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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B05D
審判 全部申し立て 発明同一  B05D
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  B05D
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  B05D
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  B05D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B05D
管理番号 1349688
異議申立番号 異議2018-700705  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-30 
確定日 2019-01-31 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6284291号発明「建築外装材の補修方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6284291号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第6284291号の請求項1に係る特許についての本件特許異議の申立てを却下する。 特許第6284291号の請求項2?3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許(特許第6284291号)に係る出願は、大日本塗料株式会社によりなされた平成24年3月30日を出願日とする特許出願に係るものであって、平成30年2月9日に特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、同年2月28日に特許掲載公報が発行された。
その後、特許異議申立人笠原佳代子(以下、「申立人」という。)により、平成30年8月30日に、請求項1?3に係る本件特許について、特許法第29条の2、同法第29条第2項、同法第36条第6項第1号、及び、同法第36条第6項第2号に基づく取消理由を主張する特許異議の申立てがされた。
その後、平成30年11月2日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年12月28日に意見書及び訂正請求書の提出があった。
なお、上記訂正請求書による訂正の請求は、後記の第2のとおり、特許請求の範囲についての、一部の請求項の削除の訂正、それに伴い、削除された請求項の記載を引用する請求項の記載を当該削除された請求項の記載を引用しないものとする訂正又は請求項の削除に伴い不明瞭となる請求項の記載を是正することを目的とするものであって、迅速かつ効率的な審理の観点からみて実質的な判断に影響を与えるものではないから、上記訂正の請求には特許法120条の5第5項ただし書所定の特別の事情があると認め、上記訂正の請求に関し、申立人に対し、同項所定の意見書を提出する機会を与えていない。


第2 訂正の適否についての判断

1.請求の趣旨
平成30年12月28日に特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、「特許第6284291号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?3について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。

2.訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所を分かりやすく対比するために、当審において下線を付与した。

(1)訂正事項1
請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項2に
「前記下塗塗膜及び前記上塗塗膜が、クリアー塗膜であることを特徴とする請求項1に記載の建築外装材の補修方法。」
と記載されているのを、
「建築外装材を補修する方法であって、該建築外装材の表面上の旧塗膜を剥離又は除去することなく、該旧塗膜上の汚染物質を除去した後、該旧塗膜上にシーラーとして、水分散液(A)と密着付与剤(C)を含有する水性下塗塗料を塗布し、下塗塗膜を形成する工程と、該下塗り塗膜上に水分散液(B)を含有する水性上塗塗料を塗布し、上塗塗膜を形成する工程と、を含み、前記建築外装材が、意匠性を有するサイディングボードであり、前記水分散液(A)及び前記水分散液(B)が、アクリルシリコン樹脂エマルションを含み、前記密着付与剤(C)が、エポキシ基含有シランカップリング剤を含み、前記下塗塗膜及び前記上塗塗膜が、クリアー塗膜であることを特徴とする建築外装材の補修方法。」
に訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2に記載の」と記載されているのを、「請求項2に記載の」に訂正する。

(4)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?3は、訂正請求の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?3は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。そして、本件訂正請求は、一群の請求項〔1-3〕に対して請求されたものである。

3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1による訂正について
訂正事項1による訂正は、請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するし、また、この訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2による訂正について
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項2が請求項1を引用する記載であったのを、引用関係を解消して独立形式に改めるものであるから、この訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものである。
また、この訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3による訂正について
訂正事項3による訂正は、上記の訂正事項1による請求項1の削除に合わせて、訂正前の請求項3に「請求項1から3のいずれか」と記載されていたのを、「請求項1」とする訂正であるから、訂正事項3による訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、この訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?3]について訂正することを認める。


第3 本件発明
前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?3に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、請求項2に係る発明を「本件発明2」、請求項3に係る発明を「本件発明3」という。)。

「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
建築外装材を補修する方法であって、
該建築外装材の表面上の旧塗膜を剥離又は除去することなく、該旧塗膜上の汚染物質を除去した後、該旧塗膜上にシーラーとして、水分散液(A)と密着付与剤(C)を含有する水性下塗塗料を塗布し、下塗塗膜を形成する工程と、
該下塗り塗膜上に水分散液(B)を含有する水性上塗塗料を塗布し、上塗塗膜を形成する工程と、
を含み、
前記建築外装材が、意匠性を有するサイディングボードであり、
前記水分散液(A)及び前記水分散液(B)が、アクリルシリコン樹脂エマルションを含み、
前記密着付与剤(C)が、エポキシ基含有シランカップリング剤を含み、
前記下塗塗膜及び前記上塗塗膜が、クリアー塗膜であることを特徴とする建築外装材の補修方法。
【請求項3】
前記建築外装材表面の旧塗膜が、光触媒機能を有しない塗膜であることを特徴とする請求項2に記載の建築外装材の補修方法。」


第4 特許異議の申立て及び取消理由通知の概要
1.特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
本件訂正前の請求項1?3に係る発明に対して、申立人が申立てていた特許異議の申立ての理由は、概略、本件特許の請求項1?3に係る発明についての特許は、次の(1)?(4)のとおりの取消理由により、取り消されるべきものであるというものであって、申立人は、特許異議申立書(以下、単に「申立書」ともいう。)に添付して、証拠方法として下記(5)の甲第1号証?甲第5号証を提出した。

