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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01N
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  G01N
管理番号 1349651
異議申立番号 異議2018-700497  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-19 
確定日 2019-01-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6249564号発明「フライアッシュの品質評価方法、コンクリート用フライアッシュ、およびフライアッシュ混合セメントの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6249564号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項4、5について訂正することを認める。 特許第6249564号の請求項4、5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6249564号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成26年3月28日に出願され、平成29年12月1日にその特許権の設定登録がされ、同年12月20日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項4及び5に係る特許について、平成30年6月19日に特許異議申立人浜俊彦(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、同年8月16日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年10月18日に意見書(以下「特許権者意見書」という。)の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、同年12月10日に意見書(以下「申立人意見書」という。)を提出した。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
請求項4の「フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が」の前に、「フライアッシュの一粒一粒が分散した状態で、マルバーン社製の「Morphologi G3」を使用して、下記の測定条件で、光学顕微鏡像を撮影して、その画像を解析して得た」を追加する。

(2)訂正事項2
請求項4の「個数割合で1.4%以上」を、「個数割合で1.4?3.5%」に訂正する。

(3)訂正事項3
請求項4の「体積割合で10.2体積%以上」を、「体積割合で10.2?19.4体積%」に訂正する。

(4)訂正事項4
請求項4の最後に、
「[測定条件]
測定倍率:×20と×50
測定粒子数:50000」を追加する。

(5)訂正事項5
請求項5の「セメントと、」と、「フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が」の間に、「フライアッシュの一粒一粒が分散した状態で、マルバーン社製の「Morphologi G3」を使用して、下記の測定条件で、光学顕微鏡像を撮影して、その画像を解析して得た」を追加する。

(6)訂正事項6
請求項5の「個数割合で1.4%以上」を、「個数割合で1.4?3.5%」に訂正する。

(7)訂正事項7
請求項5の「体積割合で10.2体積%以上」を、「体積割合で10.2?19.4体積%」に訂正する。

(8)訂正事項8
請求項5の最後に、
「[測定条件]
測定倍率:×20と×50
測定粒子数:50000」を追加する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1及び4、5及び8について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項1及び4は、「フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比」を、「フライアッシュの一粒一粒が分散した状態で、マルバーン社製の「Morphologi G3」を使用して」「測定倍率:×20と×50 測定粒子数:50000」の「[測定条件]」「で、光学顕微鏡像を撮影して、その画像を解析して得た」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正事項5及び8も、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)には、
「【0021】
3.フライアッシュA?Dの品質評価
(A)フライアッシュ粒子の包絡周囲長および周囲長等の計測
フライアッシュA?Dを用い、乾式分級装置を使用して一粒一粒が分散した状態で、光学顕微鏡像を撮影してその画像を解析した。なお、該画像の取得および解析にはマルバーン社製の「Morphologi G3」を使用した。
なお、前記の測定条件および測定項目は以下のとおりである。
測定倍率:×20と×50を使用した。
測定粒子数:フライアッシュ1種類当たり50000粒を測定した。
測定項目:周囲長、包絡周囲長、および球相当体積」と記載されており、訂正事項1及び4、5及び8は、新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、訂正事項1及び4、5及び8は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1及び4、5及び8は、いずれも、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(2)訂正事項2及び3、6及び7について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項2及び3は、「フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合が、個数割合で1.4%以上、および体積割合で10.2体積%以上である」ものを、「フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合が、個数割合で1.4?3.5%、および体積割合で10.2?19.4体積%である」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正事項6及び7も、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
特許明細書等には、フライアッシュの品質判定の結果として、以下の表4が記載されている。
【表4】

