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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1349586
審判番号 不服2018-6929  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-22 
確定日 2019-04-01 
事件の表示 特願2016- 48158「セーフティクリティカルなエラーを処理するための方法と装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月23日出願公開、特開2016-170786、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成28年3月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年3月12日(以下,「優先日」という。),ドイツ連邦共和国)の外国語書面出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 5月10日 :翻訳文の提出
平成29年 2月28日付け:拒絶理由通知書
平成29年 5月11日 :意見書,手続補正書の提出
平成29年10月31日付け:拒絶理由通知書
平成30年 2月 1日 :意見書,手続補正書の提出
平成30年 2月28日付け:拒絶査定(原査定)
平成30年 5月22日 :審判請求書の提出


第2 原査定の概要
(特許法第29条2項について)
原査定は,本願請求項1-15に係る発明は,以下の引用文献1-4に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとしたものである。

引用文献等一覧
1.特開2011-46337号公報
2.特開平7-43257号公報
3.特開2012-78947号公報
4.特開平7-253897号公報


第3 本願発明
本願請求項1-15に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明15」という。)は,平成30年2月1日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-15に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
車両の装置(150)を動作させるためのデバイス(100)において、
第1の制御信号(104)によって制御されるように構成されている第1のコントローラ(101)と、
第2の制御信号(105)によって制御されるように構成されている第2のコントローラ(102)と、
前記第1のコントローラ及び前記第2のコントローラに接続されて動作する制御ユニット(103)と、
を含んでおり、
前記第1のコントローラ及び前記第2のコントローラは、いずれも前記装置(150)を動作させるように構成されており、
前記第1のコントローラは、第1のパワードメイン(210)において動作するように構成されており、
前記第2のコントローラは、第2のパワードメイン(220)において動作するように構成されており、
前記制御ユニット(103)は、前記第1のパワードメイン(210)において実施されている第1のサブ回路(203a)と、前記第2のパワードメイン(220)において実施されている第2のサブ回路(203b)と、を含んでおり、
前記第1のサブ回路(203a)は、前記第1の制御信号(104)によって前記第1のコントローラ(101)に接続され、
前記第2のサブ回路(203b)は、前記第2の制御信号(105)によって前記第2のコントローラ(102)に接続され、
前記第1のコントローラ(101)は、警告信号又は状態信号(304)を前記第2のサブ回路(203b)に送信し、
前記第2のコントローラ(102)は、警告信号又は状態信号(305)を前記第1のサブ回路(203a)に送信し、
前記第1のパワードメイン(210)の供給電圧は、前記第2のパワードメイン(220)の供給電圧と異なる、
デバイス(100)。」

なお,本願発明2-15の概要は以下のとおりである。

本願発明2-8は,本願発明1を減縮した発明である。

本願発明9は,本願発明1-8のデバイスによって車両の装置を動作させるための方法の発明であって,本願発明1の発明特定事項を全て有するものである。

本願発明10-12は,本願発明9を減縮した発明である。

本願発明13は,本願発明1-8のデバイスを備えるシステムの発明であって,本願発明1の発明特定事項を全て有するものである。

本願発明14は,本願発明13を減縮した発明である。

本願発明15は,本願発明1-8のデバイスを備えるシステムの発明であって,本願発明1の発明特定事項を全て有するものである。


第4 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献1には,図面とともに,次の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。)。

