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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1349609
審判番号 不服2018-1221  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-30 
確定日 2019-03-07 
事件の表示 特願2014-218377「偏光板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月12日出願公開、特開2015- 28662〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成25年3月19日に出願した特願2013-56412号の一部を平成26年10月27日に新たな特許出願としたものであって、平成28年8月30日付けで拒絶理由が通知され、同年10月27日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成29年3月30日付けで拒絶理由が通知され、同年5月25日付けで意見書が提出され、平成29年10月30日付けで拒絶査定がなされ、平成30年1月30日付けで本件拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)が提出された。

第2 本件補正について
1 本件補正の内容
(1) 平成28年10月27日付けの手続補正書により補正された(以下、「本件補正前」という。)特許請求の範囲の請求項1?5は、以下のとおりである。

「【請求項1】
樹脂基材と該樹脂基材の片側に形成されたポリビニルアルコール系樹脂層とを有する積層体を延伸、染色して、該樹脂基材上に厚みが10μm以下の偏光膜を作製する工程と、
該偏光膜の該樹脂基材と反対側に第1の保護フィルムを積層する工程と、
樹脂基材を剥離して、偏光膜の該樹脂基材を剥離した側に第2の保護フィルムを積層する工程と、を含み、
該第1の保護フィルムを水系接着剤を介して積層し、該第2の保護フィルムを水分率が10%以下の接着剤を介して積層する、
偏光板の製造方法。
【請求項2】
前記水分率が10%以下の接着剤が活性エネルギー線硬化型接着剤である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1の保護フィルムを積層した後、および、前記樹脂基材を剥離する前に、該樹脂基材と前記偏光膜と該第1の保護フィルムとの積層体を加熱する工程をさらに含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記加熱温度が50℃以上である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第1の保護フィルムの透湿度が100g/m^(2)・24h以下である、請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?3は、以下のとおりである。(下線は、当合議体が付したものであり、本件補正による補正箇所を示す。)

「 【請求項1】
樹脂基材と該樹脂基材の片側に形成されたポリビニルアルコール系樹脂層とを有する積層体を延伸、染色して、該樹脂基材上に厚みが10μm以下の偏光膜を作製する工程と、
該偏光膜の該樹脂基材と反対側に第1の保護フィルムを積層する工程と、
樹脂基材を剥離して、偏光膜の該樹脂基材を剥離した側に第2の保護フィルムを積層する工程と、を含み、
該第1の保護フィルムを水系接着剤を介して積層し、該第2の保護フィルムを水分率が10%以下の接着剤を介して積層し、
前記第1の保護フィルムを積層した後、および、前記樹脂基材を剥離する前に、該樹脂基材と前記偏光膜と該第1の保護フィルムとの積層体を加熱する工程をさらに含み、
前記第1の保護フィルムの透湿度が100g/m^(2)・24h以下である、
偏光板の製造方法。
【請求項2】
前記水分率が10%以下の接着剤が活性エネルギー線硬化型接着剤である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記加熱温度が50℃以上である、請求項1に記載の製造方法。」

2 補正の適否について
(1) 本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ、本件補正前の請求項2は、請求項1の記載を引用して記載され、本件補正前の請求項3は、請求項1または2の記載を引用して記載され、本件補正前の請求項4は、請求項3の記載を引用して記載され、本件補正前の請求項5は、請求項1から4のいずれかの記載を引用して記載されたものである。
また、本件補正後の請求項2は、請求項1の記載を引用して記載され、本件補正後の請求項3は、請求項1の記載を引用して記載されたものである。

(2) したがって、本件補正前の請求項5に係る発明のうち、請求項1及び請求項3の記載を引用して記載された請求項5に係る発明と、本件補正後の請求項1に係る発明は、発明として相違するところがない。また、本件補正前の請求項5に係る発明のうち、請求項1、請求項2及び請求項3の記載を引用して記載された請求項5に係る発明と、本件補正後の請求項2に係る発明は、発明として相違するところがない。さらに、本件補正前の請求項5に係る発明のうち、請求項1、請求項3及び請求項4の記載を引用して記載された請求項5に係る発明と、本件補正後の請求項3に係る発明は、発明として相違するところがない。
してみると、本件補正後の請求項1?3は、上記の本件補正前の請求項5に係る発明の一部である、請求項1及び請求項3の記載を引用して記載された請求項5に係る発明、請求項1、請求項2及び請求項3の記載を引用して記載された請求項5に係る発明、請求項1、請求項3及び請求項4の記載を引用して記載された請求項5に係る発明を、それぞれ本件補正後の請求項1及び請求項1の記載を引用して記載された請求項2、3として書き改めて記載したものである。

(3) 上記(2)のとおりであるから、結局、本件補正は、本件補正前の請求項5に係る発明のうち、請求項1及び請求項3の記載を引用して記載された請求項5に発明、請求項1、請求項2及び請求項3の記載を引用して記載された請求項5に係る発明、請求項1、請求項3及び請求項4の記載を引用して記載された請求項5に係る発明を、それぞれ本件補正後の請求項1?3とするとともに、本件補正前の請求項1?4に係る発明及び本件補正前の請求項5に係る発明のうち上記以外の請求項5に係る発明を削除するものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる、同法第36条第5項に規定する請求項の削除を目的とする補正である。

(4) したがって、請求項1?3に係る本件補正は適法になされたものである。

3 本件出願の請求項1に係る発明
前記2で述べたとおり、本件補正は適法になされたものであるから、本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成30年1月30日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(前記1(2)【請求項1】参照。)。

