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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B23K
管理番号 1349694
異議申立番号 異議2018-700420  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-05-23 
確定日 2019-02-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6240467号発明「ソルダペースト用フラックスおよびソルダペースト」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6240467号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2-5〕について訂正することを認める。 特許第6240467号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6240467号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成25年10月30日に特許出願され、平成29年11月10日に特許権の設定登録がされ、同年11月29日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許の請求項1?5に係る特許について、平成30年 5月23日に特許異議申立人 新井誠一(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年 7月25日付けで取消理由が通知され、同年 9月27日付けで意見書及び訂正請求書の提出があった。
なお、平成30年 9月27日付けで提出された訂正請求書による訂正の請求に関し、当審より同年10月19日付けで通知書を通知し、異議申立人に対して意見を求めたが、その指定した期間内に異議申立人からの応答がなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成30年 9月27日付けで提出された訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、特許請求の範囲の請求項2に「ソルダペースト用フラックス」と記載されているのを、「バンプ形成用洗浄用ソルダペースト用フラックス」に訂正し、請求項2を引用する請求項3?5についても同様に訂正するというものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正の目的の適否について
本件訂正は、本件訂正前の請求項2に係る発明が「ソルダペースト用フラックス」であったところ、その用途を、更に「バンプ形成用洗浄用」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)新規事項の有無について
ア 「バンプ形成用」との事項について
本件明細書には、以下の記載がある(下線は当審で付与した。「・・・」により記載の省略を示す。以下同様である。)。
「【0008】
本発明は上記課題を解決するものであり、・・・リフロー時における金属間化合物の粗大化とこれに伴う異形バンプおよび異形フィレットの発生を抑制することのできるソルダペースト用フラックスおよびソルダペーストを提供することをその目的とする。
「【0017】
また本発明のソルダペースト用フラックスおよびソルダペーストは、異形バンプおよび異形フィレットの発生を抑制しつつ一定量以上のAgを含有する金属粉、例えばSn-Ag-Cu系はんだ合金粉末を用いることができる。そのため、これを用いて形成したバンプおよびフィレットは特に良好な強度を保つことができ、はんだ接合信頼性に優れたバンプおよびフィレットを提供することができる。」
これらの記載に照らし、「バンプ形成用」との事項については、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。

イ 「洗浄用」との事項について
本件明細書には、以下の記載がある。
「【0066】
<異形バンプ発生>
FR基板(Cu-OSP処理/50mm×50mm×1.6mm/SRO100μm)およびアディティブ加工ステンシルマスク((株)プロセス・ラボ・ミクロン製、205mm×245mm枠、50μmt/MMO100μm/ピッチサイズ400μm)を用意した。前記マスクを用い、各ソルダペーストをステンシルスキージにて前記FR基板上に手刷りで印刷した。
次いで印刷後の各FR基板をリフローオーブン(製品名:TNP25-538EM、タムラ製作所(株)製)に入れ、窒素雰囲気(酸素濃度100ppm)下にて、図1に示す熱プロファイル条件下でFR基板上のソルダペーストを加熱溶融させた。その後、加熱した各FR基板を室温まで冷却させて顕微鏡を用いてその溶融状態を観察し、形成されたバンプから針状または板状の突起物が出ているかどうかを以下の基準にて評価した。
◎:針状または板状の突起物が発生していない
○:針状または板状の突起物が発生しているが、これがバンプ輪郭の円を超えて成長していない
△:針状または板状の突起物が発生しており、且つこれが上面から観察した場合にバンプ輪郭の円を超えて成長している
×:針状または板状の突起物が発生しており、且つこれが隣接バンプとブリッジするサイズに成長している
【0067】
<溶融性>
上記異形バンプ発生試験を行った各FR基板について観察し、以下の基準にて評価した。
◎:異形バンプもソルダボールの発生もない
○:異形バンプの発生はないがソルダボール(洗浄して落ちるもの)が発生している
△:バンプは形成されているが異形バンプが発生している
×:未溶融またはミッシングバンプが発生している
【0068】
<洗浄性>
洗浄液としてクリンスルー750K((株)花王製)を用意した。300ccのビーカーに前記洗浄液を250ccから300cc入れ、これを撹拌装置つきのホットプレート上で撹拌および加温した。なお、撹拌には30mmφのクロスヘッド撹拌子を用いた。
上記溶融性試験後の各FR基板を前記洗浄液の入ったビーカーに浸るように吊るし、所定の時間と回転数でこれを洗浄した。洗浄後、各FR基板を純水でリンスした。リンス後の各FR基板について金属顕微鏡を用いてリフロー残さの洗浄残りの有無を観察し、以下の基準にて評価した。
◎:洗浄液温度50℃/撹拌無し/洗浄時間60秒で洗浄できる
○:洗浄液温度50℃/回転数300rpm/洗浄時間60秒で洗浄できる
△:洗浄液温度60℃/回転数400rpm/洗浄時間120秒で洗浄できる×:洗浄液温度60℃/回転数400rpm/洗浄時間120秒で洗浄できない。」

「【表3】



これらの記載によれば、本件明細書には、「ソルダーペースト用フラックス」が、バンプ形成後に洗浄されるものであることが開示されているといえる。
したがって、「洗浄用」との事項についても、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。

(3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
前記(1)のとおり、本件訂正は、本件訂正前の請求項2に係る発明が「ソルダペースト用フラックス」であったところ、その用途を、更に「バンプ形成用洗浄用」と限定するものであるから、特許請求の範囲を拡張又は変更するものに該当しないことは明らかである。

3 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?5について、請求項3、4は請求項2を引用しているものであって、請求項5は請求項4を引用しているものであるから、本件訂正前の請求項2?5は一群の請求項である。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔2?5〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。

4 本件訂正請求についての結言
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔2?5〕について訂正を認める。

第3 本件発明
前記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ本件発明1?5という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、訂正箇所に下線を付した。

