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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61K
管理番号 1349361
審判番号 不服2018-7784  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-06 
確定日 2019-03-19 
事件の表示 特願2016-544149「抗酸化剤を含有しない薬学組成物およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月 9日国際公開、WO2015/102315、平成29年 3月 2日国内公表、特表2017-506213、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年12月26日(パリ条約による優先権主張 2013年12月30日(KR)大韓民国)を国際出願日とする出願であって、平成29年5月22日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年8月30日付け手続補正書により手続補正がされ、平成30年1月31日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成30年6月6日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(平成30年1月31日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

この出願の請求項1-13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用例1には、ペメトレキセド又はその塩とマンニトール及び/又はpH調節剤等の賦形剤を注射用水に溶解し、真空脱気して、得られた水溶液の溶存酸素濃度を1ppm以下にする、抗酸化剤無含有注射剤の製造方法が記載されており(特に、請求項4、5、実施例を参照)、溶存酸素濃度を減ずる方法として、真空脱気や窒素バブリング法等の公知の脱気方法を採用できることも記載されている([16]、表1を参照)。
そこで、補正後の本願請求項1に係る発明と引用例1に記載された発明とを対比すると、前者は、
「 (a)ペメトレキセドまたはその薬学的に許容可能な塩と水性溶媒を含む溶液を凍結して凍結物を得る段階;および
(b)真空減圧条件下で前記凍結物を脱気して脱気された凍結物を得る段階を含み、
前記脱気された凍結物は、前記段階(a)の溶液に含有されている溶媒100重量を基準に95重量部?100重量部の溶媒を含み、
前記段階(a)?(b)は、密閉されたチャンバー内で行われる」
という脱気方法をとるのに対し、後者は、真空脱気や窒素バブリング法等の公知の脱気方法を採用できるとしている点で、両者は相違する。
しかしながら、溶媒の脱気方法として凍結脱気法(Freeze-Pump-Thaw)は周知であって(引用例2の要約、第384頁の左欄、引用例3の要約を参照)、水溶液中の溶存酸素を除去するために、凍結脱気法が窒素バブリング法と同様に採用できることも知られている(引用例4の(6)欄を参照)。
また、補正によって、脱気された凍結物の重量が特定され、段階(a)?(b)は、密閉されたチャンバー内で行われることも特定されたが、これらの条件は、通常の凍結脱気法と相違しない。
してみれば、引用例1に記載された薬学組成物を製造する際に、脱気法として凍結脱気法を採用することは、当業者が容易に相当し得ることである。
そして、本願請求項1に係る発明の効果について検討するに、凍結脱気法を採用することによって、溶液に対して脱気処理をする必要がないため、溶液が沸いてあふれることなく、容易に簡単に製造できる([0028]、[0034])、時間や便宜性、収率の面で効果的である([0042])という点において、予測できない有利な効果が奏されているとは認められないし、凍結脱気法は、特に少量の溶液の脱気に際し、他の脱気法に比して信頼性や効率性に優れた脱気法であることは技術常識であるから(引用例5のA1. General、引用例6のFreeze-Pump-Thaw)、そうして得られる薬学組成物が安定であることは、当業者が予測できる効果であって、格別のものであるとは認められない。
また、出願人は、平成29年8月30日付け意見書において、添付された参考資料1(実験成績証明書)に基づいて、本願発明の実施例5の凍結真空脱気法を用いて製造した薬学組成物は、引用例1に列挙された蒸留脱気法又は真空脱気法を用いて製造した薬学組成物に比べて、安定性に優れており、これは予測できる効果ではない旨を主張している。
参考資料1(実験成績証明書)の内容について検討する。
引用例1に記載されているとおり、蒸留脱気法の溶存酸素は、0.5ppm、真空脱気法の場合では、0.8ppmであるところ([30]、[33]、実施例1、2)、本願明細書の[0046]、[表1]に基づけば、凍結脱気法の溶存酸素は、0.5ppm程度であり、溶存酸素濃度は大きく変わらない。
そして、蒸留脱気法及び真空脱気法を採用した場合のバイアルは、0.1%v/vの酸素分圧の元で密封されているところ、凍結真空脱気法を採用したバイアルは、真空条件下(0.1torr)で密封されており、凍結真空脱気法のバイアルのヘッドスペースに含まれる酸素は、蒸留脱気法及び真空脱気法のバイアルのそれに比べて少なくなっている。
してみれば、参考資料1(実験成績証明書)に示された薬学組成物の安定性の差異が、脱気法による差異によるものであるか、封止工程の差異、すなわち、ヘッドスペースに含まれる酸素量による差異によるものであるか判然としないし、凍結脱気法が信頼性や効率性に勝る点を考慮すれば、そうして得られた薬学組成物が安定であることは予測できる効果であって、前記出願人の主張は採用できない。
よって、補正後の本願請求項1に係る発明は、引用例1-4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

