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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61B
管理番号 1350638
異議申立番号 異議2017-700730  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-25 
確定日 2019-02-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6066660号発明「内視鏡フード」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6066660号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6066660号の請求項1、3、4に係る特許を維持する。 特許第6066660号の請求項2、5及び6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6066660号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成24年10月19日に特許出願され、平成29年1月6日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、同年7月25日に特許異議申立人 青木 耕一(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年10月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年12月28日に意見書の提出及び訂正の請求があり、平成30年2月16日付けでその訂正の請求を申立人に通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を設けたが、異議申立人からは何ら応答がなかったものである。その後、同年5月9日付けで当審より取消理由(決定の予告)が通知され、特許権者より同年7月13日付けで訂正請求書及び意見書が提出され、当審は、同年8月21日付けで訂正拒絶理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年9月26日に意見書及び手続補正書を提出した。

なお、同年10月15日付けで当審から特許異議申立人に特許法第120条の5第5項の規定に基づく書面等を送付し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人から応答はなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
補正後の本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1?15のとおりである。(下線は、訂正箇所として当審で付した。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における、
「前記筒状体の先端部に設けられ、病変部に装着された医療用のクリップに係合させて、
前記病変部直下の剥離すべき粘膜下層に対してカウンタトラクションを付与するための係合部とを有することを特徴とする」
との記載を、
「前記筒状体の先端部の一部を切り欠いた切欠きである係合部とを有し、
病変部に装着される先端部と該先端部の基端側に設けられた棒状の基端部とからなる医療用のクリップの該基端部が前記係合部に嵌まり込むことにより、該クリップが該係合部で保持され、該先端部が前記病変部に装着された状態で前記内視鏡が移動した際に該内視鏡と一体的に該クリップを移動させて、前記病変部直下の剥離すべき粘膜下層に対しカウンタトラクションを付与し、
前記係合部を複数有し、
複数の前記係合部が、前記筒状体の周方向に等間隔で設けられ、
各係合部の切り欠きの寸法を異なるものとしたことを特徴とする」との記載に訂正する。
また、請求項1に係る発明を直接または間接的に引用する請求項3及び4の記載も、同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する訂正を行う。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3における「前記クリップの断面形状に適合した」との記載を、「前記クリップの前記基端部の断面形状に適合した」との記載に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3における「請求項2に記載の」との記載を、「請求項1に記載の」との記載に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4における
「矩形状もしくはアーチ形状、又は矩形に2段に切り欠いた形状を有する」
との記載を、
「矩形状を有する」との記載に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4における「請求項2に記載の」との記載を、「請求項1に記載の」との記載に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5を削除する訂正を行う。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項6を削除する訂正を行う。

(9)訂正事項9
明細書の段落【0009】に、
「本発明の内視鏡フードは、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)を行う際に内視鏡に装着して用いられる内視鏡フードであって、両端が開放された中空の筒状体を備え、前記筒状体は、前記筒状体の基端側に設けられ、該筒状体を、前記内視鏡の先端部の外周面に着脱可能に装着するための装着部と、前記筒状体の先端部に設けられ、病変部に装着された医療用のクリップに係合させてカウンタトラクションを得るための係合部とを有することを特徴とする。」
と記載されているのを、
「本発明の内視鏡フードは、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)を行う際に内視鏡に装着して用いられる内視鏡フードであって、両端が開放された中空の筒状体を備え、前記筒状体は、前記筒状体の基端側に設けられ、該筒状体を、前記内視鏡の先端部の外周面に着脱可能に装着するための装着部と、前記筒状体の先端部の一部を切り欠いた切欠きである係合部とを有し、病変部に装着される先端部と該先端部の基端側に設けられた棒状の基端部とからなる医療用のクリップの該基端部が前記係合部に嵌まり込むことにより、該クリップが該係合部で保持され、該先端部が前記病変部に装着された状態で前記内視鏡が移動した際に該内視鏡と一体的に該クリップを移動させて、前記病変部直下の剥離すべき粘膜下層に対しカウンタトラクションを付与し、前記係合部を複数有し、複数の前記係合部が、前記筒状体の周方向に等間隔で設けられ、各係合部の切り欠きの寸法を異なるものとしたを特徴とする。」
と訂正する。

(10)訂正事項10
本件明細書の段落【0013】に、
「本発明において、前記係合部は、」
と記載されているのを、
「本発明における前記係合部は、」
と訂正する。

(11)訂正事項11
本件明細書の段落【0014】に、
「前記クリップの断面形状に適合した」
と記載されているのを、
「前記クリップの前記基端部の断面形状に適合した」
と訂正する。

(12)訂正事項12
本件明細書の段落【0015】に、
「前記切欠きは、矩形状若しくはアーチ形状、又は矩形状に2段に切り欠いた形状を有してもよい。切欠きがアーチ形状を有する場合には、切欠きの周方向の寸法を適切な大きさとすることによって、術者は、係合部により容易にクリップを捕捉して押し上げることができる。」
と記載されているのを、
「前記切欠きは、矩形状を有してもよい。」
と訂正する。

(13)訂正事項13
明細書の【0016】の記載を削除する訂正を行う。

(14)訂正事項14
明細書の【0017】の記載を削除する訂正を行う。

(15)訂正事項15
明細書の【0018】の記載を削除する訂正を行う。

本件訂正請求は、一群の請求項〔1-6〕に対して請求されたものである。また、明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1-6〕について請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1に係る訂正について
請求項1に係る訂正は、請求項1の「前記筒状体の先端部に設けられ」た「係合部」が、訂正前の請求項2に係る発明の「前記筒状体の先端の一部を切り欠いた切欠きである」と訂正するものであるから、この訂正は、訂正前の請求項1に係る発明を引用した訂正前の請求項2に係る発明とするものであり、請求項の削除を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
請求項1に係る訂正は、さらに、前記「係合部」が「病変部に装着される先端部と該先端部の基端側に設けられた棒状の基端部とからなる医療用のクリップの該基端部が前記係合部に嵌まり込むことにより、該クリップが該係合部で保持され、該先端部が前記病変部に装着された状態で前記内視鏡が移動した際に該内視鏡と一体的に該クリップを移動させて、前記病変部直下の剥離すべき粘膜下層に対しカウンタトラクションを付与し、前記係合部を複数有し、複数の前記係合部が、前記筒状体の周方向に等間隔で設けられ、各係合部の切り欠きの寸法を異なるもの」であると訂正しているが、該訂正は、前記「係合部」の機能及び形態を限定するものであるから、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、特許請求の範囲及び明細書の発明の詳細な説明には、前記「係合部」に関し以下の記載がある。

(本a)「【請求項5】
複数の前記係合部が、前記筒状体の周方向に等間隔で設けられることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の内視鏡フード。
【請求項6】
各係合部の切欠きの寸法を異なるものとしたことを特徴とする請求項5に記載の内視鏡フード。」

