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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B05B
管理番号 1350224
審判番号 不服2018-8323  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-18 
確定日 2019-03-28 
事件の表示 特願2013-226729「液体噴出器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月 7日出願公開、特開2015- 85273〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年10月31日の出願であって、平成29年1月20日付けで拒絶理由が通知され、同年3月23日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月14日に最後の拒絶理由が通知され、同年10月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年3月29日付けで平成29年10月19日付け手続補正書でした補正を却下する旨の補正の却下の決定がされるとともに拒絶査定がされ、平成30年6月18日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、その後、特許法第162条の規定による前置審査において、同年8月17日付けで拒絶理由が通知され、同年10月9日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成30年10月9日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認められる。

「【請求項1】
容器体の口部に装着される装着筒と、該装着筒により前記容器体の内部に下端を垂下させた状態で保持されるシリンダと、該シリンダの上端部に固定されるリングキャップと、
前記装着筒の上部開口より上方付勢状態で上下移動可能に突出するステムと、該ステムの上端部に押し下げヘッドの縦筒を装着することで該ステムに固定された該押し下げヘッドとを備え、
該押し下げヘッドの押圧、復帰動作により容器体の内容液を吸い上げて該押し下げヘッドに設けられたノズルより注出する液体噴出器であって、
前記押し下げヘッドの頂壁の中央から垂下する前記縦筒の外周側で、該頂壁から垂下する円筒状の垂下壁の内周面に設けられた雌ねじ部と、前記リングキャップの外周面に設けられた雄ねじ部との螺合により、前記押し下げヘッドを押し下げた状態で前記リングキャップに係止可能であり、
前記雌ねじ部は、前記頂壁と前記垂下壁との境界から隙間をあけて設けられるとともに、該垂下壁の内周面から突出するようにねじ山が形成されており、
前記垂下壁の径方向外側には、前記頂壁の外周縁に連なる外周壁が垂下されており、
前記隙間は、前記垂下壁の上下方向高さの20%?60%であり、
前記垂下壁における前記雌ねじ部の上方の板厚は、該雌ねじ部の凸部先端における板厚よりも小さく、且つ、該雌ねじ部の溝底における板厚以上であることを特徴とする液体噴出器。」

第3 平成30年8月17日付けで通知された拒絶理由の概要
平成30年8月17日付けで通知された拒絶理由は、おおむね次の理由を含むものである。

1(進歩性)この出願の請求項1ないし3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(主引用文献は、引用文献4又は5である。)。
2(サポート要件)請求項1ないし3に係る発明が解決しようとする課題は、「押し下げヘッドに設けられた雌ねじ部が、成形時にまくれ等の異常変形を起こすことを防止する液体噴出器を提供すること」であると認められるが、請求項1ないし3において、t1(当審注:請求項1に記載された「前記垂下壁における前記雌ねじ部の上方の板厚」である。)の程度について規定がされていないから、請求項1ないし3に係る発明は、上記技術課題を解決し得ない実施態様を包含すると認められ、上記課題を解決し得るものとして、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えている。
したがって、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

引用文献1.実願平5-52613号(実開平6-39752号)のCD-ROM
引用文献2.米国特許第6604656号明細書
引用文献3.特開2002-39055号公報
引用文献4.特開平7-251856号公報
引用文献5.特開2003-175988号公報

第4 進歩性について
1 引用文献に記載された事項等
(1)引用文献4に記載された事項及び引用発明
ア 引用文献4に記載された事項
引用文献4には、「手動ポンプ式の液体噴出器」に関して、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。

