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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C25D
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C25D
管理番号 1350372
審判番号 不服2018-1430  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-02 
確定日 2019-05-07 
事件の表示 特願2013-260930「表面処理鋼板、有機樹脂被覆金属容器、及び表面処理鋼板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月25日出願公開、特開2015-117402、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成25年12月18日の出願であって、その後の経緯は以下のとおりである。

平成29年 2月 7日(提出日) 刊行物等提出書の提出
(以下「刊行物等提出書A」という。)
同年 3月10日(提出日) 刊行物等提出書の提出
(以下「刊行物等提出書B」という。)
同年 8月15日(発送日) 拒絶理由通知書の送付
(起案日 平成29年 8月 9日)
同年10月 5日(受付日) 意見書及び手続補正書の提出
同年11月 7日(発送日) 拒絶査定の送付
(起案日 平成29年10月30日)
平成30年 2月 2日(受付日) 審判請求書及び手続補正書の提出
同年 3月19日(作成日) 特許法第164条第3項に基づく報告
(以下「前置報告書」という。)
同年11月13日(受付日) 上申書の提出
平成31年 2月 5日(発送日) 拒絶理由通知(当審)の送付
(起案日 平成31年 1月31日)
同年 3月 7日(受付日) 意見書及び手続補正書の提出

第2 本願発明について
拒絶理由通知(当審)の概要は、平成30年2月2日(受付日)の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明において、「表面処理層中の2族元素(AE)とジルコニウム(Zr)とのモル比AE/Zrが0.2以上であること」(請求項1)について、「モル比AE/Zr」が「0.2以上0.45未満」の範囲でないと、課題が解決されることが裏付けられていると当業者が認識できるように記載されているとはいえず、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないとするものである。
これに対して平成31年 3月7日(受付日)の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7は、上記の「モル比AE/Zr」を「0.2以上0.45未満」に補正するもので、拒絶理由通知(当審)は解消された。
そのため、本願の請求項1?7に係る発明は、平成31年3月7日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載される事項によって特定される以下のとおりのものである。
(各請求項に係る発明を請求項の順に「本願発明1」?「本願発明7」と記載し、それらを総称して「本願発明」と記載する。)

「 【請求項1】
熱可塑性ポリエステル樹脂被覆表面処理鋼板から成るシームレス缶において、前記表面処理鋼板が、鋼板の少なくとも片面上に、フッ素を含有し、ジルコニウムと酸素を主体とする表面処理層を有し、該表面処理層の表面側に2族元素を含有し、前記表面処理層中の2族元素(AE)とジルコニウム(Zr)とのモル比AE/Zrが0.45以上2.84以下であることを特徴とする熱可塑性ポリエステル樹脂被覆シームレス缶。
【請求項2】
前記2族元素がフッ素化合物として存在する請求項1に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆シームレス缶。
【請求項3】
前記2族元素が、カルシウム又はマグネシウムの少なくとも一つである請求項1又は2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆シームレス缶。
【請求項4】
前記ジルコニウムの重量膜厚が、100?200mg/m^(2)である請求項1?3の何れかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆シームレス缶。
【請求項5】
レトルト処理に賦される用途に用いる請求項1?4の何れかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆シームレス缶。
【請求項6】
請求項1?5の何れかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆シームレス缶を構成する熱可塑性ポリエステル樹脂被覆表面処理鋼板の製造方法であって、Zrイオン、Fイオンを含む水溶液中で鋼板を陰極電解することによる被膜形成工程と、それに続いて、2族元素を含有する表面調整用水溶液を用いて、浸漬処理、スプレー処理、陰極電解処理のいずれか一つ以上の処理を行うことによる表面調整工程、及び前記表面処理被膜上に熱可塑性ポリエステル樹脂被覆を形成する工程、とを有することを特徴とするポリエステル樹脂被覆表面処理鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記2族元素がカルシウム又はマグネシウムの少なくとも一つであることを特徴とする請求項6記載の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆表面処理鋼板の製造方法。」

第3 原査定、前置報告書、刊行物等提出書A及びBの関係について
原査定、前置報告書、刊行物等提出書A及びBにおいては、記載不備の拒絶理由は摘示が無く、いずれも容易想到性について摘示がなされ、それぞれにおいて引用された刊行物は以下の表のような関係にあり、刊行物等提出書Bと前置報告書とで、主として引用される刊行物が同一なので、以下では、拒絶査定、前置報告書、刊行物等提出書Aの順で、本願発明1?7が拒絶理由を有するか否かを検討する。


