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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特174条1項  A23L
管理番号 1349692
異議申立番号 異議2018-700205  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-03-07 
確定日 2019-02-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6198476号発明「麺類の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6198476号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第6198476号の請求項1、3、4に係る特許を維持する。 特許第6198476号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6198476号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成25年6月20日に出願され、平成29年9月1日にその特許権の設定登録がされ、平成29年9月20日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年3月7日に特許異議申立人により特許異議の申立てがされ、当審は、平成30年7月17日に取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である平成30年9月13日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人は、平成30年10月16日に意見書を提出した。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のア?エのとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。なお、本件訂正請求は、一群の請求項〔1?4〕に対して請求されたものである。
ア 請求項1の「有機酸」を「酢酸」に、請求項1の「添加量が穀粉と前記デンプンの合計質量に基づいて0.03?1質量%の割合となる量」を「添加量が穀粉と前記デンプンの合計質量に基づいて0.05?0.5質量%の割合となる量」に、請求項1の「麺生地を調製し」を「麺生地(但し、レシチンと酸剤とを含有する生地を除く)を調製し」に、それぞれ訂正する。
イ 請求項2を削除する。
ウ 請求項3の「請求項1または2」を「請求項1」に訂正する。
エ 請求項4の「請求項1?3」を「請求項1または3」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アの訂正事項は、「有機酸」を「酢酸」に限定し、酢酸の添加量の割合を「0.03?1質量%」から「0.05?0.5質量%」へと狭め、「麺生地」から、「レシチンと酸剤とを含有する生地」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項1を直接又は間接に引用する請求項3、4についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。そして、本件特許明細書に、「本発明で用い得る有機酸としては、酢酸、・・・を挙げることができ」(【0017】)、「本発明では、麺生地の調製に当たって、有機酸を、穀粉とデンプン(A)の合計質量に基づいて・・・0.05?0.5質量%の割合で添加することがより好ましい。」(【0021】)と記載され、レシチンを含有する旨の記載はなく、実施例もレシチンを含有するものではないから、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
上記イの訂正事項は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
上記ウ、エの訂正事項は、請求項2を削除したことに伴い、請求項3、4が引用する請求項から請求項2を除くものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正を認める。

3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1、3、4に係る発明(以下、ぞれぞれ「本件発明1」、「本件発明3」、「本件発明4」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、3、4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
製麺用の穀粉に、ヒドロキシプロピル化デンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、アセチル化デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプンおよびモチ種デンプンから選ばれる少なくとも1種のデンプンを、穀粉と当該デンプンの合計質量に基づいて3?50質量%の割合で配合し、さらに麺生地の調製に用いる水に油脂で被覆されていない酢酸を添加して調製した酢酸水溶液(但し、酢酸と共にアルカリ剤を添加した酢酸水溶液を除く)を、酢酸としての添加量が穀粉と前記デンプンの合計質量に基づいて0.05?0.5質量%の割合となる量で添加して、酢酸が添加された、アルカリ剤無添加の麺生地(但し、レシチンと酸剤とを含有する生地を除く)を調製し、当該麺生地を用いて麺類(但し、油揚げ即席麺類を除く)を製造することを特徴とする油揚げ即席麺類以外の麺類の製造方法。
【請求項3】
モチ種デンプンが、モチ米デンプン、馬鈴薯モチデンプン、モチ小麦デンプンおよびモチトウモロコシデンプンから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の麺類の製造方法。
【請求項4】
請求項1または3のいずれか1項に記載の製造方法によって茹麺を製造し、当該茹麺をかんすい水溶液で処理して茹麺の品質を一層向上させる方法。

4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1?4に係る特許に対して、当審が平成30年7月17日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア 請求項1?3に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。

イ 請求項1?3に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証?甲第6号証に示される技術常識、甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

ウ 請求項4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証?甲第6号証に示される技術常識、甲第2号証に記載された事項、甲第7号証?甲第9号証に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

