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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A47J
管理番号 1349410
審判番号 不服2018-7152  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-25 
確定日 2019-03-19 
事件の表示 特願2013-234079「ガラス質コーティングを含む鋳鉄でできた物品およびこのような物品の製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月29日出願公開、特開2014- 97388、請求項の数(20)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年11月12日(パリ条約による優先権主張2012年11月13日、仏国(FR))の出願であって、平成28年11月22日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年2月23日付けで手続補正がされ、平成29年6月22日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年9月26日付けで手続補正がされ、平成30年1月30日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成30年5月25日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年1月30日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1ないし20に係る発明は、以下の引用文献1ないし4に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特表2010-525095号公報
2.特開平6-145946号公報
3.国際公開第2012/077738号
4.特開2003-164379号公報

第3 本願発明
本願の請求項1ないし20に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明20」という。)は、平成29年9月26日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1及び本願発明15は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
2つの対面を有する鋳鉄支持体を含む物品であって、
少なくとも1種の金属ポリアルコキシレート、および、少なくとも1種の反応性シリコーン油から形成されたマトリックスを含むゾル-ゲル材料の少なくとも1つの連続層の形態のガラス質コーティングを含み、
前記ゾル-ゲル材料の層は、前記支持体の面のうち、少なくとも1つの上に直接被着されていること、ならびに
前記ガラス質コーティングが施されている面は、表面粗さRaが3?15μmの範囲であり、
1センチメートル当たりピークカウントRPcが50?200であり、
前記シリコーン油は、塩素化油、アミノ油、ビニル化油、メタクリル化油、ヒドロキシル化油、および、無水物または水素化物を末端とする油からなる群から選択される反応性油を含み、
前記シリコーン油は20℃で10から1000 10^(-6)m^(2)s^(-1)の動粘度を有する、
ことを特徴とする物品。」

「【請求項15】
鋳鉄支持体上に直接コーティングされたガラス質コーティングを製造する方法であって、以下のステップ
a)2つの対面を有する支持体を提供および/または構築するステップと、
b)被覆の対象である支持体の1つまたは複数の面の表面を処理して、5?15μmの範囲の表面粗さRa、および、1センチメートル当たり50?200の範囲のピークカウントを得るステップと、
c)少なくとも1種の金属アルコキシド型のゾル-ゲル前駆体、および、少なくとも1種の反応性シリコーン油を含み、前記シリコーン油は20℃で10から1000 10^(-6)m^(2)s^(-1)の動粘度を有する、ゾル-ゲル組成物を調製するステップと、
d)水および酸触媒または塩基触媒を導入することによって、前記ゾル-ゲル前駆体を加水分解し、続いて部分縮合反応させて、ゾル-ゲル組成物SGを得るステップと、
e)ゾル-ゲル組成物SGの少なくとも1つの層を支持体の面のうち少なくとも1つの面上に直接塗布するステップと、
f)200℃?400℃の範囲の温度で硬化させるステップと、
を含み、
前記シリコーン油は、塩素化油、アミノ油、ビニル化油、メタクリル化油、ヒドロキシル化油、および、無水物または水素化物を末端とする油からなる群から選択される反応性油を含む、
ことを特徴とする方法。」

なお、本願発明2ないし14、16ないし20の概要は以下のとおりである。
本願発明2ないし14は、本願発明1を減縮した発明である。
本願発明16ないし20は、本願発明15を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【要約】
本発明は、一般に、改善された疎水性および耐高温性を示す調理器具用の付着防止コーティングに関する。本発明はまた、前記コーティングで被覆された支持体を備える調理用品、および本発明によるかかるコーティングを支持体に塗布する方法に関する。」

