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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1349908
審判番号 不服2018-2653  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-26 
確定日 2019-04-02 
事件の表示 特願2017-155664「偏光フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 2月22日出願公開、特開2018- 28662、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2017-155664号(以下「本件出願」という。)は、平成29年8月10日(優先権主張 平成28年8月10日)を出願日とする出願であって、その手続等の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成29年 9月 5日付け:拒絶理由通知書
平成29年11月 9日付け:意見書、手続補正書
平成29年11月21日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成30年 2月26日付け:審判請求書
平成30年 4月 9日付け:手続補正書(審判請求書の補正)
平成30年11月 9日付け:拒絶理由通知書
平成31年 1月10日付け:意見書、手続補正書

第2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、次のとおりである。
1.(実施可能要件)本件出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
2.(新規性)本件出願の請求項1-5に係る発明は、その優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献Aに記載された発明、並びに、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献B及びCに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
3.(進歩性)本件出願の請求項1-5に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献Aに記載された発明、又は、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献B若しくはCに記載された発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
引用文献A:特開2012-58754号公報
引用文献B:国際公開第2016/052732号
引用文献C:国際公開第2016/052331号
引用文献D:特開2006-154375号公報
引用文献E:特開2002-67520号公報
(当合議体注:引用文献D及びEは、本件優先日前における技術水準を示すために挙げられた文献である。)

第3 平成30年11月9日付け拒絶理由通知書において通知した拒絶の理由の概要
平成30年11月9日付けの拒絶理由通知書において通知した拒絶の理由は、概略、次のとおりである。
1.(新規性)本件出願の請求項1-5に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1、4及び7に記載された発明、並びに、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2及び3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)本件出願の請求項1-5に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1、4若しくは7に記載された発明、又は、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2若しくは3に記載された発明に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3.(サポート要件)本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
4.(明確性)本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

<引用文献等一覧>
引用文献1:特開2012-58754号公報
引用文献2:国際公開第2016/052732号
引用文献3:国際公開第2016/052331号
引用文献4:特開2002-365435号公報
引用文献5:特開2006-154375号公報
引用文献6:特開2002-67520号公報
引用文献7:特開2016-71371号公報
引用文献8:特開平9-31727号公報
参考文献:宮崎司「偏光板用PVA/ヨウ素延伸フィルムのSAXS/WAXSによる構造解析」(http://support.spring8.or.jp/Doc_workshop/PDF_090123/MIYAZAKI.pdf)
(当合議体注:引用文献5-8は、本件優先日前における技術水準を示すために挙げられた文献である。)

第4 本願発明
本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、平成31年1月10日にした手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの、以下のものである。
「 ポリビニルアルコール系樹脂を形成材料とし、二色性物質を有する偏光フィルムであって、
前記偏光フィルムについて、広角X線回折法の透過法で得られた回折像について2θ=19.5?20.5°の範囲を円環積分し、バックグラウンド補正して得られる方位角分布曲線から、下記式に従って求められる配向度が81.0%以上であり、
前記偏光フィルム中の可塑剤の含有率が1質量%以下であり、
前記偏光フィルムの吸収軸方向において、ラメラ型結晶間の距離Waは、7.0nm以上16.4nm以下であり、
前記偏光フィルムの透過軸方向において、ラメラ型結晶間の距離Wbは、1.0nm以上2.8nm以下であり、
前記偏光フィルムの厚さは、10μm以下である偏光フィルム。
配向度(%)=(360-W)/360
(Wは、方位角分布曲線のピーク全体の積分値を100%とするときに積分値が50%となるピーク全幅を、すべての配向性ピークについて求めたときのこれらの和である)」

