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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07C
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C07C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07C
管理番号 1349657
異議申立番号 異議2018-700288  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-06 
確定日 2019-01-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6211481号発明「ノルマルパラフィンまたはパラキシレンの分離方法およびゼオライト膜複合体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6211481号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?8]、[9?12]について訂正することを認める。 特許第6211481号の請求項1、3ないし7、9、11に係る特許を維持する。 特許第6211481号の請求項2、8、10、12に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6211481号の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、平成26年8月1日に出願されたものであって、平成29年9月22日に特許権の設定登録がされ、平成29年10月11日にその特許公報が発行され、その後、平成30年4月6日に、特許異議申立人 登山 恵美子(以下、「以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成30年6月4日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年8月6日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)があり、その訂正の請求に対して、特許法第120条の5第5項に基づく通知がなされたが、特許異議申立人から何ら意見書は提出されなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項1?11のとおりである。

(1)訂正事項1
請求項1の「前記ゼオライトは、結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が20%以下であり、」および「前記ゼオライト膜複合体は、ノルマルパラフィンの分圧が34kPaで300℃におけるノルマルパラフィンの透過度が5×10^(-8)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、またはパラキシレンの分圧が25kPaで300℃におけるパラキシレンの透過度が1×10^(-9)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上であることを」との記載を、それぞれ、「前記ゼオライトは、結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が5%以下であり、」および「前記ゼオライト膜複合体は、ノルマルパラフィンの分圧が34kPaで300℃におけるノルマルパラフィンの透過度が5×10^(-8)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、かつノルマルパラフィン/イソパラフィンの分離係数が100以上、またはパラキシレンの分圧が25kPaで300℃におけるパラキシレンの透過度が1×10^(-9)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、かつパラキシレン/メタキシレンの分離係数が20以上であることを」に訂正する(以下、それぞれ、「訂正事項1-1」、「訂正事項1-2」という。)。

(2)訂正事項2
請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
請求項3の「請求項1または2」を「請求項1」とする。

(4)訂正事項4
請求項4の「請求項1?3のいずれか一つ」を「請求項1または3」

(5)訂正事項5
請求項5の「請求項1?4のいずれか一つ」を「請求項1、3、4のいずれか一つ」とする。

(6)訂正事項6
請求項7の「請求項1?6のいずれか一つ」を「請求項1、3?6のいずれか一つ」とする。

(7)訂正事項7
請求項8を削除する。

(8)訂正事項8
請求項9の「前記ゼオライトは、結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が20%以下であり、」および「ノルマルパラフィンの分圧が34kPaで300℃におけるノルマルパラフィンの透過度が5×10^(-8)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、またはパラキシレンの分圧が25kPaで300℃におけるパラキシレンの透過度が1×10^(-9)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上であること」との記載を、それぞれ、「前記ゼオライトは、結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が5%以下であり、」および「ノルマルパラフィンの分圧が34kPaで300℃におけるノルマルパラフィンの透過度が5×10^(-8)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、かつノルマルパラフィン/イソパラフィンの分離係数が100以上、またはパラキシレンの分圧が25kPaで300℃におけるパラキシレンの透過度が1×10^(-9)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、かつパラキシレン/メタキシレンの分離係数が20以上であること」に訂正する(以下、それぞれ、「訂正事項8-1」、「訂正事項8-2」という。)。

(9)訂正事項9
請求項10を削除する。

(10)訂正事項10
請求項11の「請求項9または10」を「請求項9」とする。

(11)訂正事項11
請求項12を削除する。

2 目的の適否
(1)上記訂正事項1-1は、ゼオライトの結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合の上限を限定したものといえるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえ、上記訂正事項1-2は、ゼオライト膜複合体のノルマルパラフィン/イソパラフィンの分離係数の下限、パラキシレン/メタキシレンの分離係数の下限を限定したものであるといえるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)上記訂正事項2,7,9、11は、請求項を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(3)上記訂正事項3?6,10は、引用する請求項の選択肢を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(4)上記訂正事項8-1は、ゼオライトの結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合の上限を限定したものといえるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえ、上記訂正事項8-2は、ゼオライト膜複合体のノルマルパラフィン/イソパラフィンの分離係数の下限、パラキシレン/メタキシレンの分離係数の下限を限定したものであるといえるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

3 新規事項についての判断
(1)訂正事項1について
上記訂正事項1-1の「結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が5%以下であ」ることに関しては、請求項2及び【0030】に記載があるので、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載されているものと認められる。
また、上記訂正事項1-2の「ノルマルパラフィン/イソパラフィンの分離係数が100以上」であること及び「パラキシレン/メタキシレンの分離係数が20以上」であることは、請求項12及び【0050】【0051】に記載があるので、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載されているものと認められる。

(2)訂正事項2?7,9?11は、請求項の削除又は引用する請求項の選択肢を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(3)訂正事項8-1及び8-2についても、上記(1)で述べたように、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載されているものと認められる。

4 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
上記2,3で検討したとおり、訂正事項1,8は、願書に添付した明細書等に記載された事項の範囲内において、結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合の上限を限定し、ノルマルパラフィン/イソパラフィンの分離係数の下限、パラキシレン/メタキシレンの下限を特定したものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項2,7,9,11は請求項を削除するものであり、訂正事項3?6,10は、引用する請求項の選択肢を削除するものであるから、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

5 一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1?8について、請求項2?8はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?8に対応する訂正後の請求項1?8に係る本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。
また、訂正事項8に係る訂正前の請求項9?12について、請求項10?12はそれぞれ請求項9を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項8によって記載が訂正される請求項9に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項9?12に対応する訂正後の請求項9?12に係る本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。

6 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項[1?8]、[9?12]について訂正を認める。

第3 本件特許発明
本件特許請求の範囲の記載は以下のとおりであり、請求項1,3?7,9,11に係る特許発明をそれぞれ、「本件特許発明1」,「本件特許発明3」?「本件特許発明7」,「本件特許発明9」,「本件特許発明11」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。

「【請求項1】
多孔質支持体上にゼオライトを成膜したゼオライト膜複合体により、2種以上の化合物の混合流体からノルマルパラフィンまたはパラキシレンを選択的に分離する分離方法であって、前記ゼオライトは、結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が5%以下であり、
前記ゼオライト膜複合体は、ノルマルパラフィンの分圧が34kPaで300℃におけるノルマルパラフィンの透過度が5×10^(-8)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、かつノルマルパラフィン/イソパラフィンの分離係数が100以上、またはパラキシレンの分圧が25kPaで300℃におけるパラキシレンの透過度が1×10^(-9)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、かつパラキシレン/メタキシレンの分離係数が20以上であることを特徴とするノルマルパラフィンまたはパラキシレンの分離方法。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記ゼオライト膜複合体は、多孔質支持体上にゼオライトを成膜した後、オルトケイ酸エステル含有溶液に浸漬させたものであることを特徴とする請求項1に記載のノルマルパラフィンまたはパラキシレンの分離方法。
【請求項4】
前記ゼオライトは、MFI型ゼオライトであることを特徴とする請求項1または3に記載のノルマルパラフィンまたはパラキシレンの分離方法。
【請求項5】
前記ゼオライトは、silicalite-1であることを特徴とする請求項1、3、4のいずれか一つに記載のノルマルパラフィンまたはパラキシレンの分離方法。
【請求項6】
前記オルトケイ酸エステルは、オルトケイ酸テトラエチルであることを特徴とする請求項3?5のいずれか一つに記載のノルマルパラフィンまたはパラキシレンの分離方法。
【請求項7】
前記ゼオライト膜のX線回折スペクトルにおいて、結晶面/結晶面((101)/(020))ピーク強度比は1.10以上であることを特徴とする請求項1、3?6のいずれか一つに記載のノルマルパラフィンまたはパラキシレンの分離方法。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
2種以上の化合物の混合流体からノルマルパラフィンまたはパラキシレンを選択的に分離する、多孔質支持体上にゼオライトを成膜したゼオライト膜複合体であって、前記ゼオライトは、結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が5%以下であり、
ノルマルパラフィンの分圧が34kPaで300℃におけるノルマルパラフィンの透過度が5×10^(-8)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、かつノルマルパラフィン/イソパラフィンの分離係数が100以上、またはパラキシレンの分圧が25kPaで300℃におけるパラキシレンの透過度が1×10^(-9)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、かつパラキシレン/メタキシレンの分離係数が20以上であることを特徴とするゼオライト膜複合体。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
前記ゼオライト膜中の結晶面/結晶面((101)/(020))ピーク強度比は、1.10以上であることを特徴とする請求項9に記載のゼオライト膜複合体。
【請求項12】
(削除)」

第4 取消理由
1 特許異議申立人が申し立てた取消理由
特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は以下のとおりである。

(1ア)訂正前の請求項1,2,4,5,7?12に係る特許は、当該請求項に係る発明が、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(1イ)訂正前の請求項1?12に係る特許は、当該請求項に係る発明が、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記甲第1号証に記載された発明及び下記甲第7?8号証に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(1ウ)訂正前の請求項1?12に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(1エ)訂正前の請求項1?12に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(1オ)訂正前の請求項1?12に係る特許は、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)甲号証
甲第1号証:国際公開第2010/106881号
甲第2号証:平成29年7月28日付け意見書
甲第3号証:平成29年8月30日付け特許メモ
甲第4号証:C.L.Flanders 外3名,Journal of Membrane Science,176(2000)p.43-53
甲第5号証:Jungkyu Choi 外3名,Adsorption,12(2006)p.339-360
甲第6号証:Hans H.Funke 外3名,Ind.Eng.Chem.Res.,36,(1997)p.137-143
甲第7号証:特開2013-13884号公報
甲第8号証:国際公開第2007/58388号
甲第9号証:特開2002-348579号公報
甲第10号証:国際公開第2005/14481号
甲第11号証:野村幹弘,「シリカライト膜の透過機構と粒界制御に関する研究、第5章 粒界の制御とエタノール透過の関係」東京大学工学部化学システム工学科博士論文(1998年)99-114頁

特許異議申立人は、参照すべき証拠として甲第2?6,9?11号証を提出している。

2 当審が通知した取消理由の概要
(1)訂正前の請求項1?12に係る特許に対して平成30年6月4日付けで当審が特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

理由1:訂正前の請求項1?12に係る特許は、分離の対象となるノルマルパラフィンとしてノルマルヘキサンの場合にしか具体例がないこと、実施例として透過度が高く、分離係数の大きなものは、全細孔中のゼオライト結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が下限付近の具体例しかないことから当業者が課題が解決できると認識できるように記載されているとはいえず、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

理由2:訂正前の請求項1?12に係る特許は、刊行物1及び刊行物2の記載からみて、ゼオライトには、本件明細書に記載のゼオライトの細孔の測定範囲上限の、2nmより大きい範囲にも粒界が存在していることが技術常識であるから、本件明細書の全細孔中のゼオライト結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合の数値は、全細孔に対するものといえず、請求項において特定された割合のものが得られているとはいえないので、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)引用刊行物
刊行物1:特開2002-348579号公報(甲第9号証)
刊行物2:国際公開2005/144815号(甲第10号証)

第5 当審の判断
当審は、請求項1,3?7,9,11に係る特許は、当審の通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた取消理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
理由は以下のとおりである。

当審が通知した取消理由の判断

1 理由1(特許法第36条第6第1号)について
(1)本件特許発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)特許請求の範囲の記載
請求項1には、「ゼオライトは、結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が5%以下であること」と、「ゼオライト膜複合体は、ノルマルパラフィンの分圧が34kPaで300℃におけるノルマルパラフィンの透過度が5×10^(-8)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、かつノルマルパラフィン/イソパラフィンの分離係数が100以上、またはパラキシレンの分圧が25kPaで300℃におけるパラキシレンの透過度が1×10^(-9)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上であること、かつパラキシレン/メタキシレンの分離係数が20以上であること」が特定された「多孔質支持体上にゼオライトを成膜したゼオライト膜複合体により、2種以上の化合物の混合流体からノルマルパラフィンまたはパラキシレンを選択的に分離する分離方法」が記載されている。
そして、請求項3?7には、請求項1記載のノルマルパラフィンまたはパラキシレンを選択的に分離する分離方法において、それぞれ、ゼオライト膜複合体は、多孔質支持体上にゼオライトを成膜した後、オルトケイ酸エステル含有溶液に浸漬させたものであること、ゼオライトは、MFI型ゼオライトであること、ゼオライトは、silicalite-1であること、オルトケイ酸エステルは、オルトケイ酸テトラエチルであること、ゼオライト膜のX線回折スペクトルにおいて、結晶面/結晶面((101)/(020))ピーク強度比は1.10以上であることがさらに特定された方法が記載されている。
さらに、請求項9,11には、それぞれ、請求項1、7のノルマルパラフィンまたはパラキシレンの分離方法に対応したゼオライト膜複合体の発明が記載されている。

(3)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、多孔質支持体上にゼオライトを成膜したゼオライト膜複合体により、2種以上の化合物の混合流体からノルマルパラフィンまたはパラキシレンを選択的に分離する分離方法又は2種以上の化合物の混合流体からノルマルパラフィンまたはパラキシレンを選択的に分離する多孔質支持体上にゼオライトを成膜したゼオライト膜複合体に関して、以下のことが記載されている。

