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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F
管理番号 1350509
審判番号 不服2018-6088  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-02 
確定日 2019-04-04 
事件の表示 特願2014- 94482「多階調フォトマスクの製造方法、多階調フォトマスク及び表示装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月26日出願公開、特開2015-212720〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成26年 5月 1日 特許出願
平成28年 4月11日 手続補正書・出願審査請求書
平成29年 1月19日 拒絶理由通知書(同年1月31日発送)
平成29年 4月 5日 意見書・手続補正書
平成29年 7月 4日 拒絶理由通知書(最後、同年7月11日発送)
平成29年11月 8日 意見書・手続補正書
平成30年 2月 2日 補正の却下の決定(平成29年11月8日付け
手続補正)、拒絶査定(同年2月6日送達)
平成30年 5月 2日 審判請求書・手続補正書

第2 平成30年5月2日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成30年5月2日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の概略
本件補正は、補正前の特許請求の範囲(平成29年11月8日付け手続補正は却下されているので、平成29年4月5日付け手続補正により補正された特許請求の範囲)の請求項1に、
「 透明基板上に形成された遮光膜及び半透光膜がそれぞれパターニングされることによって形成された、遮光部、半透光部、及び透光部を備えた転写用パターンを有する、多階調フォトマスクの製造方法であって、
前記半透光膜及び前記遮光膜は、同一の金属を含有し、同一のエッチング液によってエッチングされうる材料からなるとともに、前記同一のエッチング液に対する前記半透光膜と前記遮光膜のエッチング所要時間の比が1:5?1:50であり、
前記転写用パターンは、前記遮光部と透光部が隣接する部分と、前記半透光部と透光部が隣接する部分とを有する多階調フォトマスクの製造方法において、
前記透明基板上に前記遮光膜が形成されたフォトマスクブランクを用意する工程と、
前記遮光部となる領域以外の領域の遮光膜をエッチング除去して前記遮光部を形成する工程と、
前記遮光部が形成された前記透明基板上に、前記半透光膜を成膜する工程と、
前記半透光膜上において、透光部となる領域を含む領域に開口をもつレジストパターンを形成するレジストパターン形成工程と、
前記レジストパターンをマスクとして、前記半透光膜をエッチングする、半透光膜エッチング工程と、
前記レジストパターンを除去する工程とを有し、
前記レジストパターン形成工程では、前記遮光部と隣接する透光部となる領域の寸法に、アライメントマージンを加えた寸法の開口をもつレジストパターンを形成し、
前記半透光膜エッチング工程では、前記レジストパターンの開口内において、前記透光部となる領域の透明基板が露出し、かつ、前記遮光部の、前記透光部と隣接するエッジ部分において、前記遮光膜上の前記半透光膜が、エッチングにより除去されるとともに、前記多階調フォトマスクの露光光に対する光学密度(OD)を2以上とする範囲で、前記遮光膜がエッチングによる損傷を受けることを特徴とする、多階調フォトマスクの製造方法。」

とあるものを、

「 透明基板上に形成された遮光膜及び半透光膜がそれぞれパターニングされることによって形成された、遮光部、半透光部、及び透光部を備えた転写用パターンを有する、表示装置用の多階調フォトマスクの製造方法であって、
前記半透光膜及び前記遮光膜は、同一の金属を含有し、同一のエッチング液によってエッチングされうる材料からなるとともに、前記同一のエッチング液に対する前記半透光膜と前記遮光膜のエッチング所要時間の比が1:5?1:50であり、
前記転写用パターンは、前記遮光部と隣接する透光部C1と、前記半透光部と隣接する透光部C2とを有する多階調フォトマスクの製造方法において、
前記透光部C1は、前記遮光部に挟まれた位置にあり、かつ、
前記透光部C2は、前記半透光部に挟まれた位置にあり、
前記遮光膜は、その表層に反射防止層を有し、
前記透明基板上に前記遮光膜が形成されたフォトマスクブランクを用意する工程と、
前記遮光部となる領域以外の領域の遮光膜をウェットエッチングにより除去して前記遮光部を形成する工程と、
前記遮光部が形成された前記透明基板上に、前記半透光膜を成膜する工程と、
前記半透光膜上において、前記透光部C1となる領域を含む領域、及び前記透光部C2を形成するための領域に開口をもつレジストパターンを形成するレジストパターン形成工程と、
前記レジストパターンをマスクとして、前記半透光膜をウェットエッチングする、半透光膜エッチング工程と、
前記レジストパターンを除去する工程とを有し、
前記レジストパターン形成工程では、前記透光部C1となる領域の寸法に、片側あたり0.2μm以上のアライメントマージンを加えた寸法の開口をもつレジストパターンであって、かつ、前記透光部C2となる領域の寸法から、片側あたり0.1μm以下のマージンを減じた寸法の開口をもつレジストパターンを形成し、
前記半透光膜エッチング工程では、前記レジストパターンの開口内において、前記透光部C1及び前記透光部C2となる領域の透明基板が露出し、かつ、前記遮光部の、前記透光部C1と隣接するエッジ部分において、前記遮光膜上の前記半透光膜が、ウェットエッチングにより除去されるとともに、前記多階調フォトマスクの露光光に対する光学密度(OD)を2以上とする範囲で、前記遮光膜がウェットエッチングによる損傷を受けることを特徴とする、多階調フォトマスクの製造方法。」(注:下線は、補正箇所に請求人が付したものである。)

とする補正を含むものである。

上記請求項1の補正は、
(1)「多階調フォトマスク」を「表示装置用の多階調フォトマスク」に限定する補正事項(以下「補正事項1」という。)、
(2)転写用パターンに関し、「前記遮光部と透光部が隣接する部分と、前記半透光部と透光部が隣接する部分とを有する」ものを、「前記遮光部と隣接する透光部C1と、前記半透光部と隣接する透光部C2とを有する」ものに限定するとともに、「前記透光部C1は、前記遮光部に挟まれた位置にあり、かつ、前記透光部C2は、前記半透光部に挟まれた位置にあ」ることを限定する補正事項(以下「補正事項2」という。)、
(3)「遮光膜」に関し、「その表層に反射防止層を有」するものに限定する補正事項(以下「補正事項3」という。)、
(4)遮光膜の「エッチング」及び半透光膜の「エッチング」を、「ウェットエッチング」に限定する補正事項(以下「補正事項4」という。)、
(5)レジストパターンが開口をもつ領域に関し、「透光部となる領域を含む領域」を、「前記透光部C1となる領域を含む領域、及び前記透光部C2を形成するための領域」に限定する補正事項(以下「補正事項5」という。)、
(6)レジストパターンがもつ開口の寸法に関し、「前記遮光部と隣接する透光部となる領域の寸法に、アライメントマージンを加えた寸法」を、「前記透光部C1となる領域の寸法に、片側あたり0.2μm以上のアライメントマージンを加えた寸法」に限定するとともに、「前記透光部C2となる領域の寸法から、片側あたり0.1μm以下のマージンを減じた寸法」を限定する補正事項(以下「補正事項6」という。)、
からなる。