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献3の記載事項
平成30年11月9日付けの拒絶理由通知書において通知した拒絶の理由において引用文献3として引用され、本件優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2016/052331号(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体が付したものであり、引用発明の認定に活用した箇所を示す。
(1)「技術分野
[0001] 本発明は、偏光性積層フィルムまたは偏光板の製造方法に関する。
・・・(中略)・・・
発明が解決しようとする課題
[0005] 本発明は、基材フィルムの表面にポリビニルアルコール系樹脂層を設けた後、基材フィルムごとポリビニルアルコール系樹脂層を延伸し、染色・架橋工程およびその後の乾燥工程を経てポリビニルアルコール系樹脂層を偏光子層とすることで、薄い偏光子層を備えた偏光性積層フィルムを製造することができる製造方法において、優れた光学性能を有する偏光子層を備えた偏光性積層フィルムを製造する方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0006] 本発明は、下記のものを含む。
[1] 基材フィルムに、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を塗工して塗工フィルムを得る塗工工程と、前記塗工フィルムを乾燥させて基材フィルムにポリビニルアルコール系樹脂層が形成された積層フィルムを得る乾燥工程と、前記積層フィルムを一軸延伸して延伸積層フィルムを得る延伸工程と、前記ポリビニルアルコール系樹脂層を染色して偏光子層とし、偏光性積層フィルムを得る染色工程とをこの順に含み、前記延伸工程は、前記積層フィルムの水分率が0.3質量%以上の状態で前記一軸延伸を開始する、偏光性積層フィルムの製造方法。
・・・(中略)・・・
発明の効果
[0014] 本発明においては、延伸工程に供される積層フィルムの水分率の値を制御することにより、優れた光学性能を有する偏光子層を備えた偏光性積層フィルムを得ることができる。」

(2)「発明を実施するための形態
[0016] 本明細書においては、基材フィルムにポリビニルアルコール系樹脂層(ポリビニルアルコール系樹脂からなる層)を備えた積層体を「積層フィルム」といい、基材フィルムの両方の面にポリビニルアルコール系樹脂層を備えた積層フィルムを「両面積層フィルム」という。
[0017] また、偏光子としての機能を有するポリビニルアルコール系樹脂層を「偏光子層」といい、基材フィルムに偏光子層を備えた積層体を「偏光性積層フィルム」といい、偏光子層の少なくとも一方の面に保護フィルムを備えた積層体を「偏光板」という。以下、偏光性積層フィルムおよび偏光板の各構成要素についてまず説明し、その後それらの製造方法の説明へと進んでいく。
[0018] <偏光性積層フィルムおよび偏光板>
[基材フィルム]
基材フィルムに用いる樹脂としては、例えば、透明性、機械的強度、熱安定性、延伸性などに優れる熱可塑性樹脂が用いられ、それらのガラス転移温度(Tg)または融点(Tm)に応じて適切な樹脂を選択できる。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂)、(メタ)アクリル系樹脂、セルロースエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、およびこれらの混合物、共重合物などが挙げられる。
・・・(中略)・・・
[0032] (プライマー層)
基材フィルムの偏光子層が形成される側の表面にプライマー層が形成される場合、プライマー層としては、基材フィルムとポリビニルアルコール系樹脂層との両方にある程度強い密着力を発揮する材料であれば特に限定されない。たとえば、透明性、熱安定性、延伸性などに優れる熱可塑性樹脂が用いられる。具体的には、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂が挙げられるが、これらに限定されるものではない。中でも、密着性がよいポリビニルアルコール系樹脂は好ましく用いられる。
