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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 B60C |
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管理番号 | 1349706 |
異議申立番号 | 異議2018-700964 |
総通号数 | 232 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-04-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-11-29 |
確定日 | 2019-03-07 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6331685号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6331685号の請求項1ないし5、8及び9に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6331685号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成26年5月20日の出願であって、平成30年5月11日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年5月30日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年11月29日に特許異議申立人 鍵 隆(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし5、8及び9)がされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし5、8及び9に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし5、8及び9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間に少なくとも1層のカーカス層を装架した空気入りタイヤにおいて、 タイヤ総幅SWとタイヤ外径ODとの比SW/ODがSW/OD≦0.3の関係を満足し、タイヤ偏平率が60%以下であると共に、 タイヤ子午線断面において前記トレッド部の輪郭を形成するトレッドプロファイルが、前記トレッド部のタイヤ幅方向の最も外側に位置するサイド円弧と、該サイド円弧のタイヤ幅方向内側に位置するショルダー円弧とを含み、これらサイド円弧の延長線とショルダー円弧の延長線との交点を通りタイヤ内面に対して直交する一対の第一境界線を規定し、各サイドウォール部がタイヤ周方向に延在するリムチェックラインを有し、タイヤ子午線断面において前記リムチェックラインを通りタイヤ内面に対して直交する一対の第二境界線を規定し、前記一対の第一境界線の相互間に第一領域を区分し、前記第一境界線と前記第二境界線との間に第二領域を区分し、前記第二境界線よりもビードトウ側に第三領域を区分し、前記第一領域乃至前記第三領域の断面積(mm^(2))をそれぞれSA,SB,SCとし、前記第一領域乃至前記第三領域のタイヤ内面に沿ったペリフェリ長さ(mm)をそれぞれa,b,cとしたとき、比SB/bについて3.0≦SB/b≦8.0の関係を満足し、 前記サイド円弧の延長線と前記ショルダー円弧の延長線との交点と前記リムチェックラインとの間のタイヤ径方向の距離をhとし、前記リムチェックラインからタイヤ径方向外側に向かって0.3hの位置となるタイヤ外表面の点を通りタイヤ内面に対して直交する第三境界線を規定し、前記第二領域における前記第三境界線よりも径方向外側の領域をサイドウォール外側領域とし、前記第二領域における前記第三境界線よりも径方向内側の領域をサイドウォール内側領域としたとき、前記サイドウォール外側領域の最小タイヤ厚さが前記サイドウォール内側領域の最小タイヤ厚さよりも小さいことを特徴とする空気入りタイヤ。 【請求項2】 前記サイドウォール外側領域の最小タイヤ厚さをtoutとしたとき、この最小タイヤ厚さtoutと前記比SB/bとの比tout/(SB/b)が0.6≦tout/(SB/b)≦0.8の関係を満足することを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。 【請求項3】 前記サイドウォール内側領域の最大タイヤ厚さをTinとしたとき、この最大タイヤ厚さTinと前記最小タイヤ厚さtoutとの比Tin/toutが1.3≦Tin/tout≦7.0の関係を満足することを特徴とする請求項2に記載の空気入りタイヤ。 【請求項4】 前記サイドウォール内側領域の最大タイヤ厚さTinとなる位置からタイヤ径方向外側及び内側に向かってタイヤ厚さが漸減することを特徴とする請求項3に記載の空気入りタイヤ。 【請求項5】 前記サイドウォール内側領域の最大タイヤ厚さTinとなる位置からタイヤ径方向外側に向かって延在するタイヤ外表面の子午線断面形状が、曲率半径が10mm以上であってタイヤ内面側に凸となる円弧又は直線であることを特徴とする請求項4に記載の空気入りタイヤ。 【請求項8】 前記カーカス層に沿ってタイヤ内部及び/又はタイヤ内面に空気透過係数が50×10^(-12)cc・cm/cm^(2)・sec・cmHg以下の空気透過防止層を有することを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。 【請求項9】 前記空気透過防止層が熱可塑性樹脂又は熱可塑性樹脂とエラストマーとをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物から構成されることを特徴とする請求項8に記載の空気入りタイヤ。」 第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 平成30年11月29日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 1 申立ての理由1 本件特許の請求項1ないし5、8及び9に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5、8及び9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。具体的には、本件特許発明1ないし4に対する甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づく進歩性違反、本件特許発明5に対する甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された事項及び周知技術(甲第3ないし5号証)に基づく進歩性違反並びに本件特許発明8及び9に対する甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された事項及び周知技術(甲第3ないし8号証)に基づく進歩性違反である。 