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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02P
管理番号 1349630
審判番号 不服2017-5742  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-21 
確定日 2019-03-06 
事件の表示 特願2011-210067「発電機運転の監視及び診断方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月12日出願公開、特開2012- 75308〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1.手続の経緯

本願は、平成23年9月27日(パリ条約による優先権主張2010年(平成22年)9月28日、アメリカ合衆国(US))の出願であって、平成28年12月22日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成29年4月21日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、当審により平成30年3月5日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し、平成30年5月31日に意見書(以下単に「意見書」という。)が提出されるとともに特許請求の範囲についての手続補正がされたものである。

第2.特許請求の範囲の記載

平成30年5月31日付け手続補正書でした補正後における、本願の特許請求の範囲の記載は以下のとおりである。

「 【請求項1】
ガスタービンを含む発電機の運転を評価するコンピュータに実装された方法であって、
ある時間にわたって前記発電機内の第1のセンサにより観測される一連のデータを含む診断データを前記第1のセンサから取得する段階と、
コンピュータシステムにより、前記診断データを評価する評価段階であって、前記診断データが取得されたときに異常が存在するかどうかを、前記発電機のタイプに固有のパラメータ及び前記診断データを取得した前記発電機に固有のパラメータからのデータを含むナレッジベースを用いて判定する、評価段階と、
前記コンピュータシステムにより、前記異常が存在する判定に基づいて、異常を引き起こした前記発電機内のエラーの性質を示す故障コードを提供する段階と、
を含み、
前記パラメータが、前記異常が存在すると判定されるまでの異常発生の数を含み、
前記エラーの性質は、前記発電機内のクーラント経路の閉塞、流体の漏洩、絶縁損傷、短絡、ステータ末端巻線又はステータくさびの緩み、軸受金属損傷、若しくは、シール損傷を含む、
方法。
【請求項2】
前記発電機内の第2のセンサから診断データを取得する段階を更に含み、
前記評価段階が、前記第1及び第2のセンサからの前記診断データに基づいて、前記診断データに異常が存在するかどうかを判定する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記評価段階の前に、インタフェースを介してユーザから受け取った値に基づいて異常が存在するかどうかを判定するのに用いるパラメータのうちの1つのデフォルト値を変える段階を更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記評価段階が、前記発電機内の異常の発生源を識別する段階を含む、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ガスタービンを含む発電機の運転を評価するコンピュータシステムであって、
ある時間にわたって前記発電機内の第1のセンサにより観測される一連のデータを含む診断データを前記第1のセンサから取得するよう構成された構成要素と、
コンピュータシステムにより、前記診断データを評価するように構成された構成要素であって、前記診断データが取得されたときに異常が存在するかどうかを、前記発電機のタイプに固有のパラメータ及び前記診断データを取得した前記発電機に固有のパラメータからのデータを含むナレッジベースを用いて判定する、構成要素と、
前記異常が存在する判定に基づいて、異常を引き起こした前記発電機内のエラーの性質を示す故障コードを提供するように構成された構成要素と、
を備え、
前記パラメータが、前記異常が存在すると判定されるまでの異常発生の数を含み、
前記エラーの性質は、前記発電機内のクーラント経路の閉塞、流体の漏洩、絶縁損傷、短絡、ステータ末端巻線又はステータくさびの緩み、軸受金属損傷、若しくは、シール損傷を含む、
コンピュータシステム。
【請求項6】
取得するよう構成された構成要素が更に、前記発電機内の第2のセンサからの診断データを読み出すよう更に構成され、
評価するよう構成された構成要素が、前記第1及び第2のセンサからの前記診断データに基づいて、前記診断データに異常が存在するかどうかを判定する、
請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
インタフェースを介してユーザから受け取った値に基づいて異常が存在するかどうかを判定するのに用いるパラメータのデフォルト値を変えるよう構成された構成要素を更に備え、
評価するよう構成された構成要素が、前記パラメータに基づいて異常が存在するかどうかを判定する、
請求項5または6に記載のシステム。
【請求項8】
判定するよう構成された構成要素がさらに、前記発電機内の異常の発生源を識別するように構成されている、請求項5から7のいずれかに記載のシステム。
【請求項9】
実行時にガスタービンを含む発電機の運転を評価する方法をコンピュータシステムが実施することができる、少なくとも1つのコンピュータ可読媒体において具現化されるプログラムコードを含むコンピュータプログラムであって、前記方法が、
ある時間にわたって前記発電機内の第1のセンサにより観測される一連のデータを含む診断データを前記第1のセンサから取得する段階と、
前記診断データを評価する評価段階であって、前記診断データが取得されたときに異常が存在するかどうかを、前記発電機のタイプに固有のパラメータ及び前記診断データを取得した前記発電機に固有のパラメータからのデータを含むナレッジベースを用いて判定する、評価段階と、
前記コンピュータシステムにより、前記異常が存在する判定に基づいて、異常を引き起こした前記発電機内のエラーの性質を示す故障コードを提供する段階と、
を含み、
前記パラメータが、前記異常が存在すると判定されるまでの異常発生の数を含み、
前記エラーの性質は、前記発電機内のクーラント経路の閉塞、流体の漏洩、絶縁損傷、短絡、ステータ末端巻線又はステータくさびの緩み、軸受金属損傷、若しくは、シール損傷を含む、
コンピュータプログラム。
【請求項10】
前記発電機内の第2のセンサから診断データを取得する段階を更に含み、
前記評価段階が、前記第1及び第2のセンサからの前記診断データに基づいて、前記診断データに異常が存在するかどうかを判定する、
請求項9に記載のコンピュータプログラム。
【請求項11】
前記評価段階の前に、インタフェースを介してユーザから受け取った値に基づいて、異常が存在するかどうかを判定するのに用いるパラメータのうちの1つのデフォルト値を変える段階を更に含む、請求項9または10に記載のコンピュータプログラム。」