(1)取消理由A(先願明細書に記載された発明)
本件特許の請求項1、3に係る発明は、本件特許の出願日の前の特許出願であって、本件特許の出願後に公開された下記の甲第1号証に係る出願の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一であり、その出願人又は発明者が同一ではないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであって、上記の発明についての特許は、同法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)取消理由B(進歩性)
本件特許の請求項1?3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物(甲第3号証?甲第5号証)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1?3に係る本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(主引例:下記の甲第3号証、副引例:周知技術としての下記の甲第4、5号証)

(3)取消理由C(サポート要件)
請求項1、3に係る本件特許は、特許請求の範囲の記載に不備があるために特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)取消理由D(明確性)
請求項1?3に係る本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法113条4号に該当し取り消されるべきものである。

(5)証拠方法
甲第1号証:特願2011-125915号の出願の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲
(出願日は、平成23年6月6日、特開2012-251094号公報参照。)
甲第2号証:小林塗装のホームページ
(http://yuzupen.com/price/wall/;検索日2018年8月30日)
甲第3号証:特開2003-1749号公報
甲第4号証:特開2008-136997号公報
甲第5号証:特開2005-230611号公報

(以下、以下、甲第1号証に係る出願の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲を、「先願明細書」といい、甲第2号証?甲第5号証を、それぞれ、「甲2」?「甲5」ともいう。)

2.取消理由通知書に記載した取消理由
当審合議体が平成30年11月2日付け取消理由通知書で通知した取消理由は、1.で記載した申立人が主張する申立て理由のうち、取消理由A(先願明細書に記載された発明)、取消理由B(進歩性;但し、請求項1、3に係る発明に対してのみで、請求項2に係る発明は対象外)、及び、取消理由C(サポート要件)と同旨である。


第5 当審合議体の判断
以下に述べるように、訂正後の請求項2?3に係る特許は、本件特許特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由及び取消理由通知書に記載した取消理由によっては取り消すことはできない。

1.取消理由A(先願明細書に記載された発明)について

(1)先願明細書の記載及び先願明細書に記載の発明
先願明細書の特許請求の範囲には、以下の記載がある。
「【請求項1】
アニオン性またはカチオン性樹脂エマルション(A)、
グリシジル基含有シランカップリング剤(B)、および
アミノ基含有シランカップリング剤(C)、
を含む、補修用水性下塗り塗料組成物であって、
該グリシジル基含有シランカップリング剤(B)の含有量は、アニオン性またはカチオン性樹脂エマルション(A)の樹脂固形分100質量部に対して20?65質量部であり、
該アミノ基含有シランカップリング剤(C)の含有量は、アニオン性またはカチオン性樹脂エマルション(A)の樹脂固形分100質量部に対して2?15質量部であり、かつ
該グリシジル基含有シランカップリング剤(B)およびアミノ基含有シランカップリング剤(C)の含有量の総量が、アニオン性またはカチオン性樹脂エマルション(A)の樹脂固形分100質量部に対して22?70質量部である、
補修用水性下塗り塗料組成物。
・・・
【請求項3】
前記アニオン性またはカチオン性樹脂エマルション(A)が、アクリル樹脂エマルションまたはシリコーン含有アクリル樹脂エマルションの少なくとも一方を含んでいる、請求項1または2記載の補修用水性下塗り塗料組成物。
・・・
【請求項5】
塗膜を有する被塗物に、請求項1?4いずれかに記載の補修用水性下塗り塗料組成物を塗装し、次いで上塗り塗料組成物を塗装する工程を包含する、被塗物の補修方法。」

また、上記請求項1を引用する請求項3を引用する請求項5に係る発明の具体的態様として、先願明細書の実施例1には、以下の記載がある。(なお、下線は合議体が付した。以下、この取消理由通知書中で同様である。)