以下、上記補正事項について検討する。
補正事項1は、多階調フォトマスクを「表示装置用」のものに限定する補正事項であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
補正事項2は、遮光部と隣接する透光部について「遮光部に挟まれた位置」であることに限定し、また、半透後部と隣接する透光部について「半透光部に挟まれた位置」であることを限定する補正事項であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
補正事項3は、遮光膜について「その表層に反射防止層を有」するものに限定する補正事項であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
補正事項4は、エッチングについて「ウェットエッチング」に限定する補正事項であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
補正事項5は、特許請求の範囲の減縮を目的とする上記補正事項2に伴い、レジストパターンが開口を持つ領域を限定する補正事項であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
補正事項6は、レジストパターンがもつ開口の寸法の寸法に関し、透光部C1となる領域の寸法に加えるアライメントマージンを「片側あたり0.1μm以下のマージン」に限定するとともに、「前記透光部C2となる領域の寸法から、片側あたり0.1μm以下のマージンを減じた寸法」を限定する補正事項であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
以上によれば、本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるから、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定する要件を満たすか)否かについて検討する。

2 引用する刊行物と引用発明
(1)引用例1
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2006-18001号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の記載がある(注:下線は、当審が付加した。以下同様である。)。
(ア)「【請求項4】
透明基板上に所望のパターンを有し、前記パターンを形成する膜が、実質的に露光光を透過しない遮光膜と、露光光を所望の透過率で透過する半透明膜とからなるフォトマスクの製造方法において、順に、
前記透明基板上に第一の膜を成膜したマスクブランクを準備する工程と、
前記第一の膜をパターニングする工程と、
前記パターニングした第一の膜を設けた透明基板上に、第二の膜を全面に成膜する工程と、
前記第二の膜をパターニングする工程と、を含むことを特徴とするフォトマスクの製造方法。

【請求項6】
前記第一の膜が遮光膜であり、前記第二の膜が半透明膜であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のフォトマスクの製造方法。

【請求項9】
前記第一の膜と前記第二の膜とが、いずれもクロムを主成分とすることを特徴とする請求項4?請求項8のいずれかに記載のフォトマスクの製造方法。」

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子や画像表示素子などのパターン形成に用いられるフォトリソグラフィ技術において、複数のフォトマスクを用いて複数のリソグラフィ工程を行う代わりに、階調をもった1枚のフォトマスクを用い、その透過光量に応じた段差をもつレジストプロファイルを形成することにより、リソグラフィ工程数を減らす製造技術に用いられる階調フォトマスクおよびその製造方法に関する。」

(ウ)「【背景技術】
【0002】…また、上記の特許文献には、このために用いる露光光の解像限界以下の微小スリットを有するフォトマスク(以下、スリットマスクと記す。)、および、露光光に対して階調を有するフォトマスク(以下、グレートーンマスクと記す。)とが説明されている。」

(エ)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、リソグラフィ工程を減少するためのグレートーンマスクにおいて、専用のフォトマスクブランク材料を必要とせず、また、エッチング設備やエッチング工程数を複数準備する必要が無く、従って、製造コストが低減された高品質なグレートーンマスクおよびその製造方法を提供することを目的とする。」

(オ)「【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、専用のフォトマスクブランクを用意することなく、従来のフォトマスクブランクを用いることが可能となり、エッチング設備、工程を複数持つ必要性が無いため、高品質のグレートーンマスクを低コストで得ることが可能となる。また、遮光膜と半透明膜のパターニングを同一技術にて行うこともできる。さらに、製造工程の中間でマスクパターンの検査、必要に応じて修正を行なうことにより、高品質のマスクを高良品率で得ることが可能となる。
本発明のグレートーンマスクを用いることにより、半導体素子や画像表示素子のリソグラフィ工程を効率的に減らすことが出来、低コストの半導体素子や画像表示素子が実現できる。」

(カ)「【0018】
(グレートーンマスク)
本発明のグレートーンマスクの構成は、図1および図2に示すように、透明基板101、201上に所望のパターンを有するグレートーンマスク112、212において、パターンを形成する膜が、実質的に露光光を透過しない遮光膜パターン106、206と、露光光を所望の透過率で透過する半透明膜パターン111、211とからなり、透明基板101、201上に、遮光膜パターン106、206と半透明膜パターン111、211とがこの順に積層されて存在する遮光領域、遮光膜パターン106、206のみが存在する遮光領域、半透明膜パターン111、211のみが存在する半透明領域、および、遮光膜パターン106、206と記半透明膜パターン111、211のいずれも存在しない透過領域、とが混在しているものである。
本発明において、実質的に露光光を透過しない遮光膜パターンとは、露光波長において、1回の露光により露光光を透過して感光性レジストを感光させない遮光膜パターンを意味するものであり、通常は透過率0.1%以下が望ましいとされている。
【0019】
図1は、遮光膜パターン106と半透明膜パターン111がこの順に積層されて存在する遮光領域のパターンエッチングされた積層側において、遮光膜パターン106の端部と半透明膜パターン111の端部の位置が異なっている構造をなすものである。
図2は、遮光膜パターン206と半透明膜パターン211がこの順に積層されて存在する遮光領域のパターンエッチングされた積層側において、遮光膜パターン206の端部と半透明膜パターン211の端部の位置が略同一となっている構造をなすものであり、他の構造は上記の図1と同じである。
【0020】

