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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23F
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23F
管理番号 1349701
異議申立番号 異議2018-700944  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-22 
確定日 2019-02-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6329551号発明「コーヒー脂質含量の少ない乳入りコーヒー飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6329551号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6329551号の請求項1?6に係る特許についての出願は、2014年9月2日(優先権主張 2013年9月2日、日本国)を国際出願日とする特許出願であって、平成30年4月27日にその特許権の設定登録がされ、同年5月23日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、同年11月22日に特許異議申立人加藤浩志(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6329551号の請求項1?6の特許に係る発明は、その特許請求の範囲に次のとおり記載されている(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。)。
「【請求項1】
(A)パルミチン酸カーウェオール、(B)パルミチン酸カフェストール、及び(C)乳成分を含有する、高温殺菌済のコーヒー飲料であって、
飲料1kgあたりのパルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストールの総量が2.25mg/kg以上6.5mg/kg以下、パルミチン酸カーウェオール/パルミチン酸カフェストールの比率が1.90以上、乳成分の含有量が0.1?10質量%、糖類の含有量が飲料100mLあたり3g以下である、上記コーヒー飲料。
【請求項2】
乳成分が牛乳を含む、請求項1に記載のコーヒー飲料。
【請求項3】
アセスルファムカリウムを含有する、請求項1または2に記載のコーヒー飲料。
【請求項4】
pH調整剤を含有し、pHが5.5?7.0である、請求項1?3のいずれかに記載のコーヒー飲料。
【請求項5】
(A)パルミチン酸カーウェオール、(B)パルミチン酸カフェストール、及び(C)乳成分を含有するコーヒー飲料の製造方法であって、
飲料1kgあたりのパルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストールの総量が2.25mg/kg以上6.5mg/kg以下、パルミチン酸カーウェオール/パルミチン酸カフェストールの比率が1.90以上、乳成分の含有量が0.1?10質量%、糖類の含有量が飲料100mLあたり3g以下である調合液を調製する工程を含む、上記方法。
【請求項6】
(A)パルミチン酸カーウェオール、(B)パルミチン酸カフェストール、及び(C)乳成分を含有するコーヒー飲料における加熱臭を低減する方法であって、
飲料1kgあたりのパルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストールの総量が2.25mg/kg以上6.5mg/kg以下、パルミチン酸カーウェオール/パルミチン酸カフェストールの比率が1.90以上、乳成分の含有量が0.1?10質量%、糖類の含有量が飲料100mLあたり3g以下である調合液を調製する工程を含む、上記方法。」

第3 申立理由の概要及び提出した証拠
1.申立理由の概要
申立人は、甲第1?4号証を提出し、本件特許は、以下の申立理由1?3により、取り消されるべきものである旨主張している。
(1) 申立理由1(特許法第29条第2項)
本件発明1?6は、甲第1号証に記載された発明、甲第2?4号証に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第113条第2号に該当する。
(2) 申立理由2 (特許法第36条第4項第1号)
本件特許明細書には不備があり、本件発明1?6について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は、同法第113条第4号に該当する。
(3) 申立理由3 (特許法第36条第6項第1号)
