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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1350359
審判番号 不服2017-15015  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-06 
確定日 2019-05-07 
事件の表示 特願2012-247937「厚膜伝導性組成物およびその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月20日出願公開、特開2013-122916、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年11月9日の出願(パリ条約による優先権主張 2011年11月9日 (EP)欧州特許庁、2012年1月10日 (US)米国)であって、平成28年8月16日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年2月21日付けで意見書が提出され、同年5月24日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年10月6日に拒絶査定不服審判の請求がされ、平成30年5月24日付けで当審より拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由通知」という。)がされ、同年11月6日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本件発明
本件請求項1?11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明11」といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、平成30年11月6日付け手続補正書により補正(以下、単に「補正」という。)された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される発明であり、本件発明1及び9は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
(a)ISO 9277に準拠してBETによって測定された比表面積が1.8m^(2)/g以上である、銀粒子と
(b)酸化マンガンと、
(c)ガラスフリットと、
(d)有機媒体と
を含む伝導性厚膜組成物。」

「【請求項9】
太陽電池の製造のための方法であって、
(I)半導体基板の表面上へと堆積された少なくとも1つの誘電体層を含む半導体基板を準備することと、
(II)厚膜組成物を前記誘電体層の少なくとも一部分の上へと付与して、層状構造を形成することであって、前記厚膜組成物は、
(a)ISO 9277に準拠してBETによって測定された比表面積が1.8m^(2)/g以上である、電気伝導性の銀粒子、
(b)酸化マンガン、
(c)ガラスフリット、および
(d)有機媒体
を含む、ことと、
(III)前記半導体基板の前記誘電体層と接触してはんだ付け要素を形成するために
、前記層状構造を焼成することと
を含む、方法。」

なお、本件発明2?8は、引用によって本件発明1の発明特定事項を全て有する発明であり、本件発明10?11は、引用によって本件発明9の発明特定事項を全て有する発明である。


第3 拒絶理由について
1 原査定の概要(特許法第29条第2項)
原査定は、補正前の請求項1?6について引用文献2?3に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

<引用文献>
引用文献2:特表2011-502345号公報
引用文献3:特開2011-181538号公報

2 当審拒絶理由の概要(特許法第36条第6項第1号、第2号)
当審では、補正前の請求項1?5、7?12に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されていない、また、補正前の請求項5に係る発明は不明確であるとの拒絶の理由を通知した。


第4 当審の判断
1 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)引用文献の記載事項及び引用発明
ア 引用文献2について
本願の優先日前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、次の事項が記載されている(下線は当審が付与した。「・・・」は記載の省略を表す。)。

(2a)「【請求項1】
(a)
a)導電性銀と;
b)1つまたは複数のガラスフリットとを;
c)有機媒体
に分散させて含む厚膜組成物と;
(b)1つまたは複数の基材と
を含む構造物であって;
前記厚膜組成物が、前記1つまたは複数の基材上に4本以上の母線が形成されるように印刷される構造物。
・・・
【請求項7】
前記厚膜組成物が添加剤をさらに含む請求項1に記載の構造物。」(特許請求の範囲)

(2b)「【0006】
本発明の一態様は、上記構造物を含む半導体デバイスに関する。他の態様は、上記構造物を含む半導体デバイスに関し、ここで、組成物は焼成されており、焼成により、有機ビヒクルが除去され、銀とガラスフリットとが焼結され、導電性銀とフリットとの混合物が絶縁膜に浸透する。他の態様は、この構造物を含む太陽電池に関する。」

(2c)「【0007】
実施形態の一態様においては、厚膜組成物は添加剤をさらに含む。他の態様においては、添加剤は、(a)Zn、Mg、Gd、Ce、Zr、Ti、Mn、Sn、Ru、Co、Fe、CuおよびCrから選択される金属;(b)Zn、Mg、Gd、Ce、Zr、Ti、Mn、Sn、Ru、Co、Fe、CuおよびCrから選択される1つまたは複数の金属の金属酸化物;(c)焼成の際に(b)の金属酸化物を生成することができる任意の化合物;および(d)それらの混合物から選択される。一実施形態においては、添加剤はZnOまたはMgOである。」

(2d)「【0136】
【表6】

【0137】
表6に示されるガラスフリットおよび添加剤のパーセントは、全厚膜組成物中のパーセントで示される。
【0138】
厚膜銀ペーストに対する、上の表6に詳細に示される全ての酸化物の添加により、太陽電池の性能が改良される。」