ア 課題を解決するための手段及び発明の効果について
「【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ゼオライトの結晶構造に由来する細孔より大きな径の細孔の割合が20%以下であるゼオライトを製膜したゼオライト膜複合体が、ノルマルパラフィン/イソパラフィンの混合流体からのノルマルパラフィンの分離、またはミックスキシレンからのパラキシレンの分離を高い選択性および透過度で行いうることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0017】
すなわち本発明にかかるノルマルパラフィンまたはパラキシレンの分離方法は、多孔質支持体上にゼオライトを成膜したゼオライト膜複合体により、2種以上の化合物の混合流体からノルマルパラフィンまたはパラキシレンを選択的に分離する分離方法であって、前記ゼオライトは、ゼオライト細孔より大きな細孔の割合が20%以下であることを特徴とする。前記ゼオライトは、MFI型ゼオライトで構成されることが好ましく、前記MFI型ゼオライトがsilicalite-1であることがさらに好ましい。
【0018】
また、本発明にかかるノルマルパラフィンまたはパラキシレンの分離方法は、上記発明において、前記ゼオライト膜複合体が、多孔質支持体上にゼオライトを成膜した後、オルトケイ酸エステル含有溶液に浸漬させ修復したものであることを特徴とする。
【0019】
さらに、本発明にかかるノルマルパラフィンまたはパラキシレンの分離方法は、上記発明において、前記ゼオライト膜のX線回折スペクトルにおいて、結晶面/結晶面((101)/(020))ピーク強度比は1.10以上であることを特徴とする。
【0020】
さらにまた、本発明にかかるゼオライト膜複合体は、2種以上の化合物の混合流体からノルマルパラフィンまたはパラキシレンを選択的に分離する、多孔質支持体上にゼオライトを成膜したゼオライト膜複合体であって、前記ゼオライトは、結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が20%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ノルマルパラフィンやパラキシレンの分離に優れたゼオライト膜複合体及びそれを用いたノルマルパラフィンまたはパラキシレンの分離方法により、工業規模のスケールで高純度のノルマルパラフィンやパラキシレンを得ることが可能となる。」

イ ゼオライトの種類について
「【0027】
(ゼオライト)
本発明において、ゼオライト膜を構成するゼオライトの種類は特に限定されないが、MFI型ゼオライトが好ましい。MFI型ゼオライトは、SiとAlの酸化物を主成分とするものであり、本発明の効果を損なわない限り、それ以外の元素が含まれていてもよい。MFI構造を有するゼオライトには、ZSM-5以外に実質的に骨格内にアルミニウムを含まないシリカライト-1構造なども含まれる。」

ウ ゼオライト中の細孔の割合について
「【0030】
また、本発明のゼオライト膜複合体において、ゼオライト中の細孔の割合は、ゼオライトの結晶構造に由来する細孔より大きな径の細孔の割合が20%以下である。ゼオライトの結晶構造に由来する細孔より大きな径の細孔、すなわち、ゼオライトの結晶構造に由来する細孔より大きな粒界やピンホールの割合を20%以下とすることにより、ノルマルパラフィンやパラキシレンを選択的に分離することができる。ゼオライト細孔より大きな細孔の割合は、5%以下であることが特に好ましい。」

エ ゼオライト膜複合体及びその製造条件について
「【0037】
(ゼオライト膜複合体)
本発明にかかるゼオライト膜複合体は、多孔質支持体の表面などにゼオライトが膜状に固着しているものであり、例えば、多孔質支持体の表面などにゼオライトを水熱合成や、水蒸気処理により膜状に結晶化させたものが用いられる。
【0038】
多孔質支持体上にゼオライトを成膜する場合、多孔質支持体上にゼオライト種晶を付着させた後、ゼオライト膜を水熱合成により形成することが好ましい。一般的に、多孔質支持体にゼオライト種晶を付着させるためには、ゼオライト種晶の粉末を溶剤に分散させた分散液を多孔質支持体上に塗布することが好ましいが、その他、多孔質支持体製造時に原料の一部としてゼオライト種晶粉末を混入させることで、多孔質支持体にゼオライト種晶を付着させることもできる。塗布の方法としては、ゼオライト種晶を含む分散液を多孔質支持体に単純に滴下するだけでも良く、ゼオライト種晶を含む分散液に多孔質支持体を浸漬することでも得られる。また、スピンコート、スプレーコート、ロールコート、スラリーの塗布、濾過など汎用されている方法を用いることもできる。多孔質支持体上の種晶の付着量を再現性よく制御する観点から、ゼオライト種晶を含む分散液を調製し、該分散液に多孔質支持体を浸漬する方法が好ましい。
【0039】
ゼオライト種晶は、市販のものを用いてもよく、原料から製造してもよい。原料から製造する場合には、例えばシリカ原料としてケイ酸ナトリウム、シリカゲル、シリカゾル又はシリカ粉末、アルミナ原料としてアルミン酸ナトリウム又は水酸化アルミニウム、構造規定剤としてはTPAOH、TPABr、硬化剤として水酸化ナトリウムなどから既知の方法で製造することができる。
【0040】
ゼオライト種晶として市販のものを用いる場合には、所望の大きさに粉砕機で粉砕した後、水に分散させ、分散液を調製する。調製した分散液は、適宜上記の方法で多孔質支持体に付着させる。該分散液は、スラリー、ゾル、溶液など、いずれの状態としても良く、採用する塗布方法に応じて適宜調製することができる。多孔質支持体を浸漬してゼオライト種晶を付着する方法を採用する場合には、付着の容易性からスラリー状の分散液であることが好ましい。
【0041】
多孔質支持体上へのゼオライト種晶の付着量は、0.5?20g/m^(2)とすることが好ましい。多孔質支持体上へのゼオライト種晶の付着量を上記範囲とすることにより、ゼオライトの結晶構造に由来する細孔より大きな径の細孔の割合を低減することができる。ゼオオライト種晶の付着量は、1?10g/m^(2)であることが特に好ましい。
【0042】
上記方法により得られるゼオライト種晶を付着させた多孔質支持体を用いて水熱合成することで、多孔質支持体上にゼオライト膜を形成する。
【0043】
本発明において、水熱合成によるゼオライトの成膜は、一般的な方法をとることができるが、例えば、シリカ源、アルミニウム源、鉱化剤、構造規定剤を水またはアルコール水溶液と混合して前駆液とし、得られた前駆液中にゼオライト種晶を付着した多孔質支持体を浸漬させた状態で、オートクレーブ等で加熱して水熱合成すればよい。
【0044】
水熱合成処理の温度は、例えば、80?130℃とすることが好ましく、80?120℃で水熱合成することが特に好ましい。80℃より低い温度では、ゼオライトの結晶化が進行しにくく、130℃より高い温度では、ゼオライト結晶の結晶間隙が大きくなる、すなわち、ゼオライトの結晶構造に由来する細孔より大きな径の細孔の割合が大きくなるためである。
【0045】
また、水熱合成処理の時間は、80?240時間とすることが好ましく、100?200時間とすることが特に好ましい。80時間より短いとノルマルパラフィンまたはパラキシレンの選択性が低下するおそれがあり、240時間より長いと透過量が低下するおそれがある。
【0046】
多孔質支持体上にゼオライトを成膜後、ゼオライト膜複合体は450?700℃で2?10時間焼成される。焼成処理は、0.1?10℃/分の昇温速度で所望の温度まで昇温し、所定時間焼成の後、0.1?10℃/分の降温速度で降温して、細孔内の構造規定剤を除去することが好ましい。昇温速度および降温速度を上記範囲とすることにより、ゼオライトの結晶構造に由来する細孔より大きな径の細孔の割合を低減することができる。焼成温度への昇温速度は、0.5?5℃/分とすることが特に好ましく、降温速度は0.5?5℃/分とすることが特に好ましい。
【0047】
ゼオライト膜の細孔の割合が、結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が20%以下であるゼオライト膜複合体は、多孔質支持体上へのゼオライト種晶の付着量、水熱合成時の温度、時間、焼成時の昇温速度、降温速度等を適宜調整してゼオライトを成膜することにより製造することができる。」

オ 分離の対象とするノルマルパラフィン/イソパラフィン混合流体の具体例について
「【0049】
本発明のゼオライト膜複合体は、パーベーパレーション法、及びベーパーパーミエーション法による液体混合物の分離に極めて有効に使用することができる。本発明のゼオライト膜複合体が分離の対象とするノルマルパラフィン/イソパラフィン混合流体の具体例としては、ブタン/イソブタン、ペンタン/メチルブタン、ヘキサン/メチルペンタン、ヘキサン/ジメチルブタン、オクタン/イソオクタン、デカン/イソデカン、ドデカン/イソドデカン、ヘキサデカン/イソヘキサデカン、オクタデカン/イソオクタデカンなどが挙げられる。混合流体としては2成分に限定されず、3成分以上であっても構わない。また、キシレン混合流体としては、オルトキシレン/メタキシレン/パラキシレンのほか、オルトキシレン/パラキシレン、メタキシレン/パラキシレン、メタキシレン/パラキシレン/エチルベンゼン/トリメチルベンゼンなどが挙げられる。」

カ ゼオライト膜複合体とその修復処理について
【0050】
本発明のゼオライト膜複合体は、ノルマルパラフィンを含む混合流体からのベーパーパーミエーション試験において、ノルマルパラフィンの分圧が34kPaで300℃におけるノルマルパラフィンの透過度が1×10^(-8)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、かつノルマルパラフィン/イソパラフィンの分離係数が100以上であることが好ましい。透過度および分離係数が上記の値を満たすことにより、工業規模のスケールで高純度のノルマルパラフィンを得ることが可能となる。ノルマルパラフィンの分圧が34kPaで300℃におけるノルマルパラフィンの透過度が5×10^(-8)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、かつ分離係数が500以上であることが特に好ましい。
【0051】
また、本発明のゼオライト膜複合体は、パラキシレンを含む混合流体からのベーパーパーミエーション試験において、パラキシレンの分圧が25kPaで300℃におけるパラキシレンの透過度が1×10^(-9)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、かつパラキシレン/メタキシレンの分離係数が20以上であることが好ましい。透過度および分離係数が上記の値を満たすことにより、工業規模のスケールで高純度のパラキシレンを得ることが可能となる。パラキシレンの分圧が25kPaで300℃におけるパラキシレンの透過度が5×10^(-9)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、かつ分離係数が50以上であることが特に好ましい。
【0052】
(ゼオライト膜の修復処理)
また、本発明にかかるゼオライト膜複合体は、多孔質支持体にゼオライトを成膜後に、オルトケイ酸エステル含有する水溶液やアルコール溶液に浸漬させたものが好ましい。ゼオライト膜複合体をオルトケイ酸エステル溶液に浸漬することにより、粒界やピンホールを修復することができる。
【0053】
オルトケイ酸エステルとしては、特に制限されないが、オルトケイ酸テトラメチル、オルトケイ酸テトラエチルなどが挙げられる。オルトケイ酸エステル溶液による修復処理は、ゼオライト膜複合体をオルトケイ酸エステル溶液に浸漬した状態で、温度40?90℃、 1?48時間、撹拌することにより行うことが好ましい。オルトケイ酸エステル溶液による修復処理後、ゼオライト膜複合体を洗浄、焼成することが好ましい。」