「【請求項1】
(a)ベース樹脂と(b)溶剤と(c)活性剤と(d)増粘剤とを含むソルダペースト用フラックスであって、
前記ベース樹脂(a)はロジンを含み、
前記ベース樹脂(a)は軟化点が130℃を超える樹脂(a-1)と軟化点が130℃以下の樹脂(a-2)とからなり、
前記軟化点が130℃を超える樹脂(a-1)の配合量はソルダペースト用フラックス全量に対して0重量%超5重量%以下であり、
前記軟化点が130℃以下の樹脂(a-2)として、その酸価が300mgKOH/gを超える樹脂(a-2’)が含まれることを特徴とするソルダペースト用フラックス。
【請求項2】
(a)ベース樹脂と(b)溶剤と(c)活性剤と(d)増粘剤とを含むバンプ形成用洗浄用ソルダペースト用フラックスであって、
前記ベース樹脂(a)はロジンを含み、
前記ベース樹脂(a)は軟化点が130℃以下の樹脂(a-2)のみからなり、
前記軟化点が130℃以下の樹脂(a-2)として、その酸価が300mgKOH/gを超える樹脂(a-2’)が含まれることを特徴とするバンプ形成用洗浄用ソルダペースト用フラックス。
【請求項3】
前記軟化点が130℃以下で酸価が300mgKOH/gを超える樹脂(a-2’)の配合量はソルダペースト用フラックス全量に対して5重量%から15重量%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のソルダペースト用フラックス。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のソルダペースト用フラックスと金属粉とを含むソルダペーストであって、
前記金属粉は、Sn-Ag系鉛フリーはんだ合金粉末またはSn-Ag-Cu系鉛フリーはんだ合金粉末であり、
前記金属粉に含まれるAgの総含有量は前記金属粉全量に対して1重量%以上であることを特徴とするソルダペースト。
【請求項5】
前記金属粉は、Sn-Ag系鉛フリーはんだ合金粉末またはSn-Ag-Cu系鉛フリーはんだ合金粉末であり、
前記金属粉に含まれるAgの総含有量は前記金属粉全量に対して2.7重量%超であることを特徴とする請求項4に記載のソルダペースト。」


第4 特許異議の申立て
1 申立理由の概要
異議申立人は、以下の申立理由1?申立理由3を主張している。
・申立理由1 請求項2?5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証と甲第3号証に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

・申立理由2 請求項2?5に係る発明は、甲第4号証に記載された発明、及び甲第2号証と甲第3号証に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

・申立理由3 請求項1、3?5に係る発明は、甲第5号証に記載された発明、及び甲第2号証と甲第3号証に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2002-283097号公報
甲第2号証:荒川ニュース/No.358(荒川化学工業株式会社 2012年7月公開) http://www.arakawachem.co.jp/jp/technology/document/201207.pdf
甲第3号証:技術資料 パインクリスタルKR-120(荒川化学工業株式会社 化成品事業部 2011年1月公開)
甲第4号証:特開2013-173184号公報
甲第5号証:特開2008-302407号公報

以下、甲第1号証?甲第5号証を、それぞれ「甲1」?「甲5」という。

2 取消理由通知書に記載した取消理由の概要と、取消理由として採用しなかった申立理由について
当審は、「申立理由1」のうち、請求項3に係る発明に対する部分を採用せず、請求項2、4、5に係る発明に対する部分を採用し、「取消理由1」として通知した。
また、当審は、「申立理由2」のうち、請求項3に係る発明に対する部分を採用せず、請求項2、4、5に係る発明に対する部分を採用し、「取消理由2」として通知した。
また、当審は、「申立理由3」を採用しなかった。

3 各甲号証について
(1)甲1(特開2002-283097号公報)
甲1には、以下の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 無鉛系はんだ粉末、ロジン系樹脂、活性剤及び溶剤を含有するソルダペースト組成物において、ヒンダードフェノール系化合物からなる酸化防止剤を含有するソルダペースト組成物。
【請求項2】 ヒンダードフェノール系化合物の分子量が少なくとも500である請求項1記載のソルダペースト組成物。
【請求項3】 プリント回路基板のはんだ付部に対して電子部品を請求項1又は2に記載のソルダペースト組成物を用いてリフローはんだ付するリフローはんだ付方法。」

「【0013】実施例1
以下の組成のソルダペーストを調製した。
水添ロジン(ロジン系樹脂) 55.0g
アジピン酸(活性剤) 2.0g
水添ヒマシ油(チキソ剤) 6.0g
トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-
メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(酸化防
止剤) 5.0g
ヘキシルカルビトール(溶剤) 33.0g
(以上、フラックス 100g)
上記フラックス 11.0g
はんだ粉末 89.0g
(Sn/Ag/Cu=96.5/3/0.5)
(以上、ソルダーペースト 100g)
上記フラックスとはんだ粉末を攪拌混合することによりソルダーペーストを得た。このソルダーペーストをマルコム粘度計で測定したところ230Pa・s(測定温度25℃)であった。また、このソルダーペーストを用いて、印刷性試験(0.15mm厚さのメタルマスクを用いたスクリーン印刷による印刷面にかすれやにじみが目視されるが否かを検査する試験)、粘着性試験(印刷後のメタルマスクの剥がれ性を調べるもので、JIS Z 3284による試験)、加熱時のだれ性試験(加熱時の塗布膜の所定位置からのはみ出しを調べるもので、JIS Z 3284による試験)及び絶縁性試験(はんだと分離したフラックス膜の抵抗値を測定するもので、JIS Z 3284による試験)を評価するとともに、さらに、はんだ付状態試験(リフローはんだ付装置において、プリヒート温度を150℃、120秒の場合と、200℃、120秒の場合とのそれぞれにおいて、本加熱を240℃、30秒行った場合のはんだ付状態を、溶融後固化したはんだに未溶融物が見られないものを5、多く見られるものを1とし、3以上を実用性があるとする5段階法により評価する試験)を行った結果を表1に示す。」