イ 引用発明について
上記記載事項(2d)の表6に示される添加剤としてMnの酸化物(MnO又はMnO_(2))を用いた厚膜組成物に注目すると、同(2a)、(2c)及び(2d)から、引用文献2には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「導電性銀と;
1つまたは複数のガラスフリットとを;
有機媒体
に分散させて含む厚膜組成物であって、さらに添加剤としてMnO又はMnO_(2)を含む厚膜組成物。」

ウ 引用文献3について
本願の優先日前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、次の事項が記載されている。

(3a)「【請求項1】
比表面積が0.8?3.0m^(2)/gで、タップ密度が2?6g/cm^(3)で、平均粒径が0.1?5.0μmで、且つ灼熱減量が0.05?0.30%である銀粒子と、有機バインダと、溶剤と、ガラスフリットとを含有することを特徴とする太陽電池素子の電極形成用導電性ペースト。」(特許請求の範囲)

(3b)「【0016】
銀粒子の比表面積は0.8?3.0m^(2)/gであることが好ましい。銀粒子の比表面積が0.8m^(2)/g未満であると、焼成時に焼結が進みにくく、電気抵抗値が下がりにくい。また、ファインラインパターンの印刷をする上で不利である。一方、一般に粒子の小さいものほど凝集しやすいため、銀粒子の比表面積が3.0m^(2)/gを超えると、粒子同士の凝集が激しくなり、非常にかさばって、電極形成時に十分な電極の緻密性を確保することができず、電気抵抗値が下がらない。」


(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)対比・相違点
本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「導電性銀」は、本件発明1における「銀粒子」に相当するから、両者は、「(a)銀粒子と
(b)酸化マンガンと、
(c)ガラスフリットと、
(d)有機媒体と
を含む伝導性厚膜組成物。」である点で一致し、次の相違点1で相違する。

(相違点1)銀粒子の比表面積について、本件発明1は、「ISO 9277に準拠してBETによって測定された比表面積が1.8m^(2)/g以上である」と特定しているのに対し、引用発明は、その特定がなされていない点

(イ)相違点についての判断
A 本件明細書の【0051】?【0064】には、「実施例」として、「2.3m^(2)/gの、ISO 9277に準拠してBETによって測定された比表面積を有していた」「Ag粉末2」を用いた態様と、「比較例1」として、「1.1m^(2)/gの、ISO 9277に準拠してBETによって測定された比表面積を有していた」「Ag粉末1」を用いた態様とが示されており、「実施例」と「比較例1」を比較すると、「実施例」においては、低効率、すなわち、焼成後に不動態層が損なわれず残ることが達成できているものであり、また、このことは、同【0034】に記載のとおり、本件発明の組成物は、焼成によっても誘電体層(不動態層)を侵襲しないことを意味しているといえる。

B 他方、引用発明の厚膜組成物は、上記記載事項(2b)で摘記したように、「組成物は焼成されており、焼成により、有機ビヒクルが除去され、銀とガラスフリットとが焼結され、導電性銀とフリットとの混合物が絶縁膜に浸透する」ためのものであり、「太陽電池の誘電体層を侵襲しない」ことにより、高効率を有する太陽電池の製造のために有用な本件発明とは、相反する技術的意義を有するものである。

C 以上によれば、上記相違点1に係る本件発明の発明特定事項によって、本件発明には、「焼成後に不動態層が損なわれず残る」という引用発明とは相反する技術的意義が認められるので、上記相違点1は、単に、数値範囲の特定において異なるのみならず、その技術的意義においても引用発明と相違するものである。

D ここで、上記記載事項(3a)及び(3b)のとおり、引用文献3には、銀粒子の比表面積の数値範囲について、焼結の進行による電気抵抗値の低下及びファインラインパターンの印刷性向上の観点から下限値を0.8m^(2)/gに設定し、銀粒子の凝集による電気抵抗値の上昇防止の観点から上限値を3.0m^(2)/gに設定した銀粒子を電極形成用導電性ペーストに含有させることが記載されている。