キ 実施例・比較例について
「【実施例】
【0054】
・・・
(細孔分布の測定)
ゼオライト膜複合体の細孔分布の測定を、以下の条件で行った。
・装置名: 分離膜欠陥構造解析装置 Porometer nano
・測定方式: ケルビンの毛管凝縮式を利用
・測定範囲:0.3?2.0nm
・凝縮性ガス:ノルマルヘキサン
・非凝縮性ガス:ヘリウム
ゼオライト膜複合体に凝縮性ガスと非凝縮性ガスの混合ガスを供給し、非凝縮性ガスの透過量を測定した。凝縮性ガス濃度を徐々に上げていくことで、凝縮性ガスの毛管凝縮による細孔の閉塞が進行し、この際の非凝縮性ガスの透過量の変化から、細孔分布を算出した。測定温度は60℃、凝縮性ガス濃度は0-20%の範囲で測定を行った。この時、凝縮性ガス濃度0%での非凝縮性ガス透過量に対する凝縮性ガス濃度1%での非凝縮性ガス透過量の割合をゼオライト細孔より大きな細孔の割合とした。
【0055】
(実施例1)
・種晶の調製
水酸化ナトリウム、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)、純水を混合し、24時間室温で撹拌することで、合成溶液を得た。溶液の組成は0.004Na_(2)O:SiO_(2):0.176TPAOH:43.9H_(2)Oであった。得られた合成溶液を100℃で24時間、撹拌条件下で水熱合成を行った。合成後の溶液をろ過し、回収した粉末を530℃で8時間焼成を行うことでsilicalite-1種晶を得た。
【0056】
・種晶付多孔質支持体の調製
種晶として準備したsilicalite-1粉末を純水中に分散させ、スラリー中の種晶の濃度が10g/Lとなるように種晶懸濁液1を調製した。次に、多孔質支持体として、直径1cm、長さ3cmの円筒型のα-アルミナ支持体を準備した。支持体の平均孔径は150nmであり、気孔率は37%であった。α-アルミナ支持体を種晶スラリーに1分間浸漬し、種晶付多孔質支持体1を得た。種晶付多孔質支持体の種晶担持量を測定したところ5.6g/m^(2)であり、多孔質支持体の表面及び断面をSEMにて観察したところ、種晶は支持体上に主に担持されていた。
【0057】
・ゼオライト膜の形成
オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)、エタノール、純水を混合し、60℃で4時間エージングすることで、合成溶液を得た。溶液の組成はSiO_(2):0.12TPAOH:66H_(2)O:8EtOHであった。得られた合成溶液に種晶付多孔質支持体1を浸漬し、100℃で7日間、水熱合成を行った後、500℃で8時間焼成を行い、ゼオライト膜複合体を得た。焼成は1℃/minで昇温し、500℃で8時間保持した後、1℃/minで降温した。実施例1にかかるゼオライト膜複合体の細孔径分布を図1に示す。図1中、○が実施例1にかかるゼオライト膜複合体の細孔分布である。実施例1にかかるゼオライト膜複合体のゼオライトの構造は、XRD測定におけるピークパターンからsilicalite-1と決定した。実施例1にかかるゼオライト膜複合体の性状を表1に示す。
【0058】
(実施例2)
・液相修復処理
実施例1のゼオライト膜複合体に対して、液相修復処理を行った。修復に用いた溶液はTEOS、純水、エタノールを混合することで調製した。修復液の組成はSiO_(2):10H_(2)O:EtOHであった。修復液にゼオライト膜複合体を浸漬させ、60℃で24時間撹拌することで液相修復処理を行い、修復ゼオライト膜複合体を得た。液相修復処理は、図2に示すような装置で行った。容器10は、固定部3を備えた回転テーブル2と、図示しない加熱部とを備える。ゼオライト膜複合体1は固定部3により回転テーブル2に固定し、容器10内に修復液4を仕込んだ状態で、加熱部により修復液を60℃に加温し、回転テーブル2を回転させて、24時間撹拌処理した。処理後、温水で洗浄し、350℃で 4時間焼成を行い、修復ゼオライト膜複合体を得た。実施例2にかかる修復ゼオライト膜複合体の性状を表2に示す。修復層重量は修復処理前後の重量変化から算出した。
【0059】
(比較例1)
・ゼオライト膜の形成
オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)、エタノール、純水を混合し、60℃で4時間エージングすることで、合成溶液を得た。溶液の組成はSiO_(2):0.12TPAOH:66H_(2)O:8EtOHであった。得られた合成溶液に、実施例1と同様にして調整した種晶付多孔質支持体を浸漬し、100℃で3日間、水熱合成を行った後、500℃で8時間焼成を行い、ゼオライト膜複合体を得た。比較例1にかかるゼオライト膜複合体の細孔径分布を図1に示す。図1中、□が比較例1にかかるゼオライト膜複合体の細孔分布である。比較例1のゼオライト膜複合体のゼオライトの構造は、XRD測定におけるピークパターンからsilicalite-1と決定した。比較例1にかかるゼオライト膜複合体の性状を表3に示す。
【0060】
(比較例2)
・液相修復処理
比較例1のゼオライト膜複合体に対して、実施例2と同様の液相修復処理を行った。修復に用いた溶液はTEOS、純水、エタノールを混合することで調製した。修復液の組成はSiO_(2):10H_(2)O:EtOHであった。修復液に比較例1のゼオライト膜複合体を浸漬させ、60℃で24時間撹拌することで液相修復処理を行い、修復ゼオライト膜複合体を得た。比較例2にかかる修復ゼオライト膜複合体の性状を表4に示す。修復層重量は修復処理前後の重量変化から算出した。
【0061】
(ベーパーパーミエーション試験)
実施例1、2、ならびに比較例1、2のゼオライト膜複合体および修復ゼオライト膜複合体を用い、図3に概略を示すベーパーパーミエーション装置により分離試験を行った。試験1?4、試験9?12、試験17および18では、混合流体としてヘキサン異性体(ノルマルヘキサン、2-メチルペンタン、2,2-ジメチルブタン)を用い、分離膜の温度を変更して混合流体からのノルマルヘキサンの分離性能を評価した。また、試験5?8、試験13?1.1、試験19および20では、混合流体としてキシレン異性体(オルトキシレン、メタキシレン、パラキシレン)を用い、分離膜の温度を変更して混合流体からのパラキシレンの分離性能を評価した。供給液タンク20内の混合流体をヒーターにより加熱して気体とし、ポンプ21により大気圧に保持した分離セル23内に供給した。分離セル23は、図示しないオーブン内に設置されて、透過試験中所定温度に加熱され、円筒型のゼオライト膜複合体1の外側表面に分離する混合流体を供給し、内側表面から透過ガスを得る構造をとる。透過側にはキャリアガスとしてアルゴンガスを300mL/minの速度で流した。ゼオライト膜複合体1を透過したガスを含む回収ガスを分取し、ガスクロマトグラフ24にて分析を行ない、膜を透過してきたガスの透過率(mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1))を評価した。その結果を表1?4に示す。なお、分離係数とは、下記式で示されるように、供給ガス中の成分A(モル%)と成分B(モル%)との比に対する透過ガス中の成分A(モル%)と成分B(モル%)との比の値をいう。
【0062】
分離係数=(P_(N-H)/P_(DMB))/(F_(N-H)/F_(DMB))
P_(N-H):透過ガス中のノルマルヘキサン濃度
P_(DMB):透過ガス中の2,2-ジメチルブタン濃度
F_(N-H):供給ガス中のノルマルヘキサン濃度
F_(DMB):供給ガス中の2,2-ジメチルブタン濃度
分離係数=(P_(P-X)/P_(M-X))/(F_(P-X)/F_(M-X))
P_(P-X):透過ガス中のパラキシレン濃度
P_(M-X):透過ガス中のメタキシレン濃度
F_(P-X):供給ガス中のパラキシレン濃度
F_(M-X):供給ガス中のメタキシレン濃度
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

(4)検討
ア 本件発明の課題
発明の詳細な説明の【背景技術】の【0004】の「【0004】
近年、これらの問題を解決すべく耐薬品性、耐酸化性、耐熱安定性、耐圧性が良好な種々の無機膜が提案されてきている。無機膜を用いた分離、濃縮は、蒸留や吸着剤による分離に比べ、エネルギーの使用量を削減できるほか、高分子膜よりも広い温度範囲で分離、濃縮を実施でき、更に劣化の問題により高分子膜では分離できない有機物を含む混合物の分離にも適用できるという利点を有している。その中でもゼオライト膜は、サブナノメートルの規則的な細孔を有しているため、分子ふるいとしての働きをもつので選択的に特定の分子を透過でき、高分離性能を示すことが期待されている。」、【0009】の
「【0009】
ところで、ゼオライトは、分子レベルの細孔径を有する無機酸化物の結晶であり、均一な大きさの細孔をもち,その細孔径分布は非常に狭い。そのようなゼオライトを膜状に合成したゼオライト膜は高性能分離膜として有望な素材となりうる。しかし、ゼオライト膜は多結晶体であり、結晶の間に粒界やピンホールが存在する。また、ゼオライト膜は、熱的、または物理的衝撃を受けることにより、ゼオライト膜に亀裂を生じる。これら粒界、ピンホール、および亀裂により、高い分離性能が得られないことが多い。」との記載、
【発明が解決しようとする課題】の【0014】の
「【0014】
上記に記載のゼオライト膜複合体を使用したノルマルパラフィンとイソパラフィン混合流体からのノルマルパラフィンの分離や、ミックスキシレンからのパラキシレンの分離技術は、分離係数が十分満足できるものではないために、工業的に要求される純度のものを得ることが困難であるか、または透過度が満足しうるものではなかった。
【0015】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、高い分離性能と透過度とを有するとともに、簡便に製膜可能なゼオライト膜複合体を用いた、ノルマルパラフィン/イソパラフィン混合流体からのノルマルパラフィンの分離またはミックスキシレンからのパラキシレンの分離方法およびゼオライト膜複合体を提供することにある。」との記載、
【課題を解決するための手段】の【0016】の
「【0016】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ゼオライトの結晶構造に由来する細孔より大きな径の細孔の割合が20%以下であるゼオライトを製膜したゼオライト膜複合体が、ノルマルパラフィン/イソパラフィンの混合流体からのノルマルパラフィンの分離、またはミックスキシレンからのパラキシレンの分離を高い選択性および透過度で行いうることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。」との記載及び本件明細書全体の記載を参酌して、本件特許発明の課題は、ゼオライト膜複合体を用いたノルマルパラフィン/イソパラフィンの混合流体からのノルマルパラフィンの分離、またはミックスキシレンからのパラキシレンの分離を高い選択性および透過度で行いうる分離方法の提供及び該分離方法に用いる簡便に成膜可能なゼオライト膜複合体の提供にあるものと認める。

イ 対比判断
(ア)分離の対象となるノルマルパラフィンについて
a 特許請求の範囲には、前記(2)に「ゼオライトは、結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が5%以下であること」と、「ゼオライト膜複合体は、ノルマルパラフィンの分圧が34kPaで300℃におけるノルマルパラフィンの透過度が5×10^(-8)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、かつノルマルパラフィン/イソパラフィンの分離係数が100以上、またはパラキシレンの分圧が25kPaで300℃におけるパラキシレンの透過度が1×10^(-9)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上であること、かつパラキシレン/メタキシレンの分離係数が20以上であること」が特定された「多孔質支持体上にゼオライトを成膜したゼオライト膜複合体により、2種以上の化合物の混合流体からノルマルパラフィン・・・を選択的に分離する分離方法」が記載され、分離の対象となるているノルマルパラフィンの種類を特定しない発明が記載されている。

b 一方、発明の詳細な説明の記載においては、【0016】?【0021】のノルマルパラフィン/イソパラフィン混合流体からのノルマルパラフィンの分離を高い選択性および透過度で行いうる課題を解決するための手段及び発明の効果に関する記載(前記摘記ア)、【0049】の分離の対象とするノルマルパラフィン/イソパラフィン混合流体の具体例に関する記載(前記摘記オ)、【0054】?【0066】のノルマルヘキサンと2-メチルペンタンと2,2-ジメチルブタンに関する実施例、比較例に関する記載(前記摘記キ)から、ノルマルヘキサンの場合に高い分離係数を得たことの記載がある。
また、特許権者が平成30年8月6日付けで提出した意見書に添付した資料1(小野嘉夫 外1名編,「ゼオライトの科学と工学」,株式会社講談社,2000年7月10日,98?99,104?105,110?111頁)によると、ゼオライトが吸着分離剤として代表的なものであり、ゼオライトの分子ふるい機能を利用した典型的な応用例として、直鎖アルカンの選択的吸着分離があり、工業的に分離対象となるアルカンは、C_(4)?C_(20)の範囲であり、工業的に数種の分離プロセスが開発されている点は本願出願時の技術常識であったことが理解できる。
さらに、甲第6号証表1の結果からノルマルパラフィンの炭素鎖の長さや温度に依存して透過度に変化があることは読み取れる。

c したがって、上記ノルマルパラフィン/イソパラフィン混合流体からのノルマルパラフィンの分離を高い選択性および透過度で行いうる課題を解決するための手段及び発明の効果に関する記載、ノルマルパラフィン/イソパラフィン混合流体の具体例に関する記載、ノルマルヘキサンと2-メチルペンタンと2,2-ジメチルブタンに関する実施例、比較例に関する記載と、上記技術常識を知見した当業者であれば、実施例に記載されたノルマルヘキサンの分離以外の場合においても、一定程度ゼオライトが分子ふるいの機能を発揮し、本件特許発明の課題を解決できると認識できるといえる。
また、温度に依存して透過度が変化する傾向を示す甲第6号証表1の結果からみても、該表1の温度以上の300℃(573K)における透過度としては、当業者であれば、ノルマルヘキサン以外の透過度においても、加熱によって一定の透過度を有していると理解できるといえる。

(イ)結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合について
a 特許請求の範囲には、前記(2)で記載したように、「ゼオライトは、結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が5%以下であること」と、「ゼオライト膜複合体は、ノルマルパラフィンの分圧が34kPaで300℃におけるノルマルパラフィンの透過度が・・・以上、かつノルマルパラフィン/イソパラフィンの分離係数が・・・以上、またはパラキシレンの分圧が25kPaで300℃におけるパラキシレンの透過度が・・・以上であること、かつパラキシレン/メタキシレンの分離係数が・・・以上であること」が特定された「多孔質支持体上にゼオライトを成膜したゼオライト膜複合体により、2種以上の化合物の混合流体からノルマルパラフィンまたはパラキシレンを選択的に分離する分離方法」が記載され、ゼオライトの結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が5%以下であることが特定された発明が記載されている。

