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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02C
管理番号 1350167
審判番号 不服2017-5576  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-19 
確定日 2019-03-20 
事件の表示 特願2014-545429「眼科用フィルタ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月13日国際公開,WO2013/084177,平成27年 3月 5日国内公表,特表2015-507217〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,2012年12月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年12月8日,欧州特許庁)を国際出願日とする外国語特許出願であって,平成26年8月6日に国際出願日における明細書,請求の範囲及び図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文が提出され,平成28年8月24日付けで拒絶理由が通知され,同年11月30日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年12月14日付けで拒絶査定がなされたものである。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成29年4月19日に請求されたものであって,当審において,平成30年2月20日付けで拒絶理由が通知され,同年8月27日に意見書及び手続補正書が提出された。


2 請求項1に係る発明
本件出願の請求項1ないし4に係る発明は,平成30年8月27日提出の手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって特定されるものと認められるところ,請求項1の記載は次のとおりである。

「使用者の光デバイスのための選択的光学フィルタリング手段の構成を決定する方法であって,
前記使用者のために,阻止されるべき少なくとも1つの波長範囲及び前記少なくとも1つの波長範囲の阻止の程度を特徴付ける第1セットのパラメータを提供するステップと,
阻止されるべき入射光の少なくとも1つの選択波長範囲及び阻止率を,前記第1セットのパラメータに基づき決定するステップと,
前記使用者のために,前記少なくとも1つの選択波長範囲の外側における前記可視スペクトルの入射光の透過率の程度を特徴付ける第2セットのパラメータを提供するステップと,
前記第2セットのパラメータに基づき透過率を決定するステップと,
選択的光学フィルタリング手段を,前記決定された少なくとも1つの選択波長範囲と,前記阻止率と,前記透過率とに基づき,前記選択的光学フィルタリング手段が,入射光の前記少なくとも1つの選択波長範囲の透過を前記決定された阻止率において阻止するように動作可能であり,且つ前記少なくとも1つの選択波長範囲の外側における前記可視スペクトルの入射光を前記決定された透過率において透過するように動作可能であるように構成するステップと,
を含み,
前記第1セットのパラメータは,予め,獲得された,前記使用者が眼の劣化に罹患する,又は,緑内障,糖尿病性網膜症,レーバー遺伝性視神経症,加齢黄斑変性(AMD),スタルガルド病,網膜色素変性又はベスト病の変性過程に起因する眼の劣化から保護される前記使用者の生理学的パラメータを含み,
前記第2セットのパラメータは,必要とされる日光からの保護のレベルを含む,前記光デバイス用のパラメータである方法。」(以下,当該請求項1に係る発明を「本件発明」という。)


3 当審において通知された拒絶理由の概要
当審において平成30年2月20日付けで通知された拒絶理由は,概略次の理由(以下,「当審拒絶理由」という。)を含んでいる。

請求項1に係る発明(平成30年8月27日提出の手続補正書による補正前の請求項1)は,引用文献1に記載された発明,引用文献2,3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2003-337308号公報
引用文献2:特表平1-501172号公報
引用文献3:特表2010-501256号公報


4 引用例
(1)引用文献1
ア 引用文献1の記載
当審拒絶理由で引用された引用文献1(特開2003-337308号公報)は,本件出願の優先権主張の日(以下,「本件優先日」という。)より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献1には次の記載がある。(下線部は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,眼鏡レンズ発注システム,眼鏡レンズ受注システム,眼鏡レンズ提供システム,眼鏡レンズ発注プログラム,眼鏡レンズ受注プログラムに関する。
【0002】
【従来の技術】従来,眼鏡レンズは,処方度数から,レンズメーカーのセミ材料作成の都合や光学性能を考慮した上で設計が決定されて製造されてきた。近年,眼鏡装用者の使用状況等を考慮し,カスタムメイド的なレンズ作成手法も提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,いずれのケースも装用時の見え方による処方重視の設計であり,眼鏡のデザインを重視したものではなかった。そのため,レンズと眼鏡枠を一体にしたとき,眼鏡枠のデザインイメージを損なうことがあった。
【0004】本発明は,眼鏡のデザインに適した眼鏡レンズの提供を可能とする眼鏡レンズ発注システム,眼鏡レンズの受注システム,眼鏡レンズの提供システム,眼鏡レンズの発注プログラム,眼鏡レンズの受注プログラムを提供する。
【0005】
【課題を解決するための手段】・・・(中略)・・・請求項6の発明は,眼鏡レンズ発注情報を入力するための眼鏡レンズ発注用画面を表示装置に表示する表示手順と,眼鏡レンズ発注用画面を使用した眼鏡レンズ発注情報の入力を受け付ける入力手順と,入力手順により入力された眼鏡レンズ発注情報を眼鏡レンズ受注システムへ送信する送信手順とをコンピュータに実行させるための眼鏡レンズ発注プログラムに適用され,眼鏡レンズ発注情報はデザイン情報を含み,表示手順は,眼鏡レンズ発注用画面にデザイン情報が指定できる領域を表示するものである。請求項7の発明は,眼鏡レンズ発注システムから眼鏡レンズ発注情報を受信する受信手順と,受信した眼鏡レンズ発注情報に基づいて眼鏡レンズの加工情報を生成する加工情報生成手順とをコンピュータに実行させるための眼鏡レンズ受注プログラムに適用され,眼鏡レンズ発注情報はデザイン情報を含み,加工情報生成手順は,デザイン情報を含む眼鏡レンズ発注情報に基づき眼鏡レンズの加工情報を生成するものである。」