補正後の本願請求項2、3、7-10について、許容される溶存酸素濃度、脱気段階における時間、温度、圧力の条件を定めているが、凍結脱気をするにあたって、これらの条件を実験的に好適化することは、当業者が適宜なし得ることである。
補正後の本願請求項4について、続く工程において脱気処理を想定している場合には、脱気処理されていない溶媒を使用するのが通常である。
補正後の本願請求項5、6について、引用例1には、ペメトレキセド二ナトリウム、塩化ナトリウム及び水を含む、抗酸化剤無含有の注射剤が記載されており(実施例1、2)、賦形剤としてマンニトール、pH調節剤として塩酸、水酸化ナトリウムを使用できることも記載されている([21]及び[22]段落を参照)。
補正後の本願請求項11について、引用例1の[23]、[24]段落には、密封すること、窒素充填後に密封することが記載されている。
補正後の本願請求項12、13について、引用例1の記載からみて、当該組成物は、冷凍保存が必須とは認められないし、そのような製剤は、冷蔵?常温にて流通・使用するのが通常である。
そして、補正後の本願請求項2-13に係る発明の効果について検討するに、本願明細書及び意見書の内容を検討しても、これらの脱気の条件等を定めたことによって、格別の効果が奏されているとも認められない。
よって、本願請求項2-13に係る発明は、引用例1-4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


<引用文献等一覧>
1.国際公開第2012/121523号
2.Anal Biochem,1989年,Vol. 180,pp. 384-386(周知技術を示す文献)
3.Adv Colloid Interface Sci,2007年,Vol. 134-135,pp. 89-95(周知技術を示す文献)
4.特開昭55-106231号公報
5.SOP - Freeze-Pump-Thaw Degassing of Liquids ,2011年,[検索日 2018.01.30],A1. General,インターネット:(新たに引用された、技術常識を示す文献)
6.Tips and Tricks for the Lab: Air-Sensitive Techniques (2),2013年,[検索日 2018.01.30],Freeze-Pump-Thaw,インターネット:(新たに引用された、技術常識を示す文献)


第3 本願発明
本願請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明10」という。)は、平成30年6月6日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
(a)ペメトレキセドまたはその薬学的に許容可能な塩と水性溶媒を含む溶液を容器に分注した後、凍結して凍結物を得る段階;
(b)真空減圧条件下で前記凍結物を脱気して脱気された凍結物を得る段階;および
(c)前記段階(b)で生成された凍結物を密封する、又は窒素で充填した後に密封する段階を含み、
前記段階(a)の溶液は、脱気処理されない溶液であり、
前記脱気された凍結物は、前記段階(a)の溶液に含有されている溶媒100重量を基準に95重量部?100重量部の溶媒を含み、
前記段階(a)?(b)は、密閉されたチャンバー内で行われる、抗酸化剤無含有(antioxidant-free)薬学組成物の製造方法。
【請求項2】
前記段階(b)で溶存酸素濃度1.5ppm以下に脱気する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記段階(b)の脱気段階は、12時間以内に行われるものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記溶液は、薬学的に許容可能な賦形剤およびpH調節剤からなる群より選択される1種以上を追加的に含むものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記賦形剤は、マンニトールであるか、前記pH調節剤は、塩酸、水酸化ナトリウムまたはこれらの混合物である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記段階(a)で-20℃以下に凍結するものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記段階(a)で-30℃以下に凍結するものである、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記段階(b)で真空減圧条件は、2,000mTorr以下の条件である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記段階(b)で真空減圧条件は、1,000mTorr以下の条件である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記段階(c)を行った後に、脱気された凍結物を解凍する段階を追加的に含む、請求項1?9のいずれか一項に記載の製造方法。」


