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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B63B
管理番号 1350083
審判番号 不服2018-3174  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-05 
確定日 2019-04-09 
事件の表示 特願2016-534203号「平底船、及び少なくとも1つの空気キャビティ長さの制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月 4日国際公開、WO2015/080574、平成28年12月 8日国内公表、特表2016-538184号、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2014年11月25日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2013年11月26日(NL)オランダ王国)を国際出願日とする出願であって、平成29年3月6日付けで拒絶理由が通知され、同年8月3日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月1日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、平成30年3月5日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要

この出願については、平成29年3月6日付け拒絶理由通知書に記載した以下の理由によって、拒絶をすべきものである。

この出願の請求項1?8に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献4及び5に記載された周知技術に基いて、請求項11及び12に係る発明は、引用文献1及び2に記載された発明及び引用文献4及び5に記載された周知技術に基いて、請求項13に係る発明は、引用文献1?3に記載された発明及び引用文献4及び5に記載された周知技術に基いて、その出願(優先日)前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開昭50-78092号公報
2.特開2011-240918号公報
3.特開平10-141987号公報
4.特開2012-47323号公報
5.特開平10-167048号公報

第3 本願発明

本願の請求項1?13に係る発明(以下「本願発明1?13」という。)は、平成29年8月3日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
人あるいは貨物を輸送する平底の船であって、
船の底に取り付けられた抵抗低減システムを備え、この抵抗低減システムは、
当該船の長手方向に直角に延在する2以上の乱流部材で、船の移動中、船の底に、当該乱流部材の下流に乱流を有する領域を発生させるための乱流部材と、
上記乱流部材にあるいはその近くに気流を噴射するための、各乱流部材用の空気インジェクターと、
上記乱流部材の両側に隣接したキールと、を備え、
ここで、船の底はキャビティがない平坦であり、乱流部材はキール間で船の底に保密的に取り付けられたリッジであり、
乱流部材は、船の底から2.5?25mmで延在し、
上記キールは、船の底から実質的に同じ高さまで延在し、この高さは0.05?0.30mの範囲にある、
船。
【請求項2】
船の底は、第1セクション及び第2セクション及びさらなるセクションに船底を分割する3つ以上の長手方向のキールを備える、請求項1に記載の船。
【請求項3】
2以上の乱流部材は、平底の船の幅にわたり延在し、乱流部材の両端部はキールにあたり終端する、請求項1又は2に記載の船。
【請求項4】
第1セクション、第2のセクション、及びさらなるセクションに置かれた乱流部材は、互いに実質的に列をなしている、請求項3に記載の船。
【請求項5】
乱流部材は、船の長手方向において0.5?5mmの範囲の幅を有する、請求項1から4のいずれかに記載の船。
【請求項6】
2以上の乱流部材は、船の底での第1セクション、第2のセクション、及びさらなるセクションのそれぞれに設けられており、船の長手方向において互いに対して同距離で配置されている、請求項1から5のいずれかに記載の船。
【請求項7】
上記空気インジェクターは、それぞれの乱流部材の下流に設けられている、請求項1から6のいずれかに記載の船。
【請求項8】
空気インジェクターは、船の底における、及び/又はキールの少なくとも1つにおける開口によって形成されており、空気インジェクターへ空気を送り込むための空気ポンピング装置に接続あるいは接続可能である、請求項7に記載の船。
【請求項9】
乱流部材の近くで上流に設けられた空気出口を有し、好ましくは、この空気出口は、最も前の乱流部材を除いた各乱流部材の上流に設けられている、請求項1から8のいずれかに記載の船。
【請求項10】
空気出口は、空気を選択的に送り出すために操作可能である、請求項9に記載の船。
【請求項11】
乱流部材の少なくとも1つの上流に設けられたセンサーを有し、このセンサーは、少なくとも空気キャビティの存在を測定するのに適している、請求項1から10のいずれかに記載の船。
【請求項12】
上記センサーによって実行された測定に基づいて空気インジェクター及び/又は空気出口を制御するために設けられたコントローラーを有する、請求項11に記載の船。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載の平底の船の底にて少なくとも1つの空気キャビティの長さを制御するための方法であって、
ある速度で船を移動させること、
乱流部材の少なくとも1つで、あるいはその近くで空気を噴射すること、
船の速度及び船の底より下の深さを測定すること、を備え、
ここで、船が第1範囲内の速度を有するとき、空気は、それぞれの乱流部材で、あるいはその近くで噴射されて、最も前の乱流部材を除いた各乱流部材の近くで上流に空気が送り出され、
船が第1範囲よりも大きい第2範囲内の速度を有するとき、空気は、非隣接の乱流部材で、あるいはその近くで上流に送り出される、
制御方法。」

