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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  F25B
管理番号 1350634
異議申立番号 異議2017-701212  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-21 
確定日 2019-02-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6151731号発明「伝熱方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6151731号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第6151731号の請求項1、2、4、6に係る特許を維持する。 特許第6151731号の請求項3、7、8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6151731号の請求項1?8に係る特許についての出願は、2009年10月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年10月16日,フランス共和国)を国際出願日とする出願である特願2011-531537号の一部を平成27年2月13日に新たな特許出願としたものであって、平成29年6月2日付けでその特許権の設定登録がされ、平成29年6月21日にその特許掲載公報が発行された。
そして、平成29年12月21日に特許異議申立人安東和恭より請求項1?4、6?8に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、その後の手続の概要は次のとおりである。
平成30年 1月30日付け 取消理由通知書
同年 4月24日 特許権者による意見書の提出及び訂正請求
同年 6月27日 特許異議申立人による意見書の提出
同年 8月30日付け 取消理由通知書(決定の予告)
同年11月29日 特許権者による意見書の提出及び訂正請求

なお、平成30年12月5日付け通知書により、期間を指定して特許異議申立人に意見を提出する機会を与えたが、期間内に意見書等の提出はなかった。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成30年11月29日の訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示すものである。)。
なお、本件訂正請求により、平成30年4月24日の訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「少なくとも一種のヒドロクロロ-フルオロオレフィン」と記載されている事項を、「1-クロル-3,3,3-トリフルオロプロペンおよび2-クロル-3,3,3-トリフルオロプロペンの中から選択をされるヒドロクロロ-フルオロオレフィン」と訂正(以下「訂正1」ともいう。)し、「伝熱方法」と記載されている事項を「ヒートポンプ」と訂正(以下「訂正2」ともいう。)し、「70℃以上」と記載されている事項を「100℃以上」と訂正(以下「訂正3」ともいう。)する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「上記温度が70?140℃の間にある」と記載されている事項を、「上記温度が100?140℃の間にある」と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(6)訂正事項6
訂正事項1及び2の訂正に伴い、訂正前の特許請求の範囲の請求項4?6について同様の訂正をする。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正1
訂正事項1の訂正1は、「少なくとも一種のヒドロクロロ-フルオロオレフィン」について、より具体的に特定して限定するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正前の請求項8の記載から、訂正事項1の訂正1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内でなされたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正2
訂正事項1の訂正2は、「伝熱方法」について、より具体的に特定して限定するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正前の明細書の段落【0010】の記載並びに実施例の記載から、訂正事項1の訂正2に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内でなされたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ウ 訂正3
訂正事項1の訂正3は、「70℃以上」を「100℃以上」として、凝縮温度の下限値をより高い温度に特定して限定するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正前の明細書の実施例1、4?9で使用する凝縮温度である100℃?140℃の記載から、訂正事項1の訂正3に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内でなされたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、「上記温度が100?140℃の間にある」として、凝縮温度の下限値をより高い温度に特定して限定するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正前の明細書の実施例1、4?9で使用する凝縮温度である100℃?140℃の記載から、訂正事項2の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内でなされたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内でなされたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、特許請求の範囲の請求項7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内でなされたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項5
訂正事項5は、特許請求の範囲の請求項8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項5の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内でなされたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)訂正事項6
訂正事項6は、訂正事項1及び2の訂正に伴い、訂正前の特許請求の範囲の請求項4?6について同様の訂正とするものであるから、上記(1)及び(2)で述べたとおり、訂正事項6の訂正も特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項6の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内でなされたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(7)一群の請求項に係る訂正
本件訂正請求は、一群の請求項〔1?8〕に対して請求されたものである。

3 独立特許要件について
(1)請求項1、2、4及び6について
特許異議の申立ては、訂正前の請求項1?4、6?8に対してされているので、訂正後の請求項請求項1、2、4及び6については、訂正を認める要件として、特許法120条の5第9項で準用する同法126条7項の規定が適用されない。