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の引用例に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用例1:特開2012-256018号公報
引用例2:特開2013-11774号公報(周知技術を示す文献)
引用例3:特開2012-181279号公報(周知技術を示す文献)
引用例4:特開2012-53078号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用例の記載及び引用発明
1 引用例の記載
原査定の拒絶の理由で引用された特開2012-256018号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は、当合議体が付したものである。)
(1) 「【請求項1】
熱可塑性樹脂基材上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体を作製する工程と、
該積層体のポリビニルアルコール系樹脂層をヨウ素で染色する工程と、
該積層体を延伸する工程と、
該染色工程および延伸工程の後に、該積層体のポリビニルアルコール系樹脂層表面を透湿度が100g/m^(2)・24h以下の被覆フィルムで被覆し、この状態で該積層体を加熱する工程と
を含む、偏光膜の製造方法。
【請求項2】
前記加熱温度が60℃以上である、請求項1に記載の偏光膜の製造方法。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール系樹脂層表面を、接着剤を介して前記被覆フィルムで被覆する、請求項1または2に記載の偏光膜の製造方法。
【請求項4】
前記接着剤が水系接着剤である、請求項3に記載の偏光膜の製造方法。
【請求項5】
前記延伸工程後の熱可塑性樹脂基材の透湿度が100g/m^(2)・24h以下である、請求項1から4のいずれかに記載の偏光膜の製造方法。
【請求項6】
前記積層体をホウ酸水溶液中で水中延伸する、請求項1から5のいずれかに記載の偏光膜の製造方法。
【請求項7】
前記染色工程および前記ホウ酸水中延伸の前に、前記積層体を95℃以上で空中延伸する工程を含む、請求項6に記載の偏光膜の製造方法。
【請求項8】
前記積層体の最大延伸倍率が5.0倍以上である、請求項1から7のいずれかに記載の偏光膜の製造方法。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂基材が、非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂から構成されている、請求項1から8のいずれかに記載の偏光膜の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の偏光膜の製造方法により得られた、偏光膜。
【請求項11】
請求項10に記載の偏光膜を有する、光学積層体。」

(2) 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な画像表示装置である液晶表示装置は、その画像形成方式に起因して、液晶セルの両側に偏光膜が配置されている。偏光膜の製造方法として、例えば、熱可塑性樹脂基材とポリビニルアルコール(PVA)系樹脂層とを有する積層体を延伸し、次に染色液に浸漬させて偏光膜を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1)。このような方法によれば、厚みの薄い偏光膜が得られるため、近年の液晶表示装置の薄型化に寄与し得るとして注目されている。しかし、このような方法では、得られる偏光膜の光学特性が不十分であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-343521号公報」

(3) 「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、優れた光学特性を有する偏光膜を製造する方法を提供することにある。
・・・略・・・
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、熱可塑性樹脂基材上に形成されたPVA系樹脂層に対し、染色処理および延伸処理を施した後、PVA系樹脂層表面を透湿度が100g/m^(2)・24h以下の被覆フィルムで被覆し、この状態で加熱することにより、光学特性に極めて優れた偏光膜を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の好ましい実施形態による積層体の概略断面図である。
【図2】本発明の偏光膜の製造方法の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の好ましい実施形態による光学フィルム積層体の概略断面図である。
【図4】本発明の別の好ましい実施形態による光学機能フィルム積層体の概略断面図である。
【図5】参考例1および市販の偏光膜の配向性の評価結果を示すグラフである。」

(4) 「【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
A.製造方法
本発明の偏光膜の製造方法は、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して積層体を作製する工程(工程A)と、積層体のPVA系樹脂層をヨウ素で染色する工程(工程B)と、積層体を延伸する工程(工程C)と、積層体のPVA系樹脂層表面を被覆フィルムで被覆し、この状態で積層体を加熱する工程(工程D)とを含む。以下、各工程について説明する。」

(5) 「【0009】
A-1.工程A
図1は、本発明の好ましい実施形態による積層体の概略断面図である。積層体10は、熱可塑性樹脂基材11とPVA系樹脂層12とを有し、熱可塑性樹脂基材11上にPVA系樹脂層12を形成することにより作製される。PVA系樹脂層12の形成方法は、任意の適切な方法を採用し得る。好ましくは、熱可塑性樹脂基材11上に、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、PVA系樹脂層12を形成する。」

(6) 「【0022】
A-2.工程B
上記工程Bでは、PVA系樹脂層をヨウ素で染色する。具体的には、PVA系樹脂層にヨウ素を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、ヨウ素を含む染色液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬させる方法、PVA系樹脂層に当該染色液を塗工する方法、当該染色液をPVA系樹脂層に噴霧する方法等が挙げられる。好ましくは、染色液に積層体を浸漬させる方法である。ヨウ素が良好に吸着し得るからである。」

(7) 「【0024】
工程Bは、後述の工程Cの前に行ってもよいし、工程Cの後に行ってもよい。後述するが、工程Cにおいて水中延伸方式を採用する場合、好ましくは、工程Bは工程Cの前に行う。」

(8) 「【0025】
A-3.工程C
上記工程Cでは、上記積層体を延伸する。積層体の延伸方法は、任意の適切な方法を採用することができる。具体的には、固定端延伸でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。積層体の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、後述の積層体の延伸倍率(最大延伸倍率)は、各段階の延伸倍率の積である。」