本件発明1?6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は、同法第113条第4号に該当する。
2.証拠方法
(1) 甲第1号証:特開2012-191922号公報
(2) 甲第2号証:Food and Chemical Toxicology,1997,35,p.547-554
(3) 甲第3号証:Braz.J.Plant Physiol.,2006,18(1),p.201-216
(4) 甲第4号証:特開2012-105642号公報

第4 甲号証の記載事項
甲第1?4号証には、それぞれ以下の記載がある。
1.甲第1号証
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化剤と水酸化ナトリウムとミルク成分を含有し、ミルク成分による脂肪分の重量%(X)と無脂乳固形分の重量%(Y)が以下の範囲:
1.29X+0.17≧Y≧3.1X-2.1
である、容器詰めコーヒー飲料。
【請求項2】
乳化剤と水酸化ナトリウムの重量比が1:1?1.5である、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
陽圧容器に充填されている、請求項1または2に記載の飲料。
【請求項4】
飲料の内容量が250mL以上である、請求項1?3のいずれかに記載の飲料。
【請求項5】
飲料のpHが5.0?7.0である、請求項1?4のいずれかに記載の飲料。
【請求項6】
乳化剤、水酸化ナトリウム、ミルク成分をコーヒー分に添加して調合液を得る工程、
調合液を容器に充填する工程、
を含み、飲料に含まれる脂肪分の重量%(X)と無脂乳固形分の重量%(Y)が以下の範囲:
1.29X+0.17≧Y≧3.1X-2.1
である、容器詰めコーヒー飲料の製造方法。
【請求項7】
乳化剤、水酸化ナトリウム、ミルク成分をコーヒー分に添加することを含み、飲料に含まれる脂肪分の重量%(X)と無脂乳固形分の重量%(Y)が以下の範囲:
1.29X+0.17≧Y≧3.1X-2.1
である、容器詰めコーヒー飲料における開栓時の噴出しを抑制する方法。」
「【0021】
本発明のコーヒー飲料はミルク入りであり、ミルク成分が添加される。本発明においてミルク成分とは、コーヒー飲料にミルク風味やミルク感を付与するために添加する成分を指し、主に乳、牛乳及び乳製品のことをいう。例えば、生乳、牛乳、特別牛乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、乳飲料などが挙げられ、乳製品としては、クリーム、濃縮ホエイ、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、バターミルクパウダー、調整粉乳などが挙げられる。また、発酵乳や乳酸菌飲料も乳分として挙げられる。ミルク成分としては、風味の面から、牛乳またはクリームを使用することが好ましい。クリームとは、乳脂肪含量(以下、「脂肪率」ということがある)が18質量%以上のものである。」
「【0025】
さらに本発明のミルク入りコーヒー飲料には、所望する嗜好や設計に応じて、適宜、甘味成分及びpH調整剤等の成分を添加してもよい。
甘味成分とは、甘味を呈する成分のことをいう。例えば、ショ糖、異性化糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、麦芽糖、キシロース、異性化乳糖、フラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、カップリングシュガー、パラチノース、マルチトール、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、パラチニット、還元デンプン糖化物、ステビア、グリチルリチン、タウマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテーム、サッカリン、アセスルファムK、スクラロース、ズルチンなどが挙げられる。」
「【0027】
本発明は、水酸化ナトリウムをコーヒー飲料の香味改善剤として使用するものであるが、上記pH調整剤の一部又は全部として用いることもできる。本発明のミルク入りコーヒー飲料においては、水酸化ナトリウム及び/又は上記に例示したpH調整剤を用い、殺菌後の製品のpH値が5.0?7.0、好ましくは5.3?6.5となるように調整する。」
「【0029】
本発明の容器詰ミルク入りコーヒー飲料は、水酸化ナトリウム及び乳化剤を含有するコーヒー分を殺菌し容器に充填して製造する。より具体的には、コーヒー分に乳化剤及び水酸化ナトリウムを添加して、必要に応じて上記各種成分(乳分、甘味成分、pH調整剤など)を添加して調合液を得、この調合液を容器に充填して加熱殺菌するか、又は調合液を加熱殺菌した後に容器に充填して、製造する。」
「【実施例】
【0035】
コーヒー飲料の製造