・・・(中略)・・・
[0036] [偏光子層]
偏光子層は、具体的には、延伸したポリビニルアルコール系樹脂層に二色性色素を吸着配向させたものである。
・・・(中略)・・・
[0057] <偏光性積層フィルムおよび偏光板の製造方法>
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態の偏光性積層フィルムおよび偏光板の製造方法を示すフローチャートである。第1の実施形態の偏光性積層フィルムの製造方法は、
基材フィルムの一方の面に、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を塗工して塗工フィルムを得る塗工工程(S10)と、
上記塗工フィルムを乾燥させて基材フィルムにポリビニルアルコール系樹脂層が形成された積層フィルムを得る乾燥工程(S20)と、
上記積層フィルムを一軸延伸して延伸積層フィルムを得る延伸工程(S30)と、
上記ポリビニルアルコール系樹脂層を染色して偏光子層とし、偏光性積層フィルムを得る染色工程(S40)とをこの順に含んでいる。
・・・(中略)・・・
[0065] [乾燥工程(S20)]
塗工工程(S10)で得られた塗工フィルムを乾燥させて、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液の溶剤を蒸発させることにより、基材フィルムにポリビニルアルコール系樹脂層が形成された積層フィルムが得られる。
[0066] 乾燥工程は、塗工フィルムの平均水分率変化が5?65質量%/分となるように行なうことが好ましく、7.5?50質量%/分となるように行なうことがより好ましく、7.5?30質量%/分となるように行なうことがさらに好ましい。本明細書でいう乾燥工程の平均水分率変化とは、乾燥開始時の塗工フィルムの水分率(%)と、乾燥終了時の積層フィルムの水分率(%)の差を時間で除して得られる値である。なお、塗工フィルムまたは積層フィルムの水分率の算出方法については、後述する。平均水分率変化が65質量%/分より大きい場合は、乾燥温度を高くする必要があるため、基材フィルムの溶解、ポリビニルアルコール系樹脂の変色などの不具合が生じる可能性があり好ましくない。平均水分率変化が5質量%/分未満の場合は、生産性が悪くなり好ましくない。
[0067] 乾燥工程における乾燥温度は、例えば50℃?200℃であり、好ましくは60℃?150℃である。乾燥方法は、熱風を吹き付ける方法、熱ロールに接触させる方法、IRヒーターで加熱する方法など、種々の方法があり、いずれも好適に用いることができる。なお、乾燥工程でいう乾燥温度とは、熱風を吹き付ける方法やIRヒーターなどのように乾燥炉を設ける乾燥設備の場合には乾燥炉内の雰囲気温度を意味し、熱ロールのような接触型の乾燥設備の場合には、熱ロールの表面温度を意味する。以上の工程を経て、ポリビニルアルコール系樹脂層が形成された積層フィルムを製造する。乾燥時間は、例えば、2分?20分である。
・・・(中略)・・・
[0069] 乾燥工程(S20)における乾燥の程度は、上述した乾燥温度や乾燥時間のほか、基材フィルム上に形成されたポリビニルアルコール系樹脂塗工層の厚さ(または単位面積あたりの重量)、乾燥工程における雰囲気の水分濃度、水蒸気圧、湿度などによっても変化するので、簡単な予備実験を行なって、所定の水分率(0.3質量%以上3質量%以下、好ましくは0.35質量%以上1.8質量%以下)となるように条件を調節すればよい。場合によっては、所定の水蒸気圧に調節された空気を乾燥炉内に導入することもできる。このようにして、所定の水分率まで乾燥された積層フィルムは、その水分率を保ったまま、延伸工程(S30)に付すのが好ましいが、後述する調湿工程で所定の水分率に調整してから、延伸工程(S30)に付すこともできる。」