(本b)「【0026】
次に、術者は、図2(c)に示すように、切開しようとする部分に内視鏡2の先端部を近接させて、内視鏡2の先端に装着された内視鏡フード1の係合部7に止血クリップ6を係合させる。術者はさらに、係合した止血クリップ6をカット部11が開く方向に押し上げながら、鉗子チャンネルに装填したITナイフ12により、病変部5直下の粘膜下層を切開し、剥離する。
【0027】
このとき、止血クリップ6が、カット部11が開く方向に押し上げられることによって、病変部5直下の剥離すべき部分に対し、適切なカウンタトラクションが付与される。これにより、術者は、内視鏡2による良好な視界の下で、粘膜下層の切開及び剥離を効率的に行うことができる。」

(本c)「【0033】
図5は、第4実施形態に係る内視鏡フードの平面図である。図5に示すように、本実施形態の内視鏡フード19は、両端が開放された筒状体20の先端部において、止血クリップ6の断面形状に適合したU字形状の切欠きを複数並べて構成した係合部21を有する。すなわち、係合部21は、そのU字形状の切欠きに止血クリップ6が嵌り込むことにより、止血クリップ6を保持することができるようになっている。」

(本d)「【0040】
図9は、第8実施形態に係る内視鏡フードの斜視図である。図9に示すように、本実施形態の内視鏡フード31は、筒状体32の先端部において、矩形状に切り欠いた切欠きとしての大小2つの係合部33a及び33bを有する。」
「【0042】
なお、本実施形態では、係合部の数は2つであり、これらが180°間隔で設けられているが、より多くの大きさの異なる係合部を設けてもよい。これらの係合部は、筒状体32の周方向に等間隔で配置される。
【0043】
図10は、第9実施形態に係る内視鏡フードの斜視図である。図10に示すように、本実施形態の内視鏡フード34は、矩形状に切り欠いた切欠きとしての大中小3つの係合部36a、36b及び36cを有する。係合部36a?36cは、筒状体35の周方向の半周にわたり、等間隔(90°間隔)で設けられる。」

(本e)「



上記(本a)?(本e)より、訂正後の請求項1に係る発明の、「係合部」が「病変部に装着される先端部と該先端部の基端側に設けられた棒状の基端部とからなる医療用のクリップの該基端部が前記係合部に嵌まり込むことにより、該クリップが該係合部で保持され、該先端部が前記病変部に装着された状態で前記内視鏡が移動した際に該内視鏡と一体的に該クリップを移動させて、前記病変部直下の剥離すべき粘膜下層に対しカウンタトラクションを付与し、前記係合部を複数有し、複数の前記係合部が、前記筒状体の周方向に等間隔で設けられ、各係合部の切り欠きの寸法を異なるもの」である点は、明細書に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。

(2)請求項3及び4に係る訂正について
請求項3及び4に係る発明は、請求項1に係る発明を引用しているから、請求項1に係る訂正に伴って訂正されるものであり、この点については、上記(1)で検討したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、更に実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。そして、請求項3及び4に係る訂正は、前記訂正に加えて、請求項3に関しては、訂正前の「前記クリップの断面形状に適合した円弧形状又はU字形状の切欠き」における「クリップの断面形状」を、「前記クリップの前記基端部の断面形状」であると、「断面形状」が「前記クリップの前記基端部」の形状であると限定しているものであり、請求項4に関しては、「切欠き」の形状が、訂正前は「矩形状若しくはアーチ形状、又は矩形状に2段に切り欠いた形状」であったものを、「矩形状」のみに限定しているから、請求項3及び4に係る訂正も、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)請求項2、5及び6に係る訂正について
請求項2、5及び6に係る訂正は、請求項を削除する訂正であるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)本件明細書の段落【0009】の訂正について
本件明細書の段落【0009】の訂正は、請求項1に係る訂正に伴う明細書の訂正である。そうすると、本件明細書の段落【0009】の訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)本件明細書の段落【0013】の訂正について
本件明細書の段落【0013】の訂正は、請求項2に係る訂正に伴う明細書の訂正である。そうすると、本件明細書の段落【0013】の訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)本件明細書の段落【0014】の訂正について
本件明細書の段落【0014】の訂正は、請求項3に係る訂正に伴う明細書の訂正である。そうすると、本件明細書の段落【0013】の訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(7)本件明細書の段落【0015】?【0017】の訂正について
本件明細書の段落【0015】?【0017】の訂正は、請求項4に係る訂正に伴う明細書の訂正である。そうすると、本件明細書の段落【0015】?【0017】の訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(8)本件明細書の段落【0018】の訂正について
本件明細書の段落【0018】の訂正は、請求項5に係る訂正に伴う明細書の訂正である。そうすると、本件明細書の段落【0018】の訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1-6に係る発明(以下「本件発明1-6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1-6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
内視鏡的粘膜下層剥離術を行う際に内視鏡に装着して用いられる内視鏡フードであって、
両端が開放された中空の筒状体を備え、
前記筒状体は、
前記筒状体の基端側に設けられ、該筒状体を、前記内視鏡の先端部の外周面に着脱可能に装着するための装着部と、
前記筒状体の先端部の一部を切り欠いた切欠きである係合部とを有し、
病変部に装着される先端部と該先端部の基端側に設けられた棒状の基端部とからなる医療用のクリップの該基端部が前記係合部に嵌まり込むことにより、該クリップが該係合部で保持され、該先端部が前記病変部に装着された状態で前記内視鏡が移動した際に該内視鏡と一体的に該クリップを移動させて、前記病変部直下の剥離すべき粘膜下層に対しカウンタトラクションを付与し、
前記係合部を複数有し、
複数の前記係合部が、前記筒状体の周方向に等間隔で設けられ、
各係合部の切り欠きの寸法を異なるものとしたことを特徴とする内視鏡フード。
【請求項2】 (削除)
【請求項3】
前記係合部は、前記クリップの前記基端部の断面形状に適合した円弧形状又はU字形状の切欠きを複数並べて構成されることを特徴とする請求項2に記載の内視鏡フード。
【請求項4】
前記切り欠きは、矩形状を有することを特徴とする請求項1に記載の内視鏡フード。
【請求項5】 (削除)
【請求項6】 (削除)」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
(1)平成29年10月27日付け取消理由通知について
訂正前の請求項1-6に係る特許に対して、当審が平成29年10月27日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

ア 本件発明1及び2は甲1発明である。また、本件発明1?5は甲3発明であるから、本件発明1?5に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1?5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 本件発明1?6は、明確でないから、本件発明1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないから、本件発明1?6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、本件発明1?6に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるものである。

(2)平成30年5月9日付け取消理由通知(決定の予告)について
訂正前の請求項1-6に係る特許に対して、当審が平成30年5月9日に特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

