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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
管理番号 1350646
異議申立番号 異議2018-700625  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-27 
確定日 2019-03-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6272588号発明「撥水処理剤及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6272588号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7、11、12〕、8、9、10について訂正することを認める。 特許第6272588号の請求項1、4、6ないし9、11、12に係る特許を維持する。 特許第6272588号の請求項2、3、5、10に係る異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6272588号の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)4月27日(優先権主張 2016年(平成28年)5月17日、日本国(JP))を国際出願日とする出願であり、平成30年1月12日にその特許権の設定登録がされ、同月31日に特許掲載公報が発行され、その後、請求項1ないし12に係る特許について、同年7月27日に特許異議申立人駒井佳子(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、同年9月28日付けで取消理由通知がなされ、同年11月21日に特許権者により、訂正請求・意見書の提出がなされ、それに対し、異議申立人からは、意見書の提出がなかったものである。

第2 訂正の適否

1 訂正事項

上記平成30年11月21日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許請求の範囲の記載を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、請求項〔1-7、11、12〕、〔8-10〕について訂正することを求めるものであって、その具体的訂正事項は次のとおりである。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に「撥水成分と、当該撥水成分と反応し得る架橋成分とを含み、前記撥水成分と前記架橋成分とが1つの粒子中に含有されてなるハイブリッドエマルションから成り、フッ素を含有する成分を含まない水系エマルションである、撥水処理剤。」とあるのを「撥水成分と、当該撥水成分と反応し得る架橋成分とを含み、前記撥水成分と前記架橋成分とが1つの粒子中に含有されてなるハイブリッドエマルションから成り、前記撥水成分が、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、エポキシ基のいずれか1以上を有するシリコーン系化合物であり、かつ、前記架橋成分が、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネートである、あるいは、前記撥水成分が、架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステルであり、かつ、前記架橋成分がブロックイソシアネートである、フッ素を含有する成分を含まない水系エマルションである、繊維製品用撥水処理剤。」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項4、6、7、11、12も同様に訂正する。

(2)訂正事項2

特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3

特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4

特許請求の範囲の請求項4に「前記撥水成分が20?90質量%、前記架橋成分が10?80質量%である、請求項1?3のいずれか1項に記載の」とあるのを「前記撥水成分が30?85質量%、前記架橋成分が15?70質量%である、請求項1に記載の」に訂正する。
請求項4の記載を引用する請求項6、7、11、12も同様に訂正する。

(5)訂正事項5

特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6

特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5のいずれか1項に記載の」とあるのを「請求項1又は4のいずれか1項に記載の」に訂正する。
請求項6の記載を引用する請求項7、11、12も同様に訂正する。

(7)訂正事項7

特許請求の範囲の請求項7に「さらにアクリレートポリマーまたはアクリル-シリコーンポリマーを含む、請求項1?6のいずれか1項に記載の」とあるのを「さらにエステル部分の炭素数が12?30であるアクリレートポリマーまたはアクリル-シリコーンポリマーを含む、請求項1、4又は6のいずれか1項に記載の」に訂正する。
請求項7の記載を引用する請求項11、12も同様に訂正する。

(8)訂正事項8

特許請求の範囲の請求項11に「請求項1?7のいずれか1項に記載の」とあるのを「請求項1、4、6又は7のいずれか1項に記載の」に訂正する。

(9)訂正事項9

特許請求の範囲の請求項12に「請求項1?7のいずれか1項に記載の」とあるのを「請求項1、4、6又は7のいずれか1項に記載の」に訂正する。

(10)訂正事項10

特許請求の範囲の請求項8に「(I)イソシアネート化合物と、当該イソシアネート化合物のイソシアネート基と反応しうる親水性化合物と、当該イソシアネート化合物のイソシアネート基と反応しうるブロック剤とを、NCO含有率が0%となるまで反応させて、ブロックイソシアネートを得る工程、
(II)前記工程(I)で得られたブロックイソシアネートを含む液体中に、フッ素を含まない撥水成分及び水を加えて混合し、エマルションを得る工程、及び、
(III)前記工程(II)で得られたエマルションから有機溶媒を除去し、ブロックイソシアネートと撥水成分とを含む、フッ素を含まない水系エマルションを得る工程、
を含む、フッ素を含まない撥水処理剤の製造方法。」とあるのを「(I)イソシアネート化合物と、当該イソシアネート化合物のイソシアネート基と反応し得るポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルである親水性化合物と、当該イソシアネート化合物のイソシアネート基と反応しうるブロック剤とを、NCO含有率が0%となるまで反応させて、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネートを得る工程、
(II)前記工程(I)で得られたブロックイソシアネートを含む液体中に、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、エポキシ基のいずれか1以上を有するシリコーン系化合物であるフッ素を含まない撥水成分及び水を加えて混合し、エマルションを得る工程、及び、
(III)前記工程(II)で得られたエマルションから有機溶媒を除去し、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネートとアミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、エポキシ基のいずれか1以上を有するシリコーン系化合物である撥水成分とを含む、ハイブリッドエマルションであるフッ素を含まない水系エマルションを得る工程、
を含む、フッ素を含まない繊維製品用撥水処理剤の製造方法。」に訂正する。

(11)訂正事項11

特許請求の範囲の請求項9に「(b)前記工程(a)で得られたブロックイソシアネートを含む液体中に、フッ素を含まない撥水成分、界面活性剤及び水を加えて混合し、エマルションを得る工程、及び、
(c)前記工程(b)で得られたエマルションから有機溶媒を除去し、ブロックイソシアネートと撥水成分とを含む、フッ素を含まない水系エマルションを得る工程、
を含む、フッ素を含まない撥水処理剤の製造方法。」とあるのを「(b)前記工程(a)で得られたブロックイソシアネートを含む液体中に、架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステルであるフッ素を含まない撥水成分、界面活性剤及び水を加えて混合し、エマルションを得る工程、及び、
(c)前記工程(b)で得られたエマルションから有機溶媒を除去し、ブロックイソシアネートと架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステルである撥水成分とを含む、ハイブリッドエマルションであるフッ素を含まない水系エマルションを得る工程、
を含む、フッ素を含まない繊維製品用撥水処理剤の製造方法。」に訂正する。

(12)訂正事項12

特許請求の範囲の請求項10を削除する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について

ア 訂正の目的の適否

訂正事項1は、請求項1の「撥水成分」が、「アミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、エポキシ基のいずれか1以上を有するシリコーン系化合物」であり、かつ「架橋成分」が、「ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネート」であること(以下、「訂正事項1-1」という。)、あるいは、「撥水成分」が、「架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステル」であり、かつ「架橋成分」が、「ブロックイソシアネート」であること(以下、「訂正事項1-2」という。)を限定し、「撥水処理剤」が、「繊維製品用」であること(以下、「訂正事項1-3」という。)を限定するものである。
そうすると、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるといえる。

新規事項の追加の有無

訂正事項1-1の「撥水成分」に関する事項は、本件明細書の段落【0022】の「撥水成分として用いられるシリコーン系化合物としては、架橋成分と反応し得る官能基を有することが好ましく、架橋成分がブロックイソシアネートである場合、イソシアネート基と反応し得るアミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、エポキシ基等を有するものが好ましく・・・」との記載等、「架橋成分」に関する事項は、同段落【0033】の「ブロックイソシアネートは自己乳化性を有することがより好ましく・・・自己乳化性を付与するためにイソシアネート化合物と反応される親水性化合物としては例えば、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル・・・等のポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル類・・・等が好ましく用いられる。」との記載等、及び、上記「撥水成分」と上記「架橋成分」を組み合わせることは、同段落【0068】、【0069】の[製造例1]、[製造例2]の記載等に基づくものである。
また、訂正事項1-2の「撥水成分」に関する事項は、同段落【0029】の「撥水成分として用いられる炭化水素系化合物としては、長鎖アルキル基を有するものが好ましく、架橋成分と反応しうる官能基を有することが好ましい。例としては脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル・・・等を用いることができる。」との記載等、「架橋成分」に関する事項は、同段落【0032】の「フッ素を含まない架橋成分が用いられ、特に、ブロックイソシアネートを用いることが好ましい。」との記載等、及び、上記「撥水成分」と上記「架橋成分」を組み合わせることは、同段落【0076】?【0078】の[製造例4]?[製造例6]の記載等に基づくものである。
さらに、訂正事項1-3は、同段落【0066】の「本発明の撥水処理剤は、綿、絹、麻、ウール等の天然繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル、スパンデックス等の合成繊維及びこれらを用いた繊維製品に対して幅広く撥水性と洗濯耐久性とを付与する。」との記載等に基づくものである。
そうすると、訂正事項1は、新規事項を追加するものではない。

ウ 特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無

訂正事項1は、上記アで述べたように、訂正前の「撥水成分」、「架橋成分」及び「撥水処理剤の用途」をさらに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2、3、5、12について

訂正事項2、3、5及び12は、請求項2、3、5及び10を、それぞれ削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。

(3)訂正事項4について

ア 訂正の目的の適否

訂正事項4は、請求項4の「撥水成分」及び「架橋成分」の含有量を、「20?90質量%」及び「10?80質量%」から、それぞれ「30?85質量%」及び「15?70質量%」にその範囲を限定すると共に、請求項4が引用する請求項を、「請求項1?3のいずれか1項」から「請求項1」とし、請求項4が引用する請求項数を減少させるものであるから、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるといえる。

新規事項の追加の有無

訂正事項4の「撥水成分」及び「架橋成分」の含有量を、それぞれ「30?85質量%」及び「15?70質量%」に限定する訂正は、本件明細書の段落【0038】の「撥水処理剤中の固形分中、撥水成分と架橋成分との比は、撥水成分が20?90質量%、架橋成分が10?80質量%であることが好ましく、より好ましくは撥水成分が30?85質量%、架橋成分が15?70質量%・・・である。」との記載等に基づくものであり、訂正事項4の請求項4が引用する請求項を「請求項1」に限定する訂正は、請求項4が引用する請求項数を減少させるものであるから、訂正事項4は、新規事項を追加するものではない。

ウ 特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無

訂正事項4は、上記アで述べたように、訂正前の「撥水成分」、「架橋成分」の含有量をさらに限定するものであると共に、請求項4が引用する請求項数を減少させるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項6、8及び9について

訂正事項6は、請求項6が引用する請求項を、「請求項1?5のいずれか1項」から「請求項1又は4のいずれか1項」とし、訂正事項8は、請求項11が引用する請求項を、「請求項1?7のいずれか1項」から「請求項1、4、6又は7のいずれか1項」とし、訂正事項9は、請求項12が引用する請求項を、「請求項1?7のいずれか1項」から「請求項1、4、6又は7のいずれか1項」とし、それぞれ、請求項6、11及び12が引用する請求項数を減少させるものであるから、訂正事項6、8及び9は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。

(5)訂正事項7について

ア 訂正の目的の適否

訂正事項7は、請求項7の「アクリレートポリマー」が、「エステル部分の炭素数が12?30である」ことを限定すると共に、請求項7が引用する請求項を、「請求項1?6のいずれか1項」から「請求項1、4又は6のいずれか1項」とし、請求項7が引用する請求項数を減少させるものであるから、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるといえる。