・「【0009】
【課題を解決するための手段】容器体口頸部へ嵌合させる装着筒1の上端部内面へ第1外向きフランジ8を係合させて容器体内へシリンダ3を垂下し、該シリンダ内へ付勢に抗し押下げした作動部材15上部を、上記シリンダ上端部へ固着させた筒状の螺合部材25に螺合させた、手動ポンプ式の液体噴出器において、上記シリンダ上部内径を、中、大二段に拡開して、それ等中内径部5と大内径部7との内面の一方に第1係合突条4を周設すると共に他方に複数の第2係合突条6を縦設し、かつその大内径部外面に付設した上記第1外向きフランジ8上へ装着筒1上端の内向きフランジ2を係合させておき、上記螺合部材25を、作動部材のステム16を挿通させた筒部26中間に第2外向きフランジ27を付設して設けて、該フランジ外周部を上記装着筒の内向きフランジ2上面へ係合させると共に、筒部26下半上下のいずれかに周設した第3係合突条28を第1係合突条4下面へ、かつ他方に縦設した第4係合突条29を第2係合突条6間へ噛合せてそれぞれ、係合固着させ、又筒部26上半外面に設けた雄ねじ30を、ステム16上端に嵌着させた押下げヘッド18の頂壁から垂下する周壁21内面へ螺合させた。
【0010】上記構成とした手動ポンプ式の液体噴出器において、ステム16外径よりも筒部26内径を大内径にすると共に、該筒部上端から上内方へ逆スカート状部31を起立して上端内周縁をステム16外面へ水密に接触させ、かつステム外径とほぼ同径の内端径を有する複数のリブ32を筒部26内面に縦設した。
【0011】上記第1および第2番目に記載した手動ポンプ式の液体噴出記において、内向きフランジと第2外向きフランジとを連結するフランジ35を設けて、該フランジで装着筒1と螺合部材25とを合成樹脂材により一体成形した。
【0012】容器体口頸部へ嵌合させる装着筒1上端から内方突出するフランジを介して容器体内へシリンダ3を垂下し、該シリンダ内へ付勢に抗し押下げた、作動部材15上部を、上記シリンダ上端部へ固着させた筒状螺合部材25に螺合させた、手動ポンプ式の液体噴出器において、上記シリンダ上部内径を、中、大二段に拡開して、それ等中内径部5と大内径部7との内面の一方に第1係合突条4を周設すると共に他方に複数の第2係合突条6を縦設し、大内径部上端と装着筒上端とをフランジ36で連結して、シリンダ3と装着筒1とを合成樹脂材により一体成形し、又上記螺合部材25の筒部26下部外面に周設した第3係合突条28を第1係合突条4下面へ、かつ筒部26の中間部外面に縦設した複数の第4係合突条29を第2係合突条6と噛合せてそれぞれ係合させ、該筒部内を挿通するステム16上端へ嵌着させた作動部材押下げヘッド18の頂壁から垂下する周壁21を、上記筒部上半が形成する雄ねじ30へ螺合させた。
【0013】上記第4番目記載の手動ポンプ式の液体噴出器において、ステム16外径よりも筒部26内径を大内径にすると共に、該筒部上端から上内方へ逆スカート状部31を起立して上端内周縁をステム16外面へ水密に接触させ、かつステム外径とほぼ同径の内端径を有する複数のリブ32を筒部26内面に縦設した。
【0014】
【作用】図1が示す状態から作動部材1上端の押下げヘッド18を弛め方向へ回すと、螺合部材25の第4係合突条29はシリンダ3の第2係合突条6と回動方向において係合し、又シリンダ3の第1外向きフランジ8は容器体に噴出器を装着させた状態でその容器体口頂面と装着筒1の内向きフランジ2との間で挟持されているため、押下げヘッド18の周壁22が螺合部材の雄ねじ30から螺脱し、よってシリンダ内に設けられたスプリングの上方付勢により作動部材15は上方へ押下げられ、該状態から押下げヘッド18を押下げることで、吐出弁が開きシリンダ内液体はステム16、ノズル17を通って噴出され、又その押下げを離すと上記付勢により作動部材は上昇してシリンダ内は負圧化し、よって吸込み弁が開いて容器体内液体がシリンダ内へと吸込まれる。」

・「【0020】
【実施例】図1は本発明液体噴出器の第1実施例を示す。該第1実施例において、1は容器体口頸部外面へ嵌合させる装着筒で、内面に螺条を有し、上端に内向きフランジ2を付設している。上記螺条は、口頸部上方からの強制押下げにより口頸部外面周設の突条下面へ係合させる周設突条とすることもある。
【0021】3はシリンダで、従来と異りその上部内径を中、大二段に拡開して、内面中間部に第1係合突条4を周設する中内径部5、又その上方部分を内面に複数の第2係合突条6を縦設する大内径部7となし、その大内径部の下端外面に第1外向きフランジ8を付設し、該フランジ上へ既述装着筒の内向きフランジ2を載置している。ただし第1係合突条4を大内径部7に、又第2係合突条6を大内径部7に設けてもよい。第1外向きフランジ下面に接して中内径部上端外面にパッキング9を嵌合させるとよい。図示しないがシリンダ底部には従来同様吸込み弁を設け、かつその吸込み弁孔と連通させてシリンダ下端から吸上げパイプ10を垂下する。
【0022】15は上記シリンダ内を上下動して容器体内液体を噴出する作動部材で、ステム16下端に筒状ピストンを嵌合ないし付設し、又ステム上端にノズル17付きの押下げヘッド18を嵌着させている。該装着は、通常ステムの上端部外面へ押下げヘッドの頂壁から垂下するステム嵌合筒19を嵌着させ、そのステム嵌合筒を雄ねじに形成して螺合部材筒部の雌ねじと螺合させるが、本発明噴出器では螺合部材に雄ねじを設け、押下げヘッドの頂壁20から垂下する周壁21を螺合させるため、ステム嵌合筒19外面へステム16上部を係止手段22により抜出し不能に嵌着させている。押下げヘッドの頂壁20外周からは装着筒1よりも僅かに小外径の外周壁23を垂下する。尚該作動部材はシリンダ内に設けられたスプリングで上方付勢され、後述螺合部材との螺合を外すと、筒状ピストンをシリンダ内へ残して起立するよう設けてある。
【0023】25はシリンダ上部に固着させた螺合部材で、ステム16を上下動自在に挿通させた筒部26の中間部に、シリンダ上端面および装着筒の内向きフランジ2上面へ載置させた第2外向きフランジ27を有し、その筒部下半外面の下部および上部に既述第1係合突条4下面へ係合する第3係合突条28と、第2係合突条6と噛合う第4係合突条29とを有し、それ等各突条の係合および噛合せによりシリンダに対して抜出しおよび回動不能に固着させている。筒部26上半部の外面は雄ねじ30に形成し、図示のように作動部材15押下げ状態で押下げヘッドから垂下する周壁21を螺合させることで、作動部材の押下げ状態を保持させている。尚筒部26内径はステム16外径とほぼ同径とし、作動部材上昇時においてステム16外面と筒部26内面との間の隙間から水等が容器体内へ入らないよう設けている。」

