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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1350594
審判番号 不服2018-5954  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-27 
確定日 2019-05-07 
事件の表示 特願2012-277476「採光シート、採光装置、及び建物」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月30日出願公開、特開2014-119737、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
特願2012-277476号(以下「本願」という。)は、平成24年12月19日を出願日とする出願であって、その手続等の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成28年 9月15日付け:拒絶理由通知書
平成29年 1月26日付け:意見書
平成29年 6月26日付け:拒絶理由通知書
平成29年 8月 2日付け:意見書、手続補正書
平成30年 1月22日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成30年 4月27日付け:審判請求書、手続補正書
平成30年12月18日付け:拒絶理由通知書
平成31年 2月21日付け:意見書、手続補正書

第2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、本願の請求項1-5に係る発明は、その出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び周知技術(周知例:引用文献2、3)に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。。

<引用文献等一覧>
引用文献1:国際公開第2011/129069号
引用文献2:特開2009-186879号公報
引用文献3:特開2009-216778号公報

第3 平成30年12月18日付け拒絶理由通知書において通知した拒絶の理由の概要
平成30年12月18日付けの拒絶理由通知書において通知した拒絶の理由は、概略、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない、というものである。

第4 本願発明
本願の請求項1-3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は、平成31年2月21日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定されるとおりの、以下の発明である。

「 【請求項1】
シート面が鉛直となるように建物開口部に配置されるシート状である採光シートであって、
透光性を有するシート状の基材層と、
前記基材層の一方の面に形成され、光を散乱する光散乱層と、を備え、
前記光散乱層は、
前記基材層の一方の面に沿って複数並べて配置され、屈折率がN_(P)である材料により形成された光を透過する光透過部と、
複数の前記光透過部間に配置され、光を散乱する顔料又は粒子が充填され、前記基材層が配置された側とは反対側に凹部が形成された光散乱部と、を有し、
前記採光シートが前記建物開口部に配置された姿勢で、隣接する2つの前記光散乱部の厚さ方向断面における向かい合う辺について、下方に配置される前記光散乱部の辺の室内側端部と、隣接して上方に配置される前記光散乱部の辺の室外側端部とを結ぶ見込み線が水平面となす角を見込み角θ_(1)、空気中の屈折率をN_(0)としたとき、下記式が成立する、
採光シート。
【数1】

【請求項2】
透光性を有する板状のパネルと、
前記パネルの一方の面に貼付される請求項1に記載の採光シートと、
少なくとも前記パネルの周囲を囲むように配置される枠と、を備える採光装置。
【請求項3】
壁に形成された開口部に請求項2に記載の採光装置が設置された建物。」

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2011/129069号(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体が付したものであり、引用発明の認定に活用した箇所を示す。

(1)「技術分野
[0001] 本発明は、太陽光や人工光などの採光器として使用される光学素子、および照明装置に関する。
・・・(中略)・・・
発明が解決しようとする課題
[0005] 太陽光採光器の分野においては、光の取り込み効率あるいは上方への光線出射効率の向上が望まれている。しかしながら、上記各特許文献に記載の構成では、入射光を効率よく指向的に出射させるには採光器の厚みを大きくする必要があり、薄いフィルムで採光器を構成することは困難であった。
[0006] 以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、光の取り込み効率を改善でき、薄型化にも対応することが可能な光学素子、およびこれを備えた照明装置を提供することにある。
課題を解決するための手段
[0007] 上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る光学素子は、第1の面と、第2の面と、構造層とを具備する。
上記第2の面は、上記第1の面と第1の方向に対向する。
上記構造層は、上記第1の面に入射した光を上記第2の面に向けて反射する複数の反射面を有する。上記複数の反射面は、上記第1の方向に第1の長さを有し、上記第1の方向と直交する第2の方向に沿って配列され、かつ、上記第1の長さをh、上記反射面の配列ピッチをp、上記反射面に入射する光のうち上記第1の方向と上記第2の方向とが属する平面内で進行する光である入射光の上記第1の方向に対する入射角をθ、上記反射面における入射光の反射回数をnとしたとき、6.5°≦θ≦87.5°の範囲におけるいずれかの角度で、h=(2n-1)・p/tanθの関係を満たす。
・・・(中略)・・・
発明の効果
[0012] 本発明によれば、所定の角度範囲で入射する光を所定の角度範囲に効率よく出射することができる。また、当該光学素子の薄型化を図ることができる。
図面の簡単な説明
[0013][図1]本発明の一実施形態に係る光学素子を太陽光採光器に用いた例を示す斜視図である。
[図2]本発明の第1の実施形態に係る光学素子の断面図である。
[図3]上記光学素子の反射面の機能を説明する模式図である。」