第4 引用文献、引用発明等

1 引用文献1について

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項等が記載されている。なお、下線は当審で付与。以下同様。

(1a)(2頁右下欄6行?3頁左上欄12行)
「 船舶1は、第1図に示すように、船底外板2表面に船体の進行方向、即ち縦方向に少なくとも2本の整流壁3が固定されて空気溝4が形成されており、かつこの空気溝4には空気供給装置により所要量の空気が供給されるように構成されている。
整流壁3は、第2図に示すように、所要の幅を有する真直な板状に形成され、所定の間隔で船底外板2にお互いに平行に固定されている。この整流壁3の間隔と幅、即ち高さとは船体の形状、大きさ、速度、安定性等を考慮して通常の走行状態において空気溝4の空気が整流壁3をオーバーフローして横に移動しないように決定される。整流壁3を深くすればする程、空気の流失はより完全に防止できるが、必要以上に深くすれば、整流壁3の下縁が深く水中に浸水し、整流壁3の浸水面積が増大して船体の摩擦抵抗が大きくなるので、整流壁3は空気溝4の空気が必要以上に横に漏れない程度の深さに決定することが望ましい。
このように、板状の整流壁3でもつて、船底外板2表面に空気溝4を形成すれば、整流壁3の下縁船底外板2の全面に空気層を形成することができるので、船底外板2と水との接触面積を極力少なくすることができる。」

(1b)(3頁右上欄1行?左下欄17行)
「 隔壁5は、第4図に示すように、整流壁3により船底外板2表面に形成される空気溝4を縦に区分して複数個の空気溜6を形成する。この為、隔壁5は船体に対して横方向にお互いが平行となるように、両端が整流壁に固定され、その高さはなるべく整流壁3よりも多少浅く形成される。このように隔壁5で区分された最先端の空気溜に空気を送り込むと、まず最先端の空気溜内は、水が空気により押し出されて全室が空気で満たされる。更に続けて空気を送り込むと、船体の前進により余分の空気が隔壁5をオーバーフローして隣接する後方の空気溜に送り込まれ、後方の空気溜を空気で満たす。このようにし順次後方の空気溜を空気で満たし、全ての空気溜を空気で満たし、空気層を形成する。隔壁5は空気の縦方向の移動を完全に阻止するよりも、上記の如く、常に所定量の空気が後方の空気溜に気泡状となつてオーバーフローするように構成すれば、船体が摩擦抵抗の少ない気泡群の上を滑走するような状態となるので隔壁の水に対する抵抗をより少なくできるものである。
・・・
隔壁5の水に対する抵抗をより少なくする為には、オーバーフローする空気量を増加させればよいが、オーバーフローさせる空気の量が多ければ多い程、より多くの空気を空気溝4に供給する必要があるので、空気の供給量がそれ程多くなく、しかも隔壁の抵抗が少ないように船体の形状、安定性、速度等を考慮して隔壁5の深さと数と形状と取付個所とを決定する。」

(1c)(3頁右下欄5行?4頁右上欄3行)
「 空気供給手段は、空気溝4内に所要量の空気を送り込む圧縮器7(本明細書において圧縮器とは送風機を含む広い意味に使用する)と、この圧縮器7を駆動するエンジンと、該圧縮器7に給気管8と逆止弁とを介して連結された空気吹出部材9とからなる。
・・・
空気吹出部材9は、第1図に示すように、空気溝4前部に配設され、隔壁5により分割された最先端の空気溜6にのみ空気を供給し、船舶の航走により隔壁5をオーバーフローした空気を順次後方に移動させ、空気溜6全体に空気を充満する。このように縦区分された最前端の空気溜6にのみ空気を供給すれば、船の進行によって、順次後方の空気溜を補給できるので、供給された空気は極めて有効に利用される。但し、本発明は最先端の空気溜にのみ空気を供給するものに限定するものではなく、必要に応じて数個所に給気することもある。」