第3.当審により通知した拒絶の理由

平成30年3月5日付けで当審により通知した拒絶の理由は、同日付け拒絶理由通知書に記載した(1)ないし(10)の点で、本願の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)及び同法同条同項第2号に規定する要件(明確性要件)を満たしておらず、また、本願の発明の詳細な説明の記載が同法同条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たしていないというものである。そのうち上記拒絶理由通知書に記載した(2)ないし(7)に挙げた記載不備の概要は、それぞれ以下の1.ないし6.のとおりである。

1.「(2)請求項1,5及び9には、「異常を引き起こした前記発電機(112)内のエラーの性質を示す故障コード」について、その「エラーの性質」が、「前記発電機内のクーラント経路の閉塞、流体の漏洩、絶縁損傷、短絡、ステータ末端巻線又はステータくさびの緩み、軸受金属損傷、若しくは、シール損傷を含む」との記載がある。
しかし、上記記載における「流体」とは、具体的に「発電機(112)」内のどの箇所に流れるどのような流体であるのか明確ではなく、その結果、発明が明確ではない。更に、「絶縁損傷」、「短絡」及び「シール損傷」についても、具体的に「発電機(112)」内のどの箇所に生じるものであって、具体的にどのような異常事象が該当するのかそれぞれ明確ではなく、その結果、発明が明確ではない。
更に、請求項1,5及び9の記載では、当該請求項に記載された発明は、「故障コード」として、「前記発電機内のクーラント経路の閉塞、流体の漏洩、絶縁損傷、短絡、ステータ末端巻線又はステータくさびの緩み、軸受金属損傷、若しくは、シール損傷」のいずれかを選択して提供可能なものであるのか、それとも、「前記発電機内のクーラント経路の閉塞、流体の漏洩、絶縁損傷、短絡、ステータ末端巻線又はステータくさびの緩み、軸受金属損傷、若しくは、シール損傷」の全てではなく、そのうちの例えば1つのみを対象として「故障コード」を提供するものも当該請求項に記載された発明の範囲に含まれるのか、請求項1,5及び9の記載では明確ではない。
また、請求項1,5及び9をそれぞれ引用する請求項2-4,6-8及び10-11についても同様である。」

