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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1349379
審判番号 不服2018-649  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-17 
確定日 2019-03-22 
事件の表示 特願2013-195580「レーザーダイシング装置及びレーザーダイシング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月30日出願公開,特開2015- 61033,請求項の数(3)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年9月20日に特許出願したものであって,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成29年 2月22日:拒絶理由通知(起案日)
平成29年 4月24日:意見書
平成29年 9月15日:拒絶査定(起案日)(以下「原査定」という。)
平成30年 1月17日:審判請求
平成30年10月18日:拒絶理由通知(起案日)
平成30年12月18日:意見書
平成30年12月18日:手続補正書
平成31年 1月 8日:拒絶理由通知(起案日)
平成31年 1月22日:意見書
平成31年 1月22日:手続補正書(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
1 本願請求項1,2,6に係る発明は,本願出願日前に頒布された以下の引用文献A,Bに基づいて,本願出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開2012-176442号公報
B.特開2006-339382号公報

第3 当審拒絶理由の概要
1 平成30年10月18日付け当審拒絶理由
平成30年10月18日付け拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由(最初)」という。)の概要は次のとおりである。
(1)本願請求項1,2,6に係る発明は,本願出願日前に頒布された以下の引用文献1又は引用文献2又は引用文献3に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
(2)本願請求項1-7に係る発明は,本願出願日前に頒布された以下の引用文献1に基づいて,本願出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(3)本願請求項1,2,6に係る発明は,本願出願日前に頒布された以下の引用文献2又は引用文献3に基づいて,本願出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2012-176442号公報(拒絶査定時の引用文献A)
2.特開2006-339382号公報(拒絶査定時の引用文献B)
3.特開2004-235626号公報

2 平成31年1月8日付け当審拒絶理由
平成31年1月8日付け拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由(最後)」という。)の概要は次のとおりである。
(1)この出願は,請求項2に係る特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 本願発明
本願請求項1-3に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は,平成31年1月22日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1-3は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
ウエーハ内部に集光点を合わせてレーザー光を加工ラインに沿って照射し,当該加工ラインに沿って前記ウエーハ内部に切断の起点となる改質領域を形成するレーザー光照射手段を備えたレーザーダイシング装置において,
前記ウエーハの上面側を冷却する冷却手段と,
前記ウエーハの下面側を加熱する加熱手段と,
を備えており,
前記レーザー光照射手段は,前記冷却手段により前記上面側が冷却され,かつ,前記加熱手段により前記下面側が加熱されて,前記上面側と前記下面側とで温度が異なる温度勾配が設定された状態の前記ウエーハに対して,前記レーザー光を照射して,前記改質領域を形成するレーザーダイシング装置。
【請求項2】
前記ウエーハの下面側を加熱する加熱手段は,前記ウエーハを保持するホットチャックテーブルであり,
前記ウエーハの上面側を冷却する冷却手段は,少なくとも前記ウエーハが内部に配置された冷却チャンバである請求項1に記載のレーザーダイシング装置。
【請求項3】
ウエーハ内部に集光点を合わせてレーザー光を加工ラインに沿って照射し,当該加工ラインに沿って前記ウエーハ内部に切断の起点となる改質領域を形成するレーザーダイシング方法において,
前記ウエーハの上面側を冷却する冷却ステップと,
前記ウエーハの下面側を加熱する加熱ステップと,
前記冷却ステップにより前記下面側が冷却され,かつ,前記加熱ステップにより前記上面側が加熱されて,前記上面側と前記下面側とで温度が異なる温度勾配が設定された状態の前記ウエーハに対して,前記レーザー光を照射して,前記改質領域を形成するレーザー光照射ステップと,
を備えるレーザーダイシング方法。」