「【0001】
本発明は、概括的には、改善された疎水性および耐高温性を示す調理器具用付着防止コーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
この分野では、エナメルをベースとするコーティングが既知であるが、こうしたコーティングでは、適当な付着防止性が保証されず、また、高いガラス化温度(540℃超)が必要となる。ゾルゲル・コーティング、特にシランの重合によって得られるコーティングもまた、知られている。しかし、こうしたコーティングは、それほど厚くは堆積せず、一般に、10ミクロン程度の厚さで陶器化(faience)する。また、こうしたコーティングの凝集性(cohesion)は、十分な高温が長時間にわたって、例えば、400℃を超える温度が少なくとも30分間加えられる場合にしか実現されない。一方、この種のコーティングでは、PTFEベースのコーティングの使用温度範囲よりも高い温度範囲が可能となり、すなわち、PTFEベースのコーティングでは最高300℃であるのに対して、600℃まで可能となる。しかし、こうした高温では、付着防止性が損なわれることになる。
【0003】
かかるコーティングの欠点は、コーティングの表面を劣化させるほどの侵食、特に、食器洗い機用洗剤によって生じるものなどの化学侵食、または研磨バッファによるコーティングの過剰な摩擦によって生じるものなどの機械的な種類の侵食後、さらには極端な温度に数分程度曝された後でさえも、コーティングがその疎水性を失うという点である。
【0004】
こうした課題を解決するために、本出願人は、少なくとも1種の金属アルコキシドと、コロイド状金属酸化物とをベースとする組成物のゾルゲル重合によって得られる付着防止コーティングを開発してきた。本出願人は、驚くべきことに、かかる組成物にごく少量のシリコン・オイルを添加すると、この組成物のゾルゲルによって形成されるコーティングは、耐高温性であるだけでなく、また、ブンゼン・バーナの火炎(その温度は600℃を超える)と数分間接触させることが可能であり、その後、その疎水性を急速に回復することを見出した。
【0005】
シリコン・オイルを用いて、アルコキシシランおよびコロイド状シリカをベースとする組成物からゾルゲル・コーティングを作成することは、当業者には知られている。
・・・・・・・・・・
【0008】
しかるに、米国特許出願公開第2006/0147829号には、その結果得られるコーティングの付着防止性についても、その耐高温能力についても言及がなく、コーティング表面が侵食後に疎水性を示す性質(aptitude)についても記載されていない。また、米国特許出願公開第2006/0147829号には、ゾルゲル・コーティングは、少なくとも厚さ10μmを有する連続した膜の形であるとは示されていない。
【0009】
そこで本発明は、上記コーティングの付着防止性を有し、耐高温能力があり、コーティング表面が侵食後に疎水性を示し、ゾルゲル・コーティングは、少なくとも厚さ10μmを有する連続した膜となる、疎水性が改善された付着防止コーティングを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、改善された疎水性を有し、耐高温性である付着防止コーティングであって、少なくとも厚さ10μmを有する膜の形であり、
- 少なくとも1種の金属ポリアルコキシレートの基材と、
- 前記基材中に分散した、コーティングの総重量に対して少なくとも5重量%の少なくとも1種のコロイド状金属酸化物と、
- 少なくとも1種のシリコン・オイルとを含むゾルゲル材料によって構成されることを
特徴とする付着防止コーティングである。
本発明によるコーティングは、好ましくはPTFEを含まない。
【0011】
コーティング表面の疎水性の本質的な性質(aspect)は、金属ポリアルコキシレートおよびシリコン・オイルによって保証される。実際には、金属ポリアルコキシレートは、火炎と接触する間の高温では破壊される疎水基を有する。しかし、この疎水性の消失は瞬時的なものである。というのは、疎水性は、ポリアルコキシレート中に捕捉されたシリコン・オイルによって次第に補償され、ごく微量の表面拡散によって、ポリアルコキシレートの疎水基の再生(reconstitution)の進行が膜表面で促進されるからである。
【0012】
少なくとも0.1重量%のシリコン・オイルを含む本発明によるコーティングでは、疎水性の再生は、新たに調理する際には十分となることは明白である。実際には、本発明のコーティング上に堆積した水滴の静的接触角値は、火炎接触型の熱侵食後で20°程度となる。この静的接触角値は、少なくとも5分間にわたって周囲温度を200℃まで再加熱することからなる疎水性再生工程の後、すなわち、調理器具が新たに調理できる状態になったときには、少なくとも75°まで増大する。
【0013】
シリコン・オイルは、好ましくはコーティングの総重量(乾燥状態)の0.1?6重量%、より好ましくは0.3?5重量%を占める。シリコン・オイルが0.1重量%未満では、火炎接触(600℃)の間消失されていた疎水基の再生が低くなり、結果として得られる角度は62°未満となる。
【0014】
より好ましくは、本発明によるコーティングのゾルゲル材料は、乾燥コーティングの総重量に対して0.5?2重量%のシリコン・オイルを含む。この場合、かかるコーティング上に堆積した水滴の初期の静的接触角は、95°となる。火炎接触型の熱侵食後、このコーティングは、接触角20°を有する。少なくとも5分間にわたって周囲温度を200℃超まで再加熱する少なくとも1つのステップを含む再生工程の後、調理器具が新たに調理できる状態になったときには、静的接触角は75°よりも大きくなる。
【0015】
本発明によるコーティングは、シリコン・オイルまたはシリコン・オイルの混合物を含むことができる。
【0016】
本発明によるコーティングに使用できるシリコン・オイルの具体例には、フェニル・シリコン、メチルフェニル・シリコン、およびメチル・シリコンがある。
【0017】
本発明によるコーティングが食材と接触するものとして利用される場合、好ましくは食品用シリコン・オイル、特に、食品用メチルフェニル・シリコンおよびメチル・シリコンから選択されたオイルが選択されることになる。
【0018】
メチルフェニル・シリコン・オイルの具体例には、WACKER社によって商標名WACKER SILICONOL AP150で市販されている非食用オイル、およびDOW CORNING社によって商標名DOW CORNING550fluidで市販されている非食用オイル、ならびにWACKER社によって市販されている食用オイルAR00がある。メチル・シリコン・オイルの具体例には、RHODIA社によって商標名RHODIA47V350で市販されているオイル、WACKER社のオイル200fluid、さらにはTEGO社のオイルZV9207があり、これらのオイルは食品用メチル・シリコン・オイルである。
【0019】
上述のものから選択されたシリコン・オイルを使用することが好ましく、その分子量は少なくとも1000gであり、非反応性で、20?2000mPa.s.の粘度を有することが好ましい。
・・・・・・・・・・
【0038】
本発明による方法で使用できる金属支持体の有利な例には、陽極酸化された、もしくは陽極酸化されていないアルミニウム、または研磨、サンド加工、ブラシ加工、もしくはビード加工されたアルミニウム合金で作成された支持体、研磨、サンド加工、ブラシ加工、もしくはビード加工されたステンレス鋼製の支持体、鋳鉄支持体、鉄製支持体、またはハンマー加工、もしくは研磨された銅製の支持体がある。
【0039】
最後に、本発明はまた、本発明によるコーティングを支持体上に形成する方法に関する。
【0040】
より具体的には、本発明は、支持体の面の一方に、本発明による少なくとも1つの付着防止コーティングを塗布する方法であり、
a)水性組成物Aを調製するステップであって、
i)前記水性組成物Aの総重量に対して5?30重量%の少なくとも1種のコロイド状金属酸化物と、
ii)前記水性組成物Aの重量に対して0?20重量%の少なくとも1種のアルコールを含む溶媒と、
iii)前記水性組成物Aの総重量に対して0.05?3重量%の少なくとも1種のシリコン・オイルとを含む前記水性組成物Aを調製するステップと、
b)有利にはブレンステッド(Bronsted)またはルイス(Lewis)による酸と部分的に結合した少なくとも1種の金属アルコキシド型の前駆体を含む溶液Bを調製するステップと、
c)乾燥状態で、コロイド状金属酸化物量が、ゾルゲル組成物(A+B)の5?30重量%を占めるように、金属アルコキシド溶液Bを、水性組成物Aと混合して、ゾルゲル組成物(A+B)の重量に対して40?75重量%の水性組成物を有するゾルゲル組成物(A+B)を得るステップと、
d)少なくとも湿潤厚さ20μmを有する、ゾルゲル組成物(A+B)の少なくとも1つの層を支持体に塗布するステップと、次いで、
e)前記層を180?350℃の温度で加熱(cook)して、疎水性が改善されたコーティングを形成するステップとを含むことを特徴とする方法である。
・・・・・・・・・・
【0045】
本発明の水性組成物Aの溶媒として、好ましくは、アルコール性酸素溶媒またはエーテル・アルコールが使用される。
【0046】
本発明による付着防止コーティングを支持体上に形成するには、シリコン・オイルが組成物の総重量に対して0.05?3重量%の割合で水性組成物中に存在する必要がある。
【0047】
0.5?2重量%のシリコン・オイルを含む組成物は、調理使用工程の範囲内で再生可能な疎水性を有する、本発明によるコーティングを形成する。組成物Aのシリコン・オイルは、上述したような食品用シリコン・オイルである。
・・・・・・・・・・
【0067】
本発明による調理用品の例として、図1は、底部34および底部34から立ち上がった側壁35を備えた、凹状キャップの形の支持体3と、把持ハンドル6とを備えるフライパン1を示す。支持体3は、食材を収容することが可能な内面31と、調理プレートまたはガスコンロなどの熱源側に配置されるように意図された外面32とを備える。
【0068】
図2から図6は、調理用品の支持体3(またはより正確にはその底部34)のみを示す。
【0069】
図1から図3では、支持体3の内面31は、ベース・コーティングと呼ばれる、本発明による付着防止コーティング2によって被覆されている。
・・・・・・・・・・
【0085】
以下の実施例は本発明を示すが、本発明の範囲を限定するものではない。
【0086】
以下の実施例では、別段の指示がない限り、全ての量をグラムで示す。
【実施例】
【0087】
生成物
水性組成物A
コロイド状金属酸化物
・・・・・・・・・・
【0089】
シリコン・オイル
- DOW CORNING社によって商標名「DOW CORNING200Fluid」で市販され、粘度300cStを有する食品用メチル・シリコン・オイル、
- TEGO社によって商標名「TEGO ZV9207」で市販されている食品用メチル・シリコン・オイル。
・・・・・・・・・・
【実施例1】
【0095】
本発明による水性組成物A1の調製
・・・・・・・・・・
【実施例15】
【0116】
アルミニウム支持体上へのゾルゲル・コーティングの形成
以下のサイクルに従い、ブラスト加工またはサンド加工されたアルミニウム支持体に、ピストルによって塗布して、実施例1?14のゾルゲル組成物を形成する。
- ゾルゲル組成物(A+B)層を湿潤厚さ40?70ミクロンで支持体に塗布する、
- 80℃で3分間乾燥させる、
- 周囲温度まで冷却する。
【0117】
このサイクルは数回行うことが可能であり、サイクルの回数は、最終的な好ましい厚さによって決まる。
【0118】
塗布/乾燥サイクル(複数可)完了後、280℃で18分間焼成する。この焼成によって、乾燥厚さ30?70ミクロンを有するコーティングが形成され、このコーティングは、滑らかで、黒く、光沢がある。
【0119】
本発明による付着防止コーティングR1?R4は、本発明のゾルゲル組成物SG1?SG4からそれぞれ得られるコーティングである。
【0120】
付着防止対照コーティングR01およびR02は、ゾルゲル対照組成物SG01およびSG02からそれぞれ得られるコーティングである。
【0121】
実施例1?14のゾルゲル組成物それぞれの塗布によって得られる様々なコーティングの特性を、以下の表7に示す。」

