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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60C
管理番号 1350024
審判番号 不服2018-8507  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-20 
確定日 2019-04-02 
事件の表示 特願2014- 87287「ランフラットタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月19日出願公開、特開2015-205594、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年4月21日の出願であって、平成29年8月10日付けで拒絶理由通知がされ、同年10月16日付けで手続補正がされ、平成30年3月13日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年6月20日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、同年9月21日に前置報告がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

1.本願請求項1-3に係る発明は、引用文献1あるいは引用文献2を主引用例として、引用文献1-5に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2004-175263号公報
2.特開2004-182164号公報
3.特開2002-301911号公報
4.特開2006-137247号公報
5.特開2014-054967号公報


第3 本願発明
本願請求項1-3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は、平成30年6月20日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される発明であり、そのうち、請求項1に係る発明については以下のとおりである。

「【請求項1】
一対のビード部間に跨るカーカスと、
トレッド部と前記ビード部とを連結するタイヤサイド部に設けられ、前記カーカスの内面に沿うように前記ビード部側から前記トレッド部側へ延び、前記タイヤサイド部を補強するサイド補強ゴム層と、
前記タイヤサイド部の前記カーカスよりもタイヤ幅方向外側に設けられ、前記ビード部側から前記トレッド部側へ延び、硬さが前記サイド補強ゴム層の硬さの90%以上120%以下の硬さとされ、且つ、タイヤ最大幅位置において厚みが前記タイヤサイド部の厚みの12%以上28%以下の厚みとされたサイドゴム層と、
を有し、
タイヤ断面高さが115mm以上とされた、
ランフラットタイヤ。」


第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビード部の周辺で折り返されたカーカス層と、そのカーカス層をトレッド部の下方で補強するベルト層と、前記カーカス層のタイヤ内面側にタイヤ子午線断面にて略三日月状をなしサイドウォール部を補強するためのサイド補強ゴムパッドとを備えるランフラットタイヤにおいて、
タイヤ子午線断面で各方向における最短距離として測定されるタイヤ厚みに関して、前記ベルト層の最大幅ベルト端でのタイヤ厚みTshと、タイヤ最大幅位置でのタイヤ厚みTceと、ビードコア上端からタイヤ最大幅位置までの高さの1/2の高さのタイヤ内面からのタイヤ厚みTpr(但し、ビード部外側のリムラインの外周側に膨出部を有する場合には、湾曲するリムラインに外接する円弧であって中心がタイヤ最大幅の高さに位置する円弧までの前記タイヤ内面からの距離)と、から下記の式(1)で求められる厚み分布係数φが、下記の式(2)を満たすことを特徴とするランフラットタイヤ。
φ=2×Tce/(Tsh+Tpr)-1 (1)
0.07≦ φ ≦0.25 (2)

【請求項2】
タイヤ最大幅位置での前記サイド補強ゴムパッドの厚みTpと、前記サイドウォール部の外側壁を構成するゴムの厚みTsとの関係が下記の式(3)を満たすものである請求項1記載のランフラットタイヤ。
0.12≦Ts /(Tp +Ts )≦0.25 (3)

【請求項3】
前記サイド補強ゴムパッドは、JISK6253のデュロメータ硬さ試験(タイプA)による硬さ(HS)が、前記サイドウォール部の外側壁を構成するゴムより大きく、その硬さ(HS)が60?70°のゴムで形成されている請求項1又は2に記載のランフラットタイヤ。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、空気が抜けてもしばらく走ることのできるランフラットタイヤに関し、特にサイド補強タイプのランフラットタイヤに関する。」

「【0010】
そこで、本発明の目的は、通常走行時の乗り心地性、転がり抵抗指数、耐摩耗性を維持しながら、ランフラット走行時の耐久性と走行性の改善効果が大きいランフラットタイヤを提供することにある。」

「【0020】
本発明のランフラットタイヤは、図5に示すように、ビード部7の周辺で折り返されたカーカス層1と、そのカーカス層1をトレッド部6の下方で補強するベルト層4と、前記カーカス層1のタイヤ内面側にタイヤ子午線断面にて略三日月状をなしサイドウォール部SWを補強するためのサイド補強ゴムパッド2とを備える。」

「【0021】
カーカス層1の両端部は、ビード部7において、ビードコア71とその上のビードフィラー72の周りに内側から外側へと巻き上げられる。カーカス層1の巻き上げ端11は、ほぼトレッド部6の幅TWの全体にわたって配されたベルト層4の端部に達している。したがって、カーカス層1が外側に巻き上げられてなる巻き上げ部分13は、ビード部7以外において、左右のビード部7間を結ぶカーカス層1の本体部分12の外面に重ね合わされている。なお、図示の例では、カーカス層1が1プライである。」