第4 引用例、引用発明等
1.引用例1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1には、次の事項が記載されている。(なお、原文は英語で記されているので、当審による和訳で示す。)

「請求項1
抗酸化剤無含有(antioxidant-free)注射用溶液の形態の医薬製剤を調製する方法であって、
(a)ペメトレキセドまたはその塩を含有する注射用溶液中の溶存酸素濃度を1ppm以下に制御する;及び
(b)0.2%v/v以下の酸素分圧を有する密閉系で、工程(a)で得られた溶液を注射用容器に充填する、
工程からなる方法。

請求項2
工程(a)が、ペメトレキセドまたはその塩、並びに塩化ナトリウム、マンニトール、及びpH調整剤からなる群から選択される少なくとも1種の賦形剤を、溶存酸素濃度1ppm以下の注射用水に溶解することによって行われる、請求項1に記載の方法。

請求項3
工程(a)及び工程(b)がともに、0.2%v/v以下の酸素分圧を有する密閉系で行われる、請求項2に記載の方法。

請求項4
工程(a)が、ペメトレキセドまたはその塩、並びに塩化ナトリウム、マンニトール、及びpH調整剤からなる群から選択される少なくとも1つの賦形剤を注射用水に溶解し、その後、不活性ガスをバブリングして溶存酸素濃度を1ppm以下に調整することによって行われる、請求項1に記載の方法。

請求項5
不活性ガスのバブリングが減圧下または真空中で行われる、請求項4に記載の方法。」(特許請求の範囲)

「実施例1:蒸留脱気による注射用溶液の調製
注射用水700mlを、窒素雰囲気下で加熱しながら加熱蒸留した後、窒素雰囲気下で冷却して溶存酸素を除去した。得られた注射用水(脱気水)中の溶存酸素濃度は0.5ppmであった。ペメトレキセド二ナトリウム(ペメトレキセドとして1.25g)及び塩化ナトリウム0.45gを100mlのガラス製容器に入れ、その後グローブバッグに入れた。バイアル、ゴム栓、及び滅菌フィルターもグローブバッグに入れた。pH計の電極を較正しし、洗浄し、次いでグローブバッグに入れた。酸素分圧を0.1%v/vに調整するために、窒素ガスを減圧下でグローブバッグに注入した。50mlの脱気水をシリンジで取り、次にグローブバッグ中の100mlガラス製容器に加えて成分を溶解させた。グローブバッグ中で測定されたpHは7.66であった。得られた溶液をシリンジを用いて再度採取し、次いでシリンジに取り付けられた0.2μm滅菌フィルターを通して濾過した。5mlバイアルに得られた濾液4mlを充填し、次いでゴム栓で密封した。グローブバッグを開け、バイアルをアルミニウムキャップで蓋をした。得られたバイアルを高圧蒸気滅菌器で15分間滅菌した。」(段落[29]?[30])