第4 原査定について
1.原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、平成29年10月5日(受付日)の手続補正書により補正された請求項1?7に係る発明(本願発明1?7に対応)は、下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得たものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とするものである。

引用文献1:特開2008-88553号公報
引用文献2:特開2005-97712号公報

以下に、本願発明1?7について、上記原査定の理由が維持できるかについて検討する。

2.刊行物の記載
(1)引用文献1には次の事項が記載されている。

(1ア)「【請求項1】
ジルコニウムイオン及び/又はチタンイオンと、(A)ケイ素含有化合物、(B)密着付与金属イオン、及び(C)密着付与樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の密着性付与剤と、を含有する表面処理用組成物を用いて、金属基材を表面処理して防錆皮膜を形成させる金属基材の表面処理工程と、後処理工程と、からなる金属表面処理方法であって、前記後処理工程が、工程(a)、工程(b)、工程(c)、工程(d)、工程(e)、工程(f)、及び工程(g)からなる群から選択される少なくとも一種であるカチオン電着塗装の付きまわり性を向上させる金属表面処理方法;
(a)前記表面処理工程を経た前記金属基材の全部又は一部を、pH9以上のアルカリ水溶液に接触処理する工程;
(b)前記表面処理工程を経た前記金属基材の全部又は一部を、多価アニオン水溶液に接触処理する工程;
(c)前記表面処理工程を経た前記金属基材の全部又は一部を、多価アニオン水溶液に接触処理した後、更に水洗処理する工程;
(d)前記表面処理工程を経た前記金属基材の全部又は一部を、酸化剤に接触処理する工程;
(e)前記表面処理工程を経た前記金属基材の全部又は一部を、酸化剤に接触処理した後、更に水洗処理する工程;
(f)前記表面処理工程を経た前記金属基材の全部又は一部を、フッ素安定化剤に接触処理する工程;及び
(g)前記表面処理工程を経た前記金属基材の全部又は一部を、フッ素安定化剤に接触処理した後、更に水洗処理する工程。」

(1イ)「【0007】
金属基材にカチオン電着塗装を施す場合、通常、耐食性、塗膜密着性等の諸性能を向上させる目的で表面処理が施されている。塗膜の密着性や耐食性をより向上させることができるという観点から、従来、表面処理において用いられてきたリン酸クロメート系の表面処理組成物は、近年、クロムの有害性から環境への影響が懸念されている。・・・
【0017】
本発明の発明者らは、金属基材上に、ジルコニウム及び/又はチタンと、密着性付与剤と、を含有する表面処理用組成物用いて金属基材上に防錆皮膜を形成させ、これに所定の条件下で後処理を行うことにより、その後のカチオン電着塗装において塗膜の抵抗が低下することを防止して付きまわり性良く塗装ができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。」

(1ウ)「【0117】
[カチオン電着塗料]
カチオン電着塗装において用いることができるカチオン電着塗料としては、従来公知のものを用いることができ、特に限定されないが、アミノ化エポキシ樹脂、アミノ化アクリル樹脂、及びスルホニウム化エポキシ樹脂等の変性エポキシ樹脂、硬化剤、並びに封止剤を含む公知のカチオン電着塗料を塗布することができる。」

(1エ)「【0151】
<実施例18>
[金属基材]
市販の冷延鋼板(SPC、日本テストパネル社製、70mm×150mm×0.8mm)を金属基材として用意した。
【0152】
[金属基材の前処理]
アルカリ脱脂処理剤として「サーフクリーナーEC92」(商品名、日本ペイント社製)を使用して、40℃で2分間、上記金属材料の脱脂処理を行った。これを水洗槽で浸漬洗浄した後、水道水で約30秒間スプレー洗浄を行った。
【0153】
[金属表面処理組成物の調製]
ジルコニウムとして40%ジルコン酸を金属元素換算で50ppmとなるように用い、密着性付与剤として「KBE903」(商品名、信越化学社製)を有効成分濃度で50ppmとなるように、硝酸アルミニウムを500ppmとなるように添加し、フッ化水素酸によるフッ素イオン濃度の調整を行った。pHは3.5に調整した。表面処理は、35℃で60秒行った。
【0154】
[フッ素安定化剤への接触工程]
表面処理を行った金属基材に対し、250ppmの硝酸カルシウムを、室温で30秒間接触させた。その後、水洗を行った。」

