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審判番号(事件番号) データベース 権利
異議2018700871 審決 特許

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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1349702
異議申立番号 異議2018-700762  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-20 
確定日 2019-03-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6297735号発明「ティリロサイドを含有する飲料」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6297735号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯の概略
特許第6297735号の請求項1?5に係る特許(以下「本件特許」という。)についての手続の経緯は,概ね,次のとおりである。すなわち,平成29年8月10日(優先権主張 平成29年1月20日)に出願され,平成30年3月2日に特許権の設定登録がされ,平成30年3月20日に特許掲載公報が発行されたところ,これに対し,平成30年9月20日に特許異議申立人田中亜実より,特許異議の申立てがされ,平成30年11月9日付けで取消理由が通知され,平成31年1月11日に特許権者より意見書が提出されたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?5に係る発明(以下,総称して「本件発明」という。)は,特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
「【請求項1】
ティリロサイドを0.008?1mg/100mL,及びエタノールを0.001?1.2v/v%含有し,可溶性固形分濃度が0.5以下である飲料。
【請求項2】
ティリロサイドの含有量が0.01?0.5mg/100mLである,請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
エタノールの含有量が0.01?1v/v%である,請求項1又は2に記載の飲料。
【請求項4】
pHが2.3?5である,請求項1?3のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項5】
容器詰め飲料である,請求項1?4のいずれか1項に記載の飲料。」

第3 取消理由についての判断
1 取消理由の概要
本件特許に対し通知した取消理由は,概ね,次のとおりである。
すなわち,請求項1において酸性成分,pHについて具体的に特定されていないが,本件特許の明細書(以下「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明においては,クエン酸及びクエン酸三ナトリウムを用いてpH3.0(No.1?16)に調整したものについて検討を行い,効果が確認されたことが記載されているのみである(本件明細書【0039】?【0042】)。
そして,「本発明の飲料は,酸性飲料であることが好ましい。所定量のエタノールまたはプロピレングリコールに加えて酸性成分を含有させることにより,飲料に含まれるティリロサイドの苦味や収斂味をより効果的に抑制又は低減することができる。」(同【0023】)のであって,pHがティリロサイドの苦味や収斂味に影響することは明らかであるから,pHの特定のない請求項1に係る発明のすべての範囲において,課題を解決することができるものとは認められない。
また,請求項4においてpHが2.3?5であると特定されているが,pH3.0に調整したものについての結果から,同様に,請求項4に係る発明のすべての範囲において,課題を解決することができるものとは認められない。
よって,本件発明は,出願時の技術常識に照らしても,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとは認められないから,本件特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり,取り消すべきものである。

2 判断
(1) 本件明細書の発明の詳細な説明(【0001】?【0009】)には,次のように記載されている。
・ティリロサイド及びこれを含むローズヒップ抽出物は,体脂肪の減少作用等を通じて肥満の解消が期待できる有効な素材であるが,本件発明者らによるティリロサイドの飲料への利用検討において,ティリロサイドの独特の苦味や収斂味が感じられること,特に可溶性固形分濃度が低い飲料ではティリロサイドの苦味や収斂味が顕著であることが判明した。
・そこで,本件発明は,ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善された飲料を提供することを目的としてなされ,本件発明者らは,飲料におけるティリロサイド由来の苦味や収斂味の改善に関して,所定量のエタノールに特に優れた効果があることを見出した。
・本件発明によれば,ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善された飲料を提供することが可能となり,詳細な作用機序は明らかではないが,ティリロサイドにより生じる独特の苦味や収斂味と,エタノールが有する特有の苦味やピリピリとした刺激感とは互いに打ち消し合い,結果としてティリロサイドに由来する苦味や収斂味は感じられにくくなるものと考えられる。
