載されたものとはいえない。
(4)請求項1には、「ドライバ感情検出手段」について、単に「ドライバの感情を検出する」としか記載されておらず、何に基づいてどのように検出するのか何ら特定されていないから、請求項1の記載では、「ドライバ感情検出手段」と、環境難易度算出手段により算出された現在の環境難易度と運転技量評価手段により評価された現在の運転技量とを照合することにより、運転者状態が楽しい領域にあるか否か、すなわちドライバの感情が「楽しい」状態と「不安」状態のいずれであるかを推定する「ドライバ感情推定手段」との差異が不明である。
(5)請求項1には、「前記運転支援手段による運転支援のアシスト量に基づいて、前記感情マップ記憶手段に記憶されている感情マップにおける前記楽しい領域とその他の領域との境界を修正することにより、前記ドライバ感情推定手段で推定される運転者状態を修正するドライバ感情修正手段」とある。
感情マップ記憶手段に記憶されている感情マップにおける楽しい領域とその他の領域との境界を修正することについて、発明の詳細な説明の段落【0035】?【0040】の記載を参照すると、確かに、境界は、アシスト量に基づいて修正される。しかしながら、段落【0022】?【0024】及び【0027】?【0029】の記載を合わせて参照すると、修正に用いられるアシスト量は、単に、ドライバ感情マップによって定められる(【0023】に記載されたアシスト量)にとどまらず、「現在の環境難易度」と「現在の運転技量とを照合する」、「ドライバ感情推定手段」とは異なる、ドライバー感情取得装置6により検出された検出データを用いて推定されるドライバーの感情・心理を用いて補正されたアシスト量である(段落【0027】?【0029】)。
そうすると、請求項1の前記「前記運転支援手段による運転支援のアシスト量に基づいて、前記感情マップ記憶手段に記憶されている感情マップにおける前記楽しい領域とその他の領域との境界を修正することにより、前記ドライバ感情推定手段で推定される運転者状態を修正するドライバ感情修正手段」の記載、及び上記(3)で指摘した前記「前記ドライバ感情推定手段によってドライバ感情が前記楽しい領域にないと推定されたときに、ドライバ感情が該楽しい領域になるように運転支援を行う運転支援手段」の記載は、いずれも、修正に用いられるアシスト量が、単に「ドライバ感情が該楽しい領域になるように」定められるアシスト量ではなく、ドライバー感情取得装置6により検出された検出データを用いて推定されるドライバーの感情・心理を用いて補正されたアシスト量であることを示す記載はないから、請求項1の記載は明確でなく、また、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。」

3.最後の拒絶理由に対する当審の判断
(1)新規事項について
平成30年4月27日付けでした手続補正により、特許請求の範囲の請求項1について、「前記環境難易度算出手段により算出された長期期間周期での環境難易度」の事項が付加された。
当初明細書等の発明の詳細な説明には、長期期間周期の環境難易度の処理について、【0030】、【0031】、【0034】、【0035】の記載を参照すると、長期期間周期の環境難易度に関する処理としては、各運転支援(短期期間周期の処理)の際に、蓄積データの一つとして共有データDB1に記憶された、各運転支援についての環境難易度が共有データDB1から読み出されることが示されているのみであるので、「長期期間周期での環境難易度」が、「環境難易度算出手段」により算出されることは記載も示唆もない。

したがって、特許請求の範囲の請求項1について、「前記環境難易度算出手段により算出された長期期間周期での環境難易度」の事項が付加される補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではない。
平成30年4月27日付けでした手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(2)記載要件について
ア.請求項1には、「前記環境難易度算出手段により算出された長期期間周期での環境難易度」とある。
発明の詳細な説明の段落【0030】?【0035】の記載には、「長期期間周期で」行われる「環境難易度」に関する処理としては、各運転支援(短期期間周期の処理)の際に、蓄積データの一つとして共有データDB1に記憶された、各運転支援についての環境難易度が共有データDB1から読み出されることが示されているのみであるので、「長期期間周期での環境難易度」が、「環境難易度算出手段」により算出されることは記載されていない。
そうすると、請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
また、請求項1に記載された「長期期間周期での環境難易度」を「環境難易度算出手段により算出」することをどのようにして実行することができるのか、発明の詳細な説明の記載を参照しても不明であり、発明の詳細な説明の記載は、請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に記載されたものとはいえない。