<甲号証>
甲第1号証:小田聞多、「新訂 めんの本」、株式会社食品産業新聞社、2003年12月25日、p.38-43、102-104
甲第2号証:特開2012-105561号公報
甲第3号証:特許第3990561号公報
甲第4号証:特開昭54-126744号公報
甲第5号証:特開昭61-227748号公報
甲第6号証:「加工でん粉の機能性と食品・繊維加工への利用」、独立行政法人農畜産業振興機構、最終更新日:2012年6月11日、(http://www.alic.go.jp/joho-d/joho08_000168.html)
甲第7号証:特開昭57-36955号公報
甲第8号証:特開平8-163962号公報
甲第9号証:特開2002-262796号公報

(2)甲号証の記載
ア 甲第2号証には、以下の事項が記載されている(「・・・」は記載の省略を意味し、下線は当審による。以下同様。)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
麺生地にレシチンと酸剤とを含有することを特徴とする茹で麺類。
【請求項2】
麺生地にレシチンと酸剤とを加えた後に製麺し、茹でて得ることを特徴とする茹で麺類の製造方法。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、茹で上げた後に流通する茹で麺類の経時的な食感の変化を改善した茹で麺類および該茹で麺類の製造方法並びに該茹で麺類の品質改良方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、レシチンと酸剤とを加えた麺生地を用いて作製した茹で麺が、上記課題を解決すること見出した。」
「【0012】
本発明で用いられる酸剤は、アジピン酸、クエン酸、グルコン酸、グルコノデルタラクトン、コハク酸、酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸などの有機酸やこれら有機酸を含有する食品類が挙げられ、これらは単独でも数種類組み合わせてもよい。好ましくは、クエン酸、グルコノデルタラクトン、乳酸、食酢などが挙げられる。
【0013】
麺生地への酸剤の添加量は、茹で麺類のpHが、好ましくは約5.0?6.5、さらに好ましくは約5.5?6.0になるように調整すればよい。酸剤の添加量は、うどん、そばなどに用いる製麺用粉の緩衝能、または使用する成分によって異なるが、例えば、クエン酸を用いる場合、製麺用粉100質量に対して約0.15?0.4質量部、好ましくは約0.2?0.35質量部が挙げられる。」
「【0015】
上記した製麺用粉としては、例えば小麦粉、大麦粉、ライ麦粉、米粉、そば粉などの穀粉などが挙げられる。製麺用粉は、単独で、または2種以上を混合して使用することができる。製麺用粉には、澱粉または加工澱粉を配合してもよい。澱粉としては、例えば馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉などが挙げられる。また、加工澱粉としては、例えば上記澱粉にアセチル化処理、エーテル化処理、架橋処理、酸処理、酸化処理、湿熱処理などの加工処理を単独で、または2種以上を組み合わせて施した澱粉などが挙げられ、具体的には、例えばアセチル化タピオカ澱粉などが挙げられる。上記澱粉または加工澱粉は、単独で、または2種以上を混合して用いてもよい。」
「【0017】
・・・麺生地にレシチンと酸剤とを添加する方法に特に制限はないが、例えば・・・(b)製麺用粉および/または副原料にレシチンを添加し、練り水に酸剤を加え溶解させた後に製麺用粉および/または副原料に添加する方法・・・などが挙げられる。」
「【実施例】
【0025】
<調理麺(うどん)の作製>
(1)原材料
中力小麦粉(商品名:金すずらん;日清製粉社製)
加工澱粉(商品名:松谷あさがお;松谷化学工業社製、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉)
・・・

【表1】


【0028】
(3)調理麺(うどん)の作製
[実施例1]
・・・
【0029】
[実施例2]
表1に記載の6倍量(g)の原材料を用いて下記のようにして調理麺(うどん)を作製した。
中力小麦粉と加工澱粉とをポリ袋に入れ1分間混合して製麺用粉を作製した後、製麺用粉、粉末グルテンおよび特定リン脂質濃縮分別レシチンをロボ・クープミキサー(形式:R-4V.V.A;ロボ・クープ社製)を用いて1分間混合して均一な混合粉を作製した。上記混合粉と、別途用意した食塩、グルコノデルタラクトンおよび50%乳酸を練り水に溶かした水溶液を、横型真空テストミキサー(型式:1.0kg真空HI?LO混捏;大竹麺機社製)に加え、常圧下、回転数120rpmで3分混合し、さらに回転数90rpm、600mmHgで10分混合して麺生地を得た。続いて製麺ロールを用いて常法により複合、圧延して厚さ2.5mmの麺帯に成形し、切り出し機(切り刃#10S)にて麺線に切り出した。得られた麺線を25cmの長さに切断して得られた生うどんを沸騰水中で8分間茹で上げ、流水にて30秒水洗、氷水にて30秒冷却を行い、水切り後、茹で麺(うどん)150gをポリスチレン製の容器に充填・密封して調理麺(実施例品2)を得た。得られた調理麺のpHを測定したところ、5.65であった。」
「【0034】
[比較例2]
実施例2の調理麺(うどん)の作製において、特定リン脂質濃縮分別レシチンを加えない以外は同様に操作して、調理麺(比較例品2)を得た。得られた調理麺のpHを測定したところ、5.71であった。」