ア 本件発明1、3?5は甲1発明である。また、本件発明1は甲4発明であり、本件発明4は、甲4発明から、当業者が容易に想到できたものであるから、本件発明1、3?5に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、本件発明4は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1、3?5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 本件発明1、3?6は、明確でないから、本件発明1、3?6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明4?6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないから、本件発明4?6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、本件発明1、3?6に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるものである。

2 甲号証の記載
(1)甲1号証
ア 甲1号証に記載の事項
甲1号証(特開2003-245244号公報)には、以下の記載がある。

(甲1a)「【0002】
【従来の技術】従来、手術に用いる内視鏡装置の一例として、内視鏡の挿入部の先端部に観察光学系、ライトガイド、空気・水送り口及び吸引口を配設して形成したものがある。このような内視鏡装置では、ライトガイドから生体組織等の被写体に光を当て、この光を当てた被写体を対物レンズを介して視認し、空気・水送り口より送出した空気或いは水やその他の物質を吸引口で吸引し得るようになっている。」

(甲1b)「【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)図1ないし図5は本発明の第1の実施の形態に係り、図1は先端フード部材を取り付けた内視鏡の先端部の斜視図、図2は内視鏡の先端部の正面図、図3は対象物から先端フード部材に加わる力を示す説明図、図4は先端フード部材に力が加わることによる変形を示す説明図、図5は先端フード部材の凸部の先端面を示す説明図である。
【0014】(構成)図1に示すように、内視鏡1は、図示しない光源装置、ビデオプロセッサ及びモニタとともに内視鏡装置を構成するものである。
【0015】内視鏡1の挿入部10の先端部11には、先端フード部材20が着脱自在の状態で設けられている。この場合、先端フード部材20は、略円筒状に形成され、先端部11に圧入されて固定されている。」

(甲1c)「【0017】先端フード部材20は、先端部11から突出した突出部21と、先端部11が嵌合される内視鏡固定部22とを有する。
【0018】突出部21には、該突出部21の先端から力が加わった際に、該突出部21を変形可能とするために、2つの凹部23,23が設けられている。突出部21には、2つの凹部23,23を形成することで2つの凸部24,24が形成されている。
【0019】図1及び図2に示すように、先端部11の端面には、空気・水送り口であるところの送気送水ノズル12と、吸引口13と、観察光学系14と、照明窓15,16とが設けられている。」

(甲1d)「【0035】(第2の実施の形態)図6ないし図8は本発明の第2の実施の形態に係り、図6は先端フード部材を取り付けた内視鏡の先端部の正面図、図7は内視鏡の挿入部に取り付けられた先端フード部材の断面図、図8は先端フード部材に力が加わることによる変形を示す説明図である。
【0036】(構成)図6に示すように、第2の実施の形態の内視鏡3で図2に示した第1の実施形態と異なるのは、先端フード部材30のみで、挿入部10は第1の実施の形態と同様になっている。」

(甲1e)「【0038】先端フード部材30の突出部31には、該突出部31の先端から力が加わった際に、該突出部31を変形可能とするために、凹部33が4つ設けられている。」

(甲1f)「【図2】



(甲1g)「【図3】



(甲1h)「【図6】



(甲1i)「【図7】



(甲1j)「図8



イ 甲1号証に記載された発明
(ア)(甲1a)には、「手術に用いる内視鏡装置の一例として、内視鏡の挿入部の先端部に観察光学系、ライトガイド、空気・水送り口及び吸引口を配設して形成したものがある。」と記載され、甲1号証の第1の実施の形態の「内視鏡1」の「先端部11の端面には、空気・水送り口であるところの送気送水ノズル12と、吸引口13と、観察光学系14と、照明窓15,16とが設けられている」から、甲1号証の「内視鏡1」を有する「内視鏡装置」は、「手術に用いる」ものであるといえる。

(イ)(甲1d)より、「図6に示すように、第2の実施の形態の内視鏡3で図2に示した第1の実施形態と異なるのは、先端フード部材30のみ、挿入部10は第1の実施の形態と同様になっている」から、第2の実施の形態の「内視鏡装置」も「手術に用いる」ものである。そして、図6から、「先端フード部材30」は実施例1の「先端フード部材20」と同様に、「略円筒状に形成され、先端部11に圧入されて固定されている」点が見て取れる。

(ウ)先端フード部材を取り付けた内視鏡の先端部の正面図及び断面図である図6及び図7より、「先端フード部材30」が「先端部11」に取り付けた状態が、第1の実施の形態の先端フード部材を取り付けた内視鏡の先端部の正面図及び断面図である図2及び図3と同様であることが見て取れることから、第2の実施の形態の「先端フード30」も、第1の実施の形態同様に、「内視鏡3の挿入部10の先端部11に」、「着脱自在の状態で設けられ」、「先端部11に圧入されて固定され」、「先端部11が嵌合される内視鏡固定部」を有ことは明らかである。

(エ)(甲1h)より「凹部33」がそれぞれ筒状体の周方向に等間隔で設けられた点が見て取れる。

(オ)そうすると、甲1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「手術に用いる内視鏡装置に取り付けられて用いられる先端フード部材30であって、
略円筒状に形成され、
内視鏡3の挿入部10の先端部11に着脱自在の状態で設けられ、
内視鏡3の先端部11が嵌合される内視鏡固定部を有し、
突出部31には、該突出部31の先端から力が加わった際に、該突出部31を変形可能とするために、凹部33が4つ設けられ、
凹部33がそれぞれ筒状体の周方向に等間隔で設けられた
先端フード部材30。」