「【0014】
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、パーキングロックアクチュエータ用制御回路1は自動車の停止(駐車)時に制動を行うパーキングロック装置に用いられるものであって、自動車の車輪に制動力を付勢する電動アクチュエータ2と、バッテリ(Battery)3と、自動車の操作に応じて電動アクチュエータ2の駆動制御を行うための制御信号を出力するECU4と、ECU4からの制御信号に基づいて電動アクチュエータ2の駆動を制御するコントロール部5とを備えている。
・・・(中略)・・・
【0017】
バッテリ3-ECU4間の電源ラインには、ヒューズ8の他にイグニションスイッチ(Ignition Switch)9が設けられている。すなわち、ECU4は、イグニションスイッチ9がオンの場合にバッテリ3から電力が供給されて駆動するようになっている。
ECU4には、後述するメイン側コントロール部(主コントロール部)10とバックアップ側コントロール部(副コントロール部)20の動作が正常であるか否かを監視するための監視回路30が設けられている。
【0018】
コントロール部5は、メイン側コントロール部10とバックアップ側コントロール部20の2つのコントロール部で構成されており、それぞれバッテリ3にヒューズ8、およびリレー31a,31b(メイン側リレー31a、バックアップ側リレー31b)を介して接続されている。
ここで、ECU4は、バッテリ3-メイン側コントロール部10間の電源ラインに設けられたメイン側リレー31aと、バッテリ3-バックアップ側コントロール部20間の電源ラインに設けられたバックアップ側リレー31bとに接続している。すなわち、ECU4は、各コントロール部10,20の動作状況に応じて各リレー31a,31bのオン/オフを切替えている。
【0019】
より具体的には、メイン側コントロール部10の動作が監視回路30によって正常であると判断された場合、ECU4は、メイン側リレー31aをオンしてメイン側コントロール部10を駆動させる。一方、監視回路30によってメイン側コントロール部10の動作が異常であると判断された場合、メイン側リレー31aに代わってバックアップ側リレー31bをオンし、バックアップ側コントロール部20を駆動させる。
【0020】
メイン側コントロール部10は、メイン側電源回路14と、ECU4に接続されECU4からの制御信号が入力されるメイン側入力回路11と、メイン側入力回路11の出力信号が入力されるメイン側CPU(Central Processing Unit)12と、メイン側CPU12に接続され電動アクチュエータ2に電流を供給するメイン側出力回路13とを備えている。
メイン側電源回路14は、バッテリ3の電圧(この実施形態においては12[V])を各部品が動作するための電圧(例えば、5[V])に変換するためのものである。
【0021】
メイン側入力回路11は、ECU4からの制御信号の波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号をデジタル信号に変換する等の機能を有しており、所定の信号をメイン側CPU12に出力する。
また、メイン側入力回路11は、バッテリ3-ECU4間の電源ラインに接続されてお
り、イグニションスイッチ9がオンするとバッテリ3から電力が供給されて駆動するようになっている。
さらに、メイン側入力回路11-ECU4間の信号ラインには、切替スイッチ7が接続されている。すなわち、メイン側入力回路11は、切替スイッチ7の動作に応じてメイン側CPU12に所定の信号を出力する。
【0022】
メイン側CPU12は、メイン側入力回路11から入力される信号を演算処理し、この演算結果をメイン側出力回路13に出力している。
メイン側出力回路13は、メイン側CPU12の演算結果に基づいて所定の駆動電流を電動アクチュエータ2の電動モータ6に供給する。すなわち、メイン側出力回路13は、メイン側CPU12の演算結果に基づいて電動モータ6を正転させる方向に電流を流したり、逆転させる方向に電流を流したりする。これによって、パーキングロックの実行/解除が行われる。
・・・(中略)・・・
【0025】
一方、バックアップ側コントロール部20は、バックアップ側電源回路24と、ECU4、およびメイン側コントロール部10のメイン側入力回路11に接続されたバックアップ側入力回路21と、バックアップ側入力回路11の出力信号が入力されるバックアップ側CPU22と、バックアップ側CPU22に接続され電動アクチュエータ2に電流を供給するバックアップ側出力回路23とを備えている。
【0026】
バックアップ側電源回路24の機能は、メイン側コントロール部10のメイン側電源回路14と同様である。
バックアップ側入力回路21は、ECU4からの制御信号の波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号をデジタル信号に変換する等の機能を有しており、所定の信号をバックアップ側CPU22に出力する。
ここで、バックアップ側入力回路21-ECU4間の信号ラインには、切替スイッチ7が接続されていない。すなわち、バックアップ側入力回路21は、切替スイッチ7の動作に応じてバックアップ側CPU22に信号出力を行うことがない。
【0027】
バックアップ側CPU22は、バックアップ側入力回路21から入力される信号を演算処理し、この演算結果をバックアップ側出力回路23に出力している。
バックアップ側出力回路23は、バックアップ側CPU22の演算結果に基づいて所定の駆動電流を電動アクチュエータ2の電動モータ6に供給する。すなわち、バックアップ側出力回路23は、バックアップ側CPU12の演算結果に基づいて電動モータ6に電流を流し、駆動させる。」

(2)上記記載から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。

ア パーキングロックアクチュエータ用制御回路は,自動車の車輪に制動力を付勢する電動アクチュエータと,バッテリと,電動アクチュエータの駆動制御を行うための制御信号を出力するECUと,ECUからの制御信号に基づいて電動アクチュエータの駆動を制御するコントロール部とを備えている(【0014】)。

