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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E04H
管理番号 1349712
異議申立番号 異議2018-700916  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-14 
確定日 2019-03-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6327447号発明「フェールセイフ機構付き免震構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6327447号の請求項1?2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6327447号の請求項1?2に係る特許についての出願は、平成26年3月26日に特許出願され、平成30年4月27日付けでその特許権の設定登録がされ、平成30年5月23日に特許掲載公報が発行された。その後、平成30年11月14日に特許異議申立人篠田育孝(以下「申立人」という。)より、請求項1?2に対して特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6327447号の請求項1?2の特許に係る発明(以下、「本件発明1」等といい、全体を「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第3 申立理由の概要
1 本件発明1?2は、甲第1号証に記載の発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?2に係る特許は、取り消されるべきものである。
2 本件発明1?2は、甲第2号証に記載の発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?2に係る特許は、取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開平10-169248号公報
甲第2号証:特開平11-303931号公報

第4 甲号証について
1 甲第1号証
(1)甲第1号証の記載事項(下線は、決定で付した。以下同じ。)
ア 「【請求項1】 上部構造体と下部構造体との間に介在させる免震装置において、
前記下部構造体に対して可動な状態で前記上部構造体を支持する支承体と、
この支承体を介して伝わる地震力を緩和する免震手段と、
剛性を有し当接により前記上部構造体と下部構造体との相対変位量を制限するストッパーとを備えたことを特徴とする免震装置。」
イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、上部構造体と下部構造体との間に介在させる免震装置に関する。」
ウ 「【0028】
【発明の実施の形態】以下、この発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明を行う。
[第1の実施の形態]図1は、この発明の第1の実施の形態である免震装置が取り付けられた構造体の縦断面図、図2は図1における矢印A-A線断面図である。この実施の形態の免震装置1は、例えば、建物の柱を構成している上部構造体2と、建物の基礎に設けられた柱の下部を構成している下部構造体3との間に介在され、基礎から柱を介して建物に伝わる地震力を緩和すべく設けられたものである。
【0029】この免震装置1は、剛性を有する仕切体5,6を介して、免震装置1の部分構成1a,1b,1cを3段に組み合わせてなり、これら部分構成1a,1b,1cは、それぞれが支承体、免震手段およびストッパーを備え、それぞれが免震装置として作用するものである。免震装置1の第1の部分構成1aは、支承体としての積層ゴム支承10a、上部構造体2の下端に剛性接続されたストッパーとしての突出部12a、仕切体5の上部に剛性接続されたストッパーとしての凹部16a、および、粘弾性体ダンパー20等から構成され、上部構造体2と仕切体5との間に介在されている。
【0030】積層ゴム支承10aは、複数のゴム弾性板と複数の金属板とを交互に積層して構成されたもので、図2にも示すように、柱の中央を除く外周部分を支持すべくこの外周部分に対応した位置に設けられている。突出部12aは、柱の中央部分に対応する位置に設けられたもので、その先端部には外側に膨出したフック部13aが形成されている。凹部16aは、上記突出部12aに対応し、突出部12aを所定の間隔を開けて収容するように形成されたもので、その開口部には、内側に膨出するフック部17aが形成されている。このフック部17aの膨出量は、凹部16aの開口部の大きさが突出部12aの先端部のフック部13aより狭くなるように設定されている。
【0031】つまり、この突出部12aと凹部16aとが、上部構造体2と下部構造体3(或いは免震装置1の部分構成1b)との水平方向および鉛直方向の相対変位の量を制限するストッパーを構成しており、上記水平方向の相対変位が所定量に達したときに、突出部12aと凹部16aとが当接して、それ以上の水平方向の相対変位を制限するようになっており、また、上記鉛直方向の相対変位が所定量(例えば、数センチメートル)に達したときに、突出部12aの先端部のフック部13aと凹部16aの開口部のフック部17aとが当接して、それ以上の鉛直方向の相対変位即ち上部構造体2の浮き上がりを防止するようになっている。このフック部13aの引っかかる部分の面には、当接した時の水平方向の変位移動をなめらかなものとするため滑り材(例えばテフロン等)13dを取り付けている。
【0032】なお、突出部12aと凹部16aとは、共に剛性を有するものであるが、その当接箇所に衝撃を吸収する緩衝材を付加して、ストッパーの当接時に衝撃を緩和するようにしても良い。
【0033】粘弾性体ダンパー20は、低降伏点鋼や鉛等を用いて材料の弾塑性変形によりエネルギーを吸収するようになっているもので、上部構造体2の下端部と凹部16aの上端部との間に挟み込まれた状態に固定されている。免震装置1の第2の部分構成1bは、積層ゴム支承10b、仕切体5の下部に剛性接続された突出部12b、仕切体6の上部に剛性接続されたストッパーとしての凹部16b、粘弾性体ダンパー21、粘性体ダンパー22およびばね等の弾性部材23等から構成される。この第2の部分構成1bは、仕切体5と仕切体6との間に介在されるものである。」
エ 「【0038】なお、この免震装置1は、上記の部分構成1a,1b,1cを重ねて構成されるものであるが、弾性部材、ダンパー、トリガー、支承体をそれぞれ取付位置に関わりなく組み合わせて構成し、上部構造体2と下部構造体3との間に介在されるものである。これら部分構成1a,1b,1cはそれぞれ1単位の免震装置として見なしても良く、その場合、それぞれの部分構成1a,1b,1cの上下に接続される構造体が上部構造体および下部構造体となる。
【0039】上記のような構成の免震装置1によれば、地震時に下部構造体3から上部構造体2に伝わる振動が、積層ゴム支承10a,10bおよび転がり支承10cで緩和されたり、粘弾性体ダンパー20,21、粘性ダンパー22に吸収されるが、例えば地震が長いものであったり大きかったりして、上部構造体2の振幅が増し、下部構造体3と上部構造体2との相対変位が大きくなった場合に、突出部12aと凹部16a、突出部12bと凹部16b、或いは、突出部12cと凹部16cとが当接して、相対変位をそれ以上大きくしないようにする。それにより、建物の振幅(上部構造体2の下部構造体3に対する相対変位)が限界点を超えて上部構造体2が基礎から脱落するということが防止される。
【0040】また、縦揺れの地震により、上部構造体2と下部構造体3との鉛直方向の相対変位が大きくなった場合に、突出部12a,12b,12cのフック部13a,13b,13cと、凹部16a,16b,16cのフック部17a,17b,17cとが当接して、鉛直方向の相対変位をそれ以上大きくしないようにする。それにより、建物の浮き上がりに対して抵抗力が付加され、例えば、浮き上がりにより積層ゴム支承10a,10bおよび転がり支承10cが破断されるといったことが防止される。」
オ 図1及び2
「【図1】



