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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する F16C
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F16C
管理番号 1349878
審判番号 訂正2018-390141  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2018-09-19 
確定日 2019-03-07 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3975657号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3975657号の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判請求に係る特許第3975657号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成12年7月4日(優先権主張 平成11年7月9日)に出願され、その請求項1?5に係る発明について平成19年6月29日に特許権の設定登録がされたものである。
その後、平成30年9月19日に特許権者日本精工株式会社(以下、「請求人」という。)より、本件特許に対して訂正審判の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、本件訂正請求に対して、平成30年11月30日付けで訂正拒絶理由が通知され、平成30年12月17日に請求人より意見書及び手続補正書の提出がされたものである。

第2 訂正拒絶理由の概要
当審が平成30年11月30日付けで請求人に通知した訂正拒絶理由の概要は次のとおりである。

「本件訂正請求の訂正事項5の明細書段落【0024】についての訂正は、特許法第126条第1項ただし書各号に掲げるいずれをも目的としていないから、本件訂正請求は拒絶すべきものである。」

第3 手続補正の適否
1.補正の内容
請求人が平成30年12月17日に提出した手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)の内容は次のとおりである(下線は補正箇所である。なお、改行位置は当審で適宜設定した。)。
(1)補正事項1
審判請求書の「6.請求の理由」の「(2)訂正事項2」の「オ 訂正事項5」の
「明細書の段落【0019】の「請求項2に記載した様に、」との記載を「請求項3に記載した様に、」に訂正し、明細書の段落【0024】及び【0026】の「請求項2に対応するラジアル玉軸受」との記載を「請求項3に対応するラジアル玉軸受」に訂正する。」
との記載を
「明細書の段落【0019】の「請求項2に記載した様に、」との記載を「請求項3に記載した様に、」に訂正し、明細書の段落【0024】及び【0026】の「請求項2に対応するラジアル玉軸受」との記載を「請求項3に対応するラジアル玉軸受」に訂正し、明細書の段落【0024】の「ラジアル玉軸受を実現する為には、外部条件」との記載を「ラジアル玉軸受を実現する為には、第一の設計条件を満たすとともに、外部条件」に訂正する。」
に補正する。
(2)補正事項2
審判請求書の「6.請求の理由」の「(3)訂正の理由」の「(オ) 訂正事項5」の「a 訂正の目的について」の
「訂正事項5は、発明の詳細な説明の記載を訂正後特許請求の範囲の記載に整合させるために、「請求項2」との記載を、請求項2と同じ構成を備える「請求項3」に訂正するものであり、」
との記載を
「訂正事項5は、発明の詳細な説明の記載を訂正後特許請求の範囲の記載に整合させるために、明細書の段落【0024】及び【0026】の「請求項2」との記載を、請求項2と同じ構成を備える「請求項3」に訂正するとともに、同段落【0024】に「第一の設計条件を満たすとともに、」との文言を追加するものであり、」
に補正する。
2.本件補正についての当審の判断
本件補正前の訂正事項5の明細書の段落【0024】についての訂正は、訂正事項1による請求項2の削除に伴って、発明の詳細な説明の記載が特許請求の範囲の記載との関係で不明瞭な記載となってしまうのを整合させるために、明細書の段落【0024】の「請求項2」の記載を、「請求項3」とするものであった。
ところで、請求項3は、請求項2と同じ構成を備え、さらに第一の設計条件を満たすものであったので、本来は、訂正後の明細書の段落【0024】に、「第一の設計条件を満たすとともに、」との記載を追加することによって、訂正後の明細書の段落【0024】の「請求項3」が、請求項2と同じ構成を備え、さらに第一の設計条件を満たすものとすべきであった。
しかしながら、本件補正前の訂正事項5では、「第一の設計条件を満たすとともに、」との記載の追加がなされなかったために、本件補正前の訂正事項5による訂正によっても発明の詳細な説明の記載は不明瞭な記載となってしまっていた。
本件補正は、本件補正前の訂正事項5において、本来追加すべきであった「第一の設計条件を満たすとともに、」との記載を追加することによって、補正後の訂正事項5が不明瞭な記載の釈明を目的とするものであることを明らかにするものであり、審判請求書の要旨を変更するものではない。
したがって、本件補正は、特許法第131条の2第1項の規定に適合するから、本件補正を認める。
そして、このことにより当審による上記訂正拒絶理由は解消した。

第4 請求の趣旨及び訂正の内容
上記「第3」のとおり、審判請求書の補正が認められることから、本件訂正審判請求の趣旨は、特許第3975657号の明細書を、本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを認める、との審決を求めるというものであり、その訂正の内容は、次の訂正事項1?10のとおりである(下線は訂正箇所である。)。
1.訂正事項1
特許請求の範囲の【請求項2】を削除する。
2.訂正事項2
特許請求の範囲の【請求項4】の「請求項2?3のうち何れか1項に記載した転がり軸受」との記載を「請求項3に記載した転がり軸受」に訂正する。
3.訂正事項3
特許請求の範囲の【請求項5】の「請求項1?4のうち何れか1項に記載した転がり軸受」との記載を「請求項1、3、及び4のうち何れか1項に記載した転がり軸受」に訂正する。
4.訂正事項4
明細書の段落【0011】の「請求項2に記載した転がり軸受の場合には、上記第一の軌動輪と共に回転する回転軸と、転がり軸受と、この転がり軸受を支持したハウジングとで構成する回転支持部を、インパルス加振する事により発生させた加速度を高速フーリエ変換処理する事で求められる固有振動数の±250Hzの範囲内である、回転系の固有振動数領域で、それぞれ以下の(1)?(6)の関係式を満たす。
mZf_(i)≠nZf_(c) ---(1)
nZf_(c)≠2kf_(b) ---(2)
2kf_(b)≠mZf_(i) ---(3)
mZf_(i)±f_(r)≠nZf_(c) ---(4)
nZf_(c)≠2kf_(b)±f_(c) ---(5)
2kf_(b)±f_(c)≠mZf_(i)±f_(r) ---(6)」との記載を、「請求項3に記載した転がり軸受の場合には、上記(1)?(5)の関係式を満たし、さらに、上記第一の軌動輪と共に回転する回転軸と、転がり軸受と、この転がり軸受を支持したハウジングとで構成する回転支持部を、インパルス加振する事により発生させた加速度を高速フーリエ変換処理する事で求められる固有振動数の±250Hzの範囲内である、回転系の固有振動数領域で、それぞれ以下の(6)?(11)の関係式を満たす。
mZf_(i)≠nZf_(c) ---(6)
nZf_(c)≠2kf_(b) ---(7)
2kf_(b)≠mZf_(i) ---(8)
mZf_(i)±f_(r)≠nZf_(c) ---(9)
nZf_(c)≠2kf_(b)±f_(c) ---(10)
2kf_(b)±f_(c)≠mZf_(i)±f_(r) ---(11)」に訂正する。
5.訂正事項5
