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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G21B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G21B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G21B
管理番号 1350283
審判番号 不服2017-5366  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-14 
確定日 2019-04-13 
事件の表示 特願2016-179051「荷電粒子ビーム非対称衝突型核融合炉」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月22日出願公開、特開2018- 44830、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年9月14日の出願であって、平成28年11月1日付けで拒絶理由が通知され、平成28年12月14日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成29年2月27日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成29年4月14日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成30年4月20日付けで拒絶理由が通知され、平成30年5月14日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成30年7月31日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成30年9月11日付けで意見書及び手続補正書(以下「本件補正」という。)が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1-4に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
打ち出す2本の核融合燃料である荷電粒子ビームが 双方共に重水素原子核(2H、デューテリウムD)であるもの、
重水素原子核(2H、デューテリウムD)と三重水素原子核(3H、トリチウムT)であるもの、
重水素原子核(2H、デューテリウムD)とヘリウム3原子核(3He)であるもの、及び、
双方共にヘリウム3原子核(3He)であるものであり、
これらの核融合燃料である荷電粒子をクーロン力により加速してパルス状の荷電粒子ビームのバンチにする粒子加速器(62)、荷電粒子ビームを収束する電子レンズ(63、63c)及び荷電粒子ビームの飛翔方向を変える偏向器(64)からなる「荷電粒子ビーム発生器」を2組、並びに、核融合反応を発生する真空容器(55)を備え、
前記真空容器(55)の中心部に荷電粒子ビームを収束し、核融合燃料の組み合わせによって決まる核融合反応断面積が大きくなる加速に要するエネルギーに対して核融合エネルギーが大きくなる速度で、一の軸上で衝突させて、細長い領域で核融合反応を発生させ、
核融合反応点(70)からパルス状に放射する核融合により生成した荷電粒子の運動エネルギーを直接電気エネルギーとして取り出す回生減速器(65)、
炉内から未反応燃料粒子及び核融合生成粒子を回収するイオン回収路(68)を備え、
一方が低速の、他方が高速の荷電粒子ビームであり、高速の荷電粒子より低速の荷電粒子の粒子数を多くする構成にしたことを特徴とする荷電粒子ビーム非対称衝突型核融合炉(60u)。
【請求項2】
セラミックなどの絶縁材料で作成した一方が細くなったテーパー形状の容器の外壁面に加速電極を軸方向に複数配置し、先に負、次に正の両極性パルスを加え、先行する立下り波形より立ち上がり波形を早くし、端子(N0?Nn)を通して前記加速電極(加速グリッド62a)に順次両極性パルスを印加することによって、クーロン力により荷電粒子を進行方向に加速するとともに圧縮し、容器の形状に従い半径方向にも圧縮して、荷電粒子ビームのバンチを打ち出す加速器であって、逆極性の加速電圧を加える直前に、前記加速電極に残った電荷をダイオードとインダクタンスを通して放電して極性を反転することで効率化を図った電界ピストン型加速器(62t)を備えることを特徴とする、請求項1に記載の荷電粒子ビーム非対称衝突型核融合炉(60u)。
【請求項3】
セラミックなどの絶縁材料で作成した漏斗状の内面形状を有し、
一方の開いた側の断面形状が楕円を基調とする曲面であり、
他方は緩やかに絞る内面形状であり、
開いた側を核融合反応点(70)に向けて、取り囲む様に配置することで、
前記核融合発生点(70)から飛翔してくる荷電粒子を、
分担して狭い流路に収束する荷電粒子収束器(63h)を備えることを特徴とする、
請求項1または2に記載の荷電粒子ビーム非対称衝突型核融合炉(60u)
【請求項4】
核融合生成粒子の到達時間の違い及び電荷質量比の違いを利用して、電界または磁界により核種ごとに偏向して分別する電荷質量分離器(64x)、
核融合により生成しパルス状に飛翔する荷電粒子の流れから、電磁誘導作用により、荷電粒子の運動エネルギーを直接電力としてエネルギーを取得するとともに荷電粒子を減速する、
円環状の磁心(65m)の中を通過する荷電粒子の流れにより、内側に配置した導体(65c)に電流を誘起する磁気結合回生減速器(65g)、及び、
狭い流路に荷電粒子を通し、外側に設けた電極に発生する誘導電流を整流して取り出す静電結合回生減速器(65e)のうち、1つ以上を備えることを特徴とする
請求項1から3のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム非対称衝突型核融合炉(60u)。」