「【0074】
実施例1
補修用水性下塗り塗料組成物(1)の調製
カチオン性樹脂エマルションとしてポリゾールAP-1350(昭和高分子社製アクリル樹脂エマルション、アミン価18mgKOH/g、水酸基価0mgKOH/g、粒子径65nm)100部(固形分質量換算)、造膜助剤としてテキサノール(イーストマン社製)10部および脱イオン水90部を撹拌・混合して第1液にし、KBM-403(信越シリコーン社製グリシジル基含有シランカップリング剤)45部、KBM-602(信越シリコーン社製アミノ基含有シランカップリング剤)5部(何れも固形分質量換算)を撹拌・混合して第2液を調製した。その後、上記第1液と第2液とを撹拌・混合し、さらにフォードカップ#4で13秒となるようにアデカノールUH-420(アデカ社製粘性調整剤)を加えて混合して、補修用水性下塗り塗料組成物(1)を調製した。
【0075】
得られた水性下塗り塗料組成物(1)を、無機塗料組成物および光触媒コーティング材を塗布して得られた複層塗膜を最表面に有するエクセレージ光セラ15(ケイミュー社製無機材料基材)に、乾燥膜厚20μmとなるように刷毛で塗装し、室温で24時間乾燥させ、塗膜を形成した。その上に、水性シリコンセラUV(日本ペイント社製建築用上塗り塗料)を、乾燥膜厚40μmとなるように刷毛で塗布し、23℃で7日間乾燥させ、補修塗膜を形成した。
また、被塗物を、フッ素系塗料および親水コーティング材を塗布して得られた複層塗膜を最表面に有するモエンエクセラード18(ニチハ社製無機材料基材)に対しても、上記と同様にして補修塗膜を形成した。
【0076】
実施例2?27および比較例1?9
補修用水性下塗り塗料組成物(2)?(36)の調製
・・・
補修用水性下塗り塗料組成物(27)は、ポリゾールAP-1350の代わりにアニオン性樹脂エマルション2としてボンコート520S-EF(DIC社製シリコーン含有アクリル樹脂エマルション、固形分酸価13mgKOH/g、水酸基価0mgKOH/g、平均粒子径150nm)を用い、かつグリシジル基含有シランカップリング剤(B)の量を下記表に示す量に変更し、アミノ基含有シランカップリング剤(C)の種類、量を下記表に示すものに変更して、実施例1と同様にして調製した。
・・・
【0077】
得られた補修用水性下塗り塗料組成物(2)?(36)を用いて、実施例1と同様の手順で塗装した。
・・・
【0083】




そして、上記表2の実施例27の欄の記載及び実施例27についての上記【0076】、【0077】の記載によれば、先願明細書には、実施例27として、補修用水性下塗り塗料組成物が、アニオン性樹脂エマルション2であるボンコート520S-EF(DIC社製シリコーン含有アクリル樹脂エマルション)100部(固形分質量換算、以下同様。)に対し、KBM-403(信越シリコーン社製グリシジル基含有シランカップリング剤)63部、KBM-602(信越シリコーン社製アミノ基含有シランカップリング剤)4.5部を含む、該グリシジル基含有シランカップリング剤とアミノ基含有シランカップリング剤の含有量の総量が、上記アニオン性樹脂エマルションの樹脂固形分100質量部に対して67.5質量部である補修用水性下塗り塗料組成物(27)を用いて、「フッ素系塗料および親水コーティング材を塗布して得られた複層塗膜を最表面に有するモエンエクセラード18(ニチハ社製無機材料基材)」を補修する方法が示されているといえる。

さらに、先願明細書の【0065】には、「補修とは、例えば、塗膜が経年劣化したり、何らかの理由で塗膜欠陥が生じた場合に、その塗膜全体またはその一部に対して塗り重ねすることを意味する。」と記載されているから、実施例27の補修方法においては、補修用水性下塗り塗料組成物は、フッ素系塗料および親水コーティング材を塗布して得られた複層塗膜を最表面に有するモエンエクセラード18(ニチハ社製無機材料基材)に、直接塗り重ねられているものと認められる。

以上によれば、先願明細書(実施例27)には、特許請求の範囲に記載の発明の具体的態様に相当するものとして、以下の発明が記載されていると認められる。

「塗膜を有する被塗物である、フッ素系塗料および親水コーティング材を塗布して得られた複層塗膜を最表面に有するモエンエクセラード18(ニチハ社製無機材料基材)に、補修用水性下塗り塗料組成物を直接塗り重ねて塗装し、次いで上塗り塗料組成物を塗装する工程を包含する、被塗物の補修方法であって、
上記補修用水性下塗り塗料組成物は、
アニオン性樹脂エマルション2であるボンコート520S-EF(DIC社製シリコーン含有アクリル樹脂エマルション)100部(固形分質量換算)、
KBM-403(信越シリコーン社製グリシジル基含有シランカップリング剤)63部(固形分質量換算)、
KBM-602(信越シリコーン社製アミノ基含有シランカップリング剤)4.5部(固形分質量換算)を含む、グリシジル基含有シランカップリング剤とアミノ基含有シランカップリング剤の含有量の総量が、上記アニオン性樹脂エマルションの樹脂固形分100質量部に対して67.5質量部である補修用水性下塗り塗料組成物であり、
上記上塗り塗料組成物は、水性シリコンセラUV(日本ペイント社製建築用上塗り塗料)である、
被塗物の補修方法。」
(以下、「先願発明」という。)

(2)本件発明3について
本件発明3は、請求項2を引用する形式で記載されているが、対比を容易とするために、これを請求項2を記載しない形で書き直すと以下のとおりとなる。

「建築外装材を補修する方法であって、
該建築外装材の表面上の旧塗膜を剥離又は除去することなく、該旧塗膜上の汚染物質を除去した後、該旧塗膜上にシーラーとして、水分散液(A)と密着付与剤(C)を含有する水性下塗塗料を塗布し、下塗塗膜を形成する工程と、
該下塗り塗膜上に水分散液(B)を含有する水性上塗塗料を塗布し、上塗塗膜を形成する工程と、
を含み、
前記建築外装材が、意匠性を有するサイディングボードであり、
前記水分散液(A)及び前記水分散液(B)が、アクリルシリコン樹脂エマルションを含み、
前記密着付与剤(C)が、エポキシ基含有シランカップリング剤を含み、
前記下塗塗膜及び前記上塗塗膜が、クリアー塗膜であり、
前記建築外装材表面の旧塗膜が、光触媒機能を有しない塗膜であることを特徴とする建築外装材の補修方法。」