(1オ)「【0161】
<評価方法>
(付きまわり性)
付きまわり性は、特開2000-038525号公報に記載された「4枚ボックス法」により評価した。即ち、図1に示すように、実施例1から18、比較例1から6で表面処理を施した金属材料を、4枚立てた状態で、間隔20mmで平行に配置し、両側面下部及び底面を布粘着テープ等の絶縁体で密閉したボックス10を調製した。なお、金属材料4を除く金属材料1、2、3には下部に直径8mmの貫通穴5を設けた。
【0162】
このボックス10を、カチオン電着塗料で満たした電着塗装容器20内に浸漬した。この場合、各貫通穴5のみからカチオン電着塗料がボックス10の内部に浸入する。
【0163】
マグネチックスターラーでカチオン電着塗料を攪拌しながら、各金属材料1?4を電気的に接続し、金属材料1との距離が150mmとなるように対極21を配置した。各金属材料1?4を陰極、対極21を陽極として電圧を印加し、カチオン電着塗装を行った。塗装は、印加開始から5秒間で金属材料1のA面に形成される塗膜の膜厚が20μmに達する電圧まで昇圧し、その後175秒間その電圧を維持することにより行った。このときの浴温は30℃に調整した。
【0164】
塗装後の各金属材料1?4は水洗した後、170℃で25分間焼付けし、空冷後、対極21に最も近い金属材料1のA面に形成された塗膜の膜厚と、対極21からもっとも遠い金属材料4のG面に形成された塗膜の膜厚とを測定し、膜厚(G面)/膜厚(A面)の比により付きまわり性を評価した。この値が大きいほど、付きまわり性がよいと評価できる。結果を表1に示す。」

(2)引用文献2には次の事項が記載されている。
(2ア)「【請求項1】
金属表面に無機成分を主体とする表面処理層が形成されている表面処理金属材料であって、前記無機表面処理層が少なくともZr,O,Fを主成分とすると共に、リン酸イオンを含有しないことを特徴とする表面処理金属材料。【請求項3】
前記無機表面処理層の最表面に含有されるOとZrの原子比が、1<O/Zr<10である請求項1又は2記載の表面処理金属材料。
【請求項4】
前記無機表面処理層の最表面に含有されるFとZrの原子比が、0.1<F/Zr<2.5である請求項1乃至3の何れかに記載の表面処理金属材料。」

(2イ)「【0013】
従って本発明の目的は、ノンクロムの表面処理で環境性に優れていると共に、有機樹脂被膜との密着性、接着性、耐食性、耐デント性、耐傷性、耐磨耗性等の諸特性に優れた表面処理金属材料、及びこのような表面処理金属材料の表面処理方法を提供することである。
また本発明の他の目的は、水溶液からの高速処理により製造が容易で低コストの表面処理方法を提供することである。
本発明の更に他の目的は、上記表面処理金属材料に有機樹脂、中でも特にポリエステル樹脂を被覆して成る樹脂被覆金属材料から成る耐食性、耐デント性、耐傷性、耐磨耗性等に優れた金属缶及び開口性に優れた缶蓋を提供することである。」

(2ウ)「【0018】
本発明の表面処理金属材料においては、金属材料表面に形成された無機表面処理層が、少なくともZr,O,Fを主成分とすると共に、リン酸イオンを含有しない、あるいは、Zrに対するPの比率を極力抑制することが重要な特徴である。
従来の金属材料の表面処理方法である、化成処理や陽極酸化処理では、皮膜形成機構上、硫酸イオンやリン酸イオンが膜中に含まれやすく、化成処理では構成成分となっている。これら膜中のアニオン、特にリン酸イオンのように、イオン半径の大きいアニオンは、レトルト殺菌処理などの高温多湿下で溶出しやすいことがわかっており、処理皮膜からこのようなアニオンが溶出すると、表面処理金属材料上に設けられた樹脂被膜の密着性や接着性が低下することになる。
本発明においては、無機表面処理層のアニオン量、特にリン酸イオンまたはP/Zrを制御することにより、レトルト殺菌や高温多湿条件下での経時保管などに付された場合にも、処理皮膜中からのアニオンの溶出が有効に抑制されているため、樹脂被膜の密着性又は接着性が低下することが有効に防止されているのである。」