(イ) 「【0006】
【発明の実施の形態】図1は,本発明の眼鏡レンズ提供システムの一実施の形態を示す図である。符号1は眼鏡店に設置された眼鏡レンズ発注システムであり,通常パーソナルコンピュータより構成される。眼鏡レンズ発注システム1は,後述する所定の発注用プログラムがインストールされ実行される。符号2は,レンズメーカの計算センタに設置されたコンピュータであり,受注処理および眼鏡レンズの加工データの演算,光学性能の演算を行う。いわゆる受注システムである。
【0007】符号3は,レンズメーカの加工工場に設置されたコンピュータであり,眼鏡レンズを加工する加工機4が接続される。コンピュータ3は,計算センタのコンピュータ2からの加工データを受信し,加工機4に加工データを送信する。加工機4は,加工データに基づき眼鏡レンズを加工する。符号5は,眼鏡レンズ発注システム1とコンピュータ2とコンピュータ3を結ぶ通信回線であり,本実施の形態ではインターネットを利用する。
【0008】-眼鏡店での処理-
本実施の形態では,顧客が度付サングラスを発注する場合について説明する。顧客はまず眼科医で視力等の検査を行い眼鏡処方箋をもらい,眼鏡店に来店する。眼鏡店で視力チェック等をする場合もある。次に,顧客は眼鏡店でサングラス用眼鏡フレームを選択し,眼鏡レンズの商品名等を選択する。その後,眼鏡店は眼鏡レンズ発注システム1を使用して所定の入力をする。
【0009】図2は,眼鏡レンズ発注システム1の発注用プログラムのフローチャートを示す図である。ステップS1で,眼鏡レンズ発注システム1は,眼鏡レンズの商品名や処方情報等を入力する発注画面をモニタに表示する。
【0010】図3は,発注画面の一例を示す図である。レンズ情報項目101では,注文するレンズ商品名,球面度数(S度数),乱視度数(C度数),乱視軸度,加入度数,プリズムなどのレンズ注文度数に関連する項目を入力する。加工指定情報項目102は,注文レンズの外径を指定する場合や,任意点厚さを指定する場合に利用される。染色情報項目103は,レンズの色を指定する場合に利用される。アイポイント情報104は,眼鏡装用者の目の位置情報を入力する。フレーム情報項目105では,フレームモデル名,フレーム種別等を入力する。
【0011】レンズデザイン項目106は,レンズデザインに関する情報を入力することができる領域である。ここはプルダウンメニュー方式になっており,三角マークをクリックすると,指定なし107,サングラスタイプ108,デザイン図参照109が表示され,ワンクリックで選択することができる。
【0012】眼鏡店は,図3の発注画面で所定の情報を入力し,送信ボタン(不図示)をクリックする。送信ボタンのクリックにより,図2のフローチャートはステップS2に進む。ステップS2では,図3の発注画面による入力項目を取得する。ステップS3で,眼鏡レンズ発注システム1は,レンズメーカの計算センタに設置されたコンピュータ2に,眼鏡レンズの発注が可能かどうかを問い合わせる。具体的には,入力項目を送信し,入力項目に基づく眼鏡レンズの発注が可能かどうかを問い合わせる。
【0013】ステップS4では,コンピュータ2からの問い合わせ結果を受信し眼鏡レンズ発注システム1のモニタに表示する。顧客は,その表示内容を見て発注するか否かを判断し,発注する場合には発注ボタン(不図示)をクリックする。発注ボタンがクリックされると,フローチャートはステップS5に進む。ステップS5では,再度発注画面で入力された項目と発注する旨の情報をコンピュータ2に送信する。
【0014】レンズデザイン項目106で,デザイン図参照109が選択されると,眼鏡レンズ発注システム1のモニタ上に,眼鏡レンズの複数のカーブデザイン画像を表示し選択させるようにする。これは,サングラスといっても種々のデザインがあり,眼鏡レンズのカーブも顧客の好みによって変化する場合もあるので,これに対応するためである。
【0015】このように,顧客がサングラス用眼鏡レンズを注文したい場合,眼鏡店において,サングラスのデザインに適した眼鏡レンズの発注が容易な操作でできる。また,デザイン図を参照する場合でも,視覚的に眼鏡レンズのカーブを把握できるので,操作が簡単容易である。
【0016】-レンズメーカ計算センタでの処理-
次に,レンズメーカ計算センタのコンピュータ2の処理について説明する。図4は,コンピュータ2の受注用プログラムのフローチャートを示す図である。ステップS11で,眼鏡レンズ発注システム1が送信した(図2,ステップS3)問い合わせデータを受信する。ステップS12で,受信した処方情報等の問い合わせデータに基づきレンズ設計光学性能の演算などを行う。ステップS13で,レンズ設計結果や光学性能の演算結果などを問い合わせの回答として眼鏡レンズ発注システム1に送信する。
【0017】ステップS12では,サングラスタイプが指定されているか否かを判断し,サングラスタイプが指定されている場合は,サングラスに適したレンズカーブ(例えばレンズカーブ6)を指定してレンズ設計をする。もし,サングラスに適したレンズカーブを指定して適正な光学性能が得られない場合には,ステップS13で,サングラスタイプが適正範囲外である旨を回答する。すなわち,入力された処方情報等に基づいて,サングラスに適したレンズカーブの眼鏡レンズを製造できない旨回答する。
【0018】ステップS14で,眼鏡レンズ発注システム1が送信した(図2,ステップS5)発注データを受信する。ステップS15で,発注された眼鏡レンズはサングラスタイプか否かを判断する。すなわち,眼鏡レンズ発注システム1の発注画面のレンズデザイン項目106で,サングラスタイプ108が選択されているか否かを判断する。サングラスタイプであると判断するとステップS16に進む。ステップS16では,サングラスタイプ眼鏡レンズの加工データを生成する。ステップS12でのレンズ設計データや光学性能の演算結果を使用して加工データを生成する。従って,サングラスタイプが指定されている場合,サングラスに適したレンズカーブの加工データを生成する。
【0019】一方,ステップS15で,発注された眼鏡レンズはサングラスタイプでないと判断するとステップS17に進む。ステップS17では,サングラスタイプでない通常の眼鏡レンズの加工データを生成する。ステップS18で,ステップS16あるいはステップS17で生成された加工データをレンズメーカの加工工場に設置されたコンピュータ3に送信する。
【0020】-レンズメーカ加工工場での処理-
図5は,レンズメーカ加工工場での処理工程のフローチャートを示す図である。・・・(中略)・・・
【0023】ステップS24で加工研磨が終了すると,ステップS25の染色の工程に進む。ステップS25では,発注画面で入力された染色情報103に基づき眼鏡レンズを染色する。次のステップS26では,ハードコート,反射防止膜,撥水膜等の表面処理をする。場合によっては,ハードコートの前に耐衝撃コートを設ける処理をする。表面処理が終了すると,眼鏡レンズを再度加工機4に取りつけ,ステップS27で所定の縁摺り加工等を行い,眼鏡レンズを眼鏡フレームに装填できる形状に加工する。このとき,眼鏡フレームに応じて,レンズ端面を,ヤゲン加工,溝堀加工,平面加工などをする。ステップS28で所定の出荷検査を行い発注先の眼鏡店へ出荷する。
【0024】眼鏡店では,全ての加工が終了した眼鏡レンズをレンズメーカから受け取り,眼鏡店にある顧客が選択した眼鏡フレームにはめ込み顧客に納品する。」

(ウ) 「【0032】
【発明の効果】本発明は,以上説明したように構成しているので,例えばファッション性の強い眼鏡のデザイン性を損なわず,そのデザインに適した眼鏡レンズを,容易な操作で発注ができ顧客に提供することができる。特に,サングラスタイプの場合,サングラスに適したレンズカーブで眼鏡レンズが提供できる。」

(エ) 「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の眼鏡レンズ提供システムの一実施の形態を示す図である。
・・・(中略)・・・
【図3】発注画面の一例を示す図である。
・・・(中略)・・・
【図1】

・・・(中略)・・・
【図3】



イ 引用文献1に記載された発明
引用文献1の図3から,当該図3に示された発注画面において,染色情報として,染色カラー,染め方及び濃度を指定する領域が存在することを看取できるところ,【0023】の記載から,当該染色カラー,染め方及び濃度が,眼鏡レンズを染色する際の情報であることが理解される。
しかるに,前記ア(ア)ないし(エ)で摘記した引用文献1の記載から,眼鏡店に設置された眼鏡レンズ発注システム1と,レンズメーカの計算センタに設置されたコンピュータ2とを用いて,眼鏡レンズの加工情報を生成する方法であって,眼鏡レンズ発注情報を入力するためにモニタに表示される眼鏡レンズ発注用画面として,図3に示された発注画面を用いる方法についての発明を把握することができるところ,当該発明の構成は,次のとおりである。