明細書の段落【0019】の「請求項2に記載した様に、」との記載を「請求項3に記載した様に、」に訂正し、明細書の段落【0024】及び【0026】の「請求項2に対応するラジアル玉軸受」との記載を「請求項3に対応するラジアル玉軸受」に訂正し、明細書の段落【0024】の「ラジアル玉軸受を実現する為には、外部条件」との記載を「ラジアル玉軸受を実現する為には、第一の設計条件を満たすとともに、外部条件」に訂正する。
6.訂正事項6
明細書の段落【0033】【表2】及び【0034】の「本発明品2」との記載を「参考品2」に訂正し、明細書の段落【0034】及び【0035】の「本発明品1、2」との記載を「本発明品1、参考品2」に訂正する。
7.訂正事項7
明細書の段落【0037】の「請求項1、2の何れの条件も満たす第一実施例」との記載を「請求項3の条件を満たす第一実施例」に訂正する。
8.訂正事項8
明細書の段落【0037】の「本発明に属し、請求項2の条件のみ満たす第二実施例」との記載を「請求項1の条件を満たさない第二参考例」に訂正し、同段落【0038】【表3】、【0039】、【0042】、【0043】及び【0046】【図面の簡単な説明】【図4】の「第二実施例」との記載を「第二参考例」に訂正する。
9.訂正事項9
明細書の段落【0042】から「と言う、請求項2の条件は満たす」との記載を削除する。
10.訂正事項10
明細書の段落【0045】の「請求項1の条件のみ満たし、請求項2の条件を満たさない状態は、」との記載を「請求項1の条件のみ満たし、請求項3の条件を満たさない状態は、」に訂正し、同【0045】の「第一実施例の様に請求項1、2の何れの条件も満たす、請求項3」との記載を「第一実施例の様に、請求項3」に訂正する。

第5 当審の判断
1.訂正事項1
(1)訂正の目的
訂正事項1は、特許請求の範囲の【請求項2】を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
(2)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、特許請求の範囲の【請求項2】を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でもない。
(3)独立特許要件
訂正事項1は、特許請求の範囲の【請求項2】を削除するものであるから、独立特許要件は問題とならない。
2.訂正事項2
(1)訂正の目的
訂正事項2は、多数項を引用している訂正前の特許請求の範囲の【請求項4】の引用請求項を削減するものである。また、訂正事項1による請求項2の削除に伴って、特許請求の範囲の【請求項4】の記載が不明瞭な記載となってしまうのを整合させるためのものでもある。
したがって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮及び不明瞭な記載の釈明を目的とするものであるといえる。
(2)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、請求項4が、訂正事項1により削除した請求項2を引用しないものとする訂正であり、何ら新規事項を追加するものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。また、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でもない。
(3)独立特許要件
本件の請求項4に係る発明の特許について、平成19年6月29日に特許権の設定登録がされた以降、その独立特許要件を否定する新たな事情は認められないから、訂正後の請求項4に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるといえる。
3.訂正事項3
(1)訂正の目的
訂正事項3は、多数項を引用している訂正前の特許請求の範囲の【請求項5】の引用請求項を削減するものである。また、訂正事項1による請求項2の削除に伴って、特許請求の範囲の【請求項5】の記載が不明瞭な記載となってしまうのを整合させるためのものでもある。
したがって、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮及び不明瞭な記載の釈明を目的とするものであるといえる。
(2)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、請求項5が、訂正事項1により削除した請求項2を引用しないものとする訂正であり、何ら新規事項を追加するものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。また、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でもない。
(3)独立特許要件
本件の請求項5に係る発明の特許について、平成19年6月29日に特許権の設定登録がされた以降、その独立特許要件を否定する新たな事情は認められないから、訂正後の請求項5に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるといえる。
4.訂正事項4
(1)訂正の目的
訂正事項4は、訂正事項1による請求項2の削除に伴って、発明の詳細な説明の記載が特許請求の範囲の記載との関係で不明瞭な記載となってしまうのを整合させるための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。
(2)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4は、訂正事項1による請求項2の削除に伴って、特許請求の範囲の記載との関係で不明瞭な記載となってしまう明細書の段落【0011】の記載内容を整合させるために、当該段落【0011】の「請求項2」の記載を「請求項3」とするとともに、当該段落【0011】の記載内容につき、訂正前の請求項2と同じ関係式を満たし、さらに請求項1の関係式を満たす請求項3に関する内容に訂正するものである。そして、特許請求の範囲の【請求項3】の記載内容から、請求項3が請求項1と請求項2に記載の関係式を満たすことは明らかである。
したがって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でもない。
5.訂正事項5
(1)訂正の目的
訂正事項5は、訂正事項1による請求項2の削除に伴って、発明の詳細な説明の記載が特許請求の範囲の記載との関係で不明瞭な記載となってしまうのを整合させるための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。
(2)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5は、訂正事項1による請求項2の削除に伴って、特許請求の範囲の記載との関係で不明瞭な記載となってしまう明細書の段落【0024】及び【0026】の記載内容を整合させるために、当該段落【0024】及び【0026】の「請求項2」の記載を、「請求項3」とするとともに、当該段落【0024】の記載内容につき、請求項3の記載内容と整合させるために、「第一の設計条件を満たすとともに、」との記載を追加するものである。
そして、訂正前の明細書の段落【0026】には、請求項2と請求項3に係る発明の両方に共通する関係式について記載されているから、訂正前の明細書の段落【0026】の「請求項2」を「請求項3」と訂正しても、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において何ら新たな技術的事項を導入するものではないといえる。
また、訂正前の明細書の段落【0024】の「請求項2」を「請求項3」に訂正するとともに、当該段落【0024】に「第一の設計条件を満たすとともに、」との記載を追加する訂正は、このことにより、当該段落【0024】の記載内容を請求項3に関する内容に訂正するものであり、訂正前の特許請求の範囲の【請求項2】、【請求項3】の記載内容及び訂正前の明細書の段落【0045】の「最も好ましいのは、前記第一実施例の様に、請求項1、2の何れの条件も満たす、請求項3に記載した構造である。」との記載内容から、請求項3に係る発明は請求項2に係る発明の構成を備えていることが明らかであること、及び、訂正前の明細書の段落【0024】には、訂正前の請求項2に係る発明で規定されている第二の設計条件が記載されていたことを踏まえれば、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、何ら新たな技術的事項を導入するものではないといえる。