・「【図面の簡単な説明】
【図1】一部を切欠いて示す、第1実施例液体噴出器の側面である。」

・「【図1】



イ 引用発明
引用文献4の図1から、「ステム嵌合筒19」は「頂壁20」の中央から垂下していることが看取される。
また、引用文献4の【0023】の「筒部26上半部の外面は雄ねじ30に形成し、図示のように作動部材15押下げ状態で押下げヘッドから垂下する周壁21を螺合させることで、作動部材の押下げ状態を保持させている。」という記載及び図1から、「周壁21」の内周面には雌ねじ部が設けられていることが理解され、図1から、該雄ねじ部は「頂壁20」と「周壁21」との境界から隙間をあけて設けられていること及び「周壁21」から突出しないねじ山が設けられていることが看取される。
さらに、引用文献4の図1から、上記隙間は、「周壁21」の上下方向高さの約半分程度であることが看取される。
したがって、引用文献4に記載された事項を、第1実施例に関して、整理すると、引用文献4には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「容器体の口頸部へ嵌合させる装着筒1と、該装着筒1により前記容器体の内部に下端を垂下させた状態で保持されるシリンダ3と、該シリンダ3の上端部に固定される筒部26と、
前記装着筒1の上部開口より上方付勢状態で上下移動可能に突出するステム16と、該ステム16の上端部に押下げヘッド18のステム嵌合筒19を装着することで該ステム16に固定された該押下げヘッド18とを備え、
該押下げヘッド18の押下、押下を離すことによる上昇により容器体内液体を吸い込み該押下げヘッド18に設けられたノズル17より噴出する液体噴出器であって、
前記押下げヘッド18の頂壁20の中央から垂下する前記ステム嵌合筒19の外周側で、該頂壁20から垂下する周壁21の内周面に設けられた雌ねじ部と、前記筒部26の外周面に設けられた雄ねじ30との螺合により、前記押下げヘッド18を押し下げた状態で前記筒部26に係止可能であり、
前記雌ねじ部は、前記頂壁20と前記周壁21との境界から隙間をあけて設けられるとともに、該周壁21の内周面から突出しないねじ山が形成されており、
前記周壁21の径方向外側には、外周壁23が垂下されており、
前記隙間は、前記周壁21の上下方向高さの約半分程度である液体噴出器。」

(2)引用文献1ないし3に記載された事項
ア 引用文献1に記載された事項
引用文献1には、「ポンプ式吐出容器」に関して、次の事項が記載されている。

・「【0007】
【課題を解決するための手段】
本考案は、内容物を収容する容器本体と、容器本体に装着され、容器本体内に吸込口を介して連通可能とされるポンプハウジングと、ポンプハウジングに往復動可能に挿入され、ポンプハウジング内に画成されるポンプ室を拡縮可能とするピストンを備えるとともに、ピストンによって圧縮状態にあるポンプ室と連通可能になる吐出通路を備えるステムと、ポンプハウジングの外部に突出するステムの端部に固定され、ステムの吐出通路に連通する吐出口を備えるノズルヘッドと、ポンプハウジングのステム挿入口回りにノズル固定リングを設け、ノズルヘッドをノズル固定リングに螺着することにより、ポンプハウジングに対するステム及びノズルヘッドの移動をロック可能とするポンプロック手段とを有してなるポンプ式吐出容器において、ノズルヘッドの外径がノズル固定リングの外径より大とされるとともに、ポンプロック手段がノズルヘッドに設けた雌ねじとノズル固定リングに設けた雄ねじとを螺着せしめ、ノズル固定リングのステム挿入口回り端面に、ステム挿入口に向けて凸状をなすテーパ状端面部を設けてなるようにしたものである。」

・「【0024】
(B) ポンプロック装置15は、ノズルヘッド14に設けた雌ねじ36とノズル固定リング35に設けた雄ねじ37とを螺着せしめる。」

・「【0027】
○2(当審注:「○2」は、○付き数字の2である。)ポンプロック装置15が、ノズルヘッド14に設けた雌ねじ36とノズル固定リング35に設けた雄ねじ37とを螺着せしめ、ノズル固定リング35のステム挿入口33回り端面に、ステム挿入口33に向けて凸状をなすテーパ状端面部61を設けたから、ノズル固定リング35とステム13外周との間の空隙を微小ないしはなくすことができる。従って、周辺の飛散水が上述の空隙からポンプハウジング12内に浸入するチャンスを低減ないしはなくすことができる。また、ノズル固定リング35の端面に到達した飛散水のステム挿入口33へと向かう流れをテーパ状端面部61にて阻止し、上述の水浸入防止効果をより向上できる。」