新規事項の追加の有無

訂正事項7の「アクリレートポリマー」を、「エステル部分の炭素数が12?30である」ものに限定する訂正は、本件明細書の段落【0044】及び【0045】の「アクリレート系化合物としては、(メタ)アクリレート単量体を重合して得られる(メタ)アクリレートポリマーを用いることができる。(メタ)アクリレート単量体は、炭素数が12以上のエステル部分を有することが好ましく、このエステル部分は炭化水素基であることが好ましい。・・・上記エステル部分の炭素数は、12?30であることが好ましい。炭素数が12未満であると、撥水処理剤として十分な撥水性を発揮できない。一方、炭素数が30を超えると風合いが粗硬となるおそれがある。」との記載等に基づくものであり、訂正事項7の請求項7が引用する請求項を「請求項1、4又は6のいずれか1項」に限定する訂正は、請求項7が引用する請求項数を減少させるものであるから、訂正事項7は、新規事項を追加するものではない。

ウ 特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無

訂正事項7は、上記アで述べたように、訂正前の「アクリレートポリマー」をさらに限定するものであると共に、請求項7が引用する請求項数を減少させるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項10について

ア 訂正の目的の適否

訂正事項10は、請求項8の「親水性化合物」が、「ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル」であること(以下、「訂正事項10-1」という。)、「ブロックイソシアネート」が、「ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入された」ものであること(2か所、以下、「訂正事項10-2」という。)、「撥水成分」が、「アミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、エポキシ基のいずれか1以上を有するシリコーン系化合物」であること(2か所、以下、「訂正事項10-3」という。)、「フッ素を含まない水系エマルション」が、「ハイブリッドエマルション」であること(以下、「訂正事項10-4」という。)、及び「撥水処理剤」が、「繊維製品用」であること(以下、「訂正事項10-5」という。)を限定するものである。
そうすると、訂正事項10は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるといえる。

新規事項の追加の有無

訂正事項10-1及び訂正事項10-2は、本件明細書の段落【0033】の「ブロックイソシアネートは自己乳化性を有することがより好ましく・・・撥水性の観点から、好ましくはオキシエチレン基を有するノニオン性親水基を導入したブロックイソシアネートを用いることができる。・・・自己乳化性を付与するためにイソシアネート化合物と反応される親水性化合物としては例えば、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル・・・等のポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル類・・・等が好ましく用いられる。」との記載等、訂正事項10-3は、同段落【0022】の「撥水成分として用いられるシリコーン系化合物としては、架橋成分と反応し得る官能基を有することが好ましく、架橋成分がブロックイソシアネートである場合、イソシアネート基と反応し得るアミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、エポキシ基等を有するものが好ましく・・・」との記載等、訂正事項10-4は、同段落【0013】の「すなわち本発明は、撥水成分と、当該撥水成分と反応し得る架橋成分とを含み、前記撥水成分と前記架橋成分とが1つの粒子中に含有されてなるハイブリッドエマルションから成り、フッ素を含有する成分を含まない水系エマルションである、撥水処理剤に関する。」との記載等、及び訂正事項10-5は、同段落【0066】の「本発明の撥水処理剤は、綿、絹、麻、ウール等の天然繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル、スパンデックス等の合成繊維及びこれらを用いた繊維製品に対して幅広く撥水性と洗濯耐久性とを付与する。」との記載等に基づくものである。
そうすると、訂正事項10は、新規事項を追加するものではない。

ウ 特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無

訂正事項10は、上記アで述べたように、訂正前の「親水性化合物」、「ブロックイソシアネート」、「撥水成分」、「水系エマルション」及び「撥水処理剤の用途」をさらに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項11について

ア 訂正の目的の適否

訂正事項11は、請求項9の「撥水成分」が、「架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステル」であること(2か所、以下、「訂正事項11-1」という。)、「フッ素を含まない水系エマルション」が、「ハイブリッドエマルション」であること(以下、「訂正事項11-2」という。)、及び「撥水処理剤」が、「繊維製品用」であること(以下、「訂正事項11-3」という。)を限定するものである。
そうすると、訂正事項11は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるといえる。

新規事項の追加の有無

訂正事項11-1は、本件明細書の段落【0029】の「撥水成分として用いられる炭化水素系化合物としては、長鎖アルキル基を有するものが好ましく、架橋成分と反応しうる官能基を有することが好ましい。例としては脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル・・・等を用いることができる。」との記載等、訂正事項11-2は、同段落【0013】の「すなわち本発明は、撥水成分と、当該撥水成分と反応し得る架橋成分とを含み、前記撥水成分と前記架橋成分とが1つの粒子中に含有されてなるハイブリッドエマルションから成り、フッ素を含有する成分を含まない水系エマルションである、撥水処理剤に関する。」との記載等、及び訂正事項11-3は、同段落【0066】の「本発明の撥水処理剤は、綿、絹、麻、ウール等の天然繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル、スパンデックス等の合成繊維及びこれらを用いた繊維製品に対して幅広く撥水性と洗濯耐久性とを付与する。」との記載等に基づくものである。
そうすると、訂正事項11は、新規事項を追加するものではない。

ウ 特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無

訂正事項11は、上記アで述べたように、訂正前の「撥水成分」、「水系エマルション」及び「撥水処理剤の用途」をさらに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括

上記2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1-7、11、12〕、〔8-10〕について訂正することを求めるものであり、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
そして、特許権者から、訂正事項8ないし10が認められた場合、訂正後のこれらの請求項は、それぞれ別の訂正単位として扱われることの求めがあり、これを認めるから、訂正後の請求項〔1-7、11、12〕、8、9、10について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正は容認し得るものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る発明(以下、請求項1に係る発明を項番に対応して「本件発明1」、「本件発明1」に対応する特許を「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)の記載は、次のとおりである。下線は、訂正箇所を表す。

「【請求項1】
撥水成分と、当該撥水成分と反応し得る架橋成分とを含み、前記撥水成分と前記架橋成分とが1つの粒子中に含有されてなるハイブリッドエマルションから成り、
前記撥水成分が、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、エポキシ基のいずれか1以上を有するシリコーン系化合物であり、かつ、前記架橋成分が、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネートである、あるいは、
前記撥水成分が、架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステルであり、かつ、前記架橋成分がブロックイソシアネートである、
フッ素を含有する成分を含まない水系エマルションである、繊維製品用撥水処理剤。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記撥水処理剤の固形分中、前記撥水成分が30?85質量%、前記架橋成分が15?70質量%である、請求項1に記載の撥水処理剤。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
さらに界面活性剤を含む、請求項1又は4のいずれか1項に記載の撥水処理剤。
【請求項7】
さらにエステル部分の炭素数が12?30であるアクリレートポリマーまたはアクリル-シリコーンポリマーを含む、請求項1、4又は6のいずれか1項に記載の撥水処理剤。
【請求項8】
(I)イソシアネート化合物と、当該イソシアネート化合物のイソシアネート基と反応し得るポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルである親水性化合物と、当該イソシアネート化合物のイソシアネート基と反応しうるブロック剤とを、NCO含有率が0%となるまで反応させて、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネートを得る工程、
(II)前記工程(I)で得られたブロックイソシアネートを含む液体中に、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、エポキシ基のいずれか1以上を有するシリコーン系化合物であるフッ素を含まない撥水成分及び水を加えて混合し、エマルションを得る工程、及び、
(III)前記工程(II)で得られたエマルションから有機溶媒を除去し、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネートとアミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、エポキシ基のいずれか1以上を有するシリコーン系化合物である撥水成分とを含む、ハイブリッドエマルションであるフッ素を含まない水系エマルションを得る工程、
を含む、フッ素を含まない繊維製品用撥水処理剤の製造方法。
【請求項9】
(a)イソシアネート化合物と、当該イソシアネート化合物のイソシアネート基と反応しうるブロック剤とを、NCO含有率が0%となるまで反応させて、ブロックイソシアネートを得る工程、
(b)前記工程(a)で得られたブロックイソシアネートを含む液体中に、架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステルであるフッ素を含まない撥水成分、界面活性剤及び水を加えて混合し、エマルションを得る工程、及び、
(c)前記工程(b)で得られたエマルションから有機溶媒を除去し、ブロックイソシアネートと架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステルである撥水成分とを含む、ハイブリッドエマルションであるフッ素を含まない水系エマルションを得る工程、
を含む、フッ素を含まない繊維製品用撥水処理剤の製造方法。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
請求項1、4、6又は7のいずれか1項に記載の撥水処理剤によって撥水性が付与された繊維製品。
【請求項12】
請求項1、4、6又は7のいずれか1項に記載の撥水処理剤を使用して、撥水性繊維製品を製造する方法であって、前記撥水処理剤を含む加工液を調製し、当該加工液に繊維製品を接触させる工程を含むことを特徴とする、撥水性繊維製品の製造方法。」

第4 取消理由の概要

請求項1ないし12(当審注:特許査定時の特許請求の範囲に記載された請求項。以下、「第3」と区別して、単に「請求項に係る発明」という。)に対して平成30年9月28日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

1 請求項1、4ないし6、11、12に係る発明は、いずれも甲1に記載された発明であり、請求項1、4ないし6、11、12に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。また、請求項1、4ないし7、11、12に係る発明は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、請求項1、4ないし7、11、12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(以下、「取消理由1」という。請求項1、5、11、12に対する甲1を引用例とする特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項による異議申立て理由は、上記取消理由1に含まれる。)

2 請求項1ないし6、11、12に係る発明は、いずれも甲2に記載された発明であり、請求項1ないし6、11、12に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。また、請求項1ないし12に係る発明は、いずれも甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、請求項1ないし12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(以下、「取消理由2」という。請求項1ないし6、8ないし12に対する甲2及び甲3を引用例とする特許法第29条第2項による異議申立て理由は、上記取消理由2に含まれる。)

3 請求項1ないし12に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、請求項1ないし12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(以下、「取消理由3」という。請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項4ないし7、11及び12に係る発明の「架橋成分」について、本件明細書の発明の詳細な説明には、「ブロックイソシアネート」のみしか記載されておらず、本件明細書の発明の詳細な説明の記載からは、たとえ技術常識を参酌したとしても、請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項4ないし7、11及び12に係る発明の「ブロックイソシアネート」以外の「架橋成分」は、当業者が本件の課題を解決できるとは認識できるものではないとする特許法第36条第6項第1号による異議申立て理由は、上記取消理由3に含まれる。)



甲第1号証:特許第4829513号公報
甲第2号証:特開2015-199887号公報
甲第3号証:特開2004-59609号公報
(以下、甲第1号証等を略して、「甲1」などという。)

第5 取消理由に関する当審の判断

1 取消理由1及び取消理由2について

(1)甲1?甲3に記載された事項

ア 甲1(特許第4829513号公報)に記載の事項
甲1には、以下の事項が記載されている。

(ア1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A2)下記平均組成式(2)で示される、1分子中に少なくとも2個の水酸基を持つオルガノポリシロキサン 100質量部
【化1】

