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審決分類 審判 全部申し立て 1項2号公然実施  A46B
審判 全部申し立て 1項1号公知  A46B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A46B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A46B
管理番号 1349698
異議申立番号 異議2018-701009  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-13 
確定日 2019-03-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第6341527号発明「歯ブラシ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6341527号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6341527号の請求項1?9に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)3月9日(優先権主張2016年3月9日)を国際出願日とする出願であって、平成30年5月25日にその特許権の設定登録がされ、平成30年6月13日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許権に対し、平成30年12月13日に特許異議申立人萩原真紀は、特許異議の申立てを行った。

2 本件発明
特許第6341527号の請求項1?9に係る特許に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」ないし「本件発明9」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には毛束が植設され、
下記の方法(α)で測定される前記ヘッド部の撓み量Aと、下記の方法(β)で測定される前記ネック部の撓み量Bとの積が0.8?10であることを特徴とする歯ブラシ。
方法(α):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ヘッド部と前記ネック部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ヘッド部の撓み量Aとする。
方法(β):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ネック部と前記ハンドル部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から50±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ネック部の撓み量Bとする。
【請求項2】
前記ヘッド部の撓み量Aと、前記ネック部の撓み量Bとの積が2?10であることを特徴とする請求項1に記載の歯ブラシ。
【請求項3】
下記の方法(α’)で測定される前記ヘッド部の撓み量A’と、前記ネック部の撓み量Bとの積が2.5?12であることを特徴とする請求項1又は2に記載の歯ブラシ。
方法(α’):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ヘッド部と前記ネック部との境界の位置から前記ハンドル部側に10mmずれた位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ヘッド部の撓み量A’とする。
【請求項4】
ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には毛束が植設され、
下記の方法(α’)で測定される前記ヘッド部の撓み量A’と、下記の方法(β)で測定される前記ネック部の撓み量Bとの積が2.5?12であることを特徴とする歯ブラシ。
方法(α’):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ヘッド部と前記ネック部との境界の位置から前記ハンドル部側に10mmずれた位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ヘッド部の撓み量A’とする。
方法(β):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ネック部と前記ハンドル部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から50±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ネック部の撓み量Bとする。
【請求項5】
前記ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmであることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項6】
