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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F24F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F24F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  F24F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F24F
管理番号 1349713
異議申立番号 異議2018-701053  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-26 
確定日 2019-03-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第6353817号発明「空気調和システムおよび空気調和機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6353817号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6353817号(以下、「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許(以下、「請求項1に係る特許」及び「請求項2に係る特許」という。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成24年10月17日の出願である特願2012-229402号の一部を平成27年9月9日に新たな特許出願としたものであって、平成30年6月15日にその特許権の設定登録がされ、平成30年7月4日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、平成30年12月26日に特許異議申立人井澤幹(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、それぞれ、本件特許の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
室温を検知する室温計測手段を有する空気調和機と、
前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるとき、使用者に前記空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知する第1の機能と、
前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が前記第1の所定温度より高い第2の所定温度以上であるとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する第2の機能とを備えたことを特徴とする空気調和システム。
【請求項2】
室温を検知する室温計測手段を有する空気調和機と、
前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上であるとき、使用者に前記空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知する第1の機能と、
前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上になってから所定時間が経過しても前記空気調和機の運転が開始されないとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する第2の機能とを備えたことを特徴とする空気調和システム。」

第3 特許異議申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として次の1.に示す甲第1?9号証(以下、「甲1」?「甲9」ともいう。)を提出し、概ね次の2.に示す申立理由を主張している。
1.証拠方法
甲第1号証:特開平9-254633号公報
甲第2号証:特開2010-70060号公報
甲第3号証:特開2005-50067号公報
甲第4号証:特開2007-76589号公報
甲第5号証:特開平10-55496号公報
甲第6号証:特開平10-278564号公報
甲第7号証:特開2011-99622号公報
甲第8号証:特開2007-90915号公報
甲第9号証:特開2010-266318号公報

2.申立理由
(1)申立理由1
本件発明1及び2は、以下のとおり、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当するから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
ア 本件発明1及び2は、甲2に記載の発明と同一である。
イ 本件発明1は、甲8に記載の発明と同一である。

(2)申立理由2
本件発明1及び2は、以下のとおり、甲1?9に記載された発明等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
ア 本件発明1は、甲1に記載の発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 本件発明1及び2は、甲2に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 本件発明1及び2は、甲2に記載の発明、及び甲7に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 本件発明1は、甲3に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
オ 本件発明1及び2は、甲3に記載の発明、及び甲2に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
カ 本件発明1及び2は、甲3に記載の発明、並びに甲2及び甲7に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
キ 本件発明1は、甲8に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
ク 本件発明1及び2は、甲8に記載の発明、及び甲2に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
ケ 本件発明1及び2は、甲8に記載の発明、並びに甲2及び甲7に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
コ 本件発明1は、甲9に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
サ 本件発明1は、甲9に記載の発明、及び甲2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
シ 本件発明1は、甲9に記載の発明、並びに甲2及び甲7に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)申立理由3
本件発明1及び2は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(4)申立理由4
本件特許の請求項1の記載及び請求項2の記載は明確でなく、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(5)申立理由5
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

第4 甲1?9の記載等
1.甲1について
(1)甲1の記載事項
甲1には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は車内での熱死等の熱害を防止する熱害防止装置に関する。
【0002】
【従来の技術】毎年、夏場になると、乳幼児が駐車場その他の直射日光の当たる場所で車内に放置され、脱水症状を起こし、健康を害したり、ひどいときには熱死する事故が発生することがある。従来、このような熱害を防止するために、保護者が車から離れるときに、エアコン(又はクーラ)を動作させている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】保護者は、クーラを動作させたことで安心して、なかなか車内に戻らない場合に、たまたまエンジンがガス欠等で停止し、クーラも停止してしまうことがある。また、車内に居るのが幼児であると、その幼児がエアコン(又はクーラ)の温度設定を上げてしまったり、もしくは暖房にしてしまうことがある。この場合、車内の温度が異常に上昇し、恐ろしい熱死に至らしめることになる。
【0004】この発明は上記問題点に着目してなされたものであって、車内での熱死等の熱害を防止し得る熱害防止装置を提供することを目的としている。」

イ 「【0014】
【発明の実施の形態】以下、実施の形態により、この発明をさらに詳細に説明する。図1は、この発明の一実施形態車内での熱害防止装置の構成を示す回路図である。この実施形態熱害防止装置は、人体センサ1と、車内温度制御部2とから構成されている。人体センサ1は、センサ部11と、このセンサ部11に伝送路14を介して高周波信号を伝送する発振部12と、センサ部11に供給された高周波信号がセンサ部11で反射されて発振部12側に戻る反射信号を検出する反射波センサ部13と、検出された反射信号を取り込んで信号処理する制御部15と、から構成されている。」

ウ 「【0022】図1、図3における車内温度制御部2は、予め人が存在するときの車内の最大温度(限界温度)を設定している。そして、車内温度制御部2の制御によってエアコンが、常時は運転手がその時に設定される温度を保つように動作する。ここで言うエアコンは、車に搭載されるよく知られたものである。しかし、人体センサ1が人体有りと判断したときは、如何なる温度設定であっても、車内温度制御部2の制御によってエアコンは、最大温度設定値を越えないように制御されるようになっている。」

エ 「【0025】この図1、図3の実施形態熱害防止装置では、人が車に乗車すると、人体センサ1が人の乗車を検知し、その検知信号を温度制御装置2に送る。温度制御装置2では、この信号を受けると、エアコンが冷暖房のいかなる温度に設定されていようとも、予め装置に設定されている最高温度設定値よりも上昇しないようにエアコンを制御する。これによって、乳児等が暖房等に投入しても、あるいは車外から太陽熱を受けても最高温度設定値よりも上昇しないので、車内が異常な高温となるのを防止できる。」

オ 「【0028】この熱害防止装置では、チャイルドシート60の人体センサ1cで、幼児が居るかどうか検知し、居る場合は送信ユニット61、アンテナ62より無線でアンテナ64、受信ユニット63を介して、その信号を車内温度制御部2に送信する。車内温度制御部2は、図1、図3で説明したのと同様の動作を行う。図8は、この発明の他の実施形態車内での熱害防止装置を示す概略図である。この熱害防止装置は、図7の回路構成に加えて、さらに車内制御部65、車内の温度を検知する温度センサ66、限界温度設定スイッチ67、及びパワーウインド駆動部68を備えている。
【0029】この実施形態熱害防止装置では、人体センサ1a、1b、1cで、人体が検知された状態では、車内温度制御部2で温度制御を行い、温度センサ66で検知される温度が限界温度を越えないようにする。何らかの原因で、例えばエンジン停止等でエアコンが停止し、温度センサ66で検知される温度が限界温度を越えて上昇した場合、パワーウインド駆動部68を動作させてパワーウインドを下げ、窓を開ける。」

カ 「【0036】人体センサ1から人体有の信号を受けると、車内温度制御部2は、図1、図3に示したものと同様に動作する。図11は、この発明の他の実施形態車内での熱害防止装置の構成を示す回路図である。人体センサ1は、発振部70、検波部80、制御部90とからなる基本構成において、図9のものと同じである。ただし、制御部90には出力リレー93を備えている。車内温度制御部2には、限界温度設定スイッチ67が接続されている。
【0037】この熱害防止装置では、予め人が存在するときの車内の限界温度を限界温度設定スイッチ67により設定しておく。通常は、その時に設定されている目標温度を保つようにエアコンは動作する。しかし、人体センサ1が人体有りと判断したときは、如何なる温度設定であっても、車内温度制御部2は最大温度設定値を越えないように制御する。」

キ 「【0046】この熱害防止装置では、人体センサ1a、1b、…、より人体検知の信号が車内制御部65に入力されている状態で、温度センサ6によって検知される車内温度が、例えば30°Cを越え、なおかつエアコンの設定温度が高く、さらに窓の位置センサ69によってパワーウインドが閉じられていることが検知された場合に、車内制御部65は警報装置120を動作させて、外部に対して警報(例えばはクラクション)を発する。これにより、近くを通行している者が停車している車の温度が上昇していることに気付き、適切な処置を早期に取ることができ、熱死などを未然に防止できる。ここで使用する人体センサは、図1、図3で示すもの、あるいは図9、図11、図12、図14、図15のいずれのものであってもよい。」

ク 「【0050】
【発明の効果】請求項1ないし請求項5に係る信号によれば、車内で人体センサにより、赤ん坊、幼児が検出されている状態では、その検出出力により、エアコンの温度が所定値以上に上がらないように制御するので、乳幼児の車内での熱死を防止し、子供の安全を守ることができる。」

(2)上記(1)及び図面の記載から分かること
ア 上記(1)ア?ク並びに図1?6及び16の記載によれば、甲1には、熱害防止装置とエアコンを用いた車内での熱死を防止するためのシステムが記載されていることが分かる。

イ 上記(1)イ?オ並びに図1?6及び16の記載によれば、熱害防止装置とエアコンを用いた車内での熱死を防止するためのシステムは、人体センサ1a、1b、…と、車内制御部65と、車内温度を検知する温度センサ66と、限界温度設定スイッチ67と、車内温度制御部2と、パワーウインド駆動部68と、窓の位置センサ69と、警報装置120とを備えた熱害防止装置と、車に搭載されたエアコンと、を備えることが分かる。

ウ 上記(1)カ及びキ並びに図1?6及び16の記載によれば、熱害防止装置とエアコンを用いた車内での熱死を防止するためのシステムは、人体センサ1a、1b、…、より人体検知の信号が車内制御部65に入力されている状態で、温度センサ66によって検知される車内温度が、前記限界温度設定スイッチ67により設定された予め人が存在するときの車内の限界温度、例えば30°Cを越え、なおかつ前記エアコンの設定温度が高く、さらに前記窓の位置センサ69によってパワーウインドが閉じられていることが検知された場合に、前記車内制御部65は警報装置120を動作させて、外部に対して警報を発する機能を備えることが分かる。

エ 上記(1)ウ?カ及びク並びに図1?6及び16の記載によれば、熱害防止装置とエアコンを用いた車内での熱死を防止するためのシステムは、人体センサ1a、1b、…で、人体が検知された状態では、車内温度制御部2でエアコンにより温度制御を行い、温度センサ66で検知される車内温度が車内の限界温度を越えないようにし、温度センサ66で検知される温度が車内の限界温度を越えて上昇した場合、パワーウインド駆動部68を動作させてパワーウインドを下げ、窓を開ける機能を備えることが分かる。

(3)甲1発明
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「人体センサ1a、1b、…と、車内制御部65と、車内温度を検知する温度センサ66と、限界温度設定スイッチ67と、車内温度制御部2と、パワーウインド駆動部68と、窓の位置センサ69と、警報装置120とを備えた熱害防止装置と、
車に搭載されたエアコンと、
前記人体センサ1a、1b、…、より人体検知の信号が車内制御部65に入力されている状態で、前記温度センサ66によって検知される車内温度が、前記限界温度設定スイッチ67により設定された予め人が存在するときの車内の限界温度、例えば30°Cを越え、なおかつ前記エアコンの設定温度が高く、さらに前記窓の位置センサ69によってパワーウインドが閉じられていることが検知された場合に、前記車内制御部65は警報装置120を動作させて、外部に対して警報を発する機能と、
前記人体センサ1a、1b、…で、人体が検知された状態では、前記車内温度制御部2で前記エアコンにより温度制御を行い、前記温度センサ66で検知される車内温度が車内の限界温度を越えないようにし、温度センサ66で検知される温度が車内の限界温度を越えて上昇した場合、前記パワーウインド駆動部68を動作させてパワーウインドを下げ、窓を開ける機能とを備えた、熱害防止装置とエアコンを用いた車内での熱死を防止するためのシステム。」

2.甲2について
(1)甲2の記載事項
甲2には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、車室内事故防止装置に関し、例えば車室内に置き去りにされた子供や、有毒ガスが充満した車室内にいる人などを救済可能な車室内事故防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両における不法侵入や盗難などを防止するようにした警報装置が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。この特許文献1に記載された警報装置では、車室内侵入検知手段により車室内への侵入者が検知されると、その旨が車両から管理センタへ通知され、管理センタからその車両の所定範囲内に駐車中の周辺車両の所有者に、近隣に駐車中の車両に異常が発生したことが通知されるようになっている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年、子供や愛玩動物の車内置き去りによる熱中死亡事故や、車内でのCOガスによるガス死亡事故などの車室内事故が多発している。このため、車両が有する盗難防止機能等を利用して、これら車室内事故の発生を未然に防止する装置の開発が望まれていた。
【0004】
本発明の課題は、上記した車室内事故を抑止可能な車室内事故防止装置を簡易かつ安価に構成することにある。」

イ 「【0011】
また、管理センタの制御部は、前記対応として、登録された携帯端末に対する通知、所定団体に対する車両への急行を求める救急連絡、又は車両に搭載され異常環境の進行を抑止可能な機器に対する遠隔操作を実行可能とされているとよい。この場合、例えば、携帯端末に対する通知、救急連絡、遠隔操作は、車室内侵入検知手段による車室内の生物体の検知、及び異常環境検知手段による車室内の異常の検知が継続する時間の経過段階に対応して設定されており、制御手段は、該時間の経過段階毎に管理センタの制御部に通知を行い、該制御部は、該通知の段階に応じて携帯端末に対する通知、救急連絡、遠隔操作をこの順に実行するように構成されているとよい。または、携帯端末に対する通知、救急連絡、遠隔操作は、異常環境の進行段階に対応して設定されており、制御手段は、車室内侵入検知手段により車室内の生物体が検知されたとき、該異常環境が所定の段階に達する毎に管理センタの制御部に通知を行い、該制御部は、該通知の段階に応じて携帯端末に対する通知、救急連絡、遠隔操作をこの順に実行するように構成されていてもよい。このとき、前記機器は、例えばエアコン又は電動式ウインドウであると好適である。
【0012】
登録された携帯端末に対する通知により、車両の所有者、その近親者などに注意を喚起することができる。このため、管理センタの制御部が登録された携帯端末に対する通知を実行することで、車両の所有者等による救済を期待できるようになる。車両の所有者等が車両に早く駆け付けることができない場合でも、所定団体に対する車両への急行を求める救急連絡により、該団体が車両に早く駆け付けることが可能である。このため、管理センタの制御部が該団体に対する車両への急行を求める救急連絡を実行することで、該団体による救済を期待できるようになる。車両の所有者等及び前記団体が車両に早く駆け付けることができない場合でも、異常環境の進行を抑止可能な機器に対する遠隔操作により異常環境の進行を抑止することが可能である。このように、車内の異常環境の度合いに応じて、管理センタの制御部により異なる対応が講じられるので、車室内事故の発生をいずれかの段階でほぼ確実に防止することができる。」

ウ 「【0013】
a.第1実施形態
以下、本発明の各実施形態を図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る車室内事故防止装置を概略的に示すブロック図である。この車室内事故防止装置は、車両に搭載される車載機器10を備えている。車載機器10は、この車載機器10の搭載車両における盗難防止に関する管理を行う管理センタ20と、ユーザ(車両の所有者)の所持する携帯電話、パーソナルコンピュータなどの携帯端末30とで車両盗難防止システムを構成する機能を有している。
【0014】
車載機器10と管理センタ20とは、それぞれの送受信部11,21を介してネットワーク接続され、互いに通信可能に構成されている。車載機器10は、各種センサ信号、画像データ等のデータを管理センタ20に送信することができる。管理センタ20は、送受信部21を介して携帯端末30とネットワーク通信可能とされており、管理センタ20から携帯端末30にメッセージ送信等を行うことができるように構成されている。
【0015】
車載機器10は、セキュリティECU12、車両の現在位置を検出するGPS受信機13、盗難防止のための監視機能を有する車室内侵入センサ14、カメラ15、車室内又は車室外に向けて警報する警報機16などを備えている。」

エ 「【0020】
エアコン40(機器)は、エアコンECU41、内気温センサ42(異常環境検知手段)に代表される各種センサ、及び各種モータ駆動部43を備えている。エアコンECU41は、内気温センサ42により検出されたセンサ信号を通信バスBUSを介してセキュリティECU12に向けて送信する。また、セキュリティECU12は、通信バスBUSを介してエアコンECU41に各種モータ駆動部43を駆動するための制御信号を送信可能に構成されている。エアコンECU41は、これを受けて、例えば冷風が吹き出されるようコンプレッサをオンするとともにブロワモータを駆動し、あるいは外気が導入されるよう内外気切り替え用のモータを駆動する。
【0021】
パワーウインドゥ50(機器)は、ドアECU51及びウインドゥ駆動部52を備えている。セキュリティECU12は、通信バスBUSを介してドアECU51にウインドゥ駆動部52を駆動するための制御信号を送信可能に構成されている。ドアECU51は、これを受けて、車両の全ウインドゥあるいは一部のウインドゥが開状態となるようウインドゥ駆動部52を駆動する。
【0022】
管理センタ20(警報手段)は、周知のワークステーション等で構成されるサーバ22(制御部)、データベース23などを備えている。サーバ22は、所定のプログラムの実行により、車載機器10から送信される各種データに基づいて各種の対応、すなわち、警備会社(所定の団体)に対する車両への急行を求める救急連絡や、車載機器10を介してエアコン40やパワーウインドゥ50の遠隔操作を行うことができるように構成されている。
【0023】
データベース23には、車両盗難防止システムを使用するユーザとその車両に関するデータ(例えば、登録された携帯端末30のメールアドレスや、登録された車両のID)、車載機器10の作動状況に関するデータ、車両の駐車位置に関するデータ、車載機器10から送信される各種データに基づいて車両における異常発生を判断し、異常の内容を分析するために必要なデータなどが格納されている。」

