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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1350244
審判番号 無効2017-800120  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-08-30 
確定日 2019-04-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第3364481号発明「神経変性疾患治療薬」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1. 手続の経緯
本件特許第3364481号は、平成10年12月21日(特許法第41条に基づく優先権主張 平成9年12月26日)を国際出願日とする出願であって、平成14年10月25日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人から、平成29年8月30日付け審判請求書によって、本件特許の請求項1?6に係る発明の特許を無効にすることを求める旨の本件特許無効審判が請求された。
また、被請求人から、平成29年11月13日付けで答弁書が提出された。
そして、請求人、被請求人は、各々、平成30年2月26日付け口頭審理陳述要領書を提出し、さらに請求人は、同年3月12日付け上申書を提出するとともに、同年同月同日に行われた第1回口頭審理において、請求人、被請求人各々により、第1回口頭審理調書に記載のとおりの陳述がなされた。
また、請求人は、平成30年3月16日付け上申書を提出し、被請求人は、同年同月30日付け上申書を提出した。



第2. 本件特許発明
本件特許第3364481号の特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明(以下、順に、「本件特許発明1」?「本件特許発明6」といい、まとめて、「本件特許発明」ともいう。)は、特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】 ゾニサミドまたはそのアルカリ金属塩を有効成分とする神経変性疾患治療薬。
【請求項2】 有効成分がゾニサミドである請求項1に記載の治療薬。
【請求項3】 神経変性疾患がパーキンソン病である請求項1または2に記載の治療薬。
【請求項4】 神経変性疾患治療薬の製造のためのゾニサミドまたはそのアルカリ金属塩の使用。
【請求項5】 神経変性疾患治療薬の製造のためのゾニサミドの使用。
【請求項6】 神経変性疾患がパーキンソン病である請求項4または5に記載の使用。」



第3. 当事者の主張、及び、提出した証拠方法
1. 請求人の主張する無効理由、及び、提出した証拠方法
請求人は、特許第3364481号の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、以下の無効理由1を主張し、証拠方法として、甲第1?18号証を提出している。

(無効理由1)
本件特許発明1?6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項並びに本件特許の優先日当時の技術常識に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(証拠方法)
甲第1号証 : Epilepsy Res.,1995年,22巻,193-205頁
甲第2号証 : Epilepsy Res.,1992年,13巻,113-119頁
甲第3号証 : 日本神経精神薬理学雑誌,1994年,14巻,337-354頁
甲第4号証 : 社団法人日本薬剤師会編,「病気と薬剤 改訂第4版」,1996年4月20日,株式会社薬事日報社発行,305?316頁、
甲第5号証 : 医薬ジャーナル,1995年,Vol.31,12月号,医薬ジャーナル社発行,20?67頁
甲第6号証 : 田中千賀子,加藤隆一編集,NEW薬理学 改訂第3版,第3版第2刷,1997年8月1日,株式会社南江堂発行,108?111及び289?296頁
甲第7号証 : Life Sciences,1994年,54巻,245-252頁
甲第8号証 : 神経精神薬理,1992年,14巻,773-781頁
甲第9号証 : 神経精神薬理,1997年,19巻,671-683頁
甲第10号証 : 神経精神薬理,1985年,7巻,769-778頁
(以上、平成29年 8月30日付け審判請求書に添付。)

甲第11号証 : Jpn. J. Psychopharmacol.,1992年,12巻,314頁
甲第12号証 : スー・ドーフィン著,「パーキンソン病 その謎、研究と明るい未来」,平成8年(1996年)2月15日初版発行,株式会社診療新社発行,21?29及び131?138頁
甲第13号証 : Neuroscience Research,2001 年,41巻,397-399頁
(以上、平成30年 2月26日付け口頭審理陳述要領書に添付。)

甲第14号証 : The Japanese Journal of Psychiatry and Neurology,1994年,48巻,406-408頁
甲第15号証 : Biogenic Amines,1987年,4巻,371-379頁
甲第16号証 : Neuroendocrinol Lett.,2010年,31巻,645-656頁
(以上、平成30年 3月12日付け上申書に添付。)

甲第17号証 : 廣川薬科学大事典(第2版)、株式会社廣川書店、平成5年4月5日第4刷発行、1404-1405頁
甲第18号証 : 今日の新薬-近代医薬品の変遷-、株式会社薬業時報社、平成7年3月15日初版発行、86-87頁
(以上、平成30年 3月16日付け上申書に添付。)

2. 被請求人の主張、及び、提出した証拠方法
被請求人は、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、請求人の本件特許が無効であるとの主張には理由がない旨を主張し、証拠方法として、乙第1、2、2-1、3?28、29-1、29-2、29-3、30?34号証を提出している。

(証拠方法)
乙第1号証 : 日薬理誌 149, 160-166 (2017)
乙第2号証 : CNS Drug Reviews, 4(4), pp. 341-360 (1998)
乙第3号証 : Expert Rev. Neurotherapeutics, 7(9), 1077-1083 (2007)
乙第4号証 : J. Neurochem. 54, 1755-1760 (1990)
乙第5号証 : Psychopharmacolgy 124: 74-86 (1996)
乙第6号証 : 脳神経 44(1);61-63 (1992)
乙第7号証 : Neurochem. Int. Vol.20, Suppl., pp. 299S-303S (1992)
乙第8号証 : NEW薬理学 改訂第3版p.112-113 (1996)
乙第9号証 : Braz J Med Biol Res, 49(11), e5644 (2016)
乙第10号証 : 岡実動研報 4, 14-17(1986)
乙第11号証 : 標準薬理学 第5版, p35-37(1997年5月1日)
乙第12号証 : J. Pharmacol. Exp. Ther. 235: 259-265 (1985)
乙第13号証 : J. Neurochem. 72, 724-733 (1999)
乙第14号証 : Jpn J Psychiatry Neurol. Vol. 48, No. 2, 406-408 (1994)
乙第15号証 : トレリーフ(登録商標)インタビューフォーム、2017年8月改訂(12版)
乙第16号証 : Neuropsychobiology 27; 138-145 (1993)
乙第17号証 : テグレトール(登録商標)錠インタビューフォーム、2016年11月(第14版、承継に伴う改訂)
乙第18号証 : 日本神経精神薬理学雑誌, 17: 17-23 (1997年2月25日)
乙第19号証 : Prog. Neuro-Psychopharmacol. Biol. Psychiat. 18, 707-715 (1994)
乙第20号証 : 日薬理誌 77, 281-293 (1981)
乙第21号証 : Brain Research, 587, 241-249 (1992)
乙第22号証 : 精神薬療基金研究年報.26, p.107-117 (1995)
乙第23号証 : Epilepsia, 38(9); 975-980 (1997)
乙第24号証 : Epilepsy Research 30 153-158 (1998)
乙第25号証 : European J. Pharmacol. 116, 313-317 (1985)
乙第26号証 : Epilepsia, 20: 623-633 (1979)
乙第27号証 : Biogenic Amines, Vol. 4, pp. 371-379 (1987)
乙第28号証 : Epilepsia, 38, Suppl. 3, 182 (1997)
乙第29-1号証 : J Clin Psychiatry 58[suppl 10]; 55-62 (1997)
乙第29-2号証 : J Clin Psychiatry 58[Number 9] (1997)
乙第30号証 : Neuroscience Research 41 397-399 (2001)
乙第31号証 : Nature 311, 467-469 (1984)
乙第32号証 : European J. Pharmacol. 106, 209-210 (1985)
乙第33号証 : エフピー(登録商標)OD錠2.5 添付文書(2015年12月改訂)
(以上、平成29年11月13日付け答弁書に添付。)

乙第34号証 : 新医薬品開発要覧-非臨床編-pp. 244-245(1986年2月19日)
乙第29-3号証 : J Clin Psychiatry 58[suppl 10]; (1997) 表紙
(以上、平成30年 2月26日付け口頭審理陳述要領書に添付。)