[式中、R^(1)は互いに同一又は異なっても良い炭素数1?20の一価炭化水素基であり、その一部はSiに直結した水素原子であってよい。R^(1)中の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部はハロゲン原子で置換されていてもよい。R^(3)は水酸基を示し、X^(2)は以下の式で示される基である。
【化2】

(a2、b2、c2、d2はオルガノポリシロキサン(A2)の25℃での粘度が0.05?10000Pa・sとなるような数であり、b2、c2、d2は0であってもよい。)]
(B1)1分子中に少なくとも3個のSiH基を有するオルガノポリシロキサン 0?30質量部
(B2)1分子中に少なくとも3個の加水分解性基を有するオルガノポリシロキサン 0?30質量部
(C)セルロースエーテル 50?1,000質量部
(D)脂肪族ジカルボン酸、ヒドロキシルカルボン酸、それらのナトリウム塩及び/又はそれらのカリウム塩 10?400質量部
(E1)縮合触媒 0?5質量部
(F)水 100?100,000質量部
(G)ノニオン系界面活性剤 0.1?100質量部
を含むことを特徴とする撥水撥油組成物。
・・・
【請求項4】
紙基材を、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の撥水撥油組成物により処理してなる撥水性及び撥油性の紙。
【請求項5】
前記紙基材が、天然繊維又は合成繊維を主原料とした紙基材である請求項4に記載の撥水性及び撥油性の紙。」

(イ1)「【技術分野】
【0001】
本発明は各種紙基材に対し撥水性及び撥油性を付与できるシリコーン組成物及び該組成物を含む紙処理剤を提供する。」

(ウ1)「【0007】
これらの状況から、パーフルオロアルキル基を有する化合物を利用することなく、紙材料に撥水撥油性や非粘着性を付与する方法が求められている。パーフルオロアルキル基を代替する1つとして、ポリビニルアルコール(以下PVAと略す)系樹脂がある。該樹脂は古くから目止めなどに紙基材処理に利用されており、その高い親水性は、紙に撥油性を与える効果を有する。しかし、その親水性ゆえに紙に撥水性及び非粘着性を与えることが困難である。
【0008】
一方、シリコーンは撥水性及び非粘着性を付与する加工に利用されている。従って、シリコーンとPVA樹脂とを併用することが考えられるが、前者は疎水性の、後者は親水性であり、この両者を単に混合しても均一に混ざり合うことはなく、安定した組成物とすることが困難である。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明においては優れた撥水撥油性能を有しながら、より安全で環境負荷の小さい組成物を提供することを目的とする。また、該組成物を含む処理剤を用いて、クラフト紙、上質紙、ダンボールなどの紙基材に撥油性と撥水性を付与することを目的とする。」

(エ1)「【0012】
本発明に使用される紙基材としては一般に市販されている、クラフト紙、上質紙、ライナー、ダンボールなどが使用可能で、例えば、マニラ麻、こうぞ、みつまたなどの天然繊維、テトロン、ビニロン、アクリルなどの合成繊維を主原料としたものが利用できる。」

(オ1)「【0032】
(A2)水酸基含有オルガノポリシロキサン
本発明の第2の組成物は、(A2)成分として、下記平均組成式(2)で示される構造を有し、1分子当たり少なくとも2個の水酸基を持つオルガノポリシロキサンである。
【0033】
【化9】

式中、R^(1)は前出のR^(1)と同じである。R^(3)は水酸基を示し、X^(2)は以下の式で示される基である。
【0034】
【化10】

式中、R^(1)は前出のR^(1)と同じである。a2、b2、c2、d2はオルガノポリシロキサン(A2)の25℃での粘度が0.05?10000Pa・s、好ましくは0.1?8000Pa・s、となるような数であり、b2、c2、d2は0であってもよい。好ましくは28≦a2+b2×(d2+1)+c2≦5,000を満足する値である。
【0035】
オルガノポリシロキサン(A2)の水酸基は、他の(A2)成分やセルロース系樹脂(C)と縮合反応による架橋結合を形成することが目的であるが、後述する架橋剤(B2)を介して結合させることでより架橋結合の形成を確実なものにすることもできる。オルガノポリシロキサン(A2)は、1分子当たり少なくとも2個の水酸基を有することが必要である。2個未満では本組成物で処理された紙の撥水性が経時で低下する傾向が大きくなるため望ましくない。好ましくは、式(2)において、1分子が持つ水酸基の数b2+c2+2が2?150の範囲になるように選ばれ、オルガノポリシロキサン100gあたりの水酸基の含有量としては、0.0001モルから0.1モルである。前記下限値未満では、本組成物で処理された紙の撥水性が経時で低下し、前記上限値を越えると、組成物のポットライフが短くなる傾向がある。
・・・
【0037】
オルガノポリシロキサン(A2)と縮合反応する架橋剤成分は必須成分ではないが、1分子中に少なくとも3個のSiH基を有するオルガノポリシロキサン(B1)、もしくは1分子中に少なくとも3個の加水分解性基を有するオルガノポリシロキサン(B2)が使用できる。架橋成分(B1)もしくは(B2)を配合するのであれば、好ましくは、SiHまたは加水分解性基のモル数が、オルガノポリシロキサン(A2)に含まれる水酸基のモル数の5?200倍に相当する量で用いられ、典型的には、オルガノポリシロキサン(A2)100質量部に対して0.1?30質量部の範囲で使用される。前記上限値を超える量で配合しても相応する効果の増加は見られずコストパフォーマンスが低下するだけでなく、かえって組成物の経時変化をもたらし得る。
・・・
【0043】
(B1)SiH基を有するオルガノポリシロキサン
SiH基を有するオルガノポリシロキサン(B1)は、組成式R^(1)_(f)H_(g)SiO_((4-f-g)/2)(式中、R^(1)は上述の平均組成式(2)のR^(1)と同様の意味を示し、fは0≦f≦3の数、gは0<g≦3の数であり、f+gは1≦f+g≦3を満たす。)で示される。SiH基を有するオルガノポリシロキサン(B1)の構造は、1分子中にSiH基を少なくとも3個有することが必要である他は特に限定されず、直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のいずれであってもよい。また、その粘度は、数mPa・s?数万mPa・sの範囲であって良い。
・・・
【0048】
架橋剤(B1)に含有されるSiH基のモル数が、上記したオルガノポリシロキサン(A3)に含まれるアルケニル基のモル数の1?5倍に相当するような量で用いられ、一般的には、オルガノポリシロキサン(A3)100質量部に対して0.1?30質量部、好ましくは0.1?20質量部の範囲である。SiH基の量が前記下限値未満では、アルケニル基とSiH基の付加反応による橋架け結合が十分ではなく、本組成物で処理された紙の撥水性及び非粘着性が不足する一方、前記上限値を超えて配合しても効果の相応の増加は見られずコストパフォーマンスが低下するだけでなく、かえって組成物の経時変化が起こり得る。
【0049】
(B2)加水分解性基を有するオルガノポリシロキサン
加水分解性基を有するオルガノポリシロキサン(B2)は、組成式R^(1)_(f)W_(g)SiO_((4-f-g)/2)(式中、R^(1)は上述の平均組成式(2)のR^(1)と同様であり、Wは加水分解性基を示し、fは0≦f≦3の数、gは0<g≦3の数であり、f+gは1≦f+g≦3を満たす。)で示される。オルガノポリシロキサン(B2)の構造は、1分子中に加水分解性基を少なくとも3個有することが必要である他は特に限定されず、直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のいずれであってもよい。粘度も数mPa・s?数万mPa・sの範囲であって良い。
【0050】
加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基、イソプロペノキシ基などのアルコキシ基、アセトキシ基などのアシルオキシ基、エチルアミノ基などのアミノ基、アミド基、エチルメチルブタノキシム基などのオキシム基が挙げられる。」

(カ1)「【0076】
エマルジョン組成物の調整方法
本発明の組成物の調製は、(F)水に、(E)触媒を除く各成分を所定量加えて、公知の方法を用いて均一に分散して調整することができる。(E)触媒は、組成物を紙に塗工する直前に有効量を配合して、組成物中に均一に分散させる。より好ましくは、(E)触媒は添加に先立ち水分散可能なものとするのが好ましく、例えば、(G)界面活性剤と予め混合しておく方法や、下記のエマルジョンにしておく方法などが有効である。」

(キ1)「【0089】
調製例5
調製例4で使用したのと同様の複合乳化装置に、以下の式で示されるポリオルガノシロキサン(a2)(25℃での粘度が10Pa・s、シラノール基含有量=0.005モル/100g)を100質量部、
【0090】
【化18】

【0091】
以下の式で示されるメチルハイドロジエンポリシロキサン(b2)(粘度が25mPa・s、H含有量=1.5モル/100g)を2質量部、
【0092】
【化19】

【0093】
界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテルのHLBが13.6のもの1質量部を仕込み、均一に撹拌混合した。この混合物に水60質量部を添加してエマルジョン化させ、引続き30分間撹拌した。追加の水837質量部を加えて希釈して撹拌し、固形分10%のO/W型エマルジョンを得た。
・・・
【0102】
B.組成物の調製
・・・
【0109】
実施例8
調製例5のシリコーンエマルジョン100質量部、調製例1のセルロースエーテル水溶液200質量部、シュウ酸5質量部、シュウ酸ナトリウム5質量部(C_(2)O_(4)Na_(2))を良く混合して組成物を調製した。
・・・
【0114】
C.撥水撥油紙の作成
調製例で調製した処理剤組成物を坪量50g/m^(2)の市販クラフト紙に、固形分としての塗工量が2g/m^(2)になるようにバーコーターを用いて塗工し、乾燥機で140℃×30秒の条件で加熱して撥水撥油紙を作成した。」

イ 甲2(特開2015-199887号公報)に記載の事項
甲2には、以下の事項が記載されている。

(ア2)「【請求項1】
(A)分子末端又は側鎖に、下記一般式(1)で表される基を有するオルガノポリシロキサン70?98質量部と、
【化1】

(式中、R^(x)は炭素数1?8の2価炭化水素基であり、aは0?4の整数であり、R^(y)は互いに独立に、水素原子、炭素数1?10の1価炭化水素基又はアシル基であり、R^(y)で示される基のうち、少なくとも1つは水素原子である。)
(B)1分子中に2個以上のイソシアネート基を有し、このイソシアネート基の50%以上が熱解離性ブロック剤で封鎖されたブロックポリイソシアネート2?30質量部とを含有するシリコーン組成物。
・・・
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項記載のシリコーン組成物を含むシリコーンエマルション組成物。
【請求項6】
請求項1?4のいずれか1項記載のシリコーン組成物を含む繊維処理剤。」

