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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F01N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F01N
管理番号 1349652
異議申立番号 異議2018-700321  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-18 
確定日 2019-01-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6218528号発明「保持シール材、保持シール材の製造方法、巻付体の圧入方法及び排ガス浄化装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6218528号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正することを認める。 特許第6218528号の請求項1、3、4、6及び7に係る特許を維持する。 特許第6218528号の請求項2及び5に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6218528号の請求項1ないし7に係る特許は、平成25年9月24日に出願され、平成29年10月6日にその特許権の設定登録がされ、平成29年10月25日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年4月18日に特許異議申立人 三田 翔(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、平成30年6月25日に取消理由(以下、「取消理由」という。)を通知した。特許権者は、その指定期間内である平成30年8月27日に意見書の提出及び訂正の請求を行なった。
その後、当審は、平成30年9月28日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を行い、異議申立人に対して相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、何らの応答もなかった。

第2 訂正の請求
1 訂正の内容
平成30年8月27日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項よりなる。(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「表面が結合剤層で覆われた無機繊維を含む所定の厚さのマットからなる保持シール材であって、
前記結合剤層は有機結合剤及び無機結合剤を含んでおり、
前記有機結合剤は自己架橋性樹脂であり、
保持シール材を600℃/1時間加熱した前後での重量減少率が、加熱前の保持シール材の重量100%に対して0.1?10%であることを特徴とする保持シール材。」とあるのを、
「表面が結合剤層で覆われた無機繊維を含む所定の厚さのマットからなる保持シール材であって、
ニードルパンチング処理によって無機繊維が交絡しており、
前記結合剤層は有機結合剤、無機結合剤及び高分子系分散剤としてのアニオン性高分子系分散剤を含んでおり、
前記有機結合剤は自己架橋性樹脂であり、前記有機結合剤のガラス転移温度は5℃以下であり、
保持シール材を600℃/1時間加熱した前後での重量減少率が、加熱前の保持シール材の重量100%に対して0.1?10%であり、
20回目の引き抜き試験においても、ステンレス板を保持シール材からなる試験片の間から引き抜く際に試験片にせん断破壊が生じないことを特徴とする保持シール材。」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2ないし7も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3が引用する請求項につき、「請求項1又は2」とあるのを、「請求項1」と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、「無機繊維を含むマットを準備するマット準備工程と、
自己架橋性樹脂からなる有機結合剤及び無機結合剤を含む結合剤溶液を前記マットに付与する付与工程と、
前記結合剤溶液が付与された前記マットを乾燥させる乾燥工程とを含むことを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の保持シール材の製造方法。」とあるのを、
「ニードルパンチング処理によって無機繊維を交絡させて、無機繊維を含むマットを準備するマット準備工程と、
無機結合剤溶液と、高分子系分散剤としてのアニオン性高分子系分散剤を混合した溶液を調整した後、自己架橋性樹脂からなりガラス転移温度が5℃以下である有機結合剤を水中に分散させた有機結合剤溶液と混合することにより結合剤溶液を調整する工程と、
前記結合剤溶液を前記マットに付与する付与工程と、
前記結合剤溶液が付与された前記マットを乾燥させる乾燥工程とを含み、
前記結合剤溶液中の前記高分子系分散剤の濃度が50?1000ppmであり、
前記無機結合剤溶液と前記高分子系分散剤とを混合した溶液の前記無機結合剤としての無機粒子の固形分重量:前記有機結合剤溶液の前記有機結合剤としての自己架橋性成分の固形分重量=3:1?1:3であることを特徴とする請求項1又は3に記載の保持シール材の製造方法。」と訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6が引用する請求項につき、「請求項1?3のいずれか」とあるのを、「請求項1又は3」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7が引用する請求項につき、「請求項1?3のいずれか」とあるのを、「請求項1又は3」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載における「無機繊維」に対して、「ニードルパンチング処理によって無機繊維が交絡して」いることを限定し、以下同様に、「結合剤層」に対して、「高分子系分散剤としてのアニオン性高分子系分散剤」を含むことを限定し、「有機結合剤」に対して「有機結合剤のガラス転移温度は5℃以下」であることを限定し、「保持シール材」に対して「20回目の引き抜き試験においても、ステンレス板を保持シール材からなる試験片の間から引き抜く際に試験片にせん断破壊が生じない」ことを限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、上記アのように訂正前の請求項1における記載をさらに限定するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2を削除するというものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること

上記アに記載したとおり、訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アに記載したとおり、訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項3が引用する請求項につき、「請求項1又は2」とあるのを、「請求項1」と訂正することにより、特許請求の範囲の請求項3の引用請求項数を削減するものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記アに記載したとおり、訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項3の引用請求項数を削減するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アに記載したとおり、訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項3の引用請求項数を削減するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、訂正前の請求項4の記載における「無機繊維」に対して、「ニードルパンチング処理によって無機繊維が交絡させ」ることを限定し、以下同様に、「自己架橋性樹脂からなる有機結合剤及び無機結合剤を含む結合剤溶液」に対して、結合剤溶液が「無機結合剤溶液と、高分子系分散剤としてのアニオン性高分子系分散剤を混合した溶液を調整した後、自己架橋性樹脂からなりガラス転移温度が5℃以下である有機結合剤を水中に分散させた有機結合剤溶液と混合することにより結合剤溶液を調整する工程」により調整されること、及び「前記結合剤溶液中の前記高分子系分散剤の濃度が50?1000ppm」であることを限定し、「無機結合剤」及び「有機結合剤」に対して、「前記無機結合剤溶液と前記高分子系分散剤とを混合した溶液の前記無機結合剤としての無機粒子の固形分重量:前記有機結合剤溶液の前記有機結合剤としての自己架橋性成分の固形分重量=3:1?1:3である」ことを限定したものであって、さらに、特許請求の範囲の請求項4が引用する請求項につき、「請求項1?3の」とあるのを「請求項1又は3に」と訂正することにより、特許請求の範囲の請求項4の引用請求項数を削減するものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4は、上記アのように訂正前の請求項4の記載をさらに限定するものであり、さらに、特許請求の範囲の請求項4の引用請求項数を削減するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(5)訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、特許請求の範囲の請求項5を削除するというものである。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること

上記アに記載したとおり、訂正事項5は、特許請求の範囲の請求項5を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アに記載したとおり、訂正事項5は、特許請求の範囲の請求項5を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(6)訂正事項6
ア 訂正の目的について
訂正事項6は、特許請求の範囲の請求項6が引用する請求項につき、「請求項1?3のいずれか」とあるのを、「請求項1又は3」と訂正することにより、特許請求の範囲の請求項6の引用請求項数を削減するものである。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記アに記載したとおり、訂正事項6は、特許請求の範囲の請求項6の引用請求項数を削減するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アに記載したとおり、訂正事項6は、特許請求の範囲の請求項6の引用請求項数を削減するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(7)訂正事項7
ア 訂正の目的について
訂正事項7は、特許請求の範囲の請求項7が引用する請求項につき、「請求項1?3のいずれか」とあるのを、「請求項1又は3」と訂正することにより、特許請求の範囲の請求項7の引用請求項数を削減するものである。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記アに記載したとおり、訂正事項7は、特許請求の範囲の請求項7の引用請求項数を削減するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アに記載したとおり、訂正事項7は、特許請求の範囲の請求項7の引用請求項数を削減するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

3 一群の請求項について
これらの訂正は、請求項〔1ないし7〕という一群の請求項について請求されており、一群の請求項ごとに請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第4項及び同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件訂正発明について
本件訂正の請求により訂正された請求項1、3、4、6及び7に係る発明(以下、「本件訂正発明1」、「本件訂正発明3」、「本件訂正発明4」、「本件訂正発明6」及び「本件訂正発明7」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1、3、4、6及び7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)

「【請求項1】
表面が結合剤層で覆われた無機繊維を含む所定の厚さのマットからなる保持シール材であって、
ニードルパンチング処理によって無機繊維が交絡しており、
前記結合剤層は有機結合剤、無機結合剤及び高分子系分散剤としてのアニオン性高分子系分散剤を含んでおり、
前記有機結合剤は自己架橋性樹脂であり、前記有機結合剤のガラス転移温度は5℃以下であり、
保持シール材を600℃/1時間加熱した前後での重量減少率が、加熱前の保持シール材の重量100%に対して0.1?10%であり、
20回目の引き抜き試験においても、ステンレス板を保持シール材からなる試験片の間から引き抜く際に試験片にせん断破壊が生じないことを特徴とする保持シール材。

【請求項2】(削除)

【請求項3】
前記無機結合剤としての無機粒子が、前記有機結合剤としての自己架橋性樹脂成分中に分散してなる請求項1に記載の保持シール材。

【請求項4】
ニードルパンチング処理によって無機繊維を交絡させて、無機繊維を含むマットを準備するマット準備工程と、
無機結合剤溶液と、高分子系分散剤としてのアニオン性高分子系分散剤を混合した溶液を調整した後、自己架橋性樹脂からなりガラス転移温度が5℃以下である有機結合剤を水中に分散させた有機結合剤溶液と混合することにより結合剤溶液を調整する工程と、
前記結合剤溶液を前記マットに付与する付与工程と、
前記結合剤溶液が付与された前記マットを乾燥させる乾燥工程とを含み、
前記結合剤溶液中の前記高分子系分散剤の濃度が50?1000ppmであり、
前記無機結合剤溶液と前記高分子系分散剤とを混合した溶液の前記無機結合剤としての無機粒子の固形分重量:前記有機結合剤溶液の前記有機結合剤としての自己架橋性樹脂成分の固形分重量=3:1?1:3であることを特徴とする請求項1又は3に記載の保持シール材の製造方法。

【請求項5】(削除)

【請求項6】
排ガス処理体に請求項1又は3に記載の保持シール材を巻きつけた巻付体を作製し、
その内部が短径側端部から長径側端部に向かってテーパー状に広がった圧入治具を準備し、前記圧入治具の前記短径側端部を金属ケーシングの一端にはめ込んで固定し、
前記巻付体を前記圧入治具の前記長径側端部側から押し込むことにより、前記巻付体を前記金属ケーシング内に圧入することを特徴とする、巻付体の圧入方法。

【請求項7】
金属ケーシングと、
前記金属ケーシングに収容された排ガス処理体と、
前記排ガス処理体の周囲に巻き付けられ、前記排ガス処理体及び前記金属ケーシングの間に配設された保持シール材とを備える排ガス浄化装置であって、
前記保持シール材は、請求項1又は3に記載の保持シール材であることを特徴とする排ガス浄化装置。」

2 取消理由の概要
取消理由の概要は以下のとおりである。

[理由1]本件特許の請求項1、3及び7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲第1号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