上記表を参照するに、フライアッシュDとして、包絡周囲長/周囲長比が0.8未満の粒子の割合が個数割合で3.5%及び体積割合で19.4体積%のものが記載されていることから、その割合を「個数割合で1.4%以上、および体積割合で10.2体積%以上」から「個数割合で1.4?3.5%、および体積割合で10.2?19.4体積%」の範囲にすることは、新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、訂正事項2及び3、6及び7は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2及び3、6及び7は、いずれも、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、訂正後の請求項4及び5について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項4及び5に係る発明(以下、「本件発明4」び「本件発明5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項4及び5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項4】
フライアッシュの一粒一粒が分散した状態で、マルバーン社製の「Morphologi G3」を使用して、下記の測定条件で、光学顕微鏡像を撮影して、その画像を解析して得たフライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合が、個数割合で1.4?3.5%、および体積割合で10.2?19.4体積%である、コンクリート用フライアッシュ。
[測定条件]
測定倍率:×20と×50
測定粒子数:50000
【請求項5】
セメントと、
フライアッシュの一粒一粒が分散した状態で、マルバーン社製の「Morphologi G3」を使用して、下記の測定条件で、光学顕微鏡像を撮影して、その画像を解析して得たフライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合が、個数割合で1.4?3.5%、および体積割合で10.2?19.4体積%であるフライアッシュと
を混合する、フライアッシュ混合セメントの製造方法。
[測定条件]
測定倍率:×20と×50
測定粒子数:50000」

第4 取消理由通知に記載した取消理由
1 取消理由の概要
訂正前の請求項4及び5(以下「請求項4及び5」という。)に係る特許に対して、当審が平成30年8月16日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)特許法第29条第1項第3号について
請求項4及び5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。よって、請求項4及び5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証:久保田貴史、他、“塩水噴霧環境下における低品質フライアッシュ含有モルタルの鉄筋腐食性状”、セメント・コンクリート論文集、No. 55,2001、2002年2月1日発行、pp. 471-477

(2)特許法第36条第6項第2号について
請求項4及び5に係る発明の「周囲長」、「包絡周囲長」、「体積割合」について、本件特許明細書等の【0021】には、上記第2の2(1)イで摘記したとおり記載されているが、実際にどのような画像解析を行ってフライアッシュ粒子の「周囲長」、「包絡周囲長」及び「球相当体積」を測定したのか本件特許明細書等には具体的な説明がなく、測定方法によってはこれらの値も変わってくることから、フライアッシュ粒子の周囲長に対する包絡周囲長の比が0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合及び体積割合を明確に確定できない。特に「体積割合」について、上記装置で球相当体積を測定することで求めるものであるが、その際必要となる粒子径について、一般に甲第2号証及び甲第3号証に示されているように多数の手法があり、どの手法で求めるかによってその粒子径も異なってくることから、球相当体積も異なってくるものである。しかしながら、本件特許明細書等にはどの手法で粒子径を求めるかについて記載されていないため、「体積割合」について明確に確定できないことになる。
したがって、請求項4及び5に係る発明を明確に特定できないことから、訂正前の請求項4及び5に係る特許は、許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
甲第2号証:武林敬、“粉体粒子の形状”、色材協会誌、色材基礎講座(第X I講)68[1](1995)、pp.52-58
甲第3号証:粉体工学研究会編、“粉体粒度測定法”、昭和40年2月20日、株式会社養賢堂発行、pp.26-29

(3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
請求項4及び5に係る発明の「フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合が、個数割合で1.4%以上、および体積割合で10.2体積%以上である」フライアッシュを、どのように選別(選択)するのか発明の詳細な説明に記載されていない。
したがって、発明の詳細な説明は、請求項4及び5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえないことから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(4)特許法第36条第4項第1号(委任省令要件)について
発明の詳細な説明における実施例において、上記第2の2(2)イで摘記した表4のとおりのコンクリートの流動性の結果となっているが、それらのコンクリートは以下の表2の割合で材料を配合させたものである。ここで、表2及び表4を参照すると、AE剤の配合割合が少ないAではコンクリートの流動性が×であり、それよりAE剤の配合割合が多いB?Dではコンクリートの流動性が○又は◎となっている。また、コンクリートを調製する際にAE剤の配合が多くなると、流動性がよくなり、ワーカビリティが改善されることは、本件特許出願時における当業者の技術常識である(甲第4号証及び甲第5号証参照)。
【表2】

そうすると、フライアッシュAを用いて試製されたフライアッシュセメントに比べて、フライアッシュB?Dを用いて試製されたフライアッシュセメントの方が流動性が高くなることが、AE剤の単位量が大きいことによるものなのか、それとも、「フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合が、個数割合で1.4%以上、および体積割合で10.2体積%以上である」フライアッシュを用いたことによるものなのか不明である。
したがって、「フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合が、個数割合で1.4%以上、および体積割合で10.2体積%以上」であるというフライアッシュについての特定が、コンクリートの流動性をもたらすともいえないことから、それらの数値に技術上の意義があるとはいえない。 よって、発明の詳細な説明が、本件発明4及び5について経済産業省令で定めるところにより記載されたものといえず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
甲第4号証:“新・コンクリート用混和材料 技術と市場”、1988年6月3日、株式会社シーエムシー発行、pp.11-17
甲第5号証:笠井芳夫、他、“セメント・コンクリート用混和材料”、平成5年9月30日、株式会社技術書院発行、pp.26-29