乙第2-1号証 : CNS Drug Reviews, 4(4), pp. 341-360 (1998)
(以上、平成30年 2月26日付け上申書に添付。)

3. 証拠の記載事項
(1)
甲第1号証ないし甲第18号証のうち、甲第1号証ないし甲第10号証には、以下の記載がある。なお、原文が外国語で記載されているものについては、適宜邦訳を示す。

甲第1号証:Epilepsy Res.,1995年,22巻,193-205頁
(記載事項1-1)
「1. 序文
ゾニサミド(ZNS)(3-sulfamoylmethyl-1,2-benzisoxazole)は、新規の抗てんかん薬(AED)であり、部分発作[32-34]の治療の際に効果を発揮すると共に、全身性強直性間代性発作、全身性強直性発作(レノックス・ガストー症候群、ウエスト症候群など)、複雑/複合発作[34]に対しても、様々な程度に効果を発揮する。有効性と安全性の観点から見て、ZNSは、部分発作患者の場合、CBZと同等であることが証明されており、小児の全身性発作患者を対象とした研究では、valproate(VPA)と同等であることが証明されている[34]。ZNS投与の際に、重篤な副作用が発現したり、強力な抗てんかん作用が発揮されたりすることは稀であるため、ZNSは日本では主要なAEDのひとつとみなされている。また、ZNSは気分安定作用[12]、および他のドパミン作動性副作用(例:パーキンソニズム[39]、妄想的観念[32])をもたらすことも示唆されている。」 (193頁の左欄下から2行?194頁左欄7行)

(記載事項1-2)



図1. ドパミンと3,4-dihydroxyphenylalanineの細胞外濃度に対するZNSの影響
ドパミン(DA)は、線条体と海馬の灌流液中濃度を測定し、3,4-dihydroxyphenylalanine(DOPA)は、線条体の灌流液中の濃度を測定した。測定期間は、投薬前の60分間(対照)およびZNS 20 mg/kg(●)、50 mg/kg(■)、100 mg/kg(▲)投与から120分間とした。図の縦軸はDAとDOPAの細胞外濃度(対照の%)を示しており、横軸は投与後の経過時間(分)を示している。データは対照の%として表しており(平均 ± 標準偏差、N = 6)、対照の値はZNS投与前の60分間測定した。ZNS投与前と投与後の平均値を比較検討した(*: P 0.05、**: P 0.01)。ZNSを治療用量(20 mg/kg、50 mg/kg)で投与した結果、線条体のDAおよびDOPAの細胞外濃度が上昇した。ZNSを治療用量を超える用量(100 mg/kg)で投与した結果、線条体のDAおよびDOPAの細胞外濃度は、投与から20?40分間は上昇したが、投与から100?120分後には低下した。海馬においては、ZNSを治療用量で投与した結果、DAの細胞外濃度は上昇したが、治療用量を超える用量で投与した結果、DAの細胞外濃度は低下した。」 (195頁の図1の左の図及び図1の説明)

(記載事項1-3)



図3. ZNSの腹腔内投与から2時間後の線条体と海馬におけるドパミン、ドパミンの代謝物、ドパミンの前駆体の細胞内濃度
ZNSを含んでいないビヒクル(20%DMSO含有生理食塩水)(白色の記号)およびビヒクルに溶解したZNS(20、50、または100 mg/kg、ip)(黒色の記号)を投与してから2時間後に線条体組織(丸印)および海馬組織(四角印)におけるドパミン(DA)、ドパミンの代謝物(DOPAC、HVA)、ドパミンの前駆体(DOPA)の濃度を測定した。図の縦軸はDA、DAの代謝物、DAの前駆体の各濃度[平均 ± 標準偏差、N = 6、nmol/g湿潤脳組織重量(nmol/g wwbt)]を示しており、横軸はZNSの用量(mg/kg体重)を示している。対照時(ZNS 0 mg/kg、ip)とZNS投与時の平均値を比較検討した(*: P 0.05、**: P 0.01)。治療用量のZNS(20 mg/kg、50 mg/kg)を投与したところ、線条体と海馬のDA、DOPA、HVAの細胞内濃度は対照よりも高かったのに対し、線条体と海馬のDOPACの細胞内濃度は対照よりも低かった。治療用量を超えるZNS(100 mg/kg)を投与したところ、線条体のDA、DOPA、DOPACの細胞内濃度、および海馬のDAの代謝物(DOPAC、HVA)の細胞内濃度は対照よりも低かったが、線条体のHVAの細胞内濃度、および海馬のDAとDOPAの細胞内濃度は対照と変わりなしであった。」 (197頁の図3の左上の図及び図3の説明)

(記載事項1-4)



図5. ZNSの経口投与を3週間行った後の線条体と海馬におけるドパミン、ドパミンの代謝物、ドパミンの前駆体の各細胞内濃度
ZNS(0、20、50、または100 mg/kg、ip)を3週間経口投与した後の線条体組織(丸印)および海馬組織(四角印)におけるドパミン(DA)、ドパミンの代謝物(DOPAC、HVA)、ドパミンの前駆体(DOPA)を測定した。図の縦軸はDA、DAの代謝物、DAの前駆体の濃度[平均 ± 標準偏差、N = 6、nmol/g湿潤脳組織重量(nmol/g wwbt)]を示しており、横軸はZNSの用量(mg/kg体重)を示している。対照時(ZNS 0 mg/kg/日、白色の記号)とZNS投与時(黒色の記号)の平均値を比較検討した(*: P 0.05、**: P 0.01)。ZNSを治療用量(20 mg/kg/日、50 mg/kg/日、po)で投与したところ、DA、DOPA、DOPAC、HVAの各細胞内濃度は、対照の値よりも有意に高かったのに対し、ZNSは治療用量を超える用量(100 mg/kg、po)で投与したところ、線条体のDA、DAの代謝物(DOPAC、HVA)、DAの前駆体の各細胞内濃度、および海馬のDA、DOPA、DOPACの各細胞内濃度は、対照の値よりも低かったが、海馬のHVAの細胞内濃度は対照の値と変わりなしであった。」 (199頁の図5の左上の図及び図5の説明)

(記載事項1-5)
「これらの結果から、ZNS 20?50 mg/kgを短期投与(ip)すると、DA合成が促進されることが示唆される。その一方で、ZNSによる活性阻害は、MAO-B(DAをDOPACに変換する酵素)(ED_(50) = 660 μM)の方が、MAO-A(DAをDOPACに変換し、5-HTを5-HIAAに変換する酵素)(ED_(50) 1 mM)よりも大きい。しかし、ZNSは、治療濃度の範囲内(30?300 μM)では、DA再取込みをin vitroで阻害しない[18]。すなわち、ZNSは、MAO-B活性を低下させることによって、DA分解経路を阻害する。」 (201頁の右欄13-24行)

(記載事項1-6)
「今回の研究の結果、ZNSを治療用量で短期投与(ip)したところ、線条体と海馬のDA、DOPA、HVAのそれぞれの細胞内濃度および細胞外濃度が上昇したのに対し、DOPACの濃度は低下した。これらの結果は2つの機序(すなわち、DA合成の促進および/またはDA分解の阻害)によってもたらされたと考えられる。」 (201頁の右欄29-35行)

(記載事項1-7)
「ドーパミン作動系に対するゾニサミドの効果」(193頁のタイトル)

(記載事項1-8)
「そこで、今回の研究の目的は、ゾニサミドの作用機序を検討することによって、ドーパミン作動系に対するゾニサミドの効果を明らかにすることである。」(194頁左欄33-35行)

(記載事項1-9)
「2. 実験材料及び方法
2.1 実験動物
176匹の250?300gの雄のwistarラット(クリー株式会社、日本から入手)を・・」(194頁左欄36-39行)