【表2】には、水性組成物A2のシリコン・オイルはWACKER社のオイル200fluidであることが記載されている。また、【表7】には、シリコン・オイルを含むコーティングの付着防止性は優れていることが記載されている。

したがって、上記引用文献1には、付着防止性が優れていることが確認された実施例のものに注目すると、次の発明(以下、順に「引用発明」、「引用方法発明」という。)が記載されていると認められる。

「内面と外面とを備えるアルミニウム支持体と、把持ハンドルとを備えるフライパンであって、
少なくとも1種の金属ポリアルコキシレートの基材と、前記基材中に分散した少なくとも1種のコロイド状金属酸化物と、少なくとも1種のシリコン・オイルとを含むゾルゲル材料によって構成されるゾルゲル組成物の少なくとも1つの層を支持体に塗布し焼成して得られる付着防止コーティングを含み、
前記付着防止コーティングは支持体の内面を被覆し、
前記付着防止コーティングはブラスト加工またはサンド加工されたアルミニウム支持体上に形成される、
フライパン。」(引用発明)

「アルミニウム支持体上に形成された付着防止コーティングを塗布する方法であって、以下のステップ
内面と外面とを備えるアルミニウム支持体を使用するステップと、
被覆する支持体の内面をブラスト加工またはサンド加工するステップと、
少なくとも1種の金属アルコキシド型の前駆体と、少なくとも1種のシリコン・オイルとを含むゾルゲル材料によって構成されるゾルゲル組成物を得るステップと、
付着防止コーティングが支持体の内面を被覆するようにゾルゲル組成物の少なくとも1つの層を支持体に塗布するステップと、
280℃で焼成するステップと、
を含む、
方法。」(引用方法発明)

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【請求項1】 調理面を構成する金属素材と、
前記金属素材の調理面とすべき表面を少なくとも覆うように設けられ、かつ、ゾルゲル塗料を該表面に塗布することにより形成された金属酸化物を主成分とする硬質無機質層と、
前記硬質無機質層の表面を覆うように設けられた非粘着性樹脂層とを備える、高温加熱用調理機器の調理面構造。」