(2)甲2(荒川ニュース/No.358(荒川化学工業株式会社 2012年7月公開) http://www.arakawachem.co.jp/jp/technology/document/201207.pdf )
甲2には、以下の記載がある。


」(第1頁左側)



」(第1頁右側)



」(第2頁左側)



」(第2頁右側)



」(第3頁左側)



」(第3頁右側)



」(第4頁)

なお、甲2は以下のURLから入手可能な公知資料である。
http://www.arakawachem.co.jp/jp/technology/technology_report/
上記URLでは以下の情報が開示されており、当該情報のうち2012年の「7月 新規はんだ用超淡色ロジンについて」をクリックすることで甲2を得ることができるから、甲2は、2012年7月に公開されたものと認める。





(3)甲3(技術資料 パインクリスタルKR-120(荒川化学工業株式会社 化成品事業部 2011年1月公開))
甲3には、以下の記載がある。


」(第1頁)



」(第2頁)



」(第3頁)



」(第4頁)


(4)甲4(特開2013-173184号公報)
甲4には、以下の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイマー酸ジアルキルエステル(A)を含有する鉛フリーはんだ用フラックス。
【請求項2】
更にロジン類(B)、活性剤(C)、チキソトロピック剤(D)、フラックス用溶剤(E)、及び酸化防止剤(F)を含有する請求項1のフラックス。
【請求項3】
(B)成分がα,β-不飽和カルボン酸とロジン類とから得られるディールスアルダー反応物である、請求項2のフラックス。
【請求項4】
(B)成分の含有量が30?70重量%である請求項2又は3のフラックス。
【請求項5】
(C)成分が脂肪族二塩基酸類、ブロモアルコール類およびブロモジカルボン酸類なる群より選ばれる少なくとも1種である請求項2?4のいずれかのフラックス。
【請求項6】
(D)成分がポリアミド系チキソトロピック剤及び/又は動植物系チキソトロピック剤である請求項2?5のいずれかのフラックス。
【請求項7】
(E)成分がエーテル系アルコール類である請求項2?6のいずれかのフラックス。
【請求項8】
(F)成分がヒンダードフェノール系酸化防止剤である請求項2?7のいずれかのフラックス。
【請求項9】
請求項1?8のいずれかのフラックスと鉛フリーはんだ粉末を含有する鉛フリーはんだペースト。
【請求項10】
請求項1?8のいずれかのフラックスを用いて得られる鉛フリー糸はんだ。」

「【0011】
本発明のフラックスによれば、はんだ付時における鉛フリーはんだ金属の十分な濡れ性を確保できる。また、フラックス残渣にクラックが生じ難いため、実装基板の信頼性を確保できる。このクラック低減効果は、フラックス原料として残渣にクラックを生じさせ易い材料(ベース材、硬化剤等)を使用した際に特に顕著である。また、このフラックス残渣は適度に柔かいため、はんだ接合部にピンを接触させ導電性を確認するための試験(ピンコタクト試験)の実施が容易になる。また、このフラックスは残渣を洗浄除去する必要が特に無いため、特に無洗浄タイプの実装基板に適している。」

「【0012】
本発明のフラックスに添加するダイマー酸ジアルキルエステル(A)(以下、(A)成分という)は、各種公知のものを特に制限なく用いることができる。(A)成分は、具体的には、ダイマー酸(a1)(以下、(a1)成分という)とモノアルコール(a2)(以下、(a2)成分という)とから得られるエステル化合物である。(A)成分の製造法は特に限定されず、各種公知の方法を採用できる。」

「【0015】
本発明のフラックスには更にロジン類(B)(以下、(B)成分という)、活性剤(C)(以下、(C)成分という)、チキソトロピック剤(D)(以下、(D)成分という)、フラックス用溶剤(E)(以下、(E)成分という)、及び酸化防止剤(F)(以下、(F)成分という)を含めることができる。」

「【0026】
<フラックスの調製>
実施例1
市販のダイマー酸ジアルキルエステル(商品名「KAK DAPIP-R」、高級アルコール工業(株)製、ジリノール酸のジイソプロピルエステル)を5部、アクリル化ロジン水素化物(商品名「KE-604」、荒川化学工業(株)製)を40部、グルタル酸(GA)を3部、trans-2,3-ジブロモ-1,4-ブテンジオール(DBBD)を1.5部、ポリアミド系チキソトロピック剤(商品名「MA-WAX-O」、川研ファインケミカル(株)社製)を5部、ヘキシルジグリコール(HeDG)を45部、及び酸化防止剤(商品名「Irganox1010」、チバ・ジャパン(株)製)を5部、加熱下に良く混合し、フラックスを調製した。」

「【0031】
【表1】




(5)甲5(特開2008-302407号公報)
甲5には、以下の記載がある。
「【請求項1】
200℃でのB型粘度計による溶融粘度が100?500mPa・sである樹脂成分(A)を含有するハンダ付け用フラックス組成物。
【請求項2】
樹脂成分(A)が、ロジン類の多価アルコールエステル(a)100重量部に対しポリエーテルエステルアミド(b)30?120重量部を含有する請求項1に記載のハンダ付け用フラックス組成物。
【請求項3】
更に、ロジン類の多価アルコールエステル(a)以外のロジン誘導体、活性剤、添加剤および溶剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する請求項2に記載のハンダ付け用フラックス組成物。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載のハンダ付け用フラックス組成物およびハンダ粉末を含有してなるクリームハンダ組成物。」