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

理 由

1.(実施可能要件)本件出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
2.(サポート要件)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.(明確性)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



●理由1ないし3について
1 電荷質量分離器について(理由1)、(理由2)、(理由3)
2 荷電粒子ビーム非対称衝突型核融合炉の核融合燃料について(理由1)
3 「核融合生成粒子の到達時間の違い及び電荷質量比の違いを利用」した「分別」技術について(理由1)
4 「電荷質量分離器」における「磁界によ」る「分別」技術について(理由1)
5 「荷電粒子収束器(63h)」について(理由1)
6 「回生減速器(65)」と「電荷質量分離器(64x)」とを備えるものについて(理由2)

第4 当審拒絶理由について
1 請求項1、2
(1)本件補正により、請求項1の「加えて、核融合生成粒子の到達時間の違い及び電荷質量比の違いを利用して、電界または磁界により核種ごとに偏向して分別する電荷質量分離器(64x)を備え、」は、請求項1から削除され、請求項1、2について、上記「電荷質量分離器」を前提として指摘した拒絶の理由は解消しているものといえる。

(2)請求項1、2は、核融合炉から核融合生成物を回収し核融合燃料として分離しながら再使用することに関しては、なんら特定されていない。他方、荷電粒子ビーム非対称衝突型核融合炉以外から、三重水素(3H、トリチウムT)、ヘリウム3(3He)を入手することは、量を考慮しなければ、技術的に不可能とまではいえないし、分離しながらでなければ、三重水素(3H、トリチウムT)、ヘリウム3(3He)を、荷電粒子ビーム非対称衝突型核融合炉から回収することも不可能とまではいえないし、その後、分離して、核融合燃料とすることも不可能とまではいえない。

(3)請求項1、2において、上記(2)のような核融合燃料を用いることが可能である場合に、荷電粒子加速器の技術を考慮すれば、荷電粒子ビームを衝突させ、核融合反応が発生する可能性も否定できない。
なお、本願の発明の詳細な説明には実際に実験した検証データもないことから、持続的に核融合反応が発生するような核融合炉として実施できるとまではいえない、又は、投入したエネルギーより生産したエネルギーが多くなる炉として実施できるとまではいえない。しかし、請求項1、2は、そのような実施についてまで特定はされていないから、本願の発明の詳細な説明は、実際に実験した検証データ等がないことが、請求項1、2に係る発明の実施可能要件の判断に影響するものではない。

(4)さらに、上記(1)-(3)を踏まえると、荷電粒子ビーム非対称衝突型核融合炉以外から入手して核融合燃料を用いる場合には、D-D反応も少なくでき、D-D反応で発生する中性子も少ないので、中性子遮蔽手段は、適宜の位置に設け得るものと理解できる。

(5)上記(1)-(4)を踏まえると、発明の詳細な説明の記載は当業者が請求項1及び請求項1を引用する請求項2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとまではいえないし、請求項1及び請求項1を引用する請求項2に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものでないとまではいえないし、請求項1及び請求項1を引用する請求項2に係る発明が明確でないとまではいえない。