オ 「【0029】
b.第2実施形態
上記第1実施形態等では、車載機器10が単独で車室内事故を防止する機能を発揮し得るように構成したが、図1に示した管理センタ20のサーバ22が最終的に車室内事故を防止する対応をとるように構成してもよい。この第2実施形態では、セキュリティECU12は、イグニッションスイッチのオフにより、図2の車室内事故防止プログラムを実行する代わりに、図5の車室内事故防止プログラムを所定時間毎に繰り返し実行するように構成されている。なお、以下の第2実施形態の説明では、上記した第1実施形態と同一の構成要素、同一の機能を果たすステップ処理には同一の符号を付して、説明を省略する。
【0030】
いま、車室内に子供が置き去りにされており、車室の内気温が設定温度を超えた場合を想定する。この場合、セキュリティECU12は、図5に示すように、車室内侵入センサ14によるセンサ信号に基づいて検知ありと判定し、かつ内気温センサ42によるセンサ信号に基づいて設定温度以上であると判定した後(S13:Yes,S14:Yes)、ステップS21の処理を実行する。
【0031】
ステップS21では、セキュリティECU12は、車室内侵入センサ14のセンサ信号に基づく検知と、内気温センサ42のセンサ信号に基づく設定温度以上との状態が継続する時間の経過段階に応じて、管理センタ20のサーバ22に逐次通知を行う。
【0032】
すなわち、セキュリティECU12は、図6に示すように、車室内侵入センサ14のセンサ信号に基づく検知と、内気温センサ42のセンサ信号に基づく設定温度以上との状態が第1設定時間TM1だけ継続したとき管理センタ20のサーバ22に第1段階の通知を行う。同様にして、第2設定時間TM2が継続したときは第2段階の通知を行い、第3設定時間TM3が継続したときは第3段階の通知を行う。各段階の通知には、車両を特定するためのID、車両の駐車位置に関する位置データ、カメラ15により撮影された車室内の画像データ等が含まれている。
【0033】
管理センタ20のサーバ22は、セキュリティECU12から第1段階の通知を受けると、データベース23から登録された携帯端末30を読み出し、ユーザに注意を喚起するためのメッセージ及び車室内の画像データを送信する。その後、セキュリティECU12から第2段階の通知を受けると、車室内の画像データに基づいて車室内に人がいることを確認した上で、警備会社に対して車両への急行を求める救急連絡を行う。さらに、セキュリティECU12から第3段階の通知を受けると、車載機器10を介してエアコン40やパワーウインドゥ50の遠隔操作を行う。例えば、エアコン40から冷風が吹き出され、あるいは外気が導入されるようエアコンECU41を制御するための制御信号をセキュリティECU12に送る。また、車両の全ウインドゥあるいは一部のウインドゥが開状態となるようドアECU51を制御するための制御信号をセキュリティECU12に送る。
【0034】
このように車室内の高温状態が継続する時間の経過段階に応じて、管理センタ20のサーバ22により異なる対応が講じられるので、車室内での熱中死亡事故の発生をいずれかの段階で良好に防止することができる。」

カ 「【0035】
(変形例)
上記第2実施形態では、セキュリティECU12が、車室内侵入センサ14のセンサ信号に基づく検知と、内気温センサ42のセンサ信号に基づく内気温の設定温度以上との判定が継続する時間の経過段階に応じて、管理センタ20のサーバ22に逐次通知を行うように構成したが、これに代えて、セキュリティECU12は、車室内侵入センサ14のセンサ信号に基づいて検知ありと判定したとき、内気温センサ42のセンサ信号に基づいて内気温が所定の段階に達したと判定する毎に、管理センタ20のサーバ22に逐次通知を行うように構成してもよい。
【0036】
すなわち、セキュリティECU12は、図7に示すように、車室内侵入センサ14のセンサ信号に基づいて検知ありとの判定が継続しているとき、内気温センサ42のセンサ信号に基づく内気温が第1温度TE1に達した判定したとき管理センタ20のサーバ22に第1段階の通知を行う。同様にして、内気温が第2温度TE2に達したと判定したときは第2段階の通知を行い、第3温度TE3に達したと判定したときは第3段階の通知を行う。この場合も、各段階の通知には、車両を特定するためのID、車両の駐車位置に関する位置データ、カメラ15により撮影された車室内の画像データ等が含まれている。
【0037】
この変形例によれば、車室内の内気温の上昇段階に応じて、管理センタ20のサーバ22により異なる対応が講じられるので、車室内での熱中死亡事故の発生をいずれかの段階で良好に防止することができる。」

(2)上記(1)及び図面の記載から分かること
ア 上記(1)ア?カ並びに図1?3及び5?7の記載によれば、甲2には、車室内事故防止装置とエアコンを用いたシステムが記載されていることが分かる。

イ 上記(1)エ及びカ並びに図1?3及び5?7の記載によれば、車室内事故防止装置とエアコンを用いたシステムは、車室の内気温を検知する内気温センサ42を有するエアコン40を備えることが分かる。

ウ 上記(1)ア?ウ、オ及カ並びに図1?3及び5?7の記載によれば、車室内事故防止装置とエアコンを用いたシステムは、次の機能を備えることが分かる。
(ア)イグニッションスイッチのオフ時において、車室内侵入センサ14のセンサ信号に基づいて検知ありとの判定が継続しているとき、前記内気温センサ42の検知信号に基づく車室の内気温が第1温度TE1に達したとき、管理センタ20のサーバ22は、車室外のユーザの携帯端末30にユーザに注意を喚起するためのメッセージをメールにより送信する機能
(イ)イグニッションスイッチのオフ時において、車室内侵入センサ14によるセンサ信号に基づいて検知ありと判定し、かつ前記内気温センサ42による検知信号に基づく車室の内気温が設定温度以上との状態が第1設定時間TM1だけ継続したとき、管理センタ20のサーバ22は、車室外のユーザの携帯端末30にユーザに注意を喚起するためのメッセージをメールにより送信する機能
ここで、ユーザに注意を喚起するためのメッセージの連絡先が車室外のユーザの携帯端末30であることは、甲2において、イグニッションスイッチのオフ時であること、及び子供や愛玩動物の車内置き去りによる熱中死亡事故の防止のため(段落【0003】)、当該メッセージにより車両の外部にいる車両の所有者等が車両に早く駆けつけ救済することを可能にするものであること(段落【0011】、【0012】)が開示されていることからみて、自然な解釈である。

エ 上記(1)オ及カ並びに図1?3及び5?7の記載によれば、車室内事故防止装置とエアコンを用いたシステムは、次の機能を備えることが分かる。
(ア)イグニッションスイッチのオフ時において、内気温センサ42の検知信号に基づく車室の内気温が第1温度TE1より高い第3温度TE3に達したとき、管理センタ20のサーバ22は、エアコン40の遠隔操作を行う機能
(イ)イグニッションスイッチのオフ時において、内気温センサ42の検知信号に基づく車室の内気温が設定温度以上との状態が第3設定時間TM3が継続したとき、管理センタ20のサーバ22は、エアコン40の遠隔操作を行う機能

(3)甲2発明1
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明1」という。)が記載されていると認める。
「車室の内気温を検知する内気温センサ42を有するエアコン40と、
イグニッションスイッチのオフ時において、車室内侵入センサ14のセンサ信号に基づいて検知ありとの判定が継続しているとき、前記内気温センサ42の検知信号に基づく車室の内気温が第1温度TE1に達したとき、管理センタ20のサーバ22は、車室外のユーザの携帯端末30にユーザに注意を喚起するためのメッセージをメールにより送信する機能と、
前記イグニッションスイッチのオフ時において、前記内気温センサ42の検知信号に基づく車室の内気温が前記第1温度TE1より高い第3温度TE3に達したとき、前記管理センタ20の前記サーバ22は、前記エアコン40の遠隔操作を行う機能と、を備えた車室内事故防止装置とエアコンを用いたシステム。」

(4)甲2発明2
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明2」という。)が記載されていると認める。
「車室の内気温を検知する内気温センサ42を有するエアコン40と、
イグニッションスイッチのオフ時において、車室内侵入センサ14によるセンサ信号に基づいて検知ありと判定し、かつ前記内気温センサ42による検知信号に基づく車室の内気温が設定温度以上との状態が第1設定時間TM1だけ継続したとき、管理センタ20のサーバ22は、車室外のユーザの携帯端末30にユーザに注意を喚起するためのメッセージをメールにより送信する機能と、
前記イグニッションスイッチのオフ時において、前記内気温センサ42の検知信号に基づく車室の内気温が設定温度以上との状態が第3設定時間TM3が継続したとき、前記管理センタ20の前記サーバ22は、前記エアコン40の遠隔操作を行う機能と、を備えた車室内事故防止装置とエアコンを用いたシステム。」

(5)甲2技術
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合すると、甲2には次の技術(以下、「甲2技術」という。)が記載されていると認める。
「ECU12は、イグニッションスイッチのオフ時において、車室内侵入センサ14のセンサ信号に基づいて検知ありとの判定が継続しているとき、内気温センサ42の検知信号に基づく車室の内気温が第1温度TE1に達したとき管理センタ20のサーバ22に第1段階の通知を行い、又は、車室内侵入センサ14によるセンサ信号に基づいて検知ありと判定し、かつ前記内気温センサ42による検知信号に基づく車室の内気温が設定温度以上との状態が第1設定時間TM1だけ継続したとき管理センタ20のサーバ22に第1段階の通知を行い、管理センタ20のサーバ22は、車室外のユーザの携帯端末30にユーザに注意を喚起するためのメッセージをメールにより送信するようにした技術。」

3.甲3について
(1)甲3の記載事項
甲3には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、車両の状態に基づいて該車両の制御をおこなう車両制御装置に関し、特に、運転手の降車後に車両に残された被保護者の状態を正確に把握させることの可能な車両制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、運転手(保護者)が乗員(子供、ペットなどの介護を必要とする人物または動物)を残して車両から離れざるを得ない状況では、子供が車両から脱出し、誘拐事件や交通事故などの奇禍に遭遇することが懸念されるため、車室内に残された子供の状態を運転者に把握させることが重要となってくる。これらのことから、特許文献1では、ドアセンサによってドアが開けられたことが検出された場合に、ドアが開けられたことを運転手に通知する車両用警備システムが開示されている。
【0003】
また、車両のドアまたはウィンドウが閉められた状態で車内に子供が残された場合、夏期であれば車室内の温度が上昇し高温となるため、車内に残された子供が脱水症状などを起こし、酷い場合には死亡する事故が発生している。このような事態を防止するために、特許文献2では、車室内の温度状態を検出し、該温度が所定の温度以上に達した場合に、エアコンを作動させたり、ウィンドウを開放させたりして温度調節をおこなう車載安全システムが開示されている。
【0004】
・・・
【特許文献2】
特開平10-278584号公報
【0005】
・・・
【0006】
また、上記の特許文献2は、車内温度が所定の温度を超えた場合に、車内温度の調節を画一的におこなうものであるため、車内温度の状態に応じた温度調整をおこなうには制約があった。具体的には、車内温度の状態が子供の身体に重大な影響を与える程の高温度状態または低温度状態に陥った場合においても、車内温度の調節を画一的におこなうため、車内温度の状態に応じた温度調節をおこなうことができない。
【0007】
そこで、この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであり、運転手の降車後に車両に残された被保護者の状態を正確に把握させることの可能な車両制御装置を提供することを目的とする。」

イ 「【0008】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、請求項1の発明に係る車両制御装置は、車両の状態に基づいて該車両の制御をおこなう車両制御装置であって、前記車両から運転手が降車した後の車両の定常状態を記憶する記憶手段と、前記運転手が降車した後の車両状態を検出する検出手段と、前記検出手段によって検出された車両状態が前記記憶手段によって記憶された車両状態に比較して変化したか否かを判定する判定手段と、前記判定手段によって車両状態が変化したと判定された場合に、前記車両状態が変化した旨を前記運転手が所有する通信装置に通知する通知手段と、を備えたことを特徴とする。
・・・
【0012】
また、請求項5の発明に係る車両制御装置は、請求項1?4のいずれか一つの発明において、前記判定手段によって車内温度の状態が適正範囲を超えたと判定された場合に、前記適正範囲から逸脱した度合いに応じて当該車内温度を調節する車内温度調節手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0013】
また、請求項6の発明に係る車両制御装置は、請求項1?5のいずれか一つの発明において、前記運転手の降車後に前記車両に残される対象に応じた検出判定の設定を受け付ける設定受付手段をさらに備え、前記検出手段は、前記設定受付手段によって受け付けられた設定に応じて前記運転手が降車した後の車両状態を検出し、前記判定手段は、前記検出手段によって検出された車両状態が前記記憶手段によって記憶された車両状態に比較して変化したか否かを判定し、前記通知手段は、前記判定手段によって車両状態が変化したと判定された場合に、前記車両状態が変化した旨を前記運転手が所有する通信装置に通知することを特徴とする。」

ウ 「【0014】
【発明の実施の形態】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る車両制御装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。図1は、本実施の形態に係る車両制御装置の構成を示す機能ブロック図である。同図に示すように、主制御部301は、ドア105、ウィンドウ106、ワイパー107、ヘッドライト108、ホーン109、ウィンカー110、通信処理部201、画像処理部202、エアコン制御部203、制御用ロケータ204、表示制御部401、音声制御部402、ナビゲーションシステム403、記憶部302、車両運転制御系400と接続している。この車両運転制御系400は、エンジン制御部406、変速制御部407、ブレーキ制御部408、ステアリング制御部409を備える。
・・・
【0016】
通信処理部201は、一般通信網101(ネットワーク)と接続されており、このネットワークを介して各種通信をおこなう処理部である。具体的には、状態変化判定部301aによって車両状態が変化したと判定された場合に、車両状態が変化した旨を運転手が所有する通信装置(例えば、PHS端末、携帯端末、移動体通信端末、PDA、既知のパーソナルコンピュータまたはワークステーションなどの装置)に通知する。
・・・
【0018】
エアコン制御部203は、送風機104から冷風または温風を送風することにより、車内温度を調節する処理部である。具体的には、温度センサ103から取得した車内温度がタッチパネル501による入力操作を基に設定された設定温度になるように送風機104から冷風または温風を送風することによって調節する。制御用ロケータ204は、ナビゲーションシステム403から位置情報を取得し、該位置情報を主制御部301に供給する処理をおこなう。
・・・
【0022】
定常状態記憶部302aは、車両から運転手が降車した後の車両の定常状態を記憶する処理部である。具体的には、車両から運転手が降車した直後の車両機器の操作状態を検出し、記憶する。また、車内温度の適性範囲(例えば、「15℃」以上「30℃」未満)のデフォルト値も記憶している。
・・・
【0026】
主制御部301は、OS(Operating System)などの制御プログラム、各種の処理手順などを規定したプログラムおよび所要データを格納するための内部メモリを有し、これらによって種々の処理を実行する処理部であり、特に本発明に密接に関連するものとしては、機能概念的に、状態変化判定部301aと、操作無効処理部301bと、車内温度調節部301cとを備える。
【0027】
このうち、状態変化判定部301aは、車両機器の操作状態の変化を判定する処理部である。具体的には、ドア105、ウィンドウ106、ワイパー107、ヘッドライト108、ホーン109およびウィンカー110によって検出された車両機器の操作状態(「ドア操作状態」、「ウィンドウ操作状態」、「PKG(パーキングブレーキ)操作状態」、「ワイパー操作状態」、「ヘッドライト操作状態」、「ホーン操作状態」、「ウィンカー操作状態」、「エアコン操作状態」および「ナビゲーションシステム操作状態」)が定常状態記憶部302aによって記憶された運転手が降車した直後の車両機器の操作状態に比較して変化したか否かを判定する。また、状態変化判定部301aは、温度センサ103によって検出された車内温度の状態が適正範囲(例えば、「15℃」以上「30℃」未満)を超えたか否かも判定する。
【0028】
操作無効処理部301bは、状態変化判定部301aによって車両機器の操作状態が変化したと判定された場合に、当該車両機器の操作を無効にする処理部である。例えば、ワイパー107によって検出されたワイパー操作状態「ON状態」が定常状態記憶部302aによって記憶された運転手が降車した直後のワイパー操作状態「OFF状態」に比較して変化したと判定された場合(被保護者によってワイパー操作状態が「OFF状態」から「ON状態」に操作された場合)に、ワイパー107の操作(被保護者によって「ON状態」にされた操作)を無効にする。また、これとは反対に、ワイパー操作状態が「ON状態」から「OFF状態」に操作された場合においても、「OFF」状態にされた操作を無効にする。
【0029】
車内温度調節部301cは、状態変化判定部301aによって車内温度の状態が適正範囲を超えたと判定された場合に、適正範囲から逸脱した度合いに応じて当該車内温度を調節する処理部である。例えば、車内温度の状態が適正範囲(「15℃」以上「30℃」未満)を超えた場合に、該適正範囲からの逸脱度合いが「1℃」以上「5℃」未満であれば、エアコン制御部203を介して送風機104から冷風または温風の風量を「弱」で送風させ、「5℃」以上「10℃」未満であれば、「中」で送風させ、「10℃」以上であれば、「強」で送風させて車内温度を調節する。」

エ 「【0042】
次に、状態変化判定部301aおよび通信処理部201の具体的な処理内容について同様に説明する。図6は、車内温度が適正範囲を超えた旨を通知する通知処理の手順を説明するフローチャートである。
【0043】
同図に示すように、運転手が車両から降車する際に、「通知設定」(車内温度が適正範囲を超えた場合に、車内温度の状態が適正範囲を超えた旨を運転手が所有する通信装置に通知する設定)をタッチパネル501において受け付ける(ステップS601)。そして、温度センサ103は、車内温度の状態を検出する(ステップS602)。
【0044】
ここで、状態変化判定部301aは、温度センサ103によって検出された車内温度の状態が適正範囲(例えば、「15℃」以上「30℃」未満)を超えたか否かを判定し(ステップS603)、車内温度の状態が適正範囲を超えたと判定された場合に(ステップS603,Yes)、通信処理部201は、「車内温度が適正範囲を超えています。」という内容が記された電子メールを運転手が所有する携帯電話に送信する(ステップS604)。」