(2エ)「【0067】
(実施例1)
1.表面処理金属板の作成
金属板として厚み0.25mmのJIS5021H18アルミ合金板を用い、脱脂剤322N8(日本ペイント社製)を用いて、定法により、70℃の浴中で10秒間処理し、水洗後、40℃の1%硫酸中に5秒間浸漬し、水洗、純水洗し、前処理を行った。ついで、浴温45℃の表1のAに示す処理浴(当審注:Zr 0.022mol/L、 F 0.156mol/L を含む)中で、攪拌を行いながら、極間距離30mmの位置に配置した酸化イリジウム被覆チタン板を陽極として、電流密度10A/dm^(2)で、0.4秒通電-0.6秒停止を4回繰り返して断続的に陰極電解を行い、その後すぐに、流水による水洗、純水洗、乾燥の後処理を行って表面処理アルミニウム板を得た。
【0068】
2.樹脂被覆金属板の作成
得られた表面処理金属板を用いて、以下の方法で製蓋用の樹脂被覆金属板を作成した。
まず、予め板温度250℃に加熱しておいた表面処理金属板の蓋内面側となる片面上に、表3のbのキャストフィルムの下層側が接するようにラミネートロールを介して熱圧着後、直ちに水冷することにより、片面にフィルムをラミネートとした。
次に、蓋外面側となる、金属板のもう一方の片面にエポキシアクリル系塗料をロールコートにより塗装し、185℃10分間加熱の焼付け処理を行った。」

3.引用文献1に記載された発明の認定
i)上記(1ア)に記載の請求項1に係る発明を参照しながら、「実施例18」である(1エ)をみると、引用文献1では、「金属基材」としての「市販の冷延鋼板」を、脱脂水洗後に、「ジルコン酸」、「密着性付与剤」として「ケイ素含有化合物」、「硝酸アルミニウム」、「フッ化水素酸」で金属表面処理を行い、「フッ素安定化剤」である「硝酸カルシウム」に接触させて後に水洗する(請求項1の「工程(g)」に相当する。)という「金属基材の表面処理工程」を行うことが示されており、同「表面処理」は少なくとも片面には行われているといえる。
ここで「ケイ素含有化合物」については、(1エ)に「KBE903」(商品名、信越化学社製)とあり、これは同社のカタログから「3-アミノプロピルトリエトキシシラン」((C_(2)H_(5)O)_(3)SiC_(3)H_(6)NH_(2))であって、アミノ系のシランカップリング剤であるので、請求項1の「(A)ケイ素含有化合物」にあたる。
ii)そして、(1オ)から、実施例18(1エ)の上記「金属基材の表面処理工程」の後に、「カチオン電着塗料」の「塗膜」が被覆されるものである。
ここで、「カチオン電着塗料」は(1ウ)から樹脂として「変性エポキシ樹脂」が用いられるものである。
iii)すると、上記手順で表面処理された「金属基材」を、本願発明1を特定する請求項1の記載に則して整理すれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

<引用発明>
「変性エポキシ樹脂塗膜被覆を有する市販の冷延鋼板から成る金属基材において、同冷延鋼板が、鋼板の少なくとも片面上に、ジルコン酸、密着性付与剤としてケイ素含有化合物、硝酸アルミニウム、フッ化水素酸で金属表面処理を行い、フッ素安定化剤である硝酸カルシウムに接触させて後に水洗されて生成した表面処理層を有する変性エポキシ樹脂塗膜被覆を有する市販の冷延鋼板から成る金属基材。」