(2)「発明を実施するための形態
[0014] 以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
<第1の実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係る光学素子を窓に用いた例を示す室内の概略斜視図である。本実施形態の光学素子1は、屋外から照射される太陽光L1を室内Rへ取り込む太陽光採光器として構成され、例えば、建屋の窓材に適用される。光学素子1は、上空から照射される太陽光L1を室内Rの天井Rtに向けて指向的に出射する機能を有する。天井Rtに向けて取り込まれた太陽光は、天井Rtにおいて拡散反射されて室内Rを照射する。このように太陽光が室内の照明に用いられることで、日中における照明器具LFの使用電力の削減が図られることになる。
[0015][光学素子]
図2は、光学素子1の構成を示す概略断面図である。光学素子1は、第1の透光フィルム101、第2の透光フィルム102および基材111の積層構造を有する。図2において、X軸方向は光学素子1の厚み方向、Y軸方向は光学素子1の表面における水平方向、そしてZ軸方向は上記表面における上下方向を意味する。
・・・(中略)・・・
[0017] 第2の透光フィルム102(第1の基体)は、第1の透光フィルム101と対向する一方の表面102a(第1の面)に、後述する構造層13が形成されている。このため、形状転写性に優れた樹脂材料を用いることで、形状精度に優れた構造層を形成することができる。また、第2の透光フィルム102は、ガラスで形成されてもよい。第2の透光フィルム102の表面102aは、透明な粘着層104を介して第1の透光フィルム101に接合されている。これにより、構造層13を内包する透光層14が形成される。透光層14は、第1の透光フィルム101、第2の透光フィルム102および粘着層104で構成される。
・・・(中略)・・・
[0020] 基材111は、第2の透光フィルム102の他方の表面102b(第2の面)に積層された、透光性の樹脂フィルムで形成されている。基材111は、保護層としての機能をも有し、透明性を有する材料で形成され、例えば、第1の透光フィルム101と同種の樹脂材料で形成されている。基材111は、第2の透光フィルムフィルム102の外表面だけでなく、第1の透光フィルム101の外表面にも積層されてもよい。
[0021] 以上のような積層構造を有する光学素子1は、窓材Wの室内側に積層される。窓材Wには各種ガラス材料が用いられ、その種類は特に限定されず、フロート板ガラス、合わせガラス、防犯ガラス等が適用可能である。本実施形態に係る光学素子1においては、第1の透光フィルム101の外表面が光入射面として形成され、基材111の外表面が光出射面として形成される。本実施形態では、第1の透光フィルム101は、なお、基材111は必要に応じて省略可能であり、この場合、第2の透光フィルム102の表面102bが光出射面として形成される。
[0022][構造層]
次に、構造層13の詳細について説明する。
[0023] 構造層13は、上下方向(Z軸方向)に所定ピッチで配列された空隙130(反射体)の周期構造を有する。空隙130は、X軸方向(第1の方向)に高さh(第1の長さ)、Z軸方向(第2の方向)に幅w(第2の長さ)を有し、Z軸方向に配列ピッチpで形成されている。また、空隙130は、Y軸方向に直線的に形成されている。
[0024] 図2において空隙130各々の上面は、光入射面11から入射した光L1を光出射面12に向けて反射する反射面13aを形成する。すなわち、反射面13aは、第2の透光フィルム102を構成する樹脂材料と空隙130内の空気との界面で形成される。本実施形態では、第2の透光フィルム102の相対屈折率が例えば1.3?1.7とされ、空隙130内の空気(屈折率1)との屈折率差を有する。なお、上記第2の媒質は空気に限られない。例えば、空隙130内に第2の透光フィルム102よりも低屈折率の材料が充填されることで反射面13aが形成されてもよい。
[0025] 図3は、反射面13aの作用を説明する模式図である。反射面13aは、反射面13aに対し上方から入射する入射光L1を全反射することで、上方へ向けて出射される出射光L2を形成する。なお、ここでは光の出射方向が上方である場合を説明するが、これに限定されず、光の入射方向や当該光学素子の設置方向などに応じて光の出射方向は変更され得る。
[0026] 図3を参照して、反射面13aの高さをh、配列ピッチをp、反射面13aに入射する入射光L1のX軸方向に対する入射角をθとする。ここで、入射角θは、反射面13aに入射する光のうちXY平面内で進行する光のX軸方向に対する入射角を意味する。このとき、反射面13aにおいて入射光L1が全反射する場合、以下の(1)式を満たすとき、入射角θで入射する全入射光線は角度θで上方へ向けて出射される。
[0027][数1]