オ 「【0054】
また、本発明によれば、車両機器の操作状態が変化したと判定された場合に、当該車両機器の操作を無効にすることとしたので、被保護者によって車両機器が操作されることを防止することが可能な車両制御装置が得られるという効果を奏する。
【0055】
また、本発明によれば、車内温度の適正範囲を記憶し、車内温度の状態が適正範囲を超えたか否かを判定することとしたので、被保護者を取り巻く車内環境を正確に把握させることが可能な車両制御装置が得られるという効果を奏する。
【0056】
また、本発明によれば、車内温度の状態が適正範囲を超えたと判定された場合に、適正範囲から逸脱した度合いに応じて当該車内温度を調節することとしたので、車内温度の状態に応じた温度調整をおこなうことが可能な車両制御装置が得られるという効果を奏する。」

(2)上記(1)及び図面の記載から分かること
ア 上記(1)ア?オ並びに図1?3及び6の記載によれば、甲3には、車両制御装置とエアコンを用いたシステムが記載されていることが分かる。

イ 上記(1)ウ?オ並びに図1?3及び6の記載によれば、車両制御装置とエアコンを用いたシステムは、車内温度を検知する温度センサ103から車内温度を取得するエアコン制御部203により制御されるエアコンを備えることが分かる。

ウ 上記(1)イ?エ並びに図1?3及び6の記載によれば、車両制御装置とエアコンを用いたシステムは、運転者が降車した後、前記温度センサ103が検知した車内温度の状態が適正範囲(例えば、「15℃」以上「30℃」未満)を超えたと判定された場合、降車した運転手が所有する携帯電話に「車内温度が適正範囲を超えています。」という内容が記された電子メールを送信する機能を備えることが分かる。

エ 上記(1)イ及びウ(特に、段落【0012】、【0022】、【0027】及び【0029】)並びに図1?3及び6の記載によれば、車両制御装置とエアコンを用いたシステムは、運転者が降車した後、前記温度センサ10が検知した車内温度の状態が適正範囲を超えたと判定された場合、適正範囲から逸脱した度合いに応じて当該車内温度を調節する機能を備えることが分かる。

(3)甲3発明
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合すると、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。
「車内温度を検知する温度センサ103から車内温度を取得するエアコン制御部203により制御されるエアコンと、
運転者が降車した後、前記温度センサ103が検知した車内温度の状態が適正範囲(例えば、「15℃」以上「30℃」未満)を超えたと判定された場合、降車した運転手が所有する携帯電話に「車内温度が適正範囲を超えています。」という内容が記された電子メールを送信する機能と、
運転者が降車した後、前記温度センサ10が検知した車内温度の状態が適正範囲を超えたと判定された場合、適正範囲から逸脱した度合いに応じて当該車内温度を調節する機能と、を備えた車両制御装置とエアコンを用いたシステム。」

(4)甲3技術
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合すると、甲3には次の技術(以下、「甲3技術」という。)が記載されていると認める。
「車両制御装置において、運転者が降車した後、前記温度センサ103が検知した車内温度の状態が適正範囲(例えば、「15℃」以上「30℃」未満)を超えたと判定された場合、降車した運転手が所有する携帯電話に「車内温度が適正範囲を超えています。」という内容が記された電子メールを送信するようにした技術。」

4.甲4について
(1)甲4の記載事項
甲4には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、車内の異常を報知する車内異常報知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に幼児を乗せたまま炎天下に駐車し、車内の温度上昇により、幼児を熱中症に至らしめるという事故が後を絶たない。
【0003】
そこで、チャイルドシートもしくは座席の周囲に着座検出をするセンサを配置し、車内温度監視センサにより温度を監視し、予め設定した温度を超えた場合において、携帯電話や無線受信機に対する緊急発信を行うものがある(例えば、特許文献1参照)。
・・・
【0007】
本発明は上記問題に鑑みたもので、より正確に熱中症の発生する危険性を予測し、熱中症を回避できるようにすることを目的とする。」

イ 「【0015】
本発明の一実施形態に係る車内異常報知装置の構成を図1に示す。車内異常報知装置1は、ナビゲーション装置10を利用して構成されており、地磁気センサ、ジャイロスコープ、距離センサ、GPS受信機からの信号に基づいて車両の位置(緯度経度)と向き(方角)を検出する位置検出器、タッチパネルと押しボタンスイッチによって構成される操作スイッチ群、各種情報を記憶する外部メモリ、液晶ディスプレイ等の表示画面を有する表示装置、音声を出力するスピーカ、ハードディスク等の記憶媒体に記憶された地図データを入力するための地図データ入力器、外部と通信を行う通信回路およびこれらの各部を制御する制御部(いずれも図示せず)等を備えている。
【0016】
また、車両には、車外の温度を検知する外気温センサ20、車内の温度を検知する内気温センサ21、車外の湿度を検知する湿度センサ22および車室内の酸素濃度を検知するO2センサ(酸素濃度センサ)23が搭載されている。これらの各センサ20?23からナビゲーション装置に検知信号がそれぞれ入力されるようになっている。
【0017】
外気温センサ20および湿度センサ22は、車外の気象状況のデータマップを構築するために設けられており、内気温センサ21は、車内の温度が基準値以上か否かを判定するために設けられている。
【0018】
O2センサ23は、車内に乗員が存在するか異なかを検知するために設けられている。車両の窓が開いた状態では車内に乗員が存在しても車室の酸素濃度は変化しないが、車両の窓が閉め切られた状態では車内に乗員が存在すると酸素濃度が低下する。本実施形態では、O2センサ23を用いて窓が閉め切られた車内に乗員が存在するか否かを検知する。
【0019】
制御部は、ROM、RAM等を有するコンピュータによって構成され、ROMに記憶されたプログラムに従ってナビゲーションのための各種処理とともに、熱中症の発生する危険性を予測し、熱中症を回避するための各種処理を行う。」

ウ 「【0038】
ここで、車室内温度が基準温度未満の場合、S206の判定はNOとなり、S202の判定へ戻る。また、車室内温度が基準温度以上の場合、S206の判定はYESとなり、次に、車内の異常を報知する。具体的には、熱中症の発生する危険性が高いことをナビゲーション装置の表示画面に表示させ、スピーカから音声出力させるとともに、通信回路を介して予め定められた連絡先(例えば、所有者のメールアドレス)にメール送信し、熱中症の発生する危険性が高いことを報知する。」

(2)甲4技術
上記(1)及び図面の記載を総合すると、甲4には次の技術(以下、「甲4技術」という。)が記載されていると認める。
「車内温度が基準温度以上の場合、通信回路を介して車外の予め定められた連絡先(例えば、所有者のメールアドレス)にメール送信し、熱中症の発生する危険性が高いことを報知する技術。」

ここで、熱中症の発生する危険性が高いことを報知するメールの送信先が、車外の予め定められた連絡先(例えば、所有者のメールアドレス)であることは、甲4において、車両に幼児を乗せたまま炎天下に駐車し、車内の温度上昇により、幼児を熱中症に至らしめるという事故の防止をすること(段落【0002】及び【0007】)、及び、車内に対しては、熱中症の発生する危険性が高いことをナビゲーション装置の表示画面に表示させ、スピーカから音声出力させること(段落【0038】)が開示されていることからみて、自然な解釈である。

5.甲5について
(1)甲5の記載事項
甲5には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、携帯型情報通信端末の応用システムに係わり、特に、自動車のオーナー、ドライバー等の自動車の利用者(以下、単にドライバーという)が持つ携帯型情報通信端末と自動車に搭載した情報処理装置との間の双方向通信による、駐車中の自動車の遠隔管理システムに関するものである。
・・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記に示したように、従来、走行中の自動車に対するサービスを提供する手段として各種の通信端末や情報処理装置を利用するサービスが存在するが、駐車中等、ドライバーが自動車から離れている状態におけるサービスを提供するものは知られていない。
【0005】駐車中の自動車については、例えば、いたずらされたり、車内の品物や自動車そのものが盗難に遭う可能性があるが、これらを未然に防ぐ手段、またはその発生を速やかにドライバーに通知する手段が必要である。
【0006】また、ドライバーが車内に子供やペットの動物を残して車から離れている間に車内で何らかの事故が発生する可能性もある。特に、閉め切った車内では脱水症状や酸欠などによる事故が起きやすいが、子供や動物では適切な対処ができないことが多い。このような場合に、ドライバーが自動車から離れている間も車内の様子を確認できる手段または危険な状態になった場合にドライバに連絡したり、自動的に危険を回避できる手段があればこのような事故を未然に防ぐことができる。
【0007】したがって、本発明の目的は、駐車中でドライバーが不在の自動車について、ドライバーが自動車の内外で発生した異常を速やかに知ることを可能にするとともに、自動的に、あるいは、ドライバーからの遠隔操作により、対策を実施して重大な事件や事故の発生を防ぐための手段を提供することにある。」

イ 「【0018】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の代表的な実施の形態のシステム構成例を示す。本実施の形態における自動車の遠隔制御システム1は、自動車12に搭載された情報処理装置2と、これに接続され、自動車12内外の状態を検出するためのセンサ群8と、情報処理装置2から制御可能な、自動車12に搭載されている各種の操作機器からなる操作機器群9と、自動車12から離れているドライバー13との通信手段としての携帯電話6と、別の通信手段としての赤外線インターフェース7と、ドライバー13が持つ携帯通信端末10と、携帯電話11とから構成される。ドライバー13は携帯電話を使用することにより一般の回線網を使用して携帯通信端末10と自動車12に搭載された情報処理装置2との間で通信を行なうことができる。」

ウ 「【0020】情報処理装置2は、実際的には、センサ群8、機器群9とのインタフェース、マイクロコンピュータ、およびメモリからなるが、図1では、機能ブロックに分けた構成を示している。すなわち、情報処理装置2は、センサ群8を制御し、データの収集・記録を行なうデータ収集・記録部3と、データを分析し異常の発生がないかを判断し異常発生時には必要な対策の実行を指示する分析・処理判断部4と、分析処理判断部4からの指示により自動車12に搭載される各種の機器類の制御を行なう制御部5とから構成される。」

エ 「【0024】センサ群8に含まれる機器の例としては、車内温度計81、ドアロック開閉センサ82、バッテリー電圧計83、GPSレシーバ84、車内の様子を見るためのカメラ85およびマイク86、車体の運動や重量変化を検出するためのサスペンション変位センサ87等があり、さらに自動車12の計器である速度計88、エンジン回転計89等を接続する。」

オ 「【0026】制御部5から制御する自動車12に搭載される機器群9を構成する機器の例としては、エアコンディショナー91、ドアロック開閉装置92、クラクション93、表示装置94、スピーカ95、エンジンスタータ96等がある。」

カ 「【0034】監視モード23およびリモート監視モード24において、自動車の内外に異常の発生を検出した場合は、車内異常処理モード25または車外異常処理モード26に移行する。これらのモードでは、検出した異常に対する対策を自動的に実行し、異常の発生をドライバーに通知する。異常事態から回復した時点で異常発生前のモードに復帰する。」

(2)甲5技術
上記(1)及び図面の記載を総合すると、甲5には次の技術(以下、「甲5技術」という。)が記載されていると認める。
「自動車の遠隔制御システム1において、車内温度計81を備え、監視モード23で動作中に、車内の温度が上昇してきた異常を検知した場合には、脱水症状などによる事故の発生を防ぐために、情報処理装置2が自動的にエアコンディショナ91を動作させて冷房を行なうとともに、異常の発生を車外のドライバー13の携帯電話に一般の回線網を使用して通知するようにした技術。」

ここで、車内の温度が上昇してきた異常の発生を通知する先が、車外のドライバー13の携帯電話であることは、甲5において、駐車中でドライバーが不在の自動車について、ドライバーが自動車の内外で発生した異常を速やかに知ることを可能にし、ドライバーが車内に子供やペットの動物を残して車から離れている間に車内で何らかの事故が発生することを未然に防ぐこと(段落【0006】、【0007】)が開示されていることからみて、自然な解釈である。

6.甲6について
(1)甲6の記載事項
甲6には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車等の車室内に残された子供等を保護するための車載安全システムに関する。
【0002】
【従来の技術】自動車等においては、エンジンを切りドアをロックして車両より離れた状態で青空駐車することがあるが、このような場合(特に夏期)には車室温度が異常に上昇するが、著しく高温になってもこれに対応する窓を開閉等の装置は装備されていない。
【0003】一方、自動車等には従来よりエンジン起動装置、エアコンの装着あるいはドアの開閉を検知するカーテシスイッチ、乗員が居ることを検知するシートスイッチならびにモータの駆動によりウインドウガラスを自動的に開閉するパワーウインドウ装置等の各種装置が装着されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】自動車等のウインドウガラスを閉めた状態で車室内に乗員(子供等)を残し、保護者(運転者)が買い物やパチンコ等で自動車を離れる場合がある。このような状態、特に夏期において車室内の温度が上昇し高温となって、車室内に残した子供が脱水症状等を起こし、酷い場合には死亡する事故が発生して問題となっている。
【0005】本発明は、保護者の油断によりこのような状況になった場合にも、子供の事故を未然に防止することを目的とする。」

イ 「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明はこのような問題を解決するもので、車室内に対して冷房を行うエアコンと、運転者が降車し、ドアをロックしたことを検知する降車検知手段と、前記車室内に乗員が未だ居ることを検知する乗員検知手段と、前記車室内の温度を検知する温度検知手段と、前記降車検知手段が運転者が降車し、ドアをロックしたことを検知し、前記乗員検知手段が乗員が未だ居ることを検知し、更に前記温度検知手段が第1の所定の温度値以上に達したことを検知すると、前記エアコンを動作させるエアコン作動手段とを有することを特徴とする。
【0007】また、前記温度検知手段が第2の所定の温度値以下に達したことを検知すると、前記エアコンを停止させるエアコン停止手段とを有することを特徴とする。また、前記エアコンの動作不能を検知するエアコン動作不能検知手段と、前記エアコンが正常に動作しないことを前記エアコン動作不能検知手段が検知すると、ウインドウガラスを開放させるウインドウ開放手段とを有することを特徴とする。
【0008】また、前記温度検知手段が第2の所定の温度値以下に達したことを検知すると、前記ウインドウガラスを閉鎖させるウインドウ閉鎖手段を有することを特徴とする。また、前記車室内の騒音を検知する騒音検知手段と、前記車室内で乗員が動き回っていることを検知する乗員動作検知手段と、前記車室内に搭載し、外部の特定のポケベルにメッセージを送信する通信手段と、前記ウインドウ開放手段によりウインドウガラスを開放してもなお前記第2の所定の温度値以下に達しない時であって、前記騒音検知手段が、車室内の騒音が所定値以上のレベルに達したこと、または前記乗員動作検知手段が乗員が動き回っていることを検知すると、前記通信手段は前記ポケベルにメッセージを送信するものであることを特徴とする。」