2 甲第1号証について
(1)甲第1号証(以下「甲1」という。)の記載事項
(1ア)「近年、未利用資源の活用の観点より、火力発電所から多量に産出されるフライアッシュのコンクリート材料への有効利用が検討されている。本研究は、普通ポルトランドセメントおよびエコセメントを使用して、低品質フライアッシュを混入した鉄筋埋設モルタル試験体を作製し、塩水噴霧環境下にてフライアッシュの品質およびその置換率がモルタル中の鉄筋の腐食性状に及ぼす影響を電気化学的測定により検討したものである。」(471頁要旨)

(1イ)「一方、海外炭の使用量の増加により、JIS規格外^(2))のフライアッシュが産出されることが多くなり、低品質のフライアッシュのコンクリート材料への活用が望まれている。」(471頁左欄4?7行)

(1ウ)「2.実験概要
2.1 使用材料およびモルタル配合
使用セメントは普通ポルトランドセメント(OPC)およびエコセメント(ECO)である。・・・2種類の低品質フライアッシュの化学成分および物理的性質をTable2に示す。フライアッシュは石炭専焼火力発電所のIV種相当品(フライアッシュA)とJIS規格外品(フライアッシュB)を用いた。・・・フライアッシュAおよびBの粒子形状をFig. 1に示す。フライアッシュAはフライアッシュBと比較して球状の粒子形状のものが多いが、フライアッシュBは不規則で多孔質な粒子形状のものが多いのが分かる。
2.2 モルタル試験体の作製および暴露条件
セメントモルタルの配合Table 3に示す。セメントモルタルは水結合材比を55%、セメント/砂比を1/2とし、フライアッシュのセメントに対する質量置換率を20%および40%とした。」(471頁左下欄18行?同頁右下欄19行)」

(1エ)Fig.1として以下の図面(写真)が記載されている。


(2)甲1発明について
ア フライアッシュBについて
フライアッシュBは、摘記(1ア)及び(1ウ)から、コンクリート用であり、それはセメントと混合するものである。

イ Fig.1のBの拡大
上記Fig. 1のBの図面を拡大したのが以下のものである。

上記拡大図面において、3つのフライアッシュ粒子(1)、(2)、(3)(図面では丸数字)について、上記図の実線及び点線で示される粒子の周囲及び包絡周囲の長さを市販の紐を用いて測定し、サイズ換算して求めたものが以下の表Aにおける方法Iであり、画像解析フリーソフト「image J」に、上記図の実線及び点線で示される粒子の周囲線、及び包絡周囲線を読み込んでそれぞれの長さを測定したものが以下の表Aにおける方法IIである。

表Aに示すとおり、Fig.1のBに示される24個のフライアッシュ粒子のうち、少なくとも(1)、(2)、(3)の3個のフライアッシュ粒子は、周囲長に対する包絡周囲長の比が0.8未満である。したがって、甲1には、周囲長に対する包絡周囲長の比が0.8未満であるフライアッシュ粒子の個数割合が少なくとも12.5%(=3/24)であるフライアッシュが記載されているといえる。次に、Fig.1のBの24個の各フライアッシュ粒子の投影面積をimage Jで測定し、投影面積が等しい円の直径を求め、当該直径に基づいて球の体積を計算し、これに基づいて、24個のフライアッシュ粒子の合計体積に対する、フライアッシュ粒子(1)、(2)、(3)の合計体積の比率を求めると77.9体積%となる。

ウ 甲1発明
上記ア及びイを踏まえれば、甲1には、以下の発明が記載されている。
「フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合が、個数割合で12.5%、および体積割合で77.9体積%である、コンクリート用フライアッシュ。」(以下「甲1α発明」という。)
「セメントと、フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合が、個数割合で12.5%、および体積割合で77.9体積%であるフライアッシュとを混合する、フライアッシュ混合セメントの製造方法。」(以下「甲1β発明」という。)