4.本願発明1と引用発明との対比
i)本願発明1の「熱可塑性ポリエステル樹脂被覆表面処理鋼板から成るシームレス缶において」と、引用発明の「変性エポキシ樹脂塗膜被覆を有する市販の冷延鋼板から成る金属基材において」とは、「樹脂被覆表面処理鋼板から成る」部材である点で一致する。
ii)本願発明1の「フッ素を含有し、ジルコニウムと酸素を主体とする表面処理層を有し、該表面処理層の表面側に2族元素を含有」することと、引用発明の「ジルコン酸、密着性付与剤としてケイ素含有化合物、硝酸アルミニウム、フッ化水素酸で金属表面処理を行い、フッ素安定化剤である硝酸カルシウムに接触させて後に水洗されて生成した表面処理層を有する」こととでは、「表面処理層」を有する点で一致する。
iii)以上から、本願発明1と引用発明とは、
「樹脂被覆表面処理鋼板から成る部材において、前記表面処理鋼板が、鋼板の少なくとも片面上に、表面処理層を有する樹脂被覆表面処理鋼板から成る部材。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
「樹脂被覆表面処理鋼板」の部材について、本願発明1では「シームレス缶」であるのに対して、引用発明では「金属部材」であり「シームレス缶」で使用されるものかまでは明らかでない点。

<相違点2>
「樹脂被覆表面処理鋼板」の「樹脂」について、本願発明1では「熱可塑性ポリエステル樹脂」であるのに対して、引用発明では「変性エポキシ樹脂」である点。

<相違点3>
「表面処理層」について、本願発明1では「フッ素を含有し、ジルコニウムと酸素を主体と」し、「表面処理層の表面側に2族元素を含有」するものであるのに対して、引用発明では、「ジルコン酸、密着性付与剤としてケイ素含有化合物、硝酸アルミニウム、フッ化水素酸で金属表面処理を行い、フッ素安定化剤である硝酸カルシウムに接触させて後に水洗されて生成し」たものである点。

<相違点4>
「表面処理層中の2族元素(AE)とジルコニウム(Zr)とのモル比AE/Zr」について、本願発明1では「0.45以上2.84以下である」のに対して、引用発明では「表面処理層中の2族元素(AE)とジルコニウム(Zr)とのモル比AE/Zr」について規定されていない点。

5.相違点についての判断
事案に鑑み相違点4について検討する。
i)本願発明1は「表面に有機樹脂層を形成した場合に、有機樹脂層との密着性、耐食性に優れた表面処理鋼板を提供すると共に、缶内外面樹脂との密着性及びフッ素溶出耐性に優れた有機樹脂被覆容器、及び上記表面処理鋼板の製造方法を提供する」(本願明細書【0012】)ことを課題として、「表面処理層中の2族元素(AE)とジルコニウム(Zr)とのモル比AE/Zrが0.45以上2.84以下である」ことを課題の解決手段とするものであり、当該モル比であれば「表面処理層の表面側に2族元素、特に2族元素のフッ素化合物が存在することにより、フッ素を不溶化してフッ素溶出を抑制することができると共に、ジルコニウムを溶解することなく表面処理層の構造を安定化し、表面処理層全体の欠陥部を減少させることが可能になる。また表面に有機樹脂層を形成した後に、加工や熱処理を施した際においても有機樹脂層の剥離を有効に防止することができ」る(本願明細書【0016】)ものである。
そして、【表1】(本願明細書【0088】)の実験例により、「AE/Zrが0.45以上2.84以下である」場合に、樹脂との密着性及びフッ素溶出耐性に優れることが確認できる。
ii)これに対して、引用発明は、上記(1イ)から、クロムを用いずに「金属基材」の「耐食性、塗膜密着性」を高めることを課題として、「ジルコン酸、密着性付与剤としてケイ素含有化合物、硝酸アルミニウム、フッ化水素酸で金属表面処理を行い、フッ素安定化剤である硝酸カルシウムに接触させて後に水洗されて生成した表面処理層」を形成することを課題の解決手段とするものであり、これは本願発明1と課題が一部共通し、解決手段としての表面処理層の形成工程は、Zrとフッ素で表面処理を行い、カルシウム(2族)元素を接触させる点で本願発明1と共通するものである。
しかしながら、引用文献1には、「表面処理層中の2族元素(AE)とジルコニウム(Zr)とのモル比AE/Zr」に着目し、この比が「0.45以上2.84以下」であれば「樹脂との密着性及びフッ素溶出耐性に優れ」るものになるという点については記載も示唆もない。
iii)この点について引用文献2の記載を検討する。
上記(2イ)(2ウ)から、引用文献2に記載の技術手段は、「有機樹脂皮膜との密着性」が良好で、「処理皮膜からのアニオンの溶出」を「抑制」できる「ノンクロム」の「金属缶及び開口性に優れた缶蓋」を提供することを課題とし、(2ア)から、「無機表面処理層が少なくともZr,O,Fを主成分とすると共に、リン酸イオンを含有」せず、「無機表面処理層の最表面に含有されるOとZrの原子比が、1<O/Zr<10」「FとZrの原子比が、0.1<F/Zr<2.5」である「表面処理金属材料」とすることを課題の解決手段とするものである。
しかしながら、(2エ)の「表面処理金属材料」の製造方法からも明らかなように、引用文献2に記載の技術手段は、ZrとFを含む処理浴で陰極電解を行い、その後すぐに、流水による水洗、純水洗、乾燥の後処理を行って表面処理アルミニウム板を得るもので、2族元素に接触させる工程を含まないから、「無機表面処理層」は2族元素を含まないのは明らかである。
したがって、引用文献2に記載の技術手段は、「表面処理層中の2族元素(AE)とジルコニウム(Zr)とのモル比AE/Zr」が「0.45以上2.84以下」である点について示唆するものではない。
iv)以上から、上記相違点4に係る本願発明1の特定事項は、引用発明及び引用文献2に記載の技術手段から当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
ゆえに、他の相違点1?3について検討するまでもなく、本願発明1は当業者が容易に成し得るものではない。
よって、本願発明1は原査定による拒絶理由を有しない。
また、本願発明2?7は、いずれも請求項1の記載を引用し、本願発明1の特定事項を有しているところ、上記のように本願発明1が原査定による拒絶理由を有するものではないから、本願発明2?7も原査定による拒絶理由を有するものでない。