「眼鏡店に設置された眼鏡レンズ発注システム1と,レンズメーカの計算センタに設置されたコンピュータ2とを用いて,眼鏡レンズの加工データを生成する方法であって,
前記眼鏡レンズ発注システム1が,眼鏡レンズの商品名や処方情報等を入力する発注画面をモニタに表示するステップS1と,
顧客が選択したサングラス用眼鏡フレーム及び眼鏡レンズの商品名や,顧客の眼鏡処方箋等に基づいて,眼鏡店が前記発注画面で所定の情報を入力し,送信ボタンをクリックすることにより,前記眼鏡レンズ発注システム1が,前記発注画面による入力項目を取得するステップS2と,
前記眼鏡レンズ発注システム1が,前記コンピュータ2に,入力項目を送信し,入力項目に基づく眼鏡レンズの発注が可能かどうかを問い合わせるステップS3と,
前記コンピュータ2が,前記眼鏡レンズ発注システム1から送信された問い合わせデータを受信するステップS11と,
前記コンピュータ2が,受信した前記問い合わせデータに基づきレンズ設計データや光学性能の演算等を行うステップS12と,
前記コンピュータ2が,前記演算の結果等を問い合わせの回答として眼鏡レンズ発注システム1に送信するステップS13と,
前記眼鏡レンズ発注システム1が,前記コンピュータ2からの問い合わせ結果を受信し,モニタに表示するステップS4と,
発注ボタンがクリックされると,前記眼鏡レンズ発注システム1が,再度発注画面で入力された項目と発注する旨の発注データを前記コンピュータ2に送信するステップS5と,
前記コンピュータ2が,前記眼鏡レンズ発注システム1から送信された前記発注データを受信するステップS14と,
前記コンピュータ2が,発注データにおいてサングラスタイプが選択されているか否かによって,発注された眼鏡レンズがサングラスタイプか否かを判断するステップS15と,
前記ステップS15において,サングラスタイプであると判断すると,前記コンピュータ2が,前記ステップS12でのレンズ設計データや光学性能の演算結果を使用して,サングラス用の眼鏡レンズの加工データを生成するステップS16と,
前記ステップS15において,サングラスタイプでないと判断すると,前記コンピュータ2が,サングラスタイプでない通常の眼鏡レンズの加工データを生成するステップS17と,
を有し,
前記ステップS1においてモニタに表示される発注画面には,レンズ情報項目101と,加工指定情報項目102と,染色情報項目103と,アイポイント情報項目104と,フレーム情報項目105と,レンズデザイン項目106が表示され,
前記レンズ情報項目101は,注文するレンズ商品名,球面度数,乱視度数,乱視軸度,加入度数,プリズム等のレンズ注文度数に関連する項目を入力するための領域であり,
前記加工指定情報項目102は,注文レンズの外径や任意点厚さを指定するための領域であり,
前記染色情報項目103は,眼鏡レンズを染色する際の染色カラー,染め方及び濃度を指定するための領域であり,
前記アイポイント情報項目104は,眼鏡装用者の目の位置情報を入力するための領域であり,
前記フレーム情報項目105は,フレームモデル名,フレーム種別等を入力するための領域であり,
前記レンズデザイン項目106は,レンズデザインに関する情報である,指定なし107,サングラスタイプ108及びデザイン図参照109のいずれかを選択するための領域である,
眼鏡レンズの加工データを生成する方法。」(以下,「引用発明」という。)

(2)引用文献2
ア 引用文献2の記載
当審拒絶理由で引用された引用文献2(特表平1-501172号公報)は,本件優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献2には次の記載がある。(下線部は,後述する引用文献2記載事項の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「(技術分野)
本発明は,サングラスレンズの全般的分野に間し,さらに詳細には水平に偏光された光を阻止する偏光子と青色光及び紫外線放射を阻止する敏感なカットオンフィルタ(sharp cut-on filter)とを組み合わせたレンズに関するものである。
(背景技術)
周知のように,光の形で放射されたエネルギーはある種の光化学反応を誘発又は/及び助長する能力があり,かつそれぞれの光化学反応は種々の波長をもった光線(または光子)の作用によって誘発される。ある波長の光,特に青色及び紫外線領域の光は,目に対して有害であることが知られている。
染色レンズは,処方付きまたは処方無しのサングラスと共に用いると,2つの機能の1つ,すなわち第1の機能である有害光及び放射を選択的に又は全体的に減少させるという機能を果たすように基本的には企図されている。この目的のために染色されたレンズは,保護レンズとして知られている。保護レンズは有害な波長を反射又はより一般的には吸収によって阻止する。第2の機能は,美容的な要求をみたしファッション色調と呼ばれるレンズによって果たされる。上記両方の要求をみたす組み合わせ染料もまた利用できる。
現在の技術において,青色及び紫外線波長を阻止する保護レンズは存在し,かつ水平に偏光された入射光を阻止する個別の偏光レンズは存在する。しかし,偏光レンズと青色及び紫外線阻止レンズとの組み合わせは,1986年にレチニチス ピグメントサ インターナショナル(Retinis Pigmentosa International)によって発行されたレンズのリスト及び広告印刷物の調査によって確認したところによると,現在でも使用されていない。このような組み合わせレンズが使用されていないのは,一部は,目の網膜に対する青色光の有害性についてサングラス会社が行った研究が少ないこと,及び温度に敏感な偏光フィルムを染料と組み合わせるときに遭遇する技術的問題に帰因する。」(3ページ右上欄3行ないし左下欄6行)

(イ) 「(発明の開示)
紫外線放射と青色光を阻止する偏光レンズは,主として,水平に偏光した光を阻止し,300?549nmの選択された波長を選択的に阻止し,かつ625nm以上の波長の30?40%を通過させるためにサングラス用として設計されている。この選択的阻止は,450,500,515,530又は550nmにおいてカットオンするように選択された鋭敏なカットオンフィルタによって調節される。大気は300nmよりも短い波長を阻止する。したがって,安全のためには300nmよりも長い波長のみを阻止することが必要である。
・・・(中略)・・・
網膜の機能損傷は,露出の特別の時間的スケールに対する損傷に対してのいき値と関連している。網膜障害に対するいき値は,夜視力損害に対するよりも高いイラジアンス(irradiance)においてであり,又は長い時間的スケールに対する。
研究者によって定量的に証明されたこの低度のイラジアンス,長期間損傷は,所与の波長に対して,露出時間が長ければ小さなイラジアンスが損傷を引き起こし,所与のイラジアンスに対しては,露出時間が長ければ長い波長が損傷を生ずることを示している。・・・(中略)・・・
高エネルギー可視(青色及び紫色)及び紫外(UV)光子による損傷は,細胞物質(cellular materials)が光子によって突き当てられたときに作られる活性分子の形成による1回復メカニズムは高度活性分子を細胞物質と反応させることなしに,輸送しより低活性の形態に変換させることを含む。損傷した分子を除去するライソソマル(lysosomal)酵素系統はいき値以下(sub-threshold)の損傷程度を処理することができる。しかし,いき値を超えると,活性分子が細胞物質及び酵素と反応するので,損傷した分子が累積し細胞の機能を損傷させる結果となる。この「いき値依存の」(threshold dependent)損傷は,再生過程と関連するリボフスチンの「正常な」(normal)累積を超えるものであろう。したがって,網膜に対する長期損傷を制限するためにいき値以下にとどまることが得策である。
・・・(中略)・・・従来のサングラスにとってグリントをいき値以下の水準にまで減少させるためには,レンズを視力のためにはほとんど役に立たなくなるほど濃くしなければならないであろう。・・・(中略)・・・
このために,青色光阻止は望ましいものであるが,網膜がよく保護されている限り,必ずしも過度にすべきではない。青色光阻止の網膜に対する有益性は非常によく立証されているので,ある程度の青色光阻止は望ましい。理想的な状況はグリントが除かれる所にあり,これによって照明は比較的に均一となる。これらの状態のもとで,すべての網膜細胞をいき値以下に保ちながら,最少の青色光が阻止される。
したがって,300?450nmを選択的に阻止し,450?550nmの敏感なカットオンフィルタと偏光子を備えたレンズの領域が,各個が広い範囲の環境条件のもとで,十分な保護をするために適切な量の短波長を阻止するように選択された。」(3ページ右下欄23行ないし5ページ右下欄19行)

(ウ) 「(図面の簡単な説明)
第1図は本発明による5本のスペクトル曲線及び各曲線の阻止帯,過渡帯,及び透過帯内における位置を示すグラフである。
・・・(中略)・・・
第3図は種々の組み合わせ染料,所望の特定のカットオン波長を与えるために必要とする時間と温度,及び各レンズの推奨用途を示す表である。」(8ページ左下欄3ないし10行)