[0028] ここで、nは自然数であり、同一の反射面13aにおいて入射光L1が全反射する回数を表す。
[0029] 本実施形態に係る光学素子1は、所定の角度範囲におけるいずれかの角度(θ)で、上記(1)式を満たすように、反射面13aの高さ(h)および配列ピッチ(p)が設定される。(1)式を満たす入射角θを以下、設定入射角という。
・・・(中略)・・・
[0037] 本実施形態では、例えば6.5°以上87.5°以下の範囲に上記設定入射角が存在するように反射面13aが形成される。下限である6.5°は北欧(例えばオスロ(ノルウェー))の冬至における太陽の高度に相当し、上限である87.5°は那覇(日本)の夏至における太陽の高度に相当する。上記設定入射角は、例えば、約60°とされる。これにより、世界のいずれの地域においても一年を通じて太陽光を効率よく取り込むことができる。また、日中における照明器具の消費電力の削減に大きく貢献することができる。反射面13aの高さ(h)および配列ピッチ(p)は、光学素子1の厚み(X軸方向の寸法)によって適宜設定可能であり、例えばh=10?1000μm、p=100?800μmの各範囲で最適化される。
・・・(中略)・・・
符号の説明
[0084] 1、2、3…光学素子
11、21、31…光入射面
12、22、32…光出射面
13、23…構造層
13a、23a…反射面
14、24…透光層
101、201…第1の透光フィルム
102、202…第2の透光フィルム
104、105…粘着層
112…プリズムシート
114、115…形状付きフィルム
130、230、330a、330b、331、332…空隙
L1…入射光
L2…出射光
W…窓材
θ…入射角」

(3)「[図1]

[図2]

[図3]



2 引用発明
上記1の記載事項より、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている(「X軸方向」と「光学素子1の厚み方向」等の用語は統一して記載した。また、引用発明における「上下方向」とは、光学素子1を窓材に適用した際の鉛直方向を意味し、「水平方向」とは、光学素子の厚み方向及び上下方向と直交する方向を意味する。さらに、引用発明における「空隙130の上面」とは、第2の透光フィルム102を構成する樹脂材料と空隙103内の空気との界面のうち、空隙130内からみて上側の面(重力方向と反対側の面)を意味する。)。
「屋外から照射される太陽光L1を室内Rへ取り込む太陽光採光器として構成され、建屋の窓材に適用される、光学素子1であって、
光学素子1は、太陽光L1を室内Rの天井Rtに向けて指向的に出射する機能を有し、
第1の透光フィルム101、第2の透光フィルム102および基材111の積層構造を有し、第1の透光フィルム101の外表面が光入射面11、基材111の外表面が光出射面12とされ、
第2の透光フィルム102は、第1の透光フィルム101と対向する一方の表面102aに、構造層13が形成され、
基材111は、第2の透光フィルム102の他方の表面102bに積層された、透光性の樹脂フィルムで形成され、
構造層13は、光学素子1の上下方向に所定ピッチで配列された空隙130の周期構造を有し、空隙130は、光学素子1の厚み方向に第1の長さ、光学素子1の上下方向に第2の長さを有し、光学素子1の上下方向に配列ピッチpで形成され、光学素子1の水平方向に直線的に形成され、
空隙130の上面は、光入射面11から入射した光L1を光出射面12に向けて反射する反射面13aを形成し、反射面13aは、第2の透光フィルム102を構成する樹脂材料と空隙130内の空気との界面で形成され、
反射面13aは、反射面13aに対し上方から入射する入射光L1を全反射することで、上方へ向けて出射される出射光L2を形成する、
光学素子1。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
ア 採光シート
引用発明の「光学素子1」は、「屋外から照射される太陽光L1を室内Rへ取り込む太陽光採光器として構成され、建屋の窓材に適用される」ものである。
また、引用発明の「光学素子1」は、「第1の透光フィルム101、第2の透光フィルム102および基材111の積層構造を有」するものである。ここで、「第1の透光フィルム101」、「第2の透光フィルム102」及び「基材111」は、技術的にみて、いずれもフィルムであるといえる。そうしてみると、引用発明の「光学素子1」は、「シート状」であるといえる。
したがって、引用発明の「光学素子1」は、本願発明1の「採光シート」に相当する。
さらに、引用発明の「光学素子1」は、「建屋の窓材に適用される」ものであり、「第1の透光フィルム101の外表面が光入射面11、基材111の外表面が光出射面12とされ」るものである。
そうしてみると、引用発明の「光学素子1」は、本願発明1の「採光シート」における「シート面が鉛直となるように建物開口部に配置される」という要件を満たすものであるといえる(図2からも確認できることである)。