b 一方、発明の詳細な説明においては、【0016】?【0021】のノルマルパラフィン/イソパラフィンの混合流体からのノルマルパラフィンの分離、またはミックスキシレンからのパラキシレンの分離を高い選択性および透過度で行いうる課題を解決するための手段及び発明の効果に関する記載(前記摘記ア)、【0030】の「本発明のゼオライト膜複合体において、ゼオライト中の細孔の割合は、ゼオライトの結晶構造に由来する細孔より大きな径の細孔の割合が20%以下である。・・・ゼオライトの結晶構造に由来する細孔より大きな粒界やピンホールの割合を20%以下とすることにより、ノルマルパラフィンやパラキシレンを選択的に分離することができる。ゼオライト細孔より大きな細孔の割合は、5%以下であることが特に好ましい。」(下線は当審にて追加。以下、同様。)とのゼオライト中の細孔の割合に関する記載(前記摘記ウ)、【0037】?【0047】の「【0037】
(ゼオライト膜複合体)
本発明にかかるゼオライト膜複合体は、多孔質支持体の表面などにゼオライトが膜状に固着しているものであり、例えば、多孔質支持体の表面などにゼオライトを水熱合成や、水蒸気処理により膜状に結晶化させたものが用いられる。
【0038】
多孔質支持体上にゼオライトを成膜する場合、多孔質支持体上にゼオライト種晶を付着させた後、ゼオライト膜を水熱合成により形成することが好ましい。一般的に、多孔質支持体にゼオライト種晶を付着させるためには、ゼオライト種晶の粉末を溶剤に分散させた分散液を多孔質支持体上に塗布することが好ましいが、その他、多孔質支持体製造時に原料の一部としてゼオライト種晶粉末を混入させることで、多孔質支持体にゼオライト種晶を付着させることもできる。塗布の方法としては、ゼオライト種晶を含む分散液を多孔質支持体に単純に滴下するだけでも良く、ゼオライト種晶を含む分散液に多孔質支持体を浸漬することでも得られる。また、スピンコート、スプレーコート、ロールコート、スラリーの塗布、濾過など汎用されている方法を用いることもできる。多孔質支持体上の種晶の付着量を再現性よく制御する観点から、ゼオライト種晶を含む分散液を調製し、該分散液に多孔質支持体を浸漬する方法が好ましい。
【0039】
ゼオライト種晶は、市販のものを用いてもよく、原料から製造してもよい。原料から製造する場合には、例えばシリカ原料としてケイ酸ナトリウム、シリカゲル、シリカゾル又はシリカ粉末、アルミナ原料としてアルミン酸ナトリウム又は水酸化アルミニウム、構造規定剤としてはTPAOH、TPABr、硬化剤として水酸化ナトリウムなどから既知の方法で製造することができる。
【0040】
ゼオライト種晶として市販のものを用いる場合には、所望の大きさに粉砕機で粉砕した後、水に分散させ、分散液を調製する。調製した分散液は、適宜上記の方法で多孔質支持体に付着させる。該分散液は、スラリー、ゾル、溶液など、いずれの状態としても良く、採用する塗布方法に応じて適宜調製することができる。多孔質支持体を浸漬してゼオライト種晶を付着する方法を採用する場合には、付着の容易性からスラリー状の分散液であることが好ましい。
【0041】
多孔質支持体上へのゼオライト種晶の付着量は、0.5?20g/m^(2)とすることが好ましい。多孔質支持体上へのゼオライト種晶の付着量を上記範囲とすることにより、ゼオライトの結晶構造に由来する細孔より大きな径の細孔の割合を低減することができる。ゼオオライト種晶の付着量は、1?10g/m^(2)であることが特に好ましい。
【0042】
上記方法により得られるゼオライト種晶を付着させた多孔質支持体を用いて水熱合成することで、多孔質支持体上にゼオライト膜を形成する。
【0043】
本発明において、水熱合成によるゼオライトの成膜は、一般的な方法をとることができるが、例えば、シリカ源、アルミニウム源、鉱化剤、構造規定剤を水またはアルコール水溶液と混合して前駆液とし、得られた前駆液中にゼオライト種晶を付着した多孔質支持体を浸漬させた状態で、オートクレーブ等で加熱して水熱合成すればよい。
【0044】
水熱合成処理の温度は、例えば、80?130℃とすることが好ましく、80?120℃で水熱合成することが特に好ましい。80℃より低い温度では、ゼオライトの結晶化が進行しにくく、130℃より高い温度では、ゼオライト結晶の結晶間隙が大きくなる、すなわち、ゼオライトの結晶構造に由来する細孔より大きな径の細孔の割合が大きくなるためである。
【0045】
また、水熱合成処理の時間は、80?240時間とすることが好ましく、100?200時間とすることが特に好ましい。80時間より短いとノルマルパラフィンまたはパラキシレンの選択性が低下するおそれがあり、240時間より長いと透過量が低下するおそれがある。
【0046】
多孔質支持体上にゼオライトを成膜後、ゼオライト膜複合体は450?700℃で2?10時間焼成される。焼成処理は、0.1?10℃/分の昇温速度で所望の温度まで昇温し、所定時間焼成の後、0.1?10℃/分の降温速度で降温して、細孔内の構造規定剤を除去することが好ましい。昇温速度および降温速度を上記範囲とすることにより、ゼオライトの結晶構造に由来する細孔より大きな径の細孔の割合を低減することができる。焼成温度への昇温速度は、0.5?5℃/分とすることが特に好ましく、降温速度は0.5?5℃/分とすることが特に好ましい。
【0047】
ゼオライト膜の細孔の割合が、結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が20%以下であるゼオライト膜複合体は、多孔質支持体上へのゼオライト種晶の付着量、水熱合成時の温度、時間、焼成時の昇温速度、降温速度等を適宜調整してゼオライトを成膜することにより製造することができる。」とのゼオライト膜複合体及びその製造条件に関する記載(前記摘記エ)、【0054】?【0066】のノルマルヘキサンの2-メチルペンタンと2,2-ジメチルブタンからの分離、及びパラキシレンのオルトキシレンとメタキシレンからの分離に関する実施例、比較例に関する記載(前記摘記キ)から、結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が0.677%,0.691%の場合に高い透過率と分離係数とを得たこと、59.1%,20.3%の場合には、透過度と分離係数の両立ができなかったことを示す結果が示されている。

c したがって、上記ノルマルパラフィン/イソパラフィンの混合流体からのノルマルパラフィンの分離、またはミックスキシレンからのパラキシレンの分離を高い選択性および透過度で行いうる課題を解決するための手段及び発明の効果に関する記載、使用するゼオライトにおけるゼオライト細孔より大きな細孔の割合は、5%以下であることが特に好ましいとの記載、ゼオライト膜複合体及びその製造条件に関する記載ノルマルヘキサンの2-メチルペンタンと2,2-ジメチルブタンからの分離、及びパラキシレンのオルトキシレンとメタキシレンからの分離に関する実施例、比較例に関する記載と、ゼオライト膜の細孔の割合が、結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が一定であるゼオライト膜複合体は、多孔質支持体上へのゼオライト種晶の付着量、水熱合成時の温度、時間、焼成時の昇温速度、降温速度等を適宜調整してゼオライトを成膜することにより製造することができるとして、各条件の好ましい範囲を示している記載とを知見した当業者であれば、結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が実施例に記載された範囲以外の5%以下の場合においても、一定程度ゼオライトが分子ふるいの機能を発揮し、本件特許発明の課題を解決できると認識できるといえる。
また、温度に依存して透過度が変化する傾向を示す甲第6号証表1の結果からみても、該表1の温度以上の300℃(573K)における透過度としては、当業者であれば、ノルマルヘキサン以外の透過度においても、加熱によって一定の透過度を有していると理解できるといえる。

(ウ)請求項3?7,9,11に係る発明について
請求項3?7に係る発明は、請求項1に係る発明において、さらに技術的に限定したものであるが、それらの技術的限定に関し、【0050】?【0053】【0027】【0031】に各技術的限定に関する説明がそれぞれ存在し、これらの説明も考慮すれば、請求項3?7に係る発明も、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
また、請求項9,11に係る発明は、それぞれ、請求項1,7に対応したゼオライト膜複合体の発明であり、【0037】?【0051】にゼオライト複合膜に関して説明が存在し、これらの説明も考慮すれば、請求項9,11に係る発明も、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。

(5)サポート要件のまとめ
したがって、上記の点において、請求項1,3?7,9,11に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものである。

2 理由2(特許法第36条第4項第1号)について
(1)本件特許発明に関する特許法第36条第4項第1号の判断の前提
明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が過度な試行錯誤なく、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基いて、その物を生産でき、かつ、使用できるように、方法の発明にあっては、その方法を使用できるように、それぞれ記載されていることが必要と解される。

(2)発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には、前記1(3)の記載に加えて次の記載がある。
ア ゼオライト膜に関する記載
「【0024】
・・・
本発明において、ゼオライト膜を構成する成分としては、ゼオライト以外にシリカ、アルミナなどの無機バインダー、ポリマーなどの有機物、あるいはゼオライト表面を修飾するシリル化剤などを必要に応じ含んでいてもよい。ゼオライト膜は、一部アモルファス成分などが含有されていてもよいが、好ましくは実質的にゼオライトのみで構成されるゼオライト膜である。
【0025】
ゼオライト膜の厚さは特に限定されないが、通常0.1μm以上、好ましくは0.6μm以上、より好ましくは1.0μm以上である。また、通常100μm以下、好ましくは60μm以下、より好ましくは20μm以下の範囲である。ゼオライト膜の膜厚が大きすぎると透過量が低下する傾向があり、小さすぎると選択性が低下したり、膜強度が低下する傾向がある。
【0026】
ゼオライト膜を構成するゼオライトの粒子径は特に限定されないが、小さすぎると粒界が大きくなるなどして透過選択性などを低下させる傾向がある。それ故、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、上限は膜の厚さ以下、例えば、100μm以下である。さらに、ゼオライトの粒子径がゼオライト膜の厚さと同じである場合がより好ましい。ゼオライトの粒子径がゼオライト膜の厚さと同じであるとき、ゼオライトの粒界が最も小さくなる。後に述べる水熱合成で得られたゼオライト膜は、ゼオライトの粒子径とゼオライト膜の厚さが同じになる場合があるので好ましい。」

イ 本発明のゼオライト膜を構成する原料及び構造規定剤に関する記載
「【0028】
本発明のゼオライト膜を構成する原料は、特に限定されるものではないが、シリカ源としては、無定形シリカ、アモルファスシリカ、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム等、アルミニウム源としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム等を使用することができる。
【0029】
また、構造規定剤としては、所望のゼオライトにより種々選択すればよいが、MFI型ゼオライトの場合は、例えば、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)、テトラプロピルアンモニウムボロミド(TPABr)が使用される。また、目的とするゼオライトの種類に応じて、鉱化剤、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物を使用してもよい。」

ウ 多孔質支持体に関する記載
「【0033】
・・・
多孔質支持体は、その表面などにゼオライトを膜状に結晶化できるような化学的安定性がある多孔質の無機物質であれば如何なるものであってもよい。具体的には、例えば、シリカ、α-アルミナ、γ-アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス焼結体、鉄、ブロンズ、ステンレスなどの焼結金属や、ガラス、カーボン成型体などが挙げられる。このうち、耐熱性、機械的強度、耐薬品性、支持体作成の容易さや、入手容易性の点から、α-アルミナ、ステンレスが好ましい。
【0034】
多孔質支持体の形状は、ノルマルパラフィン/イソパラフィン混合流体、ミックスキシレン混合流体からノルマルパラフィンまたはオルトキシレンを有効に分離できるものであれば特に制限されず、具体的には、例えば、平板状、管状のもの、または円筒状、円柱状や角柱状の孔が多数存在するハニカム状のものやモノリスなどが挙げられる。本発明においては、無機多孔質支持体の表面などにゼオライト膜を形成、好ましくはゼオライトを膜状に結晶化させる。
【0035】
多孔質支持体が有する平均細孔径は特に制限されないが、細孔径が制御されているものが好ましく、通常0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。平均細孔径が小さすぎると透過量が小さくなる傾向があり、大きすぎると支持体自体の強度が不十分になったり、緻密なゼオライト膜が形成されにくくなる傾向がある。
【0036】
また、多孔質支持体の気孔率は特に制限されず、また特に制御する必要は無いが、気孔率は、通常20%以上60%以下であることが好ましい。気孔率は、気体や液体を分離する際の透過流量を左右し、前記下限未満では透過物の拡散を阻害する傾向があり、前記上限超過では支持体の強度が低下する傾向がある。」

(3)判断
ア 本件明細書の実施例1と実施例2、比較例1と比較例2の結果を対比すると、ゼオライト膜の修復処理によって、粒界やピンホールの修復がなされて、分離係数が向上したことが理解できる。
このことからも理解できるとおり、本件特許発明のゼオライト膜には、一定の粒界やピンホールが存在しているといえ、この粒界やピンホールは請求項に記載の「細孔」に該当するものといえる。

イ 一方、本件明細書によれば、【0054】に、「【0054】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(細孔分布の測定)
ゼオライト膜複合体の細孔分布の測定を、以下の条件で行った。
・装置名: 分離膜欠陥構造解析装置 Porometer nano
・測定方式: ケルビンの毛管凝縮式を利用
・測定範囲:0.3?2.0nm
・凝縮性ガス:ノルマルヘキサン
・非凝縮性ガス:ヘリウム
ゼオライト膜複合体に凝縮性ガスと非凝縮性ガスの混合ガスを供給し、非凝縮性ガスの透過量を測定した。凝縮性ガス濃度を徐々に上げていくことで、凝縮性ガスの毛管凝縮による細孔の閉塞が進行し、この際の非凝縮性ガスの透過量の変化から、細孔分布を算出した。測定温度は60℃、凝縮性ガス濃度は0-20%の範囲で測定を行った。この時、凝縮性ガス濃度0%での非凝縮性ガス透過量に対する凝縮性ガス濃度1%での非凝縮性ガス透過量の割合をゼオライト細孔より大きな細孔の割合とした。」とのゼオライト膜複合体の細孔分布の測定方法の記載があり、特許権者が平成30年8月6日付け意見書8?9頁で説明しているように、本件明細書の細孔分布の測定に使用するケルビンの毛細凝縮式は細孔分布の測定の方式として技術常識であり、本件明細書では、凝縮性ガスの割合を0?20%の間で変更し、20%の混合ガスで2.0nmまでの細孔内で凝縮性ガスが凝縮して細孔が閉塞した結果、非凝縮性が透過しないことが確認されていることから、2nmより大きい範囲に細孔が存在していないことが確認されていると考えられる。
したがって、【0054】の手法で測定し、【0054】で定義した「結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合」(凝縮性ガス濃度0%での非凝縮性ガス透過量に対する凝縮性ガス濃度1%での非凝縮性ガス透過量の割合)を決定した本件明細書の測定結果は、2nmより大きい細孔の存在の可能性も含めた全細孔についての結果であると考えられる。
したがって、当業者であれば、発明の詳細な説明に記載された、ゼオライト膜及び構成するゼオライトに関する記載、ゼオライト膜を構成する原料及び構造規定剤に関する記載、多孔質支持体に関する記載、ゼオライト膜複合体及びその製造条件に関する記載、ゼオライト膜の修復処理に関する記載と実施例、比較例の記載を参酌すれば、結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合を調節し、一定の高い透過度と分離係数を維持した本件特許発明のノルマルパラフィンまたはパラキシレンの分離方法及びゼオライト膜複合体を過度な試行錯誤なく製造し、使用できるといえる。

(4)特許異議申立人の主張の検討
特許異議申立人は、申立書第59?62頁において、本件特許明細書の実施例1,比較例1と実施例2、比較例2の比較からゼオライト膜複合体の修復によって分離係数が上昇していることから粒界やピンホールが残存し、甲第9号証、甲第10号証、甲第11号証の記載を指摘して、2nm以上の細孔が粒界に存在し、本件特許明細書ではその範囲のものを測定していない旨主張している。
しかしながら、確かにゼオライト膜複合体に2nm以上の細孔が粒界に存在する場合はあるものの、本件特許明細書においては、上述のとおり、【0054】の手法で測定し、【0054】で定義した「結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合」(凝縮性ガス濃度0%での非凝縮性ガス透過量に対する凝縮性ガス濃度1%での非凝縮性ガス透過量の割合)が、ゼオライト膜複合体に凝縮性ガスと非凝縮性ガスの混合ガスを供給し、非凝縮性ガスの透過量を測定し、凝縮性ガス濃度を徐々に上げていくことで、凝縮性ガスの毛管凝縮による細孔の閉塞が進行し、この際の非凝縮性ガスの透過量の変化から、細孔分布を算出したことが記載されていることから、適切な細孔分布を算出できているといえ、上述のとおり数値は正しいものと認識できる。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(5)実施可能要件のまとめ
以上のとおり、発明の詳細な説明の記載は、請求項1,3?7,9,11に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