ミルク入りコーヒー飲料を以下の方法により製造した。まず、インスタントコーヒー(イグアス社製)に適量の温水を添加してコーヒー分(コーヒー固形分:1.3重量%)を得た。これに乳化剤(消泡剤)としてアワブレークG109(太陽化学株式会社製)を飲料全体に対し0.008重量%添加、ミルク成分として成分無調整牛乳(高梨乳業社製)を飲料全体に対し5.53重量%添加した。さらに、pH調整剤として、飲料全体に対し0.03重量%の水酸化ナトリウム(NaOH)を添加して、pH6.0のコーヒー飲料を得た。」
「【0039】
開栓時の噴出しの評価
上記のように製造したミルク入りコーヒー飲料300gを、広口ボトル缶(ボトル容量343mL、口径(内径)Φ31mm)に缶内圧が0.09kg/cm^(2)、ヘッドスペース率が約13%となるように充填し、レトルト加熱殺菌(120?125℃、5?15分)して、容器詰ミルク入りコーヒー飲料を得た。得られた容器詰飲料を上下に10回激しく振盪し、振盪直後に開栓して噴出しを観察した。」
2.甲第2号証
「Instant coffee. Was prepared by mixing 170 ml boiling water with 2g instant coffee granules per cup. Two diffrent commercial coffee blends were examined.」(549ページ左欄53?56行)
(翻訳:170mlの熱湯に2gのインスタントコーヒー顆粒を混ぜてインスタントコーヒーを調整。2種類の市販のコーヒーブレンドについて試験した。)



3.甲第3号証
「The lipid fraction of the coffee bean」(201ページ論文タイトル)
(翻訳:コーヒー豆の脂質成分。)
「The proportions of the free diterpenes with the total content of each are usually smaller than 3.5%」(206ページ左欄9?10行)
(翻訳:エステル化されていなジテルペン類は通常3.5%未満である。)



4.甲第4号証
「【0006】
しかし、これらの方法では香りの低下は改善されるものの、後味については改善されず、コク、香り及び後味のキレの両立について、なお改善が求められていた。
本発明の課題は、コクと香りに富み、かつ後味のキレの良いコーヒー抽出液の製造方法を提供することにある。」
「【0019】
(コーヒー豆)
本発明において使用するコーヒー豆種としては、アラビカ種、ロブスタ種等が挙げられる。コーヒー豆の種類は特に限定されないが、例えば、ブラジル、コロンビア、タンザニア、モカ、キリマンジェロ、マンデリン、ブルーマウンテン等が挙げられる。中でも、コーヒー豆としては、コク、香り及び後味のキレのバランスの観点から、ブラジル産アラビカ種を含むことが好ましい。コーヒー豆は1種でもよいし、複数種をブレンドして用いてもよい。」
「【0060】
実施例1
(第1の工程:水蒸気蒸留による留分の回収)
ベトナム産ロブスタ種の焙煎コーヒー豆(焙煎度L34)と、ブラジル産アラビカ種の焙煎コーヒー豆(焙煎度L16.5)を質量比58/42で合計400g、カラムに仕込んだ。カラム下部から100℃の水蒸気を流量18g/minにて供給し、水蒸気蒸留を行った。カラム上部から出てきた蒸気200gを、凝縮温度95℃にて凝縮させ、焙煎コーヒー豆の質量に対して0.1倍量(40g)の留分を得た。また、得られた留分量は、水蒸気供給量に対し20質量%であった。
【0061】
(第2の工程:原料コーヒー抽出液の調製)
水蒸気蒸留を終えた焙煎コーヒー豆を93℃の熱水にて抽出し、1200gの原料コーヒー抽出液を得た。得られた原料コーヒー抽出液の各成分の分析値は以下の通りであった。
Brix(%):7.84
クロロゲン酸類(CGA)(mg/100g):828.4
ヒドロキシシヒドロキノン(HHQ)(mg/kg):43.8
【0062】
(第3の工程:原料コーヒー抽出液の活性炭処理)
第2の工程で得られた原料コーヒー抽出液1200gに多孔質吸着体として活性炭(白鷺 WH2C 42/80LSS、日本エンバイロケミカルズ(株))を加え、25℃にて処理を行った。活性炭の使用量は、原料コーヒー抽出液の固形分量(94.1g)に対して0.5質量倍(47g)とした。第3の工程後、活性炭をろ過し、水で活性炭を洗浄して、活性炭処理液1782g(固形分量4.04%)を得た。
【0063】
(第4の工程:活性炭処理液と留分の混合)
活性炭処理液1782gと第1の工程で得られた留分12.3gを混合してコーヒー抽出液を得た。このコーヒー抽出液の製造条件及び分析結果を表1に示す。
【0064】
(容器詰コーヒー飲料の調製)