(イ2)「【0002】
従来、各種繊維又は繊維製品に柔軟性や平滑性等を付与するための処理剤として、ジメチルポリシロキサン、エポキシ基含有ポリシロキサン、アミノアルキル基含有ポリシロキサン等の各種オルガノポリシロキサンが幅広く使用されている。中でも、特に良好な柔軟性を各種繊維又は繊維製品に付与することができるアミノアルキル基含有オルガノポリシロキサンが多く用いられている。・・・
【0004】
これらの柔軟性、吸水性といった繊維処理剤自体が有する機能や、消臭機能、抗菌機能といった各種薬剤によって発揮される機能を長期間にわたり保持するためには、繰り返し洗濯を行っても繊維上に各種処理剤や機能性薬剤が付着し続ける必要がある。このため、繊維処理剤、樹脂バインダーには高い洗濯耐久性が求められる。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、繊維加工に要求される柔軟性と洗濯耐久性は相反する性能であり、高い洗濯耐久性を有する繊維処理剤やバインダー樹脂を繊維加工に使用すると、柔軟性が失われる傾向にある。また、繊維上にバインダーを加工する際に、高温での処理が必要とされることも課題であった。以上のことから、本発明は、低温処理条件においても高い硬化性を有し、保存安定性に優れ、繊維処理剤として良好な柔軟性を繊維に付与することができ、かつ優れた洗濯耐久性を併せ持つ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく検討を進めた結果、アミノ基を含有するオルガノポリシロキサン70?98質量部と、特定のブロックポリイソシアネート2?30質量部とを含有するシリコーン組成物が、低温でも優れた硬化性を示し、保存安定性にも優れることを見出した。また、本組成物を繊維処理剤に用いることで、良好な柔軟性を繊維に付与することができ、さらに高い洗濯耐久性を示すことを見出し、本発明をなすに至ったものである。
・・・
【発明の効果】
【0009】
本発明のシリコーン組成物は、優れた低温硬化性及び保存安定性を有し、これを用いた繊維処理剤は、良好な柔軟性を繊維に付与することができ、洗濯耐久性にも優れている。」

(ウ2)「【0029】
(B)ブロックポリイソシアネート
(B)1分子中に2個以上のイソシアネート基を有し、このイソシアネート基の50%以上が熱解離性ブロック剤で封鎖されたブロックポリイソシアネートであり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0030】
(B)成分には、公知の各種ブロックポリイソシアネートを使用することができる。ブロックポリイソシアネートは、公知の各種ポリイソシアネート化合物を公知の各種ブロック剤と反応せしめることにより調製することができる。
【0031】
ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート・・・等の各種ジイソシアネートの重合物であり、これらからなるイソシアヌレート構造を有するポリイソシアネートが挙げられる。さらには、上記したような各種のジイソシアネート類と、エチレングリコール、ジエチレングルコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、2-エチル-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-デカンジオール、2,2,4-トリメチルペンタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、ポリオレフィンポリオール等の各種のポリオール類を反応せしめて得られるポリイソシアネート、ポリイソシアネートと、水とを反応せしめて得られる、ビウレット構造を有するポリイソシアネート、上記したようなジイソシアネートを環化三量化せしめて得られる、イソシアヌレート構造を有するポリイソシアネート類等が挙げられる。また、上記したような各種ポリイソシアネートと、上記したような各種ポリオールとを反応せしめて得られるポリイソシアネートを使用することもできる。
・・・
【0033】
本発明に用いることができる熱解離性ブロック剤としては、活性水素を分子内に1個以上有する化合物であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。ブロック剤としては、例えば、アルコール系化合物、アルキルフェノール系化合物、フェノール系化合物、活性エチレン系化合物、メルカプタン系化合物、酸アミド系、酸イミド系、イミダゾール系、尿素系化合物、オキシム系化合物、アミン系化合物、イミド系化合物、ピラゾール系化合物等が挙げられる。」

(エ2)「【0037】
本発明のシリコーン組成物は、(A)オルガノポリシロキサン70?98質量部と、(B)ブロックポリイソシアネート2?30質量部とを含有する。(A)オルガノポリシロキサン80?95質量部と、(B)ブロックポリイソシアネート5?20質量部がさらに好ましい。(A)成分が多すぎる、(B)成分が少なすぎる場合は硬化性が低く、繊維処理剤として使用した場合の洗濯耐久性が不十分であり、(A)成分が少なすぎる、(B)成分が多すぎる場合は保存安定性が不十分である。
・・・
【0039】
さらに、(A)成分のオルガノポリシロキサンに含まれる1つ以上のNH基と、(B)成分のイソシアネート基とが反応した反応物であることが好ましい。反応方法は特に制限されず従来公知の方法に従えばよく、例えば、混合時に加熱することにより反応させることができる。反応時の温度は特に制限されないが、0℃?200℃であることが好ましく、50℃?150℃であることがより好ましい。反応時間は特に限定されず、反応温度によって適宜調整するが、30分?5時間が好ましい。
【0040】
[シリコーンエマルション組成物]
本発明のシリコーン組成物は、ノニオン系、アニオン系界面活性剤もしくはカチオン系界面活性剤等の界面活性剤により乳化させて、これを含むシリコーンエマルション組成物とすることができる。シリコーンエマルション組成物中のシリコーン組成物の配合量は、10?50質量%が好ましく、20?40質量%がより好ましい。乳化方法については後述する。」

(オ2)「【0049】
[合成例1]
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素吹き込み管、滴下ロートを備えたセパラブルフラスコ内を窒素雰囲気にし、ヘキサメチレンジイソシアネート600部を仕込み、撹拌下反応器内温度を70℃に保持した。イソシアヌレート化触媒テトラメチルアンモニウムカプリエートを加え、反応率が40%になった時点でリン酸を添加し反応を停止した。反応液をろ過した後、薄膜蒸発缶を用いて未反応のヘキサメチレンジイソシアネートを除去した。得られたポリイソシアネートの25℃における粘度は2,500mPa・s、数平均分子量は680であった。
・・・
【0050】
[合成例2]
合成例1と同様な反応器に合成例1で得られたイソシアヌレート100部、ポリプロピレンジオール13部、溶剤として酢酸ブチルを最終ブロックポリイソシアネート成分濃度が90%になるように仕込み、窒素雰囲気下、70℃で3時間保持した。その後、3,5-ジメチルピラゾール50部を添加し、赤外スペクトルでイソシアネート基の特性吸収がなくなったことを確認した。得られたブロックポリイソシアネートの平均分子量は1,200であった。
・・・
【0058】
[実施例6]
上記式(A)で示されるオルガノポリシロキサン(分子量4066、アミン当量:1010g/モル)95.0部、合成例2で得られたブロックポリイソシアネート5.0部を25℃で30分間撹拌し、シリコーン組成物を得た。
・・・
【0069】
[実施例9]
実施例1で得られたシリコーン組成物60g、ポリオキシエチレンアルキルエ-テル(エマルゲン1108:花王製)10gをホモミキサ-を用いて2000rpmで20分間混合し、20gの水中に乳化分散させた。その後、110gの水で希釈してエマルション組成物を得た。
・・・
【0074】
[実施例14]
実施例1で得られたシリコーン組成物を実施例6で得られたシリコーン組成物に変更した他は実施例9と同じ組成及び方法にてエマルション組成物を調製した。」

(カ2)「【0084】
4.洗濯耐久性
エマルション組成物にイオン交換水を加え、固形分2%に希釈して試験液を調製した。該試験液にポリエステル/綿ブロード布(65%/35%、谷頭商店社製)を10秒間浸漬した後、絞り率100%の条件でロールを用いて絞り、130℃で2分間乾燥した。その後、本処理布を、JIS L0217 103に準拠した手法により、洗濯機による洗濯を一回行った。洗濯一回後の繊維表面のシリコーン残存量を蛍光X線分析装置(Rigaku社製)にて測定した。洗濯を行っていない場合と比較し、残存率(%)を算出した。
・・・
【0086】
・・・本発明のシリコーン組成物は、低温硬化性及び保存安定性に優れている。また、表2に示される通り、本発明のシリコーン組成物を用いた繊維処理剤は、繊維に対して良好な柔軟性を付与することができ、洗濯耐久性にも優れている。」

ウ 甲3(特開2004-59609号公報)に記載の事項
甲3には、以下の事項が記載されている。

(ア3)「【請求項2】アミノ変性シリコーンエマルジョンと多官能ブロックイソシアネートを含有する柔軟撥水剤。」

(イ3)「【0005】
すなわち、本発明はアミノ変性シリコーンのアミノ基と被処理物の水酸基等の官能基を多官能イソシアネートで反応させることにより、耐久性に優れている柔軟撥水処理材を製造することができる。アミノ基は極性の関係からセルロース等の水酸基の方向を向き架橋反応が起こり耐久性のある撥水皮膜を形成する為、表面にメチル基が上手く配向し良好な耐久撥水性を示す。又アミノ基とイソシアネート基は低温で反応することから、多官能イソシアネートの種類を選定することにより、低温処理でも良好な耐久撥性能が得られる。処理方法としては、エマルジョンの状態で水系での処理、有機溶剤に溶解しての処理も行うことができる。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について具体的に説明する。本発明に使用されるアミノ変性シリコーンは、オルガノポリシロキサンの側鎖にアミノ基が結合した化合物で、アミノ基はモノアミン、ジアミンどちらでもよく、アミノ基の一部を封鎖したアミノ変性シリコーンでも良い。アミン当量は300?20000g/molが好ましく、撥水性能、耐久性、風合い、価格等を考えた場合、より好ましくは、1000?5000g/molのものである。オルガノポリシロキサンの両末端はCH_(3)、OCH_(3)、OH等でオルガノポリシロキサンの末端基により撥水性能は余り左右されない。又両末端ORのジメチルポリシロキサンとアミノ基含有シランカップリング剤を併用し、アミノ変性シリコーンの代用とすることも可能である。両末端ORのジメチルポリシロキサンとはRがH又はCが1?3のアルキル基を表す。これらアミノ変性シリコーンは単独でも2種類以上混合しても使用することができる。
【0007】
本発明で使用される多官能イソシアネートとは、分子中に2個以上のイソシアネート基を有するものならいずれでも良く、一例として2,4-、2,6-トリレンジイソシアネート・・・等がある。これらのイソシアネート基はそのままでも良く、ブロック剤によりブロックされたブロックイソシアネートでも良い。ブロック剤としては加熱時に解離して活性なイソシアネート基が再生する程度に安定化するフェノール類、ε-カプロラクタム、マロン酸ジエチルエステル、メチルエチルケトオキシム、重亜硫酸ソーダ、イミダゾール類などがある。多官能イソシアネートは有機溶剤溶液あるいは水分散の形で配合することが多い。又ポリイソシアネート構造に親水基を導入して界面活性効果を持たせることにより、ポリイソシアネートに水分散性を付与した水分散性イソシアネートも有効である。又アミノ基とイソシアネート基の反応を促進する為、有機錫、有機亜鉛等の公知の触媒を併用することも有効である。
【0008】
アミノ変性シリコーンと多官能イソシアネートの配合比は特に限定されないが、アミノ基の濃度とイソシアネート基濃度により調整する。初期撥水性や耐久性を向上させるにはイソシアネート基がアミノ基に対し過剰な状態で配合する必要がある。多官能ブロックイソシアネートはあらかじめアミノ変性シリコーンに配合しておいても良く、処理時に処理浴に配合しても良い。本発明の柔軟撥水剤および柔軟撥水性付与方法は、浸漬、パディング、スプレー、コーティング等で実施できる。
対象となる被処理物としては、繊維製品として、例えば綿、絹、羊毛、麻、レーヨンなどの天然繊維、またナイロン、ポリエステル、アクリルなどの合成繊維あるいはこれらの混紡品。紙、皮革、木材、金属、無機建材等が挙げられる。」