2 申立ての理由2 本件特許の請求項1ないし5、8及び9に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5、8及び9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。具体的には、本件特許発明1ないし5に対する甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された事項及び周知技術(甲第2、9及び10号証)に基づく進歩性違反並びに本件特許発明8及び9に対する甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された事項及び周知技術(甲第2及び6ないし10号証)に基づく進歩性違反である。 3 申立ての理由3 本件特許の請求項1ないし5、8及び9に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5、8及び9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。具体的には、本件特許発明1ないし4に対する甲第2号証に記載された発明及び周知技術(甲第1、11及び12号証)に基づく進歩性違反、本件特許発明5に対する甲第2号証に記載された発明及び周知技術(甲第1、3ないし5、11及び12号証)に基づく進歩性違反並びに本件特許発明8及び9に対する甲第2号証に記載された発明及び周知技術(甲第1、3ないし8、11及び12号証)に基づく進歩性違反である。 4 証拠方法 甲第1号証:特開2013-63765号公報 甲第2号証:特開平1-314611号公報 甲第3号証:特開2012-162142号公報 甲第4号証:特開2013-141962号公報 甲第5号証:特開2003-136919号公報 甲第6号証:特開2001-239805号公報 甲第7号証:特開平10-81108号公報 甲第8号証:特表2010-507510号公報 甲第9号証:特開平5-178013号公報 甲第10号証:特開2013-71636号公報 甲第11号証:特開2000-190706号公報 甲第12号証:特開2013-95326号公報 以下、順に「甲1」のようにいう。 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由についての当審の判断 1 甲1ないし12に記載された事項等 (1)甲1に記載された事項及び甲1発明 ア 甲1に記載された事項 甲1には、「乗用車用空気入りラジアルタイヤ及びその使用方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。 ・「【請求項1】 一対のビードコア間でトロイダル状に跨るラジアル配列コードのプライからなるカーカスと、該ビードコアのタイヤ径方向外側に配設したビードフィラとを備えた、乗用車用空気入りラジアルタイヤであって、 前記タイヤをリムに組み込み、内圧を250kPa以上とした際に、 前記タイヤの断面幅SWが165(mm)未満である場合は、前記タイヤの断面幅SWと外径ODとの比SW/ODは、0.26以下であり、 前記タイヤの断面幅SWが165(mm)以上である場合は、前記タイヤの断面幅SWおよび外径ODは、関係式、 OD≧2.135×SW+282.3 を満たし、 前記ビードフィラのタイヤ幅方向断面積S1は、前記ビードコアのタイヤ幅方向断面積S2の1倍以上4倍以下であることを特徴とする、乗用車用空気入りラジアルタイヤ。」 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は、乗用車用空気入りラジアルタイヤ及びその使用方法に関するものである。」 ・「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明は、上記の問題を解決することを課題とするものであり、車両抵抗が低減され、タイヤ重量が軽量であり、乗り心地性も確保した、乗用車用空気入りタイヤ及びその使用方法を提供することを目的とする。」 ・「【発明の効果】 【0024】 本発明によれば、車両抵抗が低減され、タイヤ重量が軽量であり、乗り心地性にも優れた、乗用車用空気入りラジアルタイヤを提供することができる。」 ・「【0037】 【表1-1】 」 ・「【0054】 図16は、本発明の第1の実施形態にかかるタイヤのタイヤ幅方向断面図である。 図16では、タイヤ赤道面CLを境界とする幅方向半部のみを示している。 なお、このタイヤは、上記関係式A又は関係式Bを満たすサイズのものとする。 図16に示すように、本実施形態のタイヤは、タイヤの一対のビード部1に埋設されたビードコア1aにトロイダル状に跨るラジアル配列のコードのプライからなるカーカス2の径方向外側に、図示例で2層のベルト層3a、3bからなるベルト3と、ビードコア1aの径方向外側に配設されたビードフィラ4とを備えている。 ここで、ビードフィラ4は、JIS K6251(2010年12月20日改正)に準拠した、室温下での100%モジュラスが、例えば、24?31(MPa)の高剛性部材である。」 ・「【0059】 図17は、本発明の第2の実施形態にかかるタイヤのタイヤ幅方向断面図である。 図17では、タイヤ赤道面CLを境界とする幅方向半部のみを示している。 なお、このタイヤは、上記関係式A又は関係式Bを満たすサイズのものとする。 図17に示すように、本実施形態のタイヤは、タイヤの一対のビード部1に埋設したビードコア1aにトロイダル状に跨るラジアル配列のカーカスコードのプライからなるカーカス2の径方向外側に、図示例で2層のベルト層3a、3bからなるベルト3を備えている。 また、本実施形態のタイヤは、ビート部1に連なるサイドウォール部5を備えている。 図示例では、カーカス2は、カーカス本体部2aと、折り返し部2bとからなる。 さらに、図示例では、ビードコア1aのタイヤ径方向外側にはビードフィラ4が配設されている。 【0060】 図18(a)は、タイヤのサイドウォール部周辺のタイヤ部材の寸法について説明するための模式図である。図18(b)は、タイヤのビード部周辺のタイヤ部材の寸法について説明するための模式図である。 ここで、本実施形態にあっては、図17、図18(a)(b)に示すように、タイヤ最大幅部におけるサイドウォール部5のゲージTsと、ビードコア1aのタイヤ径方向中心位置におけるビード幅Tbとの比Ts/Tbは、15%以上40%以下である。 なお、「タイヤ最大幅部」とは、リムにタイヤを組み込み、無負荷状態としたときの、タイヤ幅方向断面内の最大幅位置をいうものとする。 ゲージTsはゴム、補強部材、インナーライナーなどすべての部材の厚みの合計となる。 またビードコアがカーカスによって複数の小ビードコアに分割されている構造の場合には、全小ビードコアのうち幅方向最内側端部と最外側端部の距離をTbとすればよい。 以下、本実施形態の作用効果について説明する。 【0061】 本実施形態によれば、比Ts/Tbを上記の範囲とすることにより、タイヤ荷重時の曲げ変形の大きいタイヤ最大幅部における剛性を適度に低下させて、縦バネ係数を低減して乗り心地性を向上させることができる。 