以上によれば、甲第2号証には、比較例品2に係る次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「中力小麦粉70.00質量部、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン30.00質量部を配合した混合粉と、食塩、グルコノデルタラクトン0.39質量部および50%乳酸0.30質量部を練り水に溶かした水溶液を混合して麺生地とし、当該麺生地より得られた生うどんを沸騰水中で茹で上げて調理麺を製造する方法。」

イ 甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
「(1)pH調整剤
前出の過酸化水素の代替として、茹でめんに保存性を付与する添加物として、以前より一部の製麺業者には使用されていたが、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、フマール酸、酢酸等の有機酸が使用されることになった。・・・これらの酸の使用法は、製麺時に生地に練り込むか・・・」(40ページ左欄)
「(2)澱粉類
・・・小麦粉に対して5?20%配合して使用される。
澱粉の使用目的は、食感の改良が主であるが・・・
利用される主な澱粉に、馬鈴薯澱粉、もちとうもろこし澱粉(ワキシーコーンスターチ)、タピオカ澱粉がある。・・・ワキシーコーンスターチには食感を軟らかく粘りのあるものにする効果がある・・・
化工澱粉は、化工の方法・程度によって品質・特性が変わるので使用目的に応じて選択して使用することが必要となる。」(42ページ右欄?43ページ左欄)
「pHを下げるためには、茹で水のpH調整にも使用されている有機酸類を使用するが、使用方法としては生地に練り込む方法と、茹でめんを酸液に浸漬する方法とがある。
・・・
練り込み量は、茹で水のpHとの関係があるので、茹で湯のpHを5.5にコントロールしている場合は小麦粉量の0.1%以下でよい。」(103ページ右欄)

ウ 甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
麺原料に、リンゴ酸、乳酸、アジピン酸、フマル酸、クエン酸、酸性メタリン酸、酢酸またはフィチン酸から選択されるpH調整剤を添加し、加水した後、蒸練して得られたpH4.5?6.2の麺生地を用いることを特徴とする、蒸練日本そばの製造法。」
「【0008】
・・・麺生地のpH値が4.5より小さくなると粘りがなくなり、一方pH値が6.2より大きくなるとクチャつき感が強く、粘弾性が低下するようになる。」

エ 甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
「2.特許請求の範囲
めん類の製造において、混捏水、茄で水を食酢によりPHを4.0?5.5の間に調節し、85?100℃の温度で茄で上げ、かつ加熱殺菌を併用することを特徴とする保存性の高いめん類の製造法。」(1ページ左欄4?8行)
「食酢の添加はその上、グルテンの延伸性を向上させるので製めん効果を良好にする。」(1ページ右欄下から2?1行)

オ 甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
「2.特許請求の範囲
1)うどん麺又はそば麺の麺原料に、食酢を水で稀釈した食酢水を加えたのち、常法により製麺することを特徴とする麺類の製造法。」(1ページ左欄4?7行)
「本発明は・・・その目的とするところは、塩分を全く含まない健康食品であって、かつ茹でたときには腰が強く食感に優れ、しかも食塩水を使用しないにもかかわらず従来の麺と同様に日持ちがよいうどん麺又はそば麺を提供することにある。」(1ページ右欄下から4行?2ページ左欄3行)

