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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1350317
審判番号 不服2017-16325  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-02 
確定日 2019-03-27 
事件の表示 特願2015-539910「ワイヤレス通信における省電力のためのシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月 8日国際公開、WO2014/070713、平成27年11月26日国内公表、特表2015-534413〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2013年(平成25年)10月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年10月30日 米国)を国際出願日とする特許出願であって,平成27年6月30日に手続補正され,平成28年9月13日に手続補正され,平成29年1月24日付けで拒絶理由が通知され,同年4月28日に意見書が提出され,同年6月23日付けで拒絶査定されたところ,同年11月2日に拒絶査定不服審判の請求がされ,同時に手続補正されたものである。


第2 平成29年11月2日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成29年11月2日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,次のとおり補正された。

「ワイヤレス通信のためのデバイスであって,
ワイヤレス・ローカル・エリア・ネットワーク(WLAN)通信リンクを実施するためのWLANモジュールと,ここにおいて,前記WLANモジュールは,省電力情報要素を保持するビーコン・フレームを送信することによって前記通信リンクを維持するように構成される,
前記WLANモジュールが省電力モードに入るという情報を,前記ビーコン・フレームの前記省電力情報要素に含めるように構成されているピア省電力モジュールと,
を備え,前記省電力情報要素は,カウント値をさらに備え,前記ピア省電力モジュールは,前記通信リンクが所定の期間の間インアクティブであった後に,各ビーコン送信によって初期値から前記カウント値をデクリメントし,前記カウント値がゼロに達したときに,前記WLANモジュールを前記省電力モードに移行するようにさらに構成されている,
デバイス。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成28年9月13日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1は次のとおりである。

「ワイヤレス通信のためのデバイスであって,
ワイヤレス・ローカル・エリア・ネットワーク(WLAN)通信リンクを実施するためのWLANモジュールと,ここにおいて,前記WLANモジュールは,省電力情報要素を保持するビーコン・フレームを送信することによって前記通信リンクを維持するように構成される,
前記WLANモジュールが省電力モードに入るという情報を,前記ビーコン・フレームの前記省電力情報要素に含めるように構成されているピア省電力モジュールと,
を備え,前記省電力情報要素は,カウント値をさらに備え,前記ピア省電力モジュールは,前記通信リンクが所定の期間の間インアクティブであった後に,各ビーコン送信によって初期値から前記カウント値をデクリメントするようにさらに構成されている,
デバイス。」

2 補正の適否
(1)新規事項の有無,シフト補正の有無,補正の目的要件
上記補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ピア省電力モジュール」を,「カウント値がゼロに達したときに,WLANモジュールを省電力モードに移行する」ものに限定する補正であるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
したがって,上記補正は特許法17条の2第5項2号(補正の目的)に規定された事項を目的とするものである。また,同法17条の2第3項(新規事項)及び同法17条の2第4項(シフト補正)の規定に違反するところはない。

(2)独立特許要件
上記補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから,本件補正後の請求項1に記載される発明(以下,「本件補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否かについて,以下に検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものと認める。

イ 引用例の記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された,特開2005-045616号公報(以下,「引用例」という。)には以下の記載がある。

(ア)「【0001】
本発明は,例えばデータ通信などを行う無線LAN(Local Area Network:構内情報通信網)システムに適用して好適な,無線通信装置及び情報中継方法と,無線通信装置での通信処理を実行するプログラムに関する。」

(イ)「【0005】
ところで,アドホックネットワークにおいては,無線ネットワーク内の各通信局は,一定間隔でビーコンと称される認証用の信号を送信し,ビーコン送信直後の一定時間の送受信権を,その通信局に優先させることにより,信号の往来を管理するようにしてある。無線ネットワーク内の各通信局は,自局の周囲の通信局の状況を,ビーコンを受信することで把握する。その際,ビーコンの連続受信と間歇受信を交互に繰り返し実行することで,新規の通信局の参入などへの対応がとれ,なおかつ受信機の稼働率(ウェイクアップレシオ)の低減による低消費電力化を実現している。」