(9) 「【0034】
A-4.工程D
工程Bおよび工程Cの後、上記工程Dでは、積層体のPVA系樹脂層表面を被覆フィルムで被覆し、この状態で積層体を加熱する。積層体のPVA系樹脂層に対して、このような処理を施すことにより、得られる偏光膜の光学特性を向上させることができる。工程Dにより、光学特性への寄与が低い配向性の低いヨウ素錯体が選択的に分解され得ることが、光学特性向上の要因の一つとして考えられる。具体的には、熱可塑性樹脂基材上に形成され、染色工程および延伸工程を経たPVA系樹脂層は、その熱可塑性樹脂基材側(下側)と表面側(上側)とで構成が異なる。具体的には、下側と上側とではPVA系樹脂の配向性が異なり、上側が下側に比べて配向性が低い傾向にある。配向性の低い部分に存在するヨウ素錯体もその配向性は低く、光学特性(特に、偏光度)への寄与が低いだけでなく、光学特性(特に、透過率)の低下の原因となり得る。一方で、このようなヨウ素錯体は、その配向性の低さから結合力も弱く分解されやすい。その結果、工程Dにより、配向性の低いヨウ素錯体を選択的に分解させて、可視光領域の吸収を低減させ、透過率を向上させることができる。なお、配向性の低いヨウ素錯体は、もともと偏光度への寄与が低いため、分解されても偏光度の低下は最小限に抑えられる。
【0035】
上記被覆フィルムとしては、任意の適切な樹脂フィルムを採用し得る。好ましくは、その透湿度が100g/m^(2)・24h以下であり、さらに好ましくは90g/m^(2)・24h以下である。このような被覆フィルムにより、PVA系樹脂層に存在する水分を層中にとどめた状態で加熱処理を行うことができる。水分存在下で加熱することにより、特に、水溶化されている(配向性の低い)ヨウ素錯体は分解されやすく、ヨウ素イオンに分解され得、得られる偏光膜の可視光領域の吸収が低減して、透過率が向上し得る。ここで、上記熱可塑性樹脂基材の透湿度が低いほど、PVA系樹脂層に存在する水分をとどめることができ、好ましい。上記延伸工程(工程C)後の熱可塑性樹脂基材の透湿度は、好ましくは100g/m^(2)・24h以下であり、さらに好ましくは90g/m^(2)・24h以下である。なお、「透湿度」は、JIS Z0208の透湿度試験(カップ法)に準拠して、温度40℃、湿度92%RHの雰囲気中、面積1m^(2)の試料を24時間に通過する水蒸気量(g)を測定して求められる値である。
【0036】
被覆フィルムの構成材料は、上記透湿度を満足し得る任意の適切な材料を採用し得る。被覆フィルムの構成材料としては、例えば、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル系樹脂」とは、アクリル系樹脂および/またはメタクリル系樹脂をいう。
【0037】
被覆フィルムの厚みは、上記透湿度を満足し得る厚みに設定し得る。代表的には10μm?100μmである。
【0038】
好ましい実施形態においては、接着剤を介して、PVA系樹脂層表面を被覆フィルムで被覆する。接着剤を用いることにより、PVA系樹脂層と被覆フィルムとの間に隙間が生じるのを防いで密着性を高めることができる。その結果、配向性の低いヨウ素錯体を効率的に分解させることができる。接着剤としては、任意の適切な接着剤が用いられ、水系接着剤であってもよいし溶剤系接着剤であってもよい。好ましくは、水系接着剤が用いられる。水系接着剤に含まれる水分がPVA系樹脂層に移行し得る。これにより、ヨウ素錯体の安定性が低下し、特に配向性の低いヨウ素錯体は、もともとの安定性が低いため、分解されやすい状態になる。その結果、配向性の低いヨウ素錯体の分解を選択的に促進させることができる。
【0039】
上記水系接着剤としては、任意の適切な水系接着剤を採用し得る。好ましくは、PVA系樹脂を含む水系接着剤が用いられる。水系接着剤に含まれるPVA系樹脂の平均重合度は、接着性の点から、好ましくは100?5000程度、さらに好ましくは1000?4000である。平均ケン化度は、接着性の点から、好ましくは85モル%?100モル%程度、さらに好ましくは90モル%?100モル%である。」

(10) 「【0042】
具体的には、PVA系樹脂層表面に接着剤を塗布して被覆フィルムを貼り合わせる。接着剤の塗布時の厚みは、任意の適切な値に設定し得る。例えば、加熱(乾燥)後に、所望の厚みを有する接着剤層が得られるように設定する。接着剤層の厚みは、好ましくは10nm?300nm、さらに好ましくは10nm?200nm、特に好ましくは20nm?150nmである。被覆フィルムを貼り合わせる際、接着剤に含まれる単位面積当たりの水分量は、好ましくは0.05mg/cm^(2)以上である。このような水分量を満足することにより、配向性の低いヨウ素錯体を効率的に分解させ得る。一方、水分量は、好ましくは2.0mg/cm^(2)以下、さらに好ましくは1.0mg/cm^(2)以下である。接着剤の乾燥に時間がかかるおそれがあるからである。好ましくは、工程Dの前に積層体を乾燥させ、乾燥後、PVA系樹脂層表面に接着剤を塗布して被覆フィルムを貼り合わせ、接着剤に水が含まれる状態でPVA系樹脂層が加熱される。接着剤に含まれる単位当たりの水分量は上記のとおりであり、当該水分量は、接着剤に含まれる水分量とPVA系樹脂層表面への接着剤の塗布量とにより求められる。
【0043】
被覆フィルムで被覆された積層体の加熱温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは55℃以上、さらに好ましくは60℃以上、特に好ましくは80℃以上である。このような温度で加熱することにより、上記ヨウ素錯体を効率的に分解させることができる。一方、加熱温度は、好ましくは120℃以下である。加熱時間は、好ましくは3分?10分である。」

(11) 「【0045】
A-5.その他の工程
本発明の偏光膜の製造方法は、上記工程A、工程B、工程Cおよび工程D以外に、その他の工程を含み得る。その他の工程としては、例えば、不溶化工程、架橋工程、上記工程Cとは別の延伸工程、洗浄工程、乾燥工程等が挙げられる。その他の工程は、任意の適切なタイミングで行い得る。
【0046】
上記不溶化工程は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。・・・略・・・好ましくは、不溶化工程は、積層体作製後、工程Bや工程Cの前に行う。
【0047】
上記架橋工程は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。
・・・略・・・
【0048】
好ましくは、架橋工程は上記工程Cの前に行う。好ましい実施形態においては、工程B、架橋工程および工程Cをこの順で行う。
【0049】
上記工程Cとは別の延伸工程としては、例えば、上記積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸する工程が挙げられる。このような空中延伸工程は、好ましくは、ホウ酸水中延伸(工程C)および染色工程の前に行う。このような空中延伸工程は、ホウ酸水中延伸に対する予備的または補助的な延伸として位置付けることができるため、以下「空中補助延伸」という。」

(12) 「【0055】
図2は、本発明の偏光膜の製造方法の一例を示す概略図である。積層体10を、繰り出し部100から繰り出し、ロール111および112によってホウ酸水溶液の浴110中に浸漬させた後(不溶化工程)、ロール121および122によって二色性物質(ヨウ素)およびヨウ化カリウムの水溶液の浴120中に浸漬させる(工程B)。次いで、ロール131および132によってホウ酸およびヨウ化カリウムの水溶液の浴130中に浸漬させる(架橋工程)。その後、積層体10を、ホウ酸水溶液の浴140中に浸漬させながら、速比の異なるロール141および142で縦方向(長手方向)に張力を付与して延伸する(工程C)。延伸処理した積層体(光学フィルム積層体)10を、ロール151および152によってヨウ化カリウム水溶液の浴150中に浸漬させ(洗浄工程)、乾燥工程に供する(図示せず)。その後、PVA系樹脂層表面を被覆フィルム20で被覆して所定の温度に保持された恒温ゾーン160にて加熱し(工程D)、巻き取り部170にて巻き取る。」