(エ) 「(発明を実施するための最良の形態)
本発明の紫外線放射及び青色光阻止偏光レンズ12を実施するための最良の形態は,まず第1に1対のサングラスに取り付けるために設計された好ましい形態によって示されている。レンズ12は,水平に偏光された光を実質的に阻止し,電磁スペクトルにおける300?549nm間にある波長を選択的に阻止し,かつ同スペクトルの可視部分における625nmより長い波長の30?40%を透過することを許す選択的阻止は,450,500,515,530,又は550nmのいずれかにおいてカットオンするために選択された鋭敏なカットフィルタによって調節される。より短い波長の大気による吸収のために,300nmより長い波長のみ阻止される必要がある。
以下の開示中のレンズ12は,種々の術語と関係している。本発明の理解を容易にするために,これらの術語を最初に定義する。
・・・(中略)・・・
*実質的に阻止すること(Substantially blocking) 波長に関して用いられる場合には,ことごとくの波長において入射放射の99%以上を阻止するか,又は入射放射の1%以下を透過することと定義される。偏光に関して用いられる場合には,ことごとくの波長において水平に偏光された入射放射の80%又はそれ以上を阻止することと定義される。
・・・(中略)・・・
本発明のレンズ12の阻止特性は,水平偏光フィルム16と組み合わせて用いられる敏感なカットオンフィルタ14によって達成される。フィルタ14の機能は,本発明のスペクトル曲線を開示する第1図を参照することによってよく理解される。
同スペクトル曲線は,阻止帯,過渡帯,及び透過帯に分けられている。曲線は450,500,515,530,及び550nmにおける敏感なカットオンフィルタを有する一族のサングラスレンズの透過スペクトルを明示している。
もし,450nmにおけるカットオンを有するフィルタ14が選択されると,阻止帯及び透過帯は一族の他のメンバーにも共通している。この場合には,300?449nm間の波長は過渡帯に至るまでに実質的に阻止され,同過渡帯において敏感なカットオンフィルタ14は450nmにおいてカットオンし,透過帯に至るまで急勾配で上昇し,同透過帯においては625nmよりも長い波長の30?40%が透過される。
もし,450nmにおけるカットオン以外のカットオンフィルタが選択されると,阻止帯の範囲は増加する(水平に移動する)。例えば,500nmカットオンフィルタが選択されると,300?499nm間の波長は過渡帯に至るまで及び同帯中で阻止され,同過渡帯中で敏感なカットオンフィルタ14は500nmにおいてカットオンするであろう。同様に,最長の550nmにおけるカットオンは,カットオンフィルタが550nmにおいてカットオンする前に,300?549nm間の波長を阻止するであろう。好ましい態様のすべての場合において,透過帯は,625nm以上において,赤外線領域に及ぶことごとくの波長において30?40%の完全に開かれた(fully open)透過を残す。好ましい態様においては,625nmより長い波長の30?40%が透過される。しかし,625nm点を超える透過帯の透過率は,組み合わせ染料18と偏光フィルム16を適当に選択することによって,10?90%間のどの範囲にでも増加することができる。
・・・(中略)・・・
レンズ12とともに用いるために選択された組み合わせ染料18は,その究極の用途に依存する。根拠があると考えられるすべての問題は,敏感なカットオンフィルタ14を組み込んだ偏光レンズを用いることによって解決された。典型的な問題となる5つの状況が考慮された。すなわち,人命救助員,ボートに乗る人,釣り師,ドライバー,及びパイロットがこれであって,他の数値的,技術的な記載とともに議論を参照して害加重イラジアンスが本発明の開示の項において推論され記載されている。これらのレンズのスペクトルが第1図に示されている。
人命救助員に対する典型的な状況は次のとおりである。すなわち,時刻は正午であり,太陽は天頂にある。人命救助員は3mの曲率半径をもつ波がある水面から8m離れている。害加重イラジアンスは3.27μW/cm^(2)であって,これは日光性網膜炎及び夜視力喪失のそれぞれに対するいき値よりもずっと高い。500カットオンフイルタを用いると,イラジアンスは0.036μW/cm^(2)に低下するが,これは日光性網膜炎に対するいき値よりも低く,夜視力低下に対するいき値よりも高い。これに偏光子を加えると,害加重イラジアンスは0.004μW/cm^(2)まで減少し,これは夜視力喪失のいき値以下である。
ボートに乗る人に対する典型的な状況は次のとおりである。すなわち,時刻は正午であり,太陽は天頂にある。ボートに乗る人は,3mの曲率半径をもつ波がある水面から4.5m離れている。害加重イラジアンスは8.20μW/cm^(2)であって,これは日光性網膜炎及び夜視力喪失のそれぞれに対するいき値よりもずっと高い。515カットオンフイルタを用いると,イラジアンスは0.063μW/cm^(2)に低下するが,これは日光性網膜炎に対するいき値よりも低く,夜視力喪失に対するいき値よりも高い。これに偏光子を加えると,害加重イラジアンスは0.007μW/cm^(2)まで減少し,これは夜視力喪失のいき値以下である。
ドライバーに対する典型的な状況は次のとおりである。すなわち,時刻は正午であり,太陽は天頂にある。ドライバーは,前方にある自動車のガラス窓から5m離れている。ガラス窓は4mの曲率半径をもつ。害加重イラジアンスは39.60μW/cm^(2)であって,これは日光性網膜炎及び夜視力喪失のそれぞれに対するいき値よりもずっと高い。530カットオンフイルタを用いると,イラジアンスは0.24μW/cm^(2)に低下するが,これは日光性網膜炎に対するいき値よりも僅かに高く,夜視力喪失に対するいき値よりもずっと高い。これに偏光子を加えると,害加重イラジアンスは0.002μW/cm^(2)で減少し,これは夜視力喪失のいき値以下である。
釣り師に対する典型的な状況は,次のとおりである。すなわち,時刻は正午であり,太陽は天頂にある。釣り師は,6mの曲率半径をもつ低い波のある水面から6m離れている。害加重イラジアンスは8.20μW/cm^(2)であって,これは日光性網膜炎及び夜視力喪失のそれぞれに対するいき値よりもずっと高い。550カットオンフイルタを用いると,イラジアンスは0.045μW/cm^(2)に低下し,これは日光性網膜炎に対するいき値以下であるが,夜視力喪失に対するいき値よりも高い。これに偏光子を加えると,害加重イラジアンスは0.005μW/cm^(2)まで減少し,これは夜視力喪失のいき値以下である。
最も保護力の強いフィルタは550カットオンである。550カットオンは限界として選択されたが,これは交通信号についての安全に対して必要とされる赤-緑一黄の色の識別を妨げない最大のカットオンであるからである。この交通信号の認識は実験的に定められた。このレンズは,網膜に病気がある,すなわち色素性網膜炎,年齢に関係した黄斑変性(macular degeneration)等のような最大の保護を必要とする人々に対しての1つの選択である。
警官に対する典型的な状況は次のとおりである。すなわち,時刻は正午であり,太陽は天頂にある。ドライバーは,前方にある自動車のガラス窓から5m離れている。ガラス窓は4mの曲率半径をもつ。害加重イラジアンスは39.60μW/cm^(2)であって,これは日光性網膜炎及び夜視力喪失のそれぞれに対するいき値よりもずっと高い,450カットオンフイルタを用いると,イラジアンスはいくらか低下するが,警官が車の色を正確に確認しなければならないという色の真実性に対する要求のために,警官は夜視力喪失及び日光性網膜炎のそれぞれに対するいき値以上にある。しかし,彼は偏光青色阻止レンズを使用しないよりはまだずっと安全である。」(8ページ左下欄下から3行ないし12ページ左下欄4行)

(オ) 「

・・・(中略)・・・



イ 引用文献2に記載された技術事項
前記ア(ア)ないし(オ)で摘記した引用文献2の記載から,引用文献2に次の技術的事項が記載されていると認められる。(なお,便宜上,透過率がカットオンする波長を「カットオン波長」と表現した。)