・「【図1】


イ 引用文献2に記載された事項
引用文献2には、「SAFETY LOCK RING STRUCTURE OF A DISPENSER PUMP」(当審訳:ディスペンサーポンプの安全ロックリング構造)に関して、次の事項が記載されている。

・「FIG. 5 shows a longitudinal sectional view of the disengagement of the dispenser pump head with the locking cap of the preferred embodiment of the present invention.
FIG. 6 shows a longitudinal sectional view of the engagement of the dispenser pump head with the locking cap of the preferred embodiment of the present invention. 」(第2欄第8ないし13行)(当審訳:図5 は、本発明の好ましい実施形態のディスペンサのポンプヘッドとロッキングキャップの離脱時の長手方向の断面図を示している。
図6 は、本発明の好ましい実施形態のディスペンサのポンプヘッドとロッキングキャップの係合時の長手方向の断面図を示している。)

・「The locking cap 21 is located between the pump head 10 and the dispenser cap 20 and is provided in the outer wall with outer threads 41 engageable with the inner threads 40 of the pump head 10 . The dispenser pump is disabled at the time when the pump head 10 is joined with the locking cap 21 such that the inner threads 40 of the pump head 10 are engaged with the outer threads 41 of the locking cap 21 , as shown in FIGS. 6 and 7 . In other words, the contents of the cylindrical body 30 can not be dispensed at such time when the pump head 10 is engaged with the locking cap 21 . 」(第2欄第25ないし46行)(当審訳:ロッキングキャップ21は、ポンプヘッド10とディスペンサキャップ20との間に配置され、ポンプヘッド10の内側ねじ山40と係合可能な外側ねじ山41を有する外壁内に設けられている。ディスペンサポンプは、図6及び図7に示されるように、ポンプヘッド10の雌ネジ40がロッキングキャップ21のねじ山41と係合させられて、ポンプヘッド10がロッキングキャップ21と結合された時に無力化される。すなわち、筒状体30の内容物は、ポンプヘッド10がロッキングキャップ21と嵌合すると、計量分配されることができなくなる。)

・「

」(第6ページ)

・「

」(第7ページ)

ウ 引用文献3に記載された事項
引用文献3には、「ポンプユニットおよびポンプ付き容器」に関して、次の事項が記載されている。

・「【0016】
【発明の実施の形態】以下、この発明に係るポンプユニットおよびポンプ付き容器の実施の形態を図1から図9の図面を参照して説明する。
〔第1の実施の形態〕初めに、この発明に係るポンプユニットおよびポンプ付き容器の第1の実施の形態を図1から図8を参照して説明する。図1において、Yは容器本体を示し、液状の洗髪剤が収容されるものである。この容器本体Yは樹脂で成形され、筒状の上部開口部10には雄ねじ部11が形成されている。上部開口部10の雄ねじ部11には、これに螺合する雌ねじ部12を備えた樹脂製のキャップ13が着脱自在に取り付けられ、このキャップ13によりポンプユニットPUが取り付けられている。
【0017】ポンプユニットPUは、容器本体Yの上部開口部10に容器本体Y内部に向かって取り付けられる樹脂製のケース14と、このケース14の上端部に装着される樹脂製のガイド部材15と、容器本体Y内に挿入される樹脂製のベローズユニット16と、ベローズユニット16に装着される樹脂製の操作ヘッドSとを備えている。前記ケース14は容器本体Yの上部開口部10の周囲に係止するフランジ部17を有する筒状の部材で、底部に開口部18を備えている。そして、このケース14の上部内周面には係合部19が形成され、ここにガイド部材15が嵌合している。
【0018】ガイド部材15は、前記ケース14の係合部19に嵌合する係合部20と、この係合部20の内側に、操作ヘッドSの吐出パイプ21を摺動自在に挿入する保持部22を備えている。係合部20と保持部22とは上部で一体となり互いに離反する方向に付勢されている。また、ガイド部材15は、保持部22及び係合部20の上部に、径方向外方へ延出してキャップ13の上面に係止可能な環状のフランジ部23を有し、このフランジ部23により前記キャップ13の抜け方向の移動を阻止するようになっている。」

・「【図1】



2 対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明における「口顎部」は、本願発明における「口部」に相当し、以下、同様に、「嵌合させる」は「装着される」に、「装着筒1」は「装着筒」に、「シリンダ3」は「シリンダ」に、「筒部26」は「リングキャップ」に、「ステム16」は「ステム」に、「押下げヘッド18」は「押し下げヘッド」に、「ステム嵌合筒19」は「縦筒」に、「押下」は「押圧」に、「押下を離すことによる上昇」は「復帰動作」に、「容器体内液体」は「容器体の内容液」に、「吸い込み」は「吸い上げて」に、「ノズル17」は「ノズル」に、「噴出」は「注出」に、「頂壁20」は「頂壁」に、「周壁21」は「円筒状の垂下壁」に、「雄ねじ30」は「雄ねじ部」に、「外周壁23」は「前記頂壁の外周縁に連なる外周壁」に、「約半分程度」は「20%?60%」に、それぞれ、相当する。