「【図2】



(ア)図1から、上部構造体2と仕切体5との間に免震装置の第1の部分構成1aが介在されている点が看て取れる。
(イ)図1,2から、フック部13aの外周の形状及び凹部16aの内周の形状が、平面視で径の異なる円形状である点が、看て取れる。

(2)甲第1号証に記載された発明
上記(1)のア?オを踏まえると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「仕切体5が免震装置の部分構成1aの下に接続される下部構造体となり、建物の柱を構成している上部構造体2と、免震装置の第1の部分構成1aに対して建物の下部構造体となる仕切体5との間に介在されている免震装置の第1の部分構成1aにおいて、
免震装置の第1の部分構成1aは、
前記下部構造体に対して可動な状態で前記上部構造体を支持する支承体としての積層ゴム支承10aと、
上部構造体2の下端に剛性接続されたストッパーとして設けられ、外周の形状が平面視で円形状であるフック部13aが先端に形成された突出部12aと、
仕切体5の上部に剛性接続されたストッパーとして設けられ、内周の形状が平面視で突出部12aと径の異なる円形状である凹部16aとから構成され、
この突出部12aと凹部16aとが、上部構造体2と下部構造体との水平方向および鉛直方向の相対変位の量を制限するストッパーを構成しており、
突出部12aと凹部16aとの当接箇所に衝撃を吸収する緩衝材を付加した、
免震装置。」