「【0037】図2は、本発明の一実施例に係る、高温加熱用調理機器の調理面構造の断面図である。図3は、金属素材(母材)の表面の概念図である。図2および図3を参照して、金属素材10の表面に、凸部である山6の高さHが10?60μm、山6のピッチDが50?400μmである凹凸面10sが形成されている。山6の高さHは、谷7の底から山6の頂上までの垂直方向の距離である。
【0038】凹凸面10sを覆うように、10μm以上の厚みを有する、ゾルゲル塗料を加水分解して形成された金属酸化物を主成分とする硬質無機層、すなわち硬質、緻密な非晶質無機質層3が形成されている。硬質、緻密な非晶質無機質層3の上に、厚み10±5μmを有するポリエーテルサルフォン(PES)や、ポリフェニレンスルファイド(PPS)系の変性フッ素樹脂塗料からなるプライマ層5が設けられ、その上に、10?30μmの厚みを有するフッ素樹脂からなる非粘着性樹脂層4が設けられている。
【0039】次に、図2および図4を参照して、上述の構造を有する調理面構造の製造方法について説明する。図4は、図2に示す調理面構造の拡大図である。図2に示す調理面構造を形成するためには、まず、金属素材10の表面10sに凹凸のある山6と谷7を形成する必要がある。このような凹凸は、通常行なう粒度#50-150のサンドブラストではなく、ジェットタガネ(2?4mmφ)で、エア圧力6?8Kg/cm^(2)で、2?3分実施して形成される。これにより、砂型鋳物肌の凹凸に近い模様が形成される。一方、金属素材10を形成する折に、たとえば、金属素材10が、アルミニウムダイキャスト成形品から製作するときには、ダイキャスト金型に調理面に相当する部分を、予め、エンボス加工を施した金型にしておいて、アルミニウムダイキャスト成形加工時に、図1を参照して、上記金属素材の調理面となる内表面16に凹凸模様を形成する。
【0040】図2および図4を再び参照して、さらに、粒度#10?20の粒度のブラストで、エア圧力6?10Kg/cm^(2)で2?3分実施することにより、図4を参照して、粗面化とゾルゲル塗料を加水分解して形成された金属酸化物を主成分とする非晶質無機質層、即ち、硬質、緻密な非晶質無機質層3との密着性を確保する粗面Zが得られる。なお、この粗面Zを形成する工程は、特願平3-271254記載の高温加熱用調理機器の調理面構造の形成工程と同一である。
【0041】次に、塗装装置を用いて、表1にその塑性を示すSiO_(2)系のゾルゲル塗料を粗面Zに吹付けて、120℃?200℃で、10?20分間焼付けを行なって、膜厚Bが10μm以上になるように仕上げられた、ゾルゲル塗料を加水分解して形成された金属酸化物を主成分とする、硬質、緻密な非晶質無機質層3を形成する。
・・・・・・・・・・
【0043】この硬質、緻密な非晶質無機質層3の表面粗さは、図4を参照して、粗面Yのように、粗面粗さがRa=20±10μm(中心線平均粗さ)になるようにされる。次に、粗面Yを有する硬質、緻密な非晶質無機質層3の上に、非粘着樹脂層4を形成する。非粘着樹脂層4は、厚みAが10?30μm好ましくは10?15μmに仕上がるように、ディスパージョン型の四フッ化エチレン樹脂塗料(公知の市販塗料)を吹付けて、380℃?420℃で、20分間の焼成で硬化させることにより、形成される。非粘着樹脂層4と、硬質、緻密非晶質系無機質層3の密着性をよくするために、硬質、緻密な非晶質無機質層3の上に図2および図4に示すようにプライマ層5を薄く(約5?10μm)塗布し、90℃?120℃で、10分間強制乾燥するという工程を加えてもよい。
【0044】このように構成された、金属素材10の粗面Z、厚み10μm以上の硬質、緻密な非晶質無機質層3とその粗面Y、および厚み10?30μmの非粘着樹脂層4とその粗面Xとを含む調理面構造を、図1に示すホットプレートの調理面にした。ホットプレート15の内表面16の側面17は、調理面でないため、金属へらでこする機会がない。それゆえに、側面17においては、硬質、緻密な非晶質無機質層3の厚みBを10μm以上、フッ素コートの厚みAを10?30μmにするという、条件は不要である。側面17の内面は、硬質、緻密な非晶質無機質層が散布程度、フッ素樹脂層の膜厚Aが20?40μmになるように、すなわち、金属へらでこすると若干傷の付く皮膜構成にした。
【0045】図5は、本発明に従う一実施例としての高温加熱用調理機器の調理面構造の断面を示す走査型電子顕微鏡による500倍のSEM写真の模式図である。図5を参照して、この高温加熱用調理機器の調理面構造12の断面は、たとえば、アルミニウム地金からなる調理面を構成する金属素材10の調理面とすべき表面10s上に設けられた、上述した表1にその塑性を示すSiO_(2)系のゾルゲル塗料から形成されたSiO_(2)を主成分とする硬質無機質層3と、硬質無機質層3の表面3Sを覆うように設けられたフッ素樹脂層4を含む。図6は、図5に示す硬質無機質層3の断面を示す5000倍のSEM写真の模式図である。尚、図5および図6を参照して、この硬質無機質層3は、非晶質のSiO_(2)よりなるガラス質部分31(図5中の黒斑点部分)と、黒色顔料が分散してなる非晶質のSiO_(2)よりなるガラス質部分32(図5中の用紙の地色部分)を含む。図5および図6より明らかなように、本発明に従って形成された硬質無機質層3は、図13および図14に示す従来の硬質無機質層23に比較して、気孔がほとんど存在しない。
【0046】したがって、本発明に従う高温加熱用調理機器の調理面構造を有する高温加熱用調理機器は、300℃以上の温度で食品を調理しても、フッ素樹脂層の傷等を介して、硬質無機質層の表面に食品等が付着しても、硬質無機質層3が気孔の少ない平滑かつ緻密な層であるため、食品の焦げ付きや、硬質無機質層3の内部へ焦げ等が侵入しないため、しみ汚染等が生じにくい。
【0047】なお、プラズマ溶射法等を用いてSiO_(2)層を形成すると、このSiO_(2)層は、微粉末の粒子により形成された層となる。このため、微粉末のSiO_(2)をガラス化するためには、約1000℃程度の高温加熱が必要であり、しかも、このように高温で形成される溶融SiO_(2)ガラスは、多孔質(ポーラス質)となる。
【0048】なお、本実施例では、ゾルゲル塗料の組成が適切に選ばれている。すなわち、表1に示すゾルゲル塗料では、2成分の金属アルコキシド化合物、すなわち、エチルシリケートとメチルトリメトキシシランを含む。このように、2成分の金属アルコキシド化合物を用いたゾルゲル塗料を同時に加水分解することにより形成される金属酸化物を主成分とする硬質無機質層は非晶質(アモルファス)層、すなわち、ガラス質となる。本実施例では、非晶質(アモルファス)硬質無機質層を形成しているため、この硬質無機質層は、硬く、また、高い皮膜強度を有している。なお、主成分であるエチルシリケートは、皮膜形成(バインダ)の役割をする成分であり、メチルトリメトキシシランは、エチルシリケートと反応することによりシリカ網目を形成する補助的な成分である。
・・・・・・・・・・
【0056】すなわち、調理面となる金属素材表面に形成される凹凸面は、その凸部である山の高さが10?60μm、かつ、山のピッチが50?400μmに選ばれている。上記凹凸面を覆う硬質、緻密な非晶質無機質層は、その膜厚が10μm以上に選ばれている。さらに、上記、硬質、緻密な非晶質無機質層の表面を覆うフッ素樹脂層は、その厚みが10?30μmに選ばれている。このように条件が選ばれることにより、金属へらに対する耐傷付き性および耐剥離性が向上し、300℃から350℃での食品調理においても耐焦げ付き性、耐しみ付き汚染性が向上する。」

したがって、上記引用文献2には、金属アルコキシド化合物を含むゾルゲル塗料を加水分解して形成された金属酸化物を主成分とするガラス質層で覆う高温加熱用調理機器の金属素材の面を粗面とする技術的事項が記載されていると認められる。

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

「 基材と、前記基材の一主面上に設けられ、表面に微細凹凸構造を有する樹脂層と、前記樹脂層の前記微細凹凸構造上に設けられ、前記樹脂層の前記微細凹凸構造に対応する形状の微細凹凸構造を有するゾルゲル材料を含む無機層と、を具備し、
前記樹脂層の前記無機層側領域中のフッ素元素濃度(Es)が、前記樹脂層中の平均フッ素濃度(Eb)より高いことを特徴とする微細構造積層体。」([請求項1])

「 本発明者らは、ナノインプリント技術による微細凹凸構造の形成に際し、ゾルゲル材料を含む無機層の表面に凹凸構造を設けることを着想した。そして、本発明者らは、耐環境性、耐候性、長期安定性に優れる無機材料を主体とする微細凹凸構造を備えた微細構造積層体及び微細構造体を、大面積、かつ高い生産性で形成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
ここで、本発明において、微細構造積層体及び微細構造体とは、ゾルゲル材料を含み表面に微細凹凸構造が設けられた無機層を有するものである。微細構造積層体とは、少なくとも一つの上記無機層と、この無機層に積層される他の層と、を備えたものである。また、微細構造体とは、例えば、表面に微細凹凸構造を有するモールドにより、ゾルゲル材料を含む無機層に微細凹凸構造が転写されたものである。以下、本発明の第1の態様及び第2の態様について、添付図面を参照して詳細に説明する。
<第1の態様>
本発明者らは、樹脂層と、この樹脂層上に設けられ表面に微細凹凸構造を有する無機材料層とを備えた微細構造積層体において、ゾルゲル材料を含む無機層の表面に凹凸構造を設けることで、耐環境性、耐候性、及び長期安定性に優れ、大面積化が可能な微細構造積層体を実現できることを見出した。また、樹脂層において、無機層側の領域のフッ素元素濃度を高めることにより、樹脂層と無機層との分離を容易にして、微細構造積層体の生産性を高められることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の第1の態様の骨子は、基材と、基材の一主面上に設けられ、表面に微細凹凸構造を有する樹脂層と、樹脂層の前記微細凹凸構造上に設けられ、樹脂層の微細凹凸構造に対応する形状の微細凹凸構造を有するゾルゲル材料を含む無機層と、を具備し、樹脂層の無機層側領域中のフッ素元素濃度(Es)が、樹脂層中の平均フッ素濃度(Eb)より高い微細構造積層体である。
この構成によれば、樹脂層とゾルゲル材料を含む無機層とを分離することで、耐環境性、耐候性、長期安定性に優れた無機材料を主体とする微細凹凸構造を形成することができる。また、当該無機層は、ゾルゲル法によって形成されるため、高い生産性で、大面積の微細凹凸構造を形成することができる。また、樹脂層の無機層側の領域においては、フッ素元素濃度が高められているため、樹脂層と無機層との分離が容易になり、微細凹凸構造の生産性を高めることができる。つまり、この構成を用いれば、耐環境性、耐候性、長期安定性に優れた微細凹凸構造を、大面積、かつ高い生産性で形成することができるようになる。」([0014]?[0018])