以上の記載からすると,本件発明は,ティリロサイドの独特の苦味や収斂味が改善された飲料を提供することを課題とするものであると認められる。
(2) また,本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の点が記載されている。
・本件発明の飲料におけるティリロサイドの含有量は,好ましくは0.008mg/100mL以上,又は0.01mg/100mL以上である。また,本件発明の飲料におけるティリロサイドの含有量は,好ましくは,1mg/100mL以下,又は0.5mg/100mL以下である(【0015】)。
・本件発明の飲料は,0.001?1.5v/v%のエタノールを含有する。エタノールの飲料中の含有量が上記の範囲内であれば,ティリロサイドに由来する苦味や収斂味を効果的に改善することができる。本件発明の飲料におけるエタノールの含有量は,好ましくは0.01v/v%以上である。また,本件発明の飲料におけるエタノールの含有量は,好ましくは1.2v/v%以下,又は1v/v%以下である(【0017】)。
・本件発明の飲料は,好ましくは飲料中の可溶性固形分濃度が0?0.5である(【0022】)。
・所定量のエタノールに加えて酸性成分を含有させることにより,飲料に含まれるティリロサイドの苦味や収斂味をより効果的に抑制又は低減することができる。本件発明の飲料のpHは好ましくは2.3?5である(【0023】)。
・本件発明の好ましい実施形態として,本件発明の飲料は容器詰め飲料である(【0029】)。
(3) そして,本件明細書の発明の詳細な説明には本件発明について,実施例(飲料No.1?16)が開示されているところ(【0033】?【0042】),飲料No.2?14として,
・ティリロサイド及びエタノールを水に溶解し,Brix値は0?0.1程度で,クエン酸及びクエン酸三ナトリウムによりpH3.0に調整し,容器に充填して得られ,
・ティリロサイドの含有量:0.008mg/100mL(飲料No.2,3)?1mg/100mL(飲料No.13,14),エタノールの含有量:0.001v/v%(飲料No.2,13)?1.2v/v%(飲料No.3,14)である,
容器詰め飲料が記載され,十分に訓練を受けた3名の専門パネリストによるティリロサイド特有の苦味及び収斂味についての評価は,いずれも良好であったものである。
(4) このように,発明の詳細な説明には,本件発明が記載されている上,ティリロサイドを0.008?1mg/100mL,及びエタノールを0.001?1.2v/v%含有し,可溶性固形分濃度が0.5以下である飲料に関し,ティリロサイドの独特の苦味や収斂味を改善する効果を奏することが具体的に裏付けられていることが分かる。
そして,飲料No.8(ティリロサイドの含有量,エタノールの含有量:0.04mg/100ml,0v/v%)と,飲料No.9(同:0.04mg/100ml,0.05v/v%),飲料No.10(同:0.04mg/100ml,0.5v/v%)の結果からすると,エタノールを含有させることで,ティリロサイドの独特の苦味や収斂味が改善されることが理解できる。
さらに,発明の詳細な説明の前記記載(段落【0023】)によると,所定量のエタノールに加えて,酸性成分を含有させると飲料に含まれるティリロサイドの苦みや収斂味をより効果的に抑制あるいは低減できるというのであるから,エタノールによる効果に対して酸性成分を含有させることによる効果がさらに加わるものと解することができる。
そうすると,ティリロサイドの独特の苦味や収斂味の強弱がpHによって変化することがあっても,特定含有量のエタノールのティリロサイド由来の苦味や収斂味を改善する作用が直ちに消失したり,格別に変化するとは認められない。
そして,本件発明の課題は前記のとおりであるが,ティリロサイドの独特の苦味や収斂味が特定のpHにおいて相対的に改善されていれば足り,その意味において,特定量のエタノールを含有させることで,pH3.0以外の飲料についても,課題を解決することができるものといえる。
(5) 以上のとおりであるから,本件発明は,出願時の技術常識に照らしても,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないとは認められない。

第4 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立ての理由について
1 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立ての理由は,概ね,以下のとおりである。すなわち,本件特許は,本件明細書の発明の詳細な説明,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法36条4項1号又は同法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから,取り消すべきである。
(1) 本件明細書の発明の詳細な説明には,ティリロサイドに起因する苦味や収斂味がどのような味であるか具体的に記載されておらず,技術常識に照らしてもその内容を理解することができない。ティリロサイドとともに,ティリロサイド以外の苦味や収斂味を呈する成分を含む場合,味覚としての苦味や収斂味が,ティリロサイドに起因するか,ティリロサイド以外の成分に起因するのかを判別することは不可能である。
本件発明に係る飲料が,ティリロサイド以外の苦味や収斂味を呈する成分を含む場合,ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善されたことを確認することは不可能であるから,当業者は本件発明の課題が達成されたことを確認することができない。