(記載事項1-10)
「3.3.1. 線条体と海馬におけるDAの細胞外濃度に対するZNSの影響
線条体と海馬におけるDAの細胞外濃度を図1に示した。DAの濃度は安定した対照の%として表した。線条体と海馬の1検体あたりの20分間のDAの細胞外濃度のベースライン値は、それぞれ68.09 ± 8.88、6.40 ± 0.72 fmolであった。ZNS 20 mg/kgをipしたところ、DAの細胞外濃度が線条体(最大上昇:ベースライン値の107.81 ± 1.71%、P 0.05)と海馬(最大上昇:ベースラインの111.15 ± 6.69%、P 0.05)の双方で有意に上昇した。ZNS 50 mg/kgをipしたところ、DAの細胞外濃度が線条体(最大上昇:ベースライン値の114.51 ± 4.82%、P 0.01)と海馬(最大上昇:ベースラインの133.11 ± 18.48%、P 0.05)の双方で有意に上昇した。ZNS 100 mg/kgをipしたところ、線条体においては、DAの細胞外濃度がベースラインから一過性に上昇した後(最大上昇:ベースラインの112.08 ± 4.28%、P 0.05)、ipから100?120分後に低下し(最大低下:ベースラインの67.80 ± 8.41%、P 0.01)、海馬においては、DAの細胞外濃度が有意に低下した(最大低下:ベースラインの59.10 ± 10.97%、P 0.01)。」(198頁右欄1-23行)

(記載事項1-11)
「参照文献
(中略)
[12] S.金子ほか、「新規な抗けいれん剤であるゾニサミドの最初の公開試験、躁病に有効」Prog. Neuro-Psychopharrmacol. Biol. Psychiat., 18 (1994) 707-715
(中略)
[32] Sackellars, J.C, ほか、「難治性部分発作の患者におけるゾニサミドの試験的研究」Epilepsia, 26(1985) 206-211
(中略)
[39] T.平、「ゾニサミド誘発性振戦-2例の報告」脳と神経, 44(1992) 61-63」(203頁右欄1行- 204頁右欄37行)

甲第2号証:Epilepsy Res.,1992年,13巻,113-119頁
(記載事項2-1)
「ゾニサミド(3-sulfamoylmethyl-1,2-benzisoxazole)は新しい抗てんかん薬の一種である。自由行動ラットを対象として、モノアミンとその代謝物の線条体および海馬における細胞外濃度に対するゾニサミドの影響、および線条体におけるCa^(2+)依存性モノアミン遊離に対するゾニサミドの影響について、microdialysisを利用して検討した。
その結果、ゾニサミドによって、ラット線条体のドパミン、homovanillic acid、5-hydroxyindoleacetic acidが増加し、3,4-dihydroxyphenylacetic acidが減少した。しかし、ゾニサミドは、ラット線条体のCa^(2+)依存性ドパミン遊離には、何ら影響を及ぼさなかった。海馬の場合、ゾニサミドによって、ドパミン、homovanillic acid、serotonin、5-hydroxyindoleacetic acidが増加し、3,4-dihydroxyphenylacetic acidが減少した。ゾニサミドは、治療時の血漿中濃度の範囲内で、ドパミン作動性神経伝達およびserotonin作動性神経伝達を促進するが、Ca^(2+)依存性ドパミン遊離には、何ら影響を及ぼさないことが、今回の研究結果から示唆された。」 (113頁の要約)

(記載事項2-2)



図2. ラットの線条体におけるMA遊離に対するZNSの影響
投薬前の期間中に60分間にわたって、またZNS投与から120分間にわたって、DA(図A)、DOPAC(図B)、HVA(図C)、5-HIAA(図D)の線条体の灌流液中濃度を定量した(〇:20 mg/kg、●:50 mg/kg)。データはZNS投与前の60分間の値の%として表した(平均 ± 標準偏差、5頭)。ZNS投与前の平均値と、ZNS投与後の平均値とを比較検討すると共に(^(*)P 0.05)、ZNS 20 mg/kgと50 mg/kgとを比較検討した(^(@)P 0.05)。Fo : 反復測定分散分析のF値」 (115頁の図2(A)及び図2の説明)

甲第3号証:日本神経精神薬理学雑誌,1994年,14巻,337-354頁
(記載事項3-1)



」 (337頁の左欄1行?右欄5行)

(記載事項3-2)



図I-a ラット線条体のドパミン及びその代謝産物の細胞外濃度に対するゾニサミド及びcarbamazepineの効果。線条体の灌流液中のドパミン(DA)、3,4-dihydroxyphenylacetic acid(DOPAC)及びhomovanillic acid(HVA)を、投与前(control)60分間、ゾニサミド(ZNS)投与後120分間[20 mg/kg(●)、50 mg/kg(■)、100(▼)mg/kg]、及びcarbamazepine(CBZ)投与後120分間[20 mg/kg(●)、50 mg/kg(■)、100(▼)mg/kg]測定した。縦軸はDA、DOPAC及びHVAの細胞外濃度(%control)を、横軸は経過時間(分)を示す。データは、ZNS又はCBZ投与前60分間に測定されたcontrolに対する%(平均値±SD、N = 6)として表す。ZNS又はCBZの投与前後に得られた平均値を比較した(*: P0.05、**: P0.01)。治療用量のZNS(20及び50 mg/kg)は細胞外DA及びHVA濃度を増加させ、一方で細胞外DOPAC濃度を減少させた。治療用量のCBZ(25 mg/kg)はDA、DOPAC及びHVAの細胞外濃度を増加させた。過剰用量のZNS(100 mg/kg)並びにCBZ(50及び100 mg/kg)はDA、DOPAC及びHVAの細胞外濃度を減少させた。」 (340頁の図1-aの最上図及び図1-aの説明)

(記載事項3-3)



図4 ゾニサミド及びcarbamazepine腹腔内投与後2時間のラット線条体及び海馬における脳内ドパミン、その代謝産物及び前駆物質濃度。ドパミン(DA)、その代謝産物である3,4-dihydroxyphenylacetic acid(DOPAC)とhomovanillic acid(HVA)、その前駆物質である3,4-dihydroxyphenylalanine(DOPA)を、ZNS(20、50、100 mg/kg)又はCBZ(25、50、100 mg/kg)投与後2時間の線条体及び海馬組織で測定した。縦軸はDAとその代謝産物及び前駆物質濃度をnmol/g脳組織湿重量(nmol/g wwbt)で示し、横軸はZNS及びCBZの用量を示す。溶媒として用いたdimethylsulfoxide(DMSO)投与時の平均値(control)と、ZNS及びCBZ投与時の平均値を比較した(*: P 0.05、**: P 0.01)。DMSOでは変化がなかった一方、治療用量のZNS(20及び50 mg/kg)ではDOPACを除くすべての物質濃度が増加した。過剰用量のZNS(100 mg/kg)は測定した全物質濃度を減少させた。治療用量のCBZ(25 mg/kg)は全物質濃度を増加させ、過剰用量のCBZ(50及び100 mg/kg)は全物質濃度を減少させた。」 (345頁の図4の左下図及び図4の説明)

(記載事項3-4)



図6 ZNS及びCBZ経口投与後3週間のラット線条体及び海馬における脳内ドパミン、その代謝産物及び前駆物質濃度。ドパミン(DA)、その代謝産物である3,4-dihydroxyphenylacetic acid(DOPAC)とhomovanillic acid(HVA)、前駆物質である3,4-dihydroxyphenylalanine(DOPA)を、ZNS又はCBZ投与後3週間の線条体及び海馬組織で測定した。縦軸はDAとその代謝産物及び前駆物質濃度をnmol/g脳組織湿重量(nmol/g wwbt)で示し、横軸はZNS及びCBZの用量を示す。controlの平均値と、ZNS又はCBZの投与で得られた平均値を比較した(*: P0.05、**: P0.01)。治療用量のZNS(20及び50 mg/kg/day)並びにCBZ(25 mg/kg/day)投与により脳内DA、DOPA、DOPAC及びHVA濃度は有意に増加し、一方で過剰用量のZNS(100 mg/kg/day)並びにCBZ(50及び100 mg/kg/day)により脳内DA、代謝産物及び前駆物質濃度は減少した。」 (347頁の図6の左下図及び図6の説明)