(3)「実施例
[0121] [実施例1]
図2に示すフローチャートのようにして、染色工程(S40)まで実施することにより両面偏光性積層フィルムを製造し、さらに剥離工程(S60)まで実施することにより偏光板を製造した。
[0122] (基材フィルム)
エチレンユニットを約5重量%含むプロピレン/エチレンのランダム共重合体(住友化学(株)製、商品名:住友ノーブレン W151、融点Tm=138℃)からなる樹脂層の両側にプロピレンの単独重合体であるホモポリプロピレン(住友化学(株)製、商品名:住友ノーブレンFLX80E4、融点Tm=163℃)からなる樹脂層を配置した3層構造の基材フィルムを、多層押出成形機を用いた共押出成形により作製した。得られた基材フィルムの合計の厚さは100μmであり、各層の厚み比(FLX80E4/W151/FLX80E4)は3/4/3であった。
[0123] (プライマー溶液)
ポリビニルアルコール粉末(日本合成化学工業(株)製、商品名:Z-200、平均重合度1100、平均ケン化度99.5モル%)を95℃の熱水に溶解させ濃度3重量%の水溶液を調製した。得られた水溶液にポリビニルアルコール粉末2重量部に対して1重量部の架橋剤(田岡化学工業(株)製、商品名:スミレーズレジン650)を混ぜて、プライマー溶液を得た。
[0124] (ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液)
ポリビニルアルコール粉末((株)クラレ製、商品名:PVA124、平均重合度2400、平均ケン化度98.0?99.0モル%)を95℃の熱水中に溶解させ濃度8重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。
[0125] (第1の塗工工程、第1の乾燥工程)
基材フィルムを連続的に搬送しながら、その一方の面にコロナ処理を施し、次いでコロナ処理された面に小径グラビアコーターを用いて上記プライマー溶液を連続的に塗工し、60℃で3分間乾燥させることにより、厚み0.2μmのプライマー層を形成した。引き続き、フィルムを搬送しながら、プライマー層上にカンマコーターを用いて上記ポリビニルアルコール水溶液を連続的に塗工し(第1の塗工工程)、90℃で4分間乾燥させることにより(第1の乾燥工程)、プライマー層上に厚み11.5μmのポリビニルアルコール系樹脂層(以下、「第1のPVA層」とする)を形成し、片面積層フィルムを得た。
[0126] (水分率の測定)
上記のようにして作製した片面積層フィルムの水分率を測定したところ0.39質量%であった。この水分率と、上記第1の乾燥工程に入る前の塗工フィルムの水分率から、第1の乾燥工程における乾燥スピードは、平均水分率変化で16.4質量%/分と計算された。また、片面積層フィルムの第1のPVA層単体の水分率を測定したところ2.76質量%であった。
[0127] (第2の塗工工程、第2の乾燥工程)
上記のようにして作製した片面積層フィルムについて、基材フィルムの第1のPVA層が形成されている面とは反対側の面に、上記と同様にして0.2μmのプライマー層を形成し、プライマー層上にポリビニルアルコール水溶液を塗工し(第2の塗工工程)、90℃で4分間乾燥させることにより(第2の乾燥工程)、プライマー層上に厚み10.6μmのポリビニルアルコール系樹脂層(以下、「第2のPVA層」)を形成し、両面積層フィルムを得た。
[0128] (水分率の測定)
上記のようにして作製した両面積層フィルムの水分率を測定したところ0.6質量%であった。この水分率と、上記第2の乾燥工程に入る前の両面塗工フィルムの水分率から、第2の乾燥工程における乾燥スピードは、平均水分率変化で15.9質量%/分と計算された。また、両面積層フィルムにおける第1のPVA層単体の水分率と、第2のPVA層単体の水分率を測定したところ、それぞれ4.66質量%と、3.79質量%であった。
[0129] (延伸工程)
上記のようにして得られた両面積層フィルムを連続的に搬送しながら、ニップロール間での延伸方法により延伸温度160℃で縦方向(フィルム搬送方向)に5.8倍延伸して延伸積層フィルムを得た。延伸積層フィルムにおいて、第1のPVA層の厚みは5.7μm、第2のPVA層の厚みは5.4μmとなった。
[0130] (染色工程)