本件発明3と先願発明を対比する。

ア 先願発明の補修方法に使用される「塗膜を有する被塗物」である「フッ素系塗料および親水コーティング材を塗布して得られた複層塗膜を最表面に有するモエンエクセラード18(ニチハ社製無機材料基材)」は、本件発明3の「建築外装材が、意匠性を有するサイディングボード」であって、「建築外装材の表面上」に「旧塗膜」を有するものに相当すると認められる。
イ 先願発明の「補修用水性下塗り塗料組成物」及び「(水性の塗料である)上塗り塗料組成物」は、それぞれ、本件発明3の「水性下塗塗料」及び「水性上塗塗料」に相当し、先願発明の「塗膜を有する被塗物である、フッ素系塗料および親水コーティング材を塗布して得られた複層塗膜を最表面に有するモエンエクセラード18(ニチハ社製無機材料基材)に、・・・補修用水性下塗り塗料組成物を直接塗り重ねて塗装し、次いで・・・上塗り塗料組成物を塗装する工程」は、本件発明1の「建築外装材の表面上の・・・旧塗膜上に・・・水性下塗塗料を塗布し、下塗塗膜を形成する工程と、該下塗り塗膜上に・・・水性上塗塗料を塗布し、上塗塗膜を形成する工程」に相当する。
ウ 先願発明の補修用水性下塗り塗料組成物に含まれる「アニオン性樹脂エマルション2であるボンコート520S-EF(DIC社製シリコーン含有アクリル樹脂エマルション)」は、本件発明3の「アクリルシリコン樹脂エマルションを含(む)水分散液(A)」に相当する。
エ 先願発明の補修用水性下塗り塗料組成物に含まれる「KBM-403(信越シリコーン社製グリシジル基含有シランカップリング剤)」は、本件発明3の「エポキシ基含有シランカップリング剤」に相当するところ、これが、本件発明3の「密着付与剤(C)」に相当し、また、該グリシジル基含有シランカップリング剤を含有する「補修用水性下塗り塗料組成物」が、「シーラー」に相当することは、先願明細書の【0055】の「グリシジル基含有シランカップリング剤(B)の含有量が20質量部未満である場合は、・・・塗膜上に塗装する場合における塗膜付着性が低下することとなる。」なる記載、及び、【0087】の「本発明の補修用水性下塗り塗料組成物は、種々の機能を有する様々な外装用建材の補修における下塗り塗料(マルチシーラー)として、好適に用いることができる」なる記載から明らかである。
オ 先願発明の上塗り塗料組成物に含まれる「水性シリコンセラUV(日本ペイント社製建築用上塗り塗料)」は、甲2(2頁目の「窯業系サイディング 塗装施工費用」の表)によれば、「水性アクリルシリコン系塗料」であるから、これは、本件発明3の水性上塗塗料に含まれる「アクリルシリコン樹脂エマルションを含(む)水分散液(B)」に相当する。
カ 先願発明は「フッ素系塗料および親水コーティング材を塗布して得られた複層塗膜を最表面に有するモエンエクセラード18(ニチハ社製無機材料基材)に、補修用水性下塗り塗料組成物を直接塗り重ねて塗装」するものであるから、これは、本件発明3の「建築外装材の表面上の旧塗膜を剥離又は除去することなく・・・下塗塗膜を形成する」との発明特定事項を満足するといえる。
キ 先願発明において、補修のための塗料組成物が塗装される「フッ素系塗料および親水コーティング材を塗布して得られた複層塗膜を最表面に有するモエンエクセラード18(ニチハ社製無機材料基材)」は、光触媒機能を有しない塗膜であると認められる。

そうすると、本件発明3と先願発明は、
「建築外装材を補修する方法であって、
該建築外装材の表面上の旧塗膜を剥離又は除去することなく、該建築外装材の表面上の旧塗膜上にシーラーとして、水分散液(A)と密着付与剤(C)を含有する水性下塗塗料を塗布し、下塗塗膜を形成する工程と、
該下塗り塗膜上に水分散液(B)を含有する水性上塗塗料を塗布し、上塗塗膜を形成する工程と、
を含み、
前記建築外装材が、意匠性を有するサイディングボードであり、
前記水分散液(A)及び前記水分散液(B)が、アクリルシリコン樹脂エマルションを含み、
前記密着付与剤(C)が、エポキシ基含有シランカップリング剤を含み、
前記建築外装材表面の旧塗膜が、光触媒機能を有しない塗膜であることを特徴とする建築外装材の補修方法。」
で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
建築外装材の表面上の旧塗膜に下塗塗膜を形成する工程について、本件発明3では、「(該)旧塗膜上の汚染物質を除去した後」に水性下塗塗料を塗布すると特定されているのに対して、先願発明ではかかる特定がない点。
<相違点2>
建築外装材に形成される下塗塗膜及び上塗塗膜について、本件発明3では、「クリアー塗膜」と特定されているのに対して、先願発明では、両塗膜に関し、下塗塗膜を構成する補修用水性下塗り塗料組成物が「アニオン性樹脂エマルション2であるボンコート520S-EF(DIC社製シリコーン含有アクリル樹脂エマルション)100部(固形分質量換算)、KBM-403(信越シリコーン社製グリシジル基含有シランカップリング剤)63部(固形分質量換算)、及び、KBM-602(信越シリコーン社製アミノ基含有シランカップリング剤)4.5部(固形分質量換算)を含む、グリシジル基含有シランカップリング剤とアミノ基含有シランカップリング剤の含有量の総量が、上記アニオン性樹脂エマルションの樹脂固形分100質量部に対して67.5質量部である補修用水性下塗り塗料組成物」、下塗塗膜を構成する補修用上塗り塗料組成物が「性シリコンセラUV(日本ペイント社製建築用上塗り塗料)」と特定されており、下塗塗膜及び上塗塗膜を「クリアー塗膜」とすることは特定されていない点。