ウ 「【0010】
【実施例】以下図面を用いて本発明の実施例を説明する。図1は本発明に係る車載安全システムを示すブロック図であり、図2はマイコンが行う処理動作を示すフローチャートである。・・・
【0011】14は車室内に乗員(子供等)が残された(子供を車室内に残して買い物等のため自動車から離れた状態)ことを検知するシートスイッチ等による乗員検知センサであり、各座席の下部に設けられ加わっている体重等により乗員が車室内に居ることを検知する。なお、乗員検知センサは子供等がシート上を行き来してシートスイッチ等が断続される場合も検知する。15は例えばバイメタル、熱電対等からなる車室内温度センサであり、ダッシュボード等に取り付けられている。16は車室内の子供の泣き声等を検知する騒音検知センサであり、マイクロフォンにより構成されダッシュボード等に取り付けられている。
【0012】20は各センサ11?16や後述の各種アクチュエータに接続されているマイクロコンピュータであり、マイクロコンピュータ20は各センサからの信号を基に各種アクチュエータを駆動する。21はエンジン起動装置、22は車室内に設置された冷房機能を有するエアコン、23は警笛を吹鳴するクラクションであり、マイコン20からの制御信号により作動する。24はドアをロック/アンロックするドアロック装置であり、電磁プランジャー等で構成されロック/アンロック動作を行う。25はモータ251の駆動によりウインドウガラスを開閉するパワーウインドウ装置である。26はマイコン20からの制御信号によりポケベル30にメッセージを送信する携帯電話であり、携帯電話26に組み込まれているマイコンのシリアルポートによってマイコン20と接続されている。
【0013】次に、マイコンが行う処理動作を図2のフローチャートにより説明する。本処理動作は、自動車のエンジンを切りドアをロックしたことをキーオフ検知センサ11およびロック/アンロックポジション検知センサ13が検知した、即ち運転者等の大人が降車し、ドアをロックしたことを検知した時点より開始され、ステップS1に移る。なお、上記検知条件としてドア開閉検知センサ12に基づいて全ドアが閉じられたことを検知する点を付加しても良い。ステップS1では、車内に乗員(子供等)が居るかどうかが判断され、車内に乗員が居ればステップS2に移り、居なければ本処理動作は行われない。この判断は、シートスイッチ等の乗員検知センサ14からの出力に基づいてマイコン20が判断する。ステップS2では、車載安全システムを作動(開始)してステップS3に移る。ステップS3では、車室内温度が第1の所定温度以上(例えば30°以上)になったかどうかを判断し、第1の所定温度以上になればステップS4に移り、第1の所定温度未満であればステップS3の処理を継続する。この判断は、車室内温度センサ15からの出力に基づいてマイコン20が判断する。
【0014】エアコン作動手段に相当するステップS4では、エンジン起動装置をオンとしエアコンを作動させ、ステップS5に移る。ステップS5では、車室内温度が第2の所定温度以下(例えば25°以下)になったかどうかを判断し、第2の所定温度以下になればステップS6に移り、第2の所定温度を越えていればステップS7に移る。ステップS3、ステップS5の判断は、車室内温度センサ15からの出力に基づいてマイコン20が判断する。エアコン停止手段に相当するステップS6では、エンジン起動装置をオフとしエアコンを停止させ、ステップS3に戻り、ステップS3、S4、S5およびS6を繰り返す。ステップS7では、コンプレッサの不作動等によりエアコン22が作動不能であるかどうかが判断され、作動不能であればステップS8に移り、正常に作動していればステップS4に戻り、ステップS4、S5およびS7を繰り返す。この判断は、エアコン22に内蔵されているマイコンより発せられるエラー信号によりマイコン20が判断する。
【0015】ウインドウ開放手段に相当するステップS8では、マイコン20の制御によりモータ251を駆動して、パワーウインドウ装置25によりウインドウガラスを開放し、ステップS9に移る。ステップS9では、車室内温度が第2の所定温度以下(例えば25°以下)になったかどうかを判断し、第2の所定温度以下になればステップS10に移り、第2の所定温度を越えていればステップS11に移る。この判断は、車室内温度センサ15により判断される。ウインドウ閉鎖手段に相当するステップS10では、車室内温度が第2の所定温度以下になったので、モータ251を駆動して、パワーウインドウ装置25によりウインドウガラスを閉鎖し、ステップS3に戻りステップS3?10を繰り返し、車室内温度を所定温度範囲内に保持される。
【0016】ステップS11では、車室内の騒音が所定レベル以上(例えば70dB以上)になったかどうかを判断し、所定レベル以上になればステップS12に移り、所定レベルに達していなければステップS13に移る。この判断は、マイクロフォンにより構成された騒音検知センサからの出力に基づき、マイコン20が子供の泣き声等を検知し判断する。ステップS13では、子供等がシート上で動き回っているかどうかを判断し、動きがあればステップS12に移り、無ければステップS9に戻りステップS9?13を繰り返す。この判断は、子供等が暑さ等の苦しさによりシート上を行き来してシートスイッチ等が断続してオン/オフしている場合に、これをマイコン20が判断する。
【0017】ステップS12では、通信手段に相当するものであって、車内に搭載している携帯電話26より保護者が携帯しているポケットベル30にメッセージを送信し、ステップS14に移る。即ち、子供の泣き声等を検知したり、子供等が暑さ等の苦しさによりシート上を行き来して騒いでいることを保護者に通報する。なお、マイコン20はこのようなメッセージを出力するための命令信号を携帯電話26内にあるマイコンへ送信するものとし、通信手段はこの命令信号の送信動作も含むものとする。ステップS14では、ドアが開放されたかどうかを判断し、ドアが開放されていれば本処理動作を終了し、ドアが開放されなければステップS15に移る。この判断は、ドアカーテシスイッチであるドア開閉検知センサ12からの出力に基づいてマイコン20が判断する。即ち、ポケットベル30への通報により保護者が駐車している自動車へ戻って来て、ドアを開けて子供等を保護すれば本処理動作を終了する。」

エ 「【0020】
【発明の効果】以上詳細に説明したように本発明に係る車載用安全システムにあっては、車室内に乗員を残して買い物等で自動車を離れていても車室内の温度調整や危険の通報あるいは周囲の人達に救助を求める等により安全を確保することができる。」

(2)甲6技術
上記(1)及び図面の記載を総合すると、甲6には次の技術(以下、「甲6技術」という。)が記載されていると認める。
「車載安全システムにおいて、車室内温度センサ15からの出力に基づいて車室内温度が第1の所定温度以上(例えば30°以上)になったかどうかを判断し、第1の所定温度以上になると、脱水症状等を起こすことを防止するために、マイコン20がエンジン起動装置をオンにしてエアコンを作動させるとともに、車室内温度が第2の所定温度以下(例えば25℃以下)になったかどうかを判断し、第2の所定温度を越えていれば、パワーウインドウ装置25によりウインドウガラスを開放し、車室内温度が第2の所定温度以下(例えば25℃以下)になったかどうかを判断し、第2の所定温度を越えていれば、車室内の騒音が所定レベル以上(例えば70dB以上)になったかどうかを判断し、所定レベルに以上になったとき、または、所定レベルに達していないければ、子供等がシート上で動き回っているかどうかを判断し、動きがあった時、車内に搭載している携帯電話26より車外の保護者が携帯しているポケットベル30にメッセージを送信するようにした技術。」

ここで、メッセージを送信する先が、車外の保護者が携帯しているポケットベル30であることは、甲6において、車室内の温度が上昇し高温となって、車室内に残した子供が脱水症状等を起こし、酷い場合には死亡する事故を防止すること(段落【0004】、【0005】、【0017】、【0020】)が開示され、また、「外部の特定のポケベルにメッセージを送信する通信手段」(段落【0008】)との記載があることからみて、自然な解釈である。

7.甲7について
(1)甲7の記載事項
甲7には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 「【0010】
(構成)
実施の形態1.
本発明の実施の形態1に係る空調システム100について、図面を参照しながら説明する。図1は、この発明の実施の形態1に係る空調システム100の概念図である。本実施の形態1に係る空調システム100は、空調機102と、リモコン103と、外部ネットワーク101と、から構成される。本発明の空調システム100では、空調機102が外部ネットワーク101に接続されており、外部ネットワーク101から各種の情報(例えば、天気予報、温度、湿度)を取得する。そして、リモコン103にその取得した情報をリアルタイムで表示することができる。それとともに、空調機102との通信に必要なリモコン103の消費電力を抑えることもできる。
【0011】
(空調システム)
図2に本実施の形態1における空調システム100の構成を示す。外部ネットワーク101は、文字や音声、映像(例えば、テレビ、文字放送、ワンセグなど)を放送する基地局や、これらの情報を配信するサーバに接続されている。空調機102は、外部ネットワーク101から、各種の外部情報(例えば、天気予報に関する情報など)を取得する。この実施の形態で、外部情報とは、空調機102が取得する情報であって、リモコン103に表示するための情報をいう。外部情報は、主として、天気予報や温度、湿度など、空調機102の運転に関係する情報である。
【0012】
なお、外部ネットワーク101は、インターネットやLAN(Local Area Network)であってもよいし、外部情報を取得するための専用線であってもよい。空調機102が外部ネットワーク101から外部情報を取得する方法は、任意であってよく、空調機102が外部ネットワーク101から能動的に取得するようにしてもよいし、基地局やサーバから外部ネットワーク101を介して空調機102に供給されるようにしてもよい。
【0013】
空調機102は、制御部11と、送受信部12と、アンテナ13と、空調部14と、通信部15と、電源部16と、記憶部17と、から構成される。なお、空調機102は、これら以外の構成を備えてもよい。
【0014】
制御部11は、空調機102の機能や通信機能を制御する。制御部11は、CPU(Central Processing Unit)やCPUの動作プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)やワークエリアとなるRAM(Random Access Memory)などから構成される。制御部11は、FPGA(Field Programmable Gate Array)などから構成されてもよい。制御部11は、リモコン103により指示された設定に基づいて、空調部14の空調機能を制御する。また、制御部11は、通信部15を介して、外部ネットワーク101から外部情報を取得し、取得した外部情報を送受信部12を介してリモコン103に送信する。
【0015】
送受信部12は、アンテナ13を介してリモコン103と無線信号にて情報をやり取りする。アンテナ13は、リモコン103からの無線信号を受信する。また、アンテナ13は、リモコン103へ無線信号を送信する。
【0016】
空調部14は、制御部11の制御のもと空気調和を行う。例えば、空調部14は、冷房、暖房、除湿、空気清浄など、設定(設定温度、風量、運転モードなど)に応じた空気調和を行う。
【0017】
通信部15は、外部ネットワーク101に接続するためのネットワークインターフェースである。制御部11は、通信部15を介して外部ネットワーク101から各種の外部情報を取得する。
【0018】
電源部16は、空調機102の消費電力を商用交流電源や電池などから生成する。
【0019】
記憶部17は、外部ネットワーク101から取得した外部情報を記憶する。この外部情報は、空調機102が外部ネットワーク101から外部情報を取得するたびに更新される。即ち、記憶部17には、最新の外部情報が記憶されることになる。
【0020】
リモコン103は、制御部21と、送受信部22と、電波検出部23と、アンテナ24と、操作部25と、表示部26と、電源部27と、記憶部28と、センサ29と、から構成される。リモコン103は、ユーザが空調機102の動作を指示するための装置である。また、リモコン103は、空調機102から受信した外部情報を表示部26に表示する。
【0021】
制御部21は、リモコン103の表示機能や、空調機102との通信を制御する。制御部21は、CPU(Central Processing Unit)やCPUの動作プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)やワークエリアとなるRAM(Random Access Memory)などから構成される。制御部21は、FPGA(Field Programmable Gate Array)などから構成されてもよい。制御部21は、空調機102から受信した情報を表示部26に表示させる。」

イ 「【0063】
実施の形態3.
次に、本発明の実施の形態3に係る空調システム100について説明する。
【0064】
(構成)
図11に示すように、実施の形態3の空調システム100は、外部ネットワーク103の代わりに、外部センサ104と接続される点が上記実施の形態と異なる。外部センサ104は、室内または室外周辺に設置されたセンサである(例えば、室外機に設置された温度センサ)。
【0065】
(動作)
実施の形態3の空調機102の通信部15は、外部センサ104と通信を行い、外部センサ104が検出したセンサ情報(例えば、温度や湿度)を取得する。
空調機102は、センサ情報が更新されるたびに(または、センサ情報が変化するたびに)、リモコン103へセンサ情報を送信する。空調機102がセンサ情報を送信する際の動作は上記実施の形態と同様である。センサ情報を受信したリモコン103は、センサ情報を表示部26に表示する。リモコン103がセンサ情報を表示する際の動作は上記実施の形態と同様である。
【0066】
(効果)
このように、実施の形態3では、外部センサ104を設置することにより、計測したい場所の温度や湿度を計測でき、その計測結果に基づいた、より細やかな制御を行うことができる。なお、通信部15は、外部センサ104及び外部ネットワーク101に接続され、双方から情報を取得するようにしてもよい。
【0067】
(具体的な利用例)
本発明の空調システム100の具体的な利用例を示す。以下では、外部ネットワーク101に文字放送を利用した場合と、外部センサ104を利用した場合について説明する。
【0068】
(文字放送)
外部ネットワーク101に文字放送を利用した場合、文字放送に含まれる天気予報の情報を用いて、リモコン103に天気の情報を表示する。天気予報が更新されるたびに(天気予報を受信するたびに)、空調機102は、リモコン103へ天気情報を送信し、リモコン103は該天気情報を更新する。ユーザはリモコン103を見る際は、常に最新の天気情報を見ることができる。
【0069】
また、外部ネットワーク101から受信した天気予報を元に、リモコン103は1日の空調制御スケジュールや、制御方法候補を生成する。ユーザは該空調制御スケジュールや該制御方法をリモコン103のディスプレイで見ることができる。そして、該空調制御スケジュールや該制御方法に対して、承諾・拒否を入力する。承諾されると、該空調制御スケジュールや該制御方法に応じて空調制御を行う。拒否の場合は、空調制御スケジュールや制御方法を再生成する。このようにすることで、より細やかな制御を行うことができ、さらに、ユーザはその制御方法を容易に確認することができる。
【0070】
(外部センサ)
外部センサ104として温度センサを備えて、外部の温度を取得する。例えばペットに温度センサを取り付けて、温度(ペットの体温)を取得する。これにより、ペットの体調に応じて空調を制御することができる。また、お年寄りが身につければ、例えば、熱中症を防止するように空調を制御することができる(温度が高くなった場合は、自動的に冷房に設定するなど)。」

(2)甲7技術
上記(1)及び図面の記載を総合すると、甲7には次の技術(以下、「甲7技術」という。)が記載されていると認める。
「空調システム100において、空調機102の通信部15は、外部センサ104及びインターネットである外部ネットワーク101に接続され、双方から情報を取得するようにし、外部センサ104として温度センサを備え、温度が高くなった場合に、熱中症を防止するように自動的に冷房に設定するようにした技術」が記載されている。

8.甲8について
(1)甲8の記載事項
甲8には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、自動車内の環境を管理するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
犬や猫等のペットを助手席等に乗せてドライブを楽しみたいユーザのニーズに応え、ペットのためのカーシート等が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004-58925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、ドライバ(ユーザ)がペットを車内に閉じ込めたまま車外に出かけ、すぐ駐車場所に戻ってくるつもりが思いのほか用事が長引いてしまう場合がある。このため、ペットが長時間にわたって車内に閉じ込められ、この間に車内環境が変化してペットの健康を損ねるおそれがある。
【0004】
そこで、本発明は、車内に閉じ込められたペット等の動物の健康状態に鑑みて、この車内の環境を適切に管理し得るシステムを提供することを解決課題とする。」

イ 「【0005】
前記課題を解決するための本発明の車内環境管理システムは、自動車のエンジンの作動状態および停止状態の別を判定する第1判定手段と、自動車の各ドアの開状態および閉状態の別を判定する第2判定手段と、自動車に設置されている動物感知センサの出力に基づき、車内の動物の有無を判定する第3判定手段と、車内環境センサの出力に基づき、動物の健康状態に影響を及ぼす車内環境変数が許容範囲内にあるか否かを判定する第4判定手段と、第1判定手段によって自動車のエンジンが停止状態にあると判定され、第2判定手段によって全てのドアが閉状態にあると判定され、第3判定手段によって車内に動物がいると判定され、且つ、第4判定手段によって車内環境変数が許容範囲から外れていると判定された状態が所定時間にわたり継続したことを要件として、該自動車に搭載されている該車内環境に応じた環境調整装置の作動を制御する車内環境制御手段を備えていることを特徴とする車内環境管理システム。
【0006】
本発明の車内環境管理システムによれば、(1)自動車のエンジンが停止し、(2)全てのドアが閉められ、(3)車内に動物がおり、且つ、(4)車内環境変数が許容範囲から外れている状態が、所定時間にわたり継続した場合、動物が車内に閉じ込められ、且つ、車内の環境がこの動物の健康状態に悪影響を及ぼすようなものである蓋然性が高いことに鑑みて、環境調整装置によって車内環境変数が制御される。これにより、車内に閉じ込められたペット等の動物の健康状態に鑑みて、この車内の環境を適切に調整することができる。そして、この動物の健康が損なわれる可能性を低減することができる。」

ウ 「【0015】
また、本発明の車内環境システムは、第4判定手段が、車内環境センサとしての温度センサの出力に基づき、車内環境変数としての車内温度が許容範囲内にあるか否かを判定し、車内環境制御手段が、環境調整装置としてのエアコン、窓開閉装置、およびミスト噴射装置のうち一部または全部の作動を制御することを特徴とする。
【0016】
本発明の車内環境管理システムによれば、車内温度が車内に閉じ込められた動物の健康を損ねる事態が、エアコン、窓開閉装置、およびミスト噴射装置のうち一部または全部の作動によって回避され得る。例えば、車内温度が高すぎる場合、エアコンによる冷房運転や、窓開閉装置による窓の開放に応じた外気の取り込み等によって車内温度が低下させられる。」

エ 「【0025】
さらに、本発明の車内環境管理システムは、前記要件が満たされた場合、車内環境の異変をユーザの情報処理端末に通報する通報手段をさらに備えていることを特徴とする。
【0026】
本発明の車内環境管理システムによれば、動物が閉じ込められている車内環境に異変が生じたことをユーザに認識させることで、駐車場に迅速に戻るようユーザを促すことができる。そして、駐車場に戻ったユーザに、ドアを開けて動物を車外に出す等の措置をとらせ、車内環境がこの動物の健康状態に与える悪影響を軽減することができる。」