「【0011】
本発明のハンダ付け用フラックス組成物は、200℃でのB型粘度計による溶融粘度が100?500mPa・sである樹脂成分(A)を含有するものである。フラックス組成物のベース樹脂の溶融粘度を前記範囲に調整したものを使用することにより、ハンダ溶融時のフラックス樹脂成分の熱劣化等により発生したガス成分の膨張と破裂にともなう、ハンダやフラックス飛散を低減したフラックス組成物とすることができる。
【0012】
樹脂成分(A)の200℃でのB型粘度計による溶融粘度が100mPa・s未満の場合には、フラックスやハンダの飛散を十分に低減することができず、500mPa・sを超える場合にはハンダ付け性が低下する問題がある。
【0013】
このような樹脂成分(A)としては、溶融粘度が上記範囲にある限り特に限定されず、従来公知のものを使用して調製すればよいが、具体的には、後述するロジン類の多価アルコールエステル(a)(以下、(a)成分ということがある。)、ロジン類、(a)成分以外のロジンエステル、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、テルペン樹脂、などの合成樹脂などがあげられる。中でも、ポリエーテルエステルアミド(b)(以下、(b)成分ということがある。)は、溶融粘度をかかる範囲に調整することが容易である点において好ましい。また、これらを1種または2種以上組み合わせて使用することができる。
特に、樹脂成分(A)としては、(a)成分および(b)成分を併用することがより好ましい。これにより、ロジン類の活性カルボキシル基に多価アルコールを反応させて多価エステル化合物とすることにより、ロジン類の熱的安定性を高め、ハンダ付け時の熱分解に伴うガスの発生を低減させることができる。加えて、ポリアミドエーテルエステルアミド(b)を併用することにより、樹脂成分(A)のB型粘度計による溶融粘度を100?500mPa・sの範囲に調整することができるので、不可避的に発生する熱分解ガスによるフラックスやハンダの破裂に伴うハンダやフラックス飛散を効果的に低減することができる。
【0014】
(a)成分を構成するロジン類としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の各種公知の天然ロジン類、重合ロジン、水添ロジン、不均化ロジン、天然ロジン類の不飽和脂肪酸(フマル酸、マレイン酸、(メタ)アクリル酸)変性物、フェノール変性物などの各種ロジン誘導体を挙げることができる。
【0015】
該天然ロジン類は、酸価が通常160?190(好ましくは170?180)mgKOH/g(JIS-K5902に準ずる。以下、単位を略す)程度であり、また軟化点が通常67?177℃程度である。
【0016】
該各種ロジン誘導体のうち、重合ロジン類は、天然ロジン類に含まれる樹脂酸を2量化されたものを30?80重量%程度含有し、全体として通常100?300程度、好ましくは140?170の酸価を、また通常90?177℃程度、好ましくは100?140℃の軟化点を有する組成物である。このものは例えば「CP-No.140(武平県林産化工社製)」、「TX295(アリゾナケミカル社製)」等の市販品として入手できる。また前記天然ロジン類の不飽和脂肪酸(フマル酸、マレイン酸、(メタ)アクリル酸)変性物は、天然ロジン類に不飽和脂肪酸をディールス・アルダー付加してなる化合物を含むものであり、全体として通常酸価が20?400程度、好ましくは100?300程度、特に好ましくは200?250であり、また軟化点が通常90?180℃程度、好ましくは100?170℃程度の組成物である。このものは例えば、「パインクリスタルKEシリーズ」、「マルキードシリーズ」等の市販品(いずれも荒川化学工業(株)製)として入手できる。
なお、ロジン類として、天然ロジン類とロジン誘導体を併用したものを適宜使用することもできる。
【0017】
(a)成分は、前記ロジン類に多価アルコールを反応させてなる熱安定性に優れたエステル化合物としたものであるが、該多価アルコールは2価以上のものであれば特に限定されない。例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-ジヒドロキシプロパン、1,3-ジヒドロキシプロパン、1,2-ジヒドロキシブタン、1,3-ジヒドロキシブタン、2,3-ジヒドロキシブタン、ネオペンチルグリコール、1,4-ビス-ヒドロキシメチル-シクロヘキサン、1,6-ヘキサンジオール、オクテングリコール、ポリエチレングリコール等の2価アルコール;グリセロール、1,2,4-ブタントリオール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール、グリセリン等の3価アルコール;ジグリセリン、ペンタエリスリトール等の4価アルコールを具体的に例示できるが、5価以上のアルコールを用いてもよい。これらの中でもフラックスやハンダの飛散の低減という観点より3価アルコールおよび/または4価アルコールが好ましく、特にグリセリンおよび/またはペンタエリスリトールが好ましい。」

「【0027】
本発明に係るフラックス組成物は、樹脂成分(A)以外に活性剤(B)、添加剤(C)および溶剤(D)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することができる。」

「【実施例】
【0035】
以下、実施例および比較例を通じて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
( フラックス組成物の調製)
以下に示す材料を、それぞれ表1 に示す配合にて、容器に仕込み、2 0 0 ℃ 程度に加熱溶解した後、冷却して、フラックス組成物を調製した。

ポリエーテルエステルアミド樹脂:富士化成(株)製、商品名「TPAE-12」数平均分子量(ゲル浸透クロマトグラフィー、ポリスチレン換算値)30,000のもの。
ロジンのグリセリンエステル:荒川化学工業(株)製、商品名「KE-359」
水添ロジン: 荒川化学工業(株)製、商品名「C R W - 3 0 0 」
溶剤: ヘキシルカルビトール( 日本乳化剤(株)製)
活性剤1 : ジエチルアミン臭化水素酸(キシダ化学(株)製)
活性剤2 : アジピン酸(和光純薬工業(株)製)
チキソ剤: 硬化ひまし油(豊国製油(株)製、商品名「カスターワックス」)」

「【0040】
【表1】




第5 当審の判断
以下においては、「1」において、本件発明2、4、5に対して通知した取消理由1により特許を取り消せない理由を述べ、次いで、「2」において、本件発明2、4、5に対して通知した取消理由2により特許を取り消せない理由を述べ、最後に「3」において、取消理由通知において採用しなかった申立理由により特許を取り消せない理由を述べる。

1 本件発明2、4、5に対して通知した取消理由1により特許を取り消せない理由
(1)本件発明2について
ア 甲1の段落【0013】の実施例1によれば、甲1には、以下の甲1発明が記載されていると認める。
[甲1発明]
「水添ロジンからなるロジン系樹脂55.0g、
アジピン酸からなる活性剤2.0g、
水添ヒマシ油からなるチキソ剤6.0g、
トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕からなる酸化防止剤5.0g、
ヘキシルカルビトールからなる溶剤33.0g
からなる、フラックス。」