(記載事項3-5)



図9 モノアミン酸化酵素活性に対するZNS及びCBZの効果。縦軸はモノアミン酸化酵素活性(Log %阻害)を、横軸はZNS及びCBZ濃度(Log、μM)を対数目盛で示している。丸印(●、〇)はtype A モノアミン酸化酵素(MAO-A)活性の結果を、三角印(▼、▽)はtype B モノアミン酸化酵素(MAO-B)活性の結果を示す。MAO-A及びMAO-B平均値を比較した(**: P0.01)。ZNSは両タイプのMAO活性を阻害した。ZNS(濃度300?1,000 μM)はMAO-A(●)に比べMAO-B(▼)を強く阻害した。MAO-A及びMAO-B阻害のIC_(50)値はそれぞれ1,000 μM及び660 μM超であった。CBZはMAO-A(〇)とMAO-B(▽)の両方の活性を阻害しなかった。」 (350頁の図9及びその説明)

(記載事項3-6)



」 (350頁の左欄下から5行?最終行)

(記載事項3-7)
「抗てんかん薬carbamazepineおよびzonisamideのラット脳内monoamine系機能に与える効果」(337頁のタイトル)

(記載事項3-8)
「要約:抗てんかん薬carbamazepine(CBZ)およびzonisamide(ZNS)の作用機序解明の目的で、両剤のmonoamine(MA)遊離、代謝、再取り込みに対する効果を雄性Wistar系ラットを用いて検討した。ZNS(20、50mg/kg)、CBZは急性腹腔内投与、および、慢性経口投与(21d)では、血漿濃度は治療濃度内であったが、ZNS(100mg/kg)、CBZ(100mg/kg)は治療濃度を超える濃度を示した。・・以上の結果から、治療濃度のZNS、CBZのMA系機能増強作用が両剤の抗てんかん作用の一部を説明しうるものと考えられる。一方、過剰用量のZNS、CBZによるMA系機能の減弱が、CBZのパラドキシカルintoxicationの機序に関連し、ZNSにも同様の機序が存在することを示唆する。」(337頁要約)

甲第4号証:社団法人日本薬剤師会編,「病気と薬剤 改訂第4版」
(記載事項4-1)
「パーキンソン病を端的に表すと、線条体コリン-カテコールアミンバランスにおけるドパミン欠乏・コリン優位の状態といえる。中枢神経系において、健常人では興奮性であるアセチルコリンとその逆の作用をするドパミンの間に平衡関係があるが、パーキンソン病ではアセチルコリンの濃度は不変であることが確かめられており、ドパミンの減少によりコリン作動性ニューロンが相対的に優位になるものと考えられる。
病理所見で特徴的なものは、ドパミンニューロンの変性・消失、神経メラニンの減少、レビー小体の出現である。このような変化とともにドパミン減少が起こり、線条体コリン作動性ニューロンに対する抑制機能の低下が現れる。線条体のドパミン含量が約80%減少するとパーキンソン病の兆候がみられるという。
生化学的変化としてはドパミン合成の律速酵素であるチロシン3-モノオキシゲナーゼ量およびその補酵素であるテトラヒドロビオプテリンの減少があげられる。」(306頁4?14行)


(記載事項4-2)



」 (308頁下から5?最終行及び図16-1)

(記載事項4-3)



」 (309頁の表16-3)

(記載事項4-4)
「(1)レボドパ(ドパミン前駆物質)
黒質-線条体系ドパミンニューロンに取り込まれて脱炭酸を受けドパミンとなり、神経終末から放出されて低下していたドパミンを補う。
1960年代に臨床応用され画期的な効果をもたらして以来、パーキンソン病の薬物治療にとってもっとも重要な薬剤であるが、副作用や長期服用時の問題点が明らかになっている。ドパミンは血液-脳関門をほとんど通過しないため無効であり、ドパミンの前駆体で血液-脳関門を通過するレボドパが使用される。レボドパは末梢組織でも脱炭酸酵素によりドパミンに代謝されるので、単独投与では1日あたり4?8gという高用量が必要である。胃内でも脱炭酸を受けるため、胃排泄時間はバイオアベイラビリティに影響を与える。」 (310頁の13?21行)

甲第5号証:医薬ジャーナル,1995年,Vol.31,12月号,20?67頁
(記載事項5-1)



」 (28頁の図2)

(記載事項5-2)
「線条体は、中枢神経系の中でも特にアセチルコリン(Ach)含有量やその合成酵素・choline actyl transferase(CAT)、分解酵素・choline esteraseの活性が高い^(3))部位で、線条体で果たすAchの生理的意義は、非常に大きいとみられる。
パーキンソン病は、黒質緻密層のDAニューロンの変性脱落によって、線条体DAが減少する疾患であるが、線条体内のAch含有量やCAT活性には変化がない。従来のパーキンソン病線条体のおおまかな薬理学的理解として、DAニューロンは、生理的条件下では持続的に線条体内介在Achニューロンを抑制しているため、DAが欠乏した病的状態では、Achニューロンの脱抑制が生じ、機能的にAchニューロンが優位の状況にあるとみなされている。」 (30頁の右欄3?17行)

(記載事項5-3)
「1.はじめに
1817年、本疾患名の由来となったDr. James Parkinsonが、「振戦麻痺」として初めて本症を記載して180年近くが経過した。この間に、パーキンソン病に関する症候学、病理学、生化学、治療学の分野で、多くの研究が行われ、報告された知見はおびただしい数にのぼる。治療学の分野では、パーキンソン病患者脳の線条体ドパミン(DA)減少が報告されて間もなく、L-dopa(レボドパ)が、パーキンソン病に対する魔法の薬として登場した。以来、レボドパは、長年にわたって本症治療における主役を演じてきた。その後はDA代謝酵素阻害剤やDA作動薬の登場により、本剤の役割はやや後退したかのように見えるが、いまなお主役の座を守り続けている。本稿では、レボドパ剤の作用機序、実際の使い方、副作用及びレボドパ治療の功罪などを中心に概説する。

2.レボドパの代謝
レボドパの理解を助けるために、ドパやDAの代謝について最初に触れておく(図1)。血中チロシンは血液脳関門(BBB)を通り、DAニューロンに取り込まれる。最初にチロシン水酸化酵素(TH)によりdihydroxyphenylalanine(L-dopa、レボドパ)に変換され、次に芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(aromatic amino acid decarboxylase: AADC)の働きにより、DAに変わる。神経終末から放出されたDAは、カテコール-O-メチル転移酵素(COMT)、モノアミン酸化酵素(MAO)などにより代謝され、dihydroxyphenylacetic acid(DOPAC)を経て、最終的にはhomovanillic acid(HVA)になる。
パーキンソン病患者の黒質DA神経細胞は、発症した時点で正常者の50%以下に減少し、線条体DAは正常の20%以下となっている。レボドパを薬物として投与すると、残っているDAニューロンに取り込まれ、AADCによりDAへ代謝され、神経終末から放出される。動物実験では、黒質線条体経路を完全に破壊してもAADC活性の一部分が残るとされているので、これもレボドパの代謝に一役かっている可能性がある。これらの事実が、本症に対してレボドパが治療薬として用いられてきた理論的根拠である。