事案に鑑み相違点2から検討する。
先願明細書には、補修用水性下塗り塗料組成物及び上塗り塗料組成物をの双方をクリアー塗料とすること(つまり、下塗塗膜及び上塗塗膜の双方を「クリアー塗膜」とすること)についての明示的な記載はない。
一方、本件特許明細書には、意匠性を有するサイディングボードである建築外装材を補修する方法において、建築外装材の表面上に形成される下塗塗膜及び前記上塗塗膜をクリアー塗膜とすることで、「既存の多彩模様等の高い意匠性を保ったまま建築外装材の塗膜の補修を行うことが可能とな」る(【0013】)ことが記載されているところ、先願明細書には、塗塗膜及び上塗塗膜の双方を「クリアー塗膜」とすることにより、このような効果が奏されることを示唆する記載もない。

そうすると、相違点2が実質的な相違点であることは明らかであるから、相違点1について検討するまでもなく、相違点2で先願発明と異なる本件発明3について、先願明細書(甲1)に記載された発明と同一であるということはできない。


2.取消理由B(甲3を主引例とする進歩性)について

(1)甲3に記載の事項及び甲3に記載された発明
甲3の特許請求の範囲の記載(請求項1、6、8)及び、実施例1,2には、以下の記載がある。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】 エンボス加工されたPCM鋼板を裏打ちしてなるPCM材の凸部表面に、コア・シェル型アクリルエマルションであって、ポリシロキサンのアクリル骨格へのグラフト及び架橋構造の形成によるコア・シェル型シリコーン変性アクリルエマルション及びシランカップリング剤を含有する水性着色ベース塗料をロール塗装して着色ベース塗膜層を形成し、必要に応じ、得られたエンボス模様の表面に、トップクリヤーを塗布してトップクリヤー層を形成してなる高意匠性金属サイディング構造。
・・・
【請求項6】 シランカップリング剤が、エポキシ基又はアミノ基を含有するシランカップリング剤である請求項1記載の高意匠性金属サイディング構造。
・・・
【請求項8】 該トップクリヤーがコア・シェル型シリコーン変性アクリルエマルションである請求項1記載の高意匠性金属サイディング構造。」

「【0053】実施例1
例えばタイル調に深し彫りエンボス加工されたPCM鋼板(例えばイソフタル酸型ポリエステル/メラミン樹脂の樹脂組成物でプリコートされた)を発泡ウレタンおよびアルミラミネートで裏打ちした試験用PCM材(60cm×60cm)の凸部表面に、下記G620固形分100g、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン0.2g、白色顔料ペースト(二酸化チタン100g/顔料分散用樹脂5g)固形分100g混合して得られた水性着色ベース塗料を乾燥膜厚が50g/m^(2)(固形分換算)となるようにロール塗装して着色ベース塗膜層を形成し、エンボス模様を得た。
【0054】実施例2
実施例1で得られたエンボス模様の表面に、下記艶消しトップクリヤーを乾燥膜厚が30g/m^(2)(固形分換算)となるようにスプレー塗装して実施例2の試験用金属サイディング構造体を得た。・・・
【0055】艶消しトップクリヤーの調製
下記の配合により艶消しトップクリヤーを調製した。
48重量%(固形分)G-620(基体樹脂)(註1) 217g
酸化ポリエチレン(艶消し剤) 18g
β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン
0.2g
固形分(NV) 42.0重量%
MFT 0℃>

(註1)旭化成工業株式会社製コア・シェル型シリコーン変性アクリルエマルション含有ラテックス商品名、樹脂組成Ac・Si(Si20重量%)、UVAおよびHALS含有、CHMA30重量%、コアTg15℃、シェルTg60℃、合計Tg48℃、粒子径130nm。」

上記の甲3の記載を総合すると、甲3には、以下の発明が記載されているといえる。

「エンボス加工されたPCM鋼板を裏打ちしてなるPCM材の凸部表面に、
コア・シェル型アクリルエマルションであって、ポリシロキサンのアクリル骨格へのグラフト及び架橋構造の形成によるコア・シェル型シリコーン変性アクリルエマルション、及び、
エポキシ基を含有するシランカップリング剤を含有する水性着色ベース塗料をロール塗装して着色ベース塗膜層を形成し、
次いで、
得られたエンボス模様の表面に、コア・シェル型シリコーン変性アクリルエマルションであるトップクリヤーを塗布してトップクリヤー層を形成する、
高意匠性金属サイディング構造体を製造するための塗工方法。」
(以下、「甲3発明」という。)