(ウ3)「【0010】
実施例で使用したアミノ変性シリコーンは表2に記載のもので、オイル、あるいは非イオン界面活性剤で乳化しエマルジョンの形にして使用した。
【表2】

* 信越化学工業(株)社製
DA :側鎖ジアミン 両末端CH_(3)
DAOR:側鎖ジアミン 両末端一部OR R:H又はCが1?3のアルキル基
AOH :側鎖モノアミン 両末端一部OH
A :側鎖モノアミン 両末端CH_(3)
【0011】
(実施例1)
KF-8704の15%エマルジョン5部とメチレンビスジフェニルイソシアネートのイソシアネート基をメチルエチルケトオキシムでブロックし、界面活性剤で乳化し30%に調整したブロックイソシアネート1部を水で100部に希釈し、撥水性付与液を調整した。この液に綿ブロード、ポリエステル/綿(65/35)ブロード、ポリエステルタフタ、ナイロンタフタをパディングで処理し、予備乾燥後160℃2分のキュアーを行った。比較のため実施例1のブロックイソシアネートを除き、アミノシリコーンのみで処理浴を調整し撥水効果を調べた。その結果を表3に示す。
【表3】(省略)
アミノ変性シリコーンにブロックイソシアネートを併用することにより、全ての素材で撥水性が向上し、ブロックイソシアネートの効果が確認された。特に綿ブロード、ポリエステル/綿において優れた初期撥水と洗濯耐久性が得られた。
【0012】
(実施例2)
アミノ変性シリコーンオイルのアミン当量、アミンのタイプ、オルガノポリシロキサンの末端基の違いによる差を調べる為、各種アミノシリコーンオイルを乳化して、15%のエマルジョンを調整し、綿ブロードで実施例1と同様に処理を行った。その結果を表4に示す。
【表4】

アミノ変性シリコーンの違いにより、撥水性能に若干差が見られるが、全てのシリコーンにおいて初期撥水、洗濯耐久性の向上が見られる。初期撥水性能よりも洗濯後の撥水性が向上しているのは、洗濯によりアミノ変性シリコーンエマルジョンに使われている乳化剤が脱落し、撥水性が向上した。」

(2)甲1及び甲2に記載された発明

ア 甲1に記載された発明

甲1の上記(ア1)の【請求項1】には、「(A2)下記平均組成式(2)(省略)で示される、1分子中に少なくとも2個の水酸基を持つオルガノポリシロキサン 100質量部
(B1)1分子中に少なくとも3個のSiH基を有するオルガノポリシロキサン 0?30質量部
(B2)1分子中に少なくとも3個の加水分解性基を有するオルガノポリシロキサン 0?30質量部
(C)セルロースエーテル 50?1,000質量部
(D)脂肪族ジカルボン酸、ヒドロキシルカルボン酸、それらのナトリウム塩及び/又はそれらのカリウム塩 10?400質量部
(E1)縮合触媒 0?5質量部
(F)水 100?100,000質量部
(G)ノニオン系界面活性剤 0.1?100質量部
を含むことを特徴とする撥水撥油組成物。」が記載されているが、この撥水撥油組成物の具体的な調製方法は、以下のとおりである。
上記(キ1)の段落【0089】?【0093】の記載によれば、まず、ポリオルガノシロキサン(a2)(上記撥水撥油組成物の(A2)に対応する。)、メチルハイドロジエンポリシロキサン(b2)(上記撥水撥油組成物の(B1)に対応する。)、界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテルのHLBが13.6のもの(上記撥水撥油組成物の(G)に対応する。)を仕込み、均一に撹拌混合し、この混合物に水を添加しエマルジョン化させ、O/W型エマルジョンを得ている。次に、上記(キ1)の段落【0109】の記載によれば、上記O/W型エマルジョンに、セルロースエーテル(上記撥水撥油組成物の(C)に対応する。)水溶液、シュウ酸、シュウ酸ナトリウム(上記撥水撥油組成物の(D)に対応する。)を良く混合して組成物を調製している。
ここで、上記撥水撥油組成物について、最終的に撥水撥油組成物になる前の、セルロースエーテル水溶液、シュウ酸、シュウ酸ナトリウムが添加される前の上記O/W型エマルジョンを考慮すると、甲1には、【請求項1】の撥水撥油組成物の成分のうち、(A2)、(B1)、(F)及び(G)を含む、
「(A2)下記平均組成式(2)(省略)で示される、1分子中に少なくとも2個の水酸基を持つオルガノポリシロキサン
(B1)1分子中に少なくとも3個のSiH基を有するオルガノポリシロキサン
(F)水
(G)ノニオン系界面活性剤
を含むO/W型エマルジョン」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

イ 甲2に記載された発明

(ア)甲2A発明

甲2の上記(ア2)の【請求項1】を引用する【請求項6】には、
「(A)分子末端又は側鎖に、下記一般式(1)(省略)で表される基を有するオルガノポリシロキサン70?98質量部と、
(B)1分子中に2個以上のイソシアネート基を有し、このイソシアネート基の50%以上が熱解離性ブロック剤で封鎖されたブロックポリイソシアネート2?30質量部とを含有するシリコーン組成物を含む繊維処理剤。」が記載されている。
ここで、上記(イ2)の段落【0007】の「本発明者らは上記課題を解決すべく検討を進めた結果、アミノ基を含有するオルガノポリシロキサン70?98質量部と、特定のブロックポリイソシアネート2?30質量部とを含有するシリコーン組成物が、低温でも優れた硬化性を示し、保存安定性にも優れることを見出した。」との記載によれば、上記【請求項1】の「下記一般式(1)(省略)で表される基を有するオルガノポリシロキサン」の「下記一般式(1)(省略)で表される基」として、具体的に「アミノ基」が記載されていると共に、上記(オ2)の段落【0069】の記載によれば、上記「シリコーン組成物を含む繊維処理剤」の具体的な態様では、シリコーン組成物は、「水中に乳化分散したシリコーンエマルション組成物」であるといえる。

そうすると、甲2には、
「(A)分子末端又は側鎖に、アミノ基を有するオルガノポリシロキサン70?98質量部と、
(B)1分子中に2個以上のイソシアネート基を有し、このイソシアネート基の50%以上が熱解離性ブロック剤で封鎖されたブロックポリイソシアネート2?30質量部とを含有する水中に乳化分散したシリコーンエマルション組成物を含む繊維処理剤」(以下、「甲2A発明」という。)が記載されているといえる。

(イ)甲2B発明

甲2には、シリコーンエマルション組成物を含む繊維処理剤の製造方法として、以下の記載がある。
上記(オ2)の段落【0050】の[合成例2]には、要部を抽出すると、イソシアヌレート、ポリプロピレンジオール、溶剤として酢酸ブチルを仕込み70℃で3時間保持した後、3,5-ジメチルピラゾールを添加し、赤外スペクトルでイソシアネート基の特性吸収がなくなったことを確認し、ブロックイソシアネートを得ることが記載されている。
そして、同段落【0058】の[実施例6]には、式(A)で示されるオルガノポリシロキサン(「甲2A発明」の「(A)・・・オルガノポリシロキサン」に対応する。)、上記[合成例2]で得られたブロックイソシアネートを25℃で30分間撹拌し、シリコーン組成物を得ることが記載され、同段落【0069】及び【0074】の記載によれば、上記[実施例6]で得られたシリコーン組成物からエマルション組成物を調製する方法は、同段落【0069】に記載される[実施例9]と同じ組成及び方法にて調製するとされているから、同段落【0074】に記載される[実施例14]には、上記[実施例6]で得られたシリコーン組成物、ポリオキシエチレンアルキルエーテルをホモミキサーを用いて混合し、水中に乳化分散させ、その後、水で希釈しエマルション組成物を得ることが記載されている。
そうすると、甲2には、
「イソシアヌレート、ポリプロピレンジオール、溶剤として酢酸ブチルを仕込み70℃で3時間保持した後、3,5-ジメチルピラゾールを添加し、赤外スペクトルでイソシアネート基の特性吸収がなくなったことを確認し、ブロックイソシアネートを得、
甲2A発明の「(A)・・・オルガノポリシロキサン」、上記ブロックイソシアネートを25℃で30分間撹拌し、シリコーン組成物を得、さらに、上記シリコーン組成物、ポリオキシエチレンアルキルエーテルをホモミキサーを用いて混合し、水中に乳化分散させ、その後、水で希釈しエマルション組成物を得る、シリコーンエマルション組成物を含む繊維処理剤の製造方法」(以下、「甲2B発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比・検討

ア 甲1を主引用例として

(ア)本件発明1について

本件発明1と甲1発明を対比する。
○甲1の上記(オ1)の段落【0035】の「オルガノポリシロキサン(A2)は、1分子当たり少なくとも2個の水酸基を有することが必要である。2個未満では本組成物で処理された紙の撥水性が経時で低下する傾向が大きくなるため望ましくない。」との記載によれば、甲1発明の「(A2)下記平均組成式(2)(省略)で示される、1分子中に少なくとも2個の水酸基を持つオルガノポリシロキサン」は、撥水性を有する成分であると共に、水酸基を有するシリコーン化合物であるから、本件発明1の「水酸基を有するシリコーン系化合物」である「撥水成分」に相当する。

○甲1の上記(オ1)の【0037】の「オルガノポリシロキサン(A2)と縮合反応する架橋剤成分は必須成分ではないが、1分子中に少なくとも3個のSiH基を有するオルガノポリシロキサン(B1)・・・が使用できる。」との記載によれば、甲1発明の「(B1)・・・オルガノポリシロキサン」は、甲1発明の「(A2)・・・オルガノポリシロキサン」と「反応し得る架橋剤成分」であるから、本件発明1の「撥水成分と反応し得る架橋成分」に相当する。

○甲1発明のO/W型エマルジョンは、本件発明1と同様に、「水系エマルション」といえるものであり、「(A2)・・・オルガノポリシロキサン」と「(B1)・・・オルガノポリシロキサン」とを含む「エマルションから成」るものであり、甲1の上記(ウ1)の「これらの状況から、パーフルオロアルキル基を有する化合物を利用することなく、紙材料に撥水撥油性や非粘着性を付与する方法が求められている。」との記載や、甲1発明のO/W型エマルジョンには、フッ素を含有する成分が用いられていないことを考慮すると、「フッ素を含有する成分を含まない」ものである。

そうすると、本件発明1と甲1発明は、「撥水成分と、当該撥水成分と反応し得る架橋成分とを含む、エマルションから成り、前記撥水成分が、水酸基を有するシリコーン系化合物であり、フッ素を含有する成分を含まない水系エマルション。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