(2)甲2号証
ア 甲2号証に記載の事項
甲2号証(特開昭61-191333号公報)には、以下の記載がある。

(甲2a)「第1図は、フード状の位置決め具20を、穿刺針22を具備する内視鏡挿入部24の先端部分に被冠した状態の斜視図であり、第2図は、その中央縦断側面図である。内視鏡挿入部24は、目標観察のための観察用光ファイバ束26を具備する。穿刺針22及びこれに連通ずる薬液輸送用管28は、内視鏡挿入部24内でその軸方向に延びる挿通管30内で摺動自在である。穿刺針22は、薬液輸送用管28を介して、内視鏡の手許操作部に連なる。図示しないが、手許操作部又はその外側で、穿刺針22の押出し又は引込操作及び薬液送出操作を行なう。
観察用光ファイバ束26の先端面の先には、物体からの像を光ファイバ束26の先端面に結ばせる対物レンズ34と、主光軸を穿刺針22の側に傾けるプリズム36とを配置しである。この部分を第3図に拡大して示した。
第1図及び第2図に示したフード状の位置決め具20は、内視鏡挿入部24の先端部分を内部に収容する全体として筒状をしており、例えば、軟質プラスチックや硬質ゴム等の幾分軟い材料からなる。内視鏡挿入部24の先端部分に一体化する場合には不要であるが、フード状で取外し自在とする第1図及び第2図の例では、位置決め具20の内面に内視鏡挿入部24の先端面と係合する段部を設けるのが好ましい。これにより、位置決め具20の取付け位置が一定する。
位置決め具20の、穿刺針22に近い部分には、当該穿刺針22に沿って略U字状の切除部38を設けてある。切除部38の側から見た位置決め具20の側面図を第4図に示す。切除部38によって形成される位置決め具20の端面は、体内壁を傷付けることのないように、滑らかなものであることが望ましい。また、切除部38の大きさ、形は、目標部位の大きさや深さ、処置の内容(穿刺針の刺入、組繊切片の切除等)などによって決定する。ただし、切除部38は、その幅が底部38cに近づく程に狭くなるようにするのが好ましい。試作例では、第4図に図示したθが60°程度で体内壁に損傷を与えずに良好な作業性が得られた。
第1図、第2図及び第4図に図示した実施例では、観察用光ファイバ束26による視野が位置決め具20の突出した部分によってけられる量を少なくするため、第2図に明瞭に示すように、位置決め具20の先端面を、観察用光ファイバ26に近い側で突出層が少なくするように斜めにカットしである。
第5図及び第6図は、位置決め具20の先端面形状を変更した別の実施例を示す。第5図は第4図と同様に、切除部38の側から見た側面図であり、第6図は第5図のVI-VI線から見た中央縦断面図である。このように、切除部38の両側部38a、38bを舌状の突出部にしてもよい。この実施例は、第1図、第2図及び第4図の実施例に比べ、観察用光ファイバ束26の視野のけられる量が少なくなるが、体内壁に損傷を与える危険が増す。」

イ 甲2号証に記載された技術事項
上記(甲2a)より、甲2号証には以下の技術事項が記載されている
「内視鏡挿入部24の先端部分を内部に収容する全体として筒状をしており、
穿刺針22に近い部分には、当該穿刺針22に沿って略U字状の切除部38を設けてある
フード状の位置決め具20。」

(3)甲3号証
ア 甲3号証に記載の事項
甲3号証(特開2002-095623号公報)には、以下の記載がある。

(甲3a)「【0005】
【発明の実施の形態】 本発明を図面を用いて説明する。図1、図2及び図3は、実施例の概要を示す側面説明図で、図4は実施例を内視鏡に嵌合した状態を示す正面説明図である。フード(1)は、接近防止部(2)と内視鏡に着脱可能な嵌合部(3)とを同体又は別体に形成し、接近防止部(2)は円筒又はラッパ状に形成するとともに切欠部(2a)又は及び側孔(2b)を穿ってある。接近防止部(2)は、内視鏡(4)の対物レンズ(5)の性能に応じ内視鏡(4)の対物レンズ(5)の視野を適切に得ることができる長さとする。前記切欠部(2a)又は及び側孔(2b)は、単数又は複数設けるが、前記のとおり内視鏡(4)の鉗子口(7)、ノズル(8)からの送気や液体噴出による流体等排出路として設けるものであるので、単数又は少数設けるときは、排出の実効をあげるため、内視鏡(4)の対物レンズ(5)側に設けることが望ましい(なお、図4に示す内視鏡は例示であり、同図中(7)はライトガイドである。)。」

(甲3b)「【図1】



イ 甲3号証に記載された技術事項
上記(甲3a)及び(甲3b)より、甲3号証には、以下の技術事項が記載されている。

「接近防止部(2)と内視鏡に着脱可能な嵌合部(3)とを同体に形成し、接近防止部(2)は円筒状に形成するとともに切欠部(2a)を穿ってあるフード(1)であって、
前記切欠部(2a)は、複数設けられ、
前記内視鏡には、内視鏡(4)の鉗子口(7)、ノズル(8)が設けられた
フード(1)」

(4)甲4号証
ア 甲4号証に記載の事項
甲4号証(特開平09-066019号公報)には、以下の事項が記載されている。

(甲4a)「【0008】キャップ2は、硬質で透明な合成樹脂、例えばアクリル樹脂や、好ましくはポリカーボネイト等の透明硬質のプラスチックで、あるいはガラス等で構成されており、内視鏡3の視野を妨げることなく、また、粘膜6(図4乃至図6)に押しつけたり吸引した時に、変形しない程度の硬さを有しており、また、その先端側から軸方向に延びるスリット2aを有している。スリット2aは、高周波スネアワイヤを挿通可能で、かつ、粘膜等の吸引時に空気モレが大きくならない程度の寸法を有しており、好ましくはスリット幅が0.5mm乃至4mm程度である。
【0009】固定部材4は、合成樹脂や、好ましくは塩化ビニル、ポリウレタン、フッ素樹脂等の軟質プラスチック、又は弾性材料、好ましくは、ラテックス、シリコン、イソプレン、ネオプレン等のゴム類からなり、内視鏡3の先端部を傷つけることなく、キャップ2を内視鏡3に着脱自在となるように構成されている。
【0010】次に、この実施の形態の作用を説明する。まず、内視鏡3を患者の体腔内に挿入する前に、図3に示すように、内視鏡のチャンネル5内を挿通した可撓性管よりなるスネアシース7aと、このスネアシース7a内を進退自在に挿通され、かつ、その先端部をループ状に形成されたスネアワイヤ7bから成る高周波スネア7のスネアワイヤ7bのループ状部分をキャップ2に設けたスリット2aからキャップ2の外側に引き出し、キャップ2の外周部分に巻き付けた状態で引っかけておく。
【0011】続いて、図4に示すように、内視鏡3の図示しない操作部を操作して、内視鏡用フード1のキャップ2の先端開口部を粘膜6の切除したい部位に移動させる。そして、その先端開口部を粘膜6に押しつけ、内視鏡3のチャンネル5を通して、図示しない吸引源から吸引することにより、粘膜6をキャップ2内に吸引して切除部分を盛り上げ、ポリープ状に形成する。
【0012】次に、図5に示すように、スネアシース7aからスネアワイヤ7bを前方ヘ押し出して、スネアワイヤ7bをキャップ2から外し、吸引された粘膜6の基部へそのループ部を位置させる。
【0013】更に、図6に示すように、スネアワイヤ7bをスネアシース7a内に引き込んで、粘膜6の基部を締めつけた後、スネアワイヤ7bに高周波電流を印加することによりポリープ状に形成した粘膜6の切除を実行する。
【0014】本実施の形態によれば、従来内視鏡用フードの内側で粘膜6の切除部分の基部へスネアワイヤのループ部を位置させていた場合に比べ、内視鏡用フードの内側で粘膜6を吸引して盛り上げポリープ状にした切除部分に対して内視鏡用フードの外側でスネアワイヤのループ部を位置させるため、より根元側で切除が可能となり、より大きな粘膜の切除が可能となる。また、スネアワイヤ7bの操作も容易にすることができる。」