[理由2]本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

甲第1号証:国際公開第2011/099484号
甲第2号証:特開2013-87756号公報
甲第3号証:特開2004-204819号公報
甲第4号証:日本ゼオン(株)「NIPOL(登録商標)ラテックス一覧表(抜粋)」
甲第5号証:特開2013-155750号公報
甲第6号証:特開2008-45521号公報
(なお、甲第1号証ないし甲第6号証は、特許異議申立書の証拠方法の甲第1号証ないし甲第6号証と同じものである。以下、甲第1号証ないし甲第6号証を、「甲1」ないし「甲6」という。)

3 甲第1号証ないし甲第6号証の記載
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載
本件特許の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証(国際公開第2011/099484号)には、「触媒コンバーター用保持材及びその製造方法」に関して次のような記載がある。(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下、同様。)

1a)「【請求項1】
断面が扁平形状の触媒担体と、触媒担体を収容する金属製ケーシングと、触媒担体に装着されて触媒担体と金属製ケーシングとの間隙に介装される保持材とを備えた触媒コンバーターに用いられる保持材であって、
触媒担体の断面の短径軸方向に位置し、高坪量部分である第1部分と、触媒担体の断面の長径軸方向に位置し、低坪量部分である第2部分と、第1部分から第2部分に向かって坪量が漸減する第3部分とを備える、触媒コンバーター用保持材。」

1b)「【0001】
本発明は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排気ガス中に含まれるパティキュレートや一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物等を除去する触媒コンバーターに用いられる触媒担体を金属製ケーシング内に保持するための触媒コンバーター用保持材及びその製造方法に関する。」

1c)「【0015】
保持材1は、保持力や断熱性能、シール性能等を考慮すると、厚さが一定であることが好ましい。具体的には、厚さは5?30mmであればよく、6?12mmであることが好ましい。また、厚さのばらつきは±15%以下であることが好ましく、より好ましくは±10%以下、さらに好ましくは±5%以下である。」

1d)「【0017】
また、保持材1は、触媒担体10とケーシング20との間隙に介装したときに、平均密度が0.15?0.7g/cm^(3) であることが好ましく、0.2?0.6g/cm^(3) であることがより好ましく、0.25?0.5g/cm^(3) であることが特に好ましい。このような密度にすることにより、触媒担体10を良好に保持できる。」

1e)「【0026】
上記の各実施形態において、保持材1、1A、1Bの構成材料には制限がなく、無機繊維や有機バインダーを含んでいればよい。また、必要に応じて、従来から使用されている、充填材や無機バインダー等を含んでいてもよい、これらの種類には制限はないが、以下に好ましい例を示す。
【0027】
無機繊維としては、従来から保持材に用いられている種々の無機繊維を用いることができる。例えば、アルミナ繊維、ムライト繊維、あるいはその他のセラミック繊維等を適宜使用できる。より具体的には、アルミナ繊維としては、例えばAl_(2)O_(3) が90重量%以上(残りはSiO_(2) 分)であって、かつX線結晶学に基づいて低結晶化度を有することが好ましく、結晶化度は30%以下であればよく、好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。また、その平均繊維径が3?8μm、ウエットボリューム400cc/5g以上が好ましい。ムライト繊維としては、例えばAl_(2)O_(3)分/SiO_(2)分重量比が70/30?80/20程度のムライト組成であって、かつX線結晶学に基づいて低結晶化度を有することが好ましく、結晶化度は30%以下であればよく、好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。また、その平均繊維径が3?8μm、ウエットボリューム400cc/5g以上が好ましい。その他のセラミック繊維としては、シリカアルミナ繊維やシリカ繊維を挙げることができるが、何れも従来から保持材に使用されているもので構わない。また、ガラス繊維やロックウール、生体溶解性繊維を配合してもよい。」

1f)「【0029】
有機バインダーも公知のもので構わず、ゴム類、水溶性有機高分子化合物、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等を使用できる。具体的には、ゴム類の例としては、n-ブチルアクリレートとアクリロニトリルの共重合体、エチルアクリレートとアクリロニトリルの共重合体、ブタジエンとアクリロニトリルの共重合体、ブタジエンゴム等がある。水溶性有機高分子化合物の例としては、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等がある。熱可塑性樹脂の例としては、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル等の単独重合体及び共重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体等がある。熱硬化性樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等がある。なお、これらの有機バインダーは二種以上を組み合わせて使用することもできる。有機バインダーの使用量は、無機繊維を結束し得る量であれば制限はないが、無機繊維100質量部に対して0.1?10質量部であればよい。有機バインダーが0.1質量部未満では結束力が不足することが懸念され、10質量部を越えると相対的に無機繊維の量が減ってしまい、保持材として必要な保持性能及びシール性能が得られなくなることが懸念される。また、保持材中の有機成分が多すぎる場合、自動車の初期使用時において、保持材中の有機成分が揮発し、排気されるガス中の炭化水素成分量が基準値を超えてしまうことも懸念される。有機バインダーの好ましい量は0.2?6質量部、さらに好ましい量は0.2?4質量部である。」