前記ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmであり、かつ、前記ネック部の最小の幅と最小の厚さのうちの小さい方が3.0?4.5mmであることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項7】
前記ネック部の最小の幅が3.0?4.5mmであることを特徴とする請求項6に記載の歯ブラシ。
【請求項8】
前記毛束を構成する用毛の毛先強度が1.7?3.0Nであることを特徴とする請求項1?7のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項9】
前記ハンドル体の材質がポリプロピレン樹脂である、請求項1?8のいずれか一項に記載の歯ブラシ。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人萩原真紀は、証拠として以下の甲第1号証を提出し、本件請求項1?9は甲第1号証に基づいて新規性又は進歩性が欠如しているので、特許法第29条第1項又は第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?9に係る特許は特許法第113条第2号により取り消されるべきものである旨(以下、「申立理由1」という。)主張する。
また、特許異議申立人萩原真紀は、証拠として以下の甲第2号証及び甲第3号証を提出し、本件請求項1?9は甲第2号証又は甲第3号証に基づいて新規性又は進歩性が欠如しているので、特許法第29条第1項又は第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?9に係る特許は特許法第113条第2号により取り消されるべきものである旨(以下、「申立理由2」という。)主張する。

甲第1号証:特開2013-118944号公報
甲第2号証:イ号歯ブラシ(ライオン株式会社製:商品名「DENT.MAXIMA」)の写真
甲第3号証:ロ号歯ブラシ(サンスター株式会社製:商品名「BUTLER」)の写真

4 当審の判断
4.1 申立理由1について
特許異議申立書には、特許異議申立人が主張する申立理由1について、本件発明1ないし本件発明7及び本件発明9が特許法第29条第1項第1号に規定する発明ないし同法同条同項第3号に規定する発明のいずれに該当するという理由であるのか、また本件発明1ないし本件発明9が同法同条同項第1号に規定する発明ないし同法同条同項第3号に規定する発明のいずれに基づいて当業者が容易に発明をすることができたという理由であるのか、明示的には記載されていない。
しかしながら、甲第1号証は、本件出願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であり、かつ申立理由1に係る特許異議申立人の主張からみて、申立理由1は、本件発明1ないし本件発明7及び本件発明9は、甲第1号証に記載されているから、特許法第29条第1項第第3号に規定する発明に該当し、また本件発明1ないし本件発明9は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたというものであると解することが相当である。
(1)甲第1号証の記載
甲第1号証には、特許異議申立書において特許異議申立人が引用する以下の記載がある。
ア 「歯ブラシ1は、平面視略四角形のヘッド部2と該ヘッド部2に延設されたネック部4と該ネック部4に延設されたハンドル部6とが一体成形された略長尺状のハンドル体10と、ヘッド部2に設けられた植毛部(不図示)とを備える」(段落0011)
イ 「ハンドル体10の材質は、・・・例えば、・・・以上の樹脂(以下、硬質樹脂ということがある)が好ましく、」(段落0012)
ウ 「ハンドル体10の長さL1は、例えば、150?200mmとされる。」(段落0014)
エ 「ヘッド部2の幅W1は、・・・5?13mmとされる。
ヘッド部2の厚さT1は、・・・1.5?5mmが好ましく、2?3mmがより好ましい。
ヘッド部2の長さL3は、・・・10?26mmの範囲で適宜決定される。」(段落0016)
オ 「植毛穴22の形状は、・・・楕円等の円形、・・・四角形等の多角形等が挙げられる。
植毛穴22の数量は、・・・10?60とされる。
植毛穴22の直径は、・・・1?3mmとされる。
植毛穴22の配列パターンは、・・・碁盤目状や・・・いかなる配列パターンであってもよい。」(段落0017)
カ 「毛束を構成する用毛としては、・・・(テーパー毛)、・・・(ストレート毛)が挙げられる。」(段落0018)
キ 「用毛の材質は、例えば、6-12ナイロン、」(段落0019)
ク 「厚さt1/幅w1で表される比が、0.95?1.05であることをいう。・・・
厚さt1は、・・・3.0?4.0mmが好ましく、3.0?3.5mmがより好ましい。」(段落0025)
ケ 「厚さt2/幅w2で表される比が、0.95?1.05であるこという。・・・
厚さt2は、・・・3.0?6.0mmが好ましく、4.0?5.0mmがより好ましい。」(段落0026)
コ 「厚さt3/幅w3で表される比は、・・・0.50?0.95が好ましく、0.70?0.90がより好ましい。
厚さt3は、・・・6?12mmが好ましく、8?10mmがより好ましい。・・・