(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲3発明とを対比する。

(ア) 甲3発明の「エンボス加工されたPCM鋼板を裏打ちしてなるPCM材」は、甲3の【0007】に、「本発明において、使用されるPCM材として、例えば、・・・などの金属板に、・・・樹脂組成物をプリコートして得られるPCM鋼板をレンガ調、タイル調、木目調、石割調などにエンボス加工し、防音性、断熱性などを付与する目的でウレタンフォーム、石膏ボードなどで裏打ちし、所定の外壁ボードとして成形されたものである。」と記載されるとおり、本件発明2の「建築外装材」である「意匠性を有するサイディングボード」に相当する。
(イ) 甲3発明の「水性着色ベース塗料」及び「トップクリヤー」は、それぞれ、本件発明2の「水性下塗塗料」及び「水性上塗塗料」に相当する。
(ウ)甲3発明の「エンボス加工されたPCM鋼板(合議体注;これは、プリコートとされた樹脂組成物からなる塗工層が設けられているものである。)を裏打ちしてなるPCM材の凸部表面に、・・・水性着色ベース塗料をロール塗装して着色ベース塗膜層を形成し、次いで、得られたエンボス模様の表面に、・・・トップクリヤーを塗布してトップクリヤー層を形成する」工程は、本件発明2の「建築外装材の表面上の・・・塗膜上に・・・水性下塗塗料を塗布し、下塗塗膜を形成する工程と、該下塗り塗膜上に・・・水性上塗塗料を塗布し、上塗塗膜を形成する工程」に相当するし、甲3発明の「トップクリヤー層」は、本件発明2の「クリアー塗膜」に相当する。
(エ) 甲3発明の「コア・シェル型アクリルエマルションであって、ポリシロキサンのアクリル骨格へのグラフト及び架橋構造の形成によるコア・シェル型シリコーン変性アクリルエマルション」、「エポキシ基を含有するシランカップリング剤」、及び、「コア・シェル型シリコーン変性アクリルエマルションであるトップクリヤー」は、それぞれ、本件発明2の「アクリルシリコン樹脂エマルションを含(む)水分散液(A)」、「エポキシ基含有シランカップリング剤」、及び、「アクリルシリコン樹脂エマルションを含(む)水分散液(B)」に相当する。
そして、甲3発明の水性着色ベース塗料に含まれる「エポキシ基を含有するシランカップリング剤」が、本件発明2の「密着付与剤(C)」に相当することは、甲3の【0045】の「シランカップリング剤が0.001重量部未満になると付着性が低下し」なる記載から明らかであるし、甲3発明の「水性着色ベース塗料」は、シランカップリング剤及びトップクリヤーに使用されるのと同じコア・シェル型シリコーン変性アクリルエマルションを含有するものであるから、これが、本件発明2の「シーラー」の機能を有することは、当業者に自明である。
(オ) 本件発明2の「補修方法」は、塗料を塗布して塗布膜を形成する工程を有する点で「塗工方法」であるといえる。

そうすると、本件発明2と甲3発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
建築外装材を塗工する方法であって、
該建築外装材の表面上の塗膜上にシーラーとして、水分散液(A)と密着付与剤(C)を含有する水性下塗塗料を塗布し、下塗塗膜を形成する工程と、
該下塗り塗膜上に水分散液(B)を含有する水性上塗塗料を塗布し、上塗塗膜を形成する工程と、
を含み、
前記建築外装材が、意匠性を有するサイディングボードであり、
前記水分散液(A)及び前記水分散液(B)が、アクリルシリコン樹脂エマルションを含み、
前記密着付与剤(C)が、エポキシ基含有シランカップリング剤を含み、
前記上塗塗膜が、クリアー塗膜であることを特徴とする建築外装材の塗工方法。

<相違点3>
建築外装材の表面上に形成される下塗塗膜が、本件発明2では「クリアー塗膜」であるのに対し、甲3発明では「水性着色ベース塗料をロール塗装して」なる「着色ベース塗膜層」である点。
<相違点4>
本件発明2の塗工方法は「補修方法」であり、本件発明2では、下塗塗膜を形成する工程において、水性下塗塗料を建築外装材の表面上の「旧塗膜上」に塗布し、また、その際、「旧塗膜を剥離又は除去することなく、該旧塗膜上の汚染物質を除去した後」に塗布すると特定されているのに対して、甲3発明の塗工方法は、「補修方法」ではなく、下塗塗膜を形成する工程において、水性下塗塗料を建築外装材の表面上の「旧塗膜上」に塗布し、また、その際、「旧塗膜を剥離又は除去することなく、該旧塗膜上の汚染物質を除去した後」に塗布することは特定されていない点。