1g)「【0032】
また、こうしたフィブリル化した繊維と無機バインダーを併用してもよい。フィブリル化した繊維と無機バインダーの併用によれば、使用時おける有機成分の揮発に起因する上述した不具合を回避するために、フィブリル化した繊維の使用量を少なくした場合であっても、無機繊維を良好に結束でき、従来と同等の厚さを維持できる触媒コンバーター用保持材を提供することができる。こういった無機バインダーは公知のもので構わず、ガラスフリット、コロイダルシリカ、アルミナゾル、珪酸ソーダ、チタニアゾル、珪酸リチウム、水ガラスなどが挙げられる。なお、これらの無機バインダーは二種以上を組み合わせて使用することもできる。無機バインダーの使用量は、無機繊維を結束し得る量であれば制限はないが、無機繊維100質量部に対して0.1?10質量部である。無機バインダーが0.1質量部未満では結束力が不足することが懸念され、10質量部を越える場合は相対的に無機繊維の量が減り、保持材として必要な保持性能及びシール性能が得られないことが懸念される。無機バインダーの好ましい量は0.2?6質量部、さらに好ましい量は0.2?4質量部である。
【0033】
尚、保持材が含有する有機分は、保持材全量に対して0.3?4.0質量%であることが好ましく、0.5?3.0質量%であることがより好ましく、1.0?2.5質量%であることが特に好ましい。保持材中の有機分が少なくなるほど、キャニング後に熱が加えられた際に揮発ガスが少なくなるので好ましい。ここで、有機分は700℃で30分加熱した前後の強熱減量率で定義される。」

1h)「【0076】
(実施例1)
アルミナ繊維(アルミナ96質量%、シリカ4質量%)100質量部に対し、有機バインダーとしてのアクリル樹脂0.5質量部、無機バインダーとしてコロイダルシリカを3質量部、水10000質量部からなる水性スラリーを作製した。次いで、図9に示すような、開口率が全面で一様で、頂部と底部とが等間隔で現れるように折り畳んだ脱水成形型を用い、水性スラリーを流し込み、脱水成形して湿潤成形体を得た。なお、頂部と底部との最大差は10mmとした。そして、湿潤成形体全体を厚み方向に同一厚さになるように圧縮しながら100℃で乾燥し、図10(B)に示すような幅40mmで、脱水成形型の底部に相当する部分で坪量が大きく、両側に向かって坪量が漸減するシートを得た。そして、図10(C)に示すように、成形体の頂部を挟む2つの底部の外側の頂部に沿って切断し、マット状の保持材を得た。得られた保持材の厚さはほぼ一定で平均6.7mmであり、厚さのばらつきは±0.5mm以下であった。成形体の頂部に相当する部分の坪量は1100g/m^(2) 、底部に相当する部分の坪量は1000g/m^( 2)であり、坪量比は1.1倍であった。また、保持材全量に対して、無機繊維96.6質量%、有機バインダー0.5質量%、無機バインダー2.9質量%含まれており、強熱減量率を測定したところ、有機分は0.5質量%であった。
【0077】
得られた保持材を、図1に示すように、成形体の頂部に相当する部位が、触媒担体の断面(楕円)の外周と楕円の短径軸との交点と一致するように触媒担体に巻き付けて触媒担体ユニットを得た。この触媒担体ユニットを、外短径91mm、外長径131mm、肉厚1.5mm(ギャップ4.0mm)の楕円型筒状のステンレス(SUS)製ケーシングに圧入して触媒コンバーターを作成した。圧入後、外長径に変化はなかったが、外短径は0.8mm拡張したことから長径部のギャップは4.4mmとなった。その結果、保持材の全ての部位において、密度は0.25g/cm^(3)となった。」

1i)上記1h)段落【0076】の記載から、「マット状の保持材」は、「アルミナ繊維(アルミナ96質量%、シリカ4質量%)100質量部に対し、有機バインダーとしてのアクリル樹脂0.5質量部、無機バインダーとしてコロイダルシリカを3質量部、水10000質量部からなる水性スラリーを作製」し、「脱水成形型を用い、水性スラリーを流し込み、脱水成形して湿潤成形体を得」て、「湿潤成形体全体を厚み方向に同一厚さになるように圧縮しながら100℃で乾燥」して得たものであり、上記1f)の「有機バインダーの使用量は、無機繊維を結束し得る量であれば制限はない」との記載から、バインダーは無機繊維を結束することが理解できるから、マット状の保持材は、表面が有機バインダー及び無機バインダーからなるバインダーで覆われたアルミナ繊維を含む同一厚さのマット状の保持材といえる。

1j)上記1b)から、触媒担体を金属製ケーシング内に保持するための保持材は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス浄化装置に用いられることが分かる。

1k)上記1h)から、アルミナ繊維、有機バインダー及び無機バインダーからなる水性スラリーを脱水成形して秤量の異なる部分を有するマット状の保持材を形成するものであることが分かる。

イ 甲第1号証に記載された発明
上記ア及び図1及び図10の記載からみて、甲第1号証(以下、「甲1」という。)には、次の発明が記載されている。

「表面がバインダーで覆われたアルミナ繊維を含む同一厚さのマット状の保持材であって、
バインダーは有機バインダー及び無機バインダーを含んでおり、
アルミナ繊維、有機バインダー及び無機バインダーからなる水性スラリーを脱水成形して秤量の異なる部分を有するマット状の保持材を形成するものであり、
有機バインダーはアクリル樹脂であり、
強熱減量率の測定により求めた保持材全量に対する有機分が0.5質量%であるマット状の保持材。」(以下、「甲1発明」という。)

ウ 甲1に記載された技術
上記ア 1f)には、次の技術が記載されている。

「マット状の保持材における有機バインダーとしてカルボキシメチルセルロースを含む二種以上が選択可能である技術。」(以下、「甲1技術」という。)

(2)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載
本件特許の出願前に頒布された甲第2号証(特開2013-87756号公報)には、「マット材及び排ガス浄化装置」に関して次のような記載がある。