2 甲第2号証
(1)甲第2号証の記載事項
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、上部構造物と下部構造物との間に免震部材を介装した免震構造物のストッパ装置に関する。」
イ 「【0008】
上記の構成により、上部構造物と下部構造物とが水平方向に過度に相対変位しようとすると、ホルダ外周に取り付けられた弾性体とリングの内周面とが当接し、それ以上の相対変位が弾性的に規制される。」
ウ 「【0015】
図3,4は、本発明の一実施例に係るストッパ装置10が適用される免震構造物を示している。この免震構造物は、上部構造物としての建造物の下端部に設けられた架台12と、地盤に固定された下部構造物としての基礎14との間に、複数の免震部材16を介装した構造となっている。つまり、免震部材16は、この実施例では、ラーメン構造をなす架台12の隅角部分に対応して合計6箇所に配設されている。」
エ 「【0017】
そして、架台12と基礎14との間に、本実施例に係るストッパ装置10が免震部材16から離れた位置で2箇所に設けられている。つまり各ストッパ装置10は、図3に示す平面視で四隅が免震部材16で囲われた各領域の中央部にそれぞれ設けられており、所期のストッパ機能を損なわない範囲で必要最小限の個数に抑制されている。
【0018】
各ストッパ装置10は、図1,2に示すように、4つのL字状ブラケット24及びボルト26を介して架台12の下面に固定される略円筒状のホルダ28と、このホルダ28を覆うように、4つのL字状ブラケット30及びボルト32を介して基礎14の上面に固定される円筒状のリング34とに分割構成されている。
【0019】
また、ホルダ28の外周には放射状に延びる複数の弾性体36(36A,36B)が取り付けられており、各弾性体36の先細りする先端部がリング34の内周面に所定の間隙Dを介して対向している。
【0020】
このような構成により、巨大な地震等により架台12と基礎14とが水平方向に過度に相対変位しようとすると、弾性体36の先端とリング34の内周面とが当接し、それ以上の相対変位が弾性的に規制されるようになっている。
【0021】
各部の構成を詳述すると、リング34は、ホルダ28の外周を取り囲うように、このホルダ28よりも大径に形成されている。」
オ 「【0025】
以上のように本実施例では、ストッパ装置10が免震部材16から離れた位置で独立して設けられているため、免震部材16の大きさや形状に関わらずストッパ装置10をコンパクトに構成することができる。また、免震部材16の設置位置や個数に関わらず、ストッパ装置10を最適な位置に必要な個数だけ設置することが可能となり、過度な横揺れを規制するという所期のストッパ機能を損なわない範囲で、その取付点数を必要最小限に抑制することが可能となる。」
カ 「【0029】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形,変更が可能である。例えば、上記のホルダ28を中実円柱状に形成しても良い。また、上記実施例とは逆に、ホルダを下部構造物に固定するとともに、リングを上部構造物に固定する構成としても良い。」
キ 図1、図2及び図4
「【図1】



「【図2】



「【図4】




(2)甲第2号証に記載された発明
上記(1)のア?キを踏まえると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲2発明)
「上部構造物としての建造物の下端部に設けられた架台12と、地盤に固定された下部構造物としての基礎14との間に、複数の免震部材16を介装するとともに、免震部材16から離れた位置で2箇所にストッパ装置10を設けた免震構造物であって、
ストッパ装置10は、4つのL字状ブラケット24及びボルト26を介して架台12の下面に固定される略円筒状のホルダ28と、
このホルダ28を覆うように、4つのL字状ブラケット30及びボルト32を介して基礎14の上面に固定される円筒状のリング34とに分割構成されて、
ホルダ28の外周には放射状に延びる複数の弾性体36(36A,36B)が取り付けられており、各弾性体36の先細りする先端部がリング34の内周面に所定の間隙Dを介して対向しており、
巨大な地震等により架台12と基礎14とが水平方向に過度に相対変位しようとすると、弾性体36の先端とリング34の内周面とが当接し、それ以上の相対変位が弾性的に規制されるようになっている、
免震構造物。」