(2)請求項5について
他方、訂正後の請求項5は、上記したとおり特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正がされたものであるが、訂正前の請求項5は特許異議の申立てがされていない請求項であるから、訂正後の請求項5に係る発明(以下「本件発明5」という。)は、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものでなければならない(特許法120条の5第9項で準用する同法126条7項)ので、以下検討する。

ア 本件発明5について
(ア)本件発明5
訂正後の請求項5は訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、少なくとも請求項1を引用する請求項5に記載された構成を備えるものであり、請求項1を引用する本件発明5は次のとおりの発明である。
「(訂正後の請求項1)1-クロル-3,3,3-トリフルオロプロペンおよび2-クロル-3,3,3-トリフルオロプロペンの中から選択をされるヒドロクロロ-フルオロオレフィンの、冷媒液の蒸発段階と、圧縮段階と、100℃以上の高い温度での冷媒液の凝縮段階と、冷媒液の膨張段階とを順次有する少なくとも一つのステージを有する圧縮システムを使用したヒートポンプでの冷媒液としての使用において、
(訂正後の請求項5)冷媒液が少なくとも一種のヒドロフルオロエーテルをさらに含む使用。」

(イ)対比・判断
後記第4で詳述する甲第1号証(米国特許出願公開第2008/0098755号明細書)に係る甲1発明と本件発明5とを対比すると、後記第4で述べる相違点に加え、次の点でも両者は相違する。
本件発明5は、「冷媒液が少なくとも一種のヒドロフルオロエーテルをさらに含む」のに対し、甲1発明は、その構成が不明である点。
そこで、上記相違点について検討すると、甲第1号証には、ヒドロフルオロエーテルを冷媒液として用いることについての記載ないし示唆はなく、後記第4で詳述する甲第2号証の記載並びに周知技術を参照しても、当業者が、甲1発明、甲2記載事項及び周知技術に基いて、本件発明5を容易に想到し得たとはいえない。
また、他に本件発明5が特許を受けることができないとする理由はない。

(ウ)まとめ
したがって、本件発明5は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条4項、及び、同条9項において準用する同法126条5項ないし7項の規定に適合するので、本件訂正を認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1、2、4?6に係る発明(以下「本件発明1、2、4?6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4?6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
1-クロル-3,3,3-トリフルオロプロペンおよび2-クロル-3,3,3-トリフルオロプロペンの中から選択をされるヒドロクロロ-フルオロオレフィンの、冷媒液の蒸発段階と、圧縮段階と、100℃以上の高い温度での冷媒液の凝縮段階と、冷媒液の膨張段階とを順次有する少なくとも一つのステージを有する圧縮システムを使用したヒートポンプでの冷媒液としての使用。
【請求項2】
上記温度が100?140℃の間にある請求項1に記載の使用。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
冷媒液が少なくとも一種のハイドロフルオロカーボンをさらに含む請求項1?3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
冷媒液が少なくとも一種のヒドロフルオロエーテルをさらに含む請求項1?4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
冷媒液が少なくとも一種のフルオロアルケンをさらに含む請求項1?5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)」

第4 当審の判断
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし4及び6ないし8に係る特許に対して、当審が平成30年8月30日付けの取消理由通知(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
請求項1ないし4及び6ないし8に係る発明は,その優先日前に頒布された甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし4及び6ないし8に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
よって、請求項1ないし4及び6ないし8に係る特許は取り消されるべきものである。
甲第1号証 米国特許出願公開第2008/0098755号明細書
甲第2号証 早川一也監修,「Technical Report No.52 ヒートポンプの応用と経済性」,株式会社シーエムシー,1984年2月27日,117?134頁
なお、当該取消理由は、特許異議申立理由を全て含んでいる。

2 刊行物の記載
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載
甲第1号証(以下「甲1」という。)には、次の事項が記載されている。