【0021】
遮光膜パターン106、206を形成する遮光膜としては、クロム系膜、モリブデンシリサイド、タンタル、アルミニウム、珪素、酸化ケイ素、酸化窒化珪素など、通常のマスク材料として使用できる薄膜であれば、いずれを使用しても可能であるが、最も使用実績のあるクロムを主成分としたクロム系膜がマスクブランクのコスト、品質上からより好ましい。クロム系膜は、通常、クロム、酸化クロム、窒化クロム、酸化窒化クロムの中から選ばれる材料の単層、または、2層以上の積層構造が用いられる。例えば、クロムを遮光膜とした場合には、50nm?150nm程度の範囲の膜厚で用いられる。
また、本発明においては、遮光膜パターン106、206上に低反射層が設けられていてもよい。例えば、クロム膜上に設けられた酸化クロム、窒化クロム、酸化窒化クロム膜の層は低反射層としての機能を有するものであり、これらの低反射層はクロム膜のパターンエッチング時に同時にエッチングすることが可能である。低反射層を設けることにより、マスク使用時のレジストの解像度を上げることができる。
【0022】
半透明膜パターン111、211を形成する半透明膜としては、前記遮光膜パターン106、206を形成する遮光膜の酸化膜、窒化膜、炭化膜などが用いられるが、半透明膜と遮光膜を同一エッチング設備、工程でパターニングし得るという利点から、半透明膜は遮光膜と同系の材料からなることが好ましい。遮光膜が前述の通りクロム系材料によるものであれば、半透明膜は、クロム膜を厚さ5?50nm程度の薄膜にして用いるか、クロムに酸素・窒素・炭素などを含む、透過率が比較的高い膜を用いればよい。例えば、クロム酸化膜を半透明膜とする場合には、5nm?150nm程度の範囲の膜厚で用いられる。酸素・窒素・炭素などを含む半透明膜の場合は、その吸光度は組成により変わるので、膜と組成とを同時にコントロールすることで所望の透過率を実現できる。
本発明においては、半透明膜パターン111、211を形成する半透明膜の透過率は20%?50%の範囲で形成するのが好ましい。透過率20%未満では、本発明のグレートーンマスクを用いたレジストパターン形成において、遮光領域との差を出しにくく、一方、透過率50%を越えると、レジストパターン形成において透過領域との差を出しにくくなるからである。」

(キ)「【0023】
(グレートーンマスクの製造方法)
次に、本発明のグレートーンマスクの製造方法の実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
図3は、図1に示す本発明のグレートーンマスクの製造工程を示す断面模式図であり、図4は、図3に続く本発明のグレートーンマスクの製造工程を示す断面模式図である。
本実施形態のグレートーンマスクを作製するには、まず第一の膜である遮光膜102を透明基板101上に成膜したフォトマスクブランク103を準備する(図3(a))。フォトマスクブランク103の遮光膜102がクロム膜であれば、クロム膜はスパッタリン
グ法で形成され、通常、フォトマスクブランクとして用いられており、容易に入手可能である。
【0024】
次に、上記のフォトマスクブランク103を常法に従って1回目のマスクパターン製版を行い、第一の膜である遮光膜102をパターニングする。すなわち、遮光膜102上にレーザ露光装置などの露光装置に対応した感光性レジストなどのレジストを塗布し、塗布後に所定時間ベークし、均一な厚さの遮光膜用レジスト膜104を形成する(図3(b))。
なお、マスク用の露光装置としては、EB露光装置、レーザ露光装置があり、本発明ではいずれも使用可能であるが、LCDやPDPなどのディスプレイ装置の大型化、製造時の多面付化に伴い、フォトマスクも大型化し、画像表示素子用のフォトマスクには主にレーザ露光装置が使われている。
【0025】
次に、レーザ光などのエネルギー線で遮光膜のパターン描画を行なう。この描画時に、2層目の半透明膜のパターニング時に位置合せに使用する描画用アライメントマークを、マスクの非転写領域に複数個描画配置しておく(図示せず)。
続いて、使用するレジストの特性上、必要ならば露光後ベーク工程を入れて、レジスト所定の現像液で現像し、リンスして、遮光膜用レジストパターン105を形成する(図3(c))。
【0026】
次に、遮光膜用レジストパターン105より露出している遮光膜102をエッチングして、遮光膜パターン106を形成し、残存しているレジストを剥離除去し、遮光膜パターン付き基板107を得る(図3(d))。
遮光膜102のエッチングは、ウェットエツチングもしくはドライエッチング方法が適用できるが、上記のように、画像表示素子用のフォトマスクの大型化に伴い、ドライエッチングでは装置、材料コストが高くなりすぎ、しかも大面積のドライエッチングはエッチング均一性が悪くなるので、ウェットエツチングが好ましい。遮光膜102がクロム系膜の場合には、硝酸セリウム系ウェットエッチャントが好適である。
【0027】
本実施形態においては、第一の膜のパターニング工程の後に、遮光膜パターン付き基板107の検査を行い、必要ならば欠陥修正をする工程を行なうことができる。遮光膜にクロム膜を用いる場合には、従来のクロム膜のフォトマスクの検査技術、修正技術が適用できる。遮光膜パターン寸法検査、パターン欠陥検査の検査工程、必要ならば修正工程を行なうことにより、次工程に欠陥を有する基板が渡るのを防ぎ、良品率が高まり、マスクコスト低減に寄与する。
【0028】
次に、遮光膜パターン付き基板107の全面に、半透明膜108を成膜する(図3(e))。
ここで、半透明膜108は、前記遮光膜102と同系の材料からなることが好ましい。遮光膜102が前述のようにクロム系材料によるものであれば、半透明膜108は、クロム膜を厚さ5?50nm程度の薄膜にして用いるか、あるいは、クロムに酸素、窒素、炭素などの1種または2種以上を含み、透過率が比較的高い膜を用いればよい。例えば、クロム酸化膜を半透明膜111、211とする場合には、5nm?150nm程度の範囲の膜厚で用いられる。酸素、窒素、炭素などを含む半透明膜の場合は、その吸光度は組成により変わるので、膜と組成とを同時にコントロールすることで所望の透過率を実現できる。
半透明膜108の成膜は、クロム遮光膜を形成した方法と同じく、スパッタリング法などの真空成膜方法が用いられる。
【0029】
次に、2回目のマスクパターン製版工程により、第二の膜である半透明膜108をパターニングし、下層の遮光膜パター106との位置合せをした半透明膜パターンを形成する。すなわち、半透明膜108上にレーザ露光装置等の露光装置に対応した感光性レジストなどのレジストを塗布し、塗布後に所定時間ベークし、半透明膜用レジスト膜109を形成する(図4(f))。
【0030】
続いて、レーザ光などのエネルギー線で半透明膜108のパターン描画を行なう。この描画時に、1層目の遮光膜のアライメントマークを検出し位置合せを行なう。
次に、使用するレジストの特性上、必要ならば露光後ベーク工程を入れて、レジスト所定の現像液で現像し、リンスして、半透明膜用レジストパターン110を形成する(図4(g))。
【0031】
次に、半透明膜用レジストパターン110より露出している半透明膜108をエッチングして、半透明膜パターン111を形成する(図4(h))。
ここで、遮光膜と同系の材料からなる半透明膜を用いる場合には、半透明膜エッチングを行なう際、遮光膜と半透明膜とで材料系を大きく変えた場合や、エッチング技術を変える場合に比べて、半透明膜の遮光膜に対するエッチング選択性は著しく落ちるが、上記のように、クロム膜を5?50nm程度の膜厚にして半透明膜とした場合には、半透明膜の膜厚が非常に薄いので、エッチング時間を短くすることができ、半透明膜エッチング処理時、および、オーバーエッチング時の遮光膜のダメージを極力薄くすることが可能である。
【0032】