さらに、当該訂正事項5により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、という事情は認められない。
したがって、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でもない。
6.訂正事項6
(1)訂正の目的
訂正事項6は、訂正事項1による請求項2の削除に伴って、発明の詳細な説明の記載が特許請求の範囲の記載との関係で不明瞭な記載となってしまうのを整合させるための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。
(2)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項6は、訂正により特許請求の範囲に含まれなくなる態様を「参考品2」として技術的に含まれないことを明記することによって、発明の詳細な説明の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させるものにすぎないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でもない。
7.訂正事項7
(1)訂正の目的
訂正事項7は、訂正事項1による請求項2の削除に伴って、発明の詳細な説明の記載が特許請求の範囲の記載との関係で不明瞭な記載となってしまうのを整合させるための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。
(2)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正前の特許請求の範囲の【請求項2】、【請求項3】の記載内容及び訂正前の明細書の段落【0045】の「最も好ましいのは、前記第一実施例の様に、請求項1、2の何れの条件も満たす、請求項3に記載した構造である。」との記載内容から、訂正前の明細書の段落【0037】の「請求項1、2の何れの条件も満たす第一実施例」が、請求項3の条件を満たすことは明らかである。
したがって、訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でもない。
8.訂正事項8
(1)訂正の目的
訂正事項8は、訂正事項1による請求項2の削除に伴って、発明の詳細な説明の記載が特許請求の範囲の記載との関係で不明瞭な記載となってしまうのを整合させるための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。
(2)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正前の明細書の段落【0037】の記載内容から、当該段落【0037】の「第二実施例」は、請求項2の条件のみを満たすものであるとえいる。また、訂正前の明細書の段落【0042】の記載内容からすれば、訂正前の明細書に記載された「第二実施例」は、請求項1の条件を満たさないものであるといえる。そして、訂正事項8により、訂正前の「第二実施例」は「第二参考例」と訂正される。
したがって、訂正後の明細書に記載された「第二参考例」は、請求項1の条件を満たさないものであるといえる。
訂正事項8は、訂正前の明細書に記載された「第二実施例」について、訂正事項1によって請求項2が削除されたことに伴い、特許請求の範囲に含まれなくなる態様を「第二参考例」として技術的に含まれないことを明記する(段落【0037】においては、「第二参考例」が請求項1の条件を満たさないものであることをも明記する)ことによって、発明の詳細な説明の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載と整合させるものにすぎないから、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、何ら新たな技術的事項を導入するものではないといえる。
さらに、当該訂正事項8により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、という事情は認められない。
したがって、訂正事項8は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でもない。
9.訂正事項9
(1)訂正の目的
訂正事項9は、訂正事項1による請求項2の削除に伴って、発明の詳細な説明の記載が特許請求の範囲の記載との関係で不明瞭な記載となってしまうのを整合させるための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。
(2)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項9は、発明の詳細な説明の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させるために、訂正前の明細書の段落【0042】から、「と言う、請求項2の条件は満たす」との記載を削除するものであり、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、何ら新たな技術的事項を導入するものではないといえる。
また、当該訂正事項9により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、という事情は認められない。
したがって、訂正事項9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でもない。
10.訂正事項10
(1)訂正の目的
訂正事項10は、訂正事項1による請求項2の削除に伴って、発明の詳細な説明の記載が特許請求の範囲の記載との関係で不明瞭な記載となってしまうのを整合させるための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。
(2)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正前の特許請求の範囲の【請求項1】、【請求項2】及び【請求項3】の記載内容から、請求項3は請求項1と請求項2の条件を全て充足する関係にあるといえる。
したがって、請求項2の条件を満たさない場合には、請求項3の条件も満たさず、また、請求項1及び2の条件を満たす場合には、請求項3の条件を満たすこととなる。
よって、訂正事項10による、訂正前の明細書の段落【0045】の「請求項1の条件のみ満たし、請求項2の条件を満たさない場合は、」との記載を「請求項1の条件のみ満たし、請求項3の条件を満たさない状態は、」とする訂正、及び、同じく訂正前の明細書の段落【0045】の「第一実施例の様に、請求項1、2の何れの条件も満たす、請求項3」との記載を「第一実施例の様に、請求項3」とする訂正は、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、何ら新たな技術的事項を導入するものではないといえる。
また、当該訂正事項10により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、という事情は認められない。
したがって、訂正事項10は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でもない。

なお、本件訂正審判の請求の趣旨は、上記「第4」のとおりであり、特許権全体に対して訂正審判を請求する場合に該当するといえる。

第6 むすび
以上のとおり、本件訂正請求に係る訂正事項1?10は、特許法第126条第1項ただし書第1号又は第3号を目的とするものであり、かつ、同条第5項?第7項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