イ 本件発明2と、甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「フラックス」は、本件発明2の「ソルダペースト用フラックス」に相当する。
甲1発明における「ヘキシルカルビトールからなる溶剤」、「アジピン酸からなる活性剤」、「水添ヒマシ油からなるチキソ剤」が、それぞれ、本件発明2の「(b)溶剤」、「(c)活性剤」、「(d)増粘剤」に相当する。
甲1発明における「ロジン系樹脂」が、本件発明2の「(a)ベース樹脂」に対応する。

(イ)そうすると、本件発明2と、甲1発明とは、少なくとも、以下の二つの点で相違する。
(相違点1)
「(a)ベース樹脂」に関し、本件発明2は、「軟化点が130℃以下の樹脂(a-2)のみからなり」、「樹脂(a-2)として、その酸価が300mgKOH/gを超える樹脂(a-2’)が含まれる」のに対し、甲1発明は、「軟化点」及び「酸価」が明らかではない「水添ロジン」のみからなる点

(相違点2)
「ソルダペースト用フラックス」が、本件発明2は、「バンプ形成用洗浄用」であるのに対し、甲1発明は、「バンプ形成用洗浄用」であることが規定されていない点

ウ 以下、相違点について検討するが、相違点1は「ソルダーペースト用フラックス」が含む成分の一つである「(a)ベース樹脂」に関するものであるのに対し、相違点2は「ソルダーペースト用フラックス」そのものの用途に関するものであって、相違点1と相違点2の判断とは互いに関連する可能性があるから、以下においては、両相違点を総合的に検討する。
(ア)甲2の「1 はじめに」の欄(第1頁左側)においては、新規はんだ用超淡色ロジンであるパインクリスタル3製品について紹介することが記載されている。そして、「4 新規高酸価超淡色ロジン「パインクリスタルKR-120」について」の欄(第2頁右側)においては、「パインクリスタルKR-120」が、酸価が320KOHmg/gであり、軟化点が120℃であり、低残渣クラックを特長とするものであって、ほかの添加剤に頼ることなく低残渣クラックと高いフラックス活性を両立させることができ、特に無洗浄はんだ用途において非常に優れた外観、信頼性が期待できる製品であることが記載されている。
また、甲3にも「パインクリスタルKR-120」について記載されており、第1頁の「2.特長」や、第4頁によれば、はんだ用フラックスのベース樹脂として優れた性能を示すものであって、はんだ付け後の色調良好で、残渣のクラック割れが起きにくく、フラックス飛散も起きにくい結果となったことが記載されている。

(イ)一方、甲1発明は、「(a)ベース樹脂」に対応する「ロジン系樹脂」が「水添ロジン」のみからなるところ、甲1の全体を参照しても、甲1発明における「ロジン系樹脂」が特定の材料に限定されるべき事情は見いだせない。
そうすると、甲1発明において、「ロジン系樹脂」として、「水添ロジン」に代えて、低残渣クラックと高いフラックス活性を両立させることができ、はんだ用フラックスのベース樹脂として優れた性能を示す「パインクリスタルKR-120」を適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(ウ)そして、甲1発明における「ロジン系樹脂」として、「水添ロジン」に代えて「パインクリスタルKR-120」を適用することによって、甲1発明における「ロジン系樹脂」は「パインクリスタルKR-120」のみからなるものになるところ、当該「パインクリスタルKR-120」は、上記(ア)で述べたとおり、酸価が320KOHmg/gであり、軟化点が120℃であるから、当該甲1発明は、「軟化点が130℃以下の樹脂(a-2)のみからな」るとともに「その酸価が300mgKOH/gを超える樹脂(a-2’)が含まれる」との事項を備えることとなる。
ゆえに、甲1発明において、相違点1に係る本件発明2の発明特定事項を備えるものとすることは、甲2と甲3の記載に接した当業者が容易になし得たことである。

(エ)次に、「ロジン系樹脂」として「パインクリスタルKR-120」を適用した甲1発明が、相違点2に係る本件発明2の発明特定事項、具体的には「ソルダペースト用フラックス」が「バンプ形成用洗浄用」であるという事項、を備えるようにすることについて、当業者が容易になし得たといえるか否かについて検討する。
甲1の段落【0013】には、甲1発明の「フラックス」を用いたソルダーペーストに対し、「絶縁性試験」として、「はんだと分離したフラックス膜の抵抗値を測定するもので、JIS Z 3284による試験」を行い、「絶縁性」を評価することが記載されている。ここで、「絶縁性試験」において「はんだと分離したフラックス膜」の抵抗値を測定するためには、「はんだと分離したフラックス膜」が存在していなければならないから、甲1発明の「フラックス」は、はんだ付け後に洗浄されないものであることが示唆されているといえる。
また、「パインクリスタルKR-120」については、上記(ア)で述べたとおり、無洗浄はんだ用途に適用されるものである。
そうすると、はんだ付け後に洗浄されないものであることが示唆される甲1発明に対し、無洗浄はんだ用途に適用される「パインクリスタルKR-120」を適用した結果として得られる「フラックス」は、無洗浄はんだ用途のものとして使用されると考えるのが合理的であるし、これを「洗浄用」のものとして使用しようとする積極的な動機付けは甲1?甲3の記載及び技術常識を考慮しても見いだせない。
ゆえに、「ロジン系樹脂」として「パインクリスタルKR-120」を適用した甲1発明が、相違点2に係る本件発明2の発明特定事項のうちの「洗浄用」という事項を備えるようにすることについては、当業者が容易になし得たことではない。

(オ)以上の検討のとおり、当業者といえども、甲1発明において、甲1?甲3の記載に基づき、相違点1に係る本件発明2の発明特定事項と、相違点2に係る本件発明2の発明特定事項を同時に備えるようにすることは、容易になし得たことではない。