第5 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載
当審拒絶理由(最初)に引用された引用文献1(特開2012-176442号公報,平成24年9月13日出願公開)には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下,同じ。)。
「【請求項2】
パルスレーザー光を発する光源と,
被加工物が載置されるステージと,
を備えるレーザー加工装置であって,
前記ステージに載置された前記被加工物の載置面を冷却するための冷却機構をさらに備え,
前記ステージに前記被加工物を載置し,かつ,前記冷却機構によって前記載置面を冷却した状態で,前記パルスレーザー光の個々の単位パルス光が前記載置面と対向する被加工面に離散的に照射されるように前記ステージと前記光源とを連続的に相対移動させつつ前記パルスレーザー光を前記被加工物に照射し,前記個々の単位パルス光が被照射位置に照射される際の衝撃もしくは応力によって直前にもしくは同時に照射された前記単位パルス光の被照射位置との間に劈開もしくは裂開を生じさせることにより,前記被加工物に前記分割のための起点を形成する,
ことを特徴とするレーザー加工装置。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
レーザー光により分割起点を形成し,その後,ブレーカーにより分割を行うという手法は,従来より行われている機械的切断法であるダイヤモンドスクライビングと比較して,自動性・高速性・安定性・高精度性において有利である。
【0011】
しかしながら,レーザー光による分割起点の形成を従来の手法にて行った場合,レーザー光が照射された部分に,いわゆる加工痕(レーザー加工痕)が形成されることが不可避であった。加工痕とは,レーザー光が照射された結果,照射前とは材質や構造が変化した変質領域である。加工痕の形成は,通常,分割されたそれぞれの被加工物(分割素片)の特性等に悪影響を与えるために,なるべく抑制されることが好ましい。
【0012】
例えば,サファイアなどの硬脆性かつ光学的に透明な材料からなる基板の上にLED構造などの発光素子構造を形成した被加工物を,特許文献2に開示されているような従来のレーザー加工によってチップ単位に分割することで得られた発光素子のエッジ部分(分割の際にレーザー光の照射を受けた部分)においては,幅が数μm程度で深さが数μm?数十μm程度の加工痕が連続的に形成されてなる。係る加工痕が,発光素子内部で生じた光を吸収してしまい,素子からの光の取り出し効率を低下させてしまうという問題がある。特に,屈折率の高いサファイア基板を用いた発光素子構造の場合に係る問題が顕著である。」
「【0016】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり,加工痕の形成が抑制されるとともに,被加工物の分割がより確実に実現される分割起点の形成が可能となる,被分割体の加工方法,およびこれに用いるレーザー加工装置を提供することを目的とする。」
「【発明の効果】
【0043】
請求項1ないし請求項26の発明によれば,被加工物の変質による加工痕の形成や被加工物の飛散などを局所的なものに留める一方,被加工物の劈開もしくは裂開を積極的に生じさせることにより,従来よりも極めて高速に,被加工物に対して分割起点を形成することができる。しかも,被加工物の載置面を冷却することでパルスレーザー光のエネルギーをより効率的に分割起点の形成に寄与させることができるので,分割起点の先端部をより深くまで到達させることができる。」
「【発明を実施するための形態】
【0046】
<加工の原理>
まず,以下に示す本発明の実施の形態において実現される加工の原理を説明する。本発明において行われる加工は,概略的に言えば,パルスレーザー光(以下,単にレーザー光とも称する)を走査しつつ被加工物の上面(被加工面)に照射することによって,個々のパルスごとの被照射領域の間で被加工物の劈開もしくは裂開を順次に生じさせていき,それぞれにおいて形成された劈開面もしくは裂開面の連続面として分割のための起点(分割起点)を形成するものである。
【0047】
なお,本実施の形態において,裂開とは,劈開面以外の結晶面に沿って被加工物が略規則的に割れる現象を指し示すものとし,当該結晶面を裂開面と称する。なお,結晶面に完全に沿った微視的な現象である劈開や裂開以外に,巨視的な割れであるクラックがほぼ一定の結晶方位に沿って発生する場合もある。物質によっては主に劈開,裂開もしくはクラックのいずれか1つのみが起こるものもあるが,以降においては,説明の煩雑を避けるため,劈開,裂開,およびクラックを区別せずに劈開/裂開などと総称する。さらに,上述のような態様の加工を,単に劈開/裂開加工などとも称することがある。
【0048】
以下においては,被加工物が六方晶の単結晶物質であり,そのa1軸,a2軸,およびa3軸の各軸方向が,劈開/裂開容易方向である場合を例に説明する。例えば,c面サファイア基板などがこれに該当する。六方晶のa1軸,a2軸,a3軸は,c面内において互いに120°ずつの角度をなして互いに対称の位置にある。本発明の加工には,これらの軸の方向と加工予定線の方向(加工予定方向)との関係によって,いくつかのパターンがある。以下,これらについて説明する。なお,以下においては,個々のパルスごとに照射されるレーザー光を単位パルス光と称する。
【0049】
<第1加工パターン>
第1加工パターンは,a1軸方向,a2軸方向,a3軸方向のいずれかと加工予定線とが平行な場合の劈開/裂開加工の態様である。より一般的にいえば,劈開/裂開容易方向と加工予定線の方向とが一致する場合の加工態様である。
【0050】
図1は,第1加工パターンによる加工態様を模式的に示す図である。図1においては,a1軸方向と加工予定線Lとが平行な場合を例示している。図1(a)は,係る場合のa1軸方向,a2軸方向,a3軸方向と加工予定線Lとの方位関係を示す図である。図1(b)は,レーザー光の1パルス目の単位パルス光が加工予定線Lの端部の被照射領域RE1に照射された状態を示している。
【0051】
一般に,単位パルス光の照射は,被加工物の極微小領域に対して高いエネルギーを与えることから,係る照射は,被照射面において単位パルス光の(レーザー光の)の被照射領域相当もしくは被照射領域よりも広い範囲において物質の変質・溶融・蒸発除去などを生じさせる。
【0052】
ところが,単位パルス光の照射時間つまりはパルス幅を極めて短く設定すると,レーザー光のスポットサイズより狭い,被照射領域RE1の略中央領域に存在する物質が,照射されたレーザー光から運動エネルギーを得ることで被照射面に垂直な方向に飛散したり変質したりする一方,係る飛散に伴って生じる反力を初めとする単位パルス光の照射によって生じる衝撃や応力が,該被照射領域の周囲,特に,劈開/裂開容易方向であるa1軸方向,a2軸方向,a3軸方向に作用する。これにより,当該方向に沿って,見かけ上は接触状態を保ちつつも微小な劈開もしくは裂開が部分的に生じたり,あるいは,劈開や裂開にまでは至らずとも熱的な歪みが内在される状態が生じる。換言すれば,超短パルスの単位パルス光の照射が,劈開/裂開容易方向に向かう上面視略直線状の弱強度部分を形成するための駆動力として作用しているともいえる。
【0053】
図1(b)においては,上記各劈開/裂開容易方向において形成される弱強度部分のうち,加工予定線Lの延在方向と合致する+a1方向における弱強度部分W1を破線矢印にて模式的に示している。
【0054】