2 請求項3
(1)本件補正により、請求項3の「セラミックなどの絶縁材料で作成した楕円を基調とする内面形状で、楕円の焦点の1つを核融合反応点(70)に置き、他の焦点付近では緩やかに絞る形状を有し、前記核融合反応点(70)を取り囲む様に配置することで、等方に飛翔する荷電粒子を、分担して収束する荷電粒子収束器(63h)」は、「セラミックなどの絶縁材料で作成した漏斗状の内面形状を有し、一方の開いた側の断面形状が楕円を基調とする曲面であり、他方は緩やかに絞る内面形状であり、開いた側を核融合反応点(70)に向けて、取り囲む様に配置することで、前記核融合発生点(70)から飛翔してくる荷電粒子を、分担して狭い流路に収束する荷電粒子収束器(63h)」と補正された。

(2)請求項3の荷電粒子収束器は、各種荷電粒子が混合する可能性があることから、核融合炉から核融合生成物を回収し核融合燃料として分離しながら再使用できないものであるとしても、飛翔してくる荷電粒子を収束できないとまではいえない。

(3)上記1、2(1)、2(2)を踏まえると、発明の詳細な説明の記載は当業者が請求項3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとまではいえないし、請求項3に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものでないとまではいえないし、請求項3に係る発明が明確でないとまではいえない。

3 請求項4
(1)本件補正により、請求項4に「核融合生成粒子の到達時間の違い及び電荷質量比の違いを利用して、電界または磁界により核種ごとに偏向して分別する電荷質量分離器(64x)、」「のうち、1つ以上を備える」との事項を追加する補正がされた。

(2)請求項4の電荷質量分離器は、核融合生成粒子の分別の程度までは特定されていないが、原理上、一部の核融合生成粒子について分別できるものであれば、請求項4の電荷質量分離器は、核融合生成粒子を分別できないものであるとまではいえない。

(3)上記1、2、3(1)、3(2)を踏まえると、発明の詳細な説明の記載は当業者が請求項4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとまではいえないし、請求項4に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものでないとまではいえないし、請求項4に係る発明が明確でないとまではいえない。

第5 原査定の概要及び原査定の判断について
1 原査定の拒絶理由の理由1は、請求項1-4について、明細書に記載された構造が、実際に機能するかどうかの検証がなされていないため、どのような材質でどのような構造の装置を作れば、エネルギーが取り出せるのか、あるいは、核融合生成粒子を分離することができるのかについて、確認がなされていないから、当業者が、請求項1-4に係る発明を「過度の負担なく」実施することができる程度に、明確かつ十分に記載されたものとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものである。
本件補正後の請求項1-4に係る発明は、直接電気エネルギーとして取り出す回生減速器、電荷質量分離器など個々の構成は機能しえないとまではいえないから、個々の構成を組み合わせて全体として実施できないとまではいえない。
なお、本願の発明の詳細な説明には実際に実験した検証データもないことから、持続的に核融合反応が発生するような核融合炉として実施できるとまではいえない、又は、投入したエネルギーより生産したエネルギーが多くなる炉として実施できるとまではいえない。しかし、請求項1-4は、そのような実施についてまで特定はされていないから、本願の発明の詳細な説明は、実際に実験した検証データ等がないことが、請求項1-4に係る発明の実施可能要件の判断に影響するものではない。

2 原査定の拒絶理由の理由2は、請求項1-4について、特開2016-109658号公報(以下「引用文献1」という。)に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら、「一方が低速の、他方が高速の荷電粒子ビームであり、高速の荷電粒子より低速の荷電粒子の粒子数を多くする構成にしたこと」について、引用文献1には記載されていない。また、当該構成は、本願の課題であるビーム衝突精度・未反応粒子対策を解決するための構成であるから、粒子の種類等に応じて、当業者が適宜変更し得るような構成でもない。
よって、本願請求項1-4に係る発明は、当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-03-05 
出願番号 特願2016-179051(P2016-179051)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G21B)
P 1 8・ 121- WY (G21B)
P 1 8・ 536- WY (G21B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 関根 裕  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 西村 直史
野村 伸雄
発明の名称 荷電粒子ビーム非対称衝突型核融合炉  

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