(訳)
「[0001]本発明は、冷凍システムのような熱伝達システムを含む多くの用途において有用性を有する組成物、方法およびシステムに関する。好ましい態様において、本発明は、少なくとも1種の多フッ素化オレフィンを含む冷媒組成物に関する。」




(訳)
「[0013]本出願人は、上記の必要性および他の必要性は、1つまたは複数のC_(3)?C_(6)フルオロアルケン、より好ましくは1つまたは複数のC_(3)、C_(4)またはC_(5)フルオロアルケンと、好ましくは以下の式Iを有する化合物を含む組成物、好ましくは熱伝達組成物、によって、満足されることを見いだした:
XCF_(z)R_(3-Z )(I) ・・・。」




(訳)
「[0015]実施形態では、式Iの化合物が、3?5個のフッ素置換基を有するプロペン、ブテン、ペンタンおよびヘキサンを含み、他の置換基が存在するか存在しないかのいずれかであり、特定の好ましい実施形態では、RはBrではなく、好ましくは不飽和基はBr置換基を含まないがことが非常に好ましい。プロペンの中でも、テトラフルオロプロペン(HFO-1234)およびフルオロクロロプロペン(トリフルオロ、モノクロロプロペン(HFCO-1233)、さらにより好ましくはCF_(3)CCl=CH_(2)(HFO-1233xf)及びCF_(3)CH=CHCl(HFO-1233zd))は、特定の実施形態において特に好ましい。」




(訳)
「[0019]「HFO-1233」という用語は、本明細書では全てのトリフルオロ、モノクロロプロペンを指すために使用される。トリフルオロの中で、モノクロロプロペンは、1,1,1,トリフルオロ-2,クロロプロペン(HFCO-1233xf)、シス-およびトランス-1,1,1-トリフルオ3,クロロプロペン(HFCO-1233zd)の両方に含まれる。HFCO-1233zdという用語は、本明細書では、それがシス型であるかトランス型であるかにかかわらず、1,1,1-トリフルオ3,クロロプロペンを総称して使用する。「シスHFCO-1233zd」および「トランスHFCO-1233zd」という用語は、本明細書では、1,1,1-トリフルオ3,クロロプロペンのシス形態およびトランス形態をそれぞれ記載するために使用される。したがって用語「HFCO-1233zd」は、その範囲内に、シスHFCO-1233zd、トランスHFCO-1233zd、およびこれらの全ての組合せおよび混合物を含む。」




(訳)
「[0064]蒸発冷却用途に関連して、本発明の組成物は、直接または間接的に冷却すべき物体と接触させられ、その後、そのような接触中に蒸発または沸騰することが可能であり、好ましい結果は、本組成物によれば、冷却すべき物体から熱を吸収する。そのような用途では、本発明の組成物を、好ましくは液体形態で、冷却すべき体に液体を噴霧するかまたは他の方法で塗布することにより、利用することができる。他の蒸発冷却用途では、本発明の意図に従って液体組成物を比較的高圧の容器から比較的低圧の環境に逃がすことが好ましい場合があり、ここで、冷却されるべき物体は、直接的または間接的に接触し、好ましくは逃げた気体を回収または再圧縮することなく、容器が本発明の液体組成物を封入する。このタイプの実施形態の1つの特定の用途は、飲料、食品、新規品目などの自己冷却である。本明細書に記載された発明の前に、HFC-152aおよびHFC-134aのような従来の組成物がそのような用途に使用された。しかしながら、このような組成物は、最近、大気中へのこれらの物質の放出によって、引き起こされる負の環境的影響のために、このような用途において否定的に検討されている。例えば、米国EPAは、これらの化学物質の高い地球温暖化の性質およびその結果として生じる環境への有害な影響のために、このような先の化学物質のこの用途の使用が受け入れられないと判断した。本明細書に記載されているように、本発明の組成物は、その点で地球温暖化係数が低く、オゾン破壊係数が低いため、明確な利点を有する。さらに、本組成物は、製造中または加速寿命試験中に、電気または電子部品の冷却に関連して実質的な有用性を見出すことも期待される。加速寿命試験では、構成要素の使用をシミュレートするために構成要素を連続して急速に加熱および冷却する。したがって、そのような使用は、半導体およびコンピュータボード製造産業において特に有利である。この点に関して本発明の組成物の他の利点は、そのような用途に関連して使用される場合、それらが接触電気特性を示すことが期待されることである。別の蒸発冷却用途は、導管を通る流体の流れの中断を一時的に引き起こす方法を含む。好ましくは、そのような方法は、水が流れる水管のような導管を本発明による液体組成物と接触させ、本発明の液体組成物を導管と接触しながら蒸発させて、その中に含まれる液体を凍結し、それによって導管を通る流体の流れを一時的に停止させる。そのような方法は、本組成物が適用される場所の下流の位置で、そのような導管またはそのような導管に接続されたシステムで行われるサービスまたは他の作業を可能にすることに関して、明確な利点を有する。」