6.原査定についてのむすび
以上「1.」?「5.」のとおり、本願発明1-7は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載の技術手段から当業者が容易に想到し得たものであるということはできないから、本願発明1-7は原査定による拒絶理由を有しない。

第5 前置報告書について
1.前置報告書の拒絶の理由の概要
前置報告書の拒絶の理由の概要は、平成30年2月2日(受付日)の手続補正書により補正された請求項1?7に係る発明(本願発明1?7に対応)は、引用文献3,4に記載の周知技術を勘案すれば、上記の引用文献2に記載された発明及び引用文献1に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得たものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとするものであり、上記「第4」で検討した査定の理由において、引用文献1及び2の主副を入れ替えて、周知技術3及び4を、主引例への副引例の適用の動機付けとするものである。

引用文献3:特許第4920800号公報
引用文献4:特許第5196035号公報

すなわち、上記前置報告書の拒絶の理由の概要は、具体的には以下のものといえる。

引用文献2には、上記「第4 5.iii)」でみたように、「有機樹脂皮膜との密着性」が良好で、「処理皮膜からのアニオンの溶出」を「抑制」できる「ノンクロム」の「金属缶及び開口性に優れた缶蓋」を提供することを課題とし、(2ア)から、「無機表面処理層が少なくともZr,O,Fを主成分とすると共に、リン酸イオンを含有」せず、「無機表面処理層の最表面に含有されるOとZrの原子比が、1<O/Zr<10」「FとZrの原子比が、0.1<F/Zr<2.5」である「金属缶及び開口性に優れた缶蓋」に用いられる「表面処理金属材料」とすることを課題の解決手段とする発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
そして、引用文献3の【0020】【0041】【0091】や、引用文献4の【0028】の記載から、皮膜中にフッ素を含有する容器用鋼板において、皮膜からのフッ素イオンの溶出を抑制することは当然考慮されるべき課題であるといえる。
すると、引用発明2においても、「金属缶及び開口性に優れた缶蓋」に用いられる「表面処理金属材料」の「無機表面処理層」中にはF(フッ素)が存在するので、これをより安定化させる必要性が当然に生ずる。
したがって、引用発明2の「表面処理金属材料」の「無機表面処理層」を、上記必要性に基づき、上記引用発明の「フッ素安定化剤である硝酸カルシウムに接触させ」ることで、フッ素イオンの溶出を防止するようにすることは当業者が容易に成し得ることであり、また、皮膜中のカルシウム量は、フッ素量に対して所定値以上添加されるべきであることを考慮すれば、皮膜中のカルシウム量とジルコニウム量との比も、当然所定値以上になるものであるので、格別なものとはいえない。