したがって、両者は、次の点で一致する。
「容器体の口部に装着される装着筒と、該装着筒により前記容器体の内部に下端を垂下させた状態で保持されるシリンダと、該シリンダの上端部に固定されるリングキャップと、
前記装着筒の上部開口より上方付勢状態で上下移動可能に突出するステムと、該ステムの上端部に押し下げヘッドの縦筒を装着することで該ステムに固定された該押し下げヘッドとを備え、
該押し下げヘッドの押圧、復帰動作により容器体の内容液を吸い上げて該押し下げヘッドに設けられたノズルより注出する液体噴出器であって、
前記押し下げヘッドの頂壁の中央から垂下する前記縦筒の外周側で、該頂壁から垂下する円筒状の垂下壁の内周面に設けられた雌ねじ部と、前記リングキャップの外周面に設けられた雄ねじ部との螺合により、前記押し下げヘッドを押し下げた状態で前記リングキャップに係止可能であり、
前記雌ねじ部は、前記頂壁と前記垂下壁との境界から隙間をあけて設けられるとともに、ねじ山が形成されており、
前記垂下壁の径方向外側には、前記頂壁の外周縁に連なる外周壁が垂下されており、
前記隙間は、前記垂下壁の上下方向高さの20%?60%である液体噴出器。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点>
本願発明においては、「前記雌ねじ部」は「垂下壁の内周面から突出するようにねじ山」が形成されており、「前記垂下壁における前記雌ねじ部の上方の板厚は、該雌ねじ部の凸部先端における板厚よりも小さく、且つ、該雌ねじ部の溝底における板厚以上である」と特定されているのに対し、引用発明においては、「前記雌ねじ部」は「周壁21の内周面から突出しないねじ山」が形成され、「前記雌ねじ部」の上方の板厚は本願発明のようには特定されていない点。

3 判断
そこで、相違点及び効果について、以下に検討する。
(1)相違点について
引用文献1ないし3に記載された事項、特にそれぞれの図面から、押し下げヘッドの頂壁の中央から垂下する縦筒の外周側で、該頂壁から垂下する円筒状の垂下壁の内周面に設けられた雌ねじ部と、リングキャップの外周面に設けられた雄ねじ部との螺合により、押し下げヘッドを押し下げた状態でリングキャップに係止可能とする機構として、雌ねじ部のねじ山を垂下壁の内周面から突出するように形成し、垂下壁における雌ねじ部の上方の板厚を、該雌ねじ部の凸部先端における板厚よりも小さく、且つ、該雌ねじ部の溝底における板厚以上とした機構が看取され、そのような機構は本願出願前に周知であるといえる(以下、「周知技術」という)。
そして、引用文献4には、押し下げヘッドの頂壁の中央から垂下する縦筒の外周側で、該頂壁から垂下する円筒状の垂下壁の内周面に設けられた雌ねじ部と、リングキャップの外周面に設けられた雄ねじ部との螺合により、押し下げヘッドを押し下げた状態でリングキャップに係止可能とする機構を、特定の高さのねじ山や特定の板厚関係を有する機構に限定する旨の記載はないから、引用発明において、周知技術を適用することに阻害要因はない。
したがって、引用発明において、押し下げヘッドを押し下げた状態でリングキャップに係止可能とする機構として、該周知技術を採用し、相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)効果について
本願の発明の詳細な説明には、次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。

・「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような押し下げヘッドを射出成形によって形成する場合、雌ねじ部は金型を無理抜きすることで形成されるが、図2(a)のように垂下壁24の内面全体にわたって雌ねじ部25が設けられている場合は、特に下方の雌ねじ部に金型が繰り返し当たる事になるのでまくれやだれ等の異常変形を生じてしまうという問題があった。一方、図2(b)に示すように頂壁22との境界において垂下壁24を厚肉形状とし、その下部に雌ねじ部25を形成する場合は、下方の雌ねじ部25に対する金型の当たりを少なくすることができるものの、垂下壁24が厚肉となるため使用する樹脂量が増える上、頂壁22にひけが生じることが懸念された。
【0006】
本発明は、上記問題を解決することを課題とし、押し下げヘッドに設けられた雌ねじ部が、成形時にまくれ等の異常変形を起こすことを防止する液体噴出器を提供することを目的とする。」

・「【発明の効果】
【0009】本発明によれば、押し下げヘッドに設けられた雌ねじ部が、成形時にまくれ等の異常変形を起こすことを防止する液体噴出器を提供することが可能となる。」と記載されている。」