カ 甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
「1.食品への加工でん粉の利用
1-1.麺類への利用
・・・小麦粉のでん粉であるコムギでん粉に比べ、ワキシーコーンスターチ、ばれいしょでん粉、タピオカでん粉はいずれも粘弾性に富んだ特性を有しており、これらを小麦粉に配合すると麺の粘弾性付与に有効であることを示唆しています。
・・・また、エーテル化やエステル化を行うと、硬さ・弾力が減少し、粘性が増大します。これらの加工を組み合わせると、適度な硬さと粘弾性を持たせることが可能となります。
・・・
麺に使用される加工でん粉は、その物性や価格面で優れるタピオカでん粉の加工品(アセチル化、ヒドロキシプロピル化、およびそれらの架橋処理品)がほとんどで、小麦粉への配合量は5?35%です。」(1/6?2/6ページ)

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
甲2発明の「中力小麦粉」は、本件発明1の「製麺用の穀粉」に相当し、同様に、「ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン」は、「ヒドロキシプロピル化デンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、アセチル化デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプンおよびモチ種デンプンから選ばれる少なくとも1種のデンプン」に相当する。
甲2発明の混合粉に「中力小麦粉70.00質量部、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン30.00質量部」が配合されていることは、本件発明1の「ヒドロキシプロピル化デンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、アセチル化デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプンおよびモチ種デンプンから選ばれる少なくとも1種のデンプンを、穀粉と当該デンプンの合計質量に基づいて3?50質量%の割合で配合し」に相当する。
甲2発明の「グルコノデルタラクトン」及び「50%乳酸」は、油脂で被覆されたものではないから、本件発明1の「油脂で被覆されていない酢酸」と、「油脂で被覆されていない有機酸」である点で共通する。そして、甲2発明においてアルカリ剤は添加されていないから、甲2発明の「グルコノデルタラクトン0.39質量部および50%乳酸0.30質量部を練り水に溶かした水溶液」と、本件発明1の「麺生地の調製に用いる水に油脂で被覆されていない酢酸を添加して調製した酢酸水溶液(但し、酢酸と共にアルカリ剤を添加した酢酸水溶液を除く)」は、「麺生地の調製に用いる水に油脂で被覆されていない有機酸を添加して調製した有機酸水溶液(但し、有機酸と共にアルカリ剤を添加した有機酸水溶液を除く)」の限りで一致する。
甲2発明の「麺生地」は、アルカリ剤もレシチンも添加されていないから、本件発明1の「アルカリ剤無添加の麺生地(但し、レシチンと酸剤とを含有する生地を除く)」に相当する。
甲2発明の「当該麺生地より得られた生うどんを沸騰水中で茹で上げて調理麺を製造する方法」は、本件発明1の「当該麺生地を用いて麺類(但し、油揚げ即席麺類を除く)を製造する」「油揚げ即席麺類以外の麺類の製造方法」に相当する。
よって、本件発明1と甲2発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
[一致点]
製麺用の穀粉に、ヒドロキシプロピル化デンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、アセチル化デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプンおよびモチ種デンプンから選ばれる少なくとも1種のデンプンを、穀粉と当該デンプンの合計質量に基づいて3?50質量%の割合で配合し、さらに麺生地の調製に用いる水に油脂で被覆されていない有機酸を添加して調製した有機酸水溶液(但し、有機酸と共にアルカリ剤を添加した有機酸水溶液を除く)を添加して、有機酸が添加された、アルカリ剤無添加の麺生地(但し、レシチンと酸剤とを含有する生地を除く)を調製し、当該麺生地を用いて麺類(但し、油揚げ即席麺類を除く)を製造する油揚げ即席麺類以外の麺類の製造方法。
[相違点]
有機酸が、本件発明1では「酢酸」であって、酢酸としての添加量が「穀粉と前記デンプンの合計質量に基づいて0.05?0.5質量%の割合となる量」であるのに対し、甲2発明では「グルコノデルタラクトン」及び「50%乳酸」であって、有機酸としての添加量は混合粉に対し、0.54質量%(=0.39+0.30/2)である点。