第5 判断
1 甲第1号証を主引用例とした進歩性欠如について(29条2項)
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、
ア 甲1発明の「建物の柱を構成している上部構造体2」及び「免震装置の第1の部分構成1aに対して建物の下部構造体となる仕切体5」は、本件発明1の「建物の上部構造体」及び「下部構造体」に相当し、
甲1発明の「建物の柱を構成している上部構造体2」と「免震装置の第1の部分構成1aに対して建物の下部構造体となる仕切体5」との間で「免震装置の第1の部分構成1a」が介在する部分は、本件発明1の「建物の上部構造体と下部構造体の間の免震層」に相当する。
イ 甲1発明の「免震装置の第1の部分構成1a」を構成する「前記下部構造体に対して可動な状態で前記上部構造体を支持する支承体としての積層ゴム支承10a」は、免震機能があることから、本件発明1の「免震装置」に相当する。
ウ 甲1発明の「上部構造体2と下部構造体との水平方向および鉛直方向の相対変位の量を制限するストッパー」は、本件発明1の「フェールセイフ機構」に相当する。また、甲1発明の「免震装置の第1の部分構成1a」は、「上部構造体2と下部構造体との水平方向および鉛直方向の相対変位の量を制限するストッパー」を有しているのであるから、当該ストッパーを有する免震装置の第1の部分構成1aは、本件発明1の「フェールセイフ機構付き免震構造」に相当する。
エ 甲1発明の「上部構造体2と下部構造体との水平方向および鉛直方向の相対変位の量を制限するストッパー」は、「建物の柱を構成している上部構造体2」と「免震装置の第1の部分構成1aに対して建物の下部構造体となる仕切体5との間」の層状の部分にあり、また、甲1発明の「上部構造体2と下部構造体との水平方向および鉛直方向の相対変位の量を制限する」ことは、本件発明1の「前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対変位を規制する」ことに相当する。そうすると、甲1発明の「建物の柱を構成している上部構造体2」と「免震装置の第1の部分構成1aに対して建物の下部構造体となる仕切体5との間」に、「上部構造体2と下部構造体との水平方向および鉛直方向の相対変位の量を制限する」「ストッパー」を構成することは、本件発明1の「前記免震層に、前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対変位を規制するフェールセイフ機構を備え、」ることに相当する。
オ 甲1発明の「上部構造体2の下端に剛性接続されたストッパーとして設けられ、外周の形状が平面視で円形であるフック部13aが先端に形成された突出部12a」は、「免震装置の第1の部分構成1a」においてストパーを構成するものであるから、本件発明1の「フェールセイフ機構」が備える「前記上部構造体に一体に設けられるとともに前記免震層内に配設された当接部」に相当する。
カ 甲1発明の「仕切体5の上部に剛性接続されたストッパーとして設けられ、内周の形状が平面視で円形である凹部16a」は、「免震装置の第1の部分構成1a」において「突出部12a」と当接して「上部構造体2と下部構造体との水平方向および鉛直方向の相対変位の量を制限するストッパー」を構成するものであるから、本件発明1の「フェールセイフ機構」が備える「前記下部構造体に一体に設けられるとともに前記免震層内に突設され、予め設定した前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対変位量を超える変位が発生した際に前記当接部が当たって該当接部及び前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対変位を規制する変位規制本体部」に相当する。
キ 甲1発明の「突出部12aと凹部16aとの当接箇所」に付加した「衝撃を吸収する緩衝材」は、「免震装置の第1の部分構成1a」においてストッパーを構成する2つの部材が当接する箇所に設けられるものであるから、本件発明1の「フェールセイフ機構」が備える「前記当接部と前記変位規制本体部の間に設けられ、前記当接部と前記変位規制本体部が近づき予め設定した互いの間隔を下回るとともに前記当接部と前記変位規制本体部の間に挟まれて」、「外力を吸収する緩衝部」に相当する。