(1d)
引用文献1には、以下の図が記載されている。
第1図

第2図

第7図

(1e)
引用文献1の第1図及び第2図(摘示(1d))から、以下の各点が看取される。
「船舶1は平底の船であって、船底外板2は平坦である」
「隔壁5は船舶1の長手方向に直角に延在している」

(1f)
引用文献1の第7図(摘示(1d))から、以下の点が看取される。
「隔壁5はリッジ状の形状を有している」

上記(1a)?(1f)の記載事項等を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>

「船舶1は、平底の船であって、船底外板2は平坦であり、
前記船底外板2表面に船体の進行方向、即ち縦方向に少なくとも2本の整流壁3が固定されて空気溝4が形成されており、かつこの空気溝4には空気供給装置により所要量の空気が供給されるように構成され、
前記整流壁3は、所要の幅を有する真直な板状に形成され、所定の間隔で前記船底外板2にお互いに平行に固定され、
隔壁5は、リッジ状の形状を有し、前記整流壁3により前記船底外板2表面に形成される前記空気溝4を縦に区分して複数個の空気溜6を形成するとともに、船体に対して横方向にお互いが平行となるように、両端が前記整流壁3に固定され、その高さはなるべく前記整流壁3よりも多少浅く形成され、船舶1の長手方向に直角に延在しており、
空気供給手段は、前記空気溝4内に所要量の空気を送り込む圧縮器7と、この圧縮器7を駆動するエンジンと、該圧縮器7に給気管8と逆止弁とを介して連結された空気吹出部材9とからなり、最先端の前記空気溜6にのみ空気を供給するものに限定するものではなく、必要に応じて数個所に給気し、
常に所定量の空気が後方の前記空気溜6に気泡状となつてオーバーフローするように構成し、船体が摩擦抵抗の少ない気泡群の上を滑走するような状態となり、前記隔壁5の水に対する抵抗をより少なくできる
船舶1」

2 引用文献4の記載事項

原査定で引用された引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

(2a)
「【0098】
すなわち、本発明者は、高さh、幅w、フィンの数の組み合わせを変えた複数の乱流摩擦抵抗低減装置1を用意した。そして、本発明者は、これら複数の乱流摩擦抵抗低減装置1を、x=410mmの位置に配置したスタッド21から50mm下流に順次配置させ、x=510mmの位置における流速変動をそれぞれ測定した。このような各種各様の乱流摩擦抵抗低減装置1の測定結果を全て示すのは紙面の関係上困難であるので、ここでは、代表的な5つの例の乱流摩擦抵抗装置1の測定結果のみ示すことにする。
・・・
【0105】
次に、本発明者は、高さh=12mm、幅w=50mmの寸法を有し、h1=3mmの位置にフィンf1を、h2=3mmの位置にフィンf2を、h3=3mmの位置にフィンf3を、h4=3mmの位置にフィンf4をそれぞれ有する乱流摩擦抵抗低減装置1を第5の例として用意した。そして、本発明者は、当該第5の例の乱流摩擦抵抗低減装置1をスタッド21から50mm下流に配置させ、x=510mmの位置における流速変動を求めた。その結果、変動実効値U_(rms)が主流速度U_(∞)の0.56%の流速変動が求められた。したがって、乱流摩擦抵抗低減装置1の高さhを変えなくても、幅wを大きくすることにより、流速変動がさらに抑制されることが分かった。第5の例の乱流摩擦抵抗低減装置1を用いた場合、流速変動の最大値(変動実効値U_(rms)が主流速度U_(∞)の0.56%)が求められた局所的な領域以外では、流速変動は、層流境界層内の乱れ強さと同程度の流速変動(変動実効値U_(rms)が主流速度U_(∞)の0.2%)にまで抑制された。したがって、第5の例の乱流摩擦抵抗低減装置1を用いることにより、流速変動は十分に抑制されることが分かった。
【0106】
以上の知見により、乱流摩擦抵抗低減装置1の最適な寸法は、高さhと幅wの組み合わせが高さh=12mm、幅w=50mmであることが判明した。これは、暫定的な寸法と一致している。このことは、暫定的な寸法を決定した理由は、最適な寸法を決定する理由としてそのまま採用できることが、上述の検証実験により検証されたことを意味する。」