取消理由で採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第29条第1項第3号(新規性)及び同法第29条第2項(進歩性)について

(1)甲号証の記載
(1-1)甲第1号証
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる甲第1号証には以下の記載がある。
(1a)「技術分野
[0001]
本発明は、流体を分離するゼオライト分離膜配設体、その製造方法、混合流体の分離方法、及び混合流体分離装置に関する。」

(1b)「[0031]
(I)ゼオライト分離膜配設体:
本発明のゼオライト分離膜配設体は、室温でのN_(2)ガスの透過速度が1.0×10^(-6)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上であり、且つ室温での1,3,5-トリメチルベンゼン/N_(2)の透過速度比が0.17以上であり、且つローダミンBの染み込みによる染色がないゼオライト膜を備えるゼオライト分離膜配設体である。このゼオライト膜配設体は、ゼオライト結晶固有の細孔を0.76nm以下に有し、且つゼオライト結晶固有の細孔でない細孔を0.76nm?2nmに有する。そして、ゼオライト膜は、多孔質材料である支持体上に形成される。ゼオライト膜は、MFI膜であることが好ましく、さらにシリカライト膜であることがより好ましい。
[0032]
(I-1)細孔:
本発明のゼオライト分離膜配設体は、異なる2成分以上の混合流体の分離に使用することができる。ゼオライト結晶固有の細孔(MFI膜では、0.5?0.6nm)よりも大きい(0.76?約2nm)隙間または細孔を有している。具体的には、ゼオライト分離膜配設体は、室温でのN_(2)ガスの透過速度が1.0×10^(-6)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上である。好ましくは、2.0×10^(-6)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上である。細孔の量は多い方が好ましく、N_(2)ガスの透過速度が上記範囲であるのは、細孔の大きさに関わらず細孔の量が一定量よりも多いことを意味する。
[0033]
また、本発明のゼオライト分離膜配設体は、1,3,5-トリメチルベンゼン/N_(2)の透過速度比が0.17以上である。好ましくは、0.20以上である。1,3,5-トリメチルベンゼン/N_(2)の透過速度比が上記範囲である場合、ゼオライト結晶固有の細孔よりも大きい隙間または細孔が多く存在することを意味する。このため、1,3,5-トリメチルベンゼン(分子径0.76nm)よりも分子径の小さい分子を通すことが可能である。
[0034]
N_(2)ガスの透過速度(A)は、全細孔量を意味し、1,3,5-トリメチルベンゼン透過速度(B)は、ゼオライト結晶固有の細孔よりも大きい隙間または細孔の量を意味する。このため、1,3,5-トリメチルベンゼン/N_(2)の透過速度比(B/A)は、全細孔量に対する大きい隙間または細孔の量の割合を意味する。高い透過性と高い分離性の両立には、このB/Aが高いことが重要である。」

(1c)「[0039]
具体的な成分系の例としては、直鎖炭化水素と側鎖炭化水素の系では、直鎖体には炭素数5?9の飽和炭化水素や不飽和炭化水素、例えばn-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、2-オクテンなど、側鎖体には炭素数5?9の飽和炭化水素や不飽和炭化水素、例えば、2-メチルブタン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、イソオクタン、2-メチルー1-ブテン、イソオクテンなどが挙げられる。直鎖炭化水素と芳香族炭化水素の系では、直鎖体には炭素数5?9の飽和炭化水素や不飽和炭化水素、例えばn-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、2-オクテンなど、芳香族にはベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。アルコールと水の系では、アルコールにはエタノール、メタノール、ブタノール、イソプロパノールなどが挙げられる。直鎖炭化水素と無機ガスの系では、直鎖炭化水素にはメタン、エタン、プロパン、プロピレン、ブタン、1-ブテンなど、無機ガスにはN2、He、Arなどが挙げられる。」

(1d)「[0056]
耐圧容器としては、特に限定されないが、フッ素樹脂製内筒付のステンレス製耐圧容器、ニッケル金属製耐圧容器、フッ素樹脂製耐圧容器等を使用することができる。支持体を種付け用ゾルに浸漬する場合は、少なくともゼオライト種結晶を析出させる箇所を種付け用ゾル内に沈めることが好ましく、支持体全体を種付け用ゾルに沈めてもよい。水熱合成を行う場合の温度は、90?130℃であり、100?120℃がより好ましい。90℃より低温であると、水熱合成が進行しにくく、130℃より高温であると、得られるゼオライト種結晶を微粒化することができない。特に、支持体がアルミナ粒子を焼結した多孔体である場合には、水熱合成の温度を上記範囲(90?130℃)とすることにより、支持体表面に位置するアルミナ粒子のそれぞれの表面をゼオライト種結晶で覆うことが可能となる。また、水熱合成の合成時間は、3?18時間であることが好ましく、6?12時間であることがより好ましい。3時間より短いと、水熱合成が十分に進行しないことがあり、18時間より長いと、ゼオライト種結晶が大きくなり過ぎることがある。このように、水熱合成により支持体表面に直接ゼオライト種結晶を析出させると、支持体からゼオライト種結晶が剥離し難くなるため、ゼオライト膜を形成したときに、膜の欠陥や膜厚の不均一等の問題を防止することができる。」

(1e)「[0085]
(実施例1)
(種付け用ゾルの調製)
40質量%のテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド溶液(SACHEM社製)31.22gと、テトラプロピルアンモニウムブロミド(和光純薬工業株式会社製)16.29gとを混合し、さらに蒸留水71.25g、約30質量%シリカゾル(商品名:スノーテックS、日産化学株式会社)82gを加えて、室温にて30分間マグネチックスターラーで撹拌して種付け用ゾルとした。
[0086]
(ゼオライト種結晶の生成)
得られた種付け用ゾル13aを、図3に示すように、フッ素樹脂製300ml耐圧容器10内に入れ、両端部にガラスシール(シール部12)を施した直径30mm、長さ160mm、φ3mmのストレート孔が計37開いたモノリス状の多孔質アルミナ質支持体51を、外側にフッ素樹脂製テープを被覆した後に浸漬し、110℃の熱風乾燥機中で12時間反応させた。支持体51は、フッ素樹脂製の受け治具15より耐圧容器10に固定した。反応後の支持体51は外側のフッ素樹脂製テープを除去し、5回の煮沸洗浄の後、80℃で16時間乾燥した。反応後の結晶粒子のX線回折によりMFI型ゼオライトであることが確認された。
[0087]
(膜形成用ゾルの調製)
40質量%のテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド溶液(SACHEM社製)0.80gと、テトラプロピルアンモニウムブロミド(和光純薬株式会社製)0.42gとを混合し、さらに蒸留水193.26g、約30質量%シリカゾル(商品名:スノーテックスS、日産化学株式会社製)6.3gを加えて、室温にて30分間マグネチックスターラーで撹拌して膜形成用ゾルとした。
[0088]
(ゼオライト膜の形成)
得られた膜形成用ゾル13bを、上記「ゼオライト種結晶の生成」の場合と同様に、図3に示すような、フッ素樹脂製300ml耐圧容器10内に入れ、上記ゼオライト種結晶が析出した多孔質アルミナ質支持体51を、外側にフッ素樹脂製テープを被覆した後に浸漬し、160℃まで昇温させ、熱風乾燥機中160℃で24時間反応させ、その後降温させた。反応後の支持体51は外側のフッ素樹脂製テープを除去し、5回の煮沸洗浄の後、80℃で16時間乾燥し、ゼオライト分離膜配設体を得た。その後、ゼオライト分離膜配設体からの構造規定剤の除去工程は、昇温速度0.2℃/min、加熱温度600℃で4時間維持、降温速度1℃/minで行った。反応後のチャネル内側の緻密層のX線回折によりMFI型ゼオライトであることが確認された。
[0089]
(実施例2)
構造規定剤の除去工程では、ゼオライト分離膜配設体を入れる前に600℃に昇温し、維持しておいた電気炉に、ゼオライト分離膜配設体を投入(昇温速度は0.2℃/minよりも速い)、静置し、24時間経過した後、電気炉から取り出した(降温速度は1℃/minよりも速い)。それ以外は実施例1と同様の工程からゼオライト分離膜配設体を得た。反応後のチャネル内側の緻密層のX線回折によりMFI型ゼオライトであることが確認された。
[0090]
(実施例3)
実施例1と同様の工程から得られたゼオライト分離膜配設体を用いて、構造規定剤の除去工程は、昇温速度0.1℃/min、加熱温度600℃で4時間維持、降温速度0.5℃/minで行った。反応後のチャネル内側の緻密層のX線回折によりMFI型ゼオライトであることが確認された。
[0091]
(比較例1)
背景技術に記載の非特許文献1(Separation Purification Technology, 25 (2001) 297-306)に準じて作製した。40質量%のテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド溶液(SACHEM社製)12.69gと、テトラプロピルアンモニウムブロミド(和光純薬工業株式会社製)6.62gとを混合し、さらに蒸留水203.05g、約30質量%シリカゾル(商品名:スノーテックS、日産化学株式会社)20gを加えて、室温にて30分間マグネチックスターラーで撹拌して種付け用ゾルとした。
[0092]
このゾルを、フッ素樹脂製耐圧容器中に入れ、両端部にガラスシールを施した直径30mm、長さ160mm、φ3mmのストレート孔が計37開いたモノリス状の多孔質アルミナ質支持体を外側にフッ素樹脂製テープを被覆した後に浸漬し、180℃の熱風乾燥器中で30時間反応させた。反応後の支持体は、外側のフッ素樹脂製テープを除去し、5回の煮沸洗浄の後、80℃で16時間乾燥し、ゼオライト分離膜配設体を得た。その後、ゼオライト分離膜配設体からの構造規定剤の除去工程は、昇温速度0.1℃/min、加熱温度500℃で4時間維持、降温速度0.1℃/minで行った。反応後のチャネル内側の緻密層のX線回折によりMFI型ゼオライトであることが確認された。」

(1f)「[0099]
(単成分ガス透過試験)
図4に示す装置を用い、単成分ガス(N_(2))の透過試験を実施した。ゼオライト分離膜配設体を、その両端外周部にo-リング133を介してSUS製ケーシングに収納したもの(SUS製モジュール137)を所定の位置に設置する。SUS製モジュール137はo-リング133、ガラスシール(シール部12)およびゼオライト膜により、ガス供給側空間131とガス透過側空間132に区画されることになる。ガス供給側空間131はSUS製モジュール137の後段にて閉塞されているため、供給側に接続した評価ガスのボンベにてSUS製モジュール137の供給側空間に、供給ガス導入口137aよりガスを供給し、供給ガス排出口137bから排出されたガスは留まり、膜に所定の圧力を与える。本実験では、ガス供給側空間131はゲージ圧力で0.1MPaとし、透過側空間132は大気圧とした。透過流量は安定したことを確認した後、一定の時間でガス回収口137c側に備えた乾式ガスメータまたは石鹸膜流量計で測定し、透過速度(nmol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1))を評価した。
[0100]
(1,3,5-トリメチルベンゼンの単成分浸透気化(パーベーパレーション:PV)試験)
パーベーパレーションは、図5及び図6に示すような混合物分離装置101を用いて行った。原料タンク35により、タンク内に入れられた、1,3,5-トリメチルベンゼンを所定の温度(約50℃)に加熱保持した。
[0101]
図5及び図6の構成により、循環ポンプ36にてSUS製モジュール37の原料側空間31に、供給流体導入口37aより原料を供給し、供給流体排出口37bから排出された原料を原料タンク35に戻すことで原料を循環させた。真空ポンプ39にて分離膜11の支持体側を減圧することで、分離膜11の膜透過側11bへ透過し、透過流体回収口37cから排出される透過蒸気を液体N_(2)トラップにて回収した。透過側空間32の真空度は圧力制御機により所定の減圧下(例えば約0.5Torr)に制御した。これにより、液体混合物の組成を変化させることができる。
[0102]
試験は、1,3,5-トリメチルベンゼンを50℃、透過側真空度0.2torr、測定時間30minで行った。得られた液体の質量は電子天秤にて秤量し、液体の組成はガスクロマトグラフィーにて分析した。上記パーベーパレーション試験の結果得られた、透過速度を表1に示す。」

(1g)「

」(27頁[表1])

(1h)「[0119]
(n-ヘキサン/2,2-ジメチルブタンの浸透気化(PV)試験)
上記と同様に、35℃、透過側真空度0.2torr、測定時間180min(開始から0?180分の間)で、n-ヘキサン/2,2-ジメチルブタンの浸透気化(PV)試験を行った。分離係数とは、下記式で示されるように、供給液中のn-ヘキサン濃度(質量%)と2,2-ジメチルブタン濃度(質量%)との比に対する透過液中のn-ヘキサン濃度(質量%)と2,2-ジメチルブタン濃度(質量%)との比の値をいう。
[0120]
分離係数=((透過液中のn-ヘキサン濃度)/(透過液中の2,2-ジメチルブタン濃度))/((供給液中のn-ヘキサン濃度)/(供給液中の2,2-ジメチルブタン濃度))
[0121]
結果を表5に示す。
[0122][表5]



(1-2)甲第4号証
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる甲第4号証には以下の記載がある。
(2a)「

」(図6)

(1-3)甲第5号証
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる甲第5号証には以下の記載がある。
(3a)「

」(図8)

(3b)「

」(図9)

(1-4)甲第6号証
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる甲第6号証には以下の記載がある。
(4a)「