そうすると、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「建物の上部構造体と下部構造体の間の免震層に免震装置を介設してなるフェールセイフ機構付き免震構造において、
前記免震層に、前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対変位を規制するフェールセイフ機構を備え、
前記フェールセイフ機構は、前記上部構造体に一体に設けられるとともに前記免震層内に配設された当接部と、
前記下部構造体に一体に設けられるとともに前記免震層内に突設され、予め設定した前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対変位量を超える変位が発生した際に前記当接部が当たって該当接部及び前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対変位を規制する変位規制本体部と、
前記当接部と前記変位規制本体部の間に設けられ、前記当接部と前記変位規制本体部が近づき予め設定した互いの間隔を下回るとともに前記当接部と前記変位規制本体部の間に挟まれて外力を吸収する緩衝部とを備える
フェールセイフ機構付き免震構造。」

<相違点1>
当接部及び変位規制本体部について、本件発明1では「前記当接部及び前記変位規制本体部は、予め設定した前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対変位量を超える変位が発生した際に互いに当たる面として、水平方向の互いに直交する方向を向く第1の面及び第2の面と、水平方向を向き、前記第1の面及び第2の面に交差する第3の面とを備えて形成され、複数のフェールセイフ機構を備えるとともに少なくとも前記複数のフェールセイフ機構のうち、一対のフェールセイフ機構が前記第3の面を互いに平行に配し対峙するように配設されている」のに対して、甲1発明では、フック部13aの外周の形状及び凹部16aの内周の形状は平面視で円形状である点。

<相違点2>
緩衝部が外力を吸収するに際して、本件発明1では、「弾性変形」するのに対して、甲1発明では、そのような特定がなされていない点。

上記相違点について。
相違点1について検討する。
甲第1号証には、フック部13aの外周及び凹部16aの内周において、予め設定した下部構造体に対する上部構造体の相対変位量を超える変位が発生した際に互いに当たる面として、水平方向の互いに直交する方向を向く第1の面及び第2の面と、水平方向を向き、前記第1の面及び第2の面に交差する第3の面とを備えて形成することが、記載も示唆もされておらず、また、免震構造に付加されるフェールセーフ機構の当接部と変位規制本体部において、予め設定した下部構造体に対する上部構造体の相対変位量を超える変位が発生した際に互いに当たる面として、水平方向の互いに直交する方向を向く第1の面及び第2の面と、水平方向を向き、前記第1の面及び第2の面に交差する第3の面とを備えて形成することが慣用技術であるともいえない。よって、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の構成に想到することはできない。
また、甲第2号証には、免震構造物のストッパ装置10において、円筒状のリング34を用いるという事項(前記第4の2(1)ウ及びエ参照。)が記載されているが、相違点1に係る本件発明1の構成、すなわち、「前記当接部及び前記変位規制本体部は、予め設定した前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対変位量を超える変位が発生した際に互いに当たる面として、水平方向の互いに直交する方向を向く第1の面及び第2の面と、水平方向を向き、前記第1の面及び第2の面に交差する第3の面とを備えて形成され、複数のフェールセイフ機構を備えるとともに少なくとも前記複数のフェールセイフ機構のうち、一対のフェールセイフ機構が前記第3の面を互いに平行に配し対峙するように配設されている」ことが記載も示唆もされていない。よって、甲1発明に対して、仮に甲第2号証に記載された事項を適用しても、相違点1に係る本件発明1の構成に想到することはできない。