(訳)
「[0070]したがって、本発明の方法、システムおよび組成物は、一般に広範囲の熱伝達システム、特に空調(固定式および可動式空調システムの両方を含む)、冷凍、ヒートポンプシステムなどの冷凍システムに関連して使用するのに適している。ポンプシステムなども含む。特定の好ましい実施形態では、本発明の組成物は、例えばHFC-134aなどのHFC冷媒、またはHCFC-22などのHCFC冷媒とともに使用するために元々設計された冷凍システムに使用される。本発明の好ましい組成物は、HFC-134aおよび他のHFC冷媒の望ましい特性の多くを示す傾向があり、従来のHFC冷媒と同程度またはそれ以下のGWP、このような冷媒と実質的に類似または実質的に一致する能力、好ましくはこのような冷媒と同じまたはそれ以上の能力を有する。特に、出願人は、本組成物の特定の好ましい実施形態が、好ましくは約1000未満、より好ましくは約500未満、さらにより好ましくは約150未満の比較的低い地球温暖化係数(「GWP」)を示す傾向があることを認識した。加えて、参照により本明細書に組み込まれている同時係属中の特許出願に記載されている共沸混合物様組成物を含む、本組物のある一定の比較的一定の沸騰特性は、R-404Aのような特定の従来のHFCまたは多くの用途において冷媒として使用するために、HFC-32、HFC-125およびHFC-134aの組合せ(HFC-32:HFC-125:HFC134aの重量比約23:25:52の組合せをR-407Cと呼ぶ。)。本発明の熱伝達組成物は、HFC-134、HFC-152a、HFC-22、R-12およびR-500の代替品として特に好ましい。」




(訳)
「[0119]方法およびシステム
[0120]本発明の組成物は、冷凍、空調およびヒートポンプシステムに使用される冷媒のような、熱を伝達するための方法およびシステムにおける熱伝達流体としての使用を含む、多数の方法およびシステムに関連して有用である。本発明の組成物はまた、・・・。
[0121]熱伝達方法およびシステム
[0122]好ましい熱伝達方法は、一般に、本発明の組成物を提供し、顕熱伝熱、相変化熱伝達、またはこれらの組み合わせのいずれかにより、熱を組成物にまたは組成物から伝達させることを含む。
[0123]例えば、ある好ましい実施形態では、本発明の方法は、本発明の冷媒を含む冷凍システム、および本発明の組成物を凝縮および/または蒸発させることによる加熱または冷却の生成方法を提供する。・・・。
[0124]流体または物体を加熱するための特定の好ましい方法は、本発明の組成物を含む冷媒組成物を、加熱されるべき流体または物体の近傍に凝縮させ、その後前記冷媒組成物を蒸発させることを含む。
[0125]本明細書の開示に照らして、当業者は、過度の実験をすることなく、本発明による物品を容易に加熱および冷却することができるであろう。」