オ 「【0029】
図1に示されている車内環境管理システムは、自動車10に搭載されているハードウェアとしての電子制御手段(ECU)20と、ECU20に後述の種々の機能を付与するソフトウェア(プログラム)により構成されている。
【0030】
自動車10には、図1および図2に示されているように、環境調整装置として、パワーウィンドウ駆動装置(窓開閉装置)11と、ミスト噴射装置12と、エアコン13とが搭載されている。パワーウィンドウ駆動装置11は、ユーザによるスイッチ操作やECU20からの制御信号に応じて車両側部や天井部のウィンドウを開閉する。ミスト噴射装置12は、車両天井部に設置され、ECU20からの制御信号に応じて車内にミストを噴射する。エアコン13は、ユーザのスイッチ操作や、ECU20からの制御信号に応じて図2に示されている矢印方向に冷風を送風する冷房運転、温風を送風する暖房運転、単なる送風運転等を行う。
【0031】
また、自動車10には、前部座席右側、前部座席左側、中部座席右側、中部座席左側、後部座席右側、および後部座席左側のそれぞれにR/W(リーダ/ライタ)14が配置されている。例えば、前部座席右側に配置されたR/W14は、前部座席右側のエリアを情報読み取り/書き込み可能範囲とする。また、R/W14は、ペットに付されたRFID31から、ペット等の動物を識別するための動物識別情報や、同じくペットに付されている温度センサ(車内環境センサ)32の出力を非接触方式で読み取る。なお、R/W14の代わりにリーダが配置されていてもよい。
・・・
【0033】
ECU20は、第1判定手段21と、第2判定手段22と、第3判定手段23と、第4判定手段24と、車内環境制御手段25とを備えている。各手段は、サーバ100のハードウェア資源であるCPU、ROM(EEPROMなど)やRAMなどのメモリ、信号入力回路、信号出力回路等と、CPUに特定の情報処理機能を付与するため、メモリ(または記憶装置)に格納されている本発明のプログラムとにより構成されている。なお、各手段は、異なるハードウェア資源により構成されていてもよいし、共通のハードウェア資源により構成されていてもよい。
・・・
【0038】
車内環境制御手段25は、第1判定手段21によってエンジン15が停止状態にあると判定され、第2判定手段22によって全てのドアが閉状態にあると判定され、第3判定手段23によって車内に動物がいると判定され、且つ、第4判定手段24によって車内温度が許容範囲から外れていると判定された状態が所定時間にわたり継続したことを要件として、エアコン13等の作動を制御する。
・・・
【0040】
まず、第1判定手段21により、エンジン15が停止状態にあるか否かが判定される(S002(第1判定処理))。
【0041】
第1判定手段21により、エンジン15が停止状態にあると判定された場合(S002・・YES)、第2判定手段22により、全てのドアが閉状態にあるか否かが判定される(S004(第2判定処理))。
【0042】
第2判定手段22により、全てのドアが閉状態にあると判定された場合(S004・・YES)、第3判定手段23により、車内に動物がいるか否かが判定される(S006(第3判定処理))。・・・
【0043】
第3判定手段23により、車内に動物がいると判定された場合(S006・・YES)、第4判定手段24により、車内温度が許容範囲外にあるか否かが判定される(S008(第4判定処理))。車内温度は、R/W14によって動物に付されているRFID31から読み取られた温度センサ32の出力に基づいて測定される。なお、自動車10に設置されている車内温度センサ(図示略)の出力に基づき、第4判定処理が実行されてもよい。
・・・
【0045】
第4判定手段24により、車内温度が許容範囲外にあると判定された場合(S008・・YES)、車内環境制御手段25により、第1?第4判定処理における判定結果が全て肯定的である状態の継続時間tが0にリセットされた上で(S009)、継続時間tが所定時間以上となったか否かが判定される(S010)。継続時間tが所定時間未満である場合(S010・・NO)、この継続時間がΔtだけ増加された上で(S011)、第1?第4判定処理が実行される。
【0046】
継続時間tが所定時間に至ったと判定された場合(S010・・YES)、車内環境制御手段(位置測定手段)25により、6つのR/W14のうち、RFID31から動物識別情報を読み取ったR/W14の位置に基づき、動物の位置が測定される(S012)。・・・
【0049】
一方、エネルギー残量が基準値以上であると判定された場合(S014・・NO)、車内環境制御手段25により「第2処理」が実行される(S018)。具体的には、エアコン13の作動が制御され、動物の居場所に最も近い場所に偏重的に冷風(または温風)が吹き付けられる。例えば、動物が後部座席左側エリアにいる場合、後部左側(または後部両側)の吹き出し口からの冷風等の吹き出し量が、前部の吹き出し口からの冷風等の吹き出し量よりも多くなるように制御される。なお、第2処理の実行によって車内の全体に冷風等が吹き出されてもよい。また、いずれかのウィンドウが開放されている場合、パワーウィンドウ駆動装置11によってこのウィンドウが閉じられてもよい。さらに、エアコン13のコンプレッサがエンジン15を動力源とする場合、エンジン15の作動が開始されてもよい。
【0050】
第1処理(S016)または第2処理(S018)の開始後、車内環境制御手段25によって車内温度が許容範囲内か否かが判定される(S020)。
【0051】
そして、車内温度が許容範囲内であると判定された場合(S020・・YES)、第1処理または第2処理が停止される(S022)。一方、車内温度が許容範囲外であると判定された場合、動物の位置があらためて測定され(S012)、第1処理(S016)または第2処理(S018)が引き続き実行される。
【0052】
前記機能を発揮する本発明の車内環境管理システムによれば、(1)自動車のエンジンが停止し(S002・・YES)、(2)全てのドアが閉められ(S004・・YES)、(3)車内に動物がおり(S006・・YES)、且つ、(4)車内温度が許容範囲から外れている(S008・・YES)という状態が、所定時間にわたり継続した場合(S010・・YES)、動物が車内に閉じ込められ、且つ、車内の環境がこの動物の健康状態に悪影響を及ぼすようなものである蓋然性が高いことに鑑みて、エアコン13等の環境調整装置によって車内温度が制御される。これにより、車内に閉じ込められたペット等の動物の健康状態に鑑みて、この車内の環境を適切に調整することができる。そして、この動物の健康が損なわれる可能性を低減することができる。」

カ 「【0056】
なお、車内環境制御手段25が、車内温度が「第1温度」を超えている場合、「第1処理」を実行し(S016参照)、車内温度が第1温度より高温の第2温度を超えている場合、「第2処理」を実行してもよい(S018参照)。
【0057】
当該実施形態によれば、車内温度が「第1温度」を超える場合、車内へのミスト噴射および車内への外気導入によって車内温度の低下が図られる。また、車内温度が「第2温度」を超える場合、エアコンの冷房運転によって車内温度の低下が図られる。すなわち、車内に閉じ込められた動物の健康状態への車内温度による影響の大きさに鑑みて、車内環境を適度に調整することができる。」

キ 「【0061】
さらに、車内環境管理システムが、第1?第4判定処理における判定結果が全て肯定的である状態の継続時間tが所定時間以上となった場合(S010・・YES)、車内環境の異変をユーザの情報処理端末(図示略)に通報する通報手段をさらに備えていてもよい。
【0062】
当該実施形態によれば、動物が閉じ込められている車内環境に異変が生じたことをユーザに認識させることで、駐車場に迅速に戻るようユーザを促すことができる。そして、駐車場に戻ったユーザに、ドアを開けて動物を車外に出す等の措置をとらせ、車内環境がこの動物の健康状態に与える悪影響を軽減することができる。また、クラクションを所定パターンで鳴らしたり、ウィンカーを所定のパターンで点滅させたり、その自動車10のユーザのみならず、駐車場の管理人等、自動車10の近くにいる者に対して車内環境の異変が通報されてもよい。」

(2)上記(1)及び図面の記載から分かること
ア 上記(1)ア?カ及び図1?3の記載によれば、甲8には、車両環境管理システムとエアコンを用いたシステムが記載されていることが分かる。

イ 上記(1)ウ及びオ(特に、段落【0030】、【0038】及び【0043】)並びに図1?3の記載によれば、車両環境管理システムとエアコンを用いたシステムは、車内温度を検知する温度センサ32の出力に基づきECU20の車内環境制御手段25によって制御されるエアコン13を備えることが分かる。

ウ 上記(1)イ、エ及びキ並びに図1?3の記載によれば、車両環境管理システムとエアコンを用いたシステムは、第1判定手段21によってエンジン15が停止状態にあると判定され、第2判定手段22によって全てのドアが閉状態にあると判定され、第3判定手段23によって車内に動物がいると判定され、且つ、第4判定手段24によって車内温度が許容範囲から外れていると判定された状態の継続時間tが所定時間以上となった場合、車外のユーザの情報処理端末に動物が閉じ込められている車内環境に異変が生じたことを、通報手段により通報する機能を備えることが分かる。
ここで、動物が閉じ込められている車内環境に異変が生じたことを通報する先が、車外のユーザの情報処理端末であることは、甲8において、動物が閉じ込められている車内環境に異変が生じたことをユーザに認識させることで、駐車場に迅速に戻るようユーザを促すことができ、駐車場に戻ったユーザに、ドアを開けて動物を車外に出す等の措置をとらせること(段落【0026】)が開示されていることからみて、自然な解釈である。

エ 上記(1)イ、ウ、オ及びカ並びに図1?3の記載によれば、車両環境管理システムとエアコンを用いたシステムは、第1判定手段21によってエンジン15が停止状態にあると判定され、第2判定手段22によって全てのドアが閉状態にあると判定され、第3判定手段23によって車内に動物がいると判定され、且つ、第4判定手段24によって車内温度が許容範囲から外れていると判定された状態が所定時間にわたり継続し、さらに、第2温度を超えることを要件として、エアコン13の作動を制御する機能を備えることが分かる。

(3)甲8発明
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合すると、甲8には次の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されていると認める。
「車内温度を検知する温度センサ32の出力に基づきECU20の車内環境制御手段25によって制御されるエアコン13と、
第1判定手段21によってエンジン15が停止状態にあると判定され、第2判定手段22によって全てのドアが閉状態にあると判定され、第3判定手段23によって車内に動物がいると判定され、且つ、第4判定手段24によって車内温度が許容範囲から外れていると判定された状態の継続時間tが所定時間以上となった場合、車外のユーザの情報処理端末に動物が閉じ込められている車内環境に異変が生じたことを、通報手段により通報する機能と、
前記第1判定手段21によって前記エンジン15が停止状態にあると判定され、前記第2判定手段22によって全てのドアが閉状態にあると判定され、前記第3判定手段23によって車内に動物がいると判定され、且つ、前記第4判定手段24によって車内温度が許容範囲から外れていると判定された状態が所定時間にわたり継続し、さらに、第2温度を超えることを要件として、エアコン13の作動を制御する機能と、を備えた車両環境管理システムとエアコンを用いたシステム。」

9.甲9について
(1)甲9の記載事項
甲9には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、湿球温度の予測方法と、湿球温度の予測値を用いたWBGT(Wet-Bulb Globe Temperature、湿球黒球温度)の予測方法と、前記WBGTの予測方法を用いたWBGT計と、前記WBGT計を備えた熱中症危険度判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、夏期の高温化が進み、熱中症被害が増加しているが、特に、高齢者は成年に比べて体温調節機能が低下し、水分をあまり補給しないため、熱中症被害が有意的に増加している。
従って、高齢者施設では、熱中症事故を未然に防止することが求められているが、室内温度を唯闇雲に下げればよいわけではない。過剰冷房による弊害も考慮しつつ、快適な室内環境を維持することが大前提となるからである。また、熱中症の発生率も気温のみと単純に相関するわけではないからである。
【0003】
それに対して、最近では、熱中症の発生率は、WBGTの方が高い相関があることが見出されており、日本生気象学会、日本産業衛生学会、日本体育協会等からは、WBGTを「温度基準」に採用し、その温度レベルによって、「危険」、「厳重警戒」、「警戒」、「注意」の4段階に分けた熱中症予防指針が既に公表されている。
高齢者施設においても、介護者が上記したような熱中症予防指針を上手く活用できれば、快適な室内環境を維持しつつ、熱中症の発生を有意的に防止でき、都合が良いものと考えられる。
・・・
【0008】
それ故、本発明は、上記課題を解決するために、気温と相対湿度の実測値から湿球温度やWBGTを精度高く予測できる予測方法を提供すると共に、その方法を用いることで、小型化・軽量化でき、安価で、取り扱いが簡便で、迅速に精度良くWBGTを求めたり、熱中症危険度を判定したりできるWBGT計や熱中症危険度判定装置を提供することを目的とする。」

イ 「【0026】
上記のWBGTの近似予測式を用いたWBGT計を備えた、熱中症危険度判定装置について説明する。
図3に示す熱中症危険度判定装置1は、電源ボタン3が押下されると作動して、熱中症危険度の判定結果がディスプレイ5上にグラフとして表示されたり、ランプ7がランクに応じて点灯したりすると共に、印刷ボタン9が押下されるとプリンター10から紙データとして出力されたり、危険度が高い場合には制御信号を生成して送信部11から空調機器(図示省略)へ送信したり、警報信号を生成してナースコールを鳴動させたり、介護者の携帯電話機宛に報知したり、音声信号を生成してスピーカ13から警報アラームを鳴動させるようになっている。
【0027】
このような動作を可能とするために、熱中症危険度判定装置1には、処理部15を中心し、湿度センサー17と気温センサー19と照度センサー21が内蔵されており、これらのセンサーでの測定結果に基づいて、処理部15がメモリ23に予め記録された近似予測式や高齢者施設の室内に対応した「日常生活における熱中症予防指針」(日本生気象学会熱中症予防研究会:Vol.18(2008年4月)(図5)を参照しながら、処理を進められるようになっている。
上記したように、空調機器の制御手段や警報手段は処理部15での制御信号や警報信号の生成機能と、ディスプレイ5、ランプ7と、送信部11と、スピーカ13とによって構成されている。
【0028】
処理部15における具体的な処理内容を、図6のフローチャートにしたがって説明する。
先ず、電源ボタン3が押下されると、装置が作動モードに入り、計算をスタートする。
処理部15は、判定手段として機能し、湿度センサー17、気温センサー19、照度センサー21から、それぞれ湿度、気温、照度の情報を定期的に受け取る。そして、「35℃未満か、または、31℃未満で且つ日射有り」に該当するか否かを判定し、該当しない場合には、それ以上の処理を進めることなく、即危険状態と見なして、制御信号や警報信号の出力回路の接点に出力してONとして、制御信号や警報信号を生成させる。すなわち、制御手段と警報手段を発動させる。この結果として、空調機器の温度が自動的に調整される。また、スピーカ13からアラームが鳴動したり、ナースコールが鳴動したり、介護者の携帯電話機宛に報知される。
【0029】
一方、「35℃未満か、または、31℃未満で且つ日射有り」に該当するか否かを判断し、該当する場合には、相対湿度と気温の実測値を「湿球温度の近似予測式」に代入して湿球温度の予測値を算出し、さらに、その算出された湿球温度の予測値と気温の実測値を「WBGTの近似予測式」に代入してWBGTの予測値を算出する。そして、WBGTの予測値を算出する度に、メモリ23の「WBGT値収録部」にセンサーの測定時間と関連付けて記録する。なお、この「WBGT値収録部」はWBGT計により得られたWBGTの履歴を記録していくものであり、後からでも任意にその記録された履歴内容を読み出すことができるので、その高齢者施設におけるWBGTの変化状況を解析したりすることができる。
【0030】
次に、「日常生活における熱中症予防指針」(図5)を読み出して、WBGTの予測値がどのランクに該当するかを判定する。そして、「危険」や「厳重警戒」のランクに該当すると判定したときには、上記と同様に危険状態と判断して、制御手段や警報手段を発動させる。
また、ディスプレイ5の画面は、WBGTが算出され、すなわち計算されてWBGT値収録部で履歴が更新される度に切り替えられ、現在値が表示される。
【0031】
上記したように、熱中症危険度判定装置1は、迅速に精度良く熱中症危険度を判定して、危険ランクや厳重警戒ランクになったときには、介護者に速やかにその旨を報知し、空調機器も自動的に調整させるので、熱中症事故を未然に防止できる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の具体的構成が上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨から外れない範囲での設計変更があっても本発明に含まれる。
例えば、上記の実施の形態に係る熱中症危険度判定装置は、高齢者施設の室内での設置を想定したものであるが、健康な高齢者が、健康維持のための室内環境モニターとして自宅に設置することも考えられる。
さらには、高齢者用に限定されず、熱中症が発生し易い環境、例えば、学校の体育館で設置して利用することも考えられる。」

(2)上記(1)及び図面の記載から分かること
ア 上記(1)ア及びイ並びに図1?6の記載によれば、甲9には、車両環境管理システムとエアコンを用いたシステムが記載されていることが分かる。

イ 上記(1)イ(特に、段落【0028】及び【0032】)及び図1?6の記載によれば、車両環境管理システムとエアコンを用いたシステムは、室内の湿度を検知する湿度センサー17と室内の気温を検知する気温センサー19と室内の照度を検知する照度センサー21が内蔵された熱中症危険度判定装置1により制御される空調機器を備えることが分かる。

ウ 上記(1)イ及び図1?6の記載によれば、車両環境管理システムとエアコンを用いたシステムは、熱中症危険度判定装置1の処理部15が、前記湿度センサー17、前記気温センサー19、前記照度センサー21から、それぞれ室内の湿度、気温、照度の情報を定期的に受け取り、「35℃未満か、または、31℃未満で且つ日射有り」に該当しない場合に、即危険状態とみなして、制御手段や警報手段を発動させることにより、又は、「35℃未満か、または、31℃未満で且つ日射有り」に該当する場合に、相対湿度と気温の実測値を「湿球温度の近似予測式」に代入して湿球温度の予測値を算出し、さらに、その算出された湿球温度の予測値と気温の実測値を「WBGTの近似予測式」に代入してWBGT(湿球黒球温度)の予測値を算出し、「日常生活における熱中症予防指針」を読み出して、WBGTの予測値がどのランクに該当するかを判定し、「危険」や「厳重警戒」のランクに該当すると判定したときには、危険状態と判断して、制御手段や警報手段を発動させることにより、空調機器の温度が自動的に調整され、また、介護者の携帯電話機宛に報知する機能を備えることが分かる。

(3)甲9発明
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合すると、甲9には次の発明(以下、「甲9発明」という。)が記載されていると認める。
「室内の湿度を検知する湿度センサー17と室内の気温を検知する気温センサー19と室内の照度を検知する照度センサー21が内蔵された熱中症危険度判定装置1により制御される空調機器と、
熱中症危険度判定装置1の処理部15が、前記湿度センサー17、前記気温センサー19、前記照度センサー21から、それぞれ室内の湿度、気温、照度の情報を定期的に受け取り、「35℃未満か、または、31℃未満で且つ日射有り」に該当しない場合に、即危険状態とみなして、制御手段や警報手段を発動させることにより、又は、「35℃未満か、または、31℃未満で且つ日射有り」に該当する場合に、相対湿度と気温の実測値を「湿球温度の近似予測式」に代入して湿球温度の予測値を算出し、さらに、その算出された湿球温度の予測値と気温の実測値を「WBGTの近似予測式」に代入してWBGT(湿球黒球温度)の予測値を算出し、「日常生活における熱中症予防指針」を読み出して、WBGTの予測値がどのランクに該当するかを判定し、「危険」や「厳重警戒」のランクに該当すると判定したときには、危険状態と判断して、制御手段や警報手段を発動させることにより、空調機器の温度が自動的に調整され、また、介護者の携帯電話機宛に報知する機能と、を備えた熱中症危険度判定装置と空調機器を用いたシステム。」

