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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01M
管理番号 1349415
審判番号 不服2017-18657  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-15 
確定日 2019-02-28 
事件の表示 特願2016-516988「赤外線感知を利用する工業プロセス診断」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月 2日国際公開、WO2015/047597、平成29年 1月 5日国内公表、特表2017-500536〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)8月19日(パリ条約による優先権主張 2013年9月26日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年3月24日付けで拒絶理由が通知され、同年6月16日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月2日付けで拒絶査定されたところ、同年12月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成29年12月15日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年12月15日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
工業プロセスにおいて診断を実行して応答的に診断状況を見分けるフィールド装置であって、
工業プロセスにおける1つの場所からの赤外線放出を感知するように配設された複数の赤外線センサからなる赤外線センサアレーと、
前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力とを比較し、この比較によって決定された、前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の関係およびメモリに格納された、前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の公称の関係に基づいて、工業プロセスにおける診断状況を示す診断出力を応答的に提供するように構成された診断回路とからなり、
前記公称の関係は、工業プロセスの運転状態が感知されて追加的に入力されるプロセス変数に基づくものである、フィールド装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成29年6月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
工業プロセスにおいて診断を実行して応答的に診断状況を見分けるフィールド装置であって、
工業プロセスにおける1つの場所からの赤外線放出を感知するように配設された複数の赤外線センサからなる赤外線センサアレーと、
前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力を前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力と比較し、この比較によって決定された、前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の関係に基づいて、工業プロセスにおける診断状況を示す診断出力を応答的に提供するように構成された診断回路とからなるフィールド装置。」

2 補正の適否
(1)本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「工業プロセスにおける診断状況を示す診断出力」が、「前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力を前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力と比較し、この比較によって決定された、前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の関係に基づいて」提供されていたものを、前記関係に加え「工業プロセスの運転状態が感知されて追加的に入力されるプロセス変数に基づく」「メモリに格納された、前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の公称の関係」にも基づいて提供されるという限定を付加するものである。
前記「公称の関係」に関し本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

(本1)「【0014】
動作時、赤外線センサ120Aおよび120Bは、異なった場所106Aおよび106Bからの赤外線放射104Aおよび104Bを受け取るように指向される(狙いをつける)。それから、これらの2つの場所106A、Bからの赤外線放射は、比較器140を用いて比較される。この実施形態では、2つの場所106A、106Bからの赤外線放射の量が、予め設定された量以上に異なると、マイクロプロセッサ24に出力が与えられる。この出力に基づき、マイクロプロセッサ24および/または処理回路102は、診断回路として動作し、工業プロセスにおける診断状況を見分ける。1つの観点では、2つの位置106A、106Bからの赤外線出力を比較することにより、診断回路は、例えば、周囲の状況の変化による診断状況の誤検出の可能性を低減する。1つの形態例では、図2に示されるメモリ26が、少なくとも2つの場所106A、106Bからの赤外線放射104A、104B間の公称の関係を格納する。この公称の関係は、赤外線出力の間で実行される比較における線形関係であることができ、2つの赤外線出力の間の差が、メモリ26に格納された閾値を超えたならば、マイクロプロセッサ24によって診断状態出力がトリガされる。しかし、2つより以上の場所からの赤外線出力を含む関係に加えて、非線形関係を含む、より複雑な公称の関係が使用されてもよい。また、さらに、公称の関係は、測定されるプロセスのプロセス変数、プロセス変数ループ18から受信されるプロセス命令、その他のプロセスにおける他の状況に基づくものであってもよい。これにより、ある例では、ある期間で、場所106A、Bの間の熱変化が特別な態様で変わるが、プロセス運転の他の期間で、そのような変化が診断状況を示すことが期待できる。」