(訳)
「[0155]凝縮器の温度が約150°Fである冷凍/空調サイクルシステムが提供される。蒸発器の温度は約-35°Fである。約50°Fのコンプレッサ入口温度で名目上等エントロピー圧縮下で、COP値は、1.00のCOP値、1.00の容量値および175°Fの放出温度を有するHFC-134aに基づいて、凝縮器および蒸発器温度の範囲にわたって本発明のいくつかの組成物について決定され、以下の表1に示される。」(当審注:表1の訳は省略。)




(訳)
「[0175]この実施例は、冷媒組成物がHFO-1234を含み、HFOの大部分、好ましくは少なくとも約75重量%、さらにより好ましくは少なくとも約90重量%の、HFO-1234を含む本発明の一実施形態の性能を例示する。HFO1234はHFO-1234yfである。より詳細には、このような組成物は、4つの冷媒システムにおけるHFC-134aの代替物として使用される。第1のシステムは、約20°Fの蒸発器温度(ET)を有するシステムであり、約130°Fの凝縮器温度(CT)を有する(実施例6A)。便宜上、そのような熱伝達システム、すなわち、約0?約35のETおよび約80°Fから約130°FのCTを有する系は、本明細書では「中温」系と呼ばれる。第2のシステムは、約-10°FのETを有するシステムであり、約110°FのCTである(実施例6B)。便宜上、そのような熱伝達システム、すなわち、約-20°F?20°Fの蒸発器温度を有し、約80°Fから約130°FのCTは、本明細書では「冷蔵/冷凍」システムと呼ばれる。第3のシステムは、約35°FのETで約150°FのCTであるシステムである(実施例6C)。便宜上、そのような熱伝達システム、すなわち、約30°Fから60°Fの蒸発器温度を有し、約90°Fから約200°FのCTであるシステムを、本明細書では「自動車用AC」システムと呼ぶ。第4のシステムは、約40°FのETを有し、約60°FのCTを有するシステムである(実施例6D)。便宜上、そのような熱伝達システム、すなわち、約35°Fから約50°Fの蒸発器温度を有し、約80°から約120°FのCTであるシステムをチラー又はチラーACと呼ぶ。HFO-1234yfを少なくとも約90重量%含む冷凍組成物およびR-134aを使用するこのようなシステムの各々の動作を6A-Dに示す。」(当審注:表6Aないし6Dの訳は省略。)










(訳)
「請求項23 物体(body)から熱伝達流体に熱を伝達することによって物体を冷却する方法であって、
(a) CF_(3)CH=CHCl(HFCO-1233zd)および潤滑剤を含む熱伝達流体を提供する工程、
(b) 前記熱伝達流体を圧縮して、前記HFCO-1233zdの少なくとも一部を含む前記熱伝達流体を第1の圧力および第1の温度で生成する工程、
(c) 工程(b)によって前記第1の温度で提供された流体から熱を奪って、前記第一の圧力にて前記熱伝達流体の少なくとも一部を凝縮させて液相の前記熱伝達流体を生成する工程、
(d) 工程(c)から少なくとも一部の前記熱伝達流体の前記圧力を低下させて、前記第1の温度よりも実質的に低い第2の温度および前記第1の圧力より実質的に低い第2の圧力の熱伝達流体を生成する工程、
(e) 工程(d)において前記第2の温度で生成された前記伝熱流体の少なくとも一部を前記物体との熱伝達接触によって蒸発させることによって前記物体を冷却する工程、
(f) 工程(e)で提供された前記蒸発熱伝達流体を第2の圧力からほぼ前記第1の圧力に圧縮することによって、前記工程(a)の前記第1の圧力で前記流体の少なくとも一部を供給する工程、
を含む方法。」
「請求項35 前記組成物が少なくとも一つのテトラフルオルプロペン(当審注:テトラフルオロプロペン)(HFO-1234)をさらに含む、請求項23に記載の方法。
請求項36 前記組成物が少なくともHFO-1234yfを含む、請求項23に記載の方法。
請求項37 前記組成物が少なくともHFO-1234zeを含む、請求項23に記載の方法。」
「請求項50 少なくとも1つの共熱伝達剤をさらに含み、前記共熱伝達剤が、以下からなる群から選択される、請求項23記載の方法。
トリクロロフルオロメタン(CFC-11);ジクロロジフルオロメタン(CFC-12);ジフルオロメタン(HFC-32);ペンタフルオロエタン(HFC-125);1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134);1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a);ジフルオロエタン(HFC-152a);1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFC-227ea);1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HFC-236fa);1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa);1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(HFC-365mfc);水;CO_(2)およびこれらの2つ以上の組み合わせ。」