2.検討
以下に、本願発明1?7について、前置報告書に記載された上記拒絶の理由の有無を検討すると、引用発明2に引用発明1を適用できるとしても、両者共に「表面処理層中の2族元素(AE)とジルコニウム(Zr)とのモル比AE/Zr」について記載も示唆も無いことから、当該比について全く着目されていない引用発明2又は1において、当該比をパラメータとしてその比の値を決定し「0.45以上2.84以下」とすることに想到することは、当業者が容易に成し得ることとはいえない。
そして、本願発明1は、上記の比であれば「樹脂との密着性及びフッ素溶出耐性に優れ」るものになるという効果を奏するものである。
すると、本願発明1は、引用発明2及び引用発明1から当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
ゆえに本願発明1は前置報告書の拒絶の理由を有しない。
本願発明2?7についても、いずれも結果的に本願発明1を引用し、本願発明1の特定事項を有しているので、本願発明1と同様である。

第6 刊行物等提出書Aについて
1.拒絶理由の概要
刊行物等提出書Aの拒絶の理由の概要は、本願出願時の請求項1?7に係る発明(本願発明1?7に対応)は、引用文献5に記載された発明及び引用文献6に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得たものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とするものである。

引用文献5:特開2008-240045号公報
引用文献6:特開2004-218072号公報

2.検討
以下に、本願発明1?7について、上記「1.」の拒絶の理由の有無を検討する。
i)引用文献5には、「【0007】・・・生産効率を向上させ、製造コストが低減でき、かつ、環境に対する負荷を軽減することが可能なドラム缶製造方法を提供する」こと、「【0009】・・・裸耐食性、耐薬品性および塗膜密着性が優れた、品質のよい鋼製ドラム缶」を提供することを課題として、「【請求項1】ジルコニウムイオン、フッ素イオン、硝酸イオンおよびアミノシランを含む水性化成処理剤で化成処理し、pH10以上のアルカリ水溶液でアルカリ後処理を行う金属表面化成処理工程を含むことを特徴とする鋼製ドラム缶の製造方法。」を解決手段とすることが記載されている。
そして、「【0018】ジルコニウム系化成処理剤による金属表面処理においては、金属溶解反応により化成処理中に金属基材表面から溶出した金属イオンが、錯フッ化物イオン(例えば、ZrF_(6)^(2-))からフッ素を引き抜くことにより、また、界面pHの上昇により、ジルコニウムの水酸化物および/または酸化物が金属基材表面に析出して化成皮膜が形成されると一般に考えられている。しかし、この化成皮膜形成過程では、フッ素が完全に引き抜かれるわけではなく、フッ素が化成皮膜中に何らかの形態で残留することによって、塗膜形成後に腐食環境に曝された場合、発生した水酸基とフッ素との置換が起こって、化成皮膜中から溶出しやすい遊離フッ素イオンが発生することがあり、この遊離フッ素イオンが密着性に悪影響を及ぼすと考えられている。この遊離フッ素イオンを除去するために、後述するアルカリ後処理が行われる。」ものであるところ、「【0028】本発明の金属表面化成処理工程は、上記ジルコニウム系化成処理剤による化成処理に続いて、pH10以上のアルカリ水溶液によるアルカリ後処理を行なうものである。すなわち、ジルコニウム系化成皮膜をアルカリ水溶液で後処理することにより、化成皮膜中の、先に述べた遊離フッ素イオンやアルカリ可溶性物質が除去・削減されることによってジルコニウム系化成皮膜の耐食性が向上し、リン酸亜鉛化成皮膜と同等以上の耐食性を獲得できるものと考えられる」ものである。
したがって、引用文献5に記載の技術手段は、「金属基材表面」に形成されたZrを含む「化成皮膜」中に「フッ素」が存在すると、密着性に悪影響を及ぼすので、アルカリ水溶液で「フッ素」を洗い出してしまうものといえる。
これに対して、上記「第4 5.i)」でみたように、本願発明1は、2族元素のフッ素化合物が存在することにより、フッ素を不溶化してフッ素溶出を抑制することができると共に、ジルコニウムを溶解することなく表面処理層の構造を安定化するものであって、両者は、フッ素に対する操作が全く異なるものといえるから、引用文献5に記載の技術手段において、2族元素の介在する余地はなく、本願発明1における「表面処理層中の2族元素(AE)とジルコニウム(Zr)とのモル比AE/Zr」について「0.45以上2.84以下である」ことに想到し得るものではない。