イ コントロール部は、メイン側コントロール部とバックアップ側コントロール部で構成されている(【0018】)。

ウ メイン側コントロール部は,ECUに接続されECUからの制御信号が入力されるメイン側入力回路を備えている(【0020】)。
また,バックアップ側コントロール部は,ECUおよびメイン側コントロール部のメイン側入力回路に接続されたバックアップ側入力回路を備えている(【0025】)。

エ メイン側コントロール部は,メイン側入力回路の出力信号が入力されるメイン側CPUと,メイン側CPUに接続され電動アクチュエータに駆動電流を供給するメイン側出力回路とを備えている(【0020】,【0022】)。
また,バックアップ側コントロール部は,バックアップ側入力回路の出力信号が入力されるバックアップ側CPUと,バックアップ側CPUに接続され電動アクチュエータに駆動電流を供給するバックアップ側出力回路とを備えている(【0025】,【0027】)。

オ メイン側コントロール部は,バッテリの電圧を各部品が動作するための電圧に変換するためのメイン側電源回路を備えている(【0020】)。
また,バックアップ側コントロール部は,メイン側コントロール部のメイン側電源回路と同様の機能を有するバックアップ側電源回路を備えている(【0025】,【0026】)。

カ ECUは,バッテリから電力が供給されて駆動するようになっている(【0017】)。
また,ECUは,メイン側コントロール部とバックアップ側コントロール部の動作が正常であるか否かを監視するための監視回路が設けられている(【0017】)。

(3)上記(1),(2)から,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 自動車の車輪に制動力を付勢する電動アクチュエータと,バッテリと,電動アクチュエータの駆動制御を行うための制御信号を出力するECUと、ECUからの制御信号に基づいて電動アクチュエータの駆動を制御するコントロール部とを備えたパーキングロックアクチュエータ用制御回路であって,
前記コントロール部は,メイン側コントロール部と,バックアップ側コントロール部で構成されており,
前記メイン側コントロール部は,ECUに接続されECUからの制御信号が入力されるメイン側入力回路を備えており,
前記バックアップ側コントロール部は,ECUおよびメイン側コントロール部のメイン側入力回路に接続されたバックアップ側入力回路を備えており,
前記メイン側コントロール部及びバックアップ側コントロール部は,いずれも前記電動アクチュエータに駆動電流を供給するものであり,
前記メイン側コントロール部は,バッテリの電圧を各部品が動作するための電圧に変換するためのメイン側電源回路を備えており,
前記バックアップ側コントロール部は,メイン側コントロール部のメイン側電源回路と同様の機能を有するバックアップ側電源回路を備えており,
前記ECUは,前記バッテリから電力が供給されて駆動するようになっており,前記メイン側コントロール部と前記バックアップ側コントロール部の動作が正常であるか否かを監視するための監視回路が設けられている,
パーキングロックアクチュエータ用制御回路。」

2 引用文献2について
(1)原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献2には,図面とともに,次の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。)。