「[無機層]
無機層13としては、ゾルゲル材料の硬化体である硬化ゾルゲル材層、ゾルゲル材料の部分硬化体である半硬化ゾルゲル材層、ゾルゲル材料の硬化物に、さらに未硬化のゾルゲル材料を含ませた層である無機材層、及び無機微粒子、バインダーポリマー、及びゾルゲル材料の混合物を含む無機微粒子層を用いることが可能である。以下、無機層13について、第1の実施の形態?第4の実施の形態を参照して詳細に説明する。
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態においては、無機層13として、ゾルゲル材料の硬化体である硬化ゾルゲル材層(ゾルゲル材料の硬化物層)を用いる。ゾルゲル材料とは、熱や触媒の作用により、加水分解重縮合が進行し、硬化する化合物群である。例えば、金属アルコキシド(金属アルコラート)、金属キレート化合物、ハロゲン化金属、ハロゲン化シラン、液状ガラス、スピンオングラス、又はこれらの反応物であり、又はこれらに硬化を促進させる触媒を含ませたものである。これらは、要求される物性に応じて、単独で用いても良いし、複数種類を組み合わせて用いても良い。また、ゾルゲル材料に、シリコーンをはじめとするシロキサン材料や、反応抑制剤などを含ませても良い。また、ゾルゲル材料としては、未硬化のもののみでなく、部分硬化体を用いることもできる。ここで、ゾルゲル材料の部分硬化体とは、ゾルゲル材料の重合反応が部分的に進行し、未反応の官能基が残っているものをいう。当該部分硬化体に、さらに、熱、光などを加えると、未反応の官能基が縮合し、さらに硬化が進行する。
金属アルコキシドとは、任意の金属種が、加水分解触媒などにより、水、有機溶剤と反応して得られる化合物群であり、任意の金属種と、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、プロピル基、イソプロピル基などの官能基とが結合した化合物群である。金属アルコキシドの金属種としては、シリコン、チタン、アルミニウム、ゲルマニウム、ボロン、ジルコニウム、タングステン、ナトリウム、カリウム、リチウム、マグネシウム、スズなどが挙げられる。
例えば、金属種がシリコンの金属アルコキシドとしては、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリエトキシシランなどや、これら化合物群のエトキシ基が、メトキシ基、プロピル基、イソプロピル基などに置き換わった化合物群などが挙げられる。また、ジフェニルシランジオールやジメチルシランジオール等も使用できる。これらは、要求される物性に応じて、単独で用いても良いし、複数種類を組み合わせて用いても良い。
また、金属アルコキシドとしては、シルセスキオキサン化合物を用いることもできる。シルセスキオキサンとは、(RSiO_(3/2))nで表される化合物群の総称で、ケイ素原子一個に対し、一つの有機基と三つの酸素原子が結合した化合物である。具体的には、上述した光重合性混合物にて説明したシルセスキオキサンを使用することができる。
ハロゲン化金属とは、上記金属アルコキシドにおいて、加水分解重縮合する官能基がハロゲン原子に置き換わった化合物群である。なお、金属種は適宜変更可能である。ハロゲン化金属において、金属種がシリコンである場合を特にハロゲン化シランと呼ぶ場合がある。
金属キレート化合物としては、チタンジイソプロポキシビスアセチルアセトネート、チタンテトラキスアセチルアセトネート、チタンジブトキシビスオクチレングリコレート、ジルコニウムテトラキスアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビスアセチルアセトネート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムジブトキシモノアセチルアセトネート、亜鉛ビスアセチルアセトネート、インジウムトリスアセチルアセトネート、ポリチタンアセチルアセトネートなどが挙げられる。
液状ガラスとしては、例えば、アポロリング社製のTGAシリーズなどを挙げることができ、要求される物性に応じて、その他ゾルゲル化合物を添加することができる。スピンオングラスとしては、例えば、東京応化社製OCDシリーズ、Honeywell社製のACCUGLASSシリーズなどを用いることができる。
硬化を進行させる触媒としては、種々の酸、塩基を用いることができる。種々の酸には、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸だけでなく、各種カルボン酸、不飽和カルボン酸、酸無水物などの有機酸が含まれる。また、硬化が光硬化の場合には、樹脂層12において用いられるような光重合開始剤、光増感剤、光酸発生剤などを用いることができる。光重合開始剤及び光増感剤としては、樹脂層12に用いられるものを適用することができる。
ゾルゲル材料には、溶媒を含有させて用いても良い。好適な溶媒としては、水、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、ピリジン、シクロペンタノン、γ-ブチロラクトン、α-アセチル-γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリノン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アニソール、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、モルホリン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、2-ブタノールなどが挙げられ、これらは単独又は2種以上の組合せで用いることができる。これらの中でも、ケトン系及びアルコール系の溶媒が好ましい。これらの溶媒は、硬化ゾルゲル材層の接着性、保存性、硬化性調整に応じて、適宜添加することができる。例えば、ゾルゲル材料1質量部に対して溶媒を0.01?1000質量部含有させることができる。なお、本発明はこれに限定されない。
ゾルゲル材料に添加する反応抑制剤は、金属アルコキシドをキレート化できれば特に限定されないが、例えば、β-ジケトン化合物、β-ケトエステル化合物やアミン系キレート剤等が挙げられる。β-ジケトンとしては、例えば、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタン、2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン、ビニルアセチルアセトン等の炭素数5?13のβ-ジケトンが挙げられる。キレート剤とは、配位子分子内の複数の原子が金属イオンと結合し、金属キレート錯体を形成させる物質の総称である。上述のアミン系キレート剤は一般式;NR6R7R8(式中、R6、R7及びR8はそれぞれ独立して水素又は炭素原子数2?6、好ましくは2?3のヒドロキシアルキル基又はアルキル基である。ただし、R6、R7及びR8は同時に水素ではない。)で表される。具体的には、2-アミノエタノール、2,2'-イミノジエタノール、3-アミノプロパノール、4-アミノ1-ブタノール、N-アミノエチルエタトルアミン等を挙げることができる。