すなわち、上記比Ts/Tbが40%超であると、タイヤ最大幅部におけるサイドウォール部5のゲージが大きくなり、サイドウォール部5の剛性が高くなって縦バネ係数が高くなってしまう。一方で、上記比Ts/Tbが15%未満であると、横バネ係数が低下し過ぎて、操縦安定性が確保できなくなるからである。 【0062】 ここで、具体的には、タイヤ最大幅部におけるサイドウォール部のゲージTsは、1.5mm以上であることが好ましい。 1.5mm以上とすることにより、タイヤ最大幅部における剛性を適度に保って、横バネ係数の低下を抑え、操縦安定性をより確保することができるからである。 一方で、縦バネ係数を有効に低減させて、乗り心地性をより向上させるためには、タイヤ最大幅部におけるサイドウォール部5のゲージTsは、4mm以下であることが好ましい。」 ・「【0078】 (実施例2) 次に、第2の実施形態にかかるタイヤについて、その効果を確かめるため、供試タイヤ72?82と、比較例14?23にかかるタイヤを試作した。これらのタイヤは、いずれも一対のビード部間でトロイダル状に跨るラジアル配列コードのプライからなるカーカスと、ビード部に連なる一対のサイドウォール部とを備えている。 これらのタイヤの性能を評価するため、実施例1と同様に、バネ係数、転がり抵抗値(RR値)、コーナリングパワー、タイヤ重量を評価する試験を行った。 ただし、バネ係数は、比較例14にかかるタイヤを100とした指数によって比較した。数値が大きいほどバネ定数が高い。また、転がり抵抗値(RR値)は、比較例14にかかるタイヤを100とする指数にて示した。この指数値が小さいほど転がり抵抗が小さいことを意味する。さらに、コーナリングパワーは、比較例14にかかるタイヤにおけるコーナリングパワーを100として指数で評価した。当該指数が大きいほどコーナリングパワーが大きく好ましい。また、タイヤ重量は、比較例14にかかるタイヤの重量を100としたときの相対値で指数評価し、値が小さい方が重量が軽量であることを示している。 各タイヤの諸元を表10に示し、評価結果を表11及び図23(a)(b)に示す。 なお、表10において、「SH」とはセクションハイト(タイヤ断面高さ)を意味する。」 ・「【0079】 【表10】 」 ・「【図16】 」 ・「【図17】 」 ・「【図18】 」 イ 甲1発明 甲1に記載された事項を、特に実施例2(供試タイヤ73ないし75、79、81及び比較例23)及び図17に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 <甲1発明> 「タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部5と、これらサイドウォール部5のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部1とを備え、該一対のビード部1間に少なくとも1層のカーカス2を装架した空気入りラジアルタイヤにおいて、 タイヤ断面幅SWとタイヤ外径ODとの比SW/ODが0.22≦SW/OD≦0.23の関係を満足し、タイヤ偏平率が55%であると共に タイヤ最大幅部におけるサイドウォール部5のゲージTs(mm)は、3.5≦Ts≦6.2の関係を満足している空気入りラジアルタイヤ。」 なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲1には、甲1発明として、次の発明が記載されていると認定できる旨主張している。 「A.タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部5と、これらサイドウォール部5のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部1とを備え、該一対のビード部1間に少なくとも1層のカーカス2を装架した空気入りタイヤにおいて、 B.タイヤ断面幅SWとタイヤ外径ODとの比SW/ODがSW/OD≦0.3の関係を満足し、タイヤ偏平率が60%以下であると共に、 C.タイヤ子午線断面において前記トレッド部の輪郭を形成するトレッドプロファイルが、前記トレッド部のタイヤ幅方向の最も外側に位置するサイド円弧と、該サイド円弧のタイヤ幅方向内側に位置するショルダー円弧とを含み、これらサイド円弧の延長線とショルダー円弧の延長線との交点を通りタイヤ内面に対して直交する一対の第一境界線を規定し、前記一対の第一境界線の相互間に第一領域を区分し、タイヤ最大幅部におけるサイドウォール部5のゲージTs(mm)は、1.5≦Ts≦4.0の関係を満足している。」 しかし、甲1には、「タイヤ断面幅SWとタイヤ外径ODとの比SW/ODがSW/OD≦0.3の関係を満足し、タイヤ偏平率が60%以下である」という記載はない。また、甲1の図17及び18の記載からは、タイヤ子午線断面においてトレッド部の輪郭を形成するトレッドプロファイルが、トレッド部のタイヤ幅方向の最も外側に位置するサイド円弧と、該サイド円弧のタイヤ幅方向内側に位置するショルダー円弧とを含むことは読み取れないし、当然、サイド円弧の延長線とショルダー円弧の延長線との交点があるかどうかも読み取れない。さらに、甲1の【表10】に記載された供試タイヤ73ないし75、79及び81並びに比較例23におけるゲージTs(mm)は最小値が3.5で、最大値が6.2であって、「1.5≦Ts≦4.0」という関係は記載されていない。 したがって、特許異議申立人の主張する甲1発明は認定できない。 (2)甲2に記載された事項及び甲2発明 ア 甲2に記載された事項 甲2には、「空気入りタイヤ」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「2.特許請求の範囲 正規内圧を充填し、正規リムに組み込んだタイヤの子午線方向断面において、ショルダーポイントPからリムチェックラインRまでのペリフェリー長さをlとし、ショルダーポイントPからリムチェックラインRの方向にペリフェリー長さT=0.25×lだけ離れた点をQとし、このQ点からリムチェックラインRの方向にペリフェリー長さSまでに亘って凹部をタイヤ周方向に環状に形成し、この凹部の深さをGとした場合に、下記式を満足することを特徴とする空気入りタイヤ。 (S/l)=0.11?0.22 G≧1mm」(第1ページ左下欄第4ないし17行) ・「〔発明の技術分野〕 本発明は、乗心地性を損なうことなく限界性能を向上させた空気入りタイヤに関する。 〔従来技術〕 ・・・(略)・・・ここで、限界性能とは、操縦安定性の内で特に旋回性能をいう。 〔発明の目的〕 本発明は、タイヤサイド部のプロファイル(サイド部の外面形状)を工夫することにより、乗心地性を殆ど低下させることなく限界性能を向上させた空気入りタイヤを提供することを目的とする。」(第1ページ左下欄第19行ないし右下欄第18行) ・「第1図は、本発明の空気入りタイヤの一例の子午線方向半断面説明図である。第1図において、タイヤ1は、正規内圧が充填され、正規リムに組み込まれた状態にある。