3 当審の判断
(1)特許法第29条第1項第3号について
ア 本件発明4について
(ア)対比
本件発明4と甲1α発明とを対比すると、
(一致点)
「フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合が、個数割合で所定の値(%)、および体積割合で所定の値(体積%)である、コンクリート用フライアッシュ。」
の点で一致するが、以下の点で相違する。

(相違点)
「フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合」である「個数割合」及び「体積割合」が、
本件発明4では、「フライアッシュの一粒一粒が分散した状態で、マルバーン社製の「Morphologi G3」を使用して」「測定倍率:×20と×50 測定粒子数:50000」の「[測定条件]」「で、光学顕微鏡像を撮影して、その画像を解析して得た」もので、それらの値が「個数割合で1.4?3.5%、および体積割合で10.2?19.4体積%である」のに対し、
甲1α発明では、上記測定装置及び測定条件での値とはいえず、「個数割合で12.5%、および体積割合で77.9体積%である」点。

(イ)相違点の判断
甲1α発明のフライアッシュは、フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合が、個数割合で12.5%、および体積割合で77.9体積%であるもので、本件発明4の「個数割合で1.4?3.5%、および体積割合で10.2?19.4体積%」に対して、大きく値の異なるものであり、測定装置及び測定条件の違いを考慮しても、それは実質的な相違点である。

(ウ)小括
よって、本件発明4は、甲1発明αとはいえないことから、特許法第29条第1項第3号に該当しないものである。

イ 本件発明5について
(ア)対比
本件発明5と甲1β発明とを対比すると、
(一致点)
「セメントと、
フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合が、個数割合で所定の値(%)、および体積割合で所定の値(体積%)であるフライアッシュと
を混合する、フライアッシュ混合セメントの製造方法。」
の点で一致するが、以下の点で相違する。

(相違点)
「フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合」である「個数割合」及び「体積割合」が、
本件発明5では、「フライアッシュの一粒一粒が分散した状態で、マルバーン社製の「Morphologi G3」を使用して」「測定倍率:×20と×50 測定粒子数:50000」の「[測定条件]」「で、光学顕微鏡像を撮影して、その画像を解析して得た」もので、それらの値が「個数割合で1.4?3.5%、および体積割合で10.2?19.4体積%である」のに対し、
甲1β発明では、上記測定装置及び測定条件での値とはいえず、「個数割合で12.5%、および体積割合で77.9体積%である」点。

(イ)相違点の判断
上記(ア)での相違点は、上記ア(ア)で述べた相違点と同じであることから、上記ア(イ)で述べたとおり、それは実質的な相違点である。

(ウ)小括
よって、本件発明5は、甲1発明βとはいえないことから、特許法第29条第1項第3号に該当しないものである。

ウ 申立人の意見について
申立人は、申立人意見書で、以下の甲第6号証(以下「甲6」という。)を提示し、甲6には「海外炭は一般に融点が高いので,良好な粒形のフライアッシュが国内炭の場合に比較して減少した。」(19頁左欄下から6?5行)と記載され、甲1の摘記(1イ)に「海外炭の使用量の増加により、JIS規格外^(2))のフライアッシュが産出されることが多くな」ることが記載されていることから、甲1に記載されているフライアッシュは、上記本件発明4及び5の要件を満たすことを主張しているが、海外炭のフライアッシュが上記ア(ア)及びイ(ア)における(相違点)を満たす証拠がないことから、特許法第29条第1項第3号についての判断が変わることはない。
甲6:金津努、“フライアッシュJIS改定”、1999年8月1日、コンクリート工学第37巻8号、pp.19-25

エ まとめ
本件発明4及び5は、甲1に記載された発明ではないことから、本件発明4及び5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。