イ.請求項1には、「前記感情マップ記憶手段に記憶されている前記感情マップに対して、前記環境難易度算出手段により算出された現在の環境難易度と前記運転技量評価手段により評価された現在の運転技量とを照合することにより、外部環境に対する運転者状態が前記楽しい領域にあるか否かを推定するドライバ感情推定手段」とある。
感情マップに関し、発明の詳細な説明の段落【0022】?【0024】には、ドライバー感情マップ(環境難易度と運転技量との座標系中に、「楽しい領域PA」を設定したもの)において、ドライバーの運転技量に応じたアシスト量aa(選択された運転支援内容)を実行することによりドライバーを「楽しい領域PA」内に位置させるようにする、S53のステップが示されているが、ドライバーの感情を推定するとは、記載されていない。
一方、ドライバーの感情を推定することに関し、段落【0027】には、「S53において、運転支援が実行されると、S54において、その際におけるドライバーの感情・心理が推定される。ドライバーの感情を通じて運転支援が適切か否か判断し、運転支援修正の有無を判断するためである。この場合、共有データDB3には、ドライバーの感情・心理とドライバーの生体情報との対応関係データが予め記憶されており、車載制御装置8は、その対応関係データを取り込み、それに、ドライバー感情取得装置6により検出された検出データを用いることにより、その際におけるドライバーの感情・心理を推定する。
このとき、取得されたドライバーの感情とその際のアシスト量aaが共有データDB3と個別データDB4へ保存される。
なお、この場合、車載制御装置8は、外部サービスセンタから感情と生体情報との対応関係に関する情報を受け取り、ドライバーの生態情報と外部サービスセンタからの情報とに基づき、ドライバーの感情を推定することとしてもよい。」とあるように、運転支援が実行された際におけるドライバーの感情・心理が、ドライバー感情取得装置6により検出された検出データを用いることにより推定される手段が記載されており、請求項1の「外部環境に対する運転者状態が前記楽しい領域にあるか否かを推定するドライバ感情推定手段」について記載されているものの、当該手段は、「現在の環境難易度」と「評価された現在の運転技量とを照合することにより」、「運転者状態」を「推定する」ものではない。
そうすると、請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載された事項との対応が明らかでなく、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
また、請求項1に記載された「前記感情マップ記憶手段に記憶されている前記感情マップに対して、前記環境難易度算出手段により算出された現在の環境難易度と前記運転技量評価手段により評価された現在の運転技量とを照合することにより、外部環境に対する運転者状態が前記楽しい領域にあるか否かを推定する」ことをどのようにして実行することができるのか、発明の詳細な説明の記載を参照しても不明であるし、発明の詳細な説明の記載は、請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に記載されたものとはいえない。

ウ.請求項1には、「前記ドライバ感情推定手段によってドライバ感情が前記楽しい領域にないと推定されたときに、ドライバ感情が該楽しい領域になるように運転支援を行う運転支援手段」とある。
ここで、「ドライバ感情が該楽しい領域になる」ということは、あくまで、ドライバーマップ上で座標点が楽しい領域内に位置させるということであるから、この、「ドライバ感情が該楽しい領域になるように運転支援を行う運転支援手段」は、発明の詳細な説明の記載を参照すると、上記「イ.」で検討したように、段落【0022】?【0024】に記載される、アシスト量aa(選択された運転支援内容)を実行することによりドライバーを「楽しい領域PA」内に位置させ、ドライバーを楽しいと感じられるようにする、S53のステップに用いられる手段である。
しかし、上記「イ.」でも検討したように、「ドライバ感情推定手段」は、発明の詳細な説明の記載を参照すると、段落【0027】の「S53において、運転支援が実行されると、S54において、その際におけるドライバーの感情・心理が推定される。」のごとく、S53に続いて行われる、ドライバーの感情・心理の推定のS54に用いられる手段である。
そうすると、請求項1の「ドライバ感情推定手段」は、運転支援を行うよりも前にドライバ感情を推定する手段であるので、請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載された事項との対応が明らかでなく、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
また、請求項1に記載された「前記ドライバ感情推定手段によってドライバ感情が前記楽しい領域にないと推定されたときに、ドライバ感情が該楽しい領域になるように運転支援を行う運転支援手段」をどのようにして実施することができるのか、発明の詳細な説明の記載を参照しても不明であるし、発明の詳細な説明の記載は、請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に記載されたものとはいえない。