“正規内圧が充填され”とは、内部が正規内圧となるように空気が充填されることをいう。 タイヤ1では、左右一対のビード部5,5間に1層のカーカス層4が装架されており、トレッド部2においてはカーカス層4の上に2層のベルト層6がタイヤ周方向に環状に配置されている。7は、サイドウオール部3の表面に形成された文字である。8はリムを表わす。 本発明では、タイヤ1において、ショルダーポイントPからリムチェックラインRまでのペリフェリー長さをlとする。ショルダーポイントPとは、トレッド部2の表面を形付ける円弧の延長線とショルダー部の表面を形付ける円弧の延長線との交差点をいう。チェックラインRとは、リム8との接触から解放されるビード部外側箇所におけるタイヤ周方向環状ラインをいう。ペリフェリー長さとは、タイヤ外面上の長さをいう。 また、ショルダーポイントPからリムチェックラインRの方向にペリフェリー長さT=0.25×lだけ離れた点をQとする。この点Qは、ショルダー部の表面を形付ける円弧の延長線とサイド部の表面を形付ける円弧の延長線との交差点に相当する。 このQ点からリムチェックラインRの方向にペリフェリー長さSまでに亘って凹部Aをタイヤ周方向に環状に形成する。このように凹部Aを形成するのは、この箇所のゲージ厚を減少させて縦バネ定数の低減をはかり、乗心地性の低下を防止するためである。」(第2ページ左上欄第16行ないし左下欄第10行) ・「○1(当審注:○付き数字の1である。)本発明タイヤ。 タイヤサイズ225/50 R16。第1図に示すプロファイル形状を有する。(S/l)=0.13、G=1.5mm。」(第2ページ右下欄第16ないし19行) ・「〔発明の効果〕 以上説明したように本発明によれば、タイヤサイド部の上端領域のゲージ厚を部分的に減少させたので、乗心地性を殆ど低下させることなく限界性能を向上させることが可能となる。」(第3ページ右上欄第14ないし19行) ・「 」 イ 甲2発明 甲2に記載された事項を、「本発明タイヤ」及び第1図に関して整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。 なお、甲2の「本発明タイヤ」について、タイヤ総幅SWは不明であるため、総幅を低く見積もり、断面幅に等しい(SW=225mm)として、SW/ODを次の計算により求めた。 偏平率が50%であるから、タイヤ高さ=断面幅×偏平率=225mm×50%=112.5mm タイヤ外径OD=リム径+タイヤ高さ×2=16インチ+112.5mm×2=16×25.4mm(1インチ=25.4mm)+225mm=406.4mm+225mm=631.4mm SW/OD=225/631.4=0.356・・・ <甲2発明> 「タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部2と、該トレッド部2の両側に配置された一対のサイドウオール部3と、これらサイドウオール部3のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部5とを備え、該一対のビード部5間に少なくとも1層のカーカス層4を装架したタイヤ1において、 タイヤ総幅SWとタイヤ外径ODとの比SW/ODが約0.356であり、タイヤ偏平率が50%であると共に、 タイヤ子午線断面において前記トレッド部2の輪郭を形成するトレッドプロファイルが、前記トレッド部2のタイヤ幅方向の最も外側に位置するショルダー部の表面を形付ける円弧と、該ショルダー部の表面を形付ける円弧のタイヤ幅方向内側に位置するトレッド部の表面を形付ける円弧とを含み、これらショルダー部の表面を形付ける円弧の延長線とトレッド部の表面を形付ける円弧の延長線との交差点であるショルダーポイントPを通りタイヤ内面に対して直交する一対の第一境界線を規定し、各サイドウオール部3がタイヤ周方向に延在するリムチェックラインRを有し、タイヤ子午線断面において前記リムチェックラインRを通りタイヤ内面に対して直交する一対の第二境界線を規定し、前記一対の第一境界線の相互間に第一領域を区分し、前記第一境界線と第二境界線との間に第二領域を区分し、前記第二境界線よりもビードトウ側に第三領域を区分し、 ショルダーポイントPからリムチェックラインRまでのペリフェリー長さをlとし、ショルダーポイントPからリムチェックラインRの方向にペリフェリー長さT=0.25×lだけ離れた点をQとし、このQ点からリムチェックラインRの方向にペリフェリー長さS=0.13×lまでに亘って凹部をタイヤ周方向に環状に形成したタイヤ1。」 なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲2には、甲2発明として、次の発明が記載されていると認定できる旨主張している。 「A.タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部2と、該トレッド部2の両側に配置された一対のサイドウオール部3と、これらサイドウオール部3のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部5とを備え、該一対のビード部5間に少なくとも1層のカーカス4を装架したタイヤ1において、 B.タイヤ偏平率が60%以下であると共に、 C.タイヤ子午線断面において前記トレッド部の輪郭を形成するトレッドプロファイルが、前記トレッド部2のタイヤ幅方向の最も外側に位置するショルダー部の表面を形付ける円弧と、該ショルダー部の表面を形付ける円弧のタイヤ幅方向内側に位置するトレッド部の表面を形付ける円弧とを含み、これらショルダー部の表面を形付ける円弧の延長線とトレッド部の表面を形付ける円弧の延長線との交差点であるショルダーポイントPを通りタイヤ内面に対して直交する一対の第一境界線を規定し、各サイドウオール部3がタイヤ周方向に延在するリムチェックラインRを有し、タイヤ子午線断面において前記リムチェックラインRを通りタイヤ内面に対して直交する一対の第二境界線を規定し、前記一対の第一境界線の相互間に第一領域を区分し、、前記第一境界線と第二境界線との間に第二領域を区分し、前記第二境界線よりもビードトウ側に第三領域を区分し、 D.ショルダーポイントPとリムチェックラインRとの間のタイヤ径方向の距離をhとし、前記リムチェックラインRからタイヤ径方向外側に向かって0.3hの位置となるタイヤ外表面の点を通りタイヤ内面に対して直交する第三境界線を規定し、第二領域における前記第三境界線よりも径方向外側の領域をサイドウオール外側領域とし、前記第二領域における前記第三境界線よりも径方向内側の領域をサイドウオール内側領域としたとき、前記サイドウオール外側領域の最小タイヤ厚さがサイドウオール内側領域の最小タイヤ厚さよりも小さい。」(当審注:特許異議申立書では、「A」では、「サイドウオール」と表記し、「D」では、「サイドウォール」と表記しているが、「サイドウオール」に統一して表記する。) しかし、甲2には、「タイヤ偏平率が60%以下である」という記載はない。