転がり軸受
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の軌道を有し、使用時に回転する第一の軌動輪と、第二の軌道を有し、使用時にも回転しない第二の軌動輪と、これら第一の軌道と第二の軌道との間に転動自在に設けられたZ個の転動体と、これら各転動体を転動自在に保持する為の保持器とを備え、上記第一の軌動と上記第二の軌動との間の内部空間に充填されたグリースにより、グリース潤滑を行なう転がり軸受に於いて、
上記第一の軌動輪の回転速度をf_(r)とし、
上記各転動体の自転速度をf_(b)とし、
上記保持器の回転速度をf_(c)とし、
f_(i)=f_(r)-f_(c)とし、
上記各転動体のピッチ円直径をd_(m)とし、
これら各転動体の直径をD_(a)とし、
これら各転動体と上記第一の軌道及び上記第二の軌道との接触角をαとし、
n、m、k、jを100以下の正の整数とした場合に、
上記第一の軌動の表面に存在する円周方向に亙る(mZ)山及び(mZ±1)山のうねりに基づいて発生する振動の周波数のうち、アキシアル方向に関する振動の周波数がmZf_(i)、ラジアル方向に関する振動の周波数がmZf_(i)±f_(r)であり、
上記第二の軌動の表面に存在する円周方向に亙る(nZ)山及び(nZ±1)山のうねりに基づいて発生する振動の周波数のうち、アキシアル方向及びラジアル方向に関する振動の周波数が共にnZf_(c)であり、
上記各転動体の転動面に存在する(2k)山のうねりに基づいて発生する振動の周波数のうち、アキシアル方向に関する振動の周波数が2kf_(b)、ラジアル方向に関する振動の周波数が2kf_(b)±f_(c)であり、
mZf_(i)、nZf_(c)、2kf_(b)が、それぞれ以下の(a)?(c)式で表される場合に、
mZf_(i)=(1/2)mf_(r){1+(D_(a)/d_(m))cosα}Z ---(a)
nZf_(c)=(1/2)nf_(r){1-(D_(a)/d_(m))cosα}Z ---(b)
2kf_(b)=kf_(r){1-(D_(a)/d_(m))^(2)cos^(2)α}d_(m)/D_(a)---(c)
上記第一の軌動輪の回転速度f_(r)に比例した周波数jf_(r)との関係で、それぞれ以下の(1)?(5)の関係式を満たす事を特徴とする転がり軸受。
mZf_(i)≠jf_(r) ---(1)
mZf_(i)±f_(r)≠jf_(r) ---(2)
nZf_(c)≠jf_(r) ---(3)
2kf_(b)≠jf_(r) ---(4)
2kf_(b)±f_(c)≠jf_(r) ---(5)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
第一の軌道を有し、使用時に回転する第一の軌動輪と、第二の軌道を有し、使用時にも回転しない第二の軌動輪と、これら第一の軌道と第二の軌道との間に転動自在に設けられたZ個の転動体と、これら各転動体を転動自在に保持する為の保持器とを備え、上記第一の軌動と上記第二の軌動との間の内部空間に充填されたグリースにより、グリース潤滑を行なう転がり軸受に於いて、
上記第一の軌動輪の回転速度をf_(r)とし、
上記各転動体の自転速度をf_(b)とし、
上記保持器の回転速度をf_(c)とし、
f_(i)=f_(r)-f_(c)とし、
上記各転動体のピッチ円直径をd_(m)とし、
これら各転動体の直径をD_(a)とし、
これら各転動体と上記第一の軌道及び上記第二の軌道との接触角をαとし、
n、m、k、jを100以下の正の整数とした場合に、
上記第一の軌動の表面に存在する円周方向に亙る(mZ)山及び(mZ±1)山のうねりに基づいて発生する振動の周波数のうち、アキシアル方向に関する振動の周波数がmZf_(i)、ラジアル方向に関する振動の周波数がmZf_(i)±f_(r)であり、
上記第二の軌動の表面に存在する円周方向に亙る(nZ)山及び(nZ±1)山のうねりに基づいて発生する振動の周波数のうち、アキシアル方向及びラジアル方向に関する振動の周波数が共にnZf_(c)であり、
上記各転動体の転動面に存在する(2k)山のうねりに基づいて発生する振動の周波数のうち、アキシアル方向に関する振動の周波数が2kf_(b)、ラジアル方向に関する振動の周波数が2kf_(b)±f_(c)であり、
mZf_(i)、nZf_(c)、2kf_(b)が、それぞれ以下の(a)?(c)式で表される場合に、
mZf_(i)=(1/2)mf_(r){1+(D_(a)/d_(m))cosα}Z ---(a)
nZf_(c)=(1/2)nf_(r){1-(D_(a)/d_(m))cosα}Z ---(b)
2kf_(b)=kf_(r){1-(D_(a)/d_(m))^(2)cos^(2)α}d_(m)/D_(a)---(c)
上記第一の軌動輪の回転速度f_(r)に比例した周波数jf_(r)との関係で、それぞれ以下の(1)?(5)の関係式を満たし、且つ、上記第一の軌動輪と共に回転する回転軸と、転がり軸受と、この転がり軸受を支持したハウジングとで構成する回転支持部を、インパルス加振する事により発生させた加速度を高速フーリエ変換処理する事で求められる固有振動数の±250Hzの範囲内である、回転系の固有振動数領域で、それぞれ以下の(6)?(11)の関係式を満たす事を特徴とする転がり軸受。
mZf_(i)≠jf_(r) ---(1)
mZf_(i)±f_(r)≠jf_(r) ---(2)
nZf_(c)≠jf_(r) ---(3)
2kf_(b)≠jf_(r) ---(4)
2kf_(b)±f_(c)≠jf_(r) ---(5)
mZf_(i)≠nZf_(c) ---(6)
nZf_(c)≠2kf_(b) ---(7)
2kf_(b)≠mZf_(i) ---(8)
mZf_(i)±f_(r)≠nZf_(c) ---(9)
nZf_(c)≠2kf_(b)±f_(c) ---(10)
2kf_(b)±f_(c)≠mZf_(i)±f_(r)---(11)
【請求項4】
第一の軌動の底部の直径をD_(i)とし、第二の軌道の底部の直径をD_(e)とし、α≒0と仮定した場合に、
nf_(c)/mf_(i)=(D_(i)/D_(e))・(n/m)
成る関係式で求められる値が、0.98?1.02の範囲から外れている事を特徴とする、請求項3に記載した転がり軸受。
【請求項5】
転がり軸受が、自動車のプロペラシャフト用の玉軸受である、請求項1、3、及び4のうちの何れか1項に記載した転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明に係る転がり軸受は、例えば自動車のプロペラシャフトや電動機の回転軸等、屋外に設置されて、低温で運転される可能性がある回転支持部に組み込んで、低温時にも有害な振動や騒音が発生するのを防止するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば自動車のプロペラシャフトの中間部を自動車の床下に緩衝的に支持する為に、図1に示す様な回転支持装置1が使用されている。この回転支持装置1は、支持ブラケット2の内径側に転がり軸受3を、緩衝材4及びハウジング5を介して支持している。このうちの緩衝材4は、ゴム等の内部損失の大きな材料により、ラジアル方向(図1の上下方向)並びにアキシアル方向(図1の左右方向)の変位自在に構成している。又、上記ハウジング5は、それぞれを円筒状に構成した素子6a、6b同士を嵌合組み合わせて、上記転がり軸受3の外輪7を内嵌支持している。
【0003】
深溝型の玉軸受である、上記転がり軸受3は、外周面に内輪軌道8を有する内輪9と、内周面に外輪軌道10を有する外輪7と、これら内輪軌道8と外輪軌道10との間に転動自在に配置した複数個の転動体(玉)11、11とを備える。これら各転動体11、11は、図示しない保持器により、転動自在に保持している。又、上記内輪9の外周面と上記外輪7の内周面との間に存在し、上記各転動体11、11を配置した空間12内にはグリースを充填しており、この空間12の両端開口部は、それぞれ円輪状のシールリング13、13により密封している。この様な転がり軸受3は、上記外輪7を上記ハウジング5及び緩衝材4を介して自動車の床下に支持すると共に、上記内輪9を上記プロペラシャフト14の中間部に外嵌固定する事で、上記回転支持装置1を構成する。