(13) 「【0056】
B.偏光膜
本発明の偏光膜は、上記製造方法により得られる。本発明の偏光膜は、実質的には、二色性物質が吸着配向されたPVA系樹脂膜である。偏光膜の厚みは、代表的には25μm以下であり、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは7μm以下、特に好ましくは5μm以下である。一方、偏光膜の厚みは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.5μm以上である。偏光膜は、好ましくは、波長380nm?780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光膜の単体透過率は、好ましくは40.0%以上、より好ましくは41.0%以上、さらに好ましくは42.0%以上、特に好ましくは43.0%以上である。偏光膜の偏光度は、好ましくは99.8%以上、より好ましくは99.9%以上、さらに好ましくは99.95%以上である。」

(14) 「【0057】
上記偏光膜の使用方法は、任意の適切な方法が採用され得る。具体的には、上記熱可塑性樹脂基材および/または被覆フィルムと一体となった状態で使用してもよいし、熱可塑性樹脂基材および/または被覆フィルムを剥離して使用してもよい。被覆フィルムを剥離しない場合、被覆フィルムを後述の光学機能フィルムとして用いることができる。
【0058】
C.光学積層体
本発明の光学積層体は、上記偏光膜を有する。図3(a)および(b)は、本発明の好ましい実施形態による光学フィルム積層体の概略断面図である。光学フィルム積層体100は、熱可塑性樹脂基材11’と偏光膜12’と粘着剤層13とセパレータ14とをこの順で有する。光学フィルム積層体200は、熱可塑性樹脂基材11’と偏光膜12’と接着剤層15と光学機能フィルム16と粘着剤層13とセパレータ14とをこの順で有する。本実施形態では、上記熱可塑性樹脂基材を、得られた偏光膜12’から剥離せずに、そのまま光学部材として用いている。熱可塑性樹脂基材11’は、例えば、偏光膜12’の保護フィルムとして機能し得る。
【0059】
図4(a),(b),(c)および(d)は、本発明の別の好ましい実施形態による光学機能フィルム積層体の概略断面図である。光学機能フィルム積層体300は、セパレータ14と粘着剤層13と偏光膜12’と接着剤層15と光学機能フィルム16とをこの順で有する。光学機能フィルム積層体400では、光学機能フィルム積層体300の構成に加え、第2の光学機能フィルム16’が偏光膜12’とセパレータ14との間に粘着剤層13を介して設けられている。光学機能フィルム積層体500は、光学機能フィルム16が偏光膜12’に粘着剤層13を介して積層され、第2の光学機能フィルム16’が偏光膜12’に接着剤層15を介して積層されている。光学機能フィルム積層体600は、光学機能フィルム16および第2の光学機能フィルム16’が偏光膜12’に接着剤層15を介して積層されている。本実施形態では、上記熱可塑性樹脂基材は取り除かれている。
【0060】
本発明の光学積層体を構成する各層の積層には、図示例に限定されず、任意の適切な粘着剤層または接着剤層が用いられる。粘着剤層は、代表的にはアクリル系粘着剤で形成される。接着剤層としては、代表的にはPVA系接着剤で形成される。上記光学機能フィルムは、例えば、偏光膜保護フィルム、位相差フィルム等として機能し得る。」