「450,500,515,530,及び550nmのいずれかの波長が,カットオン波長とされ,300nmから前記カットオン波長より前までの波長領域が,入射放射の1%以下を透過する阻止帯とされ,前記カットオン波長から625nmまでの波長領域が,透過率が急勾配で上昇する過渡帯とされ,625nmより長い可視部分における波長領域が,透過率が10?90%の範囲にある透過帯とされた,目に対して有害な紫外線放射及び青色光を阻止する保護レンズとしての機能を有するサングラスレンズであって,
前記紫外線放射及び青色光による網膜の機能損傷は,所与の波長に対して,露出時間が長ければ小さなイラジアンスが損傷を引き起こし,所与のイラジアンスに対しては,露出時間が長ければ長い波長が損傷を生ずることから,
例えば,
カットオン波長を500nmとしたサングラスレンズは,人名救助員が用いるのに適しており,
カットオン波長を515nmとしたサングラスレンズは,ボートに乗る人が用いるのに適しており,
カットオン波長を530nmとしたサングラスレンズは,ドライバーが用いるのに適しており,
カットオン波長を550nmとしたサングラスレンズは,釣り師や,色素性網膜炎,年齢に関係した黄斑変性のような最大の保護を必要とする人々が用いるのに適しており,
カットオン波長を450nmとしたサングラスレンズは,車の色を正確に確認しなければならないという色の真実性が要求される警官が用いるのに適していること。」(以下,「引用文献2記載事項」という。)

(3)引用文献3
ア 引用文献3の記載
当審拒絶理由で引用された引用文献3(特表2010-501256号公報)は,本件優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献3には次の記載がある。(下線部は,後述する引用文献3記載事項の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【背景技術】
【0002】
白内障及び黄斑変性症は眼球内のレンズ及び網膜がそれぞれ光化学的に損傷する結果であると広く考えられている。青色光に対する露出もまたブドウ膜メラノーマ細胞の増殖を促進することが示されている。可視スペクトルにおける最も活性な光子は380及び500nmの間の波長を有し,紫色又は青色と知覚される。・・・(中略)・・・
【0005】
理論的な観点から次の事項が発生している:
1)色素上皮レベル内部における老廃物の蓄積は,一生を通じて幼児期から出発して発生する。
2)この老廃物を処理するための網膜の代謝活性及び能力は,典型的には年齢と共に減少する。
3)黄斑色素は,典型的には人が年をとるにつれて減少し,それ故より少量の青色光しか濾光除去(filtering out)しなくなる。
4)青色光はリポフスチンが毒性になることを引き起こす。
5)得られる毒性により,色素上皮細胞が損傷される。
【0006】
430±30nmの波長範囲内において仮に約50%の青色光がブロックされると,青色光によって引き起こされる細胞死は最大80%まで減少することが示されている。プラット(Pratt)への米国特許第6,955,430号には,目の健康増進を目的として青色光をブロックするサングラス,眼鏡,ゴーグル及びコンタクトレンズのような外部眼鏡類が記載されている。・・・(中略)・・・
【0012】
青色ブロックするための従来の方法は,カットオフ又はハイパスフィルターを用いて,特定の青色または紫色の波長以下の透過をゼロに低減することを含みうる。例えば,閾値波長を下回る全ての光は完全に又はほぼ完全にブロックされうる。・・・(中略)・・・ロングパスフィルターの端部がより長波長にシフトされて,瞳孔の拡張が合計流量の増加に作用するために,このようなブロックは望ましくない。ここまで説明したように,これは暗所視を劣化させ,色の歪みを増大させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
望ましくないカラーシフトを引き起こさないで青色光の波長をブロック及び/又は選択的に抑制するための広範な種類のシステムの内部又は上に含まれうるフィルムが提供される。これらのデバイスには・・・(中略)・・・眼鏡レンズ,コンタクトレンズ,眼球内レンズ,及び電気活性レンズのような眼用レンズを含むレンズ・・・(中略)・・・が含まれる。レンズに含まれる場合,そのフィルムは,殆ど又は全ての眼鏡レンズの着色又は殆ど又は全ての着色不足のために提供されうる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このフィルムは380?500nmの波長範囲内の少なくとも5%,少なくとも10%,少なくとも20%,少なくとも30%,少なくとも40%,及び/又は少なくとも50%の青色光をブロック及び/又は選択的に抑制し,色が調和されて,そのフィルム及びそのフィルムがその中に組み込まれたシステムを観察者が見た場合に無色と知覚するようにされうる。本発明によるフィルムを組み込んだシステムは,85%以上の全ての可視光の明所視発光透過率をも有し,そのフィルムを組み込んだシステムの使用者及び/又は観察者がそのシステムを通過したほぼ正常な色覚を有することを許容する。
【発明の効果】
【0015】
ここに記載されているデバイス及びシステムは目の内部構造に対する青色光の流入を低減しながら発光透過率が減少することの結果である瞳孔の拡張を低減又は最小化する。ここに記載された方法及びシステムは青色のブロックを行うレンズにおける色歪みをも低減し最小化しまたは排除する。特定のデバイスは実質的に無色のレンズをもって網膜の健康を保護し,そのレンズを着用した人の顔を見ても美容上不利であるカラーシフト引き起こさない。
【0016】
また,ここに記載されているデバイス及びシステムは,黄斑(macula)に対する青色及びその他の光子の流入を増大させるように作用する瞳孔の拡張を防止することにより光毒性の青色光から人の網膜を保護する。目の内部及び/又は外部の吸収性,反射性,又は吸収性と反射性とが混成した光学的フィルターエレメントは目の像平面からの青色光を全てではないが幾らかブロックしうる。網膜平面に幾らかの青色光を到達させることにより,ここに記載されているデバイス及び方法は低光量レベル(暗所視又は暗視)においても感度を維持し,青色の濾光(blue-filtering)によって引き起こされる色歪みを低減し,そして青色を濾光するデバイスを通して観察される装着者の顔に対する美容上望ましくない着色を低減する。」

(イ) 「【図面の簡単な説明】
【0017】
・・・(中略)・・・
【図2】本発明による例示的なフィルムの光学的な透過特性を示す図である。
【図3】本発明による例示的な眼用システムを示す図である。
・・・(中略)・・・
【図16】本発明による種々のレンズについての透過スペクトルである。」

(ウ) 「【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明によれば,眼用システム又はその他のシステムにおけるフィルムは400nm?460nmの範囲内の青色光の少なくとも5%,少なくとも10%,少なくとも20%,少なくとも30%,少なくとも40%,及び/又は少なくとも50%を選択的に抑制する。ここで用いられているように,フィルムは波長範囲を「選択的に抑制」しながら,その波長範囲以内の少なくとも幾らかの透過を抑制したとしても,その範囲外の可視光波長の透過に殆ど又は全く影響を与えない。そのフィルムを組み込んだフィルム及び/又はシステムは,観察者及び/又は使用者によって無色と知覚されるように色が調和されてよい。本発明によるそのフィルムを組み込んだシステムは可視光の85%以上の明所視発光透過率を有し,そのフィルム又はシステムを通して見る者に殆ど正常な色覚を提供する。
・・・(中略)・・・
【0020】
本発明による例示的なフィルムの光学的な透過特性は図2に示されており,ここでは430nm±10nmの範囲の青色光の約50%がブロックされており,他方では可視スペクトル内のその他の波長における最低限の損失を与えている。図2に示されている透過は例示的なものであり,50%未満の青色光を選択的に抑制したり,及び/又は抑制される特定の波長を変化させることが多くの用途について望ましいことは理解されるべきである。多くの用途において,50%未満の青色光をブロックすることによって細胞死が低減又は防止されると考えられている。例えば,約40%,より好ましくは約30%,より好ましくは約20%,より好ましくは約10%,そしてより好ましくは約5%の400?460nm範囲の光が選択的に抑制される。光のエネルギーが高いためにより少量の光を選択的に抑制することによっても損傷を防止することができ,他方十分に少量であるためにその抑制はシステムの使用者の暗所視及び/又は概日サイクルに悪影響を与えない。
【0021】
図3は本発明による眼用レンズ300内に組み込まれたフィルム301を示しており,眼用材料302,303の層の間に挟まれている。眼用材料の前側層の厚さは,単に例示的に,200ミクロン?1,000ミクロンの範囲である。
・・・(中略)・・・
【0025】
ある実施形態では,フィルムは青色光を選択的に抑制しながら色を調和し,可視光の85%以上の暗所視発光透過率を有する。かかるフィルムは,運転眼鏡又は運動眼鏡のような光透過率が低い用途のために有用であり,コントラスト感度が増大するために優れた視覚性能が提供される。
・・・(中略)・・・
【0027】
従来の青色ブロックシステムに存在する問題を回避,低減又は排除するために,光毒性青色光の透過を減少させるが排除しないことが望ましい。目の瞳孔はトロランドにおける明所視網膜照度に応答し,これは網膜の波長依存性感度を伴う入射流量と瞳孔の投影面積との積である。眼球内レンズのような目の内部装着,コンタクトレンズ又は角膜置換のような目に対する取り付け,又は眼鏡レンズのような目の光学経路内設置を問わず,網膜の前方にフィルターを位置させることで,網膜に対する光の合計流量及び瞳孔を刺激して拡張することが減少し,視野照度の減少が補われる。視野において定常的な輝度に露出された場合,瞳孔の直径は一般にある値の周辺で上下し,輝度が減少すると増大する。
・・・(中略)・・・
【0037】
[表I]