よって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明の実施をすることができるように記載されておらず,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)B.(ア))。
(2) 本件発明は,ティリロサイドとエタノールが特定の範囲の含有量で,可溶性固形分濃度が特定の濃度範囲であることを規定するのみで,その他の成分を任意の濃度で含むことを許容するものであるが,詳細な作用機序は明らかではないのであるから(本件明細書【0009】),苦味や収斂味を呈する他の成分が存在する場合にも,ティリロサイドにより生じる独特の苦味や収斂味と,エタノールが有する特有の苦味やピリピリとした刺激感とが互いに打ち消し合うことができるかは明らかでない。
エタノール以外のマスキング成分を含む場合,ティリロサイドに起因する苦味や収斂味を改善する効果が,本件発明の構成要件を満たすことによるものであるのか否かは明らかでない。
よって,本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に発明の効果を奏するように記載された範囲を超えるものであるから,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
また,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明が包含する全範囲にわたって発明の効果を奏するようには記載されていないから,同法36条4項1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)B.(イ))。
(3) 本件発明が包含する飲料の範囲について,実施例には可溶性固形分濃度が0.1より高く0.5以下である飲料が記載されておらず,発明の効果を奏するかは不明である。さらに,水以外の飲料が記載されておらず,水以外の種々の成分を含み得る多様な飲料について,発明の効果を奏するか実証されていない。水についても,ティリロサイド,エタノール,クエン酸及びクエン酸三ナトリウム以外の成分を含む場合について,実施例に記載されておらず,発明の効果は実証されていない。
よって,本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に発明の効果を奏するように記載された実施例の範囲を超えるものであるから,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)B.(ウ))。
(4) 本件明細書の発明の詳細な説明には,発明の効果を実証するために,3名の専門パネルにより評価したことが記載され,官能評価の評価点5?3について「緩和されている」と記載されているが,対照と比較した評価はされておらず,どのように「緩和」を評価するのか理解することができない。
よって,本件明細書の発明の詳細な説明は,実施例の記載をみても当業者が官能評価を行うことができないから,本件発明を実施することができず,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)B.(エ))。
(5) 前記官能評価について,苦味や収斂味がどの程度違って感じられた場合にいずれの評価にすべきであるか明らかでなく,各パネル間で評価基準を統一させるなどの手順が踏まれたことは記載されていない。
5?3点の評価基準にはエタノール特有の風味に関する記載がなく,表3に記載された評価点が,3名のパネリストの平均点であるのか,最高点又は最低点であるのか,評価基準を用いてどのように付けたものであるのか記載されていない。
以上のことから,発明の効果を確認するための評価方法が合理的であったと推認することができず,本件発明の手段によって,ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善された飲料が裏付けられていることを当業者は理解することができない。
よって,出願時の技術常識に照らしても,本件発明の範囲まで本件明細書の発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないので,本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものではなく,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)B.(オ))。
(6) 本件明細書の発明の詳細な説明の記載では,ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善されたとの風味を得るためには,ティリロサイド含有量,エタノール含有量及び可溶性固形分濃度の範囲を特定すれば足り,他の成分及び物性の特定は要しないことを,当業者が理解することができるとはいえず,実施例の結果から,直ちに,ティリロサイド含有量,エタノール含有量及び可溶性固形分濃度について規定される範囲と,ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善されるという風味との関係の技術的な意味を,当業者が理解することができるとはいえない。
したがって,出願時の技術常識を考慮しても,ティリロサイド含有量,エタノール含有量及び可溶性固形分濃度の範囲が本件発明の数値範囲内にあることにより,ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善されるという風味が得られることが裏付けられていることを理解することができるとはいえない。
よって,本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものではなく,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)B.(カ))。