「【0016】
§1 本発明に係るシステム制御装置の基本構成
図1は、本発明に係るシステム制御装置の基本構成を示すブロック図である。この装置は、2つのLSIチップから構成されている。第1のLSIチップは、ホスト側プロセッシングユニット100であり、第2のLSIチップは、サブ側プロセッシングユニット200である。図において、これらの各ブロックを縁取りしているハッチングパターンは、後述するように、各部が用いる電源系およびクロック系の分類を示すものである。
【0017】ホスト側プロセッシングユニット100は、主たるシステム制御を行うためのホスト処理装置を1チップに集積化したものである。たとえば、自動車の制御を行うための車載システム制御装置では、通常走行時における燃料噴射制御や点火時期制御などの主たる制御が、このホスト側プロセッシングユニット100によって実行される。一方、サブ側プロセッシングユニット200は、従たるシステム制御を行うためのサブ処理装置210と、通常は待機状態にあって、異常発生時に応急処置として臨時のシステム制御を行うための待機系処理装置220と、を1チップに集積化したものである。サブ処理装置210は、ホスト処理装置に対して並列的に処理動作を行うことができ、ホスト処理装置の処理を助けるための周辺処理装置として機能する。また、待機系処理装置220は、フェイルセーフ機能を果たす装置であり、ホスト処理装置やサブ処理装置210が正常に動作している間は待機状態にあり、これらに異常が発生した場合に、必要最小限の制御を行う機能をもった装置である。たとえば、車載システム制御装置では、この待機系処理装置220は、自動車を整備工場まで運転してゆくために必要な最小限の制御を行う機能をもっていれば十分であり、マイクロプロセッサを用いずに、論理素子の組み合わせ回路によって構成するのが一般的である。
・・・(中略)・・・
【0019】本発明のもうひとつの特徴は、各処理装置に供給する電源系およびクロック系をそれぞれ2系統に分けた点にある。まず、電源系について説明すると、ホスト側プロセッシングユニット100には、第1の電源VCC1が供給され、サブ側プロセッシングユニット200には、第2の電源VCC2が供給される。別言すれば、チップごとに用いる電源系を分離したことになる。これにより、一方のチップの電源に異常が発生したとしても、他方のチップがその影響を受けることはない。次に、クロック系について説明すると、ホスト側プロセッシングユニット100内のホスト処理装置、およびサブ側プロセッシングユニット200内のサブ処理装置210に対しては、第1のクロックCLK1が供給され、サブ側プロセッシングユニット200内の待機系処理装置220に対しては、第2のクロックCLK2が供給される。別言すれば、通常時に動作する処理装置と、異常時に動作する処理装置と、でクロック系を分離したことになる。なお、この実施例では、リセット系についてもクロック系と同様の分離を行っている。」

「【0022】§2 故障の自己判定機能
図1に示すシステム制御装置は、前述のように、ホスト処理装置(ホスト側プロセッシングユニット100)、サブ処理装置210、待機系処理装置220、の3つの処理装置を備えているが、これら各処理装置は、それぞれ故障自己判定実行回路101,211,221を内蔵しており、自己に故障が発生した場合には他の処理装置にその旨を通知する機能を有する。すなわち、図1のブロック図において、ホスト側プロセッシングユニット100内の故障自己判定実行回路101は、ホスト処理装置が正常に動作しているか否かを診断し、故障と判定された場合には、ホスト側プロセッシングユニット故障検出信号を出力し、これをサブ側プロセッシングユニット200へ伝達する。また、サブ側プロセッシングユニット200内の故障自己判定実行回路211および221は、それぞれサブ処理装置210および待機系処理装置220が正常に動作しているか否かを診断し、故障と判定された場合には、OR回路215に故障検出信号を出力する。こうして、いずれかが故障した場合には、OR回路215から、サブ側プロセッシングユニット故障検出信号が出力され、これがホスト側プロセッシングユニット100に伝達される。」

(2)上記(1)から,引用文献2には,次の技術的事項が記載されていると認められる。

「 2つのLSIチップから構成されるシステム制御装置において,
第1のLSIチップは,主たるシステム制御を行うためのホスト処理装置を1チップに集積化したホスト側プロセッシングユニットであり,
第2のLSIチップは,従たるシステム制御を行うためのサブ処理装置と,フェイルセーフ機能を果たす装置であって,通常は待機状態にあり異常発生時に応急処置として臨時のシステム制御を行うための待機系処理装置とを1チップに集積化したサブ側プロセッシングユニットであり,
前記ホスト側プロセッシングユニットは,第1の電源VCC1が供給され,前記サブ側プロセッシングユニットには,第2の電源VCC2が供給され,
前記ホスト側プロセッシングユニット内の前記ホスト処理装置及び前記サブ側プロセッシングユニット内の前記サブ処理装置に対しては,第1のクロックCLK1が供給され,前記サブ側プロセッシングユニット内の前記待機系処理装置に対しては,第2のクロックCLK2が供給され,
前記ホスト処理装置,前記サブ処理装置,及び前記待機系処理装置は、それぞれ故障自己判定実行回路を内蔵しており,自己に故障が発生した場合には他の処理装置にその旨を通知する機能を有すること。」

3 引用文献3について
(1)原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献3には,図面とともに,次の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。)。

「【0015】
以下、本発明について図面を参照して説明する。図1は、本発明を説明するための2重系構成システムの概略図である。
【0016】
同図において、1系装置1(制御装置)と2系装置8(制御装置)は、それぞれ上位装置15とネットワーク(1系、2系)を介して接続される。それぞれの装置は1系装置1、2系装置8は共に同構成で同動作をするが、主として一方の系が主系となり、入出力制御を行う。もう一方は従系となる。」