続いて,図1(c)に示すように,レーザー光の2パルス目の単位パルス光が照射されて,加工予定線L上において被照射領域RE1から所定距離だけ離れた位置に被照射領域RE2が形成されると,1パルス目と同様に,この2パルス目においても,劈開/裂開容易方向に沿った弱強度部分が形成されることになる。例えば,-a1方向には弱強度部分W2aが形成され,+a1方向には弱強度部分W2bが形成されることになる。
【0055】
ただし,この時点においては,1パルス目の単位パルス光の照射によって形成された弱強度部分W1が弱強度部分W2aの延在方向に存在する。すなわち,弱強度部分W2aの延在方向は他の箇所よりも小さなエネルギーで劈開または裂開が生じ得る箇所となっている。そのため,実際には,2パルス目の単位パルス光の照射がなされると,その際に生じる衝撃や応力が劈開/裂開容易方向およびその先に存在する弱強度部分に伝播し,弱強度部分W2aから弱強度部分W1にかけて,完全な劈開もしくは裂開が,ほぼ照射の瞬間に生じる。これにより,図1(d)に示す劈開/裂開面C1が形成される。なお,劈開/裂開面C1は,被加工物の図面視垂直な方向において数μm?数十μm程度の深さにまで形成され得る。しかも,後述するように,劈開/裂開面C1においては,強い衝撃や応力を受けた結果として結晶面の滑りが生じ,深さ方向に起伏が生じる。
【0056】
そして,図1(e)に示すように,その後,加工予定線Lに沿ってレーザー光を走査することにより被照射領域RE1,RE2,RE3,RE4・・・・に順次に単位パルス光を照射していくと,これに応じて,劈開/裂開面C2,C3・・・が順次に形成されていくことになる。係る態様にて劈開/裂開面を連続的に形成するのが,第1加工パターンにおける劈開/裂開加工である。
【0057】
すなわち,第1加工パターンにおいては,加工予定線Lに沿って離散的に存在する複数の被照射領域と,それら複数の被照射領域の間に形成された劈開/裂開面とが,全体として,被加工物を加工予定線Lに沿って分割する際の分割起点となる。係る分割起点の形成後は,所定の治具や装置を用いた分割を行うことで,加工予定線Lに概ね沿う態様にて被加工物を分割することができる。」
「【0064】
また,図3は,第1加工パターンに係る加工によって分割起点を形成したサファイアc面基板を,該分割起点に沿って分割した後の,表面(c面)から断面にかけてのSEM(走査電子顕微鏡)像である。なお,図3においては,表面と断面との境界部分を破線にて示している。
【0065】
図3において観察される,当該表面から10μm前後の範囲に略等間隔に存在する,被加工物の表面から内部に長手方向を有する細長い三角形状あるいは針状の領域が,単位パルス光の照射によって直接に変質や飛散除去等の現象が生じた領域(以下,直接変質領域と称する)である。そして,それら直接変質領域の間に存在する,図面視左右方向に長手方向を有する筋状部分がサブミクロンピッチで図面視上下方向に多数連なっているように観察される領域が,劈開/裂開面である。これら直接変質領域および劈開/裂開面よりも下方が,分割によって形成された分割面である。」
「【0100】
<レーザー加工装置の概要>
次に,上述した種々の加工パターンによる加工を実現可能なレーザー加工装置について説明する。
【0101】
図9は,本実施の形態に係るレーザー加工装置50の構成を概略的に示す模式図である。レーザー加工装置50は,レーザー光照射部50Aと,観察部50Bと,例えば石英などの透明な部材からなり,被加工物10をその上に載置するステージ7と,レーザー加工装置50の種々の動作(観察動作,アライメント動作,加工動作など)を制御するコントローラ1とを主として備える。レーザー光照射部50Aは,レーザー光源SLと光学系5とを備え,ステージ7に載置された被加工物10にレーザー光を照射する部位であり,上述した,レーザー光の出射源に相当する。観察部50Bは,該被加工物10をレーザー光が照射される側(これを表面または被加工面と称する)から直接に観測する表面観察と,ステージ7に載置された側(これを裏面または載置面と称する)から該ステージ7を介して観察する裏面観察とを行う部位である。」
「【0106】
また,図9においては図示を省略しているが,レーザー光照射部50Aには,ステージ7の下方位置に冷却機構60(図12参照)が設けられてなる。本実施の形態に係るレーザー加工装置50は,係る冷却機構60を備える点で特徴的である。冷却機構60についての詳細は後述する。」
「【0137】
なお,レーザー加工装置50においては,加工処理の際,必要に応じて,合焦位置を被加工物10の表面から意図的にずらしたデフォーカス状態で,レーザー光LBを照射することも可能となっている。これは例えば,ステージ7と光学系5との相対距離を調整することによって実現される。」
「【0148】
<被加工物の冷却と劈開/裂開加工の高効率化>
上述の劈開/裂開加工は,単位パルス光の照射によって生じる衝撃や応力を利用して,被加工物に劈開/裂開を生じさせる手法である。それゆえ,個々の単位パルス光の照射に際してより少ないエネルギー消費にて劈開/裂開面が形成されるほど,与えられるエネルギーが同じであっても被加工物のより深いところまで劈開/裂開が生じ,被加工物のより深い部分にまで分割起点の先端部分が到達することとなり,より効率的に劈開/裂開面が形成されることになる。
【0149】
以上の観点を踏まえ,本実施の形態においては,被加工面にあらかじめ引張応力を作用させた状態でパルスレーザー光を照射するようにすることで,より効率的な劈開/裂開加工が実現されるようにする。具体的には,被加工物の載置面を冷却することで載置面と被加工面との間に温度差を生じさせるようにする。係る温度差が生じると,被加工物においては,載置面側の方が被加工面側に比してより収縮した状態となるので,結果として,被加工面側に引張応力が作用することになる。この状態でパルスレーザー光を照射すると,係る引張応力が作用している分だけ劈開/裂開面の形成に際して消費されるエネルギーが低減されるので,結果として,劈開/裂開面が進展しやすくなる。
【0150】
また,一般に,固体の破壊靭性値は温度が下がると低くなる。そして,破壊靭性値が低いほど,劈開/裂開面は形成されやすい。それゆえ,上述した態様にて載置面を冷却することで,被加工物においては,載置面側ほど破壊靭性値が低い状態,すなわち,劈開/裂開面が進展しやすい状態となっている。被加工物の載置面を冷却することは,この点からも,劈開/裂開加工の高効率化に寄与している。
【0151】
すなわち,本実施の形態においては,被加工物の載置面を冷却することによって,被加工面に対する引張応力の印加と載置面側における破壊靭性値の低下という2つの事象を同時に生じさせた状態で,劈開/裂開加工を行うようするので,より効率的に劈開/裂開面を形成することができる。
【0152】
<冷却機構>
次に,レーザー加工装置50において,上述した被加工物の載置面側からの冷却を担う冷却機構60について説明する。図12は,冷却機構60の構成および配置位置を例示する図である。なお,図12においては,被加工物10がサファイア基板101とその上にIII族窒化物などによって形成されたLED構造102とからなる場合を例示している。」
「【0155】
レーザー光照射部50Aにおいてパルスレーザー光を照射して劈開/裂開加工を行う際に,係る冷却機構60にてステージ7の側から被加工物10の載置面10aを冷却することにより,上述した劈開/裂開加工の高効率化が実現される。なお,冷却機構60による冷却処理は加工処理部25によって加工処理と一体的に制御されるのが好ましい。」
「【0159】
<変形例>
載置面と被加工面との間に温度差を生じさせる態様は,上述の実施の形態に限られない。例えば,載置面を冷却することに代えて,被加工面側を加熱することによっても,同様の効果を得ることができる。」