「実施例2:真空脱気による注射用溶液の調製
キャップにガス導入口と真空排気口を設けた250mlのガラス製瓶に、ペメトレキセド二ナトリウム(ペメトレキセドとして2.5g)及び塩化ナトリウム0.9gを加えた後、注射用水100mlに添加成分を加えて溶解した。注射用水の溶存酸素濃度は6.5ppmであった。窒素をガス導入口に接続し、ダイヤフラム真空ポンプを真空排気口に接続した。真空脱気操作と窒素ガスパージを繰り返し行った。得られた溶液の一部をとって、その中の溶存酸素濃度及びpHを測定した。測定の結果、溶存酸素濃度は0.8ppmであり、pHは7.68であった。」(段落[32]?[34])

「本発明による方法では、当該技術分野において公知の任意の脱気方法を使用することが出来る(以下の表1を参照)。
表1

」(段落[16]?[17])

「酸素分圧が0.2%v/v以下の密閉系は、酸素分圧を調整するために不活性ガス(例えば、窒素またはアルゴン)を注入することによって提供することができる。例えば、グローブバッグなどの従来のシステムを密閉システムとして使用することができる。このように密閉系で充填工程を実施すると、注射用容器の上部空間を自動的に不活性ガスで置換することができる。」(段落[24])

上記記載事項(特に、特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項4をさらに引用する請求項5、段落[32]?[34])から、引用例1には以下の発明が記載されていると認められる。

「(A)ペメトレキセドまたはその塩、並びに塩化ナトリウム、マンニトール、及びpH調整剤からなる群から選択される少なくとも1つの賦形剤を注射用水に溶解する段階;
(B)溶液を、減圧下または真空中での不活性ガスのバブリングにより、その溶存酸素濃度を1ppm以下に調整する段階;および
(C)前記段階(B)で生成された内容物を、窒素を注入することで酸素分圧を0.2%v/v以下に調整した密閉系で、注射用容器に充填する段階を含み、
前記段階(A)の溶液は、脱気処理されない溶液であり、
前記段階(A)?(B)は、密閉系で行われる、抗酸化剤無含有注射用溶液の製造方法。」(以下、「引用発明1」という。)

2 引用例2?6について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用例2(要約、第384頁の左欄)には凍結脱気法が記載されている。
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用例3(要約)には凍結脱気法が記載されている。
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用例4((6)欄)には、水溶液中の溶存酸素を除去する方法として、凍結脱気法、窒素バブリング法などが記載されている。
原査定で新たに引用された上記引用例5(A.Introductionの欄)には、凍結-ポンプ-解凍技術が、実験用溶媒を脱酸素する最も信頼性の高い方法の一つであること、及び、単純な散布技術よりも溶存ガスの除去がより厳格なレベルでおこなえるものであることが記載されている。
原査定で新たに引用された上記引用例6(Freeze-Pump-Thawの欄)には、凍結-ポンプ-解凍技術が、溶媒を脱気する最も効果的な方法であり、より小さい体積の溶媒、典型的には標準サイズの反応フラスコに適合する溶媒に適していることが記載されている。


第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「ペメトレキセドまたはその塩」及び「注射用水」並びに「減圧下又は真空中での不活性ガスのバブリング」はそれぞれ、本願発明1における「ペメトレキセドまたはその薬学的に許容可能な塩」及び「水性溶媒」並びに「脱気」に相当し、また、引用発明1における段階(A)と段階(B)の間において溶液を容器に分注することは当然行われることであり、引用発明1における段階(C)で内容物を注射用容器に充填する際には当該注射用容器内の内容物以外の空間は当然窒素で充填されることになり、内容物を注射用容器に充填した後には密封することが当然行われることが、いずれも技術常識から認められる。
したがって、両者は
「(a’)ペメトレキセドまたはその薬学的に許容可能な塩と水性溶媒を含む溶液を容器に分注する段階;
(b’)脱気する段階;および
(c’)前記段階(b’)で生成された内容物を窒素で充填した後に密封する段階を含み、
前記段階(a’)の溶液は脱気処理されない溶液であり、
前記段階(a’)?(b’)は、密閉系で行われる、抗酸化剤無含有(antioxidant-free)薬学組成物の製造方法。」である点で一致し、