【0033】
次いで、残存している半透明膜用レジストパターン110を剥離除去し、グレートーンマスク112を得る(図4(i))。この後、マスクの検査、必要ならば修正を行なう。
図4(i)において、遮光膜パターン106と半透明膜パターン111が積層されて存在する遮光領域のパターンエッチングされた積層側において、遮光膜パターン106と半透明膜パターン111は別々にエッチングされているので、アライメントの位置精度のずれにより、遮光膜パターン106の端部と半透明膜パターン111の端部の位置が異なっている場合を示すものである。もとより、上記の位置ずれがあっても、遮光領域は遮光膜パターン106により規定されるので、グレートーンマスクとしての品質、機能には何の支障も無い。」

(ク)図3、図4は以下のとおりである。


イ 引用発明
(ア)上記ア(ア)によれば、
「 透明基板上に所望のパターンを有し、前記パターンを形成する膜が、実質的に露光光を透過しない遮光膜と、露光光を所望の透過率で透過する半透明膜とからなるフォトマスクの製造方法において、順に、
前記透明基板上に遮光膜を成膜したマスクブランクを準備する工程と、
前記遮光膜をパターニングする工程と、
前記パターニングした遮光膜を設けた透明基板上に、半透明膜を全面に成膜する工程と、
前記半透明膜をパターニングする工程と、
を含み、
前記遮光膜と前記半透明膜とが、いずれもクロムを主成分とする、
フォトマスクの製造方法。」

(イ)上記ア(イ)によれば、
「画像表示素子などのパターン形成に用いられるフォトリソグラフィ技術において用いられる階調フォトマスクの製造方法」に関するものである。

(ウ)「前記遮光膜と前記半透明膜とが、いずれもクロムを主成分とする」場合、遮光膜と半透明膜は同系の材料からなるので、上記ア(オ)【0022】によれば、半透明膜と遮光膜を同一エッチング設備、工程でパターニングし得る。

(エ)【0026】には、遮光膜のエッチングは、ウェットエッチングが好ましいことが記載されている。そして、【0022】には、「半透明膜と遮光膜を同一エッチング設備、工程でパターニングし得る」ことが開示されている。してみると、引用例には半透明膜と遮光膜をパターニングするエッチングとして、ウェットエッチングが開示されている。

(オ)上記ア(カ)、(キ)の記載を踏まえて図4(i)を見ると、遮光膜パターン106と半透明膜パターン111の何れも存在しない透過領域のうち、透明基板101の中央部に位置する透過領域は隣接する遮光領域に挟まれて位置しており、また、透明基板101の端部に位置する透過領域は、半透明領域に隣接して位置することが看取できる。
また、上記ア(カ)、(キ)の記載を踏まえて図4(g)?(i)を見ると、透明基板101の中央部に位置する透過領域と透明基板101の端部に位置する透過領域では、透明基板が露出していること、そして、遮光領域の透過領域と隣接するエッジ部分において、遮光膜パターン上の半透明膜がエッチングにより除去されていることが看取できる。

(カ)以上によれば、引用例1には、以下の発明が開示されている。
「 透明基板上に所望のパターンを有し、前記パターンを形成する膜が、実質的に露光光を透過しない遮光膜と、露光光を所望の透過率で透過する半透明膜とからなり、透明基板上に、遮光膜パターンと半透明膜パターンとがこの順に積層されて存在する遮光領域、遮光膜パターンのみが存在する遮光領域、半透明膜パターンのみが存在する半透明領域、および、遮光膜パターンと半透明膜パターンのいずれも存在しない透過領域、とが混在し、画像表示素子などのパターン形成に用いられるフォトリソグラフィ技術において用いられる階調フォトマスクの製造方法において、順に、
前記透明基板上に遮光膜を成膜したマスクブランクを準備する工程と、
前記遮光膜をパターニングする工程と、
前記パターニングした遮光膜を設けた透明基板上に、半透明膜を全面に成膜する工程と、
前記半透明膜をパターニングする工程と、
を含み、
前記半透明膜をパターニングする工程は、半透明膜上にレジストを塗布し、塗布後に所定時間ベークし、半透明膜用レジスト膜を形成し、レーザ光などのエネルギー線で半透明膜のパターン描画を行ない、使用するレジストの特性上、必要ならば露光後ベーク工程を入れて、レジスト所定の現像液で現像し、リンスして、半透明膜用レジストパターンを形成し、半透明膜用レジストパターンより露出している半透明膜をエッチングして、半透明膜パターンを形成し、残存している半透明膜用レジストパターンを剥離除去し、
前記遮光膜と前記半透明膜とが、いずれもクロムを主成分とし、同一のエッチング設備、工程でパターニングし得、
透過領域のうち、透明基板の中央部に位置する透過領域は隣接する遮光領域に挟まれて位置しており、また、透明基板の端部に位置する透過領域は、半透明領域に隣接して位置し、
透明基板の中央部に位置する透過領域と透明基板の端部に位置する透過領域では、透明基板が露出し、そして、遮光領域の透過領域と隣接するエッジ部分において、遮光膜パターン上の半透明膜がエッチングにより除去されており、
エッチングはウェットエッチングが好ましく、
遮光膜パターン上に低反射層が設けられていてもよい、
フォトマスクの製造方法。」(以下「引用発明」という。)