(イ)判断
甲第2号証には、茹で上げた後に流通する茹で麺類の経時的な食感の変化を改善するとの課題が示され、レシチンと酸剤とを加えた麺生地を用いて作製した茹で麺によって、上記課題を解決することが記載されている(【特許請求の範囲】、【0005】?【0006】)。
そして、甲2発明に係る比較例品2は、レシチンと酸剤とを含有する実施例品との比較のために製造されたものであって、甲第2号証の記載を参酌しても、レシチンと酸剤とを加えることで上記課題を解決することは記載されているものの、レシチンを含まず酸剤のみを添加することの意義は記載されていないから、甲2発明がグルコノデルタラクトンと50%乳酸を含むことの意義は把握できない。
一方、甲第1、3、4号証には、pH調整のために酢酸等の有機酸を用いることが記載され、甲第5号証には、腰が強く食感に優れた麺を提供することを目的として、麺原料に食酢を加えた旨が記載されている。
しかし、甲第2号証における酸剤は、レシチンと共に用いることで、茹で麺類の経時的な食感の変化を改善するとの課題を解決するためのものであるから、上記甲第1、3?5号証に記載された有機酸あるいは食酢と同じ目的のものとはいえない。
また、甲第6号証には、上記相違点に係る本件発明1の構成を示唆するところはない。
そして、本件特許明細書の実施例14?17(【表4】)の記載によれば、本件発明1は、上記相違点に係る構成を採用したことにより、ヒドロキシプロピル化デンプン等のデンプンを含み酢酸を含まないものと比べても、粘弾性及び滑らかさに優れた麺が得られるという効果を奏するものである。
そうすると、実施例品との比較のために製造されたにすぎない比較例品2に係る甲2発明において、グルコノデルタラクトンと50%乳酸を酢酸に変更してその含有量を調整し、上記相違点に係る本件発明1の構成とすることは、甲第1、3?5号証に記載された技術事項を参酌しても、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
なお、甲第2号証には、比較例品2に係る発明以外に、実施例品に係る発明も記載されているが、上述の課題を解決するためにレシチンとクエン酸が必須とされるものであるから、これらを除くことは想定し得ない。よって、甲第2号証の実施例品に係る発明においては、本件発明1の「アルカリ剤無添加の麺生地(但し、レシチンと酸剤とを含有する生地を除く)を調製し」との技術事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ない。
したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではないから、特許法29条1項3号に該当せず、また、甲第2号証に記載された発明及び甲第1?6号証に示される技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものでもない。

イ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1におけるモチ種デンプンを更に限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、特許法29条1項3号に該当せず、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものでもない。

ウ 本件発明4について
本件発明4は、「茹麺の品質を一層向上させる方法」の発明であるところ、その工程の一部に本件発明1を含んでいるから、上記相違点は、本件発明4と甲2発明との相違点でもある。
そして、甲第7?9号証には、茹麺をかんすい水溶液で処理することが示されているものの、上記相違点に係る本件発明4の構成を示唆するところはない。
よって、上記本件発明1についての判断と同様に、本件発明4は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1?9号証に示される技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(4)小括
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由によっては、請求項1、3、4に係る特許を取り消すことはできない。

5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立理由の概要
ア 請求項4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないから、その特許は同法113条2号に該当し、取り消されるべきである。

イ 平成29年4月5日付け手続補正書により、請求項1に「但し、有機酸と共にアルカリ剤を添加した有機酸水溶液を除く」及び「アルカリ剤無添加」との新規事項が追加されたため、請求項1?4に係る特許は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、同法113条1号に該当し、取り消されるべきである。

ウ 請求項1の「水に油脂で被覆されていない有機酸を添加して調製した有機酸水溶液(但し、有機酸と共にアルカリ剤を添加した有機酸水溶液を除く)」との記載、及び、「アルカリ剤」の意味が不明確であるため、請求項1?4に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法113条4号に該当し、取り消されるべきである。