(ウ)「【0030】
このように構成される無線ネットワーク内の各無線通信端末は,本例においては,それぞれが定期的にビーコンを無線送信するようにしてある。図3は,本例のビーコンのデータ構成例を示した図である。図3を参照してビーコンの構成を説明すると,まずビーコンであることを示す識別データが配置してあり,続いて自局に付与された局IDが配置してある。また,カウントダウンのデータと,休止期間のデータと,提案者を示すフラグとが配置してあり,さらにその他のビーコンとして送信したい情報が配置してある。なお,カウントダウンのデータと,休止期間のデータと,提案者を示すフラグの使用例については後述する。」

(エ)「【0033】
具体的には,例えばA局では図4(a)に示すように,タイミングT101でビーコンを送信した後,一定間隔T SF毎に,タイミングT102,T103,‥‥でビーコンの送信を行っている。また,B局では図4(c)に示すように,タイミングT121でビーコンを送信した後,一定間隔T SF毎に,タイミングT122,T123,‥‥でビーコンの送信を行っていて,C局では図4(e)に示すように,タイミングT141でビーコンを送信した後,一定間隔T SF毎に,タイミングT142,T143,‥‥でビーコンの送信を行っていて,各局がビーコンを送信するタイミングは異なるタイミングに設定してある。」

(オ)「【0036】
ビーコンの一時停止の具体的な処理について説明すると,図4の例では,まずA局がネットワーク内の実データの転送がない状況(つまりビーコンだけを定期的に送信している状況)で,タイミングT102に,ビーコン内の情報として,カウントダウン:4,休止期間:1,提案者フラグ:1を設定する。カウントダウンのデータについては,1周期T SFが経過する毎に,ビーコンに付加する値を1つ減算するものである。最初にビーコンに配置するカウントダウンの値は,4のようにある程度値を大きく設定しておき,周辺局でビーコンを検出して判断できる余裕を与える必要がある。そして,カウントダウン値が1のビーコンを送信すると(タイミングT105),次の1周期T SF経過した後から,ビーコンの送信を一時的に停止させる。そのときに一時停止させる期間が,ビーコンに付加した休止期間で決まる。ここでは休止期間1であるので,1周期だけビーコンの送信が停止される。図4では示してないが,例えば休止期間2と設定してある場合には,2周期連続してビーコンの送信を停止させる。図4の例では,タイミングT106が,ビーコンの送信を停止した状態である。」

(カ)「【0044】
このようにして,ビーコンの送信の一時休止処理が,ネットワーク内の局で順に引き継ぎながら継続して実行される。このようにしてビーコンの送信が一時的に休止することで,それだけビーコンの送信に要する電力が削減され,またビーコンの送信に要する処理が削減されることになる。」

(キ)上記記載及び当業者の技術常識を考慮すると,引用例には,次の技術的事項が記載されている。

a 通信局,A局,B局,C局,無線通信端末は,上記(ア)(イ)の記載から,無線LANシステムでアドホックネットワークを構成する無線通信装置であることは,当業者に自明である。
そして,ビーコンの送信が,ビーコンを構成するビーコン・フレームの送信であること,及びアドホックネットワークでは,ネットワークを構成する無線通信装置が一定間隔でビーコンを送信し,無線通信装置間の通信接続を維持することは当業者における技術常識であるから,上記(イ)には,アドホックネットワークにおいて,無線通信装置が一定間隔でビーコン・フレームを送信することにより,無線通信装置間の通信接続を維持することが記載されているといえる。
そうすると,引用例には,無線LANシステムでアドホックネットワークを構成する無線通信装置であって,一定間隔でビーコン・フレームを送信することで,無線通信装置間の通信接続を維持することが記載されていると認められる。

b 上記(ウ)の記載によれば,一定間隔で送信されるビーコン・フレームには,カウントダウンのデータと,休止期間のデータと,提案者を示すフラグとが配置してあることが記載されていると認められる。

c 上記(エ)の記載によれば,一定間隔T SFは,ビーコン・フレーム送信の1周期であるから,上記(オ)には,無線通信装置がネットワーク内の実データの転送がない状況で,ビーコン・フレーム内の情報として,カウントダウン,休止期間,提案者フラグを設定して,1周期毎にビーコン・フレームを送信し,カウントダウンのデータについては,各周期でビーコンを送信する毎に,ビーコンに付加する値を1つ減算し,カウントダウン値が1のビーコンを送信すると,次の1周期が経過した後から,ビーコンの送信を一時的に停止させることが記載されているといえる。

d 上記(カ)の記載によれば,ビーコンの送信の一時的休止処理は,ビーコンの送信に要する電力を削減するためのものであるから,引用例には,ビーコン・フレームの送信を一時的に停止させることによって,電力を削減することが記載されていると認められる。