(15) 「【実施例】
【0061】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
・・・略・・・
【0062】
[実施例1-1]
(工程A)
熱可塑性樹脂基材として、吸水率0.60%、Tg80℃の非晶質ポリエチレンテレフタレート(A-PET)フィルム(三菱化学社製、商品名「ノバクリア」、厚み:100μm)を用いた。
熱可塑性樹脂基材の片面に、重合度2600、ケン化度99.9%のポリビニルアルコール(PVA)樹脂(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセノール(登録商標)NH-26」)の水溶液を60℃で塗布および乾燥して、厚み7μmのPVA系樹脂層を形成した。このようにして積層体を作製した。
【0063】
得られた積層体を、液温30℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化工程)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素を0.2重量部配合し、ヨウ化カリウムを1.0重量部配合して得られたヨウ素水溶液)に60秒間浸漬させた(工程B)。
次いで、液温30℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋工程)。
その後、積層体を、液温60℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合し、ヨウ化カリウムを5重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に一軸延伸を行った(工程C)。ホウ酸水溶液への浸漬時間は120秒であり、積層体が破断する直前まで延伸した(最大延伸倍率は5.0倍)。
その後、積層体を洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた後、60℃の温風で乾燥させた(洗浄・乾燥工程)。
続いて、積層体のPVA系樹脂層表面に、加熱後の接着剤層の厚みが90nmとなるようにPVA系樹脂水溶液(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー(登録商標)Z-200」、樹脂濃度:3重量%)を塗布し、ノルボルネン系樹脂フィルム(日本ゼオン社製、商品名「ZEONOR ZB14」、厚み70μm、透湿度7g/m^(2)・24h)を貼り合わせ、100℃に維持したオーブンで5分間加熱した(工程D)。貼り合わせの際、接着剤に含まれる水分量は、単位面積当たり0.3mg/cm^(2)であった。
このようにして、厚み3μmの偏光膜を作製した。また、このときの熱可塑性樹脂基材の厚みは40μmであり、透湿度は25g/m^(2)・24hであった。なお、当該透湿度は、別途、厚み40μmのA-PETフィルムを用意して測定した値である。
・・・略・・・
【0086】
<参考例1>
工程Dを行わなかったこと以外は、実施例1-1と同様にして偏光膜を得た。
・・・略・・・
【0092】
PVA系樹脂層表面を所定の透湿度を有する被覆フィルムで被覆して加熱処理を施すことにより、非常に高い単体透過率と偏光度とを有する偏光膜を作製することができた。なお、熱可塑性樹脂基材を用いずに偏光膜を作製した比較例4-1では、透湿度の低い被覆フィルムを用いて加熱処理しても、単体透過率の向上は確認されなかった。
【0093】
参考例1で得られた偏光膜の上側と下側(熱可塑性樹脂基材側)の配向性を、配向関数により評価した。配向関数の測定方法は、以下の通りである。
測定装置は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)(Perkin Elmer社製、商品名:「SPECTRUM2000」)を用いた。偏光を測定光として、全反射減衰分光(ATR:attenuated total reflection)測定により、PVA系樹脂層表面の評価を行った。配向関数(f)の算出は、以下の手順で行った。
測定偏光を延伸方向に対して0°と90°にした状態で測定を実施した。
得られたスペクトルの2941cm^(-1)の吸収強度を用いて、下記式に従って算出した(出典:H.W.Siesler,Adv.Polym.Sci.,65,1(1984))。ここで、下記強度Iは、3330cm^(-1)を参照ピークとして、2941cm^(-1)/3330cm^(-1)の値を用いた。なお、f=1のとき完全配向、f=0のときランダムとなる。また、2941cm^(-1)のピークは、PVAの主鎖(-CH_(2)-)の振動起因の吸収といわれている。
f=(3<cos^(2)θ>-1)/2
=[(R-1)(R_(0)+2)]/[(R+2)(R_(0)-1)]
=(1-D)/[c(2D+1)]
=-2×(1-D)/(2D+1)
ただし、
c=(3cos^(2)β-1)/2
β=90deg
θ:延伸方向に対する分子鎖の角度
β:分子鎖軸に対する遷移双極子モーメントの角度
R0=2cot^(2)β
1/R=D=(I⊥)/(I//)
(PETが配向するほどDの値が大きくなる。)
I⊥:測定偏光の振動方向を延伸方向と垂直方向(90°)に入射して測定したときの吸収強度
I//:測定偏光の振動方向を延伸方向と平行方向(0°)に入射して測定したときの吸収強度
【0094】
測定結果を、市販の偏光膜(基材を用いずに作製した偏光膜)の結果とともに、図5に示す。市販の偏光膜は、上側と下側とでは配向性に差はなかったが、基材を用いて作製した参考例1の偏光膜は上側と下側とでは配向性に差が認められた。
・・・略・・・
【符号の説明】
【0096】
10 積層体
11 熱可塑性樹脂基材
12 ポリビニルアルコール系樹脂層」

(16) 「【図1】




(17) 「【図2】



(18) 「【図3】



(19) 「【図4】




(20) 「【図5】



2 引用発明
引用例1の段落【0008】?【0056】には、引用例1の【請求項1】、【請求項3】及び【請求項4】に対応する偏光膜の製造方法の実施形態であって、この製造方法により得られる偏光膜の厚みを「特に好まし」い「5μm以下」、「より好まし」い「1.5μm以上」とした、工程A?Dを含む偏光膜の製造方法が開示されている。また、引用例1の段落【0057】?【0060】には、この偏光膜の使用方法として、光学フィルム積層体が開示されているところ、その一例として、【図4】(d)の光学フィルム積層体が開示されている。
そうしてみると、引用例1には、以下の、偏光膜の使用方法が開示されている(以下「引用発明」という。)。

「工程A:積層体は、熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層とを有し、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成することにより作製され、
工程B:PVA系樹脂層をヨウ素で染色し、
工程C:積層体を延伸し、
工程D:積層体のPVA系樹脂層表面を被覆フィルムで被覆し、この状態で積層体を加熱する、
偏光膜の製造方法において、
被覆フィルムの透湿度が100g/m^(2)・24h以下であり、
接着剤を介して、PVA系樹脂層表面を被覆フィルムで被覆し、接着剤としては、好ましくは、水系接着剤が用いられ、
上記製造方法により得られる偏光膜の厚みは、1.5μm以上、5μm以下であり、
そして、
上記偏光膜の使用方法は、任意の適切な方法が採用され、熱可塑性樹脂基材および/または被覆フィルムを剥離して使用してもよく、被覆フィルムを剥離しない場合、被覆フィルムを光学機能フィルムとして用いることができるところ、
光学機能フィルム積層体600は、光学機能フィルム16および第2の光学機能フィルム16’が偏光膜12’に接着剤層15を介して積層され、接着剤層は、代表的にはPVA系接着剤で形成され、熱可塑性樹脂基材は取り除かれている、
偏光膜の使用方法。」

第5 対比
本件発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。
1 「偏光膜を作製する工程」について
(1) 引用発明は、工程A?Dとして、「工程A:積層体は、熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層とを有し、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成することにより作製され」る工程、「工程B:PVA系樹脂層をヨウ素で染色」する工程、「工程C:積層体を延伸」する工程、「工程D:積層体のPVA系樹脂層表面を被覆フィルムで被覆し、この状態で積層体を加熱する」工程を具備する。

(2) ここで引用発明は、工程A?Dの全体を「偏光膜の製造方法」とするものであるが、技術的にみると、「工程C」までで、「偏光膜」が「熱可塑性樹脂基材」上に作製されている。そして、「熱可塑性樹脂樹脂基材」上に作製された「偏光膜の厚みは、1.5μm以上、5μm以下であ」る。
また、技術的にみると、引用発明の「熱可塑性樹脂基材」、「熱可塑性樹脂基材上」、「PVA系樹脂層」、「積層体」、「延伸」及び「染色」は、それぞれ、本件発明の「樹脂基材」、「樹脂基材の片側」、「ポリビニルアルコール系樹脂層」、「積層体」、「延伸」及び「染色」に相当する。
したがって、引用発明の工程A?Cは、本件発明の「樹脂基材上に厚みが10μm以下の偏光膜を作製する工程」に相当する。また、引用発明の工程A?Cは、本件発明の「樹脂基材と該樹脂基材の片側に形成されたポリビニルアルコール系樹脂層とを有する積層体を延伸、染色して、該樹脂基材上に偏光膜を作製する工程」の要件を満たす。
なお、本件発明の「延伸、染色して」との構成は、「延伸」と「染色」の処理の順序を特定する構成でない。例えば、本件出願の発明の詳細な説明の段落【0041】には、「染色処理は、任意の適切なタイミングで行い得る。上記水中延伸を行う場合、好ましくは、水中延伸の前に行う。」と記載されている。また、仮に、本件発明の「延伸、染色して」との構成を「延伸した後に染色して」の構成に限定解釈して引用発明との相違点とするとしても、引用例1の段落【0024】には「工程Bは、後述の工程Cの前に行ってもよいし、工程Cの後に行ってもよい。」と記載されているから、当該相違点は、引用例1が選択肢として示唆する設計的事項にすぎない。