エ.請求項1には、「ドライバ感情検出手段」について、単に「ドライバの感情を検出する」としか記載されておらず、何に基づいてどのように検出するのか何ら特定されていないから、請求項1の記載では、「ドライバ感情検出手段」と、環境難易度算出手段により算出された現在の環境難易度と運転技量評価手段により評価された現在の運転技量とを照合することにより、運転者状態が楽しい領域にあるか否か、すなわちドライバの感情が「楽しい」状態と「不安」状態のいずれであるかを推定する「ドライバ感情推定手段」との差異が不明である。
そうすると、請求項1の記載は明確でない。

オ.請求項1には、「前記運転支援手段による運転支援のアシスト量に基づいて、前記感情マップ記憶手段に記憶されている感情マップにおける前記楽しい領域とその他の領域との境界を修正することにより、前記ドライバ感情推定手段で推定される運転者状態を修正するドライバ感情修正手段」とある。
感情マップ記憶手段に記憶されている感情マップにおける楽しい領域とその他の領域との境界を修正することについて、発明の詳細な説明の段落【0035】?【0040】の記載を参照すると、確かに、境界は、アシスト量に基づいて修正される。しかしながら、段落【0022】?【0024】及び【0027】?【0029】の記載を合わせて参照すると、修正に用いられるアシスト量は、単に、ドライバ感情マップによって定められる(【0023】に記載されたアシスト量)にとどまらず、「現在の環境難易度」と「現在の運転技量とを照合する」、「ドライバ感情推定手段」とは異なる、ドライバー感情取得装置6により検出された検出データを用いて推定されるドライバーの感情・心理を用いて補正されたアシスト量である(段落【0027】?【0029】)。
そうすると、請求項1の前記「前記運転支援手段による運転支援のアシスト量に基づいて、前記感情マップ記憶手段に記憶されている感情マップにおける前記楽しい領域とその他の領域との境界を修正することにより、前記ドライバ感情推定手段で推定される運転者状態を修正するドライバ感情修正手段」の記載、及び上記「ウ.」で指摘した前記「前記ドライバ感情推定手段によってドライバ感情が前記楽しい領域にないと推定されたときに、ドライバ感情が該楽しい領域になるように運転支援を行う運転支援手段」の記載は、いずれも、修正に用いられるアシスト量が、単に「ドライバ感情が該楽しい領域になるように」定められるアシスト量ではなく、ドライバー感情取得装置6により検出された検出データを用いて推定されるドライバーの感情・心理を用いて補正されたアシスト量であることを示す記載はないから、請求項1の記載は明確でなく、また、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

カ.よって、本願は、明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載が上記ア.?オ.の点で、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない。

4.むすび
以上のとおり、平成30年4月27日付けでした手続補正は、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしておらず、また、本願は、明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載が特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていないから、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-11-29 
結審通知日 2018-12-04 
審決日 2018-12-17 
出願番号 特願2015-2118(P2015-2118)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (G08G)
P 1 8・ 572- WZ (G08G)
P 1 8・ 536- WZ (G08G)
P 1 8・ 561- WZ (G08G)
P 1 8・ 537- WZ (G08G)
P 1 8・ 55- WZ (G08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 純一  
特許庁審判長 久保 竜一
特許庁審判官 矢島 伸一
中川 真一
発明の名称 ドライバ感情推定装置  
代理人 村田 実  
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