(3)引用文献5の記載事項

原査定で引用された引用文献5には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(3a)
「【0016】空気抜き開口14は、ウオータージェット用取水口9よりも前方で、特にウオータージェット用取水口9の前方の位置を空気抜き開口14の後端とし,しかも船底キール2部の下端部からの高さH(mm)が、H=約50?300(mm)、空気抜け開口14のウオータージェット用取水口9からの前後方向の距離L(m)が、船体の最大速度をV(knot) としたときの値Vに対して、L=約0.5・V(m)以上となるように設定することが適当である。
【0017】すなわち、一方で、空気室5の内側から空気室5の外側へ漏れた空気が気泡15となってウオータージェット用取水口9のある後方へと流れてくる場合に、気泡15が、ウオータージェット用取水口9から約300mm以上の上方の位置を通過すればウオータージェット取水口への混入は避けることができることが分かった。」

第5 対比・判断

1 本願発明1について

(1)対比

本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 「船舶」で「人あるいは貨物を輸送する」ことは技術常識であること、及び、引用発明の「船舶1」が「平底の船」であることから、引用発明の「船舶1」は、本願発明1の「平底の船」に相当するとともに「人あるいは貨物を輸送する」構成をも有しているといえる。

イ 引用発明の「隔壁5」は、「船底外板2」に固定され、「船舶1の長手方向に直角に延在して」おり、「複数個の空気溜6を形成するとともに、船体に対して横方向にお互いが平行となるように」構成されていることから、図1(摘示(1d))の記載も参酌すれば、「隔壁5」は、少なくとも2以上はあるといえる。
そうすると、引用発明のかかる構成を有する「隔壁5」と、本願発明1の「当該船の長手方向に直角に延在する2以上の乱流部材で、船の移動中、船の底に、当該乱流部材の下流に乱流を有する領域を発生させるための乱流部材」とを対比すると、両者は、「船の長手方向に直角に延在する2以上の部材」の限度で共通する。

ウ 引用発明の「空気供給手段」は、「空気溝4内に所要量の空気を送り込」んでいるから、図1(摘示(1d))の記載をも参酌すれば、「空気溝4を縦に区分して」いる「隔壁5」の近くに気流を噴射しているといえる。
そうすると、引用発明の「空気供給手段」と、本願発明1の「上記乱流部材にあるいはその近くに気流を噴射するための、各乱流部材用の空気インジェクター」とを対比すると、両者は、「部材にあるいはその近くに気流を噴射するための、部材用の空気インジェクター」の限度で共通する。

エ 引用発明の「整流壁3」は、「船底外板2表面に船体の進行方向、即ち縦方向に少なくとも2本」「固定されて空気溝4が形成されて」いるから「船舶1」のキールを構成しているといえる。
そして、「所要の幅を有する真直な板状に形成され、所定の間隔で船底外板2にお互いに平行に固定され」、「隔壁5」の「両端が整流壁3に固定され」ていることから、「整流壁3」は、「隔壁5」の両側に隣接する構成を有しているといえる。
そうすると、上記ア?ウの相当関係を踏まえれば、引用発明のかかる構成を有する「整流壁3」と、本願発明1の「上記乱流部材の両側に隣接したキール」とを対比すると、両者は、「部材の両側に隣接したキール」の限度で共通する。

オ 引用発明の「隔壁5」は、「リッジ状の形状を有し」ているとともに、「空気溜6」を形成することから、「船底外板2」に保密的に固定されているといえる。
そうすると、上記イ及びエの相当関係を踏まえると、引用発明の「隔壁5」は、本願発明1の「キール間で船の底に保密的に取り付けられたリッジであ」る構成を有しているといえる。

カ 引用発明の「隔壁5」、「空気供給手段」及び「整流壁3」は、「常に所定量の空気が後方の前記空気溜6に気泡状となつてオーバーフローするように構成し、船体が摩擦抵抗の少ない気泡群の上を滑走するような状態となり、前記隔壁5の水に対する抵抗をより少なくできる」ための構成であるといえるから、上記イ?エの相当関係を踏まえると、引用発明の「隔壁5」、「空気供給手段」及び「整流壁3」が、本願発明1の「船の底に取り付けられた抵抗低減システム」に相当するといえる。