2 「第1の保護フィルムを積層する工程」について
(1) 引用発明は、「工程D:積層体のPVA系樹脂層表面を被覆フィルムで被覆し、この状態で積層体を加熱する」工程を具備する。

(2) ここで、引用発明の「積層体のPVA系樹脂層表面」は、本件発明でいう「該偏光膜の該樹脂基材と反対側」である。また、技術的にみると、引用発明の「被覆フィルム」は、偏光膜を保護する機能を具備するから、引用発明の「被覆フィルム」は、本件発明の「第1の保護フィルム」に相当する(なお、引用発明の「被覆フィルム」は、「被覆フィルムを剥離しない場合」、「光学機能フィルムとして用いることができる」ものであるところ、引用例1の段落【0060】には、「上記光学機能フィルムは、例えば、偏光膜保護フィルム、位相差フィルム等として機能し得る。」と記載されている。)。
また、引用発明においては、「積層体のPVA系樹脂層表面を被覆フィルム」で「被覆」するのであるから、「積層体のPVA系樹脂層表面」に「被覆フィルム」を積層している。

(3) そうすると、引用発明の「工程D:積層体のPVA系樹脂層表面を被覆フィルムで被覆し、この状態で積層体を加熱する」工程のうち、「積層体のPVA系樹脂層表面を被覆フィルムで被覆」する工程は、本件発明の「該偏光膜の該樹脂基材と反対側に第1の保護フィルムを積層する工程」に相当する。

3 「第2の保護フィルムを積層する工程」 について
(1) 引用発明においては、「熱可塑性樹脂基材および/または被覆フィルムを剥離して使用してもよ」いとされているところ、引用発明の「光学機能フィルム積層体600は、光学機能フィルム16および第2の光学機能フィルム16’が偏光膜12’に接着剤層15を介して積層され」た構成を具備し、「接着剤層は、代表的にはPVA系接着剤で形成され」、「熱可塑性樹脂基材は取り除かれている」。

(2) ここで、引用発明の「偏光膜」において、「熱可塑性樹脂基材は取り除かれている」とされる面は、本件発明でいう「偏光膜の該樹脂基材を剥離した側」である。また、引用発明の「偏光膜」において、「熱可塑性樹脂基材は取り除かれている」とされる面に「接着剤層15を介して積層され」た光学機能フィルム(「光学機能フィルム16」又は「第2の光学機能フィルム16’」のいずれか、以下「剥離側光学機能フィルム」という。)は、技術的にみて、偏光膜を保護する機能を具備する(前記2(2)参照。)。
したがって、引用発明の該「剥離側光学機能フィルム」は、本件発明の「第2の保護フィルム」に相当する。加えて、引用発明の「光学機能フィルム積層体600は、光学機能フィルム16および第2の光学機能フィルム16’が偏光膜12’に接着剤層15を介して積層され」た構成を具備するから、その前提として、引用発明は、「熱可塑性樹脂基材を剥離して、偏光膜の該熱可塑性樹脂基材を剥離した側に剥離側光学機能フィルムを積層する工程」(以下、「第2積層工程」という。)を、事実上具備する。
そうしてみると、引用発明は、「第2積層工程」を事実上具備する点において、本件発明の「樹脂基材を剥離して、偏光膜の該樹脂基材を剥離した側に第2の保護フィルムを積層する工程」を含むとの要件を満たす。

4 第1の保護フィルムの積層について
(1) 引用発明は、「工程D」に関し、「接着剤を介して、PVA系樹脂層表面を被覆フィルムで被覆」する工程を具備するところ、「接着剤としては、好ましくは、水系接着剤が用いられ」ている。

(2) したがって、引用発明は、本件発明の「該第1の保護フィルムを水系接着剤を介して積層し」との要件を満たす。

5 透湿度について
引用発明では、「被覆フィルムの透湿度が100g/m^(2)・24h以下」であるから、本件発明の「該第1の保護フィルムの透湿度が100g/m^(2)・24h以下である」との要件を満たす。

6 偏光板の製造方法について
(1) 引用発明の「光学機能フィルム積層体600は、光学機能フィルム16および第2の光学機能フィルム16’が偏光膜12’に接着剤層15を介して積層され」てなるものであるから、引用発明の「光学機能フィルム積層体600」は、本願発明でいう「偏光板」である。また、引用発明の「偏光膜の使用方法」は、「偏光膜」との関係においては「偏光膜の使用方法」であるが、「光学機能フィルム積層体600」との関係においては、「光学機能フィルム積層体600の製造方法」といえる。

(2) したがって、引用発明の「偏光膜の使用方法」は、本件発明の「偏光板の製造方法」に相当する。

7 一致点
上記1?6より、本件発明と引用発明とは、以下の構成において一致する。
(一致点)
「樹脂基材と該樹脂基材の片側に形成されたポリビニルアルコール系樹脂層とを有する積層体を延伸、染色して、該樹脂基材上に厚みが10μm以下の偏光膜を作製する工程と、
該偏光膜の該樹脂基材と反対側に第1の保護フィルムを積層する工程と、
樹脂基材を剥離して、偏光膜の該樹脂基材を剥離した側に第2の保護フィルムを積層する工程と、を含み、
該第1の保護フィルムを水系接着剤を介して積層し、
前記第1の保護フィルムの透湿度が100g/m^(2)・24h以下である、
偏光板の製造方法。」