上記記載より、「メモリに格納された、前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の公称の関係」について、及び、該「公称の関係」に基づいて「工業プロセスにおける診断状況を示す診断出力」を提供する点についての記載は認められるものの、前記「公称の関係」が、「工業プロセスの運転状態が感知されて追加的に入力されるプロセス変数に基づく」ものである点、及び、「前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の関係」と「メモリに格納された、前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の公称の関係」との両者に基づいて「工業プロセスにおける診断状況を示す診断出力」が提供される点についての記載は認められず、また、これらの点が当業者において自明の事項であるともいえない。
そうすると、「工業プロセスの運転状態が感知されて追加的に入力されるプロセス変数に基づく」ものである点及び、「前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の関係」と「メモリに格納された、前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の公称の関係」との両者に基づいて「工業プロセスにおける診断状況を示す診断出力」が提供される点については、国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文(以下、「翻訳文等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、本件補正は、翻訳文等に記載された事項の範囲内においてしたものであるとはいえない。
よって、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

(2)なお、本件補正が、翻訳文等に記載された事項の範囲内においてしたものであるとした場合について、以下、検討する。
本件補正は、上記のとおり、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項に限定を付加するものであり、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

明確性について
本件補正発明の「前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の公称の関係」について、上記2(1)(本1)には、

「1つの形態例では、図2に示されるメモリ26が、少なくとも2つの場所106A、106Bからの赤外線放射104A、104B間の公称の関係を格納する。この公称の関係は、赤外線出力の間で実行される比較における線形関係であることができ、2つの赤外線出力の間の差が、メモリ26に格納された閾値を超えたならば、マイクロプロセッサ24によって診断状態出力がトリガされる。しかし、2つより以上の場所からの赤外線出力を含む関係に加えて、非線形関係を含む、より複雑な公称の関係が使用されてもよい。また、さらに、公称の関係は、測定されるプロセスのプロセス変数、プロセス変数ループ18から受信されるプロセス命令、その他のプロセスにおける他の状況に基づくものであってもよい。これにより、ある例では、ある期間で、場所106A、Bの間の熱変化が特別な態様で変わるが、プロセス運転の他の期間で、そのような変化が診断状況を示すことが期待できる。」

旨記載されているが、上記記載より、「公称の関係」が、どのようなものの間の関係であってどのように求めることができるものなのか理解することができないから、「前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の公称の関係」は不明確である。また、上記のとおり「前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の公称の関係」が不明確であるから、「前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の関係およびメモリに格納された、前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の公称の関係に基づいて」、「工業プロセスにおける診断状況を示す診断出力を」提供するとは、「前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の関係」と「メモリに格納された、前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の公称の関係」との両者からどのように「工業プロセスにおける診断状況を示す診断出力を」提供するのか理解できないから、本件補正発明は明確であるとはいえない。
そうすると、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

進歩性について
上記のとおり、本件補正発明は「前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の公称の関係」が、どの様なものであるか理解できず、「前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の関係およびメモリに格納された、前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の公称の関係に基づいて」、「工業プロセスにおける診断状況を示す診断出力を」どの様に提供するのか理解できないが、「前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の公称の関係」が、ある条件下での測定により求められた閾値であり、「前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の関係およびメモリに格納された、前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の公称の関係に基づいて」が、「前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の関係」が前記閾値を超えるか否かに基づくものであるとして、以下、検討する。

(ア)引用文献の記載事項
a 引用文献1
(a)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された引用文献である、特開平10-047312号公報(平成10年2月17日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審で付した。以下同様)