したがって,引用例には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「無線LANシステムでアドホックネットワークを構成する無線通信装置であって,カウントダウンのデータと,休止期間のデータと,提案者を示すフラグとが配置してあるビーコン・フレームを,一定間隔で送信することで無線通信装置間の通信接続を維持し,ネットワーク内の実データの転送がない状況で,ビーコン・フレーム内の情報として,カウントダウン,休止期間,提案者フラグを設定して,1周期毎にビーコン・フレームを送信し,カウントダウンについては,各周期でビーコン・フレームを送信する毎に,ビーコン・フレームに付加する値を1つ減算し,カウントダウン値が1のビーコン・フレームを送信すると,次の1周期が経過した後から,ビーコン・フレームの送信を一時的に停止させることで電力を削減する,無線通信装置。」

ウ 引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「無線通信装置」は,ワイヤレス通信のためのデバイスであることが明らかであるから,「ワイヤレス通信のためのデバイス」といえる。

(イ)本願補正発明の「ワイヤレス・ローカル・エリア・ネットワーク(WLAN)」と引用発明の「無線LAN」とは,表記が異なるのみであって差異は無い。
そして,引用発明の「無線通信装置間の通信接続を維持する」ことは,本願補正発明の「通信リンクを維持する」ことに相当する。

(ウ)本願明細書の【0042】,【0044】等の記載によれば,本願補正発明の「省電力モード」は,ビーコン・フレーム送信の中断を含むものであるから,引用発明の「ビーコン・フレームの送信を一時的に停止させる」ことは,本願補正発明の「省電力モード」に相当する。

(エ)引用発明の「カウントダウン」は,ビーコン・フレームを送信する毎に減算し,「省電力モード」に移行するまでカウントダウンを行うものであるから,本願補正発明の「カウント値」に相当する。
そして,引用発明のビーコン・フレームに含まれる「提案者フラグ」は,上記イ(オ)の記載から,送信元の無線通信装置が,「省電力モード」に入るためのカウントダウンを行うことを示す情報であることは,当業者に明らかであるから,送信元の無線通信装置が「省電力モードに入るという情報」であるといえる。

(オ)本願明細書の【0004】,【0005】,【0008】等の記載によれば,本願補正発明の「省電力情報要素」は,ビーコン・フレームに保持され,「カウント値」や「省電力モードに入るという情報」を含む「省電力モード」に用いられる情報である。
そして,引用発明の「カウントダウンのデータと,休止期間のデータと,提案者を示すフラグ」も,上記イ(オ)(カ)の記載からビーコンフレームに保持され,「カウントダウン」や「提案者フラグ」を含む「省電力モード」のために用いられる情報であることは明らかであるから,本願補正発明の「省電力情報要素」に相当する。

(カ)上記(ア)から(オ)のとおりであるから,引用発明の「無線LANシステムでアドホックネットワークを構成する無線通信装置であって,カウントダウンのデータと,休止期間のデータと,提案者を示すフラグとが配置してあるビーコン・フレームを,一定間隔で送信することで無線通信装置間の通信接続を維持する」ことは,本願補正発明と「ワイヤレス通信のためのデバイスであって,ワイヤレス・ローカル・エリア・ネットワーク(WLAN)通信リンクを実施する」ために,「省電力情報要素を保持するビーコン・フレームを送信することによって前記通信リンクを維持する」点で共通する。

(キ)上記(エ)(オ)のとおりであるから,引用発明のビーコン・フレーム内の情報である「カウントダウンのデータと,休止期間のデータと,提案者を示すフラグ」は,「提案者フラグ」を含み,さらに「カウントダウン」を備えており,本願補正発明と「省電力モードに入るという情報を,ビーコン・フレームの省電力情報要素に含め」,「省電力情報要素は,カウント値をさらに備え」る点で共通する。

(ク)本願明細書の【0005】,【0042】等の記載のよれば,「通信リンク」が「インアクティブ」であることは,通信リンクを維持するためのビーコン以外にデータの転送がない状況であるから,引用発明の「ネットワーク内の実データの転送がない状況」は,本願補正発明と,「通信リンク」が「インアクティブであった後」の点で共通する。