8 相違点
上記1?6より、本件発明と引用発明とは 以下の点で(一応)相違する。
(相違点1)
本件発明は、「前記第1の保護フィルムを積層した後、および、前記樹脂基材を剥離する前に、該樹脂基材と前記偏光膜と該第1の保護フィルムとの積層体を加熱する工程」をさらに含んでいるのに対して、
引用発明は、「工程D:積層体のPVA系樹脂層表面を被覆フィルムで被覆し、この状態で積層体を加熱する」工程における「被覆」及び「加熱」と、熱可塑性樹脂基材の「剥離」との前後関係が、一応、明らかでなく、当該工程をさらに含んでいるのかどうか、一応、明らかでない点。

(相違点2)
本件発明は、「該第2の保護フィルムを水分率が10%以下の接着剤を介して積層し」ているのに対して、
引用発明の「接着剤層は、代表的にはPVA系接着剤で形成され」る点。

第6 判断
相違点についての判断は、以下のとおりである。
1 相違点1について
(1) 引用発明の「工程D」は、「積層体のPVA系樹脂層表面を被覆フィルムで被覆し、この状態」で「積層体」を「加熱」するものであるから、「工程D」においては、「熱可塑性樹脂基材」上に作製された「偏光膜」上に「被覆フィルム」を積層(被覆)した状態で「加熱」していると考えるのが自然である。そうすると、「熱可塑性樹脂基材」の剥離は、当然、「工程D」の後に行われることになる。
したがって、相違点1に係る構成は、実質的に引用発明も具備する構成であるから、相違点1は、実質的な相違点ではない。

(2) あるいは、上記(1)のとおりでないとしても、引用発明の「偏光膜」は、その厚みが「1.5μm以上、5μm以下」であり、厚みが極めて薄くその強度が小さいものである。そうすると、熱可塑性樹脂基材を剥離する際、あるいは接着剤を介して偏光膜を被覆フィルムで被覆する際の偏光膜の破断・損傷、あるいは偏光膜(偏光板)の製造の容易性を考慮する当業者であれば、引用発明の「工程D」の前に熱可塑性樹脂基材を剥離するよりも、引用発明の「工程D」の後に熱可塑性樹脂基材を剥離する方がより好ましいと判断する。
あるいは、引用例1の段落【0035】に、「工程D」について、「ここで、上記熱可塑性樹脂基材の透湿度が低いほど、PVA系樹脂層に存在する水分をとどめることができ、好ましい。」と記載されているところ、当該記載・示唆に従い、「工程D」の時点では熱可塑性樹脂基材を剥離せずに、透湿度が100g/m^(2)・24h以下の被覆フィルム及び透湿度が低い熱可塑性樹脂基材を、PVA系樹子層に存在する水分をとどめるために利用する好ましい構成とするとともに、「工程D」の後に熱可塑性樹脂基材を剥離する構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、引用発明において、相違点1に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

2 相違点2について
(1) 偏光膜にフィルムを積層するに際し、水系接着剤を使用した場合に水抜けが悪く、接着剤の水分によって偏光フィルムの損傷や偏光性能の劣化などを引き起こす場合があることは、当業者において周知事項であり(例えば、原査定の拒絶の理由で周知技術を示す文献として引用された、特開2013-11774号公報(以下、「引用例2」という。)の段落【0129】、特開2012-181279号公報(以下、「引用例3」という。)の段落【0104】、特開2012-53078号公報(以下、「引用例4」という。)の段落【0150】を参照。)、少なくとも、引用例2?4に記載され公知である。
ここで、引用発明は、「被覆フィルムを剥離しない場合、被覆フィルムを光学機能フィルムとして用いることができ」という構成を具備し、また、引用発明の「第2積層工程」は、「100g/m^(2)・24h以下」と透湿度が低い「被覆フィルム」を積層した状態で行われるといえるから、水抜けは比較的悪い(乾燥に時間を要するなど製造上の問題がある)。あるいは、「剥離側光学機能フィルム」の材質の透湿度も低い場合(例えば、引用例1において透湿度が低いものとして例示されている、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂はいずれも、偏光子層の保護フィルムとして以前より普通に用いられる材質である。)、水抜けは極めて悪いといえる。

(2) したがって、上記周知事項、あるいは引用例2?4記載技術を心得た当業者であれば、引用発明の「第2積層工程」において、「偏光膜」の「熱可塑性樹脂基材は取り除かれている」とされる面に「剥離側光学機能フィルム」を積層する際の「接着剤層15」を形成する接着剤として、「PVA系接着剤」に替えて、「水分率が10%以下の接着剤」を採用することは、容易になし得たことである。

なお、引用発明の「第2積層工程」の「接着剤層は、代表的にはPVA系接着剤で形成され」るところ、PVA系接着剤は、水系接着剤であるから、念のため、阻害要因の有無についても検討すると、以下のとおりとなる。
すなわち、引用発明において、「接着剤を介して、PVA系樹脂層表面を被覆フィルムで被覆し、接着剤としては、好ましくは、水系接着剤が用いられ」ることの技術的意義に関して、引用例の段落【0038】には、「好ましくは,水系接着剤が用いられる。水系接着剤に含まれる水分がPVA系樹脂層に移行し得る。これにより、ヨウ素錯体の安定性が低下し、特に配向性の低いヨウ素錯体は、もともとの安定性が低いため、分解されやすい状態になる。その結果、配向性の低いヨウ素錯体の分解を選択的に促進させることができる。」と記載されている。すなわち、引用発明において、「接着剤を介して、PVA系樹脂層表面を被覆フィルムで被覆し、接着剤としては、好ましくは、水系接着剤が用いられ」ることには、積極的な理由が存在する。
これに対して、引用例の段落【0060】には、「本発明の光学積層体を構成する各層の積層には、図示例に限定されず、任意の適切な粘着剤層または接着剤層が用いられる。粘着剤層は、代表的にはアクリル系粘着剤で形成される。接着剤層としては、代表的にはPVA系接着剤で形成される。」と記載されている。すなわち、引用発明の「第2積層工程」においてPVA系接着剤が用いられることについては、「代表的」という、良く使用されるものを例示したという程度の技術的意義にとどまるものである。
以上のことは、引用例1の特許請求の範囲の請求項1?11、【課題を解決するための手段】(段落【0005】)、【発明の効果】(段落【0006】)、[実施例1-1]?[実施例3-4](段落【0061】?【0077】)には、積層体のポリビニルアルコール系樹脂層(偏光膜)表面を、水系接着剤を介して、透湿度が100g/m^(2)・24h以下の被覆フィルムで被覆することが記載されているだけであり、「剥離側光学機能フィルム」(第2の保護フィルム)を水系接着剤を介して積層するものとなっていないことからも裏付けられる。
したがって、引用発明の「PVA系接着剤」に替えて、「水分率が10%以下の接着剤」を採用することには、特段の阻害要因は存在しないと解するのが相当である。