【0004】
上述の様なプロペラシャフト用の回転支持装置1、或は屋外に設置する電動機に組み込む回転支持装置等は、冬期には低温の環境下で使用される。この様な低温環境下で、しかもグリース潤滑で使用される回転支持装置1の場合、始動直後で転がり軸受3部分の温度が未だ低い場合に、しばしば異常振動が発生し、著しい場合にはこの異常振動に基づいて耳障りな騒音が発生する事が知られている。特に、-10℃以下の環境下では顕著に発生する事も知られている。
【0005】
この様な騒音が発生するメカニズムは、1997年12月に発行された、日本機械学会論文集63巻616号(C編)の第250?256頁に記載された論文「玉軸受の異常振動に関する研究」で明らかにされている。この論文によると、上記メカニズムは要するに、転動体の自励振動が上記異常振動の原因となると言うものである。
【0006】
例えば、図1に示した様な、プロペラシャフト14の中間部を支持する為の回転支持装置1を考えた場合、運転条件の変更、外部からの擾乱、上記プロペラシャフト14の端部に設けたジョイント部分の摩擦等により、上記転がり軸受3にアキシアル方向の力が加わると、前記各転動体11、11の転動面と前記内輪軌道8及び外輪軌道10との各当接部に、アキシアル方向の滑りが生じる。そして、これら各当接部に介在するグリースの油膜中に剪断速度が発生する。そして、この剪断速度が或る一定の値を越えると、剪断応力が減少し、上記グリースが負性抵抗として作用する。即ち、このグリースの油膜の圧力pと、この油膜の剪断応力τとの間には、潤滑油膜中の釣り合い方程式で表される、dp/dx=dτ/dyなる関係が存在する。この関係から明らかな様に、上記油膜の剪断応力τが小さくなると、この油膜の圧力pが小さくなり、この油膜にそれぞれの転動面を当接させた、上記各転動体11、11の自励振動が発生する。この様な自励振動の周波数は、回転速度の整数倍になる事が、1998年10月に発行された、日本機械学会講演論文集No.985-2の第269頁に記載された論文「玉軸受の非線形振動に関するシミュレーション」で明らかにされている。
【0007】
上述の様なメカニズムで、上記各転動体11、11に自励振動が発生すると、これら各転動体11、11の自転運動並びに公転運動に基づく走行軌跡に応じて、前記内輪軌道8、外輪軌道10並びに上記各転動体11、11の転動面部分に存在するグリースの膜厚が、円周方向に亙って不同になる。言い換えれば、このグリースによって、上記内輪軌道8及び外輪軌道10の表面部分並びに上記各転動体11、11の転動面部分にうねり(グリースの土手)が形成される。この様にして形成されるグリースの土手は、元々上記内輪軌道8、外輪軌道10、或は上記各転動体11、11の転動面に存在するうねりと同様に、ラジアル方向及びアキシアル方向の振動の原因となる。
【0008】
そして、転動体の自励振動の周波数が、上記グリースの土手に起因する振動の周波数に一致すると、振動が助長される。更に、これら自励振動の周波数及び土手に起因する振動の周波数と、上記内輪軌道8、外輪軌道10、或は上記各転動体11、11の転動面に元々(グリースの土手ではなく初めから)存在するうねりに起因する振動の周波数とが一致すると、更に振動が助長されて、大きな振動に成長する。この様にして成長した振動が、前記転がり軸受3の周囲に存在する部材と共振すると、耳障りな騒音を発生する原因となる。
【0009】
上述した様な、異常振動並びに騒音は、そもそも転動体の自励振動に基づいて発生し、この自励振動がグリースの土手により成長するのである。従って、自励振動が異常振動に成長しない様にすべく、上記グリースの土手をなくすか、その強度を低下する為、粘性の低いグリースを使用する場合もある。但し、この様な対策でも、-10℃以下と言った、極低温下では十分な効果を得る事は難しい。又、この様な極低温下でも異常振動を発生しない程粘性が低いグリースを使用すると、前記各シールリング13、13を通じてこのグリースが漏洩し易くなる。又、粘性の低いグリースは、転がり接触部の油膜保持力が弱く、潤滑性の面から必ずしも満足できない場合が多い。この為、粘性が低いグリースを使用した場合には、長期間に亙って上記転がり軸受3の潤滑状態を良好に保持する事が難しくなる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、特別なグリースを使用しなくても、転動体の自励振動が異常振動に成長しにくく、十分な耐久性を有し、しかも低温下で使用した場合でも異常振動や騒音が発生しない転がり軸受を実現するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の転がり軸受は何れも、前述した従来の転がり軸受と同様に、第一の軌道を有し、使用時に回転する第一の軌道輪と、第二の軌道を有し、使用時にも回転しない第二の軌道輪と、これら第一の軌道と第二の軌道との間に転動自在に設けられたZ個の転動体と、これら各転動体を転動自在に保持する為の保持器とを備える。そして、上記第一の軌動と上記第二の軌動との間の内部空間に充填されたグリースにより、グリース潤滑を行なう。
特に、本発明の転がり軸受に於いては、
上記第一の軌動輪の回転速度をf_(r)とし、
上記各転動体の自転速度をf_(b)とし、
上記保持器の回転速度をf_(c)とし、
f_(i)=f_(r)-f_(c)とし、
上記各転動体のピッチ円直径をd_(m)とし、
これら各転動体の直径をD_(a)とし、
これら各転動体と上記第一の軌道及び上記第二の軌道との接触角をαとし、
n、m、k、jを100以下の正の整数とした場合に、
上記第一の軌動の表面に存在する円周方向に亙る(mZ)山及び(mZ±1)山のうねりに基づいて発生する振動の周波数のうち、アキシアル方向に関する振動の周波数がmZf_(i)、ラジアル方向に関する振動の周波数がmZf_(i)±f_(r)であり、
上記第二の軌動の表面に存在する円周方向に亙る(nZ)山及び(nZ±1)山のうねりに基づいて発生する振動の周波数のうち、アキシアル方向及びラジアル方向に関する振動の周波数が共にnZf_(c)であり、
上記各転動体の転動面に存在する(2k)山のうねりに基づいて発生する振動の周波数のうち、アキシアル方向に関する振動の周波数が2kf_(b)、ラジアル方向に関する振動の周波数が2kf_(b)±f_(c)であり、
mZf_(i)、nZf_(c)、2kf_(b)が、それぞれ以下の(a)?(c)式で表される。
mZf_(i)=(1/2)mf_(r){1+(D_(a)/d_(m))cosα}Z ---(a)
nZf_(c)=(1/2)nf_(r){1-(D_(a)/d_(m))cosα}Z ---(b)
2kf_(b)=kf_(r){1-(D_(a)/d_(m))^(2)cos^(2)α}d_(m)/D_(a)---(c)
そして、上記各うねりに基づいて発生する振動の周波数を、他の部分の周波数との関係で規制している。
特に、請求項1に記載した転がり軸受の場合には、上記第一の軌動輪の回転速度f_(r)に比例した周波数jf_(r)との関係で、それぞれ以下の(1)?(5)の関係式を満たす。
mZf_(i)≠jf_(r) ---(1)
mZf_(i)±f_(r)≠jf_(r) ---(2)
nZf_(c)≠jf_(r) ---(3)
2kf_(b)≠jf_(r) ---(4)
2kf_(b)±f_(c)≠jf_(r) ---(5)
又、請求項3に記載した転がり軸受の場合には、上記(1)?(5)の関係式を満たし、さらに、上記第一の軌動輪と共に回転する回転軸と、転がり軸受と、この転がり軸受を支持したハウジングとで構成する回転支持部を、インパルス加振する事により発生させた加速度を高速フーリエ変換処理する事で求められる固有振動数の±250Hzの範囲内である、回転系の固有振動数領域で、それぞれ以下の(6)?(11)の関係式を満たす。
mZf_(i)≠nZf_(c) ---(6)
nZf_(c)≠2kf_(b) ---(7)
2kf_(b)≠mZf_(i) ---(8)