3.レボドパの治療効果
パーキンソン病に対しては、最初D、L-dopaが用いられた。当初は効果が少なく、嘔吐などの副作用が強く、治療上問題とされた。その後、少量から少しずつ増量する漸増大量療法が工夫され、更にD、L体からL体ドパ(レボドパ)に代わって、劇的な治療効果が得られるようになった。本邦では、1969年から臨床治験が開始され、その有効性が報告された。本剤は、抗コリン剤が苦手とした筋固縮や無動に対して、著明な効果を発揮した。例えば無動や筋固縮に対して80?90%、振戦に対しても、半数の例で治療効果が認められた。


」 (36頁の左欄1行?右欄最終行、及び37頁の図1)

甲第6号証:NEW薬理学 改訂第3版,1997年8月1日,108?111及び289?296頁
(記載事項6-1)
「カテコラミンの局所的不活性化機構の一つに酵素による代謝(metabolism)過程がある。細胞内では、主としてモノアミンオキシダーゼ(monoamine oxidase、MAO)によって酸化的脱アミノ化され、細胞外では、カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(catechol-O-methyl-transferase、COMT)によって、カテコール核m-位の水酸基が、O-メチル化される、このいずれの酵素により代謝されてもカテコラミンは生理活性を失う。いずれの代謝過程が先に起こるかは、カテコラミンの存在部位、細胞内か外かによって左右される。分泌されたカテコラミンは、48時間でそのほとんどが尿中に排泄されるが、カテコラミンとして尿中に排泄されるのは10%くらいで、他は代謝物として排泄される。生体内におけるカテコラミンの代謝経路を図III-19に示す。」 (108頁の第4?13行)

(記載事項6-2)


」 (109頁の図III-19)

(記載事項6-3)



」 (108頁の下から第6行?末行、図III-20、及び第110頁の第1?4行)

(記載事項6-4)
「Parkinson病は錐体外路機能の異常を主症状とする基底核変性疾患である。古くからスコポラミンが症状を軽減させることが知られ、抗コリン作用薬が治療に使われてきた。Perkinson病の基底核には黒質-線条体ドパミン神経の変性によってドパミンが欠乏していることが明らかになり、ドパミン補充療法が著効を奏して以来、ドパミン前駆物質としてレボドパが使用され、その補助薬とともにドパミン作用薬が治療の主流となっている。特定の症状にはノルエピネフリン補充療法も可能になった。」 (289頁の第1?6行)

(記載事項6-5)



」(289頁の第7?24行)
(記載事項6-6)



」 (295頁の第7?16行)

(記載事項6-7)
「レボドパ Levodopa、L-Dopa
レボドパ(L-3,4-dihydroxyphenylalanine, L-dopa)は現在Parkinson病に最も効果的な薬である。生体内ではL-チロシンから合成されるドパミンの前駆物質で、芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼによってドパミンに生合成される(図V-5)。Parkinson病脳ではドパミンが欠乏しているので、ドパミンを補充する目的でレボドパを用いる。ドパミンは血液-脳関門を通過できないので、ドパミンを静脈注射や経口投与しても脳内に到達しない。ドパミン前駆物質であるレボドパは芳香族L-アミノ酸であり血液-脳関門を通過することができる。」(第291頁第1?8行)

甲第7号証:Life Sciences,1994年,54巻,245-252頁
(記載事項7-1)
「C57BL/6マウス脳における1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン(MPTP)誘発性ドパミン枯渇に対する、新規抗てんかん薬ラモトリジン(LTG)の作用を検討した。MPTP(15 mg/kg 皮下)投与後2日の全脳のドパミン濃度を、HPLC-EDにより測定した。LTG単独では投与後2時間又は2日のドパミン濃度に直接作用しなかったが、MPTP誘発性ドパミン枯渇はLTG前処置マウスにおいて有意に小さくなった(ED50: 6 mg/kg)。LTG(38 mg/kg)をMPTP投与前1又は2時間に投与したとき、ドパミン枯渇から完全に保護された。MPTP毒性に対するLTGの効果(38、100 mg/kg)を、抗てんかん薬であるフェニトイン(67 mg/kg)、カルバマゼピン(156 mg/kg)、リルゾール(33 mg/kg)及びCa^(++)チャネル遮断薬であるニカルジピン(0.1 mg/kg)の効果と比較した。その結果、フェニトインとLTGのみがMPTPに対する顕著な保護作用を示した。以上により、LTGはMPTP誘発性ドパミン枯渇を、新たな機構を介して阻止することが示唆された。」 (245頁の要旨)

(記載事項7-2)
「最後に、LTGによる最適な保護が得られるまでの時間を明らかにするため、動物を用いてMPTP投与前及び投与後の様々な時点で38 mg/kg LTGを投与する、時間経過試験を行った。図3のように、MPTP投与後2、4及び24時間の時点でLTGを投与したとき、有意な保護作用は認められなかった。有意な保護作用は、MPTP投与後1時間と、MPTP投与前1、2時間で投与したときに認められた。MPTP投与前1時間にLTGを投与したときに、MPTP誘発性ドパミン枯渇に対するLTGの保護作用が最大であった。


MPTP投与(15 mg/kg、皮下)前後の様々な時点で投与したときの、ドパミン量に対するLTG(38 mg/kg、経口)の効果

** 溶媒/溶媒に対してp0.01、ANOVA/Scheffe.
*** 溶媒/溶媒に対してp0.001、ANOVA/Scheffe.
††† 溶媒/MPTPに対してp0.001、ANOVA/Scheffe.
」 (249頁の4?10行及び図3)

(記載事項7-3)
「MAO阻害薬(特にMAO-B阻害薬)は、MPTPからその毒性代謝物MPP+への変換を阻止することで、MPTP誘発性ドパミン枯渇及び黒質線条体ドパミン作動性の細胞死から保護することができることが示されている(8,9)。6 mg/kg経口投与後2時間のC57BL/6マウスの脳内に認められるLTG濃度は7.2 uMである(1.8 μg/g脳組織、Brueckner and Norton、私信)。この濃度は、in vitro試験で確認されたLTGによるMAO-A及びMAO-B阻害のIC_(50)の、それぞれ約11倍及び5.6倍である(White、私信)。C57BLマウスにおいてMPTP誘発性のドパミン神経毒性を減弱するためには、MAO-B活性を40%以上阻害する必要があるというJossan et al(23)の所見を踏まえると、LTGで得られる保護がすべてMAO-Bに対する作用によるものとは考えられない。ただしそれでも、完全保護をもたらす比較的高用量を投与した場合は特に、MAO-Bを保護機序の候補として否定することはできない。」 (250頁の15?26行)

(記載事項7-4)
「結論として、新規抗てんかん薬であるLTGは、C57BLマウスにおけるMPTP誘発性ドパミン枯渇に対して保護作用をもつ。さらに、LTGがドパミンの取り込みやMAOを阻害するであろう濃度よりも低い濃度で脳内に存在するような用量でも、LTGには神経保護効果が認められる。さらに興味深いことに、MPTP誘発性ドパミン枯渇を拮抗するためのLTGのED_(50)は、抗てんかん作用を示す用量範囲内にある。この所見は、LTGの臨床的有用性をパーキンソン病の治療にも広げられる可能性があることを示唆している。」 (251頁の1?7行)

甲第8号証:神経精神薬理,1992年,14巻,773-781頁
(記載事項8-1)
「 II. 薬物治療とその機序及び問題点
現在臨床で投与されている抗Parkinson剤は種々あるが大きく分けると、ドーパミンのプロドラッグ、ドーパミン受容体刺激剤、ドーパミン放出促進剤、中枢性抗コリン作用剤、ノルアドレナリンのプロドラッグなどに分類される。表1に上記薬剤の種類と主な薬理作用を示し、図2にParkinson薬の想定される作用部位を示した。最近、ブロモクリプチンに代表される種々のドーパミン受容体アゴニストやMAO-B阻害剤などが開発されているが、最も卓越した治療効果を示すのはL-ドパでありこれを凌ぐ薬は今なお発見されてはいない。」(774頁の右欄1行?775頁左欄7行