上記コーヒー抽出液をイオン交換水で希釈してBrix1.80に調整し、缶容器に充填後、134℃、90秒の加熱殺菌を行い、容器詰コーヒー飲料を得た。この容器詰コーヒー飲料の分析結果及び官能評価の結果を表2に示す。」
「【0077】
実施例9
実施例1の方法で得られたコーヒー抽出液を65℃、14.6kPaにて固形分40質量%まで濃縮し、得られた濃縮液を-50℃のクールバスで予備凍結したした後、凍結乾燥機(CHRIST社製、ALPHA1-4LSC)により1Paで減圧乾燥し、インスタントコーヒーを得た。
得られたインスタントコーヒーを90℃の温水に溶解し、Brix1.8%のコーヒー溶液に調整し、該コーヒー溶液を分析試料及び官能評価試料とした。官能評価は、専門パネラー3名により参考例2を標準とする相対評価で行い、各パネラーの評点を合計した。分析結果及び官能評価結果を表3に示す。」

第5 判断
1.申立理由1(特許法第29条第2項)
(1) 甲第1号証に記載された発明
上記「第4」「1」の摘記事項を総合し、実施例に着目して100ml当たりのコーヒー飲料として整理すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲1発明」という。)。
「インスタントコーヒー(イグアス社製)に適量の温水を添加してコーヒー分(コーヒー固形分:1.3重量%)を得て、これに乳化剤(消泡剤)としてアワブレークG109(太陽化学株式会社製)を飲料全体に対し0.008重量%添加し、ミルク成分として成分無調整牛乳(高梨乳業社製)を飲料全体に対し5.53重量%添加し、さらにpH調整剤として、飲料全体に対し0.03重量%の水酸化ナトリウム(NaOH)を添加して、pH6.0のコーヒー飲料を得て、このコーヒー飲料300gを、広口ボトル缶(ボトル容量343mL、口径(内径)Φ31mm)に缶内圧が0.09kg/cm^(2)、ヘッドスペース率が約13%となるように充填し、レトルト加熱殺菌(120?125℃、5?15分)した、容器詰ミルク入りコーヒー飲料。」
また、上記甲1発明に関して、製造方法も認識できるので、以下の発明(以下「甲1方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「インスタントコーヒー(イグアス社製)に適量の温水を添加してコーヒー分(コーヒー固形分:1.3重量%)を得て、これに乳化剤(消泡剤)としてアワブレークG109(太陽化学株式会社製)を飲料全体に対し0.008重量%添加し、ミルク成分として成分無調整牛乳(高梨乳業社製)を飲料全体に対し5.53重量%添加し、さらにpH調整剤として、飲料全体に対し0.03重量%の水酸化ナトリウム(NaOH)を添加して、pH6.0のコーヒー飲料を得て、このコーヒー飲料300gを、広口ボトル缶(ボトル容量343mL、口径(内径)Φ31mm)に缶内圧が0.09kg/cm^(2)、ヘッドスペース率が約13%となるように充填し、レトルト加熱殺菌(120?125℃、5?15分)する、容器詰ミルク入りコーヒー飲料の製造方法。」
(2) 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、その機能、作用、用語の意味内容からみて、甲1発明の「容器詰ミルク入りコーヒー飲料」及び「レトルト加熱殺菌(120?125℃、5?15分)した」ことは、それぞれ、本件発明1の「コーヒー飲料」及び「高温殺菌済み」に相当する。
また、甲1発明の「ミルク成分として成分無調整牛乳(高梨乳業社製)を飲料全体に対し5.53重量%添加し」たものは、乳成分の含有量が5.53質量%といえるので、本件発明1の「(C)乳成分を含有する」及び「乳成分の含有量が0.1?10質量%」に相当する。
また、甲1発明は、糖類を添加しておらず、成分無調整牛乳に由来する乳糖を考慮しても、牛乳における乳糖の含有量の割合は小さいので、本件発明1の「糖類の含有量が飲料100mLあたり3g以下である」ものに相当する。
そうしてみると、両発明の一致点、相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「(C)乳成分を含有する、高温殺菌済のコーヒー飲料であって、
乳成分の含有量が0.1?10質量%、糖類の含有量が飲料100mLあたり3g以下である、上記コーヒー飲料。」
(相違点)
コーヒー飲料について、本件発明1は、「(A)パルミチン酸カーウェオール、(B)パルミチン酸カフェストール」含有し、「飲料1kgあたりのパルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストールの総量が2.25mg/kg以上6.5mg/kg以下、パルミチン酸カーウェオール/パルミチン酸カフェストールの比率が1.90以上」と特定しているのに対して、甲1発明は、そのような特定を行っていない点。

そこで、以下に上記相違点について、検討する。