2.「(3)発明の詳細な説明には、請求項1,5及び9に「エラーの性質」として記載された、「前記発電機内のクーラント経路の閉塞」、「流体の漏洩」、「絶縁損傷」、「短絡」、「ステータ末端巻線」の「緩み」、「ステータくさびの緩み」、「軸受金属損傷」、及び「シール損傷」という事象のそれぞれについて、発電機内のどの箇所にどのようなセンサを設けてどのように観測を行い、異常判定を可能とするのか、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
上記の点について、段落0036には「センサS3により示される圧力増大に応答して、(例えば、特定のステータ電機子棒により引き起こされる)特定の場所の封鎖を示す故障コードを生成することができる。」と記載されているが、この「封鎖」とは、上記請求項記載の「前記発電機内のクーラント経路の閉塞」に対応するものであるのか否か不明である。更に、段落0028及び0033並びに図3には、センサS3は圧力ではなく流量を測定するものである旨の記載があるので、段落0036の「センサS3により示される圧力増大」との記載は不明な記載である。
また、段落0036には「S1及びS2により示される、温度の異常な上昇と同時の圧力の減少は、高温ガスが液体領域に漏出するようになる、特定のシールの漏出を示す故障コードの生成を生じることができる。」と記載されているが、この「高温ガスが液体領域に漏出」とは、発電機112内に生じる異常であるのか不明であり、上記請求項の記載において列記された「エラーの性質」のうち何に対応するものであるのか不明である。更に、センサS1及びS2という2つのセンサの観測により故障コードを生成しているが、請求項1,5及び9では、「第1のセンサ(S1)」のみにより観測する記載となっているので、請求項1,5及び9の記載とは対応しない。
発明の詳細な説明の記載において、センサの観測に基づく異常判定についての具体的な説明は、段落0036の上記記載のみであり、請求項1,5及び9に「エラーの性質」として記載された全ての事象のそれぞれについて、発電機内のどの箇所にどのようなセンサを設けてどのように観測を行い、異常判定を可能とするのか、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。
また、請求項1,5及び9をそれぞれ引用する請求項2-4,6-8及び10-11についても同様である。」

3.「(4)上記(3)に加えて、更に請求項4及び8に記載された「異常の発生源」の「識別」についても、上記の「エラーの性質」のそれぞれを対象として、どのようにその発生源の識別を可能とするのか、発明の詳細な説明には、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。例えば、「エラーの性質」が「短絡」の場合、発電機内にどのようなセンサを設けてどのように観測を行い、複数箇所で起き得る「短絡」の発生箇所を識別するのか、発明の詳細な説明には何ら記載されていない。他の「エラーの性質」についても同様である。」

4.「(5)請求項1,5及び9には、「前記診断データ(40)を評価して、前記診断データ(40)が取得されたときに異常が存在するかどうかを、前記発電機(112)のタイプに固有のパラメータ及び前記診断データ(40)を取得した前記発電機(112)に固有のパラメータからのデータを含むナレッジベースを用いて判定する」との記載がある。
しかし、「前記発電機(112)のタイプに固有のパラメータ」と「前記診断データ(40)を取得した前記発電機(112)に固有のパラメータ」との関係(両パラメータが同一の特性を扱う場合にどちらが優先するのか。例えばセンサによる検出値が、一方のパラメータ設定では正常範囲内にあるが、他方のパラメータ設定では正常範囲内にない場合にはどのように判定するのか。)が不明であり、その結果、上記請求項に係る発明が不明確である。更に、この点について、発明の詳細な説明の記載においても不明であり、その結果、発明の詳細な説明は、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
また、請求項1,5及び9をそれぞれ引用する請求項2-4,6-8及び10-11についても同様である。」

5.「(6)請求項2,6及び10には、「前記第1及び第2のセンサ(S1?S2)からの前記診断データ(40)の組み合わせに基づいて異常が存在するかどうかを判定する」との記載がある。
しかし、上記請求項の記載における「異常」とはどのようなものが該当するのか(請求項1,5及び9に列記された「エラーの性質」が該当するのか)不明であり、その結果、「第2のセンサ(S2)」が何を検出するものであって、どのような箇所に設けられるのかも不明である。更に、上記請求項の記載における「組み合わせ」とはどのようなことが該当するのか(S1の観測データとS2の観測データが共に正常範囲から外れた場合に異常が存在すると判定するという意味であるのか)、その範囲が明確であるとはいえない。
したがって、請求項2,6及び10に係る発明は明確ではない。
また、請求項2,6及び10をそれぞれ引用する請求項3-4,7-8及び11についても同様である。」