イ 判断
相違点3について検討する。
甲3の【0005】の記載によれば、甲3発明は、環境上の問題がなく、高耐候性の高意匠性金属サイディング構造を得ることを目的としてなされた発明であり、その目的を達成するために、甲3発明では、エンボス加工されたPCM鋼板を裏打ちしてなるPCM材(本件発明2の「建築外装材」である「意匠性を有するサイディングボード」に相当するもの)に、「水性着色ベース塗料」を塗工して「着色ベース塗膜層」を形成することを必須の構成とする。
してみると、甲3発明において、上記所定のPCM材に塗工する水性塗料を、「着色ベース塗料」ではない「クリアー塗料」として、甲3発明の「着色ベース塗膜層」を本件発明2に特定されるような「クリアー塗膜」とすることには、阻害要因があるというべきである。
したがって、甲3発明の「着色ベース塗膜層」を「クリアー塗膜」とすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
このことは、申立人が周知技術を示すとして提出した他の証拠(甲4?5)を参酌しても同様である。

一方、本件発明2は、下塗塗膜を形成する工程において、水性下塗塗料を、意匠性を有するサイディングボードである建築外装材の表面上の「旧塗膜上」に塗布し、また、その際、「旧塗膜を剥離又は除去することなく、該旧塗膜上の汚染物質を除去した後」に塗布するとの構成(これは、相違点4に係る構成に相当する。)を備えるものであり、建築外装材表面の意匠性の旧塗膜が保存されている状態で下塗塗膜及び前記上塗塗膜が形成される方法であるところ、本件発明2では、建築外装材表面に形成される下塗塗膜及び前記上塗塗膜が双方とも「クリアー塗膜」であること(つまり、相違点3に係る構成を備えること)により、本件特許明細書の【0013】に記載されるとおり、「既存の多彩模様等の高い意匠性を保ったまま建築外装材の塗膜の補修を行うことが可能」となる。
そして、この効果は、甲3?5の記載のいずれからも示唆されない効果である。

そうすると、相違点4について検討するまでもなく、相違点4に係る構成を備え、相違点3の点で甲3発明と異なる本件発明2は、甲3発明(甲3に記載された発明)及び本件特許の出願日当時の周知技術(甲4?5)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明3について
本件発明3は、請求項2を引用する請求項に係るものであって、本件発明3は、甲3発明と、少なくとも上記相違点3及び4の点で相違している。
そして、相違点についての判断は、上記(2)のイで記載したとおりであるから、本件発明3についても、(2)で記載したと同様の理由によって、甲3発明(甲3に記載された発明)及び本件特許の出願日当時の周知技術(甲4?5)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


3.取消理由C(サポート要件)について
訂正前の請求項3に係る発明について申立人が主張していた取消理由Cは、具体的には、概略次のとおりである。
本件特許明細書の【0002】?【0010】の記載によれば、請求項3に係る発明が解決しようとする課題は、「既設の建築外装材を塗り替える際も、旧塗膜への密着性が良好であり、既存の意匠性の高い塗膜を保ったまま耐候性に優れた塗膜を形成する建築外装材(意匠性を有するサイディングボード)の補修方法を提供すること」であると認められる(以下、「本件発明の課題」という。)ところ、請求項3に係る発明では、下塗塗膜及び上塗塗膜がクリヤー塗膜であることは特定されておらず、塗膜が、エナメル塗料を塗布することで形成されたエナメル塗膜である場合が包含されている。
そして、この場合には、意匠性を有するサイディングボードの「既存の意匠性の高い塗膜」はエナメル塗料の塗布により塗りつぶされてしまい、「既存の塗膜の高い意匠性」を保つことができないから、本件発明の課題は解決できない。
よって、訂正前の請求項3に係る発明はサポート要件を満足していない。
そこで検討すると、訂正後の請求項3(本件発明3)は第3で記載したとおりのものであり、本件発明3では、下塗塗膜及び上塗塗膜がクリヤー塗膜である点が特定されている。
そして、本件発明3の補修方法では、「意匠性を有するサイディングボード」である建築外装材は、「該建築外装材の表面上の旧塗膜を剥離又は除去することなく、該旧塗膜上の汚染物質を除去した後」(すなわち、意匠性の旧塗膜は除去されることなく保持されたまま)、該旧塗膜上に塗膜の密着性に寄与する「密着付与剤(C)」を含有する特定の水性下塗塗料が塗布されて下塗塗膜が形成され、つづいて、請求項3に記載の所定の「上塗塗膜」が形成されることで建築外装材が補修されるものであり、この際、「前記下塗塗膜及び前記上塗塗膜が、クリアー塗膜」であることから、意匠性の旧塗膜を下塗塗膜及び上塗塗膜を通して視認することができる方法となっている。
そうすると、本件発明3により、本件発明の課題が解決できることは当業者に明らかである。

よって、本件発明3は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものといえ、サポート要件を満足する。


4.取消理由D(明確性)について
訂正前の請求項1?3に係る発明について申立人が主張していた取消理由Dは、具体的には、概略次のとおりである。
請求項1?3に係る発明においては、補修のために旧塗膜上に塗布される下塗塗料の原料がアクリルシリコン樹脂に限定されているところ、旧塗膜がいかなる原料を用いた場合であっても、実施例において使用されている、アクリルシリコン塗料からなる旧塗膜の場合と同様に、下塗塗料との密着性が発揮されるのかが不明であるから、請求項1?3の「旧塗膜」は不明確であり、結果として請求項1?3に係る発明は不明確である。