【0038】
表Iを参照して,プラット(Pratt)による眼用フィルターは,その濾光しない値の83.6%だけ暗所視感度を低減し,減衰は暗視力を低減するとともに,等式1.1に従って瞳孔の拡張を刺激する。マインスター(Mainster)に記載されているデバイスは暗所視流量を22.5%だけ低減し,これはプラットほど深刻ではないが依然として重大である。
【0039】
対照的に,本発明によるフィルムは,吸収性または反射性の眼用エレメントを用いて紫色及び青色光を部分的に減衰するが,暗所視照度の低減はその濾光しない値の15%以下である。驚くべきことに,本発明によるシステムは青色光の所望の領域を選択的に抑制しながら明所視及び暗所視に対して殆ど又は全く影響しないことが見出された。
・・・(中略)・・・
【0045】
ここで用いられるように,青色光を選択的に抑制する本発明によるフィルムはフィルムを組み込む基本システムに対して測定される光の量を抑制するものとして説明される。例えば,眼用システムはレンズのためにポリカーボネート又はその他の類似の基本材料を使用しうる。このような基本材料のために典型的に使用される材料は可視波長において種々の量の光を抑制しうる。本発明による青色ブロックフィルムがシステムに付加されると,フィルムが無い状態で同じ波長において透過される光の量に対して測定した場合に,5%,10%,20%,30%,40%,及び/又は50%の全ての青色波長が選択的に抑制されうる。」

(エ) 「【実施例】
【0063】
変化させた濃度の青色ブロック染料を有する一体化フィルムを有するポリカーボネートレンズを製造し,図16に示すように各レンズの透過スペクトルを測定した。2.2mmのレンズ厚さにおいて35,15,7.6,及び3.8ppm(重量基準)のペリレン濃度を用いた。各レンズについて計算された種々のメトリクスを表IVに示す。その参照は図16における参照番号に対応する。光の選択的な吸収は,ビールの法則に従って生成物の染料の濃度及び被覆の厚さに主として依存するから,フィルムと組み合わせて又はフィルムのかわりにハードコート及び/又はプライマーコートを用いて同様の結果が達成されると考えられる。
【0064】
[表IV]

【0065】
35ppm着色レンズを除き,表IV及び図16に記載された全てのレンズは380nm未満のUV波長を抑制するために眼用レンズシステムに典型的に用いられるUV染料を含む。明所視率は正常視力を説明し,無濾光光及びその同じ感度曲線の積分で割ったフィルター透過スペクトル及びV_(λ)(明所視感度)の積分として計算される。暗所視率は薄暗い照明の条件における視力を説明し,無濾光光及びその同じ感度曲線の積分で割ったフィルター透過スペクトル及びV'_(λ)(暗所視感度)の積分として計算される。概日率は概日リズムに対する光の影響を説明し,無濾光光及びその同じ感度曲線の積分で割ったフィルター透過スペクトル及びM'_(λ)(メラトニン抑制感度)の積分として計算される。光毒性率は高エネルギー光に露出されたことにより引き起こされる目に対する損傷を説明し,無濾光光及びその同じ感度曲線の積分で割ったフィルター透過性及びB_(λ)(有水晶体UV-青色光毒性)の積分として計算される。・・・(中略)・・・
【0066】
上述の例示的なデータに示されるように,本発明によるシステムは選択的に青色光,特に400nm?460nm領域の光を抑制しながら,一方では少なくとも約85%の明所視発光透過率,及び約80%未満,より好ましくは約70%未満,より好ましくは約60%未満,そしてより好ましくは約50%未満の光毒性率を提供する。上述のように,ここに記載された技術を用いて95%又はそれ以上までの明所視発光透過率を達成することもできる。」

(オ) 「【図2】

【図3】

・・・(中略)・・・
【図16】



イ 引用文献3に記載された事項
前記ア(ア)ないし(オ)で摘記した引用文献3の記載から,引用文献3に次の技術的事項が記載されていると認められる。

「目の健康増進を目的として青色光をブロック及び/又は抑制する眼鏡レンズにおいて,
400nm?460nmの範囲内の青色光の5ないし50%を選択的に抑制し,可視光の85%以上の明所視発光透過率を有する構成のものとすることで,暗所視又は暗視においても感度を維持し,色歪みを低減したものとすることができるとともに,青色及びその他の光子の流入を増大させるように作用する瞳孔の拡張を防止することにより光毒性の青色光から人の網膜を保護することができ,
さらに,上記構成に加えて,可視光の85%以上の暗所視発光透過率を有するようにしたものは,コントラスト感度が増大するために優れた視覚性能が提供されるので,運転眼鏡又は運動眼鏡のような用途のために有用であること。」(以下,「引用文献3記載事項」という。)

5 判断
(1)対比
ア 引用発明の「眼鏡レンズ」は,技術的にみて,本件発明の「光デバイス」に対応する。また,引用発明の「サングラス用の眼鏡レンズ」は,「眼鏡レンズ」(本件発明の「光デバイス」に対応する。以下,「(1)対比」欄において,「」で囲まれた引用発明の構成に付した()中の文言は,当該引用発明の構成に対応する本件発明の発明特定事項を指す。)の一形態である。

イ 引用発明においては,「顧客」の眼鏡処方箋等に基づいて「サングラス用の眼鏡レンズの加工データ」が生成されるから,「サングラス用の眼鏡レンズ」(光デバイス)の使用者は,「顧客」である。
したがって,引用発明の「顧客」は,本件発明の「使用者の光デバイス」という発明特定事項中の「使用者」に相当する。

ウ 引用発明において,「サングラス用の眼鏡レンズの加工データ」に,染色情報項目103において指定された染色情報(発注画面で指定された染色カラー,染め方及び濃度についての情報)が含まれることは明らかである。そして,引用発明によって生成された加工データに基づいて,「サングラス用の眼鏡レンズ」を製造する際には,当該指定された染色情報に対応する構成を有するものとなるように,眼鏡レンズが「染色」されることになる。
ここで,サングラス用の眼鏡レンズは,可視光領域の光をある程度遮って,その透過率を低減させる機能を有するものであるから,光学的なフィルタとして機能するものといえるところ,引用発明によって生成された加工データに基づいて製造された「サングラス用の眼鏡レンズ」(光デバイス)において,光学的なフィルタとしての機能を発揮させるのが,前述した「染色」という構成であることは,当業者に自明である。
したがって,引用発明によって生成される加工データに基づいて製造される「サングラス用の眼鏡レンズ」における「染色」を,「光学フィルタリング手段」ということができ,「染色」における指定された染色情報に対応する構成を,「光学フィルタリング手段の構成」ということができる。
そして,引用発明によって生成される加工データに基づいて製造される「サングラス用の眼鏡レンズ」における「染色」は,本件発明の「選択的光学フィルタリング手段」と,「光学フィルタリング手段」である点で共通するといえる。