(5)甲5号証
甲5号証(特開2010-131302号)には、EMR(内視鏡的粘膜切除術)、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)等の各種の高度の処置(内視鏡的手術)において使用される、内視鏡用フードおよびフード装着補助具が記載されている。

(6)甲6号証
甲6号証(特開2010-029392号公報)には、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)などに使用される内視鏡先端フードが記載されている。

(7)甲7号証
甲7号証(特開2010-022568号公報)には、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)などに使用される内視鏡の先端部の外周に当接可能な略円筒状のキャップが記載されている。

3 当審の判断
(1)特許法36条6項2号について
訂正請求により本件発明1は、「病変部に装着される先端部と該先端部の基端側に設けられた棒状の基端部とからなる医療用のクリップの該基端部が前記係合部に嵌まり込むことにより、該クリップが該係合部で保持されて、前記内視鏡が移動した際に該内視鏡と一体的に該クリップを移動させることにより、前記病変部直下の剥離すべき粘膜下層に対してカウンタトラクションを付与する」と訂正された。
この訂正により、「医療用のクリップ」は「病変部に装着される先端部と該先端部の基端側に設けられた棒状の基端部とからなる」ものであり、「係合部」は「医療用のクリップの該基端部が前記係合部に嵌まり込むことにより、該クリップが該係合部で保持され」る程度の大きさや形状であると一応理解できるから、本件発明1は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

(2)特許法第29条について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「先端フード部材30」は、本件発明1の「内視鏡フード」に相当する。そして、甲1発明の「内視鏡装置」は、「手術に用いる」ことは記載されているが、どの様な手術に使用されるかについては記載されていないのに対し、本件発明1の「内視鏡フード」は、「内視鏡的粘膜下層剥離術を行う際に内視鏡に装着して用いられる」と、使用される手術が限定されているから、この点において一応相違している。しかしながら、本件発明1の「内視鏡的粘膜下層剥離術を行う際に内視鏡に装着して用いられる」は、「内視鏡フード」の用途を特定するものであるが、「内視鏡的粘膜下層剥離術を行う際に内視鏡に装着して用いられる」「内視鏡フード」と「内視鏡的粘膜下層剥離術を行う際に内視鏡に装着して用いられ」ない「内視鏡フード」に、構成上の明確な差異はないから、「内視鏡フード」という物を特定するための意味を有しているとは認められない。そうすると、「内視鏡的粘膜下層剥離術を行う際に内視鏡に装着して用いられる」は、「内視鏡フード」という物を特定するための意味を有しているとは認められないから、「内視鏡的粘膜下層剥離術を行う際に内視鏡に装着して用いられる」点は、実質的な相違点にはならない。

b 甲1発明の「先端フード部材30」が、「略円筒状に形成され」ていることは、本件発明1の「内視鏡フード」が、「両端が開放された中空の筒状体を備え」ることに相当する。

c 甲1発明の「先端フード部材30」は、「内視鏡1の挿入部10の先端部11に」「着脱自在の状態で設けられて」おり、「先端フード部材30」は、「内視鏡3」の「先端部11が嵌合される内視鏡固定部」を有する。そして、「内視鏡固定部」は、「内視鏡3」の「先端部11」に嵌合されるから、「先端フード部材30」の基端側にあることは明らかである。
そうすると、甲1発明の「内視鏡3の挿入部10の先端部11に着脱自在の状態で設けられ、内視鏡3の先端部11が嵌合される内視鏡固定部」は、本件発明1の「前記筒状体の基端側に設けられ、該筒状体を、前記内視鏡の先端部の外周面に着脱可能に装着するための装着部」に相当する。

d 甲1発明の「突出部31に」「4つ設けられた」「凹部33」は、本件発明1の「前記筒状体の先端の一部を切り欠いた切欠きである係合部」に相当する。

e 本件発明1の「病変部に装着される先端部と該先端部の基端側に設けられた棒状の基端部とからなる医療用のクリップの該基端部が前記係合部に嵌まり込むことにより、該クリップが該係合部で保持されて、前記内視鏡が移動した際に該内視鏡と一体的に該クリップを移動させることにより、前記病変部直下の剥離すべき粘膜下層に対してカウンタトラクションを付与すること」は、上記(1)で検討したとおり、「内視鏡フード」の構成は、「内視鏡フード」の「係合部」が、「病変部に装着される先端部と該先端部の基端側に設けられた棒状の基端部とからなる医療用のクリップの該基端部が前記係合部に嵌まり込むことにより、該クリップが該係合部で保持」できる程度の大きさや形状のものであると理解できる。
そして、甲1発明の「凹部33」は、図7を参酌すると、「病変部に装着される先端部と該先端部の基端部に設けられた棒状の基端部とからなる医療用のクリップの該基端側が前記係合部に嵌まり込むことにより、該クリップが該係合部で保持」できる程度の大きさや形状であると認められる。
すると、甲1発明の「凹部33」を有する「先端フード部材30」は、本件特許発明1の「病変部に装着される先端部と該先端部の基端側に設けられた棒状の基端部とからなる医療用のクリップの該基端部が前記係合部に嵌まり込むことにより、該クリップが該係合部で保持されて、前記内視鏡が移動した際に該内視鏡と一体的に該クリップを移動させることにより、前記病変部直下の剥離すべき粘膜下層に対してカウンタトラクションを付与する」構成を有していると認められる。

f 引用発明の「突出部31」には、「凹部33」が「4つ設けられ」、「それぞれ筒状体の周方向に等間隔で設け」られているから、本件発明1の「前記係合部を複数有し、複数の前記係合部が、前記筒状体の周方向に等間隔で設けられ」に相当する。

g 上記a?fより、本件発明1と甲1発明との間に以下の一致点と相違点がある。

(一致点)
「内視鏡的粘膜下層剥離術を行う際に内視鏡に装着して用いられる内視鏡フードであって、
両端が開放された中空の筒状体を備え、
前記筒状体は、
前記筒状体の基端側に設けられ、該筒状体を、前記内視鏡の先端部の外周面に着脱可能に装着するための装着部と、
前記筒状体の先端部の一部を切り欠いた切欠きである係合部とを有し、
病変部に装着される先端部と該先端部の基端側に設けられた棒状の基端部とからなる医療用のクリップの該基端部が前記係合部に嵌まり込むことにより、該クリップが該係合部で保持され、該先端部が前記病変部に装着された状態で前記内視鏡が移動した際に該内視鏡と一体的に該クリップを移動させて、前記病変部直下の剥離すべき粘膜下層に対しカウンタトラクションを付与し、
前記係合部を複数有し、
複数の前記係合部が、前記筒状体の周方向に等間隔で設けられた内視鏡フード。」