そこで検討すると、訂正後の本件発明2?3は、第3に記載したとおりであり、本件発明2?3では、「旧塗膜」については何ら技術的な限定はされていないことから、本件発明2の「旧塗膜」は、「意匠性を有するサイディングボード」に設けられた任意の「旧塗膜」であってよいし、また、本件発明3においては、「光触媒機能を有しない塗膜である」限りにおいては、「意匠性を有するサイディングボード」に設けられた任意の「旧塗膜」であってよいことは当業者に明らかである。
さらに、本件特許明細書の記載を参酌するに、「旧塗膜」については、【0012】に「『旧塗膜』とは、本発明の建築外装材の補修方法において、汚染物質を除去する前に形成されている塗膜を意味する。」、【0016】に「本発明に係る建築外装材の補修方法における建築外装材の表面上の旧塗膜は、複層硬質塗膜、複層弾性塗膜、厚付け塗膜、マスチック塗膜及び透湿性塗膜等が挙げられる。本発明は、このどんなタイプの旧塗膜にも対応可能である。」、【0018】に「本発明の水性塗料に含有する水分散液(A)及び水分散液(B)は、水系樹脂を含有し、水に溶解状態にある水溶性樹脂又は分散状態にある合成樹脂エマルションであればどのような樹脂を用いても良く、」と記載されている。
そして、上記の本件特許明細書の記載を参酌すると、本件発明2?3の「旧塗膜」は、従来から意匠性を有するサイディングボード(建築外装材)の表面上に使用されてきたどんなタイプの塗膜でもよく、その原料も従来から意匠性を有するサイディングボードの表面上に使用されてきたいかなる原料でもよいこと(但し、本件発明3では、「旧塗膜が、光触媒機能を有しない塗膜」に限定される。)が理解できる。
そうすると、本件特許明細書の記載を参酌した場合であっても、やはり、本件発明2?3の「旧塗膜」を当業者は明確に理解することができるといえる。

したがって、本件発明2?3は明確である。

なお、申立人が、旧塗膜がいかなる原料を用いた場合であっても密着性の効果が発揮されるのか明らかではない旨主張している点に関しては、本件発明2?3では、旧塗膜上に形成される水性下塗塗料に密着性を改善する作用が期待できる密着付与剤(C)が含有されているし、旧塗膜の種類により密着性の効果の程度に差があったとしても、それは、明確性の判断に関係しないから、申立人の主張は採用できない。

5.まとめ
以上のとおり、申立人の主張する取消理由A?Dには、いずれも理由がなく、申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、請求項2?3に係る特許を取り消すことはできない。


第5-2 取消理由通知書に記載した取消理由についての判断
当審合議体が平成30年11月2日付け取消理由通知書で通知した取消理由は、第4の2.で記載したとおり、申立人が申立書で主張する申立て理由(第4の1.参照)のうち、取消理由A(先願明細書に記載された発明)、取消理由B(進歩性;請求項1、3に係る発明に対して)、及び、取消理由C(サポート要件)である。
そして、これらの取消理由に理由がないことは、上記第5-1の1.?3.で説示したとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由によって、請求項2?3に係る特許を取り消すことはできない。


第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項2?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項2?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件訂正により本件特許の請求項1が削除された結果、同請求項1に係る特許についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため、特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により、請求項1に係る特許についての本件特許異議の申立ては却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
建築外装材を補修する方法であって、
該建築外装材の表面上の旧塗膜を剥離又は除去することなく、該旧塗膜上の汚染物質を除去した後、該旧塗膜上にシーラーとして、水分散液(A)と密着付与剤(C)を含有する水性下塗塗料を塗布し、下塗塗膜を形成する工程と、
該下塗り塗膜上に水分散液(B)を含有する水性上塗塗料を塗布し、上塗塗膜を形成する工程と、
を含み、
前記建築外装材が、意匠性を有するサイディングボードであり、
前記水分散液(A)及び前記水分散液(B)が、アクリルシリコン樹脂エマルションを含み、
前記密着付与剤(C)が、エポキシ基含有シランカップリング剤を含み、
前記下塗塗膜及び前記上塗塗膜が、クリアー塗膜であることを特徴とする建築外装材の補修方法。
【請求項3】
前記建築外装材表面の旧塗膜が、光触媒機能を有しない塗膜であることを特徴とする請求項2に記載の建築外装材の補修方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-01-23 
出願番号 特願2012-80396(P2012-80396)
審決分類 P 1 651・ 161- YAA (B05D)
P 1 651・ 537- YAA (B05D)
P 1 651・ 857- YAA (B05D)
P 1 651・ 121- YAA (B05D)
P 1 651・ 853- YAA (B05D)
P 1 651・ 851- YAA (B05D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 細井 龍史  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 阪▲崎▼ 裕美
渕野 留香
登録日 2018-02-09 
登録番号 特許第6284291号(P6284291)
権利者 大日本塗料株式会社
発明の名称 建築外装材の補修方法  
代理人 関口 正夫  
代理人 仲野 孝雅  
代理人 関口 正夫  
代理人 仲野 孝雅  
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