第5 当審の判断
1.申立理由1及び申立理由2(特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項)について
(1)本件発明1について
ア 甲1発明を主とした検討
(ア)対比
本件発明1と甲1発明を、その機能、構成又は技術的意義を考慮して対比する。
・甲1発明における「車内温度」は、本件発明1における「室温」に相当し、以下同様に、「温度センサ66」は「室温計測手段」に、「エアコン」は「空気調和機」に、「熱害防止装置とエアコンを用いた車内での熱死を防止するためのシステム」は「空気調和システム」に、それぞれ相当する。
・甲1発明における「人体センサ1a、1b、…と、車内制御部65と、車内温度を検知する温度センサ66と、限界温度設定スイッチ67と、車内温度制御部2と、パワーウインド駆動部68と、窓の位置センサ69と、警報装置120とを備えた熱害防止装置と、車に搭載されたエアコン」は、車載装置としてエアコンが車内温度を検知する温度センサ66を有するものといえるから、本件発明1における「室温を検知する室温計測手段を有する空気調和機」に、相当する。

・本件発明1における「使用者」は、本件特許の請求項1における「使用者に前記空気調和機の運転を勧めるメッセージ」という文言上、空気調和機を使用する者であって、空気調和機により空調が行われる室内に在室する者と解せるところ、本件特許の明細書の段落【0102】における「これにより、報知に誰も気づかなかった場合でも、その状態から、空気調和機が運転しない時間が、例えば、1時間以上続いた場合は、空気調和機の運転を強制的に開始する。こうすることにより、使用者が、熱中症の危険な状態に陥るのを防ぐことができる。また、報知後も室温湿度の上昇が続き、室温湿度が、例えば、高温高湿側に所定温度差以上または/および所定湿度差以上逸脱した場合、空気調和機の運転を強制的に開始する。」(下線は当審で付与した。以下同様。)との記載からもそのように理解できることである。そうすると、甲1発明における「外部」は、本件発明1の「使用者」と、「所定の連絡先」という限りにおいて一致する。
また、甲1発明における「前記温度センサ66によって検知される車内温度が、前記限界温度設定スイッチ67により設定された予め人が存在するときの車内の限界温度、例えば30°Cを越え」るときは、本件発明1における「前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるとき」に、相当する。
そして、甲1発明における「前記人体センサ1a、1b、…、より人体検知の信号が車内制御部65に入力されている状態で、前記温度センサ66によって検知される車内温度が、前記限界温度設定スイッチ67により設定された予め人が存在するときの車内の限界温度、例えば30°Cを越え、なおかつ前記エアコンの設定温度が高く、さらに前記窓の位置センサ69によってパワーウインドが閉じられていることが検知された場合に、前記車内制御部65は警報装置120を動作させて、外部に対して警報を発する機能」は、本件発明1における「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるとき、使用者に前記空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知する第1の機能」と、「前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるときを含む所定の条件にあるとき、所定の連絡先に所定の報知を行う機能」という限りにおいて一致する。

・甲1発明における「前記人体センサ1a、1b、…で、人体が検知された状態では、前記車内温度制御部2で前記エアコンにより温度制御を行い、前記温度センサ66で検知される車内温度が車内の限界温度を越えないようにし、温度センサ66で検知される温度が車内の限界温度を越えて上昇した場合、前記パワーウインド駆動部68を動作させてパワーウインドを下げ、窓を開ける機能」は、本件発明1における「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が前記第1の所定温度より高い第2の所定温度以上であるとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する第2の機能」と、「前記室温計測手段が検知した室温が第2の所定の条件にあるとき、前記空気調和機の所定の制御を行う機能」という限りにおいて一致する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「室温を検知する室温計測手段を有する空気調和機と、
前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるときを含む所定の条件にあるとき、所定の連絡先に所定の報知を行う機能と、
前記室温計測手段が検知した室温が第2の所定の条件にあるとき、前記空気調和機の所定の制御を行う機能と、を備えた空気調和システム。」

[相違点A1-1]
「所定の報知を行う機能」に関して、本件発明1においては「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるとき、使用者に前記空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知する」ものであるのに対して、甲1発明においては「前記人体センサ1a、1b、…、より人体検知の信号が車内制御部65に入力されている状態で、前記温度センサ66によって検知される車内温度(室温)が、前記限界温度設定スイッチ67により設定された予め人が存在するときの車内の限界温度、例えば30°Cを越え、なおかつ前記エアコンの設定温度が高く、さらに前記窓の位置センサ69によってパワーウインドが閉じられていることが検知された場合に、前記車内制御部65は警報装置120を動作させて、外部に対して警報を発する」ものであって、外部に対して警報を発する(メッセージを通報する)条件として、人体センサ1a、1b、…、より人体検知の信号が車内制御部65に入力されている状態で、かつエアコンの設定温度が高く、さらに窓の位置センサ69によってパワーウインドが閉じられていることが検知されたことを要し、また、本件発明1のように、空気調和機の空調運転停止時において、使用者に空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知するものではない点。

[相違点A1-2]
「空気調和機の所定の制御を行う機能」に関して、本件発明1においては「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が前記第1の所定温度より高い第2の所定温度以上であるとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する」ものであるのに対して、甲1発明においては「前記人体センサ1a、1b、…で、人体が検知された状態では、前記車内温度制御部2で前記エアコンにより温度制御を行い、前記温度センサ66で検知される車内温度が車内の限界温度を越えないようにし、温度センサ66で検知される温度が車内の限界温度を越えて上昇した場合、前記パワーウインド駆動部68を動作させてパワーウインドを下げ、窓を開ける」ものである点。

(イ)判断
まず上記相違点A1-1について検討する。
甲2技術?甲4技術を参照すると、室内の温度が所定温度以上である異常のときに、室外の連絡先に異常を知らせるメッセージを、インターネットを介して報知することは、本件特許の原出願の出願前に周知の技術であると認められるが(当該技術を、以下、「周知技術」という。)、室内の温度が所定温度以上である異常のときに、使用者(すなわち、室内を空調するために空気調和機を使用する在室者)に異常を知らせるメッセージを、インターネットを介して報知すること(以下、「技術イ」という。)は示されていない。
また、技術イは、甲5技術?甲7技術、甲8発明及び甲9発明にも示されていない。
そうすると、甲1発明において、周知技術に基いたとしても、上記相違点A1-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

そして、本件発明1は、上記相違点A1-1に係る発明特定事項を備えることにより、「空気調和機が、使用者の意図的な空調運転の停止、または、制御上の空調運転の停止によって停止した場合でも、熱中症等を考慮した適切な運用ができる空気調和システムおよび空気調和機を提供することができる。」(段落【0016】)という効果を奏するものである。
したがって、上記相違点A1-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 甲2発明1を主とした検討
(ア)対比
本件発明1と甲2発明1を、その機能、構成又は技術的意義を考慮して対比する。
・甲2発明1における「車室の内気温」は、本件発明1における「室温」に相当し、以下同様に、「内気温センサ42」は「室温計測手段」に、「エアコン40」は「空気調和機」に、「車室内事故防止装置とエアコンを用いたシステム」は「空気調和システム」に、それぞれ相当する。

・甲2発明1における「前記イグニッションスイッチのオフ時」は、それによりエアコン40は停止しているから、本件発明1における「空気調和機の空調運転停止時」に相当する。
また、甲2発明1における「車室外のユーザの携帯端末30」は、本件発明1における「使用者」と、「所定の連絡先」という限りにおいて一致する。
また、甲2発明1における「前記内気温センサ42の検知信号に基づく車室の内気温が第1温度TE1に達したとき」は、本件発明1における「前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるとき」に、相当する。
そして、甲2発明1における「イグニッションスイッチのオフ時において、車室内侵入センサ14のセンサ信号に基づいて検知ありとの判定が継続しているとき、前記内気温センサ42の検知信号に基づく車室の内気温が第1温度TE1に達したとき、管理センタ20のサーバ22は、車室外のユーザの携帯端末30にユーザに注意を喚起するためのメッセージをメールにより送信する機能」は、本件発明1における「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるとき、使用者に前記空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知する第1の機能」と、「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるときを含む所定の条件にあるとき、所定の連絡先に所定のメッセージを、報知する機能」という限りにおいて一致する。

・甲2発明1における「前記内気温センサ42の検知信号に基づく車室の内気温が前記第1温度TE1より高い第3温度TE3に達したとき」は、本件発明1における「前記室温計測手段が検知した室温が前記第1の所定温度より高い第2の所定温度以上であるとき」に、相当する。
そして、甲2発明1における「前記イグニッションスイッチのオフ時において、前記内気温センサ42の検知信号に基づく車室の内気温が前記第1温度TE1より高い第3温度TE3に達したとき、前記管理センタ20の前記サーバ22は、前記エアコン40の遠隔操作を行う機能」は、本件発明1における「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が前記第1の所定温度より高い第2の所定温度以上であるとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する第2の機能」に相当する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「室温を検知する室温計測手段を有する空気調和機と、
前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるときを含む所定の条件にあるとき、所定の連絡先に所定のメッセージを、報知する機能と、
前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が前記第1の所定温度より高い第2の所定温度以上であるとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する第2の機能と、を備えた空気調和システム。」

[相違点A2-1]
「報知する機能」に関して、本件発明1においては「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるとき、使用者に前記空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知する」ものであるのに対して、甲2発明1においては「イグニッションスイッチのオフ時において、車室内侵入センサ14のセンサ信号に基づいて検知ありとの判定が継続しているとき、前記内気温センサ42の検知信号に基づく車室の内気温が第1温度TE1に達したとき、管理センタ20のサーバ22は、車室外のユーザの携帯端末30にユーザに注意を喚起するためのメッセージをメールにより送信する」ものであって、メッセージをメールにより送信する(メッセージを報知する)条件として、車室内侵入センサ14のセンサ信号に基づいて検知ありとの判定が継続しているときであることを要し、また、本件発明1のように、使用者に空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知するものではない点。

(イ)判断
上記相違点A2-1について検討する。
本件発明1は、上記相違点A2-1に係る発明特定事項を備えることにより、「空気調和機が、使用者の意図的な空調運転の停止、または、制御上の空調運転の停止によって停止した場合でも、熱中症等を考慮した適切な運用ができる空気調和システムおよび空気調和機を提供することができる。」(段落【0016】)という効果を奏するものであるから、上記相違点A2-1は実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲2発明1ではないから、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当しない。

そこで、甲2技術?甲4技術を参照すると、上記ア(イ)の周知技術は認められるが、技術イは示されていない。
また、技術イは、甲1発明、甲5技術?甲7技術、甲8発明及び甲9発明にも示されていない。
そうすると、甲2発明1において、周知技術又は甲7技術に基いたとしても、上記相違点A2-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、本件発明1は、甲2発明1に基いて、又は、甲2発明1及び周知技術に基いて、又は、甲2発明1及び甲7技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 甲3発明を主とした検討
(ア)対比
本件発明1と甲3発明を、その機能、構成又は技術的意義を考慮して対比する。
・甲3発明における「車内温度」は、本件発明1における「室温」に相当し、以下同様に、「温度センサ103」は「室温計測手段」に、「エアコン」は「空気調和機」に、「車両制御装置とエアコンを用いたシステム」は「空気調和システム」に、それぞれ相当する。

・甲3発明における「車内温度を検知する温度センサ103から車内温度を取得するエアコン制御部203により制御されるエアコン」は、本件発明1における「室温を検知する室温計測手段を有する空気調和機」に、相当する。

・甲3発明における「降車した運転手が所有する携帯電話」は、本件発明1における「使用者」に、「所定の連絡先」という限りにおいて一致する。
また、甲3発明における「前記温度センサ103が検知した車内温度の状態が適正範囲(例えば、「15℃」以上「30℃」未満)を超えたと判定された場合」は、車内に残された子供等の身体に重大な影響を与える程の高温状態又は低温状態に陥った場合であるから(段落【0003】及び【0006】)、本件発明1における「前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるとき」に、相当する。
そして、甲3発明における「運転者が降車した後、前記温度センサ103が検知した車内温度の状態が適正範囲(例えば、「15℃」以上「30℃」未満)を超えたと判定された場合、降車した運転手が所有する携帯電話に「車内温度が適正範囲を超えています。」という内容が記載れた電子メールを送信する機能」は、本件発明1における「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるとき、使用者に前記空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知する第1の機能」と、「前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるときを含む所定の条件にあるとき、所定の連絡先に所定のメッセージを、報知する機能」という限りにおいて一致する。

・甲3発明における「運転者が降車した後、前記温度センサ10が検知した車内温度の状態が適正範囲を超えたと判定された場合、適正範囲から逸脱した度合いに応じて当該車内温度を調節する機能」は、本件発明1における「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が前記第1の所定温度より高い第2の所定温度以上であるとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する第2の機能」と、「前記室温計測手段が検知した室温が第2の所定の条件にあるとき、前記空気調和機の所定の制御を行う機能」という限りにおいて一致する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「室温を検知する室温計測手段を有する空気調和機と、
前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるときを含む所定の条件にあるとき、所定の連絡先に所定のメッセージを、報知する機能と、
前記室温計測手段が検知した室温が第2の所定の条件にあるとき、前記空気調和機の所定の制御を行う機能と、を備えた空気調和システム。」

[相違点A3-1]
「報知する機能」に関して、本件発明1においては「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるとき、使用者に前記空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知する」ものであるのに対して、甲3発明においては「運転者が降車した後、前記温度センサ103が検知した車内温度の状態が適正範囲(例えば、「15℃」以上「30℃」未満)を超えたと判定された場合、降車した運転手が所有する携帯電話に「車内温度が適正範囲を超えています。」という内容が記された電子メールを送信する」ものであり、本件発明1のように、空気調和機の空調運転停止時において、使用者に空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知するものではない点。

[相違点A3-2]
「空気調和機の所定の制御を行う機能」に関して、本件発明1においては「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が前記第1の所定温度より高い第2の所定温度以上であるとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する」ものであるのに対して、甲3発明においては「運転者が降車した後、前記温度センサ10が検知した車内温度の状態が適正範囲を超えたと判定された場合、適正範囲から逸脱した度合いに応じて当該車内温度を調節する」ものである点。

(イ)判断
上記相違点A3-1について検討する。
甲2技術?甲4技術を参照すると、上記ア(イ)の周知技術は認められるが、技術イは示されていない。
また、技術イは、甲1発明、甲5技術?甲7技術、甲8発明及び甲9発明にも示されていない。
そうすると、甲3発明において、周知技術、又は、甲2技術、又は、甲2技術及び甲7技術に基いたとしても、上記相違点A3-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

そして、本件発明1は、上記相違点A3-1に係る発明特定事項を備えることにより、「空気調和機が、使用者の意図的な空調運転の停止、または、制御上の空調運転の停止によって停止した場合でも、熱中症等を考慮した適切な運用ができる空気調和システムおよび空気調和機を提供することができる。」(段落【0016】)という効果を奏するものである。
したがって、上記相違点A3-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明に基いて、又は、甲3発明及び周知技術に基いて、又は、甲3発明及び甲2技術に基いて、又は、甲3発明、甲2技術及び甲7技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 甲8発明を主とした検討
(ア)対比
本件発明1と甲8発明を、その機能、構成又は技術的意義を考慮して対比する。
・甲8発明における「車内温度」は、本件発明1における「室温」に相当し、以下同様に、「温度センサ32」は「室温計測手段」に、「エアコン13」は「空気調和機」に、「車両環境管理システムとエアコンを用いたシステム」は「空気調和システム」に、それぞれ相当する。

・甲8発明における「車内温度を検知する温度センサ32の出力に基づきECU20の車内環境制御手段25によって制御されるエアコン13」は、本件発明1における「室温を検知する室温計測手段を有する空気調和機」に、相当する。

・甲8発明における「車外のユーザの情報処理端末」は、本件発明1における「使用者」と、「所定の連絡先」という限りにおいて一致する。
また、甲8発明における「第1判定手段21によってエンジン15が停止状態にあると判定され、第2判定手段22によって全てのドアが閉状態にあると判定され、第3判定手段23によって車内に動物がいると判定され、且つ、第4判定手段24によって車内温度が許容範囲から外れていると判定された状態の継続時間tが所定時間以上となった場合」は、動物が車内に閉じ込められ、且つ、車内の環境(車内温度)がこの動物の健康状態に悪影響を及ぼすようなものである蓋然性が高いのであるから(段落【0052】)、本件発明1における「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるとき」と、「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるときを含む所定の条件にあるとき」という限りにおいて一致する。
そして、甲8発明における「第1判定手段21によってエンジン15が停止状態にあると判定され、第2判定手段22によって全てのドアが閉状態にあると判定され、第3判定手段23によって車内に動物がいると判定され、且つ、第4判定手段24によって車内温度が許容範囲から外れていると判定された状態の継続時間tが所定時間以上となった場合、車外のユーザの情報処理端末に動物が閉じ込められている車内環境に異変が生じたことを、通報手段により通報する機能」は、本件発明1における「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるとき、使用者に前記空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知する第1の機能」と、「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるときを含む所定の条件にあるとき、所定の連絡先に所定のメッセージを、報知する機能」という限りにおいて一致する。