E 引用文献3に記載された銀粒子の比表面積「0.8?3.0m^(2)/g」は、上記相違点1に係る「1.8m^(2)/g以上」と一部重複するものであるが、引用文献3に記載された電極形成用導電性ペーストは、本件発明と同様に、「焼成後に不動態層が損なわれず残る」ようにするものではないし、また、電気抵抗値及び印刷性を考慮したとしても、引用発明において、銀粒子の比表面積の下限値を、あえて0.8m^(2)/gとは異なる「1.8m^(2)/g」に特定する動機付けは認められない。

F さらに、仮に、引用発明において、銀粒子の比表面積を「1.8m^(2)/g以上」とすることが、当業者にとって容易であったとしても、本件発明が奏する「不動態層を損なわない」という効果については、引用文献2及び3の記載から予測し得ない異質な効果であると認められる。

G したがって、本件発明1は、当業者であっても、引用文献2及び3に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明できたものであるとはいえない。

イ 本件発明2?11について
A 本件発明2?8は、本件発明1を引用するものであり、また、本件発明9も、本件発明1と同様に、厚膜組成物に「(a)ISO 9277に準拠してBETによって測定された比表面積が1.8m^(2)/g以上である、電気伝導性の銀粒子」を含むとの発明特定事項を備えるものであって、さらに、本件発明10?11は、本件発明9を引用するものである。

B してみると、本件発明1と同じ理由により、本件発明2?11は、当業者であっても、引用発明2及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。


2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
A 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

B そこで、まず、本件発明が解決しようとする課題については、発明の詳細な説明の【0008】に記載のとおり、「高効率を有する太陽電池の製造のために有用である、低金属含有量を有する金属ペーストを提供する」ことにあると認められる。

C ここで、発明の詳細な説明の【0014】においては、上記金属ペーストに含まれる電気伝導性の金属について、「Cu、Ag、Pd、Zn、Ni、Sn、Al、Bi;Cu、Ag、Zn、Ni、Sn、Al、Bi、Pdの合金;およびこれらの混合物からなる群から選択される。この電気伝導性の金属は、薄片形態、球形の形態、顆粒形態、結晶形態、粉末、または他の不整形(不揃い)の形態およびこれらの混合形態にあることができる。」とされている。

D しかしながら、同【0051】?【0064】において、実施例として具体的態様により示されているのは、電気伝導性の金属として銀粒子を用いた場合のみであって、この場合に、電気伝導性ペーストの焼成後に不動態層が損なわれずに残ること、すなわち、「効率」が低下したこと、さらに、「機械的な接着」を高めることができたという、上記課題が解決されたと同義の事項が示されているが、発明の詳細な説明には、上記Cに例挙された他の金属を用いた場合にも、同様に上記課題が解決できることを裏付ける記載はされていないし、それが技術常識であるとも認められない。

E してみると、発明の詳細な説明において、上記課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲は、電気伝導性ペーストである厚膜組成物において、電気伝導性の金属として銀粒子を用いたものであると理解できる。

F そして、本件発明1?11においても、厚膜組成物における電気伝導性の金属としては、銀粒子を用いることが特定されていることから、本件発明1?11が、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えているということはできない。


3 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
(1)請求項1?5、7?9について
補正前の請求項1に記載されていた「金属粒子」は、補正後の請求項1において「銀粒子」とされたことから、金属粒子が多義的に解釈されることはなく、請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2?5、7?9に係る発明が明確ではないということはできない。

(2)請求項5について
補正前の請求項5には、「全組成物の重量%に基づいて、10?75重量%の前記金属粒子、0.5?10重量%の前記ガラス粒子、および25?70重量%の前記有機媒体を含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の厚膜組成物。」と記載され、金属粒子について上限の75重量%を採った場合、ガラス粒子、有機媒体が、それぞれ下限の0.5、25重量%であったとしても、3成分合計で100重量%を超えるものとなるので、請求項5における上記重量%に関する記載は、不合理な内容を含むものであった。

しかしながら、補正後の請求項5において、金属粒子の上限が「70重量%」とされたことにより、上記重量%に関する不合理な記載は解消されたことから、請求項5に係る発明が明確ではないということはできない。



第5 むすび
以上のとおり、本件発明1?11は、当業者が引用文献2及び3に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものではないし、発明の詳細な説明に記載したものでないとも、明確でないとも認めることはできない。
したがって、原査定の理由及び当審が通知した拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-04-08 
出願番号 特願2012-247937(P2012-247937)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01B)
P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 神野 将志  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 長谷山 健
亀ヶ谷 明久
発明の名称 厚膜伝導性組成物およびその使用  
代理人 林 一好  

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