(記載事項8-2)



」 (774頁の表1及び図2)

(記載事項8-3)
「1.ドーパミンのプロドラッグ(L-ドパ)
(1)(当審注:原文は○の中に「1」で表記されている。)作用機序及び薬物動態
生体アミンは血液脳関門を通過しないため、線条体ドーパミンを補うために、末梢からドーパミンを投与しても脳内には殆ど到達しない。また、図3に示すようにドーパミン生成の律速酵素であるチロシン水酸化酵素の欠乏があるため、L-ドパの前駆物質のチロシンやフェニールアラニンを補っても脳内ドーパミン量を増加させることは不可能である。一方、L-ドパからドーパミンへの代謝を受け持つドパ脱炭酸酵素は比較的保たれているので、ドーパミンの直接の前駆体であり血液脳関門を通過しうるL-ドパの内服(または経静脈)投与がParkinson症状の改善に最も有効である。」(775頁左欄8?21行)

(記載事項8-4)
「Parkinson病患者の脳実質内に入ったL-ドパの生理作用については未だ十分明かにされてはいない。実験動物モデルを用いた研究や18F-DOPAを用いたMPTPパーキンソニズムに対するPET-Scanの結果から、まず取り込まれたL-ドパは残存黒質線条体ドーパミン神経に取り込まれる。次にその神経終末に存在する脱炭酸酵素によってドーパミンに変わり、小胞内で貯蔵または刺激に応じてシナプス間隙に放出されて、線条体の介在神経であるコリン神経細胞上のドーパミンD2受容体と結合することにより作用を発現すると考えられている。」(第775頁左欄23行?第776頁左欄第8行)

甲第9号証:神経精神薬理,1997年,19巻,671-683頁
(記載事項9-1)



」 (671頁の左欄2?19行)

(記載事項9-2)



」 (672頁の図2)

(記載事項9-3)



」 (672頁の右欄6?18行)

(記載事項9-4)



」 (672頁の右欄下から2行?674頁の左欄20行)

甲第10号証:神経精神薬理,1985年,7巻,769-778頁
(記載事項10-1)



」 (769頁の右欄9?14行)

(記載事項10-2)



」 (771頁の左欄5?13行)

(記載事項10-3)



」 (774頁の左欄第26行?右欄第7行及び図7)

(2)
乙第1号証ないし乙第34号証のうち、乙第6、18、19、22、25号証には、以下の記載がある。なお、原文が外国語で記載されているものについては、邦訳を示す。

乙第6号証:脳神経 44(1);61-63 (1992)
(記載事項乙6-1)
「新しい抗けいれん剤であるzonisamideによって振戦が出現した2症例を報告する。両症例とも20歳代の女性で,zonisamide(200mg/日)を服用開始後3ヶ月から症状が出現した。」 (61頁、要旨の1?2行)

乙第18号証:日本神経精神薬理学雑誌, 17: 17-23 (1997年2月25日)
(記載事項乙18-1)
「Carbamazepine(CBZ)は抗てんかん作用ならびに抗躁作用をもち、zonisamide(ZNS)もCBZと同様の効果が報告されている。・・・脳内透析法により測定した細胞外ACh濃度はCBZ(25mg/kg)、ZNS(20mg/kg)で増加し、CBZ(100mg/kg)、ZNS(100mg/kg)で低下した。」 (17頁要約)

乙第19号証:Prog. Neuro-Psychopharrmacol. Biol. Psychiat., 18 (1994) 707-715
(記載事項乙19-1)
「1 日本で開発された抗けいれん薬であるゾニサミドは、セロトニンに構造的に類似している。ゾニサミドは、カルバマゼピンとよく似た薬理学的プロファイルを有することが判明している。したがって、24名の精神病患者:双極性の躁状態を有する15名、統合失調感情障害の躁状態を有する6名および統合失調性興奮の3名、におけるゾニサミドの効果を試験した。

2 全患者の約25%および双極性躁患者の33%がゾニサミドを加えることによって優れた全般的改善を示した。全患者の約71%および双極性群の80%が中等度以上の全般的改善を有した。」(707頁要約)

乙第22号証:Brain Research, 587, 241-249 (1992)
(記載事項乙22-1)
「Carbamazepine(CBZ)、zonisamide(ZNS)、valproate(VPA)の情動安定化作用機序解明の目的で、急性投与時の3剤のmonoamine(MA)遊離に対する効果、急性および慢性投与によるMA、acetylcholine(ACh)代謝に対する用量依存性をラット(N=329)を用いて検討した。・・・3剤のAChに対する効果は、治療用量の慢性投与では脳内ACh濃度を増加したが、投与量増加に伴い、ACh濃度増加作用は減弱し、過剰用量ではACh濃度を低下した。」 (107頁抄録)

乙第25号証:European J. Pharmacol. 116, 313-317 (1985)
(記載事項乙25-1)
「ベンジルアミンをMAO-Bの代表的な基質として用い、トリプタミン又は5-ヒドロキシトリプタミンを、MAO-Aの代表的な基質とした。」(315頁13?16行)

(記載事項乙25-2)



」(315頁表1)


第4. 当合議体の判断
1. 請求人の主張の概要
請求人は、無効理由1に関連して概略以下の主張1?7をしている。

<主張1>
甲第1号証には、ゾニサミドを有効成分とする抗てんかん薬に係る発明(甲1発明)が開示されている。
また、本件発明1と甲1発明とは、ゾニサミドを有効成分とする医薬である点で一致しているが、本件発明1ではパーキンソン病などの神経変性疾患を治療対象とするのに対して、甲1発明ではてんかんを治療対象としている点で相違する。
線条体においてドパミンの量を増加させるレボドパなどの薬物がパーキンソン病に対して有効性を発揮できること、及びパーキンソン病の治療薬として線条体におけるドパミンの量を増加させる薬物が臨床的に広く使用されていることは当業者に周知されている。
そのような技術常識を有する当業者であれば、甲第1号証に教示されているゾニサミドが線条体においてドパミンの量を増加させる作用を有しているという事実を知れば、ゾニサミドが線条体内ドパミン量の減少により発症するパーキンソン病の治療薬として有効性を有することに期待を抱くはずである。
(審判請求書、36頁23行?40頁10行、41頁5行?42頁7行、43頁16行?45頁15行、請求人が提出した口頭審理陳述要領書9頁26行?11頁20行、16頁2?7行、21頁20行?23頁15行、27頁26行?29頁14行)

<主張2>
以下の技術常識AないしFが、審判請求書における説明及びすでに提出済みの各証拠から認定されるべきである。
・技術常識A:パーキンソン病の病因が線条体ドパミンの枯渇であること
・技術常識B:パーキンソン病の治療薬として線条体ドパミン量を上昇させる薬物が用いられていること、及び、線条体におけるドパミン濃度が減少しているパーキンソン病患者に対して、線条体ドパミン量を増加させることにより、その症状を改善して治療することができること
・技術常識C:ドパミンの分解に関与するMAO-Bを阻害する薬剤が、線条体から放出されたドパミンの分解を抑制してドパミン作用を持続させることによりパーキンソン病の症状を改善することができ、臨床的に使用されていること
・技術常識D:本件特許明細書の実施例において採用されている実験動物モデル(MPTPモデル動物)は、パーキンソン病に特化した実験モデル動物として本件特許の優先日前に利用可能であり、MPTPの毒性発現メカニズムも解明されていたこと
・技術常識E:ゾニサミドが線条体においてドパミン濃度を上昇させる作用を有すること、及びゾニサミドがMAO-Bに対する阻害作用を有すること
・技術常識F:パーキソンソン病に対して現在利用可能な治療薬は、効力や副作用の面から必ずしも満足できるものではなく、さらに有効な治療薬を提供することが求められていた(つまり、本件発明の解決課題は当業者に周知の課題であった)こと
(審判請求書、36頁23行?39頁21行、42頁10?43頁15行、請求人が提出した口頭審理陳述要領書、4頁27行?9頁23行、15頁20?末行、18頁2行?21頁19行、別紙1)