2a)「【請求項1】
ガラス繊維を含むマット材であって、
前記ガラス繊維は、SiO_(2)を52?66重量%、Al_(2)O_(3)を9?26重量%、CaOを15?27重量%、MgOを0?9重量%、TiO_(2)を0?4重量%、ZnOを0?5重量%、並びに、Na_(2)O及びK_(2)Oを総和で0?2重量%含み、B_(2)O_(3)を実質的に含まないことを特徴とするマット材。」

2b)「【請求項3】
さらに、有機バインダを含有する請求項1又は2に記載のマット材。」

2c)「【請求項6】
ケーシングと、前記ケーシングに収容された排ガス処理体と、前記排ガス処理体の周囲に巻き付けられ、前記排ガス処理体及び前記ケーシングの間に配設された保持シール材とを備える排ガス浄化装置の前記保持シール材として使用される請求項1?5のいずれかに記載のマット材。」

2d)「【0039】
(マット材の製造方法)
本発明の第一実施形態に係るマット材の製造方法の一例(以下、第1のマット材の製造方法ともいう)を説明する。
図2は、本発明の第一実施形態に係るマット材の製造方法の一例を示す工程図である。
【0040】
本発明の第一実施形態に係る第1のマット材の製造方法は、
(A)上述した組成を有するガラス繊維を準備するステップ(S110)と、
(B)上記ガラス繊維を用いて、積層シートを調製するステップ(S120)と、
(C)上記積層シートから、ニードリング法によりマット材を形成するステップ(S130)とを含む。
【0041】
第1のマット材の製造方法では、いわゆる「ニードリング法」により、マット材を作製する。「ニードリング法」とは、無機繊維を含む積層シートにニードルを抜き差しすることにより、マット材を作製する方法の総称である。」

2e)「【0082】
(マット材の作製)
(実施例1)
まず、ガラス繊維(オーウェンスコーニング社製、アドバンテックスガラス、平均繊維長:6mm、平均繊維径:12μm)を準備した。
上記ガラス繊維は、740℃で10分間加熱してから使用した。
【0083】
次に、上記ガラス繊維134.7gを水60Lに投入し、60Hzで30分間攪拌した。攪拌後のガラス繊維を含む水中にラテックス(日本ゼオン社製、LX852)を15.0g投入し、60Hzで1分間攪拌した。続いて、アルミナゾル(日産化学社製、AL520)を5.4g投入し、60Hzで1分間攪拌した。さらに、高分子凝集剤として、非イオン性ポリアクリルアミド(アライドコロイド社製、パーコール47)の0.5重量%水溶液を269.3g投入し、60Hzで1分間攪拌した。
上記の方法により、スラリーを調製した。
【0084】
335mm×335mmのタッピ式抄造機を用いて、上記スラリーを抄造することにより、目付量(単位面積当たりの重量)が1200g/m^(2)の原料マットを得た。
【0085】
プレス式乾燥機を用いて、得られた原料マットを厚さ4.8mmに圧縮した状態で、150℃で15分間乾燥させることにより、実施例1のマット材を作製した。」

イ 甲第2号証に記載された技術
上記ア及び図1ないし図3の記載から、甲第2号証(以下、「甲2」という。)には以下の技術が記載されている。

「保持シール材として使用されるガラス繊維を含むマット材の有機バインダを、ラテックス(日本ゼオン社製、LX852)とする技術。」(以下、「甲2技術1」という。)

「ガラス繊維の積層シートからニードリング法によりマットを得る技術。」(以下、「甲2技術2」という。)

(3)甲第3号証
ア 甲第3号証の記載
本件特許の出願前に頒布された甲第3号証(特開2004-204819号公報)には、「触媒担体保持用マット」に関して次のような記載がある。

「【0023】
【実施例】
実施例1
アルミナ72wt%及びシリカ28wt%からなるアルミナファイバー92wt%をバインダー(アクリル系ラテックス、日本ゼオン(株)ニッポールLX-816)8wt%と混合し、これに水を加え第一のスラリーを調製した。また、アルミナ46wt%及びシリカ53wt%からなる溶融法により形成されたセラミックファイバー(新日化サーマルセラミックス製SC-1260D1)92wt%を上記バインダー8wt%と混合し、これに水を加え第二のスラリーを調製した。これらを用いて上記の一般的な紙抄き法にて、表1に示すセラミックファイバー層とアルミナファイバー層の坪量比の触媒担体保持用マットのサンプル1?5を得た。」

イ 甲第3号証に記載された技術
上記アから、甲第3号証(以下、「甲3」という。)には、以下の技術が記載されている。

「触媒担体保持用マットを形成するセラミックファイバー層とアルミナファイバー層のバインダーをアクリル系ラテックス、日本ゼオン(株)ニッポール(登録商標)LX-816とする技術。」(以下、「甲3技術」という。)

(4)甲第4号証
ア 甲第4号証の記載
甲第4号証は、日本ゼオン株式会社による「NIPOL(登録商標)ラテックス一覧表」(抜粋)であり、その第14ページ表5-1には、製品名「Nipol LX852」の欄に、タイプ「自己架橋型」、Tg(℃)「-6」と記載され、表5-2には、製品名「Nipol LX816」の欄に、タイプ「自己架橋型」、Tg(℃)「-10」と記載されている。

イ 甲第4号証に記載された事項
上記アから、甲第4号証(以下、「甲4」という。)には、以下の事項が記載されている。

「日本ゼオン株式会社製の自己架橋型ラテックスであるNipol(登録商標)LX852のガラス転移温度が、-6℃であり、Nipol(登録商標)LX816のガラス転移温度が、-10℃であること。」(以下、「甲4記載事項」という。)