<相違点1>
エマルションについて、本件発明1では、撥水成分と架橋成分とが1つの粒子中に含有されてなるハイブリッドエマルションであるのに対し、甲1発明では、ハイブリッドエマルションであるのか明らかでない点。

<相違点2>
エマルションに含まれる撥水成分及び架橋成分について、本件発明1では、撥水成分が、シリコーン系化合物である場合、架橋成分は、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネートであるのに対し、甲1発明では、「(B1)1分子中に少なくとも3個のSiH基を有するオルガノポリシロキサン」である点(<相違点2-1>という。)、あるいは、本件発明1では、撥水成分が、架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステルであり、かつ、架橋成分がブロックイソシアネートであるのに対し、甲1発明では、撥水成分が、「(A2)下記平均組成式(2)(省略)で示される、1分子中に少なくとも2個の水酸基を持つオルガノポリシロキサン」であり、かつ、架橋成分が、「(B1)1分子中に少なくとも3個のSiH基を有するオルガノポリシロキサン」である点(<相違点2-2>という。)。

<相違点3>
エマルションが、本件発明1では、繊維製品用撥水処理剤であるのに対し、甲1発明では、繊維製品用撥水処理剤であるのか明らかでない点。

<相違点2>について
事案に鑑み、上記相違点2について検討することとし、上記相違点2-1をまず検討する。

上記(ウ1)の段落【0011】の記載によれば、甲1発明は、優れた撥水撥油性能を有しながら、より安全で環境負荷の小さい組成物を提供することを発明の課題としているといえる。そして、甲1発明のO/W型エマルジョンの架橋成分である「(B1)・・・オルガノポリシロキサン」は、「シリコーン化合物」であるところ、同(ウ1)の段落【0008】の「シリコーンは撥水性及び非粘着性を付与する加工に利用されている。」との記載によれば、上記「(B1)・・・オルガノポリシロキサン」は、本件発明1の「撥水成分」に相当する甲1発明の「(A2)・・・オルガノポリシロキサン」に加えて、甲1発明の発明の課題の一つである、組成物が優れた撥水性能を有することに寄与するものであるといえる。また、甲1には、上記(ア1)の【請求項1】に記載される「(B1)・・・オルガノポリシロキサン」及び「(B2)1分子中に少なくとも3個の加水分解性基を有するオルガノポリシロキサン」という「シリコーン化合物」以外の架橋成分が記載されていないことを踏まえると、甲1発明には、甲1発明の発明の課題の一つである優れた撥水性能を損なう可能性があるにも関わらず、甲1発明の架橋成分である「(B1)・・・オルガノポリシロキサン」を、ブロックイソシアネートを含め他の架橋成分に変更する動機付けがあるとはいえない。

また、本件発明1は、本件明細書の段落【0011】の記載によれば、それぞれ単独で乳化した撥水剤と架橋剤とを単に配合して用いる場合には、撥水成分と架橋成分との間には必ずしも親和性があるわけではないため、生地へ加工した際に撥水成分又は架橋成分のみの部分が発生しやすく、また撥水成分が架橋される部分も一部に限られることが撥水性の低下に繋がると考えられるところ、乳化の段階で撥水成分と架橋成分とを強制的に1つの粒子中に共存させるハイブリッドエマルションを用いることで、撥水剤と架橋剤との組み合わせによって生じる撥水性の低下や洗濯耐久性の低下を改善し、常に優れた撥水性および洗濯耐久性を発揮させることを発明の課題とするものである。そして、同段落【0012】の記載によれば、この、架橋成分と撥水成分とが1つの粒子中に共存するハイブリッドエマルションを得るには、フッ素フリーの撥水成分、及び、架橋成分として自己乳化性を有する架橋成分、特に自己乳化性を有するブロックイソシアネートを混合するが、同段落【0033】の記載によれば、上記相違点2-1に係る本件発明1の「ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネート」は、上述の「自己乳化性を有する架橋成分」である。一方、甲1発明は、「自己乳化性を有する架橋成分」を使用して、架橋成分と撥水成分とが1つの粒子中に共存するハイブリッドエマルションを得るものとはされていないから、「自己乳化性を有する架橋成分」を用いるという観点からも、甲1発明には、W/O型エマルジョンの架橋成分である「(B1)・・・オルガノポリシロキサン」を、「ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネート」にする動機付けがあるとはいえないし、また、甲2及び甲3を考慮したとしても、甲2及び甲3には、「ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネート」に関する記載はない。

そうすると、相違点2-1について、甲1発明のW/O型エマルジョンの架橋成分である「(B1)・・・オルガノポリシロキサン」を、「ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネート」とすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。

さらに、上記相違点2-2について検討すると、撥水成分が、架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステルであり、かつ、架橋成分がブロックイソシアネートである、本件発明1の組合せは、甲1ないし甲3に記載も示唆もない。また、本件発明1の「撥水成分」に相当する甲1発明の「(A2)・・・オルガノポリシロキサン」は、上記相違点2-1の検討で述べた甲1発明の発明の課題を解決する上で必須の成分であるから、甲1発明の「(A2)・・・オルガノポリシロキサン」を、「架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステル」とするには、阻害要因があるというべきである。

そうすると、相違点2-2について、甲1発明の、撥水成分が、「(A2)・・・オルガノポリシロキサン」であり、かつ、架橋成分が、「(B1)・・・オルガノポリシロキサン」の組合せを、撥水成分が、架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステルであり、かつ、架橋成分がブロックイソシアネートである組合せとすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。

<本件発明1の効果>について
本件発明1の効果は、本件明細書で【発明の効果】として記載される段落【0020】の記載によれば、「1粒子中に撥水成分と架橋成分とが乳化されて共存する水系ハイブリッドエマルション」であることにより、繊維への撥水処理を容易に行うことが可能であり、また、幅広い種類の繊維に対して、高い撥水性を付与することができ、また撥水性の洗濯耐久性にも優れる、というものである。
そして、この効果は、エマルションにおいて、撥水成分と架橋成分のハイブリッドエマルションが形成されている例えば実施例1、2(段落【0068】、【0071】、【0074】【表1】)における初期及び洗濯20回後における撥水性評価が、撥水成分と架橋成分を含むものの、ハイブリッドエマルションが形成されていない例えば比較例1、2(段落【0070】、【0071】、【0074】【表1】)に比べて有意に優れていることから、本件発明1は、従来の、撥水成分と架橋成分を含むものの、ハイブリッドエマルションが形成されていない撥水処理剤に比べ、高い撥水性及び撥水性の洗濯耐久性を示すものであるといえる。
一方、甲1の上記(イ1)の段落【0001】の記載によれば、甲1発明のO/W型エマルジョンは、「各種紙基材に対し撥水性及び撥油性を付与できるシリコーン組成物」に用いるものであり、甲1発明からは、上述の本件発明1の、エマルションがハイブリッドエマルションであることによる、高い撥水性及び撥水性の洗濯耐久性の効果を予測することができないのは勿論のこと、そもそも、本件発明1の「幅広い種類の繊維に対して、高い撥水性を付与することができ、また撥水性の洗濯耐久性にも優れる」という効果を予測することができるとはいえない。
そうすると、本件発明1の効果は、甲1発明から予測することができない格別のものであるといえる。

よって、少なくとも、上記相違点2-1及び相違点2-2からなる相違点2は、実質的な相違点であると共に、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、上記相違点1及び3を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではないし、また、甲2及び甲3を考慮したとしても、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明4、6、7、11、12について

本件発明4、6、7、11、12は、本件発明1の発明特定事項をさらに限定したものであるか、または、本件発明1にさらに他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明1と同様に、本件発明4、6、7、11、12は、甲1発明ではないし、また、甲2及び甲3を考慮したとしても、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 甲2を主引用例として

(ア)本件発明1について

本件発明1と甲2A発明を対比する。
○甲2A発明の「オルガノポリシロキサン」は、「シリコーン系化合物」であるから、甲2A発明の「(A)分子末端又は側鎖に、アミノ基を有するオルガノポリシロキサン」は、本件発明1の「撥水成分」の1つである「アミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、エポキシ基のいずれか1以上を有するシリコーン系化合物」と、「アミノ基を有するシリコーン系化合物」という点で共通する。

○甲2A発明の「(B)1分子中に2個以上のイソシアネート基を有し、このイソシアネート基の50%以上が熱解離性ブロック剤で封鎖されたブロックポリイソシアネート」は、本件発明1の「架橋成分」である「ブロックイソシアネート」に相当すると共に、甲2A発明の「(A)・・・オルガノポリシロキサン」と反応し得るものである。

○甲2A発明の「水中に乳化分散したシリコーンエマルション組成物」は、本件発明1の「水系エマルション」に相当すると共に、本件発明1と同様に、「(A)・・・オルガノポリシロキサン」と「(B)・・・ブロックポリイソシアネート」とを含む「エマルションから成」るものである。さらに、甲2A発明の繊維処理剤、さらには、上記(オ2)に記載される甲2A発明の繊維処理剤の具体的な態様(段落【0058】、【0069】、【0074】)でも、フッ素を含有する成分が用いられていないことを考慮すると、甲2A発明の繊維処理剤は、「フッ素を含有する成分を含まない」ものである。

○甲2の上記(イ2)の段落【0002】の「従来、各種繊維又は繊維製品に柔軟性や平滑性等を付与するための処理剤として・・・」の記載によれば、繊維のための処理剤は、繊維製品のための処理剤であるともいえるから、甲2A発明の「繊維処理剤」は、本件発明1の「繊維製品用撥水処理剤」と、「繊維製品用処理剤」の点で共通する。

そうすると、本件発明1と甲2A発明は、「アミノ基を有するシリコーン系化合物と、当該化合物と反応し得る、ブロックイソシアネートである架橋成分とを含むエマルションから成り、フッ素を含有する成分を含まない水系エマルションである繊維製品用処理剤。」の点で一致し、以下の点で一応相違しているといえる。

<相違点4>
処理剤について、本件発明1では、処理剤に含まれるアミノ基を有するシリコーン系化合物が、「撥水成分」であると共に、処理剤が「撥水処理剤」であるのに対し、甲2A発明では、処理剤に含まれるアミノ基を有するシリコーン系化合物が、「撥水成分」であるのか明らかでないと共に、処理剤が「撥水処理剤」であるのか明らかでない点。

<相違点5>
エマルションについて、本件発明1では、撥水成分と架橋成分とが1つの粒子中に含有されてなるハイブリッドエマルションであるのに対し、甲2A発明では、ハイブリッドエマルションであるのか明らかでない点。

<相違点6>
エマルションに含まれる撥水成分及び架橋成分について、本件発明1では、撥水成分が、シリコーン系化合物である場合、架橋成分は、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネートであるのに対し、甲2A発明では、ブロックイソシアネートではあるものの、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたものであるのか明らかでない点(<相違点6-1>という。)、あるいは、本件発明1では、架橋成分がブロックイソシアネートである場合、撥水成分が、架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステルであるのに対し、甲2A発明では、「(A)分子末端又は側鎖に、アミノ基を有するオルガノポリシロキサン」である点(<相違点6-2>という。)。