3 対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
(1)本願補正発明の「透明基板上に形成された遮光膜及び半透光膜がそれぞれパターニングされることによって形成された、遮光部、半透光部、及び透光部を備えた転写用パターンを有する、表示装置用の多階調フォトマスク」と、引用発明の「透明基板上に所望のパターンを有し、前記パターンを形成する膜が、実質的に露光光を透過しない遮光膜と、露光光を所望の透過率で透過する半透明膜とからなり、透明基板上に、遮光膜パターンと半透明膜パターンとがこの順に積層されて存在する遮光領域、遮光膜パターンのみが存在する遮光領域、半透明膜パターンのみが存在する半透明領域、および、遮光膜パターンと半透明膜パターンのいずれも存在しない透過領域、とが混在し、画像表示素子などのパターン形成に用いられるフォトリソグラフィ技術において用いられるフォトマスク」であって、「遮光膜をパターニングする工程」と「半透明膜をパターニングする工程」を含む製造方法により製造される「フォトマスク」を対比する。
ア 引用発明の「透明基板」は本願補正発明の「透明基板」に相当し、以下同様に、「遮光膜」は「遮光膜」に、「半透明膜」は「半透光膜」に、「遮光領域」は「遮光部」に、「半透明領域」は「半透光部」に、「透過領域」は「透明領域」に、それぞれ相当する。
イ 引用発明の「遮光領域」は、「遮光膜パターンと半透明膜パターンとがこの順に積層されて存在する」領域と「遮光膜パターンのみが存在する」領域とからなり、「遮光膜パターン」は遮光膜をパターニングすることにより形成される。また、引用発明の「半透明領域」は「半透明膜パターンのみが存在する」領域であり、「半透明膜パターン」は半透明膜をパターニングすることにより形成される。さらに、引用発明の「透過領域」は「遮光膜パターンと半透明膜パターンのいずれも存在しない」領域であり、遮光膜と半透明膜をパターニングすることにより形成される。してみると、引用発明は、遮光膜と半透明膜をそれぞれパターニングすることにより、「遮光領域」、「半透明領域」、「透過領域」が形成されるものである。
よって、引用発明の「遮光膜」と「半透明膜」をそれぞれパターニングすることにより形成した「遮光領域」、「半透明領域」、「透過領域」は、本願補正発明の「遮光膜及び半透光膜がそれぞれパターニングされることによって形成された、遮光部、半透光部、及び透光部」に相当する。
ウ 一般に、階調フォトマスクを用いてパターンを形成するフォトリソグラフィ技術において、階調フォトマスクが転写用パターンを有することは技術常識である。してみると、引用発明の「画像表示素子などのパターン形成に用いられるフォトリソグラフィ技術において用いられる階調フォトマスク」は、本願補正発明の「転写用パターンを有する、表示装置用の多階調フォトマスク」に相当する。
エ 以上によれば、両者は相当関係にある。

(2)本願補正発明の「前記半透光膜及び前記遮光膜は、同一の金属を含有し、同一のエッチング液によってエッチングされうる材料からなるとともに、前記同一のエッチング液に対する前記半透光膜と前記遮光膜のエッチング所要時間の比が1:5?1:50であ」ることと、引用発明の「前記遮光膜と前記半透明膜とが、いずれもクロムを主成分とし、同一のエッチング設備、工程でパターニングし得」ることを対比する。
ア 本願の発明の詳細な説明には、「【0021】…遮光膜としては、…最も使用実績のあるクロムを主成分としたクロム系膜がマスクブランクのコスト、品質上からより好ましい。」との記載があり、また、「【0022】…遮光膜が前述の通りクロム系材料によるものであれば、半透明膜は、クロム膜を厚さ5?50nm程度の薄膜にして用いるか、クロムに酸素・窒素・炭素などを含む、透過率が比較的高い膜を用いればよい。」との記載がある。
してみると、本願補正発明の「前記半透光膜及び前記遮光膜」が含有する「同一の金属」は、クロムであって良いものである。。
イ 引用発明の「前記遮光膜と前記半透明膜とが、…同一のエッチング設備、工程でパターニングし得」ることは、本願補正発明の「前記半透光膜及び前記遮光膜は、…同一のエッチング液によってエッチングされうる」ことに相当する。
ウ 以上によれば、両者は、「前記半透光膜及び前記遮光膜は、同一の金属としてクロムを含有し、同一のエッチング液によってエッチングされうる材料からなる」点で一致する。

(3)本願補正発明の「前記転写用パターンは、前記遮光部と隣接する透光部C1と、前記半透光部と隣接する透光部C2とを有する多階調フォトマスク」であって、「前記透光部C1は、前記遮光部に挟まれた位置にあ」る「多階調フォトマスク」と、引用発明の「透過領域のうち、透明基板の中央部に位置する透過領域は隣接する遮光領域に挟まれて位置しており、また、透明基板の端部に位置する透過領域は、半透明領域に隣接して位置する、フォトマスク」を対比する。
ア 引用発明の「隣接する遮光領域に挟まれて位置」する「透明基板の中央部に位置する透過領域」は、本願補正発明の「前記遮光部と隣接する透光部C1」に相当し、引用発明の「半透明領域に隣接して位置する」「透明基板の端部に位置する透過領域」は本願補正発明の「前記半透光部と隣接する透光部C2」に相当する。そして、引用発明の「フォトマスク」は階調フォトマスクであるから、本願補正発明の「多階調フォトマスク」に相当し、引用発明のフォトマスクは「画像表示素子などのパターン形成に用いられるフォトリソグラフィ技術において用いられる」フォトマスクであるから透明基板上に有する「所望のパターン」は転写用パターンである。
イ 引用発明の「透明基板の中央部に位置する透過領域は隣接する遮光領域に挟まれて位置して」いることは、本願補正発明の「前記透光部C1は、前記遮光部に挟まれた位置にあ」ることに相当する。
ウ 以上によれば、両者は相当関係にある。

(4)本願補正発明の「前記遮光膜は、その表層に反射防止層を有」することと、引用発明の「遮光膜パターン上に低反射層が設けられていてもよい」ことを対比する。
引用発明の「低反射層」は本願補正発明の「反射防止層」に相当する。引用例1には、「【0021】遮光膜パターン106、206上に低反射層が設けられていてもよい。例えば、クロム膜上に設けられた酸化クロム、窒化クロム、酸化窒化クロム膜の層は低反射層としての機能を有するものであり、これらの低反射層はクロム膜のパターンエッチング時に同時にエッチングすることが可能である。」との記載を踏まえると、引用発明は、クロム膜(遮光膜)上に低反射層を有する。
してみると、両者は相当関係にある。

(5)本願補正発明の「前記透明基板上に前記遮光膜が形成されたフォトマスクブランクを用意する工程」と、引用発明の「前記透明基板上に遮光膜を成膜したマスクブランクを準備する工程」を対比する。
引用発明の「透明基板」は本願補正発明の「透明基板」に相当し、以下同様に、「遮光膜」は「遮光膜」に、「マスクブランク」は「フォトマスクブランク」に、それぞれ相当する。
してみると、両者は相当関係にある。