キ 引用発明の「船底外板2」は「平坦」であり、引用文献1には、「船底外板2」にキャビティを設けることは記載されていないから、引用発明の「船舶1」は、本願発明1の「船の底はキャビティがない平坦」である構成を有しているといえる。

上記ア?キを踏まえると、本願発明1と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。

<一致点>
人あるいは貨物を輸送する平底の船であって、
船の底に取り付けられた抵抗低減システムを備え、この抵抗低減システムは、
当該船の長手方向に直角に延在する2以上の部材と、
上記部材にあるいはその近くに気流を噴射するための、部材用の空気インジェクターと、
上記部材の両側に隣接したキールと、を備え、
ここで、船の底はキャビティがない平坦であり、部材はキール間で船の底に保密的に取り付けられたリッジである、
船。」

<相違点1>
「部材」に関し、本願発明1は、「乱流部材」であり、「船の移動中、船の底に、当該乱流部材の下流に乱流を有する領域を発生させるため」の構成であるとともに、「船の底から2.5?25mmで延在」していることに加え、本願発明1の「キール」は、「船の底から実質的に同じ高さまで延在し、この高さは0.05?0.30mの範囲にある」のに対し、引用発明の「隔壁5」及び「整流壁3」は、かかる特定がされていない点。

<相違点2>
「空気インジェクター」に関し、本願発明1の「空気インジェクター」は、「各乱流部材」に設けられているのに対し、引用発明の「空気供給手段」は、かかる特定がされていない点。

(2)相違点についての判断

上記相違点1について検討する。
本願発明1の「乱流部材」は、その下流において「船の移動中、船の底に、」「乱流を有する領域を発生させるため」の構成であり、「キール」の高さが「0.05?0.30mの範囲にある」場合に、「船の底から2.5?25mmで延在」するものである。
一方、引用文献1の摘示(1a)及び摘示(1b)の記載によれば、引用発明の「隔壁5」は、「空気溜6」を形成し、「全ての空気溜を空気で満たし、空気層を形成する」ことによって、「船底外板2と水との接触面積を極力少なくする」ことを目的とした構成であり、さらに、「隔壁5は空気の縦方向の移動を完全に阻止するよりも、・・・常に所定量の空気が後方の空気溜に気泡状となつてオーバーフローするように構成すれば、船体が摩擦抵抗の少ない気泡群の上を滑走するような状態となるので隔壁の水に対する抵抗をより少なくできる」という点に着目して、「その高さはなるべく整流壁3よりも多少浅く形成され」ているものである。
すなわち、本願発明1の「乱流部材」と引用発明の「隔壁5」は、設置の目的を異とする構成であり、その目的の違いに基づき、本願発明1の「乱流部材」と「キール」の高さの相対関係と、引用発明の「隔壁5」と「整流壁3」の高さの相対関係とが異なっているといえる。
そして、本願発明1の「乱流部材」の高さが最大で船の底から「25mm」であり、「キール」の高さが最小でも「0.05m(50mm)」であるから、「乱流部材」の船の底からの高さは、「キール」の半分しかないところ、引用発明において、「整流壁3」と「隔壁5」の相対関係をかかる関係にすることは、「隔壁5」の高さを「なるべく整流壁3よりも多少浅く形成する」ことと相反しており、上述した目的の違いを考慮すると、そのように設計変更することは当業者が容易になし得たことということはできない。
また、引用文献4及び5には、引用発明において、上記相違点1にかかる構成を採用することを示唆する記載は認められず、引用文献4及び5に記載された事項等を考慮しても、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明1の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことということはできない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明、引用文献4及び5に記載の事項に基き、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2?13について

本願発明2?12は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものであり、本願発明13は、本願発明1の発明特定事項を全て含む平底の船の底にて少なくとも1つの空気キャビティの長さを制御するための方法であるから、本願発明1と同様の理由から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-03-25 
出願番号 特願2016-534203(P2016-534203)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B63B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 加藤 信秀  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 中川 真一
仁木 学
発明の名称 平底船、及び少なくとも1つの空気キャビティ長さの制御方法  
代理人 中野 晴夫  
代理人 山田 卓二  

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