(5)甲第5号証
本件特許の出願前に頒布された甲第5号証(特開2013-155750号公報)には、「触媒コンバータ用保持シール材」に関して次のような記載がある。

ア 甲第5号証の記載
5a)「【請求項1】
マット状に集合したセラミック繊維を構成要素とし、触媒担持体とその触媒担持体の外周を覆う金属製シェルとのギャップに配置される保持シール材であって、セラミック繊維であるアルミナ-シリカ系繊維から成形されたマット状の繊維集合体に対し、無機粒子懸濁溶液を供給したうえで加熱焼成することにより、前記懸濁溶液中に含まれる無機粒子が前記アルミナ-シリカ系繊維の外表面にムライト相を介して付着固定してなる凹凸構造を形成し、当該繊維集合体を所定形状に打ち抜いたものであることを特徴とする触媒コンバータ用保持シール材。」

5b)「【0044】
(実施例1)
実施例1では、以下のようにして保持シール材4の面圧評価用サンプルを作製した。
まず、塩基性塩化アルミニウム水溶液(23.5重量%)、シリカゾル(20重量%、シリカ粒径15μm)、ポリビニルアルコール(10重量%)及び消泡剤(n-オクタノール)を混合し、紡糸原液を作製した。次いで、得られた紡糸原液をエバポレータを用いて50℃で減圧濃縮し、濃度38重量%、粘度1000ポアズの紡糸原液に調製した。
【0045】
調製後の紡糸原液を紡糸装置のノズルから空気中に連続的に噴出するとともに、形成された前駆体繊維を延伸しながら巻き取った。
さらに、空気雰囲気に保持された電気炉内で、上記前駆体繊維に対する250℃かつ30分間の加熱(前処理)を行った後、同じく電気炉内で1250℃かつ10分間の焼成を行った。
【0046】
その結果、ムライト結晶含有量が約8重量%、アルミナ/シリカの重量比が72:28、平均繊維径が9μmの真円状アルミナ-シリカ系繊維6を得た。
続いて、アルミナ-シリカ系繊維6の長繊維を5mm長にチョップして短繊維化した。その後、この短繊維(約1.0g)を水に分散させ、得られた繊維分散液を成形型枠内に流し込んで加圧・乾燥することにより、縦横25mm角のマット状繊維集合体を得た。
【0047】
そして、ポリビニルアルコールを1.0重量%含む水溶液に、シリカを40重量%含むシリカゾル水溶液(シリカ粒子の平均粒径:150nm)を添加して、無機粒子懸濁溶液を作製した。そして、この懸濁溶液に繊維集合体を1秒?60秒程度含浸した後、繊維集合体を100℃で10分以上加熱乾燥した。さらに、乾燥された繊維集合体を1230℃で10分焼成し、前記短繊維の繊維外表面6aに多数の金属酸化物粒子7からなる微細な凹凸構造を形成した。図6のSEM写真は、凹凸構造を有する本実施例のアルミナ-シリカ系繊維6を示すものである。」

イ 甲第5号証に記載された技術
上記アからみて、甲第5号証(以下、「甲5」という。)には、次の技術が記載されている。

「アルミナ-シリカ系繊維6からなるマット状繊維集合体を得る工程、ポリビニルアルコールを含む水溶液にシリカを含むシリカゾル水溶液を添加した無機粒子懸濁溶液を前記マット状繊維集合体に含浸させる工程、前記無機粒子懸濁溶液を含浸させたマット状繊維集合体を乾燥させる工程を含む、触媒コンバータ用保持シール材を製造する技術。」(以下、「甲5技術」という。)

(6)甲第6号証
本件特許の出願前に頒布された甲第6号証(特開2008-45521号公報)には、「保持シール材および排気ガス処理装置」に関して次のような記載がある。

ア 甲第6号証の記載
6a)「【0036】
以下、各装着方式について図面を用いて説明する。図10、図11、図12および図13は、それぞれ、圧入方式、クラムシェル方式、巻き締め方式およびサイジング方式により、保持シール材24が巻き付けられた排ガス処理体20(以下、「被覆排ガス処理体」210という)をケーシング内に装着する方法を模式的に示したものである。
【0037】
圧入方式は、被覆排ガス処理体210を、ケーシング121の開口面の一方から押し込むことにより、被覆排ガス処理体210を所定の位置に装着して、排ガス処理装置10を構成する方法である。被覆排ガス処理体210のケーシング121への挿入を容易にするため、図10に示すように、内孔径が一方から他方に向かって小さくなるように定形され、最小内孔径が、ケーシング121の内径とほぼ同等の寸法になるように調整された圧入冶具230が使用される場合もある。この場合、被覆排ガス処理体210は、前記圧入冶具230の広内孔径側から挿入され、最小内孔径側を通ってケーシング121内に装着される。」

イ 甲第6号証に記載された技術
上記ア及び図10の記載から、甲第6号証(以下、「甲6」という。)には、以下の技術が記載されている。

「内孔径が一方から他方に向かって小さくなるものであって、最小内孔径が、ケーシング121の内径とほぼ同等の寸法になるように調整された圧入冶具230を用いて、圧入治具230の端部をケーシング121に装着し、被覆排ガス処理体210を圧入治具230の広内孔径側から挿入され、最小内孔径側を通ってケーシング121内に装着する技術。」(以下、「甲6技術」という。)