(6)本願補正発明の「前記遮光部となる領域以外の領域の遮光膜をウェットエッチングにより除去して前記遮光部を形成する工程」と、引用発明の「前記遮光膜をパターニングする工程」であって、「前記遮光膜…が、…エッチング設備、工程でパターニングし得」、「エッチングはウェットエッチングが好まし」いことを対比する。
引用発明の「遮光領域」は、「遮光膜パターンと半透明膜パターンとがこの順に積層されて存在する」領域と「遮光膜パターンのみが存在する」領域であるから、引用発明の「遮光領域」は「遮光膜パターン」が存在する領域である。そして、引用発明の「半透明領域」は「半透明膜パターンのみが存在する」領域であり、また、「透過領域」は「遮光膜パターンと半透明膜パターンのいずれも存在しない」領域であるから、「半透明領域」と「透過領域」の何れの領域にも「遮光膜パターン」は存在しない。してみると、引用発明において「前記遮光膜をパターニングする」とは、本願補正発明の「前記遮光部となる領域以外の領域の遮光膜を」「除去して前記遮光部を形成する」ことに相当する。
してみると、両者は相当関係にある。

(7)本願補正発明の「前記遮光部が形成された前記透明基板上に、前記半透光膜を成膜する工程」と、引用発明の「前記パターニングした遮光膜を設けた透明基板上に、半透明膜を全面に成膜する工程」を対比する。
引用発明の「パターニングした遮光膜」は本願補正発明の「遮光部」に相当し、引用発明の「透明基板」は本願補正発明の「透明基板」に相当し、引用発明の「半透明膜」は本願補正発明の「半透光膜」に相当する。
してみると、両者は相当関係にある。

(8)本願補正発明の「前記半透光膜上において、前記透光部C1となる領域を含む領域、及び前記透光部C2を形成するための領域に開口をもつレジストパターンを形成するレジストパターン形成工程」と、引用発明の「遮光膜パターンと半透明膜パターンのいずれも存在しない透過領域」である「透明基板の中央部に位置する透過領域」と「透明基板の端部に位置する透過領域」を形成するために「半透明膜上にレジストを塗布し、…半透明膜用レジストパターンを形成」することを対比する。
引用発明の「透過領域」には「遮光膜パターンと半透明膜パターンのいずれも存在しない」から、「透明基板の中央部に位置する透過領域」と「透明基板の端部に位置する透過領域」となる領域に半透明膜用レジストパターンは、存在しない。
してみると、両者は相当関係にある。

(9)本願補正発明の「前記レジストパターンをマスクとして、前記半透光膜をウェットエッチングする、半透光膜エッチング工程」と、引用発明の「半透明膜用レジストパターンより露出している半透明膜をエッチング」することを対比する。
引用発明の「半透明膜用レジストパターン」は本願補正発明の「前記レジストパターン」に相当する。そして、引用発明は「エッチングはウェットエッチングが好まし」いことを踏まえると、引用発明の「半透明膜をエッチング」することは、本願補正発明の「半透光膜をウェットエッチングする」ことに相当する。
してみると、両者は相当関係にある。

(10)本願補正発明の「前記レジストパターンを除去する工程」と、引用発明の「残存している半透明膜用レジストパターンを剥離除去」することを対比すると、両者は相当関係にある。

(11)本願補正発明の「前記半透光膜エッチング工程では、前記レジストパターンの開口内において、前記透光部C1及び前記透光部C2となる領域の透明基板が露出し、かつ、前記遮光部の、前記透光部C1と隣接するエッジ部分において、前記遮光膜上の前記半透光膜が、ウェットエッチングにより除去されるとともに、前記多階調フォトマスクの露光光に対する光学密度(OD)を2以上とする範囲で、前記遮光膜がウェットエッチングによる損傷を受けること」と、引用発明の「透明基板の中央部に位置する透過領域と透明基板の端部に位置する透過領域では、透明基板が露出し、そして、遮光領域の透過領域と隣接するエッジ部分において、遮光膜パターン上の半透明膜がエッチングにより除去されて」おり、「エッチングはウェットエッチングが好まし」いことを対比する。
ア 引用発明の「透明基板の中央部に位置する透過領域と透明基板の端部に位置する透過領域では、透明基板が露出し」ていることは、本願補正発明の「前記透光部C1及び前記透光部C2となる領域の透明基板が露出し」ていることに相当する。
イ 引用発明は「前記遮光膜と前記半透明膜とが、いずれもクロムを主成分とし、同一のエッチング設備、工程でパターニングし得」るものであるところ、「遮光膜パターン上の半透明膜」を「エッチングにより除去」する際、半透明膜のみエッチング除去し、遮光膜パターンを全くエッチングしないように制御することは困難であり、遮光膜パターンの表面が僅かにエッチング除去される(損傷を受ける)であろうことは、当業者に明らかである(引用例1にも、「【0031】…半透明膜エッチング処理時、および、オーバーエッチング時の遮光膜のダメージを極力薄くすることが可能である。」と記載されている。)。
ウ してみると、両者は、「前記半透光膜エッチング工程では、前記レジストパターンの開口内において、前記透光部C1及び前記透光部C2となる領域の透明基板が露出し、かつ、前記遮光部の、前記透光部C1と隣接するエッジ部分において、前記遮光膜上の前記半透光膜が、ウェットエッチングにより除去されるとともに、前記遮光膜がウェットエッチングによる損傷を受ける」点で一致する。

(12)以上によれば、本願補正発明と引用発明は、
「 透明基板上に形成された遮光膜及び半透光膜がそれぞれパターニングされることによって形成された、遮光部、半透光部、及び透光部を備えた転写用パターンを有する、表示装置用の多階調フォトマスクの製造方法であって、
前記半透光膜及び前記遮光膜は、同一の金属としてクロムを含有し、同一のエッチング液によってエッチングされうる材料からなり、
前記転写用パターンは、前記遮光部と隣接する透光部C1と、前記半透光部と隣接する透光部C2とを有する多階調フォトマスクの製造方法において、
前記透光部C1は、前記遮光部に挟まれた位置にあり、
前記遮光膜は、その表層に反射防止層を有し、
前記透明基板上に前記遮光膜が形成されたフォトマスクブランクを用意する工程と、
前記遮光部となる領域以外の領域の遮光膜をウェットエッチングにより除去して前記遮光部を形成する工程と、
前記遮光部が形成された前記透明基板上に、前記半透光膜を成膜する工程と、
前記半透光膜上において、前記透光部C1となる領域を含む領域、及び前記透光部C2を形成するための領域に開口をもつレジストパターンを形成するレジストパターン形成工程と、
前記レジストパターンをマスクとして、前記半透光膜をウェットエッチングする、半透光膜エッチング工程と、
前記レジストパターンを除去する工程とを有し、
前記半透光膜エッチング工程では、前記レジストパターンの開口内において、前記透光部C1及び前記透光部C2となる領域の透明基板が露出し、かつ、前記遮光部の、前記透光部C1と隣接するエッジ部分において、前記遮光膜上の前記半透光膜が、ウェットエッチングにより除去されるとともに、前記遮光膜がウェットエッチングによる損傷を受ける、
多階調フォトマスクの製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:透光膜及び半透硬膜をパターニングする際のウェットエッチングに関し、本願補正発明では「前記同一のエッチング液に対する前記半透光膜と前記遮光膜のエッチング所要時間の比が1:5?1:50であ」るのに対し、引用発明は、そのようなものなのか否か明らかでない点。