」(表1)

(1-5)甲第7号証
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる甲第7号証には以下の記載がある。
(5a)「【0001】
本発明は、多孔質支持体?ゼオライト膜複合体の製造方法に関し、さらに詳しくは、多孔質支持体上に水熱合成でゼオライト膜を形成した後に特定の処理を行うゼオライト膜複合体の製造方法、該方法により得られる多孔質支持体?ゼオライト膜複合体などに関する。本発明により得られる多孔質支持体?ゼオライト膜複合体は、有機化合物を含む気体または液体の混合物から、透過性の高い物質を透過して分離し、透過性の低い物質を濃縮することができる。」

(5b)「【0079】
ここで、空気透過量とは、後述するとおり、ゼオライト膜複合体を絶対圧5kPaの真空ラインに接続した時の空気の透過量[L/(m^(2)・h)]である。
(温水処理)
本発明の方法においては、上記ゼオライト膜複合体を、温度40℃以上300℃以下の水に1時間以上浸漬する。なお、本明細書において、このゼオライト膜複合体の水への浸漬を「温水処理」と略称することがある。
【0080】
上記温水処理により、加熱処理(乾燥、焼成など)によってゼオライトの表面に生成したSi-O-Si結合を親水性の高いSi-OHとすることができ、それにより水の透過性能が向上すると考えられる。また、微細な欠陥が、欠陥中に存在するアモルファスシリカなどを原料に修復されるため膜の性能が向上すると考えられる。
ここで、温水処理における水とは、液状の水であって、沸点以上の温度では、加圧下で液状となっているものも含まれる。この場合の圧力は、自生圧でも加圧でもよい。
【0081】
水の温度は、通常40℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上、特に好ましくは100℃以上であり、通常300℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは160℃以下である。水の温度が低すぎると、ゼオライトの表面に生成したSi-O-Si結合を親水性の高いSi-OHとする効果や微細な欠陥が、欠陥中に存在するアモルファスシリカなどを原料に修復される効果が十分に得られないことがある。水の温度が高すぎると、ゼオライトが一部水中に溶出してゼオライト膜が壊れる可能性がある。
【0082】
水への浸漬時間は、通常1時間以上、好ましくは5時間以上、より好ましくは7時間以上、特に好ましくは10時間以上であり、通常100時間以下、好ましくは50時間以下、より好ましくは30時間以下である。浸漬時間が短すぎると、膜表面の変化が十分に進行せず、十分な効果が得られないことがある。浸漬時間が長すぎると、ゼオライトが一部水中に溶出してゼオライトが壊れる可能性がある。
【0083】
上記ゼオライト膜複合体は、水への浸漬処理後、そのまま使用してもかまわないが、水洗や必要に応じて乾燥を行っても良い。加熱によって乾燥する場合は通常20℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは150℃以上であり、通常500℃以下、好ましくは400℃以下、さらに好ましくは300℃以下である。加熱温度が高すぎると、ゼオライト膜表面が焼成後の状態に近くなり温水処理の効果が失われる可能性がある。
【0084】
水中に微量のOH^(-1)イオンを積極的に存在させてもよく、その場合、水中のOH^(-1)イオン濃度は、通常0.05mol/l以下、好ましくは0.01mol/l以下、より好ましくは0.005mol/l以下であり、通常0.0001mol/l以上、好まし
くは0.0005mol/l以上、より好ましくは0.001mol/l以上である。水中にOH^(-1)イオンが存在することによって、存在しない場合よりも短時間で同等の効果を得ることが可能になる。水中のOH^(-1)イオン濃度が高すぎると、ゼオライト膜が溶解して破壊されやすくなり処理時間の厳密なコントロールが必要となる。
【0085】
水には、Si、Al、B、P等から選ばれる少なくとも1種の元素を含んでいてもよく、これらの中で、Si、Alが好ましく、Siが特に好ましい。
特に水中にSi元素を含有する場合、膜に存在する欠陥が、水中に含まれるSi元素によって、一部修復されることがあるので好ましい。
これら元素の濃度は、通常0.00001質量%以上、好ましくは質量0.00005%以上、より好ましくは0.0001質量%以上、さらに好ましくは0.001質量%以上、特に好ましくは0.01質量%以上、もっとも好ましく0.1質量%以上であり、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0086】
またSi元素を含有する場合は、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上であり、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
Si元素源としては例えば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシラン、無定形シリカ、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム、シリケートオリゴマー、シリカゾルなどを用いることができ、反応性の面でアルコキシシランが好ましい。」

(1-6)甲第8号証
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる甲第8号証には以下の記載がある。
(6a)「技術分野
[0001]
本発明は、ゼオライト配向膜配設体に関し、更に詳しくは、支持体表面に対して垂直な方向にゼオライト結晶のc軸が配向し、膜厚の薄いゼオライト配向膜が支持体表面に配設されたゼオライト配向膜配設体に関する。」

(6b)「[0065]
(実施例1)
(種付け用ゾルの調製)
40質量%のテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド溶液(SACHEM社製)36.17gと、テトラプロピルアンモニウムブロミド(和光純薬工業株式会社製)18.88gとを混合し、さらに蒸留水82.54g、約30質量%シリカゾル(商品名:スノーテックスS、日産化学株式会社製)95gを加えて、室温で30分間マグネチックスターラーで撹拌して種付け用ゾルとした。
[0066]
(ゼオライト種結晶の生成)
得られた種付け用ゾル3を、図1に示すように、フッ素樹脂製内筒4が内部に配設されたステンレス製300ml耐圧容器1内に入れ、直径12mm、厚さ1?2mm、長さ160mmの円筒状の多孔質アルミナ支持体2を浸漬し、110℃の熱風乾燥機中で10時間反応させた。アルミナ支持体2は、フッ素樹脂製の固定治具5,6により耐圧容器1内に固定した。反応後の支持体は、5回の煮沸洗浄の後、80℃で16時間乾燥した。反応後の支持体表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、図2の走査型電子顕微鏡(SEM)写真に示すように、多孔質のアルミナ支持体2の表面全体を約0.5μmのゼオライト結晶粒子(種結晶)11が隙間無く覆っていた。そして、結晶粒子のX線回折によりMFI型ゼオライトであることが確認された。
[0067]
(膜形成用ゾルの調製)
40質量%のテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド溶液(SACHEM社製)0.66gと、テトラプロピルアンモニウムブロミド(和光純薬工業株式会社製)0.34gとを混合し、さらに蒸留水229.6g、約30質量%シリカゾル(商品名:スノーテックスS、日産化学株式会社製)5.2gを加えて、室温で30分間マグネチックスターラーで撹拌して膜形成用ゾルとした。
[0068]
(ゼオライト配向膜(ゼオライト配向膜配設体)の形成)
得られた膜形成用ゾル3’を、上記「ゼオライト種結晶の生成」の場合と同様に、図1に示すような、フッ素樹脂製内筒4が内部に配設されたステンレス製300ml耐圧容器1内に入れ、上記ゼオライト種結晶が析出した多孔質アルミナ支持体2を浸漬し、180℃の熱風乾燥機中で60時間反応させた。反応後の支持体は、5回の煮沸洗浄の後、80℃で16時間乾燥した。反応後の支持体表面部分における断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、図3の走査型電子顕微鏡(SEM)写真に示すように、多孔質のアルミナ支持体2の表面に厚さ約13μmの緻密層(ゼオライト配向膜)12が形成されていた。以下に示す条件でこの緻密層のX線回折による分析を行ったところ、MFI型ゼオライト結晶であることが確認された。X線回折の測定結果を図5に示す。
[0069]
得られた、多孔質アルミナ支持体上に形成されたc軸配向のMFI型ゼオライト膜を、電気炉で500℃まで昇温し、4時間保持して、テトラプロピルアンモニウムを除去して、ゼオライト配向膜が支持体に配設されたゼオライト配向膜配設体を得た。
[0070]
(比較例1)
40%テトラプロピアンモニウムヒドロキシド溶液(SACHEM社製)18.75gとテトラプロピルアンモニウムブロミド(和光純薬工業(株)製)9.78gを混合し、さらに蒸留水を180.46g、約30wt%シリカゾル(スノーテックスS、日産化学(株)製)30gを加えて、室温で30分間マグネティックスターラーで撹拌して膜形成ゾルを調製した。このゾルを、フッ素樹脂製内筒付ステンレス製300ml耐圧容器中に入れ、直径12mmφ、厚み1?2mm、長さ160mmの多孔質アルミナ支持体に浸漬させ、160℃の熱風乾燥器中で30時間反応させた。反応後の支持体は、5回の熱水洗浄の後、80℃で16時間乾燥した。膜厚は26μmであった。
[0071]
比較例1により得られたゼオライト膜が形成された支持体の、支持体表面部分における断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、図4の走査型電子顕微鏡(SEM)写真に示すように、多孔質のアルミナ支持体2の表面に、凹凸が多く膜厚が不均一なゼオライト膜13が形成されていることがわかる。このゼオライト膜を以下に示す「X線回折1」の条件でX線回折による分析を行ったところ、MFI型ゼオライト結晶であることが確認された。X線回折の測定結果を図5に示す。
[0072]
実施例1で得られたゼオライト配向膜及び比較例1で得られたゼオライト膜を使用して、水とエタノールとの混合液から、下記方法によるパーベーパレーションによりエタノールを分離(透過)する試験を行った。水とエタノールとの混合液中、エタノールの含有率は10体積%とした。
[0073]
(X線回折1)
X線回折(XRD)パターンは、第一のエックス線回折装置である(株)リガク製のMiniFlexを使用し、使用X線源:CuKα、管電流:30kV、管電圧:15mA、フィルター:Ni、スキャン速度:4°/minとして得た。図4において、縦軸は強度(a.u.)を示し、横軸は、2θ(°)を示す。」

(6c)「[0075]
・・・
単結晶粉末のMFI型ゼオライトをX線回折測定して得られた各ピーク強度の関係を示す。参考例のMFI型ゼオライト粉末は水熱合成によって得られたものである。
・・・
[0081]
実施例1で得られたゼオライト配向膜及び比較例1で得られたゼオライト膜について、以下に示す第二のエックス線回折装置を用いた「X線回折2」の条件で、エックス線回折(XRD)測定を行った。
[0082]
上記測定におけるX線回折パターンより得られる、特定のピーク強度についての関係を表4,5に示した。・・・
[0084][表5]