「【0031】
以下、その適用例について図2を参照して説明する。同図において、冗長2重化構成の1系装置(図1の1系装置1に対応)のCPU31および両系起動回路29(図1の再起動回路2に対応)が搭載されたCPUボード17、2系装置(図1の2系装置8に対応)のCPU32および再起動回路30(図1の再起動回路9に対応)が搭載されたCPUボード23がある。それぞれのCPUボード17、23は、相互に監視を行うため、両系起動回路29,30部分にて系間接続33される。CPU31、32は、例えば、鉄道システムにおける地上装置の一つである信号機を制御するものである。
【0032】
再起動回路29、30は、相手系ウォッチドックタイマ状態監視部18、27(図1の相手系暴走監視部5、相手系暴走監視部10に対応)と自系再起動許可設定部19、26(自系再起動許可部4、自系再起動許可部13に対応)と、相手系再起動許可設定部20、25(相手系再起動許可部6、相手系再起動許可部11に対応)と、自系ウォッチドックタイマ状態監視部21、24(自系暴走監視部3、自系暴走監視部12に対応)およびアンド回路AND、リセット発行カウンタ22、28(図1の再起動カウンタ7、14に対応)から構成されている。そして、相手系ウォッチドックタイマ状態監視部18、27(図1の相手系暴走監視部5、相手系暴走監視部10に対応)と自系再起動許可設定部19、26(自系再起動許可部4、自系再起動許可部13に対応)と、相手系再起動許可設定部20、25(相手系再起動許可部6、相手系再起動許可部11に対応)と、自系ウォッチドックタイマ状態監視部21、24(自系暴走監視部3、自系暴走監視部12に対応)は、例えばレジスタにて構成することができる。
【0033】
つまり、両系統の装置が系間接続33により監視する内容は、自系ウォッチドックタイマ(以下、WDTとする)状態監視部21、24の状態監視と、相手系WDT状態監視部18、27の状態監視と、自系両系再起動許可設定部19、26の監視と、相手系両系再起動許可設定部20、25の監視である。これらの成立状態が、例えば20秒以上継続すると、それぞれの系のCPU31、32に対してリセットが発行され、両系装置が再起動をするという仕組みである。」

(2)上記(1)から,引用文献3には,次の技術的事項が記載されていると認められる。

「 1系装置と2系装置がそれぞれ上位装置とネットワークを介して接続された冗長2重化構成のシステムにおいて,
1系装置のCPUおよび両系起動回路が搭載されたCPUボードと,2系装置のCPUおよび再起動回路が搭載されたCPUボードとは,相互に監視を行うため、両系起動回路部分にて系間接続されており,
再起動回路は,相手系ウォッチドックタイマ状態監視部,自系再起動許可設定部,相手系再起動許可設定部、自系ウォッチドックタイマ状態監視部,アンド回路AND,リセット発行カウンタから構成されており,
前記1系装置及び前記2系装置は,前記自系ウォッチドックタイマ状態監視部,前記相手系ウォッチドックタイマ状態監視部,前記自系両系再起動許可設定部,及び前記相手系両系再起動許可設定部の監視の結果に応じて,自身の系のCPUに対してリセット信号を発行すること。」

4 引用文献4について
(1)原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献4には,図面とともに,次の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。)。

「【0011】図1参照
図1は本発明の実施例に係るI/O回路を有するシステムの構成図である。図1において、1はCPU等の半導体装置が実装されているメインボードであり、15はメインボード1に実装されている半導体装置等へ給電する第1の直流電源である。2はメインボード1に搭載されているI/O回路として機能するサブボードであり、21はサブボード2に実装されているI/O回路の出力バッファであり、25はサブボード2に実装されている半導体装置等へ給電する第2の直流電源である。出力バッファ21はP形MOSトランジスタ22とN形MOSトランジスタ23とからなるCMOSトランジスタを使用して構成され、第2の直流電源25より給電され、出力端X点より外部端子13に出力を送出する。V_(DD)とV_(SS)とは第2の直流電源25から出力バッファ21に印加される電位である。」