4 判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由
ア 本件訂正発明1
本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「アルミナ繊維」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本件訂正発明1における「無機繊維」に相当し、「同一厚さ」は「所定の厚さ」に、「保持材」は「保持シール材」に、「マット状の保持材」は「マットからなる保持シール材」に、「有機バインダー」は「有機結合剤」に、「無機バインダー」は「無機結合剤」に、それぞれ相当する。
そして、甲1発明における「アクリル樹脂」は、特許明細書の段落【0027】の「自己架橋製樹脂としては、アクリル樹脂・・・等が挙げられる。」の記載に照らせば、本件訂正発明1における「自己架橋性樹脂」に相当する。
さらに、甲1発明における「バインダー」と、本件訂正発明1における「結合剤層」とは、「結合剤」という限りにおいて一致する。

そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。

[一致点]
「表面が結合剤で覆われた無機繊維を含む所定の厚さのマットからなる保持シール材であって、
前記結合剤は有機結合剤及び無機結合剤を含んでおり、
前記有機結合剤は自己架橋性樹脂である保持シール材。」

[相違点1]
「結合剤」に関して、本件訂正発明1においては、「結合剤層」であって、「高分子系分散剤としてのアニオン性高分子系分散剤を含」むのに対して、
甲1発明においては、「バインダー」であって、バインダーが「層」を形成するものか不明であり、高分子系分散剤としてのアニオン性高分子系分散剤を含むかも不明である点。

[相違点2]
本件訂正発明1においては、「ニードルパンチング処理によって無機繊維が交絡して」いるのに対して、甲1発明においては、「アルミナ繊維、有機バインダー及び無機バインダーからなる水性スラリーを脱水成形して秤量の異なる部分を有するマット状の保持材を形成する」のであって、ニードルパンチング処理によってアルミナ繊維が交絡するのではない点。

[相違点3]
本件訂正発明1においては、「有機結合剤のガラス転移温度は5℃以下」であるのに対して、甲1発明においては、アクリル樹脂である有機バインダーのガラス転移温度が不明である点。

[相違点4]
本件訂正発明1においては、「保持シール材を600℃/1時間加熱した前後での重量減少率が、加熱前の保持シール材の重量100%に対して0.1?10%である」のに対して、甲1発明においては、「強熱減量率の測定により求めた保持材全量に対する有機分が0.5質量%」である点。

[相違点5]
本件訂正発明1においては、「保持シール材」が、「20回目の引き抜き試験においても、ステンレス板を保持シール材からなる試験片の間から引き抜く際に試験片にせん断破壊が生じない」ものであるのに対して、甲1発明においては、保持材が、「20回目の引き抜き試験においても、ステンレス板を保持シール材からなる試験片の間から引き抜く際に試験片にせん断破壊が生じない」ものか不明である点。

以下、上記相違点1ないし5について検討する。

[相違点1について]
甲1の段落【0029】における「有機バインダーの使用量は、無機繊維を結束し得る量であれば制限はない」との記載によれば、バインダーが無機繊維を結束しているから、無機繊維の周囲にはバインダーが存在していることになる。
そして、このようなバインダーは、無機繊維の表面を被覆するものであるから、甲1発明におけるバインダーは、ある程度の厚みを有する「層」を形成するといえる。
さらに、甲1技術は「マット状の保持材における有機バインダーとしてカルボキシメチルセルロースを含む二種以上が選択可能である技術」であって、甲1発明の有機バインダーの二種以上のうちの一つにカルボキシメチルセルロース、すなわちアニオン性高分子を選択することを示唆しているから、甲1発明に甲1技術を適用して二種以上の有機バインダーの一つとしてアニオン性高分子であるカルボキシメチルセルロースを採用して高分子系分散剤とすることにより、上記相違点1に係る本件訂正発明1とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点2について]
甲2技術2は、「ガラス繊維の積層シートからニードリング法によりマットを形成する技術」である。
しかし、甲1発明は、アルミナ繊維、有機バインダー及び無機バインダーからなる水性スラリーを脱水成形して秤量の異なる部分を有するマット状の保持材を得るものであるから、甲1発明において、マット状の保持材を形成するにあたって上記甲2技術2を適用する動機付けが見出せない。
そうすると、甲1発明に甲2技術2を適用して上記相違点2に係る本件訂正発明1とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

[相違点3について]
保持シール材の有機バインダに関する技術に関して、甲2技術1は、「保持シール材として使用されるガラス繊維を含むマット材の有機バインダを、ラテックス(日本ゼオン社製、LX852)とする技術」、甲3技術は、「触媒担体保持用マットを形成するセラミックファイバー層とアルミナファイバー層のバインダーをアクリル系ラテックス、日本ゼオン(株)ニッポール(登録商標)LX-816とする技術」であって、甲4記載事項によれば、「日本ゼオン株式会社製の自己架橋型ラテックスであるNipol(登録商標)LX852のガラス転移温度が、-6℃であり、Nipol(登録商標)LX816のガラス転移温度が、-10℃である」から、保持シール材に用いられる有機結合剤として、アクリル系ラテックスや自己架橋型ラテックスなどのガラス転移温度が5℃以下のものを採用することは、周知の技術(以下、「周知技術」という。)である。
そうすると、甲1発明に上記有機結合剤に関する周知技術を適用して、上記相違点3に係る本件訂正発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点4について]
甲1発明における「強熱減量率」は、甲1の段落【0033】の記載「有機分は700℃で30分加熱した前後の強熱減量率で定義される」からみて、有機分の割合を示すものであるが、保持材全量に対する有機分の割合でみると、甲1発明における「強熱減量率の測定により求めた保持材全量に対する有機分が0.5質量%」であることは、本件訂正発明1における「保持シール材を600℃/1時間加熱した前後での重量減少率が、加熱前の保持シール材の重量100%に対して0.1?10%である」ことに実質的に相当するから上記相違点4は実質的な相違点ではない。
また、仮に、本件訂正発明1において、無機繊維の強熱減量率を測定する条件を、「保持シール材を600℃/1時間加熱した前後での重量減少率」とすることが相違点であるとしても、上記甲1の段落【0033】の記載及び「JIS R 3420」の規格を参酌して上記当業者がそのような条件を採用することに格別な困難性はない。