イ 基材層
引用発明の「基材111」は、その文言からみて、本願発明1の「基材層」に相当する。
また、引用発明の「基材111」は、「透光性の樹脂フィルムで形成され」たものである。
そうしてみると、引用発明の「基材111」は、本願発明1の「基材層」における「透光性を有するシート状」のものであるという要件を満たすものである。

(2)一致点及び相違点
ア 本願発明1と引用発明は、次の構成で一致する。
(一致点)
「 シート面が鉛直となるように建物開口部に配置されるシート状である採光シートであって、
透光性を有するシート状の基材層を有する、
採光シート。」

イ 本願発明1と引用発明は、次の点で相違する。
(相違点1)
本願発明1の「採光シート」は、「基材層の一方の面に形成され、光を散乱する光散乱層」を備え、「前記光散乱層は、前記基材層の一方の面に沿って複数並べて配置され、屈折率がN_(P)である材料により形成された光を透過する光透過部と、複数の前記光透過部間に配置され、光を散乱する顔料又は粒子が充填され、前記基材層が配置された側とは反対側に凹部が形成された光散乱部」を有するのに対して、引用発明の「光学素子1」は、「第1の透光フィルム101、第2の透光フィルム102および基材111の積層構造を有し、窓材に適用した際において、第1の透光フィルム101が光入射面11側に配置され、第2の透光フィルム102が光出射面12側に配置され、第2の透光フィルム102は、第1の透光フィルム101と対向する一方の表面102aに、構造層13が形成され」、「構造層13は、光学素子1の上下方向に所定ピッチで配列された空隙130の周期構造を有し、空隙130は、光学素子1の厚み方向に第1の長さ、光学素子1の上下方向に第2の長さを有し、光学素子1の上下方向に配列ピッチpで形成され、光学素子1の水平方向に直線的に形成され」、「空隙130の上面は、光入射面11から入射した光L1を光出射面12に向けて反射する反射面13aを形成し、反射面13aは、第2の透光フィルム102を構成する樹脂材料と空隙130内の空気との界面で形成され、反射面13aは、反射面13aに対し上方から入射する入射光L1を全反射することで、上方へ向けて出射される出射光L2を形成する」ものである点。
(相違点2)
本願発明1の「採光シート」は、「採光シートが前記建物開口部に配置された姿勢で、隣接する2つの前記光散乱部の厚さ方向断面における向かい合う辺について、下方に配置される前記光散乱部の辺の室内側端部と、隣接して上方に配置される前記光散乱部の辺の室外側端部とを結ぶ見込み線が水平面となす角を見込み角θ_(1)、空気中の屈折率をN_(0)としたとき、下記式が成立する」のに対して、引用発明は、このように特定されたものではない点。
【数1】