(6d)「 [0090]
(実施例2)
(種付け用ゾルの調製)
40質量%のテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド溶液(SACHEM社製)33.32gと、テトラプロピルアンモニウムブロミド(和光純薬工業株式会社製)17.45gとを混合し、さらに蒸留水76.17g、約30質量%シリカゾル(商品名:スノーテックスS、日産化学株式会社製)87.5gを加えて、室温で30分間マグネティックスターラーで撹拌して種付け用ゾルとした。
[0091]
(ゼオライト種結晶の生成)
得られた種付け用ゾル66を、図10に示すように、フッ素樹脂製内筒62がステンレス容器63の内部に配設されて形成されステンレス製300ml耐圧容器61内に入れ、あらかじめ外周をフッ素樹脂製テープで被覆した直径30mm、セル(チャネル)内径3mm、セル(チャネル)数37、長さ180mmのモノリス状の多孔質アルミナ支持体65(図9参照)を浸漬し、110℃の熱風乾燥器中で10時間反応させた。図10は、実施例2において、耐圧容器に支持体を固定して、種付け用ゾル66又は膜形成用ゾル66’を入れた状態を示す断面図である。アルミナ支持体65は、フッ素樹脂製の固定治具64により、耐圧容器61内に固定した。反応後の支持体は、5回の煮沸洗浄の後、80℃にて16時間乾燥した。反応後の支持体表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、多孔質アルミナ支持体の表面全体を約0.5μmのゼオライト結晶粒子(ゼオライト種結晶21)が隙間なく覆っていた。そして、結晶粒子のエックス線回折測定により、MFI型ゼオライトであることが確認された。
[0092]
(膜形成用ゾルの調製)
40質量%のテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド溶液(SACHEM社製)0.84gと、テトラプロピルアンモニウムブロミド(和光純薬工業株式会社製)0.44gとを混合し、さらに蒸留水202.1g及び約30質量%シリカゾル(商品名:スノーテックスS、日産化学株式会社製)6.58gを加えて、室温で30分間マグネティックスターラーで攪拌して、膜形成用ゾルとした。
[0093]
(ゼオライト配向膜(ゼオライト配向膜配設体)の形成)
得られた膜形成用ゾル66’を、上記「ゼオライト種結晶の生成」の場合と同様に、図10に示すような、フッ素樹脂製内筒が内部に配設されたステンレス製300ml耐圧容器内に入れ、上記ゼオライト種結晶が析出した多孔質アルミナ支持体を浸漬し、180℃の熱風乾燥器中で60時間反応させた(反応操作)。反応後の支持体は、5回の煮沸洗浄(洗浄操作)の後、80℃で16時間乾燥(乾燥操作)した。上記反応操作、洗浄操作及び乾燥操作の各操作を有する一連の操作を全部で2回繰り返した。この一連の操作を2回繰り返すことにより得られたものについて、支持体表面部における表面及び断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、図11(a)、図11(b)及び図12の走査型電子顕微鏡(SEM)写真に示すように、多孔質のアルミナ支持体65の内表面に厚さ約13μmの緻密層(ゼオライト配向膜71)が形成されていることが確認された。図11は、支持体の表面に形成されたゼオライト配向膜の表面を示すSEM写真であり、図11(a)は1500倍のSEM写真であり、図11(b)は150倍のSEM写真である。図12は、支持体にゼオライト膜が形成された状態を示す断面SEM写真である。この緻密層について、以下に示す「X線回折2」の条件で、エックス線回折(XRD)測定を行ったところ、MFI型ゼオライト型結晶であることが確認された。またc軸配向に由来するピークの強度が高かったことから、支持体表面に垂直な方向にc軸配向した膜が得られたことがわかった。エックス線回折測定の結果を図17(a)に示す。
図17(a)において、縦軸は強度(Counts)を示し、横軸は2θ(deg)を示す。図17の各グラフの各ピークに合わせて記載された数値は、各ピークに対応する結晶面を示す。得られた多孔質アルミナ支持体表面に形成されたMFI型ゼオライト膜を電気炉で500℃まで昇温し、4時間保持して、テトラプロピルアンモニウムを除去して、ゼオライト配向膜が支持体に配設されたゼオライト配向膜配設体を得た。
[0094]
(実施例3)
(種付け用ゾルの調製)
40質量%のテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド溶液(ライオンアクゾ社製)33.32gと、テトラプロピルアンモニウムブロミド(SACHEM社製)17.45gとを混合し、さらに蒸留水76.17g、約30質量%シリカゾル(商品名:スノーテックスS、日産化学株式会社製)87.5gを加えて、室温で30分間マグネティックスターラーで撹拌して種付け用ゾルとした。
[0095]
(ゼオライト種結晶の生成)
得られた種付け用ゾル66を、図10に示すように、フッ素樹脂製内筒62がステンレス容器63の内部に配設されて形成されステンレス製300ml耐圧容器61内に入れ、あらかじめ外周をフッ素樹脂製テープで被覆した直径30mm、セル(チャネル)内径3mm、セル(チャネル)数37、長さ180mmのモノリス状の多孔質アルミナ支持体65(図9参照)を浸漬し、110℃の熱風乾燥器中で10時間反応させた。アルミナ支持体65は、フッ素樹脂製の固定治具64により、耐圧容器61内に固定した。反応後の支持体は、5回の煮沸洗浄の後、80℃にて16時間乾燥した。反応後の支持体表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、多孔質アルミナ支持体の表面全体を約0.5μmのゼオライト結晶粒子(ゼオライト種結晶21)が隙間なく覆っていた。そして、結晶粒子のエックス線回折測定により、MFI型ゼオライトであることが確認された。
[0096]
(膜形成用ゾルの調製)
40質量%のテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド溶液(ライオンアクゾ社製)0.84gと、テトラプロピルアンモニウムブロミド(SACHEM社製)0.44gとを混合し、さらに蒸留水202.1g及び約30質量%シリカゾル(商品名:スノーテックスS、日産化学株式会社製)6.58gを加えて、室温で30分間マグネティックスターラーで攪拌して、膜形成用ゾルとした。
[0097]
(ゼオライト配向膜(ゼオライト配向膜配設体)の形成)
得られた膜形成用ゾルを、上記「ゼオライト種結晶の生成」の場合と同様に、図10に示すような、フッ素樹脂製内筒が内部に配設されたステンレス製300ml耐圧容器内に入れ、上記ゼオライト種結晶が析出した多孔質アルミナ支持体を浸漬し、180℃の熱風乾燥器中で60時間反応させた(反応操作)。反応後の支持体は、5回の煮沸洗浄(洗浄操作)の後、80℃で16時間乾燥(乾燥操作)した。上記反応操作、洗浄操作及び乾燥操作の各操作を有する一連の操作を全部で2回繰り返した。この一連の操作を2回繰り返すことにより得られたものについて、支持体表面部における表面及び断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、図13(a)、図13(b)及び図14の走査型電子顕微鏡(SEM)写真に示すように、多孔質のアルミナ支持体65の内表面に厚さ約13μmの緻密層(ゼオライト配向膜71)が形成されていることが確認された。図13は、支持体表面形成されたゼオライト膜の表面を示すSEM写真であり、図13(a)は1500倍のSEM写真であり、図13(b)は150倍のSEM写真である。図14は、支持体にゼオライト膜が形成された状態を示す断面SEM写真である。この緻密層について、以下に示す「X線回折2」の条件で、エックス線回折(XRD)測定を行ったところ、MFI型ゼオライト型結晶であることが確認された。またc軸配向に由来するピークの強度が高かったことから、支持体表面に垂直な方向にc軸配向した膜が得られたことがわかった。エックス線回折測定の結果を図17(b)に示す。図17(b)において、縦軸は強度(Counts)を示し、横軸は2θ(deg)を示す。得られた多孔質アルミナ支持体表面に形成されたMFI型ゼオライト膜を電気炉で500℃まで昇温し、4時間保持して、テトラプロピルアンモニウムを除去して、ゼオライト配向膜が支持体に配設されたゼオライト配向膜配設体を得た。
[0098]
(比較例2)
40%テトラプロピアンモニウムヒドロキシド溶液(SACHEM社製)17.76gとテトラプロピルアンモニウムブロミド(和光純薬工業(株)製)9.28gを混合し、さらに蒸留水を97.60g、約30wt%シリカゾル(スノーテックスS、日産化学(株)製)70gを加えて、室温で30分間マグネティックスターラーで撹拌して膜形成ゾルを調製した。このゾルを、図10に示すように、フッ素樹脂製内筒62がステンレス容器63の内部に配設されて形成されたステンレス製300ml耐圧容器中に入れ、あらかじめ外周をフッ素樹脂製テープで被覆した直径30mm、セル(チャネル)内径3mm、セル(チャネル)数37、長さ180mmのモノリス状の多孔質アルミナ支持体65(図9参照)を浸漬し、120℃の熱風乾燥器中で48時間反応させた。反応後の支持体は、5回の熱水洗浄の後、80℃で16時間乾燥した。膜厚は10μmであった。
[0099]
比較例1により得られたゼオライト膜が形成された支持体の、支持体表面部分における断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、図15,16の走査型電子顕微鏡(SEM)写真に示すように、多孔質のアルミナ支持体65の表面に、凹凸が多く膜厚が不均一なゼオライト膜72が形成されていることがわかる。このゼオライト膜を以下に示す「X線回折2」の条件でX線回折による分析を行ったところ、MFI型ゼオライト結晶であることが確認された。X線回折の測定結果を図17(c)に示す。図17(c)において、縦軸は強度(Counts)を示し、横軸は2θ(deg)を示す。
[0100]
実施例2,3で得られたゼオライト配向膜及び比較例2で得られたゼオライト膜を使用して、水とエタノールとの混合液から、パーベーパレーションによりエタノールを分離(透過)する試験を行った。水とエタノールとの混合液中、エタノールの含有率は10体積%とした。パーベーパレーション試験の方法は、上記実施例1のゼオライト配向膜配設体について行った「パーベーパレーション試験」と同様の方法とした。
[0101]
(X線回折2)
第二のエックス線回折装置である、「(株)リガク製のRINT-TTR III」を用いて測定する。測定条件は、使用X線源:CuKα、管電流:50kV、管電圧:300mA、走査軸:2θ/θ、走査モード:連続、サンプリング幅:0.02°、スキャン速度:1°/min、発散スリット:1.0mm、発散縦スリット:10mm、散乱スリット:開放、受光スリット:開放、長尺ソーラスリット開口角度:0.114°である。
・・・
[0105][表10]



(2)甲第1号証に記載された発明
上記摘記事項(1a)には、甲第1号証が、流体を分離するゼオライト分離膜配設体に関するものであることが記載され、上記摘記事項(1b)には、本発明のゼオライト分離膜配設体は、異なる2成分以上の混合流体の分離に使用することができ、ゼオライト結晶固有の細孔(MFI膜では、0.5?0.6nm)よりも大きい(0.76?約2nm)隙間または細孔を有していること、本発明のゼオライト分離膜配設体は、1,3,5-トリメチルベンゼン/N_(2)の透過速度比が0.17以上である。好ましくは、0.20以上である。1,3,5-トリメチルベンゼン/N_(2)の透過速度比が上記範囲である場合、ゼオライト結晶固有の細孔よりも大きい隙間または細孔が多く存在することを意味すること、N_(2)ガスの透過速度(A)は、全細孔量を意味し、1,3,5-トリメチルベンゼン透過速度(B)は、ゼオライト結晶固有の細孔よりも大きい隙間または細孔の量を意味するため、1,3,5-トリメチルベンゼン/N_(2)の透過速度比(B/A)は、全細孔量に対する大きい隙間または細孔の量の割合を意味し、高い透過性と高い分離性の両立には、このB/Aが高いことが重要であることが記載されている。
そして、上記摘記事項(1e)?(1h)には、多孔質アルミナ質支持体上にゼオライト膜を形成したゼオライト分離膜配設体から構造規定剤を除去して製造した実施例1?3のものを用い、単成分ガス(N_(2))透過試験、1,3,5-トリメチルベンゼンの単成分浸透気化気化(PV)試験によって決定された透過速度比の結果が、表1に0.17,0.20,0.18であったことが示され、上記B/Aの定義から全細孔量に対するゼオライト結晶固有の細孔よりも大きい隙間または細孔の量の割合が、17%(実施例1),20%(実施例2),18%(実施例3)であることが示されているといえる。
そして、n-ヘキサン/2,2-ジメチルブタンの浸透気化(PV)試験によって、n-ヘキサンを選択透過分離したことが[0119]?[0122]に示されている。
したがって、甲第1号証には、「用いたゼオライトの結晶構造に由来する細孔より大きい隙間又は細孔の割合が1,3,5-トリメチルベンゼンとN_(2)の透過速度比から求めたものとして、17%,20%,18%であり、多孔質アルミナ質支持体上にゼオライト膜を形成したゼオライト分離膜配設体から構造規定剤を除去したものを用いた、n-ヘキサン/2,2-ジメチルブタンの浸透気化(PV)試験によるn-ヘキサンの選択透過分離方法」(以下、「引用発明」という。)が開示されているといえる。

(3)対比・判断
(3-1)本件特許発明1について
ア 対比
引用発明との対比
本件特許発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「多孔質アルミナ質支持体」は、本件特許発明1の「多孔質支持体」に相当し、引用発明の「ゼオライト膜を形成したゼオライト分離膜配設体から構造規定剤を除去したもの」は、本件特許発明1の「ゼオライトを成膜したゼオライト膜複合体」に該当する。
また、引用発明の「n-ヘキサン/2,2-ジメチルブタンの浸透気化(PV)試験によるn-ヘキサンの選択透過分離」は、n-ヘキサンと2,2-ジメチルブタン混合流体から浸透気化(PV)試験を行ってn-ヘキサンを分離しているのであるから、本件特許発明1の「2種以上の化合物の混合流体からノルマルパラフィンまたはパラキシレンを選択的に分離する」ことのノルマルパラフィンの選択的分離の場合に該当する。

したがって、本件特許発明1と引用発明とは、「多孔質支持体上にゼオライトを成膜したゼオライト膜複合体により、2種以上の化合物の混合流体からノルマルパラフィンを選択的に分離する分離方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件特許発明1は、ゼオライトは、「結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が5%以下であり」と特定されているのに対して、引用発明は、用いたゼオライトの結晶構造に由来する細孔より大きい隙間又は細孔の割合が1,3,5-トリメチルベンゼンとN_(2)の透過速度比から求めたものとして、17%,20%,18%である点

相違点2:本件特許発明1は、「ゼオライト膜複合体は、ノルマルパラフィンの分圧が34kPaで300℃におけるノルマルパラフィンの透過度が5×10^(-8)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、かつノルマルパラフィン/イソパラフィンの分離係数が100以上またはパラキシレンの分圧が25kPaで300℃におけるパラキシレンの透過度が1×10^(-9)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、かつパラキシレン/メタキシレンの分離係数が20以上であること」との特定があるのに対して、引用発明においては、そのような形の透過度と分離係数の特定がなされていない点

相違点の判断
以下、相違点について検討する。
(ア)相違点1の判断について
本件特許発明1と引用発明の結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が異なっており実質的な相違点であるといえる。

また、引用発明では、用いたゼオライトの結晶構造に由来する細孔より大きい隙間又は細孔の割合が1,3,5-トリメチルベンゼンとN_(2)の透過速度比から求めたものとして、それぞれ、17%,20%,18%であることが示されているといえるが、本件特許発明1においては、結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が5%以下であることが特定されている。
引用発明においては、甲第1号証の「[0032]
(I-1)細孔:
本発明のゼオライト分離膜配設体は、異なる2成分以上の混合流体の分離に使用することができる。ゼオライト結晶固有の細孔(MFI膜では、0.5?0.6nm)よりも大きい(0.76?約2nm)隙間または細孔を有している。具体的には、ゼオライト分離膜配設体は、室温でのN_(2)ガスの透過速度が1.0×10^(-6)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上である。好ましくは、2.0×10^(-6)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上である。細孔の量は多い方が好ましく、N_(2)ガスの透過速度が上記範囲であるのは、細孔の大きさに関わらず細孔の量が一定量よりも多いことを意味する。
[0033]
また、本発明のゼオライト分離膜配設体は、1,3,5-トリメチルベンゼン/N_(2)の透過速度比が0.17以上である。好ましくは、0.20以上である。1,3,5-トリメチルベンゼン/N_(2)の透過速度比が上記範囲である場合、ゼオライト結晶固有の細孔よりも大きい隙間または細孔が多く存在することを意味する。このため、1,3,5-トリメチルベンゼン(分子径0.76nm)よりも分子径の小さい分子を通すことが可能である。
[0034]
N_(2)ガスの透過速度(A)は、全細孔量を意味し、1,3,5-トリメチルベンゼン透過速度(B)は、ゼオライト結晶固有の細孔よりも大きい隙間または細孔の量を意味する。このため、1,3,5-トリメチルベンゼン/N_(2)の透過速度比(B/A)は、全細孔量に対する大きい隙間または細孔の量の割合を意味する。高い透過性と高い分離性の両立には、このB/Aが高いことが重要である。」との記載から明らかであるように、全細孔量に対する大きい隙間または細孔の量の割合を、高い透過性と高い分離性の両立のために大きくすることが重要であると述べているのであるから、引用発明の17%,20%,18%の割合のものを5%以下に減少させる動機付けはないといえる。
したがって、引用発明において結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合を、5%以下に減少させることは、当業者といえども、容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