(7) 実施例の飲料No.2と飲料No.13とでは,ティリロサイド含有量が約100倍も異なるのに,エタノールの含有量が同じで評価点が同じである。飲料No.3と飲料No.14についても同様である。実施例の飲料No.2と飲料No.3とでは,ティリロサイド含有量が同一で,エタノール含有量が約1000倍異なるのに,評価点が同じである。飲料No.13と飲料No.14,飲料No.4と飲料No.5,飲料No.9と飲料No.10についても同様で,同一のティリロサイド含有量に対してエタノール添加量が約1000?100倍異なるのに,評価点が同じである。
このように,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例に関する評価結果は,技術常識からみて理解することができない。
よって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明の実施をすることができるようには記載されておらず,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書3(4)B.(キ))。

2 判断
(1) 理由(1)について
本件明細書の発明の詳細な説明には,ティリロサイドの独特の苦味や収斂味に関し,次のように記載されている。
・ティリロサイドを含む飲料には,ティリロサイドの独特の苦味や収斂味が感じられ,特に可溶性固形分濃度が低い飲料ではティリロサイドの苦味や収斂味が顕著である(【0005】,【0022】)。
・Brixの低い無糖飲料では,ティリロサイドの苦味及び収斂味を感じる(実施例の試料1-2,試料1-3(【0037】,【0038】【表2】))。
・実施例の飲料No1,16は,ティリロサイド特有の苦味及び収斂味,またはエタノール特有の風味があり,後味に残り(評価点2),飲料No.8,15は,ティリロサイド特有の苦味及び収斂味,またはエタノール特有の風味が強く,後味に大きく残る(評価点1)。
このように,発明の詳細な説明にはティリロサイドの独特の苦味や収斂味が具体的にどのような味であるか明示はないが,十分に訓練を受けた専門パネリストであれば,ティリロサイドの独特の苦味や収斂味をエタノール特有の風味と区別して識別すること,味覚として苦味や収斂味が,ティリロサイドによるか,ティリロサイド以外の苦味や収斂味を呈する成分によるかを識別することが可能であると認められる。
そして,実施例の飲料No.2?14の結果からすると,特定量のティリロサイドについて,エタノールを特定量含有することで,ティリロサイドの独特の苦味や収斂味が改善された飲料を提供するといった,本件発明の課題が解決されていることがわかる(【表3】)。
また,他に,本件発明の課題に影響を与えるような成分が存在するものとは認められないから,当業者であれば本件発明の課題が達成されたことを確認することができるものと認められる。
よって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明の実施をすることができるように記載されていないものであるとはいえない。
(2) 理由(2)について
本件発明者らの検討によれば,特に可溶性固形分濃度が低い飲料ではティリロサイドの苦味や収斂味が顕著であるところ(【0005】,【0022】,【0037】,【0038】),実施例では,Brix値が0?0.1程度である,水のような,容器詰め飲料において効果が確認されている(実施例の飲料No.2?14(【0039】?【0042】))。すなわち,特にティリロサイドの苦味や収斂味が顕著である飲料において,本件発明の効果が確認されていることがわかる。
そして,エタノールによるティリロサイド由来の苦味や収斂味を抑制する作用,打ち消し合う効果を減ずるような成分が存在することは立証されていない。
なお,エタノール以外のマスキング成分が効果に寄与する場合があるとしても,エタノールによる効果が発揮されていることに変わりはないから,本件発明の構成要件を満たすことにより効果を奏しているものと認められる。
よって,本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に発明の効果を奏するように記載された範囲を超えるものであるとはいえない。
また,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明が包含する全範囲にわたって発明の効果を奏するようには記載されていないとはいえない。
(3) 理由(3)について
既に述べたとおり,特にティリロサイドの苦味や収斂味が顕著である水のような飲料において,本件発明の効果が確認されている。このように,Brix値が0?0.1程度といった,特に厳しい条件で,より感知されやすい水のような飲料において効果が確認されているのであるから,効果を減ずる成分が存在するとは認められない以上,その他の飲料においても効果を奏するものと認められる。
そして,Brix値が0?0.1程度の条件で効果を奏することが確認されているのであるから,より条件が緩和されている飲料(例えば,Brix値が0.1より高く0.5以下である飲料)においても,本件発明は効果を奏するものと認められる。
よって,本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に発明の効果を奏するように記載された実施例の範囲を超えるものであるとはいえない。
(4) 理由(4)について
本件明細書の発明の詳細な説明には,実施例に係る飲料について,十分に訓練を受けた3名のパネリストにより,ティリロサイドに由来する苦味及び収斂味の強さを評価したこと,以下の基準に基づいて評価したことが記載されている(【0039】?【0042】)。