幅w3は、・・・8?20mmが好ましく、10?15mmがより好ましい。・・・」(段落0028)
サ 「ネック部4の長さは、ヘッド部の長さL3を勘案して決定でき、例えば、ハンドル体先端9からネック部後端P2までの長さL2が、好ましくは70?100mmとなる長さとされる。」(段落0029)
本件請求項1?9の記載からみて、本件発明1?9は、歯ブラシの、ヘッド部とネック部とハンドル部とを備えるハンドル体の撓み量を特定するものであるところ、甲第1号証には、特許異議申立人が引用した記載ア?サ以外にも、ハンドル体10の撓み量に影響を及ぼす事項に関する具体的な記載がある。
ハンドル体10の材質について、次の記載がある。
シ 「ハンドル体10の材質は、ハンドル体10に求める剛性や機械特性等を勘案して決定でき、例えば、曲げ弾性率(JIS K7203)500MPa以上の樹脂(以下、硬質樹脂ということがある)が好ましく、曲げ弾性率2000MPa以上の樹脂がより好ましい。ハンドル体10に用いられる樹脂の曲げ弾性率の上限は特に限定されないが、例えば3000MPaとされる。
曲げ弾性率500MPa以上の樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、セルロースプロピオネート(CP)、ポリアリレート、ポリカーボネート、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂(AS)等が挙げられ、中でも、曲げ弾性率2000MPa以上であるPOM、PEN、PBT等が好ましい。曲げ弾性率2000MPa以上の樹脂を用いることで、ヘッド部2を薄くし、ネック部4を細くして、口腔内での操作性を高められ、かつハンドル体10の破損を防止できる。」(段落0012)(下線(当審が付加した。)が付された記載は、特許異議申立人が引用している記載(記載イ)である。)
ネック部の断面輪郭及び断面積について、以下の記載がある。
ス 「ネック部4は、ヘッド部2とハンドル部6とを接続するものであり、ヘッド部2からハンドル部6に向かうに従い拡径する形状とされている。
ネック部4は、ヘッド部2とネック部4の境界(即ち、ネック部先端)P1が最も小さい断面積とされ、ネック部後端P2が最も大きい面積とされている。ネック部先端P1における断面積は、ハンドル体10の材質を勘案して決定でき、例えば、材質が曲げ弾性率2000MPa以上の樹脂である場合、7?12.6mm^(2)が好ましい。上記下限値以上であれば、ネック部4の強度が十分なものとなり、上記上限値以下であれば口腔内での操作性をより高められる。
ネック部後端P2の断面積は、ハンドル体10の材質を勘案して決定でき、例えば、材質が曲げ弾性率2000MPa以上の樹脂である場合、60?150mm^(2)が好ましい。上記範囲内であればネック部4の撓み量を適切に規制でき、適切なブラッシング圧で清掃対象部位を清掃できる。
ネック部先端P1は、ヘッド部2の平面視形状の隅切を形成する曲線の終点(即ち、隅切を形成する曲線の曲がり方向が変化する位置)である。また、ネック部後端P2は、平面視において、ネック部4の拡幅が終了する位置である。」(段落0023)
セ 「ネック部4は、ヘッド部2からハンドル部6に向かうに従い、断面輪郭が変化するものとされている。なお、本稿において断面輪郭とは、長さ方向に直交する断面の輪郭である。
図1?2に示すように、本実施形態のネック部4は、ネック部先端P1の断面輪郭が略円形とされ(ネック部先端P1を含み断面輪郭が略円形とされた部分を円形部40とする)、この略円形の断面輪郭がハンドル部6に向かうに従い、略四角形の断面輪郭となり(断面輪郭が略四角形とされた部分を四角形部42とする)、さらに略四角形の断面輪郭がハンドル部6に向かうに従い、略六角形の断面輪郭となる(ネック部後端P2を含み断面輪郭が略六角形とされた部分を多角形部44とする)ものとされている。多角形部44からハンドル体後端7にかけて、ハンドル体10の両側面には稜線46、46が形成されている。
なお、円形部40と四角形部42と多角形部44とは、ネック部4の断面輪郭が徐々に変化するように連続的に形成されている。略四角形とは、頂部が曲線で隅切りされた形状を含み、略六角形とは、頂部が曲線で隅切りされた形状を含む概念である。また、図2中の符号Qは、円形部40の断面輪郭の中心線である。」(段落0024)
ソ 「図2(a)に示すように、円形部40は、断面輪郭が略真円形とされている。略真円形とは、厚さt1/幅w1で表される比が、0.95?1.05であることをいう。円形部40は、断面輪郭が略真円形とされていることで、撓み方向が規制されにくくなり、植毛面20の向きが清掃対象部位に応じて変動し、清掃効果をより高められる。
厚さt1は、ハンドル体10の材質を勘案して決定でき、例えば、材質が曲げ弾性率2000MPa以上の樹脂である場合、3.0?4.0mmが好ましく、3.0?3.5mmがより好ましい。上記下限値以上であれば撓み量を適度に規制でき、上記上限値以下であれば口腔内での操作性をより高められる。
幅w1は、厚さt1と同様である。」(段落0025)(下線(当審が付加した。)が付された記載は、特許異議申立人が引用している記載(記載ク)である。)