申立人の主張について。
申立人は、甲1発明に関して「円形状は、直交する方向を向く第1の面及び第2の面と、水平方向を向き、第1の面及び第2の面に交差する第3の面とが含まれていることは明らかである。更に、フック部13aの円周囲を、凹部16aは囲んでいるため、第3の面を互いに平行に配し対峙するように配設されている構成であると言える。そして、甲1発明のフック部13aの円形に含まれる複数の面の一部を抜き出して、本件発明1の第1の面、第2の面及び第3の面の関係を明示した本件発明1とすることは、いわゆる当業者であれば、容易に想到することができると思料する。」と主張する(申立書12頁下から5行?13頁4行)。
上記主張について検討すると、甲第1号証に記載されたフック部13aの外周の形状及び凹部16aの内周の形状は平面視で径の異なる円形状をしているのであるから、円形状の周上では各点ごとに法線の方向が異なり、円周上には法線が互いに直交する2点も存在するとしても、当該2点は、「互いに当たる面」として「第1の面」又は「第2の面」となるものではない。また、平面視で円形状の周上の各点ごとに法線の方向すなわち接平面の方向が変わることは、甲1発明において平面視での円形状を改変する動機付けとはならないから、相違点1に係る「互いに当たる面」となる「第1の面」「第2の面」及び「第3の面」を備える構成を示唆するものでもない。
したがって、申立人の主張を採用することはできない。

以上のとおりであるから、その他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、又は甲1発明及び甲第2号証に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

よって、本件発明1は、甲1発明に基いて、又は、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないので、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成をすべて含み更に減縮した発明であるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2は、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

なお、申立人は、請求項1及び請求項2について、「甲第1号証記載の発明と周知技術から容易に想到できる。」(申立書3頁「理由の要点」の欄)との主張も行っているが、申立書には、周知技術の内容が示されておらず、また、周知技術をどのように甲第1号証記載の発明に適用し、容易想到であるといえるのかについて何ら説示がなされていない。また、円周上の点ごとに法線の方向及び接平面の方向が変わること(申立書13頁の図示参照)が、甲1発明において円形状を離れる動機付けとならないことは、先に説示したとおりである。

2 甲第2号証を主引用例とした進歩性欠如について(29条2項)
(1)本件発明1について
本件発明1と甲2発明とを対比すると
ア 甲2発明の「免震構造物」は、本件発明1の「免震構造」に相当し、以下同様に、「上部構造物としての建造物の下端部に設けられた架台12」は、「建物の上部構造体」に、
「地盤に固定された下部構造物としての基礎14」は、「下部構造体」に、
「複数の免震部材16」は、「免震装置」に、
「免震部材16から離れた位置で2箇所」に設けられた「ストッパ装置10」は、「フェールセイフ機構」に相当する。
また、甲2発明の「上部構造物としての建造物の下端部に設けられた架台12と、地盤に固定された下部構造物としての基礎14との間」は、当該箇所に「複数の免震部材16」を介装している横長の層状の部分であるから、本件発明1の「免震層」に相当する。
そうすると、甲2発明の「上部構造物としての建造物の下端部に設けられた架台12と、地盤に固定された下部構造物としての基礎14との間に、複数の免震部材16を介装するとともに、免震部材16から離れた位置で2箇所にストッパ装置10を設けた免震構造物であって」は、本件発明1の「建物の上部構造体と下部構造体の間の免震層に免震装置を介設してなるフェールセイフ機構付き免震構造において」に相当する。
イ 甲2発明の「ストッパ装置10」が、「上部構造物としての建造物の下端部に設けられた架台12と、地盤に固定された下部構造物としての基礎14との間」にあり、また、「巨大な地震等により架台12と基礎14とが水平方向に過度に相対変位しようとすると、弾性体36の先端とリング34の内周面とが当接し、それ以上の相対変位が弾性的に規制されるようになっている」ことは、本件発明1の「前記免震層に、前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対変位を規制する」ことに相当し、甲2発明の「ストッパ装置10」は、本件発明1の「フェールセイフ機構」に相当する。
ウ 甲2発明の「ストッパ装置10」の「4つのL字状ブラケット24及びボルト26を介して架台12の下面に固定される略円筒状のホルダ28」は、本件発明1の「フェールセイフ機構」が備える「前記上部構造体に一体に設けられるとともに前記免震層内に配設された当接部」に相当する。
エ 甲2発明の「ストッパ装置10」の「ホルダ28を覆うように、4つのL字状ブラケット30及びボルト32を介して基礎14の上面に固定される円筒状のリング34」は、本件発明1の「フェールセイフ機構」が備える「前記下部構造体に一体に設けられるとともに前記免震層内に突設され、予め設定した前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対変位量を超える変位が発生した際に前記当接部が当たって該当接部及び前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対変位を規制する変位規制本体部」に相当する。
オ 甲2発明の「放射状に延びる複数の弾性体36(36A,36B)」は、ホルダ28とリング34が近づいて設定された互いの間隔を下回ればホルダ28とリング34との間に於いて挟まれ、弾性変形するのは自明であるから、甲2発明の「ホルダ28の外周」に取り付けられ、「先端部がリング34の内周面に所定の間隙Dを介して対向して」「放射状に延びる複数の弾性体36(36A,36B)」は、本件発明1の「前記当接部と前記変位規制本体部の間に設けられ、前記当接部と前記変位規制本体部が近づき予め設定した互いの間隔を下回るとともに前記当接部と前記変位規制本体部の間に挟まれて弾性変形し外力を吸収する緩衝部」に相当する。