・甲8発明における「前記第1判定手段21によって前記エンジン15が停止状態にあると判定され、前記第2判定手段22によって全てのドアが閉状態にあると判定され、前記第3判定手段23によって車内に動物がいると判定され、且つ、前記第4判定手段24によって車内温度が許容範囲から外れていると判定された状態が所定時間にわたり継続し、さらに、第2温度を超えることを要件として、エアコン13の作動を制御する機能」は、第2温度が車内温度の許容範囲の上限より高いから、本件発明1の「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が前記第1の所定温度より高い第2の所定温度以上であるとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する第2の機能」と、「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が前記第1の所定温度より高い第2の所定温度以上であるときを含む第2の所定の条件にあるとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する機能」という限りにおいて一致する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「室温を検知する室温計測手段を有する空気調和機と、
前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるときを含む所定の条件にあるとき、所定の連絡先に所定のメッセージを、報知する機能と、
前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が前記第1の所定温度より高い第2の所定温度以上であるときを含む第2の所定の条件にあるとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する機能と、を備えた空気調和システム。」

[相違点A8-1]
「報知する機能」に関して、本件発明1においては「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるとき、使用者に前記空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知する」ものであるのに対して、甲8発明においては「第1判定手段21によってエンジン15が停止状態にあると判定され、第2判定手段22によって全てのドアが閉状態にあると判定され、第3判定手段23によって車内に動物がいると判定され、且つ、第4判定手段24によって車内温度が許容範囲から外れていると判定された状態の継続時間tが所定時間以上となった場合、車外のユーザの情報処理端末に動物が閉じ込められている車内環境に異変が生じたことを、通報手段により通報する」ものであり、車内環境に異変が生じたこと(メッセージ)を通報(報知)する条件として、第1判定手段21によってエンジン15が停止状態にあると判定され、第2判定手段22によって全てのドアが閉状態にあると判定され、第3判定手段23によって車内に動物がいると判定され、且つ、第4判定手段24によって車内温度が許容範囲から外れていると判定された状態(室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上である状態)の継続時間tが所定時間以上であることを要し、また、本件発明1のように、使用者に空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知するものではない点。

[相違点A8-2]
「空気調和機の運転を強制的に開始する機能」に関して、本件発明1においては「記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が前記第1の所定温度より高い第2の所定温度以上であるとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する」ものであるのに対して、甲8発明においては「前記第1判定手段21によって前記エンジン15が停止状態にあると判定され、前記第2判定手段22によって全てのドアが閉状態にあると判定され、前記第3判定手段23によって車内に動物がいると判定され、且つ、前記第4判定手段24によって車内温度が許容範囲から外れていると判定された状態が所定時間にわたり継続し、さらに、第2温度を超えることを要件として、エアコン13の作動を制御する」ものである点。

(イ)判断
上記相違点A8-1について検討する。
本件発明1は、上記相違点A8-1に係る発明特定事項を備えることにより、「空気調和機が、使用者の意図的な空調運転の停止、または、制御上の空調運転の停止によって停止した場合でも、熱中症等を考慮した適切な運用ができる空気調和システムおよび空気調和機を提供することができる。」(段落【0016】)という効果を奏するものであるから、上記相違点A8-1は実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲8発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当しない。

そこで、甲2技術?甲4技術を参照すると、上記ア(イ)の周知技術は認められるが、技術イは示されていない。
また、技術イは、甲1発明、甲5技術?甲7技術及び甲9発明にも示されていない。
そうすると、甲8発明において、周知技術、又は、甲2技術、又は、甲2技術及び甲7技術に基いたとしても、上記相違点A8-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、上記相違点A8-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲8発明に基いて、又は、甲8発明及び周知技術に基いて、又は、甲8発明及び甲2技術に基いて、又は、甲8発明、甲2技術及び甲7技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 甲9発明を主とした検討
(ア)対比
本件発明1と甲9発明を、その機能、構成又は技術的意義を考慮して対比する。
・甲9発明における「室内の気温」は、本件発明1における「室温」に相当し、以下同様に、「気温センサー19」は「室温計測手段」に、「空調機器」は「空気調和機」に、「熱中症危険度判定装置と空調機器を用いたシステム」は「空気調和システム」に、それぞれ相当する。

・甲9発明における「室内の湿度を検知する湿度センサー17と室内の気温を検知する気温センサー19と室内の照度を検知する照度センサー21が内蔵された熱中症危険度判定装置1により制御される空調機器」は、本件発明1における「室温を検知する室温計測手段を有する空気調和機」に、相当する。

・甲9発明における「介護者の携帯電話機宛」は、本件発明1における「使用者」と、「所定の連絡先」という限りにおいて一致する。
また、甲9発明における「『35℃未満か、または、31℃未満で且つ日射有り』に該当しない場合」は、甲9発明において、室内の気温が35℃以上で熱中症危険度判定装置1が即危険状態とみなすことから、本件発明1における「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるとき」と、「前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである所定温度以上であるとき」という限りにおいて一致する。
そして、甲9発明における「熱中症危険度判定装置1の処理部15が、前記湿度センサー17、前記気温センサー19、前記照度センサー21から、それぞれ室内の湿度、気温、照度の情報を定期的に受け取り、「35℃未満か、または、31℃未満で且つ日射有り」に該当しない場合に、即危険状態とみなして、制御手段や警報手段を発動させることにより、又は、「35℃未満か、または、31℃未満で且つ日射有り」に該当する場合に、相対湿度と気温の実測値を「湿球温度の近似予測式」に代入して湿球温度の予測値を算出し、さらに、その算出された湿球温度の予測値と気温の実測値を「WBGTの近似予測式」に代入してWBGT(湿球黒球温度)の予測値を算出し、「日常生活における熱中症予防指針」を読み出して、WBGTの予測値がどのランクに該当するかを判定し、「危険」や「厳重警戒」のランクに該当すると判定したときには、危険状態と判断して、制御手段や警報手段を発動させることにより、空調機器の温度が自動的に調整され、また、介護者の携帯電話機宛に報知する機能」のうち、室内の気温が「35℃未満か、または、31℃未満で且つ日射有り」に該当しない場合に、即危険状態とみなして、警報手段を発動させることにより、介護者の携帯電話機宛に報知する機能は、本件発明1における「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるとき、使用者に前記空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知する第1の機能」と、「前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである所定温度以上であるとき、所定の連絡先に所定のメッセージを、報知する機能」という限りにおいて一致する。
また、甲9発明における「熱中症危険度判定装置1の処理部15が、前記湿度センサー17、前記気温センサー19、前記照度センサー21から、それぞれ室内の湿度、気温、照度の情報を定期的に受け取り、「35℃未満か、または、31℃未満で且つ日射有り」に該当しない場合に、即危険状態とみなして、制御手段や警報手段を発動させることにより、又は、「35℃未満か、または、31℃未満で且つ日射有り」に該当する場合に、相対湿度と気温の実測値を「湿球温度の近似予測式」に代入して湿球温度の予測値を算出し、さらに、その算出された湿球温度の予測値と気温の実測値を「WBGTの近似予測式」に代入してWBGT(湿球黒球温度)の予測値を算出し、「日常生活における熱中症予防指針」を読み出して、WBGTの予測値がどのランクに該当するかを判定し、「危険」や「厳重警戒」のランクに該当すると判定したときには、危険状態と判断して、制御手段や警報手段を発動させることにより、空調機器の温度が自動的に調整され、また、介護者の携帯電話機宛に報知する機能」のうち、室内の気温が「35℃未満か、または、31℃未満で且つ日射有り」に該当しない場合に、即危険状態とみなして、制御手段を発動させることにより、空調機器の温度が自動的に調整される機能は、本件発明1における「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が前記第1の所定温度より高い第2の所定温度以上であるとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する第2の機能」と、「前記室温計測手段が検知した室温が所定の条件にあるとき、前記空気調和機の所定の制御を行う機能」という限りにおいて一致する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「室温を検知する室温計測手段を有する空気調和機と、
前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである所定温度以上であるとき、所定の連絡先に所定のメッセージを、報知する機能と、
前記室温計測手段が検知した室温が所定の条件にあるとき、前記空気調和機の所定の制御を行う機能と、を備えた空気調和システム。」

[相違点A9-1]
「報知する機能」及び「空気調和機の所定の制御を行う機能」に関して、本件発明1においては「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるとき、使用者に前記空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知する第1の機能」と、「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が前記第1の所定温度より高い第2の所定温度以上であるとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する第2の機能」であるのに対して、甲9発明においては「熱中症危険度判定装置1の処理部15が、前記湿度センサー17、前記気温センサー19、前記照度センサー21から、それぞれ室内の湿度、気温、照度の情報を定期的に受け取り、「35℃未満か、または、31℃未満で且つ日射有り」に該当しない場合に、即危険状態とみなして、制御手段や警報手段を発動させることにより、又は、「35℃未満か、または、31℃未満で且つ日射有り」に該当する場合に、相対湿度と気温の実測値を「湿球温度の近似予測式」に代入して湿球温度の予測値を算出し、さらに、その算出された湿球温度の予測値と気温の実測値を「WBGTの近似予測式」に代入してWBGT(湿球黒球温度)の予測値を算出し、「日常生活における熱中症予防指針」を読み出して、WBGTの予測値がどのランクに該当するかを判定し、「危険」や「厳重警戒」のランクに該当すると判定したときには、危険状態と判断して、制御手段や警報手段を発動させることにより、空調機器の温度が自動的に調整され、また、介護者の携帯電話機宛に報知する機能」であって、本件発明1のように、空気調和機の空調運転停止時において、使用者に空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知するものではなく、また、空気調和機の空調運転停止時において、室温計測手段が検知した室温が第1の所定温度より高い第2の所定温度以上であるとき、空気調和機の運転を強制的に開始するものではない点。

(イ)判断
上記相違点A9-1について検討する。
甲2技術?甲4技術を参照すると、上記ア(イ)の周知技術は認められるが、技術イは示されていない。
また、技術イは、甲1発明、甲5技術?甲7技術及び甲8発明にも示されていない。
そうすると、甲9発明において、周知技術、又は、甲2技術、又は、甲2技術及び甲7技術に基いたとしても、上記相違点A9-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

そして、本件発明1は、上記相違点A9-1に係る発明特定事項を備えることにより、「空気調和機が、使用者の意図的な空調運転の停止、または、制御上の空調運転の停止によって停止した場合でも、熱中症等を考慮した適切な運用ができる空気調和システムおよび空気調和機を提供することができる。」(段落【0016】)という効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、甲9発明に基いて、又は、甲9発明及び周知技術に基いて、又は、甲9発明及び甲2技術に基いて、又は、甲9発明、甲2技術及び甲7技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2について
ア 甲2発明2を主とした検討
(ア)対比
本件発明2と甲2発明2を、その機能、構成又は技術的意義を考慮して対比する。
・甲2発明2における「車室の内気温」は、本件発明2における「室温」に相当し、以下同様に、「内気温センサ42」は「室温計測手段」に、「エアコン40」は「空気調和機」に、「車室内事故防止装置とエアコンを用いたシステム」は「空気調和システム」に、それぞれ相当する。

・甲2発明2における「前記イグニッションスイッチのオフ時」は、それによりエアコン40は停止しているから、本件発明2における「空気調和機の空調運転停止時」に相当する。
また、甲2発明2における「車室外のユーザの携帯端末30」は、本件発明2における「使用者」と、「所定の連絡先」という限りにおいて一致する。
また、甲2発明2における「前記内気温センサ42による検知信号に基づく車室の内気温が設定温度以上との状態が第1設定時間TM1だけ継続したとき」は、本件発明2における「前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上であるとき」と、「前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上であるときを含む所定の条件にあるとき」という限りにおいて一致する。
そして、甲2発明2における「イグニッションスイッチのオフ時において、車室内侵入センサ14によるセンサ信号に基づいて検知ありと判定し、かつ前記内気温センサ42による検知信号に基づく車室の内気温が設定温度以上との状態が第1設定時間TM1だけ継続したとき、管理センタ20のサーバ22は、車室外のユーザの携帯端末30にユーザに注意を喚起するためのメッセージをメールにより送信する機能」は、本件発明2における「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上であるとき、使用者に前記空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知する第1の機能」と、「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上であるときを含む所定の条件にあるとき、所定の連絡先に所定のメッセージを、報知する機能」という限りにおいて一致する。

・甲2発明2における「前記内気温センサ42の検知信号に基づく車室の内気温が設定温度以上との状態が第3設定時間TM3が継続したとき」は、空気調和機の運転がされていない状態が継続した場合であるから、本件発明2における「前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上になってから所定時間が経過しても前記空気調和機の運転が開始されないとき」に、相当する。
そして、甲2発明2における「前記イグニッションスイッチのオフ時において、前記内気温センサ42の検知信号に基づく車室の内気温が設定温度以上との状態が第3設定時間TM3が継続したとき、前記管理センタ20の前記サーバ22は、前記エアコン40の遠隔操作を行う機能」は、本件発明2における「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上になってから所定時間が経過しても前記空気調和機の運転が開始されないとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する第2の機能」に、相当する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「室温を検知する室温計測手段を有する空気調和機と、
前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上であるときを含む所定の条件にあるとき、所定の連絡先に所定のメッセージを、報知する機能と、
前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上になってから所定時間が経過しても前記空気調和機の運転が開始されないとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する第2の機能と、を備えた空気調和システム。」

[相違点B2-1]
「報知する機能」に関して、本件発明2においては「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上であるとき、使用者に前記空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知する」ものであるのに対して、甲2発明2においては「イグニッションスイッチのオフ時において、車室内侵入センサ14によるセンサ信号に基づいて検知ありと判定し、かつ前記内気温センサ42による検知信号に基づく車室の内気温が設定温度以上との状態が第1設定時間TM1だけ継続したとき、管理センタ20のサーバ22は、車室外のユーザの携帯端末30にユーザに注意を喚起するためのメッセージをメールにより送信する」ものであって、メッセージをメールにより送信する(メッセージを報知する)条件として、車室内侵入センサ14によるセンサ信号に基づいて検知ありと判定されていること及び車室の内気温が設定温度以上(室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上)との状態が第1設定時間TM1だけ継続したときであることを要し、また、本件発明2のように、使用者に空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知するものではない点。

(イ)判断
上記相違点B2-1について検討する。
本件発明2は、上記相違点B2-1に係る発明特定事項を備えることにより、「空気調和機が、使用者の意図的な空調運転の停止、または、制御上の空調運転の停止によって停止した場合でも、熱中症等を考慮した適切な運用ができる空気調和システムおよび空気調和機を提供することができる。」(段落【0016】)という効果を奏するものであるから、上記相違点B2-1は実質的な相違点である。
したがって、本件発明2は、甲2発明2ではないから、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当しない。

そこで、甲2技術?甲4技術を参照すると、上記(1)ア(イ)の周知技術は認められるが、技術イは示されていない。
また、技術イは、甲1発明、甲5技術?甲7技術、甲8発明及び甲9発明にも示されていない。
そうすると、甲2発明2において、周知技術又は甲7技術に基いたとしても、上記相違点B2-1に係る本件発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、本件発明2は、甲2発明2に基いて、又は、甲2発明2及び周知技術に基いて、又は、甲2発明2及び甲2技術に基いて、又は、甲2発明2、甲2技術及び甲7技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 甲3発明を主とした検討
(ア)対比
本件発明2と甲3発明を、その機能、構成又は技術的意義を考慮して対比する。
・甲3発明における「車内温度」は、本件発明2における「室温」に相当し、以下同様に、「温度センサ103」は「室温計測手段」に、「エアコン」は「空気調和機」に、「車両制御装置とエアコンを用いたシステム」は「空気調和システム」に、それぞれ相当する。

・甲3発明における「車内温度を検知する温度センサ103から車内温度を取得するエアコン制御部203により制御されるエアコン」は、本件発明2における「室温を検知する室温計測手段を有する空気調和機」に、相当する。

・甲3発明における「降車した運転手が所有する携帯電話」は、本件発明2における「使用者」と、「所定の連絡先」という限りにおいて一致する。
また、甲3発明における「前記温度センサ103が検知した車内温度の状態が適正範囲(例えば、「15℃」以上「30℃」未満)を超えたと判定された場合」は、車内に残された子供等の身体に重大な影響を与える程の高温状態又は低温状態に陥った場合であるから(段落【0003】及び【0006】)、本件発明2における「前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上であるとき」に、相当する。
そして、甲3発明における「運転者が降車した後、前記温度センサ103が検知した車内温度の状態が適正範囲(例えば、「15℃」以上「30℃」未満)を超えたと判定された場合、降車した運転手が所有する携帯電話に「車内温度が適正範囲を超えています。」という内容が記された電子メールを送信する機能」は、本件発明2における「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上であるとき、使用者に前記空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知する第1の機能」と、「前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上であるときを含む所定の条件にあるとき、所定の連絡先に所定のメッセージを、報知する機能」という限りにおいて一致する。

・甲3発明における「運転者が降車した後、前記温度センサ10が検知した車内温度の状態が適正範囲を超えたと判定された場合、適正範囲から逸脱した度合いに応じて当該車内温度を調節する機能」は、本件発明2における「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上になってから所定時間が経過しても前記空気調和機の運転が開始されないとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する第2の機能」と、「第2の所定の条件にあるとき、前記空気調和機の所定の制御を行う機能」という限りにおいて一致する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「室温を検知する室温計測手段を有する空気調和機と、
前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上であるときを含む所定の条件にあるとき、所定の連絡先に所定のメッセージを、報知する機能と、
第2の所定の条件にあるとき、前記空気調和機の所定の制御を行う機能と、を備えた空気調和システム。」