[相違点5について]
上記相違点5に係る本件訂正発明1である、「20回目の引き抜き試験においても、ステンレス板を保持シール材からなる試験片の間から引き抜く際に試験片にせん断破壊が生じない」、「保持シール材」は、上記甲1発明のほか、甲1技術、甲2技術1、甲2技術2、甲3技術、甲4記載事項、甲5技術及び甲6技術には示唆されていない。
よって、甲1発明に、甲1技術、甲2技術1、甲2技術2、甲3技術、甲4記載事項、甲5技術及び甲6技術を適用して、上記相違点5に係る本件訂正発明とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

したがって、上記相違点2及び5についての検討によれば、本件訂正発明1は甲1発明と同一であるとはいえず、また、甲1発明、甲1技術、甲2技術1、甲2技術2、甲3技術、甲4記載事項、甲5技術及び甲6技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ 本件訂正発明3、4、6及び7
本件訂正発明3、4、6及び7は、本件訂正発明1を直接または間接的に引用するものであって、本件訂正発明1の発明特定事項を置き換えることなく限定するものであるから、本件訂正発明1と同様に甲1発明と同一であるとはいえず、甲1発明、甲1技術、甲2技術1、甲2技術2、甲3技術、甲4記載事項、甲5技術及び甲6技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)特許異議申立理由について
異議申立書に記載した申立ての理由は、取消理由に記載した取消理由と同様であるから申立ての理由についての判断は上記(1)と同様である。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件請求項1、3、4、6及び7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、3、4、6及び7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2及び5に係る特許は、訂正により削除された。これにより、本件特許の請求項2及び5に対して異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が結合剤層で覆われた無機繊維を含む所定の厚さのマットからなる保持シール材であって、
ニードルパンチング処理によって無機繊維が交絡しており、
前記結合剤層は有機結合剤、無機結合剤及び高分子系分散剤としてのアニオン性高分子系分散剤を含んでおり、
前記有機結合剤は自己架橋性樹脂であり、前記有機結合剤のガラス転移温度は5℃以下であり、
保持シール材を600℃/1時間加熱した前後での重量減少率が、加熱前の保持シール材の重量100%に対して0.1?10%であり、
20回目の引き抜き試験においても、ステンレス板を保持シール材からなる試験片の間から引き抜く際に試験片にせん断破壊が生じないことを特徴とする保持シール材。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記無機結合剤としての無機粒子が、前記有機結合剤としての自己架橋性樹脂成分中に分散してなる請求項1に記載の保持シール材。
【請求項4】
ニードルパンチング処理によって無機繊維を交絡させて、無機繊維を含むマットを準備するマット準備工程と、
無機結合剤溶液と、高分子系分散剤としてのアニオン性高分子系分散剤を混合した溶液を調製した後、自己架橋性樹脂からなりガラス転移温度が5℃以下である有機結合剤を水中に分散させた有機結合剤溶液と混合することにより結合剤溶液を調製する工程と、
前記結合剤溶液を前記マットに付与する付与工程と、
前記結合剤溶液が付与された前記マットを乾燥させる乾燥工程とを含み、
前記結合剤溶液中の前記高分子系分散剤の濃度が50?1000ppmであり、
前記無機結合剤溶液と前記高分子系分散剤とを混合した溶液の前記無機結合剤としての無機粒子の固形分重量:前記有機結合剤溶液の前記有機結合剤としての自己架橋性樹脂成分の固形分重量=3:1?1:3であることを特徴とする請求項1又は3に記載の保持シール材の製造方法。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
排ガス処理体に請求項1又は3に記載の保持シール材を巻きつけた巻付体を作製し、
その内部が短径側端部から長径側端部に向かってテーパー状に広がった圧入治具を準備し、前記圧入治具の前記短径側端部を金属ケーシングの一端にはめ込んで固定し、
前記巻付体を前記圧入治具の前記長径側端部側から押し込むことにより、前記巻付体を前記金属ケーシング内に圧入することを特徴とする、巻付体の圧入方法。
【請求項7】
金属ケーシングと、
前記金属ケーシングに収容された排ガス処理体と、
前記排ガス処理体の周囲に巻き付けられ、前記排ガス処理体及び前記金属ケーシングの間に配設された保持シール材とを備える排ガス浄化装置であって、
前記保持シール材は、請求項1又は3に記載の保持シール材であることを特徴とする排ガス浄化装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-12-18 
出願番号 特願2013-197537(P2013-197537)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (F01N)
P 1 651・ 113- YAA (F01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菅家 裕輔  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 松下 聡
水野 治彦
登録日 2017-10-06 
登録番号 特許第6218528号(P6218528)
権利者 イビデン株式会社
発明の名称 保持シール材、保持シール材の製造方法、巻付体の圧入方法及び排ガス浄化装置  
代理人 特許業務法人安富国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
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