<主張3>
線条体におけるドパミン濃度を高める作用を有することが知られているゾニサミドについて、さらにMAO-B阻害作用を有することが甲第1号証及び甲第3号証に教示されているから、ゾニサミドをパーキンソン病の治療に使用してみることに当業者は強く動機づけられるはずである。
(審判請求書、43頁16行?44頁1行、請求人が提出した口頭審理陳述要領書9頁26行?11頁20行、16頁8?14行、27頁26行?29頁14行、平成30年3月16日付上申書4頁6行?6頁19行)

<主張4>
パーキンソン病の治療薬を提供しようとする当業者であれば、甲第1号証をみて、ゾニサミドが線条体のドパミン濃度を上昇させるとの事実を認識し、ゾニサミドにより線条体のドパミン濃度を上昇させればパーキンソン病を治療できるであろうと考えるはずであり、パーキンソン病に対する有効性を確認すべく、パーキンソン病の実験モデル動物として確立されているMPTPドパミン枯渇マウスを用いて試験を行うことに動機づけられるはずである。
(審判請求書、44頁3行?18行、45頁17行?46頁9行、請求人が提出した口頭審理陳述要領書16頁15行?28行、23頁16行?24頁末行、31頁4行?32頁21行)

<主張5>
甲第1号証ないし甲第3号証には、てんかん以外の疾患においてはゾニサミドの有効性を期待できないとする制限的な記載や、てんかん以外の疾患にゾミサミドを使用すべきではないとする注意的な記載などは見当たらないから、当業者であれば、パーキンソン病に対してゾニサミドを使用してみることに直ちに動機づけられることは明らかである。
また、進歩性の判断においては、実際の研究者が何を考えたのかを議論する必要はない。
また、薬物の投与中止により消失する薬剤性パーキンソニズムを引き起こす場合がごく稀にあるということだけでは、ゾニサミドをパーキンソン病治療薬として使用してみることの阻害要因になろうはずもない。
また、ゾニサミドがドパミンに対して二相性作用を有するとしても、当業者であればパーキンソン病患者において薬効範囲の血漿中濃度を達成できる投与量及び用法を適宜選択し、薬効範囲を超える投与量を何ら困難性なく回避できる。
(審判請求書、44頁19行?45頁15行、請求人が提出した口頭審理陳述要領書頁21頁20行?23頁15行、25頁1行?27頁25行、29頁18行?31頁3行、34頁11行?35頁20行、37頁13行?39頁6行、平成30年3月16日付上申書6頁21行?7頁18行)

<主張6>
本件特許明細書に開示された本件発明1の奏する効果(カルバマゼピンよりもゾニサミドのほうがドパミン含有量の減少に対して高い抑制率を示す)は甲第3号証に開示されている。
(審判請求書、46頁11行?48頁14行、請求人が提出した口頭審理陳述要領書11頁22行?13頁14行、17頁1?6行、31頁4行?34頁10行、平成30年3月12日付上申書5頁1行?6頁17行、7頁24行?10頁2行)

<主張7>
本件特許明細書の実施例では、ゾニサミドとカルバマゼピンとを比較評価するための実験系において、ドパミン枯渇状態の異なる状態の実験動物がそれぞれ使用されていることから、ゾニサミドがカルバマゼピンと比較して顕著な効果を有するとすることはできない。
(審判請求書、49頁23行?53頁9行、請求人が提出した口頭審理陳述要領書13頁15行?15頁7行、17頁7?26行、35頁21行?37頁12行、平成30年3月12日付上申書6頁19行?7頁22行、10頁2行?11頁13行、平成30年3月16日付上申書7頁20行?9頁15行)

2. 本件特許発明1についての当合議体の判断
(1) 甲第1号証に記載された発明との対比
甲第1号証には、ゾニサミドが新規の抗てんかん薬であること、部分発作の治療の際に効果を発揮すると共に、全身性強直性間代性発作、全身性強直性発作、複雑/複合発作に対しても、様々な程度に効果を発揮すること、有効性と安全性の観点から見て、ゾニサミドは、部分発作患者の場合、カルバマゼピンと同等であることが証明されていること、小児の全身性発作患者を対象とした研究では、valproate(VPA)と同等であることが証明されていること、ゾニサミド投与の際に、重篤な副作用が発現したり、強力な抗てんかん作用が発揮されたりすることは稀であるため、ゾニサミドは日本では主要な抗てんかん薬のひとつとみなされていることが記載されている(記載事項1-1)。
また、「雄のwistarラット」(記載事項1-9)に、「ZNSを治療用量(20 mg/kg、50 mg/kg)で投与した結果、線条体のDAおよびDOPAの細胞外濃度が上昇した」(記載事項1-2。なお、「ZNS」、「DA」は、それぞれ、ゾニサミド、ドパミンの略号である。)ことも記載されている。

これらの記載事項から、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「ゾニサミドを有効成分とする抗てんかん薬であって、
ゾニサミドの投与量が20 mg/kg、50 mg/kgであり、雄のwistarラットの線条体のドパミンの細胞外濃度が上昇する作用を示す、
抗てんかん薬。」

本件特許発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「ゾニサミド」は、本件特許発明1の「ゾニサミドまたはそのアルカリ金属塩」に相当する。また、甲1発明の「抗てんかん薬」も本件特許発明1の「神経変性疾患治療薬」も医薬であることに変わりはない。
したがって、本件特許発明1と甲1発明の一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「ゾニサミドまたはそのアルカリ金属塩を有効成分とする医薬。」

<相違点1>
医薬について、本件特許発明1では「神経変性疾患」を治療対象とするのに対して、甲1発明では「てんかん」を治療対象としている点。

(2) 相違点1について
甲第1号証には、甲1発明の医薬の治療対象について、その有効成分であるゾニサミドが新規な抗てんかん薬であることとともに、抗てんかん薬としての有用性について、部分発作や全身性強直性間代性発作、全身性強直性発作、複雑/複合発作に対しても、様々な程度に効果を発揮することや、重篤な副作用が発現することが稀であることなどが記載されている(記載事項1-1)が、甲1発明の医薬の治療対象を「神経変性疾患」とすることについては、記載も示唆もない。

甲1発明の医薬は、「線条体のドパミンの細胞外濃度が上昇する作用を示す」ものであるから、線条体のドパミンの細胞外濃度が上昇する剤であるともいえるが、甲第1号証には、線条体のドパミンの細胞外濃度が上昇する剤を投与することにより神経変性疾患を治療することについて記載や示唆はないし、線条体のドパミンの細胞外濃度が上昇する剤を投与することにより必ず神経変性疾患を治療することができるといえる技術常識もない。

そればかりか、甲第1号証には、甲1発明の医薬の有効成分であるゾニサミドについて、「他のドパミン作動性副作用(例:パーキンソニズム、妄想的観念)」をもたらすこと、および、「パーキンソニズム」に関連する文献として文献39(記載事項1-1、1-11参照。脳と神経, 44(1992) 61-63。)が挙げられており、当該文献39に対応する乙第6号証には、ゾニサミド(200mg/日)を服用開始後3ヶ月から振戦(当審注:甲第1号証の「他のドパミン作動性副作用(パーキンソニズム)」に対応する。以下、甲第1号証の表記(パーキンソニズム)に統一する。)が出現したことが記載されている(記載事項乙6-1)。
この記載は、ゾニサミド200mg/日の投与によりパーキンソニズムがもたらされたことを示すものである。ここで、ゾニサミド200mgは、患者の体重を50kg程度として4mg/kg程度と見なせるところ、甲1発明は、ゾニサミド20 mg/kg、50 mg/kgを投与するものであって、記載事項乙6-1にパーキンソニズムをもたらしたことが記載される投与量の5倍ないし12.5倍に達するものであり、ゾニサミド20 mg/kg、50 mg/kgを投与するものであることに基づけば、パーキンソニズムをもたらす可能性が高いものであると認められる。