上記のようにして得られた延伸積層フィルムを連続的に搬送しながら、ヨウ素とヨウ化カリウムとを含む30℃の染色溶液に滞留時間が180秒間となるように浸漬して第1のPVA層と第2のPVA層を染色した後、10℃の純水で余分な染色溶液を洗い流した。次いで、ホウ酸とヨウ化カリウムとを含む76℃の架橋溶液に滞留時間が600秒間程度となるように浸漬して架橋処理を行なった。その後、10℃の純水で4秒間洗浄し、80℃で300秒間間乾燥させることにより偏光性積層フィルムを得た。
[0131] なお、染色溶液、架橋溶液の配合比率は、
<染色溶液>
水:100重量部
ヨウ素:0.6重量部
ヨウ化カリウム:10重量部
<架橋溶液>
水:100重量部
ホウ酸:9.5重量部
ヨウ化カリウム:5重量部
とした。
[0132] (光学性能の測定)
得られた偏光性積層フィルムの第1のPVA層(第1の偏光子層)および第2のPVA層(第2の偏光子層)について、測定対象でない方の偏光子層を剥離除去して、測定対象の偏光子層と基材フィルムとからなる積層体を用意し、かかる積層体の偏光子層にアクリル系粘着剤層を積層し、そのアクリル系粘着剤層を介してガラスに貼合したものを評価サンプルとした。
・・・(中略)・・・
[0138] [実施例2]
第1の乾燥工程および第2の乾燥工程における乾燥条件を90℃で3分間に変更し、さらに、第1の乾燥工程後の第1のPVA層の厚みが9.2μm、第2の乾燥工程後の第2のPVA層の厚みが9.4μmとなるようにした点以外は、実施例1と同様にして偏光性積層フィルムおよび偏光板を作製した。剥離工程で破断といった不具合は生じなかった。
[0139] [実施例3]
第1の乾燥工程および第2の乾燥工程における乾燥条件をいずれも、90℃で2分間の次に80℃で1.5分間、合計3.5分間に変更し、さらに、第1の乾燥工程後の第1のPVA層の厚みが9.3μm、第2の乾燥工程後の第2のPVA層の厚みが9.2μmとなるようにした点以外は、実施例1と同様にして偏光性積層フィルムおよび偏光板を作製した。剥離工程で破断といった不具合は生じなかった。
[0140] [実施例4]
第1の乾燥工程および第2の乾燥工程における乾燥条件をいずれも、75℃で2分間の次に80℃で2分間、合計4分間に変更し、さらに、第1の乾燥工程後の第1のPVA層の厚みが9.0μm、第2の乾燥工程後の第2のPVA層の厚みが9.1μmとなるようにした点以外は、実施例1と同様にして偏光性積層フィルムおよび偏光板を作製した。剥離工程で破断といった不具合は生じなかった。
[0141] [実施例5]
図1に示すフローチャートのようにして、染色工程(S40)まで実施することにより片面偏光性積層フィルムを製造し、さらに剥離工程(S60)まで実施することにより偏光板を製造した。基材フィルム、プライマー溶液およびポリビニルアルコール水溶液は、実施例1?4と同様のものを用いた。
[0142] (第1の塗工工程、第1の乾燥工程)
基材フィルムを連続的に搬送しながら、その一方の面にコロナ処理を施し、次いでコロナ処理された面に小径グラビアコーターを用いて上記プライマー溶液を連続的に塗工し、60℃で3分間乾燥させることにより、厚み0.2μmのプライマー層を形成した。引き続き、フィルムを搬送しながら、プライマー層上にカンマコーターを用いて上記ポリビニルアルコール水溶液を連続的に塗工し(第1の塗工工程)、90℃で2分間の次に80℃で1.5分間、合計3.5分間乾燥させることにより(第1の乾燥工程)、プライマー層上に厚み9.2μmの第1のPVA層を形成し、片面積層フィルムを得た。
[0143] (延伸工程)
上記のようにして得られた片面積層フィルムを連続的に搬送しながら、ニップロール間での延伸方法により延伸温度160℃で縦方向(フィルム搬送方向)に5.8倍延伸して片面延伸積層フィルムを得た。延伸積層フィルムにおいて、第1のPVA層の厚みは4.7μmとなった。
[0144] (染色工程)
上記のようにして得られた片面延伸積層フィルムを、実施例1と同様にして染色し片面偏光性積層フィルムを得た。
・・・(中略)・・・
[0147] [実施例6]
第1の乾燥工程における乾燥条件を実施例4と同様にし、第1の乾燥工程後のPVA層の厚みが9.0μmとした以外は、実施例5と同様にして片面偏光性積層フィルムおよび偏光板を作製した。剥離工程では、破断といった不具合は生じなかった。
・・・(中略)・・・
[0150] 表1は、実施例1?6および比較例1,2における乾燥条件および各測定結果を記載した表である。
[0151][表1]