(3)相違点についての判断
相違点1について検討する。
本願発明1の「光散乱部」は、その文言通り、光を散乱させるものであって、光散乱部に入射した太陽光は散乱反射されて室内側に出射されるものである(【0050】、【図7】)。
他方、引用発明の「光学素子1」は、「太陽光L1を室内Rの天井Rtに向けて指向的に出射する」ものであって、「空隙130の上面は、光入射面11から入射した光L1を光出射面12に向けて反射する反射面13aを形成し、反射面13aは、第2の透光フィルム102を構成する樹脂材料と空隙130内の空気との界面で形成され、反射面13aは、反射面13aに対し上方から入射する入射光L1を全反射することで、上方へ向けて出射される出射光L2を形成する」ものである。
ここで、太陽光を光散乱によって室内側に出射する構成と、太陽光を反射によって天井に向けて指向的に出射する構成は、技術的に異なるものといえる。さらに、引用発明において、太陽光を反射によって天井に向けて指向的に出射する構成に替えて、太陽光を光散乱によって室内側に出射する構成とすることに動機づけは認められない。
そうしてみると、引用発明において、本願発明1の「光散乱部」に対応する構成を設けることが、当業者が容易に想到するものであるとはいえない。

ところで、引用文献1の[0024]には、「空隙130」を「第2の透光フィルム102」よりも低屈折率の材料で充填することが記載されている。
そこで、引用発明において、「空隙130」を低屈折率の材料で充填することによって、相違点1に係る本願発明1の構成とすることが当業者にとって容易に想到し得たものであるのか否かについて以下検討する。
引用文献1の[0024]に記載されている、低屈折率の材料は、空気に替わる媒質として用いるものであり、第2の透光フィルム102を構成する樹脂材料との間で反射面を形成するものであるから、光学的に均質なものとするのが自然であり、低屈折率材料内部に太陽光を透過し(取込み)、充填した顔料又は粒子により太陽光を散乱させる構成とすることが容易であるとまではいえない。また、引用文献1には、「空隙130」を光散乱剤等を充填させることによって入射した太陽光を散乱反射させて室内側に出射させることは記載も示唆もされていない。
加えて、太陽光を室内に取り込む光学素子において、光が入射する部位に光散乱剤を用いること等によって太陽光を散乱反射させて室内側に出射させる技術が周知技術であるともいえない。原査定の拒絶理由において引用文献2として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2009-186879号公報には、光路規制シートの受光面をアルミ等の微粉末を用いて光反射層を形成することが記載されているが(【0027】、【0028】)、入射光を散乱反射させることは記載も示唆もされていない。また、原査定の拒絶理由において引用文献3として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2009-216778号公報には、光路規制シートの光源からの光を受ける着色層3を顔料含有材料を用いて光反射層を形成することが記載されているが(【0026】、【0027】)、入射光を散乱反射させることは記載も示唆もされていない。さらに、他に太陽光を室内に取り込む光学素子において、太陽光を散乱反射させて室内側に出射させることを記載又は示唆した文献は認められない。
仮に、太陽光を室内に取り込む光学素子において、光が入射する部位に光散乱剤を用いこと等によって太陽光を散乱反射させて室内側に出射させる技術が周知技術であるとしても、引用発明の「空隙130」は、上述のとおり、空気等の光学的に均質な媒質で充填されるのであって、光散乱剤等で充填させるものではないから、引用発明において、「空隙130」を光散乱剤等で充填させることには阻害要因があるといえる。
そうしてみると、引用発明において、「空隙130」を屈折率の材料で充填することによって、相違点1に係る本願発明1の構成とすることが当業者にとって容易に想到し得たものであるとはいえない。

以上より、本願発明1は、相違点2について検討するまでもなく、当業者であっても、引用発明と引用文献2及び3に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2は、本願発明1の「採光シート」を備える「採光装置」の発明であり、本願発明1の「採光シート」に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

3 本願発明3について
本願発明3は、本願発明2の「採光装置」が設置された「建物」の発明であり、本願発明1の「採光シート」及び本願発明2の「採光装置」に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第7 平成30年12月18日付け拒絶理由通知書における理由(特許法第36条第6項第2号)について
平成30年12月18日付けの拒絶理由通知書において通知した拒絶の理由は、平成31年2月21日付けの手続補正によって解消した。

第8 むすび
前記第6に記載のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由もない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-04-15 
出願番号 特願2012-277476(P2012-277476)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G02B)
P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小西 隆  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 川村 大輔
河原 正
発明の名称 採光シート、採光装置、及び建物  
代理人 山本 典輝  

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