そうすると、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「建物の上部構造体と下部構造体の間の免震層に免震装置を介設してなるフェールセイフ機構付き免震構造において、
前記免震層に、前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対変位を規制するフェールセイフ機構を備え、
前記フェールセイフ機構は、前記上部構造体に一体に設けられるとともに前記免震層内に配設された当接部と、
前記下部構造体に一体に設けられるとともに前記免震層内に突設され、予め設定した前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対変位量を超える変位が発生した際に前記当接部が当たって該当接部及び前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対変位を規制する変位規制本体部と、
前記当接部と前記変位規制本体部の間に設けられ、前記当接部と前記変位規制本体部が近づき予め設定した互いの間隔を下回るとともに前記当接部と前記変位規制本体部の間に挟まれて弾性変形し外力を吸収する緩衝部とを備える
フェールセイフ機構付き免震構造。」

<相違点3>
当接部及び変位規制本体部について、本件発明1では「前記当接部及び前記変位規制本体部は、予め設定した前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対変位量を超える変位が発生した際に互いに当たる面として、水平方向の互いに直交する方向を向く第1の面及び第2の面と、水平方向を向き、前記第1の面及び第2の面に交差する第3の面とを備えて形成され、複数のフェールセイフ機構を備えるとともに少なくとも前記複数のフェールセイフ機構のうち、一対のフェールセイフ機構が前記第3の面を互いに平行に配し対峙するように配設されている」のに対して、甲2発明では、リング34は円筒状である点。