(引1a)「【0011】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を図面に基づいて以下に説明する。
「実施の形態1-温度センサーとして赤外線カメラを使用」:図1は、赤外線カメラを使用した本発明方法の説明図、図3は、本発明方法を説明するフローチャートである。1は油圧ポンプ、2は方向制御弁、3は油圧シリンダーである。油圧シリンダー3のシリンダーチューブ室は、ピストンにより、ロッド側室5とヘッド側室6に区画される。7は油圧シリンダー3のロッドに負荷される荷重である。Pはシリンダーチューブの外部表面温度の測定位置で、aはロッド側室5の位置、bはピストン位置、cはヘッド側室6の位置である。
【0012】8は赤外線カメラで、シリンダーチューブの外部表面温度を測定する。9は演算器で、赤外線カメラ8で測定したシリンダーチューブの外部表面温度測定信号を処理し、その演算結果を警報機10、表示器11、警告灯12に送信する。
【0013】また、温度測定点は、ロッド側室、ピストン部およびヘッド側室について、それぞれ複数とし、その平均温度をロッド側室、ピストン部およびヘッド側室の代表温度として使用してもよい。
【0014】この実施の形態において、内部漏れの検出は次のように行われる。なお、この内部漏れの検出は、設備休止時に行う。
「第1の方法の場合」:
(1)シリンダーロッドに所定の荷重をかけておき、ピストン4の当初位置により方向制御弁を2aまたは2bに切替えピストン4をシリンダーチューブの略中央位置に位置決めする。
(2)油圧ポンプで所定の油圧を維持しながら、シリンダーチューブの外部表面温度を赤外線カメラ8で測定する。測定結果が、演算器9に送信される。;S1(図3参照)
(3)演算器9が、測定位置a,b,cの温度を選出し、b位置の温度t_(b)とaまたはcのうち、温度の低い方の温度t_(l)との差(t_(b)-t_(l)=Δt)を演算する。;S2,この後、予め入力された温度差のしきい値Δt_(p) と前記差Δt大小を比較する。;S3
(4)演算器9は、Δt>Δt_(p) であれば、警報機10または警告灯12に警報指令または点灯指令を出す。;S4,Δt<Δt_(p )であれば、指令を出さない。;S5,なお、前記いずれの場合でも、演算器9は、演算結果を表示器11に送信する。」

(引1b)「【図1】



(b)上記(引1b)より、図1には、「赤外線カメラ8」、「演算器9」、「警報機10」、「表示器11」及び「警告灯12」が関連して動作する点が見て取れ、これらは、(引1a)より、「8は赤外線カメラで、シリンダーチューブの外部表面温度を測定する。9は演算器で、赤外線カメラ8で測定したシリンダーチューブの外部表面温度測定信号を処理し、その演算結果を警報機10、表示器11、警告灯12に送信する」ものであるから、引用文献1には、「赤外線カメラ8」、「演算器9」、「警報機10」、「表示器11」及び「警告灯12」からなる装置が記載されていると認められる。

(c)上記(a)、(b)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「赤外線カメラ8、演算器9、警報機10、表示器11及び警告灯12からなる装置であって、
油圧シリンダー3のシリンダーチューブの外部表面温度の測定位置で、aはロッド側室5の位置、bはピストン位置、cはヘッド側室6の位置において、
赤外線カメラ8が、シリンダーチューブの外部表面温度を測定し、
測定結果が、演算器9に送信され、
演算器9が、測定位置a,b,cの温度を選出し、b位置の温度t_(b) とaまたはcのうち、温度の低い方の温度t_(l )との差(t_(b) -t_(l) =Δt)を演算し、この後、予め入力された温度差のしきい値Δt_(p) と前記差Δt大小を比較し、
Δt>Δt_(p) であれば、警報機10または警告灯12に警報指令または点灯指令を出し、Δt<Δt_(p) であれば、指令を出さない、
油圧シリンダー3の内部漏れの検出を行う装置」

b 引用文献2
(a)本願の優先日前に頒布された特開昭52-140779号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。