・「【0022】
図2(a)の押し下げヘッド109を成形する場合、雌ねじ部25が垂下壁24の内周面全体に設けられているために、金型を無理抜きする際、雌ねじ部25の溝部分に対応する金型の凸部が、特に下方の雌ねじ部25に繰返し当たり、まくれや、だれなどの異常変形を生じる虞がある。また、図2(b)の押し下げヘッド209を成形する場合には、垂下壁24における雌ねじ部25上方を厚肉に形成しているために使用する樹脂量が増加する上に、当該部分の剛性が大きくなることで離型時に十分に撓まず、まくれ等の異常変形を生じる虞があり、さらに垂下壁24が設けられた頂壁22の上面に、ひけ等の意図しない変形が生じる虞もある。
【0023】
これに対して、本実施形態の液体噴出器1にあっては、垂下壁24の雌ねじ部25を、頂壁22と垂下壁24との境界から所定の隙間Gをあけて設けたことにより、金型を無理抜きする際に、雌ねじ部25が金型と擦れてまくれ等の異常変形を生じることを防止することができるとともに、使用する樹脂量を低減することも可能となる。さらに、雌ねじ部25上方における垂下壁24の板厚t1を適切に設定することで離型時における十分な撓み変形を実現し、上述のまくれ等の異常変形を防止するとともに、厚肉形状に起因する成形時のひけを防止することも可能となる。ここで、隙間Gは、垂下壁24の上下方向高さHの20%以上とすることが好ましく、より好適には20%?60%とすることが望ましい。隙間Gが垂下壁24の上下方向高さHの20%未満であると、垂下壁24が十分に弾性変形し難くなり、また60%を超えると、必要な螺合力や垂下壁24の剛性が確保し難くなる。なお、本実施形態において、隙間Gは垂下壁24の上下方向高さHの約50%となっている。」

発明の詳細な説明の【0005】及び【0009】によると、本願発明の効果は、成形時にまくれ等の異常変形を起こすことを防止する液体噴出器を提供することが可能となることである。そして、発明の詳細な説明の【0005】及び【0022】によると、「まくれ等の異常変形」には、「ひけ等の意図しない変形」も含まれる。

ところで、厚肉部がひけの原因となることは周知である(必要であれば、下記の文献の記載を参照。)から、まくれ等の異常変形(ひけ等の意図しない変形を含む。)が生じるのを防止するためには、「雌ねじ部25上方における垂下壁24の板厚t1を適切に設定する」こと及び「雌ねじ部25上方における垂下壁24の板厚t1」が「厚肉」に形成されていないことが必要であることは、当業者に明らかである。

・特開昭56-99642号公報の記載
「リブ等がついている部分の表面にひけが出来易いのは、リブ等がつくことによりその部の肉厚が増加し、この部における内部の放熱に時間がかかり、表面側の冷却時間と内部の冷却時間とのずれが生じ、固化の過程で固化の遅い内部が、すでに固化した表面を固化に伴う収縮により引張り込むためであると考えられる。」(第1ページ右下欄第15行ないし第2ページ左上欄第1行)

・特開平11-170305号公報の記載
「【0002】
【従来の技術】補強用のリブを裏面に設けた筺体構造物のように、表面側となる平坦な第1の面と、この第1の面の反対側の裏面となる平坦な第2の面と、この第2の面から垂直に突出する複数のリブとを有する肉厚が不均一な物品を射出成形する場合、金型に形成されたキャビティ内において、周囲よりも厚肉のために相対的に高温となっているリブの付け根部分などの冷却が遅れるため、この部分での樹脂の体積収縮が起こり、リブの付け根部分に沿って成形品の表面にひけや、つやむらなどの欠陥が発生する。」

・特開2004-223879号公報の記載
「【0002】
【従来の技術】
一般に片面にリブやボス等の突出した厚肉部を有する成形品の射出成形を行う場合、厚肉部においては、溶融樹脂の冷却固化に伴う体積収縮により、厚肉部の突出側とは反対面である意匠面に、ひけと呼ばれる凹部が発生し、成形品の外観を著しく損なう。」

また、「雌ねじ部の上方の板厚」を厚肉に形成する場合には、成形時に厚肉部分に対応する金型が雌ねじ部を無理抜きされる際に、「雌ねじ部の上方」が厚いために撓みにくくなり、無理抜きの度合いが強くなることから、「まくれ」が発生しやすくなるともいえる。

しかし、本願発明においては、「雌ねじ部の上方の板厚」は「該雌ねじ部の凸部先端における板厚よりも小さく、且つ、該雌ねじ部の溝底における板厚以上」であるとされているだけであり、「雌ねじ部の上方の板厚」を厚肉に形成しているものを包含する。

したがって、成形時にまくれ等の異常変形(ひけ等の意図しない変形を含む。)を起こすことを防止する液体噴出器を提供することが可能となるという効果(以下、「本願発明の効果」という。)は、本願発明全体が奏する効果であるとはいえない。