(2)特許法第36条第6項第2号について
ア 上記第3で記載したように、本件訂正により、フライアッシュ粒子の「周囲長」、「包絡周囲長」及び「球相当体積」は、「フライアッシュの一粒一粒が分散した状態で、マルバーン社製の「Morphologi G3」を使用して」「測定倍率:×20と×50 測定粒子数:50000」の「[測定条件]」「で、光学顕微鏡像を撮影して、その画像を解析して」自動的に測定されるものとなり、それらは該機器が採用している仕様、算出方法及び条件によって一義的に測定されるものである。
したがって、本件発明4及び5の「フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合」である「個数割合」および「体積割合」の値は、「フライアッシュの一粒一粒が分散した状態で、マルバーン社製の「Morphologi G3」を使用して」「測定倍率:×20と×50 測定粒子数:50000」の「[測定条件]」「で、光学顕微鏡像を撮影して、その画像を解析して得た」ものと特定されたことで一義的なものとなり、不明確であるとはいえない。
なお、この点、申立人は、申立人意見書で、何ら反論をしていない。

イ まとめ
したがって、本件発明4及び5に係る特許は、許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。

(3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
ア フライアッシュをロット(集団)ごとに50000粒とり、それらを一粒一粒が分散した状態で、マルバーン社製の「Morphologi G3」を使用して、測定倍率:×20と×50で光学顕微鏡像を撮影して、その画像を解析して、「フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合が、個数割合で1.4?3.5%、および体積割合で10.2?19.4体積%」を満たすロットを「コンクリート用フライアッシュ」、「セメントと、混合する」「フライアッシュ混合セメントの製造方法」における「フライアッシュ」として選択すればいいものであり、申立人が申立人意見書で主張するような「当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験」を要するものとはいえない。

イ まとめ
したがって、発明の詳細な説明は、本件発明4及び5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえ、本件発明4及び5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

(4)特許法第36条第4項第1号(委任省令要件)について
ア 特許権者は特許権者意見書で、
「本件明細書の段落0018の4行に記載のJIS A 5308「レディーミクストコンクリート」(乙第1号証)には、該JIS中の表4に記載の空気量の範囲が定められており、当業者は、該範囲内に目標空気量を定め、該目標空気量の範囲内に入るように、AE剤の添加量を調整して、コンクリート中の空気量を制御する(乙第2号証の94頁の右欄の5?6行、同95頁の右欄の下から12?9行)。その結果、乙第2号証の96頁の表-3に示すように、AE剤の添加量はばらつく。
また、AE剤が多いからと云って、フライアッシュコンクリートの流動性が高いとは限らない。例えば、乙第3号証の333頁の表-2に示すように、AE剤量はBがAの40倍(=0.435/0.0011)であるにも拘わらず、Bの流動性(スランプ)はAの流動性(スランプ)の0.88(=9.4/10.6)に過ぎない。したがって、AE剤が多くても、必ずしも空気量が多いとは云えず、また流動性がよいとも云えないことは、表-2に示すとおりである。ちなみに、この事実は、主に、フライアッシュ中の未燃カーボーンによるAE剤の吸着に起因することが、当業者に広く知られている。
段落0019の表2では、高性能AE減水剤の添加量を一定にして、AE剤の添加量を調整して(これが、表2中のAE剤の添加量が、それぞれ異なる所以である。)コンクリート中の空気量を制御した。表2の配合中に普通セメントとあり、また、表2の配合の内容から、作製したコンクリートは普通コンクリートであり、したがって、前記JISの表4により、フライアッシュA?Dを含む普通コンクリートの空気量は、4.5±1.5%の範囲内にあると当業者は一義的に分かる。」
乙第1号証:JIS A 5308「レディーミクストコンクリート」
乙第2号証:楠貞則 他、「フライアッシュコンクリートの簡易品質評価手法に関する研究」、土木学会論文集E、Vol.65、No.1、pp.93-102、2009年3月
乙第3号証:堺孝司 他、「フライアッシュを用いた環境負荷低減コンクリートに関する研究」、土木学会論文集E、Vol.65、No.3、pp.332-342、2009年8月
と説明しており、上記説明を踏まえれば、上記第2の2(2)イで摘記した表4において、「コンクリートの流動性」が良好になるのは、AE剤の単位量が大きいことではなく、「フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合が、個数割合で1.4?3.5%、および体積割合で10.2?19.4体積%である」フライアッシュを混合したことよるものであることが理解できることから、当該フライアッシュについての上記数値範囲には技術上の意義があるといえる。
なお、この点、申立人は、申立人意見書で、何ら反論をしていない。

イ まとめ
よって、発明の詳細な説明が、本件発明4及び5について経済産業省令で定めるところにより記載されたものといえ、本件発明4及び5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。