(ケ)カウントダウン処理において,カウント値に初期値を設定することは,当業者における技術常識であって,引用発明も,カウント処理を行うためにカウントダウン値を用いるものであるから,引用発明においても,カウントダウン値に初期値を設定することは,当然に行われていると認められる。
そして,引用発明の「カウントダウン値が1のビーコンを送信すると,次の1周期が経過した後から,ビーコンの送信を一時的に停止させる」ことは,カウント値が1になった,次の1周期,つまりカウント値がゼロの時点で,ビーコンの送信を一時的に停止させるものであることは明らかである。
したがって,引用発明の「ネットワーク内の実データの転送がない状況で,ビーコン・フレーム内の情報として,カウントダウンを設定し,カウントダウンについては,各周期でビーコン・フレームを送信する毎に,ビーコン・フレームに付加する値を1つ減算し,カウントダウン値が1のビーコン・フレームを送信すると,次の1周期が経過した後から,ビーコン・フレームの送信を一時的に停止させること」は,本願補正発明と,「通信リンク」が「インアクティブであった後」に,「各ビーコン送信によって初期値から前記カウント値をデクリメントし,前記カウント値がゼロに達したとき」に,「省電力モードに移行する」ことで共通する。

したがって,本件補正発明と引用発明とは,両者は,以下の点で一致し,また,相違している。

[一致点]
「ワイヤレス通信のためのデバイスであって,
ワイヤレス・ローカル・エリア・ネットワーク(WLAN)通信リンクを実施するために,省電力情報要素を保持するビーコン・フレームを送信することによって前記通信リンクを維持し,
省電力モードに入るという情報を,前記ビーコン・フレームの前記省電力情報要素に含め,
前記省電力情報要素は,カウント値をさらに備え,前記通信リンクがインアクティブであった後に,各ビーコン送信によって初期値から前記カウント値をデクリメントし,前記カウント値がゼロに達したときに,前記省電力モードに移行する,
デバイス。」

[相違点1]
一致点の「ワイヤレス・ローカル・エリア・ネットワーク(WLAN)通信リンクを実施するために,省電力情報要素を保持するビーコン・フレームを送信することによって前記通信リンクを維持する」こと及び「省電力モードに入るという情報を,前記ビーコン・フレームの前記省電力情報要素に含め,前記省電力情報要素は,カウント値をさらに備え,前記通信リンクが所定の期間の間インアクティブであった後に,各ビーコン送信によって初期値から前記カウント値をデクリメントし,前記カウント値がゼロに達したときに,前記WLANモジュールを前記省電力モードに移行する」ことに関し,本件補正発明は,前記それぞれの処理を「WLANモジュール」及び「ピア省電力モジュール」によって処理するのに対し,引用発明は,前記それぞれの処理を行う「モジュール」を明示していない点。

[相違点2]
一致点の「初期値から前記カウント値をデクリメント」することに関し,本願補正発明は,通信リンクが「所定の期間の間インアクティブであった後」に行うものであるのに対して,引用発明は,「インアクティブであった後」に行う点。

エ 判断
上記相違点1について検討する。
引用発明は,無線LAN通信リンクの維持に関する処理と,無線LANの省電力に関する処理とを行うものであって,各種の処理を行う装置において,一連の処理毎に対応するモジュールを備えることは,当業者における技術常識であるから,引用発明においても,無線LAN通信リンクの維持に関する処理を行う「WLANモジュール」と,無線LANの省電力に関する処理を行う「ピア省電力モジュール」とを備えるものであるといえる。
したがって,上記相違点1は,実質的な相違点ではない。
仮に,そうでないとしても,処理に対応するモジュールを設けることは,当業者が任意に行うべき事項であって,適宜なし得ることに過ぎない。

上記相違点2について検討する。
「所定の期間の間」は,任意の期間を含むものであるから,本願補正発明における「所定の期間の間インアクティブであった後」は,引用発明の「インアクティブであった後」と同じものであると認められる。
したがって,上記相違点2は,実質的な相違点ではない。
仮に,そうでないとしても,「通信リンクがインアクティブ」であることを判断するために,一定の期間の間,「インアクティブ」な状態が継続したことをもって,「通信リンクがインアクティブ」と判断することは,当業者における技術常識であって,その際の「一定の期間」をどのように設定するかは,必要に応じて当業者が任意に行うべき事項にすぎない。
してみると,引用発明において,通信リンクが「所定の期間の間インアクティブであった後」に,「初期値から前記カウント値をデクリメント」することは,当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。