(2) 引用発明1及び技術的事項
上記記載から,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明1」という。)及び技術的事項が記載されているものと認められる。

ア 引用発明1
「レーザー光照射部と,被加工物をその上に載置するステージとを備え,レーザー光照射部の光学系によって設定された光路に従って,パルスレーザー光を被加工物の加工予定線Lに沿って順次に照射して,被加工物を加工予定線Lに沿って分割する際の分割起点となる,加工予定線Lに沿って離散的に存在する複数の被照射領域と,それら複数の被照射領域の間に形成された劈開/裂開面とを形成するレーザー加工装置であって,前記レーザー光照射部には,ステージの下方位置に冷却機構が設けられており,レーザー光照射部においてパルスレーザー光を照射して劈開/裂開加工を行う際に,係る冷却機構にてステージの側から被加工物の載置面を冷却するレーザー加工装置。」

イ 技術的事項
(ア) 被加工面にあらかじめ引張応力を作用させた状態でパルスレーザー光を照射するようにすることで,より効率的な劈開/裂開加工が実現され,被加工物の載置面を冷却することで載置面と被加工面との間に温度差を生じさせるようにし,係る温度差が生じると,被加工物においては,載置面側の方が被加工面側に比してより収縮した状態となるので,結果として,被加工面側に引張応力が作用することになり,この状態でパルスレーザー光を照射すると,係る引張応力が作用している分だけ劈開/裂開面の形成に際して消費されるエネルギーが低減されるので,結果として,劈開/裂開面が進展しやすくなること(【0149】)。
(イ) 被加工物が,サファイア基板とその上にIII族窒化物などによって形成されたLED構造であること(【0152】)。
(ウ) 単位パルス光の照射によって直接に変質や飛散除去等の現象が生じた領域(直接変質領域)が,被加工物の表面から内部に長手方向を有する細長い三角形状あるいは針状の領域として形成されること(【0065】)。
(エ) レーザー加工装置においては,加工処理の際,必要に応じて,合焦位置を被加工物の表面から意図的にずらしたデフォーカス状態で,レーザー光を照射することも可能となっていること(【0137】)。
(オ) 変形例として,載置面と被加工物との間に温度差を生じさせる態様は,載置面を冷却することに代えて,被加工面側を加熱することによっても,同様の効果を得ることができること(【0159】)。