6.「(7)請求項3,7及び11には、「インタフェースを介してユーザ(16)から受け取った値に基づいて異常が存在するかどうかを判定するのに用いるパラメータ」について、「デフォルト値を変える」との記載がある。
しかし、請求項3,7及び11の記載における「パラメータ」とは、それぞれ請求項1,5及び9記載の「前記発電機(112)のタイプに固有のパラメータ」と「前記診断データ(40)を取得した前記発電機(112)に固有のパラメータ」のいずれを指しているのか、その両方が含まれるのか、明確ではない。更に、請求項3,7及び11記載の「パラメータ」として「前記発電機(112)のタイプに固有のパラメータ」が該当する場合には、「ユーザ」が「タイプに固有のパラメータ」(要するに、仕様データ)の「デフォルト値を変える」ことの技術的意味も不明である。
したがって、請求項3,7及び11に係る発明は明確ではない。
また、請求項3及び7をそれぞれ引用する請求項4及び8についても同様である。」

第4.当審の判断

上記第1.に記載したとおり、当審による拒絶の理由の通知に対し、請求人は、意見書の提出及び特許請求の範囲についての補正をした(上記第2.参照。なお、明細書及び図面についての補正はなかった。)。
当該補正後の特許請求の範囲及び明細書の発明の詳細な説明が、上記第3.1.ないし6.の点で記載不備を有するものであるか否か、以下検討する。

1.請求項1,5及び9には、「異常を引き起こした前記発電機内のエラーの性質を示す故障コード」について、その「エラーの性質」が、「前記発電機内のクーラント経路の閉塞、流体の漏洩、絶縁損傷、短絡、ステータ末端巻線又はステータくさびの緩み、軸受金属損傷、若しくは、シール損傷を含む」との記載がある。
しかし、上記記載における「流体」とは、具体的に「ガスタービンを含む発電機」内のどの箇所に流れるどのような流体であるのか明確ではなく、その結果、発明が明確ではない。更に、「絶縁損傷」、「短絡」及び「シール損傷」についても、具体的に「ガスタービンを含む発電機」内のどの箇所に発生するものであるのかそれぞれ明確ではなく、その結果、発明が明確ではない。
更に、請求項1,5及び9の記載では、「故障コード」として、「前記発電機内のクーラント経路の閉塞、流体の漏洩、絶縁損傷、短絡、ステータ末端巻線又はステータくさびの緩み、軸受金属損傷、若しくは、シール損傷」のいずれかを選択して提供可能なものであるのか、それとも、「前記発電機内のクーラント経路の閉塞、流体の漏洩、絶縁損傷、短絡、ステータ末端巻線又はステータくさびの緩み、軸受金属損傷、若しくは、シール損傷」の全てではなく、そのうちの例えば1つのみを対象として「故障コード」を提供するものも当該請求項に記載された発明の範囲に含まれるのか、請求項1,5及び9の記載では明確ではない。
また、請求項1,5及び9をそれぞれ引用する請求項2ないし4,請求項6ないし8及び請求項10ないし11についても同様である。
したがって、請求項1ないし11に係る発明は明確ではない。