5点:ティリロサイド特有の苦味及び収斂味が大きく緩和されている。
4点:ティリロサイド特有の苦味及び収斂味が緩和されている。
3点:ティリロサイド特有の苦味及び収斂味がやや緩和されている。
2点:ティリロサイド特有の苦味及び収斂味,またはエタノール特有の風味があり,後味に残る。
1点:ティリロサイド特有の苦味及び収斂味,またはエタノール特有の風味が強く,後味に大きく残る。
発明の詳細な説明における当該評価に関する記載からすると,実施例に係る評価は,官能評価に関し一般的に行われている手法で実施されているものであると認められる。評価基準中に「緩和」とあるが,ティリロサイド特有の苦味及び収斂味の程度を,エタノールを含有しない飲料との対比で表しているものと解される。
よって,本件明細書の発明の詳細な説明は,実施例の記載をみても当業者が官能評価を行うことができないとはいえない。
(5) 理由(5)について
既に述べたとおり,実施例に係る評価は,官能評価に関し一般的に行われている手法で実施されているものであると認められる。
官能評価の5?3点の評価基準にエタノール特有の風味に関する記載がないが,この点は,本件発明の課題との関係で特段問題ではない。
また,本件明細書の発明の詳細な説明において,3名の専門パネリストによる評価をもとに最終的にどのように評価点を決定したかについて明らかにはされていないことは適切とはいえないが,一般的な一定の手法(例えば,3名の専門パネリストの平均点とする,最高点又は最低点とする,協議をして決定するなど。)によるものと解され,評価結果に基づく判断が困難であるとは認められない。
そして,実施例の結果をみても,その評価結果について特に不合理な点は認められず,本件発明が課題を解決することができるものとはいえないというほどの事情も認められない。
よって,出願時の技術常識に照らして,本件発明の範囲まで発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化することはできないとはいえず,本件発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
(6) 理由(6)について
既に述べたとおり,本件発明はBrix値が0?0.1程度の水のような飲料といった,特に厳しい条件で効果が確認されているとともに,ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善されることに関し,他に要因が存在するものとは認められないから,ティリロサイド含有量,エタノール含有量及び可溶性固形分濃度と,ティリロサイドに起因する苦味や収斂味が改善されるという風味との関係の技術的な意味を,当業者は理解することができるものと認められる。
よって,本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
(7) 理由(7)について
既に述べたとおり,実施例に係る評価方法は妥当と認められるから,実施例の結果は信用できるものと認められる。
一般的に所定の効果が広範囲にわたり同様に発揮されることは十分にあり得るものと解され,エタノールの含有量が同じで,ティリロサイドの含有量にして約100倍の範囲にわたり同様の効果を奏することが,必ずしも不合理ということはない。
また,エタノールの含有量の増加による効果がパネリストの味覚との関係において飽和することもあり得るから,ティリロサイドの含有量が同一で,エタノールの含有量にして約1000?100倍の範囲内で同じ評価結果であることが当然に不合理というものでもない。
よって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載の実施例に関する評価結果は,技術常識からみて,当業者が理解することができないものであるとはいえず,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明の実施をすることができるようには記載されていないとはいえない。
(8) そして,本件明細書の発明の詳細な説明,本件特許請求の範囲には,特段不備は認められない。

第5 むすび
以上のとおり,本件特許は,特許法36条4項1号又は同法36条6項1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとは認められないから,前記取消理由及び特許異議申立ての理由により取り消すことはできない。
また,他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-03-04 
出願番号 特願2017-155898(P2017-155898)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (A23L)
P 1 651・ 537- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 白井 美香保  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 槙原 進
窪田 治彦
登録日 2018-03-02 
登録番号 特許第6297735号(P6297735)
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 ティリロサイドを含有する飲料  
代理人 小野 新次郎  
代理人 山本 修  
代理人 宮前 徹  
代理人 中西 基晴  
代理人 武田 健志  
代理人 中村 充利  
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