4 請求人の主張について
請求人は、平成30年10月9日に提出した意見書において、「また、審査官殿は、本願発明の効果について、「本願発明は、・・・板厚t1が重要であると解されるところ、いずれの請求項においてもt1の厚みが特定されていない。」とされ、「板厚t1が十分に薄いことまで特定されていない本願発明において、有利な効果は参酌できない。」と認定されました。
しかしながら、垂下壁の板厚は、使用する材料、及び部材の大きさ(垂下壁の直径)等によって適切な値が異なるものであるから、例えば当該板厚を絶対値で規定することは実質的に困難であり、また、当該板厚の特定は、発明の範囲を不当に狭くする虞があるものと思料致します。
また、垂下壁において雌ねじ部を設けた部分の板厚(t3)は、当該雌ねじ部を構成する樹脂材料の特性(強度、成型性)等を考慮して技術常識から適宜決定されるため、雌ねじ部を設けた部分の板厚(t3)を異常に厚く設定することは考えられません。つまり、雌ねじ部を設けた部分の板厚(t3)を厚く設定し過ぎると、射出成形後の冷却時の収縮により雌ねじ部に不正変形が生じるなどの不具合が発生することは明らかであるから、審査官の述べるような「例えば、図1におけるt1、t2が図2(b)のt4程度に厚く(t1≒t2≒t4)、t3がさらに厚い(t3>t4)」ような場合は、技術常識を考慮すれば、考えられません。すなわち、「前記頂壁と前記垂下壁との境界から隙間をあけて設けられるとともに、該垂下壁の内周面から突出するようにねじ山が形成され」た構成を有する本願発明1は、上記技術常識を考慮すれば、離型時における垂下壁の撓み変形により、まくれ等の異常変形を防止することが可能となる、という有利な効果を奏し得るものと思料致します。」と主張する。
しかし、「板厚を絶対値で規定することは実質的に困難であり、また、当該板厚の特定は、発明の範囲を不当に狭くする虞がある」としても、また、「審査官の述べるような「例えば、図1におけるt1、t2が図2(b)のt4程度に厚く(t1≒t2≒t4)、t3がさらに厚い(t3>t4)」ような場合は、技術常識を考慮すれば、考えられ」ないとしても、請求項1の記載が、板厚が厚い(例えば、本願の図1におけるt1、t2が本願の図2(b)のt4程度に厚い(t1≒t2≒t4))ものを排除していない以上、上記のような板厚が厚いものが本願発明に含まれることになり、そのような発明は、本願発明の効果を奏しないことから、該効果は本願発明全体が奏する効果であるとはいえない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

5 進歩性についてのまとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 サポート要件について
1 サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、サポート要件の存在は、特許出願人が証明責任を負うと解するのが相当である(平成17年(行ケ)第10042号同年11月11日知財高裁特別部判決参照。)。

2 サポート要件の判断
そこで、検討する。
(1)本願発明に関して、特許請求の範囲の記載は、上記第2のとおりである。

(2)発明の詳細な説明には、上記第4 3(2)で摘記した他に次の記載がある。

・「【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルを備えた押し下げヘッドを押し下げた状態でねじ付けしておくことで流通時等におけるポンプの誤作動を防止し、使用時には、押し下げヘッドのねじ付けを解除することで、ポンプを正常に動作させることができる液体噴出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の液体噴出器として、例えば特許文献1に記載されるようなものが知られている。このような従来の液体噴出器は、容器体の口部外周に取り付けた装着筒により容器体内に下端を垂下させた状態でシリンダを固定してなる固定吸引部と、該固定吸引部上端中央の開口より上方付勢状態で上下移動可能に突出させたステム上端部にノズル付き押し下げヘッドを設けた作動部材とを備え、該作動部材の上下移動により容器体内の液を吸い上げてノズルより噴出する如く構成するとともに、押し下げヘッドを押し下げた状態で固定吸引部に係止可能に構成してなる。
【0003】
また、この種の液体噴出器においては、押し下げヘッドの頂壁から垂下する垂下壁の内周面に設けられた雌ねじ部が、容器体の口部に装着された固定吸引部の雄ねじ部に螺合することで、上記のねじ付けを可能としている。この雌ねじ部は、例えば図2(a)に示すように垂下壁24の内面全体にわたって設けられているか、あるいは、図2(b)に示すように頂壁22との境界において垂下壁24を厚肉形状とし、その下部に雌ねじ部25を形成するようにしていた。」

・「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の液体噴出器は、容器体の口部に装着される装着筒と、該装着筒により前記容器体の内部に下端を垂下させた状態で保持されるシリンダと、該シリンダの上端部に固定されるリングキャップと、
前記装着筒の上部開口より上方付勢状態で上下移動可能に突出するステムと、該ステムの上端部に固定された押し下げヘッドとを備え、
該押し下げヘッドの押圧、復帰動作により容器体の内容液を吸い上げて該押し下げヘッドに設けられたノズルより注出する液体噴出器であって、
前記押し下げヘッドの頂壁から垂下する垂下壁の内周面に設けられた雌ねじ部と、前記リングキャップの外周面に設けられた雄ねじ部との螺合により、前記押し下げヘッドを押し下げた状態で前記リングキャップに係止可能であり、
前記雌ねじ部は、前記頂壁と前記垂下壁との境界から隙間をあけて設けられるとともに、該垂下壁の内周面から突出するようにねじ山が形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の液体噴出器によれば、押し下げヘッドの垂下壁内面の雌ねじ部を、頂壁と垂下壁との境界から隙間をあけて設けるとともに、垂下壁の内周面から突出するようにねじ山を形成することで、下方の雌ねじ部への金型の当たりが減るだけでなく、離型時に垂下壁が撓みやすくなるので、金型と擦れて雌ねじ部が異常変形することを防止することができる。」