2.発明の詳細な説明には、請求項1,5及び9に「エラーの性質」として記載された、「前記発電機内のクーラント経路の閉塞」、「流体の漏洩」、「絶縁損傷」、「短絡」、「ステータ末端巻線」の「緩み」、「ステータくさびの緩み」、「軸受金属損傷」、及び「シール損傷」という事象のそれぞれについて、発電機内のどの箇所にどのようなセンサを設けてどのように観測を行い、異常判定を可能とするのか、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
上記の点について、発明の詳細な説明の段落0036には「センサS3により示される圧力増大に応答して、(例えば、特定のステータ電機子棒により引き起こされる)特定の場所の封鎖を示す故障コードを生成することができる。」と記載されているが、この「封鎖」とは、上記請求項記載の「前記発電機内のクーラント経路の閉塞」に対応するものであるのか否か不明である。更に、段落0028及び0033並びに図3には、センサS3は圧力ではなく流量を測定するものである旨の記載があるので、段落0036の「センサS3により示される圧力増大」との記載は不明な記載である。
また、段落0036には「S1及びS2により示される、温度の異常な上昇と同時の圧力の減少は、高温ガスが液体領域に漏出するようになる、特定のシールの漏出を示す故障コードの生成を生じることができる。」と記載されているが、この「シールの漏出」とは、上記請求項記載の「シール損傷」に対応するものであるのか否か不明である。更に、段落0036の上記記載によれば、センサS1及びS2という2つのセンサの観測により故障コードを生成しているが、請求項1,5及び9では、「第1のセンサ」のみにより観測する記載となっているので、請求項1,5及び9の記載とは対応しない。
発明の詳細な説明の記載において、センサの観測に基づく異常判定についての具体的な説明は、段落0036の上記記載のみであり、仮に、上記の「封鎖」及び「シールの漏出」がそれぞれ請求項1,5及び9に記載された「前記発電機内のクーラント経路の閉塞」及び「シール損傷」に対応し、その実施例が記載されているとしても、「流体の漏洩」、「絶縁損傷」、「短絡」、「ステータ末端巻線」の「緩み」、「ステータくさびの緩み」及び「軸受金属損傷」のそれぞれに対し、「ガスタービンを含む発電機」内のどの箇所にどのようなセンサを設けてどのように観測を行い、異常判定を可能とするのかという事項を示す実施例が発明の詳細な説明には記載されておらず、また、上記事項は本願出願時において当業者が有する通常の知識又は常識であって明らかなことであったともいえない。更に、発明の詳細な説明に記載された上記実施例から、「流体の漏洩」、「絶縁損傷」、「短絡」、「ステータ末端巻線」の「緩み」、「ステータくさびの緩み」及び「軸受金属損傷」に対する上記事項まで、内容を拡張ないし一般化するための根拠も見いだせず、上記請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
また、請求項1,5及び9をそれぞれ引用する請求項2ないし4,請求項6ないし8及び請求項10ないし11についても同様である。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1ないし11に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、また、請求項1ないし11に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものではない。

上記の点について、請求人は、意見書において以下のとおり主張する。
「本願発明は、診断データを評価して、前記診断データが取得されたときに異常が存在するかどうかを、ナレッジベースを用いて判定して、流体の漏洩、絶縁損傷、シール損傷などのエラーの性質を示す故障コードを提供することを発明特定事項とするものであり、特定の流体や特定箇所の流体の漏洩の診断するための個別具体的な方法を発明特定事項とするものではありません。段落0031?0037から当業者であれば、上述した技術的思想は明確に把握できるものと思料いたします。」
しかし、明細書の発明の詳細な説明の記載において、実施可能要件が満たされるためには、請求項1に係る方法の発明については当業者がその方法を使用できるように、また、請求項5及び9に係る物の発明については当業者がその物を作れるように、当該発明の実施の形態を具体的に示した実施例が記載されなければならない。ただし、実施例の記載がなくても、本願出願時において、当該発明の分野における通常の知識を有する当業者が、明細書及び図面の記載に基づいて、請求項1についてはその方法を使用できる場合、請求項5及び9についてはその物を作れる場合はその限りではない。
請求項1に係る方法の発明は「前記コンピュータシステムにより、前記異常が存在する判定に基づいて、異常を引き起こした前記発電機内のエラーの性質を示す故障コードを提供する段階」を含み、「前記エラーの性質は、前記発電機内のクーラント経路の閉塞、流体の漏洩、絶縁損傷、短絡、ステータ末端巻線又はステータくさびの緩み、軸受金属損傷、若しくは、シール損傷を含む」のであるから、請求項1に係る方法を当業者が使用できるためには、「エラーの性質」として記載された「前記発電機内のクーラント経路の閉塞」、「流体の漏洩」、「絶縁損傷」、「短絡」、「ステータ末端巻線」の「緩み」、「ステータくさびの緩み」、「軸受金属損傷」、及び「シール損傷」のそれぞれに対し、その「故障コード」を提供する契機となる「前記異常が存在する判定」について、「ガスタービンを含む発電機」内のどの箇所にどのようなセンサを設けてどのように観測を行い、異常判定を可能とするのかという事項が当業者にとって明確かつ十分に把握できるものでなければならない。また、請求項5に係る「コンピュータシステム」の発明、及び請求項9に係る「コンピュータプログラム」の発明も、ともに請求項1に記載された方法をコンピュータシステム及びコンピュータプログラムとして実現化するためのものといえるので、請求項1と同様に、上記事項が当業者にとって明確かつ十分に把握できるものでなければならない。
しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、請求項1,5及び9に記載された「エラーの性質」のうち、上記のとおり少なくとも「流体の漏洩」、「絶縁損傷」、「短絡」、「ステータ末端巻線」の「緩み」、「ステータくさびの緩み」及び「軸受金属損傷」のそれぞれに対し、上記事項を示す実施例が発明の詳細な説明には記載されておらず、上記事項が本願出願時において当業者にとって通常の知識又は常識であったことが明らかなことであったともいえないので、上記事項は、本願出願時において当業者が本願明細書及び図面の記載から明確かつ十分に把握できたものではない。以上のことから、請求人の上記主張は採用できない。