mZf_(i)±f_(r)≠nZf_(c) ---(9)
nZf_(c)≠2kf_(b)±f_(c) ---(10)
2kf_(b)±f_(c)≠mZf_(i)±f_(r)---(11)
【0012】
【作用】
上述の様に構成する本発明の転がり軸受の場合には、転動体の自励振動に基づいてグリースの土手が形成され、このグリースの土手により振動が発生した場合でも、この振動が成長しにくい。この結果、有害な異常振動や耳障りな騒音が発生しにくくなる。この理由に就いて、以下に説明する。
【0013】
先ず、他の部分の周波数との関係で規制する振動の周波数を、軌道面に存在する(nZ)山及び(nZ±1)山のうねり、並びに各転動体の転動面に存在する(2n)山のうねりに基づくものに限定した理由に就いて説明する(以下の説明では、m、n、kの区別をなくして、総てをnとする)。尚、軌道面及び転動面に存在するうねりの数は、同じ面を見た場合でも多種類存在する事は、例えば特開平8-247153号公報等にも記載されている様に、広く知られている。
【0014】
又、転動体の数をZ個とし、nを正の整数とした場合に、第一、第二の軌道の表面に存在するうねりに関しては、円周方向に亙る(nZ)山及び(nZ±1)山のうねりが、他の山数のうねりに比べて大きな振動の原因となる事は、上記特開平8-247153号公報にも記載されている様に、従来から知られている。更に、各転動体の転動面に存在するうねりに就いては、(2n)山のうねりが、大きな振動の原因となる。この理由は、(2n)山のうねりは、うねりの山同士、谷同士が、転動面の直径方向反対位置に存在する様になる為、上記転動体の自転に基づく上記転動面の直径の変化量、言い換えればこの転動面を挾持した上記第一、第二の軌道同士の間隔の変化量が大きくなる為である。そこで、上記規制する振動の周波数に関するうねりを、軌道面に関しては(nZ)山、(nZ±1)山のものに、転動面に関しては(2n)山のものに、それぞれ限定した。
【0015】
以上の様な前提で、本発明の転がり軸受が有害な異常振動や耳障りな騒音が発生しにくくなる理由に就いて説明する。先ず、請求項1に記載した発明の場合には、上述の様に大きな振動に結び付き易い山数のうねりに基づく振動の周波数を、転がり軸受により支持する回転部材の回転周波数自身とも、この回転周波数の整数倍である周波数成分とも一致{ほぼ一致する(共振する程度である、例えば誤差1?2%以内に近接する)場合も含む}させていない。この為、転動体の自励振動に基づいてグリースの土手が形成され、この土手に基づく振動が発生しても、この土手に基づく振動が、上記第一、第二の軌道の表面及び転動面に存在するうねりに基づく振動により助長されず、振動が成長する事はない。
【0016】
即ち、転がり軸受を、例えば第一の軌道輪である内輪がf_(r)(Hz)で回転する状態で使用すると、fω=n・f_(r)なる周波数で転動体に自励振動が発生し、この自励振動に基づき、このfω=n・f_(r)なる周波数に対応した形状を有するグリースの土手が、第一の軌道である内輪軌道、第二の軌道である外輪軌道、並びに各転動体の転動面部分に形成される。これに対して、次の表1に示す、上記第一、第二の軌道の表面及び転動面に存在するうねりに基づく振動の周波数が、上記fω=n・f_(r)なる周波数と(上述の様に、例えば1?2%を越える程)ずれていれば、上記うねりと上記土手の形状とがずれている事になり、この土手に基づく振動の成長を防止できる。尚、2つの振動が互いに共振しない為の、周波数のずれの程度は、軸受サイズ等、各種条件により多少異なるが、少なくとも1%以上のずれは必要である。又、この周波数のずれが2%以上になれば、殆どの場合、共振する事はない。
【0017】
【表1】

但し、n:正の整数、Z:転動体の数、f_(r):内輪の回転速度(Hz)、f_(c):保持器の回転速度{=転動体の公転速度(Hz)}、f_(i)=f_(r)-f_(c)(Hz)、f_(b):転動体の自転速度(Hz)
【0018】
上記表1に記載した式により求められるうねりに基づく振動の周波数が、上記fω=n・f_(r)なる周波数とずれていれば、このfωなる周波数に対応して形成されるグリースの土手は、各転動体の自転運動並びに公転運動に伴って、上記各転動面と第一、第二の各軌道の表面との間で押し潰されて崩壊する。即ち、上記両周波数が互いに一致すると、一度形成されたグリースの土手が、上記うねりに基づく振動により更に成長し、振動自体も成長して、前記異常振動、更には騒音の原因となる。これに対して、上記両周波数が不一致である場合には、上記うねりに基づく振動を行なう各転動体の軌跡が、上記グリースの土手の形状と不一致となって、これら各転動体がこの土手を押し潰し、前記転動体の自励振動に基づいて発生した振動が成長するのを防止する。むしろ、このグリースの土手が崩壊する事で、上記うねりに基づく振動のエネルギを吸収し、このうねりに基づく振動も緩和する。
【0019】
又、請求項3に記載した様に、第一、第二の各軌道の表面及び各転動体の転動面に存在するうねりに基づいて発生する複数種類の振動周波数を、転がり軸受により支持した回転部材の固有振動数領域で、互いに不一致とした場合でも、振動の成長を抑えて、上記異常振動、更には騒音の発生を防止できる。即ち、上記各面のうねりに基づいて発生する、異なる周波数の振動が互いの成長を助ける事がなく、少なくとも何れかの周波数の振動が上記グリースの土手を崩壊させて、上記異常振動並びに騒音の発生を防止する。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明の要件を満たす転がり軸受の設計を行なう手順に就いて、転動体が玉であり、使用状態で第一の軌道輪である内輪を回転させ、第二の軌道輪である外輪を静止させるラジアル玉軸受を、前述の図1に示す様に、プロペラシャフト14の回転支持に使用する場合を例にして説明する。
【0021】
前述の表1に記載した、内輪及び外輪に関してnZであり、転動体に関しては2nである、軸受部品のうねりの山に起因した、外輪のアキシアル振動周波数nZf_(c)(Hz)、内輪のアキシアル振動周波数mZf_(i)(Hz)、玉のアキシアル振動周波数2kf_(b)(Hz)は、それぞれ次の(1)?(3)式で表される。
nZf_(c)=(1/2)nf_(r){1-(D_(a)/d_(m))cosα}Z ---(1)
mZf_(i)=(1/2)mf_(r){1+(D_(a)/d_(m))cosα}Z ---(2)
2kf_(b)=kf_(r){1-(D_(a)/d_(m))^(2)cos^(2)α}d_(m)/D_(a)---(3)
【0022】
尚、これら(1)?(3)式中、n、m、kは任意の正の整数である。前述の表1では、総てnで表しているが、上記ラジアル玉軸受に発生するアキシアル振動の発生源を区別する為、3種類の正の整数として分けて考える。又、d_(m)(mm)は上記ラジアル玉軸受を構成する複数個の玉のピッチ円直径を、D_(a)はこれら各玉の直径を、αはこれら各玉と上記各軌道との接触角を、それぞれ表している。その他の符号の意味は、前述の表1部分に記載した通りである。
【0023】
請求項1に対応するラジアル玉軸受を実現する為には、上記(1)?(3)式に示す様な、ラジアル玉軸受の構成各部品で発生するアキシアル振動の周波数が、回転部材である内輪の回転速度f_(r)に比例した周波数jf_(r)(jは任意の正の整数)と一致しない様に、即ち、nZf_(c)≠jf_(r)、mZf_(i)≠jf_(r)、2kf_(b)≠jf_(r)となる様にする(第一の設計条件)。請求項1に対応する、この第一の設計条件は、共振によりグリースの土手が形成されても、騒音、振動が助長されない条件である。
【0024】
又、請求項3に対応するラジアル玉軸受を実現する為には、第一の設計条件を満たすとともに、外部条件(ラジアル玉軸受の構成部品以外の条件)で与えられる回転系の固有振動数領域で、前記(1)?(3)式で表される、ラジアル玉軸受の構成各部材の振動周波数が互いに一致しない、即ち、アキシアル振動の周波数に関して、nZf_(c)≠mZf_(i)、nZf_(c)≠2kf_(b)、mZf_(i)≠2kf_(b)となる様にする(第二の設計条件)。
【0025】