(相違点)「前記筒状体の周方向に等間隔で設けられた」「複数」の「各係合部の切り欠き」を、本件発明1は、「切り欠きの寸法を異なるものとし」たのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。

(イ)判断
上記のとおり本件発明1と甲1発明との間には上記相違点が有るから本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。
次に、上記相違点について検討する。
本件発明1が、「前記筒状体の周方向に等間隔で設けられた」「複数」の「各係合部の切り欠き」を、「切り欠きの寸法を異なるものと」するのは、「各係合部」が、「基端側に設けられた棒状の基端部とからなる医療用のクリップの該基端部」を保持するためのものであって、「医療用のクリップの該基端部」が異なる大きさのものに対応するためのものであるところ、引用発明1の「凹部33」は、「該突出部31の先端から力が加わった際に、該突出部31を変形可能とするため」のものであって、「基端側に設けられた棒状の基端部とからなる医療用のクリップの該基端部」を保持するためのものでないから、甲1発明の「筒状体の周方向に等間隔で設けられた」「4つ」の「凹部33」のそれぞれの寸法を異ならせる動機付けは認められない。
すると、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
また、申立人が提出した甲2?7号証にも、「前記係合部を複数有し、複数の前記係合部が、前記筒状体の周方向に等間隔で設けられ、各係合部の切り欠きの寸法を異なるものとした」構成は、記載されておらず、また、該構成が本件出願時に周知の構成であったとも認められない。
すると、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2?7号証に記載された技術事項から、当業者が容易に想到し得るものでもない。

イ 本件発明3及び4について
本件発明1の「係合部」について、本件発明3は、「係合部」が「前記クリップの前記基端部の断面形状に適合した円弧形状又はU字形状の切欠きを複数並べて構成される」と、本件発明4は、「係合部」の形状が「矩形状」であるとそれぞれ限定したものである。
そうすると、上記アと同様の理由により、本件発明3及び4は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2?7号証に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得るものでもない。