3.請求項4及び8に記載された「前記発電機内の異常の発生源を識別する」ことについて、請求項4及び8がそれぞれ引用する請求項1及び5に記載された「エラーの性質」のそれぞれを対象として、どのようにその発生源の識別を可能とするのか(例えば、「エラーの性質」が「短絡」の場合、様々な箇所で短絡が発生するが、「ガスタービンを含む発電機」内にどのようなセンサを設けてどのように観測を行い、複数箇所で起き得る短絡の発生箇所を識別するのか。他の「エラーの性質」についても同様である。)、発明の詳細な説明には何ら記載されていない。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項4及び8に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、また、請求項1ないし11に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものではない。

4.請求項1,5及び9には、「前記診断データが取得されたときに異常が存在するかどうかを、前記発電機のタイプに固有のパラメータ及び前記診断データを取得した前記発電機に固有のパラメータからのデータを含むナレッジベースを用いて判定する」との記載がある。
しかし、「前記発電機のタイプに固有のパラメータ」と「前記診断データを取得した前記発電機に固有のパラメータ」との関係(両パラメータが同一の特性を扱う場合にどちらが優先するのか。例えばセンサによる検出値が、一方のパラメータ設定では正常範囲内にあるが、他方のパラメータ設定では正常範囲内にない場合にはどのように判定するのか。)が不明であり、その結果、上記請求項に係る発明が不明確である。更に、この点について、明細書には何ら記載されておらず、その結果、明細書の発明の詳細な説明は、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
また、請求項1,5及び9をそれぞれ引用する請求項2ないし4、請求項6ないし8及び請求項10ないし11についても同様である。
したがって、請求項1ないし11に係る発明は明確ではなく、また、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1ないし11に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

上記の点について、請求人は、意見書において以下のとおり主張する。
「本願発明は、「前記発電機のタイプに固有のパラメータ及び前記診断データを取得した前記発電機に固有のパラメータからのデータを含むナレッジベースを用いて判定する」という技術的思想を特定するものであります。発電機のタイプに固有のパラメータは、同様なタイプの発電機に共通するパラメータでありますから、一般的に個別の発電機の固有パラメータと不整合となることはありませんが、不整合が生じた場合には個別の発電機の固有パラメータを優先させることが一般的であります。なお、かかる説明は一般的な設計思想を説明したものであって、特許請求の範囲を限定解釈するものではありません。」
しかし、上記の「不整合が生じた場合には個別の発電機の固有パラメータを優先させる」ことは本願特許請求の範囲及び明細書には何ら記載も示唆もないから、請求人の上記主張は本願特許請求の範囲及び明細書の記載に基づくものではなく採用できない。