2 引用文献2,3について
(1)引用文献2の記載及び引用発明2
当審拒絶理由(最初)に引用された引用文献2(特開2006-339382号公報,平成18年12月14日出願公開)には,図面とともに以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,半導体装置の製造技術に関し,特に,ステルスダイシング(Stealth Dicing)技術に適用して有効な技術に関するものである。」
「【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところが,配線層に低誘電率膜(Low-k膜)を有する半導体装置のステルスダイシング工程においては,以下の課題があることを本発明者は見出した。
【0014】
すなわち,ウエハを個々のチップに分割するときに,低誘電率膜の分割が上手くいかず,低誘電率膜の分割部分に形状不良が発生する問題がある。そこで,レーザ光でウエハに改質層を形成すると同時に低誘電率膜に分割起点を形成すると低誘電率膜を綺麗に分割することができるが,レーザ光による熱により低誘電率膜が変色してしまうという新たな問題が発生することを本発明者が初めて見出した。
【0015】
そこで,本発明の目的は,低誘電率膜を有する半導体装置のステルスダイシング工程において,低誘電率膜の分割部分に形状不良や変色等のような外観不良が生じるのを抑制または防止することのできる技術を提供することにある。」
「【発明の効果】
【0020】
本願において開示される発明のうち,代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0021】
すなわち,ウエハの個々のチップの分離領域に沿って前記ウエハの裏面から前記ウエハの内部に集光点を合わせてレーザを照射することにより,後のウエハ切断工程において前記ウエハおよび前記ウエハの主面上の配線層に形成された低誘電率膜の分割起点となる改質領域を形成する際にウエハを冷却することにより,低誘電率膜の分割部分に形状不良や変色等のような外観不良が発生するのを抑制または防止することができる。」
「【0023】
(実施の形態1)
本実施の形態1の半導体装置の製造方法を図1および図2のフロー図に沿って図3?図15により説明する。
【0024】
前工程100では,まず,例えば直径300mm程度の平面略円形状の半導体ウエハ(以下,ウエハという)を用意する。ウエハ1Wは,その厚さ方向に沿って互いに反対側となる主面と裏面とを有している。続いて,そのウエハ1Wの主面に複数の半導体チップ(以下,チップという)を形成する。この前工程100は,ウエハプロセス,拡散工程またはウエハファブリケーションとも呼ばれ,ウエハの主面にチップ(素子や回路)を形成し,プローブ等により電気的試験を行える状態にするまでの工程である。前工程には,成膜工程,不純物導入(拡散またはイオン注入)工程,フォトリソグラフィ工程,エッチング工程,メタライズ工程,洗浄工程および各工程間の検査工程等がある。
<<途中省略>>
【0041】
次に,図1のテスト工程101では,ウエハ1Wの各チップ1Cのパッド1LBおよび切断領域CRのテスト用のパッド1LBtにプローブを当てて各種の電気的特性検査を行う。このテスト工程は,G/W(Good chip/Wafer)チェック工程とも呼ばれ,主としてウエハ1Wに形成された各チップ1Cの良否を電気的に判定する試験工程である。
【0042】
続く図1の後工程102は,上記チップ1Cを封止体(パッケージ)に収納し完成するまでの工程であり,裏面加工工程102A,チップ分割工程102Bおよび組立工程102Cを有している。
<<途中省略>>
【0045】
次に,チップ分割工程102Bに移行する。ここでは,まず,極薄のウエハ1Wをその主面にテープ3aを貼り付けたままの状態でレーザダイシング装置のローダに搬送し,ローダを介して,図8に示すように,ウエハ1Wをレーザダイシング装置の吸着ステージ5に載置する(図2の工程102B1-1)。図8はレーザ照射工程中のウエハ1Wの要部断面図を示している。吸着ステージ5は,ウエハ1Wを真空吸着により仮固定することが可能な上,内蔵された冷却体5aによりウエハ1Wの温度を室温よりも低い温度に冷却することが可能になっている。冷却温度は,例えば-40℃?5℃程度である。冷却体5aとしては,例えばペルチェ素子が使用されている。ペルチェ素子を用いることによりドライ雰囲気中で冷却処理が可能となっている。また,結露などの心配も不要である。図8の矢印Aは放熱の様子を模式的に示している。また,吸着ステージ5は,図8の左右方向(ウエハ1Wの直径方向)に移動可能なようになっている。
【0046】
続いて,冷却体5aによりウエハ1Wの冷却を開始した後,ウエハ1Wの裏面から赤外線カメラ(以下,IRカメラという)を用いて,ウエハ1Wの主面のパターン(チップ1Cや切断領域CRのパターンの他,切断領域CRに配置されているテスト用のパッド1LBtやアライメントターゲットAm,チップ1C内に配置されているパッド1LB等)を認識する。その後,IRカメラで得られたパターン情報に基づいて切断線CLの位置合わせ(位置補正)を実施する(図2の工程102B-2)。
【0047】
続いて,ウエハ1Wを冷却した状態で,レーザ発生部から放射されたレーザ光(エネルギービーム)LBをウエハ1Wの裏面からウエハ1Wの内部に集光点を合わせた状態で照射するとともに,上記パターン情報に基づいて位置合わせされた切断線CLに沿って相対的に移動させる(図2の工程102B-3)。これにより,ウエハ1Wの内部に多光子吸収による改質領域(光学的損傷部)PLを形成する。
【0048】
この改質領域PLは,ウエハ1Wの内部が多光子吸収によって加熱され溶融されたことで形成されており,後のチップ分割工程時のウエハ1Wの切断起点領域となる。この溶融処理領域は,一旦溶融した後に再固化した領域や,まさに溶融状態の領域や,溶融状態から再固化する状態の領域であり,相変化した領域や結晶構造が変化した領域ということもできる。また,溶融処理領域とは単結晶構造,非晶質構造,多結晶構造において,ある構造が別の構造に変化した領域ということもできる。例えば基板1S部分では,単結晶構造から非晶質構造に変化した領域,単結晶構造から多結晶構造に変化した領域,単結晶構造から非晶質構造および多結晶構造を含む構造に変化した領域を意味する。基板1Sに形成されている改質領域PLは,例えば非晶質シリコンとされている。
<<途中省略>>
【0051】
ところで,改質領域PLが上記低誘電率膜Lk1に接するあるいは入り込むようにレーザ光LBを照射すると,低誘電率膜Lk1は熱伝導率が低いため,レーザ光LBの照射により低誘電率膜Lk1に熱がこもり低誘電率膜Lk1が変色する場合がある。そこで,本実施の形態1では,レーザ照射工程においてウエハ1Wをその主面側から上記冷却体5aにより冷却した状態でレーザ光LBを照射する。これにより,レーザ照射工程において低誘電率膜Lk1の温度上昇を抑制または防止できるので,低誘電率膜Lk1の変色を抑制または防止できる。すなわち,ステルスダイシング工程において,低誘電率膜Lk1の分割部分に変色のような外観不良が生じるのを抑制または防止することができる。」
「【0069】
(実施の形態2)
本実施の形態2では,主として上記基板1Sの分割起点となる改質領域と,主として上記低誘電率膜Lk1の分割起点となる改質領域とをそれぞれ別々に設けた場合を図17?図20により説明する。
<<途中省略>>
【0071】
本実施の形態2では,レーザ照射により,ウエハ1Wに2つの改質領域PL1,PL2(PL)が形成されている。改質領域PL1は,主として基板1Sの分割起点として作用する領域である。改質領域PL1は,断面で見ると基板1Sの厚さ方向の中央に形成されている。これにより,分割工程102B4時に基板1Sを綺麗に分割することができる。また,改質領域PL1は,平面で見ると切断線CLに沿って連続的に直線状に延在した状態で形成されている。基板1Sの厚さ方向の改質領域PL1の長さD4は,例えば20?40μm程度,幅は前記実施の形態1で説明したのと同じ程度である。
【0072】
一方,改質領域PL2は,主として低誘電率膜Lk1の分割起点として作用する領域であり,上記改質領域PL1とは離れた位置に形成されている。改質領域PL2は,断面で見ると,上記改質領域PL1よりも断面積が小さい上,低誘電率膜Lk1の一部に入り込むように形成されている。低誘電率膜Lk1に対する改質領域PL2の相対位置関係は前記実施の形態1の改質領域PLの構成で説明したのと同じである。また,改質領域PL2は,平面で見ると切断線CLに沿って間欠的に破線状に形成されている。すなわち,改質領域PL2は,断面で見ても平面で見ても上記改質領域PL1よりも平面積が小さくなるように形成されている。これにより,改質領域PL2形成のためのレーザ光LBの照射部分を小さくでき,レーザ光LBの照射による熱の発生を極力抑えることができるので,熱による低誘電率膜Lk1の変色を抑制または防止できる。基板1Sの厚さ方向の改質領域PL2の長さD5は,例えば10?20μm程度,幅は前記実施の形態1で説明したのと同じ程度である。なお,改質領域PL1,PL2は,2焦点にして1回のレーザ照射で形成しても良いし,それぞれ別々のレーザ照射(同一ラインに沿って2回走査)により形成しても良い。また,改質領域PL1,PL2の形成のためのレーザ照射は前記実施の形態1と同様にウエハ1Wを冷却しながら行う。」

上記記載からみて,引用文献2には,「半導体ウエハ1W内部に集光点を合わせてレーザ光LBを切断線CLに沿って照射し,切断線CLに沿って半導体ウエハ1W内部に切断起点領域となる改質領域PL,PL1を形成するレーザ発生部を備えたレーザーダイシング装置において,半導体ウエハ1Wを冷却する冷却体5aを内蔵した吸着ステージ5を備えており,レーザ発生部は,吸着ステージ5により冷却された状態の半導体ウエハ1Wに対して,レーザ光LBを照射して,改質領域PL,PL1を形成するレーザーダイシング装置」という発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