エ よって、本件発明2は、甲1に記載された発明、及び甲2と甲3に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、取消理由1により本件発明2に係る特許を取り消すことはできない。


(2)本件発明4、5について
ア 本件発明4は、本件発明1?3のいずれか一つを引用するものである。以下、本件発明4が本件発明1又は3を引用する場合と、本件発明2を引用する場合とに分けて述べる。

イ (本件発明4が本件発明1又は3を引用する場合について)
取消理由1は、本件発明1及び本件発明3に対して通知していないから、本件発明4が本件発明1又は3を引用する場合については、取消理由を通知していない。

ウ (本件発明4が本件発明2を引用する場合について)
前記(1)で述べたとおり、本件発明2は、甲1に記載された発明、及び甲2と甲3に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明4が本件発明2を引用する場合は、同じ理由で、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ したがって、本件発明4は、本件発明1?3のいずれを引用する場合であっても、甲1に記載された発明、及び甲2と甲3に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件発明5は本件発明4を引用するものであるから、本件発明4と同じ理由で、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ よって、取消理由1により本件発明4、5に係る特許を取り消すことはできない。


2 本件発明2、4、5に対して通知した取消理由2により特許を取り消せない理由
(1)本件発明2について
ア 甲4の段落【0012】及び【0015】によれば、甲4に記載されたフラックスは、(A)?(F)成分を含むものであって、各成分はそれぞれ以下のとおりである。
(A)成分:ダイマー酸ジアルキルエステル
(B)成分:ロジン類
(C)成分:活性剤
(D)成分:キソトロピック剤
(E)成分:フラックス用溶剤
(F)成分:酸化防止剤

それを踏まえると、段落【0026】及び表1の実施例1に関する記載に基づき、甲4には、以下の甲4発明が記載されていると認める。
[甲4発明]
「KAK DAPIP-R」からなるダイマー酸ジアルキルエステル(A)5.0重量部と、
「KE-604」からなるロジン類(B)40重量部と、
グルタル酸3.0重量部とtrans-2,3-ジブロモ-1,4-ブテンジオール1.5部からなる活性剤(C)4.5重量部と、
「MA-WAX-O」からなるチキソトロピック剤(D)5.0重量部と、
ヘキシルジグリコールからなるフラックス用溶剤(E)45重量部と、
「Irganox1010」からなる酸化防止剤(F)0.5重量部と、
からなる、フラックス。
(当審注:甲4発明において、かぎ括弧を用いて記載された成分は、商品名である。以下、商品名をそのまま用いて記載する。)


イ 本件発明2と甲4発明とを対比する。
(ア)甲4発明の「フラックス」は、本件発明2の「ソルダペースト用フラックス」に相当する。
甲4発明における「ヘキシルジグリコールからなるフラックス用溶剤(E)」、「グルタル酸」と「trans-2,3-ジブロモ-1,4-ブテンジオール」からなる「活性剤(C)」、「MA-WAX-O」からなる「チキソトロピック剤(D)」が、それぞれ、本件発明2の「(b)溶剤」、「(c)活性剤」、「(d)増粘剤」に相当する。
甲4発明における「ロジン類(B)」が、本件発明2の「(a)ベース樹脂」に対応する。そして、甲4発明における「ロジン類(B)」は「KE-604」のみからなるところ、本件明細書の記載(【0064】)によれば、「KE-604」の酸価は240mgKOH/gであり、軟化点は134℃である。

(イ)そして、本件発明2と、甲4発明とは、少なくとも、以下の二つの点で相違する。
(相違点3)
「(a)ベース樹脂」に関し、本件発明2は、「軟化点が130℃以下の樹脂(a-2)のみからなり」、「樹脂(a-2)として、その酸価が300mgKOH/gを超える樹脂(a-2’)が含まれる」のに対し、甲4発明は、軟化点は134℃であり、酸価は240mgKOH/gである「KE-604」のみからなる点

(相違点4)
「ソルダペースト用フラックス」が、本件発明2は、「バンプ形成用洗浄用」であるのに対し、甲4発明は、「バンプ形成用洗浄用」であることが規定されていない点

ウ 以下、相違点について検討するが、事案に鑑み、相違点4についてまず検討する。
甲4の段落【0011】には、「このフラックスは残渣を洗浄除去する必要が特に無いため、特に無洗浄タイプの実装基板に適している。」との記載があるから、甲4発明の「フラックス」は、「無洗浄用」のものであるといえる。
そして、甲2及び甲3に記載の「パインクリスタルKR-120」については、前記1(1)ウ(ア)で述べたとおり、無洗浄はんだ用途に適用されるものである。
そうすると、甲2?甲4の記載を総合したとしても、甲4発明の「フラックス」を「洗浄用」のものとして使用することは、当業者が容易になし得たことではない。
ゆえに、甲4発明が、相違点4に係る本件発明2の発明特定事項のうちの「洗浄用」という事項を備えるようにすることについては、当業者が容易になし得たことではない。

エ よって、相違点4に含まれる他の事項や、相違点3について検討するまでもなく、本件発明2は、甲4に記載された発明、及び甲2と甲3に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、取消理由2により本件発明2に係る特許を取り消すことはできない。

(2)本件発明4、5について
ア 本件発明4は、本件発明1?3のいずれか一つを引用するものである。以下、本件発明4が本件発明1又は3を引用する場合と、本件発明2を引用する場合とに分けて述べる。

イ (本件発明4が本件発明1又は3を引用する場合について)
取消理由2は、本件発明1及び本件発明3に対して通知していないから、本件発明4が本件発明1又は3を引用する場合については、取消理由を通知していない。

ウ (本件発明4が本件発明2を引用する場合について)
前記(1)で述べたとおり、本件発明2は、甲4に記載された発明、及び甲2と甲3に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明4が本件発明2を引用する場合は、同じ理由で、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ よって、本件発明4は、本件発明1?3のいずれを引用する場合であっても、甲4に記載された発明、及び甲2と甲3に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件発明5は本件発明4を引用するものであるから、本件発明4と同じ理由で、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ よって、取消理由2により本件発明4、5に係る特許を取り消すことはできない。