第6 申立人意見書で新たに主張した取消理由について
申立人は、申立人意見書で、新たに甲第7号証(以下「甲7」という。)を提示し、本件発明4及び5は、公然実施された発明であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができない発明であること、及び、甲1に記載された発明あるいは上記公然実施された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であることを、新たに主張したことから、これらについて念のため検討しておく。
甲7:JIS ハンドブック[10]生コンクリート、JIS A 6201“コンクリート用フライアッシュ”2001年1月31日発行

1 特許法第29条第1項第2号について
甲7には、コンクリート用フライアッシュとしてフライアッシュII種が記載されているものの、そのフライアッシュII種が「フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合が、個数割合で1.4?3.5%、および体積割合で10.2?19.4体積%」であることは記載されていない。
本件特許明細書等の実施例として、
「【0015】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用材料
表1に示す、銘柄の異なるフライアッシュA?D(JIS A 6201のII種に相当するもの)を使用した。
【0016】
【表1】


と記載され、それらのフライアッシュの品質判定として、上記第2の2(2)イで摘記した表4に記載されているとおり、フライアッシュII種のすべてが、「フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合が、個数割合で1.4?3.5%、および体積割合で10.2?19.4体積%」を満たすとはいえないことから、「フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合が、個数割合で1.4?3.5%、および体積割合で10.2?19.4体積%」を満たすコンクリート用フライアッシュが公然実施されていたものとはいえない。
よって、本件発明4及び5は特許法第29条第1項第2号に該当せず、本件発明4及び5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。

2 特許法第29条第2項について
上記第4の2(1)で摘記したように、甲1には、フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合(個数割合および体積割合)と、フライアッシュを混合させたコンクリートの流動性との関係について何ら言及されておらず、甲1発明α及びβにおいて、フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合が、個数割合で「1.4?3.5%」、および体積割合で「10.2?19.4」体積%とする動機付けはない。
また、甲7においても上記関係は言及されていないから、甲7に基づく公然実施された発明において、「フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合が、個数割合で1.4?3.5%、および体積割合で10.2?19.4体積%」とする動機付けはない。
よって、本件発明4及び5は当業者が容易になし得たものではなく、本件発明4及び5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明4及び5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明4及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比に基づき、該フライアッシュを用いたコンクリートの流動性を評価する、フライアッシュの品質評価方法。
【請求項2】
前記フライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合に基づき、該フライアッシュを用いたコンクリートの流動性を評価する、請求項1に記載のフライアッシュの品質評価方法。
【請求項3】
(A)フライアッシュ粒子の包絡周囲長および周囲長の計測工程、および(B)フライアッシュの品質判定工程を少なくとも含む、請求項1または2に記載のフライアッシュの品質評価方法。
【請求項4】
フライアッシュの一粒一粒が分散した状態で、マルバーン社製の「Morphologi G3」を使用して、下記の測定条件で、光学顕微鏡像を撮影して、その画像を解析して得たフライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合が、個数割合で1.4?3.5%、および体積割合で10.2?19.4体積%である、コンクリート用フライアッシュ。
[測定条件]
測定倍率:×20と×50
測定粒子数:50000
【請求項5】
セメントと、
フライアッシュの一粒一粒が分散した状態で、マルバーン社製の「Morphologi G3」を使用して、下記の測定条件で、光学顕微鏡像を撮影して、その画像を解析して得たフライアッシュ粒子の周囲長に対する該フライアッシュ粒子の包絡周囲長の比が、0.8未満であるフライアッシュ粒子の含有割合が、個数割合で1.4?3.5%、および体積割合で10.2?19.4体積%であるフライアッシュと
を混合する、フライアッシュ混合セメントの製造方法。
[測定条件]
測定倍率:×20と×50
測定粒子数:50000
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-12-18 
出願番号 特願2014-70333(P2014-70333)
審決分類 P 1 652・ 536- YAA (G01N)
P 1 652・ 537- YAA (G01N)
P 1 652・ 113- YAA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 草川 貴史  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 三崎 仁
渡戸 正義
登録日 2017-12-01 
登録番号 特許第6249564号(P6249564)
権利者 太平洋セメント株式会社
発明の名称 フライアッシュの品質評価方法、コンクリート用フライアッシュ、およびフライアッシュ混合セメントの製造方法  
代理人 新井 範彦  
代理人 新井 範彦  

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