(2)引用文献3の記載及び引用発明3
当審拒絶理由(最初)に引用された引用文献3(特開2004-235626号公報,平成16年8月19日出願公開)には,図面とともに以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,半導体ウェーハ中に素子を形成した後,この半導体ウェーハを個片化し,半導体素子(半導体チップ)を形成するための半導体装置の製造装置及びその製造方法に関し,特に半導体ウェーハを個片化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,素子形成の終了した半導体ウェーハを個片化して半導体素子を形成する際には,機械的切削(ダイヤモンドブレードや砥石を用いた切削による切断,切削溝とブレーキングによる分割,スクライバによるキズや歪を起点にしたブレーキングによる分割(特許文献1参照),レーザー光線の照射による切断,及びレーザー光線の照射と歪との組み合わせによる分割(特許文献2参照)などが用いられている。
【0003】
図30(a),(b)は,このような従来の半導体装置の製造工程の一部を抽出して示しており,(a)図はダイヤモンドブレードによる半導体ウェーハへの切削溝の形成工程を示す斜視図,(b)図は裏面研削工程を示す断面図である。まず,(a)図に示すように,素子形成の終了した半導体ウェーハ11の素子形成面11A側に,ダイシングラインまたはチップ分割ラインに沿って,ダイヤモンドブレード12により分割用の溝13-1,13-2,13-3,…を形成する(ハーフカット)。その後,半導体ウェーハ11の素子形成面11Aに,保護テープ14を貼り付け,(b)図に示すように半導体ウェーハ11の裏面11Bを少なくとも上記溝13-1,13-2,13-3,…に達する深さΔ0まで研削して個々の半導体素子11-1,11-2,11-3,…に分割する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように従来の半導体装置の製造装置及びその製造方法は,半導体ウェーハを切断して個々の半導体素子を形成する際に,半導体素子の側面に切削条痕が入ったり,熱によるダメージが発生し,半導体素子の特性劣化,不良,及び抗折強度の低下などを招くという問題があった。
【0010】
この発明は上記のような事情に鑑みてなされたもので,その目的とするところは,半導体素子の側面に形成される切削条痕や熱によるダメージを低減し,半導体素子の特性劣化,不良及び抗折強度の低下などを抑制できる半導体装置の製造装置及びその製造方法を提供することにある。」
「【発明の効果】
【0014】
この発明によれば,半導体素子の側面に形成される切削条痕や熱によるダメージを低減し,半導体素子の特性劣化,不良及び抗折強度の低下などを抑制できる半導体装置の製造装置及びその製造方法が得られる。」
「【0034】
[第3の実施の形態]
図12乃至図16はそれぞれ,この発明の第3の実施の形態に係る半導体装置の製造装置及びその製造方法について説明するためのもので,製造装置の一部及び製造工程の一部を順次示す図である。
【0035】
まず,図12に示すように,素子形成が終了した半導体ウェーハ21の素子形成面21A側に,ダイシングテープ(保護部材,保護テープあるいは保持テープ)22を貼り付ける。
【0036】
次に,図13に示すように,半導体ウェーハ21における素子形成面21Aの裏面21B側に,レーザー照射装置29からレーザー光線を照射し,個々の半導体素子に分割するための起点となるSiの再結晶化層(ダメージ層)30-1,30-2,30-3,…を形成する。この再結晶化層30-1,30-2,30-3,…は,半導体素子の完成時の厚さよりも浅く形成する。また,上記再結晶化層30-1,30-2,30-3,…は,劈開の起点となるので半導体ウェーハ(例えばSi)の結晶方向に合わせて形成するのが好ましい。
【0037】
次に,図14に示すように,ブレーキングを行い,上記再結晶化層30-1,30-2,30-3,…を起点にして半導体ウェーハ21を劈開し,半導体素子21-1,21-2,21-3,…を形成する。
【0038】
その後,図15に示すように,個片化された半導体ウェーハ21の裏面21B側を所定の厚さまで研削して除去する。上記再結晶化層30-1,30-2,30-3,…の深さをΔ5,研削量をΔ2とすると,Δ5<Δ2の関係を満たすようにすることにより,再結晶化層30-1,30-2,30-3,…の形成により半導体素子21-1,21-2,21-3,…の側面に形成されるダメージ層を除去できる。例えば8インチの半導体ウェーハの場合,ウェーハの厚さは725μmであるので,半導体素子21-1,21-2,21-3,…の最終的な厚さΔ3=30?450μmとすると,Δ2=695?275μmであり,再結晶化層30-1,30-2,30-3,…の深さΔ5は695?275μmより浅い範囲で任意に選択できる。
【0039】
引き続き,図16に示すように,半導体ウェーハ21の裏面21Bに,ウェーハリング25に装着されたピックアップ用テープ26を貼り付けた後,素子形成面21A側の保護テープ22を剥離する。
【0040】
そして,ピッカーでピックアップした半導体素子21-1,21-2,21-3,…をリードフレームやTABテープに実装した後,樹脂製やセラミック製のパッケージに封止して半導体装置を完成する。
【0041】
上記のような構成の装置並びに製造方法によれば,裏面研削で除去される領域(廃棄部分)にSiの再結晶化層30-1,30-2,30-3,…を形成するので,裏面研削後にはダメージ層が残らず,Siの歪や分離面,エッジ部の微小クラックなどを防止できる。また,パッケージに封止される半導体素子の側面は,劈開面であるため,素子形成面や側面には凹凸やキズがなく,形状や品位も良好である。
【0042】
従って,半導体素子の特性劣化,不良及び抗折強度の低下などを抑制できる。
【0043】
[第4の実施の形態]
図17及び図18はそれぞれ,この発明の第4の実施の形態に係る半導体装置の製造装置及びその製造方法について説明するためのもので,製造装置の一部及び製造工程の一部を順次示す図である。
【0044】
本第4の実施の形態では,レーザー光線を照射する際に,半導体ウェーハ21の内部に焦点を合わせて出力を調整することにより,半導体ウェーハ21中にシリコンの再結晶化領域30A-1,30A-2,30A-3,…を形成している。
【0045】
このように,半導体ウェーハ中にシリコンの再結晶化領域を形成する場合にも,再結晶化層30A-1,30A-2,30A-3,…の深さをΔ6,研削量をΔ2としたときに,Δ6<Δ2の関係を満たすようにすることにより,ダメージ層を除去できる。
【0046】
従って,上述した第1乃至第3の実施の形態と同様な作用効果が得られる。
【0047】
[第5の実施の形態]
図19及び図20はそれぞれ,この発明の第5の実施の形態に係る半導体装置の製造装置及びその製造方法について説明するためのもので,製造装置の一部を示す図である。
【0048】
第3,第4の実施の形態では,レーザー光線を照射して半導体ウェーハ21にシリコンの再結晶化層30-1,30-2,30-3,…あるいは30A-1,30A-2,30A-3,…を形成した。しかし,レーザー加工は,熱により半導体素子へ悪影響を与える可能性がある。
【0049】
そこで,本第5の実施の形態では,図19に示すような冷凍チャックを用いて半導体ウェーハ21を保持し,冷却した状態でレーザー光線を照射するようにしている。
【0050】
図19に示す冷凍チャックは,冷却槽31,コントローラ32及びアイスプレート33などを含んで構成されている。そして,冷却槽31からアイスプレート33に冷却液が供給されて冷却されるようになっている。このアイスプレート33上に半導体ウェーハ21が保持されて冷却される。このアイスプレート33の温度は,上記コントローラ32によって-40?5℃程度の温度範囲に制御される。
【0051】
このような構成の製造装置並びに製造方法によれば,レーザー加工時に半導体素子へ与えられる熱の影響を大幅に軽減でき,半導体素子の動作不良,例えばDRAMのポーズ不良などを抑制できる。
【0052】
なお,冷凍チャックは,図19に示したような冷却槽31を用いる構成に限らず,図20に示すようなペルチェ素子による熱伝冷却を用いることもできる。このペルチェ素子は,P型素子34,N型素子35及び金属電極36を含んで構成されており,電源37から電圧を印加して異種の金属の接触面に電流を流すことにより吸熱と発熱を行う。
【0053】
ペルチェ素子を用いた冷凍チャックは,温度をコントロールしやすく,且つ短時間で設定温度に冷却できる。」