タ 「図2(b)に示すように、四角形部42は、断面輪郭が略正方形とされ、この略正方形は、ネック部4の表面、裏面及び側面で各辺が形成されたものである。略正方形とは、厚さt2/幅w2で表される比が、0.95?1.05であるこという。四角形部42は、断面輪郭が略正方形とされ、かつ各辺がネック部4の表面、裏面及び側面で形成されているため、撓み方向がネック部4の厚さ方向又は幅方向に規制される。
厚さt2は、ハンドル体10の材質を勘案して決定でき、例えば、材質が曲げ弾性率2000MPa以上の樹脂である場合、3.0?6.0mmが好ましく、4.0?5.0mmがより好ましい。上記下限値以上であれば撓み方向を十分に規制でき、上記上限値以下であれば口腔内での操作性をより高められる。
幅w2は、厚さt2と同様である。」(段落0026)(下線(当審が付加した。)が付された記載は、特許異議申立人が引用している記載(記載ケ)である。)
チ 「図2(c)に示すように、多角形部44は、断面輪郭が略六角形とされている。この略六角形は、ネック部4の両側面に頂部50、50が位置する形状とされ、この頂部50が連なって、稜線46の一部を形成する。前記略六角形は、上辺52がネック部4の表面で形成され、上辺52に対向する下辺54がネック部4の裏面で形成された形状であり、幅w3よりも厚さt3が短い、即ち、厚さ方向に扁平な形状とされている。多角形部44は、このような断面輪郭とされていることで、側面に形成された稜線46によって幅方向に撓みにくいものとされ、厚さ方向に扁平であるために厚さ方向に撓みやすいものとされている。さらに、多角形部44は、表面及び裏面が平面とされているため厚さ方向の撓みが規制されにくくなっている。」(段落0027)
ツ 「厚さt3/幅w3で表される比は、ハンドル体10の材質を勘案して決定でき、例えば、0.50?0.95が好ましく、0.70?0.90がより好ましい。
厚さt3は、ハンドル体10の材質を勘案して決定でき、例えば、材質が曲げ弾性率2000MPa以上の樹脂である場合、6?12mmが好ましく、8?10mmがより好ましい。上記下限値以上であれば撓み方向を十分に規制でき、上記上限値以下であればネック部4がよりしなやかに撓み、ブラッシング圧をより適切なものにできる。
幅w3は、ハンドル体10の材質を勘案して決定でき、例えば、材質が曲げ弾性率2000MPa以上の樹脂である場合、8?20mmが好ましく、10?15mmがより好ましい。上記下限値以上であれば幅方向の撓みを十分に規制でき、上記上限値以下であれば操作性をより高められる。」(段落0028)(下線(当審が付加した。)が付された記載は、特許異議申立人が引用している記載(記載コ)である。)
テ 「ネック部4の長さは、ヘッド部の長さL3を勘案して決定でき、例えば、ハンドル体先端9からネック部後端P2までの長さL2が、好ましくは70?100mmとなる長さとされる。長さL2が上記下限値以上であれば、口腔内での操作性をより高められ、上記上限値以下であればネック部4の撓み量を適切に規制できる。
また、ハンドル体先端9から稜線46の先端(稜線先端)47までの長さL4は、60mm以上が好ましく、65mm以上がより好ましい。長さL4の上限は、例えば90mmとされる。長さL4が上記下限値以上であれば、稜線46が口腔内に接するのを防止でき、清掃時に生じる違和感を防止できる。長さL4が上記上限値以下であれば、ネック部4の撓み量を適切に規制できる。」(段落0029)(下線(当審が付加した。)が付された記載は、特許異議申立人が引用している記載(記載サ)である。)
更に、甲第1号証に記載された発明の歯ブラシの実験例について、表1とともに、次の記載がある。
ト 「(実験例1?6)
表1の仕様に従い、図1と同様の歯ブラシを作製した。各例の歯ブラシは、ハンドル体の長さL1:185mm、ハンドル体先端からネック部後端までの長さL2:75mm、ヘッド部の長さL3:29mm、ヘッド部の幅W1:9.7mmであった。ヘッド部には、太さ7.5milの用毛(PBT製)23本を束ねて毛束とし、この毛束を図1に示す植毛パターンで植設して、植毛部を設けた。
得られた歯ブラシについて、折れ強度、口腔内操作性及びフィット感を評価し、その結果を表1に示す。
表中のA-A断面は、図1のA-A断面同様にネック部先端の断面であり、表中のC-C断面は、図1のC-C断面同様にネック部後端の断面である。表中B-B断面は、ハンドル体先端からハンドル体後端に向かう60mmの位置での断面である。」(段落0042)
(2)本件発明1についての判断
本件発明1は、本件の請求項1に記載されているとおり、ヘッド部とネック部との境界の位置を固定した状態において植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げた際の前記ヘッド部の撓み量A、及び前記ネック部とハンドル部との境界の位置を固定した状態において前記植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から50±3%の位置に200gの錘を吊り下げた際の前記ネック部の撓み量Bにより特定されるものであって、前記植毛部の長軸方向の長さについて、本件特許明細書には「なお、「植毛部の長軸方向の長さ」とは、ヘッド部を平面視したときの最も先端側に位置する植毛穴の先端と、最も後端側に位置する植毛穴の後端との距離を意味する。」(段落0026)との記載がある。