2 引用発明
上記1から、引用文献3には、実施例6として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。なお、第1のPVA層の平均水分率変化及び水分率は、[0151]の[表1]に記載された数値である。
「 基材フィルムの一方の面にプライマー溶液を塗工してプライマー層を形成し、プライマー層上にポリビニルアルコール水溶液を塗工し、75℃で2分間の次に80℃で2分間乾燥させることにより、乾燥スピードを平均水分率変化で14.8質量%/分として、プライマー層上に厚み9.0μm、水分率7.65質量%である第1のPVA層を形成することにより、片面積層フィルムを得、
片面積層フィルムを連続的に搬送しながら、ニップロール間での延伸方法により延伸温度160℃で縦方向(フィルム搬送方向)に5.8倍延伸して、第1のPVA層の厚みが4.7μmである、片面延伸積層フィルムを得、
片面延伸積層フィルムをヨウ素を含む染色溶液に浸漬して染色して得た、
片面偏光性積層フィルム。」

第6 対比及び判断
1 対比
本願発明1と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

(1)偏光フィルム
引用発明の「片面偏光性積層フィルム」は、「第1のPVA層を形成」した「片面積層フィルム」を「ヨウ素を含む染色溶液に浸漬して染色」したものである。ここで、引用発明の「ヨウ素」及び「染色」された「第1のPVA層」(染色後のもの)は、技術的にみて、それぞれ本願発明1の「二色性物質」及び「偏光フィルム」に相当する。また、引用発明の「第1のPVA層」(染色後のもの)は、本願発明の「偏光フィルム」における、「ポリビニルアルコール系樹脂を形成材料とし、二色性物質を有する」という要件を満たすものである。

(2)可塑剤
引用発明の「第1のPVA層」は、その製造工程からみて、可塑剤を含まないものである。
そうしてみると、引用発明の「第1のPVA層」(染色後のもの)は、本願発明1の「偏光フィルム」における、「偏光フィルム中の可塑剤の含有率が1質量%以下」であるという要件を満たすものである。

(ウ)偏光フィルムの厚さ
引用発明の「第1のPVA層」(染色後のもの)の「厚み」は「4.7μm」である。
そうしてみると、引用発明の「第1のPVA層」(染色後のもの)は、本願発明1の「偏光フィルム」における、「厚さは、10μm以下」であるという要件を満たすものである。

2 一致点及び相違点
(1)本願発明1と引用発明は、次の構成で一致する。
(一致点)
「 ポリビニルアルコール系樹脂を形成材料とし、二色性物質を有する偏光フィルムであって、
前記偏光フィルム中の可塑剤の含有率が1質量%以下であり、
前記偏光フィルムの厚さは、10μm以下である偏光フィルム。」

(2)本願発明1と引用発明は、次の点で相違する。
(相違点1)
本願発明1の「前記偏光フィルム」は、「広角X線回折法の透過法で得られた回折像について2θ=19.5?20.5°の範囲を円環積分し、バックグラウンド補正して得られる方位角分布曲線から、下記式に従って求められる配向度が81.0%以上」であるのに対し、引用発明は、このように特定されたものではない点。
式:
配向度(%)=(360-W)/360
(Wは、方位角分布曲線のピーク全体の積分値を100%とするときに積分値が50%となるピーク全幅を、すべての配向性ピークについて求めたときのこれらの和である)
(相違点2)
本願発明1は、「前記偏光フィルムの吸収軸方向において、ラメラ型結晶間の距離Waは、7.0nm以上16.4nm以下であり、前記偏光フィルムの透過軸方向において、ラメラ型結晶間の距離Wbは、1.0nm以上2.8nm以下であ」るという要件を満たすのに対し、引用発明は、このように特定されたものではない点。