<相違点6>について
事案に鑑み、上記相違点6について検討することとし、上記相違点6-1をまず検討する。

甲2の上記(ウ2)の段落【0031】には、甲2A発明のポリイソシアネートとして、各種のジイソシアネート類と、各種のポリオール類を反応せしめて得られるポリイソシアネートが記載され、この各種のポリオール類として多数の化合物の例示がなされている中に、ジエチレングルコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエーテルポリオール等のポリオキシアルキレンに含まれる化合物が例示されているが、これらの化合物は、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルとは、別異の化合物であり、甲2には、「ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネート」は記載されていない。
そして、上記ア(ア)で相違点2-1についての判断で述べたように、上記相違点2-1に係る本件発明1の「ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネート」は、撥水剤と架橋剤との組み合わせによって生じる撥水性の低下や洗濯耐久性の低下を改善し、常に優れた撥水性および洗濯耐久性を発揮させるのに、架橋成分と撥水成分とが1つの粒子中に共存するハイブリッドエマルションを得るためのものである。一方、甲2A発明は、架橋成分と撥水成分とが1つの粒子中に共存するハイブリッドエマルションを得るものとはされていないから、甲2A発明には、甲2A発明の繊維処理剤のブロックポリイソシアネートを、「ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネート」にする動機付けがあるとはいえない。
また、甲1及び甲3にも、「ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネート」に関する記載はない。

そうすると、相違点6-1について、甲2A発明の繊維処理剤の架橋成分である「(B)1分子中に2個以上のイソシアネート基を有し、このイソシアネート基の50%以上が熱解離性ブロック剤で封鎖されたブロックポリイソシアネート」を、「ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネート」とすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。

さらに、上記相違点6-2について検討すると、撥水成分である、架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステルは、甲2、甲1及び甲3に記載も示唆もない。また、本件発明1の撥水成分に対応する、甲2A発明の「(A)分子末端又は側鎖に、アミノ基を有するオルガノポリシロキサン」は、上記(イ2)の段落【0006】に記載される甲2A発明の発明の課題である「低温処理条件においても高い硬化性を有し、保存安定性に優れ、繊維処理剤として良好な柔軟性を繊維に付与することができ、かつ優れた洗濯耐久性を併せ持つ組成物を提供する」ことを解決する上で必須の成分であるから、甲2A発明の繊維処理剤の「(A)分子末端又は側鎖に、アミノ基を有するオルガノポリシロキサン」を、「架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステル」とするには、阻害要因があるというべきである。

そうすると、相違点6-2について、甲2A発明の繊維処理剤の「(A)分子末端又は側鎖に、アミノ基を有するオルガノポリシロキサン」を、「架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステル」とすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。

<本件発明1の効果>について
本件発明1の効果は、上記ア(ア)で述べたように、「1粒子中に撥水成分と架橋成分とが乳化されて共存する水系ハイブリッドエマルション」であることにより、繊維への撥水処理を容易に行うことが可能であり、また、幅広い種類の繊維に対して、高い撥水性を付与することができ、また撥水性の洗濯耐久性にも優れる、というものであり、また、本件明細書に記載される例えば実施例1、2(段落【0068】、【0071】、【0074】【表1】)及び例えば比較例1、2(段落【0070】、【0071】、【0074】【表1】)との比較により示される、従来の、撥水成分と架橋成分を含むものの、ハイブリッドエマルションが形成されていない撥水処理剤に対する、高い撥水性及び撥水性の洗濯耐久性であるといえる。
一方、甲2の上記(イ2)の段落【0009】の記載によれば、甲2A発明の繊維処理剤は、「優れた低温硬化性及び保存安定性を有し、これを用いた繊維処理剤は、良好な柔軟性を繊維に付与することができ、洗濯耐久性にも優れている」ものであり、甲2A発明からは、上述の本件発明1の、エマルションがハイブリッドエマルションであることによる、高い撥水性及び撥水性の洗濯耐久性の効果を予測することができないのは勿論のこと、そもそも、本件発明1の「幅広い種類の繊維に対して、高い撥水性を付与することができ、また撥水性の洗濯耐久性にも優れる」という効果を予測することができるとはいえない。
また、甲3には、上記(ア3)の記載によれば、「アミノ変性シリコーンエマルジョンと多官能ブロックイソシアネートを含有する柔軟撥水剤」が記載され、この柔軟撥水剤は、上記(ウ3)の段落【0011】、【0012】の記載によれば、初期撥水性及び洗濯耐久性を向上させるものである。しかしながら、この柔軟撥水剤は、「アミノ変性シリコーンエマルジョンと多官能ブロックイソシアネートを含有する柔軟撥水剤」であり、「エマルジョン」と「多官能ブロックイソシアネート」が別の構成単位とされていると共に、同段落【0011】の(実施例1)に記載される柔軟撥水剤の作成方法も、本件明細書の段落【0036】において、ハイブリッドエマルションを実現する手段(方法)とされているものに相違するから、アミノ変性シリコーンエマルジョンと多官能ブロックイソシアネートがハイブリッドエマルションを形成しているものであるとはいえない。
そうすると、甲2A発明と、甲3に記載される柔軟撥水剤は、その目的とする効果が上述のように別異なものであるから、そもそも、甲3に記載される柔軟撥水剤により得られる効果を、甲2A発明の効果に組み合わせて考えることができるとはいえないが、仮に、甲3に記載される柔軟撥水剤の効果を考慮したとしても、甲3に記載される柔軟撥水剤により得られる効果は、あくまでハイブリッドエマルションが形成されていない撥水処理剤における撥水性及び撥水性の洗濯耐久性にとどまるものであるから、本件発明1は、甲3に記載される柔軟撥水剤に対して高い撥水性及び撥水性の洗濯耐久性を示すといえる。
よって、本件発明1の効果は、甲3を考慮したとしても、甲2A発明から予測することができない格別のものであるといえる。

以上のとおり、少なくとも、上記相違点6-1及び相違点6-2からなる相違点6は、実質的な相違点であると共に、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、上記相違点4及び5を検討するまでもなく、本件発明1は、甲2A発明ではないし、また、甲1を考慮したとしても、甲2A発明及び甲3に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明4、6、7、11、12について

本件発明4、6、7、11、12は、本件発明1の発明特定事項をさらに限定したものであるか、または、本件発明1にさらに他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明1と同様に、本件発明4、6、7、11、12は、甲2A発明ではないし、また、甲1を考慮したとしても、甲2A発明及び甲3に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)本件発明8について

本件発明8は、「フッ素を含まない繊維製品用撥水処理剤の製造方法」であるが、その製造方法の工程には、「(III)前記工程(II)で得られたエマルションから有機溶媒を除去し、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネートとアミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、エポキシ基のいずれか1以上を有するシリコーン系化合物である撥水成分とを含む、ハイブリッドエマルションであるフッ素を含まない水系エマルションを得る工程」を発明特定事項として含んでいる。
一方、甲2A発明の繊維処理剤の製造方法であるといえる甲2B発明は、「イソシアヌレート、ポリプロピレンジオール・・・を仕込み70℃で3時間保持した後、3,5-ジメチルピラゾールを添加し・・・ブロックイソシアネートを得、
甲2A発明の『(A)・・・オルガノポリシロキサン』、上記ブロックイソシアネートを25℃で30分間撹拌し、シリコーン組成物を得、さらに、上記シリコーン組成物、ポリオキシエチレンアルキルエーテルをホモミキサーを用いて混合し、水中に乳化分散させ、その後、水で希釈しエマルション組成物を得る」との発明特定事項を含むから、本件発明8と甲2B発明との間には、少なくとも、エマルションに含まれる架橋成分について、本件発明8では、架橋成分は、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネートであるのに対し、甲2B発明では、ブロックイソシアネートであるものの、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたものであるのか明らかでないという上記(ア)で述べた<相違点6-1>と同じ相違点が存在することになる。
そして、上記(ア)で述べたのと同様に、甲2B発明の「ブロックイソシアネート」を、「ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネート」とすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえないから、本件発明8と甲2B発明との間に他の相違点が存在するとしても、それらを検討するまでもなく、本件発明8は、甲1を考慮したとしても、甲2B発明及び甲3に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(エ)本件発明9について

本件発明9は、「フッ素を含まない繊維製品用撥水処理剤の製造方法」であるが、その製造方法の工程には、「(c)前記工程(b)で得られたエマルションから有機溶媒を除去し、ブロックイソシアネートと架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステルである撥水成分とを含む、ハイブリッドエマルションであるフッ素を含まない水系エマルションを得る工程」を発明特定事項として含んでいる。
一方、甲2A発明の繊維処理剤の製造方法であるといえる甲2B発明は、「甲2A発明の『(A)・・・オルガノポリシロキサン』、上記ブロックイソシアネートを25℃で30分間撹拌し、シリコーン組成物を得、さらに、上記シリコーン組成物、ポリオキシエチレンアルキルエーテルをホモミキサーを用いて混合し、水中に乳化分散させ、その後、水で希釈しエマルション組成物を得る」との発明特定事項を含むから、本件発明9と甲2B発明との間には、少なくとも、エマルションに含まれる撥水成分について、本件発明9では、撥水成分が、架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステルであるのに対し、甲2B発明では、「(A)分子末端又は側鎖に、アミノ基を有するオルガノポリシロキサン」であるという上記(ア)で述べた<相違点6-2>と同じ相違点が存在することになる。
そして、上記(ア)で述べたのと同様に、甲2B発明の、甲2A発明の「(A)分子末端又は側鎖に、アミノ基を有するオルガノポリシロキサン」を、「架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステル」とすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえないから、本件発明9と甲2B発明との間に他の相違点が存在するとしても、それらを検討するまでもなく、本件発明9は、甲1を考慮したとしても、甲2B発明及び甲3に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 取消理由3について

取消理由3の概要は以下のとおりである。

本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の段落【0010】の記載によれば「フッ素フリー撥水剤であって、幅広い種類の繊維に対して、優れた初期撥水性及び撥水性の洗濯耐久性を付与できるものを提供する」ことにあるといえる。
この課題に対し、訂正前の請求項1に係る発明は、「撥水成分と、当該撥水成分と反応し得る架橋成分とを含み、前記撥水成分と前記架橋成分とが1つの粒子中に含有されてなるハイブリッドエマルションから成り、フッ素を含有する成分を含まない水系エマルションである、撥水処理剤。」と特定されていた。ここで、同段落【0011】の記載によれば、本件発明1において、ハイブリッドエマルションとは、1つのエマルション粒子中に2種類以上の成分が共存し、かつ、それらの成分間に結合がないものとされている。
一方で、本件明細書の記載を見ると、本件明細書の段落【0020】には、本件発明の撥水処理剤を、1粒子中に撥水成分と架橋成分とが乳化されて共存する水系ハイブリッドエマルションとすることにより、繊維への撥水処理を容易に行うことが可能となり、幅広い種類の繊維に対して、高い撥水性を付与することができ、また撥水性の洗濯耐久性にも優れるものとなることが記載され、さらに、同段落【0068】?【0095】には、請求項1等に係る発明の実施例が記載され、[製造例1]及び[製造例2]で製造された、自己乳化性を有するブロックイソシアネートと、アミノ変性シリコーンとのハイブリッドエマルションである撥水処理剤、[製造例4]、[製造例5]、[製造例6]、[製造例9]及び[製造例10]で製造された、ブロックイソシアネートと、ソルビタントリステアレートとのハイブリッドエマルションである撥水処理剤については、試験布に適用後、初期と洗濯20回後の撥水性を用いた撥水性の評価がなされ(段落【0074】【表1】、段落【0082】【表2】、段落【0095】【表4】)、上記の発明の課題が解決できることが示されているといえる。
しかしながら、上記の請求項1に係る発明等の特定では、以下の(1)ないし(3)の点で、請求項1等に係る発明は、上記の発明の課題が解決できるものであるとはいえない。