ゾルゲル材料に添加するシロキサン材料は、ケイ素と酸素とを主骨格とする材料であれば特に限定されない。ゾルゲル材料にシロキサン材料を添加することで柔軟性を付与することができるため、ハンドリング時のクラックを抑制し、物理的耐久性を高めることができる。ゾルゲル材料に添加するシロキサン材料としては、特にシリコーン材料が好ましい。
シリコーン材料としては、ジメチルクロロシランの重合体であるポリジメチルシロキサン(PDMS)に代表される常温で流動性を示す線状低重合度のシリコーンオイル、変性シリコーンオイル、高重合度の線状のPDMS、PDMSを中程度に架橋しゴム状弾性を示すようにしたシリコーンゴム、変性シリコーンゴム、樹脂状のシリコーン、PDMSと4官能のシロキサンからなる3次元網目構造を持つ樹脂であるシリコーン樹脂(又はDQレジン)等が挙げられる。なお、架橋剤として有機分子を用いる場合や、4官能のシロキサン(Qユニット)を用いる場合もある。
変性シリコーンオイルは、ポリシロキサンの側鎖、及び/又は末端を変性したものであり、反応性シリコーンオイルと非反応性シリコーンオイルとに分けられる。反応性シリコーンオイルとしては、アミノ変性、エポキシ変性、カルボキシル変性、カルビノール変性、メタクリル変性、メルカプト変性、フェノール変性、片末端反応性、異種官能基変性等が挙げられる。非反応性シリコーンオイルとしては、ポリエーテル変性、メチルスチリル変性、アルキル変性、高級脂肪エステル変性、親水性特殊変性、高級アルコキシ変性、高級脂肪酸変性、フッ素変性等が挙げられる。一つのポリシロキサン分子に上述の変性を2つ以上施すこともできる。
市販されている変性シリコーンオイルの例としては、GE東芝シリコーン社製TSF4421、XF42-334、XF42-B3629、XF4213-3161、東レ・ダウコーニング社製BY16-846、SF8416、SH203、SH230、SF8419、SF8422、信越化学工業社製KF-410、KF-412、KF-413、KF-414、KF-415、KF-351A、KF-4003、KF-4701、KF-4917、KF-7235B、X-22-2000、X-22-3710、X-22-7322、X-22-1877、X-22-2516、PAM-Eなどが挙げられる。
なお、硬化ゾルゲル材層を構成するゾルゲル材料としては、硬化ゾルゲル材層の転写速度、転写精度の観点から、無機のセグメントと有機のセグメントとを含むハイブリッドであってもよい。ハイブリッドとしては、ゾルゲル材料中に、分子内部に光重合性基に代表される重合性基を有すゾルゲル材料(例えば、シランカップリング剤)を含ませることや、重合性基は具備しないが水素結合性の有機ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン)を含ませることや、光重合可能な樹脂を含ませることで実現できる。ハイブリッドとしては、例えば、金属アルコキシド、光重合性基を具備したシランカップリング材、ラジカル重合系樹脂などを混合したものを用いることができる。より転写精度を高めるために、これらにシリコーンを添加してもよい。また、シランカップリング剤を含む金属アルコキシドと、光重合性樹脂との混合比率は、転写精度の観点から、3:7?7:3の範囲が好ましい。より好ましくは、3.5:6.5?6.5:3.5の範囲である。ハイブリッドに使用する樹脂は、光重合可能であれば、ラジカル重合系でも、カチオン重合系でも特に限定されない。
また、ハイブリッドによる硬化ゾルゲル材層の転写速度及び精度を向上させる観点から、変性シリコーンや反応性シリコーンを添加することもできる。
変性シリコーンの市販品としては、具体的には、TSF4421(GE東芝シリコーン社製)、XF42-334(GE東芝シリコーン社製)、XF42-B3629(GE東芝シリコーン社製)、XF4213-3161(GE東芝シリコーン社製)、FZ-3720(東レ・ダウコーニング社製)、BY 16-839(東レ・ダウコーニング社製)、SF8411(東レ・ダウコーニング社製)、FZ-3736(東レ・ダウコーニング社製)、BY 16-876(東レ・ダウコーニング社製)、SF8421(東レ・ダウコーニング社製)、SF8416(東レ・ダウコーニング社製)、SH203(東レ・ダウコーニング社製)、SH230(東レ・ダウコーニング社製)、SH510(東レ・ダウコーニング社製)、SH550(東レ・ダウコーニング社製)、SH710(東レ・ダウコーニング社製)、SF8419(東レ・ダウコーニング社製)、SF8422(東レ・ダウコーニング社製)、BY16シリーズ(東レ・ダウコーニング社製)、FZ3785(東レ・ダウコーニング社製)、KF-410(信越化学工業社製)、KF-412(信越化学工業社製)、KF-413(信越化学工業社製)、KF-414(信越化学工業社製)、KF-415(信越化学工業社製)、KF-351A(信越化学工業社製)、KF-4003(信越化学工業社製)、KF-4701(信越化学工業社製)、KF-4917(信越化学工業社製)、KF-7235B(信越化学工業社製)、KR213(信越化学工業社製)、KR500(信越化学工業社製)、KF-9701(信越化学工業社製)、X21-5841(信越化学工業社製)、X-22-2000(信越化学工業社製)、X-22-3710(信越化学工業社製)、X-22-7322(信越化学工業社製)、X-22-1877(信越化学工業社製)、X-22-2516(信越化学工業社製)、PAM-E(信越化学工業社製)などが挙げられる。
反応性シリコーンとしては、アミノ変性、エポキシ変性、カルボキシル変性、カルビノール変性、メタクリル変性、ビニル変性、メルカプト変性、フェノール変性、片末端反応性、異種官能基変性等が挙げられる。
また、ビニル基、メタクリル基、アミノ基、エポキシ基又は脂環式エポキシ基のいずれかを含有するシリコーン化合物を含有することにより、光照射による硬化反応も同時に利用することが出来、転写精度及び速度が向上するため好ましい。特に、ビニル基、メタクリル基、エポキシ基又は脂環式エポキシ基のいずれかを含有するシリコーン化合物を含有することにより、前記効果をより発揮できるため好ましい。」([0068]?[0087])