上記記載からみて,引用文献3には,「半導体ウェーハ21内部に焦点を合わせてレーザー光線をチップ分割ラインに沿って照射し,チップ分割ラインに沿って半導体ウェーハ21内部に劈開の起点となる再結晶化領域30Aを形成するレーザー照射装置29を備えた半導体装置の製造装置において,半導体ウェーハ21を冷却する冷凍チャックを備えており,レーザー照射装置29は,冷凍チャックにより冷却された状態の半導体ウェーハ21に対して,レーザー光線を照射して,再結晶化領域30Aを形成する半導体装置の製造装置」という発明(以下,「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)引用文献1を主引例とした進歩性の検討
ア 対比
本願発明1と,引用発明1とを対比すると,以下のとおりとなる。

(ア) 引用発明1の「サファイア基板」,「パルスレーザー光」,「加工予定線L」,「レーザー光照射部」はそれぞれ,本願発明1の「ウエーハ」,「レーザー光」,「加工ライン」,「レーザー光照射手段」に相当する。そして,本願明細書【0050】の「クラック領域,溶融領域,屈折率変化領域等の改質領域」との記載から,引用発明1の「被照射領域」及び「劈開/裂界面」はいずれも本願発明1の「改質領域」に相当する。

(イ) 引用発明1の「ステージの下方位置に」「設けられ」た「冷却機構」は,本願発明1の「前記ウエーハの上面側を冷却する冷却手段」との間で,「前記ウエーハ」「を冷却する冷却手段」という点で共通する。

(ウ) 引用発明1の「レーザー光照射部においてパルスレーザー光を照射して劈開/裂開加工を行う際に,係る冷却機構にてステージの側から被加工物の載置面を冷却する」ことは,本願発明1の「前記レーザー光照射手段は,前記冷却手段により前記上面側が冷却され,かつ,前記加熱手段により前記下面側が加熱されて,前記上面側と前記下面側とで温度が異なる温度勾配が設定された状態の前記ウエーハに対して,前記レーザー光を照射」することとの間で,「前記レーザー光照射手段は,前記冷却手段により」「冷却され」「た状態の前記ウエーハに対して,前記レーザー光を照射」する点で共通する。

(エ) 引用発明1の「レーザー加工装置」は「レーザー光照射部」を備え,「被加工物」を,「分割起点」に沿って分割するものであるから,本願発明1の「レーザーダイシング装置」に相当する。

したがって,本願発明1と,引用発明1とは,以下の点で一致し,相違する。

<一致点>
「レーザー光を加工ラインに沿って照射し,当該加工ラインに沿ってウエーハ内部に切断の起点となる改質領域を形成するレーザー光照射手段を備えたレーザーダイシング装置において,
前記ウエーハを冷却する冷却手段を備えており,
前記レーザー光照射手段は,前記冷却手段により冷却された状態の前記ウエーハに対して,前記レーザー光を照射して,前記改質領域を形成するレーザーダイシング装置。」

<相違点>
・相違点1:本願発明1は,「ウエーハ内部に集光点を合わせて」レーザー光を照射しているのに対して,引用発明1では,レーザー光の焦点の位置が明らかではない点。
・相違点2:本願発明1は,「前記ウエーハの上面側を冷却する冷却手段」を備えているのに対して,引用発明1では,「前記ウエーハの」下面側を「冷却」しており,上面側を冷却していない点。
・相違点3:本願発明1は,「前記ウエーハの下面側を加熱する加熱手段」を備え,「前記レーザー光照射手段は,前記冷却手段により前記上面側が冷却され,かつ,前記加熱手段により前記下面側が加熱されて,前記上面側と前記下面側とで温度が異なる温度勾配が設定された状態の前記ウエーハに対して,前記レーザー光を照射して,前記改質領域を形成」しているのに対して,引用発明1においては,「加熱手段」を備えていない点。

イ 相違点についての判断
上記相違点について,判断する。
・相違点2,3について
事案に鑑み,上記相違点2,3について,まず検討をする。
(ア) 上記第5.1(3)イ(オ)のとおり,引用発明1において,変形例として,載置面を冷却することに代えて,被加工面側を加熱すること,すなわち,下面側を冷却する態様に代えて,上面側を加熱することでも同様の効果が得られることが示されている。

(イ) そして,引用文献1には,上記第5.1(3)イ(ア)のとおり,載置面と被加工面との間に温度差を生じさせるようにし,係る温度差が生じると,被加工物においては,載置面側の方が被加工面側に比してより収縮した状態となるので,結果として,被加工面側に引張応力が作用することになり,この状態でパルスレーザー光を照射すると,係る引張応力が作用している分だけ劈開/裂開面の形成に際して消費されるエネルギーが低減されるので,結果として,劈開/裂開面が進展しやすくなることが記載されており,載置面と被加工面,すなわち,基板の上面側と下面側とで温度差が生じることで消費されるエネルギーが低減されるという作用機序が示されている。

(ウ) そうすると,引用文献1には,下面側を冷却する態様と,上面側を加熱する態様のみが示されているが,「載置面と被加工面との間に温度差を生じさせる」ためには,下面側を冷却するだけの態様,上面側だけを加熱するだけの態様以外にも,下面側を冷却しつつ上面側を加熱する態様」等の他の態様も当然に想起されるものである。