イ 甲1発明
上記記載事項から、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「CF_(3)CH=CHCl(HFCO-1233zd)を含む熱伝達流体の圧縮工程、熱伝達流体の凝縮工程、凝縮工程からの熱伝達流体の圧力を低下させる工程、熱伝達流体の蒸発工程を含む方法において、ヒートポンプの熱伝達流体として使用する方法。」

(2)甲第2号証
甲第2号証(以下「甲2」という。)には、次の事項が記載されている。「3.3 高温用冷媒
近年産業用等への利用を目的に、ヒートポンプの高温域への使用範囲の拡大が研究されており、これに見合った冷媒の検討がなされている。
凝縮温度100℃付近のヒートポンプサイクル用として良く知られているフロン系冷媒の中から候補を挙げると、R114、R11、R113等がある。
・・・
フロン系冷媒では、前述のように加熱温度の上限は120℃程度と考えられるが、産業用途を考えるともう少し高い温度である120?180℃程度の温度域の熱需要が圧倒的に多い。この温度域で熱安定性にすぐれたフッ素アルコール類(トリフルオロアルコール(フロリノール)、ペンタフルオロアルコール等)が、今後検討の対象となるであろう。」(128?129頁)

3 対比・判断
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「CF_(3)CH=CHCl(HFCO-1233zd)」、「熱伝達流体」、「熱伝達流体の蒸発工程」、「熱伝達流体の圧縮工程」、「熱伝達流体の凝縮工程」、「凝縮工程からの熱伝達流体の圧力を低下させる工程」及び「ヒートポンプ」は、本件発明1の「1-クロル-3,3,3-トリフルオロプロペンおよび2-クロル-3,3,3-トリフルオロプロペンの中から選択をされるヒドロクロロ-フルオロオレフィン」、「冷媒液」、「冷媒液の蒸発段階」、「圧縮段階」、「冷媒液の凝縮段階」、「冷媒液の膨張段階」及び「ヒートポンプ」にそれぞれ相当する。
甲1発明の「熱伝達流体の圧縮工程、熱伝達流体の凝縮工程、凝縮工程からの熱伝達流体の圧力を低下させる工程、熱伝達流体の蒸発工程」が、順次有する工程であり、これらの工程が少なくとも一つのステージを有する圧縮システムを使用して行われることは技術常識であるから、甲1発明の「熱伝達流体の圧縮工程、熱伝達流体の凝縮工程、凝縮工程からの熱伝達流体の圧力を低下させる工程、熱伝達流体の蒸発工程を含む方法において、ヒートポンプの熱伝達流体として使用する方法」は、本件発明1の「冷媒液の蒸発段階と、圧縮段階と、」「冷媒液の凝縮段階と、冷媒液の膨張段階とを順次有する少なくとも一つのステージを有する圧縮システムを使用したヒートポンプでの冷媒液としての使用」に相当する。
以上から、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「1-クロル-3,3,3-トリフルオロプロペンおよび2-クロル-3,3,3-トリフルオロプロペンの中から選択をされるヒドロクロロ-フルオロオレフィンの、冷媒液の蒸発段階と、圧縮段階と、冷媒液の凝縮段階と、冷媒液の膨張段階とを順次有する少なくとも一つのステージを有する圧縮システムを使用したヒートポンプでの冷媒液としての使用。」
[相違点]
凝縮段階における温度について、本件発明1は、「100℃以上の高い温度」であるのに対し、甲1発明は、凝縮温度について不明である点。