甲1発明の容器詰ミルク入りコーヒー飲料は、インスタントコーヒー(イグアス社製)を用いたものであるものの、(A)パルミチン酸カーウェオール及び(B)パルミチン酸カフェストールについては、甲第1号証には、記載も示唆もするところはない。また、インスタントコーヒー(イグアス社製)に用いられている原料のコーヒー豆の種類(アラビカ種、ロブスタ種、産地など)や、インスタントコーヒの製造方法については不明である。
そして、インスタントコーヒーのカーウェオール及びカフェストールについて、甲第2号証に、市販のインスタントコーヒーがカーウェオールやカフェストールを、それぞれ同程度に0.7又は1.9mg/L含んでいることが記載されている(甲第2号証Table1参照)。
しかしながら、一般に、コーヒー豆は、アラビカ種、ロブスタ種の違いや産地の違いにより、カーウェオール、カフェストールの含有量や両者の比率が異なること(甲第3号証図3、4参照。以下「周知技術1」という。)、インスタントコーヒーの製造が、インスタントコーヒーに応じて種々の工程を経てなされていること(甲第4号証実施例1参照。以下「周知技術2」という。)からすると、銘柄や製造者が不明な甲第2号証の各インスタントコーヒーが、甲1発明に用いられているインスタントコーヒー(イグアス社製)と同じものであるということはできない。
また、上記周知技術1及び周知技術2を踏まえると、インスタントコーヒーによって、カーウェオール、カフェストール含有量は異なるものといえるから、甲1発明のカーウェオールやカフェストールの含有量を、甲1発明のインスタントコーヒーと同じものとはいえない甲第2号証のインスタントコーヒーのカーウェオールやカフェストールの含有量に基づいて推定することはできない。
そうすると、甲第2号証に記載されたインスタントコーヒーに基づいて、甲1発明が、「(A)パルミチン酸カーウェオール、(B)パルミチン酸カフェストール」含有し、「飲料1kgあたりのパルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストールの総量が2.25mg/kg以上6.5mg/kg以下、パルミチン酸カーウェオール/パルミチン酸カフェストールの比率が1.90以上」であるものとはいうことはできないし、また、甲1発明において、上記相違点に係る本件発明1の特定事項を採用する動機付けを見出すこともできない。
また、甲第2号証に記載された、カーウェオールやカフェストールが、それぞれ同程度に0.7又は1.9mg/L含まれ、カーウェオール/カフェストールの比率が1程度となる市販のインスタントコーヒーを、甲1発明のインスタントコーヒーに用いたとしても、パルミチン酸カーウェオール/パルミチン酸カフェストールの比率は1となり、「(A)パルミチン酸カーウェオール、(B)パルミチン酸カフェストール」含有し、「飲料1kgあたりのパルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストールの総量が2.25mg/kg以上6.5mg/kg以下、パルミチン酸カーウェオール/パルミチン酸カフェストールの比率が1.90以上」とすることは導けない。
よって、相違点に係る本件発明1の特定事項は、甲第1号証?甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者であっても容易に想到し得たとすることはできない。

この点に関して、申立人は、甲第2号証の、市販のインスタントコーヒーがカーウェオールやカフェストールを、それぞれ同程度に0.7又は1.9mg/L含んでいること、甲第3号証の、コーヒー豆について、その成分を調べたものについて、エステル化されないジテルペン類は通常3.5%未満であり、甲第3号証のTable3によると、アラビカコーヒーにおいてカーウェオールエステル及びカフェストールエステルのうち、少なくとも40%がパルミチン酸エステルであることを関連付けて、甲第2号証の市販のインスタントコーヒーの(A)パルミチン酸カーウェオール及び(B)パルミチン酸カフェストールの値を求めている(特許異議申立書22?23ページ参照。)。
しかしながら、上記周知技術1及び周知技術2を踏まえると、甲第2号証のコーヒー豆の種類や製造方法が不明な市販のインスタントコーヒーと、甲第3号証で記載されている、コーヒー豆についての、ジテルペン類が通常3.5%未満であること、及びアラビカコーヒーにおいてカーウェオールエステル及びカフェストールエステルのうち、少なくとも40%がパルミチン酸エステルであることを、上記のように関連付ける理由はないから、甲第2号証のインスタントコーヒーの、(A)パルミチン酸カーウェオール及び(B)パルミチン酸カフェストールの値を求めることはできない。
さらに、申立人は、ロブスタ種とアラビカ種とからなるインスタントコーヒーのパルミチン酸カーウェオール/パルミチン酸カフェストールの割合について以下のとおり主張する。