したがって、上記引用文献3には、表面に微細凹凸構造を有するモールドにより、ゾルゲル材料を含む無機層に微細凹凸構造が転写されたものであって、当該無機層にハイブリッドによる硬化ゾルゲル材層の転写速度及び精度を向上させる観点から、変性シリコーンや反応性シリコーンを添加する技術的事項が記載されていると認められる。

4.引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0009】
【発明の実施の形態】請求項1に記載の発明は、金属酸化物層表面に水酸基が形成され、ついで撥水層が形成された金属酸化物被膜を備えた調理器具用部材としたものである。被膜のマトリックスを形成する金属酸化物は、基板材である調理器具用部材に対し密着性が良好であり、同時に優れた強度、硬度、耐熱性などを有する。さらに、種々検討の結果、撥水層は主として金属酸化物層表面に形成された水酸基と化学的な結合により、強く密着することを見出した。すなわち、撥水層の結合強度は金属酸化物層表面水酸基の多寡と強く関係し、水酸基量を増加させるほど耐久性に優れた撥水膜の形成が可能である。金属酸化物表面に形成された水酸基が撥水層と強力な結合力を発現することにより、非粘着性、耐傷つき性、耐熱性などに優れ、それらの特性の耐久性も長時間持続することができる。金属酸化物層表面に水酸基を形成させるには、水あるいは水蒸気を金属酸化物層表面に接触させればよい。
【0010】請求項2に記載の発明は、請求項1記載の発明において、撥水層が有機ケイ素化合物の群より選ばれる少なくとも一種からなる金属酸化物被膜を備えた調理器具用部材としたものである。被膜のマトリックスを形成する金属酸化物による優れた耐熱性と、金属酸化物層表面と強力に結合した有機ケイ素化合物の優れた撥水性により、非粘着性、耐傷つき性、耐熱性などに優れ、それらの特性の耐久性も長時間持続することができる。
【0011】請求項3に記載の発明は、請求項1記載の発明において、撥水層がアルキルシラン化合物の群より選ばれる少なくとも一種からなる金属酸化物被膜を備えた調理器具用部材としたものである。被膜のマトリックスを形成する金属酸化物による優れた耐熱性と、金属酸化物層表面に形成された水酸基と化学的に強力に結合したアルキルシラン化合物の優れた撥水性により、非粘着性、耐傷つき性、耐熱性などに優れ、それらの特性の耐久性も長時間持続することができる。
【0012】請求項4に記載の発明は、請求項1記載の発明において、撥水層がシラザン化合物の群より選ばれる少なくとも一種からなる金属酸化物被膜を備えた調理器具用部材としたものである。被膜のマトリックスを形成する金属酸化物による優れた耐熱性と、金属酸化物層表面に形成された水酸基と化学的に強力に結合したシラザン化合物の優れた撥水性により、非粘着性、耐傷つき性、耐熱性などに優れ、それらの特性の耐久性も長時間持続することができる。
【0013】請求項5に記載の発明は、請求項1記載の発明において、撥水層が反応性シリコーンオイルの群より選ばれる少なくとも一種からなる金属酸化物被膜を備えた調理器具用部材としたものである。被膜のマトリックスを形成する金属酸化物による優れた耐熱性と、金属酸化物層表面に形成された水酸基と化学的に強力に結合した反応性シリコーンオイルの優れた撥水性により、非粘着性、耐傷つき性、耐熱性などに優れ、それらの特性の耐久性も長時間持続することができる。
・・・・・・・・・・
【0023】また、反応性シリコーンオイルとしては、メチルハイドロジエンシリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイルなどが挙げられるが、これらに限定するものではない。
・・・・・・・・・・
【0052】請求項1?5記載の発明によれば、被膜のマトリックスを形成する、強度、硬度、耐熱性などに優れた金属酸化物と、金属酸化物表面の水酸基と主として化学的な結合により強力に密着した撥水層により、良好な撥水耐久性の発現が可能となる。」

したがって、上記引用文献4には、金属酸化物層表面に水酸基が形成されさらに撥水層が形成された金属酸化物被膜を備えた調理器具における撥水層として、反応性シリコーンオイルを用いる技術的事項が記載されていると認められる。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明の「シリコン・オイル」は、本願発明1の「シリコーン油」に相当し、本願発明1の「反応性シリコーン油」と引用発明の「シリコン・オイル」とは「シリコン油」の限りにおいて一致している。

イ 本願発明1の「鋳鉄支持体」と引用発明の「アルミニウム支持体」とは「金属支持体」の限りにおいて一致している。

ウ 引用発明の「フライパン」は本願発明1の「物品」に相当し、本願発明1の「2つの対面を有する鋳鉄支持体を含む物品」と引用発明の「内面と外面とを備えるアルミニウム支持体と、把持ハンドルとを備えるフライパン」とは「2つの対面を有する金属支持体を含む物品」の限りにおいて一致している。

エ 引用発明の「ゾルゲル材料」は本願発明1の「ゾル-ゲル材料」に相当するから、本願発明1の「少なくとも1種の金属ポリアルコキシレート、および、少なくとも1種の反応性シリコーン油から形成されたマトリックスを含むゾル-ゲル材料の少なくとも1つの連続層の形態のガラス質コーティング」と引用発明の「少なくとも1種の金属ポリアルコキシレートの基材と、前記基材中に分散した少なくとも1種のコロイド状金属酸化物と、少なくとも1種のシリコン・オイルとを含むゾルゲル材料によって構成されるゾルゲル組成物の少なくとも1つの層を支持体に塗布し焼成して得られる付着防止コーティング」とは「少なくとも1種の金属ポリアルコキシレート、および、少なくとも1種のシリコン油から形成されたマトリックスを含むゾル-ゲル材料の少なくとも1つの連続層の形態のガラス質コーティング」の限りにおいて一致している。

オ 引用発明の「付着防止コーティングは支持体の内面を被覆し」た態様は本願発明1の「ゾル-ゲル材料の層は、前記支持体の面のうち、少なくとも1つの上に直接被着されている」態様に相当している。

カ 本願発明1の「ガラス質コーティングが施されている面は、表面粗さRaが3?15μmの範囲であり、1センチメートル当たりピークカウントRPcが50?200であ(り)」る態様と引用発明の「付着防止コーティングはブラスト加工またはサンド加工されたアルミニウム支持体上に形成され」る態様とは「ガラス質コーティングが施されている面は、表面処理され」る態様の限りにおいて一致している。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「2つの対面を有する金属支持体を含む物品であって、
少なくとも1種の金属ポリアルコキシレート、および、少なくとも1種のシリコン油から形成されたマトリックスを含むゾル-ゲル材料の少なくとも1つの連続層の形態のガラス質コーティングを含み、
前記ゾル-ゲル材料の層は、前記支持体の面のうち、少なくとも1つの上に直接被着されていること、ならびに
前記ガラス質コーティングが施されている面は、表面処理される、
物品。」

(相違点)
本願発明1では、支持体が鋳鉄支持体であり、ガラス質コーティングが施されている面は、表面粗さRaが3?15μmの範囲であり、1センチメートル当たりピークカウントRPcが50?200であり、シリコン油は、反応性シリコーン油で、塩素化油、アミノ油、ビニル化油、メタクリル化油、ヒドロキシル化油、および、無水物または水素化物を末端とする油からなる群から選択される反応性油を含み、20℃で10から1000 10^(-6)m^(2)s^(-1)の動粘度を有するのに対し、引用発明では、支持体がアルミニウム支持体であり、ガラス質コーティングが施されている面は、ブラスト加工またはサンド加工されているものの粗面の状態は不明であり、シリコン油は、シリコーン・オイルであり、反応性であるかや動粘度について不明である点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討すると、「第4 引用文献、引用発明等」に記載のとおり、引用文献2には「金属アルコキシド化合物を含むゾルゲル塗料を加水分解して形成された金属酸化物を主成分とするガラス質層で覆う高温加熱用調理機器の金属素材の面を粗面とする技術的事項」が記載され、引用文献3には「表面に微細凹凸構造を有するモールドにより、ゾルゲル材料を含む無機層に微細凹凸構造が転写されたものであって、当該無機層にハイブリッドによる硬化ゾルゲル材層の転写速度及び精度を向上させる観点から、変性シリコーンや反応性シリコーンを添加する技術的事項」が記載され、引用文献4には「金属酸化物層表面に水酸基が形成されさらに撥水層が形成された金属酸化物被膜を備えた調理器具における撥水層として、反応性シリコーンオイルを用いる技術的事項」が記載されている。
そして、引用文献1には、「使用できる金属支持体の有利な例」として、「研磨、サンド加工、ブラシ加工、もしくはビード加工されたステンレス鋼製の支持体、鋳鉄支持体、鉄製支持体」が例示されている(段落【0038】)ものの、引用文献1には使用するシリコン・オイルは非反応性で、20?2000mPa.s.の粘度の粘度を有することが好ましい点も記載されている(段落【0019】)し、また、引用文献2に記載された「ゾルゲル塗料」はシリコーン油ましてや反応性シリコーン油から形成されたものではではないし、引用文献3に記載された「ゾルゲル材層」はコーティング層ではないし、引用文献4に記載された「反応性シリコーンオイル」を用いるのはゾルゲル材料の層ではない。そうすると、引用発明をして、その金属支持体として表面処理された「鋳鉄」を採用する際に、当該表面処理を「表面粗さRaが3?15μmの範囲であり、1センチメートル当たりピークカウントRPcが50?200であ」るようにするとともに、「ゾルゲル組成物」に係る「シリコン・オイル」として「塩素化油、アミノ油、ビニル化油、メタクリル化油、ヒドロキシル化油、および、無水物または水素化物を末端とする油からなる群から選択される反応性油を含み」「20℃で10から1000 10^(-6)m^(2)s^(-1)の動粘度を有する」ものとすることまで、当業者といえども、引用発明及び引用文献1ないし4に記載された技術的事項から、容易に想到することができたということはできない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献1ないし4に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2ないし4について
本願発明2ないし14は、本願発明1を減縮した発明であるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明及び引用文献1ないし4に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