(2)特許法第36条第4項第1号について
平成30年5月9日に特許権者に通知した取消理由(決定の予告)において、本件明細書の実施例には、「切欠き」の形状が、アーチ形状または矩形状に2段に切り欠いた形状である場合において、「病変部に装着される先端部と該先端部の基端側に設けられた棒状の基端部とからなる医療用のクリップの該基端部が前記係合部に嵌まり込むことにより、該クリップが該係合部で保持され」る構成について記載されておらず、この構成が本件出願前周知であるともいえないことから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない旨の取消理由を通知したが、本件発明4は、上記第2の1(5)のとおり、「切欠き」の形状が、「矩形状もしくはアーチ形状、又は矩形状に2段に切り欠いた形状」であったものから、「アーチ形状、又は矩形状に2段に切り欠いた形状」が削除され、「矩形状」のみとなったため、上記理由は解消した。
よって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、特許異議申立書において、訂正前の本件発明1は、医療行為に係る発明であるから産業上の利用可能性を有するものではない旨を主張する。
しかしながら、本件発明1は「内視鏡フード」に関する物の発明であって方法の発明ではないから、医療行為に係る発明であるとはいえない。
すると、本件発明1は、産業上の利用可能性を有するものであり、特許請求の範囲の記載は、特許法第29条第1項柱書きの要件を満たしている。
したがって、申立人のかかる主張は、採用することができない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、3及び4に係る特許を取り消すことはできないし、他に本件請求項1、3及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2、5及び6に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項2、5及び6に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
内視鏡フード
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡的粘膜下層剥離術を行う際に内視鏡に装着して用いられる内視鏡フードに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食道、胃、小腸、大腸等の消化管の表層における初期癌の治療方法として、内視鏡的粘膜下層剥離術(以下、「ESD」(Endoscopic Submucosal Dissection)という。)と呼ばれる方法が普及しつつある。ESDは、消化管の病変部の粘膜下層に生理的食塩水等の薬剤を注入して病変部を隆起させ、高周波ナイフ等の器具を用いて粘膜下層を切除することにより、病変部を取り除く方法である。
【0003】
ESDによれば、病変部を広範囲に一括切除することができ、初期癌であれば確実に根治できると考えられている。ただし、ESDを安全に行うためには、切開して剥離する粘膜下層にカウンタトラクション(ある力に対してそれと引き合うような反対方向の力をかけること)を付与することにより、良好な視野を確保しながら効率の良い切開・剥離を図ることが重要とされる。
【0004】
このようなカウンタトラクションを付与する技術として、内視鏡の先端に取り付けたフードに先端を固定したチューブに挿入した鉗子で対象部位を把持してカウンタトラクションを付与する技術が知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
特許文献1の技術においては、十分なカウンタトラクションの効果を得て、十分な視野を確保するために、チューブの軸が内視鏡の軸と交差するように、チューブをフードに固定するようにしている。また、特許文献2の技術においては、鉗子による処置の方向に対する内視鏡の自由度を高めるために、チューブに挿入した鉗子によりカウンタトラクションを付与しながら、チューブをフードから取り外すことができるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-273709号公報
【特許文献2】特開2011-78576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、特許文献1及び2の技術では、ESDにおいて、チューブを介して行われる鉗子の操作によりカウンタトラクションを得る際の内視鏡の視野や自由度の確保を図っている。ここで、さらに、鉗子等による操作を要することなく適切なカウンタトラクションを簡便に得ることができれば、良好な内視鏡の視野や自由度を確保できると同時に、粘膜下層の切開のための手技に集中できるので、好都合である。
【0008】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題に鑑み、鉗子等の操作を要することなく適切なカウンタトラクションが得られる内視鏡フードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の内視鏡フードは、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)を行う際に内視鏡に装着して用いられる内視鏡フードであって、両端が開放された中空の筒状体を備え、前記筒状体は、前記筒状体の基端側に設けられ、該筒状体を、前記内視鏡の先端部の外周面に着脱可能に装着するための装着部と、前記筒状体の先端の一部を切り欠いた切欠きである係合部とを有し、病変部に装着される先端部と該先端部の基端側に設けられた棒状の基端部とからなる医療用のクリップの該基端部が前記係合部に嵌まり込むことにより、該クリップが該係合部で保持され、該先端部が前記病変部に装着された状態で前記内視鏡が移動した際に該内視鏡と一体的に該クリップを移動させて、前記病変部直下の剥離すべき粘膜下層に対してカウンタトラクションを付与し、前記係合部を複数有し、複数の前記係合部が、前記筒状体の周方向に等間隔で設けられ、各係合部の切欠きの寸法を異なるものとしたことを特徴とする。
【0010】
本発明において、ESDを行うとき、病変部に形成されたカット部近傍に医療用のクリップが装着される。そして、カット部から粘膜下層を切開して剥離するために内視鏡の先端をカット部の切開対象部分に近接させるとき、これと並行して、術者は、内視鏡フードの係合部を当該クリップに係合させ、そのクリップをカット部が開く方向に押し上げる。
【0011】
これにより、適切なカウンタトラクションがカット部に作用する。術者は、このカウンタトラクションの作用の下で、粘膜下層の切開・剥離を適切に行うことができる。
【0012】
したがって、本発明によれば、粘膜下層を切開するために内視鏡の先端部を位置決めする際の僅かな手加減によって、適切なカウンタトラクションを得ることができる。
【0013】
本発明における前記係合部は、前記筒状体の先端の一部を切り欠いた切欠きである。これによれば、筒状体の周方向についての切欠きの幅を大きく設定することにより、内視鏡フードの先端部の内視鏡への映り込みを少なくし、より広い内視鏡の視野を確保することができる。
【0014】
本発明において、前記係合部は、前記クリップの前記基端部の断面形状に適合した円弧形状又はU字形状の切欠きを複数並べて構成されてもよい。これによれば、クリップとの係合に際し、術者は、円弧形状又はU字形状の切欠きにより、傾斜角度や向きが種々変化するクリップを容易に捕捉することができる。また、術者は、係合部を複数のクリップと同時に係合させて、より良好なカウンタトラクションを得ることもできる。
【0015】
前記切欠きは、矩形状を有してもよい。
【0016】(削除)
【0017】(削除)
【0018】(削除)
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)、(b)及び(c)は、それぞれ本発明の第1実施形態に係る内視鏡フードを示す正面図、平面図及び斜視図である。
【図2】図1の内視鏡フードを用いてESDを行う様子を示す説明図である。
【図3】(a)及び(b)は、本発明の第2実施形態に係る内視鏡フードの正面及び平面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る内視鏡フードの平面図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係る内視鏡フードの平面図である。
【図6】(a)及び(b)は、本発明の第5実施形態に係る内視鏡フードの正面図及び斜視図である。
【図7】(a)及び(b)は、本発明の第6実施形態に係る内視鏡フードの正面図及び斜視図である。
【図8】(a)及び(b)は、本発明の第7実施形態に係る内視鏡フードの正面図及び斜視図である。
【図9】本発明の第8実施形態に係る内視鏡フードの斜視図である。
【図10】本発明の第9実施形態に係る内視鏡フードの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。図1(a)、(b)及び(c)は、それぞれ本発明の第1実施形態に係る内視鏡フードを示す正面図、平面図及び斜視図である。図1(a)及び(b)では、内視鏡フード1が内視鏡2の先端に装着されている様子が示されている。また、図2は、内視鏡フード1を用いてESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)を行う様子を示す。
【0021】
図1及び図2に示すように、本実施形態の内視鏡フード1は、両端が開放された中空の筒状体3を備える。筒状体3は、筒状体3の基端側に設けられ、筒状体3を、内視鏡2の先端部の外周面に着脱可能に装着するための装着部4と、筒状体3の先端部に設けられ、病変部5に装着された止血クリップ6に係合させてカウンタトラクションを得るための係合部7とを有する。
【0022】
装着部4は、内視鏡2の先端部に内視鏡フード1を外嵌させて固定することができるように、該先端部の外径に対応した内径を有する。係合部7は、筒状体3の先端の一部を切り欠いた切欠きとして構成される。図1(a)の正面図で見た係合部7の幅(軸線方向の寸法)及び高さは、止血クリップ6の直径と同程度の寸法を有する。
【0023】
ESDを行うに際して、術者は、まず、図2(a)に示すように、内視鏡2の鉗子チャンネル(図示せず)を介して、食道、胃、小腸、大腸等の消化管の表層8における病変部5の周囲にマーキング9を施す。
【0024】