「本件特許明細書【0017】によれば、ロブスタ種にはカフェストールは含まれないが、アラビカ種にはカーウェオールとカフェストールが1:3の割合で含まれるから、甲4のインスタントコーヒーには、カーウェオールとカフェストールがカーウェオール:カフェストール=0.58(ロブスタ種のコーヒーの割合)+0.42(アラビカ種のコーヒーの割合)×0.25(アラビカ種にはカーウェオールとカフェストールが1:3の割合で含まれる):0.42(アラビカ種のコーヒーの割合)×0.75(アラビカ種にはカーウェオールとカフェストールが1:3の割合で含まれる)=0.685:0.315の割合で含まれ、パルミチン酸カーウェオール/パルミチン酸カフェストールの割合が1.90以上という条件を満たしている蓋然性が高いものと認められる。
そして、上記甲4に記載されているように、インスタントコーヒー飲料における組成物の発明において、原料であるコーヒー豆を複数の原産地の特定に応じてブレンドすることは、当該分野における周知技術にすぎない。
してみると、甲1発明のインスタントコーヒーにおいて、甲4記載事項を参酌し、コーヒー飲料における組成物の発明において、原料であるコーヒー豆を複数の原産地の特性に応じてブレンドすることによりパルミチン酸カーウェオール/パルミチン酸カフェストールの割合が1.90以上とすることは当業者ならば適宜なし得る設計事項にすぎない。」(特許異議申立書24ページ9行?25ページ2行。)
しかしながら、上記算出に際して、本件特許明細書の記載を前提に「アラビカ種にはカーウェオールとカフェストールが1:3」としており、また、上記周知技術1を考慮すると、インスタントコーヒーの原料に用いるコーヒー豆の種類や産地により、カーウェオールとカフェストールの含有量や両者の比率が異なることから(甲第3号証の図3の南アメリカ産アラビカ種コーヒーのカーウェオールとカフェストールの割合も参照。)、その前提において申立人の主張は採用できない。
また、そもそも甲1発明のインスタントコーヒーとして、甲第2号証や甲第4号証のインスタントコーヒーを採用する動機付けはなく、甲第2号証のインスタントコーヒーを採用することと、甲第4号証のインスタントコーヒーを採用することが両立するともいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。

以上のとおりであるので、上記相違点に係る本件発明1の特定事項を採用することは、当業者といえども容易に想到し得たものとすることはできない。
したがって、本件発明1は、甲1発明、甲第2?4号証に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。
(3) 本件発明2?4、本件発明5及び6について
本件発明2?4、本件発明5及び6は、本件発明1について検討した上記相違点に係る特定事項と同様の特定事項を有するものである。
よって、本件発明2?4は、本件発明1と同様に、甲1発明、甲第2?4号証に記載された事項及び周知技術に基いて、本件発明5及び6は、甲1方法発明、甲第2?4号証に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。
(4) 小活
以上検討したとおり、本件発明1?6は、甲第1号証に記載された発明、甲第2?4号証に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、申立理由1には理由がない。
2.申立理由3(特許法第36条第6項第1号)
申立人は、パルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストール以外の成分による影響を排除できないことから、本件発明1?6の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張乃至一般化できない旨主張するので、以下検討する。
(1) 本件発明の課題・効果について、本件特許明細書には、以下の事項が記載されている。
「【0006】
上記のとおり、容器詰め乳入りコーヒー飲料の高温殺菌時における香味劣化の抑制方法が種々開発されているが、未だ十分に満足できるものではなかった。本発明の目的は、乳入りコーヒー飲料の高温殺菌時に発生する乳加熱臭を抑制した、ドリンカビリティの高いコーヒー飲料を提供することにある。」
「【発明の効果】
【0009】
本発明により、高温殺菌、長期間の保存および冬季の製品ウォーマーでの加熱にも香味の観点から品質的に耐えうる、乳入りコーヒー飲料が得られる。本発明の乳入りコーヒー飲料は、乳入り飲料のオフフレーバー(乳加熱臭や酸化臭)が低減され、乳成分のコクが付与されたドリンカビリティの高い飲料である。」
(2) さらに、本件特許明細書には、以下の事項が記載されている。
「【0013】