[相違点B3-1]
「報知する機能」に関して、本件発明2においては「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上であるとき、使用者に前記空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知する」ものであるのに対して、甲3発明においては「運転者が降車した後、前記温度センサ103が検知した車内温度の状態が適正範囲(例えば、「15℃」以上「30℃」未満)を超えたと判定された場合、降車した運転手が所有する携帯電話に「車内温度が適正範囲を超えています。」という内容が記された電子メールを送信する」ものであり、本件発明2のように、空気調和機の空調運転停止時において、使用者に空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知するものではない点。

[相違点B3-2]
「空気調和機の所定の制御を行う機能」に関して、本件発明2においては「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上になってから所定時間が経過しても前記空気調和機の運転が開始されないとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する」ものであるのに対して、甲3発明においては「運転者が降車した後、前記温度センサ10が検知した車内温度の状態が適正範囲を超えたと判定された場合、適正範囲から逸脱した度合いに応じて当該車内温度を調節する」ものである点。

(イ)判断
上記相違点B3-1について検討する。
甲2技術?甲4技術を参照すると、上記(1)ア(イ)の周知技術は認められるが、技術イは示されていない。
また、技術イは、甲1発明、甲5技術?甲7技術、甲8発明及び甲9発明にも示されていない。
そうすると、甲3発明において、周知技術、又は、甲2技術、又は、甲2技術及び甲7技術に基いたとしても、上記相違点B3-1に係る本件発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

そして、本件発明2は、上記相違点B3-1に係る発明特定事項を備えることにより、「空気調和機が、使用者の意図的な空調運転の停止、または、制御上の空調運転の停止によって停止した場合でも、熱中症等を考慮した適切な運用ができる空気調和システムおよび空気調和機を提供することができる。」(段落【0016】)という効果を奏するものである。
したがって、上記相違点B3-2について検討するまでもなく、本件発明2は、甲3発明に基いて、又は、甲3発明及び周知技術に基いて、又は、甲3発明及び甲2技術に基いて、又は、甲3発明、甲2技術及び甲7技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 甲8発明を主とした検討
(ア)対比
本件発明2と甲8発明を、その機能、構成又は技術的意義を考慮して対比する。
・甲8発明における「車内温度」は、本件発明2における「室温」に相当し、以下同様に、「温度センサ32」は「室温計測手段」に、「エアコン13」は「空気調和機」に、「車両環境管理システムとエアコンを用いたシステム」は「空気調和システム」に、それぞれ相当する。

・甲8発明における「車内温度を検知する温度センサ32の出力に基づきECU20の車内環境制御手段25によって制御されるエアコン13」は、本件発明1における「室温を検知する室温計測手段を有する空気調和機」に、相当する。

・甲8発明における「車外のユーザの情報処理端末」は、本件発明2における「使用者」と、「所定の連絡先」という限りにおいて一致する。
また、甲8発明における「第1判定手段21によってエンジン15が停止状態にあると判定され、第2判定手段22によって全てのドアが閉状態にあると判定され、第3判定手段23によって車内に動物がいると判定され、且つ、第4判定手段24によって車内温度が許容範囲から外れていると判定された状態の継続時間tが所定時間以上となった場合」は、動物が車内に閉じ込められ、且つ、車内の環境(車内温度)がこの動物の健康状態に悪影響を及ぼすようなものである蓋然性が高いのであるから(段落【0052】)、本件発明2における「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上であるとき」と、「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上であるときを含む所定の条件にあるとき」という限りにおいて一致する。
そして、甲8発明における「第1判定手段21によってエンジン15が停止状態にあると判定され、第2判定手段22によって全てのドアが閉状態にあると判定され、第3判定手段23によって車内に動物がいると判定され、且つ、第4判定手段24によって車内温度が許容範囲から外れていると判定された状態の継続時間tが所定時間以上となった場合、車外のユーザの情報処理端末に動物が閉じ込められている車内環境に異変が生じたことを、通報手段により通報する機能」は、本件発明2における「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上であるとき、使用者に前記空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知する第1の機能」と、「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上であるときを含む所定の条件にあるとき、所定の連絡先に所定のメッセージを、報知する機能」という限りにおいて一致する。

・甲8発明における「前記第1判定手段21によって前記エンジン15が停止状態にあると判定され、前記第2判定手段22によって全てのドアが閉状態にあると判定され、前記第3判定手段23によって車内に動物がいると判定され、且つ、前記第4判定手段24によって車内温度が許容範囲から外れていると判定された状態が所定時間にわたり継続し、さらに、第2温度を超えることを要件として、エアコン13の作動を制御する機能」は、本件発明2の「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上になってから所定時間が経過しても前記空気調和機の運転が開始されないとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する第2の機能」と、「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上になってから所定時間が経過しても前記空気調和機の運転が開始されないとき含む第2の所定の条件にあるとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する機能」という限りにおいて一致する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「室温を検知する室温計測手段を有する空気調和機と、
前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上であるときを含む所定の条件にあるとき、所定の連絡先に所定のメッセージを、報知する機能と、
前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上になってから所定時間が経過しても前記空気調和機の運転が開始されないとき含む第2の所定の条件にあるとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する機能と、を備えた空気調和システム。」

[相違点B8-1]
「報知する機能」に関して、本件発明2においては「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上であるとき、使用者に前記空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知する」ものであるのに対して、甲8発明においては「第1判定手段21によってエンジン15が停止状態にあると判定され、第2判定手段22によって全てのドアが閉状態にあると判定され、第3判定手段23によって車内に動物がいると判定され、且つ、第4判定手段24によって車内温度が許容範囲から外れていると判定された状態の継続時間tが所定時間以上となった場合、車外のユーザの情報処理端末に動物が閉じ込められている車内環境に異変が生じたことを、通報手段により通報する」ものであり、車内環境に異変が生じたこと(メッセージ)を通報(報知)する条件として、車内温度が許容範囲から外れている状態(室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上である状態)の継続時間が所定時間以上であることを要し、また、本件発明2のように、使用者に空気調和機の運転を勧めるメッセージを、インターネットを介して報知するものではない点。

[相違点8B-2]
「空気調和機の運転を強制的に開始する機能」に関して、本件発明2においては「前記空気調和機の空調運転停止時において、前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上になってから所定時間が経過しても前記空気調和機の運転が開始されないとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する」ものであるのに対して、甲8発明においては「前記第1判定手段21によって前記エンジン15が停止状態にあると判定され、前記第2判定手段22によって全てのドアが閉状態にあると判定され、前記第3判定手段23によって車内に動物がいると判定され、且つ、前記第4判定手段24によって車内温度が許容範囲から外れていると判定された状態が所定時間にわたり継続し、さらに、第2温度を超えることを要件として、エアコン13の作動を制御する」ものである点。

(イ)判断
上記相違点B8-1について検討する。
甲2技術?甲4技術を参照すると、上記(1)ア(イ)の周知技術は認められるが、技術イは示されていない。
また、技術イは、甲1発明、甲5技術?甲7技術及び甲9発明にも示されていない。
そうすると、甲8発明において、周知技術、又は、甲2技術、又は、甲2技術及び甲7技術に基いたとしても、上記相違点B8-1に係る本件発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

そして、本件発明2は、上記相違点B8-1に係る発明特定事項を備えることにより、「空気調和機が、使用者の意図的な空調運転の停止、または、制御上の空調運転の停止によって停止した場合でも、熱中症等を考慮した適切な運用ができる空気調和システムおよび空気調和機を提供することができる。」(段落【0016】)という効果を奏するものである。
したがって、上記相違点B8-2ついて検討するまでもなく、本件発明2は、甲8発明に基いて、又は、甲8発明及び周知技術に基いて、又は、甲8発明及び甲2技術に基いて、又は、甲8発明、甲2技術及び甲7技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)まとめ
上記(1)及び(2)によれば、本件発明1及び本件発明2は、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当せず、また、甲1?9に記載された発明等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものとはいえず、申立理由1及び申立理由2によって取り消すことはできない。

2.申立理由3(特許法第36条第6項第1号)について
(1)申立理由3の具体的理由
本件特許の請求項1に「前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるとき・・・メッセージを・・・報知する第1の機能」と記載されている。請求項1のこの記載は、第1の機能が、室温計測手段が検知した温度のみに基づいて報知を行うものを含む。
しかし、本件明細書の段落0092には「一般に、高温、高湿のときに熱中症が起きやすい」と記載され、段落0093には「熱中症の起き易さの目安として、WBGT(湿球黒球温度)が提唱されていて、これを簡易的に気温と湿度で表すことも行われている。」と記載されている。また、本件明細書には、熱中症に罹るレベルの例として、段落0093に「気温30℃の場合、湿度45%を超えると熱中症に警戒が必要となり、湿度65%を超えると、厳重な警戒が必要となる。更に、湿度85%を超えると危険な状態になる」と記載され、段落0094に「湿度65%の場合、室温が27℃を超えると警戒が必要となり、室温が30℃を超えると、厳重な警戒が必要となる。更に、室温が33℃を超えると危険な状態になる」と記載され、更に、段落0096には、「25℃100%、35℃30%などの点も記憶しておき、室温湿度がこれらの点を結ぶ線より高温高湿側になる場合に報知動作が開始する」と記載されている。即ち、本件明細書の発明の詳細な説明には、温度と湿度の双方に基づいて報知動作を開始する例しか記載されていない。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
同様に、本件特許の請求項2には「前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度以上であるとき、・・・メッセージを・・・報知する第1の機能」と記載されている。請求項2のこの記載も、第1の機能が、室温計測手段が検知した温度のみに基づいて報知を行うものを含む。したがって、本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
更に、本件特許の請求項1には「前記室温計測手段が検知した室温が・・・第1の所定温度以上であるとき、・・・メッセージを、・・・報知する第1の機能」と「前記室温計測手段が検知した室温が・・・第2の所定温度以上であるとき、前記空気調和機の運転を強制的に開始する第2の機能」とを備えることが記載されている。請求項1のこの記載は、第1の機能が行われた後に第2の機能が行われるものと、第2の機能が行われた後に第1の機能が行われるものを含む。
しかし、本件明細書の発明の詳細な説明には、第1の機能として報知が行われた後に、第2の機能として空気調和機の運転が開始される例しか記載されていない。これは、空気調和機の運転が開始された後に、空気調和機の運転を勧めるメッセージを報知しても意味をなさないことから明らかである。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

(2)判断
監視対象者が熱中症に罹る恐れがあるか否かを判断するにあたり、監視対象者の周囲の気温及び湿度の双方に基づかなくとも、少なくとも気温に基づいて判断できることは本件特許の原出願の出願前に普通に知られていることである(必要であれば、甲1?7に記載の各発明及び技術を参照。)。
また、本件特許の明細書おける「このように、実施の形態の空気調和機は、運転の停止時にも、光源の識別動作と明るさの段階の判定動作および人検知動作を行う制御を搭載し、前記特定された太陽光の差込位置以外に、人が在で、且つ、室内温度または/および室内湿度が所定の範囲から逸脱した場合、空気調和機の運転推奨を報知する。」(【0091】)との記載、「また、実施の形態の空気調和機は、室内温度または/および室内湿度が前記所定の範囲または前記変更した所定の範囲から更に高温側または/および高湿側に所定温度差以上または/および所定湿度差以上逸脱した場合、または、前記所定の範囲または前記変更した所定の範囲からの逸脱が所定時間以上継続した場合、該空気調和機の冷房運転または除湿運転を開始する。」(【0101】)との記載、「また、本実施例の空気調和機によれば、運転の停止時にも、光源の識別動作と明るさの段階の判定動作および人検知動作を行う制御を搭載し、前記特定された太陽光の差込位置以外に、人が在で、且つ、室内温度または/および室内湿度が所定の範囲から逸脱した場合、空気調和機の運転推奨を報知する。」(【0132】)との記載及び「また、本実施例の空気調和機によれば、室内温度または/および室内湿度が前記所定の範囲または前記変更した所定の範囲から更に高温側または/および高湿側に所定温度差以上または/および所定湿度差以上逸脱した場合、または、前記所定の範囲または前記変更した所定の範囲からの逸脱が所定時間以上継続した場合、該空気調和機の冷房運転または除湿運転を開始する。」(【0139】)との記載を参照すると、室内温度のみに基づいて、熱中症に罹る恐れがあるか否かを判断することが示されているといえる。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、温度に基づいて報知動作の開始や空気調和機の冷房運転の開始をすることが実質的に記載されているといえる。
次に、本件特許の請求項1の記載によれば、本件発明1の空気調和システムが第1の機能と第2の機能を備えたことを特定するのみで、二つの機能の実行する順番までを特定するものではない。
そして、本件特許の明細書には、上記の摘記した段落【0091】、【0101】、【0132】及び【0139】の記載を見ても分かるように、第1の機能と第2の機能が開示されている。
そうすると、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、第1の機能として報知が行われた後に、第2の機能として空気調和機の運転が開始される例しか記載されていないことをもって、本件発明1が、発明の詳細な説明に記載されたものではないとすることはできない。
したがって、本件発明1及び本件発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものいえるから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、申立理由3によって取り消すことはできない。

3.申立理由4(特許法第36条第6項第2号)について
(1)申立理由4の具体的理由
本件特許の請求項1に、「熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度」と記載されている。
しかし、本件明細書の段落0092には「一般に、高温、高湿のときに熱中症が起きやすい」と記載され、段落0093には「熱中症の起き易さの目安として、WBGT(湿球黒球温度)が提唱されていて、これを簡易的に気温と湿度で表すことも行われている。」と記載されている。また、本件明細書には、熱中症に罹るレベルの例として、段落0093に「気温30℃の場合、湿度45%を超えると熱中症に警戒が必要となり、湿度65%を超えると、厳重な警戒が必要となる。更に、湿度85%を超えると危険な状態になる」と記載され、段落0094に「湿度65%の場合、室温が27℃を超えると警戒が必要となり、室温が30℃を超えると、厳重な警戒が必要となる。更に、室温が33℃を超えると危険な状態になる」と記載され、更に、段落0096には、「25℃100%、35℃30%などの点も記憶しておき、室温湿度がこれらの点を結ぶ線より高温高湿側になる場合に報知動作が開始する」と記載されている。即ち、「熱中症に罹るレベルである温度」は湿度によって変わる値であり、具体的にどのレベルの温度を指すのかが明確でない。
更に、人が熱中症に罹る温度は、その人の年齢や、性別、体質、更にはその時の体調といった様々な要因によって変わる。例えば、体が暑さに慣れていない初夏には、低い温度でも熱中症になり易い。更には、日本生気象学会の熱中症予防研究委員会が発表した「日常生活における熱中症予防指針」では、一番低いレベルとして設定されたWBGT25℃未満であっても、条件によっては熱中症が発生する危険性があると明記されている(甲第9号証の図5参照)。すると、「熱中症に罹る「恐れのある」レベルの温度」は、どのような温度でも含み得ることになる。特に「レベル」が可能性を意味する「恐れのある」という表現で形容されていることにより更に不明さが増している。
このため、請求項1の前記記載は、どのようなレベルの温度を指すのか不明である。
同様に、本件特許の請求項2の「熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度」との記載についても、どのようなレベルの温度を指すのか不明である。

(2)判断
本件特許の明細書の記載(段落【0092】?【0097】)によれば、熱中症の起き易さの目安として、室内温度のみならず、室内の湿度も考慮する例が示されており、また、申立人が主張するように、人が熱中症に罹る温度は、その人の年齢や、性別、体質、更にはその時の体調といった様々な要因によって変わるとしても、本件特許の請求項1に記載された「熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度」や請求項2に記載された「熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度」は、これらを加味して、熱中症に罹ることを予防する意識で設定する所定の温度といった意味であって、個人の性状や室内環境等の様々な要因、予防する度合などに依るもので、具体的に特定できるものではないと解するのが自然であって、不明確というほどではない。
したがって、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、申立理由4によって取り消すことはできない。

4.申立理由5(特許法第36条第4項第1号)について
(1)申立理由5の具体的理由
本件特許の請求項1に「前記室温計測手段が検知した室温が熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度以上であるとき・・・メッセージを・・・報知する第1の機能」と記載されている。請求項1のこの記載は、第1の機能が、室温計測手段が検知した温度のみに基づいて報知を行うものを含む。しかし、本件明細書の発明の詳細な説明には、温度と湿度の双方に基づいて報知動作を開始する例しか記載されていない。
また、人が熱中症に罹る温度は、その人の年齢や、性別、体質、更にはその時の体調といった様々な要因によって変わるものであり、一義的に特定することはできない。更に、請求項1に記載された「熱中症に罹る「恐れのある」レベルの温度」は、どのような温度でも含み得る。
このため、当業者が発明の詳細な説明に基づいて請求項1に係る発明を実施しようとしても、どのように実施するのかを理解することができない。したがって、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
同様に、発明の詳細な説明は、請求項2に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(2)判断
上記3.(2)で述べたとおり、本件特許の請求項1に記載された「熱中症に罹る恐れのあるレベルである第1の所定温度」や請求項2に記載された「熱中症に罹る恐れのあるレベルの温度」は、熱中症に罹ることを予防する意識で設定する所定の温度といった意味であって、熱中症に罹る恐れがあるか否かを判断することができないとはいえない。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明1及び本件発明2について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものといえる。
したがって、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、申立理由5によって取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-03-11 
出願番号 特願2015-177193(P2015-177193)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (F24F)
P 1 651・ 536- Y (F24F)
P 1 651・ 537- Y (F24F)
P 1 651・ 121- Y (F24F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 正浩  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 莊司 英史
槙原 進
登録日 2018-06-15 
登録番号 特許第6353817号(P6353817)
権利者 日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
発明の名称 空気調和システムおよび空気調和機  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  

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