「【0022】
カーカス層1の内側には、ランフラット時にリムフランジの上端と接するリムライン64の近傍からベルト層4の端部に至る領域にわたって、サイド補強ゴムパッド2が配される。サイド補強ゴムパッド2は、サイドウォール部SWを補強するために、タイヤ軸を含む断面にて略三日月状をなす。」

「【0023】
サイド補強ゴムパッド2を構成するゴムは、JISK6253のデュロメータ硬さ試験(タイプA)による硬さ(HS)が、サイドウォール部SWの外側壁を構成するサイドゴム62と同等以上の硬さであればよい。但し、硬さ(HS)が55?75°、特に60?70°のであることが好ましい。硬さ(HS)が55°未満では、ランフラット走行時の耐久性が低下し、撓み量の増大により走行性も悪化する傾向がある。また、75°を超えると、乗り心地性を低下させる傾向がある。」

「【0031】
本発明では、タイヤ最大幅位置P2でのサイド補強ゴムパッド2の厚みTpと、サイドウォール部SWの外側壁を構成するサイドゴム62の厚みTsとの関係が下記の式(3)を満たすことが好ましい。ここで、厚みTp及び厚みTsは、厳密にはサイド補強ゴムパッド2とサイドゴム62との間に介在するカーカス層1の中央を基準として測定する厚みであり、厚みTpはタイヤ内面からカーカス層1の中央までの厚みを、厚みTsはタイヤ外面からカーカス層1の中央までの厚みを指している。」

「【0032】
0.12≦Ts /(Tp +Ts )≦0.25 (3)
式(3)の範囲から外れる場合、歪みエネルギーが分散しにくくなる結果、ランフラット走行時の耐久性が低下する傾向がある。」



」(【図5】)


上述した引用文献1の記載、特に請求項1-3、段落【0023】の記載を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ビード部の周辺で折り返されたカーカス層と、そのカーカス層をトレッド部の下方で補強するベルト層と、前記カーカス層のタイヤ内面側にタイヤ子午線断面にて略三日月状をなしサイドウォール部を補強するためのサイド補強ゴムパッドとを備えるランフラットタイヤにおいて、
タイヤ子午線断面で各方向における最短距離として測定されるタイヤ厚みに関して、前記ベルト層の最大幅ベルト端でのタイヤ厚みTshと、タイヤ最大幅位置でのタイヤ厚みTceと、ビードコア上端からタイヤ最大幅位置までの高さの1/2の高さのタイヤ内面からのタイヤ厚みTpr(但し、ビード部外側のリムラインの外周側に膨出部を有する場合には、湾曲するリムラインに外接する円弧であって中心がタイヤ最大幅の高さに位置する円弧までの前記タイヤ内面からの距離)と、から下記の式(1)で求められる厚み分布係数φが、下記の式(2)を満たし、タイヤ最大幅位置での前記サイド補強ゴムパッドの厚みTpと、前記サイドウォール部の外側壁を構成するゴムの厚みTsとの関係が下記の式(3)を満たすとともに、前記サイド補強ゴムパッドは、JISK6253のデュロメータ硬さ試験(タイプA)による硬さ(HS)が、前記サイドウォール部の外側壁を構成するゴムと同等以上の硬さであり、その硬さ(HS)が60?70°のゴムで形成されているランフラットタイヤ。
φ=2×Tce/(Tsh+Tpr)-1 (1)
0.07≦ φ ≦0.25 (2)
0.12≦Ts /(Tp +Ts )≦0.25 (3)」


第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明における「サイドウォール部を補強するためのサイド補強ゴムパッド」、「サイドウォール部の外側壁を構成するゴム」は、本願発明1における「タイヤサイド部を補強するサイド補強ゴム層」、「サイドゴム層」に相当する。
引用発明の「カーカス層」は、段落【0021】や図5などの記載から見て、本願発明1における「一対のビード部間に跨る」ものである。
引用発明の「サイド補強ゴムパッド」は、カーカスの内側に「ランフラット時にリムフランジの上端と接するリムライン64の近傍からベルト層4の端部に至る領域にわたって」配されることが段落【0022】及び図5に記載されており、その配置は、本願発明1における「サイド補強ゴム層」が「カーカス内面に沿うようにビード部側からトレッド部側へ延びている」ことに相当する。
引用発明の「サイドウォール部の外側壁を構成するゴム」は、段落【0022】や図5の「サイドウォール部SW」を構成するものであり、本願発明1で特定されるところの、「カーカスよりもタイヤ幅方向外側に設けられ、ビード部側からトレッド部側へ延び」ていることに相当することも明らかである。
さらに、引用発明の「タイヤ最大幅位置での前記サイド補強ゴムパッドの厚みTpと、前記サイドウォール部の外側壁を構成するゴムの厚みTsとの関係」が「0.12≦Ts /(Tp +Ts )≦0.25」との条件を満たす旨の特定は、本願発明1における「タイヤ最大幅位置において厚みが前記タイヤサイド部の厚みの12%以上28%以下の厚みとされたサイドゴム層」との条件を満足する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「 一対のビード部間に跨るカーカスと、
トレッド部と前記ビード部とを連結するタイヤサイド部に設けられ、前記カーカスの内面に沿うように前記ビード部側から前記トレッド部側へ延び、前記タイヤサイド部を補強するサイド補強ゴム層と、
前記タイヤサイド部の前記カーカスよりもタイヤ幅方向外側に設けられ、前記ビード部側から前記トレッド部側へ延び、且つ、タイヤ最大幅位置において厚みが前記タイヤサイド部の厚みの12%以上25%以下の厚みとされたサイドゴム層と、
を有する、
ランフラットタイヤ。」