3.本願発明15について
(1)対比
本願発明15と引用方法発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア 本願発明15の「鋳鉄支持体」と引用方法発明の「アルミニウム支持体」とは「金属支持体」の限りにおいて一致している。

イ 引用方法発明の「付着防止コーティング」は、それを得るためのステップからすると、本願発明15の「ガラス質コーティング」に相当するから、本願発明15の「鋳鉄支持体上に直接コーティングされたガラス質コーティングを製造する方法」と引用方法発明の「アルミニウム支持体上に形成された付着防止コーティングを塗布する方法」とは「金属支持体上に直接コーティングされたガラス質コーティングを製造する方法」の限りにおいて一致している。

ウ 引用方法発明の「内面と外面とを備えるアルミニウム支持体を使用するステップ」は、支持体を準備・提供および/または構築するステップを事前に行うといえるから、本願発明15の「a)2つの対面を有する支持体を提供および/または構築するステップ」に相当している。

エ 本願発明15の「b)被覆の対象である支持体の1つまたは複数の面の表面を処理して、5?15μmの範囲の表面粗さRa、および、1センチメートル当たり50?200の範囲のピークカウントを得るステップ」と引用方法発明の「被覆する支持体の内面をブラスト加工またはサンド加工するステップ」とは「b)被覆の対象である支持体の1つまたは複数の面の表面を処理して、所定の粗面を得るステップ」の限りにおいて一致している。

オ 引用方法発明の「シリコン・オイル」は、本願発明15の「シリコーン油」に相当し、本願発明15の「反応性シリコーン油」と引用方法発明の「シリコン・オイル」とは「シリコン油」の限りにおいて一致している。

カ 引用方法発明の「ゾルゲル組成物」は本願発明15の「ゾル-ゲル組成物」に相当するから、本願発明15の「c)少なくとも1種の金属アルコキシド型のゾル-ゲル前駆体、および、少なくとも1種の反応性シリコーン油を含み、前記シリコーン油は20℃で10から1000 10^(-6)m^(2)s^(-1)の動粘度を有する、ゾル-ゲル組成物を調製するステップと、d)水および酸触媒または塩基触媒を導入することによって、前記ゾル-ゲル前駆体を加水分解し、続いて部分縮合反応させて、ゾル-ゲル組成物SGを得るステップ」と引用方法発明の「少なくとも1種の金属アルコキシド型の前駆体と、少なくとも1種のシリコン・オイルとを含むゾルゲル材料によって構成されるゾルゲル組成物を得るステップ」とは「c)少なくとも1種の金属アルコキシド型のゾル-ゲル前駆体、および、少なくとも1種のシリコン油を含み、ゾル-ゲル組成物を調製するステップと、d)ゾル-ゲル組成物SGを得るステップ」の限りにおいて一致している。

キ 引用方法発明の「付着防止コーティングが支持体の内面を被覆するようにゾルゲル組成物の少なくとも1つの層を支持体に塗布するステップ」は本願発明15の「e)ゾル-ゲル組成物SGの少なくとも1つの層を支持体の面のうち少なくとも1つの面上に直接塗布するステップ」に相当している。

ク 引用方法発明の「280℃で焼成するステップ」は本願発明15の「f)200℃?400℃の範囲の温度で硬化させるステップ」に相当している。

したがって、本願発明15と引用方法発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「金属支持体上に直接コーティングされたガラス質コーティングを製造する方法であって、以下のステップ
a)2つの対面を有する支持体を提供および/または構築するステップと、
b)被覆の対象である支持体の1つまたは複数の面の表面を処理して、所定の粗面を得るステップと、
c)少なくとも1種の金属アルコキシド型のゾル-ゲル前駆体、および、少なくとも1種のシリコン油を含み、ゾル-ゲル組成物を調製するステップと、
d)ゾル-ゲル組成物SGを得るステップと、
e)ゾル-ゲル組成物SGの少なくとも1つの層を支持体の面のうち少なくとも1つの面上に直接塗布するステップと、
f)200℃?400℃の範囲の温度で硬化させるステップと、
を含む、
方法。」

(相違点)
(相違点1) 本願発明15では、支持体が鋳鉄支持体であり、所定の粗面のための表面処理が5?15μmの範囲の表面粗さRa、および、1センチメートル当たり50?200の範囲のピークカウントを得るものであり、シリコン油が反応性シリコーン油であって20℃で10から1000 10^(-6)m^(2)s^(-1)の動粘度を有し、塩素化油、アミノ油、ビニル化油、メタクリル化油、ヒドロキシル化油、および、無水物または水素化物を末端とする油からなる群から選択される反応性油を含むのに対し、引用方法発明では、支持体がアルミニウム支持体であり、その表面処理はブラスト加工またはサンド加工であるものの所定の粗面の状態は不明であり、シリコン油がシリコーン・オイルであって反応性であるかや動粘度について不明である点。
(相違点2) 本願発明15では、水および酸触媒または塩基触媒を導入することによって、ゾル-ゲル前駆体を加水分解し、続いて部分縮合反応させて、ゾル-ゲル組成物を得る旨特定されるのに対し、引用方法発明では、ゾルゲル組成物を得る具体的な反応が不明である点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討すると、上記「1.(2)」にて既に検討した事項を踏まえると、引用方法発明をして相違点1に係る本願発明15の構成とすることは、当業者といえども、容易に想到することができたということはできない。
したがって、上記相違点2について判断するまでもなく、本願発明15は、当業者であっても、引用方法発明及び引用文献1ないし4に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

3.本願発明16ないし20について
本願発明16ないし20は、本願発明15を減縮した発明であるから、本願発明15と同様の理由により、当業者であっても、引用方法発明及び引用文献1ないし4に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし20は、当業者が引用発明あるいは引用方法発明及び引用文献1ないし4に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-03-04 
出願番号 特願2013-234079(P2013-234079)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A47J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 豊島 ひろみ  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 井上 哲男
田村 嘉章
発明の名称 ガラス質コーティングを含む鋳鉄でできた物品およびこのような物品の製造法  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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