(3)発明の詳細な説明の【0001】ないし【0006】によると、本願発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「押し下げヘッドに設けられた雌ねじ部が、成形時にまくれ等の異常変形を起こすことを防止する液体噴出器を提供すること」である。そして、発明の詳細な説明の【0005】及び【0022】によると、「まくれ等の異常変形」には、「ひけ等の意図しない変形」も含まれる。

(4)発明の詳細な説明の【0022】及び【0023】によると、「ひけ等の意図しない変形」を防ぐには、雌ねじ部上方における垂下壁の板厚を適切に設定すること及び雌ねじ部上方における垂下壁の板厚を厚肉に形成しないことが必要であり、そのようにしたものが、発明の課題を解決することができると当業者は認識する。

(5)また、雌ねじ部上方における垂下壁の板厚を厚肉に形成したものであっても、「ひけ等の意図しない変形」を防げることが、本願の出願時の技術常識であったとはいえない。

(6)さらに、雌ねじ部上方における垂下壁の板厚を厚肉に形成した場合には、成形時に厚肉部分に対応する金型が雌ねじ部を無理抜きされる際に、雌ねじ部上方における垂下壁が厚いために撓みにくくなり、無理抜きの度合いが強くなることから、「まくれ」が発生しやすくなるといえ、雌ねじ部上方における垂下壁の板厚を厚肉に形成した場合には、発明の課題を解決することができるとは、当業者は認識できない。

(7)しかし、請求項1の記載によると、本願発明は、雌ねじ部上方における垂下壁の板厚を厚肉に形成したものを包含する。すなわち、本願発明は、発明の課題を解決することができると当業者が認識できないものを包含する。

(8)したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、また、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえないので、本願の特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合するとはいえない。

3 請求人の主張について
請求人は、平成30年10月9日に提出した意見書において、「審査官殿は、拒絶理由通知において、「上記課題である「まくれ等の異常変形」の防止は、所定の隙間G、適切な板厚t1によって達成されることが理解されるところ、いずれの請求項においても、t1の程度について規定がされておらず、また、請求項1,3においては、Gの程度についても記載がされていないから、本願請求項1-3に係る発明は、上記技術課題を解決し得ない実施態様を包含すると認められる。」と認定されました。・・・(略)・・・また、「板厚t1」については、上記「(1)理由1(進歩性)について」で述べたように、使用する材料及び部材の大きさ(垂下壁の直径)等によって垂下壁の板厚の適切な値は異なるものであるため、例えば当該板厚を絶対値で規定することは実質的に困難であり、また、当該板厚の特定は、発明の範囲を不当に狭くする虞があります。また、垂下壁において雌ねじ部を設けた部分の板厚(t3)は、当該雌ねじ部を構成する樹脂材料の特性(強度、成型性)等の技術常識に基づいて決定されるため、雌ねじ部を設けた部分の板厚(t3)よりも、垂下壁における雌ねじ部の上方の板厚(t1)を小さくすることで、離型時における撓み変形を実現し、まくれ等の異常変形を防止するという本願発明の効果を奏し得るものと思料致します。」と主張する。
しかし、特許請求の範囲の記載をサポート要件に適合させるためには、特許請求の範囲の記載を、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえる記載にすべきであり、「板厚を絶対値で規定することは実質的に困難」であるとか、「当該板厚の特定は、発明の範囲を不当に狭くする虞」があるとかは、そうしないでいい理由にはならない。なお、サポート要件に適合するために必要な事項を特許請求の範囲に記載することは、「発明の範囲を不当に狭くする」ことにはあたらない。
そして、請求項1の記載が、板厚が厚い(例えば、本願の図1におけるt1、t2が本願の図2(b)のt4程度に厚い(t1≒t2≒t4))ものを排除していない以上、上記のような板厚が厚いものが本願発明に含まれることになり、そのような発明は、発明の課題を解決することができないものである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

4 サポート要件についてのまとめ
したがって、本願発明に関して、特許請求の範囲に記載された発明は発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第6 むすび
上記第4のとおり、本願発明、すなわち請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、上記第5のとおり、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-01-28 
結審通知日 2019-01-29 
審決日 2019-02-12 
出願番号 特願2013-226729(P2013-226729)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B05B)
P 1 8・ 537- WZ (B05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 達也岩田 行剛  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 加藤 友也
渕野 留香
発明の名称 液体噴出器  
代理人 片岡 憲一郎  
代理人 杉村 憲司  
代理人 杉村 光嗣  

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