エ 前記アないしウに照らせば,引用発明において,指定された染色情報を含む「サングラス用の眼鏡レンズの加工データ」を生成することは,「顧客」(使用者)の「サングラス用の眼鏡レンズ」(光デバイス)のための「染色」(選択的光学フィルタリング手段)の構成を決定することといえる。
したがって,本件発明と引用発明とは,「使用者の光デバイスのための光学フィルタリング手段の構成を決定する方法」である点で共通する。

イ 前記アないしウに照らせば,本件発明と引用発明は,
「使用者の光デバイスのための光学フィルタリング手段の構成を決定する方法。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点:
本件発明が構成を決定する「光学フィルタリング手段」は,「選択的光学フィルタリング手段」であって,本件発明が,「使用者のために,阻止されるべき少なくとも1つの波長範囲及び前記少なくとも1つの波長範囲の阻止の程度を特徴付ける第1セットのパラメータを提供するステップ」と,「阻止されるべき入射光の少なくとも1つの選択波長範囲及び阻止率を,前記第1セットのパラメータに基づき決定するステップ」と,「前記使用者のために,前記少なくとも1つの選択波長範囲の外側における前記可視スペクトルの入射光の透過率の程度を特徴付ける第2セットのパラメータを提供するステップ」と,「前記第2セットのパラメータに基づき透過率を決定するステップ」と,「選択的光学フィルタリング手段を,前記決定された少なくとも1つの選択波長範囲と,前記阻止率と,前記透過率とに基づき,前記選択的光学フィルタリング手段が,入射光の前記少なくとも1つの選択波長範囲の透過を前記決定された阻止率において阻止するように動作可能であり,且つ前記少なくとも1つの選択波長範囲の外側における前記可視スペクトルの入射光を前記決定された透過率において透過するように動作可能であるように構成するステップ」とを含み,前記「第1セットのパラメータ」は,「予め,獲得された,前記使用者が眼の劣化に罹患する,又は,緑内障,糖尿病性網膜症,レーバー遺伝性視神経症,加齢黄斑変性(AMD),スタルガルド病,網膜色素変性又はベスト病の変性過程に起因する眼の劣化から保護される前記使用者の生理学的パラメータ」を含み,前記「第2セットのパラメータ」は,「必要とされる日光からの保護のレベルを含む,前記光デバイス用のパラメータ」であるのに対して,
引用発明が構成を決定する「光学フィルタリング手段」は,「染色」であって,「選択的光学フィルタリング手段」とはいえず,かつ,本件発明のようなステップを有しているとはいえない点。

(2)相違点の容易想到性について
ア 引用発明において,前記4(2)イで認定した引用文献2記載事項における各「目に対して有害な紫外線放射及び青色光を阻止する保護レンズとしての機能を有するサングラスレンズ」や前記4(3)イで認定した引用文献3記載事項における各「目の健康増進を目的として青色光をブロック及び/又は抑制する眼鏡レンズ」(以下,これらを総称して「保護機能付眼鏡レンズ」という。)に対する需要が存在することは,当業者に自明である。そうすると,当該需要に応えるために,引用発明を,「保護機能付眼鏡レンズ」を発注できるような構成に変更することは,引用文献2,3の記載に接した当業者にとって,自然な発想というべきである。
しかるに,「保護機能付眼鏡レンズ」は,「紫外線放射及び青色光において阻止する波長範囲」(以下,「阻止波長範囲」という。)及び当該「阻止波長範囲」における阻止率や,「阻止波長範囲」以外の可視光領域の透過率が互いに異なるものであり,「阻止波長範囲」及び「阻止波長範囲の阻止率」に応じてそれぞれに適した「用途」も異なるものであるから,「用途」及び「阻止波長範囲以外の可視光領域の透過率」を指定することにより,発注する「保護機能付眼鏡レンズ」の種類を特定するよう構成すること,より具体的には,引用発明のステップS1でモニタに表示される発注画面において,染色情報項目103に「用途」を指定するための「用途」の領域を設け,当該「用途」の領域において,「保護機能を有しないサングラス」という用途,引用文献2記載事項における用途(「人名救助員」,「ドライバー」,「釣り師」,「色素性網膜炎,年齢に関係した黄斑変性」,「警官」等),及び引用文献3記載事項における用途(例えば「暗所視又は暗視用」や「運転眼鏡又は運動眼鏡のような用途」等)を含む選択肢の中から「用途」を選択できるようにし,当該「用途」の領域において,「保護機能を有しないサングラス」が選択されたときには,ステップS5において,「保護機能を有しないサングラス」という用途の情報と,染色カラー,染め方及び濃度を指定するための領域で指定された各情報とを含む発注データを生成し,当該発注データに基づいて,指定された各情報に対応する「染色」を指示する「サングラス」用の眼鏡レンズの加工データ(すなわち,引用発明のステップS16において生成される「サングラス用の眼鏡レンズの加工データ」そのもの)を生成するよう構成するとともに,前記「用途」の領域において,引用文献2記載事項における用途又は引用文献3記載事項における用途が選択されたときには,ステップS5において,「用途」を指定するための領域で指定された「用途」の情報と,濃度を指定するための領域で指定された「濃度」の情報とを含む発注データを生成し,当該発注データに基づいて,指定された「用途」に対応する「阻止波長範囲」及び「阻止波長範囲の阻止率」を有し,「阻止波長範囲以外の可視光領域の透過率」が指定された「濃度」に対応する透過率となるような「染色」を指示する「保護機能付眼鏡レンズ」の加工データを生成するよう構成することは,当業者における通常の創作能力の発揮にすぎない。

イ(ア) 前記アで述べた構成の変更を行った引用発明において,「保護機能付眼鏡レンズ」は,「阻止波長範囲」の光を「阻止率」の分だけ遮って,その透過率を低減させる機能を有するものであるから,選択的な光学フィルタとして機能するものといえる。したがって,前記構成の変更後の引用発明の「保護機能付眼鏡レンズ」における「染色」は,本件発明の「選択的光学フィルタリング手段」に相当する。
そして,「保護機能付眼鏡レンズ」を発注し,「保護機能付眼鏡レンズ」の加工データが生成されると,製造される「保護機能付眼鏡レンズ」における「染色」に係る構成が,指定された「用途」に対応する「阻止波長範囲」及び「阻止波長範囲の阻止率」を有し,「阻止波長範囲以外の可視光領域の透過率」が指定された「濃度」に対応する透過率となるようなものに決定されるのであるから,前記構成の変更後の引用発明を,「染色の構成を決定する方法」ということができる。
したがって,前記構成の変更後の引用発明は,「使用者の光デバイスのための光学フィルタリング手段の構成を決定する方法」であるという本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