(相違点)
(相違点1)
本願発明1では、サイドゴム層の硬さが「サイド補強ゴム層の硬さの90%以上120%以下の硬さ」であるのに対して、引用発明では、サイド補強ゴムパッドは、JISK6253のデュロメータ硬さ試験(タイプA)による硬さ(HS)が、「サイドウォール部の外側壁を構成するゴムと同等以上の硬さ」である点。

(相違点2)
本願発明1では、「タイヤ断面高さが115mm以上」であるのに対して、引用発明では、タイヤ断面高さの特定がない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
「サイド補強ゴムパッド」の硬さが、「サイドウォール部の外側壁を構成するゴム(サイドゴム62)」と同等以上の硬さであるということは、「サイドウォール部の外側壁を構成するゴム(サイドゴム62)」の硬さは、「サイド補強ゴムパッド」の硬さと同じかそれ以下である、つまり、「サイドウォール部の外側壁を構成するゴム(サイドゴム62)」の硬さが「サイド補強ゴムパット」の硬さの100%以下であるということになるものの、その下限値として「90%」とすることについては何ら特定されるものではない。
そこで、引用発明において、「サイド補強ゴムパット」の硬さに対する「サイドウォール部の外側壁を構成するゴム(サイドゴム62)」の硬さの比の下限値を90%とすることが容易に想到することができるか検討する。
本願明細書の実施例及び比較例には、タイヤサイド部の厚みに対するサイドゴム層の厚みの割合がほぼ同程度であるとともに、サイド補強ゴム層の硬さに対するサイドゴム層の硬さの割合が異なる実施例1(サイド補強ゴム層の硬さに対するサイドゴム層の硬さの割合が94%)と比較例3(サイド補強ゴム層の硬さに対するサイドゴム層の硬さの割合が88%)が記載されている。そして、数値が高いほど優れているとされるリム外れ指標に関し、実施例1では135であるのに対して、比較例3では107と、本願発明1で特定されるサイドゴム層の硬さが「サイド補強ゴム層の硬さの90%以上120%以下」との特定事項の下限値にあたる「90%」の前後で大きく異なることが示されている。このように、上記の下限値(90%)には、リム外れ指標の点で臨界的意義を認めることができる。
そうすると、引用発明において、サイドゴム層(サイドウォール部の外側壁を構成するゴム)と補強ゴム層(サイド補強ゴムパット)の硬さの比に着目し、その比を90%以上120%以下とすること、特に下限値として90%を設定することにより、上記の効果を奏することについては、引用文献1及び引用文献2-5並びに当業者の周知技術からは予想できるものとはいえない。
してみれば、引用発明において、サイドゴム層(サイドウォール部の外側壁を構成するゴム)の硬さが「サイド補強ゴム層(サイド補強ゴムパット)の硬さの90%以上120%以下の硬さ」とすることは、当業者にとって容易に想到し得るものとはいえない。

したがって、上記相違点2については判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)引用文献2を主引用例とする場合について
引用文献2を主引用例とした場合について検討する。
引用文献2の請求項1-4、段落【0001】、【0010】、【0022】-【0025】、【図6】などの記載を総合すると、結局のところ、引用文献2には引用文献1とほぼ同じ技術が開示されているものと認める。
してみると、引用文献2を主引用例とした場合においても、上記(1)で検討した場合と同じ一致点、相違点となるため、上記(2)で検討したことと同様の理由により、引用文献2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2-3について
本願発明2-3も、本願発明1のサイドゴム層の硬さが「サイド補強ゴム層の硬さの90%以上120%以下の硬さ」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、容易に発明をすることができたものとはいえない。


第6 小括
上記検討のとおりであるから、本願の請求項1-3に係る発明は、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-5に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-03-19 
出願番号 特願2014-87287(P2014-87287)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岩本 昌大  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 植前 充司
大島 祥吾
発明の名称 ランフラットタイヤ  
代理人 福田 浩志  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  

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