(引2a)「以下本発明判別方法の実施例を説明する。先ず第2図に示したごとく油圧機器がシリンダ(1)の場合について説明する。このシリンダ(1)は第1図に示した油圧装置のモデル回路により明らかな如く電磁切換弁(2)、チェック弁(8)を備えた流量調整弁(4)を介してポンプ(5)及びタンク(6)に接続されており、内部にはピストンロッド(11)を有するピストン(12)を内装し、該ピストン(12)のヘッド側とロッド側とにはそれぞれ圧油の出入口(13),(14)を設け、前記切換弁(2)の切換えによりこれら出入口(13),(14)の一方を流入側とし、他方を流出側として用いるものである。
今前記シリンダ(1)はヘッド側出入口(13)に前記ポンプ(5)からの圧油を導き、前記ロッド(11)を押出して仕事をするものであることを考え、説明の都合上前記ヘッド側出入口(13)を流入側、ロッド側出入口(14)を流出側と称し、この動作時に前記ピストン(12)の外周面とシリンダ(1)の内周面との間に生ずるリークが所定以上になれば、所定の仕事が行なえなくなる場合の良否判別について説明すると、前記シリンダ(1)の流入側と流出側とに前記出入口(13),(14)に近接してこれら流入、流出側の油温を検出する油温検出器(15),(16)と圧力を検出する圧力検出器(17),(18)とを設け、流入側出入口(13)における油温(T_(1))の偏位値と、圧力(P_(1))の偏位値及び流出側出入口(14)における油温(T_(2))の偏位値と圧力(P_(2))の偏位値を検出し、これら偏位値の検出による流入流出側の温度差又は温度分布と圧力差とにより前記シリンダ(1)の良否を判別するのである。
尚前記温度差と圧力差との相関関係で良否を判別するに際しては、複数の圧力差のもとにそれぞれ検査運転を各種行ない、圧力差に対する温度差(T_(2)-T_(1))の偏位値を各記録し、予め標準温度差表を形成しておくのであって、所定の圧力差のもとで温度差の偏位値が許容範囲内か否かを判定し、許容範囲外のときリーク量が異常であると判別するのであり、また温度分布と圧力差との相関関係で良否を判別する場合は、前記同様複数の圧力差のもとにそれぞれ検査運転を各種行ない、油温検出箇所におけるリーク量に対する油温(T_(1))(T_(2))の偏位値を各記録し、予め標準温度分布表を形成しておき、各検出箇所の油温(T_(1))、(T_(2))が所定の圧力差のもとで許容範囲内か否かを判定し、許容範囲外のときリーク量が異常であることを判別するのである。」(2頁右上欄18行?3頁左上欄6行)

(b)上記記載から、引用文献2には、次の技術事項が記載されていると認められる。(以下、「技術事項2」という。)
「油圧機器がシリンダ(1)の場合において、
前記シリンダ(1)の流入側と流出側とに前記出入口(13),(14)に近接してこれら流入、流出側の油温を検出する油温検出器(15),(16)と圧力を検出する圧力検出器(17),(18)とを設け、
流入側出入口(13)における油温(T_(1))の偏位値と、圧力(P_(1))の偏位値及び流出側出入口(14)における油温(T_(2))の偏位値と圧力(P_(2))の偏位値を検出し、
これら偏位値の検出による流入流出側の温度差又は温度分布と圧力差とにより前記シリンダ(1)の良否を判別し、
前記温度差と圧力差との相関関係で良否を判別するに際しては、
複数の圧力差のもとにそれぞれ検査運転を各種行ない、
圧力差に対する温度差(T_(2)-T_(1))の偏位値を各記録し、
予め標準温度差表を形成し、
所定の圧力差のもとで温度差の偏位値が許容範囲内か否かを判定し、
許容範囲外のときリーク量が異常であると判別する
シリンダ(1)の良否の判別方法」

(イ)引用発明との対比
a 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(a)引用発明の「油圧シリンダー3のシリンダーチューブ」は、本件補正発明の、「工業プロセスにおける1つの場所」に相当し、引用発明の「赤外線カメラ8、演算器9、警報機10、表示器11及び警告灯12からなる装置」は、「赤外線カメラ8が、シリンダーチューブの外部表面温度を測定し」、「測定結果が、演算器9に送信され」、「演算器9」が、該「測定結果」を演算することにより前記「外部表面温度」の「測定」に応答して警報を発するか否かを決定することにより「内部漏れの検出を行う装置」であるから、本件補正発明の「工業プロセスにおいて診断を実行して応答的に診断状況を見分けるフィールド装置」に相当する。

(b)赤外線カメラは、通常、撮像部を有しており、該撮像部は、赤外線放出を感知する複数の赤外線センサからなる画素がアレー状に配置されているものであるから、引用発明の「赤外線カメラ8」も撮像部を有しており、その撮像部は、本件補正発明の「赤外線放出を感知するように配設された複数の赤外線センサからなる赤外線センサアレー」に相当する。