5.請求項2,6及び10には、「前記第1及び第2のセンサからの前記診断データに基づいて、前記診断データに異常が存在するかどうかを判定する」との記載がある。
しかし、上記請求項の記載における「異常」とはどのようなものが該当するのか(請求項1,5及び9に列記された「エラーの性質」が該当するのか)不明であり、その結果、「第2のセンサ」が何を検出するものであって、どのような箇所に設けられるのかも不明である。更に、上記請求項の記載では、「第1のセンサ」からのデータ及び「第2のセンサ」からのデータのうち、一方が正常を示し、他方が異常を示す場合に、「前記診断データに異常が存在する」と判定するものであるのか否か明確であるとはいえない。
また、請求項2,6及び10をそれぞれ引用する請求項3ないし4、請求項7ないし8及び請求項11についても同様である。
したがって、請求項2ないし4,6ないし8,10及び11に係る発明は明確ではない。

6.請求項3,7及び11には、「インタフェースを介してユーザから受け取った値に基づいて異常が存在するかどうかを判定するのに用いるパラメータ」について、その「デフォルト値を変える」との記載がある。
しかし、上記「パラメータ」とは、それぞれ請求項1,5及び9記載の「前記発電機のタイプに固有のパラメータ」と「前記診断データを取得した前記発電機に固有のパラメータ」のいずれを指しているのか、その両方が含まれるのか、明確ではない。
「デフォルト値」について、明細書には、段落0031に「ユーザ16がパラメータ調整モジュール34を用いて、現有の一般的経験に基づいて製造業者が設定したパラメータのデフォルト値を変更し、特定の発電機に関するユーザ16の経験に基づいて診断の感度を増減することができる。」との記載があることから、「前記発電機に固有のパラメータ」を「製造業者が設定したパラメータのデフォルト値」から変更することが記載されているといえる。しかし、「前記発電機のタイプに固有のパラメータ」の「デフォルト値を変える」ことは、明細書には何ら記載されておらず、明細書を参照しても、上記「パラメータ」に「前記診断データを取得した前記発電機に固有のパラメータ」が含まれるのか否か明確ではない。
また、請求項3及び7をそれぞれ引用する請求項4及び8についても同様である。
したがって、請求項3,4,7,8及び11に係る発明は明確ではない。

上記の点について、請求人は、意見書において以下のとおり主張する。
「請求項3は異常判定の判断材料となるパラメータのデフォルト値を変えることを趣旨とするものでありますから、変更するパラメータは、「前記発電機のタイプに固有のパラメータ」と「前記診断データを取得した前記発電機に固有のパラメータ」のいずれでもよいことは明らかであるものと思料いたします。同様なタイプの発電機に共通するパラメータのデフォルト値を変える場合には、「前記発電機のタイプに固有のパラメータ」のデフォルト値を変更します。」
しかし、「前記発電機のタイプに固有のパラメータ」の「デフォルト値を変える」ことは、上記のとおり本願特許請求の範囲及び明細書には何ら記載も示唆もないから、請求人の上記主張は本願特許請求の範囲及び明細書の記載に基づくものではなく採用できない。

第5.むすび

上記のとおりであるから、意見書の提出及び特許請求の範囲についての補正によってもなお、本願の請求項1ないし11に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものではないので、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1ないし11に係る発明は明確ではないので、特許請求の範囲の記載は、同法同条同項第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1ないし11に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないので、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は、特許法第36条第6項第1号及び第2号並びに第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
そうすると、本願を拒絶すべきものとした原査定は維持すべきである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-09-26 
結審通知日 2018-10-09 
審決日 2018-10-22 
出願番号 特願2011-210067(P2011-210067)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (H02P)
P 1 8・ 537- WZ (H02P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 祐介上野 力  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 中川 真一
永田 和彦
発明の名称 発電機運転の監視及び診断方法  
代理人 田中 拓人  
代理人 荒川 聡志  
代理人 黒川 俊久  
代理人 小倉 博  
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