(2)判断
ア 前記4(3)ウで判断したとおり、本件発明4と甲2発明との相違点が存在するから、本件発明4は、特許法29条1項3号に該当しない。

イ 本件訂正請求による訂正により、請求項1の「有機酸」は「酢酸」と訂正された。そして、出願当初の明細書に記載された実施例において、酢酸水溶液にアルカリ剤は添加されていないし、麺生地を調製する過程においてもアルカリ剤は添加されていないから、得られた麺生地はアルカリ剤無添加のものである。よって、「但し、酢酸と共にアルカリ剤を添加した酢酸水溶液を除く」及び「アルカリ剤無添加」との技術事項は、出願当初の明細書に記載された事項の範囲内のものである。なお、本件特許明細書(【0024】)に、麺生地の調製時にかんすいを添加できることが記載されているが、上記判断には関係しない。よって、訂正後の請求項1、3、4に係る特許は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものではない。

ウ 本件訂正請求による訂正により、請求項1の「有機酸」は「酢酸」と訂正された。そして、請求項1の「水に油脂で被覆されていない酢酸を添加して調製した酢酸水溶液(但し、酢酸と共にアルカリ剤を添加した酢酸水溶液を除く)」とは、「水に油脂で被覆されていない酢酸を添加して調製した酢酸水溶液」のうち、「酢酸と共にアルカリ剤を添加した酢酸水溶液」を除く趣旨であることは明らかである。よって、「水に油脂で被覆されていない有機酸を添加して調製した有機酸水溶液」から、「油脂で被覆されている有機酸と共にアルカリ剤を添加した有機酸水溶液」(下線は当審による。)を除くことはできない趣旨をいう特許異議申立人の主張は理由がない。
また、請求項1の「アルカリ剤」は、ごく一般的に用いられる用語であって、それ自体不明確なものではない。特許異議申立人は、「有機酸水溶液(但し、有機酸と共にアルカリ剤を添加した有機酸水溶液を除く)」が添加されても、必ず「アルカリ剤無添加の麺生地」が調製されることにはならない旨を主張するが、請求項1は、「酢酸水溶液(但し、酢酸と共にアルカリ剤を添加した酢酸水溶液を除く)」を添加することと、「アルカリ剤無添加の麺生地」を調製することを、それぞれ特定しているのであって、「有機酸水溶液(但し、有機酸と共にアルカリ剤を添加した有機酸水溶液を除く)」を添加すれば、必ず「アルカリ剤無添加の麺生地」が調製されるというような事項を特定しているわけではないから、上記特許異議申立人の主張は理由がない。
よって、訂正後の請求項1、3、4に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

6 本件特許の請求項2についての特許異議の申立てについて
本件訂正により請求項2は削除されたため、請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては、その対象となる請求項が存在しないものとなった。
よって、請求項2についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により、却下すべきものである。

7 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1、3、4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、3、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項2についての特許異議の申立ては、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製麺用の穀粉に、ヒドロキシプロピル化デンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、アセチル化デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプンおよびモチ種デンプンから選ばれる少なくとも1種のデンプンを、穀粉と当該デンプンの合計質量に基づいて3?50質量%の割合で配合し、さらに麺生地の調製に用いる水に油脂で被覆されていない酢酸を添加して調製した酢酸水溶液(但し、酢酸と共にアルカリ剤を添加した酢酸水溶液を除く)を、酢酸としての添加量が穀粉と前記デンプンの合計質量に基づいて0.05?0.5質量%の割合となる量で添加して、酢酸が添加された、アルカリ剤無添加の麺生地(但し、レシチンと酸剤とを含有する生地を除く)を調製し、当該麺生地を用いて麺類(但し、油揚げ即席麺類を除く)を製造することを特徴とする油揚げ即席麺類以外の麺類の製造方法。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
モチ種デンプンが、モチ米デンプン、馬鈴薯モチデンプン、モチ小麦デンプンおよびモチトウモロコシデンプンから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の麺類の製造方法。
【請求項4】
請求項1または3に記載の製造方法によって茹麺を製造し、当該茹麺をかんすい水溶液で処理して茹麺の品質を一層向上させる方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-01-30 
出願番号 特願2013-129285(P2013-129285)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A23L)
P 1 651・ 537- YAA (A23L)
P 1 651・ 55- YAA (A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西 賢二長谷川 茜小田 浩代  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 紀本 孝
莊司 英史
登録日 2017-09-01 
登録番号 特許第6198476号(P6198476)
権利者 株式会社日清製粉グループ本社
発明の名称 麺類の製造方法  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
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