(イ) 「保護機能付眼鏡レンズ」を発注する場合に,「用途」が指定されることで,発注する「保護機能付眼鏡レンズ」における「阻止波長範囲」及び「阻止波長範囲の阻止率」が決まるのであるから,当該「用途」は,「阻止されるべき少なくとも1つの波長範囲及び少なくとも1つの波長範囲の阻止の程度を特徴付けるパラメータ」といえる。したがって,前記構成の変更後の引用発明の「用途」を指定するための領域において選択される「用途」は,本件発明の「阻止されるべき少なくとも1つの波長範囲及び少なくとも1つの波長範囲の阻止の程度を特徴付ける第1セットのパラメータ」に相当する。
また,「保護機能付眼鏡レンズ」を発注する場合に,「濃度」が指定されることで,阻止波長範囲以外の可視光領域の透過率が決まるのであるから,当該「濃度」は,「少なくとも1つの選択波長範囲の外側における可視スペクトルの入射光の透過率の程度を特徴付けるパラメータ」といえる。したがって,前記構成の変更後の引用発明の「濃度」を指定するための領域において選択される「濃度」は,本件発明の「少なくとも1つの選択波長範囲の外側における可視スペクトルの入射光の透過率の程度を特徴付ける第2セットのパラメータ」に相当する。
そして,「保護機能付眼鏡レンズ」を発注するに際して,「用途」を指定するための領域で「用途」を指定するとともに,「濃度」を指定するための領域で「濃度」を指定し,指定された「用途」の情報と指定された「濃度」の情報とを含む発注データを生成すること(引用発明のステップS1,ステップS2,ステップS3,ステップS11,ステップS12,ステップS13,ステップS4及びステップS5に対応する。)は,眼鏡店に設置された眼鏡レンズ発注システム1と,レンズメーカの計算センタに設置されたコンピュータ2とからなるシステムに対して,「使用者」である「顧客」のために「用途」と「濃度」とを提供することといえる。
したがって,前記構成の変更後の引用発明は,「使用者のために,阻止されるべき少なくとも1つの波長範囲及び前記少なくとも1つの波長範囲の阻止の程度を特徴付ける第1セットのパラメータを提供するステップ」と「前記使用者のために,前記少なくとも1つの選択波長範囲の外側における前記可視スペクトルの入射光の透過率の程度を特徴付ける第2セットのパラメータを提供するステップ」とを含むという本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

(ウ) 「保護機能付眼鏡レンズ」を発注したときに,指定された「用途」に対応する「阻止波長範囲」及び「阻止波長範囲の阻止率」を有し,「阻止波長範囲以外の可視光領域の透過率」が指定された「濃度」に対応する透過率となるような「染色」を指示する「保護機能付眼鏡レンズ」の加工データを生成することは,製造される「保護機能付眼鏡レンズ」における「染色」の構成を,指定された「用途」の情報と指定された「濃度」の情報とに基づき,指定された「用途」に対応する「阻止波長範囲」及び「阻止波長範囲の阻止率」を有し,「阻止波長範囲以外の可視光領域の透過率」が指定された「濃度」に対応する透過率となる構成に決定することといえる。
そうすると,前記構成の変更後の引用発明は,「阻止されるべき入射光の少なくとも1つの選択波長範囲及び阻止率を,前記第1セットのパラメータに基づき決定するステップ」と「前記第2セットのパラメータに基づき透過率を決定するステップ」と「選択的光学フィルタリング手段を,前記決定された少なくとも1つの選択波長範囲と,前記阻止率と,前記透過率とに基づき,前記選択的光学フィルタリング手段が,入射光の前記少なくとも1つの選択波長範囲の透過を前記決定された阻止率において阻止するように動作可能であり,且つ前記少なくとも1つの選択波長範囲の外側における前記可視スペクトルの入射光を前記決定された透過率において透過するように動作可能であるように構成するステップ」とを含むという本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

(エ) 前記構成の変更後の引用発明において,「用途」の領域において選択される選択肢には,引用文献2記載事項における「用途」である「色素性網膜炎,年齢に関係した黄斑変性」が含まれているところ,当該「色素性網膜炎,年齢に関係した黄斑変性」は,本件発明の「予め,獲得された,前記使用者が眼の劣化に罹患する,又は,緑内障,糖尿病性網膜症,レーバー遺伝性視神経症,加齢黄斑変性(AMD),スタルガルド病,網膜色素変性又はベスト病の変性過程に起因する眼の劣化から保護される前記使用者の生理学的パラメータ」に相当する。
したがって,前記構成の変更後の引用発明は,「第1セットのパラメータは,予め,獲得された,前記使用者が眼の劣化に罹患する,又は,緑内障,糖尿病性網膜症,レーバー遺伝性視神経症,加齢黄斑変性(AMD),スタルガルド病,網膜色素変性又はベスト病の変性過程に起因する眼の劣化から保護される前記使用者の生理学的パラメータを含」むという本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

(オ) 前記構成の変更後の引用発明において,指定される「濃度」が変われば,製造される「サングラス用の眼鏡レンズ」や「保護機能付眼鏡レンズ」における可視領域の平均透過率が変わり,日光からの保護のレベルが変わるといえるから,当該「濃度」を,「必要とされる日光からの保護のレベルを含む,光デバイス用のパラメータ」ということができる。
したがって,前記構成の変更後の引用発明は,「第2セットのパラメータは,必要とされる日光からの保護のレベルを含む,光デバイス用のパラメータである」という本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

ウ 以上のとおりであるから,前記アで述べた構成の変更を行った引用発明は,相違点に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備することになる。
したがって,引用発明を,相違点に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。

(3)「必要とされる日光からの保護のレベル」についての予備的見解
本件出願の請求項1の記載からは,前記(2)イ(オ)で述べたように,「濃度」は,「必要とされる日光からの保護のレベルを含む,光デバイス用のパラメータ」といえ,前記(2)イ(ア)で述べた構成の変更を行った引用発明は,「第2セットのパラメータは,必要とされる日光からの保護のレベルを含む,光デバイス用のパラメータである」という本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備しているとするのが相当であるが,本件明細書には,「日光からの保護のレベル」の具体例として,EN 1836やISO12312などの国際規格によって定められたクラスのみが例示されていることから,本件出願の「日光からの保護のレベル」が,国際規格によって定められたクラスを特定していると解した場合の容易想到性についても,念のため,以下に示しておく。

ISO12312やEN1836等の国際規格において,サングラスが,その透過率によって,複数のフィルタ分類のいずれかに分類されることは,当業者における技術常識である。
しかるに,引用発明において,染色情報項目103における「濃度」の情報は,これが指定されることで,製造される「サングラス用の眼鏡レンズ」における可視光領域の透過率(前記(2)アで述べた構成の変更後の引用発明において,「保護機能を有する眼鏡レンズ」を発注する場合は,「保護機能を有する眼鏡レンズ」における阻止波長範囲以外の可視光領域の透過率)が決まることになるものであるが,当該「濃度」の入力という手段に代えて,国際規格におけるフィルタ分類の入力という手段を採用し,入力されたフィルタ分類に基づいて,製造される「サングラス用の眼鏡レンズ」の可視光領域の透過率(前記(2)アで述べた構成の変更後の引用発明において,「保護機能を有する眼鏡レンズ」を発注する場合は,「保護機能を有する眼鏡レンズ」における阻止波長範囲以外の可視光領域の透過率)を決定するよう構成することは,単なる設計変更にすぎない。
また,当該構成の変更によって,格別の効果が生じるものとも認められない。
したがって,引用発明において,「濃度」を指定するという手段に代えて,「必要とされる日光からの保護のレベル」を指定するよう構成することは,単なる設計変更である。

(4)効果について
本件発明が有する効果は,引用文献1ないし3の記載及び技術常識に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。

(5)小括
前記(2)ないし(4)のとおりであるから,本件発明は,引用発明,引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。


6 むすび
前記5(5)で述べたとおり,本件発明は,引用発明,引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-10-18 
結審通知日 2018-10-23 
審決日 2018-11-06 
出願番号 特願2014-545429(P2014-545429)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 南 宏輔  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 清水 康司
川村 大輔
発明の名称 眼科用フィルタ  
代理人 渡辺 望稔  
代理人 三和 晴子  
代理人 渡辺 望稔  
代理人 伊東 秀明  

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