本発明の乳入りコーヒー飲料は、飲料中に溶解状態にあるコーヒー脂質の割合が低減されていることを最大の特徴とする。具体的には、飲料中のコーヒー脂質含量が、6.5mg/kg以下、好ましくは6.0mg/kg以下、より好ましくは5.5mg/kg以下、さらに好ましくは5.0mg/kg以下、特に好ましくは4.5mg/kg以下の濃度であり、その下限値は、0.4mg/kg以上、好ましくは0.5mg/kg以上、より好ましくは1.0mg/kg以上、より好ましくは1.5mg/kg以上、さらに好ましくは2.0mg/kg以上程度である。ここで、本明細書でいう「コーヒー脂質」とは、後述する実施例に記載の方法で測定されるカーウェオールとカフェストールにパルミチン酸がエステル結合した、(A)パルミチン酸カーウェオール(略記:KwO-pal)と(B)パルミチン酸カフェストール(略記:CfO-pal)の総量[(A)+(B)]をいう。コーヒー脂質を低減し過ぎると、コーヒー風味の観点から好ましくない。」
「【0016】
さらに、(A)パルミチン酸カーウェオールと(B)パルミチン酸カフェストールの割合[(A)/(B)]が、1.90以上、好ましくは1.95以上となるように調整するのがよい。(A)/(B)の上限は、3.00、好ましくは2.80、より好ましくは2.50程度である。上記範囲となるように調整することで、乳加熱臭をより一層低減させることができる。」
「【0022】
本発明のコーヒー飲料は、コーヒーと乳とがそれぞれの良さを引き立てあう飲料であり、特に繊細なコーヒーの香りを維持(保持)した嗜好性(ドリンカビリティ;飲料の性質を指し、ある飲料を一定量飲用した後も、なおおいしく飲み続けられる場合には、その飲料はドリンカビリティがあるといえる。ドリンカビリティは「飲みたいかどうか」と表現されることもある。)の高い飲料である。より詳述すると、一般に、コーヒーの香りは、とても繊細、不安定なものであり、抽出直後の香り、風味は時間の経過とともに変化していき、長時間保持できるものではないことが知られている。高温殺菌される容器詰め飲料では、特に、コーヒーの香りや風味の消失、変性が著しいが、コーヒー脂質を低減し、かつ脂質中のカーウェオール及びカフェストールの割合が特定範囲に調整されたコーヒー飲料は、不安定なコーヒーの香りを効果的に維持(保持)することができる。」



(3) 上記(1)及び(2)の記載事項からすると、本件発明は、「乳入りコーヒー飲料は、飲料中に溶解状態にあるコーヒー脂質の割合が低減されていることを最大の特徴」とし、「『コーヒー脂質』とは、後述する実施例に記載の方法で測定されるカーウェオールとカフェストールにパルミチン酸がエステル結合した、(A)パルミチン酸カーウェオール(略記:KwO-pal)と(B)パルミチン酸カフェストール(略記:CfO-pal)の総量[(A)+(B)]をいう」とされ、その範囲として、「飲料中のコーヒー脂質含量が、6.5mg/kg以下、好ましくは6.0mg/kg以下、より好ましくは5.5mg/kg以下、さらに好ましくは5.0mg/kg以下、特に好ましくは4.5mg/kg以下の濃度であり、その下限値は、0.4mg/kg以上、好ましくは0.5mg/kg以上、より好ましくは1.0mg/kg以上、より好ましくは1.5mg/kg以上、さらに好ましくは2.0mg/kg以上程度である。」としている。
また、パルミチン酸カーウェオール/パルミチン酸カフェストールの比率については、「[(A)/(B)]が、1.90以上、好ましくは1.95以上となるように調整するのがよい。(A)/(B)の上限は、3.00、好ましくは2.80、より好ましくは2.50程度である。上記範囲となるように調整することで、乳加熱臭をより一層低減させることができる」としている。
そして、具体的に、本発明品1?19、比較例1、2、市販品A、Bの23個の例について、評価を行い、(A)パルミチン酸カーウェオールと(B)パルミチン酸カフェストールの総量[(A)+(B)]について、1.51?5.89mg/kgの範囲で、(A)/(B)について、1.77?2.32の範囲のものが、加熱臭及びドリンカビリティの評価として、A又はBの評価を得られていることが確認されている。
以上のことを踏まえると、(A)パルミチン酸カーウェオール及び(B)パルミチン酸カフェストール以外の他の成分の影響があるとしても、相当多数の試験により、(A)パルミチン酸カーウェオール及び(B)パルミチン酸カフェストールの成分を所定範囲としたときに効果が得られることを確認していることから、(A)パルミチン酸カーウェオール及び(B)パルミチン酸カフェストールが支配的パラメータであり、これを本件発明の範囲とすることにより課題解決できることを当業者は認識できる。

なお、申立人は、以下のとおり主張している。
ア 「本件特許明細書の実施例において調整されたコーヒー原料は、パルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストール以外の成分組成についても、全く異なったものであるといえる。