一方、記載ア?ト(表1を含む)及び甲第1号証のその余の記載をみても、甲第1号証には、本件発明1の「植毛部の長軸方向の長さ」に相当する事項についての記載はない。
錘の重さが同じであっても、錘を吊り下げる位置に応じてヘッド部及びネック部の撓み量が変化することは明らかであるから、甲第1号証には、甲第1号証に記載された発明の歯ブラシについて、ヘッド部2とネック部4との境界P1の位置を固定した状態において植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げた際のヘッド部2の撓み量、及びネック部4とハンドル部6との境界P2の位置を固定した状態において前記植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から50±3%の位置に200gの錘を吊り下げた際のネック部4の撓み量が記載されているとも、示唆されているともいえない。
したがって、甲第1号証には、本件発明1を特定する事項であるヘッド部の撓み量Aに相当するヘッド部2の撓み量と本件発明1を特定する事項であるネック部の撓み量Bに相当するネック部4の撓み量との積が0.8?10である歯ブラシが記載されているということはできず、また甲第1号証に記載された発明の歯ブラシにおいて、ヘッド部2の前記撓み量とネック部4の前記撓み量との積を0.8?10とすることが当業者にとって容易であるともいえない。
そうすると、その余の事項について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明4についての判断
本件発明4は、本件の請求項4に記載されているとおり、ヘッド部とネック部との境界の位置からハンドル部側に10mmずれた位置を固定した状態において植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げた際の前記ヘッド部の撓み量A’、及び前記ネック部とハンドル部との境界の位置を固定した状態において前記植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から50±3%の位置に200gの錘を吊り下げた際の前記ネック部の撓み量Bにより特定されるものであって、前記植毛部の長軸方向の長さについて、先に述べたとおり(前記(2)参照)、本件特許明細書には「なお、「植毛部の長軸方向の長さ」とは、ヘッド部を平面視したときの最も先端側に位置する植毛穴の先端と、最も後端側に位置する植毛穴の後端との距離を意味する。」(段落0026)との記載がある。
本件発明1について検討したのと同様に(前記(2)参照)、甲第1号証には、本件発明4の「植毛部の長軸方向の長さ」に相当する事項についての記載はない。
そうすると、本件発明1について先に検討した理由(前記(2)参照)と同様の理由により、甲第1号証には、甲第1号証に記載された発明の歯ブラシについて、ヘッド部2とネック部4との境界P1からハンドル部6側に10mmずれた位置を固定した状態において植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げた際のヘッド部2の撓み量、及びネック部4とハンドル部6との境界P2の位置を固定した状態において前記植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から50±3%の位置に200gの錘を吊り下げた際のネック部4の撓み量が記載されているとも、示唆されているともいえない。
したがって、甲第1号証には、本件発明4を特定する事項であるヘッド部の撓み量A’に相当するヘッド部2の撓み量と本件発明4を特定する事項であるネック部の撓み量Bに相当するネック部4の撓み量との積が2.5?12である歯ブラシが記載されているということはできず、また甲第1号証に記載された発明の歯ブラシにおいて、ヘッド部2の前記撓み量とネック部4の前記撓み量との積を2.5?12とすることが当業者にとって容易であるともいえない。
そうすると、その余の事項について検討するまでもなく、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)本件発明2、3及び5ないし9についての判断
本件発明2及び本件発明3は、それぞれ、本件発明1に対して、さらに本件の請求項2及び3に記載された技術的事項を追加したものである。よって、前記(2)に示した理由と同様の理由により、本件発明2及び本件発明3は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