3 判断
事案に鑑みて、相違点2について検討する。
(1)特許法第29条第1項第3号(新規性)についての判断
本件明細書の【0035】-【0037】、【0076】-【0098】、【0111】等の記載に基づけば、
(A)偏光フィルムの吸収軸方向におけるラメラ型結晶(PVAの結晶)の結晶間の距離Wa(以下、単に「結晶間距離Wa」という。)および偏光フィルムの透過軸方向におけるラメラ型結晶の結晶間の距離Wb(以下、単に「結晶間距離Wb」という。)は、PVAの結晶サイズが小さいものほど低い値となり、
(B)結晶間距離Wa及び結晶間距離Wbを、それぞれ7.0nm以上30.0nm及び1.0nm以上10.0nm以下(以下「Wb数値範囲」という。)とするためには、単位時間(秒)あたりにおけるPVA系樹脂を含有する水溶液からなる塗工液の含水率の低下量である「除去速度V(30)」あるいは「平均除去速度Vave(30-10)」、「乾燥後(水の除去後)の最終的な含水率」及び「延伸温度」を、それぞれ、0.01?1.8質量%/秒、0.15?10%及び120?170℃以下という所定の数値範囲内のものとすることが必要である、といえる。
そして、相違点2に係る本願発明1の「前記偏光フィルムの透過軸方向において、ラメラ型結晶間の距離Wbは、1.0nm以上2.8nm以下」であるという要件は、結晶間距離WbをWb数値範囲のうちの下限値近傍の1.0nmから2.8nmという低く狭い数値範囲内とするものであるところ、結晶間距離Wbをこのような低い数値範囲内のものとするためには、PVAの結晶サイズを極めて小さくする必要があるといえる。そのためには、技術的にみて、「除去速度V(30)」(「平均除去速度Vave(30-10)」)及び「乾燥後(水の除去後)の最終的な含水率」を上記所定の数値範囲内のうちで、より結晶サイズを小さくする範囲のものとする必要があるといえる。具体的には、「除去速度V(30)」(「平均除去速度Vave(30-10)」)を上記所定の数値範囲内のうちで下限値を含む低い数値範囲内のものとし、「乾燥後(水の除去後)の最終的な含水率」を上記所定の数値範囲内のうちで上限値を含む高い数値範囲内のものとする必要があるといえる。
他方、引用発明は、「乾燥スピードを平均水分率変化で14.8質量%/分」(0.26質量%/秒)とし、「含水率」を「7.65質量%」としたものである。そうしてみると、引用発明における、含水率は、上記所定の数値範囲内のうちで上限値を含む高い数値範囲内にあるが、「除去速度V(30)」(「平均除去速度Vave(30-10)」)は、0.01?1.8質量%/秒という範囲のうちで下限値を含む低い数値範囲内にあるものではないといえる。
そうしてみると、引用発明は、少なくとも、相違点2に係る本願発明1の「前記偏光フィルムの透過軸方向において、ラメラ型結晶間の距離Wbは、1.0nm以上2.8nm以下」という要件を満たす蓋然性が高いとまでいうことはできない。
以上より、相違点2は実質的な相違点であって、本願発明1と引用発明は、同一のものではない。

(2)特許法第29条第2項(進歩性)についての判断
引用文献1には、「除去速度V(30)」(「平均除去速度Vave(30-10)」)を0.01?1.8質量%/秒という範囲のうちで下限値を含む低い数値範囲内のものとすること又は結晶間距離Wbを1.0?2.8nmという数値範囲内のものとすることは、記載も示唆もされていない。
また、他に、「除去速度V(30)」(「平均除去速度Vave(30-10)」)を0.01?1.8質量%/秒という範囲のうちで下限値を含む低い数値範囲内のものとすること又は結晶間距離Wbを1.0?2.8nmという数値範囲内のものとすることを記載ないし示唆する文献も存在しない。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本願発明は、たとえ当業者といえども、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

なお、引用文献1には、実施例1-5として、引用発明以外の発明が記載されているが、その平均水分率変化及び水分率からみて、実施例1-5における偏光子層の結晶間距離Wbは、引用発明の結晶間距離Wbと同じかそれ以上であるといえる。

第7 原査定について
原査定の拒絶の理由において引用文献A?Eとして引用された各文献には、「前記偏光フィルムの吸収軸方向において、ラメラ型結晶間の距離Waは、7.0nm以上16.4nm以下であり、前記偏光フィルムの透過軸方向において、ラメラ型結晶間の距離Wbは、1.0nm以上2.8nm以下であ」るという要件を満たすものとすることは記載も示唆もされていない。
そして、平成31年1月10日付けの手続補正により、本願発明1は、「前記偏光フィルムの吸収軸方向において、ラメラ型結晶間の距離Waは、7.0nm以上16.4nm以下であり、前記偏光フィルムの透過軸方向において、ラメラ型結晶間の距離Wbは、1.0nm以上2.8nm以下であ」るという要件を満たすものとなっている。そうしてみると、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献A?Eに基づいて、容易に発明できたとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由もない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-03-19 
出願番号 特願2017-155664(P2017-155664)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 113- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 廣田 健介  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 川村 大輔
河原 正
発明の名称 偏光フィルム  
代理人 加藤 広之  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 佐藤 彰雄  
代理人 鈴木 慎吾  

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