相違点2:透光部C2に関し、本願補正発明では「半透光部に挟まれた位置にあ」るのに対し、引用発明は、「半透明領域に隣接して位置し」ているものの、半透明領域に挟まれた位置にあると特定されるものではない点。

相違点3:レジストパターンに関し、本願補正発明では、「前記レジストパターン形成工程では、前記透光部C1となる領域の寸法に、片側あたり0.2μm以上のアライメントマージンを加えた寸法の開口をもつレジストパターンであって、かつ、前記透光部C2となる領域の寸法から、片側あたり0.1μm以下のマージンを減じた寸法の開口をもつレジストパターンを形成」するのに対し、引用発明は、そのようなものなのか否か不明な点。

相違点4:遮光膜がウェットエッチングにより受ける損傷が、本願補正発明では、「前記多階調フォトマスクの露光光に対する光学密度(OD)を2以上とする範囲」であるのに対し、引用発明は、そのようなものなのか否か明らかでない点。

4 判断
以下、上記相違点について検討する。
(1)相違点1、4について
相違点1、4についてまとめて検討する。
ア はじめに、本願補正発明の「光学密度(OD)を2以上とする」ことの技術的意味について検討する。
田邊功他著 入門フォトマスク技術 2006 工業調査会発行 17頁には、「遮光膜の光透過性を光学濃度(Optical Density)で規定することが一般的である。光学濃度は遮光膜を通過した光強度Iと遮光膜の無い部分を通過した光強度I_(0)の比の逆数の対数
OD=log(I_(0)/I)
と定義されている。」と記載されている。ここで、上記光学濃度(Optical Density)は、本願補正発明の「光学密度(OD)」である。
してみると、「光学密度(OD)を2以上とする」ことは、
I_(0)/I≧100
を意味するものと解される。

イ 次に、引用例1には、以下の記載がある。
「【0018】…本発明において、実質的に露光光を透過しない遮光膜パターンとは、露光波長において、1回の露光により露光光を透過して感光性レジストを感光させない遮光膜パターンを意味するものであり、通常は透過率0.1%以下が望ましいとされている。」
ここで、透過率0.1%以下を上記アの「光学密度(OD)」に換算すれば3以上を意味するものと解される。

ウ 上記ア、イを踏まえて検討する。
上記3(11)に記載したように、引用発明は「前記遮光膜と前記半透明膜とが、いずれもクロムを主成分とし、同一のエッチング設備、工程でパターニングし得」るものであるところ、「遮光膜パターン上の半透明膜」を「エッチングにより除去」する際、半透明膜のみエッチング除去し、遮光膜パターンを全くエッチングしないように制御することは困難であり、遮光膜パターンの表面が僅かにエッチング除去されてダメージ(損傷)を受けるものである。
そうすると、遮光膜パターンの表面がエッチング除去されてダメージを受けるとしても、その影響を相対的に小さくして遮光膜パターンが実質的に露光光を透過しない遮光領域として機能するように、言い換えると、光学密度(OD)が3以上となるように、予め、遮光膜と半透明膜のエッチング特性や膜厚に差を設けておくことは当業者が容易に想到し得ることである。そしてその際、遮光膜と半透明膜に設けるエッチング特性や膜厚の差として、遮光膜のエッチング所要時間と半透明膜のエッチング所要時間の比を1:5?1:50に設定することは、必要とする遮光膜の光学濃度やオーバーエッチング等を考慮して当業者が適宜設定する設計事項と認められる。してみると、引用発明において、上記相違点1、4に係る本願補正発明の発明特定事項と為すことに困難性はない。

(2)相違点2について
引用発明の階調フォトマスクは、「画像表示素子などのパターン形成に用いられるフォトリソグラフィ技術において用いられる階調フォトマスク」であるところ、遮光膜パターンと半透明膜パターンの形状は、形成しようとする画像表示素子のパターンに応じて決まる設計事項である。してみると、引用発明において、透過領域が半透明領域に挟まれた位置にあるように為し、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項と為すことに困難性はない。

(3)相違点3について
ア はじめに、「透光部C1となる領域の寸法」について検討する。
引用例1には以下の記載がある。
「【0033】…図4(i)において、遮光膜パターン106と半透明膜パターン111が積層されて存在する遮光領域のパターンエッチングされた積層側において、遮光膜パターン106と半透明膜パターン111は別々にエッチングされているので、アライメントの位置精度のずれにより、遮光膜パターン106の端部と半透明膜パターン111の端部の位置が異なっている場合を示すものである。もとより、上記の位置ずれがあっても、遮光領域は遮光膜パターン106により規定されるので、グレートーンマスクとしての品質、機能には何の支障も無い。」
そして、図4(i)は以下のとおりである。

上記によれば、アライメントの位置ずれにより、遮光膜パターン106の端部と半透明膜パターン111の端部の位置が異なっている場合であっても、遮光領域は遮光膜パターン106により規定されること、すなわち、半透明膜パターンの端部の位置は、アライメント位置ずれのマージンを考慮して設定されているものと認められる。してみると、半透明膜パターンを形成するレジストの開口寸法に加えるマージンは、アライメント位置ずれ精度に応じて当業者が適宜設定する設計事項であり、アライメントマージンを「片側あたり0.2μm以上」とすることに困難性はない。
イ 次に、「透光部C2となる領域の寸法」について検討する。
ウェットエッチングする際にサイドエッチングが進みパターンが細くなることは周知の技術事項であり、そして、予めサイドエッチング量を考慮してパターンを太くしておくこともまた、周知技術である(例えば、下記周知例1?周知例3を参照)。