本件発明5ないし本件発明9は、それぞれ、本件発明1又は本件発明4に対して、さらに本件の請求項5ないし9に記載された技術的事項を追加したものである。よって、前記(2)又は(3)に示した理由と同様の理由により、本件発明5ないし本件発明9は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(5)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲第1号証の記載ア?サに基づいて作製した、甲第1号証に開示されている歯ブラシの実物([甲]、[乙]、[丙])は、本件発明1ないし本件発明9と同じ方法によって「撓み量A」、「撓み量B」及び「撓み量A’」を測定すると、本件発明1を特定する事項である、本件の請求項1に記載された方法(α)で測定されるヘッド部の撓み量Aと、本件の請求項1に記載された方法(β)で測定されるネック部の撓み量Bとの積が0.8?10であるということ、及び本件発明4を特定する事項である、本件の請求項4に記載された方法(α’)で測定されるヘッド部の撓み量A’と、本件の請求項4に記載された方法(β)で測定されるネック部の撓み量Bとの積が2.5?12であるということを示している旨主張している(「3(4)[c]」参照)。
しかしながら、甲第1号証に記載された発明の歯ブラシは、甲第1号証の請求項1に記載されているように、ネック部4はヘッド部2からハンドル部6に向かうに従い断面輪郭が変化する歯ブラシ1であって、「前記ネック部4は、前記ヘッド部2寄りの断面輪郭が略円形とされ、前記の略円形の断面輪郭が前記ハンドル部6に向かうに従い、表面、裏面及び側面で各辺が形成された略四角形の断面輪郭となり、さらに前記の略四角形の断面輪郭が前記ハンドル部6に向かうに従い、両側面に頂部が位置し厚さ方向に扁平な略多角形となる」という事項を備えるものであるが、特許異議申立書の記載では、特許異議申立人が甲第1号証に開示されている歯ブラシの実物と主張する歯ブラシ[甲]、[乙]、[丙]のネック部の断面輪郭がどのようなものであるか明らかではない。
「甲第1号証に開示されている歯ブラシの実物」というには、単に甲第1号証に記載されている数値範囲から部分的に数値のみを抜き出し、部分的に抜き出した数値に基づいて製造した歯ブラシであるだけでは足りず、例えば甲第1号証に記載された一実施例に基づいて製造された発明の実施品とし得るものであることが必要であると解されるが、特許異議申立書の記載からは、そもそも、歯ブラシ[甲]、[乙]、[丙]が甲第1号証に開示された歯ブラシの発明の実施品とし得るものであるか否か確認することができない。
更に、断面積が同じであっても、断面輪郭が異なれば当該断面の断面二次モーメントも異なるから、断面輪郭に応じて撓み量は変化する。この点からみても、歯ブラシ[甲]、[乙]、[丙]のネック部の断面輪郭が不明である特許異議申立書の記載からは、甲第1号証に開示された歯ブラシにおいて、前記撓み量Aと前記撓み量Bとの積が0.8?10の範囲内にあるということも、また前記撓み量A’と前記撓み量Bとの積が2.5?12の範囲内にあるということもできない。
また、特許異議申立人は、特許異議申立書の[表2]に記載された内容は、本件発明1ないし本件発明9と同じ方法によって、歯ブラシ[甲]、[乙]、[丙]の前記撓み量A、前記撓み量B及び前記撓み量A’を測定した結果である旨主張するが、特許異議申立書の記載からは実際に測定した測定場所、日時、測定器具等の測定条件及び測定者等の情報が一切不明であり、また特許異議申立人から当該主張を裏付ける客観的な証拠は提出されていない。よって、[表2]に記載された測定結果自体が信頼性を欠くといわざるを得ない。
したがって、特許異議申立人が主張する申立理由1及び甲第1号証によっては、本件の請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。

4.2 申立理由2について
特許異議申立書には、特許異議申立人が主張する申立理由2について、本件発明1ないし本件発明7及び本件発明9が特許法第29条第1項第1号に規定する発明ないし同法同条同項第3号に規定する発明のいずれに該当するという理由であるのか、また本件発明1ないし本件発明9が同法同条同項第1号に規定する発明ないし同法同条同項第3号に規定する発明のいずれに基づいて当業者が容易に発明をすることができたという理由であるのか、明示的には記載されていない。
甲第2号証及び甲第3号証は、それぞれ、特許異議申立人が本件出願の優先日前に製造されたと主張するイ号歯ブラシ及びロ号歯ブラシの写真であって、イ号歯ブラシ及びロ号歯ブラシそのものではないが、特許異議申立人の主張からみて、申立理由2は、本件発明1ないし本件発明7及び本件発明9は、イ号歯ブラシ又はロ号歯ブラシにより本件出願の優先日前に公然知られている又は公然実施をされているから、特許法第29条第1項第第1号に規定する発明又は同法同条同項第2号に規定する発明に該当し、また本件発明1ないし本件発明9は、イ号歯ブラシ又はロ号歯ブラシにより本件出願の優先日前に公然知られている又は公然実施をされている発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたというものであると解することが相当である。
(1)甲第2号証から把握されるイ号歯ブラシ
イ号歯ブラシの写真である甲第2号証の記載から、イ号歯ブラシについて、以下の事項を看取できる。
ア ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には毛束が植設されている。
イ ハンドル部には、「DENT.MAXIMA」及び「M」の記載がある。
(2)甲第3号証から把握されるロ号歯ブラシ
ロ号歯ブラシの写真である甲第3号証の記載から、ロ号歯ブラシについて、以下の事項を看取できる。