ii)引用文献6には、有害なクロメート処理やリン酸亜鉛処理に代わり、塗膜の密着性や耐食性を向上させるジルコニウム化合物からなる金属表面処理剤は、カチオン電着塗装による塗膜と密着性が悪いという課題(【0002】?【0008】)に対して、「【請求項1】化成処理剤によって被処理物を処理し、化成皮膜を形成する塗装前処理方法であって、前記化成処理剤は、ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種、並びに、フッ素を必須成分とし、前記化成皮膜は、フッ素濃度が元素比率で10%以下であり、前記被処理物は、少なくとも一部が鉄系基材であることを特徴とする塗装前処理方法。」「【請求項2】化成皮膜のフッ素濃度を元素比率で10%以下にするために、化成処理剤は、更に、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ケイ素含有化合物及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有するものである請求項1記載の塗装前処理方法。」により課題を解決することが記載されている。
ここで、「【0015】・・・フッ素が化成皮膜中に残留することによって、塗膜形成後に腐食環境にさらされた場合、発生した水酸基と更にフッ素の置換が起こってフッ素イオンが発生することにより、塗膜と金属との結合を切断して充分な密着性が得られなくなっていると考えられる。このような作用は、特に被処理基材が鉄である場合に顕著に発生するものである。このため、少なくとも一部に鉄系基材を含む被処理物に対して、ジルコニウム等によって塗装の前処理を行った場合には、塗膜との密着性が低下するという問題が発生する。本発明は、このような知見に基づいて、化成皮膜中のフッ素濃度を元素比率で10%以下に低減することによって上記問題を改善する」と記載されており、【請求項2】にあるように、「化成皮膜のフッ素濃度を元素比率で10%以下にするために、化成処理剤は、更に、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ケイ素含有化合物及び銅からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有する」ことで、「【0028】化成処理剤中のフッ素とジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の解離が促進され、化成皮膜中に存在するフッ素濃度が低減される」ものであると推測されている。
すなわち、引用文献6に記載の技術手段は、本願発明1のようにZr,Fを含む表面処理剤で処理し成膜した後で、2族元素(カルシウム、マグネシウム)で金属基材表面のフッ素を不溶化してフッ素溶出を抑制するものではなく、化成処理剤中のジルコニウム、フッ素に、はじめからマグネシウム、カルシウム等を混ぜておいて化成皮膜中に存在するフッ素濃度を低下させるものであって、化成膜中で2族元素とフッ素を不溶化してフッ素溶出を抑制するものとまでの記載は見出せない。
また、化成皮膜中で2族元素とフッ素を不溶化してフッ素溶出を抑制するものであるとしても、同膜中において「表面処理層中の2族元素(AE)とジルコニウム(Zr)とのモル比AE/Zr」について「0.45以上2.84以下である」ことで、樹脂との密着性及びフッ素溶出耐性に優れる膜になるとまでの記載も示唆も無い。
iii)以上から、引用文献5,6にも「表面処理層中の2族元素(AE)とジルコニウム(Zr)とのモル比AE/Zr」について「0.45以上2.84以下である」とすることで樹脂との密着性及びフッ素溶出耐性に優れる膜になるとまでの記載も示唆も無いから、本願発明1は、引用発明5及び引用発明6から当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
ゆえに本願発明1は刊行物等提出書Aの拒絶の理由を有しない。
本願発明2?7についても、いずれも結果的に本願発明1を引用し、本願発明1の特定事項を有しているので、本願発明1と同様である。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本願については、原査定の拒絶理由、前置報告書の拒絶理由、刊行物提出書の拒絶理由及び当審拒絶理由を検討しても、それらの理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-04-15 
出願番号 特願2013-260930(P2013-260930)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (C25D)
P 1 8・ 121- WY (C25D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大塚 美咲酒井 英夫  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 長谷山 健
中澤 登
発明の名称 表面処理鋼板、有機樹脂被覆金属容器、及び表面処理鋼板の製造方法  
代理人 小野 尚純  
代理人 小野 尚純  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 小野 尚純  
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