周知例1:特開2002-343769号公報(原審の補正の却下の決定で引用。)
「【0004】ウェットエッチング法でクロム系膜のパターンを形成する場合、通常、硝酸セリウムアンモニウムと過塩素酸の混合水溶液が用いられ、クロム系膜の膜厚は通常100nm位であり、エッチングは60秒程度で終了する。この場合、レジスト膜は全くエッチングされず、クロム系膜のみがエッチングされる。しかしながら、ウェットエッチングは等方性エッチングの為、サイドエッチングが進み、レジストパターンを正確に再現することは難しく、レジストパターンに対してサイドエッチングシフト量分だけ細くなったクロム系フォトマスクのパターン形状となる。
【0005】ウェットエッチング法で所望する寸法のクロム系フォトマスクのパターン形状を得るためには、エッチング時のサイドエッチングシフト量を考慮して、太めのレジストパターンを設計する必要がある。」

周知例2:特開2009-80421号公報(原審の補正の却下の決定で引用。)
「【0009】半導体回路の集積度が向上するにつれ、パターンの寸法はより一層の微細化が要求されており、パターンの寸法が微細化した場合、ウェットエッチング、ドライエッチングのいずれのエッチング方法を用いても例えばクロムパターンのエッチングには問題が生じることが知られている。上記硝酸第二アンモニウムセリウムを用いたウェットエッチングでは、レジストの後退や消失といった問題がほとんど発生しない利点がある一方で、クロムパターンの断面形状が垂直にならない、レジストパターンに対してクロム膜がパターン断面横方向にエッチングされるエッチングバイアスの発生等の問題がある。」

周知例3:特開2011-159875号公報
「【0023】
このとき、ウェットエッチングプロセスでは一般にサイドエッチングが生じるので、図3に図1(e)レジストパターン7および導体パターン9の部分近傍10を抽出・拡大して示したように、得られた導体パターン9の幅寸法Wcは、そのサイドエッチング量Weの左右合計2・Weだけ、レジストパターン7の幅寸法Wrよりも小さく(狭く)なる。つまり、Wc=Wr-2・Weとなる(式-1)。
そうすると、上記の露光工程で得られたレジストパターン7の幅寸法Wr=Wm+2・Wdであるから(式-2)、最終的に得られる導体パターン9の幅寸法Wcとマスクパターン5の幅寸法Wmとの関係は、式-1に式-2を代入して、Wc=Wm+2(Wd-We)となる(式-3)。
すなわち、この式-3から明らかなように、出来上がりの導体パターン9の幅寸法Wcをマスクパターン5の幅寸法Wmと等しくなるようにするためには、レジストパターン7の拡幅量Wdをサイドエッチング量Weと等しい寸法となるようにして、両者を相殺してやればよい、ということである。
あるいは、別の観点からすると、レジストパターン7における拡幅量Wdを、そのレジストパターン7におけるエッチング代の寸法Weと同等になるようにして、両者を相殺してやればよい、ということである。そのような適切な拡幅量Wdを得るためには、フォトマスク6とフォトレジスト層3との間の間隔を調節することが有効である。ここで、一般に(特殊な補正等を施す場合を除いて)、エッチング代の寸法は、サイドエッチング量と同等の値に設定される場合が多い。このため、本実施の形態では、エッチング代の寸法もサイドエッチング量も、同じWeで表すようにしている。」

してみると、引用発明において、サイドエッチング量を考慮し、予め透過領域となる領域の寸法から、マージンを減じた寸法の開口をもつレジストパターンを形成することは、当業者が容易に想到し得ることであり、マージンの値を片側あたり0.1μm以下とすることは設計事項と認められる。

ウ 以上によれば、引用発明において、「遮光領域の透過領域と隣接するエッジ部分において」、レジストパターンの開口寸法に「片側あたり0.2μm以上」のアライメントマージンを加え、また、「半透明領域に隣接して位置」する「透過領域」において、レジストパターンの開口寸法からに「片側あたり0.1μm以下のマージンを減じ」、上記相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項と為すことに困難性はない。

(5)本願補正発明の効果について
本願補正発明が奏する作用効果は、引用発明と周知技術に基いて当業者が容易に予測しうる程度のものである。

(6)小括
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明と周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成29年4月5日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「 透明基板上に形成された遮光膜及び半透光膜がそれぞれパターニングされることによって形成された、遮光部、半透光部、及び透光部を備えた転写用パターンを有する、多階調フォトマスクの製造方法であって、
前記半透光膜及び前記遮光膜は、同一の金属を含有し、同一のエッチング液によってエッチングされうる材料からなるとともに、前記同一のエッチング液に対する前記半透光膜と前記遮光膜のエッチング所要時間の比が1:5?1:50であり、
前記転写用パターンは、前記遮光部と透光部が隣接する部分と、前記半透光部と透光部が隣接する部分とを有する多階調フォトマスクの製造方法において、
前記透明基板上に前記遮光膜が形成されたフォトマスクブランクを用意する工程と、
前記遮光部となる領域以外の領域の遮光膜をエッチング除去して前記遮光部を形成する工程と、
前記遮光部が形成された前記透明基板上に、前記半透光膜を成膜する工程と、
前記半透光膜上において、透光部となる領域を含む領域に開口をもつレジストパターンを形成するレジストパターン形成工程と、
前記レジストパターンをマスクとして、前記半透光膜をエッチングする、半透光膜エッチング工程と、
前記レジストパターンを除去する工程とを有し、
前記レジストパターン形成工程では、前記遮光部と隣接する透光部となる領域の寸法に、アライメントマージンを加えた寸法の開口をもつレジストパターンを形成し、
前記半透光膜エッチング工程では、前記レジストパターンの開口内において、前記透光部となる領域の透明基板が露出し、かつ、前記遮光部の、前記透光部と隣接するエッジ部分において、前記遮光膜上の前記半透光膜が、エッチングにより除去されるとともに、前記多階調フォトマスクの露光光に対する光学密度(OD)を2以上とする範囲で、前記遮光膜がエッチングによる損傷を受けることを特徴とする、多階調フォトマスクの製造方法。」(以下「本願発明」という。)

2 引用する刊行物と引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、その記載事項、及び引用発明は、前記「第2 2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明から、前記「第2 1」の補正事項1?6に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を限定したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 4」に記載したとおり引用発明と周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明と周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-01-29 
結審通知日 2019-02-05 
審決日 2019-02-21 
出願番号 特願2014-94482(P2014-94482)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G03F)
P 1 8・ 121- Z (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 彰  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 小松 徹三
西村 直史
発明の名称 多階調フォトマスクの製造方法、多階調フォトマスク及び表示装置の製造方法  
代理人 特許業務法人 津国  

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