ウ ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には毛束が植設されている。
エ ハンドル部には、「BUTLER」及び「#025M」の記載がある。
(3)判断
特許異議申立人は、イ号歯ブラシは2015年6月25日に製造されていると主張するが、甲第2号証の記載からは、事項ア及びイを理解することはできるが、イ号歯ブラシの製造時期について把握することはできない。さらに、特許異議申立人からは、イ号歯ブラシの製造時期について他の証拠は提出されていない。
また、仮にライオン株式会社製の商品名「DENT.MAXIMA」という歯ブラシが本件出願の優先日前から日本国内又は外国において製造又は販売されていたとしても、そのことのみをもって、イ号歯ブラシが本件出願の優先日前に製造されたものであるとはいえないし、イ号歯ブラシと、本件出願の優先日前に日本国内又は外国において製造又は販売された、ライオン株式会社製の商品名「DENT.MAXIMA」という歯ブラシとが同一であるともいえない。
そうすると、本件発明1ないし本件発明9とイ号歯ブラシを対比するまでもなく、特許異議申立人が提出した証拠によっては、本件発明1ないし本件発明7及び本件発明9は、イ号歯ブラシにより本件出願の優先日前に公然知られている又は公然実施をされているとも、また本件発明1ないし本件発明9は、イ号歯ブラシにより本件出願の優先日前に公然知られている又は公然実施をされている発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたというものであるともいうことができない。
特許異議申立人は、ロ号歯ブラシは2011年に製造されていると主張するが、甲第3号証の記載からは、事項ウ及びエを理解することはできるが、ロ号歯ブラシの製造時期について把握することはできない。さらに、特許異議申立人からは、ロ号歯ブラシの製造時期について他の証拠は提出されていない。
また、仮にサンスター株式会社製の商品名「BUTLER」という歯ブラシが本件出願の優先日前から日本国内又は外国において製造又は販売されていたとしても、そのことのみをもって、ロ号歯ブラシが本件出願の優先日前に製造されたものであるとはいえないし、ロ号歯ブラシと、本件出願の優先日前から日本国内又は外国において製造又は販売された、サンスター株式会社製の商品名「BUTLER」という歯ブラシとが同一であるともいえない。
そうすると、本件発明1ないし本件発明9とロ号歯ブラシを対比するまでもなく、特許異議申立人が提出した証拠によっては、本件発明1ないし本件発明7及び本件発明9は、ロ号歯ブラシにより本件出願の優先日前に公然知られている又は公然実施をされているとも、また本件発明1ないし本件発明9は、ロ号歯ブラシにより本件出願の優先日前に公然知られている又は公然実施をされている発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたというものであるともいうことができない。
更に、特許異議申立人は、特許異議申立書の[表3]に記載された内容は、本件発明1ないし本件発明9と同じ方法によって、イ号歯ブラシ及びロ号歯ブラシの前記撓み量A、前記撓み量B及び前記撓み量A’を測定した結果等である旨主張するが、特許異議申立書の記載からは実際に測定した測定場所、日時、測定器具等の測定条件及び測定者等の情報が一切不明であり、また特許異議申立人から当該主張を裏付ける客観的な証拠は提出されていない。よって、[表3]に記載された測定結果自体が信頼性を欠くといわざるを得ない。
なお、甲第2号証であるイ号歯ブラシの写真及び甲第3号証であるロ号歯ブラシの写真の記載からは、前記(1),(2)で検討したとおり、記載ア?エを看取することができるにとどまり、前記撓み量A、前記撓み量B及び前記撓み量A’のいずれをも看取することができない。
したがって、特許異議申立人が主張する申立理由2並びに甲第2号証及び甲第3号証によっては、本件の請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。

5.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件の請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-02-20 
出願番号 特願2018-504585(P2018-504585)
審決分類 P 1 651・ 111- Y (A46B)
P 1 651・ 112- Y (A46B)
P 1 651・ 113- Y (A46B)
P 1 651・ 121- Y (A46B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大宮 功次  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 佐々木 芳枝
久保 竜一
登録日 2018-05-25 
登録番号 特許第6341527号(P6341527)
権利者 ライオン株式会社
発明の名称 歯ブラシ  
代理人 加藤 広之  
代理人 川越 雄一郎  
代理人 田▲崎▼ 聡  

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