そして、そのような起源の異なる焙煎コーヒー豆の加圧抽出液及びろ材処理したエキスを任意の割合で混合して得られた複数のコーヒー飲料は、パルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストール以外の多様な成分(有機酸、アミノ酸、脂質、ミネラル、ポリフェノール、クロロゲン酸、香気成分等)についてまで組成が揃っているとはいえず、劣化臭の抑制においてパルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストール以外の成分による影響を排除できないから、発明の詳細な説明に記載の比較試験(表1及び2)の結果からは、パルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストールの総量、パルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストールの比、乳成分及び糖類の含有量を特定しさえすれば、一様に、長期保存後でも加熱臭がなくコーヒー風味とドリンカビリティの両方に優れるコーヒー飲料を提供可能である、と認めることはできない。」(特許異議申立書33?34ページ)。
イ 「発明の詳細な説明の実施例では、使用する豆や、カラム処理の有無が異なるため、Drip1、2、Ext1?6のBxやpH、カフェイン量が不明であり、当業者であっても本件特許発明を実施できる程度に発明の詳細
な説明に記載されていない。」(特許異議申立書34ページ)
しかしながら、上記主張アは、試験結果などに基づく具体的な根拠をいうものではなく、一般論として他の成分が影響し得ることをいうに留まるものであるから、上記判断を左右するものではない。
よって、申立人の主張アは採用できない。
また、上記主張イについては、上記当審の判断で述べたとおり、本件発明の課題解決に、(A)パルミチン酸カーウェオール及び(B)パルミチン酸カフェストールが支配的パラメータとしての役割を果たすものであって、コーヒー飲料のBx、pHの値及びカフェイン量は、当業者が適宜定め得る事項と認められるから、申立人の上記主張イも採用できない。

したがって、本件特許明細書には、コーヒー飲料が、(A)パルミチン酸カーウェオール、(B)パルミチン酸カフェストール、及び(C)乳成分を含有する、高温殺菌済のコーヒー飲料であって、飲料1kgあたりのパルミチン酸カーウェオール及びパルミチン酸カフェストールの総量が2.25mg/kg以上6.5mg/kg以下、パルミチン酸カーウェオール/パルミチン酸カフェストールの比率が1.90以上、乳成分の含有量が0.1?10質量%、糖類の含有量が飲料100mLあたり3g以下であることで、本件発明で求められる上記課題を解決できることが記載されているといえるから、本件発明は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
よって、申立理由3には理由がない。
3.申立理由2(特許法第36条第4項第1号)
上記「2.申立理由3(特許法第36条第6項第1号)」で述べたとおり、本件発明は、長期保存後でも加熱臭がなくコーヒー風味とドリンカビリティの両方に優れるコーヒー飲料を提供可能できるものとして、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていて、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
よって、申立理由2には理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-02-18 
出願番号 特願2015-534369(P2015-534369)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (A23F)
P 1 651・ 537- Y (A23F)
P 1 651・ 121- Y (A23F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 植原 克典  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 山崎 勝司
宮崎 賢司
登録日 2018-04-27 
登録番号 特許第6329551号(P6329551)
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 コーヒー脂質含量の少ない乳入りコーヒー飲料  
代理人 小野 新次郎  
代理人 山本 修  
代理人 宮前 徹  
代理人 中村 充利  
代理人 中西 基晴  
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