(c)引用発明の「測定位置a,b,c」は、それぞれ「ロッド側室5の位置」「ピストン位置」及び「ヘッド側室6の位置」であり、引用発明の「演算器9が、測定位置a,b,cの温度を選出し」ており、「測定位置a,b,cの温度」は、「赤外線カメラ8」の撮像部の、「測定位置a,b,c」それぞれの位置に対応したアレー状の画素(センサアレーの小部分)の出力であるから、引用発明の「演算器9が、測定位置a,b,cの温度を選出し」得られた「b位置の温度t_(b)」及び「aまたはcのうち、温度の低い方の温度t_(l)」は、それぞれ本件補正発明の「前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力」及び「前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力」に相当する。
そして、引用発明の「b位置の温度t_(b) とaまたはcのうち、温度の低い方の温度t_(l) との差(t_(b) -t_(l) =Δt)を演算」することは、本件補正発明の「前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力とを比較」することに相当する。

(d)引用発明の「演算器9」は、本件補正発明の「診断回路」に相当し、また、引用発明の「測定位置a,b,cの温度を選出し、b位置の温度t_(b) とaまたはcのうち、温度の低い方の温度t_(l )との差(t_(b )-t_(l )=Δt)を演算し」た結果は、本件補正発明の「この比較によって決定された、前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の関係」に相当する。
引用発明の「温度差のしきい値Δt_(p) 」は、「予め入力された」値であって、予めメモリに格納されていることは明らかである。また、上記のとおり本願発明の「前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の公称の関係」が、ある条件下での測定により求められた閾値であるから、引用発明の「予め入力された温度差のしきい値Δt_(p) 」と、本願発明の「メモリに格納された前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の公称の関係」とは、「メモリに格納された閾値」である点で共通する。
引用発明の「演算器9」は、「赤外線カメラ8」の「シリンダーチューブの外部表面温度」の測定に応答して送信しているといえる。
引用発明の「警報機10または警告灯12に警報指令または点灯指令を出」すことは、本件発明の「診断状況を示す診断出力」に相当し、引用発明は、「警報機10または警告灯12」への「警報指令または点灯指令」は、「Δt>Δt_(p) であれば」「指令を出し」、「Δt<Δt_(p) であれば、指令を出さない」から、引用発明の「演算器9」と、本件補正発明「診断回路」とは、工業プロセスにおける診断状況を示す診断出力を、「この比較によって決定された、前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の関係がメモリに格納された閾値を超えるか否かに基づいて」提供される点で共通する。
そうすると、引用発明の「演算器9」と、本件補正発明「診断回路」とは、「この比較によって決定された、前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の関係がメモリに格納された閾値を超えるか否かに基づいて、工業プロセスにおける診断状況を示す診断出力を応答的に提供するように構成された」点で共通する。

b 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「工業プロセスにおいて診断を実行して応答的に診断状況を見分けるフィールド装置であって、
工業プロセスにおける1つの場所からの赤外線放出を感知するように配設された複数の赤外線センサからなる赤外線センサアレーと、
前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力とを比較し、この比較によって決定された、前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の関係がメモリに格納された閾値を超えるか否かに基づいて、工業プロセスにおける診断状況を示す診断出力を応答的に提供するように構成された診断回路とからなる
フィールド装置。」

(相違点)メモリに格納された閾値が、本件補正発明は、「前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の公称の関係」、即ち、ある条件下での測定により求められた閾値であり、「前記公称の関係が、工業プロセスの運転状態が感知されて追加的に入力されるプロセス変数に基づくものである」に対し、引用発明は、「予め入力された温度差のしきい値Δt_(p )」であってどの様に求められたものか特定されていない点。

(ウ)判断
以下、相違点について検討する。
a 技術事項2は、「油圧機器がシリンダ(1)である場合」の「シリンダ(1)の良否の判定方法」であるから、技術事項2の「シリンダ(1)の良否の判定」は、「工業プロセスにおける診断状況」にであると認められる。