3 効果について
本件発明の効果は、引用発明及び周知技術から期待される効果の範囲内にとどまる。

4 小括
よって、本件発明は、引用発明等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

5 請求人の主張について
(1) 請求人は、審判請求書の「3」「(4)本願発明と引用発明との対比」において、「一方で、引用文献1に記載の発明は、偏光膜の熱可塑性樹脂基材を剥離した側に光学機能フィルムを積層する場合にもPVA系接着剤を用いるものであり(段落[0060])、偏光膜の熱可塑性樹脂基材を剥離した側に低水分率接着剤を介して光学機能フィルムを積層することにより、偏光膜の配向性を保持する、という技術思想を有するものではありません。」、「また、引用文献2?4には、偏光フィルムに、例えばポリプロピレン系樹脂フィルムなどの低透湿度の樹脂フィルムを貼り合わせる場合に、無溶剤系の接着剤を用いることが好ましい旨が記載されています(例えば、引用文献2の段落[0129])。すなわち、引用文献2?4には、偏光フィルムに低透湿度の樹脂フィルムを貼り合わせる場合に無溶剤系の接着剤を用いることが好ましい旨が記載されている一方で、一定以上の透湿度を有する樹脂フィルムを貼り合わせる場合には、仮に水系接着剤を用いた場合であっても偏光膜の損傷や偏光性能の劣化などの問題は生じ得ないところ、必ずしも無溶剤系の接着剤を用いる必要はありません。したがって、引用文献2?4の開示は、引用文献1に記載の発明においてPVA系接着剤を「水分率が10%以下の接着剤」に変更する動機付けにはなり得ません。」、「なお、引用文献2?4の偏光フィルムは、単体のPVA系樹脂フィルムを延伸および染色して得られるものであり、引用文献1に記載の偏光膜とは異なり、表面側(上側)と熱可塑性樹脂基材側(下側)とでPVA系樹脂の配向性に大きな差はありません。」、「したがって、如何に当業者であっても、引用文献1?4の組み合わせから、偏光膜の上側と下側とで最適な接着剤を選択することにより、上側の配向性の低いヨウ素錯体を選択的に分解し、かつ、下側のPVA系樹脂の配向性を保持するという本願発明の技術思想には想到しません。」と主張している。

(2) しかしながら、引用例1の段落【0060】の「接着剤層としては、代表的にはPVA系接着剤で形成される。」との記載は、引用発明の「第2積層工程」においてPVA系接着剤が用いられることについては、「代表的」という、良く使用されるものを例示したという程度の技術的意義にとどまるものであることは、上記2のなお書きで示したとおりである。
そして、引用発明において、「偏光膜」の「熱可塑性樹脂基材は取り除かれている」とされる面に「剥離側光学機能フィルム」を積層する際の接着剤として、「水分率が10%以下の接着剤」を採用することが、当業者であれば容易になし得たことであることは、上記2で判断したとおりである。

なお、引用例1の段落【0034】には、「熱可塑性樹脂基材上に形成され、染色工程および延伸工程を経たPVA系樹脂層は、その熱可塑性樹脂基材側(下側)と表面側(上側)とで構成が異なる。具体的には、下側と上側とではPVA系樹脂の配向性が異なり、上側が下側に比べて配向性が低い傾向にある。配向性の低い部分に存在するヨウ素錯体もその配向性は低く、光学特性(特に、偏光度)への寄与が低いだけでなく、光学特性(特に、透過率)の低下の原因となり得る。」と記載されている。また、この記載を読み替えると、「熱可塑性樹脂基材上に形成され、染色工程および延伸工程を経たPVA系樹脂層は、その熱可塑性樹脂基材側(下側)と表面側(上側)とで構成が異なる。具体的には、下側と上側とではPVA系樹脂の配向性が異なり、下側が上側に比べて配向性が高い傾向にある。配向性の高い部分に存在するヨウ素錯体もその配向性は高く、光学特性(特に、偏光度)への寄与が高いだけでなく、光学特性(特に,透過率)の低下の原因とならない。」となる。
引用例1の段落【0093】、【0094】の記載及び【図5】からも、実際に、市販の偏光膜(基材を用いずに作製した偏光膜)の上側及び下側の配向性(【図5】の「市販品」の■及び◆を参照)と比較して、偏光膜の熱可塑性樹脂基材側(下側)の配向性(【図5】の「参考例1」の■を参照)は優れたものとなっている(逆に、偏光膜の表面側(上側)の配向性(【図5】の「参考例1」の◆を参照)は劣ったものとなっている)ことが理解できる。
引用例2?4に記載された技術を心得た当業者が、引用例の段落【0034】の記載を読み替えて理解したならば、引用発明の「剥離側光学機能フィルム」の接着剤は、極力水分率の低いものとするのが望ましく、そうしなければ、せっかく製造された、配向性が高く、偏光度への寄与が高く、透過率の低下の原因とならないヨウ素錯体を、無駄に分解してしまうことに気づくといえる。
したがって、水系接着剤を低水分率接着剤に変更することは、引用発明の原理にも主たる目的にも反することではなく、むしろ、引用発明の原理及び主たる目的に沿ったものである。

(3) 以上のとおりであるから、審判請求書における請求人の主張を採用することはできない。

第7 まとめ
以上のとおり、本件発明は、引用発明等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-01-07 
結審通知日 2019-01-09 
審決日 2019-01-22 
出願番号 特願2014-218377(P2014-218377)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 博一  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 河原 正
宮澤 浩
発明の名称 偏光板の製造方法  
代理人 籾井 孝文  

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