また、甲2の第1図からは、ショルダーポイントPとリムチェックラインRとの間のタイヤ径方向の距離をhとし、前記リムチェックラインRからタイヤ径方向外側に向かって0.3hの位置となるタイヤ外表面の点を通りタイヤ内面に対して直交する第三境界線を規定することを読み取ることはできないし、第二領域における第三境界線よりも径方向外側の領域をサイドウオール外側領域とし、第二領域における第三境界線よりも径方向内側の領域をサイドウォール内側領域としたとき、サイドウオール外側領域の最小タイヤ厚さがサイドウオール内側領域の最小タイヤ厚さよりも小さくすることも読み取れない。 したがって、特許異議申立人の主張する甲2発明は認定できない。 (3)甲3に記載された事項 甲3には、「空気入りタイヤ」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 タイヤの最薄部が、ブレーカーの端部とタイヤの最大幅部との間で、ビード部の底部からトレッド部の頂部までの高さに対して、ビード部の底部から0.6?0.8の比率の高さに位置すると共に、前記最薄部の肉厚が前記最大幅部における肉厚に対して0.7?0.9の比率であり、 前記最薄部からビードエイペックスの上端部に向けて、前記ビードエイペックスの上端部における肉厚が、前記最薄部における肉厚に対して1.3?1.8の比率となるように一律に増加しており、 さらに、前記ビードエイペックスの厚みが、前記ビードエイペックスの上端部から下端部に向けて一律に増加していると共に、下端部における前記ビードエイペックスの厚みが、中央部における厚みに対して1.3?1.8の比率である ことを特徴とする空気入りタイヤ。」 ・「【0001】 本発明は空気入りタイヤに関し、特に、操縦安定性能や乗心地性能を確保しつつ、ロードノイズの発生を低減することができる空気入りタイヤに関する。」 ・「【0007】 このように、従来の技術の下では、一般的に、ロードノイズの発生の低減と操縦安定性および乗り心地性能とが背反関係にあったため、操縦安定性能や乗心地性能を確保しつつ、ロードノイズの発生が低減された空気入りタイヤの提供が望まれていた。」 ・「【0011】 本発明によれば、操縦安定性能や乗心地性能を確保しつつ、ロードノイズの発生が低減された空気入りタイヤを提供することができる。」 ・「【0020】 その結果、図1に示すように、ブレーカー12の端部とタイヤの最大幅部31との間で、セクション高さ(ビード部40の底部からトレッド部10の頂部までの高さ)を1とした場合、ビード部40の底部から0.6?0.8の位置が、最薄部として好ましく、また、最薄部における肉厚aを、最大幅部31における肉厚に対して、0.7?0.9の比率となるように設定した場合、最も効果的であることが分かった。 ・・・(略)・・・ 【0022】 その結果、最薄部aからビードエイペックスの上端部411に向けて、肉厚を一律に増加させ、最終的に、ビードエイペックスの上端部411における肉厚bが、最薄部における肉厚aに対して、1.3?1.8の比率(b/a)となるように設定した場合、最も効果的であることが分かった。」 ・「【図1】 」 (4)甲4に記載された事項 甲4には、「空気入りタイヤ」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 トレッド部、サイドウォール部およびビード部を具えるとともに、サイドウォール部にリムガードを具える空気入りタイヤであって、 適用リムに組付けて所定内圧の空気圧を充填したタイヤ姿勢で、タイヤ幅方向断面内にて、トレッド部とサイドウォール部との境界位置からリムガードの頂点に到るまでのサイドウォール部分の外表面を、タイヤの外側に曲率中心を有する円弧状に窪ませてなる空気入りタイヤ。」 ・「【0013】 ところでここでは、適用リムRに組付けて、所定内圧、例えば180kPaの空気圧を充填して、タイヤの自重による潰れ変形等を防止した形状保持姿勢、いいかえれば、加硫モールド内での加硫成型姿勢で、タイヤ幅方向の断面内にて、トレッド部1とサイドウォール部2との外表面境界位置Aからリムガードの頂点B、すなわち、幅方向外側へ最も大きく突出する、前記境界位置Aに最も近接した点Bに到るまでのサイドウォール部分の外表面の全体を、タイヤの外側に曲率中心Oを有する、半径rが、たとえば、20mm以上の円弧状に窪ませる。」 ・「【図1】 」 (5)甲5に記載された事項 甲5には、「空気入りタイヤ」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【0029】ここで、前記上、下の輪郭線KU、KLは、曲率半径を、前記基準円弧Jの曲率半径R0の2.0倍以上とした大きな円弧線、及び/又は曲率半径を実質的に無限大とした略直線を用いて形成される。本例では、上、下の輪郭線KU、KLを、曲率半径が約3.5×R0、もしくはそれ以上の直線に近い大きな円弧で形成し、タイヤ輪郭形状を矩形状に近づけた好ましい場合を例示している。」 ・「【図2】 」 (6)甲6に記載された事項 甲6には、「空気入りタイヤ」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 (A)空気透過係数が25×10^(-12) cc・cm/cm^(2) ・sec ・cmHg以下でヤング率が500MPa 超の少なくとも一種の熱可塑性樹脂を全ポリマー成分重量当り10重量%以上並びに (B)空気透過係数が25×10^(-12) cc・cm/cm^(2) ・sec ・cmHg超でヤング率が500MPa 以下の少なくとも一種のエラストマー成分を全ポリマー成分重量当り10重量%以上で、成分(A)及び成分(B)の合計量(A)+(B)が全ポリマー成分重量当り30重量%以上となる量で含み、かつ、 (C)前記(A)成分の熱可塑性樹脂にタイヤとして使用した際の相対するゴム層との臨界表面張力差が3mN/m以下の他の熱可塑性樹脂を(A),(B)及び(C)成分の全重量当り3?70重量%を含む、空気透過係数が25×10^(-12) cc・cm/cm^(2) ・sec ・cmHg以下でヤング率が1?500MPa のタイヤ用ポリマー組成物の層を空気透過防止層に用いた空気入りタイヤ。」 ・「【0022】以下、本発明のタイヤ用ポリマー組成物を用いて製造した空気透過防止層を有する空気入りタイヤについて更に詳しく説明する。本発明に係る空気入りタイヤの空気透過防止層は、タイヤ内部の任意の位置、即ちカーカス層の内側又は外側、或いはその他の位置に配置することができる。要はタイヤ内部からの空気の透過拡散を防止して、タイヤ内部の空気圧を長期間保持することができるように配置することにより本発明の目的が達成される。」 (7)甲7に記載された事項 甲7には、「空気入りタイヤ」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 空気透過係数が25×10^(-12)[cc・cm/cm^(2)・sec ・cmHg] 以下の熱可塑性樹脂もしくは熱可塑性樹脂とエラストマーとのブレンドを含む熱可塑性エラストマー組成物のフィルムからなる、タイヤ内面を実質的におおう空気透過防止層を有し、かつその空気透過防止層をタイヤカーカス層との間に挟むようにゴムのフィニッシング層を設けた空気入りタイヤ。」 (8)甲8に記載された事項 甲8には、「低水分透過性積層構造体」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 上側及び下側表面を有する流体透過防止層を含む1つの層、少なくとも流体透過防止層の下側表面と積層関係にあり、約-20℃よりも低いガラス転移温度(Tg)を有するフィルム形成性半結晶性炭素鎖ポリマーを含む、少なくとも1つの熱可塑性樹脂層並びに少なくとも1種の高ジエンゴムを含む少なくとも3つの層を含んでなる層状構造体であって、前記流体透過防止層が、30℃で25×10^(-12)cc・cm/cm^(2) sec cmHg又はそれ以下の空気透過係数及び1?500MPaのヤング率を有するポリマー組成物を含み、このポリマー組成物の層が、 (A)ポリマー組成物の全重量基準で少なくとも10重量%の、30℃で25×10^(-12)cc・cm/cm^(2) sec cmHg又はそれ以下の空気透過係数及び500MPaよりも大きいヤング率を有する、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリニトリル樹脂、ポリメタクリレート樹脂、ポリビニル樹脂、セルロース樹脂、フッ素樹脂及びイミド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂成分、並びに (B)ポリマー組成物の全重量基準で少なくとも10重量%の、30℃で25×10^(-12)cc・cm/cm^(2) sec cmHgよりも大きい空気透過係数及び500MPa以下のヤング率を有する、ジエンゴム及びその水素化物、ハロゲン含有ゴム、シリコーンゴム、硫黄含有ゴム、フッ素ゴム、ヒドリンゴム、アクリルゴム、アイオノマー及び熱可塑性エラストマーからなる群から選択される、少なくとも1種のエラストマー成分 を含んでなり、成分(A)及び成分(B)の全量(A)+(B)が、ポリマー組成物の全重量基準で、30重量%以上であり、エラストマー成分(B)が、ポリマー組成物中の熱可塑性樹脂成分(A)のマトリックス中に、不連続相として、加硫された状態で分散されている層状構造体。」 ・「【請求項13】 少なくとも1種の流体透過防止層を含む層がインナーライナー層であり、そして前記高ジエンゴムを含む層がカーカス層若しくはサイドウォール層又は両方である、タイヤ中に使用するのに適している請求項1に記載の構造体。」 (9)甲9に記載された事項 甲9には、「乗用車用空気入りラジアルタイヤ」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 タイヤの子午線方向断面におけるサイドウォール部において、ショルダーポイントPからリムチェックラインQまでの表面長をLとするとき、該ショルダーポイントPからリムチェックラインQ方向に向かって下式で規定される長さSまでのサイドウォール部上方領域に、複数本のタイヤ周方向に延びる環状溝と該環状溝間の環状リブとを設け、該環状リブの上部をサイドウォール部表面から突出させた乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 0.10L<S<0.33L」 ・「【図1】 」 (10)甲10に記載された事項 甲10には、「空気入りタイヤ」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【0028】 このように構成された空気入りタイヤ1において、タイヤ幅方向両外側には、タイヤサイド部Sが設けられ、タイヤサイド部Sの表面には、図2に示すように、複数の凹部100が設けられている。図2は、空気入りタイヤの外側配置領域および内側配置領域の一例を示す投影図である。ここで、タイヤサイド部Sとは、タイヤ径方向において、トレッド部2の接地端TからリムチェックラインLまでの領域となっており、タイヤサイド部Sの表面は、タイヤ周方向およびタイヤ径方向に亘って一様に連続する面となっている。」 ・「【0035】 また、少なくとも外側配置領域Eaおよび内側配置領域Ebのいずれか一方は、タイヤ径方向において、最大幅位置Dを中心として、タイヤ径方向の内側および外側に延在する第2領域E2を含んでいる。この第2領域E2は、最大幅位置Dを中心として、タイヤ径方向の内側および外側に延在するそれぞれの領域が、外径側領域E0の1/3の領域となっている。」 ・「【図1】 」 (11)甲11に記載された事項 甲11には、「空気入りタイヤ」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【0046】なお、実施例1のタイヤのサイズは52/100R17、実施例2のタイヤのサイズは60/100R17、実施例3のタイヤのサイズは120/60R17である。 【0047】 【表1】 」 (12)甲12に記載された事項 甲12には、「乗用車用空気入りラジアルタイヤ」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 一対のビード部間でトロイダル状に跨るラジアル配列のカーカスコードのプライからなるカーカスを有し、該カーカスのタイヤ径方向外側に、1層以上のベルト層からなるベルトと、タイヤ周方向に延びるコードのゴム引き層からなる1層以上のベルト補強層とを備えた、乗用車用空気入りラジアルタイヤであって、 前記タイヤの断面幅SWと外径ODとの比SW/ODが0.24以下であり、 前記ベルト補強層のタイヤ幅方向の幅をW1とし、前記ベルト層のうち最もタイヤ幅方向の幅が狭いベルト層のタイヤ幅方向の幅をW2とするとき、比W1/W2は、 0.8≦W1/W2≦1.05 を満たすことを特徴とする、乗用車用空気入りラジアルタイヤ。」 ・「【0023】 【表1】 」 2 申立ての理由1及び2について 申立ての理由1及び2は、甲1発明を主引用発明とするものであって、一致点及び相違点の認定は共通することから、併せて検討する。 (1)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明における「サイドウォール部5」は、本件特許発明1における「サイドウォール部」に相当し、以下、同様に、「ビード部1」は「ビード部」に、「カーカス2」は、「カーカス層」に、「タイヤ断面幅SWとタイヤ外径ODとの比SW/ODが0.22≦SW/OD≦0.23の関係を満足し」は「タイヤ断面幅SWとタイヤ外径ODとの比SW/ODがSW/OD≦0.3の関係を満足し」に、「タイヤ偏平率が55%である」は「タイヤ偏平率が60%以下である」に、「空気入りラジアルタイヤ」は「空気入りタイヤ」に、それぞれ相当する。 したがって、両者は次の点で一致する。 「タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間に少なくとも1層のカーカス層を装架した空気入りタイヤにおいて、 タイヤ総幅SWとタイヤ外径ODとの比SW/ODがSW/OD≦0.3の関係を満足し、タイヤ偏平率が60%以下である空気入りタイヤ。