(エ) しかしながら,引用文献1においては,「本実施の形態においては,被加工面にあらかじめ引張応力を作用させた状態でパルスレーザー光を照射するようにすることで,より効率的な劈開/裂開加工が実現されるようにする。具体的には,被加工物の載置面を冷却することで載置面と被加工面との間に温度差を生じさせるようにする。係る温度差が生じると,被加工物においては,載置面側の方が被加工面側に比してより収縮した状態となるので,結果として,被加工面側に引張応力が作用することになる。この状態でパルスレーザー光を照射すると,係る引張応力が作用している分だけ劈開/裂開面の形成に際して消費されるエネルギーが低減されるので,結果として,劈開/裂開面が進展しやすくなる」(引用文献1の段落【0149】)として,上面を加熱,下面を冷却する態様のみが記載されているものと認められ,上記記載からは直ちに,上面を冷却しつつ下面を加熱する態様である,「前記ウエーハの上面側を冷却する冷却手段と,前記ウエーハの下面側を加熱する加熱手段」を設け,さらに,「前記レーザー光照射手段は,前記冷却手段により前記上面側が冷却され,かつ,前記加熱手段により前記下面側が加熱されて,前記上面側と前記下面側とで温度が異なる温度勾配が設定された状態の前記ウエーハに対して,前記レーザー光を照射して,前記改質領域を形成」するという技術的事項は想起されない。
また,引用文献1ないし3にも上記技術的事項は記載されておらず,本願出願日前において周知技術であるともいえない。

(オ) してみれば,引用発明1において,本願発明1のように「前記ウエーハの上面側を冷却する冷却手段と,前記ウエーハの下面側を加熱する加熱手段」を設け,さらに,「前記レーザー光照射手段は,前記冷却手段により前記上面側が冷却され,かつ,前記加熱手段により前記下面側が加熱されて,前記上面側と前記下面側とで温度が異なる温度勾配が設定された状態の前記ウエーハに対して,前記レーザー光を照射して,前記改質領域を形成」することは,当業者が容易になし得たこととはいえない。

(カ) そして,本願発明1は,上記相違点2,3に係る構成を備えることによって,本願の発明の詳細な説明に記載された,「ウエーハ内部に集光点を合わせてパルスレーザー光を加工ラインに沿って照射し,当該加工ラインに沿って前記ウエーハ内部に切断の起点となる改質領域を形成するレーザー光照射手段を備えたレーザーダイシング装置において,処理速度がより速く,ウエーハに対する熱の影響がより小さく,より安価なレーザーダイシング装置を提供することができる。」,「特に,ウエーハW内部の下面寄りに集光点を合わせてパルスレーザー光を加工ラインに沿って照射し,当該加工ラインに沿ってウエーハ内部に切断の起点となる改質領域Pを形成する場合に有効となる。」という利点(本願明細書段落【0113】,【0117】)を有するという顕著な効果を奏するものと認められる。
したがって,本願発明1は,相違点1についての判断をするまでもなく,引用発明1,引用文献1ないし3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)引用文献2,3のぞれぞれを主引例とした進歩性の検討
引用文献1ないし3のいずれにも,本願発明1のように「前記ウエーハの上面側を冷却する冷却手段と,前記ウエーハの下面側を加熱する加熱手段」を設け,さらに,「前記レーザー光照射手段は,前記冷却手段により前記上面側が冷却され,かつ,前記加熱手段により前記下面側が加熱されて,前記上面側と前記下面側とで温度が異なる温度勾配が設定された状態の前記ウエーハに対して,前記レーザー光を照射して,前記改質領域を形成」するという技術的事項は記載されておらず,本願出願日前において周知技術であるともいえないから,引用文献2,3のそれぞれを主引例とした場合においても,本願発明1は,引用発明2または引用発明3と,引用文献1ないし3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2について
本願の請求項2は,請求項1を引用する発明であって,本願発明1の発明特定事項を全て含むから,本願発明2もまた,本願発明1と同じ理由により,引用文献1ないし3のいずれを主引例としても、引用発明1ないし3のいずれかと,引用文献1ないし3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

3 本願発明3について
本願の請求項3は,請求項1の「レーザーダイシング装置」に対応する「レーザーダイシング方法」の発明であって,本願発明1の「前記ウエーハの上面側を冷却する冷却手段と,前記ウエーハの下面側を加熱する加熱手段」を設け,さらに,「前記レーザー光照射手段は,前記冷却手段により前記上面側が冷却され,かつ,前記加熱手段により前記下面側が加熱されて,前記上面側と前記下面側とで温度が異なる温度勾配が設定された状態の前記ウエーハに対して,前記レーザー光を照射して,前記改質領域を形成」するという技術的事項に対応する,「前記ウエーハの上面側を冷却する冷却ステップと,前記ウエーハの下面側を加熱する加熱ステップと,前記冷却ステップにより前記下面側が冷却され,かつ,前記加熱ステップにより前記上面側が加熱されて,前記上面側と前記下面側とで温度が異なる温度勾配が設定された状態の前記ウエーハに対して,前記レーザー光を照射して,前記改質領域を形成するレーザー光照射ステップ」を備えるものであるから,本願発明3もまた,本願発明1と同じ理由により,引用文献1ないし3のいずれを主引例としても、引用発明1ないし3のいずれかと,引用文献1ないし3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

第7 特許法第36条第6項第2号(発明の明確性要件)について
当審では,当審拒絶理由(最後)において,請求項2が請求項2自身を引用しており,その引用関係が不明確である旨の拒絶の理由を通知しているが,平成31年1月22日付けの補正において,「請求項1に記載のレーザーダイシング装置」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

第8 原査定についての判断
原査定は,請求項1,2,6について,上記引用文献1,2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら,本件補正後の請求項1,3はそれぞれ,拒絶査定の対象となっていない本件補正前の請求項3,7をさらに減縮するものとなり,本件補正後の請求項2は拒絶査定の対象となっていない本件補正前の請求項5へと補正されたので,本願発明1ないし3は,上記引用文献1,2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであったとは認められない。
したがって,原査定を維持することはできない。

第9 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-03-11 
出願番号 特願2013-195580(P2013-195580)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 内田 正和  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 梶尾 誠哉
鈴木 和樹
発明の名称 レーザーダイシング装置及びレーザーダイシング方法  
代理人 松浦 憲三  

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