相違点1:引用発明1の段階(A)において溶液を凍結して凍結物を得る段階がない一方、本願発明1の段階(a)において溶液を分注した後に凍結して凍結物を得る段階がある点、
相違点2:引用発明1の段階(B)における脱気は、溶液を不活性ガスのバブリングにより脱気するものである一方、本願発明1の段階(b)における脱気は、凍結物を脱気するものである点、
相違点3:引用発明1の段階(B)において脱気により得られるものは、溶存酸素濃度が1ppm以下の溶液である一方、本願発明1の段階(b)において脱気により得られるものは、前記段階(a)において溶液に含有されている溶媒100重量を基準に95重量部?100重量部の溶媒を含む凍結物である点、
相違点4:引用発明1の段階(A)?(B)は密閉系で行われる一方、本願発明1の段階(a)?(b)は密閉されたチャンバー内で行われる点、
で相違する。

(2)相違点についての判断
上記相違点1及び相違点3について検討すると、相違点1に係る本願発明1の「溶液を……凍結して凍結物を得る段階」及び相違点3に係る本願発明1の「脱気された凍結物は、前記段間(a)の溶液に含有されている溶媒100重量を基準に95重量部?100重量部の溶媒を含み、」は、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0003】に記載されるとおり、現在使用されている凍結乾燥剤型の注射剤が、患者に投薬する前に生理食塩水や注射用水などで再構成して使用するという再構成過程の煩わしさ、微生物汚染の危険や再構成後の一定時間内に使用しなければならないという制限があるところ、注射用溶液を凍結物とすることで、解凍により即時使用可能な注射用溶液を提供するためのものであると認められるが、即時使用可能な組成物を提供することは引用例1には記載されていない。
また、引用例1?6のいずれの記載を検討しても、注射用溶液を凍結物とすることで、解凍により即時使用可能な注射用溶液を提供することが、当業界における周知慣用技術であるとは認められない。
したがって、相違点1及び相違点3は当業者が容易に想到し得たものとは認められない。

上記相違点4について検討すると、相違点4に係る本願発明1の「段階(a)?(b)は、密閉されたチャンバー内で行われる、」は、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0004】に記載されるとおり、引用例1に開示された製造工程が、実験室内の小規模生産は可能であるが、大規模生産時、注射用水や水溶液を真空脱気した後、ガラスバイアルに分注する場合、脱気状態を維持するのに相当な困難さがある短所があるのに対して、大規模商業生産を可能にするためのものであると認められるところ、大規模商業生産に用いることは引用例1には記載されていない。
また、引用例1には「密閉系」の例として「グローブバッグ」が挙げられ(段落[24])、その実施例1においても「グローブバッグ」が用いられている(段落[29]?[30])一方、「密閉されたチャンバー」についての記載はなく、「グローブバッグ」についての開示から当業者が「密閉されたチャンバー」を容易に想到するとは認められない。
さらに、引用例1?6のいずれの記載を検討しても、「密閉系」の例として「グローブバッグ」が挙げられるにもかかわらず、その「密閉系」として「密閉されたチャンバー」を採用することが、当業界における周知慣用技術であるとは認められない。
したがって、相違点4は当業者が容易に想到し得たものとは認められない。

よって、相違点1、相違点3及び相違点4は当業者が容易に想到し得たものとは認められないので、上記相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明1、並びに引用例1?6に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。

2 本願発明2?10について
本願発明2?10はいずれも、本願発明1の発明特定事項を、その発明特定事項とするものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明1、並びに引用例1?6に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。


第6 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1?10は前記「第3 本願発明」に示したとおりのものとなっているところ、「第5 対比・判断」に示したとおり、引用発明1、並びに引用例1?6に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-03-04 
出願番号 特願2016-544149(P2016-544149)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 原口 美和  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 穴吹 智子
前田 佳与子
発明の名称 抗酸化剤を含有しない薬学組成物およびその製造方法  
代理人 岩谷 龍  

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