3 取消理由通知において採用しなかった申立理由により特許を取り消せない理由
(1)申立理由1(取消理由1)により本件発明3に係る特許を取り消せない理由
ア 本件発明3は、本件発明1又は2を引用するものである。以下、本件発明3が本件発明1を引用する場合と、本件発明2を引用する場合とに分けて述べる。

イ (本件発明3が本件発明1を引用する場合について)
申立理由1は、本件発明1に対する申立てを含まない。

ウ (本件発明3が本件発明2を引用する場合について)
前記1(1)で述べたとおり、本件発明2は、甲1に記載された発明、及び甲2と甲3に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明3が本件発明2を引用する場合は、同じ理由で、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ よって、本件発明3が、本件発明1又は2のいずれを引用する場合であっても、甲1に記載された発明、及び甲2と甲3に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ よって、申立理由1(取消理由1)により本件発明3に係る特許を取り消すことはできない。


(2)申立理由2(取消理由2)により本件発明3に係る特許を取り消せない理由
ア 本件発明3は、本件発明1又は2を引用するものである。以下、本件発明3が本件発明1を引用する場合と、本件発明2を引用する場合とに分けて述べる。

イ (本件発明3が本件発明1を引用する場合について)
申立理由2は、本件発明1に対する申立てを含まない。

ウ (本件発明3が本件発明2を引用する場合について)
前記2(1)で述べたとおり、本件発明2は、甲4に記載された発明、及び甲2と甲3に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明3が本件発明2を引用する場合は、同じ理由で、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ よって、本件発明3が、本件発明1又は2のいずれを引用する場合であっても、甲4に記載された発明、及び甲2と甲3に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ よって、申立理由2(取消理由2)により本件発明3に係る特許を取り消すことはできない。


(3)申立理由3により本件発明1、3?5に係る特許を取り消せない理由
ア 甲5には、200℃でのB型粘度計による溶融粘度が100?500mPa・sである樹脂成分(A)を含有するハンダ付け用フラックス組成物が記載されている(特許請求の範囲、実施例)。
甲5に記載のフラックス組成物は、樹脂成分(A)、活性剤(B)、添加剤(C)、溶剤(D)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有するものであり(段落【0027】)、甲5の実施例のフラックス組成物は、これら(A)?(D)成分からなるもの(実施例では、添加剤(C)はチキソ剤)である。
樹脂成分(A)は、ロジン類の多価アルコールエステルである(a)成分と、ポリエーテルエステルアミドである(b)成分とを併用するものである(段落【0013】)。
これらを踏まえた上で、甲5の実施例1によれば、甲5には、以下の甲5発明が記載されていると認める。

[甲5発明]
(a)成分(ロジン類の多価アルコールエステル)である「KE-359」と、(b)成分(ポリエーテルエステルアミド)である「TPAE-12」と、水添ロジンである「CRW-300」とからなる樹脂成分(A)と、
ジエチルアミン臭化水素酸とアジピン酸からなる活性剤(B)と、
硬化ひまし油からなるチキソ剤である添加剤(C)と、
ヘキシルカルビトールである溶剤(D)と、
からなり、
樹脂成分(A)は200℃でのB型粘度計による溶融粘度が100?500mPa・sである、ハンダ付け用フラックス組成物。
(当審注:甲5発明において、かぎ括弧を用いて記載された成分は、商品名である。以下、商品名をそのまま用いて記載する。)

イ 本件発明1と甲5発明とを対比する。
(ア)甲5発明の「ハンダ付け用フラックス組成物」は、本件発明1の「ソルダペースト用フラックス」に相当する。
甲5発明における「ヘキシルカルビトールである溶剤(D)」、「ジエチルアミン臭化水素酸とアジピン酸からなる活性剤(B)」、「硬化ひまし油からなるチキソ剤である添加剤(C)」が、それぞれ、本件発明1の「(b)溶剤」、「(c)活性剤」、「(d)増粘剤」に相当する。
甲5発明における「樹脂成分(A)」が、本件発明1の「(a)ベース樹脂」に対応する。
そして、甲5発明における「樹脂成分(A)」のうち、「KE-359」は、本件明細書の記載(【0064】)によれば、その酸価は24mgKOH/gであり、軟化点は104℃であるから、本件発明1の「軟化点が130℃以下の樹脂(a-2)」に相当する。ただし、本件発明1の「酸価が300mgKOH/gを超える樹脂(a-2’)」には相当しない。
また、甲5発明における「樹脂成分(A)」のうち、「CRW-300」は、特開2013-49088号公報の段落【0049】の「市販水添ロジン(商品名「CRW-300」、酸価約176mgKOH/g、軟化点85℃、荒川化学工業(株)製、ガードナー3)」との記載からみて、本件発明1の「軟化点が130℃以下の樹脂(a-2)」に相当する。ただし、本件発明1の「酸価が300mgKOH/gを超える樹脂(a-2’)」には相当しない。

(イ)そして、本件発明1と、甲5発明とは、少なくとも以下の点(相違点5)で相違する。
(相違点5)
「(a)ベース樹脂」に関し、本件発明1は、「軟化点が130℃を超える樹脂(a-1)と軟化点が130℃以下の樹脂(a-2)とからなり」、「樹脂(a-1)の配合量はソルダペースト用フラックス全量に対して0重量%超5重量%以下であり」、「樹脂(a-2)として、その酸価が300mgKOH/gを超える樹脂(a-2’)が含まれる」のに対し、甲5発明は、「KE-359」と「TPAE-12」と「CRW-300」とからなるものであって、「軟化点が130℃以下の樹脂(a-2)」(「KE-359」)を含むものの、「軟化点が130℃を超える樹脂(a-1)と軟化点が130℃以下の樹脂(a-2)とからな」るかどうかは不明であり、「樹脂(a-1)」の配合量や「樹脂(a-2’)」が含まれるか否かについても不明である点