上記相違点について。
相違点3について検討する。
甲第2号証には、円筒状のリング34において、予め設定した下部構造体に対する上部構造体の相対変位量を超える変位が発生した際に互いに当たる面として、水平方向の互いに直交する方向を向く第1の面及び第2の面と、水平方向を向き、前記第1の面及び第2の面に交差する第3の面とを備えて形成することが、記載も示唆もされておらず、また、免震構造に付加されるフェールセーフ機構の当接部と変位規制本体部において、予め設定した下部構造体に対する上部構造体の相対変位量を超える変位が発生した際に互いに当たる面として、水平方向の互いに直交する方向を向く第1の面及び第2の面と、水平方向を向き、前記第1の面及び第2の面に交差する第3の面とを備えて形成することが慣用技術であるともいえない。よって、甲2発明において、相違点3に係る本件発明1の構成に想到することはできない。
また、甲第1号証には、免震装置のストッパーとして、外周の形状が平面視で円形状のフック部13a及び内周の形状が平面視で円形状であって、径の大きさがフック部13aとは異なる凹部16aを用いるという事項(前記第4の1(1)参照)が記載されているが、相違点3に係る本件発明1の構成、すなわち、「前記当接部及び前記変位規制本体部は、予め設定した前記下部構造体に対する前記上部構造体の相対変位量を超える変位が発生した際に互いに当たる面として、水平方向の互いに直交する方向を向く第1の面及び第2の面と、水平方向を向き、前記第1の面及び第2の面に交差する第3の面とを備えて形成され、複数のフェールセイフ機構を備えるとともに少なくとも前記複数のフェールセイフ機構のうち、一対のフェールセイフ機構が前記第3の面を互いに平行に配し対峙するように配設されている」ことは記載も示唆もされていない。よって、甲2発明に対して、仮に甲第1号証に記載された事項を適用しても、相違点3に係る本件発明1の構成に想到することはできない。

申立人の主張について。
申立人は、甲2発明に関して「円形状は、直交する方向を向く第1の面及び第2の面と、水平方向を向き、第1の面及び第2の面に交差する第3の面とが含まれていることは明らかである。更に、フック部13aの円周囲を、凹部16aは囲んでいるため、第3の面を互いに平行に配し対峙するように配設されている構成であると言える。そして、甲2発明のリング34の円形に含まれる複数の面の一部を抜き出して、本件発明1の第1の面、第2の面及び第3の面の関係を明示した本件発明1とすることは、いわゆる当業者であれば、容易に想到することができると思料する。」と主張する(申立書18頁下から5行?19頁4行)。
上記主張について検討すると(甲第2号証には、「フック部13a」及び「凹部16a」という用語はないので、上記「フック部13a」及び「凹部16a」については、甲第2号証においてそれぞれ対応すると思われる「ホルダ28」及び「リング34」と理解して以下検討する。)、甲第2号証に記載されたリング34は円筒状をしているのであるから、円筒の周上で各点ごとに法線の方向が異なり、そのうちの2点で法線が互いに直交するとしても、当該2点は各々円筒周上の直線であり、相違点3に係る「互いに当たる面」としての「第1の面」又は「第2の面」になるものではない。また、円筒周上の各点ごとに法線の方向及び接平面の方向が変わることは、甲2発明において円筒形状を離れて別な形状を採用する動機付けともならない。
したがって、申立人の主張を採用することはできない。

以上のとおりであるから、本件発明1は、甲2発明、又は甲2発明及び甲第1号証に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

よって、本件発明1は、甲2発明、又は甲2発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないので、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成をすべて含み更に減縮した発明であるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2は、甲2発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

なお、申立人は、請求項1及び請求項2について、「甲第2号証記載の発明と周知技術から容易に想到できる。」(申立書5頁「理由の要点」の欄)との主張も行っているが、申立書には、周知技術の内容が示されておらず、また、周知技術をどのように甲第2号証記載の発明に適用し、容易想到であるといえるのかについて何ら説示がなされていない。また、リング34の円筒周上の各点ごとに法線の方向及び接平面の方向が変わることが、甲2発明において円筒形状を離れて別な形状を採用する動機付けとならないことは、先に説示したとおりである。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-03-06 
出願番号 特願2014-63682(P2014-63682)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E04H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 新井 夕起子  
特許庁審判長 前川 慎喜
特許庁審判官 有家 秀郎
西田 秀彦
登録日 2018-04-27 
登録番号 特許第6327447号(P6327447)
権利者 清水建設株式会社
発明の名称 フェールセイフ機構付き免震構造  
代理人 佐伯 義文  
代理人 志賀 正武  
代理人 川渕 健一  

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