そうすると、甲第1号証は、当業者が、甲1発明の抗てんかん薬において、治療対象を「神経変性疾患」や「パーキンソン病」とすることを動機づけられる記載や示唆を含むものであるとはいえず、当業者が、甲第1号証の記載に基づき、甲1発明の抗てんかん薬において、治療対象を「パーキンソン病」を含む「神経変性疾患」とすることを容易に想到し得たとは認められない。

また、甲第4?6、8号証の記載は、パーキンソン病の治療薬の中にドパミンを補う作用を奏するものがあることを示すにとどまり、ドパミンを補う作用を奏する薬物であれば必ずパーキンソン病の治療薬になることを示すものではない。
そうすると、甲第4?6、8号証の記載に接した当業者が、ドパミンを補う作用を奏する薬物であれば必ずパーキンソン病の治療薬になると理解するとはいえない。
また、ドパミンを補う作用を奏する薬物であればパーキンソン病の治療薬になることが技術常識であったといえる根拠も見出せない。

したがって、甲第1号証に加え、甲第4?6、8号証に記載されている事項及び技術常識を勘案しても、当業者が、甲1発明の抗てんかん薬において、治療対象を「パーキンソン病」を含む「神経変性疾患」とすることを容易になし得たとは認められない。

(3) 効果について
本件特許発明1の神経変性疾患治療薬は、神経変性疾患の治療に使用することができるという効果を奏することについて、本件特許の明細書には、パーキンソン病動物モデルを使用した試験により、MPTPにより惹起されるドパミン系神経変性に対する抑制作用を確認したこと(試験例1、2、表1)、「抑制作用」は、摘出した線条体に含まれるドパミンの量をHPLCで測定し、MPTPによりドパミン系神経変性が惹起されることによるドパミンの量の減少の抑制の程度を算出することによって評価されたものであること(試験例1)、ゾニサミド(ZNS)30mg/kg,poの投与により、80.3%の抑制率が得られたことが記載されている。
これらの記載から、当業者は、本件特許発明1の神経変性疾患治療薬が、MPTPにより惹起されるドパミン系神経変性に対する抑制作用を示すものであり、神経変性疾患の治療に使用することができるという効果を奏することを理解できる。

一方、甲第1号証には、上記「(2) 相違点1について」に説示したとおり、ゾニサミドを有効成分とする医薬を神経変性疾患の治療に使用することについて記載も示唆もない。
また、甲第1号証には、ゾニサミドが「線条体のドパミンの細胞外濃度が上昇する作用を示す」ことが記載されている(記載事項1-2)が、上記「(2) 相違点1について」に説示したとおり、甲第4?6、8号証の記載に接した当業者が、ドパミンを補う作用を奏する薬物であれば必ずパーキンソン病の治療薬になると理解するとはいえないし、ドパミンを補う作用を奏する薬物であればパーキンソン病の治療薬になることが技術常識であったともいえない。
したがって、甲第1号証に、ゾニサミドが「線条体のドパミンの細胞外濃度が上昇する作用を示す」ことが記載されていることに基づき、当業者が、ゾニサミドを有効成分とする医薬を神経変性疾患やパーキンソン病の治療に使用することができることを予測することができるとまではいえない。
また、甲第3号証には、「抗てんかん薬carbamazepine(CBZ)およびzonisamide(ZNS)の作用機序解明の目的で、両剤のmonoamine(MA)遊離、代謝、再取り込みに対する効果を雄性Wistar系ラットを用いて検討した」(記載事項3-8)こと、および、「抗てんかん薬carbamazepineおよびzonisamideのラット脳内monoamine系機能に与える効果」(記載事項3-1?3-7)についての報告が記載されているにすぎないものであって、ゾニサミドを有効成分とする抗てんかん薬を神経変性疾患の治療に使用することについては記載も示唆もない。

そうすると、本件特許発明1が奏する神経変性疾患の治療に使用することができるという効果は、甲第1、3号証に記載された事項に基づき、当業者が予想することができた範囲を超えるものである。

(4) 請求人の主張の検討
主張1は、甲第1号証にゾニサミドが線条体においてドパミンの量を増加させる作用を有していることが記載されているので、当業者は、ゾニサミドが線条体内ドパミン量の減少により発症するパーキンソン病の治療薬として有効性を有することに期待を抱くはずである、というものである。
しかしながら、上記「(2) 相違点1について」に説示したとおり、甲第1号証には、甲1発明の医薬を投与すると、パーキンソニズムが出現することも記載されているなど、甲第1号証の記載は、全体として、当業者が、甲1発明の抗てんかん薬において、治療対象を「パーキンソン病」とすることを動機づけられる記載や示唆を含むものであるとはいえないものである。

また、主張2は、主張1の前提となる技術常識に関するものであり、主張3?5は、いずれも、主張1を補強するための主張であると解され、主張6?7も、顕著な効果の不存在を主張することにより主張1を補強するものであると解されるから、上述のとおり、主張1が採用できない以上、主張2?7も、採用することができない。

(5) まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項並びに本件特許の優先日当時の技術常識に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2. 本件特許発明2?3についての当合議体の判断

本件特許発明2は、本件特許発明1を特定するための事項を全て備え、さらに、本件特許発明1の「有効成分」を「ゾニサミド」に特定したものであり、本件特許発明3は、本件特許発明1を特定するための事項を全て備え、さらに、本件特許発明1の「神経変性疾患」を「パーキンソン病」に特定したものであるところ、上記1.に説示したとおり、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項並びに本件特許の優先日当時の技術常識に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないものであるから、本件特許発明2及び本件特許発明3も、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項並びに本件特許の優先日当時の技術常識に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3. 本件特許発明4?6についての当合議体の判断

本件特許発明4の「神経変性疾患治療薬の製造のためのゾニサミドまたはそのアルカリ金属塩の使用。」は、本件特許発明1の「ゾニサミドまたはそのアルカリ金属塩を有効成分とする神経変性疾患治療薬。」のカテゴリーを「使用」に変更したものであるところ、上記1.に説示したとおり、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項並びに本件特許の優先日当時の技術常識に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないものである。
そうすると、本件特許発明4も、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項並びに本件特許の優先日当時の技術常識に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

本件特許発明5は、本件特許発明4を特定するための事項である「ゾニサミドまたはそのアルカリ金属塩」を「ゾニサミド」に特定したものに相当し、本件特許発明6は、本件特許発明4を特定するための事項を全て備え、さらに、本件特許発明4の「神経変性疾患」を「パーキンソン病」に特定したものであるところ、上述のとおり、本件特許発明4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項並びに本件特許の優先日当時の技術常識に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないものであるから、本件特許発明5及び本件特許発明6も、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項並びに本件特許の優先日当時の技術常識に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5. 結語
以上のとおり、請求人の主張及び立証方法によっては、本件特許発明1?6に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-05-29 
結審通知日 2018-05-31 
審決日 2018-06-13 
出願番号 特願2000-526222(P2000-526222)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内藤 伸一  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 淺野 美奈
蔵野 雅昭
登録日 2002-10-25 
登録番号 特許第3364481号(P3364481)
発明の名称 神経変性疾患治療薬  
代理人 北原 潤一  
代理人 井上 香織  
代理人 室伏 良信  
代理人 笹本 摂  
代理人 西澤 恵美子  
代理人 片山 英二  
代理人 野津 万梨子  
代理人 渡辺 紫保  
代理人 小林 浩  
代理人 今村 正純  
代理人 長沢 幸男  
代理人 黒田 薫  
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