ウ 以下、相違点5について検討する。
(ア)甲5発明の「樹脂成分(A)」は、「200℃でのB型粘度計による溶融粘度が100?500mPa・s」という事項を前提とした上で、具体的な材料として三成分(「KE-359」、「TPAE-12」、「CRW-300」)からなるものである。

(イ)一方、前記1(1)ウ(ア)でも述べたとおり、甲2及び甲3には、酸価が320KOHmg/gであり、軟化点が120℃である「パインクリスタルKR-120」が記載されており、これは、低残渣クラックと高いフラックス活性を両立させることができ、はんだ用フラックスのベース樹脂として優れた性能を示すものである。

(ウ)しかしながら、甲5発明の「樹脂成分(A)」の三成分(「KE-359」、「TPAE-12」、「CRW-300」)のいずれかに代えて、又は、これら三成分に加えて、「パインクリスタルKR-120」をどのように適用するかの具体的な指針は甲2、甲3、甲5には見当たらず、仮に何らかの形で適用し得たとしても、甲5発明の「樹脂成分(A)」に関する前提である「200℃でのB型粘度計による溶融粘度が100?500mPa・s」をどのようにして維持できるかも不明である。

(エ)したがって、甲5発明において、甲2及び甲3の記載を考慮したとしても、相違点5に係る本件発明1の発明特定事項のうち、「酸価が300mgKOH/gを超える樹脂(a-2’)が含まれる」という事項を備えるようにすることについては、当業者が容易になし得たことではない。

(オ)なお、甲5発明において、甲2で開示されている「パインクリスタルKR-120」を適用することの容易想到性に関し、異議申立人は、特許異議申立書第35頁第11行?第17行において、「甲5の【0014】では「(a)成分を構成するロジン類」として各種ロジン誘導体を挙げることができることが開示されていることから、甲5の「(a)成分を構成するロジン類」として甲2で開示されている「パインクリスタルKR-120を採用することは当業者にとって容易である。」と主張している。
しかしながら、上記アで述べたとおり、甲5に記載の「(a)成分」とは、ロジン類の多価アルコールエステルのことを意味しており、甲5の段落【0017】には「(a)成分は、前記ロジン類に多価アルコールを反応させてなる熱安定性に優れたエステル化合物としたものである。」とも記載されている。
そうすると、甲5の全体の記載によれば、甲5の段落【0014】に記載の「(a)成分を構成するロジン類」に多価アルコールエステルを反応させた結果物が、甲5発明の「フラックス組成物」に配合されると解されるべきであって、甲5の段落【0014】に記載の「(a)成分を構成するロジン類」が、そのまま甲5発明の「フラックス組成物」に配合されるものと解されるべきではない。
ゆえに、甲5の段落【0014】に各種ロジン誘導体が挙げられていることは、甲5発明の「フラックス組成物」において「パインクリスタルKR-120」を配合させることの根拠とはなり得ない。
したがって、上記主張は、甲5の記載を正しく解釈したものではないから、採用することはできない。

エ よって、相違点5に含まれる他の事項や、本件発明1と甲5発明との他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5に記載された発明、及び甲2と甲3に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由3により本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。

オ そして、本件発明3、4、5が本件発明1を引用する場合については、本件発明1と同様の理由で、甲5に記載された発明、及び甲2と甲3に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由3により本件発明3?5に係る特許を取り消すことはできない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ベース樹脂と(b)溶剤と(c)活性剤と(d)増粘剤とを含むソルダペースト用フラックスであって、
前記ベース樹脂(a)はロジンを含み、
前記ベース樹脂(a)は軟化点が130℃を超える樹脂(a-1)と軟化点が130℃以下の樹脂(a-2)とからなり、
前記軟化点が130℃を超える樹脂(a-1)の配合量はソルダペースト用フラックス全量に対して0重量%超5重量%以下であり、
前記軟化点が130℃以下の樹脂(a-2)として、その酸価が300mgKOH/gを超える樹脂(a-2’)が含まれることを特徴とするソルダペースト用フラックス。
【請求項2】
(a)ベース樹脂と(b)溶剤と(c)活性剤と(d)増粘剤とを含むバンプ形成用洗浄用ソルダペースト用フラックスであって、
前記ベース樹脂(a)はロジンを含み、
前記ベース樹脂(a)は軟化点が130℃以下の樹脂(a-2)のみからなり、
前記軟化点が130℃以下の樹脂(a-2)として、その酸価が300mgKOH/gを超える樹脂(a-2’)が含まれることを特徴とするバンプ形成用洗浄用ソルダペースト用フラックス。
【請求項3】
前記軟化点が130℃以下で酸価が300mgKOH/gを超える樹脂(a-2’)の配合量はソルダペースト用フラックス全量に対して5重量%から15重量%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のソルダペースト用フラックス。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のソルダペースト用フラックスと金属粉とを含むソルダペーストであって、
前記金属粉は、Sn-Ag系鉛フリーはんだ合金粉末またはSn-Ag-Cu系鉛フリーはんだ合金粉末であり、
前記金属粉に含まれるAgの総含有量は前記金属粉全量に対して1重量%以上であることを特徴とするソルダペースト。
【請求項5】
前記金属粉は、Sn-Ag系鉛フリーはんだ合金粉末またはSn-Ag-Cu系鉛フリーはんだ合金粉末であり、
前記金属粉に含まれるAgの総含有量は前記金属粉全量に対して2.7重量%超であることを特徴とする請求項4に記載のソルダペースト。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-01-28 
出願番号 特願2013-226073(P2013-226073)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 市川 篤大畑 通隆  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 ▲辻▼ 弘輔
亀ヶ谷 明久
登録日 2017-11-10 
登録番号 特許第6240467号(P6240467)
権利者 株式会社タムラ製作所
発明の名称 ソルダペースト用フラックスおよびソルダペースト  
代理人 太田 洋子  
代理人 太田 洋子  

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