(1)請求項1に係る発明の「架橋成分」及び「撥水成分」について
本件明細書には、撥水成分及び架橋成分の種類等に「関わらず」、1つのエマルション粒子中に撥水成分及び架橋成分が共存し、かつ、それらの成分間に結合がないハイブリッドエマルションを用いるだけで、初期撥水性及び撥水性の洗濯耐久性を付与されることを示す客観的な記載がない。
初期撥水性及び撥水性の洗濯耐久性が付与され、上記の発明の課題が解決できることを示している実施例では、「ブロックイソシアネート」及び「アミノ変性シリコーン又はソルビタントリステアレート」との組み合わせしか用いられていない。そして、撥水成分及び架橋成分による初期撥水性及び撥水性の洗濯耐久性の発現の程度は、撥水成分及び架橋成分の種類やその組合せにより、変化するものであるといえる。
そうすると、単に、「架橋成分」及び「撥水成分」としか特定されていない請求項1に係る発明は、発明の課題を解決するものであるとはいえないから、本件明細書の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
請求項1に係る発明を直接又は間接的に引用している請求項2?7、11、12に係る発明、及び「架橋成分」がブロックイソシアネートであることは特定されているものの「撥水成分」としか特定されていない、請求項8、9に係る発明についても同様である。

(2)請求項5に係る発明の「炭化水素系化合物」及び請求項7に係る発明の「アクリレートポリマー」について
請求項5に係る発明の「炭化水素系化合物」の特定だけでは、炭化水素の化学構造と撥水性との間に直接的な関連があるとはいえないし、本件明細書でも、実施例において、「ソルビタントリステアレート」という特定の化合物でしか、上記発明の課題を解決できることを実証していない。
そうすると、請求項5に係る発明の「炭化水素系化合物」との特定だけでは、本件発明5が、撥水性ないし洗濯耐久性を高めることができ、上記発明の課題を解決できるものであるとはいえない。
また、請求項7に係る発明の「アクリレートポリマー」も、その化学構造と撥水性との間に直接的な関連があるとはいえず、「アクリレートポリマー」との特定のみでは、撥水性ないし洗濯耐久性を高めることができ、上記発明の課題を解決できるとはいえない。
そうすると、請求項7に係る発明の「アクリレートポリマー」との特定だけでは、請求項7に係る発明が、撥水性ないし洗濯耐久性を高めることができ、上記発明の課題を解決できるとはいえない。
請求項5に係る発明を直接又は間接的に引用する請求項6、7、11、12に係る発明についても同様であり、請求項7に係る発明を引用する請求項11、12に係る発明についても同様である。

(3)請求項8?10に係る発明の「フッ素を含まない撥水処理剤の製造方法」について
請求項8?10に係る発明の「フッ素を含まない撥水処理剤の製造方法」では、製造される撥水処理剤が、「ハイブリッドエマルション」であるのかすら明らかでないから、本件明細書で、撥水処理剤がハイブリッドエマルションであることにより解決されるとされる、上記の発明の課題を解決できるものではない。

なお、特許法第36条第6項第1号による異議申立て理由は、上記(1)の「架橋成分」に関する理由に対応している。

上記(1)に対して、本件訂正により、本件発明1において、撥水成分及び架橋成分の組合せが、「アミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、エポキシ基のいずれか1以上を有するシリコーン系化合物」及び「ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネート」、あるいは、「架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステル」及び「ブロックイソシアネート」と特定された。
ここで、上述の発明の課題が解決できることを示している実施例では、「ブロックイソシアネート」及び「アミノ変性シリコーン又はソルビタントリステアレート」の組み合わせだけであるが、本件発明1等の発明の課題の撥水性の発揮には、シリコーン化合物の構造、すなわち、シリコーン化合物の骨格構造であるシロキサン構造(段落【0021】、【0022】)が主に寄与し、「アミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、エポキシ基」は、ブロックイソシアネートと反応し得る官能基に過ぎず、それら官能基の種類によって、撥水処理剤の撥水性が大きく変化することは考え難いから、訂正後の「アミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、エポキシ基のいずれか1以上を有するシリコーン系化合物」及び「ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネート」の組合せは、上記の発明の課題を解決できることを示している実施例での組合せに対応するものとなったといえる。
また、「長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステル」の記載において、同段落【0029】の記載によれば、脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステルに「長鎖アルキル基」存在すれば、撥水性が発揮されるといえるから、訂正後の「架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステル」及び「ブロックイソシアネート」の組合せは、上記の発明の課題を解決できることを示している実施例での組合せに対応するものとなったといえる。
そうすると、本件発明1、4、6ないし9、11、12(請求項2、3、5に係る発明は削除された)は、上記(1)の点で、上記の発明の課題を解決するものではないとすることはできない。

また、上記(2)に対して、本件訂正により、請求項5に係る発明は、削除され、請求項7に係る発明の「アクリレートポリマー」は、「エステル部分の炭素数が12?30であるアクリレートポリマー」と訂正された。そして、同段落【0045】の記載によれば、アクリレートポリマーのエステル部分の炭素数が12?30であれば十分な撥水性を発揮できるといえるから、「エステル部分の炭素数が12?30であるアクリレートポリマー」を用いる本件発明7は、上記発明の課題を解決するものではないとすることはできない。
そうすると、(訂正前請求項5に係る発明を引用していた)本件発明6、7、11、12は、上記(2)の点で、上記の発明の課題を解決するものではないとすることはできない。

さらに、上記(3)に対して、本件訂正により、請求項8、9に係る発明の「フッ素を含まない撥水処理剤の製造方法」で製造される「フッ素を含まない水系エマルション」が、「ハイブリッドエマルションであるフッ素を含まない水系エマルション」と訂正され、本件発明8、9(訂正前の請求項10に係る発明は削除された)において、製造される撥水処理剤が、本件明細書で上記の発明の課題を解決できるものとされている「ハイブリッドエマルション」であることが明らかとなった。
そうすると、本件発明8、9は、上記(3)の点で、上記の発明の課題を解決するものではないとすることはできない。

よって、本件発明1、4、6ないし9、11、12は、上記の発明の課題を解決するものではないとすることはできないから、本件特許1、4、6ないし9、11、12は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとすることはできない。

第6 むすび

上記第5で検討したとおり、本件特許1、4、6ないし9、11、12は、特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、異議申立ての理由を含む上記取消理由1ないし3によっては、本件特許1、4、6ないし9、11、12を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1、4、6ないし9、11、12を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件発明2、3、5、10は削除されたので、本件発明2、3、5、10に係る異議申立ては却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥水成分と、当該撥水成分と反応し得る架橋成分とを含み、前記撥水成分と前記架橋成分とが1つの粒子中に含有されてなるハイブリッドエマルションから成り、
前記撥水成分が、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、エポキシ基のいずれか1以上を有するシリコーン系化合物であり、かつ、前記架橋成分が、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネートである、あるいは、
前記撥水成分が、架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステルであり、かつ、前記架橋成分がブロックイソシアネートである、
フッ素を含有する成分を含まない水系エマルションである、繊維製品用撥水処理剤。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記撥水処理剤の固形分中、前記撥水成分が30?85質量%、前記架橋成分が15?70質量%である、請求項1に記載の撥水処理剤。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
さらに界面活性剤を含む、請求項1又は4のいずれかl項に記載の撥水処理剤。
【請求項7】
さらにエステル部分の炭素数が12?30であるアクリレートポリマーまたはアクリル-シリコーンポリマーを含む、請求項1、4又は6のいずれか1項に記載の撥水処理剤。
【請求項8】
(I)イソシアネート化合物と、当該イソシアネート化合物のイソシアネート基と反応し得るポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルである親水性化合物と、当該イソシアネート化合物のイソシアネート基と反応し得るブロック剤とを、NCO含有率が0%となるまで反応させて、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネートを得る工程、
(II)前記工程(I)で得られたブロックイソシアネートを含む液体中に、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、エポキシ基のいずれか1以上を有するシリコーン系化合物であるフッ素を含まない撥水成分及び水を加えて混合し、エマルションを得る工程、及び、
(III)前記工程(II)で得られたエマルションから有機溶媒を除去し、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルが導入されたブロックイソシアネートとアミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、エポキシ基のいずれか1以上を有するシリコーン系化合物である撥水成分とを含む、ハイブリッドエマルションであるフッ素を含まない水系エマルションを得る工程、
を含む、フッ素を含まない繊維製品用撥水処理剤の製造方法。
【請求項9】
(a)イソシアネート化合物と、当該イソシアネート化合物のイソシアネート基と反応し得るブロック剤とを、NCO含有率が0%となるまで反応させて、ブロックイソシアネートを得る工程、
(b)前記工程(a)で得られたブロックイソシアネートを含む液体中に、架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステルであるフッ素を含まない撥水成分、界面活性剤及び水を加えて混合し、エマルションを得る工程、及び、
(c)前記工程(b)で得られたエマルションから有機溶媒を除去し、ブロックイソシアネートと架橋成分と反応し得る官能基と長鎖アルキル基とを有する脂肪酸エステル又はソルビタン脂肪酸エステルである撥水成分とを含む、ハイブリッドエマルションであるフッ素を含まない水系エマルションを得る工程、
を含む、フッ素を含まない繊維製品用撥水処理剤の製造方法。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
請求項1、4、6又は7のいずれか1項に記載の撥水処理剤によって撥水性が付与された繊維製品。
【請求項12】
請求項1、4、6又は7のいずれか1項に記載の撥水処理剤を使用して、撥水性繊維製品を製造する方法であって、前記撥水処理剤を含む加工液を調製し、当該加工液に繊維製品を接触させる工程を含むことを特徴とする、撥水性繊維製品の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-02-21 
出願番号 特願2017-549353(P2017-549353)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C09K)
P 1 651・ 537- YAA (C09K)
P 1 651・ 113- YAA (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 牟田 博一  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 原 賢一
天野 宏樹
登録日 2018-01-12 
登録番号 特許第6272588号(P6272588)
権利者 明成化学工業株式会社
発明の名称 撥水処理剤及びその製造方法  
代理人 特許業務法人みのり特許事務所  
代理人 特許業務法人みのり特許事務所  

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