そして,本件補正発明が奏する効果も,当業者が引用発明から容易に予想できる範囲内のものである。

したがって,本件補正発明は,引用例に記載された発明であり,また,引用例に記載された発明に基づき,当業者が容易に想到できたものであるから,特許法第29条第1項第3号,同条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

[請求人の主張について]
請求人は,審判請求書において,以下のとおり主張する。
「本願独立請求項1に係る発明は,審判請求時に補正された請求項1に記載されている「前記WLANモジュールが省電力モードに入るという情報を,前記ビーコン・フレームの前記省電力情報要素に含めるように構成されているピア省電力モジュールと,
を備え,前記省電力情報要素は,カウント値をさらに備え,前記ピア省電力モジュールは,前記通信リンクが所定の期間の間インアクティブであった後に,各ビーコン送信によって初期値から前記カウント値をデクリメントし,前記カウント値がゼロに達したときに,前記WLANモジュールを前記省電力モードに移行するようにさらに構成されている」前記構成(A)を具備することにより,複数のピア間の省電力モードを調整するためにビーコン・フレームを送信している。
しかしながら,引例1,2には,請求項1に記載されている前記構成(A)については記載がなく何等の示唆も認められない。
当業者が,引例1,2に基づいて,前記構成(A)を容易に想到できるとする論理はなく,導出する動機付けも,導出する必要性も認められない。
したがって,本願独立請求項1に係る発明は,前記構成(A)を有していない引例1に記載の発明とは明らかに異なる発明である。」

しかしながら,上記第2[理由]2(2)ウ(ケ)で述べたように,引用発明の「カウントダウン値が1のビーコンを送信すると,次の1周期が経過した後から,ビーコンの送信を一時的に停止させる」ことは,カウントダウン値が1になった,次の1周期,つまりカウントダウン値がゼロの時点で,ビーコンの送信を一時的に停止させるものであることは明らかである。
そして,上記第2[理由]2(2)エで述べたように,「ピア省電力モジュール」を備えることは,実質的な相違点ではない。
仮に,本願補正発明が,カウント値がゼロになるまでカウントするものであるのに対して,引用発明が,カウント値が1までカウントする点で相違するとしても,カウント値をどこまでカウントするかは,カウントダウン処理における単なる取り決めにすぎないことは,当業者にとって技術常識であり,引用発明においても,カウント値がゼロになるまでカウントすることは,格別困難なことではなく,適宜なし得ることに過ぎない。
したがって,上記請求人の主張は採用できない。

3 本件補正についてのむすび
よって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について

1 本願発明
平成29年11月2日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成28年9月13日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし26に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものと認める。


2.原査定の拒絶の理由
原査定は平成29年1月24日付け拒絶理由通知の理由1-3によって拒絶をすべきものとするものであって,当該理由2の概要は,「(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」であり,本願発明の請求項1に係る発明は,引用例に記載された発明であるとするものである。
また,当該理由3の概要は,「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり,本願発明の請求項1に係る発明は,引用例から容易に発明をすることができたとするものである。


3.引用発明
引用例の引用発明は,上記第2[理由]2(2)イの項で認定したとおりである。


4.対比・判断
本願発明は本件補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると,相違点は上記第2[理由]2(2)ウの相違点1及び相違点2であるところ,本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した本件補正発明が,上記第2[理由]2.(2)の「独立特許要件」の項で検討したとおり,引用例に記載された発明であり,また,引用例に記載された発明に基づき,当業者が容易に想到できたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用例に記載された発明であり,また,引用例に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例に記載された発明であり,また,引用例に記載された発明に基づき,当業者が容易に想到できたものであるから,特許法第29条第1項第3号,同条第2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-10-25 
結審通知日 2018-10-30 
審決日 2018-11-13 
出願番号 特願2015-539910(P2015-539910)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H04W)
P 1 8・ 121- Z (H04W)
P 1 8・ 575- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久慈 渉廣川 浩  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 脇岡 剛
松永 稔
発明の名称 ワイヤレス通信における省電力のためのシステムおよび方法  
代理人 福原 淑弘  
代理人 井関 守三  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 岡田 貴志  

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