これら第一、第二の設計条件を実現する為の設計手順に就いて、以下に説明する。尚、各玉の転動面に存在する(2n)山のうねりに基づいて発生する振動の周波数を他の周波数と一致させない様にする為の設計は容易であるから、以下の説明は、各軌道面(外輪軌道及び内輪軌道)に存在するnZ成分のうねりに基づくアキシアル振動周波数を、他の周波数と一致させない様にする為の設計手順に就いて説明する。又、軌道面に存在するnZ±1成分のうねりに基づくラジアル振動周波数は、この軌道面に存在するnZ成分のうねりに基づくアキシアル振動周波数と同様に求められるので、説明は省略する。
【0026】
請求項3に対応するラジアル玉軸受を実現する為に、nZf_(c)≠mZf_(i)なる条件を満たすには、これら両周波数nZf_(c)、mZf_(i)同士が±2%以上異なっていれば良いと仮定する。この為には、次の(4)(5)式を満たす必要がある。
nf_(c)/mf_(i)≧1.02 --- (4)
nf_(c)/mf_(i)≦0.98 --- (5)
【0027】
これら(4)(5)式に前記(1)、(2)式を代入して整理すると、次の(6)式の様になる。尚、上記ラジアル玉軸受にはラジアル方向の予圧が加わっており、α≒0と仮定する。

【0028】
この(6)式中、D_(i)は内輪溝径(内輪軌道底部の直径)を、D_(e)は外輪溝径(外輪軌道底部の直径)を、それぞれ表している。又、m、nは、前述した通り、任意の正の整数である。
上記(6)式で求められる値が、0.98?1.02の範囲から外れていれば(nf_(c)とmf_(i)との差が±2%以上あれば)、上記内輪軌道及び外輪軌道にグリースによって形成された土手が維持されない、言い換えれば仮にグリースの土手が形成されても玉の転動面によって押し潰されてこの土手が成長しない条件となる。
【0029】
この様な条件を求める作業は、プロペラシャフト14の中間部等に用いられて振動、騒音問題を起こした転がり軸受3(ラジアル玉軸受)を基準として、上記両周波数nZf_(c)、mZf_(i)をずらせる事により行なうが、具体的には、次の(a)?(i)の様な手順で行なう。尚、この手順に示した計算は、所定のプログラムをインストールしたコンピュータにより、自動的に行なわせる。
【0030】
(a)上記振動、騒音問題を起こした(nf_(c)/mf_(i)≒1である)転がり軸受3の転動体の数Zと、内輪溝径D_(i)と外輪溝径D_(e)とを初期値とする。
(b)これら内輪溝径D_(i)と外輪溝径D_(e)とを、±1?2%程度変化させる。尚、この際に好ましくは、±1%、±2%---と、上記各溝径D_(i)、D_(e)を順次変化させて、以下の計算を行なう。
又、内輪の使用回転数の代表的な値{例えば1920min^(-1)(r.p.m.)}から、内輪の回転速度f_(r) を求める(例えば32Hz)。又、上記各溝径D_(i)、D_(e)から転動体のピッチ円直径d_(m)を求める{d_(m)=(D_(i)+D_(e))/2=D_(i)+D_(a)=D_(e)-D_(a)}。
(c)n、mを、1を初期値とし+1ずつ増やし、前記(1)、(2)式から、外輪軌道及び内輪軌道に存在するうねりの山に起因した、外輪のアキシアル振動周波数nZf_(c)(Hz)及び内輪のアキシアル振動周波数mZf_(i)(Hz)を求める。
(d)jを、1を初期値とし、この初期値から+1ずつ増やして、内輪の回転速度f_(r)に 比例した周波数jf_(r)を求める。
(e)前記第一の設計条件として、|nZf_(c)-jf_(r)|/nZf_(c)、|mZf_(i)-jf_(r)|/mZf_(i) の値が1?2%以上であるか否かの判定をする。
(f)これら各値が1?2%以上でない場合(上記ステップ(e)の判定がnoの場合)は、上記ステップ(b)に示す様に内輪溝径D_(i)と外輪溝径D_(e)とを変化させて、上記ステップ(e)までの作業を、上記各値が1?2%以上になる(上記ステップ(e)の判定がyesになる)まで繰り返し行なう。そして、これら各値が1?2%以上になった場合には、次のステップ(g)に進む。
(g)ステップ(c)で求めた外輪及び内輪のアキシアル振動周波数nZf_(c)、mZf_(i)を用いて、前述の(6)式の計算を行なう。この計算は、実際上考えられる総てのn、mの値に就いて行なう。
(h)上記ステップ(g)の計算の結果に基づいて、前記第二の設計条件である、(nZf_(c)/mZf_(i))≧1.02及び(nZf_(c)/mZf_(i))≦0.98を満たしているか否かを判定する。これら両条件を満たしていない場合には、前記ステップ(b)に示す様に内輪溝径D_(i)と外輪溝径D_(e)とを変化させて、上記ステップ(g)までの作業を、上記両条件を満たすまで繰り返し行なう。
(i)そして、上記両条件を満たした場合(上記ステップ(h)の判定がyesの場合)は、この時の内輪溝径D_(i)と外輪溝径D_(e)とを適正値とする。
【0031】
尚、上述の計算では、比較すべき周波数同士のずれを±2%以上にするとしたが、要は、共振しない程度に異なっていれば良く、必要とするずれの大きさは±2%以上に限定するものではない。従って、前記ステップ(b)で、上記内輪溝径D_(i)と外輪溝径D_(e)とを変化させる場合も、共振しない程度を勘案して変化させれば良く、±1?2%以外の程度で変化させても良い。
【0032】
次の表2は、上述のステップ(a)?(i)の様なラジアル玉軸受の設計条件と振動周波数との計算結果の例を示している。この表2には、この計算結果のうち、外輪軌道のうねりに関する振動周波数nZf_(c)のnの値(次数)を7とし、内輪軌道のうねりに関する振動周波数mZf_(i)のmの値を5とした場合を例記している。そして、この表2には、この条件で上記内輪溝径D_(i)と外輪溝径D_(e)とを変化させた場合に於ける、前記(6)式の計算結果を示している。
【0033】
【表2】

【0034】
この表2に例記した結果に基いて示した3通りの計算例のうち、従来品は、nZf_(c)≒mZf_(i)となる。即ち、外輪軌道のうねりに起因する振動の周波数成分のうちの1026Hzと、内輪軌道のうねりに起因する振動の周波数成分のうちの1027Hzとが殆ど同じとなる。これに対して、本発明品1の場合には、同様に1135Hzに対し1109Hz、参考品2の場合には、同様に1033Hzに対し1022Hzと一致していない。この事は、従来品はグリースの土手がいつまでも維持されて、ラジアル玉軸受の振動並びに騒音が発生する原因になり続けるが、本発明品1、参考品2の場合には上記グリースの土手が消滅し、上記振動並びに騒音を生じにくい事を意味する。
【0035】
又、回転系の固有振動数領域に於ける共振に関しても、従来品は後述する図2に示す様に、32f_(r)、64f_(r)で著しいのに対して、本発明品1、参考品2は何れも振動が小さくなっている。
尚、以上に述べた、本発明の転がり軸受を実現する設計の為の計算手順の説明で、n、m、jを、初期値を1とし、この初期値から+1ずつ増加させる場合に就いて述べたが、前記各振動の周波数成分nZf_(c)、mZf_(i)、jf_(r)の振動レベル(振幅)は、次数が高くなる程(n、m、jの値が大きくなる程)、小さくなる。従って、振動並びに騒音を下げる面からは、上記各自然数n、m、jの値を、無制限に大きくする必要はない。例えば、これら各自然数n、m、jの値の上限を100程度に限定すれば、実用上有効な振動並びに騒音の低減効果を発揮させつつ、計算時間を短縮する面からは好ましい。
【0036】
【実施例】
本発明の効果を確認する為に行なった実験の結果に就いて説明する。実験は、型番が6006のものに相当する、内径が30mm、外径が55mm、幅が13mmである深溝型の玉軸受を使用して、内輪を外嵌した回転軸を回転させる事により行なった。この回転軸と、上記玉軸受と、この玉軸受を支持したハウジングとで構成する回転支持部である回転系の固有振動数は、ハンマを用いたインパルス加振により発生する加速度を、図1に示す様に加速度センサ15により検出し、この検出値を増幅器16を介して演算器17に送り、この演算器17でFFT(高速フーリエ変換)により処理する事で求めた。実験に使用した回転系の固有振動数は約850Hzであり、この固有振動数を挟んだ±250Hzの領域、即ち、凡そ600?1100Hzの領域が、共振に基づいて振幅が大きくなる固有振動数領域となる。