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1> 本件特許発明1においては、「タイヤ子午線断面において前記トレッド部の輪郭を形成するトレッドプロファイルが、前記トレッド部のタイヤ幅方向の最も外側に位置するサイド円弧と、該サイド円弧のタイヤ幅方向内側に位置するショルダー円弧とを含み、これらサイド円弧の延長線とショルダー円弧の延長線との交点を通りタイヤ内面に対して直交する一対の第一境界線を規定し、各サイドウォール部がタイヤ周方向に延在するリムチェックラインを有し、タイヤ子午線断面において前記リムチェックラインを通りタイヤ内面に対して直交する一対の第二境界線を規定し、前記一対の第一境界線の相互間に第一領域を区分し、前記第一境界線と前記第二境界線との間に第二領域を区分し、前記第二境界線よりもビードトウ側に第三領域を区分し、前記第一領域乃至前記第三領域の断面積(mm^(2))をそれぞれSA,SB,SCとし、前記第一領域乃至前記第三領域のタイヤ内面に沿ったペリフェリ長さ(mm)をそれぞれa,b,cとしたとき、比SB/bについて3.0≦SB/b≦8.0の関係を満足」するものであるのに対し、甲1発明においては、「タイヤ最大幅部におけるサイドウォール部5のゲージTs(mm)は、3.5≦Ts≦6.2の関係を満足している」ものである点。 <相違点2> 本件特許発明1においては、「前記サイド円弧の延長線と前記ショルダー円弧の延長線との交点と前記リムチェックラインとの間のタイヤ径方向の距離をhとし、前記リムチェックラインからタイヤ径方向外側に向かって0.3hの位置となるタイヤ外表面の点を通りタイヤ内面に対して直交する第三境界線を規定し、前記第二領域における前記第三境界線よりも径方向外側の領域をサイドウォール外側領域とし、前記第二領域における前記第三境界線よりも径方向内側の領域をサイドウォール内側領域としたとき、前記サイドウォール外側領域の最小タイヤ厚さが前記サイドウォール内側領域の最小タイヤ厚さよりも小さい」ものであるのに対し、甲1発明においては、そのようなものか不明である点。 なお、上記第4 1(1)イのとおり、甲1発明を特許異議申立人の主張どおりには認定することができないので、一致点及び相違点についても特許異議申立人の主張どおりには認定できない。 イ 判断 そこで、まず、相違点1について検討する。 甲1発明の認定の根拠である図17の記載からは、タイヤ子午線断面においてトレッド部の輪郭を形成するトレッドプロファイルが、トレッド部のタイヤ幅方向の最も外側に位置するサイド円弧及び該サイド円弧のタイヤ幅方向内側に位置するショルダー円弧を含むことを読み取ることはできず、甲1発明においては、トレッド部のタイヤ幅方向の最も外側に位置するサイド円弧及び該サイド円弧のタイヤ幅方向内側に位置するショルダー円弧を有するとはいえないので、当然、これらサイド円弧の延長線とショルダー円弧の延長線との交点があるともいえない。 他方、甲2には、「タイヤ子午線断面において前記トレッド部の輪郭を形成するトレッドプロファイルが、前記トレッド部のタイヤ幅方向の最も外側に位置するサイド円弧と、該サイド円弧のタイヤ幅方向内側に位置するショルダー円弧とを含み、これらサイド円弧の延長線とショルダー円弧の延長線との交点を通りタイヤ内面に対して直交する一対の第一境界線を規定し、各サイドウォール部がタイヤ周方向に延在するリムチェックラインを有し、タイヤ子午線断面において前記リムチェックラインを通りタイヤ内面に対して直交する一対の第二境界線を規定し、前記一対の第一境界線の相互間に第一領域を区分し、前記第一境界線と前記第二境界線との間に第二領域を区分し、前記第二境界線よりもビードトウ側に第三領域を区分」することが記載されているとしても、「SB/b」に関する事項が記載されているわけではなく、サイドウォールの径方向外側領域に凹部をタイヤ周方向に設けることが記載されているにとどまる。 また、甲2に記載されたタイヤは、SW/ODが約0.356であり、甲1発明とは形状が大きく異なるものでもある。 さらに、甲3には、「ビード部40の底部から0.6?0.8の位置」であるタイヤサイドウォール部のタイヤ径方向外側領域に相当する部位に最薄部を設けることが記載されているにとどまり、「SB/b」に関する事項が記載されているわけではない。 さらにまた、他の甲号証にも、「SB/b」に関する事項が記載されているわけではない。 さらにまた、「SB/b」に関する事項が設計的事項であるという証拠もない。 したがって、サイド円弧の延長線とショルダー円弧の延長線との交点があるとはいえない甲1発明において、甲1発明とは形状が大きく異なるタイヤに関する甲2に記載された事項を適用する動機付けはなく、仮に、甲1発明において、甲2に記載された事項を適用しても、甲2には、「SB/b」に関する事項は何ら記載されていないことから、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を想到することは、容易であったとはいえない。 また、甲3を含む他の甲号証にも、「SB/b」に関する事項は何ら記載されていないことから、甲1発明において、甲2に代えて又は甲2に加えて、甲3を含む他の甲号証に記載された事項を適用しても、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を想到することは、容易であったとはいえない。 そして、本件特許発明1は、タイヤ重量を低減すると共に、操縦安定性、乗り心地性及び低燃費性能とを両立することを可能にしたという甲1発明、甲2に記載された事項、甲3に記載された事項及び他の甲号証に記載された事項からみて、格別顕著な効果を奏するものである。 よって、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明、すなわち甲第1号証に記載された発明、甲2に記載された事項、すなわち甲第2号証に記載された事項及び他の甲号証(甲第3ないし12号証)に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、甲第1号証に記載された発明、甲3に記載された事項、すなわち甲第3号証に記載された事項及び他の甲号証(甲第2及び4ないし12号証)に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (2)本件特許発明2ないし5、8及び9について 本件特許発明2ないし5、8及び9は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された事項及び他の甲号証(甲第3ないし12号証)に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された事項及び他の甲号証(甲第2及び4ないし12号証)に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)申立ての理由1及び2についてのまとめ よって、申立ての理由1及び2によっては、本件特許の請求項1ないし5、8及び9に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立ての理由3について (1)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲2発明を対比する。 