「【0019】さらに、本発明は、3.3Vや5.0V等異なる電源電圧で動作するLSIの出力同士を直接接続して、バスを構成するために使用することができる。
・・・(中略)・・・
【0021】図4参照
図4に、上記の欠点を解消するために、本発明を使用した例を示す。このように、低い電源電圧で動作するLSIのドライバ21のBG1の電位を、高い電圧の電源35の電圧と等しくすると、ドライバ31がドライブ状態でドライバ21が非ドライブ状態のとき、ドライバ21の寄生ダイオードに電流が流れることはなくなる。V_(X)がV_(BG1)と等しいかまたはこれより低いからである。そのため、消費電力が増大したり、ドライバ21が破壊するおそれはなくなる。」

「【図4】




(2)上記(1)から,引用文献4には,次の技術的事項が記載されていると認められる。

「 1つのメインボード上で異なる電圧で動作するLSIの出力同士を直接接続してバスを構成すること。」


第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
ア 本願発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「自動車の車輪に制動力を付勢する電動アクチュエータ」は,本願発明1の「車両の装置(150)」に相当する。
そして,引用発明である「パーキングロックアクチュエータ用制御回路」は,「ECUからの制御信号に基づいて電動アクチュエータの駆動を制御するコントロール部とを備えた」ものであり,当該電動アクチュエータを「動作させるための」ものであるといえるから,引用発明である「パーキングロックアクチュエータ用制御回路」と本願発明1である「デバイス」とは,後記する点で相違するものの,「車両の装置(150)を動作させるための」ものである点において一致する。

(イ)引用発明の「コントロール部」は,「ECUからの制御信号に基づいて電動アクチュエータの駆動を制御する」ものであり,また,当該「コントロール部」を構成する「メイン側コントロール部」及び「バックアップ側コントロール部」は,それぞれ「ECUに接続されECUからの制御信号が入力されるメイン側入力回路」及び「ECUに接続されECUからの制御信号が入力されるバックアップ側入力回路」を備えていることから,引用発明の「メイン側コントロール部」及び「バックアップ側コントロール部」は,ECUから入力される制御信号によって制御されるものであるといえ,当該「メイン側コントロール部」及び「バックアップ側コントロール部」に入力される制御信号のそれぞれが,本願発明1の「第1の制御信号(104)」及び「第2の制御信号(105)」に相当するといえる。
よって,引用発明の「メイン側コントロール部」と本願発明1の「第1のコントローラ(101)」とは,「第1の制御信号(104)によって制御されるように構成されている」点において一致し,また,引用発明の「バックアップ側コントロール部」と本願発明1の「第2のコントローラ(102)」とは,「第2の制御信号(105)によって制御されるように構成されている」点において一致するといえる。

(ウ)前記(イ)でも検討したとおり,引用発明の「メイン側コントロール部」及び「バックアップ側コントロール部」は,それぞれ「ECUに接続されECUからの制御信号が入力されるメイン側入力回路」及び「ECUに接続されECUからの制御信号が入力されるバックアップ側入力回路」を備えていることから,引用発明の「ECU」は,前記メイン側コントロール部及び前記バックアップ側コントロール部に接続されて動作するものであるといえるから,引用発明の「ECU」と本願発明1の「制御ユニット(103)」とは,「前記第1のコントローラ及び前記第2のコントローラに接続されて動作する」点において一致するといえる。

(エ)引用発明の「メイン側コントロール部」及び「バックアップ側コントロール部」は,「いずれも前記電動アクチュエータに駆動電流を供給するものであ」ることから,いずれも当該電動アクチュエータを動作させるものであるといえる。
よって,引用発明の「メイン側コントロール部及びバックアップ側コントロール部」と本願発明1の「前記第1のコントローラ及び前記第2のコントローラ」とは,「いずれも前記装置(150)を動作させるように構成されて」いる点において一致するといえる。

(オ)引用発明の「メイン側コントロール部」は,「バッテリの電圧を各部品が動作するための電圧に変換するためのメイン側電源回路を備えて」いることから,当該変換された電圧において動作するものであるといえ,同様に,引用発明の「バックアップ側コントール部」は,「メイン側コントロール部のメイン側電源回路と同様の機能を有するバックアップ側電源回路を備えて」いることから,同様に変換された電圧において動作するものであるといえる。してみると,メイン側コントロール部とバックアップ側コントロール部は,それぞれ別個に変換された電圧において動作する,即ち,それぞれ別個の「パワードメインにおいて動作する」ものであるといえ,この場合の,メイン側コントロール部が動作するパワードメイン及びバックアップ側コントロール部が動作するパワードメインが,それぞれ本願発明1の「第1のパワードメイン(210)」及び「第2のパワードメイン(220)」に相当するといえる。