(イ)相違点2の判断について
甲第1号証には、表5において、35℃におけるn-ヘキサンと2,2-ジメチルブタンの透過流速の値が示され、[0120]には、((透過液中のn-ヘキサン濃度)/(透過液中の2,2-ジメチルブタン濃度))/((供給液中のn-ヘキサン濃度)/(供給液中の2,2-ジメチルブタン濃度))との定義によって計算された分離係数αの値が示されているものの、本件特許発明1の「ゼオライト膜複合体は、ノルマルパラフィンの分圧が34kPaで300℃におけるノルマルパラフィンの透過度が5×10^(-8)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、かつノルマルパラフィン/イソパラフィンの分離係数が100以上である」のかは、測定条件の相違、測定手法の相違、「透過度」と「透過流速」の相違により換算値を求めることはできず、技術常識から甲第1号証のゼオライト分離膜配設体が、本件特許発明1のゼオライト膜複合体のノルマルパラフィンの透過度やノルマルパラフィン/イソパラフィンの分離係数の特性を有しているともいえない。
従って、相違点2も実質的な相違点である。

また、大きな孔を設けることで、通過する物質の量を増加させて透過度を高めることと、適切な大きさの孔を設けることで、特定物質の分子ふるいの機能を高めることで分離係数を高めることとは、一般に両立が困難な特性であるといえる。
そして、甲第4号証のH-ZSM-5膜を介したn-ヘキサンと2,2-ジメチルブタンの浸透気化法における透過度とn-ヘキサンと2,2-ジメチルブタンとの50/50混合物の供給温度依存性や気体透過法との比較の図を検討しても、明確なデータの換算手法はなく、実験条件によって測定値が異なることが理解できるだけである。
また、甲第5号証のn-ヘキサンの透過度に対するn-ヘキサン/2,2-ジメチルブタンの分離係数に関するプロット図において、本件特許発明1の条件を満たすものを作製したケースのプロットがあるからといって、満たさないプロットも多数存在しており、引用発明において、そのような範囲を特定し、実際に透過度と分離係数を両立させたものを作製することが当業者が容易になし得ることにはならない。
さらに、甲第6号証のn-ペンタンからn-ノナンの沸点、363K、408Kの透過度の値の結果を検討しても、ノルマルパラフィンの種類や測定温度条件によって透過度の値が変動することは理解できても、引用発明において、ゼオライト膜複合体がノルマルパラフィンの分圧が34kPaで300℃におけるノルマルパラフィンの透過度が5×10^(-8)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上でノルマルパラフィン/イソパラフィンの分離係数が100以上である特性を両立して達成することが容易であることは記載も示唆もされていないといえる。

(ウ)効果について
本件特許発明1は、【0014】【0015】【0016】【0021】【0030】の記載からみて、分離係数が十分満足できるものではないために、工業的に要求される純度のものを得ることが困難であるか、または透過度が満足しうるものではなかったノルマルパラフィンとイソパラフィン混合流体からのノルマルパラフィンの分離や、ミックスキシレンからのパラキシレンの分離技術に関して、ゼオライトの結晶構造に由来する細孔より大きな径の細孔の割合が5%以下であるゼオライトを製膜したゼオライト膜複合体を用いて分離することで、ノルマルパラフィン/イソパラフィンの混合流体からのノルマルパラフィンの分離、またはミックスキシレンからのパラキシレンの分離を高い選択性および透過度で行いうるという効果を奏しているといえる。
甲第1号証に記載の発明においては、高い透過性と高い分離性の両立には、1,3,5-トリメチルベンゼン透過速度(B)/N_(2)ガスの透過速度(A)が高いこと、つまり、ゼオライト結晶固有の細孔よりも大きい隙間または細孔の量を多くすることが重要であるとの認識であるのだから、その割合を一定以下とする本件特許発明1の上記効果は当業者の予測を超える顕著なものといえる。

ウ 小括
本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第4?6号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものともいえない。

(3-2)本件特許発明4,5について
本件特許発明4,5は、本件特許発明1において、前記1(2)のとおり、さらに技術的に限定した発明であり、前記本件特許発明1で検討したのと同様に、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第4?6号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものともいえない。

(3-3)本件特許発明3,6,7について
甲第7号証には、「(温水処理)
本発明の方法においては、上記ゼオライト膜複合体を、温度40℃以上300℃以下の水に1時間以上浸漬する。なお、本明細書において、このゼオライト膜複合体の水への浸漬を「温水処理」と略称することがある。
【0080】
上記温水処理により、加熱処理(乾燥、焼成など)によってゼオライトの表面に生成したSi-O-Si結合を親水性の高いSi-OHとすることができ、それにより水の透過性能が向上すると考えられる。また、微細な欠陥が、欠陥中に存在するアモルファスシリカなどを原料に修復されるため膜の性能が向上すると考えられる。
・・・
【0085】
水には、Si、Al、B、P等から選ばれる少なくとも1種の元素を含んでいてもよく、これらの中で、Si、Alが好ましく、Siが特に好ましい。
特に水中にSi元素を含有する場合、膜に存在する欠陥が、水中に含まれるSi元素によって、一部修復されることがあるので好ましい。
・・・
Si元素源としては例えば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシラン、無定形シリカ、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム、シリケートオリゴマー、シリカゾルなどを用いることができ、反応性の面でアルコキシシランが好ましい。」と記載され、Si元素源を含んだ温水処理によるゼオライトの表面への処理に関する技術が、
甲第8号証には、ゼオライト配向膜(ゼオライト配向膜配設体)として、ゼオライト膜のX線回折スペクトルにおいて、測定の結果、結晶面/結晶面((101)/(020))ピーク強度比が1.10以上に該当するものが存在することは示されている。
しかしながら、そのようなSi元素源を含んだ温水処理によるゼオライトの表面への処理や、ゼオライト膜のX線回折スペクトルにおいて(101)/(020)面ピーク強度比が1.10以上に該当するものが存在するからといって、本件特許発明3,6,7は、本件特許発明1において、前記1(2)のとおり、さらに技術的に限定した発明である以上、前記本件特許発明1で検討したのと同様に、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第4?8号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものともいえない。

(3-4)本件特許発明9,11について
本件特許発明9,11は、それぞれ本件特許発明1,7記載のノルマルパラフィンまたはパラキシレンの分離方法の発明をゼオライト膜複合体の発明として記載しただけの発明であるから、前記本件特許発明1,7で検討したのと同様に、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第4?8号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものともいえない。

(4)特許異議申立人の主張についての検討
ア 特許異議申立人は、甲第2号証の審査段階の特許権者の提出した意見書や甲第3号証の特許メモの記載に基づいて、甲第1号証のn-ヘキサンの透過流速を換算して本件特許発明と対比しているが、そのような換算の内容は不明であり、条件によっても変動することが明らかであるのだから、上記主張を採用することはできない。

イ 特許異議申立人は、甲第4号証の図6から浸透気化法の測定値は蒸気浸透法の測定値と3?4倍異なるとの前提のもとに本件特許発明の透過率の範囲との対比を行ったり、透過流速と透過度の関係についての技術常識を前提に、甲第1号証の実施例2の透過率が本件特許発明の範囲の透過率となる旨主張しているが、それらはいずれも、ある条件における測定グラフに基づいた前提により推測したに過ぎず、引用発明と本件特許発明の相違点がないことの説明になるとはいえない。

(5)以上のとおり、特許異議申立人の特許法第29条第1項第3号(新規性)及び特許法第29条第2項(進歩性)上記主張は採用できない。

2 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について

(1)特許異議申立人は、特許異議申立書54頁(4-6-1)において、請求項6の「前記オルトケイ酸エステル」との記載について、引用先である請求項3?5のうち、請求項4及び請求項5及びそれらのさらに引用先である請求項1及び2に「オルトケイ酸エステル」との文言がないので不明確であることを理由として挙げている。
しかしながら、請求項4,5を引用する請求項6は、請求項4,5が「オルトケイ酸エステル」との記載がある請求項3を引用する場合、つまり、「オルトケイ酸エステル」が特定事項として存在する場合であることを合理的に理解できるといえるので、上記請求項6の「前記オルトケイ酸エステル」との記載及び引用記載が不明確とまではいえない。

(2)特許異議申立人は、特許異議申立書55?59頁(4-6-2)において、図1中の何れのプロットが、「結晶構造に由来する細孔」に該当するプロットなのか、また、該当しないプロットなのかが、結晶構造に由来する細孔に該当するピークとなるプロットとそれに隣接するプロットの取り扱いが明らかでなく、「結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合」の求め方が不明確となり、本件特許発明が不明確であることを理由として挙げている。
しかしながら、本願明細書は、【0054】に「【0054】
・・・
(細孔分布の測定)
ゼオライト膜複合体の細孔分布の測定を、以下の条件で行った。
・装置名: 分離膜欠陥構造解析装置 Porometer nano
・測定方式: ケルビンの毛管凝縮式を利用
・測定範囲:0.3?2.0nm
・凝縮性ガス:ノルマルヘキサン
・非凝縮性ガス:ヘリウム
ゼオライト膜複合体に凝縮性ガスと非凝縮性ガスの混合ガスを供給し、非凝縮性ガスの透過量を測定した。凝縮性ガス濃度を徐々に上げていくことで、凝縮性ガスの毛管凝縮による細孔の閉塞が進行し、この際の非凝縮性ガスの透過量の変化から、細孔分布を算出した。測定温度は60℃、凝縮性ガス濃度は0-20%の範囲で測定を行った。この時、凝縮性ガス濃度0%での非凝縮性ガス透過量に対する凝縮性ガス濃度1%での非凝縮性ガス透過量の割合をゼオライト細孔より大きな細孔の割合とした。」とのゼオライト膜複合体の細孔分布の測定方法の記載があり、「凝縮性ガス濃度0%での非凝縮性ガス透過量に対する凝縮性ガス濃度1%での非凝縮性ガス透過量の割合をゼオライト細孔より大きな細孔の割合とした」との定義に基づいて「ゼオライト細孔より大きな細孔の割合」を決定したものである。
したがって、図1のプロットの値から積算して求めたものとはいえないので、図1の細孔径分布を示す図に基づき「結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合」の求め方が不明確であることを前提とした異議申立人の主張するような明確性要件に関する理由はない。

したがって、特許異議申立人の特許法第36条第6項第2号に関する主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本件請求項1,3?7,9,11に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、取り消されるべきものとはいえない。
また、他に本件請求項1,3?7,9,11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、訂正により請求項2,8,10,12は削除されたため、本件請求項2,8,10,12に係る特許に関する申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体上にゼオライトを成膜したゼオライト膜複合体により、2種以上の化合物の混合流体からノルマルパラフィンまたはパラキシレンを選択的に分離する分離方法であって、前記ゼオライトは、結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が5%以下であり、
前記ゼオライト膜複合体は、ノルマルパラフィンの分圧が34kPaで300℃におけるノルマルパラフィンの透過度が5×10^(-8)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、かつノルマルパラフィン/イソパラフィンの分離係数が100以上、またはパラキシレンの分圧が25kPaで300℃におけるパラキシレンの透過度が1×10^(-9)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、かつパラキシレン/メタキシレンの分離係数が20以上であることを特徴とするノルマルパラフィンまたはパラキシレンの分離方法。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記ゼオライト膜複合体は、多孔質支持体上にゼオライトを成膜した後、オルトケイ酸エステル含有溶液に浸漬させたものであることを特徴とする請求項1に記載のノルマルパラフィンまたはパラキシレンの分離方法。
【請求項4】
前記ゼオライトは、MFI型ゼオライトであることを特徴とする請求項1または3に記載のノルマルパラフィンまたはパラキシレンの分離方法。
【請求項5】
前記ゼオライトは、silicalite-1であることを特徴とする請求項1、3、4のいずれか一つに記載のノルマルパラフィンまたはパラキシレンの分離方法。
【請求項6】
前記オルトケイ酸エステルは、オルトケイ酸テトラエチルであることを特徴とする請求項3?5のいずれか一つに記載のノルマルパラフィンまたはパラキシレンの分離方法。
【請求項7】
前記ゼオライト膜のX線回折スペクトルにおいて、結晶面/結晶面((101)/(020))ピーク強度比は1.10以上であることを特徴とする請求項1、3?6のいずれか一つに記載のノルマルパラフィンまたはパラキシレンの分離方法。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
2種以上の化合物の混合流体からノルマルパラフィンまたはパラキシレンを選択的に分離する、多孔質支持体上にゼオライトを成膜したゼオライト膜複合体であって、前記ゼオライトは、結晶構造に由来する細孔より大きな細孔の割合が5%以下であり、
ノルマルパラフィンの分圧が34kPaで300℃におけるノルマルパラフィンの透過度が5×10^(-8)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、かつノルマルパラフィン/イソパラフィンの分離係数が100以上、またはパラキシレンの分圧が25kPaで300℃におけるパラキシレンの透過度が1×10^(-9)mol・m^(-2)・s^(-1)・Pa^(-1)以上、かつパラキシレン/メタキシレンの分離係数が20以上であることを特徴とするゼオライト膜複合体。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
前記ゼオライト膜中の結晶面/結晶面((101)/(020))ピーク強度比は、1.10以上であることを特徴とする請求項9に記載のゼオライト膜複合体。
【請求項12】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-12-18 
出願番号 特願2014-158012(P2014-158012)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C07C)
P 1 651・ 536- YAA (C07C)
P 1 651・ 851- YAA (C07C)
P 1 651・ 113- YAA (C07C)
P 1 651・ 121- YAA (C07C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 桜田 政美  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 瀬良 聡機
冨永 保
登録日 2017-09-22 
登録番号 特許第6211481号(P6211481)
権利者 JXTGエネルギー株式会社 学校法人早稲田大学
発明の名称 ノルマルパラフィンまたはパラキシレンの分離方法およびゼオライト膜複合体  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
代理人 酒井 宏明  
代理人 酒井 宏明  
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