イ 判断
甲1の実施例6A?6Dには([0175]?[0178])、凝縮温度範囲として、約90°F(当審注:32.2℃)から約200°F(当審注:93.3℃)とする例が記載されており、他の例を参照しても約80°F(当審注:26.7℃)から130°F(当審注:54.4℃)であるから、実施例6は、凝縮温度を100℃以上とすることを技術的に想定していない。
そのうえ、実施例6A?6Dは、本件発明1の冷媒組成物とは異なるHFO-1234yfの比率を少なくとも約75重量%、さらにより好ましくは少なくとも約90重量%とする冷媒組成物を使用する場合の実施例であるから、甲1には、本件発明1の冷媒組成物に相当するCF_(3)CH=CHCl(HFCO-1233zd)を使用する際に、同程度ないし100℃以上の凝縮温度として使用することについての記載ないし示唆はないといえる。
他方、甲2を参照すると、R114、R11、R113等のフロン系冷媒は凝縮温度100℃付近のヒートポンプサイクル用冷媒であって加熱温度の上限は120℃程度と記載されているが、これらR114、R11、R113等のフロン系冷媒は、甲1発明の冷媒組成物の主たる特徴である低GWP(地球温暖化係数)に対して、物性が大きく異なる冷媒であるから、甲2の上記フロン系冷媒の記述から、本件特許の優先日前に100℃ないし120℃の凝縮温度が周知であることを認定できたとしても(以下「周知技術」という。)、当該周知技術は低GWP冷媒とはいえないフロン系冷媒についての周知技術である。
そうすると、低GWP冷媒からなり且つ100℃以上の凝縮温度を技術的に想定しているとはいえない甲1発明に、低GWP冷媒とは異なるフロン系冷媒に係る周知技術である100℃ないし120℃の凝縮温度を用いることは、その適用に阻害要因があるというべきである。
なお、甲2には、産業用途としては120?180℃程度の温度域の熱需要が多くあると記載されているが、この記述は需要に基づく冷媒の検討について述べる程度のことであるから、甲1発明において凝縮温度を「100℃以上の高い温度」とすることの示唆や、上記周知技術を適用することの動機付けが記載されているとはいえない。
以上から、本件発明1は、甲1発明、甲2記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(2)本件発明2、4、6
本件発明2、4、6は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項の全てを含むものであるから、上記(1)で述べたことと同様の理由により、本件発明2、4、6は、甲1発明、甲2記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)及び平成30年1月30日の取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件特許の請求項1、2、4、6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2、4、6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項3、7、8は、本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項3、7、8に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないから、特許法第120条の8第1項で準用する特許法第135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-クロル-3,3,3-トリフルオロプロペンおよび2-クロル-3,3,3-トリフルオロプロペンの中から選択をされるヒドロクロロ-フルオロオレフィンの、冷媒液の蒸発段階と、圧縮段階と、100℃以上の高い温度での冷媒液の凝縮段階と、冷媒液の膨張段階とを順次有する少なくとも一つのステージを有する圧縮システムを使用したヒートポンプでの冷媒液としての使用。
【請求項2】
上記温度が100?140℃の間にある請求項1に記載の使用。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
冷媒液が少なくとも一種のハイドロフルオロカーボンをさらに含む請求項1?3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
冷媒液が少なくとも一種のヒドロフルオロエーテルをさらに含む請求項1?4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
冷媒液が少なくとも一種のフルオロアルケンをさらに含む請求項1?5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-02-12 
出願番号 特願2015-26010(P2015-26010)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (F25B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 充  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 槙原 進
藤原 直欣
登録日 2017-06-02 
登録番号 特許第6151731号(P6151731)
権利者 アルケマ フランス
発明の名称 伝熱方法  
代理人 越場 洋  
代理人 越場 洋  
代理人 越場 隆  
代理人 越場 隆  

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