b 技術事項2は、「前記温度差と圧力差との相関関係で良否を判別するに際しては、複数の圧力差のもとにそれぞれ検査運転を各種行ない、圧力差に対する温度差(T_(2)-T_(1))の偏位値を各記録し、予め標準温度差表を形成し」、「所定の圧力差のもとで温度差の偏位値が許容範囲内か否かを判定し、許容範囲外のときリーク量が異常であると判別」しており、「圧力差に対する温度差(T_(2)-T_(1))の偏位値」の記録は、何らかの「メモリ」に格納することで行われることは明らかであるから、技術事項2の予め記録された「圧力差に対する温度差(T_(2)-T_(1))の偏位値」は、「メモリに格納された」「圧力差」という条件下で測定された「温度差(T_(2)-T_(1))の偏位値」であり技術事項2では、この「圧力差に対する温度差(T_(2)-T_(1))の偏位値」が記録された「標準温度差表」に基づいて、「所定の圧力差のもとで温度差の偏位値が許容範囲内か否かを判定し、許容範囲外のときリーク量が異常であると判別する」ことにより「シリンダ(1)の良否」を判別しているから、技術事項2は、「メモリに格納された」「圧力差」という条件下で測定された「温度差(T_(2)-T_(1))の偏位値」を閾値として、該閾値を超えるか否かに基づいて「工業プロセスにおける診断状況」を出力しているといえる。

c 技術事項2において、「シリンダ(1)」を異なる圧力差が感知されれば、その「圧力差に対する温度差(T_(2)-T_(1))の偏位値」を追加的に測定し記録しなければならないことは明らかである。すると、技術事項2の予め記録された「圧力差に対する温度差(T_(2)-T_(1))の偏位値」は、「工業プロセスの運転状態が感知されて追加的に入力されるプロセス変数に基づくものである」といえる。

d 以上a?cより、技術事項2には、「メモリに格納された、圧力差という条件下で測定された温度差(T_(2)-T_(1))の偏位値を閾値として、該閾値を超えるか否かに基づいて、工業プロセスにおける診断状況を出力し、前記温度差(T_(2)-T_(1))の偏位値は、工業プロセスの運転状態が感知されて追加的に入力されるプロセス変数に基づくものである」構成が記載されていると認められる。

e 引用発明において、異なる状況に応じ事前の関係を使用して警報の指示を出すことは、当業者が容易に想到することであり、引用発明の「油圧シリンダー3」の「内部漏れの検出」を行う際の「警報機10または警告灯12に警報指令または点灯指令を出」すか否かを決定するためのしきい値として、技術事項2の閾値を適用した場合、「温度差(T_(2)-T_(1))の偏位値」は、「b位置の温度t_(b) とaまたはcのうち、温度の低い方の温度t_(l )との差(t_(b) -t_(l) =Δt)」となり、これは上記(イ)a(d)で検討したとおり、本件補正発明の「前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の関係」であるから、引用発明に技術事項2に記載された構成を適用し、本件補正発明のごとく構成することは、当業者が容易になし得たことである。

f そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用文献1及び2に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。特に、上記相違点である「公称の関係」に基づくことによる具体的効果は明細書に記載されていない。

g したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
そして、例え特許法17条の2第3項の規定に違反しないとしても、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年12月15日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成29年6月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1、2、4、7?10、13、16、17に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないか、または、この出願の請求項1?17に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2?5に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開平10-047312号公報
引用文献2:特開平11-218442号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2012-058093号公報
引用文献4:特開2000-310577号公報
引用文献5:特開2005-134357号公報(周知技術を示す文献)

特に、請求項1に係る発明については、引用文献1に記載された発明であるか、または、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)ウ(ア)aに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「工業プロセスにおける診断状況を示す診断出力」が、「工業プロセスの運転状態が感知されて追加的に入力されるプロセス変数に基づく」「メモリに格納された、前記赤外線センサアレーの第1の小部分からの出力と前記赤外線センサアレーの第2の小部分からの出力の間の公称の関係に基づいて」提供されるという第2の[理由]2(2)ウ(イ)bで指摘した相違点に相当する前記限定事項を削除したものであるから、本願発明と引用発明との間に相違点はないから、本願発明は引用発明である。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条1項3号に該当するから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-10-02 
結審通知日 2018-10-03 
審決日 2018-10-16 
出願番号 特願2016-516988(P2016-516988)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01M)
P 1 8・ 121- Z (G01M)
P 1 8・ 113- Z (G01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福田 裕司  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
福島 浩司
発明の名称 赤外線感知を利用する工業プロセス診断  
代理人 阪本 清孝  
代理人 田邉 壽二  

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