【0037】
実験では、上述の玉軸受の内外径及び幅を変えず、転動体直径と、転動体個数と、転動体のピッチ円直径とを異ならせる事により、次の表3に示す様に、アキシアル方向の振動に関して、本発明の技術的範囲からは外れる従来品と、本発明に属し、請求項3の条件を満たす第一実施例と、請求項1の条件を満たさない第二参考例との3種類の試料に就いて、それぞれの内輪を回転させつつ、回転速度に対するアキシアル方向の振動周波数と発生した振動のレベル(大きさ)との関係を求めた。尚、この表3は、内輪の回転速度f_(r)が32Hz(=1920min^(-1))の場合に就いて示している。
【0038】
【表3】

【0039】
実験の結果を、図2?4に示す。このうちの図2は、上記表3に従来品として記載した玉軸受に関する実験結果を、図3は同じく第一実施例として記載した玉軸受に関する実験結果を、図4は同じく第二参考例として記載した玉軸受に関する実験結果を、それぞれ示すキャンベル線図である。尚、これら図2?4として記載したキャンベル線図では、縦軸に周波数及び回転次数を、横軸に回転数を、それぞれ表している。又、同一次数上(nf_(b)等を表す右上りの直線上)に存在する丸は、回転に対する振動レベルを表しており、当該部分での振動のスペクトルの振幅は丸の大きさ(直径)で表している。更に、各丸の中心で横軸に平行な成分(縦軸成分)は、固有振動数を表している。
この様にして実験の結果を表したキャンベル線図である、図2?4を比較すれば(図3?4の丸の大きさが図2の丸の大きさよりも小さい事から)明らかな通り、本発明の転がり軸受の場合には、従来品に比べて発生する振動を低く抑える事ができる。
以下、それぞれの試料に就いて考察する。
【0040】
先ず、上記表3の上段部分に記載した従来品の場合には、回転周波数の32次成分(32f_(r)=1024Hz)が内輪の第5次のうねり成分に基づく振動の周波数(5Z・f_(i)=1027Hz)及び外輪の第7次のうねり成分に基づく振動の周波数(7Z・f_(c)=1026Hz)に、前記固有振動数領域で一致している為、大きな振動が発生する。又、回転周波数の64次成分(64f_(r)=2048Hz)が、内輪の第10次のうねり成分に基づく振動の周波数(10Z・f_(i)=2054Hz)及び外輪の第14次のうねり成分に基づく振動の周波数(14Z・f_(c)=2052Hz)に一致している為、大きな振動が発生する。
【0041】
次に、上記表3の中段部分に記載した第一実施例の場合には、比較的近い内輪の第5次のうねり成分に基づく振動の周波数(5Z・f_(i)=1109Hz)と、外輪の第7次のうねり成分に基づく振動の周波数(7Z・f_(c)=1135Hz)とも、図3の5Z・f_(i)の直線と7Z・f_(c)の直線とがずれている事からも明らかな様に、不一致である。この為、これら5Z・f_(i)及び7Z・f_(c)の直線上に記載した丸が小さい事から明らかな様に、発生する振動は小さい。更に、これら5Z・f_(i)及び7Z・f_(c)の直線は、32f_(r)の直線と36f_(r)の直線との間に存在するが、これら両直線の間に存在する(33?35)f_(r)の直線の何れとも一致していない。この為、発生する振動を十分に小さくできる。
【0042】
更に、上記表3の下段部分に記載した第二参考例の場合には、内輪の第5次のうねり成分に基づく振動の周波数(5Z・f_(i)=1022Hz)が回転速度の32次の周波数(32f_(r)=1024Hz)と一致する。即ち、請求項1の条件は満たさない。但し、外輪、内輪両軌道の表面と転動体の転動面とに存在するうねりに基づく振動の周波数成分同士が前述した固有振動数の領域(600?1100Hz)では一致しない。
【0043】
この様な第二参考例の場合には、上述した第一実施例の場合よりは、少し振動が大きくはなるが、前述した従来品の場合に比べれば、発生する振動は遥かに小さくなる。又、本発明者の実験によっても、上記第二参考例の場合でも、雰囲気温度が-20℃以上であれば、有害な振動及び騒音は発生しなかった。
【0044】
尚、前記表1から明らかな通り、例えばアキシアル方向の振動に関して、回転部材の回転周波数と転がり軸受の構成各部材のうねりに基づく周波数とを、何れかの回転周波数で一致させなければ、この回転周波数が変わった場合(回転部材の回転速度が変わった場合)でも、この回転周波数が上記うねりに基づく周波数と一致する事はない。即ち、前記表1に記載した、転がり軸受の構成各部材の、うねりに基づくアキシアル方向の振動の周波数を表す、nZf_(i)、nZf_(c)、2nf_(b)、並びに上記回転周波数を表すnf_(r)は、何れも図2?4のキャンベル線図上で、原点(振動周波数=0、回転数=0の点)を通る直線で表される。従って、何れかの回転周波数で不一致ならば、他の回転周波数でも不一致になる。ラジアル方向の振動に就いても、内輪及び転動体に関して発生する振動の周波数が、それぞれ2種類となるにしても、振動の周波数を表わす直線は、何れもキャンベル線図の原点を通る。この為、ラジアル方向の振動に関しても、何れかの回転周波数で不一致ならば、他の回転周波数でも不一致になる事は、アキシアル方向の振動の場合と同様である。
【0045】
又、請求項1の条件のみ満たし、請求項3の条件を満たさない状態は、出現の可能性が低い為、その様な場合に就いての実験は行なわなかった。但し、上述の説明から明らかな通り、請求項1の条件のみ満たす構造でも、実用上十分に振動の低減を図れるものと考えられる。勿論、最も好ましいのは、前記第一実施例の様に、請求項3に記載した構造である。又、上述の説明は、ラジアル玉軸受である深溝型玉軸受で、アキシアル方向の振動の場合を例にして説明したが、本発明は、ラジアル方向の振動に就いても、アキシアル方向の発生振動数に変えてラジアル方向の発生振動数を用いる事により、同様に適用できる。又、ラジアル玉軸受に限らず、スラスト玉軸受、ラジアル或はスラストころ軸受でも、同様の考えを適用できる。
【0046】
【発明の効果】
本発明の転がり軸受は以上に述べた通り構成され作用するので、特別に粘度の低いグリースを使用しなくても、低温時に於ける振動並びに騒音の発生を有効に防止できる。この為、不快感を生じる事なく、しかも優れた耐久性を有する転がり軸受を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の対象となる転がり軸受を組み込んだ回転支持部分の1例を示す断面図。
【図2】従来の転がり軸受を使用した場合に発生する振動を表したキャンベル線図。
【図3】本発明の第一実施例の転がり軸受を使用した場合に発生する振動を表したキャンベル線図。
【図4】同第二参考例の転がり軸受を使用した場合に発生する振動を表したキャンベル線図。
【符号の説明】
1 回転支持装置
2 支持ブラケット
3 転がり軸受
4 緩衝材
5 ハウジング
6a、6b 素子
7 外輪
8 内輪軌道
9 内輪
10 外輪軌道
11 転動体(玉)
12 空間
13 シールリング
14 プロペラシャフト
15 加速度センサ
16 増幅器
17 演算器
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-02-12 
結審通知日 2019-02-14 
審決日 2019-02-26 
出願番号 特願2000-201821(P2000-201821)
審決分類 P 1 41・ 853- Y (F16C)
P 1 41・ 851- Y (F16C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 瀬川 裕  
特許庁審判長 大町 真義
特許庁審判官 藤田 和英
尾崎 和寛
登録日 2007-06-29 
登録番号 特許第3975657号(P3975657)
発明の名称 転がり軸受  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  
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