イ 以上のことから,本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。

(一致点)
「 車両の装置(150)を動作させるためのデバイス(100)において、
第1の制御信号(104)によって制御されるように構成されている第1のコントローラ(101)と、
第2の制御信号(105)によって制御されるように構成されている第2のコントローラ(102)と、
前記第1のコントローラ及び前記第2のコントローラに接続されて動作する制御ユニット(103)と、
を含んでおり、
前記第1のコントローラ及び前記第2のコントローラは、いずれも前記装置(150)を動作させるように構成されており、
前記第1のコントローラは、第1のパワードメイン(210)において動作するように構成されており、
前記第2のコントローラは、第2のパワードメイン(220)において動作するように構成されている、
デバイス(100)。」

(相違点)
(相違点1)
本願発明1は,「前記制御ユニット(103)は、前記第1のパワードメイン(210)において実施されている第1のサブ回路(203a)と、前記第2のパワードメイン(220)において実施されている第2のサブ回路(203b)と、を含んでおり、
前記第1のサブ回路(203a)は、前記第1の制御信号(104)によって前記第1のコントローラ(101)に接続され、
前記第2のサブ回路(203b)は、前記第2の制御信号(105)によって前記第2のコントローラ(102)に接続され、
前記第1のコントローラ(101)は、警告信号又は状態信号(304)を前記第2のサブ回路(203b)に送信し、
前記第2のコントローラ(102)は、警告信号又は状態信号(305)を前記第1のサブ回路(203a)に送信」するものであるのに対し,引用発明は,そのような特定がなされていない点。

(相違点2)
本願発明1は,「前記第1のパワードメイン(210)の供給電圧は、前記第2のパワードメイン(220)の供給電圧と異なる」のに対し,引用発明は,そのような特定がなされていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討すると,相違点1に係る本願発明1の,「前記制御ユニット(103)は、前記第1のパワードメイン(210)において実施されている第1のサブ回路(203a)と、前記第2のパワードメイン(220)において実施されている第2のサブ回路(203b)と、を含んでおり、
前記第1のサブ回路(203a)は、前記第1の制御信号(104)によって前記第1のコントローラ(101)に接続され、
前記第2のサブ回路(203b)は、前記第2の制御信号(105)によって前記第2のコントローラ(102)に接続され、
前記第1のコントローラ(101)は、警告信号又は状態信号(304)を前記第2のサブ回路(203b)に送信し、
前記第2のコントローラ(102)は、警告信号又は状態信号(305)を前記第1のサブ回路(203a)に送信」するとの構成(以下,「相違点1に係る構成」という。)は,上記引用文献2-4のいずれにも記載されておらず,当業者にとって自明な事項でもない。
また,引用発明に上記引用文献2-4に記載の技術的事項のいずれを適用しても,本願発明1の上記相違点1に係る構成を想到することは適宜なし得たとすることもできない。
したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2-8について
本願発明2-8は,本願発明1を減縮した発明であり,よって,本願発明1の上記相違点1に係る構成と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても引用発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 本願発明9について
本願発明9は,本願発明1-8のデバイスによって車両の装置を動作させるための方法の発明であって,本願発明1の発明特定事項を全て有するものであり,よって,本願発明1の上記相違点1に係る構成と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても引用発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 本願発明10-12について
本願発明10-12は,本願発明9を減縮した発明であり,よって,本願発明1の上記相違点1に係る構成と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても引用発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

5 本願発明13について
本願発明13は,本願発明1-8のデバイスを備えるシステムの発明であって,本願発明1の発明特定事項を全て有するものであり,よって,本願発明1の上記相違点1に係る構成と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても引用発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

6 本願発明14について
本願発明14は,本願発明13を減縮した発明であり,よって,本願発明1の上記相違点1に係る構成と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても引用発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

7 本願発明15について
本願発明15は,本願発明1-8のデバイスを備えるシステムの発明であって,本願発明1の発明特定事項を全て有するものであり,よって,本願発明1の上記相違点1に係る構成と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても引用発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり,本願発明1-15は,当業者が引用発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-03-18 
出願番号 特願2016-48158(P2016-48158)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井上 宏一  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 須田 勝巳
▲はま▼中 信行
発明の名称 セーフティクリティカルなエラーを処理するための方法と装置  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 前川 純一  
代理人 上島 類  
代理人 二宮 浩康  

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