甲2発明における「トレッド部2」は本件特許発明1における「トレッド部」に相当し、以下、同様に、「サイドウオール部3」は「サイドウォール部」に、「ビード部5」は「ビード部」に、「カーカス層4」は、「カーカス層」に、「タイヤ偏平率が50%である」は「タイヤ偏平率が60%以下である」に、「ショルダー部の表面を形付ける円弧」は「サイド円弧」に、「トレッド部の表面を形付ける円弧」は「ショルダー円弧」に、「交差点であるショルダーポイントP」は「交点」に、「リムチェックラインR」は「リムチェックライン」に、それぞれ相当する。 したがって、両者は次の点で一致する。 「タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間に少なくとも1層のカーカス層を装架した空気入りタイヤにおいて、 タイヤ偏平率が60%以下であり、 タイヤ子午線断面において前記トレッド部の輪郭を形成するトレッドプロファイルが、前記トレッド部のタイヤ幅方向の最も外側に位置するサイド円弧と、該サイド円弧のタイヤ幅方向内側に位置するショルダー円弧とを含み、これらサイド円弧の延長線とショルダー円弧の延長線との交点を通りタイヤ内面に対して直交する一対の第一境界線を規定し、各サイドウォール部がタイヤ周方向に延在するリムチェックラインを有し、タイヤ子午線断面において前記リムチェックラインを通りタイヤ内面に対して直交する一対の第二境界線を規定し、前記一対の第一境界線の相互間に第一領域を区分し、前記第一境界線と第二境界線との間に第二領域を区分し、前記第二境界線よりもビードトウ側に第三領域を区分する空気入りタイヤ。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点3> 本件特許発明1においては、「タイヤ総幅SWとタイヤ外径ODとの比SW/ODがSW/OD≦0.3の関係を満足」するものであるのに対し、甲2発明においては、「タイヤ総幅SWとタイヤ外径ODとの比SW/ODが約0.356」である点。 <相違点4> 本件特許発明1においては、「前記第一領域乃至前記第三領域の断面積(mm^(2))をそれぞれSA,SB,SCとし、前記第一領域乃至前記第三領域のタイヤ内面に沿ったペリフェリ長さ(mm)をそれぞれa,b,cとしたとき、比SB/bについて3.0≦SB/b≦8.0の関係を満足」するものであるのに対し、甲2発明においては、そのようなものか不明である点。 <相違点5> 本件特許発明1においては、「前記サイド円弧の延長線と前記ショルダー円弧の延長線との交点と前記リムチェックラインとの間のタイヤ径方向の距離をhとし、前記リムチェックラインからタイヤ径方向外側に向かって0.3hの位置となるタイヤ外表面の点を通りタイヤ内面に対して直交する第三境界線を規定し、前記第二領域における前記第三境界線よりも径方向外側の領域をサイドウォール外側領域とし、前記第二領域における前記第三境界線よりも径方向内側の領域をサイドウォール内側領域としたとき、前記サイドウォール外側領域の最小タイヤ厚さが前記サイドウォール内側領域の最小タイヤ厚さよりも小さい」ものであるのに対し、甲2発明においては、「ショルダーポイントPからリムチェックラインRまでのペリフェリー長さをlとし、ショルダーポイントPからリムチェックラインRの方向にペリフェリー長さT=0.25×lだけ離れた点をQとし、このQ点からリムチェックラインRの方向にペリフェリー長さS=0.13×lまでに亘って凹部をタイヤ周方向に環状に形成した」ものである点。 なお、上記第4 1(2)イのとおり、甲2発明を特許異議申立人の主張どおりには認定することができないので、一致点及び相違点についても特許異議申立人の主張どおりには認定できない。 イ 判断 事案に鑑み、まず、相違点4について判断する。 上記第4 2(1)イのとおり、甲2及び3には、「SB/b」に関する事項は記載されていない。 また、甲1には、「タイヤ断面幅SWとタイヤ外径ODとの比SW/ODが0.22≦SW/OD≦0.23の関係を満足し、タイヤ偏平率が55%であると共にタイヤ最大幅部におけるサイドウォール部5のゲージTs(mm)は、3.5≦Ts≦6.2の関係を満足している空気入りタイヤ」が記載されているにとどまり、「SB/b」に関する事項は記載されていない。 さらに、他の甲号証のいずれにも、「SB/b」に関する事項は記載されていない。 さらにまた、「SB/b」に関する事項が設計的事項であるという証拠もない。 したがって、甲2発明において、甲1及び3ないし12に記載された事項を適用しても、甲2発明において、相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項を想到することは、容易であったとはいえない。 そして、本件特許発明1は、タイヤ重量を低減すると共に、操縦安定性、乗り心地性及び低燃費性能とを両立することを可能にしたという甲2発明並びに甲1及び3ないし12に記載された事項からみて、格別顕著な効果を奏するものである。 よって、相違点3及び5について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明、すなわち甲第2号証に記載された発明並びに甲1及び3ないし12に記載された事項、すなわち甲第1及び3ないし12号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本件特許発明2ないし5、8及び9について 本件特許発明2ないし5、8及び9は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第2号証に記載された発明並びに甲第1及び3ないし12号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)申立ての理由3についてのまとめ よって、申立ての理由3によっては、本件特許の請求項1ないし5、8及び9に係る特許を取り消すことはできない。 第5 結語 上記第4のとおり、特許異議申立書に記載した申立ての理由及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1ないし5、8及び9に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし5、8及び9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-02-26 |
出願番号 | 特願2014-104580(P2014-104580) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(B60C)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 鏡 宣宏 |
特許庁審判長 |
大島 祥吾 |
特許庁審判官 |
植前 充司 加藤 友也 |
登録日 | 2018-05-11 |
登録番号 | 特許第6331685号(P6331685) |
権利者 | 横浜ゴム株式会社 |
発明の名称 | 空気入りタイヤ |
代理人 | 清流国際特許業務法人 |