次に、術者は、鉗子チャンネルを介して、病変部5の粘膜下層に生理的食塩水、ヒアルロン酸ナトリウム溶液等の薬剤を局注することにより、病変部5を隆起させる。そして、術者は、内視鏡2の鉗子チャンネルに装填したフックナイフ等の切開用ナイフ10により、病変部5の全周を切開し、カット部11を形成する。
【0025】
次に、術者は、図2(b)に示すように、止血クリップ6を、カット部11における切開して剥離する部分の近傍の適切な位置に装着する。止血クリップ6としては、例えばオリンパス社のショートクリップHX-160-135Sを用いることができる。止血クリップ6の装着及び取外しは、例えば内視鏡2の鉗子チャンネルを利用し、例えば同社の回転クリップ装置を用いて行うことができる。
【0026】
次に、術者は、図2(c)に示すように、切開しようとする部分に内視鏡2の先端部を近接させて、内視鏡2の先端に装着された内視鏡フード1の係合部7に止血クリップ6を係合させる。術者はさらに、係合した止血クリップ6をカット部11が開く方向に押し上げながら、鉗子チャンネルに装填したITナイフ12により、病変部5直下の粘膜下層を切開し、剥離する。
【0027】
このとき、止血クリップ6が、カット部11が開く方向に押し上げられることによって、病変部5直下の剥離すべき部分に対し、適切なカウンタトラクションが付与される。これにより、術者は、内視鏡2による良好な視界の下で、粘膜下層の切開及び剥離を効率的に行うことができる。
【0028】
以上のように、本実施形態によれば、内視鏡フード1の係合部7を、病変部5に装着された止血クリップ6に係合させてカウンタトラクションを得ながら、病変部5直下の粘膜下層を切開して剥離することができる。すなわち、内視鏡2とITナイフ12の操作で粘膜下層を切開・剥離する手技を行うときの僅かな手加減によってカウンタトラクションを得ることができる。
【0029】
図3(a)及び(b)は、本発明の第2実施形態に係る内視鏡フードの正面図及び平面図である。図3に示すように、本実施形態の内視鏡フード13は、両端が開放された筒状体14の先端部に、アーチ形状に切り欠いた切欠きとしての係合部15を有する。
【0030】
これによれば、図2(c)のようにしてカウンタトラクションを得ながら手技を行う際に、止血クリップ6を係合部15により容易に補足して押し上げて、適切なカウンタトラクションを得ることができる。本実施形態における他の構成や作用については、第1実施形態の場合と同様である。
【0031】
図4は、第3実施形態に係る内視鏡フードの平面図である。図4に示すように、本実施形態の内視鏡フード16は、両端が開放された筒状体17の先端部に、止血クリップ6の断面形状に適合した円弧形状の切欠きを複数並べて構成される係合部18を有する。すなわち、係合部18は、その円弧形状の切欠きに止血クリップ6が嵌り込むことにより、止血クリップ6を保持することができるようになっている。
【0032】
これによれば、図2(c)のようにしてカウンタトラクションを得ながら手技を行う際に、止血クリップ6の傾斜角度や向きが種々変化する場合でも、係合部18のいずれかの円弧形状の切欠きにより、止血クリップ6を容易に捕捉することができる。また、係合部18を複数の止血クリップ6と同時に係合させて、より良好なカウンタトラクションを得ることもできる。他の点については、第1実施形態の場合と同様である。
【0033】
図5は、第4実施形態に係る内視鏡フードの平面図である。図5に示すように、本実施形態の内視鏡フード19は、両端が開放された筒状体20の先端部において、止血クリップ6の断面形状に適合したU字形状の切欠きを複数並べて構成した係合部21を有する。すなわち、係合部21は、そのU字形状の切欠きに止血クリップ6が嵌り込むことにより、止血クリップ6を保持することができるようになっている。
【0034】
これによれば、図2(c)のようにしてカウンタトラクションを得ながら手技を行う際に、止血クリップ6の傾斜角度が種々変化する場合でも、いずれかのU字形状の切欠きにより、止血クリップ6を容易に捕捉することができる。また、係合部21を複数の止血クリップ6と同時に係合させて、より良好なカウンタトラクションを得ることもできる。他の点については、第1実施形態の場合と同様である。
【0035】
図6(a)及び(b)は、第5実施形態に係る内視鏡フードの正面図及び斜視図である。図6に示すように、本実施形態の内視鏡フード22は、筒状体23の先端部における周方向の半周、すなわち上半分を矩形状に切り欠いた切欠きとしての係合部24を有する。
【0036】
これによれば、内視鏡フード22の先端部の内視鏡2への映り込みを少なくし、より広い内視鏡2の視野を確保することができる。他の点については、第1実施形態の場合と同様である。
【0037】
図7(a)及び(b)は、第6実施形態に係る内視鏡フードの正面図及び斜視図である。図7に示すように、本実施形態の内視鏡フード25は、筒状体26の先端部の上側3分の2ほどを矩形状に切り欠いた切欠きとしての係合部27を有する。これによっても、図6の内視鏡フード22の場合と同様に、広い内視鏡2の視野を確保することができる。他の点については、第1実施形態の場合と同様である。
【0038】
図8(a)及び(b)は、第7実施形態に係る内視鏡フードの正面図及び斜視図である。図8に示すように、本実施形態の内視鏡フード28は、筒状体29の先端部の上側3分の2ほどを矩形状に切り欠いた1段目の切欠きと、その基端側に隣接する筒状体29部分の上側4分の1ほどを矩形状に切り欠いた2段目の切欠きとで構成される係合部30を有する。すなわち、係合部30は、矩形状に2段に切り欠いた形状を有する。
【0039】
これによれば、図2(c)のようにしてカウンタトラクションを得ながら手技を行うに際し、術者は、2段目の切欠きによってクリップを保持しながら1段目の切欠きでクリップを押し上げることができる。これにより、安定してカウンタトラクションを得ることができる。また、図6の内視鏡フード22の場合と同様に、広い内視鏡2の視野を確保することができる。他の点については、第1実施形態の場合と同様である。
【0040】
図9は、第8実施形態に係る内視鏡フードの斜視図である。図9に示すように、本実施形態の内視鏡フード31は、筒状体32の先端部において、矩形状に切り欠いた切欠きとしての大小2つの係合部33a及び33bを有する。
【0041】
これによれば、止血クリップ6の傾斜角度が種々変化する場合でも、係合部33a又は33bにより、止血クリップ6を容易に捕捉することができる。また、係合部33a及び33bは、大きさが異なるので、径の大きさが異なる止血クリップ6に対応することができる。他の点については、第1実施形態の場合と同様である。
【0042】
なお、本実施形態では、係合部の数は2つであり、これらが180°間隔で設けられているが、より多くの大きさの異なる係合部を設けてもよい。これらの係合部は、筒状体32の周方向に等間隔で配置される。
【0043】
図10は、第9実施形態に係る内視鏡フードの斜視図である。図10に示すように、本実施形態の内視鏡フード34は、矩形状に切り欠いた切欠きとしての大中小3つの係合部36a、36b及び36cを有する。係合部36a?36cは、筒状体35の周方向の半周にわたり、等間隔(90°間隔)で設けられる。
【0044】
これによれば、図9の内視鏡フード31の場合と同様の効果を得ることができる。他の点については、第1実施形態の場合と同様である。
【0045】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されない。例えば、止血クリップ6に代えて、他の医療用クリップ、例えばマーキング用のクリップを用いてもよい。また、かかるクリップの形状や寸法等に合わせて、図1?図10の各タイプの係合部を有する内視鏡フードを適宜選択して用いるようにしてもよい。また、内視鏡フードは、同一又は異なるタイプの係合部を複数備えてもよい。これらの係合部は、周方向に等間隔で配置してもよい。
【符号の説明】
【0046】
1、13、16、19、22、25、28、31、34…内視鏡フード、2…内視鏡、3、14、17、20、23、26、29、32、35…筒状体、4…装着部、6…止血クリップ、7、15、18、21、24、27、30、33a、33b、36a、36b、36c…係合部。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡的粘膜下層剥離術を行う際に内視鏡に装着して用いられる内視鏡フードであって、
両端が開放された中空の筒状体を備え、
前記筒状体は、
前記筒状体の基端側に設けられ、該筒状体を、前記内視鏡の先端部の外周面に着脱可能に装着するための装着部と、
前記筒状体の先端の一部を切り欠いた切欠きである係合部とを有し、
病変部に装着される先端部と該先端部の基端側に設けられた棒状の基端部とからなる医療用のクリップの該基端部が前記係合部に嵌まり込むことにより、該クリップが該係合部で保持され、該先端部が前記病変部に装着された状態で前記内視鏡が移動した際に該内視鏡と一体的に該クリップを移動させて、前記病変部直下の剥離すべき粘膜下層に対してカウンタトラクションを付与し、
前記係合部を複数有し、
複数の前記係合部が、前記筒状体の周方向に等間隔で設けられ、
各係合部の切欠きの寸法を異なるものとしたことを特徴とする内視鏡フード。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記係合部は、前記クリップの前記基端部の断面形状に適合した円弧形状又はU字形状の切欠きを複数並べて構成されることを特徴とする請求項1に記載の内視鏡フード。
【請求項4】
前記切欠きは、矩形状を有することを特徴とする請求項1に記載の内視鏡フード。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-01-21 
出願番号 特願2012-232146(P2012-232146)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A61B)
P 1 651・ 536- YAA (A61B)
P 1 651・ 121- YAA (A61B)
P 1 651・ 537- YAA (A61B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲高▼ 芳徳  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 信田 昌男
福島 浩司
登録日 2017-01-06 
登録番号 特許第6066660号(P6066660)
権利者 山本 克己 株式会社トップ
発明の名称 内視鏡フード  
代理人 特許業務法人創成国際特許事務所  
代理人 特許業務法人創成国際特許事務所  
代理人 特許業務法人創成国際特許事務所  

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